以下、本発明につき、エステル化物及びその製造方法と、エステル化物を用いてなる重合体及びその製造方法、並びに該重合体を用いてなるセメント分散剤とに分けて説明する。
まず、本発明のエステル化物は、高分子量体の含有率が、2.0面積%以下であることを特徴とする下記一般式(1)
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、R3は水素原子またはメチル基であり、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるエステル化物である。好ましくは、セメント分散剤用の単量体成分の1つに用いられるものであって、平均付加モル数nが1〜300の数であるものである。これにより、各種用途、例えば、セメント分散剤のほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等に使用される重合体成分の原料となるエステル化物として極めて有用である。すなわち、こうした使用用途に要求される基本性能である分散性能などに悪影響を及ぼす原因となる分散性能の乏しい高分子量架橋ポリマーを発生させるもとになる高分子量体が極めて少なく、良好な分散性能を発現させる事ができる。特にセメント分散剤では、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮する事ができるものである。
本発明の高分子量体の含有率は、液体クロマトグラム測定法により算出される面積比に基づいて算出されるものである。
本発明の高分子量体の含有率は、下記液体クロマトグラム測定条件により測定したグラフにおいて、目的とするエステル化物の測定ピーク部分の面積に対して、目的とするエステル化物の測定ピーク部分以外に検出された高分子量体の測定ピーク部分の面積の比率を表すものである(具体的には、後述する実施例1で測定した図1を例にとれば、図1(b)にあるように目的とするエステル化物の測定ピーク部分の面積が17747588であり、高分子量体の測定ピーク部分の面積が69703として測定・解析された場合、高分子量体の含有率は、69703÷(69703+17747500)×100=0.4面積%として算出される。なお、上記面積の大きさを表す数値は、解析装置による定量計算結果による。)。
<液体クロマトグラム測定条件>
解析装置 :株式会社島津製作所製 CR−4A
検出器 :Waters製 410 RI検出器
Waters製 496 UV検出器
使用カラム:東ソー株式会社製 ODS−120P 1本
東ソー株式会社製 ODS−80PS 1本
カラム温度:40℃
溶離液 :1%リン酸水溶液 1000ml
アセトニトリル 1000ml
を混合して調製した。
流速 :1.0ml/min
本発明のエステル化物においては、上記測定法により、エステル化物中の高分子量体の含有率が、2.0面積%以下、好ましくは1.5面積%以下、特に好ましくは1.0面積%以下である。エステル化物中の高分子量体の含有率が2.0面積%を超える場合には、該エステル化物が利用される(特に重合して利用される)各種用途、例えば、セメント分散剤のほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等の基本性能に悪影響を及ぼすことになる。特に、セメント分散剤への利用を図る場合、セメント分散性能やスランプ保持性能に影響を及ぼすことなる。
また、上記一般式(1)で示されるエステル化物につき、以下に説明する。
上記一般式(1)において、R1は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わす。R1が炭素原子数30を超える炭化水素基である場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能などが低下する。好適なR1の範囲はその使用用途により異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として用いる場合には、R1は、炭素原子数1〜18の直鎖若しくは枝分かれ鎖のアルキル基およびアリール基が好ましい。R1としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基などのアルキルフェニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;アルケニル基;アルキニル基などが挙げられる。これらのうち、セメント分散剤の原料として用いる場合には、上述したように、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基が好ましいものである。
また、R2Oは、炭素原子数2〜18、好ましくは炭素原子数2〜8のオキシアルキレン基である。R2Oが炭素原子数18を超えるオキシアルキレン基である場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合して得られる共重合体の水溶性が低下し、用途性能、例えば、セメント分散性能等が低下する。R2Oとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基などが挙げられ、これらのうち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基であることが好ましい。また、R2Oの繰り返し単位は、同一であってもあるいは異なっていてもよい。このうち、R2Oの繰り返し単位が異なる場合、すなわち、2種以上の異なる繰り返し単位を有する場合には、各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよい。
また、R3は、水素原子またはメチル基である。セメント分散剤の原料として用いる場合には、R3が水素原子であるエステル化物と、R3がメチル基であるエステル化物を適当な比率で混合するなどして利用することができるし、また、いずれか一方のみを利用しても良い。
さらに、nは0〜300の数であり、R2O(オキシアルキレン基)の繰り返し単位の平均付加モル数を表わす。nが300を超える場合には、当該エステル化物を、例えば、(メタ)アクリル酸と共重合する際にその重合性が低下する。この平均付加モル数nも、エステル化反応により得られるエステル化物の使用目的に応じて、その最適範囲は異なるものであり、例えば、セメント分散剤の原料として使用する場合には、平均付加モル数nは、5〜200の数が好ましく、より好ましくは8〜150である。また、増粘剤などとして用いる場合には、平均付加モル数nは、10〜250の数が好ましく、より好ましくは50〜200である。また、n=0の場合には、当該エステル化物を合成する上での困難性(例えば、水との溶解性および沸点の観点から製造条件が極めて限られる事など)から、上記R1は炭素原子数4以上の炭化水素基が好ましい。すなわち、一般式(1)のn=0の場合、当該エステル化物を合成する上で、その原料がメタノールやエタノールなどのアルコールでは低沸点のため生成水とともに蒸発し、さらに生成水に溶解することから当該アルコール原料の一部が系外に留去され、当該エステル化物の収率が低下するためである。
次に、上記に規定するような高分子量体の含有率の少ないエステル化物を得るための、本発明のエステル化物の製造方法は、重合禁止剤の存在下、脱水溶剤中で、一般式(2)
(ただし、R1は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表わし、R2Oは炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表わし、この際、各R2Oの繰り返し単位は同一であってもあるいは異なっていてもよく、およびR2Oが2種以上の混合物の形態である場合には各R2Oの繰り返し単位はブロック状に付加していてもあるいはランダム状に付加していてもよく、ならびにnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、0〜300の数である)で示されるアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行い、エステル化反応終了後、反応液から脱水溶剤を留去する際に、使用するアルコールと(メタ)アクリル酸の全量に対して1000ppm以下の水溶性重合禁止剤を反応液に添加することを特徴とするものである。これにより、上記に規定するような高分子量体の含有率の少ないエステル化物を得ることができるものである。なお、本発明において、エステル化反応終了後、反応液から脱水溶剤を留去する際に、重合活性のない重合禁止剤であって、水溶性の重合禁止剤に含まれない重合禁止剤を別途加えることに関しては、特に制限されるものではない。従って、後述するように、フェノチアジンのような重合禁止剤を、反応液から脱水溶剤を留去する際に、たとえ上記に規定する量を超えて添加しても、高分子量体の形成に関与するものではなく、単にコスト高になるだけであるが、こうした事により本発明の範囲を外れる(回避される)ものでないことは言うまでもない。上記エステル化物の製造方法として好ましくは、前記水溶性重合禁止剤を添加することなく反応液から脱水溶剤を留去することである。これにより、高分子量体の含有率の極めて少ないエステル化物を得ることができる点で有利である。また、上記エステル化物の製造方法として、より好ましくは、エステル化反応で使われる前記重合禁止剤をフェノチアジンとするものである。これにより、反応液から脱水溶剤を留去する際に水溶性重合禁止剤を添加することなく、高分子量体の含有率を上記に規定する測定法において計測されないレベルまでその発生を抑えることができる点で極めて有利である。また、上記エステル化物の製造方法の好適な態様は、セメント分散剤用の単量体成分の1つに用いるためのものであって、一般式(2)中のnが1〜300の数であることを特徴とするものである。特に、こうした単量体成分を重合して得られるセメント分散剤では、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮する事ができるためである。
以下に、本発明のエステル化物の製造方法の好適な実施の形態につき、工程を追って説明する。
本発明のエステル化物の製造方法は、上記の通りであるが、特に本発明では、酸触媒と重合禁止剤の存在下、脱水溶剤中で、一般式(2)で表されるアルコール(以下、単に「アルコール」ともいう)と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応を行い(エステル化工程)、エステル化反応終了後、酸触媒または酸触媒の全部と(メタ)アクリル酸の一部を中和し(部分中和工程)、その後、反応液から脱水溶剤を水と共沸して留去する(溶剤除去工程)際に、使用するアルコールと(メタ)アクリル酸の全量に対して1000ppm以下の水溶性重合禁止剤を反応液に添加して行うのが望ましい。
(I)エステル化工程の説明
上記エステル化工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
まず、反応系(反応槽)に、原料としての一般式(2)のアルコール及び(メタ)アクリル酸、脱水溶剤、酸触媒及び重合禁止剤を仕込み、これら混合物を所定温度で所定のエステル化率になるまで、エステル化反応を行う。
上記エステル反応に使用することのできるアルコール原料は、上記一般式(2)で示される化合物である。
上記一般式(2)において、R1、R2Oおよびnの詳細な説明は、上記一般式(1)において詳細に説明したと同様であり、ここでは、重複を避けるためその説明を省略する。
上記一般式(2)で示されるアルコール原料は、1種のものを単独で使用してもあるいは2種以上の混合物の形態で使用してもよい。一般式(2)で示されるアルコール原料が2種以上の混合物での使用形態は、特に制限されるものではなく、R1、R2Oまたはnの少なくともいずれか1つが異なる2種以上の混合物での使用形態であればよいが、好ましくはR1がメチル基とブチル基の2種で構成されている場合、R2Oがオキシエチレン基とオキシプロピレン基の2種で構成されている場合、nが1〜10のものと11〜100のものの2種で構成されている場合、および〜を適宜組み合わせたもの等が挙げられる。
上記エステル反応に使用することのできる(メタ)アクリル酸に関しても、アクリル酸およびメタクリル酸を、それぞれ単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよく、その混合比率に関しても任意の範囲を採用する事ができる。
エステル化反応で使用される上記原料の混合比率は、化学量論的には1:1(モル比)であるが、実際には、アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応が効率良く進行する範囲であれば特に制限されるものではなく、通常、一方の原料を過剰に使用してエステル化反応を速めたり、目的のエステル化物の精製面からは、蒸留留去し易いより低沸点の原料を過剰に使用する。また、本発明では、エステル化反応時に反応生成水と脱水溶媒を共沸する際に、低沸点の(メタ)アクリル酸の一部も留出され、反応系外に持ち出されるため、アルコールの使用量(仕込み量)に対して(メタ)アクリル酸の使用量(仕込み量)を化学量論的に算出される量よりも過剰に加えることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸の使用量は、通常、アルコール1モルに対して、1.0〜30モル、好ましくは1.2〜10モルである。(メタ)アクリル酸の使用量がアルコール1モルに対して1.0モル未満であると、エステル化反応が円滑に進行せず、目的とするエステル化物の収率が不十分であり、逆に30モルを超えると、添加に見合う収率の向上が認められず、不経済であり、やはり好ましくない。
本発明のエステル化反応においては、酸触媒の存在下でエステル化反応を行うことが望ましい。酸触媒の存在下で反応を行うことにより、反応を速やかに進行させることができる。本発明のエステル化反応において使用することのできる酸触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、キシレンスルホン酸、キシレンスルホン酸水和物、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸水和物、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion」レジン、「Amberlyst 15」レジン、リンタングステン酸、リンタングステン酸水和物、塩酸などが挙げられ、これらのうち、硫酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、メタンスルホン酸などが好ましく使用される。さらに、本発明者らは、エステル化物の品質および性能の低下の原因となる不純物のジエステルの生成原因の1つが、アルコール原料の切断によるものであり、さらに当該切断が酸触媒によっても起こり得ることを知得した。かかる知見に基づき、当該切断のしにくい酸触媒がより望ましいこと見出したものである。当該酸触媒としては、具体的には、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物が例示できる。
上記酸触媒の使用量としては、所望の触媒作用を有効に発現する事ができる範囲であれば特に制限されるものではないが、本発明者らは、上述したように、セメント等の分散性能や増粘特性の乏しい、高分子量架橋ポリマーを与えるとする酸触媒存在下でのエステル化反応における技術的課題についての解決方法として、酸触媒の使用量を、0.4ミリ当量/g以下、好ましくは0.36〜0.01ミリ当量/g、より好ましくは0.32〜0.05ミリ当量/gの範囲内とすることで、こうした技術的課題を解決する事ができる事を見出したものである。すなわち、本発明では、エステル化反応時における上記に規定する酸触媒量の制限と、エステル化反応終了後の脱水溶剤の留去時の水溶性の重合禁止剤の使用量の制限を併用することが特に望ましい態様であることを見出したものといえる。
すなわち、酸触媒の使用量が0.4ミリ当量/gを超えると、エステル化反応時に反応系内で形成されるジエステルの量が増加し、エステル化反応により得られるエステル化物を用いて合成されるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。ここで、酸触媒の使用量(ミリ当量/g)は、反応に使用した酸触媒のH+の当量数(ミリ当量)を、原料であるアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込み量(g)で割った値で表される。より具体的には下記式によって算出される値である。
上記酸触媒の反応系への添加のし方は、一括、連続、または順次行ってもよいが、作業性の面からは、反応槽に、原料と共に一括で仕込むのが好ましい。
また、上記エステル化反応においては、重合禁止剤の存在下で反応を行うものである。重合禁止剤を用いることにより、原料のアルコール及び(メタ)アクリル酸、生成物のエステル化物またはこれらの混合物の重合を防止することできる。上記エステル化反応において使用できる重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用できるものであり、特に制限されるものではなく、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)などが挙げられる。これらのうち、脱水溶剤や生成水の溶解性の理由から、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンが好ましく使用される。これらの重合禁止剤は、単独で使用してもよいほか、2種以上を混合して使用することもできる。とりわけ、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンが、上記したように、エステル化反応終了後に、脱水溶剤を水との共沸により留去する際にも、弱いながらも重合活性のある水溶性重合禁止剤を用いなくても極めて有効に重合禁止能を発揮することができ、高分子量体の形成を効果的におさえる事ができる点から極めて有用である。
上記重合禁止剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、0.001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内である。重合禁止剤の使用量が0.001重量%未満であると、重合禁止能の発現が十分でなく、原料としてのアルコール、(メタ)アクリル酸、生成物としてのエステル化物またはこれらの混合物の重合を有効に防止しにくくなるため好ましくなく、重合禁止剤の使用量が1重量%を超えると、生成物であるエステル化物中に残留する重合禁止剤量が増えるため、品質及び性能面から好ましくなく、また、過剰に添加することに見合うさらなる効果も得られず、経済的な観点からも好ましくない。
さらに、本発明のエステル化反応においては、脱水溶剤中で、エステル化反応を行うものである。本明細書中、脱水溶剤とは、水と共沸する溶剤として規定されるものである。すなわち、脱水溶剤を用いることにより、エステル化反応により生成する反応生成水を効率よく共沸させることができるものである。脱水溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、イソプロピルエーテルなどが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上のものを混合溶剤として使用することができる。これらのうち水との共沸温度が150℃以下、より好ましくは60〜90℃の範囲であるものが好ましく、具体的には、シクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、ベンゼン、イソプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。水との共沸温度が150℃を超える場合には、取り扱いの面(反応時の反応系内の温度管理および共沸物の凝縮液化処理などの制御等を含む)から好ましくない。
上記脱水溶剤は、反応系外に反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させることが望ましく、この際、脱水溶剤の使用量は、原料としてのアルコール及び(メタ)アクリル酸の合計仕込量に対して、1〜100重量%、好ましくは2〜50重量%の範囲内である。脱水溶剤の使用量が1重量%未満であると、エステル化反応中に生成する反応生成水を共沸により反応系外に十分除去できず、エステル化の平衡反応が進行しにくくなるため、好ましくなく、脱水溶剤の使用量が100重量%を超えると、過剰に添加することに見合う効果が得られず、また、反応温度を一定に維持するために多くの熱量が必要となり、経済的な観点から好ましくない。
本発明において、エステル化反応は、回分または連続いずれによっても行ないうるが、回分式で行うことが好ましい。
また、エステル化反応における反応条件は、エステル化反応が円滑に進行する条件であればよいが、例えば、反応温度は30〜140℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは90〜125℃、特に好ましくは100〜120℃である(なお、これらは、本発明の一般的な(広い意味での)エステル化反応の条件であり、上述した脱水溶剤を反応系外に反応生成水と共沸させ、反応生成水を凝縮液化して分離除去しながら還流させる場合は、その1例であり、これらの範囲内に含まれるが、完全に一致するものではない。)。反応温度が30℃未満では、脱水溶剤の還流が遅くて脱水に時間がかかるほか、エステル化反応が進行しづらく、好ましくない。逆に、反応温度が140℃を超えると、アルコール原料の切断によって過大量のジエステルが生成してセメント分散性能のほか、各種用途における分散性能や増粘特性が低下するほか、原料の重合が生じたり、共沸物への原料の混入量が増すなど、生成物であるエステル化物の性能及び品質の劣化が生じるなど、やはり好ましくない。また、反応時間は、後述するようにエステル化率が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%に達するまでであるが、通常、1〜50時間、好ましくは3〜40時間である。さらに、本発明によるエステル化反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。
本発明によるエステル化反応におけるエステル化率は、70%以上、より好ましくは70〜99%、最も好ましくは80〜98%であることが好ましい。エステル化率が70%未満であると、製造されるエステル化物の収率が不十分であり、これを原料として得られるセメント分散剤等の用途性能、例えば、セメント分散能等が低下する。なお、本明細書において使用される「エステル化率」は、下記に示すエステル化測定条件で、エステル化の出発物質であるアルコールの減少量を測定することにより、下記式によって算出される値として定義されるものである。
・エステル化率測定条件
解析装置 ;Waters製 Millennium
クロマトグラフィーマネージャー
検出器 ;Waters製 410 RI検出器
使用カラム;GLサイエンス製 イナートシルODS−2 3本
カラム温度;40℃
溶離液 ;水 8946g
アセトニトリル 6000g
酢酸 54g
を混合して、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH4.0に調整
流速 ;0.6ml/min
なお、上記の式によりエステル化率を決定しているため、エステル化率が100%を越えることはない。従って、本発明においては、エステル化率が規定以上に達した時点でエステル化反応が終了したものとする。
(II)部分中和工程
次に、本発明では、上記(I)のエステル化工程において、酸触媒の存在下でエステル反応を行う場合には、以下に説明する部分中和工程を行うのが望ましい。すなわち、本発明者らは、エステル化反応後に脱水溶剤を留去する工程で水を加えて共沸する場合、あるいはエステル化物を用いてさらに重合を行うために、エステル反応後に調整水を加えて生成されたエステル化物の水溶液を作製する場合に、酸触媒による加水分解が生じ、エステル化物の品質及び性能の低下を招くほか、加水分解により生じたもの(以下、単に加水分解生成物ともいう)がエステル化物中に残留し、当該エステル化物を用いてセメント分散剤等の各種分散剤や増粘剤等に使用される重合体を合成する場合には、該加水分解生成物は、重合には関与しない不純物となり、重合率(ひいては生産性)が低下し、また重合体の品質や性能の劣化にもつながることから、かかる課題を解決するには、上記(I)のエステル化工程によるエステル化反応終了後、90℃以下で酸触媒をアルカリで中和することが望ましいことを見出したものである。これにより、エステル化反応後の処理過程で、加水分解生成物を生じることもなく、高純度で高品質のエステル化物を得ることができる。
(III)溶剤留去工程
本発明では、上記エステル化反応を脱水溶媒中で行うため、上記(I)のエステル化工程によりエステル化反応を行った後に、反応液から脱水溶剤を留去するものである。さらに上記エステル化反応を酸触媒の存在下で行う場合には、上記(I)のエステル化工程によりエステル化反応を行った後に、上記(II)の部分中和工程により酸触媒、さらには(メタ)アクリル酸の一部を中和し、次いで、反応液から脱水溶剤を留去するものである。この際に、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の全使用量に対して1000ppm以下の水溶性重合禁止剤を反応液に添加して行うことを特徴とするものである。
溶剤留去工程の好適な実施の形態につき、以下に説明する。
本発明は、エステル化反応終了後(必要に応じて、部分中和処理を行い)、当該溶剤留去工程において、反応液から脱水溶剤を留去する際に、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の全使用量に対して1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下の水溶性重合禁止剤を反応液に添加して、特に好ましくは添加せずに行うことを特徴とするものである。すなわち、本来的には重合を禁止する目的で添加されていた水溶性重合禁止剤を加えることで、この重合禁止剤が弱いながらも重合活性を有するために、意外にも、未反応の原料、生成物であるエステル化物またはこれらの混合物の重合を招き、高分子量体を形成していたことを見出すとともに、エステル化反応時に添加されていた重合禁止剤が、当該脱水溶剤の留去時にも有効に機能することを見出し、これら水溶性重合禁止剤を全く使用しなくとも高分子量体の発生を防止し得る事を見出したものである。したがって、水溶性重合禁止剤の使用量が、原料のアルコールと(メタ)アクリル酸の全使用量に対して1000ppmを超える場合には、該水溶性重合禁止剤のもつ重合活性により、2.0面積%以上の高分子量体の発生を招き、これらを含むエステル化物を単量体成分として利用する場合には、得られる重合体を用いたセメント分散剤等に影響を及ぼすため好ましくない。
本溶剤留去工程では、重合禁止剤の存在下に、エステル化反応を行っているが、当該重合禁止剤が上述したようにエステル化反応後(さらには部分中和処理後)においても有効に機能するものである場合には、本溶剤留去工程において、系内の溶液中に、新たに重合禁止剤を補充する必要はないが、濃度の薄いアルカリ水溶液を用いて部分中和処理を行っている場合には、反応液中に比較的多くの水が存在している。そのため、例えば、エステル化反応を行う際に使用した重合禁止剤が水に難溶ないし不溶であり、エステル化反応後(さらには部分中和処理後)においてさほど有効に機能しえない場合に限り、未反応の原料やエステル化物が水に溶けて重合することがあるため、これを防止する観点から、水溶性重合禁止剤のもつ重合活性による重合作用と本来的に有する重合禁止能との関係から、重合活性以上に有効に重合禁止能を発現し得る範囲(上記に規定する範囲)において、反応液に水溶性重合禁止剤を加えてから下記に規定する温度まで昇温し、脱水溶剤を水との共沸により留去することが望ましいものである。
ここで、使用することのできる水溶性重合禁止剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、カテコール及びこれらの誘導体(例えば、p−t−ブチルカテコール等)、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。なかでも、比較的重合活性が低いとの理由から、ハイドロキノン、メトキノンが好ましい。また、これらの水溶性重合禁止剤は、1種若しくは2種以上を混合して使用してもよい。
次に、本発明のエステル化物を用いてなる重合体及びその製造方法に関して、以下に説明する。
本発明の重合体は、上記に詳細に説明した通り、高分子量体の含有率が、2.0面積%以下である上記一般式(1)で示されるエステル化物を含む単量体成分を用いて得られたものであることを特徴とするものである。好ましくは、セメント分散剤に使用される重合体であって、上記一般式(1)中のnが1〜300の数であるエステル化物を含む単量体成分を用いて得られたものである。これにより、上述したとおり、当該重合体中に含まれる分散性能の乏しい高分子量架橋ポリマーの含有率が極めて低く、如何なる用途に利用(特に、主成分として配合して利用)しようとも、その基本性能に悪影響を与える不純物の混入が極めて低く、良好な分散性能、特にセメント分散剤として利用を図る場合には、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮することができる点で極めて有用なものといえる。
本発明の重合体は、高分子量体の含有率が、2.0面積%以下である上記一般式(1)で示されるエステル化物を含む単量体成分を用いて得られたものであり、このうち、高分子量体の含有率が、2.0面積%以下である上記一般式(1)で示されるエステル化物については、上述した通りである。なお本発明の重合体には、上記エステル化物を1種、若しくは2種以上を用いて重合してなるもののいずれも含まれるほか、必要に応じて、さらにアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩を含むものである。
また、本発明の重合体は、本発明の上記目的の範囲を逸脱しない限りは、上記エステル化物を単量体成分として用いて得られたものであること以外には、特に制限されるものではなく、所期の用途に応じて重合されてなるものが含まれると解されるべきである。例えば、特公昭59−18338号公報、特開平9−86990号公報および特開平9−286645号公報に記載の重合体において、これに使用してなるエステル化物として、本発明の高分子量体の含有率が、2.0面積%以下であるエステル化物を用いることにより得られる重合体(いずれも、セメント分散剤への利用に供される重合体の例)などが例示できるが、これらに限定されるものでないことは言うまでもなく、これ以外にも、例えば、特願平9−211968号、特願平10−10047号などに記載の重合体において、これに使用してなるエステル化物として、本発明の高分子量体の含有率が、2.0面積%以下であるエステル化物を用いることにより得られる重合体等が例示でき、これらはみな本発明の範囲に含まれるものである。
また、本発明の重合体(重合体塩を含む)の重量平均分子量は、所期の用途に応じて適宜最適な範囲に決定されるものであり、例えば、セメント分散剤への利用を図る場合には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で500〜500000、特に5000〜300000の範囲とすることが好ましい。また、重合体の重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値は、0〜8000であることが必要であり、好ましくは0〜7000である。重量平均分子量が500未満では、セメント分散剤の減水性能が低下するために好ましくない。一方、500000を越える分子量では、セメント分散剤の減水性能、スランプロス防止能が低下するために好ましくない。また、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が8000を越える場合には、得られたセメント分散剤のスランプ保持性能が低下するために好ましくない。
次に、本発明の重合体の製造方法は、上述したとおり、高分子量体の含有率が、2.0面積%以下であることを特徴とする上記一般式(1)で示されるエステル化物を含む単量体成分を重合反応させることを特徴とするものである。好ましくは、セメント分散剤に使用される重合体の製造方法であって、一般式(1)中のnが1〜300の数であるエステル化物を含む単量体成分を重合反応させることを特徴とするものである。これにより、該高分子量体が重合反応で架橋剤として作用し、分散性能の乏しい高分子量架橋ポリマーが生成するのを防止することができるものであり、特にセメント分散剤への利用を図る場合には、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮する事ができる重合体を有効に得ることができるものである。
以下に、本発明のエステル化物の製造方法の好適な実施の形態につき、工程を追って説明する。
本発明の重合体の製造方法は、上記の通りであるが、特に本発明では、上記一般式(1)で表されるエステル化物を単量体成分として、重合反応を行うものである。
本発明の重合体の製造方法は、上記一般式(1)で表されるエステル化物を単量体成分として、重合反応を行うことにより、所期の用途に応じた、本発明の重合体を得ることができるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、特公昭59−18338号公報、特開平9−86990号公報および特開平9−286645号公報に記載の方法などの公知の方法と同様にして、(メタ)アクリル酸(塩)、および必要によりこれらのエステル化物の単量体成分と共重合可能な単量体と共に重合反応に供することができるが、これらに限定されるものではなく、本発明の重合体の詳細な説明において例示したそれぞれの公報に記載の重合方法が適用できる事はもちろんのこと、これら以外にも従来既知の各種重合方法を適用できることはいうまでもない。
具体的には、例えば、本発明の重合体の製造方法では、上記一般式(1)で表されるエステル化物単量体(以下、単にエステル化物単量体とも言う)を、(メタ)アクリル酸(塩)単量体および必要によりこれらの単量体と共重合可能な単量体とともに重合反応することにより得ることができる。
ここで、所望の重合体を得るには、重合開始剤を用いて前記エステル化物単量体成分等を共重合させれば良い。共重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行なうことができる。
溶媒中での重合は、回分式でも連続式でも行なうことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;等が挙げられる。原料のエステル化物の単量体成分および得られる共重合体の溶解性ならびに該共重合体の使用時の便からは、水および炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。その場合、炭素原子数1〜4の低級アルコールの中でもメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が特に有効である。
水媒体中で重合を行なう時は、重合開始剤としてアンモニウムまたはアルカリ金属の過硫酸塩あるいは過酸化水素等の水溶性の重合開始剤が使用される。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩等の促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物あるいはケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の芳香族アゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる。
塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度範囲内で行なわれる。
また、得られる重合体の分子量調節のために、チオール系連鎖移動剤を併用することもできる。この際に用いられるチオール系連鎖移動剤は、一般式HS−R5−Eg(ただし、式中R5は炭素原子数1〜2のアルキル基を表わし、Eは−OH、−COOM2、−COOR6または−SO3M2基を表わし、M2は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わし、R6は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表わす。)で表わされ、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
このようにして得られた重合体は、そのままでもセメント分散剤等の各種用途の主成分として用いられるが、必要に応じて、さらにアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩をセメント分散剤等の各種用途の主成分として用いても良い。このようなアルカリ性物質としては、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等が好ましいものとして挙げられる。
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできる上記一般式(1)で示されるエステル化物単量体成分は、1種単独で用いても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。特に、2種以上を混合して使用する場合には、使用用途に応じた特性(機能・性能等)を発現させる事ができるように、発現特性の異なる種類を適当に組み合わせて用いる事が望ましく、1例としてセメント分散剤への利用を行う場合には、以下の2種の組み合わせが有利である。
すなわち、一般式(1)で示されるエステル化物において、平均付加モル数nが1〜97、好ましくは1〜10の整数を表わす。)で示される第1のエステル化物(a1)と、平均付加モル数nが4〜100、好ましくは11〜100の整数を表わす。)で示される第2のエステル化物(a2)との混合物(ただし、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数の方が第1のエステル化物(a1)の平均付加モル数よりも3以上大きいものとする)の組み合わせが有利である。
このような第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との混合物を製造する方法は、当該エステル化物の製造方法で説明した通りであり、これらの第1および第2のエステル化物(a1)および(a2)を別々にエステル化反応により製造してもよいし、それぞれ相当するアルコールの混合物と、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により製造してもよく、特に後者の方法は工業的に安価の製造方法を提供できる。
この場合、第1のエステル化物(a1)と第2のエステル化物(a2)との重量比は5:95〜95:5、好ましくは10:90〜90:10である。
第1のエステル化物(a1)としては、例えば、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(エタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が例示される。第1のエステル化物(a1)は、その側鎖の短鎖アルコールに疎水性を有することが重要である。
また、共重合のし易さの面からは、側鎖はエチレングリコール単位が多く含まれているのが好ましい。したがって、(a1)としては、平均付加モル数が1〜97、好ましくは1〜10の(アルコキシ)(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
第2のエステル化物(a2)としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが例示される。
高い減水性を得るためには、第2のエステル化物(a2)の平均付加モル数が4〜100のアルコール鎖による立体反発と親水性でセメント粒子を分散させることが重要である。そのためには、ポリアルキレングリコール鎖にはオキシエチレン基が多く導入されることが好ましく、ポリエチレングリコール鎖が最も好ましい。よって、第2のエステル化物(a2)のアルキレングリコール鎖の平均付加モル数nは、4〜100、好ましくは11〜100である。
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできる、上記(メタ)アクリル酸(塩)単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸ならびにこれらの酸の一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
本発明の重合体の製造方法において、使用することのできるエステル化物単量体および(メタ)アクリル酸(塩)単量体の単量体成分と共重合可能な単量体の例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸類;これらのジカルボン酸類とHO(R11O)rR12(ただし、R11Oは炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、rはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり1から100の整数を表わし、R12は水素または炭素原子数1〜22、好ましくは1〜15のアルキル基を表わす。)で表わされるアルコールとのモノエステルあるいはジエステル類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類およびそれらの一価金属塩、二価金属塩、アルモニウム塩、有機アミン塩類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;炭素原子数1〜18、好ましくは1〜15の脂肪族アルコールあるいはベンジルアルコール等のフェニル基含有アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
上記重合体の製造方法により得られた重合体(重合体塩を含む)では、セメント分散能に優れたセメント分散剤の主成分とすることができるほか、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インクなどの顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、CWM用分散剤、増粘剤等への利用が可能である。
以上が、本発明の重合体及びその製造方法についての詳細な説明である。
最後に、本発明のセメント分散剤は、少なくとも下記に示す重合体;すなわち、高分子量体の含有率が2.0面積%以下であることを特徴とする上記一般式(1)で示されるエステル化物において、一般式(1)中のnが1〜300の数であるエステル化物を含む単量体成分を用いて得られた重合体、を有してなることを特徴とするものである。これにより、良好なセメント分散性能とスランプ保持性能を発揮する事ができるものである。
ここで、上記に示す重合体については、上記に説明した通りである、ここではその説明を省略する。
また、本発明のセメント分散剤には、上記に規定する重合体成分の他に、従来公知のナフタレン系セメント分散剤、アミノスルホン酸系セメント分散剤、ポリカルボン酸系セメント分散剤およびリグニン系セメント分散剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種のセメント分散剤を配合してもよい。すなわち、本発明のセメント分散剤では、上記重合体単独で使用しても良いし、必要に応じて、さらに付加価値を持たせるべく、上記および下記に示す各種成分を配合する事ができるものであり、これらの配合組成については、目的とする付加的機能の有無により大きく異なるものであり、上記重合体成分を100重量%(全量)ないし主成分とするものから、上記重合体成分を高付加価値成分として、従来のセメント分散剤に適量加える態様まで様々であり、一義的に規定することはできない。
また、本発明のセメント分散剤には、従来公知のセメント分散剤の他に、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等を配合することができる。
このようにして得られる重合体を主成分とするセメント分散剤は、少なくともセメントおよび水よりなるセメント組成物に配合することによりセメントの分散を促進する。
本発明のセメント分散剤は、ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメント等の水硬セメント、あるいは、石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
本発明のセメント分散剤は、上記に記載の作用効果を奏するため、従来のセメント分散剤に比較して少量の添加でも優れた効果を発揮する。たとえば水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント重量の0.001〜5%、好ましくは0.01〜1%となる比率の量を練り混ぜの際に添加すればよい。この添加により高減水率の達成、スランプロス防止性能の向上、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。添加量が0.001%未満では性能的に不十分であり、逆に5%を越える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となる。
本発明のセメント分散剤は、上述のような特定の重量平均分子量を有し、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が特定の値を有する重合体を主成分とするセメント分散剤であることが望ましい。
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、特にことわりのない限り、%は重量%を、また、部は重量部を表わすものとする。
実施例1
・エステル化物水溶液(1)の製造
温度計、攪拌機、生成水分離器、コンデンサである還流冷却管、窒素導入管を備えたジャケット付ガラス製反応器(内容量:30リットル)にメトキシポリ(n=25)エチレングリコール16500部、メタクリル酸4740部、パラトルエンスルホン酸水和物235部、フェノチアジン5部およびシクロヘキサン1060部を仕込み、反応温度115℃でエステル化反応を行った。20時間でエステル化率が100%に達したのを確認した。
得られたエステル化反応液(1)22255部に49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン1部(原料のメトキシポリ(n=25)エチレングリコールとメタクリル酸の全使用量に対して100ppm)を加えて105℃までに昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去後、調整水を添加して80%のエステル化物水溶液(1)を得た。
得られたエステル化物水溶液(1)につき、本発明で規定する液体クロマトグラム測定法により、高分子量体の含有量を測定した。測定により得られたグラフを図1に示す。図1のグラフより、本発明で規定する算出方法にしたがってエステル化物及び高分子量体の面積比を求め、高分子量体の含有率を算出した。その結果、エステル化物水溶液(1)中の高分子量体の含有率は、0.4面積%であった。
・本実施例の重合体(1)の製造
次に、温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却管を備えたガラス製反応容器(内容量:30リットル)に、水8200部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、上記エステル化反応により得られたエステル化物水溶液(1)13100部と連鎖移動剤として14%メルカプトプロピオン酸水溶液694部を均一に混合した単量体混合物水溶液を4時間、および11%過硫酸アンモニウム水溶液1125部を5時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、重合反応を完結させた。そして、49%水酸化ナトリウム水溶液1480部で中和して、重量平均分子量(GPCによるポリエチレングリコール換算;以下、同様とする。)20000の本実施例の重合体(1)を得た。
・本実施例のセメント分散剤の性能評価(スランプ値の測定)
得られた本実施例の重合体(1)を本実施例のセメント分散剤(1)として以下に示すコンクリート試験を行った。
セメントとして普通ポルトランドセメント(秩父小野田セメント株式会社製:比重3.16)、細骨材として大井川水系産陸砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。
コンクリートの配合条件は、単位セメント量320kg/m3、単位水量165kg/m3、水/セメント比51%および細骨材率49%であった。また、セメント100重量部に対する本実施例のセメント分散剤(1)固形分の添加量(重量部)は、下記表2に示すとおりとした。
スランプ値(初期、30分後、60分後)の測定は、上記配合によるコンクリートを使用し、日本工業規格(JIS A 1101)に準拠して行った。
本実施例のエステル化工程での反応組成、反応条件およびエステル化率につき下記表1に示す。また、中和工程での組成、本実施例のエステル化物水溶液(1)中の高分子量体の含有率、本実施例の重合体(1)を用いた本実施例のセメント分散剤(1)のコンクリートの性能評価につき下記表2に示す。
実施例2
・エステル化物水溶液(2)の製造
実施例1で得られたエステル化反応液(1)22255部に49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノンを加えることなく105℃までに昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去後、調整水を添加して80%のエステル化物水溶液(2)を得た。
得られたエステル化物水溶液(2)につき、本発明で規定する液体クロマトグラム測定法により、高分子量体の含有量を測定した。測定により得られたグラフを図2に示す。図2のグラフより、本発明で規定する算出方法にしたがってエステル化物及び高分子量体の面積比を求め、高分子量体の含有率を算出した。その結果、エステル化物水溶液(2)中の高分子量体の含有率は、0.0面積%(すなわち、図2から明らかなように高分子量体に相当する測定データは認められなかった。)であった。
・本実施例の重合体(2)の製造
次に、エステル化物水溶液(1)に代えてエステル化物水溶液(2)を用いた以外は、実施例1と同様の装置を用い、実施例1と同様にして重合反応、さらには中和処理を行い、重量平均分子量19000の本実施例の重合体(2)を得た。
・本実施例のセメント分散剤の性能評価(スランプ値の測定)
得られた本実施例の重合体(2)を本実施例のセメント分散剤(2)とし、セメント100重量部に対する本実施例のセメント分散剤(2)固形分の添加量(重量部)を下記表2に示すように、初期のスランプ値が略実施例1のものと同じになるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例1に示すコンクリート試験を行った。
本実施例のエステル化工程での反応組成、反応条件およびエステル化率につき下記表1に示す。また、中和工程での組成、本実施例のエステル化物水溶液(2)中の高分子量体の含有率、本実施例の重合体(2)を用いた本実施例のセメント分散剤(2)のコンクリートの性能評価につき下記表2に示す。
比較例1
・比較用エステル化物水溶液(1)の製造
実施例1で得られたエステル化反応液(1)22255部に49%水酸化ナトリウム水溶液135部と水4890部を加えてパラトルエンスルホン酸を中和し、ハイドロキノン30部(原料のメトキシポリ(n=25)エチレングリコールとメタクリル酸の全使用量に対して1500ppm)を加えて105℃までに昇温し、シクロヘキサンを水との共沸で留去後、調整水を添加して80%の比較用エステル化物水溶液(1)を得た。
得られた比較用エステル化物水溶液(1)につき、本発明で規定する液体クロマトグラム測定法により、高分子量体の含有量を測定した。本発明で規定する算出方法にしたがってエステル化物及び高分子量体の面積比を求め、高分子量体の含有率を算出した。その結果、比較用エステル化物水溶液(1)中の高分子量体の含有率は、2.4面積%であった。
・比較用重合体(1)の製造
次に、エステル化物水溶液(1)に代えて比較用エステル化物水溶液(1)を用いた以外は、実施例1と同様の装置を用い、実施例1と同様にして重合反応、さらには中和処理を行い、重量平均分子量23000の比較用重合体(1)を得た。
・比較用セメント分散剤の性能評価(スランプ値の測定)
得られた比較用重合体(1)を比較用セメント分散剤(1)とし、セメント100重量部に対する比較用セメント分散剤(1)固形分の添加量(重量部)を下記表2に示すように、初期のスランプ値が略実施例1のものと同じになるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例1に示すコンクリート試験を行った。
本比較例のエステル化工程での反応組成、反応条件およびエステル化率につき下記表1に示す。また、中和工程での組成、比較用エステル化物水溶液(1)中の高分子量体の含有率、比較用重合体(1)を用いた比較用セメント分散剤(1)のコンクリートの性能評価につき下記表2に示す。
上記表2から分かるように、水溶性重合禁止剤であるハイドロキノンの添加量が増加するに従って、高分子量体の含有率が大きくなり、原料の全使用量に対して1000ppmを超える比較例では、高分子量体が2.0面積%を超えることが確認された。また、高分子の含有率が、2.0面積%を超える比較例1では、これらよりも少ない高分子量体の含有率である実施例1、2に比して、初期のスランプ値をほぼ同じレベルに保持するのに、より多くのセメント分散剤の添加(実施例に対して約10%強)を必要とする事が確認された。さらに、比較例1では、初期にほぼ同じレベルに合わされたスランプ値が、その後、経時的に著しく低下するのに対し、高分子量体の含有率が低い実施例では、スランプ値の低下率が緩やかであり、該高分子量体を含まない実施例2の方が僅かではあるがその低下率がより緩やかになる、すなわち、スランプ保持性能がより優れる事が確認された。