JP6170889B2 - ナノファイバ製造方法及び装置、不織布製造方法 - Google Patents

ナノファイバ製造方法及び装置、不織布製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ナノファイバ製造方法及び装置、不織布製造方法に関する。
例えば数nm以上1000nm未満のナノオーダの径を有する繊維(ナノファイバ)は、バイオフィルタ、センサ、燃料電池電極材、精密フィルタ、電子ペーパ等の製品の素材として利用されており、工学や医療等の各分野においての用途開発が盛んに行われている。
ナノファイバを製造する方法の一つに、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)がある。電界紡糸法は、ノズルとコレクタと電源とを有する電界紡糸装置(エレクトロスピニング装置)を用いて行われる(特許文献1参照)。電源によりノズルとコレクタとの間に電圧を印加し、例えば、ノズルをマイナス、コレクタをプラスに帯電させる。
電圧を印加した状態でノズルから原料である溶液を出すと、ノズルの先端の開口(以下、先端開口と称する)にテイラーコーンと呼ばれる溶液で構成される円錐状の突起が形成される。印加電圧を徐々に増加し、クーロン力が溶液の表面張力を上回ると、テイラーコーンの先端から溶液が伸びて、紡糸ジェットが形成される。紡糸ジェットはクーロン力によってコレクタまで移動し、コレクタ上でナノファイバとして捕集される。
ノズルから送られる溶液に蒸発しやすい、例えば揮発性の高い溶媒を使用する場合には、先端開口で溶液が固化し、詰まることがある。また、ある程度固化した溶液が先端開口から離れると、コレクタ上に集積されたナノファイバの収集面に、固化した溶液が落ちてしまうことがある。このように溶液の詰まりや固化によって、製品の品質の低下や、製品としての使用が不可能になる。このため、特許文献2では、クリーニング手段を用いて、先端開口に柔軟部材を接触させて固化した溶液を除去したり、先端開口を吸引して固化した溶液を除去したりしている。
特許文献3では、ノズルの先端開口から所定距離だけ離した位置にエア吹付部を設け、紡糸ジェットの進行方向にエア吹付部によりエアを吹き付けて、紡糸ジェットのコレクタへの移動を促進させ、ナノファイバの製造量を増加させている。
特開2005−330624号公報 特開2008−202169号公報 特開2014−47440号公報
特許文献2に示されるように、ノズルをクリーニングステーションに移動させて先端開口に柔軟部材を接触させて固化した溶液を除去する方法では、先端開口に柔軟部材を接触させることにより柔軟部材やノズルが撓む。そして、柔軟部材を先端開口から離れた際に撓んだ柔軟部材やノズルが元の姿勢に戻り、この戻る際の勢いで柔軟部材や先端開口に付着している固化した溶液を跳ね飛ばしてしまうことがあり、長時間の安定した製造が難しいことがある。
また、吸引による先端開口のクリーニングでは、蒸発しやすい溶媒の場合には固化した溶液がかなり硬くなるため、強い吸引が必要になる。そのために紡糸装置内部の風の流れに乱れが生じて、コレクタ上に捕集されるナノファイバが均一でなくなり、製品の品質が著しく低下することがある。
ところで、たとえばポリビニルアルコールの希薄水溶液のような原料を用いると、テイラーコーンが安定的に形成され、紡糸ジェット及びファイバの飛翔も安定する。しかし、溶媒の蒸発しやすい、例えば溶媒の蒸発速度が速い溶液では、テイラーコーンが形成できず、また形成されたとしても維持されず、ノズルから押し出された溶液の表面の溶媒がはやく蒸発することによって、液玉が発生することがある。液玉は、テイラーコーンのような略円錐状ではなく略球状になっており、表面は溶媒蒸発により粘度が上昇して皮が形成され、内部は溶媒濃度の高い溶液のままになっている。液玉が発生してしまうと、充分に電荷がかかっていても、表面からの溶液の吹き出しが困難になり、紡糸ジェットが噴出しても飛翔が不連続になって均一な太さのナノファイバの形成が困難になる。
また、液玉は装置の振動などによって落下することもあり、コレクタ上に不織布のような形態で集積されるナノファイバに貼り付いて欠陥となる。このため、集積したナノファイバが製品として使用できなくなったり、例えば不織布としての品質が低下したりすることがある。
このように、特許文献2の電界紡糸方法では、ノズル先端での溶液の固化が原因で液玉が発生しているのに、対処療法的に液玉を洗浄して取り除くだけであり、根本的な解決には至っていない。
特許文献3の電界紡糸装置では、紡糸ジェットの進行方向にエア吹付部によりエアを吹き付けて、紡糸ジェットのコレクタへの移動を促進させ、ナノファイバの製造量を増加させている。しかし、目的は紡糸ジェットのコレクタへの移動促進であり、液玉の抑制については考慮されていない。
このように、従来の電界紡糸装置においては、テイラーコーンの形成及びその維持に関して十分な検討がなされていないのが現状である。本発明は、上記問題点に鑑み、テイラーコーンを安定的に維持し、ナノファイバを安定して製造することができるナノファイバ製造方法及び装置、不織布製造方法を提供することを目的とする。
本発明のナノファイバ製造方法は、セルロース系ポリマーが溶媒に溶解し、第1の極性に帯電された状態の溶液をノズルから出し、ノズルの溶液が出る先端に、溶媒の成分と同じ物質を含み溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、先端から出た溶液の周囲を液で覆い、第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電されたコレクタにより、ノズルから出た溶液を誘引しナノファイバとして捕集することを特徴とすることを特徴として構成されている。
ノズルとノズルの外周に隙間をもってノズルと同心で配された送液管との間から液を出すことにより、液を供給することが好ましい。送液管の液が出る先端は、ノズルの先端よりも突出していることが好ましい。
セルロース系ポリマーは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースの少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
本発明のナノファイバ製造装置は、セルロース系ポリマーが溶媒に溶解した溶液を出すノズルと、ノズルの溶液が出る先端に、溶媒の成分と同じ物質を含み溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、先端から出た溶液の周囲を液で覆う供給部と、ノズルから出た溶液を誘引し、ナノファイバとして捕集するコレクタと、ノズルから出る溶液とコレクタとに電圧を印加することにより溶液とコレクタとを逆極性に帯電させる電圧印加部とを備えることを特徴として構成されている。
ノズルの外周に隙間をもってノズルと同心で配され、外周との間から液を出して供給する送液管を備えることが好ましい。送液管の液が出る先端は、ノズルの先端よりも突出していることが好ましい。
セルロース系ポリマーは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースの少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
本発明の不織布製造方法は、セルロース系ポリマーが溶媒に溶解し、第1の極性に帯電された状態の溶液をノズルから出し、ノズルの溶液が出る先端に、溶媒の成分と同じ物質を含み溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、先端から出た溶液の周囲を液で覆い、第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電された移動するコレクタにより、ノズルから出た溶液を誘引してコレクタ上に配された支持体にナノファイバとして捕集し、支持体上でナノファイバを集積させることにより不織布とすることを特徴とすることを特徴として構成されている。
本発明によれば、テイラーコーンを安定的に維持し、セルロース系ポリマーが溶媒に溶解した溶液からナノファイバを安定して製造することができる。
本発明を実施したナノファイバ製造装置の概略図である。 ノズル及び送風管の先端部を示す断面概略図である。 第2実施形態であるノズル及び送風管の断面概略図である。 第3実施形態であるノズル及び送風管の断面概略図である。 第4実施形態であるノズル及び送風管の概略を示す斜視図である。 第5実施形態であるノズル及び送風管の概略を示す斜視図である。 第6実施形態であるノズル及び送風管の概略を示す斜視図である。
図1に示すナノファイバ製造装置150は、セルロース系ポリマーが溶媒に溶解した溶液25からナノファイバ46を製造するためのものである。ナノファイバ製造装置150は、紡糸室151と、溶液供給部12と、ノズル13と、被覆液161を供給する供給部としての被覆液供給部154と、集積部15と、電源65とを備える。紡糸室151は、例えば、ノズル13、被覆液供給部154の送液管160、集積部15の一部などを収容して、密閉可能に構成されており、溶媒ガスが外部に洩れることを防止している。溶媒ガスは、溶液25の溶媒が気化したものである。溶媒は、単体でもよいし、複数の化合物からなる混合物であってもよい。本実施形態においては、ジクロロメタンとN−メチルピロリドン(NMP)との混合物を用いており、質量比はジクロロメタン:NMP=8:2である。溶媒についての詳細は後述する。
紡糸室151内の上部には、ノズル13が配される。ノズル13は、後述のように電源65により第1の極性に帯電された状態で溶液25を出すためのものである。図2に示すように、ノズル13は円筒から構成されており、先端の開口(以下、先端開口と称する)13aから溶液25を出す。ノズル13は、例えば外径が0.65mmで内径が0.4mmのステンレス製であり、先端開口13aの周りの先端開口縁部13bが筒心方向に直交するように切断されている。この切断面である先端開口縁部13bは、平坦に研磨されている。
ノズル13の外側にはノズル13と同心で、被覆液供給部154の送液管160が配される。送液管160は、ノズル13の外周との間に後述の被覆液161が流れる隙間をもって配された円管であり、内径がノズル13の外径よりも大きく形成されている。同心とは、必ずしも厳格でなくてもよく、ノズル13の内径に対して5%以内でのずれがある略同心であってもよい。送液管160は、ノズル13の先端開口13aとの間に送液スリット162を形成しており、この送液スリット162から被覆液161を出す。このように、ノズル13の先端には被覆液161が供給されて、先端開口13aから出た溶液25の周囲を被覆液161で覆う。このように、被覆液161は、先端開口13aから出た溶液25の周囲を覆うための液である。
送液管160は例えば外径が11mmで内径が10mmのステンレス製であり、ノズル13の筒心と送液管160の筒心とが一致するように、図示省略のスペーサによりノズル13を保持している。
ノズル13及び送液管160の素材はステンレスに代えて、例えばアルミニウム合金、銅合金、チタン合金等の導電性材料で構成してもよい。なお、電界紡糸のためには、溶液25はいずれかの場所で金属部材に接して電圧が印加され、第1の極性に帯電した状態で先端開口13aから出ればよい。したがって、いずれかの場所で電圧が印加され、先端開口13aから出る際に第1の極性に帯電していれば、先端開口13aは必ずしも導電性材料である必要はない。なお、テイラーコーン44の生成や、テイラーコーンから伸びる紡糸ジェット45の安定化には、ノズル13の先端13cの加工精度が重要である。そこで、たとえばフッ素系材料などで先端13cがコーティングされていると、ノズル13が清浄な状態に保たれるので好ましい。
送液管160の先端160aは、先端開口13aに対して例えば5mm程度の突出量L1で突出している。この突出した送液管160の先端部160bによって、ノズル13から出た溶液25で形成されるテイラーコーン44がより確実に覆われる。突出量L1はノズル13と送液管160との内径に対応して変えることが好ましく、形成されたテイラーコーン44の表面の乾きをより確実に防止するような突出量L1とすることが好ましい。
前述の被覆液161は、先端開口13aから出た溶液25、及びこの溶液から形成されたテイラーコーン44の周囲を覆うための液であり、溶液25の溶媒の成分と同じ物質を含む。すなわち、被覆液161と、溶液25の溶媒とは、共通した成分を含む。例えば溶液25の溶媒が混合物である場合には、その少なくともひとつの成分を被覆液161は含めばよい。本実施形態の被覆液161は、溶液25の溶媒を成すすべての成分を含んでおり、ジクロロメタンとNMPとの混合物としている。またこれらの質量比はジクロロメタン:NMP=8:2である。
被覆液161は、セルロース系ポリマーを含んでいてもよく、本実施形態においては、セルロース系ポリマーとして溶液25におけるものと同じくセルローストリアセテート(TAC)としている。また被覆液161におけるTACの濃度は、後述の溶液25におけるセルロース系ポリマー濃度Cよりも低い3質量%としている。被覆液161は、セルロース系ポリマーを含んでいなくてもよい。つまり、被覆液161におけるセルロース系ポリマーの濃度は0(ゼロ)であってもよく、被覆液161は、溶液25におけるよりもセルロース系ポリマーの濃度が低ければよい。被覆液161がセルロース系ポリマーを含む場合のそのセルロース系ポリマーは、溶液25に含まれているセルロース系ポリマーと同じ物質であることが好ましい。
図1に示すように、ノズル13の基端には、溶液供給部12の配管32が接続されている。溶液供給部12は、紡糸室151のノズル13に前述の溶液25を供給するためのものである。溶液供給部12は、貯留容器30とポンプ31と配管32とを備える。貯留容器30は溶液25を5℃以上40℃以下の範囲内の一定温度として貯留する。これにより、ノズル13から出る溶液25の温度を、5℃以上40℃以下の範囲内にしている。ノズル13から出る溶液25の温度が5℃以上である場合には、5℃未満の場合に比べて、先端開口13aとコレクタ50上の支持体60までの紡糸エリアの雰囲気(通常は空気)に含まれる水分の凝縮がより確実に抑えられ、先端開口13aから出た溶液25からナノファイバ46がより安定して製造される。40℃以下である場合には、40℃よりも高い場合に比べて溶媒の蒸発が抑えられ、先端開口13aにおける液玉の形成がより確実に抑制される。
ポンプ31は、配管32を介して溶液25を貯留容器30からノズル13に送る。ポンプ31の回転数を変えることにより、ノズル13から送り出す溶液25の流量を調節することができる。本実施形態においては、溶液25の流量を4cm/時としているが、流量はこれに限定されない。ポンプ31によってノズル13に溶液25が送られることにより、溶液25は先端開口13aから出て、図2に示すように先端開口13aに略円錐状のテイラーコーン44を形成する。
溶液25におけるセルロース系ポリマーの濃度Cは、2質量%以上15質量%以下の範囲内であることが好ましい。これにより、被覆液161の供給のもとでのナノファイバ46及び不織布120の製造が安定して継続される。濃度Cは、2質量%以上10質量%以下の範囲内であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、上記の濃度Cは、溶媒の質量をY(単位;g)、セルロース系ポリマーの質量をP(単位;g)とするときに、{P/(P+Y)}×100で求める値である。本実施形態では、濃度Cは4質量%としている。
図1に示すように、送液管160の基端には、被覆液供給部154の配管38が接続されている。被覆液供給部154は、前述の送液管160と、流量調節バルブ36と、配管38とを備える。この例では、流量調節バルブ36は、紡糸室11外に配置しているが、紡糸室11内に配置してもよい。
流量調節バルブ36は、送液スリット162からの被覆液161の流量を調節する。この流量の調節によって、先端開口13aからの溶液25に対して5%以上20%以下の範囲内の流量割合で、被覆液161を送液スリット162から出す。この流量割合は、体積でのものである。すなわち、先端開口13aからの溶液25の体積での流量を100とするときに、送液スリット162からの被覆液161の体積での流量が5以上20以下の範囲内であることを意味する。流量割合が5%以上であることにより、5%未満の場合と比べて、先端開口13aから出た溶液25の周囲を被覆液161が確実に覆う。流量割合が20%以下であることにより、20%より大きい場合と比べて、先端開口13aから出た溶液25は、セルロース系ポリマーの濃度が過度に低下することもない。この流量割合は、5%以上15%以下の範囲内であることがより好ましく、5%以上10%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
ノズル13の下方には集積部15が配される。集積部15は、コレクタ50、コレクタ回転部51、支持体供給部52、及び支持体巻取り部53を有する。コレクタ50はノズル13から出た溶液25をナノファイバ46として捕集するためのものであり、本実施形態では、後述の支持体60上に捕集する。コレクタ50は、帯状の金属製、例えばステンレス製の無端ベルトから構成されている。コレクタ50はステンレス製に限定されず、電源65による電圧の印加により帯電する素材から形成されていればよい。コレクタ回転部51は、1対のローラ55,56、モータ57などから構成されている。コレクタ50は、1対のローラ55,56に水平に掛け渡されている。一方のローラ55の軸には紡糸室151の外に配されたモータ57が接続されており、ローラ55を所定速度で回転させる。この回転によりコレクタ50は1対のローラ55,56間で循環するように移動する。本実施形態においては、コレクタ50の移動速度は、10cm/時としているが、これに限定されない。
コレクタ50には支持体供給部52によって帯状のアルミニウムシート(アルミシート)からなる支持体60が供給される。本実施形態における支持体60は、厚みが概ね25μmである。支持体60は、ナノファイバ46を集積(堆積)させて不織布120として得るためのものである。コレクタ50上の支持体60は、支持体巻取り部53によって巻き取られる。支持体供給部52は送出軸52aを有する。送出軸52aには支持体ロール54が装着される。支持体ロール54は支持体60が巻き取られて構成されている。支持体巻取り部53は巻取り軸58を有する。巻取り軸58は図示省略のモータにより回転され、セットされる巻芯61に、不織布120が形成された支持体60を巻き取る。不織布120は、ナノファイバ46が集積されて形成されたものである。このように、このナノファイバ製造装置150は、ナノファイバ46を製造する機能に加え、不織布120を製造する機能をもつ。コレクタ50の移動速度と支持体60の移動速度は両者の間に摩擦が生じることがないように同じにすることが好ましい。同じ速度とは厳密である必要はない。また、支持体60は、コレクタ50上に載せて、コレクタ50の移動によって移動する態様にしてもよい。
なお、コレクタ50の上にナノファイバ46を直接集積して不織布120を形成してもよいが、コレクタ50を形成する素材や表面状態等によっては不織布120が貼り付いて剥がしにくいことがある。そのため、本実施形態のように、不織布120が貼り付きにくくされた支持体60をコレクタ50上に案内して、この支持体60上にナノファイバ46を集積することが好ましい。
電源65は、ノズル13とコレクタ50とに電圧を印加して、ノズルを第1の極性に帯電させ、コレクタ50を第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電させる電圧印加部である。本実施形態では、ノズル13をマイナス(−)に帯電させ、コレクタ50をプラス(+)に帯電させているが、ノズル13とコレクタ50との極性は逆であってもよい。本実施形態では、ノズル13とコレクタ50とに印加する電圧は35kVとしている。
ノズル13の先端開口13aとコレクタ50との距離L2は、セルロース系ポリマーと溶媒の種類、溶液25における溶媒の質量割合等によって適切な値が異なるが、30mm以上300mm以下の範囲内が好ましく、本実施形態では180mmとしている。この距離L2が30mm以上であることにより、30mmよりも短い場合に比べて、噴出して形成された紡糸ジェット45が、コレクタ50に到達するまでに、自身の電荷による反発でより確実に分裂するので、細いナノファイバ46がより確実に得られる。また、このように細く分裂することで溶媒がより確実に蒸発するから溶媒が残留した不織布となることがより確実に防がれる。また、距離L2が300mm以下であることにより、300mmを超えて長すぎる場合と比べて、印加する電圧を低く抑えることができるので、異常放電が抑制される。
ノズル13とコレクタ50とに印加する電圧の大きさによって、得られるナノファイバ46の太さが変わる。ファイバを細く形成する観点では電圧はなるべく低いほうが好ましいが、下げすぎると繊維状にならず玉状になってコレクタ50上に付着する場合がある。逆に電圧を上げていくとファイバが太くなり、上げ過ぎると装置の絶縁が破れる場合がある。そこで、ノズル13とコレクタ50とにかける電圧は、2kV以上40kV以下の範囲内が好ましく、特に好ましくは20kV以上35kV以下の範囲内である。
セルロース系ポリマーとしては、本実施形態ではセルローストリアセテート(TAC)を用いているが、これに限定されず、TAC、セルロースジアセテート(DAC)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースの少なくともいずれかひとつであればよい。
セルロース系ポリマーを溶解する溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、NMP、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1−メトキシ−2−プロパノールなどが挙げられる。これらは、セルロース系ポリマーの種類に応じて単独で使用しても混合して使用してもよい。なお、本実施形態では、溶媒として、ジクロロメタンとNMPとの混合物を用いている。
溶媒を単体から構成する場合、すなわち一成分で構成する場合において、溶媒の沸点がおおよそ50℃以下であると液玉の形成が顕著になる。また、沸点の低い物質は蒸発速度が大きいためにこれを溶媒として用いると溶液は液玉を形成しやすい。このように液玉を形成しやすい場合ほど、本実施形態のように被覆液161で覆うことが好ましい。
次に、上記構成の作用を説明する。ノズル13と、循環して移動するコレクタ50とには、電源65により電圧が印加される。ノズル13には、貯留容器30から溶液25が連続的に供給され、移動するコレクタ50上には、支持体60が連続的に供給される。電圧の印加によりプラスに帯電しているコレクタ50は、マイナスに帯電した状態で先端開口13aから出た溶液25を誘引し、紡糸ジェット45が形成される。マイナスに帯電している紡糸ジェット45は、コレクタ50に向かう間に、自身の電荷による反発でより細い径に分裂し、支持体60上にナノファイバ46として集積する。集積したナノファイバ46は不織布120として支持体60とともに支持体巻取り部53に送られる。不織布120は、支持体60と重なった状態で巻芯61に巻かれる。不織布120を有する支持体60は、ロール形態で巻取り軸58から取り外された後に、例えば所望のサイズに切断されてシート状にされる。不織布120は用途に応じて支持体60から剥がされて、使用に供される。
送液スリット162からは被覆液161が出ており、先端開口13aから出ている溶液25の周囲に連続的に供給される。これにより、先端開口13aからの溶液25の周囲を被覆液161が覆うから、先端開口13aから出た溶液25の表面は乾きにくい。先端開口13aからの溶液25に対して送液スリット162からの被覆液161が5%以上20%以下の範囲内とされていることで、先端開口13aから出た溶液25の周囲を被覆液161が確実に覆うから、テイラーコーン44が確実に形成され、形成されたテイラーコーン44は表面が乾きにくく、安定して維持される。また、先端開口13aから出た溶液25は被覆液161でセルロース系ポリマーの濃度を過度に低下させることもないから、テイラーコーン44から伸びる溶液25が切れることなく、紡糸ジェット45が形成され、ナノファイバ46が製造される。またこのようにテイラーコーン44が長時間安定することから、ナノファイバ46からなる不織布が安定して製造される。
被覆液161は、溶液25の溶媒の成分として用いられているものと同じ物質を含むから、先端開口13aから出た溶液25の内部と外部とでは、セルロース系ポリマーの溶解性に差がほとんどない。このため、溶液25の処方やナノファイバ46の製造条件について制約が減り、これらの自由度が増す。被覆液161は溶液25におけるよりもセルロース系ポリマーの濃度が低いから、先端開口13aから出た溶液25の表面の乾きを抑制してテイラーコーン44を形成し、形成したテイラーコーン44の表面の乾きも抑制する。
被覆液161の溶液25に対する体積での流量割合が5%以上20%以下の範囲内であることにより、先端開口13aから出た溶液25の周囲を被覆液161が確実に覆うとともに、溶液25におけるセルロース系ポリマーの濃度の過度な低下もない。このため、テイラーコーン44が安定的に維持されて、ナノファイバ46及び不織布120が安定して製造される。
送液管160は、ノズル13の外周に、ノズル13と同心に配されているから、先端開口13aから出た溶液25は、より確実に周囲全体が被覆液161で覆われる。このため、テイラーコーン44がより確実に形成され、形成されたテイラーコーン44が長時間安定する。したがって、ナノファイバ46からなる不織布が安定して製造される。
送液管160は、ノズル13の先端開口aよりも突出するように配されているから、形成されたテイラーコーン44はより確実に被覆液161で覆われて長時間安定する。しこのため、ナノファイバ46からなる不織布が安定して製造される。
以上のように、被覆液161が先端開口13aから出た溶液25及びこの溶液25から形成されたテイラーコーン44を覆うため、溶液25の溶媒の蒸発が低く抑えられる。これにより、テイラーコーン44の表面が固くなることがなく、液玉の発生が抑えられる。したがって、液玉の発生に起因する均一な太さのナノファイバ46の形成が困難になる問題や、液玉の落下による欠陥製品の発生の問題などが解消される。このように、蒸発しやすい溶媒が用いられているセルロース系ポリマー溶液であっても電界紡糸が安定的に行われる。
ナノファイバ46は、バイオフィルタ、センサ、燃料電池電極材、精密フィルタ、電子ペーパ等の製造に利用することができる可能性がある。また、比較的低い温度で使用されるヒートパイプのウイックとしても伝達熱量が大きく、たとえば地中の熱を利用したエコシステムなどへの利用の可能性がある。また、肌ざわりのよい美容用パック素材として使用することができる可能性がある。
ナノファイバ46を平滑な表面の不織布120として得るために、コレクタ50は表面が平滑なものとしているが、コレクタ50の形状は限定されない。例えば、コレクタ50に代えて円筒状の回転体を用いてもよい。この場合には、回転体の表面に筒状の不織布がナノファイバ46から形成されるため、製造後に回転体から筒状の不織布を抜き取り、所望の大きさ及び形状にカットして所定の不織布製品とすることができる。円筒状の回転体を用いる場合には、不織布を連続的には製造できないものの、均質な不織布製品が作りやすい。このため、細胞培養用足場や医療用途などへの応用が容易になる可能性がある。また回転体の回転数を高くすることによって、ナノファイバの配向度を高めることができ、異方性のある製品を得ることができる。
上記第1実施形態では、ノズル13の先端開口13aに対して、送液管160の先端160aを突出させて、テイラーコーン44を送液管160で覆うようにしているが、ノズルと送液管160との先端の位置関係はこれに限られない。例えば、図3に示す第2実施形態のように、ノズル13の先端13cに合わせて送液管170の先端170aを位置させてもよい。この場合には、第1実施形態のように、ノズル13の先端13cが送液管170の先端部170b内に隠れることがないため、先端13cのクリーニングが容易である。なお、各実施形態において、同じ構成部材には同一符号を付して重複した説明を省略している。
図4に示すように、本発明の第3実施形態は、第2実施形態の送液管170の先端部170bに、ガイド管175を筒心方向に移動自在に取り付けたものである。この第3実施形態の場合には、ガイド管175を下ろしたガイド位置(図4参照)では、ガイド管175及び送液管170によって、送液スリット162からの被覆液161がテイラーコーン44を覆うため、テイラーコーン44の表面の乾きを確実に抑制する。また、クリーニングの際には、ガイド管175をガイド位置から上方にスライドさせて退避位置にすることにより、ノズル13の先端13cを露出させることができる。このため、ノズル13の先端開口13aを確実にクリーニングすることができる。ガイド管175は、図示省略のバネなどにより先端に向けて突出するように付勢してもよいし、同じく図示省略のクリック機構により突出位置と退避位置とに位置決め可能にしてもよい。
上記の送液管160及び送液管170は、内径及び外径が均一な円管であるが、図5に示す第4実施形態の送液管180のように内径及び外径が被覆液161及び溶液25の流れ方向において変化している円管であってもよい。送液管180は、内径及び外径が被覆液161及び溶液25の流れ方向において漸減した先細形状の先細部180cと、その先端部180bは内径及び外径が均一な先端部180bとを有する。送液管180の先端部180bは、この例では先端180aがノズル13の先端13cよりも突出しているが、送液管160のように先端13cと面一に位置してもよい。
図6に示す第5実施形態の送液管190は、被覆液161の流路が、ノズル13の周方向で4つに分割されたものである。このように、被覆液161の流路はノズル13の周方向において複数に分割されていてもよい。この例において流路を仕切る仕切り部材190cは、ノズル13を保持する保持機能ももつ。送液管190の先端部190bは、この例では先端190aがノズル13の先端13cよりも突出しているが、送液管160のように先端13cと面一に位置してもよい。
図7に示す第6実施形態の送液管195は、六角管とされている。このように、送液管は円管には限られず多角管であってもよい。送液管195の先端部195bは、先端195aがノズル13の先端13cよりも突出しているが、送液管160のように先端13cと面一に位置してもよい。
上記各実施形態では、ノズル13を1本のみ用いているが、ノズル13は複数用いてもよい。複数用いる場合には、支持体60の移動方向に直交する方向に複数のノズル13を離間して設けることが好ましい。また、支持体60の移動方向、及び移動方向に直交する方向でノズル13をマトリックスに配置してもよい。ノズル13を複数用いることで、得られる不織布120が大面積化され、製造効率が上がる。また、ノズル13の本数が増加してノズル13からの溶液の総量が増加する場合には、紡糸室11内に図示省略の溶媒回収部を設けることが好ましい。
ナノファイバ製造装置150により、ナノファイバ46を不織布120として製造した。溶液25の流量を4cm/時、送液スリット162からの被覆液161の流量を溶液25の流量よりも小さい0.5cm/時とした。溶液25におけるセルロース系ポリマーとしてのTACの濃度Cは4質量%、被覆液161におけるセルロース系ポリマーとしてのTACの濃度は3質量%とした。なお、溶液25の組成、被覆液161の組成は前述の通りである。また、用いた送液管160の素材、サイズ、突出量L1、コレクタ50及び支持体60の素材及び移動速度、印加した電圧の値等も前述の通りである。
この実施例では、連続的にナノファイバ46を製造することができ、長尺の不織布120が得られた。
[比較例1]
送液管160から被覆液161を供給しなかった以外は、実施例1と同じ条件とした。この比較例においては、製造開始によりテイラーコーン44は形成されたが、紡糸ジェットの形成開始から約5分でテイラーコーン44の形状が崩れて液玉が形成されてしまい、紡糸ジェット45の形成が中断した。その数秒後に液玉の側部が破れて糸が噴き出したがまたすぐに紡糸ジェット45の形成が中断した。以降、紡糸ジェット45は形成されず、ナノファイバ46を製造することができなかった。
[比較例2]
送液スリット162からの被覆液161の流量を2cm/時とした以外は、実施例1と同じ条件とした。この比較例においては、製造開始によりテイラーコーン44は形成されたが、テイラーコーン44の形状が安定せず、ナノファイバ46は断続的にしか製造されなかった。
[比較例3]
実施例1の被覆液161を、TACの濃度が8質量%の被覆液に代えた他は、実施例1と同じ条件とした。この比較例においては、液玉が形成され、紡糸ジェット45の形成は断続的であった。液玉の下部と側部とからそれぞれ糸が噴き出し、そのまま製造を続けて行うにつれて液玉が不規則な形状で下方に成長し、製造開始から10分程度でコレクタ50上の支持体60に落下した。
13 ノズル
13a 先端開口
15 集積部
25 溶液
46 ナノファイバ
50 コレクタ
65 電源
120 不織布
150 ナノファイバ製造装置
154 被覆液供給部
160 送液管
161 被覆液

Claims (9)

  1. セルロース系ポリマーが溶媒に溶解し、第1の極性に帯電された状態の溶液をノズルから出し、
    前記ノズルの前記溶液が出る先端に、前記溶媒の成分と同じ物質を含み前記溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を前記溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、前記先端から出た前記溶液の周囲を前記液で覆い、
    前記第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電されたコレクタにより、前記ノズルから出た前記溶液を誘引しナノファイバとして捕集することを特徴とすることを特徴とするナノファイバ製造方法。
  2. 前記ノズルと前記ノズルの外周に隙間をもって前記ノズルと同心で配された送液管との間から前記液を出すことにより、前記液を供給することを特徴とする請求項1に記載のナノファイバ製造方法。
  3. 前記送液管の前記液が出る先端は、前記ノズルの先端よりも突出していることを特徴とする請求項2に記載のナノファイバ製造方法。
  4. 前記セルロース系ポリマーは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースの少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のナノファイバ製造方法。
  5. セルロース系ポリマーが溶媒に溶解した溶液を出すノズルと、
    前記ノズルの前記溶液が出る先端に、前記溶媒の成分と同じ物質を含み前記溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を前記溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、前記先端から出た前記溶液の周囲を前記液で覆う供給部と、
    前記ノズルから出た前記溶液を誘引し、ナノファイバとして捕集するコレクタと、
    前記ノズルから出る前記溶液と前記コレクタとに電圧を印加することにより前記溶液と前記コレクタとを逆極性に帯電させる電圧印加部とを備えることを特徴とするナノファイバ製造装置。
  6. 前記ノズルの外周に隙間をもって前記ノズルと同心で配され、前記外周との間から前記液を出して供給する送液管を備えることを特徴とする請求項5に記載のナノファイバ製造装置。
  7. 前記送液管の前記液が出る先端は、前記ノズルの先端よりも突出していることを特徴とする請求項6に記載のナノファイバ製造装置。
  8. 前記セルロース系ポリマーは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースの少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載のナノファイバ製造装置。
  9. セルロース系ポリマーが溶媒に溶解し、第1の極性に帯電された状態の溶液をノズルから出し、
    前記ノズルの前記溶液が出る先端に、前記溶媒の成分と同じ物質を含み前記溶液よりもセルロース系ポリマーの濃度が低い液を前記溶液に対して5%以上20%以下の範囲内の体積での流量割合で供給して、前記先端から出た前記溶液の周囲を前記液で覆い、
    前記第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電された移動するコレクタにより、前記ノズルから出た前記溶液を誘引して前記コレクタ上に配された支持体にナノファイバとして捕集し、前記支持体上で前記ナノファイバを集積させることにより不織布とすることを特徴とすることを特徴とする不織布製造方法。
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