JP6154872B2 - 積層ポリエステルフィルム - Google Patents

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Description

本発明は、例えば高温にさらされた後もフィルムからのオリゴマー(ポリエステルの低分子量成分、特にエステル環状三量体)の析出が少ない積層ポリエステルフィルムに関するものである。
ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性などに優れ、さまざまな分野で使用されている。
特に近年、タッチパネル等への使用が増えている、透明導電性積層体の基材として、ガラスの代わりに使用されることが増えてきている。かかる透明導電性積層体として、ポリエステルフィルムを基材とし、その上に直接、あるいはアンカー層を介して、ITO(酸化インジウムスズ)膜がスパッタリングで形成されているものがある。かかる二軸延伸ポリエステルフィルムは、加熱加工されることが一般的である。
例えば、低熱収縮化のために、150℃で1時間放置する(特許文献1)、ITOの結晶化のために150℃で熱処理を行う(特許文献2)等の処理がある。
しかし、ポリエステルフィルムの問題として、このような高温長時間の処理にさらされると、フィルム中に含有されるエステル環状三量体が、フィルム表面に析出・結晶化することで、フィルム外観の白化による視認性の低下、後加工の欠陥、工程内や部材の汚染などが起こる。そのため、ポリエステルフィルムを基材とした透明導電性積層体の特性は、十分に満足のいくものとは言えない。
さらに、上述のエステル環状三量体析出防止策として、例えば、ポリエステルフィルム上にシリコーン樹脂とイソシアネート系樹脂の架橋体からなる硬化性樹脂層を設けることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、当該硬化性樹脂層は熱硬化により形成されるもので、イソシアネート系樹脂のブロック化剤の解離のために高温処理が必要となり、加工中にカールや、たるみが発生しやすい状況にあり、取り扱いに注意が必要である。
そのため、塗布層によるエステル環状三量体析出量の低減策を講じる場合には、従来よりも一段と高度な耐熱性を有し、かつ塗布層自体のエステル環状三量体封止性能が良好であることが必要とされる状況にある。
特開2007−42473号公報 特開2007−200823号公報 特開2007−320144号公報
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、例えば高温にさらされた際にフィルムから析出するエステル環状三量体を抑え、フィルム保管時、フィルム使用時、フィルム加工時等において、エステル環状三量体に伴う不具合を発生させない積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
本発明者らは、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、特定の塗布層を設けることにより、上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、スチレン構造と、10モル%以上の(メタ)アクリル酸構造とを有する樹脂を含有する、厚さが0.003〜1.0μmの範囲である塗布層を、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム、および、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、スチレン構造と、10モル%以上の(メタ)アクリル酸構造とを有する樹脂を含有する塗布液をインラインコーティング法により塗布して塗布層を形成することを特徴とする積層ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
本発明の積層ポリエステルフィルムによれば、高温長時間の処理を行っても、表面からのエステル環状三量体の析出が抑制されているために、ヘーズの上昇や異物の生成のない優れた外観の製品を得ることができ、その工業的な利用価値は高い。
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
本発明の積層ポリエステルフィルムの基材フィルムは、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも、アンチモン化合物は安価であることから好ましい。
本発明においては、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑えるために、エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造することが挙げられる。エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えば、ポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外ポリエステル層にエステル環状三量体の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層を設計することで、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑える方法も可能である。
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。粒子を配合する場合、配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
また、粒子の平均粒径は、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは0.01〜3.0μmの範囲である。平均粒径が5.0μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程の種々の加工で不具合が生じる場合がある。また、上記範囲で使用することで、ヘーズが低く抑えられ、フィルム全体として透明性を確保しやすい。
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、好ましくは5重量%未満、より好ましくは0.0003〜1重量%の範囲、さらに好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子含有量が多い場合にはヘーズが高くなり、透明性に欠けることから、例えば、種々の検査時に、異物等の欠陥検査の難易度が上がってしまう等の不具合が生じる場合がある。
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。
これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜300μm、好ましくは20〜250μmの範囲である。
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、まず先に述べたポリエステル原料を、押出機を用いてダイから溶融押し出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に、通常70〜170℃で、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍で延伸する。引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルムの何れかにコーティングする。
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
本発明の塗布層は、スチレン構造と、3モル%以上の(メタ)アクリル酸(本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸またはアクリル酸を表す)構造とを有する樹脂を含有する塗布層を、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に有することを必須の要件とするものである。なお、塗布液中には、その他の成分を含有していても構わない。
スチレン構造としては、スチレンおよびスチレン誘導体のことであり、例えば、スチレンにメチル基やエチル基等のアルキル基やフェニル基等の置換基として導入されていても良い。加熱処理によるエステル環状三量体の析出防止効果の観点から、好ましくは炭素数が4以下のアルキル基が置換されたスチレンまたは置換基がないスチレンであり、より好ましくはスチレンである。
(メタ)アクリル酸構造としては、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸に置換基が導入された誘導体のことである。加熱処理によるエステル環状三量体の析出防止効果の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸であり、より好ましくはアクリル酸である。
スチレン構造および(メタ)アクリル酸構造を有する樹脂には、スチレン構造および(メタ)アクリル酸構造を有する化合物と共重合可能な他の重合性モノマーを組み合わせることも可能である。共重合可能なモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有化合物、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有化合物、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類等が挙げられる。
スチレン構造と(メタ)アクリル酸構造とを有する樹脂中の(メタ)アクリル酸の割合は3モル%以上であり、好ましくは5〜90モル%、より好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは15〜40モル%の範囲である。(メタ)アクリル酸の割合が3モル%未満の場合は、加熱処理によるエステル環状三量体の析出を効果的に抑えられない。
本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布層の耐久性や塗布性向上を目的として、架橋剤を使用してもよい。架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用できるが、例えば、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの中でも特に塗布層上に形成されうる種々の表面機能層との耐久密着性が向上するという観点から、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物が好適に用いられ、また、耐溶剤性等、耐久性が向上するという観点からメラミン化合物が好適に用いられる。
また、本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布外観の向上、塗布層中に種々の表面機能層が形成されたときの密着性の向上等のためにポリマーを併用することも可能である。しかしながら併用した場合、量が多すぎると加熱処理によるエステル環状三量体の析出を効果的に抑えられないことがある。
ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール等)、導電性ポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。
また、塗布層の形成にはブロッキング、滑り性改良を目的として粒子を併用することも可能である。その平均粒径は、フィルムの透明性の観点から、好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下の範囲である。また、下限は滑り性をより効果的に向上させるために、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは塗布層の膜厚よりも大きい範囲である。粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。それらの中でも、透明性の観点からシリカが好ましい。
さらに、本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中の割合として、スチレン構造および(メタ)アクリル酸構造を有する樹脂は、通常1重量%以上、好ましくは10〜99重量%、より好ましくは20〜98重量%、さらに好ましくは40〜98重量%の範囲である。1重量%未満の場合、加熱処理によるエステル環状三量体の析出を効果的に抑えられないことがある。
また、塗布層の厚さは、最終的に得られるフィルム上の塗布層の厚さとして、通常0.003μm〜1μmの範囲であり、好ましくは0.005μm〜0.5μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.2μmの範囲である。厚さが0.003μmより薄い場合には、フィルムから析出するエステル環状三量体の量が十分に少なくならないことがある。また、1μmより厚い場合には、塗布層の外観の悪化や、ブロッキングしやすくなるなどの問題が生じることがある。
ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、ナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、スプレイコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート等従来公知の塗布方法を用いることができる。
塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、例えば、タッチパネル用等、長時間、高温雰囲気下にさらされた後であっても、高度な透明性が要求される場合がある。かかる観点より、高度な透明性に対応するためには、熱処理(150℃、90分間)におけるフィルムヘーズ変化量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。フィルムヘーズ変化量が1.0%を超える場合には、エステル環状三量体の析出によるフィルムヘーズ上昇に伴い、視認性が低下し、例えば、タッチパネル用等、高度な視認性が必要とされる用途に不適当となる場合がある。
また、エステル環状三量体の析出量の観点では、本発明における積層ポリエステルフィルムを熱処理(150℃、90分間)により、フィルム表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるエステル環状三量体量は、好ましくは2.5mg/m以下であり、より好ましくは2.0mg/m以下、さらに好ましくは1.5mg/m以下である。2.5mg/mを超える場合、後工程において、例えば、150℃、90分間等、高温雰囲気下で長時間の加熱処理に伴い、エステル環状三量体の析出量が多くなり、フィルムの透明性が低下する場合や、工程の汚染の懸念がある。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
(2)平均粒径(d50:μm)の測定方法
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
(3)塗布層の膜厚の測定方法
塗布層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、塗布層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
(4)フィルムの熱処理方法
サンプルの測定面がむき出しとなる状態でケント紙と重ねて固定し、窒素雰囲気下で、150℃で90分間放置して熱処理を行う。
(5)フィルムヘーズの測定方法
試料フィルムをJIS−K−7136に準じ、株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM−150」により、フィルムヘーズを測定した。
(6)加熱処理によるフィルムヘーズ変化量の測定方法
ポリエステルフィルムの、測定したい塗布層が設けられた面とは反対側の面に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート20重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)5重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が3μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。ハードコート層を形成したフィルムのヘーズを(5)の方法で測定した。次いで(4)項の方法で加熱した後、(5)の方法でヘーズを測定した。熱処理後のヘーズと熱処理前のヘーズの差を計算し、フィルムヘーズ変化量とした。
フィルムヘーズ変化量が低いほど、高温処理によるエステル環状三量体の析出が少ないことを示し、良好である。
(7)積層ポリエステルフィルムの表面に析出するエステル環状三量体析出量の測定
ポリエステルフィルムを空気中、150℃で90分間加熱する。その後、熱処理をした当該フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmになるように、測定面(塗布層)を内面として箱形の形状を作成する。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF(ジメチルスルホアミド)4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC−7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱化学株式会社製「MCI GEL ODS 1HU」、カラム温度:40℃、流速:1ml/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面エステル環状三量体量(mg/m)とした。DMF中のエステル環状三量体は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。なお、標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し、作成した。
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.63であった。
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加後、平均粒子径2μmのシリカ粒子を0.2重量部、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は、極限粘度0.65であった。
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(IA):スチレン/アクリル酸=80/20(モル%)で共重合したスチレンアクリル共重合体。
(IB):スチレン/アクリル酸/ヒドロキシエチルアクリルアミド=70/20/10(モル%)で共重合したスチレンアクリル共重合体。
(IC):スチレン/アクリル酸/nーブチルアクリレート/ジーtert−ブチルパーオキサイド=68/9/20/3(モル%)で共重合したスチレンアクリル共重合体。
(II):ヘキサメトキシメチロールメラミン。
(III):平均粒径0.07μmのシリカ粒子。
(IVA): メチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/エチレングリコール=40/13/30/17(モル%)で共重合したアクリル樹脂。
(IVB):スチレン/酢酸ビニル/アクリル酸/2,2’ーアゾビスイソブチロニトリル=65/33/2/1(モル%)で共重合したスチレン酢酸ビニル共重合体。
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)のみを中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:8:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記表1に示す塗布液1を塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.3倍延伸し、235℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、膜厚(乾燥後)が0.05μmの塗布層を有する厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムの加熱処理によるフィルムヘーズ変化量は小さく、エステル環状三量体の析出量も少なく良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
実施例2〜
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇値はなく、エステル環状三量体の析出量は良好であった。
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けないこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズが大きく上昇し、エステル環状三量体の析出も多いものであった。
比較例2〜4
実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところフィルムヘーズが高く、熱処理によるフィルムヘーズが大きく上昇し、エステル環状三量体の析出も多いものであり、工程の汚染や、加熱後の白化による視認性の悪化が懸念されるものであった。
Figure 0006154872
Figure 0006154872
本発明のフィルムは、高温雰囲気下にフィルムが長時間さらされる、過酷な熱処理工程を経た後でも、フィルムヘーズの上昇が極力小さく、エステル環状三量体の析出が少ないという性能を必要とする用途における積層ポリエステルフィルムとして、例えば、透明導電性積層体の基材として、好適に利用することができる。

Claims (3)

  1. スチレン構造と、10モル%以上の(メタ)アクリル酸構造とを有する樹脂を含有する、厚さが0.003〜1.0μmの範囲である塗布層を、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
  2. 150℃、90分間で熱処理した後のフィルムヘーズ変化量が1.0%以下である請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
  3. ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、スチレン構造と、10モル%以上の(メタ)アクリル酸構造とを有する樹脂を含有する塗布液をインラインコーティング法により塗布して塗布層を形成することを特徴とする積層ポリエステルフィルムの製造方法。
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