JP6147215B2 - セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は,例えば排気ガス浄化触媒として用いることができるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法に関する。
自動車等の内燃機関やボイラー等の燃焼機関から排出される排気ガス中には,大気汚染等の原因となる炭化水素(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)といった有害物質が含まれている。これら有害物質を効率良く浄化させることは,環境汚染防止等の観点から重要な課題であり,上記三成分の有害物質を同時に浄化することが可能な排気ガス浄化技術の研究も盛んに行われている。例えば,有害物質を浄化する作用を有する触媒を内燃機関や燃焼機関に設け,この触媒機能によって,三成分の有害物質を同時に浄化させる技術が知られている。一般的にこのような触媒は,排気ガス用三元触媒と称されており,既に一部で実用化がされている。
近年,自動車用途における排気ガス用三元触媒では,有害物質(CO,HC,NOx)濃度が数ppmから数%の間で急激に変化したとしても高効率に浄化させることが望まれている。すなわち,有害ガス濃度の急激な変化に対して柔軟に対応できる排気ガス用三元触媒の要求が高まっている。また,上記のような触媒を用いた有害成分の浄化システムにおいては,酸素濃度を一定以上に保つことも望まれている。排気ガス中に存在する酸素は,CO,HCの酸化やNOxの還元反応を促進させる作用を有しているため,酸素濃度を一定に保つことで浄化システムの機能がさらに向上するからである。しかし,自動車の場合,道路の混み具合などによって走行状況が変化するのでエンジンの燃焼状態を一定に保つことは難しく,排気ガス中の酸素濃度も刻々と変化する。そして,仮に酸素濃度が低くなると,触媒による有害物質の浄化性能も低下するので,高い浄化システムを構築することが難しくなるという問題がある。このような観点から,最近では,酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity:以下,OSCと略記する)を有する化合物をOSC剤として,排気ガスの浄化触媒に配合させる方法が採用されている。OSC剤は,排気ガス中の酸素濃度が低い場合には酸素を供給することができる性質を有しているので,浄化システムにおいて有害成分の浄化機能が低下するのを防止しやすくなる。
OSC剤としては,セリア粉末が知られている。セリア粉末は,比較的大きなOSCを有するため,排気ガスの浄化触媒用のOSC剤として用いることで,排気ガスの処理効率が増大することが明らかにされている。これまでにもセリア−ジルコニア系複合酸化物など,酸素の吸蔵容量や放出特性を向上させたセリア系粉末や,このセリア系粉末を助触媒とした排気ガス浄化触媒について種々の提案がされている。
例えば,特許文献1には,セリアとジルコニア及び鉄から選ばれる少なくとも一種の金属又は酸化物と,銀及びプラセオジムから選ばれる少なくとも一種の元素の金属又は酸化物を固溶してなる複合酸化物が開示されている。この複合酸化物は,白金などの貴金属を用いていないため,安価な触媒として提供される。しかし,特許文献1に開示の触媒は,触媒活性をもたせるために銀やプラセオジムといった高価な元素を使用するため,コストダウンが難しいという点で不利である。
また,特許文献2には,遷移金属酸化物からなる触媒粉末と酸素放出材料を包含する浄化触媒が開示されている。この浄化触媒は,遷移金属酸化物として鉄を,酸素放出材料としてセリウムを,無機酸化物としてジルコニウムを含んでおり,貴金属を必須成分として用いない場合であっても浄化作用を有している。しかしながら,当該浄化触媒であっても,排ガスの浄化効率には限界がある。
さらに,特許文献3には,貴金属を含む粒子,鉄化合物を担持したセリア及びジルコニアを含む粒子を含有してなる排気浄化触媒が開示されている。この排気浄化触媒は,NOxの転化性能が高く,しかも,貴金属の使用量が従来よりも低減されている。しかし,貴金属の使用量を低減できるといっても,やはりロジウム等の貴金属元素を必要としなければならないため,コスト面では不利となる。
特開2005−305363号公報 特開2010−104973号公報 特開2012−135716号公報
上記特許文献1乃至3に開示されているように,排気ガス浄化触媒用の複合酸化物は種々提案されているものの,その排ガスの浄化性能については依然として改善の余地が残されていた。また,複合酸化物中に貴金属が含まれるような場合は,製造コストが上昇するという問題もあった。さらに,上記特許文献に開示の複合酸化物では,高温に晒された場合にOSCの低下が生じるおそれもあり,耐熱性に課題を有しているものであった。
本発明は,上記点に鑑みてなされたものであり,優れたOSC及び高い触媒活性を有し,耐熱性にも優れるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びこのセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
上記のように,従来,貴金属を低減した排気ガス浄化触媒用複合酸化物については開発が積極的に進められているのに対し,複合酸化物に貴金属を配合せず,かつ,貴金属以外の第3の元素を直接配合する検討についてはこれまで十分になされていない。そこで,本発明者らは上記の点に着目し,セリウム−ジルコニウム系複合酸化物に第3の元素を配合することや,複合酸化物を製造する際に特定の工程を経ること等により,複合酸化物の浄化性能をさらに向上させる検討を行った。このように本発明者らは鋭意研究を重ねた結果,長時間高温に晒されても特定の結晶構造が維持されるセリウム−ジルコニウム複合酸化物により,上記目的を達成できることを見出し,本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は,下記のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法に関する。
1. セリウムと,ジルコニウムと,これら以外の遷移金属元素とを含むセリウム−ジルコニウム系複合酸化物であって,
1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後において,
(1)結晶構造はパイロクロア相を含み,
(2)X線回折法により測定したときの(111)面のピーク強度値をI111,(222)面のピーク強度値をI222として{I111/(I111+I222)}×100の値が1以上であり,
(3)600℃での酸素吸放出能が0.3mmol/g以上,750℃での酸素吸放出能が0.4mmol/g以上,
であることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
2. 前記遷移金属元素が鉄,マンガン,コバルト,ニッケル及び銅の群から選ばれる少なくとも1種以上である,上記項1に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
3. 前記遷移金属元素を,酸化物換算で0.01〜10mol%の範囲で含有する,上記項1又は2に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
4. 前記セリウムと前記ジルコニウムが,酸化物換算のモル比基準でCeO:ZrO=1:9〜9:1の割合で含まれる,上記項1乃至3のいずれか1項に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
5. 上記項1乃至4のいずれか1項に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法であって,
以下の(1)〜(5)の工程:
(1)セリウム原料と,ジルコニウム原料と,セリウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素原料とを含む出発原料を準備する工程1,
(2)前記出発原料を電力原単位換算で600〜800kWh/kgの電力量で加熱をし,次いで,電力原単位換算で800〜1000kWh/kgの電力量で加熱をすることにより融点以上の温度に加熱して熔融物を得る工程2,
(3)前記熔融物を徐冷却してインゴットを形成する工程3,
(4)前記インゴットを粉砕して粉体とする工程4,
(5)前記粉体を700〜1100℃で加熱する工程5,
を含むことを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,セリウムと,ジルコニウムと,これら以外の遷移金属元素とを含み,1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後においても特定の結晶構造を有している。そのため,上記複合酸化物は,耐熱性が高い材料であり,熱処理の前後において優れたOSC及び高い触媒活性を有する。
また,本発明に係る製造方法によれば,得られる複合酸化物の金属間距離が近接しており,固溶度が高いため,パイロクロア相が安定して存在するセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を容易に得ることができる。また,上記製造方法で得られる複合酸化物は,優れたOSC及び高い触媒活性を有する。
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を製造する工程の一例を示すフローシート図である。 実施例1〜3及び比較例1のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のXRD分析によるX線チャートを示し,(a)は加熱耐久試験前(1000℃で3時間の熱処理前),(b)は加熱耐久試験後(1000℃で3時間の熱処理後)のX線チャートである。 実施例1〜3及び比較例1のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の加熱耐久試験(1000℃又は1100℃で3時間熱処理)前後の600℃及び750℃における酸素吸着率の測定結果を表すグラフである。 実施例1〜3及び比較例1のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の昇温還元(Temperature Programming Reduction)のプロファイルを示し,(a)は加熱耐久試験前(1000℃で3時間の熱処理前),(b)は加熱耐久試験後(1000℃で3時間の熱処理後)のプロファイルである。 本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を製造するにあたって使用する熔融装置(アーク式電気炉)の一例を示す概略説明図である。
以下,本発明の実施形態について詳細に説明する。尚,本明細書において,「%」とは,特に断りがない場合,「重量%=質量%」を示す。
1.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物
セリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,セリウムと,ジルコニウムと,これら以外の遷移金属元素とを含んで構成される。また,セリウム−ジルコニウム系複合酸化物を1000℃〜1100℃の温度範囲で3時間熱処理した場合において,次の(1)〜(3)の構成を具備することに特徴を有する。
(1)結晶構造はパイロクロア相を含み,
(2)X線回折法により測定したときの(111)面のピーク強度値をI111,(222)面のピーク強度値をI222として{I111/(I111+I222)}×100の値が1以上であり,
(3)600℃での酸素吸放出能が0.3mmol/g以上,750℃での酸素吸放出能が0.4mmol/g以上。
上記のように構成されるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,優れたOSC及び高い触媒活性を有し,しかも,耐熱性が高いという特徴を有する。
尚,以下ではセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を「複合酸化物」と略記する。また,上記酸素吸放出能(Oxygen Storage Capacity)は,以下,「OSC」と略記する。
複合酸化物は,少なくともセリウム(Ce)と,ジルコニウム(Zr)と,Ce及びZrを除く遷移金属元素を必須の元素として含む化合物であって,複数種の酸化物の複合体として形成された化合物である。
上記遷移金属元素としては,特に限定されないが,バナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅及び亜鉛等が例示される。複合酸化物に含まれる遷移金属元素は,1種であってもよいし,2種以上であってもよい。特に,遷移金属元素としては,鉄,マンガン,コバルト,ニッケル及び銅の群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましく,この場合,複合酸化物は,より高い触媒活性を示し,耐熱性もさらに高まる。特に好ましい遷移金属元素は,鉄である。
複合酸化物に含まれる遷移金属元素の含有割合は特に制限されないが,酸化物換算で,例えば0.01〜10mol%とすることができる。この場合,OSCが小さくなって触媒活性が低下するおそれが小さくなり,また,複合酸化物の製造時において遷移金属元素の分散性が低下する等の不具合が生じにくくなる。よって,複合酸化物に含まれる遷移金属元素の含有割合が上記範囲であることで,複合酸化物のOSCが向上して高い触媒活性を示し,耐熱性もさらに高くなり得る。複合酸化物に含まれる遷移金属元素の含有割合は,好ましくは0.05〜5mol%,さらに好ましくは0.1〜1mol%である。
また,複合酸化物に含まれるセリウム及びジルコニウムの含有量はいずれも限定されないが,例えば,セリウムとジルコニウムのモル比が酸化物換算で1:9〜9:1(すなわち,CeO:ZrO=1:9〜9:1)の範囲となるようにすることができる。セリウムとジルコニウムの酸化物換算のモル比基準(CeO:ZrO)が上記範囲であることで,複合酸化物はより優れたOSCを有して高い触媒活性を示し,耐熱性も向上する。セリウムとジルコニウムのモル比は,2:8〜8:2(すなわち,CeO:ZrO=2:8〜8:2)であることが好ましく,3:7〜7:3(すなわち,CeO:ZrO=3:7〜7:3)であることがさらに好ましく,4:6〜6:4(すなわち,CeO:ZrO=4:6〜6:4)であることが特に好ましい。
複合酸化物のOSCや触媒活性,さらには耐熱性が阻害されない程度であれば,上記以外の元素が複合酸化物に含まれていてもよい。尚,上記複合酸化物には,不可避的に酸化ハフニウム等の不純物が含まれることもある。
複合酸化物の結晶構造は,パイロクロア相型の規則配列相を有して構成されている。そのため,複合酸化物は,高い耐熱性を有しており,しかも,高温に晒された後においてもより高い水準のOSCを有する。尚,複合酸化物は,OSCや触媒活性,さらには耐熱性が阻害されない程度であれば,パイロクロア相型以外の結晶相が含まれていてもよい。
複合酸化物は,X線回折法により測定したときの(111)面のピーク強度値をI111,(222)面のピーク強度値をI222としたとき,式{I111/(I111+I222)}×100の値が1以上である。上記の(111)面及び(222)面はミラー指数表示である。ミラー指数表示とは,結晶の格子中における結晶面や方向を記述するための指数のことをいう。本発明の複合酸化物では,X線回折法の測定により得られるX線チャートにおいて,2θ=14〜15度に現れる回折ピークを(111)面,2θ=28.5〜30.5度に現れる回折ピークを(222)面とすることができる。
尚,式{I111/(I111+I222)}×100は,以下では単に「T値」と略記することがある。
上記のT値が1以上であれば,複合酸化物の結晶構造はパイロクロア相を含み,しかも,複合酸化物を高温で加熱処理,例えば,1000℃〜1100℃の温度範囲で3時間熱処理した後においてもOSCが低下しにくく,複合酸化物は高い耐熱性を有する。T値が0であれば,複合酸化物の結晶構造においてパイロクロア相を含むことができない。特に好ましいT値は2以上であり,この場合,OSCがより優れ,耐熱性もさらに向上する。
複合酸化物の熱処理前後における結晶構造の変化については,X線回析装置を用いたX線回折法(XRD)により判断することができる。例えば,複合酸化物のXRDで得られたX線チャートにおいて,2θ/°=15付近にシャープなピークが認められた場合は,複合酸化物の結晶構造はパイロクロア相を含んでいると判断することができる。尚,XRDで得られたX線チャートからの具体的な結晶構造の解析については,後述の実施例で詳述する。
複合酸化物の比表面積は限定的ではないが,0.1〜50m/g程度である。一般的に,OSCは複合酸化物の比表面積に比例して高まると考えられているところ,本発明に係るセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の比表面積は,従来のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物に比して非常に小さい。それにもかかわらず,本発明に係る複合酸化物は優れたOSCを有する。これは,複合酸化物がセリウム及びジルコニアと,第3の元素として遷移金属元素とを含み,この第3の元素が複合酸化物中で固溶していることで結晶構造中にパイロクロア相が安定して存在しているからであると考えられる。そして,結晶構造中にパイロクロア相が安定していることで,高温の熱処理に対してもOSCの低下が起こりにくく,結果として,耐熱性が向上するものと考えられる。尚,第3の元素である遷移金属元素は,上記複合酸化物中において全てが固溶していてもよいし,一部が固溶しているだけであってもよい。
複合酸化物は,600℃におけるOSCが0.3mmol/g以上であり,750℃におけるOSCが0.4mmol/g以上である。また,複合酸化物は,熱処理前の酸素吸放出開始温度が700℃以下であり,かつ,1000℃〜1100℃で3時間熱処理した後においては,酸素吸放出開始温度が400℃以下である。熱処理前の複合酸化物の酸素吸放出開始温度が700℃以下であることで,低い温度領域であっても酸素吸放出の機能がはたらく。特に注目すべきは,1000℃〜1100℃で3時間の熱処理をした後,つまり,加熱耐久試験の実施後においては酸素吸放出開始温度が400℃以下になり,加熱耐久試験前に比してさらに低い温度で酸素吸放出の機能がはたらくことが可能となる点である。
また,複合酸化物を1000℃〜1100℃で3時間熱処理した後においても,OSCは,600℃では0.3mmol/g以上,750℃では0.4mmol/g以上である。従って,加熱耐久試験の実施後においても高いOSCを維持できる材料であるといえる。
以上のように,複合酸化物はパイロクロア相が安定して存在していることで,貴金属元素を含有していないにもかかわらず,優れたOSCを有しており,その結果,高い触媒活性を示す。また,1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後においても結晶構造が安定しているので,熱処理後も高いOSCを維持することができ,耐熱性が高い材料であるといえる。そのため,上記複合酸化物は,排気ガス浄化用の触媒等,各種の触媒に適用することができる材料であり,高性能の浄化システムを構築するためのOSC剤として好適に利用できる。
ここで,上記のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のOSCは次のように測定することができる。まず,酸素の放出開始温度と放出量については,H−TPRと称される水素を利用した昇温還元法(Temperature Programmed Reduction)により求めることができる。この測定では,市販の測定装置(BEL JAPAN INC.,「MULTITASK T.P.R.」)を用いることができる。また,酸素吸収量はOパルス法を用いることにより求めることができる。
一例として,以下の(a)〜(g)の過程を順に経て測定することができる。
(a)複合酸化物を粉砕して粉末状とし,0.2gを秤量する。
(b)秤量した粉末を流通系反応装置にセットし,雰囲気内をHe気流中600℃まで昇温した後,1時間保持する。
(c)複合酸化物の温度を所定の温度に調整する。
(d)一定量の酸素を雰囲気内に導入する。
(e)未吸着酸素量を熱伝導度検出器(TCD)にて確認する。
(f)上記(d)における一定量酸素の雰囲気内への導入と,(e)における未吸着酸素量の確認とを,導入酸素量と未吸着酸素量とが等しくなるまで繰り返す。
(g)吸着酸素量,すなわち,OSC量を計算により算出する。この算出は,あらかじめ決定している導入酸素量から未吸着酸素量を差し引くことで決定できる。
2.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法
次に上記複合酸化物の製造方法の実施形態の一例について説明する。尚,本発明に係る製造方法は,本実施形態に何ら制限されるものではない。
複合酸化物は,次の(1)〜(5)の工程1〜工程5を含む製造工程によって製造することができる。
(1)セリウム原料と,ジルコニウム原料と,セリウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素原料とを含む出発原料を準備する工程1,
(2)前記出発原料を電力原単位換算で600〜800kWh/kgの電力量で加熱をし,次いで,電力原単位換算で800〜1000kWh/kgの電力量で加熱をすることにより融点以上の温度に加熱して熔融物を得る工程2,
(3)前記熔融物を徐冷却してインゴットを形成する工程3,
(4)前記インゴットを粉砕して粉体とする工程4,
(5)前記粉体を700〜1100℃の雰囲気下で加熱する工程5
以下,各工程について詳述する。
(工程1)
工程1は,セリウム原料と,ジルコニウム原料と,セリウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素原料とを含む出発原料を準備する工程である。
工程1で使用するセリウム原料は,複合酸化物にセリウム元素を導入するための材料である。このようなセリウム原料としては,特に限定されないが,酸化セリウムであることが好ましい。この酸化セリウムは,例えば,硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,酢酸塩,塩化物,臭化物等の各種原料から合成することができる。また,セリウム原料は,セリウムと,ジルコニウム及び遷移金属元素の少なくとも一方を含む元素との複合酸化物であってもよい。尚,セリウム原料には,セリウム又はジルコニウムの硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,塩化物又は臭化物等の化合物が含まれていてもよい。
工程1で使用するジルコニウム原料は,複合酸化物にジルコニウム元素を導入するための材料である。このようなジルコニウム原料としては,特に限定されないが,例えば,バデライト,脱珪ジルコニア,酸化ジルコニウム等の各種ジルコミウム系材料,その他,酸化ジルコニウムを含むジルコニウム材料などを使用することができる。酸化ジルコニウムは,硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,酢酸塩,塩化物,臭化物等の各種原料から合成することができる。また,ジルコニウム原料は,ジルコニウムと,セリウム及び遷移金属元素の少なくとも一方を含む元素との複合酸化物であってもよい。尚,ジルコニウム原料には,セリウム又はジルコニウムの硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,塩化物又は臭化物等の化合物が含まれていてもよい。
工程1で使用する遷移金属元素原料は,複合酸化物に遷移金属元素を導入するための材料である。このような遷移金属元素原料は特に限定されないが,例えば,バナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅及び亜鉛の群からなる少なくとも1種以上の遷移金属が例示される。あるいは,これらの遷移金属のうちの少なくとも1種の元素を含む酸化物等の化合物などを遷移金属元素原料として使用してもよい。特に,遷移金属元素原料としては,鉄,マンガン,コバルト,ニッケル及び銅の群からなる少なくとも1種以上,あるいは,これらのうちの少なくとも1種の元素を含む酸化物であることが好ましい。例えば,前記遷移金属元素原料が,鉄元素を含む化合物である場合は,酸化鉄であることが好ましい。この酸化鉄は硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,酢酸塩,塩化物,臭化物等の各種原料から合成することができる。また,遷移金属元素原料は,遷移金属元素と,セリウム及びジルコニウムの少なくとも一方を含む元素との複合酸化物であってもよい。
セリウム原料,ジルコニウム原料,遷移金属元素原料の純度は,特に限定されるものではないが,目的生成物の純度を高くできるという点で99.9%以上の純度であることが好ましい。尚,セリウム原料,ジルコニウム原料,遷移金属元素原料の各々の原料には,複合酸化物の特性が阻害されない程度であればその他の物質が含まれていてもよい。その他の物質としては,例えば,セリウム又はジルコニウムの硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,塩化物,臭化物等である。
上記セリウム原料,ジルコニウム原料,遷移金属元素原料の組み合わせとしては,工程1の後に続く工程,具体的には後述する工程3において原料を加熱したときに,上記各原料のうちの少なくとも一つの原料が熔融することが好ましい。この場合,生成する複合酸化物の結晶構造がパイロクロア相を形成しやすくなり,得られる複合酸化物のOSCをより向上させることができる。例えば,酸化セリウムの融点は2200℃,酸化ジルコニウムの融点は2720℃として知られている。また,酸化物の融点は比較的高い温度であるが,セリウム原料及びジルコニウム原料としてそれぞれ酸化セリウム及び酸化ジルコニウムを用いる場合は,融点降下の影響があるので,単体の場合の酸化物の融点よりも低い温度で加熱させても熔融状態を得ることができる場合がある。
工程1では,上記のセリウム原料,ジルコニウム原料及び遷移金属元素原料を所定の量準備し,これらを各々混合することで出発原料を得ることができる。各原料の配合方法は特に限定されない。このように得られた出発原料は,例えば,上記各種酸化物の混合物であるか,もしくは,セリウム,ジルコニウムや遷移金属元素を含んでなる複合酸化物の状態である。
(工程2)
工程2は,熔融装置等を用いて,工程1で調製した出発原料に所定の熱量を与えることにより,当該出発原料を熔融させる工程である。この工程では,各種原料,すなわち,セリウム原料,ジルコニウム原料及び遷移金属元素原料のうちの少なくとも一種を熔融させることができればよいが,特に,それらすべての原料が熔融されることが好ましい。この場合,得られる複合酸化物の結晶構造が安定し,高いOSCを有することが可能となる。すべての原料を熔融させるには,出発原料の含まれる各種原料の融点のうちの最も高い融点以上の温度となるように,出発原料に熱量を与えるようにすればよい。
出発原料を熔融させる方法は,特に限定されないが,例えば,アーク式,高周波熱プラズマ式等の熔融方法が例示される。中でも一般的な電融法,すなわち,アーク式電気炉を用いた熔融方法を採用することが好ましい。
出発原料を加熱するには,例えば,電力原単位換算で600〜800kWh/kgの電力によって熱を加え,次いで,電力原単位換算で800〜1000kWh/kgの電力によって熱を加えればよい。この加熱により,出発原料に含まれる各種原料の融点のうちの最も高い融点を超える温度にまで出発原料を昇温させることができ,出発原料の熔融物を得ることができる。
上記のように工程2においては,2段階の加熱工程を含む。一段階目の加熱によって,ほぼ出発原料を熔融させ,次の二段階目の加熱で出発原料を完全に熔融させればよい。このように加熱工程を2段階にしなければ,最終的に得られる複合酸化物は,パイロクロア相を含む結晶構造を形成することが困難となり,優れたOSCの複合酸化物を得られなくなるおそれがある。また,加熱工程を2段階にしなければ,複合酸化物が充分に熔融することが困難となり,全体として不均一な状態になる。そのため,得られた複合酸化物の比表面積にばらつきが生じ,十分な触媒活性を得ることができない。
また,熔融装置として,アーク式電気炉を用いる場合,上記のように加熱工程を2段階に分けることで,装置の損傷を最低限に抑えることができ,安全に十分加熱できるという利点もある。具体的に説明すると,酸化セリウムを含む出発原料を加熱熔融させると,熔融装置内では次のような化学反応「CeO → 1/2Ce+1/4O」が起こる。
図5に示すアーク式電気炉Aのように,一般的にアーク式電気炉Aの底面にはカーボン層Cが設けられており,加熱当初は,このカーボン層Cとアーク式電気炉Aに備え付けられている電極Eとが接触した状態となっている。そして,熔融反応が進むとカーボン層Cと電極Eとの間に熔融物が入り込むため,電極Eが少しずつカーボン層Cから離れるように,電極Eの位置を調節する。ここで,熔融工程において上記酸化セリウムの化学反応で生じた酸素とカーボン層Cが反応して,二酸化炭素が生成する結果,カーボン層Cが浸食される現象が起こる。このようにカーボン層Cが浸食されてしまうと,カーボン層Cに穴が形成されるため,熔融物が漏出する可能性があるなどの危険性が高まり,また,カーボン層Cの交換も必要になる。そこで,一段階目では,カーボン層Cと電極Eとの間に熔融物が入り込むように穏やかに加熱し,次に,電極Eの位置を調節し,カーボン層Cと電極Eとの距離が十分離れた時点で二段階目の加熱を行う。
このような加熱方法を採ることで,安全に加熱ができると共に装置の損傷を抑制することができ,しかも,均一な熔融物,すなわち,各種原料が均一に混ざり合った熔融物を得ることができる。
最初の一段階目の加熱工程で与える電力量は,好ましくは電力原単位換算で625〜775kWh/kg,より好ましくは,650〜750kWh/kgである。また,一段階目の加熱工程では,1〜3時間にわたって電力を与えることが好ましい。また,二段階目の加熱工程で与える電力量は,825〜975kWh/kg,より好ましくは,850〜950kWh/kgである。また,二段階目の加熱工程では,6〜10時間,好ましくは6〜8時間,より好ましくは7〜8時間にわたって電力を与えることが好ましい。これらの電力量や加熱時間を採用した場合,最終的に得られる複合酸化物は,パイロクロア相を含む結晶構造を形成しやすく,OSCがさらに向上し,触媒活性に優れる。
上記アーク式電気炉を用いた熔融方法を採用する場合,加熱工程を行うにあたっては,あらかじめ出発原料に初期の通電を促すためにコークス等を導電材として所定量添加しておいてもよい。ただし,コークスの添加量等は,工程1で使用する各原料の混合割合に応じて適宜変更する。
尚,工程2における出発原料の熔融時の雰囲気については,特に限定されず,大気,窒素雰囲気の他,アルゴン,ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気を採用できる。また,熔融時の圧力も特に限定されず,大気圧,加圧,減圧のいずれでもよいが,通常は大気圧下で行われる。
(工程3)
工程3は,工程2で得られた熔融物を徐冷却してインゴットを形成する工程である。
インゴットを形成する方法は特に限定されないが,例えば,工程3の熔融を電気炉で行った場合には,この電気炉に炭素蓋を装着させ,20〜60時間かけて徐冷却する方法が挙げられる。徐冷却時間は,好ましくは30〜50時間であり,より好ましくは35〜45時間であり,さらに好ましくは35〜40時間である。また,熔融物を徐冷却するにあたっては,例えば,大気中にて,熔融物の温度が100℃以下,好ましくは50℃以下となるように放冷すればよい。熔融物の温度が急激に下がって徐冷却時間が20〜60時間より短くなるおそれがある場合には,適宜,徐冷却工程中に熔融物を加熱するなどして熔融物の急激な温度低下を回避すればよい。
上記のように徐冷却工程中における熔融物の急激な温度低下を回避しながら徐冷却を行うことで,原料中に含まれる元素が互いに均一に固溶しやすくなる。これにより,最終的に得られる複合酸化物は,高温領域においても安定したパイロクロア相を有する結晶構造を形成しやすくなる。
(工程4)
工程4は,工程3で得られたインゴットを粉砕して粉体とする工程である。
インゴットを粉砕する方法は特に限定されないが,ジョークラッシャー又はロールクラッシャー等の粉砕機で粉砕する方法が例示され,複数の粉砕機を併用して粉砕を行ってもよい。インゴットを粉砕するにあたっては,後工程での粉体の取り扱い性を考慮して,粉砕後の粉体の平均粒子径が3mm以下,好ましくは1mm以下になるように粉砕してもよい。粉砕後は分級を行ってもよく,例えば,篩等を使用して所望の平均粒子径の粉末を捕集することが可能である。
(工程5)
工程5は,工程4で得られた粉体を700〜1100℃の雰囲気下で加熱する工程である。
上記の加熱をするにあたって,あらかじめ粉体を磁力選鉱して不純物などを分離しておくことが好ましい。この後,電気炉等を用いて,粉体を700〜1100℃の雰囲気下で加熱すればよい。この加熱によって粉体は加熱焼成され,工程3における熔融工程で生成した亜酸化物や過冷却によって発生した結晶内の歪みが除去され得る。上記加熱温度は,好ましくは700℃〜1000℃,より好ましくは600℃〜900℃であり,いずれの場合も亜酸化物や結晶内の歪みが除去されやすくなる。また,加熱の時間は,特に限定されないが,例えば,1〜5時間,好ましくは2〜3時間とすることができる。上記加熱は,大気下で行ってもよいし,酸素雰囲気下で行ってもよい。
上記工程5によって,固体状又は粉末状の複合酸化物が生成物として得られる。この生成物は,遊星ミル,ボールミル又はジェットミル等の粉砕機でさらに微粉砕してもよく,複合酸化物の使用用途に応じて適宜行えばよい。微粉砕する場合,生成物を上記粉砕機で5〜30分程度処理すればよい。また,生成物を上記微粉砕した場合,複合酸化物の平均粒径は,例えば,0.3〜2.0μmとすることができ,0.5〜1.5μmとすることが好ましい。尚,複合酸化物の平均粒径は,レーザー回折散乱装置などで測定できる。
上記のように,複合酸化物は工程1〜工程5の各工程を具備する製造工程を経ることで,簡便な方法でセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を製造することができる。そして,上記の製造方法によれば,出発原料が熔融状態になるまで加熱されることで,最終的に製造される複合酸化物は固溶体として得られる。尚,上記の製造方法では工程1〜工程5の各工程を必須の工程として具備するが,必要に応じてその他の工程を具備していてもよいものである。
上記製造方法で得られた複合酸化物は,結晶構造において金属間距離が近接しており,固溶度が高いため,パイロクロア相が安定して存在する。そのため,上記製造方法で得られる複合酸化物は,OSCが向上しやすく,高い触媒活性を示しやすい。しかも,パイロクロア相が安定して存在することで,複合酸化物を高温で加熱処理(1000℃〜1100℃で3時間熱処理)しても,600℃での酸素吸放出能が0.3mmol/g以上,750℃での酸素吸放出能が0.4mmol/g以上であり,優れたOSCが維持されるものである。そのため,上記製造方法で得られた複合酸化物は,排気ガス浄化用の触媒等,各種の触媒に適用することができる材料であり,高性能の浄化システムを構築するためのOSC剤として好適に利用できる。
以下に実施例を示し,本発明をより具体的に説明する。ただし,本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また,各実施例及び比較例において得られた材料中には,不可避不純物として酸化ジルコニウムに対して酸化ハフニウムを1〜2重量%含有している。
(実施例1)
ジルコニウム原料として高純度酸化ジルコニウム(純度99.9%,第一稀元素化学工業製)を,セリウム原料として高純度酸化セリウム(純度99.9%,三津和化学薬品製)を準備した。また,遷移金属元素原料としては高純度酸化鉄(純度99.9%,和光純薬製)を準備した。
図1に示す製造工程の手順に従い,上記各原料を用いて製造を行った。まず,上記の高純度酸化ジルコニウム4.17kg,高純度酸化セリウム5.82kg及び高純度酸化鉄0.01kgをそれぞれ分取し,これらの各原料を混合することで出発原料を得た(工程1)。次に,アーク式電気炉を用いて,最初に,電力原単位換算で650kWh/kgの電力量で2時間にわたって加熱した後,次いで,電力原単位換算で900kWh/kgの電力量で6時間にわたって加熱することで,2200℃以上で熔融を行った(工程2)。この工程により,出発原料をすべて熔融させた。尚,この熔融工程においては,初期の通電を促すためにコークス500gを使用した。
上記熔融終了後,電気炉に炭素蓋をし,24時間,大気中において徐冷することにより,インゴットを得た(工程3)。このように得られたインゴットをジョークラッシャー及びロールクラッシャーで3mm以下まで粉砕した後,篩を用いて1mm以下の粉末を捕集した(工程4)。次に,上記得られた粉末を,電気炉を用いて大気中,800℃雰囲気下にて3時間にわたって熱処理し,前工程の熔融工程で生成した亜酸化物の除去,あるいは過冷却によって発生した結晶内の歪みの除去を行った(工程5)。この後,熱処理により得られた生成物を遊星ミルにより10分間にわたって粉砕処理を行うことで,粉末状の複合酸化物を得た。
(実施例2)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.15kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.80kg及び高純度酸化鉄の使用量を0.05kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(実施例3)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.06kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.67kg及び高純度酸化鉄の使用量を0.27kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(実施例4)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.17kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.82kgに変更し,さらに,高純度酸化鉄の代わりに高純度酸化マンガン(三津和化学薬品製)0.12kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(実施例5)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.17kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.82kgに変更し,さらに,高純度酸化鉄の代わりに高純度酸化ニッケル(三津和化学薬品製)0.10kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(実施例6)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.17kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.82kgに変更し,さらに,高純度酸化鉄の代わりに高純度酸化銅(三津和化学薬品製)0.11kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(実施例7)
出発原料の調製において,高純度酸化ジルコニウムの使用量を4.17kg,高純度酸化セリウムの使用量を5.82kgに変更し,さらに,高純度酸化鉄の代わりに高純度酸化コバルト(三津和化学薬品製)0.11kgに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
(比較例1)
出発原料の調製において,遷移金属元素原料は使用せず,高純度酸化ジルコニウム4.17kg及び高純度酸化セリウム5.83kgのみを用いたこと以外は,実施例1と同じ方法で複合酸化物を作製した。
[評価方法]
各実施例及び比較例で得られた複合酸化物の比表面積,平均粒子径,OSC,XRDにおける半価幅及びXRDにおける{I111/(I111+I222)}×100の値(すなわち,T値)をそれぞれ下記の方法で評価した。
(比表面積)
比表面積計(Mountech社製「Macsorb」)を用いて,BET法によって測定した。
(平均粒子径)
各実施例及び比較例で得られた粉砕処理後の複合酸化物について,レーザー回折散乱装置(COULTER Co.,LTD,「LS230」)を用いて分析した。
(OSC;酸素吸放出能)
まず,酸素の放出開始温度と放出量については,H−TPRと称される水素を利用した昇温還元法(Temperature Programmed Reduction)により市販の測定装置(BEL JAPAN INC.,「MULTITASK T.P.R.」)を用いることにより求めた。また,酸素吸収量はOパルス法を用いることにより求めた。具体的には,以下の(a)〜(g)の過程を順に経て測定した。
(a)複合酸化物を粉砕して粉末状とし,0.2gを秤量した。
(b)秤量した粉末を流通系反応装置にセットし,雰囲気内をHe気流中600℃又は750℃まで昇温した後,1h保持した。
(c)複合酸化物を600℃又は750℃に調整した。
(d)一定量の酸素を雰囲気内に導入した。
(e)未吸着酸素量を熱伝導度検出器(TCD)にて確認した。
(f)上記(d)における一定量酸素の雰囲気内への導入と,(e)における未吸着酸素量の確認とを,導入酸素量と未吸着酸素量とが等しくなるまで繰り返した。
(g)吸着酸素量,すなわち,OSC量を計算により算出する。この算出は,あらかじめ決定しておいた導入酸素量から未吸着酸素量を差し引くことで行った。
上記のOSC測定は,加熱耐久試験前(Fresh)の複合酸化物及び加熱耐久試験後の複合酸化物の両方で行った。ここで,加熱耐久試験は,複合酸化物5gを1000℃の雰囲気下で3時間にわたって加熱する処理(以下,「加熱耐久試験1」という)及び複合酸化物5gを1100℃の雰囲気下で3時間にわたって加熱する処理(以下,「加熱耐久試験2」という)のうちの2種類のいずれかの条件で行った。
(T値)
{I111/(I111+I222)}×100の値(T値)は,加熱耐久試験1の条件で加熱処理した複合酸化物を,XRD測定から得られたXRDチャートに基づいて算出した。具体的には,XRDチャートにおける,2θ=14〜15度に現れる回折ピークを(111)面,2θ=28.5〜30.5度に現れる回折ピークを(222)面として,これらのピーク強度比率を算出することで,T値を求めた。尚,XRD測定は,RINT2500(リガク社製)を用い,以下の測定条件で行った。
X線源:CuKα
サンプリング間隔:0.02度
スキャン速度:1.0度/分
発散スリット(DS):1度
発散縦制限スリット:5mm
散乱スリット(SS):1度
受光スリット(RS):0.3mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
管電圧:50kV
管電流:300mA
ここで,2θ=14〜15度に現れる回折ピークを(111)面,2θ=28.5〜30.5度に現れる回折ピークを(222)面とした。
Figure 0006147215
図2には,一例として,実施例1〜3及び比較例1で得られた計4種の複合酸化物の加熱耐久試験前後におけるXRD分析の結果を示している。具体的に,図2(a)は,加熱耐久試験前,(b)は加熱耐久試験1後のX線チャートである。
また,表1には,上記の各実施例及び比較例で得られた複合酸化物における元素組成(mol%),及び,比表面積(m/g),平均粒子径(μm),OSC(mmol/g),半価幅(度),並びにT値(%)の結果を示している。表1中,「600℃ OSC(Fresh)」及び「750℃ OSC(Fresh)」はそれぞれ,上記加熱耐久試験を行っていない複合酸化物の600℃及び750℃におけるOSCを示す。また,「600℃ OSC(1000℃×3h)」及び「750℃ OSC(1000℃×3h)」は,上記加熱耐久試験1後の複合酸化物の600℃及び750℃におけるOSCを示す。また,「600℃ OSC(1100℃×3h)」及び「750℃ OSC(1100℃×3h)」はそれぞれ,上記加熱耐久試験2後の複合酸化物の600℃及び750℃におけるOSCを示す。
図2(a),(b)からわかるように,実施例1〜3で得られた複合酸化物ではいずれも加熱耐久試験の前後において,パイロクロア相の存在を示す2θ/°=15付近にシャープなピークが認められた。また,上記のXRD分析の結果及び表1に示す結果から,実施例1〜3で得られた複合酸化物では,いずれもT値は1以上,半価幅が0.1〜0.3度の範囲内であった。これらの結果から,実施例1〜3で得られた複合酸化物では,いずれも1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後においてもパイロクロア相が確認されることがわかる。尚,図示はしていないが,実施例4〜7の複合酸化物についても,同様のXRD分析の結果から,加熱耐久試験の前後において,パイロクロア相の存在が確認された。
一方,比較例1の遷移金属元素を含まないセリウム−ジルコニウムのみからなる複合酸化物では,加熱耐久試験後においては2θ/°=15付近に認められていたピークが消失したことが図2(b)からわかる。これは,比較例1の複合酸化物では加熱耐久試験によりパイロクロア相が存在しなくなったことを示している。
以上のように,実施例1〜7で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,遷移金属元素を含まない従来品(比較例1)に比べて,加熱耐久試験後の結晶構造が明らかに異なることがわかる。
図3は,実施例1〜3及び比較例1で得られた複合酸化物において,上記加熱耐久試験1,2前後における所定温度でのOSCを示している。また,表1には,全ての実施例及び比較例1のOSCを示している。図3及び表1からわかるように,実施例1〜7で得られた複合酸化物はいずれも,加熱耐久試験後において,600℃でのOSCが0.3mmol/g以上,750℃でのOSCが0.4mmol/g以上であった。それに対し,比較例1の複合酸化物は,加熱耐久試験後において,実施例の複合酸化物のOSCよりも低い値であった。比較例1の複合酸化物では,加熱耐久試験後はパイロクロア相を形成していないためである。
図4は,実施例1〜3及び比較例1のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の昇温還元(Temperature Programming Reduction)のプロファイルであり,(a)は加熱耐久試験前,(b)は加熱耐久試験1後(1000℃で3時間の熱処理後)のプロファイルである。
図4から明らかなように,加熱耐久試験後(図4(b)),実施例1〜3の複合酸化物の方が比較例1の複合酸化物よりも低温側にピークがシフトしていることがわかる。このことから,加熱処理後において,実施例1〜3の複合酸化物は比較例1の複合酸化物よりも酸素吸放出開始温度が低いといえる。また,図4の結果から,実施例1〜3の複合酸化物では,加熱耐久試験の実施後の酸素吸放出開始温度は,加熱耐久試験前に比してさらに低くなっていることがわかり,より低い温度で酸素吸放出の機能が発揮されている。
以上より,実施例1〜7の複合酸化物は,貴金属元素を含有していないにもかかわらず優れたOSCを有しており,しかも,加熱処理をしてもパイロクロア相の結晶構造が安定に存在することで,高温に晒されても,優れたOSCが維持されている。そのため,実施例1〜7の複合酸化物は,高い触媒活性を示すことが可能であり,また,耐熱性にも優れる触媒材料であることが示された。
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,優れたOSCを有し,触媒活性が高く,しかも,耐熱性に優れる材料である。そのため,本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,自動車等に使用される排気ガス浄化触媒として用いることができる他,各種の触媒用途のOSC剤として用いることができる。従って,上記複合酸化物によれば,浄化性能に優れた浄化システムを構築することが可能となる。

Claims (4)

  1. セリウムと,ジルコニウムと,これら以外の遷移金属元素とを含むセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を含有し,かつ,貴金属を含有しないOSC剤であって,
    前記複合酸化物は,1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後において,
    (1)結晶構造はパイロクロア相を含み,
    (2)X線回折法により測定したときの(111)面のピーク強度値をI111,(222)面のピーク強度値をI222として{I111/(I111+I222)}×100の値が1以上であり,
    (3)600℃での酸素吸放出能が0.3mmol/g以上,750℃での酸素吸放出能が0.4mmol/g以上,
    であり,
    前記複合酸化物は,前記遷移金属元素を,酸化物換算で0.1〜1mol%の範囲で含有し,
    前記遷移金属元素が鉄,マンガン,コバルト,ニッケル及び銅の群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とするOSC剤。
  2. 前記セリウムと前記ジルコニウムが,酸化物換算のモル比基準でCeO:ZrO=1:9〜9:1の割合で含まれる,請求項1に記載のOSC剤。
  3. セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法であって,
    以下の(1)〜(5)の工程:
    (1)セリウム原料と,ジルコニウム原料と,セリウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素原料とを含む出発原料を準備する工程1,
    (2)前記出発原料を電力原単位換算で600〜800kWh/kgの電力量で加熱をし,次いで,電力原単位換算で800〜1000kWh/kgの電力量で加熱をすることにより融点以上の温度に加熱して熔融物を得る工程2,
    (3)前記熔融物を徐冷却してインゴットを形成する工程3,
    (4)前記インゴットを粉砕して粉体とする工程4,
    (5)前記粉体を700〜1100℃で加熱する工程5,
    を含み、
    前記セリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、セリウムと,ジルコニウムと,これら以外の遷移金属元素とを含み、1000℃〜1100℃で3時間の熱処理後において,
    (1)結晶構造はパイロクロア相を含み,
    (2)X線回折法により測定したときの(111)面のピーク強度値をI111,(222)面のピーク強度値をI222として{I111/(I111+I222)}×100の値が1以上であり,
    (3)600℃での酸素吸放出能が0.3mmol/g以上,750℃での酸素吸放出能が0.4mmol/g以上,
    であり,
    前記セリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,前記遷移金属元素を,酸化物換算で0.01〜10mol%の範囲で含有し,
    前記遷移金属元素が鉄,マンガン,コバルト,ニッケル及び銅の群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
  4. 前記セリウム−ジルコニウム系複合酸化物は,前記セリウムと前記ジルコニウムが,酸化物換算のモル比基準でCeO:ZrO=1:9〜9:1の割合で含まれる,請求項に記載の製造方法。
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