以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。同一の又は対応する要素には全ての図を通じて同一の符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。各実施形態において、ミラーを自動二輪車に適用した場合を例に説明するが、振動低減が要求される構造物に適用可能である。すなわち、ミラーは起振源となる構造物に対して直接または間接的に取り付けられる。
また、以下の説明における方向の概念は、自動二輪車に騎乗した運転者から見た方向を基準としている。
(構造)
図1は、第1実施形態に係るバックミラー10を後から見て示す図である。バックミラー10は、自動二輪車の車体1の前部に取り付けられ、運転者が騎乗するシート(図示せず)よりも前方に配置される。これにより運転者は、車両前方を向いたまま車両後方を視認することができる。
車体1は、自動二輪車のフレームでもよく、フレームに固定された他の部材でもよい。当該他の部材は、フレームの前端部に固定されたステー又はブラケットといった取付部材でもよいし、フレーム又は取付部材に固定されたウインドシールドやヘッドランプユニットやカウリング部材でもよい。車体1は走行動力を発生するエンジン(不図示)を支持しており、エンジンは、自動二輪車用バックミラー10にとって起振源となる構造物の一つである。
バックミラー10は、車体1に取り付けられるミラーステー11と、像を写すミラー本体13を保持するミラーハウジング12と、ミラーハウジング12をミラーステー11に回動可能に接続するためのジョイント機構14とを備える。
ミラーステー11は、車体1から車幅方向外側及び/又は上側(本実施形態では両側)に延びている。ミラーステー11は、アーム状に延在するステーアーム部21と、ステーアーム部21の基端部に設けられた車体取付部22と、を有している。車体取付部22は、車体1に設置される。なお、図1は車体取付部22を車体1上に直接に接触させた場合を例示しているが、車体取付部22と車体1との間に介在物が存在してもよく、この場合の介在物は、弾性を有したシート等、振動を吸収する機能を発揮するものであると好ましい。車体取付部22からは、ボルト23が下向きに突出している。ボルト23は車体1に形成されたネジ孔1aに螺合され、これによりミラーステー11(ひいては、バックミラー10の全体)を車体1に強固に取り付けることができる。
ステーアーム部21は、車体1から上向きに延在してから屈曲し、更に車幅方向外側に向かって延在している。本実施形態では、ステーアーム部21が、上向きに延在する部分、屈曲した部分及び車幅方向外側に向かって延在する部分を一体に有し、曲げ加工された管材で形成されている。ステーアーム部21を形成する管材は、鋼等の金属製であり円形断面を有する。ステーアーム部21は鈍角に屈曲し、車幅方向外側に向かって延在する部分は、上向きにも延びている。ステーアーム部21の中心軸線は、車体取付部22から上向きに延在する部分で、ボルト23の中心軸線と平行又は一致している。ただし、このステーアーム部21の材料、形状及び構造は一例に過ぎず、適宜変更可能である。
図2は、図1の矢印II方向に見て示すミラーハウジング12の底面図である。図1及び図2に示すように、ミラーハウジング12は、ミラー本体13を保持するミラー保持部26を有している。ミラー保持部26は、開口27を有した椀状に形成され、ミラー本体13が開口27を密閉するようにしてミラー保持部26に取り付けられている。なお、本実施形態では、バックミラー10が回動可能なジョイント機構14を備えているので、ミラー本体13のミラーハウジング12に対する姿勢は固定されている。ミラー保持部26がミラー本体13を揺動させる機構を内蔵しておらず、ミラーハウジング12の質量が小さくなる。また、本実施形態では、ミラー保持部26が動吸振器を内蔵しておらず、ミラーハウジング12(ひいては、バックミラー10の全体)の質量が小さくなる。
図1に示すように、ジョイント機構14は、ミラーハウジング12をミラーステー11の端部に回動可能に接続する。ジョイント機構14は、ミラーステー11の端部(本実施形態では、一例として、ステーアーム部21の先端部)に設けられたステー側ジョイント部31と、ミラーハウジング12に設けられたハウジング側ジョイント部32とを有し、ハウジング側ジョイント部32は、ステー側ジョイント部31に回動可能に当接している。本実施形態では、ステー側ジョイント部31及びハウジング側ジョイント部32は、凹状球面38及び凸状球面42をそれぞれ有し、これら2つの球面38,42が球面対偶を構成し、凸状球面42が凹状球面38に回動可能に(より詳細には、球面対偶における球面運動を行えるように)当接している。
図3は、図1のIII−III線に沿って切断して示すバックミラー10の断面図である。図3に示すように、ステー側ジョイント部31は、筒状に形成されている。ステー側ジョイント部31は、軸線方向に延びる貫通穴33を有し、これに付随して軸線方向の基端側及び先端側それぞれに開口34,35を有している。なお、基端側開口34の断面は、ステーアーム部21の断面に整合すればどのような形状でもよい。先端側開口35の断面は、ハウジング側ジョイント部32と共に球面対偶を構成できるように、円形になっている。
ステーアーム部21の先端部からは、円柱状のロッド36が更に先端側に突出している。ロッド36の基端部は、ステーアーム部21よりも小さい外径を有し、ステーアーム部21の先端には、軸線方向に見て環状の端面が形成されている。ロッド36は、ステー側ジョイント部31の貫通穴33に挿し通されている。ステー側ジョイント部31の基端部は、ステーアーム部21の環状の端面に支持されている。これによりステー側ジョイント部31が、ステーアーム部21に固定される。
ステー側ジョイント部31の先端部は、円形状の先端側開口35を取り囲んだ円環状の端面を有しており、この端面は、半径方向外周側から内周側に向かうにつれてステーアーム部21側に凹んでおり、凹状球面38を成している。ステー側ジョイント部31は、軸線方向の基端側から先端側に向かって拡径している。そのため、凹状球面38の半径を大きくすることができる。
ハウジング側ジョイント部32は、ミラー保持部26から筒状に突出している。ミラーハウジング12は、ハウジング側ジョイント部32がステー側ジョイント部31に組み付けられることにより、ミラーステー11に接続される。このとき、ハウジング側ジョイント部32の突出端部41(ミラー保持部26とは反対側の端部)が、ステー側ジョイント部31の先端部開口35に押し込まれ、ステー側ジョイント部31の先端部に当接する。突出端部41は、略半球状に形成され、突出端部41の外面は、凸状球面42を成している。凸状球面42の曲率半径は、ステー側ジョイント部31の凹状球面38の曲率半径と略等しい。このため、突出端部41を先端部開口35に押し込めば、2つの球面38,42が面接触し、凸状球面42の中心が凹状球面38の中心と同位置に配置される(図3は、2つの中心を便宜上単一の符号Oで示す)。
このように本実施形態では、ステー側ジョイント部31の先端部が、ハウジング側ジョイント部32と当接する部分であり、そのうち凹状球面38が、ハウジング側ジョイント部32と実際に当接する面となる。また、ハウジング側ジョイント部32の突出端部41が、ステー側ジョイント部31と当接する部分であり、そのうち凸状球面42が、ステー側ジョイント部31と実際に当接する面となる。
これら2つの球面38,42は球面対偶を構成し、凸状球面42を有したハウジング側ジョイント部32は、凹状球面38を有したステー側ジョイント部31に対し、中心Oを中心とした球面運動を行うことができる。このようにしてミラーハウジング12は、ミラーステー11に回動可能に接続される。よって、運転者は、自身の体格や騎乗姿勢に応じて、ミラーハウジング12のミラーステー11(ひいては、車体1(図1参照))に対する姿勢を変更して、車両後方を視認しやすいようにミラー角度を調整することができる。
ステー側ジョイント部31の基端部の内径は、基端側開口34から軸線方向先端側へ或る距離進むまでの間に一定になっている。この一定内径を有する部分で、ステー側ジョイント部31は、ロッド36に緊密に外嵌している。これにより、ステー側ジョイント部31のロッド36への接触面積が増大し、ステー側ジョイント部31がロッド36に強固に取り付けられるようになると共に、ミラーハウジング12が回動操作されたときにステー側ジョイント部31に作用する荷重を、ロッド36及びステーアーム部21でしっかりと受け止めることができる。
ハウジング側ジョイント部32は、その内部に形成されたジョイント内空間43と、ハウジング側ジョイント部32の突出端部41に設けられてジョイント内空間43を開放する開口44とを有している。
ロッド36は、ステーアーム部21の先端部から、ステー側ジョイント部31の先端側開口35及びハウジング側ジョイント部32の開口44を介し、ジョイント内空間43へと達している。ジョイント内空間43(詳細には、突出端部41の内空間)には、スプリングリテーナ51が設けられている。ロッド36は、このスプリングリテーナ51を貫通している。ロッド36の先端部には、ナット52が螺合しており、ナット52の下面は、スプリングリテーナ51の支持面と軸線方向に離隔対向している。下面と支持面との間には、皿バネあるいはコイルスプリングなどのバネ要素53が設けられている。バネ要素53は、ロッド36の外周側に設けられ、両端部が下面及び支持面にそれぞれ支持される。スプリングリテーナ51は、バネ要素53の弾発力により付勢され、突出端部41の内面に押し付けられる。
スプリングリテーナ51は半球状に形成され、スプリングリテーナ51の支持面と反対側の外面が、凸状球面54を成している。突出端部41の内面は、凸状球面54と略同じ曲率半径を有した凹状球面46を成している。このため、スプリングリテーナ51が付勢されると、凸状球面54が凹状球面46と面接触し、これら2つの球面46,54も球面対偶を構成し、これら2つの球面46,54の中心も、前述した球面対偶(球面38,42)の中心Oと同位置に配置される。
このため、ミラーハウジング12をミラーステー11に対して回動させると、前述した球面対偶(球面38,42)での球面運動と同時に、凹状球面46を有したハウジング側ジョイント部32が、凸状球面54を有したスプリングリテーナ51に対し、中心Oを中心とした球面運動を行う。これにより、ロッド36、バネ要素53及びスプリングリテーナ51をミラーステー11に固定した状態を保って、ミラーハウジング12をミラーステー11に対して回動させることができる。
ミラーハウジング12のミラーステー11に対する姿勢に関わらず、スプリングリテーナ51の凸状球面54は、バネ要素53の弾発力に基づき突出端部41の凹状球面46に押し付けられ、これにより突出端部41の凸状球面42が、ステー側ジョイント部31の凹状球面38に押し付けられる。このため、ミラーハウジング12は、ミラーハウジング12の自重や車両前方からの走行風圧に抗して、ミラーステー11に対する姿勢を維持することができる。逆に言えば、バネ要素53は、このような外力に抗してミラーハウジング12の姿勢を維持するために十分に大きい弾発力を発揮する。
本実施形態では、ジョイント内空間43が、ミラー保持部26の内方空間26aと繋がっている。このため、ナット52及びバネ要素53を配置するためのスペースを十分に広く確保することができ、上記作用を奏するジョイント機構14を容易に提供することができる。
(材料)
次に、ミラーハウジング12及びジョイント機構14の材料及び製法について説明する。ミラーハウジング12は、合成樹脂材である。ミラーハウジング12に設けられたハウジング側ジョイント部32のうち、少なくともステー側ジョイント31と当接する部分が、金属材である。この金属材は、どのようなものでもよい。逆に、少なくともミラー保持部26は、合成樹脂材である。合成樹脂材を用いるにあたり、ミラーハウジング12(ミラー保持部26)は、モールド成型される。
突出端部41は、ステー側ジョイント部31と当接する部分である。本実施形態に係るミラーハウジング12の製造では、金属材で製作された先端部品61が準備される。そして、ミラーハウジング12のうち合成樹脂製部分(例えば、ミラー保持部26)をモールド成型するに際して、先端部品61がインサートされる。突出端部41は、先端部品61のうち外部に露出した部分であり、インサート成型によって形成される。
図4は、図3に示す先端部品61の斜視図である。図4に示すように、先端部品61は、筒部62を有している。本実施形態では、筒部62は円形の断面を有しており、円筒状に形成されている。突出端部41は、筒部62の端部から突出している。突出端部41は筒部62よりも小径であり、突出端部41は、円環状の段差壁63を介して筒部62と連続している。前述したとおり、突出端部41は、半球状に形成され、突出端部41の外面は、ステー側ジョイント部31の凹状球面38と球面対偶を構成する凸状球面42を成し、突出端部41の内面は、スプリングリテーナ51の凸状球面54と球面対偶を構成する凹状球面46を成す。
図3に戻り、本実施形態に係るハウジング側ジョイント部32は、ミラー保持部26から連続して突出する筒部64を有している(図2でも示す)。この筒部64も、ミラー保持部26と一体に合成樹脂材でモールド成型されている。先端部品61の筒部62は、ミラー保持部26と一体の筒部64の内部に埋め込まれ、突出端部41は、ミラー保持部26と一体の筒部64から突出する。このようにして、金属材で製作された突出端部41を有するハウジング側ジョイント部32が、合成樹脂材で製作されたミラーハウジング12に一体に設けられる。
筒部64を成す樹脂材は、先端部品61の段差壁63の内面を覆っており、段差壁63の内側に樹脂製の壁が積層されている。これにより先端部品61が合成樹脂材で良好に保持され、突出端部41のミラーハウジング12との一体性を高めることができる。一方、筒部64を成す樹脂材は、突出端部41の外面には達しておらず、そのため、突出端部41の凸状球面42が金属表面として保たれている。本実施形態では、筒部64を成す樹脂材が、突出端部41の内面にも達しておらず、そのため、突出端部41の凹状球面46も金属表面として保たれている。
ステー側ジョイント部31は、どのような材料で製作されてもよい。ステー側ジョイント部31のうち、少なくともハウジング側ジョイント部32と当接する部分は、金属材で製作されることが好ましい。例えば、少なくともステー側ジョイント部31の先端部、より細かく言えば少なくともステー側ジョイント部31の凹状球面38は、金属材で製作されることが好ましい。本実施形態では、ステー側ジョイント部31が全体として金属材で製作され、そのため、ステー側ジョイント部31の凹状球面38が金属表面である。また、スプリングリテーナ51は、どのような材料で製作されてもよい。本実施形態では、金属材で製作されており、スプリングリテーナ51の凸状球面54は金属表面である。
(作用)
ここで挙げる自動二輪車用のバックミラーの様に、起振源の振動数が広く分布し、構造設計上の制約が厳しいミラーでは、前述(発明が解決しようとする課題を参照)の通り、共振を完全に回避することが難しい。そこで、離調が不十分で共振回避が困難な場合における振動対策としては、起振源となるエンジン振動の下限振動数から離調すべくバックミラー10の固有振動数を低下させるか、あるいは、エンジン振動の上限振動数から離調すべくバックミラー10の固有振動数を上昇させることが考えられる。
まず、バックミラー10の固有振動数を低下させるためには、バックミラー10の質量を増加させるか、あるいはバックミラー10の支持剛性を低下させればよい。しかし、一般的に、質量を増加させても振動低減効果は限定的であり、支持剛性を低下させると逆に振動の増大を招くことになるため、バックミラー10の固有振動数の低下による離調は振動対策としては十分ではない。
一方、バックミラー10の固有振動数を上昇させるためには、バックミラー10の質量を減少させるか、あるいはバックミラー10の支持剛性を増加させればよい。しかし、質量を低下させても振動低減効果は限定的であるのに対して、支持剛性を増加させれば、振動低減効果が見込まれる。
そこで、本実施形態に係るバックミラー10は、質量の増加を最小限に抑えつつ、支持剛性を増加させるために、合成樹脂材製のミラーハウジング12と、少なくともその一部が金属製であるジョイント機構14を備えていることで、振動を低減することができる。以下、その作用について説明する。
まず、バックミラー10のジョイント機構14が合成樹脂材製である場合(以下、単に「従来構造」という)の振動特性について説明する。従来構造は本実施形態と同一形状及び同一寸法を有するものとし、説明の便宜のため以降の従来構造の説明でも本実施形態と同一形状を有する要素には同一の符号を付す。ここでは便宜上、バックミラー10が、L1=160mm程度、L2=140mm程度、L3=170mm程度、Φ1=10mm程度であった場合を例にして述べる(L1,L2,L3及びΦ1につき図1を参照)。なお、L1は、車体取付部22からミラー本体13の中心までの後述Y方向における距離であり、L2は、車体取付部22からミラー本体13の中心までの鉛直方向における距離であり、L3は、ミラーハウジング12全体の後述Y方向の寸法であり、Φ1は、ステーアーム部21の径(太さ)である。
図5は、バックミラー10の振動モードの例を示す図である。ここでは、バックミラー10の主要な3つの振動モードについて説明する。図5(a)に示す振動モードを「モード1」、図5(b)に示す振動モードを「モード2」、図5(c)に示す振動モードを「モード3」と称す。図5(b)及び(c)に記載したXYは、ミラーハウジング12の回転軸を示している。横軸Yは、扁平な形状のミラー本体13及びミラーハウジング12の長手方向に向けられ、縦軸Xは、横軸Yに直交する方向であってミラー本体13の法線方向にも直交する方向である。
図5(a)に示すように、モード1では、ミラーステー11のステーアーム部21の曲げにより、ミラーハウジング12は概ね並進運動する。モード1は、ステーアーム部21の曲げにより生じるため、ミラーステー11の支持剛性が支配的な振動モードである。
一方、図5(b)に示すように、モード2では、ミラー本体13の縦軸X周りの回転運動が生じる。さらに、図5(c)に示すように、モード3では、ミラー本体13の横軸Y周りの回転運動が生じる。モード2及び3は、ミラーハウジング12がジョイント機構14においてミラーステー11に回動可能に連結されていることに照らして、ジョイント機構14の支持剛性が支配的な振動モードである。
図6は、バックミラー10の振動応答の例を示すグラフである。横軸は振動数を示し、縦軸は振幅を示す。図中の点線は、従来構造によるバックミラーの振動数及び振幅を表す。ω1は、モード1の固有振動数、ω2′は、モード2の固有振動数、ω3′は、モード3の固有振動数である。なお、図中の実線は本実施の形態に係るバックミラー10の振動応答の例を示す(後述)。
従来構造では、モード1〜3の固有振動数ω1,ω2′,ω3′が、自動二輪車の走行中においてエンジンの通常回転数帯(振動数帯)に入っている。
モード1で振動した場合には、ミラーハウジング12が並進運動するため、ミラー本体13に写った像がぶれにくく視認性は悪化しにくい。一方、モード2もしくはモード3で振動した場合には、ミラーハウジング12に回転運動が生じ、ミラー本体13に写った像が大きくぶれるため視認性は悪化しやすい。このように、従来構造では、自動二輪車の走行中にモード2及び3の振動が表れてしまい、広い回転数帯で視認性が悪化する可能性がある。
次に、本実施の形態に係るバックミラー10の振動特性について説明する。この振動特性もバックミラー10の各寸法は、前述の従来構造と同様である。
本実施の形態に係るバックミラー10では、金属製のジョイント機構14とすることで支持剛性増加を実現できる。十分に支持剛性を増加させることができれば、図5に示した振動モードのうちモード2および3の出現を抑制でき、低振動化に寄与することができる。
また、本実施の形態に係るバックミラー10の振動応答は、図6の実線に示すように、質量の増加を最小限に抑えつつ支持剛性を増加させることで、モード2及び3の固有振動数を従来構造のω2′、ω3′からそれぞれω2、ω3と高くすることができる。これらの固有振動数を起振源の上限振動数から十分に離調できれば、ミラー振動は低減できる。仮に離調不十分で共振が不回避の場合においても、一般に支持剛性が増加すると振動が小さくなる傾向があるため、モード2及び3の振動低減効果が期待できる。
更に、本発明に係るバックミラー10では、ミラー10の先端の質量増加を最小限に抑えることが可能であるから、モード1のようなミラーステー11の支持剛性が支配的な振動モードの固有振動数に対する影響が小さい。したがって新たな共振が生じるリスクを低減しつつ、かつ、モード2および3の様なジョイント機構14の支持剛性が支配的な振動モードへの対策が実現できる。
本実施形態では、動吸振器を用いることなく振動低減を実現する。そのため、動吸振器に起因する振動悪化や、動吸振器の脱落による機能損失及びミラー損傷のリスクを伴うことなく振動低減が可能である。
本実施形態では、突出端部41を金属材で製作するにあたって、突出端部41はインサート成形されている。このため、金属材で製作された部分と、合成樹脂材で製作された部分との結合力を高めることができ、信頼性の高いジョイント機構14を提供することができる。
本実施形態では、ステー側ジョイント部31のうちハウジング側ジョイント部32に接触する部分(すなわち、ステー側ジョイント部31の先端部)が金属材で製作されている。これにより、凸状球面42と共に球面対偶を構成するステー側ジョイント部31の凹状球面38が金属表面となる。球面対偶において金属表面同士が接触するので、接触剛性が更に高まり、モード2及び3の固有振動数を離調させやすくなる。
ステー側ジョイント部31の先端部が合成樹脂材で製作されている場合であっても、ステー側ジョイント部31の先端部と突出端部41との間に金属製のリテーナを介在させれば、凸状球面42により構成される球面対偶において金属表面同士を接触させることができる。本実施形態のように、ステー側ジョイント部31の先端部が金属製であれば、リテーナを省略可能になるので、ジョイント機構14での部品点数の増加及び累積組付誤差の拡大を抑えることができる。これに伴って、球面対偶における寸法公差を小さく設定することも可能になり、ガタの小さいジョイント機構14を提供することができる。
本実施形態では、バネ要素53の弾発力により、凸状球面42が凹状球面38に押し付けられる。このため、微視的に見て凸状球面42及び凹状球面38に凹凸が生じていても、この押付けによって凹凸がならされる。これにより、凸状球面42及び凹状球面38の接触面積が増加し、これら球面42,38によって構成される球面対偶において接触剛性が高くなる。したがって、モード2及び3の固有振動数を離調させやすくなる。また、2つの球面が金属表面である場合は、少なくともいずれか一方の球面が樹脂表面である場合と比べ、バネ要素53の弾発力によるヘタレが球面に生じにくくなる。このため、ジョイント機構14を長寿命化しながら、ミラー姿勢維持及びミラー振動の低減効果を得ることができる。
そして、突出端部41の凹状球面46も金属表面となっている。このため、この凹状球面46が構成する球面対偶においても接触剛性が高まり、モード2及び3の固有振動数を離調させやすい。更に、凹状球面46と共に球面対偶を構成するスプリングリテーナ51の凸状球面54も金属表面となっており、当該球面対偶における接触剛性が更に高まる。
(他の実施形態)
図7は、第2実施形態に係るバックミラー210の断面図である。図8は、図7に示す先端部品261の斜視図である。第2実施形態は、先端部品261が第1実施形態の先端部品61(図4参照)と相違している。以下、第2実施形態に係るバックミラー210について、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
図8に示すように、先端部品261は、筒部262、突出端部241及び段差壁263を有し、これらは第1実施形態の筒部62、突出端部41及び段差壁63(図5参照)それぞれと同様に形成される。筒部262には、複数の貫通穴265が設けられている。
この先端部品261も金属材で製作され、突出端部241の外面及び内面は、ステー側ジョイント部31(図7参照)に回動可能に当接する凸状球面242、及び、スプリングリテーナ(図7及び図8では図示省略)に回動可能に当接する凹状球面246をそれぞれ成している。よって、第1実施形態と同様、これら球面242,246が構成する2つの球面対偶において接触剛性が高くなり、バックミラー210の振動を低減することができる。
図7に示すように、ハウジング側ジョイント部232の製作では、ミラーハウジング212を合成樹脂材でモールド成型するに際し、先端部品261が、ミラーハウジング212にインサートされる。筒部262は、ミラー保持部226と一体の合成樹脂製の筒部264に埋め込まれ、突出端部241が、当該筒部264から突出して露出する。
本実施形態では、先端部品261のうちミラーハウジング212に埋め込まれる部分である筒部262に、貫通穴265が設けられている。このため、合成樹脂材でモールド成型すると、合成樹脂材が貫通穴265内に流れ込んで固まる。すると、筒部262の内周側の樹脂材と外周側の樹脂材とが貫通穴265内の樹脂材を介して連続する。したがって、先端部品261のミラーハウジング212に対する結合力が向上する。
図9は、第3実施形態に係るバックミラー310の断面図である。図9に示すように、先端部品361は必ずしもミラーハウジング312にインサートされていなくてもよい。本実施形態に係るジョイント機構314のハウジング側ジョイント部332では先端部品361の筒部362の外周面が、ミラーハウジング312のミラー保持部326と一体に設けられた合成樹脂製の筒部364の内周面に、接着剤を用いて接着されている。本実施形態でも、先端部品361の突出端部341が、筒部364から突出している。ステー側ジョイント部(図9では図示省略)と当接する部分である突出端部341を金属材で製作し、その外面の凸状球面342及び内面の凹状球面346を金属表面とすることにより、第1実施形態と同様にしてバックミラー310の振動を低減することができる。
図10は、第4施形態に係るバックミラー410の断面図である。図10に示すように、本実施形態に係るジョイント機構414のハウジング側ジョイント部432では、先端部品461の筒部462が、ミラーハウジング412のミラー保持部426と一体に設けられた合成樹脂製の筒部463に内嵌され、リベットやボルトなどの固定具469を用いて筒部464に固定される。本実施形態でも、突出端部441を金属材で製作し、その外面の凸状球面442及び内面の凹状球面446を金属表面とすることにより、バックミラー410の振動を低減することができる。
図11は、第5実施形態に係るバックミラー510の断面図である。図11に示すように、先端部品そのものを省略することも可能である。本実施形態では、上記実施形態において突出端部に相当する部分541も、ミラーハウジング512のミラー保持部526及び筒部564と一体に設けられ、合成樹脂材で製作されている。この合成樹脂材で製作された突出端部541の外面が、金属被膜549で被覆されている。この金属被膜549の形成には、例えば鍍金、スパッタリング等のようにどのような処理が用いられてもよい。これにより、ハウジング側ジョイント部532のうち、ステー側ジョイント部(図11では図示省略)に実際に当接する凸状球面542が金属材で製作されることとなり、当該凸状球面542が金属表面となる。したがって、本実施形態でも、第1実施形態と同様にして、支持剛性向上に伴う振動低減効果を得ることができる。また、突出端部541を合成樹脂材で製作してその外面を金属被膜549で被覆する構成により、ハウジング側ジョイント部532を軽量化することができる。
これまで実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、ステー側ジョイント部及びスプリングリテーナは必ずしも金属材で製作されていなくてもよい。また、上記実施形態のように、突出端部の外面及び内面がどちらも別々の球面対偶を構成する場合、突出端部の外面及び内面のうち少なくとも一方が、金属表面であればよい。すなわち、第5実施形態における金属被膜は、突出端部の外面及び内面の両方に設けられてもよいし、突出端部の内面にのみ設けられていてもよい。
なお、各実施形態において、自動二輪車のバックミラーに適用した場合について説明したが、これに限られない。例えば、自動車や建設機械、気動車等の鉄道車両等の走行車両だけでなく、工作機械や生産機械、施設の構内等、起振源となり得る構造物に設置するミラーに適用可能である。