本発明の紡糸装置の一例について、紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図1(a)、及び図1(a)におけるC平面切断図である図1(b)をもとに説明する。
図1の紡糸装置は紡糸液を吐出できる液吐出部Elを一方の端部に有する液吐出ノズルNl1本と、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNg1本の外壁面が当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側となる位置にある。なお、液吐出ノズルNlは液吐出部Elを端部とする液用柱状中空部Hlを有しており、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlと前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、図1(b)にガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面Cで切断した切断図を示すように、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形、液用柱状中空部Hlの切断面の外形ともに円形であり、これら外周間の距離が最も短い直線L1を、1本だけ引くことができる状態にある。更に、紡糸液構成ポリマーを溶解させることのできる溶媒を吐出できる溶媒吐出部Esを一方の端部に有する溶媒吐出ノズルNsがガス吐出ノズルNgの外壁面に当接し、溶媒吐出ノズルNsの溶媒吐出部Esはガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egよりも上流側となる位置にある。なお、図1(b)に示すように、溶媒吐出ノズルNsの切断面の外形は円形である。
そのため、図1のような紡糸装置の液吐出ノズルNlに紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、紡糸液は液用柱状中空部Hlを通り液吐出部Elから液用柱状中空部Hlの軸方向に吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された紡糸液とは近接した状態にあり、ガスの吐出方向と紡糸液の吐出方向とは平行関係にあり、しかも平面C上、吐出されたガスと吐出された紡糸液とは最も近い点が1点、つまり、紡糸液は1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受けるため、細径化しながら液用柱状中空部Hlの軸方向に飛翔し、同時に紡糸液の溶媒が揮発して繊維化する。同時に、本発明の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsに溶媒を供給し、溶媒吐出部Esから溶媒を吐出できるため、この吐出された溶媒はガス吐出ノズルNgの外壁面を伝って、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスへ供給され、このガスによって溶媒は液吐出部Elへ噴霧されるため、液吐出部Elが溶媒によって加湿され、紡糸液構成ポリマーの固化を防止することができる。したがって、連続的に安定して紡糸することができる。なお、図1の紡糸装置は紡糸液及びガスを加熱する必要がないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置である。また、紡糸液をガスの作用によって延伸し、紡糸するため、紡糸液の吐出量を増やすことのできる、生産性に優れるものである。
液吐出ノズルNlは紡糸液を吐出できるものであれば良く、液吐出部Elの形状は特に限定するものではないが、液吐出部Elの形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。なお、液吐出部Elの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が1本の直線状となり、液滴を生じにくくなる。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
また、液吐出部Elの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜20mm2であるのが好ましく、0.03〜0.8mm2であるのがより好ましい。0.03mm2よりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mm2を超えると、吐出された紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難となり、液滴を生じやすくなる傾向があるためである。
なお、液吐出ノズルNlは金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。更に、図1においては、円柱状の液吐出ノズルNlを図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではないが、ガス吐出部Egの形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を働きやすくするために、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を液吐出ノズルNl側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜79mm2であるのが好ましく、0.03〜20mm2であるのがより好ましい。0.03mm2よりも小さいと、吐出された紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になる傾向があり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mm2を超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。なお、ガス吐出部Egの大きさは液吐出部Elの大きさと同じか、より大きいのが好ましい。ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすいためである。
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、液吐出部周辺へ紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると紡糸液に対するガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離の差の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと液吐出部Elとが一致していなければ良い。
液用柱状中空部Hlは紡糸液の通過経路であり、紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。
なお、液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlは液吐出部Elから吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgとの距離は液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、この距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
この液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgのいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、様々な点にガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなるためである。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
更に、液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行で、吐出された紡糸液に対して1本の直線状にガス及び随伴気流を作用させることができるため、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
本発明の紡糸装置はガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる(図1(b))。このようなガス用柱状中空部から吐出されたガス及び随伴気流は、液用柱状中空部から吐出された紡糸液に対して、1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
図1の紡糸装置における溶媒吐出ノズルNsはガス吐出ノズルNgから吐出されたガスに溶媒を供給し、ガスの作用によって溶媒を液吐出部Elへ噴霧し、液吐出部Elを溶媒によって加湿して、液吐出部Elにおける紡糸液構成ポリマーの固化を防止する。このように、図1の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsとガス吐出ノズルNgとが溶媒を液吐出部へ供給できる供給手段を構成する。
溶媒吐出ノズルNsは溶媒を吐出できるものであれば良く、溶媒吐出部Esの形状は特に限定するものではないが、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができる。
また、溶媒吐出部Esの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜20mm2であるのが好ましく、0.03〜0.8mm2であるのがより好ましい。0.03mm2よりも小さいと、溶媒の供給量が少なく、液吐出部Elにおける紡糸液構成ポリマーの固化防止作用に劣る傾向があり、20mm2を超えると、溶媒の供給量が多くなり過ぎて、紡糸液の固化を妨げる傾向があるためである。
なお、溶媒吐出ノズルNsの外径はガス吐出ノズルNgの外径と同じであるのが好ましい。これら外径が同じであると、これらノズルをしっかりと固定しやすく、溶媒吐出ノズルNsとガス吐出ノズルNgとがずれることがないため、ガスの作用によって溶媒を安定して液吐出部Elへ噴霧できる。
なお、溶媒吐出ノズルNsは溶媒によって浸食されないものであれば良く、金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、溶媒吐出ノズルNsに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
図1(a)においては、溶媒吐出ノズルNsは溶媒吐出部Esがガス吐出部Egよりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、ガス吐出部Egから吐出されたガスに対して溶媒を確実に供給して、液吐出部周辺へ溶媒を噴霧できる。そのため、液吐出部Elに紡糸液構成ポリマーを固化させることなく、長時間の安定した紡糸が可能である。なお、図1(a)においては溶媒吐出部Esがガス吐出部Egよりも上流側に位置しているが、液吐出部Elよりも上流側に位置していれば、ガスの作用によって、液吐出部周辺へ溶媒を噴霧でき、同様に、液吐出部Elに紡糸液構成ポリマーを固化させることなく、長時間の安定した紡糸が可能である。具体的には、溶媒吐出部Esは液吐出部Elよりも5〜20mm上流側に位置しているのが好ましく、10〜15mm上流側に位置しているのがより好ましい。
なお、図1(a)の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsの吐出方向中心軸Asとガス吐出ノズルNgの吐出方向中心軸Agとが平行であるように、溶媒吐出ノズルNsをガス吐出ノズルNgの外壁面に当接させているが、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスに対して溶媒を供給できるのであれば、このように配置している必要はない。例えば、液吐出部Elよりも上流側のガス仮想柱状部Hvgに溶媒吐出部Esが位置するように配置することもできる。
なお、図1(a)には図示していないが、液吐出ノズルNlは紡糸液貯蔵装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)に接続されており、ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されており、溶媒吐出ノズルNsは溶媒供給装置(例えば、液相ポンプ、チューブポンプ、マイクロギアポンプなど)に接続されている。
図1においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を高めることができる。
また、図1においては、液吐出ノズルNl、ガス吐出ノズルNg及び溶媒吐出ノズルNsを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図1の態様に限定されない。例えば、段差を有する基材に対して液用柱状中空部Hl、ガス用柱状中空部Hg及び溶媒吐出ノズルNsの中空部を穿孔したものであっても良い。また、液吐出ノズルNlの液吐出部El、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Eg、及び/又は溶媒吐出ノズルNsの溶媒吐出部Esの位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。
本発明の別の紡糸装置について、液吐出部2箇所、ガス吐出部1箇所及び溶媒吐出部1箇所とを有する紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図4(a)、及び図4(a)におけるC平面切断図である図4(b)をもとに説明する。
この紡糸装置は、紡糸液を吐出できる第1液吐出部El1を一方の端部に有する第1液吐出ノズルNl1と、紡糸液を吐出できる第2液吐出部El2を一方の端部に有する第2液吐出ノズルNl2とが、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNgを挟むように外壁面が当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが第1液吐出部El1、第2液吐出部El2のいずれよりも上流側となる位置にある。なお、第1液吐出ノズルNl1は第1液吐出部El1を端部とする第1液用柱状中空部Hl1を有し、第2液吐出ノズルNl2は第2液吐出部El2を端部とする第2液用柱状中空部Hl2を有し、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記第1液用柱状中空部Hl1を延長した第1液仮想柱状部Hvl1と前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第1液吐出ノズルNl1の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にあり、前記第2液用柱状中空部Hl2を延長した第2液仮想柱状部Hvl2と前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第2液吐出ノズルNl2の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記第1液用柱状中空部Hl1の第1吐出方向中心軸Al1とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にあり、前記第2液用柱状中空部Hl2の第2吐出方向中心軸Al2とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形が円形であり、液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外形がいずれも円形であり、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態にある(図4(b)参照)。更に、紡糸液構成ポリマーを溶解させることのできる溶媒を吐出できる溶媒吐出部Esを一方の端部に有する溶媒吐出ノズルNsがガス吐出ノズルNgの外壁面に当接し、溶媒吐出ノズルNsの溶媒吐出部Esはガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egよりも上流側となる位置にある。なお、図4(b)に示すように、溶媒吐出ノズルNsの切断面の外形は円形である。
そのため、図4のような紡糸装置の第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2に紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、紡糸液は第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2をそれぞれ通り、第1液吐出部El1、第2液吐出部El2から第1液用柱状中空部Hl1の第1軸方向、第2液用柱状中空部Hl2の第2軸方向にそれぞれ吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された各紡糸液とはいずれも近接した状態にあり、各液吐出部の直近においては、吐出ガスの中心軸Agと各吐出紡糸液の中心軸Al1、Al2とがいずれも平行関係にあり、しかもC平面上、吐出されたガスと吐出された紡糸液とは、いずれの組み合わせにおいても最も近い点が1箇所であることから、つまりいずれの紡糸液も1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受け、細径化しながら第1液用柱状中空部Hl1の第1軸方向、第2液用柱状中空部Hl2の第2軸方向にそれぞれ飛翔し、同時に紡糸液の溶媒が揮発して繊維化する。同時に、溶媒吐出ノズルNsに溶媒を供給し、溶媒吐出部Esから溶媒を吐出できるため、この吐出された溶媒はガス吐出ノズルNgの外壁面を伝って、ガス吐出部Eg付近まで到達して、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスへ供給され、このガスによって溶媒は液吐出部El1、El2へ噴霧されるため、液吐出部El1、El2が溶媒によって加湿され、紡糸液構成ポリマーの固化を防止することができる。したがって、連続的に安定して紡糸することができる。このように、図4の紡糸装置は1つのガス流によって、2つの紡糸液を紡糸して繊維化することができ、ガス量を減らすことができるため、繊維の飛散を抑制して地合いの均一な不織布を生産性良く長時間製造できる。なお、図1の紡糸装置は紡糸液及びガスを加熱する必要がないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置であり、ガス量を減らすことができ、吸引装置を大型化する必要がないことからもエネルギー的に有利である。更に、吸引力を強くする必要がないため、厚さの薄い不織布から厚い不織布まで長時間製造することができる。また、紡糸液をガスの作用によって延伸し、紡糸するため、紡糸液の吐出量を増やすことのできる、生産性に優れるものである。
第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2は紡糸液を吐出できるものであれば良く、第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の外形は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に作用を受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。つまり、第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2の外形が円形であると、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl1、Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても1本だけ引くことができる状態となりやすいため、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。なお、第1液吐出部El1と第2液吐出部El2の外形は同じ外形であっても良いし、異なる外形であっても良いが、いずれも円形であるのが好ましい。
第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくするのが好ましい。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線(図5(a)〜(d)におけるL1、L2)を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができるように第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2を配置すると、紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、安定して紡糸でき、液滴を生じにくくなる。したがって、ガス吐出部Egの形状が円形であれば、多角形状の第1液吐出部El1、第2液吐出部El2の辺をガス吐出ノズルNg側となるように配置することも可能である(図5(d)参照)。
また、第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2の大きさも特に限定するものではないが、いずれも0.01〜20mm2であるのが好ましく、0.01〜2mm2であるのがより好ましい。0.01mm2よりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mm2を超えると、ガス及び随伴気流の作用を1本の直線状にするのが難しくなり、安定して紡糸できなくなる傾向があるためである。
なお、第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2は金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。更に、図4(a)においては、円柱状の第1液吐出ノズルNl1及び第2液吐出ノズルNl2を図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
なお、図4においては、第1液吐出ノズルNl1と第2液吐出ノズルNl2の2本について図示しているが、液吐出ノズルは2本である必要はなく、3本以上であっても良い(図6参照)。この液吐出ノズルの本数が多ければ多いほど、ガスを効率的に使用し、生産性良く不織布を製造することができる。
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス吐出部に対して各液吐出部をどのように配置しても、各液吐出部から吐出された各紡糸液に、ガス吐出部から吐出されたガスおよび随伴気流による剪断力をそれぞれ1本の直線状に作用させ、細径化した繊維を紡糸しやすいように、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を第1液吐出ノズルNl1側となり、もう1つの角が第2液吐出ノズルNl2側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、前述の通り、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態となるように第1液吐出ノズルNl1、第2液吐出ノズルNl2を配置する(図5(b)〜(c)参照)と、紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.01〜79mm2であるのが好ましく、0.015〜20mm2であるのがより好ましい。0.01mm2よりも小さいと、吐出された各紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になる傾向があり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mm2を超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2よりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2の周辺へ紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2との距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2におけるガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2との距離の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1及び第2液吐出部El2とが一致していなければ良い。
なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El1又は第2液吐出部El2との距離は同じであっても異なっていても良いが、同じであると、各紡糸液に対して同程度の剪断力を作用させることができ、安定して紡糸できるため好適である。
第1液用柱状中空部Hl1及び第2液用柱状中空部Hl2は紡糸液の通過経路であり、紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。本発明においては、第1液用柱状中空部Hl1、第2液用柱状中空部Hl2、ガス用柱状中空部Hgのいずれも柱状の紡糸液又はガスを形成できるため、ガス及び随伴気流の剪断作用を各紡糸液に十分に作用させることができ、繊維化することができる。
なお、第1液用柱状中空部Hl1を延長した第1液仮想柱状部Hvl1は第1液吐出部El1から吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、第2液用柱状中空部Hl2を延長した第2液仮想柱状部Hvl2は第2液吐出部El2から吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この第1液仮想柱状部Hvl1とガス仮想柱状部Hvgとの距離は第1液吐出ノズルNl1の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当し、第2液仮想柱状部Hvl2とガス仮想柱状部Hvgとの距離は第2液吐出ノズルNl2の壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、これら距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
この第1液仮想柱状部Hvl1、第2液仮想柱状部Hvl2、ガス仮想柱状部Hvgのいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の第1又は第2液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の第1又は第2液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部Hvgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、第1又は第2液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と第1又は第2液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、紡糸液の様々な点でガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなるためである。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
更に、第1液用柱状中空部Hl1の第1吐出方向中心軸Al1とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であり、また、第2液用柱状中空部Hl2の第2吐出方向中心軸Al2とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であるため、吐出された紡糸液に対してガス及び随伴気流が1本の直線状に作用し、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の第1又は第2液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の第1又は第2液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不安定となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、第1又は第2液用柱状中空部の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部の吐出方向中心軸とが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
本発明の紡糸装置はガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl1の切断面の外周との距離が最も短い直線L1を1本だけ引くことができ、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第2液用柱状中空部Hl2の切断面の外周との距離が最も短い直線L2を1本だけ引くことができる。このようなガス用柱状中空部Hgから吐出されたガス及び随伴気流は、第1液用柱状中空部Hl1から吐出された紡糸液と第2液用柱状中空部Hl2から吐出された紡糸液のいずれに対しても1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
図4の紡糸装置における溶媒吐出ノズルNsはガス吐出ノズルNgから吐出されたガスに溶媒を供給し、ガスの作用によって溶媒を液吐出部El1、El2へ噴霧し、液吐出部El1、El2を溶媒によって加湿して、液吐出部El1、El2における紡糸液構成ポリマーの固化を防止する。このように、図4の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsとガス吐出ノズルNgとが溶媒を液吐出部へ供給できる供給手段を構成する。
溶媒吐出ノズルNsは溶媒を吐出できるものであれば良く、溶媒吐出部Esの形状は特に限定するものではないが、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができる。
また、溶媒吐出部Esの大きさも特に限定するものではないが、0.03〜20mm2であるのが好ましく、0.03〜0.8mm2であるのがより好ましい。0.03mm2よりも小さいと、溶媒の供給量が少なく、液吐出部Elにおける紡糸液構成ポリマーの固化防止作用に劣る傾向があり、20mm2を超えると、溶媒の供給量が多くなり過ぎて、紡糸液の固化を妨げる傾向があるためである。
なお、溶媒吐出ノズルNsの外径はガス吐出ノズルNgの外径と同じであるのが好ましい。これら外径が同じであると、これらノズルをしっかりと固定しやすく、溶媒吐出ノズルNsとガス吐出ノズルNgとがずれることがないため、ガスの作用によって溶媒を安定して液吐出部El1、El2へ噴霧できる。
なお、溶媒吐出ノズルNsは溶媒によって浸食されないものであれば良く、金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、溶媒吐出ノズルNsに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
図4(a)においては、溶媒吐出ノズルNsは溶媒吐出部Esがガス吐出部Egよりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、ガス吐出部Egから吐出されたガスに対して確実に溶媒を供給して、液吐出部周辺へ溶媒を噴霧できる。そのため、液吐出部El1、El2に紡糸液構成ポリマーを固化させることなく、長時間の安定した紡糸が可能である。なお、図4(a)においては溶媒吐出部Esがガス吐出部Egよりも上流側に位置しているが、液吐出部El1、El2よりも上流側に位置していれば、ガスの作用によって、液吐出部周辺へ溶媒を噴霧でき、同様に、液吐出部El1、El2に紡糸液構成ポリマーを固化させることなく、長時間の安定した紡糸が可能である。具体的には、溶媒吐出部Esは液吐出部El1、El2のいずれよりも5〜20mm上流側に位置しているのが好ましく、10〜15mm上流側に位置しているのがより好ましい。
なお、図4の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsの吐出方向中心軸Asとガス吐出ノズルNgの吐出方向中心軸Agとが平行であるように、溶媒吐出ノズルNsをガス吐出ノズルNgの外壁面に当接させているが、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスに対して溶媒を供給できるのであれば、このように配置している必要はない。例えば、液吐出部Elよりも上流側のガス仮想柱状部Hvgに溶媒吐出部Esが位置するように配置することもできる。
なお、図4(a)には図示していないが、液吐出ノズルNl1、Nl2は紡糸液貯蔵装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)に接続されており、ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されており、溶媒吐出ノズルNsは溶媒供給装置(例えば、液相ポンプ、チューブポンプ、マイクロギアポンプなど)に接続されている。
図4においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を高めることができる。
また、図4においては、液吐出ノズルNl1、Nl2、ガス吐出ノズルNg及び溶媒吐出ノズルNsを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図4の態様に限定されない。例えば、段差を有する基材に対して液用柱状中空部Hl1、Hl2、ガス用柱状中空部Hg及び溶媒吐出ノズルNsの中空部を穿孔したものであっても良い。また、液吐出ノズルNl1、Nl2の液吐出部El1、El2、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Eg、及び/又は溶媒吐出ノズルNsの溶媒吐出部Esの位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。
なお、図1、図4の紡糸装置においては、溶媒吐出ノズルNsを使用しているが、液吐出部に対して直接溶媒を噴霧できるノズルを使用することができる。また、液体溶媒ではなく、バブリング方式などにより気化した溶媒を、液吐出部に直接又は間接的に供給して、液吐出部における紡糸液構成ポリマーの固化を防止することができる。
本発明の不織布製造装置について、不織布製造装置の模式的断面説明図である図7を参照しながら説明する。本発明の不織布製造装置は前述のような紡糸装置1に加えて、紡糸されて飛翔する繊維の飛翔方向を変更して効率よく繊維を捕集させることのできる集積用エアブロー装置2を、紡糸装置1の液吐出ノズルからの吐出方向に対して直角方向上方に備えている。また、繊維を捕集できるベルト状の捕集体3を、前記集積用エアブロー装置2に対向して配置している。更に、飛翔方向が変更された繊維を吸引して確実に捕集体3で捕集できるように、繊維を導くサクション装置4を、前記集積用エアブロー装置2に対向しており、しかも捕集体3の繊維捕集面とは反対面側に備えている。
この不織布製造装置により不織布を製造する場合、まず、紡糸装置1から紡糸液を吐出するとともに、ガスを吐出し、紡糸液に対して、ガス及び随伴気流の剪断力を作用させて引き伸ばして繊維化させる。この繊維はガスの作用によって紡糸液の吐出方向に飛翔するが、重力に作用により、また、集積用エアブロー装置2からのエアブローによって、その飛翔方向が重力方向に変更させられる。この飛翔方向が変更した繊維はサクション装置4による吸引作用を受け、重力方向に飛翔し、捕集体3に到達し、捕集されて不織布を形成する。同時に、溶媒がガスへ供給され、溶媒が液吐出部へ噴霧されて、紡糸液構成ポリマーの固化を防止できるため、長時間にわたって紡糸を実施でき、安定して不織布を製造することができる。
図7の不織布製造装置においては、繊維の飛翔方向を変更して効率よく繊維を捕集させることのできる集積用エアブロー装置2を備えている。このような集積用エアブロー装置2を備えていることによって、不織布の生産性を高めるために紡糸装置1を2台以上使用した場合であっても、コンパクトな不織布製造装置とすることができる。つまり、紡糸装置1を2台以上使用し、紡糸液を重力の作用方向と同じ方向に吐出した場合には、2台以上の紡糸装置1に相当するだけの捕集領域を必要とするため、その捕集領域に相当するサクション装置が必要となるが、紡糸装置1を2台以上使用し、紡糸液を重力の作用方向と直角方向に吐出した後に、集積用エアブロー装置2により飛翔方向を変更した場合には、繊維の捕集領域を紡糸装置に相当する幅よりも狭くすることができ、結果としてサクション装置4をコンパクト化することができるため、コンパクトな不織布製造装置とすることができる。
なお、集積用エアブロー装置2による繊維の飛翔方向の変更方向は、特に限定するものではないが、効率的に繊維を捕集できるように、図7のように重力の作用方向であるのが好ましい。
本発明の不織布製造装置は繊維を捕集できる捕集体3を備えているため、不織布を製造することができる。この捕集体3は繊維を直接集積できるものであれば何でも良く、例えば、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、ベルト或いは平板を捕集体として使用できる。なお、図7においては、集積用エアブロー装置2によるエアブローによって繊維を捕集体3方向へ導くとともに、サクション装置4によってエアを吸引しているため、捕集体3は通気性である。
図7においては、繊維を捕集できるベルト状の捕集体3を、集積用エアブロー装置2に対向して配置しているため、確実に繊維を捕集することができる。しかしながら、図7の不織布製造装置とは異なり、集積用エアブロー装置2を設置せず、紡糸装置のガス吐出部Egと対向して捕集体を設置することができる。特には、ガスの吐出方向中心軸Agと直角であるように捕集体の捕集面が位置するように配置することができる。
図7における不織布製造装置においては、捕集体3の繊維捕集面とは反対面側にサクション装置4を設置している。そのため、確実に繊維を捕集することができ、また、集積用エアブロー装置2によるエアブローによって捕集して形成した不織布の地合いの悪化を防ぐことができる。
図7の不織布製造装置は開放空間に設置された状態にあるが、紡糸装置1、集積用エアブロー装置2、捕集体3、及びサクション装置4を紡糸容器に収納し、閉鎖空間とするのが好ましい。このような紡糸容器により閉鎖空間とすることによって、紡糸液から揮発した溶媒の飛散を防ぎ、場合によっては溶媒を回収して再利用することができるためである。また、紡糸容器に紡糸装置1、集積用エアブロー装置2、捕集体3、及びサクション装置4を収納した場合、サクション装置4とは別に紡糸容器内の気体を排気する排気装置を接続するのが好ましい。紡糸を行っていると、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制されるため、繊維径のバラツキが発生しやすく、また繊維化されにくくなる傾向があるためである。また、紡糸容器に温湿度を調整した気体を供給できる供給装置を接続するのが好ましい。紡糸容器内における溶媒蒸気濃度を安定させ、繊維径のバラツキを小さくできるためである。
また、紡糸液に対して電界を作用させるようにすることもできる。このように紡糸液に対して電界を作用させることにより、気体の剪断作用によって延伸されず、液滴となりやすい紡糸液も引き伸ばされて繊維化するため、安定して不織布を製造することができる。また、電界の作用によって、繊維が帯電し、互いの繊維が反発することによって、繊維同士が結着した繊維束を形成せず、個々の繊維が分散した状態で捕集されるため、繊維径の揃った不織布を製造できる、という効果も奏する。なお、紡糸液に対して電界を作用させる方法としては、例えば、液吐出ノズル(Nl、Nl1、Nl2)又は液吐出ノズル(Nl、Nl1、Nl2)内に挿入した導電体(例えば、ワイヤー)と、捕集体3又は捕集体3の捕集面と反対面側に位置する導電体(例えば、導電板)に対して、印加又は印加せず、電位差を生じるようにする方法がある。
このような本発明の不織布製造装置を用いて不織布を製造する場合、紡糸装置1のガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出するのが好ましい。ガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、細径化した繊維を含む不織布を製造しやすいためである。好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、より好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限は繊維化できる限り、特に限定するものではない。このような流速のガスを吐出するには、例えば、圧縮機からガス用柱状中空部Hgにガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気は経済的である。
本発明の製造方法に使用できる紡糸液は所望ポリマーを溶媒に溶解させたものであれば良く、特に限定するものではない。例えば、ポリエチレングリコール、(部分けん化又は完全けん化)ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリグリコール酸、アクリル系樹脂(ポリアクリロニトリル、共重合ポリアクリロニトリル)、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フッ素系樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン、共重合ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリウレタン、パラ又はメタ系アラミド、或いはセルロース系など1種又は2種以上のポリマーを、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなど1種又は2種以上の溶媒に溶解させたものを使用することができる。
なお、紡糸時の紡糸液の粘度は10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向がある。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。本発明における「粘度」は、粘度測定装置を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
なお、液吐出部からの紡糸液の吐出量は紡糸液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、1つの液吐出部あたり0.1〜100cm3/時間であるのが好ましい。
また、「紡糸液構成ポリマーを溶解させることのできる溶媒」とは、25℃の溶媒100gに対して紡糸液構成ポリマーを1g添加し、24時間攪拌した後に、添加したポリマーを10mass%以上溶解させることのできる溶媒をいう。
なお、溶媒は紡糸液構成ポリマーを溶解させることができる限り、紡糸液を構成する溶媒と同じ溶媒であっても良いし、異なる溶媒であっても良い。例えば、紡糸液がポリアクリロニトリルをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させたものである場合、ポリアクリロニトリルの固化を防止できる溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド及び/又はジメチルスルホキシドなどを使用することができる。
本発明の不織布製造装置が2つ以上の液吐出ノズルを有する場合、いずれの液吐出ノズルからも同じ条件で紡糸液を吐出することができるし、2種以上の吐出条件で紡糸液を吐出することもできる。後者のように2種以上の吐出条件で紡糸液を吐出した場合、これら吐出された紡糸液に作用するガスは同じであるため、異なった種類の繊維を紡糸することができ、結果として異なった種類の繊維が均一に混在した地合いの優れる不織布を製造することができる。
この「2種以上の吐出条件」とは全く同一ではないことを意味し、例えば、液吐出部の外形が異なる、液吐出部の大きさが異なる、液吐出部のガス吐出部からの距離が異なる、紡糸液の吐出量が異なる、紡糸液の濃度が異なる、紡糸液構成ポリマーが異なる、紡糸液の粘度が異なる、紡糸液の溶媒が異なる、紡糸液構成ポリマーが2種類以上である場合にはその配合比率が異なる、紡糸液構成溶媒が2種類以上である場合にはその配合比率が異なる、紡糸液の温度が異なる、紡糸液に添加されている添加剤の種類及び/又は量が異なる、などのこれら1つ、又は2つ以上が異なる。これらの中でも紡糸液を構成するポリマーが同じであっても濃度が異なる、又は紡糸液を構成するポリマーが同じであっても溶媒が異なると、繊維径の異なる2種類以上の繊維が均一に混在した地合いの優れる不織布を製造することができ、紡糸液を構成するポリマーが異なると、繊維構成ポリマーの異なる2種類以上の繊維が均一に混在した地合いの優れる不織布を製造することができる。