本発明の一実施例について、図1乃至図9を用いて説明する。
図1を参照して、燃料噴射弁1の全体構成について説明する。図1は、燃料噴射弁1の弁軸心(中心軸線)1aに沿う断面(縦断面)を示す断面図である。中心軸線1aは、後述する弁体17が一体に設けられた可動子27の軸心に一致し、後述する筒状体5の中心軸線に一致している。
燃料噴射弁1には、金属材製の筒状体5によって、その内側に燃料流路3がほぼ中心軸線1aに沿うように構成されている。筒状体5は、磁性を有するステンレス等の金属素材を用い、深絞り加工等のプレス加工により中心軸線1aに沿う方向に段付きの形状に形成されている。これにより、筒状体5は、一端側5aの径が他端側5bの径に対して大きくなっている。図1においては、一端側に形成された大径部5aが、他端側に形成された小径部5bの上側になるように描いてある。
この図1において、上端部(上端側)を基端部(基端側)と呼び、下端部(下端側)を先端部(先端側)と呼ぶことにする。或いは、上端部(上端側)又は下端部(下端側)と呼ぶ場合もあるが、これは図1を基準とするもので、燃料噴射弁1の内燃機関への搭載時における上下方向とは関係がない。
筒状体5の基端部には燃料供給口2が設けられ、この燃料供給口2に、燃料に混入した異物を取り除くための燃料フィルタ13が取り付けられている。燃料フィルタ13は、筒状の芯金13aと、樹脂材料製のフレーム13bと、メッシュ状のフィルタ本体13cとで構成されている。フレーム13bの樹脂材料は、例えば、ナイロン、フッ素樹脂等であり、芯金13aと一体に成形されている。フィルタ本体13cはフレーム13bに取り付けられ、芯金13aが筒状体5の大径部5aの内側に圧入されることにより、筒状体5の基端部に固定されている。
筒状体5の基端部は径方向外側に向けて拡径するように曲げられた曲がり部(拡径部)5dが形成され、曲がり部5dとカバー47の基端側端部47aとで形成される環状凹部(環状溝部)にOリング11が配設されている。
筒状体5の先端部には、弁体17と弁座部材15とからなる弁部7が構成されている。弁座部材15は、弁体17を収容する段付きの弁体用孔15aを有し、弁体用孔15aの途中に形成された円錐面上に弁座15bが構成され、この弁座15bの上流側(基端側)に弁体17を中心軸線1aに沿う方向に案内するガイド面15cが形成されている。なお、ガイド面15cの上流側には、上流側に向かって拡径する拡径部15dが形成されている。拡径部15dは弁体17の組付けを容易にすると共に、燃料通路断面を拡大するのに役立っている。
弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に挿入され、レーザ溶接により筒状体5に固定されている。レーザ溶接19は、筒状体5の外周側から全周に亘って実施されている。弁体用孔15aは弁座部材15を中心軸線1aに沿う方向に貫通しており、中間プレート21a(図2A参照)と噴射孔プレート21b(図2A参照)とが積層されて構成された噴射部21が、弁体用孔15aによる先端側の開口を塞ぐように、弁座部材15の先端側端面に取り付けられている。噴射部21は、中間プレート21aと噴射孔プレート21bとを積層した状態で、弁座部材15に対してレーザ溶接することにより、固定されている。レーザ溶接部23は、噴射孔22が形成された噴射孔形成領域を取り囲むようにして、この噴射孔形成領域の周囲を一周している。弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に圧入した上で、レーザ溶接により筒状体5に固定してもよい。
本実施例では、弁体17は、球状を成すボール弁を用いている。このため、弁体17におけるガイド面15cと当接する部位には、周方向に間隔を置いて複数の切欠き面17aが設けられ、この切欠き面17aによって燃料流路が構成されている。ボール弁以外で弁体17を構成することも可能である。例えば、特許文献1に記載されているような、燃料噴射側端面が平面状に形成されたノズルニードルを用いてもよい。
筒状体5の中間部には弁体17を駆動するための駆動部9が配置されている。駆動部9は電磁アクチュエータで構成されている。具体的には、駆動部9は、筒状体5の内部(内周側)に固定された固定鉄心25と、筒状体5の内部において固定鉄心25に対して先端側に配置され、中心軸線1aに沿う方向に移動可能な可動子(可動部材)27と、固定鉄心25と可動鉄心27とが微小ギャップδを介して対向する位置で筒状体5の外周側に外挿された電磁コイル29と、電磁コイル29の外周側で電磁コイル29を覆うヨーク33とによって構成されている。可動子27に構成された可動鉄心27aと固定鉄心25とヨーク33とは、電磁コイル29に通電することにより生じた磁束が流れる閉磁路を構成する。磁束は微小ギャップδを通過するが、微小ギャップδの部分で筒状体5を流れる漏れ磁束を低減するため、筒状体5の微小ギャップδに対応する位置に、磁気絞り5cが設けられている。この磁気絞りは、筒状体5に対する非磁性化処理、或いは筒状体5の外周面に形成した環状凹部によって構成することができる。
電磁コイル29は、樹脂材料で筒状に形成されたボビン31に巻回され、筒状体5の外周側に外挿されている。電磁コイル29はコネクタ41に設けられたコネクタピン43に配線部材45を介して電気的に接続されている。コネクタ41には図示しない駆動回路が接続され、コネクタピン43及び配線部材45を介して、電磁コイル29に駆動電流が通電される。
固定鉄心25は、磁性金属材料からなる。によって作られており、固定鉄心25は筒状に形成され、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する貫通孔25aを有する。固定鉄心25は、筒状体5の小径部5bの基端側に圧入固定され、筒状体5の中間部に位置している。小径部5bの基端側に大径部5aが設けられていることにより、固定鉄心25の組付けが容易になる。固定鉄心25は溶接により筒状体5に固定してもよいし、溶接と圧入を併用して筒状体5に固定してもよい。
可動子27は、基端側に大径部27aが形成されており、この大径部27aが固定鉄心25と対向する可動鉄心27aを構成する。可動鉄心27aの先端側には小径部27bが形成されており、この小径部27bの先端に弁体17が溶接により固定されている。この小径部27bは可動鉄心27aと弁体17とを接続する接続部27bを構成する。本実施例では、可動鉄心27aと接続部27bとを一体(同一材料からなる一部材)に形成しているが、二つの部材を接合して構成してもよい。本実施例では、弁体17を可動子27と別の構成要素としているが、弁体17を可動子27の一部に含めてもよい。また、可動鉄心27aの外周面が筒状体5の内周面に接触することにより、可動子27は中心軸線1aに沿う方向(開閉弁方向)における移動を案内される。可動鉄心27aの外周面と筒状体5の内周面との摺動抵抗を低減するように符号27gで示す位置(可動鉄心27aの外周面)に周方向に沿って環状の突部を形成してもよい。
可動鉄心27aには、固定鉄心25と対向する端面に開口する凹部27cが形成されている。凹部27cの底面にはスプリング(コイルばね)39のばね座となる環状面27eが形成されている。環状面27eの内周側には中心軸線1aに沿って小径部(接続部)27bの先端側端部まで貫通する貫通孔27fが形成されている。また、小径部27bには側面に開口部27dが形成されている。小径部27bの外周面と筒状体5の内周面との間には背圧室37が形成されている。貫通孔27fが凹部27cの底面に開口し、開口部27dが小径部27bの外周面に開口することにより、可動子27の内部に、可動子27の基端部側と可動子27の側面部に形成された背圧室37とを連通する燃料流路3が構成される。
固定鉄心25の貫通孔25aと可動鉄心27aの凹部27cとに跨って、コイルばね39が圧縮状態で配設されている。コイルばね39は、可動子27を、弁体17が弁座15bに当接する方向(閉弁方向)に付勢する付勢部材として機能している。固定鉄心25の貫通孔25aの内側にはアジャスタ35が配設されており、コイルばね39の基端側端部はアジャスタ35の先端側端面に当接している。中心軸線1aに沿う方向におけるアジャスタ35の貫通孔25a内での位置を調整することにより、コイルばね39による可動子27(すなわち弁体17)の付勢力が調整される。
アジャスタ35は、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する燃料流路3を有する。燃料は、アジャスタ35の燃料流路3を流れた後、固定鉄心25の貫通孔25aの先端側部分の燃料流路3に流れ、可動子27内に構成された燃料流路3に流れる。
ヨーク33は、磁性を有する金属材料でできており、燃料噴射弁1のハウジングを兼ねている。ヨーク33は大径部33aと小径部33bとを有する段付きの筒状に形成されている。大径部33aは電磁コイル29の外周を覆って円筒形状を成しており、大径部33aの先端側に大径部33aよりも小径の小径部33bが形成されている。小径部33bは筒状体5の小径部5bの外周に圧入されている。これにより、小径部33bの内周面は筒状体5の外周面に密着するようにして接触している。このとき、小径部33bの内周面の少なくとも一部は、可動鉄心27aの外周面と筒状体5を介して対向しており、この対向部分における閉磁路の磁気抵抗を小さくしている。
ヨーク33の先端側端部には環状凹部33cが形成されており、環状凹部33cの底面に形成された薄肉部において、ヨーク33と筒状体5とがレーザ溶接24により全周に亘って接合されている。ヨーク33は、その先端側端部が弁座部材15の基端側端部に対して先端側に位置している。このため、ヨーク33と弁座部材15とが中心軸線1aに沿う方向において重複する範囲に設けられており、筒状部5の先端部を補強している。なお、弁座部材15のレーザ溶接部19はヨーク33の先端側端部よりもさらに先端側に位置しており、弁座部材15とヨーク33との組み付け順序に制約が生じないようにしている。
筒状体5の先端部にはフランジ部49aを有する円筒状のプロテクタ49が外挿され、筒状体5の先端部がプロテクタ49によって保護されている。プロテクタ49はヨーク33のレーザ溶接部24の上を覆っている。
プロテクタ49のフランジ部49aと、ヨーク33の小径部33bと、ヨーク33の大径部33aと小径部33bとの段差面とによって環状溝34が形成され、環状溝34にOリング46が外挿されている。Oリング46は、燃料噴射弁1が内燃機関に取り付けられる際に、内燃機関側に形成された挿入口105a(図7参照)の内周面とヨーク33における小径部33bの外周面との間で液密及び気密を確保するシールとして機能する。
燃料噴射弁1の中間部から基端側端部の近傍までを、樹脂カバー47がモールドされて被覆している。樹脂カバー47の先端側端部はヨーク33の大径部33aの基端側の一部を被覆している。また、樹脂カバー47は配線部材45を被覆し、樹脂カバー47によりコネクタ41が一体的に形成されている。
次に、燃料噴射弁1の動作について説明する。
電磁コイル29に通電されていない(すなわち駆動電流が流れていない)場合、可動子27はコイルばね39により閉弁方向に付勢され、弁体17が弁座15bに当接(着座)した状態にある。この場合、固定鉄心25の先端側端面と可動鉄心27aの基端側端面との間には、ギャップδが存在する。なお、本実施例では、このギャップδは可動子27(すなわち弁体17)のストロークに等しい。
電磁コイル29に通電されて駆動電流が流れると、可動鉄心27aと固定鉄心25とヨーク33とによって構成される閉磁路に磁束が発生する。この磁束により、ギャップδを挟んで対向する固定鉄心25と可動鉄心27aとの間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が、コイルばね39による付勢力や、可動子27に対して閉弁方向に作用する燃料圧力などの合力に打ち勝つと、可動子が開弁方向に移動し始める。弁体17が弁座15bから離れると弁体17と弁座15bとの間に隙間(燃料流路)が形成され、燃料の噴射が始まる。本実施例では、可動子27が開弁方向にギャップδに等しい距離δだけ移動して、可動鉄心27aが固定鉄心25に当接すると、可動鉄心27aは開弁方向への移動を止められ、開弁して静止した状態に至る。
電磁コイル29に通電を打ち切ると、磁気吸引力が減少し、やがて消失する。この段階で、磁気吸引力がコイルばね39の付勢力よりも小さくなると、可動子27が閉弁方向へ移動を開始する。弁体17が弁座15bに当接すると、弁体17は弁部7を閉弁して静止した状態に至る。
なお、可動鉄心27aと固定鉄心25との間に作用するスクイズ力を低減するために、可動鉄心27aの固定鉄心25と対向する端面に突起を設ける場合がある。このような場合は、弁体17の移動距離(ストローク)はギャップδから突起高さを差し引いた大きさになる。また、可動鉄心27aと固定鉄心25とが接触する前に、可動子27の開弁方向への移動を制限するストッパを設ける場合もある。
次に、図2A、図2B及び図3を参照して、弁部7及び噴射部21について、詳細に説明する。図2Aは、弁部7及び噴射部21を拡大して示す断面図である。図2Bは、図2Aに示す噴射部21を矢印IIB方向から見た外観図(平面図)である。図3は、噴射孔プレート21bの基端側端面(上面)を示す平面図(図2AのIII−III矢視図)であり、図2Bに示す面の裏面側を示している。
噴射部21は、中間プレート21aと噴射孔プレート21bとが中心軸線1a方向に積層された2重プレート構造となっている。噴射孔プレート21bは中間プレート21aに対して先端側に配置されている。中間プレート21aと噴射孔プレート21bとはステンレス等の金属板によって形成されている。また、中間プレート21aと噴射孔プレート21bとはほぼ等しい半径を有する円形をしており、それぞれの外周が筒状体5の内周面に当接し、中間プレート21a及び噴射孔プレート21bの外周と筒状体5の内周面との間に隙間が形成されないようにしている。
弁部7を構成する弁座部材15の、弁座15bが形成された円錐面の下流側端部(先端側端部)には、中心軸線1aを中心軸とする半径Raの円筒面(内周面)15eによって形成された貫通孔が接続されている。円筒面15eにより、弁座部材15の先端側端面に開口面15fが形成される。また、円筒面15eは中間プレート21aの上流側に燃料室51を形成している。
噴射孔プレート21bの中央部には、中心軸線1a上に中心をもつ半径Rcの範囲に膨出部52が形成されている。膨出部52は中間プレート21aの先端側端面(下面)と噴射孔プレート21bの内面(上面)との間に燃料室53を形成している。図2Aに示すように、膨出部52は中間プレート21aとは反対側に突出する球状面として形成されている。膨出部52が形成された範囲の半径Rcは、円筒面15eの半径Rdに等しいか、半径Rdよりも大きい。噴射孔プレート21bは膨出部52の外周側に形成された平坦部(平面部)52aが中間プレート21aに接触しており、この平坦部52aで中間プレート21aとともに弁座部材15に溶接接合されている。
中間プレート21aの中央部には、中間プレート21aの上流側の燃料室51と下流側の燃料室53とを連通する連通孔54が形成されている。連通孔54は燃料室51から燃料室53に燃料を供給する燃料供給口(燃料導入口)54を構成する。燃料供給口54は中心軸線1a上に中心をもつ半径がRaで直径がφの円形に形成されている。図2Aに示すように、燃料供給口54の半径Raは膨出部52の半径Rcよりも小さい。
燃料供給口54の開口面に対向する噴射孔プレート21bの内壁面には、上側(燃料供給口54の開口面側)に向けて凸となる逆突状面57が形成されている。本実施例では、この逆突状面57を球状面で構成している。逆突状面57は、燃料室53の中心から、燃料供給口54の開口縁の直下Paよりも外周側に及ぶ範囲に設けられている。すなわち、逆突状面57は中心軸線1aに中心をもつ半径Rbの範囲に形成され、この半径Rbは燃料供給口54の半径Raよりも大きい。したがって、逆突状面57によって形成される傾斜面の外周は、複数の噴射孔56の入口側開口面の半径位置Roよりも径方向内側にあり、燃料導入口54の半径位置Raよりも外側にある。
本実施例では、半径Rc/2の範囲の外側に噴射孔56の入口側開口面を開口させている。なお、Rcは上述したように膨出部52が形成される噴射孔プレート21b上における膨出部52の形成範囲の半径である。また、複数の噴射孔56の入口側開口面は、傾斜面に開口している。この傾斜面は、燃料導入口(燃料供給口)54と対向する燃料室53の内壁面に形成され、外周側が中心側に対して燃料導入口54の形成された燃料室内壁面に近づくように傾斜している。
逆突状面57は燃料供給口54から燃料室53に流入し、噴射孔プレート21bの内壁面にぶつかる流れを噴射孔56が形成された外周側に向けて誘導する誘導面を構成する。このために、逆突状面57は、外周側が中心側(内周側)に対して低くなるように形成されている。或いは、外周側が中心側(内周側)に対して先端側に位置するように傾斜した傾斜面を形成する。或いは、外周側が中心側(内周側)に対して燃料供給口54から離れる側に下降するように傾斜した傾斜面を形成する。図2Aでは、燃料供給口54の開口縁の直下Paで逆突状面57に接する接平面(接線)Pbが水平面Pcとの間に成す角度をθ57としている。この構成により、燃料供給口54から中心軸線1aに沿う方向に向かって燃料室53に流入した流れは、径方向外側に向かう方向に速やかに向きを変えて流れる。これにより流速の低下が少なく、高速の横流れを噴射孔56の入口開口面に供給することができる。
燃料供給口54の開口縁と逆突状面57との間の隙間δaによって形成される環状の燃料流路の断面積S57は、燃料供給口54の開口面積S54よりも小さい(S57<S54)。これにより、燃料供給口54から燃料室53に十分な量の燃料を供給できる。また、隙間δaによって形成される環状流路の絞り効果により、この環状流路から外周側に向かう燃料流れの流速を高めることができる。
また、逆突状面57を設けたことにより、弁座15bと噴射孔56との間の燃料流路に形成されるデッドボリュームを小さくすることができる。本実施例では、特に燃料室53のデッドボリュームを小さくすることができる。逆突状面57球面状に形成したが、例えば円錐面状形成してもよい、このとき、頂点部分は形成せず、平坦面にしてもよい。
ここで、図4、図5及び図10に、燃料室53の形状を変更した例を示す。
図4は、図2Aと同様な断面において、中間プレート21aと噴射孔プレート21bのみを示した断面図である。本例では、中間プレート21aの燃料供給口54の下流側開口縁に傾斜面(切欠き面)58を形成している。この傾斜面58により、燃料供給口54から燃料室53の外周側に向かって形成される燃料流路を、その断面積が漸減するように構成することができる。これにより、隙間δaによって形成される環状流路の絞り効果により流速を高めた燃料流れを、減速させることなく噴射孔56の入口開口面に供給することができる。また、本例では、燃料供給口54の下流側開口縁に傾斜面(切欠き面)58を形成するだけでよいので、加工が容易であり、生産性を高めることができる。このためには、中間プレート21aの厚み寸法をある程度大きくすることが望ましく、噴射孔プレート21bの厚み寸法よりも大きくすることが望ましい。
図5は、図2Aと同様な断面において、中間プレート21aと噴射孔プレート21bのみを示した断面図である。本例では、中間プレート21aに曲げ加工を加え、燃料供給口54の開口縁の外周側に、基端側から見て、環状を成して谷折り状に曲げられた曲げ部59を形成している。このとき、燃料供給口54の上流側開口縁は、中心軸線1aに沿う方向において、中間プレート21aの外周側の平坦部と同じ高さ位置になるようにしている。これにより、燃料室53に形成される径方向外側に向かう燃料流路の断面積が、漸減するように構成している。これにより、隙間δaによって形成される環状流路の絞り効果により流速を高めた燃料流れを、減速させることなく噴射孔56の入口開口面に供給することができる。本例では、径方向の広い範囲に亘って断面積を調整するのに都合がよい。また、曲げ部59は燃料供給口54とともにプレス加工によって加工することができる。
図10は、図2Aと同様な断面において、中間プレート21aと噴射孔プレート21bのみを示した断面図である。図10に示すように、燃料供給口54をベルマウス状に形成してもよい。これにより、燃料供給口54の上流側から燃料流れが燃料室53にスムースに流れ込むようになり、燃料室53内の燃料流れの流速が速くなる。
噴射孔56の入口側開口面が形成された膨出部52の少なくとも内壁面(上面)は、径方向に湾曲した曲面で構成されている。この曲面は、例えば、球面にしてもよい。この球面は椀状の面を成す。このため、図3のFfで示す燃料流れは、噴射孔56の入口開口面上において、椀状面によって案内されなくなる。椀状面によって案内されなくなった流れは、噴射孔56の内周面(内壁面)のうち、外周側に位置する半円部分(図7AのRAで示す範囲)に衝突し、噴射孔56への流入を促される。この燃料流れの噴射孔56内での挙動については、後で詳述する。
図2Bに示すように、噴射部21の先端面(噴射孔プレート21bの先端側端面)には、噴射孔56−1〜56−6の出口側開口面56−1b〜56−6bが6個形成されている。図2Bでは、円筒面15e及び燃料供給口54を二点鎖線で、また噴射孔56−1〜56−6の入口側開口面を破線で示している。噴射孔56−1〜56−6の入口側開口面は半径Roの円周上に配置されている。なお、図2Bに示す中心Oaは、中心軸線1aが噴射孔プレート21bと交差する交点であり、噴射部21の先端面における中心を表している。
ここで、図2B及び図3を参照して、噴射部21について、さらに詳細に説明する。
膨出部52には、複数の噴射孔56(56−1〜56−6)が形成されている。図3では、噴射孔56−1〜56−6の入口側開口面56−1a〜56−6aが中心軸線1a上に中心Obをもつ半径Roの円周上に配置されている。図3には、噴射孔56−1〜56−6の出口側開口面56−1b〜56−6bを破線で示している。
本実施例では、噴射孔56−1〜56−3は、図4上において、左側に向けて燃料を噴射する。また、噴射孔56−4〜56−6は、図4上において、右側に燃料を噴射する。噴射孔56の個数については、本実施例の個数(6個)に限定される必要はなく、例えば、4,8,12個、或いはその他の個数にしてもよい。
本実施例では、噴射孔56−2及び56−5は、中心線CLaに対して垂直方向(中心線CLaに対して平行な方向)に燃料を噴射するように(図2B参照)、入口側開口面56−2a及び56−5aに対して出口側開口面56−2b及び56−5bが径方向外側(径方向外周側)にずれた位置に配置されている。噴射孔56−1及び56−4は、中心線CLcに対して中心線CLb側に傾いた方向に燃料を噴射するように(図2B参照)、入口側開口面56−1a及び56−4aに対して出口側開口面56−1b及び56−4bが径方向外側(径方向外周側)にずれた位置で、かつ中心線CLaから離れる方向にずれた位置に配置されている。噴射孔56−3及び56−6は、中心線CLdに対して中心線CLb側に傾いた方向に燃料を噴射するように(図2B参照)、入口側開口面56−1a及び56−4aに対して出口側開口面56−1b及び56−4bが径方向外側(径方向外周側)にずれた位置で、かつ中心線CLaから離れる方向にずれた位置に配置されている。
これにより、噴射孔56−2及び56−5の中心軸線は、中心線CLb上に重なる。また、噴射孔56−1,56−3,56−4,56−6の中心軸線CL56−1,CL56−3,CL56−4,CL56−6は、図3に示すような傾きを有する。噴射孔56−1,56−3,56−4,56−6は、その中心軸線CL56−1,CL56−3,CL56−4,CL56−6を、中心線CLbに平行になるように傾斜させてもよい。
中心線CLaよりも左側に配置された噴射孔56−1〜56−3から噴射される各燃料噴霧の噴射方向Ds1〜Ds3は、中心軸線1aに直交する平面(例えば図2B上)に投影した場合、それぞれが概ね左方向を指向する。一方、中心線CLaよりも右側に配置された噴射孔56−4〜56−6から噴射される各燃料噴霧の噴射方向Ds4〜Ds6は、中心軸線1aに直交する平面(例えば図2B上)に投影した場合、それぞれが概ね右方向を指向する。噴射孔56−1〜56−3から噴射される各燃料噴霧と噴射孔56−4〜56−6から噴射される各燃料噴霧とは、中心線CLaを境として反対方向に噴射される。噴射孔56−1〜56−3から噴射される各燃料噴霧がまとまって一方向に噴射される燃料噴霧を形成し、噴射孔56−4〜56−6から噴射される各燃料噴霧がまとまって他方向に噴射される燃料噴霧を形成し、二方向に噴射される燃料噴霧(二方向噴霧)を形成する。
図3において、中心線CLa,CLb,CLc及びCLdは、中心Obを通る。このとき、中心線CLb,CLc及びCLdの間に形成される角度は均等(60°)に設けているが、各中心線の間の角度を異ならせてもよい。例えば中心線CLcとCLdとの間の角度を、中心線CLbとCLcとの間の角度及び中心線CLbとCLdとの間の角度よりも大きくしてもよい。
図2B及び図3では、二方向に噴射される燃料噴霧を形成する場合の構成を説明したが、一方向に噴射される燃料噴霧を形成する場合は、噴射孔56−1,56−3,56−4,56−6を次のように形成してもよい。噴射孔56−1及び56−4はその中心軸線CL56−1及びCL56−4が中心線CLcに平行になるように形成する。噴射孔56−3及び56−6は、その中心軸線CL56−3及びCL56−6が中心線CLdに平行になるように形成する。これにより、噴射孔56−1,56−3,56−4,56−6から噴射される燃料の噴射方向は、中心Oa(図2A)から放射状に描かれる。
本実施例では、噴射部21を中間プレート21aと噴射孔プレート21bとで構成したが、中間プレート21aの機能を弁座部材15で兼ねることもできる。
図6、図7A〜図7D及び図8を参照して、噴射孔56内における燃料流れの挙動について説明する。図6は、図2Aにおける噴射孔56−5の部分を拡大して示した断面図である。図7Aは、図6のA−A矢視面における燃料流れを示す模式図である。図7Bは、図6のB−B矢視断面における燃料流れを示す模式図である。図7Cは、図6のC−C矢視断面における燃料流れを示す模式図である。図7Dは、図6のD−D矢視面における燃料流れを示す模式図である。図8は、噴射部21を先端側から見た図であり、各噴射孔56から噴射される燃料噴霧とともに描いた平面図である。
図7Aにおいて、燃料室53の中心側から径方向外側(外周方向)へ流れる燃料流れFfaは、噴射孔56に流入する。また、燃料室53の中心側から径方向外側へ向けて流れる燃料流れFfaのうち、噴射孔56に流入しなかった流れは、燃料室53の径方向端部に衝突して径方向内側に流れの向きを変える。この径方向内側に向きを変えた燃料流れは、噴射孔56の入口開口面に流れ着き、RAで示す範囲から噴射孔56に流入する。
上述したように、噴射孔56の内周面(内壁面)のうち、外周側に位置する半円部分(RAで示す範囲)に衝突した流れは、噴射孔56への流入を促される。このとき、燃料流れは、矢印Ff1で示すように、燃料流れFfaの流線方向と直交する方向の両端部から噴射孔56の内周面に沿って旋回し、燃料流れFfaの流入側から最も遠い内周面位置56Cに集中するように流れる。
図7Bに示すように、内周面位置56Cに集中する燃料流れは、噴射孔56の軸方向に流れるに従い、噴射孔56の内壁面から中心側に向かう燃料流れFf2となる。
図7Cでは、矢印Ff3で示すように、噴射孔56の中心部を通りぬけ噴射孔56を径方向に横断するように流れる。
図7B及び図7Cに示すような、噴射孔56を径方向に横断する燃料流れは、燃料が噴射孔56の軸方向に流れるに従って、縦方向(噴射孔56の軸方向)に旋回する流れを生じるために発生する。
その結果、図7Dに示すように、燃料噴霧SPはその断面(横断面)が偏平に形成される。燃料室53内の横流れの流速を高めるほど、流れは噴射孔56の内壁面に強く押し付けられ、図7A〜図7Dに示す挙動が顕著になる。また、上述したように、横流れの流線が噴射孔56の内周面(図7AのRAで示す範囲)に衝突するようにして、燃料流れの噴射孔56への流入を促進することにより、流れは噴射孔56の内壁面に強く押し付けられ、図7A〜図7Dに示す挙動が顕著になる。なお、偏平な燃料噴霧SPの長軸方向AXaおよび短軸方向AXbは、燃料流れFfaの流れ方向のみならず、噴射孔56の傾き方向の影響を受けるものと考えられる。
噴射孔56−1,56−2,56−3,56−4,56−5,56−6から噴射される各燃料噴霧が偏平な横断面形状を有することにより、図8に示すように、噴射孔56−1,56−2,56−3から噴射される燃料噴霧SP−1,SP−2、SP−3同士の干渉が起こりにくく、また、噴射孔56−4,56−5,56−6から噴射される燃料噴霧SP−4,SP−5、SP−6同士の干渉が起こりにくい。このため、噴霧が干渉することによって粒径が拡大すること防ぐことができる。これによって、微粒化された燃料噴霧を形成することができる。
図9を参照して、本発明に係る燃料噴射弁を搭載した内燃機関について説明する。図7は、燃料噴射弁1が搭載された内燃機関の断面図である。
内燃機関100のエンジンブロック101にはシリンダ102が形成されおり、シリンダ102の頂部に吸気口103と排気口104とが設けられている。吸気口103には、吸気口103を開閉する吸気弁105が、また排気口104には排気口104を開閉する排気弁106が設けられている。エンジンブロック101に形成され、吸気口103に連通する吸気流路107の入口側端部107aには吸気管108が接続されている。
燃料噴射弁1の燃料供給口2には燃料配管110が接続される。
吸気管108には燃料噴射弁1の取付け部109が形成されており、取付け部109に燃料噴射弁1を挿入する挿入口109aが形成されている。挿入口109aは吸気管108の内壁面(吸気流路)まで貫通しており、挿入口109aに挿入されて吸気管108に取り付けられた燃料噴射弁1から噴射された燃料は吸気流路内に噴射される。上述した二方向噴霧の場合、エンジンブロック101に吸気口103が二つ設けられた形態の内燃機関を対象として、それぞれの燃料噴霧が各吸気口103(吸気弁105)を指向して噴射される。