本発明は、IV型コラーゲンに対して高い加水分解活性を有する新規トリプシン様酵素に関する。
コラーゲンは、皮膚、腱、および軟骨の主成分ならびに骨、歯、および角膜の有機成分であり、細胞外マトリクスの主要成分である。コラーゲンは、すべての高等生物において、最も豊富なタンパク質であり、哺乳動物のタンパク質の約25〜33%を構成する。コラーゲンは、3本のポリペプチド鎖からなる三重らせん構造を有しており、ポリペプチド鎖は、繰り返しトリペプチド配列Gly−X−Yを含む。このXおよびYの位置のアミノ酸は、プロリンおよび翻訳後改変の4−ヒドロキシプロリンであることが多く、したがって、コラーゲンは、プロリンリッチなタンパク質である。コラーゲン分子は、ヒドロキシプロリンによってその三重らせんが非常に安定化されており(非特許文献1)、水不溶性繊維またはシートに組み立てられ、そしてほとんどのプロテアーゼに抵抗性である。
このようなコラーゲンタンパク質ファミリーとして、現在までに、少なくとも25種が同定されている(非特許文献2)。これらは、三重らせんを形成しているドメインの長さおよび連続性、加水分解される残基と加水分解されない残基との割合、ヒドロキシリジングリコシル化の程度の差などによって区別されている。例えば、I型、II型、III型、V型、およびIX型コラーゲンは、非らせん端を有する連続する三重らせんを含む古典的繊維状コラーゲンである。一方、IV型コラーゲンは、より多くの非らせん領域を含みそして球形のドメインによって相互作用し得るテトラマーに組み立てられて、基底膜の構造足場になるシート様ネットワークを形成している。
コラーゲンは、多くの細胞事象に関連するため、種々の適用の可能性を有する生体材料である。さらに、コラーゲン分解物であるコラーゲンペプチドは、工業および医療目的の種々の生物学的活性を有することが報告されており、急速に広範な適用が確立されている。例えば、骨粗鬆症、胃潰瘍、および高血圧用の薬剤、皮膚保湿剤、保存剤などの用途が挙げられる。コラーゲンペプチドの調製のために現在使用される化学的切断方法は、非常に反応性の高いCNBrを必要とする(非特許文献3)。したがって、強力な活性を有しそして使用に安全であるコラーゲン分解酵素が、食品や医薬品産業への利用に所望される。
種々のコラーゲンの分子構造の差異は、各タイプを切断し得るコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ)の性質に影響を及ぼす。コラーゲン分解酵素として、哺乳動物マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーが一般的に知られている。MMP−1、MMP−8、およびMMP−13は、I〜III型コラーゲンの三重らせんドメイン内で加水分解する(非特許文献4および5)。一方、MMP−9は、V型およびXI型コラーゲンの三重らせんを切断するが、I〜III型コラーゲンを切断しない(非特許文献6および7)。MMP−2は、IV型コラーゲンを切断し、そして変性コラーゲンであるゼラチンも分解することが知られている(非特許文献8)。近年、MMPのコラーゲン特異性が、基質配列と熱安定性との組み合わせに基づくことが報告されている(非特許文献9)。
コラーゲン分解については、3つのメカニズムが知られている:(1)上記のMMPのような哺乳動物間質コラゲナーゼによるメカニズムであり、単一の部位でコラーゲンの安定な三重らせんを切断する;(2)システインプロテイナーゼのような広い特異性を有するプロテイナーゼよるメカニズムであり、天然のコラーゲンの非らせんテロペプチドを切断し、そして変性コラーゲン、すなわち、ゼラチンも分解する;および(3)細菌のコラゲナーゼによるメカニズムであり、天然の三重らせんを多数の部位で切断する。
非特許文献10では、細菌のコラゲナーゼが、カテプシンK、ならびにMMP−1、MMP−9、およびMMP−13よりも非常に高いコラーゲン分解活性を有することが示されている。細菌コラゲナーゼの中でも、クロストリジウム・ヒストリティカム(Clostridium histolyticum)のコラゲナーゼは、広く研究され、そして組織分散酵素として広く使用される(非特許文献11)。好熱性のジオバシラス・コラゲノボランス(Geobacillus collagenovorans)MO−1株由来のプロテアーゼが、コラーゲンを分解し得ることも報告されている(非特許文献12)。最近、クロストリジウム・ヒストリティカムのコラゲナーゼ(ColH)およびジオバシラス・コラゲノボランスMO−1プロテアーゼのコラーゲン結合ドメインが決定されている(非特許文献13および14)。しかし、これらは、基底膜を構成するIV型コラーゲンに対する分解活性があまり強くない。
また、近年、プロテアーゼの基質優先性について、FRETSコンビナトリアルライブラリーを用いて検討されている(非特許文献15〜17および特許文献1)。この手法は、プロリンおよびヒドロキシプロリンを多く含むコラーゲンに対して加水分解活性を有するプロテアーゼについての検討に応用できる。しかし、網目構造を有するIV型コラーゲンに対して高い加水分解活性を有するプロテアーゼについての報告はない。
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上述のように、コラーゲンおよびそのペプチドは、生化学的および医学的機能のため、産業上興味深い生体材料であり、基底膜を形成するIV型コラーゲンに対して高い分解活性を有するプロテアーゼが、その処理に必要とされている。したがって、本発明は、IV型コラーゲンに対して高い加水分解活性を有するプロテアーゼを提供することを目的とする。
本発明は、IV型コラーゲン、I型コラーゲン、およびゼラチンに対して加水分解活性を有する、トリプシン様酵素を提供する。
1つの実施態様では、上記トリプシン様酵素は、以下の性質:
(1)至適反応pH:pH8.0〜9.0;
(2)至適反応温度:カルシウムイオン不在下で50℃、およびカルシウムイオン存在下で55℃;
(3)熱安定性:90%熱不活性化温度として、カルシウムイオン不在下で35℃、およびカルシウムイオン存在下で50℃;および
(4)フェニルメチルスルホニルフルオリドによって阻害される;
を有する。
ある実施態様では、トリプシン様酵素は、上記ストレプトマイセス・オミヤエンシス(Streptomyces omiyaensis)84A06(FERM P−21453)により産生される。
さらなる実施態様では、上記トリプシン様酵素は、
(A)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列、
(B)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列、および
(C)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列に対し、配列同一性が、少なくとも85%であるアミノ酸配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。
別の実施態様では、上記トリプシン様酵素は、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の3位のアミノ酸残基と4位のアミノ酸残基との間のペプチド結合に対する加水分解活性を有する、請求項1から4のいずれかの項に記載のトリプシン様酵素であって、該配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、2位がArgのアミノ酸残基であり、3位がTyr、Ile、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であり、そして4位がArgおよびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチドに対する基質優先性を有する。
本発明はまた、トリプシン様酵素をコードする遺伝子を提供し、該トリプシン様酵素は、IV型コラーゲン、I型コラーゲン、およびゼラチンに対して加水分解活性を有し、そして該遺伝子が、
(a)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(b)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(c)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列に対し、配列同一性が、少なくとも85%であるアミノ酸配列をコードする塩基配列、および
(d)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列のアンチセンス鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、
からなる群より選択される塩基配列を有する。
1つの実施態様では、上記遺伝子において、上記メトリプシン様酵素は、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の3位のアミノ酸残基と4位のアミノ酸残基との間のペプチド結合に対する加水分解活性を有し、そして該配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、2位がArgのアミノ酸残基であり、3位がTyr、Ile、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であり、そして4位がArgおよびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチドに対する基質優先性を有する。
本発明はさらに、上記のいずれかの遺伝子を含む、発現用担体を提供する。
本発明はまた、上記のいずれかの遺伝子が組み込まれている、形質転換細胞を提供する。
本発明はさらに、上記の形質転換細胞により産生される、組換えトリプシン様酵素を提供する。
本発明はまた、ストレプトマイセス・オミヤエンシス(Streptomyces omiyaensis)84A06(FERM P−21453)株。
本発明によれば、IV型コラーゲンに対して高い加水分解活性を有するトリプシン様酵素が提供される。本発明のトリプシン様酵素を用いれば、これまで酵素的にほとんど分解されなかったIV型コラーゲンを分解することができる。
本明細書において、アミノ酸の表記を、3文字または1文字で表記する場合がある。すなわち、アラニンは、AlaまたはA;アルギニンは、ArgまたはR;アスパラギンは、AsnまたはN;アスパラギン酸は、AspまたはD;システインは、CysまたはC;グルタミン酸は、GluまたはE;グルタミンは、GlnまたはQ;グリシンは、GlyまたはG;ヒスチジンは、HisまたはH;イソロイシンは、IleまたはI;ロイシンは、LeuまたはL;リジンは、LysまたはK;メチオニンは、MetまたはM;フェニルアラニンは、PheまたはF;プロリンは、ProまたはP;セリンは、SerまたはS;トレオニンは、ThrまたはT;トリプトファンは、TrpまたはW;チロシンは、TyrまたはY;そしてバリンは、ValまたはVを示す。また、任意のアミノ酸は、XaaまたはX、あるいはYaaまたはZaaと表記する場合がある。
本明細書において、「置換、欠失、挿入または付加」を有するアミノ酸配列とは、天然由来の変異を有するアミノ酸配列であってもよく、人為的な変異を導入されたアミノ酸配列であってもよい。「アミノ酸配列の置換、欠失、挿入または付加」は、当該技術分野で通常用いられる部位特異的変異導入法などにより、アミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸に対して生じさせ得る。得られたアミノ酸配列を有するペプチドが、元のペプチドと同等またはそれ以上の活性を示せばよい。
本発明のトリプシン様酵素は、IV型コラーゲン、I型コラーゲン、およびゼラチンに対して加水分解活性を有する。
本発明において、酵素のコラーゲン分解活性は、任意の方法で測定され得る。例えば、天然のコラーゲンを基質として用いて、酵素により遊離されたアミノ基の増加の初期速度を、ニンヒドリン法によって測定する(非特許文献18)。また、酵素のタンパク質分解活性を、蛍光標識されたDQ−ゼラチン、DQ−コラーゲン、またはフルオレセインカゼイン(いずれもMolecular Probesより入手可能)を用いて測定してもよい。これらの基質は、フルオレセインで大量に標識されており、その分子内ではほぼ完全に消光しているが、酵素加水分解により分子内自己消光が緩和され、明るい蛍光反応産物を生成する。あるいは、酵素の加水分解活性は、トリプシンのコンセンサス基質であるベンジル−L−Arg−p−ニトロフェノール・HCl(Arg−pNA)を基質として用いて、p−ニトロアニリンの放出による405nmの吸光度を測定してもよい。
本発明のトリプシン様酵素は、至適反応pHが、好ましくはpH8.0〜9.0であり、至適反応温度が、カルシウムイオン不在下で約50℃、およびカルシウムイオン存在下で約55℃である。また、本発明のトリプシン様酵素は、90%熱不活性化温度として、カルシウムイオン不在下で35℃の熱安定性、およびカルシウムイオン存在下で50℃の熱安定性を示す。本発明のトリプシン様酵素は、カルシウムイオンの存在下で、安定化される。
本発明のトリプシン様酵素の酵素活性は、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)によって阻害され、そしてEDTAによってわずかに阻害される。例えば、5mMのPMSFの存在下では71%阻害され、そして50mMのEDTAの存在下では、Arg−pNAに対する加水分解活性が14%阻害される。
本発明のトリプシン様酵素は、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、好ましくは、2位がArgのアミノ酸残基であり、3位がTyr、Ile、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であり、そして4位がArgおよびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチドに対して、3位のアミノ酸残基と4位のアミノ酸残基との間のペプチド結合に対する加水分解活性についての基質優先性を有する。
本発明のトリプシン様酵素は、好ましくは、SDS−PAGEおよびMALDI−TOF−MS分析に基づいて算出された分子量が約24kDaであり、単量体である。
さらに、本発明のトリプシン様酵素は、基質としてArg−pNAを用いる場合、好ましくは、Km値は約0.014mM、そしてkcat値は約12.7(s−1)である。
本発明のトリプシン様酵素としては、ストレプトマイセス・オミヤエンシス(Streptomyces omiyaensis)84A06(FERM P−21453)[Streptomyces omiyaensis 84A06と命名・表示され、受託番号:(FERM P−21453)(寄託日:2007年11月30日)として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1−1)に寄託されている]により産生されるトリプシン様酵素が挙げられる。
本発明のストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06(FERM P−21453)株は、土壌より分離された放線菌であり、ISP培地No.2(「ダイゴ」日本製薬株式会社)にて30℃で48時間培養した場合、以下の(i)〜(iii)の性質を有する。
(i)形態的性質(ISP培地No.2で生育)
コロニーサイズ:φ4.0〜5.0mm
コロニー表面の形状:綿状(72時間培養)および湿潤状(1週間以上培養)
コロニーの色調:表面(気菌糸)灰色および裏面(基生菌糸)黄土色
水溶性色素産生:−
なお、ISP培地No.3で生育させた場合、表面:淡黄色(湿潤)および基底:淡黄色(綿状);ISP培地No.4で生育させた場合、表面:白色(綿状)および基底:白色;およびISP培地No.5で生育させた場合、表面:白色(綿状)および基底:淡黄色であった。
(ii)微視的性質
気菌糸の形状:分岐あり、幅0.8〜0.9μm
(iii)生理・生化学的性質(+は陽性、−は陰性を示す)
ゼラチンの液化: +
デンプンの加水分解: +
硝酸還元反応: +
脱脂粉乳のペプトン化・凝固: ペプトン化
生育温度の範囲(℃):
20 +
25 +
30 +
37 +
45 −
耐塩性(%):
4.0 +
7.0 −
10.0 −
13.0 −
炭素源の利用性:
ISP培地No.9 −
グルコース +
L−ラムノース +
D−マンニトール −
D−フラクトース +
L−アラビノース −
ラフィノース −
シュクロース +
D−キシロース +
イノシトール −
メラニン様色素産生:
ISP培地No.6 −
ISP培地No.7 −
このストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株を培養し、培養上清から単離・精製することによって、トリプシン様酵素を容易に得ることができる。ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株の培養条件は、特に限定されず、約30℃、例えば、25〜34℃で、6日間前後、例えば、3〜10日間撹拌しながら培養する条件が挙げられる。
より具体的には、ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株を、2%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ポリペプトン、0.5%(w/v)イーストエキストラクト、0.8%(w/v)K2HPO4、および0.05%(w/v)MgSO4・7H2Oを含む培養培地(PG培地)に接種し、そして125rpmで撹拌しながら30℃にて6日間培養する。
得られた培養物は、細胞と培地成分とを分離し得る手段、例えば、遠心分離、限外ろ過などに供し、培養上清を得る。得られた培養上清は、適切な緩衝液などに対して透析してもよい。さらに、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどの当該技術分野で通常用いられるタンパク質精製法により、本発明のトリプシン様酵素を精製することができる。
より具体的には、4℃にて、70%(w/v)飽和硫酸アンモニウム分画に供し、沈殿物を回収する。沈殿物を25mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に溶解し、そして同じ緩衝液に対して透析した後、上記イオン交換カラムにかけ、結合したタンパク質を、0.25MのNaClを含む緩衝液を用いて溶出し、そして25mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に対して透析する。上清を、さらにイオン交換カラムにかけて、NaClグラジエントにより活性の高い画分を溶出させることにより、目的のトリプシン様酵素を得ることができる。
このようにして得られるストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株由来のトリプシン様酵素(SOT)の一次構造は、ストレプトマイセス・ファラディアエ(Streptomyces fradiae)由来のトリプシノーゲン(SFT:非特許文献19)、ストレプトマイセス・エクスフォリアタス(Streptomyces exfoliatus)由来のトリプシン様プロテアーゼ前駆体(SET:非特許文献20)、およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のトリプシン(SGT:非特許文献21〜23)と、それぞれ82%、82%、および77%の配列同一性を示す。また、SOTの推定アミノ酸配列では、SGT中の活性なSer195およびHis57残基、ならびに正荷電した基質の結合に重要な役割を果たすことが知られているAsp189が保存されている。
本発明のトリプシン様酵素としては、より具体的には、
(A)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列、
(B)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列、および
(C)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列に対し、配列同一性が、少なくとも85%であるアミノ酸配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、トリプシン様酵素が挙げられる。
上記(A)の配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列は、ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株のトリプシン様酵素(SOT)のアミノ酸配列である。なお、配列表の配列番号2の1位から34位のアミノ酸配列は、SOTのシグナル配列である。
本発明においては、上記SOTの活性の測定法の条件下に、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の3位のアミノ酸残基と4位のアミノ酸残基との間のペプチド結合に対する加水分解活性を有し、該配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、2位がArgのアミノ酸残基であり、3位がTyr、Ile、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であり、そして4位がArgおよびLysからなる群より選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチドに対する基質優先性を有するものであれば、本発明のトリプシン様酵素には、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列のバリアントの配列を有するポリペプチドも含まれる。配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列のバリアントとしては、上記(B)または(C)のアミノ酸配列が挙げられる。また、後述の核酸によりコードされるポリペプチドであって、上記トリプシン様酵素活性の測定法の条件下に同様の活性(特に、IV型コラーゲン加水分解活性)を示すものであれば、本発明のトリプシン様酵素に含まれる。
上記(B)および(C)のアミノ酸配列のバリアントの天然の供給源となる生物は、特に限定されるものではなく、ストレプトマイセス・オミヤエンシスに分類される他の株などが挙げられる。
上記(B)のアミノ酸配列について、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加(以下、「変異」ともいう)の数は、上記メタロエンドペプチダーゼ活性の測定法の条件下に同様の活性を示す範囲であればよく、少なくとも1個、好ましくは、1個〜複数個、より好ましくは、1個〜数個である。上記変異を有するアミノ酸配列は、天然に存在するアミノ酸配列、すなわち、自然発生による変異を有するアミノ酸配列であってもよく、人為的に、所望の部位またはアミノ酸残基に変異を導入したアミノ酸配列であってもよい。人為的に、所望の部位またはアミノ酸残基に変異を導入する場合、天然に存在する配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列のバリアントに準じて人為的に変異を導入してもよい。人為的な変異の導入は、例えば、慣用のPCRを用いた部位特異的変異導入方法などにより行われ得る。なお、SOTのシグナル配列は、他の適切なシグナル配列に置き換えられていてもよい。
上記(B)のアミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸残基が、類似した物理学的性質を有する他のアミノ酸残基に置換(保存的置換)されたアミノ酸配列が挙げられる。保存的置換は、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴などに類似した機能を発揮するアミノ酸残基との置換、本来のポリペプチドの生理活性を維持する程度にのみ該ポリペプチドの立体構造や折り畳み構造を変化させ得ないアミノ酸残基との置換などが挙げられる。より具体的には、上記(B)のアミノ酸配列としては、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸残基が、他のアミノ酸と保存的置換されたアミノ酸配列を有し、該保存的置換が、以下のアミノ酸群(1)〜(6):
(1)グリシンおよびアラニン、
(2)バリン、イソロイシンおよびロイシン、
(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギンおよびグルタミン、
(4)セリンおよびスレオニン、
(5)リジンおよびアルギニン、および
(6)フェニルアラニンおよびチロシン
からなる群より選択されるアミノ酸群に属するアミノ酸残基内で行われたものであるアミノ酸配列が挙げられる。
上記(C)において、配列同一性は、参照配列(例えば、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列)に対して、クエリー配列(評価対象の配列)を、適切にアラインメントし、算出された値である。具体的には、本明細書においては、配列同一性は、CLUSTALアルゴリズムで算出された値である。
本発明においては、配列同一性は、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上である。
本発明のトリプシン様酵素はまた、以下に詳述する本発明の遺伝子を用いて、遺伝子工学的に製造することができる。例えば、ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株とは異なる異種細胞において、本発明のトリプシン様酵素を発現させることができる。
本発明のトリプシン様酵素をコードする遺伝子は、
(a)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(b)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(c)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列に対し、配列同一性が、少なくとも85%であるアミノ酸配列をコードする塩基配列、および
(d)配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列のアンチセンス鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、
からなる群より選択される塩基配列を有する。
このうち(a)〜(c)の塩基配列は、それぞれ、上記(A)〜(C)のアミノ酸配列をコードする塩基配列であり、そして(d)の塩基配列は、上記(A)〜(C)のアミノ酸配列のいずれかをコードする塩基配列であり得る。この遺伝子によってコードされるトリプシン様酵素は、IV型コラーゲン、I型コラーゲン、およびゼラチンに対して加水分解活性を有する。
上記(d)の「ストリンジェントな条件」とは、6×SSC(1×SSCの組成:0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5%SDSと5×デンハルトと100μg/mLの変性サケ精子DNAと50%(v/v)ホルムアミドとを含む溶液中、室温にて12時間インキュベートし、さらに0.5×SSCで50℃以上の温度で洗浄する条件をいう。さらに、よりストリンジェントな条件、例えば、45℃または60℃にて12時間インキュベートすること、0.2×SSCまたは0.1×SSCで洗浄すること、洗浄に際し60℃または65℃以上の温度条件で洗浄することなどの、より厳しい条件も含む。また、本発明においては、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列は、該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列に関して、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列との配列同一性が、少なくとも85%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であり、該塩基配列に関して、配列表の配列番号2の1位から261位までのアミノ酸配列をコードする塩基配列との配列同一性が、少なくとも80%、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である塩基配列との特異的なハイブリダイゼーションが達成され得る条件であることが望ましい。
なお、本明細書においては、塩基配列の配列同一性は、CLUSTALアルゴリズムで算出された値である。
また、本発明の遺伝子に基づき、本発明のトリプシン様酵素と同等の生理活性を示すアイソザイムをスクリーニングするための、プローブおよびプライマー対も提供できる。
さらに、本発明の遺伝子を含むトリプシン様酵素の発現用担体を用いて、本発明の遺伝子によりコードされる組換えトリプシン様酵素を製造することもできる。本明細書において、「発現用担体」とは、慣用の生物ベクターなどを基本骨格として含有し、かつ適切な位置に本発明の遺伝子が作動可能に連結された核酸構築物;金粒子、リポソーム、デキストラン、リン酸カルシウムなどの担体に、細胞内での発現に適したエレメントなどを有する本発明の遺伝子を担持させた構築物などを意味する。
本発明のトリプシン様酵素の発現用担体を用いて、本発明のトリプシン様酵素をストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株以外の細胞に導入することができ、それにより、異種細胞において本発明のトリプシン様酵素を発現させることができる。したがって、本発明のトリプシン様酵素の工業的な生産のための手段が提供される。
上記生物ベクターとしては、pUC118、pUC119、pBR322、pCR3、pCMVSPORT、pETkmS2(Mishima, N.ら、Biotechnol. Prog.、第13巻、864-868頁、1997年)、pOMal(New England Biolabs)などの大腸菌用プラスミドベクター;λZAPII、λgt11などの大腸菌用ファージベクター;pYES2、pYEUra3、pICZα(インビトロジェン株式会社)などの酵母用ベクター;pIJ486(Mol. Gen. Genet.、203巻、468-478頁、1986年)、pKC1064(Gene、103巻、97-99頁、1991年)、pUWL−KS(Gene、165巻、149-150頁、1995年)、pIJ702(Katz, E.ら、J. Gen. Microbiol.、129巻、2703-2714頁、1983年)、およびpIJ8600(Sun, J.ら、Microbiology、145巻、2221-2227頁、1999年)などの放線菌用ベクター;pAcSGHisNT−Aなどの昆虫細胞用ベクター;pKCR、pEFBOS、cDM8、pCEV4などの動物細胞用ベクターなどが挙げられる。このようなベクターには、適切なプロモーター(例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、trpプロモーター、CMVプロモーター、SV40初期プロモーターなど)、選択マーカー遺伝子、ターミネーターなどのエレメントを適宜有していてもよい。
また、上記ベクターは、本発明のトリプシン様酵素を、慣用のタグ(例えば、Hisタグなど)や融合パートナー(例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼなど)と融合した状態で発現させ得るベクターであってもよい。
このようなベクターの調製に用いられる菌としては、例えば、当該技術分野で通常用いられる宿主菌が挙げられ、具体的には、例えば、放線菌、大腸菌などが挙げられる。より具体的には、放線菌としては、ストレプトマイセス・リビダンス1326、ストレプトマイセス・リビダンスTK−23など、そして大腸菌としては、BL21(DE3)、JM109などが挙げられる。これらの宿主菌のうち、精製の容易化、大量調製、安全性などの観点から、大腸菌BL21(DE3)、JM109が望ましい。
本発明のトリプシン様酵素の発現用担体は、適切な宿主細胞へ導入されて、宿主細胞を形質転換して、形質転換細胞を作製する。形質転換法として、例えば、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクル銃によるボンバードメント法など、当業者に周知の方法が採用される。
本発明においては、宿主細胞として、好適には微生物(宿主菌)が用いられる。宿主菌としては、放線菌、大腸菌、バシラス属菌、シュードモナス属菌、サーマス属菌、アグロバクテリウム属菌、酵母(例えば、メタノール資化性酵母Pichiaなど)などが挙げられる。中でも、本発明においては、放線菌が好適に用いられる。
本発明において、放線菌とは、放線菌目(order Actinomycetales)に属する菌をいう。放線菌は、グラム陽性細菌に所属する一分類群であり、主に土壌などに生息する。原核生物であるが、多くの放線菌は分岐を伴う糸状の生育を示し、多様な形態を呈する。また、一般的に胞子を形成し、中には胞子嚢や運動性胞子を形成する種も存在する。また、放線菌からは種々の抗生物質および他の生物学的に重要な化合物が発見されている。放線菌目には、フランキア科(Frankiaceae)、ミクロモノスポラ科(Micromonosporaceae)、プロピオニバクトリウム科(Propionibacteriaceae)、シウドノカルジア科(Psuodonocardiaceae)、ストレプトマイセス科(Streptomyceae)、ストレプトスポランギウム科(Streptosporanguaceae)、テルモモノスポラ科(Thermomonosporaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)、マイコバクテリウム科(Mycobacteriuaceae)、およびノカジア科(Nocaudiaceae)が含まれる。本発明において放線菌とは、好ましくは、ストレプトマイセス科、より好ましくはストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する菌である。ストレプトマイセス属に属する菌としては、例えば、ストレプトマイセス・セプタタス(S.septatus)、ストレプトマイセス・リビダンス(S.lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(S.griseus)、ストレプトマイセス・ラベンデュラエ(S.lavendulae)、ストレプトマイセス・バージニア(S.virginia)、およびストレプトマイセス・コエリカラー(S.coelicolor)が挙げられる。本発明においては、宿主菌として、特にストレプトマイセス・リビダンスが好適に用いられる。このようなストレプトマイセス属に属する放線菌やその他の放線菌は、種々のカタログに記載されており、当業者であれば容易に入手可能である。
宿主細胞への本発明の発現用担体の導入により得られた細胞が、目的の形質転換細胞であることは、細胞または該細胞の培養上清について、上記トリプシン様酵素の活性の測定法により、トリプシン様酵素活性、特にIV型コラーゲン加水分解活性が検出されることを指標として、確認され得る。
本発明の形質転換細胞を培養して増殖させることにより、本発明のトリプシン様酵素を遺伝子工学的に容易に精製できる状態で発現させることができ、それにより、該トリプシン様酵素を工業的に製造することができる。
本発明の組換えトリプシン様酵素の製造においては、培地組成、培地のpH、培養温度、培養時間の他、インデューサーの使用量、使用時間などについて、トリプシン様酵素の発現の最適な条件を決定することによって、効率よく組換えトリプシン様酵素を生産させることができる。
本発明の形質転換細胞の培養に通常用いられる培地としては、天然培地および合成培地のいずれを用いてもよい。液体培地または固体培地を使用することができる。例えば、宿主菌が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であればよい。炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプンなどの炭水化物、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物が挙げられる。その他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸などを含んでいてもよい。その他に、無機塩として、微量のカリウム、ナトリウム、鉄などのリン酸塩、塩酸塩、硝酸塩、酢酸塩などを含んでいてもよい。また、必要に応じて植物油、界面活性剤、シリコンなどの消泡剤を添加してもよい。
培養条件は、培地の種類、培養方法などにより適宜選択すればよく、宿主細胞が増殖し、目的のタンパク質を産生できる条件であれば特に制限はない。通常、液体培地中で振とう培養または攪拌培養などの好気的条件下で、10℃〜40℃、好ましくは28℃で12〜120時間行われる。pHは、4から10、好ましくは6から8に調節される。pHの調整は、無機酸または有機酸、アルカリ溶液などを用いて行う。
形質転換細胞が生産する組換えトリプシン様酵素は、それが細胞内に生産されるときは細胞内の他のタンパク質、他のポリペプチドなどが共存するが、これらは発現されるトリプシン様酵素の量に比べて微量にすぎないため、その精製は極めて容易であるという優れた利点がある。また、ベクターとして菌体外分泌型のベクターを用いた場合、トリプシン様酵素が菌体外に分泌される。
形質転換細胞の培養物からトリプシン様酵素活性を有するポリペプチドを精製するには通常の方法が用いられる。形質転換細胞が大腸菌のように細胞内にトリプシン様酵素活性を有するポリペプチドが蓄積する場合には、培養終了後、遠心分離によって形質転換細胞を集め、得られた細胞を超音波処理などによって破砕した後、遠心分離などによって無細胞抽出液を得る。これを出発材料とし、塩析法や、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどの一般的なタンパク質精製法により精製することができる。用いる形質転換細胞によっては、発現産物が細胞外に分泌される場合がある。このような場合、培養上清から同様に精製を行えばよい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。特に明記しない限り、各種操作は、モレキュラークローニング ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning A Laboratory Manual)第2版(ザンブルーク(Sambrook, J)ら、1989年)に従って行った。なお、実施例において、%は、特に明記しない限り、w/v%を表す。
以下の実施例における一般的なタンパク質は、蛍光性ブタ皮膚DQ−ゼラチンを用いて決定した。DQ−ゼラチンは、フルオレセインで大量に標識されており、その分子内ではほぼ完全に消光しているが、酵素加水分解により分子内自己消光が緩和され、明るい蛍光反応産物を生成する。代表的には、アッセイを、以下のように行った:10μLの酵素溶液および10μLの1mg/mLのDQ−ゼラチンを、蛍光用のマイクロタイタープレートのウェル中の100μLの50mM Tris−HCl(pH9.0)に添加し、そして37℃にてインキュベートした。反応を、酵素溶液の添加によって開始した。反応を、ARVO 1420マルチラベルカウンター(Perkin Elmer)を用いてλex535nmおよびλem485nmでの蛍光強度の増加によってモニターした。反応速度を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC:和光純薬工業株式会社)溶液を用いてプロットした標準曲線から推定した。1ユニットの活性を、アッセイ条件下で1分当たり1nmolのFITCを放出するに必要とされる酵素量として定義した。
(実施例1:ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株の培養物からのトリプシン様酵素の精製および生化学的特徴)
土壌より分離された放線菌ストレプトマイセス・オミヤエンシス(Streptomyces omiyaensis)84A06株を、2%グルコース、0.5%ポリペプトン、0.5%イーストエキストラクト、0.8%K2HPO4、および0.05%MgSO4・7H2Oを含む培養培地(PG培地)に接種し、そして125rpmで撹拌しながら30℃にて6日間培養した。
次いで、培養上清を、4℃にて70%飽和硫酸アンモニウム分画に付し、沈殿物を4℃にて20000rpmで100分間の遠心分離によって回収した。沈殿物を、25mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に溶解し、そして同じ緩衝液に対して透析した。得られた試料を、上記緩衝液で平衡化したVivapure Sスピンカラム(VIVASCIENCE)に供した。結合したタンパク質を、0.25MのNaClを含む緩衝液を用いて溶出し、そして溶出液を25mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に対して透析した。遠心分離後、上清を、透析緩衝液で予め平衡化したMono S HR5/5カラム(Pharmacia Biotech)に供した。緩衝液中0〜0.5MのNaClの直線グラジエントにより酵素を溶出した。精製過程を表1に示す。精製工程において、酵素活性を、50mM Tris−HCl(pH9.0)中37℃にて83μg/mLのDQ−ゼラチン(Molecular Probes)を用いて決定した。1ユニットの活性を、上記の条件下で1分当たり1nmolのFITCを放出するに必要とされる酵素の量として定義した。
1000mLの培養上清から、トリプシン様酵素をSDS−PAGE上でほぼ均一にまで精製し(図1)、0.7%の収率で99.3倍に精製し、そしてゼラチン加水分解の高い比活性(1146U/mg)を得た。このストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株由来のトリプシン様酵素を、以下、SOTと記載する場合がある。SOTは、SDS−PAGEにより、分子量が約24kDaであることを確認した。また、精製SOTは、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)により酵素活性が71%阻害され、そしてEDTAによっても14%阻害された。
(実施例2:トリプシン様酵素の遺伝子の取得)
精製SOTを、PVDFメンブラン(Bio-Rad社)上にエレクトロブロットし、次いでプロテインシークエンサーにかけて、N末端アミノ酸配列(VVGGTRAAQGEFP:配列番号4)を同定した。また、精製SOTを、通常試薬として用いられるトリプシン(Sigma)で処理し、トリプシン処理ペプチド断片を得た。得られたトリプシン処理ペプチド断片を、LC−MSにより解析し、内部アミノ酸配列(LAETTAYNSGTF:配列番号5、GKDWALIK:配列番号6、およびLASPITSLPTL:配列番号7)を同定した。
次に、ゲノムDNAを、Hopwoodらの方法(D.A. Hopwoodら、A Laboratory Manual, The John Ines Foundation,Norwich,1985年,70-84頁)を用いてストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株から調製した。SOTのN末端配列(VVGGTRAAQGEFP:配列番号4)および内部配列(LAETTAYNSGTF:配列番号5)から縮重PCRプライマー(フォワード:5’−CG(CG)GC(CG)GC(CG)CAGGG(CG)GAGTTCCC−3’(配列番号8)およびリバース:5’−TTGTA(CG)GC(CG)GT(CG)GTCTC(CG)GC(CG)A−3’(配列番号9))を設計し、これらを用いてゲノムDNAからPCRによって増幅した。PCRは、94℃にて1分のインキュベーションの後、94℃にて30秒、55℃にて30秒、72℃にて30秒を35サイクル行い、次いで72℃にて5分のインキュベーションを行った。PCR産物を、pGEM−Tイージーベクター(Promega)中にクローニングし、そして配列決定した。ジゴキシゲニン(DIG)標識したプローブを、SOT遺伝子配列の一部およびPCR DIGプローブ合成キット(Roche Molecular Biochemicals)を用いて合成した。このプローブを、SmaIで切断したゲノムDNAの約1.2kbフラグメントにハイブリダイズさせた。次に、これらのフラグメントを、アガロースゲル電気泳動を用いて回収し、そして自己ライゲートさせた。ライゲーション産物を、SOT遺伝子の部分DNAフラグメントから設計したプライマーセットを用いて増幅した。PCR産物をクローニングして配列決定した。結果を図2に示す。
図2に、SOT遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1、DDBJデータベースアクセッション番号:AB362837)およびその推定アミノ酸配列を示す。オープンリーディングフレームは786ヌクレオチド長であり、推定分子量26704を有する261アミノ酸をコードすると予測した。成熟酵素について算出した分子量は、22892であり、SDS−PAGE分析によって決定した実測分子量(約24kDa)と一致した。推定−35および−10配列ならびに推定リボソーム結合部位(SD)を、ヌクレオチド配列中に下線を引いた。精製SOTを用いて決定したN末端および内部配列を、それぞれ太字および二重下線で示す。停止コドンをアステリスクで示す。
また、成熟SOTの一次構造について、マルチプル配列アラインメントを、CLUSTALアルゴリズムを用いて行った。アラインメントを図3に示す。図3においては、SGT(ストレプトマイセス・グリセウス由来のトリプシン)、SFT(ストレプトマイセス・ファラディアエ由来のトリプシノーゲン)、およびSET(ストレプトマイセス・エクスフォリアタスのトリプシン様プロテアーゼ前駆体)と並べた。すべての配列で保存された残基を、白抜き文字で示す。SOTは、SGT、SFT、およびSETとそれぞれ77%、82%、および82%の配列同一性を示し、トリプシンファミリーに属することがわかった。また、SOTの推定アミノ酸配列では、SGT中の活性中心にあるSer195およびHis57残基、ならびに正荷電した基質の結合に重要な役割を果たすことが知られているAsp189が保存されていた。
(参考例1:発現ベクターpTONA5の作製)
大腸菌と放線菌との間の遺伝子間結合によって、ストレプトマイセスのメタロエンドペプチダーゼのプロモーターを含む発現ベクターpTONA5aを構築した。
まず、pBluescript II KS (-)(TOYOBO)を鋳型に大腸菌JM109のori(0.6kb)の部分をプライマー1および2(配列番号10および11)を用いてPCRで増幅した。PCRの条件は、94℃で2分の後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分を30サイクル繰り返し、その後4℃に冷却した。PCRには、KOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用いた。次いで、pTYM18(オナカ(Onaka,H.)ら、J. Antibiotics、56巻、950-956頁、2003年)を鋳型に、aphII(大腸菌−放線菌カナマイシン耐性遺伝子:1.3kb)を、プライマー3および4(配列番号12および13)を用いて上記と同様にPCRで増幅した。
得られた2つの断片をそれぞれ制限酵素SspIおよびPstIで処理し、2つの断片を互いにライゲーションした後、大腸菌に導入した。大腸菌を、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地(1%NaCl、1%ポリペプトン、および0.5%酵母エキス)中37℃にてカナマイシンを選択マーカーにして、ライゲーションした断片を含むプラスミドpBSaphIIを得た。pIJ702(モルナー(Molnar)ら、J. Ferment. Bioeng.、72巻、368-372頁、1991年)および得られたpBSaphIIをそれぞれ制限酵素PstIで処理し、2つの断片をライゲーションした後、大腸菌に導入した。カナマイシンを選択マーカーにして、プラスミドpIJE702を得た。
次に、pTYM18を鋳型にoriT(0.8kb)をプライマー5および6(配列番号14および15)を用いて上記と同様にPCRで増幅した。得られた断片を制限酵素HincIIおよびSmaIで処理し、そしてpIJE702を制限酵素SspIで処理した。得られた2つの断片をライゲーションした後、大腸菌に導入した。カナマイシンを選択マーカーにして、プラスミドpIJEC702を得た。次いで、pIJEC702のNdeI部位を、QuikChange II Kit(Stratagene)ならびにプライマー7および8(配列番号16および17)を用いてサイレント変異によって欠失させ、pIJEC’702を得た。
次に、S. septatus TH-2ゲノムDNAを、S. septatus TH-2[Streptomyces septatus TH-2と命名・表示され、受託番号:FERM P−17329(寄託日:1999年3月24日)として、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所、特許微生物寄託センター(現:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(日本国茨城県つくば市東1丁目1−1)に寄託されている]から、サイトウ・ミウラ法(サイトウ(Saito,H.)ら、Biochem. Biophys. Acta.,72巻、619-629頁、1963年)により調製した。SSMPプロモーター(0.4kb)を、S. septatus TH-2ゲノムDNAを鋳型としてプライマー9および10(配列番号18および19)を用いて上記と同様にPCRで増幅した。また、S. aureofaciens TH-3ゲノムDNAをS. aureofaciens TH-3(FERM P−21343)から上記と同様の方法により調製した。TH−3 collターミネーター(0.5kb)を、S. aureofaciens TH-3ゲノムDNAを鋳型としてプライマー11および12(それぞれ配列番号20および21)を用いて上記と同様にPCRで増幅した。SSMPプロモーター断片を、AseIおよびEcoRIで処理し、ターミネーター断片をEcoRIおよびBglIIで処理し、そしてpIJEC’702を制限酵素AseIおよびBglIIで処理した。得られた3つの断片をライゲーションした後、大腸菌JM109に導入した。カナマイシンを選択マーカーにして、プラスミドpTONA5を得た。プラスミドpTONA5の構成(制限酵素地図)を図8に示す。このプラスミドpTONA5には、SSMPプロモーター配列(配列番号22)およびTH−3 collターミネーター(配列番号23)が含まれている。
(実施例3:組換えSOT発現ベクターおよび組換えSGT発現ベクターの構築)
SOTの生化学的研究のために、株の入手可能性の点でSGT(ストレプトマイセス・グリセウス由来のトリプシン)を比較酵素として選択した。そこで、組換え酵素を、活性形態として細胞外培地中に分泌するように、S. lividans 1326株をSOTまたはSGT発現用の宿主株として用いて、SOTおよびSGTについて、それぞれ以下のようにして発現ベクターを構築した。
まず、SOT遺伝子を、NdeI部位を含むセンスプライマー(5’−CATATGCAGAAGAACCGACTCGTCC−3’:配列番号24(ATGが開始コドン))と停止コドンの下流にHindIII部位を含むアンチセンスプライマー(5’−AAGCTTTACAGCGTGGCCGCGGCGG−3’:配列番号25(TTAが停止コドン))とのセットおよびKOD ver.2 DNAポリメラーゼ(東洋紡績株式会社)を用いてPCRにより増幅した。得られたフラグメントを、Zero Blunt TOPO PCRクローニングキット(Invitrogen)を用いてクローニングして配列決定した。SOTをコードするDNAフラグメントをNdeIおよびHindIIIで切断し、そしてpTONA5aのNdeI−HindIIIギャップに連結し、発現ベクターpTONA5a(sot)を得た。
次に、SGTをコードする遺伝子を、NdeI部位を含むセンスプライマー(5’−CAACATATGAAGCACTTCCTGCGTGC−3’:配列番号26(ATGが開始コドン))とHindIII部位を含むアンチセンスプライマー(5’−TGCCGGTACGAAGCTTCAGAGCGTGCG−3’:配列番号27(TCAが停止コドン))とのセットならびにストレプトマイセス・グリセウスATCC 10137株のゲノムを用いて、DNAKOD−plus Ver.2キット(TOYOBO)を用いてPCRにより増幅した。これらのプライマーは、非特許文献22に開示されているトリプシン遺伝子(sprT)のヌクレオチド配列から設計した。SGTをコードする遺伝子を有する発現ベクター(pTONA5a(sgt))の構築は、上記のpTONA5a(sot)と同様の操作で行った。
(実施例4:組換えSOTおよびSGTの発現ならびに精製)
上記実施例3で得られた組換えSOTおよびSGTの発現ベクターを、それぞれ大腸菌S17−1に導入して形質転換した。形質転換体の単一コロニーを、カナマイシン50μg/mLを含むLB培地中で37℃にて8時間培養した。細胞を回収し、ピペットを用いてLB培地で3回洗浄して、カナマイシンを除去した。細胞を500μLのLB培地に懸濁し、次いで放線菌S. lividans 1326株の胞子懸濁液と混合した。混合物をISP No.4寒天プレート上に塗布し、30℃にて18〜22時間培養した。カナマイシン20μg/mLおよびナリジキシン酸ナトリウム67μg/mLを含むソフトアガー栄養培地の4.5mLを、寒天プレート上に分配し、30℃にてさらに3日間インキュベートした。単一コロニーを、水道水中に2.0%大豆ミール、2.0%マンニトール、カナマイシン(20 μg/mL)およびナリジキシン酸ナトリウム(5μg/mL)を含む培地を含む寒天プレート上に画線した。得られたS. lividans 1326形質転換体を、500ml容バッフル付フラスコ中のPG培地50mLに接種し、そして180rpmで回転振とうしながら30℃にて6日間増殖させた。
組換えSOTの培養上清を、4℃にて25mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に対して透析した。組換えSOTの精製は、上記の野生型と同様に行った。一方、組換えSGTについては、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を用いることおよびVivapure Sスピンカラムから0.15M NaClで溶出することを除いて、組換えSOTと同様に精製を行った。得られたそれぞれの酵素溶液を、10mM Tris−HCl(pH8.0)に対して透析し、精製組換えSOTおよび組換えSGTを得た。
(実施例5:組換えSOTおよびSGTについての生化学的特徴の比較検討)
トリプシンのコンセンサス基質であるBz−L−Arg−pNA・HCl(Arg−pNA)を、組換えSOTおよびSGTの生化学的研究に用いた。標準的なアッセイを以下のように行った:10μLの酵素溶液を、50mM Tris−HCl(pH8.0)中2mMのArg−pNAの90μLに添加し、そしてサーマルサイクラー(TaKaRa)を用いて37℃にて30分間インキュベートした。コントロール混合物は、酵素を含まなかった。インキュベーション後、反応混合物を98℃にて1分間加熱して、酵素反応を停止した。次いで、25μLの反応混合物を96ウェルマイクロタイタープレートのウェル中の75μLの50mM Tris−HCl(pH8.0)に添加した。加水分解アッセイを、マイクロプレートリーダーを用いてp−ニトロアニリンの放出による405nmの吸光度を測定することによって決定した。
酵素活性に対するpHの影響については、50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4〜6)、Tris−マレイン酸緩衝液(pH6〜7)、Tris−HCl(pH7〜9)、およびグリシン−NaOH(pH9〜10.6)中で検討した。酵素の至適温度については、10mM CaCl2の存在または不在下で適切な加熱処理(30〜70℃)で上記の条件下で決定した。
熱安定性試験を、以下のように行った:10mM CaCl2を含むまたは含まない酵素溶液を、サーマルサイクラーを用いて種々の温度(30〜70℃)で10分間インキュベートした。インキュベーション後、残存活性を、上記の条件下で測定し、そして4℃での活性に対する比として算出した。酵素安定性に対するカルシウムの影響を、0〜100mMのCaCl2での熱安定性試験に基づいて検討した。相対活性を、カルシウムイオンを含まない場合の酵素活性に対する比として算出した。
加水分解活性の速度論的アッセイでは、反応を1.5mLキュベット中で行った:0.8mLの反応混合物は、37℃にて、50mM Tris−HCl(pH8.0)中に0.06〜0.3mMの範囲の最終濃度のArg−pNAと精製酵素とを含む。1分当たりの405nmでの吸光度の上昇を、U2800分光光度計(Hitachi)を用いてモニターした。初期速度を、光学密度プロファイルの直線部分から決定した(ε405nm=10600M−1cm−1)。酵素活性の1ユニットを、アッセイ条件下で1分当たり1μmolのp−ニトロアニリンを放出するに必要とされる酵素量として定義した。
至適pHおよび温度、熱およびpH安定性、インビビターなどの生化学的特性について検討した。結果を表2に示す。
精製した組換えSOTは、SDS−PAGE上の野生型SOTと同じ分子量として約24kDaの分子量に対応する単一バンドを示した。SOTの特性は、至適pHおよび至適温度ならびに熱安定性についてSGTと同様であった。これらの組換え体は、熱安定性試験において、カルシウムイオンによって非常に安定化された(図4)。組換えSOTは、カルシウムによって実質的に約80倍安定化され、一方、組換えSGTは、カルシウムによって約20倍安定化された。なお、これらの活性は、カルシウムの存在によってわずかに増強された(SOT:1.4倍、SGT:1.2倍)。
基質としてArg−pNAを用いる組換えSOTおよびSGTの見かけのKmおよびkcat値を決定した(表2)。Km値は、組換えSOTおよびSGTについて、それぞれ0.014mMおよび0.026mMであった。kcat値は、SOTおよびSGTについてそれぞれ12.7(s−1)および5.8(s−1)であった。したがって、SOTのkcat/Kmは、SGTよりも4.1倍高かった。
(実施例6:基質特異性の検討)
蛍光エネルギー転移(FRETS)コンビナトリアルライブラリーにより、基質特異性の解析を行った。FRETS−25Xaaライブラリー(株式会社ペプチド研究所:配列番号3)は、図5に示される構造を有する基質のライブラリーである。これは、アミノ末端のD−2,3−ジアミノプロピオン酸(A2pr)残基の側鎖に連結された高蛍光の2−(N−メチルアミノ)ベンゾイル(Nma)基を含む。このNmaは、Lysのε−アミノ官能基に連結した2,4−ジニトロフェニル(Dnp)基によって効率的に消光されている。FRETS−25Xaaライブラリーを基質として、上記実施例4で得た精製SOTおよびSGTについて、50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて37℃にて酵素反応を行った。
一次スクリーニングに、50ngの組換えSOTおよびSGTを用いた。FRETSを用いる手順は、非特許文献24に従って行った。反応を、ARVO 1420マルチラベルカウンター(Perkin Elmer)を用いてλex355nmおよびλem460nmでの蛍光強度の増加によってモニターした。組換えSOTおよびSGTのP1位での優先性を、図6に示す。図6から、組換えSOTおよびSGTの両方とも、P1位で主にArgおよびLys残基を優先することがわかった。
次いで、二次スクリーニングについては、ライブラリー中から最良の基質としてFRETS−25Arg(配列番号3の4位のアミノ酸がArgである)を選択した。それぞれ12ngの組換えSOTおよび35ngの組換えSGTを用いて、37℃にて5分間の酵素反応を行って、P2位およびP3位についての酵素の優先性を決定した。反応混合物へ酢酸を添加し、95℃にて5分間加熱して、酵素反応を停止させ、そして基質の切断速度を決定した。得られた試料の約25%の量が切断されていた。液体クロマトグラフィー(LC)−マススペクトロメトリー(MS)により、組換えSOTおよびSGTによって切断されたFRETS−25Argに由来する配列を同定した。相対蛍光強度を、最も多い生成物を1として比較したピーク面積から算出した。結果を図7に示す。
図7に示すように、組換えSOTおよびSGTはいずれも、P2位でTyr、Ile、およびLysを降順で優先し、そしてP3位でArgを優先した。両方の酵素とも、P2およびP3位で酸性残基を優先しなかった。
(実施例7:組換えSOTおよびSGTによる種々のコラーゲンの加水分解の検討)
組換えSOTおよびSGTの天然コラーゲンに対する分解活性を、ウシアキレス腱由来の天然の不溶性I型コラーゲン(Sigma)およびヒト胎盤由来のIV型コラーゲン(Sigma)を用いて、非特許文献18に記載の手順に基づいて検討した。反応混合物は、2mgコラーゲン、10mMのCaCl2を含む0.4mLの50mM Tris−HCl(pH8.0)、および0.1mLの酵素溶液を含んでいた。37℃でのプレインキュベーション後、反応を、37℃にて振とう(1000rpm)しながら30〜60分間行った。コントロール混合物は、酵素を含まなかった。反応を、1μLの0.2M HClの添加によって停止した。遊離アミノ基の増加の初期速度を、ニンヒドリン法によって測定した。4℃にて10000gでの10分間の遠心分離後、0.1mlの上清を、0.4mLのニンヒドリン呈色試薬溶液(ナカライテスク株式会社)と混合し、そして97℃にて10分間加熱し、次いで、氷上で混合物を冷却した。次いで、2−プロパノール(1mL)を混合物に添加し、そして570nmでの上清の吸光度の上昇を測定した。参照酵素として、クロストリジウム・ヒストリカム(Clostridium histolyticum)のI型コラゲナーゼ(ColI:Sigma)を用いた。1コラーゲン切断ユニットは、カルシウムイオンの存在下、37℃にてpH7.4で5時間インキュベートしたときのI型コラゲナーゼ(ColI)によるコラーゲンからペプチドの遊離が、1.0μmolのロイシンに対するニンヒドリン呈色に相当する酵素量である。
図8に示すように、組換えSOTおよびSGTは両方とも、繊維状のI型コラーゲンを顕著に分解した。これらのコラーゲン分解活性は、参照酵素としてのColIよりも非常に高かった(6.4〜8.3倍)(図8A)。IV型コラーゲンについては、組換えSOTのコラーゲン分解活性は組換えSGTよりも5.6倍高かった(図8B)。このように、SOTは、I型およびIV型の両方のコラーゲンを非常によく加水分解するが、SGTはIV型コラーゲンを加水分解する能力に乏しいことを見出した。
次に、組換えSOTおよびSGTの基質特異性をさらに検討するために、フルオレセイン標識したウシ皮膚DQ−I型コラーゲン、ヒト胎盤DQ−IV型コラーゲン、ブタ皮膚DQ−ゼラチン、およびフルオレセインカゼイン(いずれもMolecular Probes)を基質として用いて決定した。37℃にて5分間のプレインキュベーションの後、アッセイを、10mMのCaCl2を含む緩衝液を用いて、上記と同様に行った。参照酵素として、TPCK処理したウシ膵臓トリプシン(Sigma)およびColIを用いた。結果を図9に示す。
上記の組換えSOTの蛍光標識I型コラーゲンに対する加水分解活性は、組換えSGTと同様であり、ColIよりも9.6倍高かった(図9A)。これに対して、図9Bに示すように、IV型コラーゲンに対しては、組換えSOTのみが非常に高い加水分解活性を有し、組換えSOTの活性は、SGTよりも6.5倍高かった。蛍光標識したコラーゲンに対する加水分解の結果は、天然のコラーゲンに対する加水分解の結果とよく一致していた(図8および9)。SOTはまた、ゼラチンに対してもSGTよりも高い加水分解活性を示した(図9C)。なお、カゼイン加水分解は、ウシ膵臓トリプシンがSOTおよびSGTよりもかなり高かった(図9D)。これらの結果は、構造タンパク質基質に対して、組換えSOTは広い基質特異性を有することを示す。したがって、SOTは、ヘリックスコラーゲンおよび多くの切断を有する非ヘリックスコラーゲンの両方を分解し得、そして繊維状および基底膜コラーゲンを攻撃する能力を有する、独特の酵素であることがわかった。
本発明によれば、IV型コラーゲンに対して高い加水分解活性を有するトリプシン様酵素が提供される。本発明のトリプシン様酵素を用いれば、これまで酵素的にほとんど分解されなかったIV型コラーゲンを分解することができる。したがって、食品、医薬品などの分野において、基底膜コラーゲンを含む素材のさらなる利用が可能となる。
ストレプトマイセス・オミヤエンシス84A06株由来の精製トリプシン様酵素のSDS−PAGEによる電気泳動写真である。レーン1は分子量マーカーであり、そしてレーン2は、2μgの精製酵素である。
SOTの遺伝子のヌクレオチド配列およびその推定アミノ酸配列を示す図である。推定−35および−10配列ならびに推定リボソーム結合部位(SD)を、ヌクレオチド配列中に下線を引いた。精製酵素を用いて決定したN末端および内部配列を、それぞれ太字および二重下線で示す。停止コドンをアステリスクで示す。
ストレプトマイセス由来の成熟トリプシンおよびトリプシノーゲンの一次構造のアラインメントを示す図である。
組換えSOTおよびSGTの活性とカルシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。
FRETS−25Xaaコンビナトリアルライブラリーの構造を示す。Xaaは、Cys以外の19の天然アミノ酸のそれぞれが組み込まれた固定位置を示す。5アミノ酸残基(P、Y、K、I、およびD)の混合物を、各固定されたXaaに対するZaa位の5アミノ酸残基(F、A、V、E、およびR)の混合物とともにYaa位に組み込んだ。
FRETS−25Xaaコンビナトリアルライブラリーを用いた組換えSOT(上)およびSGT(下)のP1優先性(すなわち、好ましいXaa)を示すグラフである。相対蛍光強度を、最も多い生成物を100%として比較した割合で示す。
組換えSOTおよびSGTのP2およびP3優先性を示すグラフである。XaaをArgで固定したFRETS−25Argを基質とし、加水分解産物を、LC−MSを用いて分析した。相対蛍光強度を、最も多い生成物を1として比較したピーク面積から算出した。
天然コラーゲンに対する組換えSOTおよびSGTの加水分解活性を示すグラフである。Aは、ウシアキレス腱由来の不溶性I型コラーゲン、およびBは、ヒト胎盤由来のIV型コラーゲン基質とした場合の結果を示す。データは、3つの独立した実験の平均±SDとして表す。
種々のフルオレセイン結合した基質、すなわち、(A)ウシ皮膚I型DQ−コラーゲン、(B)ヒト胎盤IV型DQ−コラーゲン、(C)ブタ皮膚DQ−ゼラチン、および(D)フルオレセインカゼインに対するSOT、SGT、ウシ膵臓トリプシン、およびColIについての比活性を示すグラフである。データは、3つの独立した実験の平均±SDとして表す。