以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る中性点クランプ式インバータ10の構成を示す構成図である。なお、図面における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。他の実施形態も同様にして重複する説明を省略する。
中性点クランプ式インバータ10は、直流電圧を任意の周波数及び任意の電圧の三相交流電力に変換して三相交流負荷3U,3V,3Wを駆動するためのインバータである。
中性点クランプ式インバータ10は、n+1個のU相インバータ1U0〜1Unと、n+1個のV相インバータ1V0〜1Vnと、n+1個のW相インバータ1W0〜1Wnと、n+1個のU相直流電源2U0〜2Unと、n+1個のV相直流電源2V0〜2Vnと、n+1個のW相直流電源2W0〜2Wnとを備えている。ここで、nは1以上である。
全てのインバータ1U0〜1Un,1V0〜1Vn,1W0〜1Wnは、互いに絶縁されている。
以降では、主にU相の構成について説明し、V相及びW相はU相と同様に構成されているものとして、適宜説明を省略する。
n+1個のU相直流電源2U0〜2Unは、それぞれ直流電圧Vdu0〜Vdunをn+1個のU相インバータ1U0〜1Unに入力する。ここで、直流電圧Vdu0〜Vdunは、互いに異なる電圧でもよい。
n+1個のU相インバータ1U0〜1Unは、入力された直流電圧Vdu0〜Vdunをそれぞれ交流電圧Vu0〜Vunに変換(逆変換)する。n+1個のU相インバータ1U0〜1Unは、パルス幅変調により制御されるPWM(pulse width modulation)インバータである。
n+1個のU相インバータ1U0〜1Unは、1個の基本波用インバータ1U0とn個の従属インバータ1U1〜1Unとからなる。n個の従属インバータ1U1〜1Unは、出力する交流電圧Vu1〜Vunが基本波用インバータ1U0から出力される交流電圧Vu0に従属するように直列に接続されている。この構成により、n個の従属インバータ1U1〜1Unから出力された交流電圧Vu1〜Vunは、基本波用インバータ1U0から出力される交流電圧Vu0に重畳される。このように、n+1個の交流電圧Vu0〜Vunが加算された交流電圧がU相交流負荷3Uに供給されるU相電圧Vuになる。
同様にして、n+1個のV相インバータ1V0〜1Vn及びn+1個のW相インバータ1W0〜1Wnも、V相交流負荷3V及びW相交流負荷3WにそれぞれV相電圧Vv及びW相電圧Vwを供給する。
図2は、本実施形態に係るU相の基本波用インバータ1U0の回路を示す回路図である。V相及びW相の基本波用インバータ1V0,1W0は、U相の基本波用インバータ1U0と同様の構成である。
U相の基本波用インバータ1U0は、NPCハーフブリッジインバータである。NPCハーフブリッジインバータは、1つのレグ(正極と負極の間に直列接続されたスイッチング素子で構成される回路)を構成するインバータ回路を備える。U相の基本波用インバータ1U0は、2つのコンデンサCpu0,Cnu0と、4つのスイッチング素子Su01,Su02,Su03,Su04と、4つの還流ダイオードDu01,Du02,Du03,Du04と、2つのクランプダイオードDu05,Du06とを備えている。
4つのスイッチング素子Su01〜Su04は、直列に接続される。2つのコンデンサCpu0,Cnu0は、直列に接続される。直列に接続された2つのコンデンサCpu0,Cnu0は、直列に接続された4つのスイッチング素子Su01〜Su04に並列に接続される。4つの還流ダイオードDu01〜Du04は、4つのスイッチング素子Su01〜Su04にそれぞれ逆並列に接続される。
2つのクランプダイオードDu05,Du06は、2つのコンデンサCpu0,Cnu0で作られる中性点に接続される。具体的には、2つのクランプダイオードDu05,Du06は、直列に接続される。直列に接続された2つのクランプダイオードDu05,Du06は、4つのスイッチング素子Su01〜Su04のうち内側に位置する2つの直列に接続されたスイッチング素子Su02,Su03と逆並列になるように接続される。2つのクランプダイオードDu05,Du06の接続点は、2つのコンデンサCpu0,Cnu0の接続点と接続される。
直列に接続された2つのコンデンサCpu0,Cnu0の両端に直流電圧Vdu0が印加される。2つのコンデンサCpu0,Cnu0の接続点と内側に位置する2つのスイッチング素子Su02,Su03の接続点との間に、交流電圧Vu0が発生する。
図3は、本実施形態に係るU相の従属インバータ1Umの回路を示す回路図である。ここで、U相の従属インバータ1Umは、U相の従属インバータ1U1〜1Unのうち任意の1個を示している。mは、1〜nのうちいずれか1つの数字である。V相及びW相の従属インバータ1V1〜1Vn,1W1〜1Wnは、U相の従属インバータ1U1〜1Unと同様の構成である。
従属インバータ1Umは、NPCフルブリッジインバータである。NPCフルブリッジインバータは、2つのレグを構成するインバータ回路を備える。従属インバータ1Umは、2つのコンデンサCPum,CNumと、8つのスイッチング素子Sum1,Sum2,Sum3,Sum4,Sum5,Sum6,Sum7,Sum8と、8つの還流ダイオードDum1,Dum2,Dum3,Dum4,Dum5,Dum6,Dum7,Dum8と、4つのクランプダイオードDum9,Dum10,Dum11,Dum12とを備える。
2つのコンデンサCPum,CNum、4つのスイッチング素子Sum1〜Sum4、4つの還流ダイオードDum1〜Dum4、及び2つのクランプダイオードDum9,Dum10により構成される回路は、図2に示すNPCハーフブリッジインバータと同様に構成される。
4つのスイッチング素子Sum5〜Sum8、4つの還流ダイオードDum5〜Dum8、及び2つのクランプダイオードDum11,Dum12により構成される回路は、上述の4つのスイッチング素子Sum1〜Sum4、4つの還流ダイオードDum1〜Dum4、及び2つのクランプダイオードDum9,Dum10により構成される回路と同様に構成される。
直列に接続された4つのスイッチング素子Sum1〜Sum4と直列に接続された4つのスイッチング素子Sum5〜Sum8は、並列に接続される。2つのコンデンサCPum,CNumの接続点、2つのクランプダイオードDum9,Dum10の接続点、及び2つのクランプダイオードDum11,Dum12の接続点は、中性点として接続される。
直列に接続された2つのコンデンサCpum,Cnumの両端に直流電圧Vdumが印加される。4つのスイッチング素子Sum1〜Sum4のうち内側に位置する2つのスイッチング素子Sum2,Sum3の接続点と、4つのスイッチング素子Sum5〜Sum8のうち内側に位置する2つのスイッチング素子Sum6,Sum7の接続点との間に、交流電圧Vumが発生する。
次に、中性点クランプ式インバータ10の制御について説明する。ここでは、中性点クランプ式インバータ10は、相毎に、1個の基本波用インバータ1U0,1V0,1W0と3個の従属インバータ1U1〜1U3,1V1〜1V3,1W1〜1W3で構成されているものとする。即ち、nが3の場合の中性点クランプ式インバータ10について説明する。なお、nが3以外の場合についても、同様に制御するものとする。また、従属インバータ1U1〜1U3,1V1〜1V3,1W1〜1W3には、基本波用インバータ1U0,1V0,1W0に入力される直流電圧Vdcのk倍の直流電圧kVdcが入力されるものとする。
図4は、本実施形態に係る中性点クランプ式インバータ10のU相電圧Vuの構成を示す波形図である。ここでは、kは1.5である。なお、V相電圧Vv及びW相電圧Vwは、全体的に位相がシフトする以外は、U相電圧Vuと同様の波形となる。
U相電圧Vuは、U相を構成する各インバータ1U0〜1U3から出力される交流電圧Vu0〜Vu3が合成された電圧である。各インバータ1U0〜1U3から出力される交流電圧Vu0〜Vu3は、それぞれパルス波形で構成される。
基本波用インバータ1U0は、電圧幅(パルス幅)αで波高値Vdcのパルス波形(電圧Vu0)を出力する。基本波用インバータ1U0は、U相交流負荷3Uに交流電力を供給する。
3つの従属インバータ1U1〜1U3は、基本波用インバータ1U0から出力される交流電力に重畳される高調波成分を打ち消すための交流電力を出力する。従属インバータ1U1は、電圧幅β1で波高値kVdcのパルス波形(電圧Vu1)を出力する。従属インバータ1U2は、2種類の電圧幅β2,β3で波高値kVdcのパルス波形(電圧Vu2)を出力する。従属インバータ1U3は、2種類の電圧幅β2,β3で波高値kVdcのパルス波形(電圧Vu3)を出力する。
次に、3個の従属インバータ1U1〜1U3により、高調波を抑制する方法について説明する。
基本波用インバータ1U0は、出力する電圧Vu0の基本波電圧を、出力しようとするU相電圧Vuの基本波電圧に一致させる。
従属インバータ1U1〜1U3は、基本波用インバータ1U0から出力される電圧Vu0に応じて高調波を抑制するように、出力する電圧Vu1〜Vu3の電圧幅β1〜β3及び位相γ2,γ3を決定する。また、全ての従属インバータ1U1〜1U3から出力される電圧Vu1〜Vu3の基本波電圧の総和は、ゼロになるように決定される。これにより、従属インバータ1U1〜1U3から出力される電圧Vu1〜Vu3は、U相電圧Vuの基本波電圧に影響しない。
ここで、従属インバータ1U1〜1U3から出力させるパルス波形の求め方について説明する。
3個の従属インバータ1U1〜1U3は、3種類の電圧幅β1〜β3のパルス波形を出力する。また、2種類の電圧幅β2,β3のパルス波形は、電圧幅β1のパルス波形の位相を基準とする2つの位相シフト量γ2,γ3で位相が決定される。従って、3個の従属インバータ1U1〜1U3から出力される電圧Vu1〜Vu3を決定する自由度(即ち、パラメータ)は、3種類の電圧幅β1〜β3と2つの位相シフト量γ2,γ3の5つである。従って、これらの電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ2,γ3を適切に決定すれば、U相電圧Vuの基本波電圧に影響を与えずに、1次から5次までのキャリア周波数成分(高調波成分)を打ち消すことができる。
このような電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ2,γ3は、次式を用いて求める。
5次高調波までをキャンセルする場合、上式において、‘n’に1から5を代入した5つの連立方程式を解くことで、電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ2,γ3の関係を求める。図5は、‘k’を1.5としたときにおける基本波電圧幅αと電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ2,γ3との関係を示すグラフ図である。このようにして求められた関係は、テーブル化したデータにして、中性点クランプ式インバータ10に予め記憶させる。中性点クランプ式インバータ10は、このテーブル化したデータを参照して、1次から5次のキャリア周波数成分を打ち消す電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ2,γ3を決定する。
次に、U相の基本波用インバータ1U0について、図2に示すスイッチング素子Su01〜Su04を駆動するためのキャリア変調波を用いた制御について説明する。
図6は、基本波用インバータ1U0の出力電圧に対応するスイッチング素子Su01〜Su04の状態を示す関係図である。
基本波用インバータ1U0は、スイッチング素子Su01〜Su04のオン/オフによって、−VDC、0、+VDCの3レベルの電圧を出力する。基本波用インバータ1U0は、出力する電圧レベルに応じて、図6に示すようにスイッチング素子Su01〜Su04のオン/オフを決定する。
スイッチング素子Su01〜Su04の状態は、3レベルの電圧に応じて決定される3通りのパターンがある。スイッチング素子Su01〜Su04の状態には、次のような規則がある。
スイッチング素子Su01及びスイッチング素子Su03は、対になっている。スイッチング素子Su02及びスイッチング素子Su04は、対になっている。対になる2つのスイッチング素子は、互いに相補的に駆動する。例えば、スイッチング素子Su01がオンのとき、スイッチング素子Su03はオフになる。スイッチング素子Su02がオンのとき、スイッチング素子Su04はオフになる。
このように、対になるスイッチング素子が相補的に駆動するのは、中性点クランプ式インバータ10を構成する全てのインバータ1U0〜1Un,1V0〜1Vn,1W0〜1Wnのインバータ回路におけるレグにおいて共通の動作である。
図7は、基本波用インバータ1U0のスイッチング素子Su01*,Su03*の駆動信号の生成方法を示すグラフ図である。図7では、U相電圧指令値Vu*が正のときのスイッチング素子Su01,Su03の駆動信号Su01*,Su03*を示している。駆動信号Su01*,Su03*は、Highがオン指令を、Lowがオフ指令を表している。なお、U相電圧指令値Vu*が正のときは、スイッチング素子Su02の駆動信号は常時オン指令であり、スイッチング素子Su04の駆動信号は常時オフ指令である。
スイッチング周波数で2つのキャリア三角波Wc0H,Wc0Lが生成される。上段三角波Wc0Hは、振幅が0から1の三角波である。下段三角波Wc0Lは、振幅が0から−1の三角波である。
基本波用インバータ1U0の出力電圧Vu0に対する電圧指令値Vu0*が生成される。電圧指令値Vu0*は、基本波用インバータ1U0の出力電圧Vu0を決定する変調率を示している。
スイッチング素子Su01〜Su04の駆動信号は、電圧指令値Vu0*と2つのキャリア三角波Wc0H,Wc0Lを比較することで決定される。具体的には、次の通りである。
電圧指令値Vu0*が上段三角波Wc0Hより大きいときは、スイッチング素子Su01の駆動信号Su01*をオン指令にし、スイッチング素子Su03の駆動信号Su03*をオフ指令にする。電圧指令値Vu0*が上段三角波Wc0Hより小さいときは、スイッチング素子Su01の駆動信号Su01*をオフ指令にし、スイッチング素子Su03の駆動信号Su03*をオン指令にする。
一方、U相電圧指令値Vu*が負のときは、スイッチング素子Su02,Su04の駆動信号を、次のように決定する。
電圧指令値Vu0*が下段三角波Wc0Lより大きいときは、スイッチング素子Su02の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su04の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu0*が下段三角波Wc0Lより小さいときは、スイッチング素子Su02の駆動信号をオフ指令にし、スイッチング素子Su04の駆動信号をオン指令にする。
このようにスイッチング素子Su01〜Su04を駆動することで、基本波用インバータ1U0は、電圧Vu0を出力する。
次に、U相の従属インバータ1U1について、図3に示すスイッチング素子Su11〜Su18を駆動するためのキャリア変調波を用いた制御について説明する。
図8は、従属インバータ1U1〜1U3の出力電圧に対応するスイッチング素子Sum1〜Sum8の状態を示す関係図である。
従属インバータ1U1は、スイッチング素子Su11〜Su18のオン/オフによって3レベル−kVDC、0、+kVDCの電圧を出力する。従属インバータ1U1は、出力する電圧レベルに応じて、図8に示すようにスイッチング素子Su11〜Su18のオン/オフを決定する。従属インバータ1U1では、7通りのパターンのスイッチング素子Su11〜Su18のオン/オフ状態がある。
図9は、従属インバータ1U1のスイッチング素子Su11,Su13,Su15,Su17の駆動信号Su11*,Su13*,Su15*,Su17*の生成方法を示すグラフ図である。図9では、U相電圧指令値Vu*が正のときのスイッチング素子Su11〜Su17の駆動信号Su11*〜Su17*を示している。駆動信号Su11*〜Su17*は、Highがオン指令を、Lowがオフ指令を表している。なお、U相電圧指令値Vu*が正のときは、スイッチング素子Su12,Su16の駆動信号は常時オン指令であり、スイッチング素子Su14,Su18の駆動信号は常時オフ指令である。
スイッチング周波数で、図7に示す基本波用インバータ1U0の2つのキャリア三角波Wc0H,Wc0Lより位相がπ/2[rad]進んだ2つのキャリア三角波Wc1H,Wc1Lが生成される。上段三角波Wc1Hは、振幅が0から1の三角波である。下段三角波Wc1Lは、振幅が0から−1の三角波である。
従属インバータ1U1の出力電圧Vu1に対する2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*が生成される。2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*は、従属インバータ1U1の出力電圧Vu1を決定する変調率を示している。
U相電圧指令値Vu*が正のとき、2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*は、0.5を中心として、±Vβ1を加算した値である。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの頂点毎に、2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*は、0.5に加算される±Vβ1の極性が反転する。ここで、Vβ1は、電圧幅β1に相当する変調率(電圧指令値)である。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu1A*は、0.5−Vβ1であり、電圧指令値Vu1B*は、0.5+Vβ1である。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu1A*は、0.5+Vβ1であり、電圧指令値Vu1B*は、0.5−Vβ1である。
U相電圧指令値Vu*が負のとき、2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*は、−0.5を中心として、±Vβ1を加算した値である。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの頂点毎に、2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*は、−0.5に加算される±Vβ1の極性が反転する。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu1A*は、−0.5−Vβ1であり、電圧指令値Vu1B*は、−0.5+Vβ1である。キャリア三角波Wc1H,Wc1Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu1A*は、−0.5+Vβ1であり、電圧指令値Vu1B*は、−0.5−Vβ1である。
スイッチング素子Su11〜Su18の駆動信号は、2つの電圧指令値Vu1A*,Vu1B*と2つのキャリア三角波Wc1H,Wc1Lを比較することで決定される。具体的には、次の通りである。
電圧指令値Vu1A*が上段三角波Wc1Hより大きいときは、スイッチング素子Su11の駆動信号Su11*をオン指令にし、スイッチング素子Su13の駆動信号Su13*をオフ指令にする。電圧指令値Vu1B*が上段三角波Wc1Hより大きいときは、スイッチング素子Su15の駆動信号Su15*をオン指令にし、スイッチング素子Su17の駆動信号Su17*をオフ指令する。
一方、U相電圧指令値Vu*が負のときは、スイッチング素子Su12,Su14,Su16,Su18の駆動信号を、次のように決定する。
電圧指令値Vu1A*が下段三角波Wc1Lより大きいときは、スイッチング素子Su12の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su14の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu1B*が下段三角波Wc1Lより大きいときは、スイッチング素子Su16の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su18の駆動信号をオフ指令にする。
このようにスイッチング素子Su11〜Su18を駆動することで、従属インバータ1U1は、電圧幅β1のパルス波による電圧Vu1を出力する。
次に、U相の従属インバータ1U2について、図3に示すスイッチング素子Su21〜Su28を駆動するためのキャリア変調波を用いた制御について説明する。
従属インバータ1U2は、スイッチング素子Su21〜Su28のオン/オフによって3レベル−kVDC、0、+kVDCの電圧を出力する。従属インバータ1U2は、出力する電圧レベルに応じて、図8に示すようにスイッチング素子Su21〜Su28のオン/オフを決定する。従属インバータ1U2では、7通りのパターンのスイッチング素子Su21〜Su28のオン/オフ状態がある。
図10は、従属インバータ1U2のスイッチング素子Su21,Su24,Su25,Su28の駆動信号Su21*,Su24*,Su25*,Su28*の生成方法を示すグラフ図である。図10では、U相電圧指令値Vu*が正のときのスイッチング素子Su21〜Su28の駆動信号Su21*〜Su28*を示している。駆動信号Su21*〜Su28*は、Highがオン指令を、Lowがオフ指令を表している。
スイッチング周波数で、図7に示す基本波用インバータ1U0の2つのキャリア三角波Wc0H,Wc0Lより位相が5π/6[rad]進んだ2つのキャリア三角波Wc2H,Wc2Lが生成される。上段三角波Wc2Hは、振幅が0から1の三角波である。下段三角波Wc2Lは、振幅が0から−1の三角波である。
従属インバータ1U2の出力電圧Vu2に対する4つの電圧指令値Vu2A*,Vu2B*,Vu2C*,Vu2D*が生成される。4つの電圧指令値Vu2A*,Vu2B*,Vu2C*,Vu2D*は、従属インバータ1U2の出力電圧Vu2を決定する変調率を示している。
スイッチング素子Su21,Su23の駆動信号Su21*を決定する電圧指令値Vu2A*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu2A*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2A*は、5/6−Vγ2−Vβ2とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2A*は、0.5−Vγ3+Vβ3とする。ここで、Vβ2、Vβ3はそれぞれ電圧幅β2,β3に相当する変調率(電圧指令値)であり、Vγ2及びVγ3は、それぞれ位相シフト量γ2,γ3に相当する変調率(電圧指令値)である。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu2A*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2A*は、1/6−Vγ2−Vβ2とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2A*は、1/6−Vγ3+Vβ3とする。
スイッチング素子Su25,Su27の駆動信号Su25*を決定する電圧指令値Vu2B*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu2B*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2B*は、5/6−Vγ2+Vβ2とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2B*は、0.5−Vγ3−Vβ3とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu2B*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2B*は、1/6−Vγ2+Vβ2とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2B*は、1/6−Vγ3−Vβ3とする。
スイッチング素子Su22,Su24の駆動信号Su24*を決定する電圧指令値Vu2C*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu2C*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2C*は、−1/6−Vγ3−Vβ3とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2C*は、−1/6−Vγ2+Vβ2とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu2C*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2C*は、−0.5−Vγ3−Vβ3とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2C*は、−5/6−Vγ2+Vβ2とする。
スイッチング素子Su26,Su28の駆動信号Su28*を決定する電圧指令値Vu2D*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu2D*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2D*は、−1/6−Vγ3+Vβ3とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2C*は、−1/6−Vγ2−Vβ2とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu2D*を生成する。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2C*は、−0.5−Vγ3+Vβ3とする。キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2C*は、−5/6−Vγ2−Vβ2とする。
スイッチング素子Su21〜Su28の駆動信号Su21*〜Su28*は、4つの電圧指令値Vu2A*〜Vu2D*と2つのキャリア三角波Wc2H,Wc2Lを比較することで決定される。具体的には、次の通りである。
スイッチング素子Su21,Su23の駆動信号Su21*は、電圧指令値Vu2A*と上段三角波Wc2Hを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu2A*が上段三角波Wc2Hより大きいときは、スイッチング素子Su21の駆動信号Su21*をオン指令にし、スイッチング素子Su23の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu2A*が上段三角波Wc2Hより小さいときは、スイッチング素子Su21の駆動信号Su21*をオフ指令にし、スイッチング素子Su23の駆動信号をオン指令にする。
スイッチング素子Su25,Su27の駆動信号Su25*は、電圧指令値Vu2B*と上段三角波Wc2Hを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu2B*が上段三角波Wc2Hより大きいときは、スイッチング素子Su25の駆動信号Su25*をオン指令にし、スイッチング素子Su27の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu2B*が上段三角波Wc2Hより小さいときは、スイッチング素子Su25の駆動信号Su25*をオフ指令にし、スイッチング素子Su27の駆動信号をオン指令にする。
スイッチング素子Su22,Su24の駆動信号Su24*は、電圧指令値Vu2C*と下段三角波Wc2Lを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu2C*が下段三角波Wc2Hより大きいときは、スイッチング素子Su22の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su24の駆動信号Su24*をオフ指令にする。電圧指令値Vu2C*が下段三角波Wc2Lより小さいときは、スイッチング素子Su22の駆動信号をオフ指令にし、スイッチング素子Su24の駆動信号Su24*をオン指令にする。
スイッチング素子Su26,Su28の駆動信号Su28*は、電圧指令値Vu2D*と下段三角波Wc2Lを用いて次のように駆動する。電圧指令値Vu2D*が下段三角波Wc2Hより大きいときは、スイッチング素子Su26の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su28の駆動信号Su28*をオフ指令にする。電圧指令値Vu2D*が下段三角波Wc2Lより小さいときは、スイッチング素子Su26の駆動信号をオフ指令にし、スイッチング素子Su28の駆動信号Su28*をオン指令にする。
このようにスイッチング素子Su21〜Su28を駆動することで、従属インバータ1U2は、電圧幅β2のパルス波及び電圧幅β3のパルス波による電圧Vu2を出力する。
次に、U相の従属インバータ1U3について、図3に示すスイッチング素子Su31〜Su38を駆動するためのキャリア変調波を用いた制御について説明する。
従属インバータ1U3は、スイッチング素子Su31〜Su38のオン/オフによって3レベル−kVDC、0、+kVDCの電圧を出力する。従属インバータ1U3は、出力する電圧レベルに応じて、図8に示すようにスイッチング素子Su31〜Su38のオン/オフを決定する。従属インバータ1U3では、7通りのパターンのスイッチング素子Su31〜Su38のオン/オフ状態がある。
図11は、従属インバータ1U3のスイッチング素子Su31,Su34,Su35,Su38の駆動信号Su31*,Su34*,Su35*,Su38*の生成方法を示すグラフ図である。図11では、U相電圧指令値Vu*が正のときのスイッチング素子Su31〜Su38の駆動信号Su31*〜Su38*を示している。駆動信号Su31*〜Su38*は、Highがオン指令を、Lowがオフ指令を表している。
スイッチング周波数で、図7に示す基本波用インバータ1U0の2つのキャリア三角波Wc0H,Wc0Lより位相がπ/6[rad]進んだ2つのキャリア三角波Wc3H,Wc3Lが生成される。上段三角波Wc3Hは、振幅が0から1の三角波である。下段三角波Wc3Lは、振幅が0から−1の三角波である。
従属インバータ1U3の出力電圧Vu3に対する4つの電圧指令値Vu3A*,Vu3B*,Vu3C*,Vu3D*が生成される。4つの電圧指令値Vu3A*,Vu3B*,Vu3C*,Vu3D*は、従属インバータ1U3の出力電圧Vu3を決定する変調率を示している。
スイッチング素子Su31,Su33の駆動信号Su31*を決定する電圧指令値Vu3A*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu3A*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3A*は、1/6+Vγ3−Vβ3とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3A*は、1/6+Vγ2+Vβ2とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu3A*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3A*は、0.5+Vγ3−Vβ3とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3A*は、5/6+Vγ2+Vβ2とする。
スイッチング素子Su35,Su37の駆動信号Su35*を決定する電圧指令値Vu3B*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu3B*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3B*は、1/6+Vγ3+Vβ3とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3B*は、1/6+Vγ2−Vβ2とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu3B*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3B*は、0.5+Vγ3+Vβ3とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3B*は、5/6+Vγ2−Vβ2とする。
スイッチング素子Su32,Su34の駆動信号Su34*を決定する電圧指令値Vu3C*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu3C*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3C*は、−5/6+Vγ2−Vβ2とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3C*は、−0.5+Vγ3+Vβ3とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu3C*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3C*は、−1/6+Vγ2−Vβ2とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3C*は、−1/6+Vγ3+Vβ3とする。
スイッチング素子Su36,Su38の駆動信号Su38*を決定する電圧指令値Vu3D*の生成方法を説明する。
U相電圧指令値Vu*が正のときは、次のように電圧指令値Vu3D*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3D*は、−5/6+Vγ2+Vβ2とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3D*は、−0.5+Vγ3−Vβ3とする。
U相電圧指令値Vu*が負のときは、次のように電圧指令値Vu3D*を生成する。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu3D*は、−1/6+Vγ2+Vβ2とする。キャリア三角波Wc3H,Wc3Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu3D*は、−1/6+Vγ3−Vβ3とする。
スイッチング素子Su31〜Su38の駆動信号Su31*〜Su38*は、4つの電圧指令値Vu3A*〜Vu3D*と2つのキャリア三角波Wc3H,Wc3Lを比較することで決定される。具体的には、次の通りである。
スイッチング素子Su31,Su33の駆動信号Su31*は、電圧指令値Vu3A*と上段三角波Wc3Hを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu3A*が上段三角波Wc3Hより大きいときは、スイッチング素子Su31の駆動信号Su31*をオン指令にし、スイッチング素子Su33の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu3A*が上段三角波Wc3Hより小さいときは、スイッチング素子Su31の駆動信号Su31*をオフ指令にし、スイッチング素子Su33の駆動信号をオン指令にする。
スイッチング素子Su35,Su37の駆動信号Su35*は、電圧指令値Vu3B*と上段三角波Wc3Hを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu3B*が上段三角波Wc3Hより大きいときは、スイッチング素子Su35の駆動信号Su35*をオン指令にし、スイッチング素子Su37の駆動信号をオフ指令にする。電圧指令値Vu3B*が上段三角波Wc3Hより小さいときは、スイッチング素子Su35の駆動信号Su35*をオフ指令にし、スイッチング素子Su37の駆動信号をオン指令にする。
スイッチング素子Su32,Su34の駆動信号Su34*は、電圧指令値Vu3C*と下段三角波Wc3Lを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu3C*が下段三角波Wc3Lより大きいときは、スイッチング素子Su32の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su34の駆動信号Su34*をオフ指令にする。電圧指令値Vu3C*が下段三角波Wc3Lより小さいときは、スイッチング素子Su32の駆動信号をオフ指令にし、スイッチング素子Su34の駆動信号Su34*をオン指令にする。
スイッチング素子Su36,Su38の駆動信号Su38*は、電圧指令値Vu3D*と下段三角波Wc3Lを用いて次のように決定する。電圧指令値Vu3D*が下段三角波Wc3Lより大きいときは、スイッチング素子Su36の駆動信号をオン指令にし、スイッチング素子Su38の駆動信号Su38*をオフ指令にする。電圧指令値Vu3D*が下段三角波Wc3Lより小さいときは、スイッチング素子Su36の駆動信号をオフ指令にし、スイッチング素子Su38の駆動信号Su38*をオン指令にする。
このようにスイッチング素子Su31〜Su38を駆動することで、従属インバータ1U3は、電圧幅β2のパルス波及び電圧幅β3のパルス波による電圧Vu3を出力する。
次に、2個の従属インバータ1U2,1U3が、それぞれ2種類の異なる電圧幅β2,β3の電圧(パルス波)を出力する理由について述べる。
1次から5次までのキャリア周波数成分の抑制を行うとき、電圧幅αが0から2π[rad]に変わるにつれて、電圧幅β2のシフト量γ2は、キャリア位相で0〜2π/3[rad]、β3のシフト量γ3は、キャリア位相で0〜π/3[rad]に変化する。これは、変調率(電圧指令値)に換算すると、Vγ2は0〜2/3、Vγ3は0〜1/3に相当する。
例えば、インバータ1U2が負極性の電圧幅β2をキャリア1周期で2回出力するときを考える。このとき、4つの電圧指令値Vu2A*〜Vu2D*のうちスイッチング素子Su21〜Su24の駆動に関わる2つの電圧指令値Vu2A*,Vu2C*に注目する。
2つのキャリア三角波Wc2H,Wc2Lにおいて、電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2A*は5/6となる。よって、位相をシフト量γ2進ませた負極性の電圧幅β2を出力する場合、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2A*は、5/6〜1/6(=5/6−2/3)に変化することになる。
これに対し、電圧指令値Vu2C*で位相をシフト量γ2遅らせた負極性の電圧幅β2を出力しようとすると、電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2C*が−1/6となる。よって、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2C*は、−1/6〜1/2(=−1/6+2/3)に変化することになる。このとき、電圧指令値Vu2C*はキャリア三角波Wc2Lの最大値0を超えてしまうので、設定不能となる。
ここでは、従属インバータ1U2のキャリア三角波Wc2H,Wc2Lの位相が、基本波用インバータ1U0のキャリア三角波Wc0H,Wc0Lに比べて5π/6[rad]進んでいるときを例としたが、この位相をどのように設定しても同じ問題が生じる。なぜならば、Vγ2を0から2/3まで変化させ、かつ電圧幅β2をキャリア1周期で2回出力する場合、キャリア上下段合計で2π/3×2=4π/3[rad]の位相変化が必要となり、キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが一定である位相幅π[rad]を超えるからである。
このような理由により、従属インバータ1U2,1U3は、それぞれ2種類の異なる電圧幅β2,β3の電圧を出力する。このようにすることで、位相のシフト方向を2種類の電圧幅β2,β3で一致させることができるため、キャリア上下段合計の位相シフト量がπ[rad]を超えることはない。
さらに、従属インバータ1U2,1U3がそれぞれ2種類の異なる電圧幅β2,β3の電圧を出力することは、NPCインバータにおける電圧不定状態を回避する利点もある。
従属インバータ1U2の図3に示すスイッチング素子Su21,Su22,Su23,Su24に注目すると、スイッチング素子Su21とスイッチング素子Su24(外側素子)が同時にオンし、スイッチング素子Su22とスイッチング素子Su23(内側素子)が同時にオフするような状態は電圧が不定となるため、NPCインバータでは通常禁止されている。このため、従属インバータ1U2の上段電圧指令値と下段電圧指令値の絶対値の合計を1以下にしなければならない。
次に、従属インバータ1U2の電圧指令値を設定する方法について、U相電圧指令値Vu*が正のときの例を挙げる。なお、U相電圧指令値Vu*が負のときも同様であり、さらに、従属インバータ1U3についても同様である。
4つの電圧指令値Vu2A*〜Vu2D*のうちスイッチング素子Su21〜Su24の駆動に関わるVu2A*,Vu2C*に注目する。
キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが負のとき、電圧指令値Vu2A*は位相を位相シフト量γ2進ませた電圧幅β2を出力し、電圧指令値Vu2C*は位相を位相シフト量γ3進ませた電圧幅β3を出力する。また、上述したように、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、位相シフト量γ2に相当する変調率を示すVγ2は、0から2/3に変化し、位相シフト量γ3に相当する変調率を示すVγ3は、0から1/3に変化する。
以上の条件下で、電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2A*は、5/6となる。よって、位相をγ2進ませた電圧幅β2を出力する場合、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2A*は、5/6から1/6(=5/6−2/3)に変化することになる。これに対し、電圧幅αが0のときの電圧指令値Vu2C*は、−1/6となる。よって、位相をγ3進ませた電圧幅β3を出力する場合、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2C*は、−1/6〜−1/2(=−1/6−1/3)に変化する。
電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2A*と電圧指令値Vu2C*の絶対値の合計は、5/6+|−1/6|=1であり、電圧幅α=2πのときは、1/6+|−1/2|=2/3となり、常に1以下となる。
キャリア三角波Wc2H,Wc2Lの傾きが正のとき、電圧指令値Vu2A*は位相をγ3進ませた負の電圧幅β3を出力し、電圧指令値Vu2C*は位相をγ2進ませた負の電圧幅β2を出力するとする。
以上の条件下で、電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2A*は、0.5となる。よって、位相を位相シフト量γ3進ませた電圧幅β3を出力する場合、電圧幅αが0から2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2A*は、0.5〜1/6(=0.5−1/3)に変化することになる。これに対し、電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2C*は−1/6となる。よって、位相を位相シフト量γ2進ませた電圧幅β2を出力する場合、電圧幅αが0〜2π[rad]に変化するにつれて、電圧指令値Vu2C*は、−1/6〜−5/6(=−1/6−2/3)に変化する。
電圧幅α=0のときの電圧指令値Vu2A*と電圧指令値Vu2C*の絶対値の合計は0.5+|−1/6|=2/3であり、電圧幅α=2πのときは、1/6+|−5/6|=1となり、常に1以下となる。
従って、本実施形態のように電圧指令値Vu2A*〜Vu2D*を設定すれば、2つの外側素子Su21,Su24が同時オンし、かつ2つの内側素子Su22,Su23が同時オフする状態は発生しない。
本実施形態によれば、中性点クランプ式インバータ10を、基本波用インバータ1U0,1V0,1W0に、従属インバータ1U1〜1Un,1V1〜1Vn,1W1〜1Wnを組み合わせて構成することにより、低いスイッチング周波数でも高調波を抑制した電圧を出力することができる。
基本波用インバータ1U0のみでは、例えばキャリア周波数が1[kHz]の場合、出力電圧に含まれる高調波成分は1[kHz]以上となる。本実施形態では、従属インバータ1U1〜1U3が基本波用インバータ1U0の1次から5次までのキャリア高調波、つまり、1〜5[kHz]を消去している。従って、中性点クランプ式インバータ10から出力される電圧の基本波に重畳される高調波は、最低次数が6次であり、周波数は6[kHz]である。
PWMインバータの出力電圧に含まれる高調波は、高周波になるほど電圧振幅が小さくなる傾向にある。従って、高調波の最低次数が高くなることは、すなわち高調波成分が低減することと同意である。
また、中性点クランプ式インバータ10を構成する従属インバータ1U2〜1Un,1V2〜1Vn,1W2〜1Wnは、それぞれ2種類の異なる電圧幅β2,β3の電圧を出力する。これにより、従属インバータ1U2〜1Un,1V2〜1Vn,1W2〜1Wnは、NPCインバータの電圧不定状態を回避することができる。なお、従属インバータ1U1,1V1,1W1も、2種類の異なる電圧幅β2,β3の電圧を出力させる制御をすることで、NPCインバータの電圧不定状態を回避することができる。
なお、実施形態において、中性点クランプ式インバータ10を制御する制御部を図示していないが、何処に設けてもよい。例えば、制御部は、各インバータ1U0〜1Un,1V0〜1Vn,1W0〜1Wnに設けられていてもよいし、これらのインバータから独立した制御装置として設けられていてもよいし、これらの両方に設けられていてもよい。実施形態で説明した各種制御は、この制御部で主に行われる。また、このような制御部は、演算処理部及び記憶部などを備えたコンピュータにより実現される。
また、実施形態では、従属インバータ1U1がキャリア変調波1周期あたり1パルスの電圧、2つの従属インバータ1U2,1U3それぞれが2パルスの電圧を出力し、合計5パルスの電圧で1〜5次までのキャリア高調波の抑制を行う例を示した。しかし、従属インバータ1U1もキャリア変調波1周期あたり2パルスの電圧を出力すれば、合計6パルスの電圧で1次から6次までのキャリア高調波の抑制を行え、さらに高調波を低減できる。このときのパルスの電圧幅β1〜β3及び位相シフト量γ1,γ2,γ3とすると、これらの値は次式を用いて求められる。
しかし、出力するパルス電圧の数に応じてスイッチング素子のスイッチング回数が増え、スイッチング損失が増大する。よって、許容できるスイッチング損失と高調波のバランスを考慮し、消去するキャリア高調波の次数を決定すればよい。
さらに、U相インバータ1U0〜1Unの出力側には、変圧器を設けてもよい。変圧器は、1個のU相インバータ1U0〜1Unに設けてもよいし、複数のU相インバータ1U0〜1Unに設けてもよい。
また、実施形態では、中性点クランプ式インバータ10は、三相交流を出力する構成として説明したが、三相の構成のうち二相分の構成を取り除いて、単相交流を出力する構成としてもよい。
さらに、少なくとも1つの従属インバータ1U1〜1UnのNPCハーフブリッジユニットは、キャリア変調波の傾きが正のときに正負どちらか一方向のパルスを2連続で出力し、キャリア変調波の傾きが負のときに、キャリア変調波の傾きが正のときに出力したパルスと極性が異なる一方向のパルスを2連続で出力するようにしてもよい。これにより、従属インバータ1U1〜1Unは、電圧不安定状態を解消することができる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。