JP6101442B2 - 組換えヒトm−カルパインの調製方法 - Google Patents
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(1)ヒトm-カルパインの活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子と、ヒトm-カルパインの制御サブユニットタンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、組換えヒトm-カルパインの調製方法。
上記(1)の方法において、宿主細胞は、例えば大腸菌が挙げられる。
上記(1)の方法において、前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、例えば、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものが挙げられる。
上記(1)の方法において、形質転換宿主細胞は、例えば、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものが挙げられる。
上記(2)の細胞において、前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、例えば、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものが挙げられる。
上記(2)の細胞は、例えば、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものが挙げられる。
上記(2)の細胞は、例えば、組換えヒトm-カルパインの調製に用いられることができる。
1.本発明の概要
カルパインは、ほとんどの生物に広く存在するカルシウム依存性細胞内システインプロテアーゼであり、基質タンパク質を限定分解することで様々な細胞機能の制御に関わる。m-カルパインは15種類のヒトカルパイン中の代表的分子種であり、μ-カルパインと共に最も研究が進められている。活性サブユニット(CAPN2)と制御サブユニット(CAPNS1)とからなるヘテロ二量体として組織普遍的に発現し、個体発生から細胞周期、細胞死、細胞接着・融合など多くの生命現象に関わるだけでなく、その活性制御不全が筋ジストロフィー、神経変性疾患など様々な病態の要因となる。そのため、特異的阻害剤の設計・検索や構造解析などの様々な用途に、カルパイン(特にヒトカルパイン)の大規模かつ簡便な調製法の確立は不可欠である。これまで、組換えカルパインの様々な発現・精製法が報告されたが、最も簡便かつ効率的な大腸菌発現系では、天然のカルパインと同一の構造を持つものとしては、ラットm-カルパインを除き成功例がなかった。本発明者は、ヒトm-カルパインについて、既報の昆虫細胞発現系を用いた調製法よりも効率的かつ簡便な調製法(発現及び精製法)を確立することに初めて成功した。
2.組換えヒトm-カルパインの調製方法
本発明の組換えヒトm-カルパインの調製方法は、前述のとおり、ヒトm-カルパインの活性サブユニット(CAPN2)タンパク質をコードする遺伝子(以下、CAPN2遺伝子)と、ヒトm-カルパインの制御サブユニット(CAPNS1)タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニット(CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2)タンパク質をコードする遺伝子(以下、CAPNS1ΔG1遺伝子又はCAPNS1ΔG2遺伝子)とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、調製方法である。
本発明において、ヒトm-カルパインの活性サブユニット(CAPN2)タンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列(700アミノ酸残基)からなるタンパク質である(図1参照)。当該アミノ酸配列の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NP 001739」として公表されている。
CAPN2タンパク質の変異体は、(i) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質、および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつCAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2(これらの詳細は後述する説明を参照)との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質などが挙げられる。なお、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下、とする代わりに、CAPNS1との共存下としてもよい(以下同様)。
上記タンパク質分解活性は、公知の方法で測定することができ、例えば、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2と共発現・精製し、カゼインとカルシウムを用いたカゼインアッセイ法(Ross and Schatz(1973)Anal. Biochem. 54: 304)によって測定できる。
上記改変制御サブユニットタンパク質のうち、グリシンリピートの一方が欠失したタンパク質(CAPNS1ΔG1)とは、CAPNS1タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートのみが欠失したものであり、詳しくは、配列番号4で示されるアミノ酸配列において第1番目〜第25番目のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列(配列番号6)からなるタンパク質である。
上記改変制御サブユニットタンパク質としては、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質のいずれを選択してもよく、得られる効果についても実質的な差は無いが、天然型のCAPNS1タンパク質の全長アミノ酸配列により近い点で、CAPNS1ΔG1タンパク質が好ましい。
本発明では、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質の変異体も、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質に含まれる。
当該活性は、公知の方法で測定することができ、例えば、CAPN2と共発現・精製し、カゼインとカルシウムを用いたカゼインアッセイ法(Ross and Schatz(1973)Anal. Biochem. 54: 304)によって測定できる。
本発明において、CAPN2遺伝子は、例えば、配列番号1で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、ヒトゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
また、本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号1で示される塩基配列又は配列番号5若しくは7で示される塩基配列と、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに一層好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
本発明において、目的タンパク質であるヒトm-カルパインの調製は、CAPN2遺伝子と改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)とが共に発現可能に導入された形質転換宿主細胞(形質転換体)を得、これを培養する工程と、得られる培養物から目的のタンパク質を採取する工程とを含む方法により実施することができる。
プラスミドを用いる場合は、CAPN2遺伝子と、改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)とが、一つのプラスミドに含まれてもよいし、それぞれ別のプラスミドに含まれてもよい。本発明はこれら遺伝子を含有するプラスミドを含む。
本発明で使用されるプラスミドは、その基本となるベクターの由来には特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを使用することができ、各種市販のベクターを使用することができる。
選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ロイシン合成酵素遺伝子、ウラシル合成酵素遺伝子などを挙げることができる。
宿主細胞に上記プラスミドを導入する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法などの公知の方法が挙げられる。これらの方法により、本発明の形質転換宿主細胞が提供される。
本発明の形質転換宿主細胞は、用いた宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って培養することができる。培養条件は、以下に特記する以外、目的タンパク質の生産性及び形質転換宿主細胞の生育が妨げられない条件であればよく、限定はされない。
培養に用いる培地としては、宿主細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、公知の各種天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。例えば、LB培地、SD培地、SCX培地、YPD培地、YPX培地などの公知の培地から適当な培地を選択し、好ましい培養条件の下で培養することができる。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養などが挙げられるが、液体培地で大腸菌や酵母の形質転換体を培養する場合は、振盪培養が好ましい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じて、好適なインデューサー(例えば、IPTG等)を培地に添加してもよい。
形質転換宿主細胞の培養は、本培養の前に前培養を行ってもよい。前培養は、例えば、本発明の形質転換宿主細胞を少量の培地に接種し、12〜24時間培養すればよい。本培養の培養量の0.1〜10%、好ましくは1%の前培養液を、本培養の培地に加え、本培養を開始する。本培養は、0.5〜200時間、好ましくは1〜150時間、より好ましくは3〜120時間行ってもよい。
培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより目的タンパク質を採取することができる。菌体又は細胞の破砕方法としては、フレンチプレス又はホモジナイザーによる高圧処理、超音波処理、ガラスビーズ等による磨砕処理、リゾチーム、セルラーゼ又はペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等を利用することができる。破砕後、必要に応じて菌体又は細胞の破砕残渣(細胞抽出液不溶性画分を含む)を除くことができる。残渣を除去する方法としては、例えば、遠心分離やろ過などが挙げられ、必要に応じて、凝集剤やろ過助剤等を使用して残渣除去効率を上げることもできる。残渣を除去した後に得られた上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、粗精製したタンパク質溶液とすることができる。また、目的のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合は、菌体や細胞そのものを遠心分離、膜分離等で回収して、未破砕のまま使用することも可能である。
形質転換宿主細胞を培養して得られた目的タンパク質の生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)等により確認することができる。
本発明により得られた組換えヒトm-カルパインは、例えば、カルパインを標的としたヒト疾患の治療、緩和及び予防を行うための、特異的阻害剤の設計及びスクリーニング等の研究に用いることができるが、前述のとおり安定性(長期安定性)に優れたものであるため、上記設計や研究等に用いる場合、より実用的なものである。
1.発現コンストラクトの構築
m-カルパインは、活性サブユニット(CAPN2)と制御サブユニット(CAPNS1)からなるヘテロ二量体として存在している。CAPN2は、N末端のα-へリックス領域(N)に続き、プロテアーゼ領域(CysPc)、C2様領域(C2L)、5つのEFハンドモチーフを含む領域(PEF)で構成され、CAPNS1は、構造上フレキシブルでグリシンに富む領域(GR)とPEF領域で構成される(図1)。両サブユニットは、それぞれのPEF領域のC末端EFハンドモチーフの相互作用によって二量体を形成し、CAPNS1はCAPN2のシャペロンとして機能する。m-カルパインは、Ca2+非存在下でCysPc領域が2つのサブ領域(PC1及びPC2)に分割され活性中心を形成しないことで不活性状態にあるが、Ca2+がPC1、PC2、C2L、PEF各領域に結合することで構造変化を起こし、活性化状態になる。
上記の発現コンストラクトを用い、まず小スケールで発現条件検討を行った。CAPN2/pETとCAPNS1/pACpETを大腸菌BL21(DE3)株に導入して形質転換し、終濃度0.2 mM イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)により発現誘導したところ、培養温度(22℃、30℃)に関わらずCAPNS1の発現量が非常に低く、CAPN2は大部分が不溶性であった(図2A、図2B)。次に、CAPN2/pETとCAPNS1ΔG1/pACpETの組み合わせ、及びCAPN2/pETとCAPNS1ΔG2/pACpETの組み合わせで、同様に大腸菌BL21(DE3)株に導入して形質転換し、各培養温度(22℃、30℃)条件下でIPTGにより発現誘導したところ、どちらの組み合わせの場合も22℃の低温培養条件において、CAPNS1の発現量(具体的にはCAPNS1ΔG1やCAPNS1ΔG2の発現量)とCAPN2の可溶性とが同程度改善した(図2A、図2B)。これらの結果から、天然型(CAPNS1全長)により近いCAPNS1ΔG1をCAPN2の発現パートナーとすることにより、以下の通り、組換えヒトm-カルパインを効率的かつ簡便に、しかも大量に、発現及び精製できる方法を確立した。
<結果及び考察>
1.ヒトm-カルパインの発現と精製
CAPN2/pETとCAPNS1ΔG1/pACpETを導入した後にグリセロール凍結保存したBL21(DE3)形質転換株を、100μg/mLアンピシリンと50μg/mLカナマイシンを含むLB培地(LB/Amp/Kn)30 mLに植菌し、27℃で一晩振とう前培養した。翌日、1 LのLB/Amp/Knに対しA600が約0.1となるように前培養液を加え、27℃でA600が0.8〜1.0になるまで振とう培養した(約3時間)。その後、培養液を氷上又は冷蔵庫で十分冷却した後、終濃度0.2 mMとなるようにIPTGを添加し、22℃で6時間振とうしてタンパク質を発現誘導した。
得られた精製標品の一部をゲルろ過(HiLoad 16/10 Superdex 200)クロマトグラフィーで解析したところ1カ所の溶出ピークが得られ、算出した分配係数(Kav)により推定された分子量は理論値とよく一致した(図4)。また、カゼイン・ザイモグラフィ(カゼインを含ませたゲルで電気泳動してプロテアーゼ活性の均一性を検証する方法)により、精製標品と同一の大きさを持つ均一な画分であることが検証された(図2D)。以上のことから、CAPN2とCAPNS1ΔG1がヘテロ二量体として精製されたことが確認された。本実施例で確立した発現・精製系により1 Lの大腸菌培養液から5.8 mgのヒトm-カルパインが精製された。収率は約51%であり、昆虫細胞発現系よりも高かった(表1参照)。
Claims (4)
- ヒトm-カルパインの活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子と、ヒトm-カルパインの制御サブユニットタンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、18℃以上、25℃未満の低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、組換えヒトm-カルパインの調製方法であって、該宿主細胞が大腸菌である、前記方法。
- 形質転換宿主細胞の前培養を、18〜27℃で行う、請求項1記載の方法。
- 前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものである、請求項1又は2記載の方法。
- 形質転換宿主細胞は、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
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