JP6101442B2 - 組換えヒトm−カルパインの調製方法 - Google Patents

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本発明は、組換えヒトm-カルパインの調製方法に関する。
カルパインは、ヒトから酵母まで普遍的に存在し、一部のバクテリアにも存在するCa2+依存性の細胞内調節的タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)である(非特許文献1、2参照)。カルパインの切断様式は、他の多くのプロテアーゼとは異なり、基質タンパク質を限定的に分解(切断)することで様々な細胞機能を制御する。ヒトは15種類のカルパインを有し、m-カルパインは、μ-カルパインと共に組織普遍的に最も多量に発現している分子種で、カルパイン研究は、主にこれらに焦点が当てられている。m-カルパインは、活性サブユニット(CAPN2)と制御サブユニット(CAPNS1)からなるヘテロ二量体として存在しており、個体発生、細胞周期、細胞死、細胞接着・融合など多くの生命現象に関わる。一方で、カルパインの活性制御不全(主に過剰な活性化)が筋ジストロフィー、神経変性疾患、白内障などの病態の悪化要因になることが知られている(非特許文献3参照)。
そのため、これらの病態の進行防止の目的で、カルパインの特異的阻害剤の設計・スクリーニングや構造解析などが活発に研究されており、これらを含めた様々な用途に、カルパイン(特にヒト疾患の研究にはヒトのカルパイン)を大量に簡便に調製する方法の確立が不可欠となっている。カルパインの組換えタンパク質については、様々な発現・精製法が確立され報告されてきたが、一般的に最も簡便かつ効率的な大腸菌発現系を用いた場合で、天然のカルパインと同一の構造を持つものは、これまでにラットm-カルパイン(非特許文献4参照)を除き成功例が報告されていなかった。
Sorimachi, H. et al., (2011) Calpain chronicle--an enzyme family under multidisciplinary characterization., Proc. Jpn. Acad. Ser. B Phys. Biol. Sci., vol. 87, p. 287-327 Sorimachi, H. et al., (2011) Impact of genetic insights into calpain biology., J. Biochem., vol. 150, p. 23-37 反町洋之 他, (2011) カルパインの組織機能論. 実験医学. vol. 29, p. 1882-1890 Graham-Siegenthaler, K. et al., (1994) Active recombinant rat calpain II. Bacterially produced large and small subunits associate both in vivo and in vitro., J. Biol. Chem., vol. 269, p. 30457-30460
このような状況下において、組換えヒトm-カルパインの効率的かつ簡便な調製方法(発現及び精製方法)、特に、大腸菌発現系を用いた組換えヒトm-カルパインの調製方法の開発が望まれていた。
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、組換えヒトm-カルパインの調製方法等を提供するものである。
(1)ヒトm-カルパインの活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子と、ヒトm-カルパインの制御サブユニットタンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、組換えヒトm-カルパインの調製方法。
上記(1)の方法においては、例えば、前記形質転換宿主細胞を、18℃以上、25℃未満の低温条件下で培養することができる。
上記(1)の方法において、宿主細胞は、例えば大腸菌が挙げられる。
上記(1)の方法において、前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、例えば、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものが挙げられる。
上記(1)の方法において、形質転換宿主細胞は、例えば、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものが挙げられる。
(2)ヒトm-カルパインの活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子と、ヒトm-カルパインの制御サブユニットタンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニットをコードする遺伝子とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された、形質転換宿主細胞。
上記(2)の細胞において、宿主細胞は、例えば大腸菌が挙げられる。
上記(2)の細胞において、前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、例えば、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものが挙げられる。
上記(2)の細胞は、例えば、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものが挙げられる。
上記(2)の細胞は、例えば、組換えヒトm-カルパインの調製に用いられることができる。
本発明によれば、既報の昆虫細胞/バキュロウイルス発現系を用いた場合に比べ、より効率的かつ簡便な、組換えヒトm-カルパインの調製方法等を提供することができる。
ヒトm-カルパインを構成するCAPN2及びCAPNS1、並びに本実施例で用いたN-末端欠失型のCAPNS1(すなわちCAPNS1ΔG1)の構造を示す模式図である。 本実施例におけるヒトm-カルパイン及び組換えヒトm-カルパインの調製(発現及び精製)の結果を示す図である。 A) 30℃で培養した場合の電気泳動像。 B) 22℃で培養した場合の電気泳動像。 C) 22℃の培養条件で調製したカルパインの電気泳動像。 D) 精製標品の均一性を、カゼイン・ザイモグラフィを用いて検証した結果を示す電気泳動像。 なお、A)〜C)において、M: 分子量マーカー、T: 全溶解画分、S: 上清画分、P: 沈殿画分、DE: DEAE-Toyopearl溶出画分、His: HisTrap溶出画分、MQ: MonoQ溶出画分であり、D)において、レーン1: MonoQ溶出画分1μg、レーン2: 昆虫細胞(Sf-9)で発現・精製したm-カルパイン1μg、レーン3: サル培養細胞(COS7、トランスフェクション無し)の全溶解画分25μgである。
本実施例における組換えヒトm-カルパインの調製(発現及び精製)の結果を示す図(18℃、25℃、27℃で培養した場合の電気泳動像)である。 なお、図中、T: 全溶解画分、S: 上清画分、P: 沈殿画分である。 精製ヒトm-カルパインのゲル濾過解析を行った結果を示す図である。 左図の実線は、精製標品の一部(0.7μg分)を、150mM NaClを含むTEDで平衡化したゲル濾過カラム(HiLoad 16/10 Superdex 200)で解析した時の溶出パターンを示す。矢印は、マーカータンパク質であるCatalase、BSA、ovalbuminを同様に解析した時の溶出位置を示す。 右図は、各マーカータンパク質の分子量と分配係数(Kav)との相関をプロットし、近似直線を算出したグラフである。この近似直線から、精製標品の分子量は110,000と推定され、理論値(107,705)とほぼ一致した。
精製ヒトm-カルパインのカルシウム要求性を測定した結果を示す図である。 0, 10-7, 10-6, 10-5, 10-4.5, 10-4, 10-3.5, 10-3, 10-2.5, 10-2 Mの各濃度のCaCl2存在下、30℃保温条件にて、精製標品のカゼイン分解活性を測定した。測定結果は、10-2.5 MのCaCl2存在下における活性を100%としたときの相対活性として算出した。その結果、最大活性の50%に必要なカルシウム(Ca2+)濃度は約0.5 mMであり、組換えラットm-カルパイン及び天然ヒトm-カルパインに対してこれまでに報告された値とほぼ一致していた。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

1.本発明の概要
カルパインは、ほとんどの生物に広く存在するカルシウム依存性細胞内システインプロテアーゼであり、基質タンパク質を限定分解することで様々な細胞機能の制御に関わる。m-カルパインは15種類のヒトカルパイン中の代表的分子種であり、μ-カルパインと共に最も研究が進められている。活性サブユニット(CAPN2)と制御サブユニット(CAPNS1)とからなるヘテロ二量体として組織普遍的に発現し、個体発生から細胞周期、細胞死、細胞接着・融合など多くの生命現象に関わるだけでなく、その活性制御不全が筋ジストロフィー、神経変性疾患など様々な病態の要因となる。そのため、特異的阻害剤の設計・検索や構造解析などの様々な用途に、カルパイン(特にヒトカルパイン)の大規模かつ簡便な調製法の確立は不可欠である。これまで、組換えカルパインの様々な発現・精製法が報告されたが、最も簡便かつ効率的な大腸菌発現系では、天然のカルパインと同一の構造を持つものとしては、ラットm-カルパインを除き成功例がなかった。本発明者は、ヒトm-カルパインについて、既報の昆虫細胞発現系を用いた調製法よりも効率的かつ簡便な調製法(発現及び精製法)を確立することに初めて成功した。

2.組換えヒトm-カルパインの調製方法
本発明の組換えヒトm-カルパインの調製方法は、前述のとおり、ヒトm-カルパインの活性サブユニット(CAPN2)タンパク質をコードする遺伝子(以下、CAPN2遺伝子)と、ヒトm-カルパインの制御サブユニット(CAPNS1)タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニット(CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2)タンパク質をコードする遺伝子(以下、CAPNS1ΔG1遺伝子又はCAPNS1ΔG2遺伝子)とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、調製方法である。
本発明において、遺伝子導入及び形質転換の対象となる宿主細胞は、特に限定はされず、適宜選択することができるが、例えば、各種細菌、ヒトやマウス等の各種動物細胞、酵母、植物細胞等の公知の宿主が挙げられるが、中でも、効率的かつ簡便な発現系を構築できる細菌や酵母が好ましく、より好ましくは細菌(例えば、大腸菌、枯草菌等)、特に好ましくは大腸菌である。大腸菌としては、公知の各種大腸菌株から適宜選択することができるが、例えば、大腸菌BL21(DE3)株、BL21(DE3) pLysS株、AD494(DE3)株、B834(DE3) 株、Lemo21(DE3)株、SoluBL21株が好ましく、より好ましくは大腸菌BL21(DE3)株である。
本発明において、ヒトm-カルパインの活性サブユニット(CAPN2)タンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列(700アミノ酸残基)からなるタンパク質である(図1参照)。当該アミノ酸配列の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NP 001739」として公表されている。
本発明では、CAPN2タンパク質の変異体も、CAPN2タンパク質に含まれる。
CAPN2タンパク質の変異体は、(i) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質、および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつCAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2(これらの詳細は後述する説明を参照)との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質などが挙げられる。なお、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下、とする代わりに、CAPNS1との共存下としてもよい(以下同様)。
ここで、上記の「CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下でタンパク質を分解する活性」とは、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2と共存した時にカゼインや合成ペプチドなどを分解する活性を意味する。本発明において、CAPN2タンパク質の変異体は、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下でタンパク質を分解する活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、変異体は、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCAPN2タンパク質の場合と比べて約10%以上の当該活性を有していればよい。
上記タンパク質分解活性は、公知の方法で測定することができ、例えば、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2と共発現・精製し、カゼインとカルシウムを用いたカゼインアッセイ法(Ross and Schatz(1973)Anal. Biochem. 54: 304)によって測定できる。
本発明において、改変制御サブユニット(CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2)タンパク質は、ヒトm-カルパインの制御サブユニット(CAPNS1)タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失したタンパク質である。ここで、天然型であるCAPNS1タンパク質は、配列番号4で示されるアミノ酸配列(268アミノ酸残基)からなるタンパク質であり、当該アミノ酸配列の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NP 001740」として公表されている。
上記改変制御サブユニットタンパク質のうち、グリシンリピートの一方が欠失したタンパク質(CAPNS1ΔG1)とは、CAPNS1タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートのみが欠失したものであり、詳しくは、配列番号4で示されるアミノ酸配列において第1番目〜第25番目のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列(配列番号6)からなるタンパク質である。
また、上記改変制御サブユニットタンパク質のうち、グリシンリピートの両方が欠失したタンパク質(CAPNS1ΔG2)とは、CAPNS1タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートがいずれも欠失したものであり、詳しくは、配列番号4で示されるアミノ酸配列において第1番目〜第58番目のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列(配列番号8)からなるタンパク質である。
上記改変制御サブユニットタンパク質としては、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質のいずれを選択してもよく、得られる効果についても実質的な差は無いが、天然型のCAPNS1タンパク質の全長アミノ酸配列により近い点で、CAPNS1ΔG1タンパク質が好ましい。
本発明では、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質の変異体も、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質に含まれる。
CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質の変異体は、(i) 配列番号6及び8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号6及び8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号6及び8で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質、および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつCAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質などが挙げられる。
ここで、上記の「CAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性」とは、CAPN2と共存した時に、カゼインや合成ペプチドなどを分解する活性を意味する。本発明において、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質の変異体は、CAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、変異体は、例えば配列番号6及び8で示されるアミノ酸配列からなるCAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質の場合と比べて約10%以上の当該活性を有していればよい。
当該活性は、公知の方法で測定することができ、例えば、CAPN2と共発現・精製し、カゼインとカルシウムを用いたカゼインアッセイ法(Ross and Schatz(1973)Anal. Biochem. 54: 304)によって測定できる。
配列番号2で示されるアミノ酸配列(CAPN2タンパク質)並びに配列番号6及び8で示されるアミノ酸配列(CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質)において1〜数個のアミノ酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じたアミノ酸配列は、これをコードするDNAによって作製することができる。上記のような変異を有するタンパク質を調製するためにDNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)を用いて行うことができる。
本発明において、CAPN2タンパク質をコードする遺伝子(CAPN2遺伝子)は、CAPN2タンパク質をコードする塩基配列を含む遺伝子である。CAPN2遺伝子は、例えば、配列番号1で示される塩基配列(特に、CDSは第225番目〜第2327番目の塩基からなる塩基配列)からなるDNAであり、当該塩基配列の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NM 001748」として公表されている。
本発明において、CAPN2遺伝子は、例えば、配列番号1で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、ヒトゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
本発明において、改変制御サブユニットタンパク質であるCAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)は、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質をコードする塩基配列を含む遺伝子である。CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子は、天然型のCAPNS1タンパク質をコードする遺伝子から、CAPNS1タンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方をコードする塩基配列が欠失した遺伝子である。ここで、CAPNS1遺伝子は、例えば、配列番号3で示される塩基配列(特に、CDSは第158番目〜第964番目の塩基からなる塩基配列)からなるDNAであり、当該塩基配列の情報は、例えばNCBI(GenBank)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に「Accession number:NM 001749」として公表されている。また、CAPNS1ΔG1遺伝子は、例えば、配列番号5で示される塩基配列からなるDNAであり、CAPNS1ΔG2遺伝子は、例えば、配列番号7で示される塩基配列からなるDNAである。
本発明において、CAPNS1タンパク質をコードする遺伝子、並びに、CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、配列番号3で示される塩基配列並びに配列番号5及び7で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、ヒトcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
本発明で用いられるCAPN2遺伝子、並びに改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)は、当該各タンパク質の変異体をコードする遺伝子を含む。CAPN2タンパク質の変異体をコードする遺伝子は、例えば、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。改変制御サブユニットタンパク質(CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質)の変異体をコードする遺伝子は、例えば、配列番号5又は7で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
このようなDNAは、配列番号1で示される塩基配列又は配列番号5若しくは7で示される塩基配列からなるDNA又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)等を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons, 1987-1997)等を参照することができる。
また、本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号1で示される塩基配列又は配列番号5若しくは7で示される塩基配列と、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに一層好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
また、配列番号1で示される塩基配列又は配列番号5若しくは7で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号1で示される塩基配列又は配列番号5若しくは7で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号1で示される塩基配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつCAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。同様に、例えば、(i) 配列番号5又は7で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号5又は7で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号5又は7で示される塩基配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつCAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性を有するタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。
なお、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2との共存下でタンパク質を分解する活性、およびCAPN2との共存下でタンパク質を分解する活性、並びにそれらの測定方法については、前述の説明が同様に適用できる。
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
本発明において、目的タンパク質であるヒトm-カルパインの調製は、CAPN2遺伝子と改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)とが共に発現可能に導入された形質転換宿主細胞(形質転換体)を得、これを培養する工程と、得られる培養物から目的のタンパク質を採取する工程とを含む方法により実施することができる。
本発明において、形質転換宿主細胞(形質転換体)は、CAPN2遺伝子と改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)とを、宿主細胞内で発現可能なように導入することにより得ることができる。例えば、これら遺伝子を含むプラスミドを用いて同遺伝子を宿主細胞内に導入する方法や、これら遺伝子を相同組換えにより宿主細胞のゲノムに組み込む方法等が採用できる。
プラスミドを用いる場合は、CAPN2遺伝子と、改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子)とが、一つのプラスミドに含まれてもよいし、それぞれ別のプラスミドに含まれてもよい。本発明はこれら遺伝子を含有するプラスミドを含む。
当該プラスミドは、宿主細胞発現用のベクターに上記各遺伝子を発現可能に挿入し、組換え発現ベクターとして作製することができる。ベクターへの遺伝子の挿入は、リガーゼ反応、トポイソメラーゼ反応などを利用することができる。例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、得られたDNA断片を、ベクター中の適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトなどに挿入することでベクターに連結する方法などを採用することができる。
本発明で使用されるプラスミドは、その基本となるベクターの由来には特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを使用することができ、各種市販のベクターを使用することができる。
本発明のプラスミドは、目的遺伝子を発現させ得る限り、マルチクローニングサイト、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選択マーカーカセットなどを含んでもよい。プロモーターは、形質転換体において目的タンパク質を適切に発現できるものであれば、特に限定されない。また、DNAを挿入する際に必要であれば、適宜リンカーや制限酵素部位を付加してもよい。これらの操作は、当分野でよく知られている慣用の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。
選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ロイシン合成酵素遺伝子、ウラシル合成酵素遺伝子などを挙げることができる。
宿主細胞に上記プラスミドを導入する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法などの公知の方法が挙げられる。これらの方法により、本発明の形質転換宿主細胞が提供される。
また、本発明においては、前述したように相同組換えにより目的遺伝子(CAPN2遺伝子と改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子(CAPNS1ΔG1遺伝子及びCAPNS1ΔG2遺伝子))が宿主細胞のゲノムに(染色体上に)組み込まれた形質転換宿主細胞も含まれる。
本発明の形質転換宿主細胞は、用いた宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って培養することができる。培養条件は、以下に特記する以外、目的タンパク質の生産性及び形質転換宿主細胞の生育が妨げられない条件であればよく、限定はされない。
培養に用いる培地としては、宿主細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、公知の各種天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。例えば、LB培地、SD培地、SCX培地、YPD培地、YPX培地などの公知の培地から適当な培地を選択し、好ましい培養条件の下で培養することができる。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養などが挙げられるが、液体培地で大腸菌や酵母の形質転換体を培養する場合は、振盪培養が好ましい。
培養中は、形質転換体に含まれる組換えベクターの脱落及び目的タンパク質をコードする遺伝子の脱落を防ぐために、選択圧をかけた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合には、相当する薬剤を培地に添加することができ、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合には、相当する栄養因子を培地から除くことができる。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じて、好適なインデューサー(例えば、IPTG等)を培地に添加してもよい。
本発明の形質転換宿主細胞を培養し、得られる培養物から組換えヒトm-カルパインを採取し、この際必要により精製等することで、組換えヒトm-カルパインを調製することができる。
形質転換宿主細胞の培養は、本培養の前に前培養を行ってもよい。前培養は、例えば、本発明の形質転換宿主細胞を少量の培地に接種し、12〜24時間培養すればよい。本培養の培養量の0.1〜10%、好ましくは1%の前培養液を、本培養の培地に加え、本培養を開始する。本培養は、0.5〜200時間、好ましくは1〜150時間、より好ましくは3〜120時間行ってもよい。
本発明においては、形質転換宿主細胞の培養は、低温条件下で行うことが重要である。具体的には、例えば、前培養時も含め、形質転換宿主細胞を18〜30℃の温度条件下で培養することが好ましく、より好ましくは18〜27℃である。特に、インデューサー(例えば、IPTG等)を培地に添加した後など、目的タンパク質である組換えヒトm-カルパインを発現させる時に関しては、形質転換宿主細胞を18℃以上、25℃未満の温度条件下で培養することが好ましく、より好ましくは20〜23℃、特に好ましくは22℃である。組換えヒトm-カルパインの発現時に、上記温度条件を保持することにより、各サブユニットとなるCAPN2タンパク質と改変制御サブユニットタンパク質(CAPNS1ΔG1タンパク質及びCAPNS1ΔG2タンパク質)の発現量及び可溶性について(詳しくは、CAPN2タンパク質の可溶性の向上と、改変制御サブユニットタンパク質の発現量の増大について)、良好かつ優れた結果が得られる。
組換えヒトm-カルパインは、前述のとおり、形質転換宿主細胞を培養して得られる培養物から採取することができる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。目的のタンパク質は、上記培養物中に蓄積される。
培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより目的タンパク質を採取することができる。菌体又は細胞の破砕方法としては、フレンチプレス又はホモジナイザーによる高圧処理、超音波処理、ガラスビーズ等による磨砕処理、リゾチーム、セルラーゼ又はペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等を利用することができる。破砕後、必要に応じて菌体又は細胞の破砕残渣(細胞抽出液不溶性画分を含む)を除くことができる。残渣を除去する方法としては、例えば、遠心分離やろ過などが挙げられ、必要に応じて、凝集剤やろ過助剤等を使用して残渣除去効率を上げることもできる。残渣を除去した後に得られた上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、粗精製したタンパク質溶液とすることができる。また、目的のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合は、菌体や細胞そのものを遠心分離、膜分離等で回収して、未破砕のまま使用することも可能である。
一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離やろ過等により菌体又は細胞を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により、培養物中から目的タンパク質を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等)を用いて単離精製することもできる。
形質転換宿主細胞を培養して得られた目的タンパク質の生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)等により確認することができる。
本発明の調製方法により得られた組換えヒトm-カルパインの各物性については、公知の方法により測定し、天然型のヒトm-カルパインとの比較及び分析をすることができる。本発明により得られた組換えヒトm-カルパインは、例えば、活性化に必要なCa2+濃度、比活性、kinetic parameter(Vmax値、Kcat値)等の各物性について天然型のヒトm-カルパインと実質的に同一のものであるが、生体物質から精製された天然型のヒトm-カルパインと比べ不純物の混入が極めて少ないため、上記各物性の安定性(長期安定性)に優れているという特徴を有する。
本発明により得られた組換えヒトm-カルパインは、例えば、カルパインを標的としたヒト疾患の治療、緩和及び予防を行うための、特異的阻害剤の設計及びスクリーニング等の研究に用いることができるが、前述のとおり安定性(長期安定性)に優れたものであるため、上記設計や研究等に用いる場合、より実用的なものである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<方法>
1.発現コンストラクトの構築
m-カルパインは、活性サブユニット(CAPN2)と制御サブユニット(CAPNS1)からなるヘテロ二量体として存在している。CAPN2は、N末端のα-へリックス領域(N)に続き、プロテアーゼ領域(CysPc)、C2様領域(C2L)、5つのEFハンドモチーフを含む領域(PEF)で構成され、CAPNS1は、構造上フレキシブルでグリシンに富む領域(GR)とPEF領域で構成される(図1)。両サブユニットは、それぞれのPEF領域のC末端EFハンドモチーフの相互作用によって二量体を形成し、CAPNS1はCAPN2のシャペロンとして機能する。m-カルパインは、Ca2+非存在下でCysPc領域が2つのサブ領域(PC1及びPC2)に分割され活性中心を形成しないことで不活性状態にあるが、Ca2+がPC1、PC2、C2L、PEF各領域に結合することで構造変化を起こし、活性化状態になる。
ヒトCAPN2発現用には、CAPN2のcDNAをpET24b(+)ベクターに組み込んだコンストラクト(CAPN2/pET)を作製し、ヒトCAPNS1発現用には、CAPNS1、CAPNS1ΔG1又はCAPNS1ΔG2のcDNAをpACpET24ベクターに組み込んだ各コンストラクト(CAPNS1/pACpET、CAPNS1ΔG1/pACpET、CAPNS1ΔG2/pACpET)を作製した。ここで、CAPN2/pETは、CAPN2をそのC末端にHis-tag配列(GKLAAALEHHHHHH(配列番号9))を付加して発現させるコンストラクトである。また、CAPNS1ΔG1/pACpETは、CAPNS1のGR領域にある2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のリピート(CAPNS1のアミノ酸配列(配列番号4)の第1番目〜第25番目のアミノ酸)を欠失させたものとして発現させるコンストラクトであり、CAPNS1ΔG2/pACpETは、両方のグリシンリピート(CAPNS1のアミノ酸配列(配列番号4)の第1番目〜第58番目のアミノ酸)を欠失させたものとして発現させるコンストラクトである。なお、pACpET24ベクターは、pACYC177ベクターのBamHI−HindIII間(849 bp)領域を、pET24b(+)ベクターのBglII−HindIII間(170 bp)領域に置き換えた改変ベクターである。pET24b(+)ベクターとpACpET24ベクターは異なる複製起点を有するため、同一の大腸菌細胞内で共存・複製することが可能となっている。
2.予備実験
上記の発現コンストラクトを用い、まず小スケールで発現条件検討を行った。CAPN2/pETとCAPNS1/pACpETを大腸菌BL21(DE3)株に導入して形質転換し、終濃度0.2 mM イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)により発現誘導したところ、培養温度(22℃、30℃)に関わらずCAPNS1の発現量が非常に低く、CAPN2は大部分が不溶性であった(図2A、図2B)。次に、CAPN2/pETとCAPNS1ΔG1/pACpETの組み合わせ、及びCAPN2/pETとCAPNS1ΔG2/pACpETの組み合わせで、同様に大腸菌BL21(DE3)株に導入して形質転換し、各培養温度(22℃、30℃)条件下でIPTGにより発現誘導したところ、どちらの組み合わせの場合も22℃の低温培養条件において、CAPNS1の発現量(具体的にはCAPNS1ΔG1やCAPNS1ΔG2の発現量)とCAPN2の可溶性とが同程度改善した(図2A、図2B)。これらの結果から、天然型(CAPNS1全長)により近いCAPNS1ΔG1をCAPN2の発現パートナーとすることにより、以下の通り、組換えヒトm-カルパインを効率的かつ簡便に、しかも大量に、発現及び精製できる方法を確立した。
さらに、CAPN2/pETとCAPNS1ΔG1/pACpETの組み合わせで大腸菌BL21(DE3)株に導入し形質転換したものについて、18℃、25℃、27℃の各培養温度条件下で、IPTGにより発現誘導したところ、25℃以上ではCAPN2の発現量は多くなるものの、その殆どが不溶性(沈殿)画分となるのに対し、18℃では殆どが可溶性(上清)画分であった(図3)。よって、18℃以上、25℃未満の培養温度条件であれば、組換えヒトm-カルパインの良好な発現結果が得られることが確認された。

<結果及び考察>
1.ヒトm-カルパインの発現と精製
CAPN2/pETとCAPNS1ΔG1/pACpETを導入した後にグリセロール凍結保存したBL21(DE3)形質転換株を、100μg/mLアンピシリンと50μg/mLカナマイシンを含むLB培地(LB/Amp/Kn)30 mLに植菌し、27℃で一晩振とう前培養した。翌日、1 LのLB/Amp/Knに対しA600が約0.1となるように前培養液を加え、27℃でA600が0.8〜1.0になるまで振とう培養した(約3時間)。その後、培養液を氷上又は冷蔵庫で十分冷却した後、終濃度0.2 mMとなるようにIPTGを添加し、22℃で6時間振とうしてタンパク質を発現誘導した。
以下の精製操作は、全て氷上または低温(4℃)室内で行った。また、各精製操作後は、溶出画分のカルパイン活性測定(カゼインアッセイ)及びSDS-PAGE解析を行った。上記培養液を遠心して菌体を回収し、50 mLのPBSに懸濁することで菌体洗浄を行い、再び遠心回収した菌体を、0.3 mM PMSFを含むTED(20 mM Tris-Cl, pH 7.5, 1 mM EDTA, 1mM dithiothreitol(DTT)を含む緩衝液)50 mLに再懸濁した。懸濁液をフレンチプレス装置に通して菌体破砕処理した後、超遠心(55,000×g, 30分)して上清画分を回収し、0.22μmのフィルターに通して共雑物を除去した。上清画分をTEDで平衡化したDEAE Toyopearl陰イオン交換カラムにアプライし、5カラム体積分のTEDでカラムを洗浄した後、10カラム体積分のTEDを通す間に0〜0.4 Mの範囲での塩(NaCl)濃度勾配をかけることにより、タンパク質の分離溶出(5 mL/画分)を行った。これにより0.2〜0.25 MのNaClを含む溶出画分がカルパイン活性のピーク画分(5画分、25 mL分)として得られたため、これらを集め、NaClとMgCl2を終濃度0.4 M及び5 mMとなるように各々添加し、0.22μmフィルターに通して共雑物を除去した。次に、これを4 mMイミダゾールを含む緩衝液A(20 mM Tris-Cl, pH 7.5, 0.4 M NaCl, 1 mM DTT)で平衡化したHisTrap HP アフィニティーカラムにアプライし、同緩衝液で10カラム体積分カラムを洗浄した後、10カラム体積分の緩衝液Aを通す間に4〜250 mMの範囲でのイミダゾール濃度勾配をかけることにより、タンパク質の分離溶出(5 mL/画分)を行った。これにより50〜125 mMイミダゾールを含む溶出画分が活性ピーク画分(3画分、15 mL分)として得られるので、これらをプールして直ちに2 LのTED中で一晩透析しバッファー置換を行った。翌日、透析画分を回収し、遠心(20,000×g, 20分)により夾雑物を除去した。最後に、これをTEDで平衡化したMonoQ HR 10/10陰イオン交換カラムにアプライし、5カラム体積分のTEDでカラムを洗浄した後、5カラム体積分のTEDを通す間に0〜0.55 Mの範囲での塩(NaCl)濃度勾配をかけることにより、タンパク質の分離溶出(1 ml/画分)を行った。これにより、約450 mM NaClを含む3画分(3 mL分)が最終精製標品として得られた(図2C)。
2.精製標品の検定
得られた精製標品の一部をゲルろ過(HiLoad 16/10 Superdex 200)クロマトグラフィーで解析したところ1カ所の溶出ピークが得られ、算出した分配係数(Kav)により推定された分子量は理論値とよく一致した(図4)。また、カゼイン・ザイモグラフィ(カゼインを含ませたゲルで電気泳動してプロテアーゼ活性の均一性を検証する方法)により、精製標品と同一の大きさを持つ均一な画分であることが検証された(図2D)。以上のことから、CAPN2とCAPNS1ΔG1がヘテロ二量体として精製されたことが確認された。本実施例で確立した発現・精製系により1 Lの大腸菌培養液から5.8 mgのヒトm-カルパインが精製された。収率は約51%であり、昆虫細胞発現系よりも高かった(表1参照)。
さらに、様々なカルシウム(Ca2+)濃度での活性を測定した結果、最大活性の50%に必要なカルシウム濃度は約0.5 mMであり、組換えラットm-カルパイン及び天然ヒトm-カルパインに対してこれまでに報告された値とほぼ一致していた(図5)。また、比活性、kinetic parameter(Vmax値、Kcat値)についても、組換えラットm-カルパイン及び天然ヒトm-カルパインに対してこれまでに報告された値とほぼ一致していた。よって、CAPNS1のN末端側の25アミノ酸(グリシンリピート)の欠失はヒトm-カルパインの性質に影響しないことも確認された。
カルパインを標的としたヒト疾患の治療、緩和及び予防の有効性が示唆されていることから、特異的阻害剤の設計及びスクリーニング等の研究が進められているが、そこではヒト由来のカルパインを対象とすることが最善と考えられる。その点で、組換えヒトm-カルパインの効率的かつ簡便な調製方法(発現及び精製方法)を確立した本発明は、極めて有用なものである。
配列番号9:合成ペプチド

Claims (4)

  1. ヒトm-カルパインの活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子と、ヒトm-カルパインの制御サブユニットタンパク質のGR領域中の2ヶ所のグリシンリピートの一方又は両方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質をコードする遺伝子とが、共に宿主細胞内で発現可能に導入された形質転換宿主細胞を、18℃以上、25℃未満の低温条件下で培養し、得られた培養物から組換えヒトm-カルパインを採取することを含む、組換えヒトm-カルパインの調製方法であって、該宿主細胞が大腸菌である、前記方法
  2. 形質転換宿主細胞の前培養を、18〜27℃で行う、請求項1記載の方法。
  3. 前記グリシンリピートの一方が欠失した改変制御サブユニットタンパク質は、前記GR領域中の2ヶ所のグリシンリピートのうちN末端側のグリシンリピートが欠失したものである、請求項1又は2記載の方法。
  4. 形質転換宿主細胞は、活性サブユニットタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターと、改変制御サブユニットをコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターとが宿主細胞内に導入されたものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
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