本発明の第一の形態は、酸触媒の存在下、脱水溶剤中で、上記一般式(2)で示されるアルコール(本明細書中、単に「アルコール」とも称する)と、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行った後、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤の存在下、脱水溶剤を留去する工程を含む、上記一般式(1)で示されるエステル化物の製造方法である。
本発明のエステル化物の製造方法は、エステル化反応工程後に行われる脱水溶剤の留去工程を、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤(本明細書中、単に「水溶性重合禁止剤」とも称する)の存在下で行うことを特徴とする。
なお、本明細書中、「酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する」とは、以下を意味する。まず、室温(25℃)で、安定剤を含まないアクリル酸に重合禁止剤が200×10−6g/g(200ppm)の濃度となるように溶液を調製する。調製したアクリル酸5mlを試験管に採取し、窒素雰囲気下、100℃±0.5℃の条件で温度管理をして加熱した際の、アクリル酸の重合開始までの時間が50時間以上であるとき、当該重合禁止剤は、「酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する」という。また、アクリル酸の重合開始は、調製した溶液が、上記100℃±0.5℃以内に管理した温度から、1℃温度が上昇した時点を重合開始とみなす。また、上記「窒素雰囲気下」とは、液中(液量5ml)を、300mL/分で3分間窒素バブリングした後、密閉した状態を示す。
さらに、本明細書中、「水溶性」とは、当該重合禁止剤の水に対する溶解度が、25℃で1g/100mL以上のものを指すものとする。
上述したように、従来は、エステル化物を製造する際、高分子量体の生成を抑制するために、エステル化反応時、脱水溶剤に溶解する(すなわち、有機溶剤に溶解する)重合禁止剤を添加し、また脱水溶剤の留去時には、水溶性の重合禁止剤を添加し、高分子量体の生成を抑制していた。また、特許文献1では、エステル化反応時に添加された重合禁止剤が脱水溶剤の留去時にも有効に機能しうることを利用し、水溶性の重合禁止剤の添加量を極力少なくすることによっても高分子量体の生成が抑制されることを開示している。
しかしながら、本発明者は、上記エステル化物の製造方法について詳細に検討を行った結果、特許文献1の技術をもってしてもなお、微量ではあるが、高分子量体が生成していることを見出した。そこで、本発明者は高分子量体の生成の抑制を目的としてさらに検討を行い、特定の重合禁止剤が脱水溶剤の留去工程において存在している場合、高分子量体の生成を抑制する効果が極めて高くなることを知得し、当該知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
上記一般式(1)で示されるエステル化物の製造方法では、従来、エステル化反応時、および必要に応じて脱水溶剤の留去時において、種々の重合禁止剤が用いられていたが、本発明者は、新たに、重合禁止剤の酸素の非存在下における重合禁止能に着目した。そして、重合禁止剤の特性と高分子量体の生成量との関係をより詳細に検討した結果、脱水溶剤の留去時に使用する重合禁止剤の水溶性と、酸素の非存在下における重合禁止能とを特定することにより、高分子量体の生成量を効果的に抑制することができることを見出した。
また、本発明の製造方法により得られるエステル化物は、高分子量体の含有量が極めて少量であるため、当該エステル化物を原料として重合反応を行った場合、得られる重合体も高分子量体の含有量が極めて少ない重合体が得られる。さらには、こうした高分子量ポリマーの含有量を低減することにより、種々の用途(特に、分散剤としての用途)に好適であることが明らかとなった。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の構成要件及び実施の形態等について以下に詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。
《エステル化物》
まず、本発明の製造方法により製造される、下記一般式(1)で示されるエステル化物につき、以下に説明する。
上記一般式(1)において、R1は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わす。R1が炭素原子数30を超える炭化水素基である場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能などが低下する。好適なR1の範囲はその用途により異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として用いる場合には、R1は、炭素原子数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基およびアリール基が好ましい。R1としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基などのアルキルフェニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;アルケニル基;アルキニル基などが挙げられる。これらのうち、セメント分散剤の原料として用いる場合には、上述したように、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基が好ましいものである。
また、R2Oは、炭素原子数2〜18、好ましくは炭素原子数2〜8のオキシアルキレン基である。R2Oが炭素原子数18を超えるオキシアルキレン基である場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能等が低下する。R2Oとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基などが挙げられ、これらのうち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基であることが好ましい。また、R2Oの繰り返し単位は、同一であってもあるいは異なっていてもよい。このうち、R2Oの繰り返し単位が異なる場合、すなわち、2種以上の異なる繰り返し単位を有する場合には、各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよい。
また、R3は、水素原子またはメチル基である。当該エステル化物を用いて製造した重合体をセメント分散剤の原料として用いる場合には、R3が水素原子であるエステル化物と、R3がメチル基であるエステル化物を適当な比率で混合するなどして利用することができるし、また、いずれか一方のみを利用しても良い。
さらに、nは0〜300の数であり、R2O(オキシアルキレン基)の繰り返し単位の平均付加モル数を表わす。nが300を超える場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合する際にその重合性が低下する。この平均付加モル数nも、エステル化反応により得られるエステル化物の使用目的に応じて、その最適範囲は異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として使用する場合には、平均付加モル数nは、5〜200の数が好ましく、より好ましくは8〜150である。また、増粘剤などとして用いる場合には、平均付加モル数nは、10〜250の数が好ましく、より好ましくは50〜200である。
また、n=0の場合には、当該エステル化物を合成する上での困難性(例えば、水との溶解性および沸点の観点から製造条件が極めて限られることなど)から、上記R1は炭素原子数4以上の炭化水素基が好ましい。すなわち、一般式(1)においてn=0の場合、当該エステル化物を合成する上で、その原料(すなわち、一般式(2)で示されるアルコール)をブタノール等の高沸点のものとすると好ましい。かようなアルコールを用いることにより、アルコールが生成水とともに蒸発することを抑制し、さらには生成水に対してアルコールが溶解することをも抑制するため、当該アルコール原料の一部が系外に留去されることに起因する、当該エステル化物の収率の低下を抑制することができる。
以下で詳説する本発明の製造方法によれば、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行って得られるエステル化物中に含まれる、原料のアルコール及び(メタ)アクリル酸、生成物のエステル化物またはこれらの混合物の重合により生成する二量体以上の高分子量体の含有率が極めて低いエステル化物が得られる。
なお、本明細書中、「エステル化物中の高分子量体の含有率(本明細書中、単に「高分子量体の含有率」とも称する)」は、目的とするエステル化物の測定ピーク部分の面積に対して、目的とするエステル化物の測定ピーク部分以外に検出された高分子量体の測定ピーク部分の面積の比率を表すものである。具体的には、後述する実施例で測定した方法を採用するものとする。
エステル化物中の高分子量体の含有率は、0.5%以下であると好ましく、0.4%以下であるとより好ましく、0.3%以下であると特に特に好ましい。なお、高分子量体の含有率の下限は0%である。エステル化物中の高分子量体の含有率が0.5%以下であると、当該エステル化物が利用される(特に重合して利用される)各種用途、たとえば、セメント分散剤のほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等の基本性能を向上させることができる。特に、セメント分散剤への利用を図る場合、セメント分散性能やスランプ保持性能を良好にすることができる。
《エステル化物の製造方法》
次に、本発明の特徴的な要素である、エステル化物の製造方法について詳説する。
本発明のエステル化物の製造方法は、一般式(2)
(ただし、R1、R2Oおよびnは上記一般式(1)と同様の定義であるため、その説明を省略する)
で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行ってエステル化物を得るものである。本発明の製造方法によれば、得られるエステル化物中に含まれる、(メタ)アクリル酸、生成物のエステル化物またはこれらの混合物の重合により生成する二量体以上の高分子量体の含有率が極めて低いエステル化物を得ることができる。なお、本明細書において使用される「高分子量体の生成率(または含有率)」は、実施例に記載の測定条件・方法にて測定され、算出された値を採用するものとする。
本発明のエステル化物の製造方法は、主として、(I)エステル化反応工程、(II)酸触媒の中和工程、(III)脱水溶剤留去工程に大別されるが、少なくとも、脱水溶剤留去工程を、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤の存在下で行うことを必須とする。なお、(II)の工程は必要に応じて任意で行われうるものである。
したがって、脱水溶剤留去工程の時点で系中(反応器中)に上記所定の水溶性重合禁止剤が添加されていれば、いずれの段階で当該水溶性重合禁止剤が添加されてもよい。
たとえば、エステル化反応の時点で、系中(反応器内)に当該水溶性重合禁止剤が添加されていてもよい。すなわち、エステル化反応を、当該水溶性重合禁止剤の存在下で行ってもよい。当該水溶性重合禁止剤と、エステル化反応の原料(アルコールおよび(メタ)アクリル酸)とを同時に反応系内に導入すると、高分子量体の生成を抑制する効果が高く、また、操作性の点から好ましい。
また、当該水溶性重合禁止剤を、エステル化反応の後に反応系内に添加してもよい。より具体的には、エステル化反応の後、脱水溶剤留去工程の前に当該水溶性重合禁止剤が添加されてもよい。
さらに、エステル化反応工程における反応開始前、および脱水溶剤留去工程の前の両方において水溶性重合禁止剤が添加されてもよい。ただし、当該態様では、水溶性重合禁止剤を添加する回数が増えるため、操作性や経済的な観点からは、上記二つの形態に劣るものである。
以下、(I)エステル化反応工程、(II)酸触媒の中和工程、(III)脱水溶剤留去工程について、それぞれ説明する。
(I)エステル化反応工程
エステル化反応工程では、酸触媒の存在下、脱水溶剤中で、上記一般式(2)で示されるアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行う。
具体的には、まず、反応系(反応槽または反応器)に、原料としての一般式(2)のアルコール及び(メタ)アクリル酸、酸触媒、脱水溶剤および必要に応じて重合禁止剤を仕込み、これら混合物を所定温度で所定のエステル化率になるまで、エステル化反応を行う。
(アルコール)
上記エステル反応に使用することのできるアルコール原料は、上記一般式(2)で示される化合物である。
上記一般式(2)で示されるアルコール原料は、1種のものを単独で使用してもあるいは2種以上の混合物の形態で使用してもよい。一般式(2)で示されるアルコール原料を2種以上の混合物で使用する形態は、特に制限されるものではなく、R1、R2Oまたはnの少なくともいずれか1つが異なる2種以上の混合物での使用形態であればよい。なかでも、好ましくは(a)R1がメチル基とブチル基の2種で構成されている場合、(b)R2Oがオキシエチレン基とオキシプロピレン基の2種で構成されている場合、(c)nが1〜10のものと11〜100のものの2種で構成されている場合、および(a)〜(c)を適宜組み合わせたもの等が挙げられる。
((メタ)アクリル酸)
上記エステル反応に使用することのできる(メタ)アクリル酸に関しては、アクリル酸およびメタクリル酸を、それぞれ単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよく、その混合比率に関しても任意の範囲を採用する事ができる。
エステル化反応で使用される上記原料の混合比率は、化学量論的には1:1(モル比)であるが、実際には、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応が効率良く進行する範囲であれば特に制限されるものではなく、通常、一方の原料を過剰に使用してエステル化反応を速め、目的のエステル化物を精製するという観点からは、蒸留留去し易い、より低沸点の原料を過剰に使用することが好ましい。また、本発明では、エステル化反応時に反応生成水と脱水溶媒を共沸する際に、低沸点の(メタ)アクリル酸の一部も留出され、反応系外に持ち出されるため、アルコールの使用量(仕込み量)に対して(メタ)アクリル酸の使用量(仕込み量)を化学量論的に算出される量よりも過剰に加えることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸の使用量は、通常、アルコール1モルに対して、1.0〜30モル、好ましくは1.2〜10モルである。(メタ)アクリル酸の使用量をアルコール1モルに対して1.0モル以上とすることにより、エステル化反応を円滑に進行させることができ、目的とするエステル化物の収率を十分に高くすることができる。一方、30モル以下とすることにより、十分な収率を得ることができると共に、(メタ)アクリル酸を大量に使用しすぎることがないため、経済的に好ましい。さらに、(メタ)アクリル酸の使用量をアルコール1モルに対して過剰に用いる(1.0モル超)とすることにより、未反応の(メタ)アクリル酸が残存することとなる。したがって、エステル化物と(メタ)アクリル酸の混合物との混合物を得ることができるため、当該混合物をそのまま共重合反応に用いることができる。よって、分散剤等に用いられる重合体を効率よく合成することができる。
(酸触媒)
本発明のエステル化反応においては、酸触媒の存在下でエステル化反応を行う。酸触媒の存在下で反応を行うことにより、反応を速やかに進行させることができる。本発明のエステル化反応において使用することのできる酸触媒としては、従来公知のものを用いることができるが、たとえば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、キシレンスルホン酸、キシレンスルホン酸水和物、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸水和物、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion」レジン、「Amberlyst 15」レジン、リンタングステン酸、リンタングステン酸水和物、塩酸などが挙げられ、これらのうち、硫酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、メタンスルホン酸などが好ましく使用される。さらに、本発明者は、エステル化物の品質および性能の低下の原因となる不純物のジエステルの生成原因の1つが、アルコール原料の切断によるものであり、さらに当該切断が酸触媒によっても起こり得ることを知得した。かかる知見に基づき、当該切断のしにくい酸触媒がより望ましいこと見出したものである。当該酸触媒としては、具体的には、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物が例示できる。
上記酸触媒の使用量としては、所望の触媒作用を有効に発現する事ができる範囲であれば特に制限されるものではないが、たとえば、0.4ミリ当量/g以下、好ましくは0.36〜0.01ミリ当量/g、より好ましくは0.32〜0.05ミリ当量/gであると好ましい。上記範囲内とすることにより、たとえば、得られるエステル化物をセメント分散剤の製造に用いた際、分散性能や増粘特性を低下させうる高分子量ポリマーの生成を効果的に抑制することができる。
より詳細には、酸触媒の使用量が0.4ミリ当量/g以下とすることにより、エステル化反応時に反応系内で形成されるジエステルの量を少なくすることができる。その結果、得られたエステル化物を用いて合成されるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等の低下を抑制することができる。ここで、酸触媒の使用量(ミリ当量/g)は、反応に使用した酸触媒のH+の当量数(ミリ当量)を、原料であるアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込み量(g)で割った値で表される。より具体的には下記数式(1)によって算出される値である。
上記酸触媒の反応系への添加方法は、一括で添加してもよいし、連続して添加してもよいし、また、順次添加してもよいが、作業性の点からは、原料と共に一括で反応器に仕込むのが好ましい。
(重合禁止剤)
また、エステル化反応工程においては、重合禁止剤の存在下で反応を行うことが好ましい。重合禁止剤を用いることにより、原料のアルコール及び(メタ)アクリル酸、生成物のエステル化物またはこれらの混合物の重合を防止することでき、高分子量体の生成が抑制されるため、好適である。
したがってエステル化反応工程において、脱水溶剤工程に用いられる上記所定の水溶性重合禁止剤が添加されてもよいし、それ以外の重合禁止剤が添加されてもよいし、これらの両方が添加されてもよい。「それ以外の重合禁止剤」には、(i)水溶性ではなく、酸素の非存在下では重合反応の阻害能を有さない(または、阻害能が極めて低い)重合禁止剤、(ii)水溶性ではなく、酸素の非存在下で重合反応の阻害能を有する重合禁止剤、(iii)水溶性であるが、酸素の非存在下では重合反応の阻害能を有さない(または、阻害能が極めて低い)重合禁止剤の三種類が含まれる。なお、(iii)の重合禁止剤は、酸素の非存在下における重合反応の阻害能の点で、本発明における脱水溶剤留去工程において必須の要素である「水溶性重合禁止剤」とは、明確に区別される。これらの中でも、エステル化反応工程では、(ii)の重合禁止剤が添加されると好ましい。エステル化反応時に(ii)の重合禁止剤を用いることにより、当該重合禁止剤が、脱水溶剤の留去時にも機能するため、脱水剤留去工程において使用される水溶性重合禁止剤と共に、高分子量体の生成をより効果的に抑制することができる。また、エステル化反応工程では、(ii)の重合禁止剤だけでなく、脱水溶剤工程に用いられる水溶性重合禁止剤がさらに添加されると好ましい。このように、二種の重合禁止剤を用いることにより、より効果的に高分子量体の生成を抑制することができる。
一方、本工程時、脱水溶剤留去工程に必須である水溶性重合禁止剤が既に添加されている場合は、上記(i)〜(iii)の重合禁止剤が添加されていなくてもよい。また、上記場合であっても、上記(i)〜(iii)の重合禁止剤が添加されてもよい(すなわち、併用してもよい)のは勿論である。
上記エステル化反応において使用できる(i)〜(iii)の重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用できるものであり、特に制限されるものではない。たとえば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。これらの重合禁止剤は、一種類を単独で使用してもよいし、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記重合禁止剤のうち、脱水溶剤や生成水の溶解性の理由から、エステル化反応時に添加される重合禁止剤は、フェノチアジン(上記(ii)に該当)、ハイドロキノン(上記(iii)に該当)、メトキノン(上記(iii)に該当)が好ましく、フェノチアジンが特に好ましい。これらの重合禁止剤は、エステル化反応終了後に行われる脱水溶剤留去工程においても、重合禁止能を発揮しうるため、高分子量体の生成を効果的に抑制するという観点から極めて有用である。
上記重合禁止剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、0.001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内であると好ましい。なお、複数の重合禁止剤を使用する場合は、これらの合計量が上記範囲内であると好ましい。
重合禁止剤の使用量を0.001重量%以上とすることにより、重合禁止能を十分に発現させることができ、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸、生成物としてのエステル化物またはこれらの混合物の重合を有効に防止することができる。一方、重合禁止剤の使用量を1重量%以下とすることにより、生成物であるエステル化物中に残留する重合禁止剤量を少なくすることができ、品質及び性能の観点で好ましい。また、1重量%超としても、これに見合うさらなる効果は得られにくい。したがって、1重量%以下であれば、大量の重合禁止剤を添加する必要がなく、経済的な観点からも好ましい。
(脱水溶剤)
さらに、本発明のエステル化反応は、脱水溶剤中で、エステル化反応を行うものである。本明細書中、脱水溶剤とは、水と共沸する溶剤として規定されるものである。すなわち、脱水溶剤を用いることにより、エステル化反応により生成する反応生成水を効率よく共沸させることができるものである。脱水溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、イソプロピルエーテルなどが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上のものを混合溶剤として使用することができる。これらのうち水との共沸温度が150℃以下、より好ましくは60〜100℃の範囲であるものが好ましく、具体的には、キシレン、シクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、ベンゼン、イソプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。水との共沸温度が150℃以下のものを用いると、反応時の反応系内の温度管理および共沸物の凝縮液化処理などの制御等、操作性の観点から好ましい。
上記脱水溶剤は、反応系外に反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させることが望ましく、この際、脱水溶剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、1〜100重量%、好ましくは2〜50重量%の範囲内である。脱水溶剤の使用量を1重量%以上とすることにより、エステル化反応中に生成する反応生成水を共沸により反応系外に十分に除去することができ、エステル化の平衡反応が進行しやすくなるため好ましい。一方、脱水溶剤の使用量を100重量%超としても、これに見合うさらなる効果は得られにくい。したがって、したがって、脱水溶剤の使用量は少ない方が反応温度を一定に維持するために必要な熱量が小さくて済むため、脱水溶剤の使用量を100重量%以下であれば、効果と経済的な観点を両立できる点で好ましい。
本発明において、エステル化反応工程は、回分(バッチ式)または連続いずれによっても行ないうるが、回分式で行うことが好ましい。
また、エステル化反応における反応条件は、エステル化反応が円滑に進行する条件であればよいが、たとえば、反応温度は30〜140℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは90〜125℃、特に好ましくは100〜120℃である。なお、これらは、本発明の一般的な(広い意味での)エステル化反応の条件であり、上述した脱水溶剤を反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させる場合は、その一例であり、これらの範囲内に含まれるが、完全に一致するものではない。
反応温度を30℃以上とすることにより、脱水溶剤の還流を十分に行うことができ、脱水に要する時間を短くすることができるほか、エステル化反応が進行しやすいため、好ましい。また、反応温度を140℃以下とすることにより、上記アルコール原料の切断によるジエステルの生成や原料の重合を抑制することができるため、好ましい。また、反応時間は、特に制限されず、後述するようにエステル化率が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%に達するまで続けることが好ましいが、通常、1〜50時間、好ましくは3〜40時間である。さらに、本発明によるエステル化反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。
本発明によるエステル化反応におけるエステル化率は、70%以上、より好ましくは70〜99%、最も好ましくは80〜98%であることが好ましい。エステル化率が70%以上であれば、得られたエステル化物を用いて製造した重合体の使用用途、たとえば、セメント分散剤等の用途における性能(たとえば、セメント分散能等)が低下することを十分に抑制することができる。なお、本明細書において使用される「エステル化率」は、実施例に記載の測定条件・方法にて測定され、算出された値を採用するものとする。
(II)酸触媒の中和工程
上記(I)のエステル化反応工程において、酸触媒の存在下でエステル反応を行う場合には、以下に説明する中和工程を行うのが望ましい。
エステル化物中に酸触媒が残留していると、エステル化反応工程後に、以下で詳述する脱水溶剤留去工程で水を加えて共沸する場合、あるいはエステル化物を用いてさらに重合を行うために、エステル反応後に調整水を加えて生成したエステル化物の水溶液を作製する場合に、酸触媒によるエステル化物の加水分解が生じうる。その結果、エステル化物の品質及び性能の低下を招くほか、加水分解により生じたもの(本明細書中、単に「加水分解生成物」とも称する)がエステル化物中に残留する。そうすると、当該エステル化物を用いてセメント分散剤等の各種分散剤や増粘剤等に使用される重合体を合成する際、該加水分解生成物が、重合には関与しない不純物となり、重合率(ひいては生産性)が低下し、また重合体の品質や性能の劣化にもつながることから、酸触媒の中和工程を行うことが望ましい。
酸触媒の中和方法は、生成したエステル化物を加水分解しないものであれば、従来公知の方法を採用することができるが、アルカリ性水溶液を添加し、適当な温度および時間で中和するのが好ましい。
中和工程に用いられるアルカリ性水溶液は、特に制限されるものではなく、水に溶解し、アルカリ性物質を用いて調製することができ、アルカリ性物質としては、たとえば、M(OH)mの水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や燐酸塩、アンモニア、及びアミン等の形態が挙げられる。この場合のMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属やアンモニウム基を表わし、また、「m」の値はMの種類によって決定される。よって、アルカリ性物質としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。エステル化物を用いてセメント分散剤を製造した場合において、セメントに配合した際に異臭が発生しないとの理由から、好ましくはアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、燐酸塩等であり、より好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムである。また、本発明では、これらアルカリ性物質を1種若しくは2種以上を適当な比率で混合して使用してもよい。
また、中和温度は、特に制限されないが、90℃以下とすると好ましい。中和温度を90℃以下とすることにより、添加されるアルカリ性水溶液が加水分解の触媒として作用することに起因する、加水分解生成物の多量生成を抑制することができる。
本発明において、上記中和処理工程での中和時間は、酸触媒、好ましくは酸触媒及び(メタ)アクリル酸の一部を中和できる時間であれば特に制限されず、中和温度ならびに酸触媒や(メタ)アクリル酸の種類や量によって異なるが、中和時間は、通常、10時間以下である。生産性の観点から、8時間以下であると好ましく、7時間以下であるとより好ましく、6時間以下であると特に好ましい。
(III)脱水溶剤留去工程
本発明のエステル化物の製造方法では、上記エステル化反応を脱水溶剤(溶媒)中で行うため、上記(I)のエステル化反応工程によりエステル化反応を行った後に、反応液から脱水溶剤を留去する。さらに上記(I)の工程において、エステル化反応を酸触媒の存在下で行った場合には、上記(I)のエステル化反応工程によりエステル化反応を行った後に、上記(II)の酸触媒中和工程により酸触媒、さらには(メタ)アクリル酸の一部を中和し、次いで、反応液から脱水溶剤を留去するものである。
そして、本発明の第一の形態では、この脱水溶剤留去工程を、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤の存在下で行うことを特徴とする。
脱水溶剤留去工程にて必須に用いられる「酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤」の定義は上記の通りであるが、その重合禁止能について、上記の条件においてアクリル酸を用いて評価した際、アクリル酸の重合開始までの時間が50時間以上であるものが好ましく、100時間以上であるものがより好ましい。なお、その上限は特に制限されない。また、その水溶性は、25℃の水に対する溶解度が1g/100mL以上であると好ましく、10g/100mL以上であるとより好ましい。なお、その上限は特に制限されないが、たとえば1000g/100mLである。
上記条件を満たしていれば、本工程で用いられる水溶性重合禁止剤は特に制限されないが、なかでも、入手容易性や、酸素の非存在下における重合反応の阻害能の観点から、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(本明細書中、「4H−TEMPO」とも記載する)、1,4−ナフトヒドロキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩(川崎化成工業株式会社製 商品名:キノパワー QS−W10)が好ましく用いられる。なお、水溶性重合禁止剤は、一種類を単独で使用してもよいし、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。上記水溶性の重合禁止剤の中でも、酸素の非存在下における重合反応の阻害能が高く、高分子量体の生成を抑制することができる、4H−TEMPOを用いることがより好ましい。
上記水溶性重合禁止剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、0.001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内であると好ましい。なお、複数の重合禁止剤を使用する場合は、これらの合計量が上記範囲内であると好ましい。
水溶性重合禁止剤の使用量を0.001重量%以上とすることにより、重合禁止能を十分に発現させることができ、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸、生成物としてのエステル化物またはこれらの混合物の重合を有効に防止することができる。一方、水溶性重合禁止剤の使用量を1重量%以下とすることにより、生成物であるエステル化物中に残留する水溶性重合禁止剤量を少なくすることができ、品質及び性能の観点で好ましい。また、1重量%超としても、これに見合うさらなる効果は得られにくい。したがって、1重量%以下であれば、大量の水溶性重合禁止剤を添加する必要がなく、経済的な観点からも好ましい。
本脱水溶剤留去工程は、脱水溶剤を留去することができるものであれば、その方法は特に制限されないが、加熱して留去する方法が好ましい。脱水溶剤を留去する際は、常圧化で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいが、操作性および経済的な観点から、常圧で行うのが好ましい。
また、脱水溶剤の留去開始時の温度は、脱水溶剤の種類や脱水溶剤と水の比率に依存するが、留去終了時の温度は、水の沸点±5℃に設定されると好ましい。例えば常圧で行う場合は、100±5℃が好ましい。かような温度範囲とすることにより、脱水溶剤を効率よく留去することができる。
上記脱水溶剤の留去時間は、系のスケールに依存するが、好ましくは10時間以下である。生産性の観点から、8時間以下であると好ましく、6時間以下であるとより好ましい。
《重合体》
上記製造方法により得られるエステル化物は、不飽和カルボン酸系単量体と共に共重合させることにより、種々の用途に用いられる重合体を与える。すなわち、本発明によれば、上記製造方法により得られたエステル化物と、不飽和カルボン酸系単量体とを含む単量体成分を重合して得られる、重合体もまた提供される。
以下、本発明の製造方法により得られるエステル化物を用いてなる重合体に関して説明する。
本発明の重合体は、上記に詳細に説明した製造方法により得られた上記一般式(1)で示されるエステル化物および不飽和カルボン酸系単量体を含む単量体成分を用いて得られたものであることを特徴とする。これにより、上述したとおり、当該重合体中に含まれる分散性能の乏しい高分子量架橋ポリマーの含有率が極めて低く、如何なる用途に利用(特に、主成分として配合して利用)しようとも、その基本性能に悪影響を与える不純物の混入が極めて少なく、良好な分散性能を付与することができる。特に本発明の重合体をセメント分散剤として利用する場合には、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮することができる点で極めて有用なものといえる。
なお、本発明の重合体には、上記エステル化物を1種、若しくは2種以上を用いて重合してなるもののいずれも含まれるほか、必要に応じて、さらにアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩を含むものである。
また、本発明の重合体(重合体塩を含む)の重量平均分子量は、所期の用途に応じて適宜最適な範囲に決定されるものであり、例えば、セメント分散剤への利用を図る場合には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算で500〜300000、特に5000〜200000の範囲とすることが好ましい。また、重合体の重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値は、0〜8000であると好ましく、より好ましくは0〜7000である。重量平均分子量が500以上とすることにより、セメント分散剤の減水性能を良好にすることができる。一方、300000以下とすることにより、セメント分散剤の減水性能、スランプロス防止能を向上させることができる。また、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が8000以下である場合には、得られたセメント分散剤のスランプ保持性能を良好にすることができる。
《重合体の製造方法》
次に、本発明の製造方法により得られるエステル化物を用いてなる重合体の製造方法に関して、以下に説明する。
本発明の重合体の製造方法は、上記一般式(1)で示されるエステル化物および不飽和カルボン酸系単量体を含む単量体成分を重合反応させる工程を含む。すなわち、本発明の第二の形態は、酸触媒の存在下、脱水溶剤中で、上記一般式(2)で示されるアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行った後、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤の存在下、脱水溶剤を留去して上記一般式(1)で示されるエステル化物を製造し、前記エステル化物と、不飽和カルボン酸系単量体とを含む単量体成分を重合する工程を含む、重合体の製造方法である。
本発明の重合体の製造方法は、上記一般式(1)で表されるエステル化物を単量体成分として重合反応を行うことにより、種々の用途に応じた重合体を得ることができるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、特公昭59−18338号公報、特開平9−86990号公報および特開平9−286645号公報に記載の方法などの公知の方法と同様にして、(メタ)アクリル酸(塩)、および必要によりこれらのエステル化物の単量体成分と共重合可能な単量体と共に重合反応に供することができるが、これらに限定されるものではない。これら以外にも従来既知の各種重合方法を適用できることはいうまでもない。
具体的には、例えば、本発明の重合体の製造方法では、上記一般式(1)で表されるエステル化物単量体(以下、単にエステル化物単量体とも言う)を、不飽和カルボン酸系単量体および必要によりこれらの単量体と共重合可能な単量体とともに重合反応することにより得ることができる。
不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸およびこれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等の不飽和モノカルボン酸系化合物、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、またはこれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等の不飽和ジカルボン酸系化合物が挙げられる。なかでも、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの塩が重合性の観点から好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。なお、これらの化合物は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、これらの化合物は、市販されている化合物を用いてもよいし、自ら合成することにより準備してもよい。
ここで、所望の重合体を得るには、重合開始剤を用いて前記エステル化物単量体成分等を共重合させれば良い。共重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行なうことができる。
溶媒中での重合は、回分式でも連続式でも行なうことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;等が挙げられる。原料のエステル化物の単量体成分および得られる共重合体の溶解性ならびに該共重合体の使用時の利便性からは、水および炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。その場合、炭素原子数1〜4の低級アルコールの中でもメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が特に有効である。
水媒体中で重合を行なう時は、重合開始剤としてアンモニウムまたはアルカリ金属の過硫酸塩あるいは過酸化水素等の水溶性の重合開始剤が使用される。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩等の促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物あるいはケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の芳香族アゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる。
塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度範囲内で行なわれる。
また、得られる重合体の分子量調節のために、チオール系連鎖移動剤を併用することもできる。この際に用いられるチオール系連鎖移動剤は、一般式HS−R5−Eg(ただし、式中R5は炭素原子数1〜2のアルキル基を表わし、Eは−OH、−COOM’、−COOR6または−SO3M基を表わし、M’は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わし、R6は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表わす。)で表わされ、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
このようにして得られた重合体は、そのままでも各種用途の主成分として用いられるが、必要に応じて、さらにアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩をセメント分散剤等の各種用途の主成分として用いても良い。このようなアルカリ性物質としては、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等が好ましいものとして挙げられる。
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできる上記一般式(1)で示されるエステル化物単量体成分は、1種単独で用いても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。特に、2種以上を混合して使用する場合には、使用用途に応じた特性(機能・性能等)を発現させることができるように、発現特性の異なる種類を適当に組み合わせて用いる事が望ましく、一例としてセメント分散剤への利用を行う場合には、以下の2種の組み合わせが有利である。
すなわち、一般式(1)で示されるエステル化物において、平均付加モル数nが1〜97、好ましくは1〜10の整数を表わす。)で示される第1のエステル化物(a1)と、平均付加モル数nが4〜100、好ましくは11〜100の整数を表わす。)で示される第2のエステル化物(a2)との混合物(ただし、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数の方が第1のエステル化物(a1)の平均付加モル数よりも3以上大きいものとする)の組み合わせが有利である。
このような第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との混合物を製造する方法は、上記エステル化物の製造方法で説明した通りであり、これらの第1および第2のエステル化物(a1)および(a2)を別々にエステル化反応により製造してもよいし、それぞれ相当するアルコールの混合物と、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により製造してもよく、特に後者の方法は工業的に安価の製造方法を提供できる。
この場合、第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との重量比は5:95〜95:5、好ましくは10:90〜90:10である。
第1のエステル化物(a1)としては、例えば、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(エタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が例示される。第1のエステル化物(a1)は、その側鎖の短鎖アルコールに疎水性を有することが重要である。
また、共重合のし易さの面からは、側鎖はエチレングリコール単位が多く含まれているのが好ましい。したがって、(a1)としては、平均付加モル数が1〜97、好ましくは1〜10の(アルコキシ)(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
第2のエステル化物(a2)としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが例示される。
高い減水性を得るためには、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数が4〜100のアルコール鎖による立体反発と親水性でセメント粒子を分散させることが重要である。そのためには、ポリアルキレングリコール鎖にはオキシエチレン基が多く導入されることが好ましく、ポリエチレングリコール鎖が最も好ましい。よって、第2のエステル化物(a2)のアルキレングリコール鎖の平均付加モル数nは、4〜100、好ましくは11〜100である。
本発明の重合体の製造方法において使用することのできる、上記不飽和カルボン酸系単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ならびにこれらの酸の一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩等の(メタ)アクリル酸(塩)単量体を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできるエステル化物単量体および(メタ)アクリル酸(塩)単量体の単量体成分と共重合可能な単量体の例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸類;これらのジカルボン酸類とHO(R11O)rR12(ただし、R11Oは炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、rはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり1から100の整数を表わし、R12は水素または炭素原子数1〜22、好ましくは1〜15のアルキル基を表わす。)で表わされるアルコールとのモノエステルあるいはジエステル類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類およびそれらの一価金属塩、二価金属塩、アルモニウム塩、有機アミン塩類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;炭素原子数1〜18、好ましくは1〜15の脂肪族アルコールあるいはベンジルアルコール等のフェニル基含有アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、モノアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
《重合体の用途》
次に、本発明の製造方法により得られるエステル化物を用いてなる重合体の用途について、以下に説明する。
本発明の製造方法により得られるエステル化物は、高分子量体の含有量がきわめて少量であるため、当該エステル化物を原料として重合反応を行った場合、高分子量ポリマーを生ずることなく高純度の重合体が得られる。
したがって、本発明の製造方法により得られたエステル化物を原料として用いた重合体は、各種用途に好適に用いられる。たとえば、セメント分散剤のほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等に使用される重合体成分の原料となるエステル化物として極めて有用である。すなわち、本発明の製造方法により得られるエステル化物は、上記のような用途に要求される基本性能である分散性能などに対し、悪影響を及ぼす原因となる分散性能の乏しい高分子量ポリマーを発生させる原因となる高分子量体が極めて少なく、良好な分散性能を発現させる事ができる。特にセメント分散剤として使用した場合は、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮することができるものである。
したがって、本発明の第三の形態は、上記重合体を含む、セメント分散剤である。
セメント分散剤は、少なくとも上記重合体;すなわち、高分子量体の含有率がきわめて少ない上記一般式(1)で示されるエステル化物において、一般式(1)中のnが1〜300の数であるエステル化物を含む単量体成分を用いて得られた重合体、を有してなることを特徴とするものである。これにより、良好なスランプ保持性能を発揮する事ができるものである。
ここで、上記に示す重合体については、上記説明の通りであるため、ここではその説明を省略する。
また、本発明のセメント分散剤には、上記に規定する重合体成分の他に、従来公知のナフタレン系セメント分散剤、アミノスルホン酸系セメント分散剤、ポリカルボン酸系セメント分散剤およびリグニン系セメント分散剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種のセメント分散剤を配合してもよい。すなわち、本発明のセメント分散剤では、上記重合体単独で使用しても良いし、必要に応じて、さらに付加価値を持たせるべく、上記および下記に示す各種成分を配合する事ができるものであり、これらの配合組成については、目的とする付加的機能の有無により大きく異なるものであり、上記重合体成分を100重量%(全量)ないし主成分とするものから、上記重合体成分を高付加価値成分として、従来のセメント分散剤に適量加える態様まで様々であり、一義的に規定することはできない。
また、本発明のセメント分散剤には、従来公知のセメント分散剤の他に、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等を配合することができる。
このようにして得られる重合体を主成分とするセメント分散剤は、少なくともセメントおよび水よりなるセメント組成物に配合することによりセメントの分散を促進する。
本発明のセメント分散剤は、ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメント等の水硬セメント、あるいは、石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
本発明のセメント分散剤は、上記に記載の作用効果を奏するため、従来のセメント分散剤に比較して少量の添加でも優れた効果を発揮する。たとえば水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント重量の0.001〜5%、好ましくは0.01〜1%となる比率の量を練り混ぜの際に添加すればよい。この添加により高減水率の達成、スランプロス防止性能の向上、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。添加量が0.001%以上とすることにより、十分に性能を発揮することができ、5%以下とすることにより、少ない分散剤量で十分な効果を得ることができるため、経済性の面から有利である。
本発明のセメント分散剤は、上述のような特定の重量平均分子量を有し、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が上記特定の値を有する重合体を主成分とするセメント分散剤であることが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、下記の製造例において、特に記載のない限り、「%」は重量基準であり、特に注釈のない限り、「重量」と「質量」とは同義である。また、表中の「−」は測定・分析していないこと、または、表記の成分を使用していないことを意味するものとする。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定した。
《エステル化物の製造》
(実施例1−1)
温度計、攪拌機、生成水分離器、コンデンサである還流冷却管、窒素導入管を備えたガラス製反応器(内容量:3リットル)に所定量のメトキシポリエチレングリコール(n=25)1650g、メタクリル酸(MAA)474g、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸一水和物の70%水溶液(PTS70)67.2g、非水溶性重合禁止剤であるフェノチアジン0.5gおよび脱水溶媒であるシクロヘキサン106gを仕込み、反応器内を110〜120℃に維持して、20時間エステル化反応を行い、エステル化反応液(1)を得た。
得られたエステル化反応液(1)を60℃以下に放冷した後、アルカリ水溶液としての49%水酸化ナトリウム水溶液27gと水を加えてエステル化触媒を中和し、その後、酸素の非存在下、重合反応を阻害する効果のある水溶性重合禁止剤である、1,4−ナフトヒドロキノン−2−スルホン酸アンモニウム塩(川崎化成工業株式会社製 キノパワー QS−W10)0.5gを加えて105℃まで昇温し、脱水溶剤を水との共沸で留去後、調整水を添加してエステル化物(1)とメタクリル酸の混合物からなる単量体水溶液(1)を得た。なお、表1中、上記手順によるエステル化物の製造方法を「製法1」と記載する。
(実施例1−2および1−3)
上記実施例1−1において、使用した原料、溶媒(脱水溶剤)および重合禁止剤の種類、これらの使用量、ならびに反応温度等を表1に記載の通り変更したことを除いては、実施例1−1と同様にして単量体水溶液(2)および(3)をそれぞれ得た。
(実施例1−4)
温度計、攪拌機、生成水分離器、コンデンサである還流冷却管、窒素導入管を備えたガラス製反応器(内容量:3リットル)に所定量のメトキシポリエチレングリコール(n=10)1700g、メタクリル酸(MAA)697.5g、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸水和物114.25g、非水溶性重合禁止剤であるフェノチアジン0.5g、酸素の非存在下、重合反応を阻害する効果のある水溶性重合禁止剤である、4H−TEMPO(和光純薬社製試薬)0.5gおよび脱水溶媒であるシクロヘキサン250gを仕込み、反応器内を100〜110℃に維持して、24時間エステル化反応を行い、エステル化反応液(4)を得た。
得られたエステル化反応液(4)を60℃以下に放冷した後、アルカリ水溶液としての49%水酸化ナトリウム水溶液87.3gと水を加えてエステル化触媒を中和し、その後105℃まで昇温し、脱水溶剤を水との共沸で留去後、調整水を添加してエステル化物(2)とメタクリル酸の混合物からなる単量体水溶液(4)を得た。なお、表1中、上記手順によるエステル化物の製造方法を「製法2」と記載する。
(実施例1−5および1−6)
上記実施例1−4において、使用した原料、溶媒(脱水溶剤)および重合禁止剤の種類、これらの使用量、ならびに反応温度等を表1に記載の通り変更したことを除いては、実施例1−4と同様にして単量体水溶液(5)および(6)をそれぞれ得た。
(実施例1−7)
上記実施例1−4において、エステル化反応工程時にフェノチアジンを添加しなかったことを除いては、実施例1−4と同様にして単量体水溶液(7)を得た。なお、表1中、上記手順によるエステル化物の製造方法を「製法3」と記載する。
(比較例1−1)
実施例1−1において、エステル化触媒の中和後、キノパワーの代わりにハイドロキノンを用いたことを除いては、実施例1−1と同様にして比較単量体水溶液(1)を得た。
(比較例1−2)
実施例1−2において、エステル化触媒の中和後、4H−TEMPOを添加しなかったことを除いては、実施例1−2と同様にして比較単量体水溶液(2)を得た。
《エステル化物の分析》
上記実施例および比較例において製造されたエステル化物について、以下の条件・方法で測定した。結果を表1に示す。
(エステル化率の分析)
上記実施例および比較例で得られたエステル化物に係るエステル化率は、下記に示すエステル化測定条件で、エステル化の出発物質であるアルコールのピーク面積とエステル化物のピーク面積の比率より、下記数式(2)によって算出される値として定義されるものである。
・エステル化率の測定条件
解析装置;Waters Alliance
解析ソフト;Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
検出器;Waters製 410 RI検出器
使用カラム;GLサイエンス製 イナートシルODSガードカラム + イナートシルODS−2(内径4.6mm×250mm)3本
カラム温度;40℃
溶離液;アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整した溶液
流速;0.6ml/min。
(高分子量体の生成率の分析)
上記実施例および比較例で得られたエステル化物中に含まれる高分子量体の生成率は、下記に示すGPC測定条件で、目的とするエステル化物のピーク面積に対する、目的とするエステル化物以外に検出された高分子量体のピーク面積の比率より、下記数式(3)によって算出される値として定義されるものである。
・高分子量体の生成率の測定条件
解析装置;Waters Alliance(2695)
解析ソフト;Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
検出器;Waters社製 410RI検出器
使用カラム;東ソー(株)製、TSK guard column SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
カラム温度;40℃
溶離液;水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液
流量;1.0ml/min。
(単量体濃度の分析)
上記実施例および比較例の単量体濃度は、下記数式(4)によって算出される値として定義されるものである。
なお、水分濃度はKF(カール・フィッシャー)法での分析値、p-トルエンスルホン酸塩濃度は物質収支からの計算値である。
上記表1より、酸素の非存在下で重合反応を阻害する機能を有する水溶性重合禁止剤の存在下で脱水溶剤留去工程を行うことにより、高分子量体の生成率が低減されることが確認された。さらに、当該水溶性重合禁止剤は、エステル化反応時に反応器内に添加される方が、高分子量体の生成をより抑制することができることが示された。
《重合体の製造》
(実施例2−1)
上記実施例1−1で得られた単量体溶液(1)を用いて、不飽和カルボン酸系単量体としての(メタ)アクリル酸との共重合を行い、ポリカルボン酸共重合体(重合体(1))を製造した。
具体的には、温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却管を備えたガラス製反応容器(内容量:2リットル)に、所定量の水を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、上記エステル化反応により得られた単量体溶液(1)と連鎖移動剤である3−メルカプトプロピオン酸5.0gを均一に混合した単量体混合物水溶液を4時間、および所定量の開始剤水溶液(開始剤としての過硫酸アンモニウム6.5gおよび水150gを含む水溶液)を5時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃を維持し、重合反応を完結させた。そして、アルカリ水溶液としての49%水酸化ナトリウム水溶液80gで中和して、ポリカルボン酸共重合体(重合体(1))を得た。
(実施例2−2〜2−7および比較例2−1〜2−2)
上記実施例2−1において、使用した原料、溶媒および重合禁止剤の種類、ならびにこれらの使用量を表2に記載の通り変更したことを除いては、実施例2−1と同様にして重合体(2)〜(7)および比較重合体(1)〜(2)をそれぞれ得た。
《重合体の評価》
上記実施例および比較例において製造されたポリカルボン酸共重合体について、以下の条件・方法で測定した。結果を表2に示す。
(重量平均分子量)
上記実施例および比較例で得られた重合体の重量平均分子量は、ポリエチレングリコール換算で、下記に示すGPC測定条件で求めた。
・GPC測定条件
解析装置;Waters Alliance(2695)
解析ソフト;Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
検出器;Waters社製 410RI検出器
使用カラム;東ソー(株)製、TSK guard column SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
カラム温度;40℃
溶離液;水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液
流量;1.0ml/min。
(高分子量体の含有率の分析)
上記実施例および比較例で得られた重合体中に含まれる高分子量体の含有率は、下記に示すGPC測定条件で、重合体のメインピーク面積と高分子量体のピーク面積との和に対する、高分子量体のピーク面積の比率より、下記数式(5)によって算出される値として定義されるものである。なお、「高分子量体のピーク面積」とは、エステル化物中に含まれる高分子量体および当該エステル化物の重合中に生成した高分子量体の両方を含む。
・高分子量体の生成率の測定条件
解析装置;Waters Alliance(2695)
解析ソフト;Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
検出器;Waters社製 410RI検出器
使用カラム;東ソー(株)製、TSK guard column SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
カラム温度;40℃
溶離液;水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液
流量;1.0ml/min。
上記表2より本発明のエステル化物を用いて重合体(ポリカルボン酸共重合体)を製造することにより、高分子量体の含有率がより低い重合体が得られることが示された。
《セメント分散剤の評価》
上記実施例および比較例において製造されたポリカルボン酸共重合体について、下記の条件でコンクリート試験を行い、セメント分散剤としての性能を評価した。結果を表3に示す。なお、表3中の「添加量」とは、セメント重量に対するセメント混和剤としての各重合体の配合量(重量%)を意味する。添加量は、混和剤の不揮発分量で計算して、重量%として示した。
(コンクリート試験条件)
・コンクリート配合
単位量 水:172kg/m3、セメント(太平洋セメント社製:普通ポルトランドセメント):382kg/m3、粗骨材(青梅硬質砂岩):930kg/m3、細骨材(大井川系川砂):822kg/m3、W/C=45%、s/a=47%。
上記条件下に、50L強制練りミキサーにセメント、細骨材、粗骨材を投入して10秒間空練を行い、次いで、添加剤を配合した水を加えて更に90秒間混練を行い、コンクリートを製造した。得られたコンクリートのスランプフロー値、空気量の測定は日本工業規格(JIS A1101、1128、6204)に準拠して行った。結果を表3に示す。
上記表3より本発明のエステル化物を用いて製造された重合体(ポリカルボン酸共重合体)は、スランプ保持性能に優れたセメント分散剤として使用できることが示された。特に、試験例(2)、(4)および(6)はスランプ保持率が良好であったが、これは、重合体原料となるエステル化物の製造時に、高分子量体の生成が抑制されたためであると考えられる。