以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
<1.第1の実施の形態>
<1−1.構成>
まず、本発明の各構成について説明する。図1は、車両CRの全体図である。車両CRは、本実施の形態の車両制御システムに含まれるレーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。レーダ装置1は、車両前方のバンパー近傍に備えられている。このレーダ装置1は、一回の走査で所定の走査範囲を走査して、車両CRと物標との距離を導出する。導出する距離は、車両進行方向に対応する距離と、車両横方向(車幅方向)に対応する距離である。
車両進行方向に対応する距離とは、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離(縦距離)である。また、車両横方向(車幅方向)に対応する距離とは、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸に対して略直交する方向における車両CRに対する物標の距離(横距離)である。横距離は車両CRに対する物標の角度の情報と縦距離とを用いた三角関数の演算を行うことで導出される。
なお、縦距離においても、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離ではなく、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸の方向における車両CRに対する物標の距離としてもよい。この場合の縦距離は、車両CRに対する物標の角度の情報と、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離とを用いた三角関数の演算を行うことで導出される。
このように、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の位置情報を導出する。さらに、レーダ装置1は、物標の速度や、車両CRの速度に対する物標の速度である相対速度も導出する。
また、図1のレーダ装置1は、その搭載位置を車両前方のバンパー近傍としているが、これに限定されない。例えば、車両CRの後方のバンパー近傍及び車両CRの側方のサイドミラー近傍等、後述する車両制御装置2の車両CRの制御目的に応じて物標を導出できる搭載位置であれば他の部分であってもよい。
また、車両制御装置2は、車両CRの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。
次に、本実施の形態における車両制御システムについて図2を用いて説明する。図2は、車両制御システム10のブロック図である。車両制御システム10は、レーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。レーダ装置1と車両制御装置2とは電気的に接続されており、レーダ装置1から車両制御装置2に対して位置情報や相対速度を含む物標情報が送信される。つまり、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の縦距離、横距離及び相対速度の情報である物標情報を車両制御装置2に出力する。
レーダ装置1は、信号生成部11、発振器12、送信アンテナ13、受信アンテナ14、ミキサ15、LPF(Low Pass Filter)16、AD(Analog to Digital)変換器17、信号処理部18、及び送信制御部19を備えている。
信号生成部11は、後述する送信制御部19の制御信号に基づいて、例えば三角波状に電圧が変化する変調信号を生成する。
発振器12は、電圧で発振周波数を制御する電圧制御発振器である。発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づき所定周波数の信号(例えば、76.5GHz)を周波数変調し、この所定周波数(76.5GHz)を中心周波数とする周波数帯の送信信号として送信アンテナ13に出力する。
送信アンテナ13は、送信信号に係る送信波を車両外部に出力するアンテナである。送信アンテナ13は、発振器12と接続され、発振器12から入力した送信信号に対応した送信波を連続的に車両外部に出力する。なお、本実施の形態では、1本の送信アンテナを用いた構成について説明するが、本発明は、2本又は4本等の複数本の送信アンテナを用いた構成としてもよい。
受信アンテナ14は、送信アンテナ13から連続的に送信された送信波が物体にて反射した際の反射波を受信する複数のアレーアンテナである。本実施の形態では、受信アンテナとして、4本の受信アンテナ14a(ch1)、14b(ch2)、14c(ch3)、及び14d(ch4)を備えている。なお、受信アンテナ14a〜14dのそれぞれのアンテナは等間隔に配置されている。
ミキサ15は、各受信アンテナ14a〜14dに設けられており、受信信号と送信信号とを混合する。そして、ミキサ15は、受信信号と送信信号とを混合する際に、送信信号と受信信号との差の信号であるビート信号を生成し、LPF16に出力する。
LPF16は、所定周波数より低い周波数の成分を減少させることなく、所定周波数より高い周波数の成分を減少させるフィルタである。LPF16は、ビート信号の所定周波数より低い周波数の成分をAD変換器17に出力する。なお、LPF16もミキサ15と同様に各受信アンテナ14a〜14dに設けられている。
AD変換器17は、アナログ信号であるビート信号をデジタル信号に変換する。AD変換器17は、アナログ信号のビート信号を所定周期でサンプリングして、複数のサンプリングデータを導出する。そして、AD変換器17は、サンプリングされたデータを量子化することで、アナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換して、デジタル信号のビート信号を信号処理部18に出力する。なお、AD変換器17もミキサ15と同様に各受信アンテナ14a〜14dに設けられている。
信号処理部18は、CPU181及びメモリ182を備えるコンピュータである。信号処理部18は、AD変換器17から出力されたデジタル信号のビート信号をFFT処理してFFTデータを取得してメモリ182に記憶する。そして、信号処理部18は、FFTデータのビート信号の中から所定の条件に対応する信号を物標導出に用いるピーク信号として抽出する。このピーク信号の抽出は、UP区間及びDOWN区間の各々について行われる。そして、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングして物標情報を導出する。なお、ピーク信号の抽出処理の詳細については後述する。
メモリ182は、CPU181により実行される各種演算処理などの実行プログラムを記録する。また、メモリ182は、信号処理部18が導出した複数の物標情報を記録する。例えば、過去の処理と今回の処理とで導出された物標情報(物標の縦距離、横距離及び相対速度)を記録する。さらに、メモリ182は、FFT処理により取得されたFFTデータ182aを記録する。このFFTデータ182aには、今回の物標導出処理で取得したFFTデータの他に、過去の物標導出処理で取得したFFTデータも含まれる。
送信制御部19は、信号処理部18と接続され、信号処理部18からの信号に基づき、変調信号を生成する信号生成部11に制御信号を出力する。
車両制御装置2は、車両CRに設けられた各種装置の動作を制御するものである。車両制御装置2は、車速センサ40及びステアリングセンサ41などの車両CRに設けられた各種センサと電気的に接続され、これら各種センサから情報を取得する。また、車両制御装置2は、ブレーキ50及びスロットル51などの車両CRに設けられた各種装置とも電気的に接続されている。そして、車両制御装置2は、各種センサから取得した情報とレーダ装置1の信号処理部18から取得した物標情報とに基づいて、各種装置を動作させて車両CRの挙動を制御する。
車両制御装置2による車両制御の例としては次のようなものがある。例えば、車両CRが自車線の前方を走行する前方車両に追従走行する場合に、車両制御装置2が、その前方車両に追従して走行する制御を行う。具体的には、車両制御装置2は、ブレーキ50及びスロットル51の少なくとも一方の装置を制御して、車両CRと前方車両との車間距離を所定の距離に確保した状態で車両CRを前方車両に追従走行させるACC(Adaptive Cruise Control)の制御を行う。
また、他の例として、車両CRの障害物への衝突に備え、車両CRの乗員を保護する制御もある。具体的には、車両CRが障害物に衝突する危険性がある場合に、車両制御装置2は、車両CRの乗員に対して警報器を用いて警告したり、ブレーキ50を制御して車両CRの速度を低下させるPCS(Pre-Crash Safety System)の制御を行う。また、車両制御装置2は、シートベルトで乗員を座席に固定したり、ヘッドレストを固定して衝突時の衝撃による乗員へのダメージを軽減するPCSの制御を行う。
さらに、他の例として、車両CRの人への衝突を回避する制御もある。具体的には、車両CRの近傍に存在する人に衝突する危険性がある場合に、車両制御装置2は、ブレーキ50等の装置を制御して、車両CRを停止又は減速させる制御を行う。
<1−2.全体の処理>
次に、レーダ装置1が物標情報を導出する処理について説明する。図3は、信号処理部18が行う物標情報の導出処理のフローチャートである。
まず、信号処理部18は、送信波を生成する指示信号を送信制御部19に出力する(ステップS101)。そして、信号処理部18から指示信号が入力された送信制御部19により信号生成部11が制御され、送信信号TXに対応する送信波が生成される。生成された送信波は、車両外部に出力される。
そして、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信アンテナ14が受信し、反射波に対応する受信信号RXと送信信号TXとがミキサ15によりミキシングされ、送信信号と受信信号との差分の信号であるビート信号が生成される。そして、アナログ信号であるビート信号が、LPF16によりフィルタリングされ、AD変換器17によりデジタル信号に変換され、信号処理部18に入力される。
ここで、ビート信号を生成する方法について具体的に説明する。図4は、ビート信号を生成する方法を示す図である。図4では、FM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)の信号処理方式を例に用いている。なお、本実施の形態では、FM−CWの方式を例に用いて説明するが、送信信号の周波数が上昇するUP区間と周波数が下降するDOWN区間といった複数の区間を組み合わせて物標を導出する方式であれば、FM−CWの方式に限定されない。
図4中に示すTXは送信信号であり、RXは受信信号である。また、foは送信波の中心周波数であり、△Fは周波数偏移幅である。また、Tは車両CRと物標との電波の往復時間である。
図4(a)は、FM−CW方式の送信信号TX及び受信信号RXの信号波形を示す図であり、縦軸は周波数[GHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。送信信号TXは、中心周波数をf0(例えば、76.5GHz)として、所定周波数(例えば76.6GHz)まで上昇した後に所定周波数(例えば、76.4GHz)まで下降をするように200MHzの間で一定の変化を繰り返す。このように、送信信号TXは、所定周波数まで周波数が上昇する区間(第1期間)と、所定周波数まで周波数が下降する区間(第2期間)とがある。本明細書においては、周波数が上昇する区間を「UP区間」ともいい、周波数が下降する区間を「DOWN区間」ともいう。例えば、図4(a)では、区間U1及びU2がUP区間となり、区間D1及びD2がDOWN区間となる。
また、送信アンテナ13から送信された送信波が物体で反射して、受信アンテナ14がその反射波を受信すると、その反射波に対応する受信信号RXがミキサ15に入力される。この受信信号RXについても送信信号TXと同じように所定周波数まで周波数が上昇する区間と、所定周波数まで周波数が下降する区間とが存在する。
なお、本実施の形態では、あるUP区間とそれに続くDOWN区間との組み合わせを送信信号TXの1周期としており、レーダ装置1は、この送信信号TXの1周期分に相当する送信波を車両外部に送信する。図4(a)に示す例では、レーダ装置1は、送信期間t0〜t1のUP区間である区間U1と、送信期間t1〜t2のDOWN区間である区間D1とで送信波を出力する。そして、信号処理部18は、送信信号TXと受信信号RXとに基づいて、物標情報を導出するための信号処理を行う(t2〜t3の信号処理区間)。その後、レーダ装置1は、次の周期(送信期間t3〜t4のUP区間である区間U2と、送信期間t4〜t5のDOWN区間である区間D2)で送信波を出力し、信号処理部18が物標情報を導出するための信号処理を行う。そして、以降は同様の処理が繰り返される。
なお、車両CRから物標までの距離に応じて、送信信号TXに比べて受信信号RXに時間的な遅れ(時間T)が生じる。さらに、車両CRの速度と物標の速度との間に速度差がある場合は、送信信号TXに対して受信信号RXにドップラーシフト分の差が生じる。
図4(b)は、ビート周波数を示す図であり、縦軸は周波数[kHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。ビート周波数は、UP区間およびDOWN区間の送信信号TXと受信信号RXとの差分により導出される。例えば、区間U1ではビート周波数BF1が導出され、区間D1ではビート周波数BF2が導出される。このように各区間において、ビート周波数が導出される。
図4(c)は、ビート周波数に対応するビート信号を示す図であり、縦軸は振幅[V]を示し、横軸は時間[msec]を示している。図4(c)に示すように、ビート周波数に対応する信号として、アナログ信号のビート信号BSが生成される。当該ビート信号BSは、LPF16でフィルタリングされた後、AD変換器17によりデジタル信号に変換される。
なお、図4は、1つの反射点から受信した場合の受信信号RXに対応するビート信号BSを示している。これに対して、送信波が複数の反射点で反射し、受信アンテナ14が複数の反射波を受信した場合には、受信信号RXとして複数の反射波に対応する信号が検出される。この場合、ビート信号BSは、複数の受信信号RXと送信信号TXとのそれぞれの差分を合成したものとなる。
図3に戻り、信号処理部18は、デジタル信号のビート信号に対してFFT処理を行う(ステップS102)。具体的には、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各々のビート信号に対してFFT処理を行う。これにより、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各々で、ビート信号に関する周波数ごとの信号レベルの値と位相情報とを有するFFTデータを取得する。なお、FFTデータは、各受信アンテナ14a〜14d毎に取得される。
次に、信号処理部18は、FFTデータの中から物標の導出に用いるピーク信号を抽出する(ステップS103)。具体的には、まず、信号処理部18は、FFTデータのうち信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号とする。そして、信号処理部18は、低周波数側の所定周波数の範囲内に存在するピーク信号のうち、周波数の低いピーク信号から順に物標導出に用いるピーク信号を抽出する。さらに、信号処理部18は、所定周波数の範囲を超える周波数領域においては、信号レベルの値が大きいピーク信号から順に物標導出に用いるピーク信号を抽出する。このピーク抽出処理は、抽出したピーク信号の数が所定数になるまで行われる。また、このピーク抽出処理は、UP区間及びDOWN区間の各々の区間で行われる。なお、以下の処理ステップS104及び105において用いられるピーク信号は、この物標導出用に抽出されたピーク信号である。また、ピーク抽出処理の詳細は後述する。
そして、信号処理部18は、UP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間において、抽出されたピーク信号に基づいて方位演算を行う(ステップS104)。具体的には、信号処理部18は、所定の方位演算アルゴリズムによって物標の方位(角度)を導出する。例えば、方位演算アルゴリズムは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)である。信号処理部18は、各受信アンテナ14a〜14dにおける受信信号の位相情報から相関行列の固有値及び固有ベクトル等が演算されて、UP区間のピーク信号に対応する角度θupと、DOWN区間のピーク信号に対応する角度θdnとが導出される。そして、UP区間及びDOWN区間の各ピーク信号がペアリングされた場合には(1)式により物標の角度θmが導出される。
なお、ピーク信号の周波数の情報は、物標の距離や相対速度の情報に対応しているが、1つのピーク信号の周波数に複数の物標の情報が含まれているときがある。例えば、車両CRに対する物標の位置情報において、距離が同じ値で角度が異なる値の複数の物標の情報が、同じ周波数のピーク信号に含まれている場合がある。このような場合、異なる角度からの反射波の位相情報はそれぞれ異なるため、信号処理部18は、各反射波の位相情報に基づいて1つのピーク信号に対して異なる角度に存在する複数の物標情報を導出する。
次に、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングするペアリング処理を行う(ステップS105)。このペアリング処理は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算により行われる。具体的には、レーダ装置1を車両CRに搭載する前に、予め試験的にUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングする。そして、その中で正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータと、誤った組み合わせでペアリングされたミスペアデータとの各データを複数取得する。そして、各正常ペアデータにおけるUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との「信号レベルの値の差」、「角度の値の差」及び「角度スペクトラムの信号レベルの値の差」の3つのパラメータ値を用いて、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値を導出してメモリ182に記憶する。
そして、レーダ装置1を車両CRに搭載した後に、信号処理部18が物標情報を導出する際には、今回処理で取得されたピーク信号のうちUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とのすべての組み合わせについての3つのパラメータ値と、上記で導出した3つのパラメータごとの平均値とを用いて以下に示す(2)式によりマハラノビス距離を導出する。
信号処理部18は、マハラノビス距離が最小の値となる今回処理のペアデータを正常ペアデータとして導出する。なお、マハラノビス距離とは、平均がμ=(μ1, μ2, μ3)Tで、共分散行列がΣであるような多変数ベクトルx=(x1, x2, x3)で表される一群の値に対するものであり(2)式により導出される。μ1, μ2, μ3は正常ペアデータの3つのパラメータの値を示し、x1, x2, x3は今回処理のペアデータの3つのパラメータの値を示す。
そして、信号処理部18は、このペアリング処理において正常ペアデータのパラメータの値と以下の(3)式及び(4)式とを用いて、正常ペアデータの縦距離と相対距離とを導出する。なお、式中のRは縦距離であり、fupはUP区間のピーク信号に対応する周波数であり、fdnはDOWN区間のピーク信号に対応する周波数であり、cは光速(電波の速度)である。また、式中の△Fは周波数偏移幅であり、fmは変調波の繰り返し周波数であり、Vは相対速度である。
また、信号処理部18は、縦距離と上述の(1)式で導出した角度θmとの情報から、三角関数を用いた演算を行い、正常ペアデータの横距離を導出する。
次に、信号処理部18は、今回の物標導出処理によりペアリングされた今回ペアデータと、前回の処理によって確定された前回ペアデータとの間に時間的に連続する関係があるか否かの連続性判定処理を行う(ステップS106)。ここで、両者に時間的に連続する関係がある(連続性がある)場合とは、例えば、前回ペアデータに基づいて今回ペアデータを予測した予測ペアデータを生成し、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離及び相対速度の差の値が所定値以内の場合である。連続性がある場合、今回処理により導出された物標と、過去処理により導出された物標とが同一物標であると判定される。なお、信号処理部18は、所定値以内に複数の今回ペアデータが存在する場合、最も予測ペアデータとの差の値が小さい今回ペアデータを前回ペアデータと時間的に連続する関係を有するものと判定することができる。
また、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離及び相対速度の差の値が所定値以内ではない場合には、今回ペアデータと前回ペアデータとは時間的に連続する関係がない(連続性がない)と判定する。そして、このように連続性がないと判定されたペアデータは今回の物標導出処理において初めて導出されたデータ(新規ペアデータ)となる。なお、信号処理部18は、連続性判定において、所定回数連続して連続性があると判定した場合(すなわち、同一物標であると判定した場合)は、検出した物標を真の物標として確定する処理も行う。
次に、信号処理部18は、今回ペアデータと前回ペアデータとに時間的に連続する関係が存在する場合は、今回ペアデータと予測ペアデータとの間で縦距離、相対速度、横距離及び信号レベルの値のフィルタ処理を行う(ステップS107)。信号処理部18は、このフィルタ処理されたペアデータ(過去対応ペアデータ)を今回処理の物標情報として導出する。
例えば、両者に時間的に連続する関係がある場合に、信号処理部18は、横距離について予測ペアデータの横距離に0.75の値の重み付けを行い、今回ペアデータの横距離に0.25の値の重み付けを行って、両方の値を足し合わせたものを今回の物標導出処理の過去対応ペアデータの横距離として導出する。また、縦距離、相対速度及び信号レベルの値についても同様にフィルタ処理を行う。そして、信号処理部18は、導出した過去対応ペアデータを今回の物標情報として確定する。
次に、信号処理部18は、複数の物標情報が一つの物体に対応する物標情報である場合にそれらをまとめる結合処理を行う(ステップS108)。これは、例えば、レーダ装置1の送信アンテナ13から送信波が射出され、その送信波が前方車両にて反射した場合、受信アンテナ14が受信する反射波は複数存在する。つまり、同一物体における複数の反射点からの反射波が受信アンテナ14に到来する。信号処理部18は、それぞれの反射波に基づいて物標情報を導出するため、結果として位置情報の異なる物標情報が複数導出されることになる。しかしながら、もともとは一つの車両の物標情報なので、各物標情報を一つにまとめて同一物体の物標情報として取り扱うこととしている。そのため、複数の物標情報の各相対速度が略同一で、各物標情報の縦距離および横距離が所定範囲内であれば、信号処理部18は複数の物標情報を同一物体における物標情報とみなし、当該複数の物標情報を一つの物標に対応する物標情報にまとめる結合処理を行う。
そして、信号処理部18は、ステップS108の処理で結合処理された物標情報から車両制御装置2に出力する優先順位の高い物標情報を車両制御装置2に出力する(ステップS109)。このようにして、信号処理部18は、物標情報を導出することができる。
<1−3.ピーク抽出処理>
次に、本実施の形態に係るピーク抽出処理(ステップS103)について説明する。図5は、ピーク抽出処理を示すフローチャートである。本実施の形態に係るピーク抽出処理は、FFTデータから物標導出に用いるピーク信号を抽出する際に、周波数に応じて抽出する方法を変えるものである。具体的には、抽出対象の全周波数帯域のうち、低周波数側の周波数領域(以下「第1周波数領域」という。)と、それを超える周波数領域(以下「第2周波数領域」という。)とに分け、各々の領域で物標導出に用いるピーク信号を抽出する方法を変更している。なお、ピーク抽出処理は、UP区間及びDOWN区間の各々にて行われ、いずれの区間においても抽出処理は同じである。このため、以下では共通の抽出方法として説明する。
まず、信号処理部18は、FFTデータのうち信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号とする。そして、信号処理部18は、そのピーク信号の中から周波数の低いピーク信号から順に物標導出に用いるピーク信号として抽出する(ステップS201)。つまり、信号処理部18は、未抽出のピーク信号のうち最も低周波数のピーク信号を、物標導出に用いるピーク信号として抽出する。なお、本発明において抽出したピーク信号とは、全ピーク信号の中から抽出された物標導出に用いられるピーク信号のことを指す。
そして、信号処理部18は、抽出したピーク信号の数を導出し、ピーク信号を所定数抽出したか否かを判断する(ステップS202)。これは、抽出したピーク信号の数が多いと、信号処理部18への処理負荷が大きくなり、物標を導出するまでに要する処理時間が長くなるためである。信号処理部18は、所定の時間内に物標導出処理を完了させる必要があるものの、ピーク信号の数が多いとその所定時間内に物標導出処理が完了しない場合が生じてしまう。このため、ピーク信号の数を一定の数に限定している。したがって、所定数とは、物標導出処理が完了できる程度の数とすればよく、例えば40や60等とすればよいが、信号処理部18の処理能力等に応じて適宜設定すればよい。
ピーク信号を所定数抽出した場合には(ステップS202でYes)、信号処理部18は、ピーク抽出処理を終了する。すなわち、抽出したピーク信号が所定数に達すると、信号処理部18は、それ以上の抽出は行わず次の処理に進む。
一方、ピーク信号を所定数抽出していない場合には(ステップS202でNo)、信号処理部18は、第1周波数領域でのピーク信号の抽出処理が完了したか否かを判断する(ステップS203)。つまり、信号処理部18は、全ピーク信号のうち、第1周波数領域に含まれるピーク信号を全て抽出したか否かを判断する。
なお、本発明は、車両の近傍に存在する人を物標として導出するものであるため、第1周波数領域は、人の導出を必要とする距離に対応する領域とすればよい。例えば、車両(レーダ装置1)から60m以内に存在する人を導出しようとする際には、距離と周波数領域とが比例することから、それに対応する周波数領域として0から139BIN(1BINは約468Hz)までの範囲を第1周波数領域とすればよい。この場合、第2周波数領域は、140BIN以降の周波数領域となり、上限は予め設定されたBINに対応する周波数となる。ただし、第1周波数領域の範囲はこれに限定されるものではなく、人を導出しようとする範囲に応じて適宜変更可能である。
第1周波数領域でのピーク信号の抽出処理が完了していない場合には(ステップS203でNo)、信号処理部18は、再度、周波数の低いピーク信号を抽出する処理(ステップS201)から繰り返し実行する。すなわち、信号処理部18は、抽出したピーク信号の数が所定数になるか、第1周波数領域内のピーク信号を全て抽出するまで、第1周波数領域内の未抽出のピーク信号のうち最も低周波数のピーク信号から順に抽出する。
一方、第1周波数領域のピーク信号の抽出処理が完了した場合には(ステップS203でYes)、信号レベルの高いピーク信号を抽出する(ステップS204)。具体的には、信号処理部18は、第2周波数領域内のピーク信号のうち信号レベルの最も高いピーク信号を抽出する。
そして、信号処理部18は、抽出したピーク信号の数を導出し、ピーク信号を所定数抽出したか否かを判断する(ステップS205)。この際に導出するピーク信号の数は、第1周波数領域内から抽出したピーク信号の数と、第2周波数領域内から抽出したピーク信号の数との合計である。
ピーク信号を所定数抽出した場合には(ステップS205でYes)、信号処理部18は、ピーク抽出処理を終了する。すなわち、抽出したピーク信号が所定数に達すると、信号処理部18は、それ以上の抽出は行わず次の処理に進む。
一方、ピーク信号を所定数抽出していない場合には(ステップS205でNo)、信号処理部18は、再度、信号レベルの高いピーク信号を抽出する処理(ステップS204)から繰り返し実行する。すなわち、信号処理部18は、第2周波数領域内の未抽出のピーク信号のうち最も信号レベルの高いピーク信号を抽出する。信号処理部18は、抽出したピーク信号が所定数になるまで第2周波数領域のピーク信号の抽出処理を実行する。
ここで、本実施の形態に係るピーク抽出処理について、図6を用いて説明する。図6は、ビート信号のFFTデータを示す図であり、図6(a)はUP区間、図6(b)はDOWN区間を示している。また、図6の縦軸は信号レベルを示し、横軸は周波数を示している。
図6(a)に示す例では、UP区間においては、ピーク信号PU1〜PU12の12個のピーク信号が存在している。また、各ピーク信号のうち、信号レベルの低いピーク信号PU3は、人に対応するピーク信号である。さらに、ピーク信号PU1〜PU5は第1周波数領域内に存在するピーク信号であり、ピーク信号PU6〜PU12は第2周波数領域内に存在するピーク信号である。また、図6(b)に示す例では、DOWN区間において、ピーク信号PD1〜PD12の12個のピーク信号が存在している。これらピーク信号PU1〜PU12とPD1〜PD12とは、各々同一物標に対応するピーク信号である。この例において、物標導出に用いるピーク信号を抽出する所定数を仮に8とした場合について以下に説明する。
信号処理部18は、まず、第1周波数領域に存在するピーク信号のうち、低周波数側のピーク信号から順番に抽出する。すなわち、図6(a)の例では、信号処理部18は、まずピーク信号PU1を抽出する。この時点では、抽出したピーク信号の数が所定数の8に達していないため、信号処理部18は、次にピーク信号PU2を抽出する。以降、同様の抽出処理を繰り返し、ピーク信号PU5まで抽出する。
第1周波数領域のピーク信号PU1〜PU5を全て抽出しても、抽出したピーク信号の数は5であり、所定数の8に達していない。このため、信号処理部18は、第2周波数領域に存在するピーク信号のうち、信号レベルの高いピーク信号から順番に抽出する処理を実行する。図6(a)の例では、第2周波数領域内に存在するピーク信号のうち、まずは最も信号レベルの高いピーク信号PU9が抽出される。抽出したピーク信号の数は、第1周波数領域の抽出処理で抽出された5個のピーク信号を加えて6であり、所定数の8には達していない。
このため、信号処理部18は、次に信号レベルの高いピーク信号PU7を抽出し、さらに、次に信号レベルの高いピーク信号PU8を抽出する。ピーク信号PU8を抽出すると、抽出したピーク信号の数が8となり、所定数に達することとなるため、信号処理部18は、ピーク抽出処理を終了する。これにより、ピーク信号PU1〜PU5とPU7〜PU9との合計8個のピーク信号が物標導出用に抽出される。
従来の方法では、全周波数領域で信号レベルの高いピーク信号から順番に抽出していたため、図6(a)の例では、PU9、PU7、PU5、PU4、PU8、PU11、PU1及びPU2の8つのピーク信号が抽出されることとなり、人のピーク信号であるPU3が抽出されることはなかった。これに対して、本実施の形態の構成とすれば、低周波数側の領域では周波数順にピーク信号を抽出するため、信号レベルの小さい人のピーク信号PU3を抽出することが可能となる。なお、図6(b)に示すDOWN区間においても同様であり、人に対応するピーク信号であるPD3を抽出することが可能になる。
なお、全周波数領域で周波数順にピーク信号を抽出することも考えられるが、そうすると高周波数領域に到達する前に抽出ピーク数が所定数に達してしまい、レベルの高い中・遠距離に存在するピーク信号、即ち本来制御対象とすべき前方車両や障害物が抽出できなくなる。図6(a)の例ではPU1〜PU8は抽出できるものの、最もレベルの高いPU9のピーク信号が抽出されなくなる。
前方車両の動きは急であるため、前方車両が急ブレーキをかけたときにも対応できるよう前方車両は近距離から遠距離までの全範囲について監視することが望ましい、これに対し、人の動きは車より遅いこと、および人が遠距離に存在する場合、その反射波のレベルは極めて小さくノイズと区別しづらくなることから、人は近距離の範囲に絞って監視することが望ましい。本実施の形態では、かかる知見に基づき、近距離範囲では人と前方車両との両方を確実に検出できるよう、低周波数側の領域では周波数順にピーク信号を抽出するようにし、遠距離範囲では前方車両を確実に検出できるよう信号レベル順にピーク信号を抽出するようにしている。
このように、本実施の形態に係るピーク抽出処理は、第1周波数領域では、低周波数側のピーク信号から順番に物標導出に用いるピーク信号を抽出し、第2周波数領域では、信号レベルの高いピーク信号から順番に物標導出に用いるピーク信号を抽出する処理である。これにより、低周波数側に存在するピーク信号であって信号レベルの低いピーク信号についても抽出可能となる。すなわち、車両近傍に存在する人に対応するピーク信号も抽出することができようになり、その人を物標として導出することが可能になる。しかも、第1周波数領域のピーク抽出処理を第2周波数領域のピーク抽出処理より優先させているため、人の検出を確実に行うことができる。
<2.第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、車両の走行状況に関わらず、第1周波数領域内に存在する周波数の低いピーク信号から順に抽出し、その後、第2周波数領域内に存在する信号レベルの高いピーク信号から順に抽出する処理について説明したが、車両の走行状況等に応じて抽出方法を変更する構成としてもよい。
例えば、車両がある程度の高速で走行しているような状況(高速道路や幹線道路等)には周囲の人と衝突するような可能性は小さく、低速で走行しているような状況(道路幅が狭く歩道の無い道等)の方が人と衝突する可能性が大きい。むしろ、高速で走行している状況では、前方や周囲の車両を導出できないことの方が問題となる場合もある。高速で走行している状況においても人の検出を行うために低周波数領域のピーク信号の抽出を優先すると、前方車両のピーク信号を抽出できなくなる可能性もある。
このため、第2の実施の形態では、人を検出することが必要な走行状況にあるか否かに応じて、人に対応するピーク信号の抽出を優先した処理を行うか否かを切り替える構成としている。以下、具体的に説明する。
<2−1.構成及び全体の処理>
第2の実施の形態に係る車両制御システムは、図2に示す車両制御システム10と同様の構成である。また、レーダ装置1が物標情報を導出する処理についても、ピーク抽出処理(ステップS103)以外の処理は第1の実施の形態で説明した処理と同様である。このため、以下では、ピーク抽出処理について第1の実施の形態と相違する点を中心に説明する。
<2−2.ピーク抽出処理>
第2の実施の形態に係るピーク抽出処理の詳細について説明する。図7は、第2の実施の形態に係るピーク抽出処理(ステップS103)を示すフローチャートである。本実施の形態に係るピーク抽出処理は、FFTデータから物標導出に用いるピーク信号を抽出する際に、周波数領域に応じて抽出する方法を変える処理と、変えない処理とを切り替えるものである。この各処理は、車両の速度に応じて切り替えられる。なお、本実施の形態においても、ピーク抽出処理は、UP区間及びDOWN区間の各々にて行われ、いずれの区間においても抽出処理は同じである。このため、以下では共通の抽出方法として説明する。
まず、信号処理部18は、FFTデータのうち信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号とする。そして、信号処理部18は、車両の速度情報を車速センサ40や車両制御装置2などから取得し、車速が60km/h以下であるか否かを判断する(ステップS301)。車速が60km/h以下である場合には(ステップS301でYes)、周囲に存在する人と衝突する危険性を含む環境を走行している可能性があるため、車両近傍に存在する人も物標として導出する処理を行う。すなわち、信号処理部18は、車両近傍に存在する人に対応するピーク信号を優先的に抽出する処理を実行する。
具体的には、信号処理部18は、周波数の低いピーク信号から物標導出に用いるピーク信号を抽出し(ステップS302)、ピーク信号を所定数抽出したか否かを判断する(ステップS303)。信号処理部18は、ピーク信号を所定数抽出した場合には(ステップS303でYes)、ピーク抽出処理を終了し、所定数抽出していない場合には(ステップS303でNo)、第1周波数領域のピーク信号の抽出が完了したか否かを判断する(ステップS304)。
信号処理部18は、第1周波数領域のピーク信号の抽出が完了していない場合には(ステップS304でNo)、再度、周波数の低いピーク信号を抽出する処理(ステップS302)から繰り返し実行し、第1周波数領域のピーク信号の抽出が完了した場合には(ステップS304でYes)、信号レベルの高いピーク信号を抽出する(ステップS305)。そして、信号処理部18は、ピーク信号を所定数抽出したか否かを判断する(ステップS306)。信号処理部18は、ピーク信号を所定数抽出した場合には(ステップS306でYes)、ピーク抽出処理を終了し、所定数抽出していない場合には(ステップS306でNo)、再度、信号レベルの高いピーク信号を抽出する処理(ステップS305)から繰り返し実行する。これら各ステップS302〜ステップS306の処理は、上述した各ステップS201〜ステップS205と同様の処理である。
一方、ステップS301において、車速が60km/h以下でない場合には(ステップS302でNo)、信号処理部18は、信号レベルの高いピーク信号を抽出する(ステップS307)。具体的には、信号処理部18は、第1周波数領域及び第2周波数領域の全領域のピーク信号のうち信号レベルの最も高いピーク信号を抽出する。
そして、信号処理部18は、ピーク信号を所定数抽出したか否かを判断する(ステップS308)。信号処理部18は、ピーク信号を所定数抽出した場合には(ステップS308でYes)、ピーク抽出処理を終了する。すなわち、抽出したピーク信号の数が所定数に達すると、信号処理部18は、それ以上の抽出は行わず次の処理に進む。
一方、ピーク信号を所定数抽出していない場合には(ステップS308でNo)、信号処理部18は、再度、信号レベルの高いピーク信号を抽出する処理(ステップS307)から繰り返し実行する。すなわち、信号処理部18は、第1周波数領域及び第2周波数領域の全領域内に存在する未抽出のピーク信号のうち最も信号レベルの高いピーク信号を抽出する。信号処理部18は、抽出したピーク信号の数が所定数になるまでピーク信号の抽出処理を実行する。このようにして、信号処理部18は、第1周波数領域及び第2周波数領域の全領域内のピーク信号のうち、信号レベルの高いピーク信号から順に所定数になるまで抽出する。
ここで、第1の実施の形態で説明した図6(a)の例を用いて本実施の形態に係るUP区間のピーク抽出処理について説明する。本実施の形態では、車速が60km/h以下の場合には、第1の実施の形態と同様に、ピーク信号PU1〜PU5及びPU7〜PU9の8つのピーク信号が抽出される。すなわち、人に対応するピーク信号PU3を抽出することができる。一方、車速が60km/hを超える場合には、ピーク信号PU1、PU2、PU4、PU5、PU7〜PU9、及びPU11の8つのピーク信号が抽出される。すなわち、車速が60km/h以下の場合には抽出されなかったピーク信号PU11を抽出することができる。その結果、車速が60km/h以下の場合には、車両近傍に存在する人を優先的に物標として導出することができ、60km/hを超える場合には、車両前方に存在する他車両を優先的に物標として導出することが可能になる。これらのピーク抽出処理は、DOWN区間の場合も同様である。
なお、本実施の形態では、車速が60km/hの場合について説明したが、これに限定されるものではない。車両近傍に存在する人の検出を優先するか、車両前方に存在する他車両の検出を優先するか等に応じて適宜設定可能である。また、人に衝突する危険性の有無を車速以外の走行状況で判断してもよい。
このように、第2の実施の形態に係るピーク抽出処理は、車両の走行状況等に応じて物標導出に用いるピーク信号の抽出方法を変える処理である。これにより、車両近傍に存在する人を優先的に物標として導出する必要がある場合や、車両前方に存在する他車両を優先的に物標として導出する必要がある場合など、種々の状況に応じた適切なピーク信号の抽出が可能になる。
<3.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
上記各実施の形態では、第1周波数領域をUP区間及びDOWN区間の各々で同じ領域としていた。つまり、第1周波数領域と第2周波数領域との境界の周波数(以下「境界周波数」という。)がUP区間及びDOWN区間で同じであった。本発明は、これに限定されるものではなく、第1周波数領域をUP区間及びDOWN区間で異なる周波数領域としてもよい。つまり、境界周波数をUP区間とDOWN区間とで異ならせてもよい。
例えば、車両と物標との間に相対速度が生じている場合、特に物標が車両に接近してきている状況においては、ドップラー効果によりDOWN区間のピーク信号の周波数がUP区間のピーク信号の周波数よりも高くなる。このため、境界周波数をUP区間とDOWN区間とで同じにすると、同一物標のピーク信号であっても境界周波数付近にあるときには、UP区間のピーク信号は第1周波数領域に含まれ、DOWN区間のピーク信号は第2周波数領域に含まれるといった状況が起こり得る。このようなピーク信号が人に対応するピーク信号である場合、DOWN区間のピーク信号が抽出されない場合がある。それは、人に対応するピーク信号の信号レベルは低いにも関わらず、第2周波数領域では信号レベルの高い順にピーク信号を抽出するからである。その結果、そのピーク信号に対応する人を物標として導出することができなくなる。
このため、境界周波数をUP区間とDOWN区間とで異ならせ、DOWN区間の方を高い周波数としてもよい。DOWN区間の境界周波数をUP区間の境界周波数よりも高くすることで、上述のような人が自車両に接近する場合においても、UP区間及びDOWN区間の双方でピーク信号を抽出することが可能になる。
なお、人が自車両から離れる場合は、UP区間のピーク信号の周波数がDOWN区間のピーク信号の周波数よりも高くなるため、DOWN区間のピーク信号が境界周波数付近にあれば、UP区間のピーク信号は第2周波数領域に、DOWN区間のピーク信号は第1周波数領域に存在することになり、その結果そのピーク信号に対応する人を物標として導出することができなくなる。ただし、この場合、当該人は自車両から離れる方向に移動しているため特に制御対象とする必要はなく、検出できなくても支障はない。もし、自車両に接近している人よりも自車両から離れている人を優先的に検出する必要がある場合は、DOWN区間よりもUP区間の方の境界周波数を高い周波数に設定すればよい。
ここで、図8を用いて具体的に説明する。図8は、ビート信号のFFTデータを示す図であり、図8(a)はUP区間、図8(b)はDOWN区間を示している。また、図8の縦軸は信号レベルを示し、横軸は周波数を示している。
図8(a)に示すように、UP区間においては、ピーク信号PU21〜PU32の12個のピーク信号が存在している。また、各ピーク信号のうち、信号レベルの低いピーク信号PU22及びPU25が人に対応するピーク信号である。また、図8(b)に示すように、DOWN区間においては、ピーク信号PD21〜PD31の11個のピーク信号が存在している。また、各ピーク信号のうち、信号レベルの低いピーク信号PD22及びPD25が人に対応するピーク信号である。なお、ピーク信号PU21〜PU31とピーク信号PD21〜PD31とは、各々同一物標に対応するピーク信号である。ここで、人に対応するピーク信号PU22、PD22及びPU25、PD25は、ともに当該人が自車両に接近している状態とする。そのため、UP側のピーク信号PU22、PU25よりもDOWN側のピーク信号PD22、PD25の方がそれぞれ周波数が高くなっている。
図8に示す例では、UP区間のピーク信号PU25の周波数は、境界周波数fbuよりも低く、DOWN区間のピーク信号PD25の周波数は、境界周波数fbuと同じ周波数fbdsよりも高い。すなわち、仮にUP区間の境界周波数とDOWN区間の境界周波数とを同じにしたとすれば、ピーク信号PU25は第1周波数領域に含まれ、ピーク信号PD25は第2周波数領域に含まれることになる。
これに対して、図8に示す例では、DOWN区間における境界周波数fbdは、UP区間における境界周波数fbuよりも高くなっている。そして、ピーク信号PU25の周波数は境界周波数fbuよりも低く、ピーク信号PD25の周波数も境界周波数fbdよりも低い。つまり、境界周波数fbdを、境界周波数fbuよりも高い周波数とすることで、DOWN区間の第1周波数領域をUP区間の第1周波数領域よりも高周波数側に広げることができる。その結果、ピーク信号PU25及びピーク信号PD25の双方が第1周波数領域に含まれることとなり、ピーク信号PU25及びピーク信号PD25の双方共に抽出することができる。
なお、DOWN区間の境界周波数fbdをUP区間の境界周波数fbuよりもどの程度高周波数側にシフトするかについては、適宜設定可能である。つまり、DOWN区間における境界周波数fbdは、DOWN区間のピーク信号の周波数がUP区間のピーク信号の周波数よりも高い場合であっても、両ピーク信号が第1周波数領域に含まれるような周波数とすればよい。
このように、車両と物標との間に相対速度が生じており、しかも物標が車両に接近している場合、DOWN区間の境界周波数を適宜変更することで、仮に人に対応するピーク信号が境界周波数付近に存在する場合であっても、UP区間及びDOWN区間の双方で抽出することができるため、人を物標として導出することが可能になる。
また、上記各実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい。