本発明のイオン交換不織布の製造方法について、まず説明するが、本発明のイオン交換不織布を構成するイオン交換繊維のもととなる平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維、及び平均繊維径が1μm以下の耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を紡糸することのできる紡糸装置について、紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図1、及び図1におけるC平面切断図である図2(a)をもとに説明する。
この紡糸装置は、イオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を吐出できる第1液吐出部El1を一方の端部に有する第1液吐出ノズルNl1と、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液、耐酸性樹脂含有紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液を吐出できる第2液吐出部El2を一方の端部に有する第2液吐出ノズルNl2とが、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNgを挟むように外壁面が当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが第1液吐出部El1、第2液吐出部El2のいずれよりも上流側となる位置にある。なお、第1液吐出ノズルNl1は第1液吐出部El1を端部とする第1液用柱状中空部Hl1を有し、第2液吐出ノズルNl2は第2液吐出部El2を端部とする第2液用柱状中空部Hl2を有し、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記第1液用柱状中空部Hl1を延長した第1液仮想柱状部Hvl1と前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第1液吐出ノズルNl1の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にあり、前記第2液用柱状中空部Hl2を延長した第2液仮想柱状部Hvl2と前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第2液吐出ノズルNl2の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記第1液用柱状中空部Hl1の第1吐出方向中心軸Al1とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にあり、前記第2液用柱状中空部Hl2の第2吐出方向中心軸Al2とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形が円形であり、液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外形がいずれも円形であり、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態にある(図2(a)参照)。
そのため、図1のような紡糸装置の第1液吐出ノズルNl1にイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を供給し、第2液吐出ノズルNl2に耐アルカリ性樹脂含有紡糸液、耐酸性樹脂含有紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、イオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液は第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2をそれぞれ通り、第1液吐出部El1、第2液吐出部El2から第1液用柱状中空部Hl1の第1軸方向、第2液用柱状中空部Hl2の第2軸方向にそれぞれ吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された各紡糸液とはいずれも近接した状態にあり、各液吐出部の直近においては、吐出ガスの中心軸Agと各吐出紡糸液の中心軸Al1、Al2とがいずれも平行関係にあり、しかもC平面上、吐出されたガスと吐出された各紡糸液とは、いずれの組み合わせにおいても最も近い点が1箇所であることから、つまり、いずれの紡糸液も1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受け、細径化しながら第1液用柱状中空部Hl1の第1軸方向、第2液用柱状中空部Hl2の第2軸方向にそれぞれ飛翔し、同時にいずれの紡糸液も固化して、イオン交換基導入可能繊維と耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を形成する。この紡糸装置においては、第1液吐出ノズルNl1と第2液吐出ノズルNl2とがガス吐出ノズルNgを介して近接した状態にあるため、イオン交換基導入可能繊維と耐アルカリ繊維又は耐酸性繊維とは均一に混合した状態で飛翔する。なお、図1の紡糸装置は1つのガス流によって、2つの紡糸液を紡糸して繊維化することができ、少ないガス量で紡糸できるため、生産性良く紡糸できる。
第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2はイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を吐出できるものであれば良く、第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の外形は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に作用を受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。つまり、第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2の外形が円形であると、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても1本だけ引くことができる状態となりやすいため、吐出されたいずれの紡糸液もガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。なお、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2の外形は同じ外形であっても良いし、異なる外形であっても良いが、いずれも円形であるのが好ましい。
第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくするのが好ましい。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線(図2(a)〜(e)におけるL1、L2)を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができるように第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2を配置すると、いずれの紡糸液もガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、安定して紡糸でき、液滴を生じにくくなる。したがって、ガス吐出部Egの形状が円形であれば、多角形状の第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の辺をガス吐出ノズルNg側となるように配置することも可能である(図2(e)参照)。
また、第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2の大きさも特に限定するものではないが、いずれも0.01〜20mm2であるのが好ましく、0.01〜2mm2であるのがより好ましい。0.01mm2よりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mm2を超えると、ガス及び随伴気流の作用を1本の直線状にするのが難しくなり、安定して紡糸できなくなる傾向があるためである。なお、第1液吐出部El1の大きさと第2液吐出部El2の大きさは同じであっても異なっていても良い。
なお、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2は金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。第1液吐出ノズルNl1又は第2液吐出ノズルNl2が金属製であれば、第1液吐出ノズルNl1又は第2液吐出ノズルNl2に対して電圧を印加することによって、紡糸液に対して電界を作用させることができ、また、樹脂を加熱溶融させた紡糸液であっても使用することができる。更に、図1においては、円柱状の第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2を図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
なお、図1においては、第1液吐出ノズルNl1と第2液吐出ノズルNl2の2本について図示しているが、液吐出ノズルは2本である必要はなく、3本以上であっても良い(図3参照)。この液吐出ノズルの本数が多ければ多いほど、ガスを効率的に利用し、生産性良く紡糸することができる。なお、液吐出ノズルが3本以上である場合には、イオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液をどのように供給しても良いが、多くの液吐出ノズルに供給すれば、その紡糸液に由来する繊維量を増やすことができる。
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス吐出部に対して各液吐出部をどのように配置しても、各液吐出部から吐出された各紡糸液に、ガス吐出部から吐出されたガスおよび随伴気流による剪断力をそれぞれ1本の直線状に作用させ、細径化した繊維を紡糸しやすいように、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を第1液吐出ノズルNl1側となり、もう1つの角が第2液吐出ノズルNl2側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、前述の通り、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態となるように第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2を配置する(図2(c)〜(d)参照)と、各紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.01〜79mm2であるのが好ましく、0.015〜20mm2であるのがより好ましい。0.01mm2よりも小さいと、吐出された各紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mm2を超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。なお、金属製であれば、加熱ガスであっても吐出することができる。
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2よりも上流側(各紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2の周辺へ各紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2との距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2におけるガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2との距離の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2とが一致していなければ良い。
なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2との距離は同じであっても異なっていても良いが、同じであると、各紡糸液に対して同程度の剪断力を作用させることができ、安定して紡糸できるため好適である。
第1液用柱状中空部Hl1及び第2液用柱状中空部Hl2は各紡糸液の通過経路であり、各紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。本発明においては、第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2、ガス用柱状中空部Hgのいずれも柱状の紡糸液又はガスを形成できるため、ガス及び随伴気流の剪断作用を各紡糸液に十分に作用させることができ、繊維化することができる。
なお、第1液用柱状中空部Hl1を延長した第1液仮想柱状部Hvl1は第1液吐出部El1から吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、第2液用柱状中空部Hl2を延長した第2液仮想柱状部Hvl2は第2液吐出部El2から吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この第1液仮想柱状部Hvl1とガス仮想柱状部Hvgとの距離は第1液吐出ノズルNl1の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当し、第2液仮想柱状部Hvl2とガス仮想柱状部Hvgとの距離は第2液吐出ノズルNl2の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、これら距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
この第1液仮想柱状部Hvl1、第2液仮想柱状部Hvl2、ガス仮想柱状部Hvgはいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の第1又は第2液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の第1又は第2液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部Hvgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、第1又は第2液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と第1又は第2液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、紡糸液の様々な点でガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
更に、第1液用柱状中空部Hl1の第1吐出方向中心軸Al1とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であり、また、第2液用柱状中空部Hl2の第2吐出方向中心軸Al2とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であるため、吐出された紡糸液に対してガス及び随伴気流が1本の直線状に作用し、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の第1又は第2液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の第1又は第2液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不安定となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、第1又は第2液用柱状中空部の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部の吐出方向中心軸とが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
本発明で使用できる紡糸装置は、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1の切断面の外周との距離が最も短い直線L1を1本だけ引くことができ、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L2を1本だけ引くことができる。このようなガス用柱状中空部Hgから吐出されたガス及び随伴気流は、第1液用柱状中空部Hl1から吐出された紡糸液と第2液用柱状中空部Hl2から吐出された紡糸液のいずれに対しても1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
なお、図1には図示していないが、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2にはそれぞれ紡糸液供給装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)が接続されている。なお、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合には、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2は樹脂を加熱溶融させる装置に接続されている。ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。なお、ガスが加熱ガスである場合には、ガス吐出ノズルNgはガス加熱装置に接続されている。
図1においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を更に高めることができる。
また、図1においては、第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2、及びガス吐出ノズルNgとを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図1の態様に限定されない。例えば、第1液吐出ノズルNl1の第1液吐出部El1、第2液吐出ノズルNl2の第2液吐出部El2、及び/又はガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egの位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。また、段差を有する基材に対して第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2及びガス用柱状中空部Hgを穿孔したものであっても良い。
次いで、本発明のイオン交換不織布のイオン交換基を導入する前の前駆不織布を製造することのできる、不織布製造装置について、不織布製造装置の模式的断面説明図である図4を参照しながら説明する。
不織布製造装置は前述のような紡糸装置1に加えて、紡糸されたイオン交換基導入可能繊維と耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を捕集できる捕集体3、捕集体3の下流側に存在し、紡糸された繊維を吸引できるサクション装置4、捕集体3及びサクション装置4を収納できる紡糸容器5、紡糸容器5へ所定相対湿度のガスを供給できる容器用ガス供給装置、及び紡糸容器5内のガスを排気できる排気装置を備えている。なお、紡糸装置1にはイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を第1液吐出ノズルNl1へ供給できる第1紡糸液供給装置、及び耐アルカリ性樹脂含有紡糸液、耐酸性樹脂含有紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液を第2液吐出ノズルNl2へ供給できる第2紡糸液供給装置が接続され、ガスをガス吐出ノズルNgへ供給できる紡糸用ガス供給装置が接続されている。
このような不織布製造装置の場合、イオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液、又は耐酸性樹脂含有紡糸液は第1紡糸溶液供給装置及び第2紡糸溶液供給装置によって、第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2へそれぞれ供給されると同時に、紡糸用ガス供給装置によってガスがガス吐出ノズルNgへ供給される。そのため、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2から吐出された紡糸液は、それぞれガス吐出ノズルNgから吐出されたガスの剪断作用によって延伸され、イオン交換基導入可能繊維と耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を形成するとともに、これら繊維は均一に混合しながら、捕集体3へ向かって飛翔し、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、前駆不織布を形成する。
なお、この繊維を集積する際に、捕集体3の下流側にはサクション装置4が配置されているため、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスや容器用ガス供給装置から供給されたガスは速やかに排出され、これらガスの作用によって前駆不織布が乱れるということがない。
また、図4の不織布製造装置においては、紡糸装置1、捕集体3及びサクション装置4を紡糸容器5に収納し、閉鎖空間としているため、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液から揮発した溶媒の飛散を防ぎ、場合によっては溶媒を回収して再利用することができる。
なお、紡糸容器5に、サクション装置4とは別に紡糸容器5内のガスを排気できる排気装置を接続しているため、繊維径のバラツキを小さくすることができる。紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸を行っていると、紡糸容器5内における溶媒蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制される結果、繊維径のバラツキが発生しやすく、また繊維化されにくくなる傾向があるが、排気装置によってガスを排気することによって抑制することができる。更に、紡糸容器5に温湿度を調整したガスを供給できる容器用ガス供給装置が接続されているため、紡糸容器5内における溶媒蒸気濃度を安定させ、繊維径のバラツキを小さくできる。
このように、図4の不織布製造装置によれば、前述の紡糸装置1を使用しているため平均繊維径が1μm以下に細径化したイオン交換基導入可能繊維、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を安定して紡糸でき、また、ガスの作用によって繊維を紡糸しているため、紡糸液の吐出量を増やすことができ、生産性良く前駆不織布を製造することができる。また、図4の不織布製造装置はガスの作用によって繊維を紡糸しているため、紡糸液の粘度が高い場合であっても安定して紡糸することができる。
図4の不織布製造装置においては、捕集体3の下流側にサクション装置4を備えているため、サクション装置4の作用によって繊維は捕集体3へ誘導され、余分なガスが除去される。図4においては、コンベアからなる捕集体3であるが、捕集体3は繊維を直接集積できるものであれば良く、例えば、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、ベルト或いは平板を捕集体として使用できる。また、図4においては、サクション装置4によってガスを吸引しているため、捕集体3は通気性であるが、サクション装置4を使用しない場合には、捕集体は通気性である必要はない。
図4においては、捕集体3を紡糸装置1の第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2からの吐出方向下側(重力の作用方向)に配置し、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2の吐出方向と捕集体3の捕集面とが直交する位置関係にあるが、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2からの吐出方向と捕集体3の捕集面とが平行である位置関係にあっても良い。なお、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2からの吐出方向は重力の作用方向と同じであっても、重力の作用方向と反対方向であっても、重力の作用方向と直交する方向であっても、重力の作用方向と交差する方向であっても良く、特に限定するものではない。
サクション装置4は特に限定するものではないが、紡糸用ガス供給装置及び容器用ガス供給装置からのガス供給量、作製する前駆不織布の厚みによって風速条件を調整できるものが好ましい。サクション装置4により吸引されたガスは排気、または再び紡糸容器内に戻し、循環させることもできる。このように循環させる場合、容器用ガス供給装置を排気装置と兼用させることもできる。
容器用ガス供給装置としては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、或いは送風機などを挙げることができる。なお、図4においては、紡糸容器5の上壁面からガスを供給しているが、側壁面からガスを供給することもできる。しかしながら、飛翔空間2へ効率的に、かつ繊維の集積状態に影響を与えないようにガスを供給できる位置から供給するのが好ましい。
また、排気装置は特に限定するものではないが、例えば、排気口に設置されたファンであることができる。図4のように、容器用ガス供給装置によって紡糸容器5へガスを供給する場合には、単に排気口を設けるだけで供給量と同量のガスを排出することができるため、排気装置は必ずしも必要はない。なお、図4のように排気装置によって排気する場合、排気装置とサクション装置4の総排気量は紡糸用ガス供給装置及び容器用ガス供給装置からのガス供給量の総量と同じであるのが好ましい。総供給量と総排気量とが異なると、紡糸容器5内における圧力が変わることによって、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、溶媒の蒸発速度が変わり、繊維径のバラツキが生じやすいためである。また、図4に示す態様とは異なり、排気装置への排気口は紡糸容器5の底壁面ではなく、側壁面に設けることもできる。また、サクション装置4に排気装置を兼用させることもできる。
なお、第1紡糸液供給装置又は第2紡糸液供給装置としては、例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなどを挙げることができ、紡糸用ガス供給装置として、例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなどを挙げることができる。
図4の不織布製造装置においては、紡糸装置1を1台だけ配置しているが、1台である必要はなく、2台以上配置することができる。2台以上配置することによって前駆不織布の生産性を高めることができる。また、図4の不織布製造装置においては、1本のガス吐出ノズルに対して2本の液吐出ノズルを配置した紡糸装置1を使用しているが、1本のガス吐出ノズルに対して3本以上の液吐出ノズルを配置した紡糸装置を使用することもできる。
また、図4の不織布製造装置においては、前駆不織布を結合させるための装置を配置していないが、前駆不織布を結合するための装置を配置することができる。例えば、バインダーを付与し、乾燥する装置、繊維同士を融着させることのできる熱処理装置、繊維同士を絡合させることのできる絡合装置、などを配置することができる。
更に、図4の不織布製造装置においては、ガス吐出ノズルから吐出されたガスの作用のみによって繊維化しているが、ガスの作用に加えて、電界を作用させることによって、繊維化を促進することができる。例えば、紡糸装置1の第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2に電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることによって、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2と捕集体3との間に電界を形成すると、気体の剪断作用によって延伸されず液滴となりやすい紡糸液を、電界の作用によって引き伸ばして繊維化することができる。また、電界の作用によって、繊維が帯電し、互いに反発することによって、繊維同士が結着した繊維束を形成せず、個々の繊維が分散した状態で捕集できるため、繊維径の揃った前駆不織布を製造できる。なお、このように第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2に電圧を印加する場合には、従来の静電紡糸法による電圧よりも低い電圧で良いため、静電紡糸法により形成した不織布よりも嵩高な前駆不織布とすることができる。
なお、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2に電圧を印加できる電源としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を挙げることができる。また、印加極性は正であっても負であっても良い。なお、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2ではなく、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2内に挿入したワイヤー等に印加しても良い。更には、捕集体3に対して印加し、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2をアースしても良い。或いは、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2と捕集体3との間に電界が形成されるように、双方に電圧を印加しても良い。また、コンベアの下流側に対向電極を配置し、対向電極をアース又は印加し、第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2との間に電界を形成することもできる。
この第1液吐出ノズルNl1及び/又は第2液吐出ノズルNl2と捕集体3との間に生じる電位差は、紡糸液の種類、第1液吐出ノズルNl1又は第2液吐出ノズルNl2と捕集体3との距離、温湿度などの紡糸条件によって変化するため、特に限定するものではないが、0.05〜1.5kV/cmであるのが好ましい。電位差が1.5kV/cmを超えると、ガスの剪断作用による紡糸よりも静電紡糸法と同様の電圧による紡糸が支配的となるが、ガスの作用も受けて前駆不織布の地合いが悪くなる傾向があるためである。他方、0.05kV/cm未満であると、繊維の帯電が不十分あるいは弱いため、糸玉、繊維束、ショット、粒等、繊維以外のものも多く含む前駆不織布となる傾向があるためである。
このような不織布製造装置を用いて前駆不織布を製造する場合、紡糸装置1のガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出するのが好ましい。ガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を紡糸しやすいためである。好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、より好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限は、イオン交換基導入可能繊維、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維の平均繊維径を1μm以下とすることができる限り、特に限定するものではない。このような流速のガスを吐出するには、例えば、紡糸用ガス供給装置として圧縮機を使用し、ガス用柱状中空部Hgにガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気は経済的である。また、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液に対して親和性のない溶媒の蒸気をガスに含ませることができ、このような溶媒の蒸気量を調整することによって、紡糸液の固化を促進させることができる。更に、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合、加熱したガスを使用することができ、このような加熱ガスを使用することによって、溶融樹脂を十分に引き伸ばしてより細い繊維を紡糸することができる。
本発明で使用できる紡糸液は、イオン交換基導入可能樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂を加熱溶融させた紡糸液と、耐アルカリ性樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液、耐アルカリ性樹脂を加熱溶融させた紡糸液、耐酸性樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液、又は耐酸性樹脂を加熱溶融させた紡糸液である。
例えば、イオン交換基導入可能樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液として、例えば、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルを50wt%以上含むアクリロニトリル共重合体、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリビニルピリジンなど1種又は2種以上の樹脂を、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系など1種又は2種以上の溶媒に溶解させたものを使用することができる。なお、アクリロニトル共重合体の共重合成分としては、例えば、アクリル酸エステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、メタリルスルホン酸、酸酢酸ビニル、アクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドなどを挙げることができる。
また、耐アルカリ性樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液を構成する樹脂は耐アルカリ性であるが、「耐アルカリ性樹脂」とは、たて10cm、よこ10cm、厚さ30μmの樹脂フィルムを濃度5重量%、温度90℃の苛性ソーダに10分間浸漬した時に、浸漬前後における前記樹脂フィルムの面積収縮率が20%以内である樹脂を意味する。なお、本発明における収縮率(Sr(%))は次の式から算出される値である。
Sr=[(10×10−L×W)/10×10]×100=100−LW
ここで、Lは浸漬後のたての長さ(cm)、Wは浸漬後のよこの長さ(cm)をそれぞれ意味する。
このような耐アルカリ性樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィン系、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体などのフッ素系、塩化ビニリデン系、ポリイミド、全芳香族ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなどを挙げることができ、これらを溶解させることのできる溶媒として、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、メチルエチルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどのケトン系、ポリフェニレンサルファイドなどを1種類または2種類以上混合させて使用することができる。
更に、耐酸性樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液を構成する樹脂は耐酸性であるが、「耐酸性樹脂」とは、たて10cm、よこ10cm、厚さ30μmの樹脂フィルムを濃度65重量%、温度90℃の硫酸に30分間浸漬した時に、浸漬前後における前記樹脂フィルムの面積収縮率が20%以内である樹脂を意味する。
このような耐酸性樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン/エチン共重合体などのポリオレフィン系、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体などのフッ素系、塩化ビニリデン系、ポリイミド、全芳香族ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)などを挙げることができ、これらを溶解させることのできる溶媒として、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系、などを1種類または2種類以上混合させて使用することができる。
このように、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液の紡糸時の粘度は10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向がある。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。本発明における「粘度」は、粘度測定装置を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
他方、イオン交換基導入可能樹脂を加熱溶融させた紡糸液を構成できる樹脂として、例えば、ポリスチレン、スチレン共重合物、ポリビニルピリジンなどを使用することができる。
加熱溶融可能な耐アルカリ性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体、ポリメチルペンテンなど)、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610)、ポリアセタール、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、共重合ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどのケトン系、ポリフェニレンサルファイドなどを挙げることができる。
また、加熱溶融可能な耐酸性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンーポリエチレン共重合体、ポリメチルペンテンなど)、ポリエステル系(脂肪族ポリエステル系、芳香族ポリエステル系)、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610)、ポリアセタール、或はフッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、共重合ポリフッ化ビニリデン)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどのケトン系、ポリフェニレンサルファイドなどを挙げることができる。
このように、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合、樹脂の紡糸時の温度範囲は樹脂の融点から融点より200℃高い温度までの範囲であるのが好ましく、融点より20℃高い温度から融点より100℃高い温度までの範囲であるのがより好ましい。温度依存性を示す樹脂の場合、融点より200℃高い温度よりも高い温度では、樹脂の熱分解が発生して紡糸が困難となるためである。また、紡糸時の樹脂にかかる剪断速度は、1〜10000s−1であるのが好ましく、剪断速度50〜5000s−1であるのがより好ましい。圧力依存性を示す樹脂の場合、剪断速度が1s−1未満であると、吐出が安定せず、10000s−1を超えると、高い吐出圧力が必要となり吐出が困難となる傾向があるためである。なお、上記の温度範囲および剪断速度範囲において、樹脂の紡糸時の粘度が10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向があるためである。したがって、溶融時に粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、溶融時に粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。
なお、液吐出部からの紡糸液の吐出量は紡糸液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、液吐出部1つあたり0.1〜100cm3/時間であるのが好ましい。
図4に示すような不織布製造装置を用いて前駆不織布を製造する場合、第1液吐出ノズルNl1からイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液、耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を吐出するとともに、第2液吐出ノズルNl2から耐アルカリ性樹脂含有紡糸液、耐酸性樹脂含有紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液を吐出すれば、第1液吐出ノズルNl1と第2液吐出ノズルNl2とはガス吐出ノズルNgを介しているものの、近接して配置されているため、飛翔中に、イオン交換基導入可能繊維と耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維とが均一に混在し、この均一に混在した状態で集積することによって、前駆不織布を製造することができる。
なお、図4においては、第1液吐出ノズルNl1と第2液吐出ノズルNl2の2つの液吐出ノズルを有する態様であるが、3つ以上の液吐出ノズルを有する場合には、1箇所又は2箇所以上の液吐出ノズルからイオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液を吐出し、イオン交換基導入可能繊維を紡糸するとともに、1箇所又は2箇所以上の液吐出ノズルから耐アルカリ性樹脂含有紡糸液又は耐酸性樹脂含有紡糸液を吐出し、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維を紡糸する。
この紡糸の際の吐出条件は同じである必要はない。例えば、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2とで形の異なるものを使用する、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2とで大きさの異なるものを使用する、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2とでガス吐出部からの距離が異なるように配置する、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2とで紡糸液の吐出量が異なるようにする、紡糸液の温度が異なるようにする、紡糸液の調製方法が異なる(例えば、溶媒に溶解させた紡糸液と加熱溶融させた紡糸液)、紡糸液に添加されている添加剤の種類及び/又は量が異なる、などのこれら1つ、又は2つ以上が異なる条件で吐出することもできる。
以上、前駆不織布の製造方法について、ガスの作用により紡糸する方法について説明したが、公知の静電紡糸法により前駆不織布を製造することもできる。
次いで、前述の前駆不織布をアルカリ又は酸で処理することによって、イオン交換基導入可能繊維にイオン交換基を導入し、本発明のイオン交換不織布を製造することができる。本発明の前駆不織布においては、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維が混在していることによって、アルカリ又は酸で処理した場合の不織布の収縮や劣化を抑制することができるため、イオン交換性能に優れるイオン交換不織布を安定して製造することができる。
このイオン交換基を導入するアルカリ処理は特に限定するものではないが、例えば、イオン交換基導入可能繊維がアクリル繊維の場合、濃度5重量%、温度90℃の苛性ソーダ浴中に浸漬し、ニトリル基を加水分解することにより、カルボキシル基(イオン交換基)を導入することができる。なお、必要量のイオン交換基を導入できる限り、苛性ソーダの濃度、温度、又は浸漬時間は実験により確認し、適宜調整する。
また、イオン交換基を導入する酸処理は特に限定するものではないが、濃度60重量%、温度90℃の硫酸浴中に15分間浸漬し、ニトリル基を加水分解することにより、カルボキシル基(イオン交換基)を導入することができる。なお、必要量のイオン交換基を導入できる限り、硫酸の濃度、温度、又は浸漬時間は実験により確認し、適宜調整する。
本発明のイオン交換不織布は、例えば、上述のような方法により製造することのできる、平均繊維径が1μm以下のイオン交換繊維と、平均繊維径が1μm以下の耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維とが混在した不織布である。本発明のイオン交換不織布は平均繊維径が1μm以下と非常に細く、表面積の広いイオン交換繊維を含んでいるため、イオン交換性能の優れるものである。また、平均繊維径が1μm以下の耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維も含んでいるため、前述の通り、アルカリ又は酸で処理しても、前駆不織布の収縮や劣化を抑制し、イオン交換基を導入して得ることのできるイオン交換不織布である。
本発明のイオン交換繊維のイオン交換基は特に限定するものではないが、例えば、カルボキシル基であることができる。また、イオン交換繊維の平均繊維径は小さければ小さい程、表面積が広く、イオン交換基導入量を多くでき、イオン交換性能に優れているため、0.8μm以下であるのがより好ましい。一方で、イオン交換繊維の平均繊維径が小さすぎると、アルカリ又は酸での処理中に損傷し、繊維形態を維持するのが困難になる傾向があるため、0.1μm以上であるのが好ましい。なお、本発明における「平均繊維径」は100箇所の繊維径の算術平均値を指し、「繊維径」は不織布表面における倍率10,000倍の電子顕微鏡写真をもとに計測した値をいう。
他方、本発明の耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維は不織布の地合いを損ねないように、イオン交換繊維と同レベルの平均繊維径をもつ。つまり、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維の平均繊維径は1μm以下である。なお、耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維の平均繊維径が1μm以下であると、濾過性能に優れるという効果もある。
なお、本発明のイオン交換不織布におけるイオン交換繊維と耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維との質量比率は特に限定するものではないが、10:90〜90:10であるのが好ましい。耐アルカリ性繊維又は耐酸性繊維の質量比率が10%未満であると、アルカリ又は酸で処理した際の、前駆不織布の収縮や劣化を抑制することが難しくなる傾向があるためで、他方、イオン交換繊維の質量比率が10%未満であると、イオン交換性能に劣る傾向があるためである。
本発明のイオン交換不織布はイオン交換性能に優れるものであるが、具体的にはイオン交換容量が0.01meq/g〜5meq/gであることができる。なお、イオン交換容量は次のように測定して得られる値をいう。
まず、10cm×10cmの大きさに裁断したイオン交換不織布(質量:M(g))を、0.1mol/Lの水酸化カリウム標準液(10ml)中に3時間以上浸漬する。
次いで、滴定指示薬フェノールフタレイン液を加えた後、0.1mol/Lの塩酸を滴下して滴定し、滴定量[b(ml)]を量る。
一方、イオン交換不織布を入れない空試験を同様に行い、滴定量[c(ml)]を量る。
これらの結果から、次の式からイオン交換容量(Y(meq/g))を算出する。
Y={(c−b)×0.1}/M
本発明のイオン交換不織布の目付や厚さは特に限定するものではないが、目付は5〜100g/m2であることができ、厚さは20〜500μmであることができる。なお、目付は10cm角のイオン交換不織布の重量から、1m2のイオン交換不織布重量を算出した値であり、厚さはマイクロメーターにより測定した値をいう。