次に、本願発明に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法、および、流出体の製造方法を図面を参照しつつ説明する。
図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜視図である。
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバ301を製造する装置であって、流出体115と、供給手段107と、帯電電極121と、帯電電源122とを備えている。本実施の形態の場合さらに、ナノファイバ製造装置100は、収集手段128と、誘引手段104と、移動手段129を備えている。
図2は、流出体をXZ平面で切断して貯留槽を示す斜視図である。
流出体115は、原料液300を空間中に流出させるための部材であり、流出孔118と、先端部116と、側面部117とを備え、さらに、貯留槽113を備えている。また、流出体115は、流出する原料液300に電荷を供給する帯電手段の電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、流出体115全体が金属で形成されている。なお、流出体115を構成する金属の種類は、導電性を備えていれば特に限定されるものではなく、例えば黄銅やステンレス鋼、アルミニウムやその合金など任意の材料を選定しうる。
流出孔118は、原料液300を空間中に流出させる孔であり、流出体115に複数個設けられている。また、流出孔118の先端にある開口部119は、所定の間隔で一次元的に並んで配置されている。本実施の形態の場合、流出孔118は、開口部119が同一平面内に直線的に並ぶように配置されており、開口部119が配置される方向に対し流出孔118の軸が直角に交わるように配置されている。
流出孔118の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔118の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に開口部119の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。
また、開口部119が並べられる間隔は、全てを等間隔としてもよく、また、流出体115の端部における開口部119の間隔は、流出体115の中央部における開口部119の間隔よりも広く(狭く)するなど任意に定めることができる。現在得られている知見において、開口部119の孔径が0.3mmの場合、開口部119のピッチは、2.5mm程度までは短縮可能である。なお、これら孔径やピッチなどは、原料液300の粘度など他の条件により変化することが考えられる。
また、開口部119は、同一直線上に配置されるばかりでなく、一次元的に並べられていればよい。ここで、一次元的とは、全ての開口部119が配置されるぎりぎりの領域を矩形で囲った場合、開口部119が前記矩形の幅方向には並ばない状態をいう。また、前記開口部119が配置される矩形の領域は、帯形状となる。この意味において、開口部119は、ジグザグに配置されてもよく、サインカーブなどの波を描くように配置されてもよい。
先端部116は、流出孔118の開口部119が配置される流出体115の部分であり、所定の間隔で配置される開口部119の間を滑らかな面で接続する部分である。本実施の形態の場合、先端部116は、細長い矩形の平面を表面に備え、その幅は、対応する開口部119の径よりも広くなるように設定されている。具体的に例えば、先端部116の幅は、流出孔118の孔径により異なるが、液溜まり303(後述、図3参照)の根元の径が1mm程となることを勘案して、1mm以上に設定することが好ましい。
図3に示すように、開口部119の周囲の全てにわたって表面が平面の先端部116が存在することにより、開口部119の周りに液溜まり303が発生する。この液溜まり303は、テーラーコーンと称されており、原料液300の粘性により発生すると考えられ、開口部119よりも大きな円形の底面を備える円錐形状となっている。液溜まり303は、開口部119を覆うように流出体115の先端部116に付着する。そして、円錐状の液溜まり303から原料液300が空間中に細く流出するものとなっている。これにより開口部119が空気と直接接触しないので、開口部119から発生するイオン風を抑制することが可能となる。
なお、先端部116は、矩形の平面を備えるものに限定されるわけではなく、また、平面ではなくとも液溜まり303が発生する場合もある。例えば図4(a)に示すように、先端部116は、曲面を備えてもよく、また、図4(b)に示すように、端部がつきあわされた二つの平面を備えていてもよい。
また、先端部116は、上述したように開口部119がジグザグや波形に配置された場合、まっすぐな帯形状でもよく、開口部119の配置に追随したジグザグ形状や波形等であってもよい。
以上のように、先端部116は、複数存在する開口部119の間を面でつなげている(図4(b)では、上記のように二つの平面でつなげている)ため、複数のノズルを並べたときに発生する電界干渉を抑制することが可能となる。また、開口部119と開口部119との間の領域で発生するイオン風を抑制することができる。従って、開口部119の間隔を狭めた状態で配置しても、良好にナノファイバ301を製造することができるため、単位時間、単位面積あたりのナノファイバ301の生産量を向上させることが可能となる。
また、先端部116により液溜まり303を良好な状態で保持することが可能であるため、イオン風の発生を抑制し、ナノファイバ301の品質向上や生産効率の向上が図れると考えられる。
図2に示すように、側面部117は、流出孔118を挟むように配置される二つの面であり、先端部116から延設され、起立状態で配置される流出体115の表面部分である。また、側面部117は、並んで配置されている流出孔118の配置方向に延びた状態で設けられており、全ての流出孔118を二つの側面部117で挟むように設けられている。また、側面部117は、図2、図3に示すように、先端部116から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置されている。双方の側面部117の間の角度は、鋭角である程先端部に電荷を集中することができ、原料液300を高い電荷密度として高品質なナノファイバ301を製造することが可能となる。一方、双方の側面部117の間の角度が鋭角になる程、流出体115に備えられる貯留槽113の容積が小さくなり、また、流出体115に貯留槽113を設ける際の加工が難しくなる。以上を勘案し、双方の側面部117の間の角度は60度程度に設定することが好ましい。但し、流出体115における双方の側面部117の間の角度はこれに限定されるものでは無い。
なお、図4(a)、図4(b)に示すように先端部116と側面部117との境界は曖昧である。また、側面部117の形状は、平面ばかりでなく、曲面であってもかまわない。例えば図7に示すように、円筒形の流出体115の周壁に流出孔118を設けた場合、円筒形の流出体115の周壁における流出孔118の配置箇所が先端部となり、その先端部(流出孔118の配置箇所)を挟む両側の周壁部が側面部117となる。
なお側面部117や先端部116は、全体にわたって滑らかな表面を備えており、できる限り特異な部分を設けることなく(開口部119は除く)イオン風の発生を抑制する形状とすることが望ましい。
また、側面部117は、先端部116に向かって徐々に細くなるように配置されているため、先端部116に電荷が集中させやすく、原料液300に効率的に電荷を供給することができる。
さらに、開口部119の周囲の空間を広く開放することができるため、帯電蒸気が充満することを回避することが可能となる。また、側面部117に沿った気体の流れが発生し、帯電蒸気の充満を積極的に回避しているとも考えられる。
また例えば、開口部119近傍から原料液300の流出方向の下流側に向かう風を発生させると、側面部117から原料液300に沿って流出方向(下方)に帯電蒸気やイオン風を排除することができ、製造されるナノファイバ301の品質の向上を図ることが可能となる。
貯留槽113は、図2に示すように、流出体115の内部に形成され、供給手段107(図1参照)から供給される原料液300を貯留するタンクである。また、貯留槽113は、複数の流出孔118に接続され、流出孔118に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、流出体115に一つ設けられており、流出体115のY軸方向の一端部から他端部にわたって広く設けられ、全ての流出孔118と連通状態で接続されている。
貯留槽113は、流出孔118の開口部119が並ぶ方向(Y軸方向)に延びて配置され、Y軸方向に直交する貯留槽113の断面(XZ平面)は、円形となっている。本実施の形態の場合、流出体115は、管形状(筒形状)となっており、貯留槽113として原料液300を貯留するための空間は円柱形状となっている。
以上のように貯留槽113は、原料液300を流出孔118の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔118に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔118から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバ301のY軸方向における品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
また、貯留槽113の内壁面が単純な曲面(円筒の内壁面)となっているため、構造的に特異な部分の存在が可及的に抑制されており、特異な部分を起点として成長する溶質の固化現象を効果的に抑止することが可能となる。
図5は、中間部分を省略して流出体を正面から示す図である。
同図に示すように、流出体115は、本体131と、本体131の開口の一方(同図中左側)を着脱可能に閉塞する蓋体132と、本体131の開口の他方(同図中右側)に着脱可能に取り付けられ、流出体115の内部に形成される貯留槽113に原料液300を供給する供給口を有する供給体133とを備えている。
本体131は、両端が開口し、流出孔(図示せず)が設けられる管形状の部材である。本体131の長さは特に限定されるものでは無いが、60cm以上であることが好ましい。これによれば、ナノファイバからなる幅の広い不織布であって、幅方向にナノファイバの質にムラが少ない不織布を安定して製造することが可能となる。
蓋体132は、円板状の閉塞用のフランジであり、本体131との間にOリングなどの封止部材を配置し、ボルトなどの締結部材で本体131に取り付けることで本体131の開口を封止することができるものとなっている。
供給体133は、蓋体132とほぼ同じ構造を備え、円板の中心に厚さ方向に貫通する供給口が備えられている。また、供給口は、原料液を供給するための案内管114と接続することができるものとなっている。
以上のように、流出体115は、直管形状であって両端が開口した本体131と、両端開口をそれぞれ蓋体132と供給体133とで着脱自在に閉塞することで、内部に貯留槽113が形成されるものとなっている。従って、流出体115の内方に貯留槽113を形成することが容易となる。例えば、本体131の内部空間をドリルにより容易に切削加工することができ、さらに切削痕などの特異点を除去するための研磨なども容易に行うことができる。さらに、切削加工により内部空間を形成することが困難な長さの本体131であっても、引抜加工などにより容易に本体131を得ることが可能となる。特に、引抜加工により形成される本体131は、貯留槽113を形成する内面がなめらか(例えば表面粗度(Ra)が5μm以下)であるため、溶質の固化現象を効果的に抑止することが可能となる。
また、蓋体132と、供給体133とを取り外せば、直管状の貯留槽113が露出し、貯留槽113の内面に特異な部分がないため、貯留槽113の清掃作業が容易となり、流出体115のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
供給手段107は、図1に示すように、流出体115に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器151と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプ(図示せず)と、原料液300を案内する案内管114とを備えている。
帯電電極121は、流出体115と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体115に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体115に電荷を誘導するための導電性を備える部材であり帯電手段を構成する要素である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、空間中で製造されたナノファイバ301を誘引する誘引手段104としても機能しており、流出体115の先端部116と対向する位置に配置されている。従って、帯電電極121が接地されており、流出体115に正の電圧が印加されると帯電電極121には、負の電荷が誘導され、流出体115に負の電圧が印加されると帯電電極121には、正の電荷が誘導される。
帯電電源122は、流出体115に高電圧を印加することのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響を受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、逆極性の電位を印加した電極でナノファイバ301を誘引するような場合には、直流電源を採用することが好ましい。また、帯電電源122が直流電源である場合、帯電電源122が帯電電極121に印加する電圧は、5KV以上、100KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。
本実施の形態のように、帯電電源122の一方の電極を接地電位とし、帯電電極121を接地するものとすれば、比較的大型の帯電電極121を接地状態とすることができ、安全性の向上に寄与することが可能となる。
なお、帯電電極121に電源を接続して帯電電極121を高電圧に維持し、流出体115を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、帯電電極121と流出体115とのいずれも接地しないような接続状態であってもかまわない。
収集手段128は、静電延伸現象により製造されるナノファイバ301を堆積させて収集する部材である。本実施の形態の場合、収集手段128は、ロール127に巻き付けられた状態で供給されている。
なお、収集手段128はこれに限定されるわけではない。例えば、収集手段128は、剛性のある板状の部材からなるものでもかまわない。また、ナノファイバ301の堆積物のみを利用する場合には、収集手段128の表面にフッ素樹脂コート、または、シリコンコートを行うなど、ナノファイバ301を剥ぎ取る際の剥離性が高い収集手段128であってもよい。
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバ301を収集手段128に誘引するための装置である。本実施の形態の場合、誘引手段104は、帯電電極121としても機能する金属板であり、収集手段128の後方に配置されている。誘引手段104は、帯電しているナノファイバ301を電界により収集手段128に誘引する。つまり、誘引手段104は、帯電したナノファイバ301を誘引するための電界を発生させるための電極である。また、誘引手段104は、吸引装置などによって収集手段128に向かう気体流を発生させるものでもよい。
移動手段129は、流出体115と、収集手段128とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、流出体115は固定されており、収集手段128のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段は、長尺の収集手段128を巻き取りながらロール127から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に収集手段128を搬送するものとなっている。
なお、移動手段129は、収集手段128を移動させるばかりではなく、流出体115を収集手段128に対して移動させるものでもかまわない、また、移動手段129は、収集手段128を一定方向に移動させ、流出体115を往復動させるなど、任意の動作状態を例示することができる。また、開口部119の並び方向と直交する方向に収集手段128を移動させているが、それに限定するものではなく、開口部119の並び方向に収集手段128を移動させ、流出体115を開口部119の並び方向と直交する方向に往復動させるものであってもかまわない。
ここで、ナノファイバ301を構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバ301の耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、P2O5、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb2O3、As2O3、CeO2、V2O5、Cr2O3、MnO、Fe2O3、CoO、NiO、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、HfO2、Nb2O5等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30%となる。
次に、流出体115の製造方法を説明する。
図6は、流出体の本体の加工前後の状態をY軸方向から示す平面図である。
まず、同図に実線および破線で示す外周を備える円形管形状の管材135を形成する(管材形成ステップ)。管材135の製造方法は特に限定されるものでは無く、無垢材から切削加工により前記導電性部材を形成してもよい。また、板状の部材を曲げ加工により管材135を形成してもよい。特に、引抜加工を採用して管材135を形成すると、貯留槽113を形成するために要求される表面Aのなめらかさを引抜加工のみで得ることができるため、好適と考えられる。ここで、貯留槽113を形成する表面Aに要求される表面粗度は5μm(Ra)以下が好ましい。特に表面粗度が1μm(Ra)以下の貯留槽113を備えた流出体115の場合、連続操業時間が飛躍的に向上することが経験的に確認されている。また、管材135を形成する材料は導電性部材であれば良く、アルミニウムやその合金、ステンレス鋼、鋼などを例示することができる。
次に、管材135の表面を切削加工し、先端部116や側面部117を形成する(図6中の破線から実線に至るまで切削加工を施す、側面部形成ステップ)。このように、容易に入手可能な管材135を用いて先端部116や側面部117を形成することが可能となる。特に、肉厚が均等な円管を引抜加工で製造すると、全体的に歪みが少なく高い表面粗度を備えた長尺(例えば1m以上)の管材135を容易に得ることができるため、引抜加工により得られる管材135に対して切削加工すると、要求性能に合致した流出体115を容易に得ることが可能となる。なお、無垢材から管材135を形成する場合は、当初から先端部116や側面部117を形成してもかまわない。
最後に、先端部116から管材135の周壁に貫通状の流出孔118を形成する(流出孔形成ステップ)。なお、流出孔118はドリルや放電加工により形成すれば良い。さらに要すれば、流出孔118の内面を仕上げ加工して(仕上げステップ)表面粗度を向上させればよい。
以上により、本体131が形成される。さらに、別途製造された蓋体132と供給体133とを本体131の両端開口にそれぞれ取り付けることで流出体115を製造できる。なお、流出体115の製造方法は上記ステップの順番に限定されるものでは無く、ステップの順番は任意である。また、要すれば、流出体115に、メッキやコーティングなどの表面処理を施すことも任意である。
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
まず、供給手段107により流出体115に原料液300を供給する(供給工程)。以上により、流出体115の貯留槽113に原料液300が満たされる。
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121と対向する流出体115の先端部116に電荷が集中し、当該電荷が流出孔118を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
前記帯電工程と供給工程とは同時期に実施され、流出体115の開口部119から帯電した原料液300が流出する(流出工程)。
ここで、開口部119から流出する原料液300は、開口部119を覆い先端部116から垂れ下がる液溜まり303を形成する。この液溜まり303は、複数ある開口部119毎に形成され、その先端から原料液300が糸状に垂れ下がる。このように液溜まり303が形成されることで、イオン風の発生を抑制し、製造されるナノファイバ301の品質を高めることが可能となる。
また、流出体115の外観形状も先端部以外はなめらかな曲面で覆われているため、イオン風の発生の抑制に寄与している。
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。ここで、原料液300は、イオン風に影響されることなく強い帯電状態(高い電荷密度)で流出し、また、各開口部119から飛行する原料液300がまとまることなく細い状態で流出する。これにより、原料液300のほとんどがナノファイバ301に変化していく。また、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細いナノファイバ301が大量に製造される。
この状態において、収集手段128の背方に配置される誘引手段104と流出体115との間に発生する電界により、ナノファイバ301が収集手段128に誘引される(誘引工程)。
以上により、収集手段128にナノファイバ301が堆積して収集される(収集工程)。収集手段128は、移動手段129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、高い生産効率を維持しつつ、品質の高いナノファイバ301を空間的、特に流出孔118が並ぶY軸方向にムラが発生することなく均一に製造することが可能となる。
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
例えば、図7に示すように、流出体115(本体131)は、円管の周壁に流出孔118を設けたものでもかまわない。この場合、円管の外周面が側面部117となり、また、流出孔118の開口部119の近傍が先端部116となる。また、流出体115の外観形状は、円柱形状に限定されず、図8に示す断面形状の棒状でもよく、任意の形状を採用することが可能である。さらに図8や図9に示すように、流出孔118は、X軸方向に2列やそれ以上並ぶものでもかまわない。