次に、本願発明に係る不織布製造装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本願発明に係る不織布製造装置の一例を示したものに過ぎない。従って、本願発明は、以下の実施の形態を参考に請求の範囲の文言によって範囲が画定されるものであり、以下の実施の形態のみに限定されるものではない。
図1は、不織布製造装置の全体を模式的に示す斜示図である。
不織布製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させることで生成される繊維が用いられた不織布を製造する装置である。本実施の形態では、不織布製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させることでナノファイバ301を生成し、生成したナノファイバ301を用いて不織布を製造する。
同図に示すように、不織布製造装置は、流出体101と、帯電手段102とを備えている。さらに、不織布製造装置100は、収集手段103と、誘引手段104と、原料供給手段105とを備えている。
図2は、流出体を切り欠いて示す斜示図である。
図3は、流出体から原料液が流出している状態を流出体の先端部側から示す斜示図である。
これらの図に示すように、流出体101は、原料液300を空間中に流出させる流出孔118を備え、絞り手段110が取り付けられる部材である。また、流出体101は、本実施の形態では、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成されている。
本実施の形態の場合、流出体101は、全体が金属で形成されており、長手方向(Y軸方向)に垂直な面(XZ面)で切断した断面形状が逆三角形のY軸方向に延びて配置される棒状の部材であり、Z軸方向に延びて配置される複数の流出孔118が一列に配置され、内部に全ての流出孔118と連通する貯留槽113とを備えている。
また流出体101は、流出孔118の先端の開口部119の周囲の全てにわたって表面が滑らかな面(本実施の形態の場合、平面)の先端部116と、先端部116から連続して立ち上がる表面が滑らかな面(本実施の形態の場合、平面)の側面部117とを備えている。
先端部116は、複数存在する開口部119の間を滑らかな面でつなげているため、複数のノズルを並べたときに発生する電界干渉を抑制することが可能となる。また、開口部119と開口部119との間の領域で発生するイオン風を抑制することができる。従って、開口部119の間隔を狭めた状態で配置しても、良好にナノファイバ301を生成することができるため、単位時間、単位面積あたりのナノファイバ301の生産量を向上させることが可能となる。
側面部117は、流出孔118を挟むように配置される二つの面であり、先端部116から延設され、起立状態で配置される流出体101の部分である。また、側面部117は、流出体101の長手方向(Y軸方向)に延びた状態で設けられており、全ての流出孔118を二つの側面部117で挟むように設けられている。また、側面部117は、図2に示すように、先端部116から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置されている。
流出体101は、側面部117を備えることで、イオン風の発生を抑制し、また、イオン風が発生したとしても、空間中に流出する原料液300と交差しない方向にイオン風を飛ばせることができるため、イオン風が影響を及ぼすことなく安定した状態でナノファイバ301を生成することが可能となる。
なお、流出体101の形状や流出孔118の配置は、上記態様に限定される訳ではない。例えば、断面形状が矩形や円形等の棒形状の流出体101に一列に並んだ流出孔118を配置するものでもよい。また、箱形状の流出体101の底面に流出孔118を行列状に配置するものでもよい。また、流出孔118を一つ備えるノズルを配列したものを流出体101としてもかまわない。さらに、円筒形の流出体101の周壁に流出孔118を放射方向に配置し、流出体101を回転させることにより原料液300を放射状に流出させるものでもよい。
貯留槽113は、図2に示すように、流出体101の内部に形成され、原料供給手段105(図1参照)から供給される原料液300を貯留するタンクである。また、貯留槽113は、複数の流出孔118に接続され、流出孔118に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、貯留槽113は、流出体101に一つ設けられており、流出体101の一端部から他端部にわたって広く設けられ、全ての流出孔118と接続されている。
以上のように貯留槽113は、原料液300を流出孔118の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔118に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔118から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバ301の品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
流出孔118は、原料液300を流出体101から空間中に流出させるための孔であり、原料液300が流出する際に流出体101の表面から垂れ下がるように形成されるテーラーコーン303の底面積と同程度の開口面積を有する開口部119を備えている(図4参照)。本実施の形態の場合、流出孔118の開口部119は円形であり、テーラーコーン303の底面も一般的に円形であるため、両者の径は同程度となる。
ここで、テーラーコーン303は、主として原料液300の粘度や流量で形状が決定されるが、ナノファイバ301を生成する際の通常の条件の場合、テーラーコーン303の具体的な底面の径Aは、おおよそ0.1mm以上、2mm以下の範囲に収まる。従って、流出孔118の開口部119の径は、おおよそ2mm以上であることが好ましい。一方、あまり流出孔118の径が大きすぎると、原料液300が流出孔118を満たすことなく、流出孔118の内壁面の一部をつたって流出してしまうため、テーラーコーン303が形成されず好ましくない。従って、開口部119の径は、1mm程度とすることが好ましく、上限値は2mmとなる。
絞り手段110は、流出孔118を通過する原料液300の上流側に、流出孔118と連通状態で配置され、流出孔118を通過する原料液300の流量を低下させるものである。
本実施の形態の場合、図5に示すように、絞り手段110は、Y軸方向に長い板状の部材であり、流出孔118と同軸上となるように配置され、原料液300の流れを絞る絞り孔111を備えている。一方、流出体101には、原料液300の流れの流出孔118の上流側に絞り手段110が取り付けられる取付部115が設けられており、絞り手段110は、取付部115に着脱可能に取り付けられるものとなっている。
ここで、絞り手段110は、流出孔118を通過する原料液300の流量を絞るものであれば、特に制限されるものではない。例えば、流出孔118を覆う網や多孔質の部材でもかまわない。本実施の形態の場合、流出孔118よりも断面積の小さい絞り孔111が設けられている。具体的には、絞り孔111の断面積は流出孔118の断面積の5%以上、50%以下の範囲から選定されることが好ましい。5%未満の場合、絞り孔111の加工や清掃が難しくなり原料液300が詰まる可能性があるからであり、50%より大きくすると、流量の絞りが弱くなり良好なテーラーコーン303が形成できなくなるからである。
さらに、図6に示すように、絞り手段110とは原料液300の流量を低下させる度合いが異なり、取付部115に着脱可能に取り付けられる第二絞り手段114を備えてもかまわない。
なお、絞り手段110は、流出体101と別体ではなく、流出体101と一体でもかまわない。また、絞り手段110は、各流出孔118にそれぞれ対応するように複数個備えてもかまわない。
また、絞り孔111の断面積は、原料液300の粘度が小さい程小さく設定し、原料液300の粘度が大きい程大きく設定するものでも構わない。つまり、原料液300の粘度に応じて絞り手段110を絞り孔111の断面積が異なる他の絞り手段110に交換するものでも構わない。
以上の様に、流出孔118の上流側に絞り手段110を設ける事で、絞り孔111の直後で孔径が広がる部分(流出孔118)で淀みが発生したとしても、その部分では原料液300が直接空気に接触していないので、原料液300から溶媒が蒸発して溶質か固化するなどの不具合が発生しない。更に、流出孔118の開口部119ではテーラーコーン303の底部が開口部119よりはみ出るほど大きくなり難いので、その箇所で原料液300の淀みは発生し難い。つまり、原料液300の淀みが発生しても、よどみの発生箇所は流出孔118の内方であって直接空気と接触しないので、原料液300の固化が発生せず、固化した部分が液滴となって堆積するナノファイバ301に落下する等の発生を回避することが可能となる。
帯電手段102は、流出体101から流出する原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電手段102は、図1に示すように、帯電電極121と、帯電電源122とを備えている。また、流出体101も帯電手段102を構成する要素として機能している。
なお、原料液300に電荷を付与する機能は、流出体101以外の部材に担わせてもよい。例えば、帯電手段102が有する電極を、原料液300に接するように流出体101に取り付けることで、原料液300に電荷を付与しもよい。
帯電電極121は、流出体101と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体101に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体101に電荷を誘導するための導電性を備える部材である。
本実施の形態の場合、帯電電極121は、ナノファイバ301を収集手段103に誘引する誘引手段104としても機能している。また、帯電電極121は、流出体101の先端部116と対向する位置に配置されており、帯電電源122を介して接地されている。一方、流出体101は、接地されている。従って、帯電電極121に正の電圧が印加されると流出体101には負の電荷が誘導され、原料液300は負に帯電する。一方、帯電電極121に負の電圧が印加されると流出体101には正の電荷が誘導され、原料液300は正に帯電する。
帯電電源122は、流出体101と帯電電極121との間に高電圧を印加して原料液300を所望の電荷密度に帯電させることのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましいが交流電源の採用を妨げるものでは無い。また、帯電電源122は、電圧を調整できるものとなっている。
なお、流出体101に帯電電源122を接続して流出体101を帯電電極121に対し高い電圧もしくは低い電圧としてもかまわない。また、帯電電極121と流出体101とのいずれも接地しないような接続状態とし、帯電電源122の両極をそれぞれ帯電電極121と流出体101に接続してもかまわない。
収集手段103は、静電延伸現象により空間中で製造されるナノファイバ301を収集する装置である。収集手段103は、被堆積部材131と、被堆積部材131を移送することのできる移送手段132とを備えている。
被堆積部材131は、空間中で製造されたナノファイバ301を堆積状態で収集する部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材131は、Y軸方向を幅とする薄い帯状の長尺の部材でありロール133に巻き付けられた状態で供給されている。また、被堆積部材131は、表面に堆積したナノファイバ301と分離が容易なように、表面処理が施されている。
つまり、被堆積部材131から、被堆積部材131の表面に堆積したナノファイバ301を分離することで、ナノファイバ301が用いられた不織布が得られる。
移送手段132は、流出体101と被堆積部材131とをY軸方向と交差する方向(X軸方向)に相対的に移送する装置である。本実施の形態の場合、流出体101は固定されており、被堆積部材131のみを流出体101に対して移送するものとなっている。移送手段132は、長尺の被堆積部材131を巻き取りながらロール133から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材131を移送して巻き取るものとなっている。
なお、移送手段132は、被堆積部材131を移動させるばかりではなく、流出体101を収集手段103に対して移動させるものでもかまわない。また、移送手段132は、被堆積部材131を一定方向に移送し、流出体101を被堆積部材131の移送方向と交差する方向に往復動させるもの等でもよい。また、開口部119の並び方向と直交する方向に収集手段103を移動させているが、それに限定するものではなく、開口部119の並び方向に被堆積部材131を移動させ、流出体101を開口部119の並び方向と直交する方向に往復動させるものであってもかまわない。
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバを被堆積部材131に誘引するための装置である。誘引手段104は、気体流を用いてナノファイバ301を所定の位置に誘引する方式(気体流方式)や、空間を飛翔しているナノファイバ301が帯電していることを利用して、電界を発生させてナノファイバ301を所定の位置に誘引する方式(電界方式)を採用することができ、また、気体流方式と電界方式を併有するものでもかまわない。
本実施の形態の場合、図1に示すように、流出体101と所定距離離れた位置に流出体101よりも長く幅の広い板状の帯電電極121が誘引手段104の構成要素である誘引電極としても機能している。帯電電極121は、誘引電源としても機能する帯電電源122と接続されて所定の電位が印加される導電性の部材であり、帯電電極121から発生する電界により流出体101に電荷を発生させると共に、空間中のナノファイバ301を帯電電極121の方向に誘引する。また、誘引手段104は、吸引手段142を備えている。吸引手段142は、帯電電極121の厚さ方向に多数設けられた貫通孔から気体を吸い込んで気体流を発生させ、ナノファイバを所定の位置に誘引する装置である。
原料供給手段105は、図1に示すように、流出体101に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器151と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプ(図示せず)と、流出体101の貯留槽113に供給する原料液300の流量(圧力)を調整する調整手段152とを備えている。
原料液300は、ナノファイバ301を生成するための液状の原料であり、ナノファイバ301を構成する樹脂を溶質とし、当該溶質を溶解、または、分散する溶媒とを備えている。
前記溶質は、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。これらは、溶質として採用される樹脂の例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
なお、原料液300は、上記より選ばれる溶質を一種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類を混在して含んでいてもかまわない。
前記溶媒は、前記溶質を溶解、または、分散できる揮発性のある有機溶剤などであり、原料液300として採用される上記樹脂に対応して選定される。前記溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。これらは溶質として採用される溶剤の例示であり、本願発明は、上記溶剤に限定されるものではない。
なお、原料液300は、上記より選ばれる溶媒を一種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類を混在して含んでいてもかまわない。
さらに、原料液300は、他の無機物質や有機物質を含んでいてもかまわない。例えば、無機物質としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができる。特に、原料液300に酸化物を添加することで製造されるナノファイバの耐熱性、加工性などを向上させることが可能であるとの知見を得ている。具体的に当該酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、P2O5、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb2O3、As2O3、CeO2、V2O5、Cr2O3、MnO、Fe2O3、CoO、NiO、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、HfO2、Nb2O5等を例示することができる。これらは、原料液300が含む他の物質の例示であり、本願発明は、原料液300が他の物質を含むか否かで限定されるものではない。
原料液300は、上記より選ばれる一種類のみを他の物質として含んでもよく、また、複数種類を含んでもかまわない。
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30重量%となる。
次に、上記構成の不織布製造装置100を用いた不織布の製造方法を説明する。
まず、原料供給手段105により流出体101に原料液300を供給する(供給工程)。以上により、流出体101の貯留槽113に原料液300が満たされる。そして、原料液300は、流出孔118に直接原料液300が供給される場合の流量に比べて流量が低下するように絞り手段110によって流量が調整されて(絞り工程)流出孔118に供給される。
ここで、流出体101から突出状に形成されるテーラーコーン303の底面積が流出孔118の開口部119の開口面積に一致するように、調整手段152を用いて調整する(調整工程)。例えば、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積より小さい場合は、貯留槽113に供給される原料液300の流量(圧力)を増やし、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積より大きい場合は、貯留槽113に供給される原料液300の流量(圧力)を減少させる。特に、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積より大きくなると、テーラーコーン303によどみが発生し易くなるため、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積と一致することを目標に調整するが、少なくともテーラーコーン303の底面積が開口部119の面積よりも大きくならないように調整する。
また、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積より小さい場合には、調整手段152により積極的に流量の調整をしなくても良い場合がある。つまり、テーラーコーン303の底面積が開口部119の面積より小さい場合には、原料液300の表面張力により、テーラーコーン303自体の頂点角度が大きくなるようにテーラーコーン303が自ら変形し、テーラーコーン303の底面積と開口部119の面積とが一致する場合がある。
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121と対向する流出体101の先端部116に電荷が集中し、当該電荷が流出孔118を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
また、帯電電源122により、流出体101に印加される電圧を調整し、テーラーコーン303の形状を変化させてテーラーコーン303の底面積を開口部119の底面積に一致させてもよい(調整工程)。例えば、流出体101に印加する電圧を上昇させると、テーラーコーン303の底面積が減少し、電圧を降下させると、テーラーコーン303の底面積が増加する。
以上によりテーラーコーン303の底面積が流出孔118の開口部119の面積とほぼ一致する状態で、流出体101の開口部119から帯電した原料液300が流出する(流出工程)。
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が生成される(ナノファイバ生成工程)。ここで、原料液300は、テーラーコーン303の存在により強い帯電状態(高い電荷密度)で流出する。これにより、原料液300は、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細い高品質なナノファイバ301が大量に製造される。
この状態において、被堆積部材131の背方に配置される帯電電極121と流出体101との間に発生する電界により、ナノファイバ301が被堆積部材131に誘引される。また、要すれば吸引手段142により気体流を発生させてナノファイバを誘引してもよい(誘引工程)。
そして、被堆積部材131にナノファイバ301が堆積して収集される(収集工程)。被堆積部材131は、移送手段132によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材、つまり不織布として回収される。
以上のような構成の不織布製造装置100を用い、以上の不織布製造方法を実施することによって、流出体101から外方に向かって発生させたテーラーコーン303に電荷が集中し、原料液300を強い帯電状態(高い電荷密度)とすることができる。従って、静電延伸現象が何次にもわたって発生し、原料液300に含まれる溶質の多くがナノファイバ301となる。
これにより、被堆積部材131に体積したナノファイバ301に、ナノファイバ301とならなかった溶質が付着しナノファイバ301同士を接着したり、ナノファイバ301で形成された網目を埋めるなどの不具合が発生する可能性を低下させることが可能となる。
さらに、テーラーコーン303に発生する原料液300のよどみを可及的に抑制することができるため、テーラーコーン303内部で溶質が固化し、固化した溶質が落下してナノファイバ301に付着しパーティクルとなるような不具合の発生も抑制できる。
以上から、高品質なナノファイバ301を安定して生成することが可能となる。その結果、高品質な不織布を安定して得ることが可能となる。
(実施の形態の変形例1)
次に、実施の形態の変形例1について、図7〜図10を用いて説明する。
図7は、実施の形態の変形例1における流出体101の部分的な断面を示す図である。
なお、変形例1における流出体101も、実施の形態における流出体101と同じく、不織布製造装置100の一部として、帯電手段102等の他の構成要素とともに、ナノファイバの生成に用いられる。このことは、後述する変形例2における流出体101についても同じである。
以下、変形例1における流出体101について特徴的な事項を主として説明する。
変形例1における流出体101は、絞り手段110の絞り孔111を通過した原料液300が、流出孔118の開口部119から流出する点では、実施の形態における流出体101と同じである。
しかし、変形例1における流出体101には、テーラーコーン抑制部200が配置されている。
テーラーコーン抑制部200は、原料液300に対する所定の濡れ性を有することで、テーラーコーン303の底面が開口部119よりも外側に広がることを抑制する。
図8は、テーラーコーン抑制部200の濡れ性を説明するための図である。
原料液300に対するテーラーコーン抑制部200の濡れ性は、例えば、接触角で定義される。
具体的には、図8に示すように、原料液300の液滴と、テーラーコーン抑制部200の表面とのなす角である接触角θは、本変形例の場合、70度以上である。つまり、本変形例におけるテーラーコーン抑制部200は、原料液300に対する接触角θが70度以上となる濡れ性を有している。
また、テーラーコーン抑制部200は、上記の濡れ性を有する素材、例えばフッ素またはシリコンを、先端部116の開口部119の周りの領域に塗布することで実現される。
図9Aは、変形例1における先端部116を下方から見た図であり、図9Bは、変形例1における先端部116を斜め下方から見た図である。
図9Aおよび図9Bに示すように、テーラーコーン抑制部200は、開口部119を囲むように開口部119の周縁に配置されている。
また、テーラーコーン抑制部200は、原料液300に対し、上述の所定の濡れ性を有する素材、簡単にいうと、原料液300をはじき易い物性を有する素材で構成されている。そのため、原料液300の、開口部119の周縁への濡れ広がりが抑制される。
つまり、テーラーコーン抑制部200により、テーラーコーン303の底面が不要に大きくなるようなことが防止され、その結果、テーラーコーン303におけるよどみの発生がより確実に防止される。
ここで、上述のように、流出孔118の断面積の調整、調整手段152による原料液300の流量(圧力)の調整、または、帯電電源122による流出体101に対する印加電圧の調整等によって、テーラーコーン303の底面の大きさを調整することは可能である。
しかし、何らかの手法によりテーラーコーン303の底面の大きさを一旦調整した後であっても、例えば、周囲の温度、湿度または圧力などの変化に起因し、テーラーコーン303の底面が広がり易い傾向になることも考えられる。
もちろん、テーラーコーン303の状態を監視し、監視結果を調整手段152等にフィードバックすることで、テーラーコーン303の底面積の調整を随時行うことも考えられるが、この場合、例えば、不織布製造装置100の構成が複雑化するため、好ましい手法とはいえない。
しかしながら、本変形例における流出体101によれば、テーラーコーン抑制部200が開口部119の周縁に配置されている。そのため、周囲の環境の変化等に起因して、テーラーコーン303の底面が広がり易い傾向になった場合であっても、原料液300の流量の制御等を行うことなく、原料液300の、開口部119の周縁への濡れ広がりは抑制される。
すなわち、流出孔118の開口部119を囲むように開口部119の周縁に配置され、原料液300に対する所定の濡れ性を有するテーラーコーン抑制部200によって、テーラーコーン303の底面積を流出孔118の開口面積に一致させることができる。
これにより、テーラーコーン303における原料液300の淀みの発生は抑制され、その結果、製造品(ナノファイバ)における、原料液300の淀みに起因する不良の発生は抑制される。
なお、テーラーコーン抑制部200は、フッ素等の先端部116へのコーティングではなく、例えば、上記所定の濡れ性を有する板体を先端部116に取り付けることでも実現される。
図9Cは、板体であるテーラーコーン抑制部201と先端部116とを斜め下方から見た図である。
図9Cに示すように、板体であるテーラーコーン抑制部201に、開口部119と同じサイズの貫通孔202を設ける。より具体的には、複数の開口部119と複数の孔202とのXY平面における位置が一致するように、複数の貫通孔202をテーラーコーン抑制部201に設ける。
なお、テーラーコーン抑制部201は、例えば、ポリプロピレン(PP)で構成されており、テーラーコーン抑制部200と同じく、原料液300に対する接触角θが70度以上となるような濡れ性を有している。
このように構成されたテーラーコーン抑制部201を、複数の開口部119と複数の貫通孔202とのXY平面における位置が一致するように先端部116に取り付ける。
なお、このときの取り付け方法は特定の取り付け方法に限定されない。例えば、接着剤によりテーラーコーン抑制部201を先端部116に取り付けてもよい。また、例えば、先端部116が、テーラーコーン抑制部201を固定する構造(例えば、溝、突起または爪など)を有することで、テーラーコーン抑制部201が先端部116に取り付けられてもよい。
また、テーラーコーン抑制部200(201)は、複数の開口部119のそれぞれに対応するように、分離して配置されてもよい。
図10は、分離して配置されたテーラーコーン抑制部200を下方から見た図である。
図10に示すように、開口部119ごとに、他から分離されたテーラーコーン抑制部200が配置された場合であっても、上述の、原料液300の開口部119周縁への濡れ広がりに対する抑制効果は発揮される。
また、図9Aに示すテーラーコーン抑制部200と比較すると、テーラーコーン抑制部200を構成するための素材の必要量を節約することができる。
また、これらの効果は、板体であるテーラーコーン抑制部201を、開口部119ごとに配置した場合であっても同様に発揮される。
(実施の形態の変形例2)
次に、実施の形態の変形例2について、図11〜図13を用いて説明する。具体的には開口部119を形成するテーラーコーン抑制部を備える流出体101の各種の態様について、変形例2として説明する。
図11は、実施の形態の変形例2における流出体101の部分的な断面の第一の例を示す図である。
図11に示す流出体101は、絞り孔171を有する絞り手段170を備えている。つまり、変形例2における流出体101は、絞り孔を通過した原料液300が流出孔118の開口部119から流出する点では、変形例1における流出体101と同じである。
しかし、変形例2における流出体101は、開口部119自体が、上記の濡れ性を有する素材で形成されている点で、変形例1における流出体101と異なる。
具体的には、変形例2における流出体101は、側面部117を有する本体に、流出孔118を有するテーラーコーン抑制部210が、ボルト160により取り付けられることで構成されている。
つまり、変形例2における流出体101は、開口部119を形成するテーラーコーン抑制部210を有している。
また、テーラーコーン抑制部210は、例えばPPで構成されており、変形例1におけるテーラーコーン抑制部200および201と同じく、原料液300に対する接触角θが70度以上となるような濡れ性を有している。
これにより、例えばテーラーコーン303の状態の監視結果に基づく原料液300の流量の制御等の複雑な制御を行うことなく、原料液300の、開口部119の周縁への濡れ広がりを抑制することができる。
また、例えば、原料液300が、流出孔118の内壁面に固着すること抑制されるため、流出孔118が目詰まりを起こすことが抑制される。
なお、流出孔118の軸方向の長さは特定の値に限定されない。例えば、原料液300の粘性等に応じて、流出孔118の軸方向の長さを変えることもできる。
図12は、実施の形態の変形例2における流出体101の部分的な断面の第二の例を示す図である。
図12に示す流出体101は、テーラーコーン抑制部220を有する。テーラーコーン抑制部220は、図12に示すように、陥凹状の窪みを有しており、絞り手段180が、当該窪みに埋設されるように配置されている。
つまり、テーラーコーン抑制部220が窪みを有することで、テーラーコーン抑制部220における流出孔118は、図11に示すテーラーコーン抑制部210における流出孔118よりも軸方向に短く形成されている。
また、テーラーコーン抑制部220は、ボルト160により流出体101の本体に取り付けられており、絞り手段180の絞り孔181を通過した原料液300が流出孔118の開口部119から流出する構造になっている。
テーラーコーン抑制部220における流出孔118は、テーラーコーン抑制部210における流出孔118よりも短く形成されていることにより、以下の効果が奏される。
例えば、原料液300の粘性が比較的に低い場合を想定する。この場合、図11に示す流出孔118における原料液300の流れが不安定となることも考えられる。
この場合、流出体101の開口部119を形成する部材として、テーラーコーン抑制部210に換えて、比較的短い流出孔118を有するテーラーコーン抑制部220を採用する。これにより、流出孔118における原料液300の流れを安定化させることができる。その結果、開口部119におけるテーラーコーン303の形状が安定化される。
なお、テーラーコーン抑制部220における流出孔118の長さ(言い換えると、窪みの深さ)は、原料液300の物性を考慮した実験またはシミュレーション等により、適切な値を決定すればよい。
以上、図11および図12に示すように、流出体101は、流出孔118の開口部119を形成するテーラーコーン抑制部210または220を有してもよい。
テーラーコーン抑制部210および220のそれぞれは、原料液300に対する所定の濡れ性を有する素材で構成されており、これにより、テーラーコーン303の底面が開口部119よりも外側に広がることを抑制するという効果が発揮される。つまり、テーラーコーン303の底面積を流出孔118の開口面積に一致させることが可能となる。
なお、テーラーコーン抑制部210および220のそれぞれの、流出体101の本体に対する取り付けは、ボルト160による締結以外の手法により実現されてもよい。また、テーラーコーン抑制部210および220のそれぞれと流出体101の本体との間の気密性の向上のために、例えばゴム製のパッキンが配置されてもよい。
また、上述の、原料液300に対する所定の濡れ性を有する素材による、原料液300の開口部119周縁への濡れ広がりを抑制する効果は、絞り手段等の他の構成要素が開口部119と一体に形成されていても発揮される。
図13は、実施の形態の変形例2における流出体101の部分的な断面の第三の例を示す図である。
図13に示す流出体101は、流出孔118を含むテーラーコーン抑制部230を有し、テーラーコーン抑制部230には開口部119が形成されている。
また、図13に示す流出体101では、側面部117の少なくとも一部と、絞り孔191を有する絞り手段190と、テーラーコーン抑制部230とが、原料液300に対する所定の濡れ性を有する素材(例えば、PP)によって一体に形成されている。
このように、流出体101における複数の構成要素を一体に形成することで、例えば、流出体101の製造工程が効率化される。
また、流出体101において、少なくとも開口部119に比較的に近い部分を、PP等の、原料液300に対する濡れ性の低い素材、言い換えると、原料液300をはじき易い素材で構成することで以下の効果が奏される。
すなわち、テーラーコーン303の底面が開口部119よりも外側に広がることが抑制されるとともに、例えば、原料液300のよりスムースな流出が促され、流出体101の内部における原料液300の固化および固着が抑制される。
また、テーラーコーン抑制部210、220、および230のそれぞれには、開口部119自体が形成されているため、例えば、開口部119と、テーラーコーン303の底面の広がりを抑制する素材とが乖離することがない。つまり、テーラーコーン303の形状を適性に保つための機能がより安定的に発揮される。
なお、本願発明は、上記実施の形態およびその変形例に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態およびその変形例に対して本願発明の主旨、すなわち、特許請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる態様も本願発明に含まれる。
例えば、実施の形態における不織布製造装置100は、ナノファイバ301が用いられた不織布を製造するとした。しかしながら、本願発明は、ナノファイバ301以外の繊維が用いられた不織布の製造に利用することもできる。例えば、ミクロンオーダーの直径を有する繊維が用いられた不織布の製造に利用することもできる。
また、「一致」や「同程度」などの文言は本願発明の趣旨を逸脱しない程度の誤差(ひろがり)を許容する意味で使用している。