[比較例]
図1は、本願発明の比較例となる信号伝達回路の構成を示す回路図である。図1において、信号伝達回路は、半導体基板上に形成された集積回路であって、送信回路1、トランス6、および受信回路10を備える。
送信回路1は、入力端子T1、電源端子T11,T12、接地端子T21,T22、ESD(Electrostatic-Discharge)保護回路2、エッジパルス生成回路3、および出力バッファ4,5を含む。トランス6は、互いに絶縁された1次巻線7および2次巻線8を含む。受信回路10は、電源端子T13,T14、接地端子T23,T24、出力端子T2、ESD保護回路11,12、抵抗素子13,14、バイアス回路15、差動比較器16、および出力バッファ17を含む。
入力端子T1は入力信号VIを受け、出力端子T2から出力信号VOが出力される。出力信号VOは、入力信号VIの遅延信号となる。電源端子T11〜T14はそれぞれ電源電圧VD1〜VD4を受け、接地端子T21〜T24はそれぞれ接地電圧VS1〜VS4を受ける。電源電圧VD1とVD2は同じ電圧であるが、各電源端子の電圧変動の影響が他の電源端子に与える影響を軽減するために、電源端子T11とT12は別々に設けられている。同じ理由で、電源電圧VD3とVD4は同じ電圧であるが、電源端子T13とT14は別々に設けられている。また、接地電圧VS1〜VS4は同じ電圧であるが、各接地端子の電圧変動の影響が他の接地端子に与える影響を軽減するために、接地端子T21〜T24は別々に設けられている。
ESD保護回路2は、入力端子T1が大きなサージ電圧を受けた場合に、そのサージ電圧を電源端子T11および接地端子T21に流出させて信号伝達回路を保護する。ESD保護回路2は、図2(a)に示すように、2つのダイオード21,22を含む。ダイオード21のアノードおよびダイオード22のカソードは入力端子T1およびエッジパルス生成回路3の入力ノード3aに接続され、ダイオード21のカソードおよびダイオード22のアノードはそれぞれ電源端子T11および接地端子T21に接続される。
入力端子T1に印加された正のサージ電圧はダイオード21を介して電源端子T11に流出し、入力端子T1に印加された負のサージ電圧はダイオード22を介して接地端子T21に流出する。
図2(b)に示すように、ダイオード21,22がそれぞれPチャネルMOSトランジスタ23およびNチャネルMOSトランジスタ24で置換されていてもよい。PチャネルMOSトランジスタ23のソースおよびゲートは電源端子T11に接続され、そのドレインは入力端子T1および入力ノード3aに接続される。PチャネルMOSトランジスタ23は、アノードが入力端子T1および入力ノード3aに接続され、カソードが電源端子T11に接続されたダイオードを構成する。PチャネルMOSトランジスタ23は、寄生ダイオード23aを含む。寄生ダイオード23aのアノードおよびカソードは、それぞれトランジスタ23のドレインおよびソースに接続されている。
NチャネルMOSトランジスタ24のドレインは入力端子T1および入力ノード3aに接続され、そのゲートおよびソースは接地端子T21に接続される。NチャネルMOSトランジスタ24は、アノードが接地端子T21に接続され、カソードが入力端子T1および入力ノード3aに接続されたダイオードを構成する。NチャネルMOSトランジスタ24は、寄生ダイオード24aを含む。寄生ダイオード24aのアノードおよびカソードは、それぞれトランジスタ24のソースおよびドレインに接続されている。
図1に戻って、エッジパルス生成回路3は、電源端子T12および接地端子T22から受ける電源電圧VD2および接地電圧VS2によって駆動され、外部から入力端子T1およびESD保護回路2を介して入力ノード3aに与えられた入力信号VIの立ち上りエッジおよび立下りエッジに応答してそれぞれパルス信号S1,S2を生成し、生成したパルス信号S1,S2をそれぞれ出力ノード3b,3cに出力する。
エッジパルス生成回路3は、図3に示すように、遅延素子31、NANDゲート32、インバータ33、およびNORゲート34を含む。入力ノード3aに与えられた入力信号VIは、遅延素子31によって遅延および反転されてゲート32,34の一方入力ノードに与えられるとともに、ゲート32,34の他方入力ノードに直接与えられる。NANDゲート32の出力信号φ32は、インバータ33によって反転されてパルス信号S1となり、出力ノード3bに出力される。NORゲート34の出力信号は、パルス信号S2として出力ノード3cに出力される。
図4(a)〜(e)は、それぞれ入力信号VI、遅延素子31の出力信号φ31、NANDゲート32の出力信号φ32、パルス信号S1、およびパルス信号S2の波形を示すタイムチャートである。入力信号VIは、一定の周期で交互に「H」レベルおよび「L」レベルになるものとする。入力信号VIが「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられると、一定時間Tpの経過後に信号φ31が「H」レベルから「L」レベルに立ち下げられる。入力信号VIが「H」レベルから「L」レベルに立ち下げられると、一定時間Tpの経過後に信号φ31が「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられる。
信号VIとφ31がともに「H」レベルになっている時間に、信号φ32が「L」レベルとなる。パルス信号S1は、入力信号VIの立ち上りエッジに応答して一定時間Tpだけ「H」レベルになる。パルス信号S2は、入力信号VIの立ち下りエッジに応答して一定時間Tpだけ「H」レベルになる。
図1に戻って、出力バッファ4はパルス信号S1をバッファリングしてトランス6の1次巻線7の第1の端子7aに与え、出力バッファ5はパルス信号S2をバッファリングしてトランス6の1次巻線7の第2の端子7bに与える。出力バッファ4,5の各々は、ESD保護回路も内蔵している。
出力バッファ4は、図5(a)に示すように、プリドライバ41、PチャネルMOSトランジスタ42、NチャネルMOSトランジスタ43、およびダイオード44,45を含む。プリドライバ41は、電源端子T12および接地端子T22から与えられる電源電圧VD2および接地電圧VS2によって駆動され、パルス信号S1の反転信号を出力する。
PチャネルMOSトランジスタ42のゲートはプリドライバ41の出力信号を受け、そのソースは電源端子T11に接続され、そのドレインは1次巻線7の第1の端子7aに接続される。NチャネルMOSトランジスタ43のゲートはプリドライバ41の出力信号を受け、そのソースは接地端子T21に接続され、そのドレインは1次巻線7の第1の端子7aに接続される。
トランジスタ42,43は、電源端子T11および接地端子T21から与えられる電源電圧VD1および接地電圧VS1によって駆動され、プリドライバ41の出力信号を反転させて1次巻線7の第1の端子7aに与えるメインドライバを構成する。パルス信号S1は、プリドライバ41によって反転され、トランジスタ42,43からなるメインドライバによって再度反転されて1次巻線7の第1の端子7aに印加される。
ダイオード44のアノードおよびダイオード45のカソードは1次巻線7の第1の端子7aに接続され、ダイオード44のカソードおよびダイオード45のアノードはそれぞれ電源端子T11および接地端子T21に接続される。ダイオード44,45は、ESD保護回路を構成する。1次巻線7の第1の端子7aに印加された正のサージ電圧はダイオード44を介して電源端子T11に流出し、入力端子T1に印加された負のサージ電圧はダイオード45を介して接地端子T21に流出する。
図5(b)に示すように、ダイオード44,45がそれぞれPチャネルMOSトランジスタ46およびNチャネルMOSトランジスタ47で置換されていてもよい。PチャネルMOSトランジスタ46のソースおよびゲートは電源端子T11に接続され、そのドレインは1次巻線7の第1の端子7aに接続される。PチャネルMOSトランジスタ46は、アノードが1次巻線7の第1の端子7aに接続され、カソードが電源端子T11に接続されたダイオードを構成する。PチャネルMOSトランジスタ46は、寄生ダイオード46aを含む。寄生ダイオード46aのアノードおよびカソードは、それぞれトランジスタ46のドレインおよびソースに接続されている。
NチャネルMOSトランジスタ47のドレインは1次巻線7の第1の端子7aに接続され、そのゲートおよびソースは接地端子T21に接続される。NチャネルMOSトランジスタ47は、アノードが接地端子T21に接続され、カソードが1次巻線7の第1の端子7aに接続されたダイオードを構成する。NチャネルMOSトランジスタ47は、寄生ダイオード47aを含む。寄生ダイオード47aのアノードおよびカソードは、それぞれトランジスタ47のソースおよびドレインに接続されている。
出力バッファ5は、出力バッファ4と同じ構成である。ただし、プリドライバ41はパルス信号S2の反転信号を出力し、トランジスタ42,43からなるメインドライバはプリドライバ41の出力信号を反転させて1次巻線7の第2の端子7bに出力する。ダイオード44のアノードおよびダイオード45のカソードは、1次巻線7の第2の端子7bに接続される。
図1に戻って、ESD保護回路11は、トランス6の2次巻線8の第1の端子8aと差動比較器16の第1の入力端子16aとの間に設けられ、2次巻線8の第1の端子8aに印加されたサージ電圧を電源端子T13および接地端子T23に流出させて信号伝達回路を保護する。ESD保護回路12は、トランス6の2次巻線8の第2の端子8bと差動比較器16の第2の入力端子16bとの間に設けられ、2次巻線8の第2の端子8bに印加されたサージ電圧を電源端子T13および接地端子T23に流出させて信号伝達回路を保護する。
ESD保護回路11は、図6(a)(b)に示すように、ESD保護回路2と同じ構成である。ただし、ダイオード21のアノードおよびダイオード22のカソードは、2次巻線8の第1の端子8aおよび差動比較器16の第1の入力端子(−端子)16aに接続される。ダイオード21のカソードおよびダイオード22のアノードは、それぞれ電源端子T13および接地端子T23に接続される。また、ダイオード21,22をそれぞれPチャネルMOSトランジスタ23およびNチャネルMOSトランジスタ24で構成してもよい。
また、ESD保護回路12は、ESD保護回路11と同じ構成である。ただし、ダイオード21のアノードおよびダイオード22のカソードは、2次巻線8の第2の端子8bおよび差動比較器16の第2の入力端子(+端子)16bに接続される。
図1に戻って、抵抗素子13,14は、差動比較器16の入力端子16a,16b間に直列接続される。抵抗素子13,14の抵抗値は同じである。バイアス回路15は、電源端子T14および接地端子T24から与えられる電源電圧VD4および接地電圧VS4によって駆動され、直流バイアス電圧VBを生成して抵抗素子13,14の間のノードに与える。直流バイアス電圧VBは、たとえば、電源電圧VD4と接地電圧VS4の中間電圧である。すなわち、VB=(VD4+VS4)/2である。
差動比較器16は、第2の入力端子16bに与えられた2次巻線8の第2の端子8bの電圧V2と、第1の入力端子16aに与えられた2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1との差の電圧(V2−V1)が正側トリップ電圧VTPを越えたことに応じて信号CMPを「H」レベルにし、その電圧(V2−V1)が負側トリップ電圧VTNよりも低下したことに応じて信号CMPを「L」レベルにする。
差動比較器16は、図7に示すように、第1の入力端子16a、第2の入力端子16b、出力端子16c、PチャネルMOSトランジスタP1〜P6,NチャネルMOSトランジスタQ1〜Q6、およびバイアス電流源IS1を含む。
第1の入力端子16aは、トランス6の2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1を受ける。第2の入力端子16bは、トランス6の2次巻線8の第2の端子8bの電圧V2を受ける。出力端子16cには信号CMPが出力される。
トランジスタP1〜P6のソースは、ともに電源端子T14に接続される。トランジスタP1,P4のドレインはともにノードN1に接続され、トランジスタP2,P3のドレインはともにノードN2に接続される。トランジスタP1,P3,P5のゲートはともにノードN1に接続され、トランジスタP2,P4,P6のゲートはともにノードN2に接続される。トランジスタQ1,Q2のドレインはそれぞれノードN1,N2に接続され、それらのソースはともにノードN3に接続され、それらのゲートはそれぞれ入力端子16a,16bに接続される。
トランジスタQ3〜Q6のソースは、ともに接地端子T24に接続される。トランジスタQ3,Q4のドレインはそれぞれトランジスタP5,P6のドレインに接続され、トランジスタQ3,Q4のゲートはともにトランジスタQ3のドレインに接続される。トランジスタP6,Q4のドレインは、ともに出力端子16cに接続される。
バイアス電流源IS1は、電源端子T14とトランジスタQ5のドレインとの間に接続され、一定のバイアス電流を流す。トランジスタQ6のドレインはノードN3に接続され、そのゲートはトランジスタQ5のゲートに接続される。トランジスタQ6には、一定のバイアス電流が流れる。
入力端子16b,16a間の電圧V2−V1が正側トリップ電圧VTPよりも高くなると、トランジスタQ2がオンするとともにトランジスタQ1がオフし、ノードN1,N2がそれぞれ「H」レベルおよび「L」レベルになる。ノードN1が「H」レベルになると、トランジスタP5がオフし、トランジスタP5,Q3,Q4に電流が流れない。ノードN2が「L」レベルになると、トランジスタP6がオンし、信号CMPが「H」レベルになる。
ノードN2が「L」レベルになると、トランジスタP4がオンし、ノードN1が「H」レベルに保持される。この状態を解除するためには、入力端子16b,16a間の電圧V2−V1を負側トリップ電圧VTNよりも低くする必要がある。
入力端子16b,16a間の電圧V2−V1が負側トリップ電圧VTNよりも低くなると、トランジスタQ1がオンするとともにトランジスタQ2がオフし、ノードN1,N2がそれぞれ「L」レベルおよび「H」レベルになる。ノードN1が「L」レベルになると、トランジスタP5がオンし、トランジスタP5,Q3,Q4に電流が流れる。ノードN2が「H」レベルになると、トランジスタP6がオフし、信号CMPが「L」レベルになる。
ノードN1が「L」レベルになると、トランジスタP3がオンし、ノードN2が「H」レベルに保持される。この状態を解除するためには、入力端子16b,16a間の電圧V2−V1を正側トリップ電圧VTPよりも高くする必要がある。
図8は、差動比較器16の入力電圧V2−V1と出力信号CMPとの関係を示す図である。図8において、入力電圧V2−V1が十分に低い負電圧である場合は、信号CMPは「L」レベルとなる。信号CMPの「L」レベルは、接地電圧VS4=0Vである。入力電圧V2−V1が負の値から徐々に上昇し、正側トリップ電圧VTPを越えると、信号CMPは「L」レベルから「H」レベルに変化する。信号CMPの「H」レベルは、電源電圧VD4=5Vである。また、入力電圧V2−V1が十分に高い正電圧である場合は、信号CMPは「H」レベルとなる。入力電圧V2−V1が正の値から徐々に低下し、負側トリップ電圧VTNよりも低くなると、信号CMPは「H」レベルから「L」レベルに変化する。この差動比較器16の伝播遅延時間は数nsに設定されている。
図1に戻って、出力バッファ17は、差動比較器16の出力信号CMPをバッファリングして出力端子T2に出力する。出力端子T2に現れる信号は、信号伝達回路の出力信号VOとなる。
出力バッファ17は、図9(a)(b)に示すように、出力バッファ4と同じ構成である。ただし、プリドライバ41は、電源端子T14および接地端子T24から与えられる電源電圧VD4および接地電圧VS4によって駆動され、差動比較器16の出力信号CMPを反転させる。トランジスタ42,43からなるメインドライバは、電源端子T13および接地端子T23から与えられる電源電圧VD3および接地電圧VS3によって駆動され、プリドライバ41の出力信号を反転させ、出力信号VOとして出力端子T2に出力する。ダイオード44のアノードおよびダイオード45のカソードは出力端子T2に接続され、ダイオード44のカソードおよびダイオード45のアノードはそれぞれ電源端子T13および接地端子T23に接続される。また、ダイオード44,45をそれぞれNチャネルMOSトランジスタ46,47で構成してもよい。
図10(a)〜(g)は、図1〜図9で説明した信号伝達回路の動作を示すタイムチャートである。図10(a)〜(g)において、入力信号VIは、一定周期で交互に「H」レベルおよび「L」レベルになるものとする。入力信号VIの立ち上りエッジに応答して、エッジパルス生成回路3の出力信号S1が一定時間だけ「H」レベルになり、入力信号VIの立ち下りエッジに応答して、エッジパルス生成回路3の出力信号S2が一定時間だけ「H」レベルになる。
信号S1は、出力バッファ4によってバッファリングされてトランス6の1次巻線7の第1の端子7aに与えられる。信号S2は、出力バッファ5によってバッファリングされてトランス6の1次巻線7の第2の端子7bに与えられる。トランス6の2次巻線8には、バイアス回路15によってバイアス電圧VBが印加されている。
信号S1の立ち上りエッジに応答して、2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1および第2の端子8bの電圧V2がスパイク状に上昇する。このとき電圧V1の上昇分が電圧V2の上昇分よりも大きいので、V2−V1は負電圧側にスパイク状に低下する。また、信号S1の立ち下りエッジに応答して、電圧V1,V2がスパイク状に低下する。このとき電圧V1の低下分が電圧V2の低下分よりも大きいので、V2−V1は正電圧側にスパイク状に上昇する。
同様に、信号S2の立ち上りエッジに応答して、2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1および第2の端子8bの電圧V2がスパイク状に上昇する。このとき電圧V2の上昇分が電圧V1の上昇分よりも大きいので、V2−V1は正電圧側にスパイク状に上昇する。また、信号S2の立ち下りエッジに応答して、電圧V1,V2がスパイク状に低下する。このとき電圧V2の低下分が電圧V1の低下分よりも大きいので、V2−V1は負電圧側にスパイク状に上昇する。
出力信号VOが「L」レベルにされている場合において、差動比較器16の入力電圧V2−V1がスパイク状に上昇して正側トリップ電圧VTPよりも高くなると、出力信号VOが「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられる。
また、出力信号VOが「H」レベルにされている場合において、差動比較器16の入力電圧V2−V1がスパイク状に低下して負側トリップ電圧VTNよりも低くなると、出力信号VOが「H」レベルから「L」レベルに立ち上げられる。したがって、出力信号VOは、入力信号VIの遅延信号となる。
図11は、図1に示した信号伝達回路を備えたインバータの構成を示す回路ブロック図である。図11において、このインバータは、直流電源50〜53、制御回路60、信号伝達回路61,62、ゲート駆動回路63,64、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)65,66、ダイオード67,68、コンデンサ69、および出力端子T3を備える。
信号伝達回路61,62の各々は、図1で示した信号伝達回路と同様の回路である。信号伝達回路61,62によって制御回路60側の低電圧領域A1とIGBT67,68側の高電圧領域A2とが絶縁されている。低電圧領域A1には直流電源50から数Vの電源電圧VD10が供給され、高電圧領域A2には直流電源51〜53から数百V〜数千Vの電源電圧VD11〜VD13が供給される。コンデンサ69は、直流電源53に並列に接続され、電源電圧VD13を安定化させる。低電圧領域A1の接地端子T30と高電圧領域A2の接地端子T30とは別々に設けられており、接地端子T30,T31はそれぞれ接地電圧VS10,VS11を受ける。
制御回路60は、直流電源50の出力電圧VD10によって駆動され、制御信号VI1,VI2を生成する。信号伝達回路61は、電源電圧VD10によって駆動される送信回路と、領域A1,A2を絶縁するトランスと、電源電圧VD11によって駆動される受信回路とを含み、制御信号VI1に応答して制御信号VO1を出力する。IGBT65は出力端子T3と接地端子T31の間に接続され、ダイオード67はIGBT65に逆並列に接続される。ゲート駆動回路63は、電源電圧VD11によって駆動され、制御信号VO1に応答してIGBT65をオン/オフさせる。
信号伝達回路62は、電源電圧VD10によって駆動される送信回路と、領域A1,A2を絶縁するトランスと、電源電圧VD12によって駆動される受信回路とを含み、制御信号VI2に応答して制御信号VO2を出力する。IGBT66は直流電源53の正極と出力端子T3の間に接続され、ダイオード68はIGBT66に逆並列に接続される。ゲート駆動回路64は、電源電圧VD12によって駆動され、制御信号VO2に応答してIGBT66をオン/オフさせる。IGBT65と66は、交互にオンされる。出力端子T3には、電源電圧VD13と接地電圧VS11の間で変化する交流電圧VACが出力される。
このインバータでは、信号伝達回路61,62によって低電圧領域A1と高電圧領域A2を分離したので、高電圧領域A2の高電圧によって制御回路60が破壊されたり、IGBT65,66のオン/オフに伴って発生するノイズによって制御回路60が誤動作することを防止することができる。
[比較例の問題点1]
図11で示したインバータにおいて、IGBT65,66を交互にオン/オフさせると、高電圧領域A2の接地電圧と低電圧領域A1の接地電圧との電圧差が激しく変化する。図12(a)は、図1で示した受信回路10の接地電圧VS3と送信回路1の接地電圧VS1との電圧差VS3−VS1の変化を示すタイムチャートである。また、図12(b)はトランス6の2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1の変化を示すタイムチャートであり、図12(c)はトランス6の2次巻線8の第2の端子8bの電圧V2の変化を示すタイムチャートである。
図12(a)〜(c)において、受信回路10の接地電圧VS3と送信回路1の接地電圧VS1との電圧差VS3−VS1は、0Vから直流電源53の端子間電圧VDCまで変化する。この電圧差VS3−VS1の変化速度dV/dtは、通常は1kV/μs程度であるが、動作状態によっては30kV/μsに達する場合もある。
電圧差VS3−VS1がVDCから0Vに変化すると(時刻t0)、トランス6の2次巻線8の端子8a,8bに正の同相ノイズが発生し、電圧V1,V2の各々がバイアス電圧VBから電源電圧VD3+VF1にスパイク状に上昇する。VF1は、ESD保護回路11に含まれるダイオード21の順方向電圧であり、室温で0.7V程度である。
また、電圧差VS3−VS1が0VからVDCに変化すると(時刻t1)、トランス6の2次巻線8の端子8a,8bに負の同相ノイズが発生し、電圧V1,V2の各々がバイアス電圧VBから接地電圧VS3−VF2にスパイク状に低下する。VF2は、ESD保護回路12に含まれるダイオード22の順方向電圧であり、室温で0.7V程度である。
図13は、トランス6の2次巻線8の端子8a,8bに正の同相ノイズが発生するメカニズムを示す回路図である。図13において、トランス6の1次巻線7と2次巻線8の間には寄生容量が存在する。寄生容量は、1次巻線7の第1の端子7aと2次巻線8の第1の端子8aとの間に接続されたコンデンサC1と、1次巻線7の第2の端子7bと2次巻線8の第1の端子8bとの間に接続されたコンデンサC2とで示されている。
なお、ESD保護回路11,12のダイオード21のカソード(すなわちチップ上の電源端子T13)とパッケージ上の電源端子T13Pとの間はそれぞれボンディングワイヤW1,W2によって接続され、ESD保護回路11,12のダイオード22のアノード(すなわちチップ上の接地端子T23)とパッケージ上の接地端子T23Pとの間はそれぞれボンディングワイヤW2,W4によって接続されている。ボンディングワイヤW1〜W4の各々は、インダクタを構成している。
電圧差VS3−VS1が一定である場合は、コンデンサC1,C2の各々はバイアス電圧VBに充電されている。図12の時刻t0で示すように、電圧差VS3−VS1がVDCから0Vに変化すると、コンデンサC1,C2の容量結合によって電圧V1,V2がスパイク状に上昇する。ESD保護回路11,12のダイオード21がない場合には、電圧V1,V2は数百V上昇する。しかし、ダイオード21が存在する場合には、図13の矢印で示すようにダイオード21の順方向に電流が流れるので、電圧V1,V2の各々は、受信回路10の電源電圧VD3よりもダイオード21の順方向電圧VF1だけ高い値となる。
逆に、図12の時刻t1で示すように、電圧差VS3−VS1が0VからVDCに変化すると、コンデンサC1,C2の容量結合によって電圧V1,V2がスパイク状に低下する。ESD保護回路11,12のダイオード22がない場合には、電圧V1,V2は数百V低下する。しかし、ダイオード22が存在する場合には、ダイオード22の順方向に電流が流れるので、電圧V1,V2の各々は、受信回路10の接地電圧VS3よりもダイオード22の順方向電圧VF2だけ低い電圧となる。
同相ノイズは、差動比較器16の入力端子16a,16bに流入する。差動比較器16が正常に動作する入力電圧の範囲は、接地電圧(0V)よりも高い最低電圧Vmin(たとえば、1.1V)と、電源電圧(たとえば、5V)よりも低い最高電圧Vmax(たとえば、3.8V)との間に限られる。Vmin〜Vmaxから外れた値の電圧が差動比較器16に入力されると、差動比較器16に保持された信号の論理レベルが反転してしまい、後段の回路が誤動作するという問題がある。本発明では、この問題の解決が図られる。
[比較例の問題点2]
また、図1の信号伝達装置には、同相ノイズが発生した場合に、出力信号VOの電圧が変動してしまうという問題がある。図14(a)(b)に示すように、出力信号VOが「H」レベル(電源電圧VD3)である場合において、電圧差VS3−VS1がVDCから0Vに低下すると、図14(b)のうちの点線の円で囲まれた部分で示されるように、出力信号VOの電圧が同相ノイズの影響を受けてスパイク状に低下する。
また図14(a)(c)に示すように、出力信号VOが「L」レベル(接地電圧VS3)である場合において、電圧差VS3−VS1が0VからVDCに上昇すると、図14(c)のうちの点線の円で囲まれた部分で示されるように、出力信号VOの電圧が同相ノイズの影響を受けてスパイク状に上昇する。
同相ノイズの影響を受けて出力信号VOの電圧が変動する理由は以下の通りである。図15(a)に示すように電圧差VS3−VS1がVDCから0Vに低下すると(時刻t0)、図13の回路においては矢印の方向に電流が流れる。この電流は、トランス6の寄生容量値と電圧の変化速度dV/dtとの積に等しい値となり、mAオーダーの大きな電流となる。
接地電圧VS3とVS1の相対的な変化が停止して電圧差VS3−VS1が一定になると、ESD保護回路11,12のダイオード21に流れる電流は急激に減少する。このときボンディングワイヤW1からなるインダクタには電流の変化を妨げる向きの起電力が生じ、図15(b)に示すように、ダイオード21のカソードの電圧VD3Aが電源電圧VD3より低くなる(時刻t0)。ダイオード21のカソード(すなわちチップ上の電源端子T13)の電源電圧VD3Aは、出力バッファ17のトランジスタ42,43からなるメインドライバの電源電圧となる。出力信号VOが「H」レベルである場合には、出力端子T2にはチップ上の電源電圧VD3Aが現われるので、出力信号VOのレベルはスパイク状に低下する。
逆に、電圧差VS3−VS1が0VからVDCに上昇すると(時刻t1)、接地端子T23からボンディングワイヤW2およびダイオード22を介してトランス6の2次巻線8の端子8aに大きな電流が流れる。この電流が急に止まると、ボンディングワイヤW2からなるインダクタに電流の変化を妨げる向きの起電力が生じ、図15(b)に示すように、ダイオード22のアノード(すなわちチップ上の接地端子T23)の電圧VS3Aが接地電圧VS3よりも高くなる(時刻t1)。ダイオード22のアノード(すなわちチップ上の接地端子T23)の電圧VS3Aは、出力バッファ17のトランジスタ42,43からなるメインドライバの接地電圧となる。出力信号VOが「L」レベルである場合には、出力端子T2にはチップ上の接地電圧VS3Aが現われるので、出力信号VOのレベルはスパイク状に上昇する。このように出力信号VOの電圧が変化すると、後段の回路が誤動作するという問題がある。本発明では、この問題の解決が図られる。
[実施の形態1]
図16は、本発明の実施の形態1による信号伝達回路の構成を示す回路ブロック図であって、図1と対比される図である。図16を参照して、この信号伝達回路が図1の信号伝達回路と異なる点は、抵抗素子13,14が除去され、減衰回路71,72、電源端子T15、および接地端子T25が追加され、出力バッファ17が出力バッファ76で置換されている点である。
減衰回路71は、トランス6の2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1を所定の減衰率で減衰させて電圧V1Aを生成し、その電圧V1Aを差動比較器16の第2の入力端子(+端子)16bに与える。減衰回路72は、トランス6の2次巻線8の第2の端子8bの電圧V2を所定の減衰率で減衰させて電圧V2Aを生成し、その電圧V2Aを差動比較器16の第1の入力端子(−端子)16aに与える。
詳しく説明すると、減衰回路71は、演算増幅器73および抵抗素子74,75を含む。抵抗素子74の一方端子はESD保護回路11を介してトランス6の2次巻線8の第1の端子8aに接続され、その他方端子は演算増幅器73の反転入力端子(−端子)に接続される。抵抗素子75は、演算増幅器73の反転入力端子と出力端子の間に接続される。演算増幅器73の非反転入力端子(+端子)はバイアス回路15からの直流バイアス電圧VBを受け、その出力端子は差動比較器16の第2の入力端子16bに接続される。
演算増幅器73は、電源端子T14からの電源電圧VD4と接地端子T24からの接地電圧VS4によって駆動され、反転入力端子(−端子)の電圧が非反転入力端子(+端子)の電圧(すなわち直流バイアス電圧VB)に一致するように電流を出力する。このため、直流バイアス電圧VBが抵抗素子74を介して2次巻線8の第1の端子8aに供給される。また、抵抗素子74,75の抵抗値をそれぞれR1,R2とすると、V1A=−V1(R2/R1)となる。したがって、R2/R1を1よりも小さな所定値(たとえば0.4)に設定することにより、V1よりも小さな電圧V1Aを生成することができる。
図17(a)は減衰回路71の構成を示す回路図であり、図17(b)は演算増幅器73の構成を示す回路図である。図17(a)(b)において、演算増幅器73は、反転入力端子73a、非反転入力端子73b、出力端子73c、バイアス電流源IS2、PチャネルMOSトランジスタP11,P12、およびNチャネルMOSトランジスタQ11〜Q14を含む。トランジスタP11,P12のソースはともに電源端子T14に接続され、それらのドレインはそれぞれノードN11および出力端子73cに接続され、トランジスタP11,P12のゲートはともにノードN11に接続される。トランジスタP11,P12には、同じ値の電流が流れる。
トランジスタQ11,Q12のドレインはそれぞれノードN11および出力端子73cに接続され、それらのソースはともにノードN12に接続される。トランジスタQ11,Q12のゲートはそれぞれ非反転入力端子73bおよび反転入力端子73aに接続される。トランジスタQ13は、ノードN12と接地端子T24の間に接続される。バイアス電流源IS2およびトランジスタQ14は、電源端子T14と接地端子T24の間に直列接続される。トランジスタQ13,Q14のゲートは互いに接続されている。トランジスタQ13,Q14には、一定のバイアス電流が流れる。
非反転入力端子73bの電圧が反転入力端子73aの電圧よりも高い場合は、トランジスタP11,P12,Q11に流れる電流がトランジスタQ12に流れる電流よりも大きくなり、出力端子73cが「H」レベル(電源電圧VD4)にされる。非反転入力端子73bの電圧が反転入力端子73aの電圧よりも低い場合は、トランジスタP11,P12,Q11に流れる電流がトランジスタQ12に流れる電流よりも小さくなり、出力端子73cが「L」レベル(接地電圧VS4)にされる。
本実施の形態1では、信号伝達回路の伝播遅延時間が30ns未満に設定されるので、演算増幅器73にも高速動作が求められる。このため、トランジスタQ13の電流を大きな値(800μA)に設定し、トランジスタQ11,Q12のトランジスタサイズを大きなサイズ(W/L=160μm/1μm)に設定することにより、DC利得が40dBで、ユニティゲイン周波数が800MHzの演算増幅器73を実現している。
次に、減衰回路71の動作について説明する。図18(a)はトランス6の2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1を示すタイムチャートであり、図18(b)は減衰回路71の出力電圧V1Aを示すタイムチャートである。電圧V1,V1Aの各々には、受信信号と同相ノイズが現われる。
たとえば、受信側の接地電圧VS3は0Vであり、電源電圧VD3は5Vであり、直流バイアス電圧VBは2.5Vである。通常はV1=VBである。図12(a)〜(c)で示したように、送信側と受信側の接地電圧の差VS3−VS1がVDCから0Vに変化すると、V1に正の同相ノイズが発生し、電圧差VS3−VS1が0VからVDCに変化すると、V1に負のの同相ノイズが発生する。正の同相ノイズが発生すると、V1は、VBからVD3+VF1にスパイク状に上昇する。VD3+VF1は5.7Vとなる。負の同相ノイズが発生すると、V1は、VBからVD3−VF2にスパイク状に低下する。VD3−VF2は−0.7Vとなる。
また図10(a)〜(g)で示したように、入力信号VIの立ち上りエッジに応答して信号S1が「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられると、V1がVBからVSPにスパイク状に上昇し、信号S1が「H」レベルから「L」レベルに立ち下げられると、V1がVBからVSNにスパイク状に低下する。送信回路1の出力バッファ4の駆動力を調整することにより、電圧VSP,VSNのレベルを調整することが可能である。たとえば、VSPは3Vに設定され、VSNは2Vに設定される。
また、差動比較器16が正常に動作する最低の入力電圧Vminは1.1Vであり、最大の入力電圧Vmaxは3.8Vであるとする。また、差動比較器の正のトリップ電圧VTPは0.15Vであり、負のトリップ電圧VTNは−0.15Vであるとする。
減衰回路71の抵抗素子74,75の抵抗値R1,R2をそれぞれ10kΩおよび4kΩとすれば、減衰率は−R2/R1=−0.4となる。この場合、正の同相ノイズの電圧VD3+VF1は、減衰後には(5.7−2.5)×(−0.4)+2.5=1.22Vとなり、Vmin(1.1V)とVmax(3.8V)の範囲内に収まっている。負の同相ノイズの電圧VS3−VF2は、減衰後には(2.5+0.7)×(−0.4)+2.5=3.78Vとなり、Vmin(1.1V)とVmax(3.8V)の範囲内に収まっている。
また、受信信号の電圧VSPは、減衰後には(3−2.5)×(−0.4)+2.5=2.3Vとなり、VB+VTN=2.35Vよりも低くなり、かつVmin(1.1V)とVmax(3.8V)の範囲内に収まっている。受信信号の電圧VSNは、減衰後には(2−2.5)×(−0.4)+2.5=2.7Vとなり、VB+VTP=2.65Vよりも高くなり、かつVmin(1.1V)とVmax(3.8V)の範囲内に収まっている。
したがって、図18(a)(b)に示すように、同相ノイズが発生した場合でも、差動比較器16の入力電圧V1Aは差動比較器16が正常に動作する範囲A内に収まり、差動比較器16が誤動作することはない。また、正常な受信信号は、減衰された後もトリップ電圧を越えており、信号伝達自体は正常に行なわれる。
図19は、減衰回路71の動作をシミュレーションした結果を示すタイムチャートである。正の同相ノイズが発生している期間(200〜220ns)では、減衰前の電圧V1は2.5〜5.7Vとなるが、減衰後の電圧V1Aは1.2〜2.5Vとなり、差動比較器16が正常に動作する範囲(1.1〜3.8V)内に収まった。また、負の同相ノイズが発生している期間(420〜440ns)では、減衰前の電圧V1は−0.7〜2.5Vとなるが、減衰後の電圧V1Aは2.5〜3.78Vとなり、差動比較器16が正常に動作する範囲(1.1〜3.8V)内に収まった。したがって、本実施の形態1では、比較例の問題点1を解決することができた。
図16に戻って、減衰回路72は、減衰回路71と同じ構成である。ただし、減衰回路72の抵抗素子74の一方端子はESD保護回路12を介してトランス6の2次巻線8の第2の端子8bに接続される。また、演算増幅器73の出力端子は差動比較器16の第1の入力端子16aに接続される。
このため、直流バイアス電圧VBが抵抗素子74を介して2次巻線8の第2の端子8bに供給される。また、V2よりも小さな電圧V2Aが差動比較器16の第2の入力端子16bに与えられる。抵抗素子74,75の抵抗値をそれぞれR1,R2とすると、V2A=−V2(R2/R1)となる。したがって、R2/R1を1よりも小さな所定値に設定することにより、V2よりも小さな電圧V2Aを生成することができる。R2/R1は、減衰回路71と同じ値(たとえば0.4)に設定される。
減衰回路72でも、減衰回路71と同じ効果が得られる。すなわち、トランス6の2次巻線8の第2の端子8bに正の同相ノイズが発生した場合でも、差動比較器16の入力電圧V2Aは差動比較器16が正常に動作する範囲内に収まり、差動比較器16が誤動作することはない。また、正常な受信信号は、減衰された後もトリップ電圧を越え、信号伝達自体は正常に行なわれる。
なお、図1の比較例の信号伝達回路に減衰回路71,72を組み込むことは単純ではない。図1の信号伝達回路では、バイアス回路15から抵抗素子13,14を介してトランス6の2次巻線8の端子8a,8bに与えられている。1次巻線7に電流が流れると、図10(d)(e)で示したように、2次巻線8の端子8a,8bに電圧V1,V2が誘起されるが、差動比較器16で判定するのは電圧差V2−V1である。したがって、電圧V1のみ、あるいは電圧V2のみを、直流バイアス電圧VBをリファレンス電圧として減衰することはできない。
そこで本実施の形態1では、図16に示すように、バイアス回路15で生成された直流バイアス電圧VBを、減衰回路71,72の各々の演算増幅器73の非反転入力端子に印加する。また、減衰回路71では演算増幅器73の反転入力端子を抵抗素子74を介して2次巻線8の第1の端子8aに接続し、減衰回路72では演算増幅器73の反転入力端子を抵抗素子74を介して2次巻線8の第2の端子8bに接続する。
演算増幅器73の反転入力端子は、仮想接地動作によって直流バイアス電圧VBに固定されるので、2次巻線8の端子8a,8bも直流バイアス電圧VBにバイアスされることになる。また、2次巻線8の端子8a,8bに発生した電圧をバイアス電圧VBを基準として減衰することが可能になる。
さらに、図7で説明した差動比較器16と同様に、減衰回路71,72の演算増幅器73が正常に動作する入力電圧の範囲が存在するが、演算増幅器73の入力端子は仮想接地動作によって一定のバイアス電圧VBに保たれるので、2次巻線8の端子8a,8bに同相ノイズが発生しても演算増幅器73が誤動作することはない。
差動比較器16は、第2の入力端子16bに与えられた減衰回路71の出力電圧V1Aと第1の入力端子16aに与えられた減衰回路72の出力電圧V2Aとの差の電圧(V1A−V2A)が正側トリップ電圧VTPを越えたことに応じて信号CMPを「H」レベルにし、その電圧(V1A−V2A)が負側トリップ電圧VTNよりも低下したことに応じて信号CMPを「L」レベルにする。
出力バッファ76は、差動比較器16の出力信号CMPをバッファリングして出力端子T2に出力する。出力端子T2に現れる信号は、信号伝達回路の出力信号VOとなる。
出力バッファ76は、図20(a)(b)に示すように、出力バッファ17と同じ構成である。ただし、トランジスタ42,43からなるメインドライバは、電源端子T15および接地端子T25から与えられる電源電圧VD5および接地電圧VS5によって駆動され、プリドライバ41の出力信号を反転させ、出力信号VOとして出力端子T2に出力する。ダイオード44のアノードおよびダイオード45のカソードは出力端子T2に接続され、ダイオード44のカソードおよびダイオード45のアノードはそれぞれ電源端子T15および接地端子T25に接続される。また、ダイオード44,45をそれぞれNチャネルMOSトランジスタ46,47で構成してもよい。
この信号伝達回路の受信回路10では、ESD保護回路11,12の各々は電源端子T13および接地端子T23に接続され、バイアス回路15、減衰回路71,72、および差動比較器16は電源端子T14および接地端子T24に接続され、出力バッファ16のメインドライバは電源端子T15および接地端子T25に接続される。したがって、受信回路10は、3つの電源端子T13〜T15と3つの接地端子T23〜T25を備える。3つの電源端子T13〜T15に印加される電源電圧VD3〜VD5は同じ電圧(たとえば5V)であり、パッケージまたはボード上で短絡される。3つの接地端子T23〜T25に印加される接地電圧VS3〜VS5は同じ電圧(0V)であり、パッケージまたはボード上で短絡される。
図21(a)に示すように、3つの電源端子T13〜T15と3つの接地端子T23〜T25のそれぞれをボード上で短絡してもよいし、図21(b)に示すように、3つの電源端子T13〜T15と3つの接地端子T23〜T25のそれぞれをパッケージ内で短絡してもよい。
図22は、図21(a)に示した第1の接続方法を具体的に示す図である。図22において、電源端子T13〜T15および接地端子T23〜T25はチップ80の表面に設けられ、チップ80はパッケージ81に収容されている。パッケージ81には、それぞれ電源端子T13〜T15および接地端子T23〜T25に対応する6本のリードフレームFが設けられている。各リードフレームFの一方端部はボンディングワイヤWを介して対応の端子Tに接続され、その他方端部はパッケージ81の外部に露出している。電源端子T13〜T15に対応する3本のリードフレームFの他方端部はボード上の電源端子T41に接続される。接地端子T23〜T25に対応する3本のリードフレームFの他方端部はボード上の接地端子T42に接続される。
図23は、図21(b)に示した第2の接続方法を具体的に示す図である。図23において、電源端子T13〜T15および接地端子T23〜T25はチップ80の表面に設けられ、チップ80はパッケージ82に収容されている。パッケージ82には、電源端子T13〜T15に対応する1本のリードフレームFと、接地端子T23〜T25に対応する1本のリードフレームFが設けられている。各端子Tは、ボンディングワイヤWを介して対応のリードフレームFの一方端部に接続され、各リードフレームFの他方端部はパッケージ82の外部に露出している。電源端子T13〜T15に対応するリードフレームFの他方端部はボード上の電源端子T41に接続される。接地端子T23〜T25に対応するリードフレームFの他方端部はボード上の接地端子T42に接続される。
図24は、3つの電源端子T13〜T15と3つの接地端子T23〜T25を設けた効果を示す回路図であって、図13と対比される図である。図24において、出力バッファ76のメインドライバの電源端子はボンディングワイヤW5を介してパッケージ上の電源端子T15Pに接続され、出力バッファ76のメインドライバの接地端子はボンディングワイヤW6を介してパッケージ上の接地端子T25Pに接続される。このように、ESD保護回路11,12用の電源端子T13Pおよび接地端子T23Pと、出力バッファ76のメインドライバ用の電源端子T15Pおよび接地端子T23Pとを別々に設けたので、受信回路10の接地電圧VS3が低下したときにトランス6から電源端子T13Pに矢印の経路で大電流が流れても電源端子T15Pにはほとんど電流が流れない。
このため、出力バッファ76の出力信号VOが「H」レベルであるときに同相ノイズが発生しても電源電圧VD5が変動することはないので、出力バッファ76の出力信号VOの電圧が変動することはない。同様に、出力バッファ76の出力信号VOが「L」レベルであるときに同相ノイズが発生しても接地電圧VS5が変動することはないので、出力バッファ76の出力信号VOの電圧が変動することはない。
図25(a)(b)は、それぞれ比較例および実施の形態1において、接地電圧VS3をVDC(2100V)から0Vに低下させた場合における出力信号VOの電圧の変化をシミュレーションした結果を示すタイムチャートである。
比較例では、図9で示したように、ESD保護回路11,12と出力バッファ17のトランジスタ42,43において、電源端子T13および接地端子T23が共用されている。これに対して本実施の形態1では、図20で示したように、ESD保護回路11,12の電源端子T13および接地端子T23と、出力バッファ76のトランジスタ42,43からなるメインドライバの電源端子T15および接地端子T25とは分離されている。
比較例では、図25(a)に示すように、接地電圧VS3が変化する最初の時刻(200ns)と最後の時刻(220ns)において、出力信号VOの電圧がスパイク状に変動する。これに対して本実施の形態1では、図25(b)に示すように、出力信号VOの電圧はほとんど変動していない。したがって、本実施の形態1では、上記比較例の問題点2が解決されたこととなる。
なお、本実施の形態1では、受信回路10において3つの電源端子T13〜T15と3つの接地端子T23〜T25を設けたが、内部回路の電源端子T14と出力バッファ76の電源端子T15を1つの電源端子にまとめるとともに、内部回路の接地端子T24と出力バッファ76の接地端子T25を1つの接地端子にまとめても同じ効果が得られることは言うまでもない。
図26(a)〜(g)は、本実施の形態1の信号伝達回路の動作を示すタイムチャートであって、図10(a)〜(g)と対比される図である。図26(a)〜(g)において、入力信号VIは、一定周期で交互に「H」レベルおよび「L」レベルになるものとする。入力信号VIの立ち上りエッジに応答して、エッジパルス生成回路3の出力信号S1が一定時間だけ「H」レベルになり、入力信号VIの立ち下りエッジに応答して、エッジパルス生成回路3の出力信号S2が一定時間だけ「H」レベルになる。
信号S1は、出力バッファ4によってバッファリングされてトランス6の1次巻線7の第1の端子7aに与えられる。信号S2は、出力バッファ5によってバッファリングされてトランス6の1次巻線7の第2の端子7bに与えられる。トランス6の2次巻線8には、バイアス回路15および減衰回路71,72の演算増幅器73によってバイアス電圧VBが印加されている。
信号S1の立ち上りエッジに応答して2次巻線8の第1の端子8aの電圧V1がスパイク状に上昇し、信号S1の立ち下りエッジに応答して電圧V1がスパイク状に低下する。電圧V1は減衰回路71によって減衰および反転されて電圧V1Aとなる。出力信号VOが「L」レベルにされている場合において、差動比較器16の入力電圧V1A−V2Aがスパイク状に上昇して正側トリップ電圧VTPよりも高くなると、出力信号VOが「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられる。
同様に、信号S2の立ち上りエッジに応答して2次巻線8の第2の端子8bの電圧V2がスパイク状に上昇し、信号S2の立ち下りエッジに応答して電圧V2がスパイク状に低下する。電圧V2は減衰回路72によって減衰および反転されて電圧V2Aとなる。出力信号VOが「H」レベルにされている場合において、差動比較器16の入力電圧V1A−V2Aがスパイク状に低下して負側トリップ電圧VTNよりも低くなると、出力信号VOが「H」レベルから「L」レベルに立ち下げられる。したがって、出力信号VOは、入力信号VIの遅延信号となる。
図27は、本実施の形態1の信号伝達回路の動作をシミュレーションした結果を示すタイムチャートである。図27では、入力信号VIの電圧と出力信号VOの電圧とが時間の関数としてプロットされている。図27から、入力信号VIの波形と出力信号VOの波形は同じであり、入力信号VIを30ns未満の伝播遅延時間だけ遅延させた信号が出力信号VOとなっていることが分かる。
なお、図11で示したインバータのような電力変換回路では、Si製のIGBTの他にSiC製のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が半導体スイッチング素子として用いられるようになってきている。SiC製のMOSFETのスイッチング速度は、Si製のIGBTのスイッチング速度よりも速い。このため、SiC製のMOSFETを使用した電力変換回路では、Si製のIGBTを使用した電力変換回路に比べて、同相ノイズの電圧変化速度が高くなり、信号伝達回路が誤動作する可能性が高くなる。したがって、本実施の形態1の信号伝達回路をSiC製のMOSFETを用いた電力変換回路に設けた場合、Si製のIGBTを用いた電力変換回路に設けた場合よりも大きな効果が得られる。
[実施の形態2]
図28は、この発明の実施の形態2による信号伝達回路の構成を示す回路ブロック図であって、図16と対比される図である。図28を参照して、この信号伝達回路が図16の信号伝達回路と異なる点は、トランス6がトランス6Aで置換され、ESD保護回路91,92が追加されている点である。
トランス6Aは、トランス6の1次巻線7を2つの1次巻線7A,7Bに分割し、1次巻線7A,7Bの間に第3の端子7cを設けるとともに、2次巻線8を2つの2次巻線8A,8Bに分割し、2次巻線8A,8Bの間に第3の端子8cを設けたものである。図29(a)に示すように2次巻線8の中央部に端子8cを設けてもよいし、図29(b)に示すように、2つの2次巻線8A,8Bの一方端子同士を接続して端子8cとしてもよい。1次巻線7A,7Bも2次巻線8A,8Bと同様である。
図30(a)(b)はESD保護回路91の構成を示す回路図であって、図2(a)(b)と対比される図である。図30(a)(b)を参照して、ESD保護回路91がESD保護回路2と異なる点は、ダイオード21のアノード(またはトランジスタ23のドレイン)が入力端子T1および入力ノード3aの代わりに接地端子T21および端子7cに接続されている点である。これにより、端子7cの電圧はVS1−VF2とVD1+VF1の間の範囲に制限される。
図31(a)(b)はESD保護回路92の構成を示す回路図であって、図6(a)(b)と対比される図である。図31(a)(b)を参照して、ESD保護回路92がESD保護回路11と異なる点は、ダイオード21のアノード(またはトランジスタ23のドレイン)が端子8aおよび入力端子16aの代わりに端子8cおよびバイアス回路15の出力ノード15aに接続されている点である。これにより、端子8cの電圧は、バイアス電圧VBにバイアスされるとともに、VS3−VF2とVD3+VF1の間の範囲に制限される。
他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。