JP4714848B2 - Dnaポリメラーゼ変異体 - Google Patents

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Description

本発明はDNAポリメラーゼD(PolD)変異酵素遺伝子及び該遺伝子にコードされるDNAポリメラーゼD(PolD)変異酵素に関する。
DNAポリメラーゼはDNAシークエンシング反応、遺伝子増幅反応(PCR反応)、DNAの放射活性標識、変異遺伝子の試験管内合成等に有用な酵素である。現在までに知られているDNAポリメラーゼは、アミノ酸配列の共通性から、大きく4つのファミリーに分類することができる。その中で一般的に遺伝子操作実験用試薬として利用されているのは、大腸菌DNAポリメラーゼIや好熱菌サーマスアクアティカスDNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ)に代表されるファミリーAと、T4ファージDNAポリメラーゼに代表されるファミリーBに属するものである。今までに至適温度の異なる種々のDNAポリメラーゼが細菌や動植物から発見されているが、多くが常温生物由来のため、耐熱性に乏しく、鋳型DNAの94℃以上での熱変性反応を含むPCR反応等には不適当であった。また、耐熱性DNAポリメラーゼとしてTaq DNAポリメラーゼ等のファミリーA酵素(PolA)が市販されているが、いずれも3'-5'校正エキソヌクレアーゼ活性を欠くため、PCR反応等のポリメラーゼ反応中にエラーを誘発しやすく、正確性を求められるPCR反応等には不向きである。また、高耐熱性で3'-5'校正エキソヌクレアーゼ活性を持つファミリーB酵素(PolB)が、パイロコッカスやサーモコッカス等の超好熱性古細菌より単離され、市販されているがプライマー伸長活性が弱く、長鎖DNAのPCR反応には適さない。さらに、PolAやPolBを含む既存のDNAポリメラーゼは鋳型DNAの認識にイオン結合等の相互作用を用いるため、高塩濃度下ではDNA合成能は低く、高塩濃度下での遺伝子増幅反応には不向きであった。
遺伝子増幅法としては、市販の耐熱性PolAとPolBを用いる従来型PCR法や、DNA合成鎖置換活性(Displacement活性)の強いφ29DNAポリメラーゼを用いる常温PCR法が開発されているが、既存のPolAとPolB酵素は複製できる領域は短く、数10kbが上限である。また、合成速度も30b/secと遅い。一方、φ29DNAポリメラーゼは常温で遺伝子増幅ができるため、増幅反応に高価な装置は必要なく、簡便に行うことができるが、ランダムプライマーを用いるため、複製される領域は比較的短く、長鎖のDNA合成産物は得難い。さらに、上記の既存酵素を用いて、血液、体液等から直接的にDNAを増幅することは困難である。それは、いずれの既存酵素も高塩濃度でDNA合成活性が低下するためであり、反応液中の塩濃度を下げるための、脱塩操作が必須である。耐熱性で、DNA鎖伸長の校正機能である3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有し、かつプライマー伸長活性が強く、高塩濃度下でも目的DNA領域を短時間で複製できる新規耐熱性ファミリーD DNAポリメラーゼ(PolD)を創製し、廉価で安定に供給する事が強く求められていた。したがって、本発明の課題は、このような要求を満たす新規酵素を提供する点にある。
PolDは2つのサブユニット(LとS)から構成される高分子量ヘテロオリゴマー構造を有し、サブユニット単独発現では極めて不安定であった。我々は、先に両サブユニットの共発現系を開発し、PolDの高発現に成功している。組み換え法で得られたPolDは極めて高い耐熱性とDNA合成活性、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を有していた。
本発明者は、このような成果をふまえ、さらに研究を進め、PolDの2つのサブユニット(LとS)の欠失変異体を作成し、DNA合成活性やエキソヌクレア-ゼ活性発現に必須な領域の探索を行った。そしてPolDヘテロオリゴマー野生型分子および欠失分子等の生化学的機能解析の結果、高塩濃度下(0.2M以上の 食塩濃度)でも高いDNA合成能を保持している欠失変異酵素を見いだし、本発明に至った。
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1) 小サブユニットとインテイン配列を含有しない大サブユニットとからなり、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するパイロコッカス属古細菌由来の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素において、小サブユニットが、DNA合成活性制御領域であって、かつ3’―5エキソヌクレアーゼ’活性抑制領域が削除されていることを特徴とする、上記耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体。

(2) 小サブユニットから削除される領域が、配列番号33に示されるアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列と45%以上の相同性を有するアミノ酸配列を少なくとも含むことを特徴とする。上記(1)に記載の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体。

(3) 以下に示される大サブユニットと小サブユニット変異体とからなり、かつDNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体。

1)a)配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいはb)a)のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する大サブユニット。
2)a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいはb)a)のアミノ酸配列において、1乃至数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する小サブユニット変異体。

(4) 上記(3)に記載の大サブユニットをコードするDNAと、同小サブユニット変異体をコードするDNAとからなる組み合わせ。


(5) パイロコッカス属古細菌由来の、小サブユニットとインテイン配列を含有しない大サブユニットからなる耐熱性ヘテロオリゴマー酵素における小サブユニットにおいて、配列番号33に示されるアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列と45%以上の相同性を有するアミノ酸配列を少なくとも含む領域が削除され、かつ、大サブユニットとヘテロオリゴマーを構成したとき、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するものであることを特徴とする、耐熱性ヘテロオリゴマー酵素の小サブユニット変異体。

(6) a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいはb)a)のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、インテイン配列を含まない大サブユニットとヘテロオリゴマーを構成したとき、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するものであることを特徴とする、上記(5)に記載の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素の小サブユニット変異体。

(7) 上記(6)に記載の小サブユニット変異体をコードするDNA。

(8) 小サブユニットと大サブユニットからなり、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素における小サブユニットをコードするDNAであって、 配列番号2に示される塩基配列において、499〜600番目の領域が削除された塩基配列を有するか、あるいは、該塩基配列において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、又は付加された塩基配列を有するDNA。

(9) 小サブユニットと大サブユニットからなり、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素における小サブユニットをコードするDNAであって、請上記(8)に記載のDNA、あるいは該DNAと相補の配列を有するDNAとストリンジェントな条件下、ハイブリダイズするDNA。

(10) 上記(7)〜(9)のいずれかに記載のDNAを含む組み換えベクター

(11) 上記請求項(7)〜(9)のいずれかに記載のDNA及び請求項2に記載の大サブユニットをコードするDNAが、共発現可能に含むことを特徴とする、組み換えベクター。

(12) 上記(10)又は(11)に記載の組み換えベクターが導入されていることを特徴とする、形質転換体。
本発明により、高温かつ高塩濃度環境下で長鎖DNAを高速で正確に複製するDNAポリメラーゼが提供でき、該酵素はLong-PCR等に有用である。また、当該酵素を用いた遺伝子配列解析に関する新手法の開発が可能になる。
本発明は、小サブユニットとインテイン配列を含有しない大サブユニットとからなり、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するパイロコッカス属古細菌由来の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素において、小サブユニットにおけるDNA合成活性制御領域であって、かつ3’―5エキソヌクレアーゼ’活性抑制領域を削除することにより、該酵素の高塩濃度下におけるDNA合成活性(プライマー伸長活性)を向上させるとともに、3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を著しく高めたものである。
小サブユニットとインテイン配列を削除した大サブユニットからなり、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素は、本発明者等の先の出願(特願2000−116257(特開2001−299348号公報)に記載されている。この出願の発明は、パイロコッカス・ホリコシ由来の、DNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素の大サブユニットにおいてインテイン配列が存在することを初めて見いだし、該インテイン配列を除去することにより、該酵素のプライマー伸長活性が著しく向上するという知見に基づきなされたものである。このパイロコッカス・ホリコシ由来の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素における小サブユニットのアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列は、それぞれ、配列番号1及び2に示され、また、同大サブユニットのアミノ酸配列及びその遺伝子の配列は配列番号3及び4にそれぞれ示され、インテイン部分のアミノ酸配列はその955〜1120番目、同塩基配列は2863〜3360番目の領域である。
インテイン部分が除去された大サブユニットのアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列を配列番号5及び6にそれぞれ示す。
また、本発明の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体の作成するために用いる酵素としては、このようにインテイン配列を除去したものばかりでなく、もともとインテイン配列を含有しない大サブユニットを有するパイロコッカス属の耐熱性ヘテロダイマー酵素であってもよい。このような酵素としては、例えば、パイロコッカス・フリオサス由来の耐熱性DNAポリメラーゼを挙げることができる。この酵素における大サブユニット及び小サブユニットのアミノ酸配列、遺伝子配列は、それぞれ「Microbial Genome Database(http://mbgd.genome.ad.jp/)」に掲載されている。
パイロコッカス・ホリコシにおける、上記耐熱性ヘテロダイマー酵素(耐熱性DNAポリメラーゼ;以下PolDという場合がある)の小サブユニットにおける、DNA合成活性制御領域は、該小サブユニットのアミノ末端側の167−200番目の領域であり、該領域は3’―5エキソヌクレアーゼ’活性抑制領域でもある。このことは、以下の実験により解明された。
すなわち、パイロコッカス・ホリコシ由来で、アミノ末端にヒスチジンタグが付加した小サブユニットとインテインを含まない大サブユニットを共発現させる発現プラスミド、pET15b/PolSL(-Intein) を基に、PolDの大小サブユニット(DP2とDP1)の欠失変異体を作成し、DNAポリメラーゼ活性やエキソヌクレア-ゼ活性発現に必須な領域の探索を行った。なお、pET15b/PolSL(-Intein)は、上記出願明細書にその製法とともに詳述されている。
その結果、まず、DP1のアミノ末端側ドメイン、200残基が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS(1-200)は野生型PolDに較べ、著しくエキソヌクレア-ゼ活性が向上することが明らかとなった。また、この反応系に欠失分子、小サブユニット(DP1)のアミノ末端側ドメインの1〜200番目の領域が欠失したタンパク質DP1(1-200)を大過剰に加えると、エキソヌクレア-ゼ活性が野生型PolDレベルまで阻害された。このことは、DP1サブユニットのアミノ末端側ドメイン、DP1(1-200)がカルボキシル末端側Mre11様ドメイン、DP1(201-622)のエキソヌクレアーゼ活性を負に制御していることを示す。
次に、この200残基からなるドメインDP1(1-200)のどこの領域が直接的にエキソヌクレアーゼ活性阻害に働いているかを明らかにするために、DP1(1-200)分子をさらに小分子化した、欠失タンパク質を造成した。これをDP1サブユニットのアミノ末端側ドメイン、200残基が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS(1-200)の反応系に加え、エキソヌクレアーゼ活性阻害の程度を評価し、阻害機能を有するペプチド領域を調べた結果、DP1(1-200)ドメインのC末端に局在する34アミノ酸残基領域、DP1(167-200;配列番号33)が酸性かつ両親媒性の性質を有しており、そのイオン性相互作用と疎水性相互作用を介してPolDヘテロオリゴマーの3‘−5’エキソヌクレア-ゼ活性とDNAポリメラーゼ活性を各々コントロールすることが明らかになった。
さらに、DP1(167-200)領域を欠失したPolDヘテロオリゴマー変異体の生化学的機能解析の結果、高塩濃度下(0.2M以上の 食塩濃度)でも高いDNAポリメラーゼ活性を保持していることを確認し、一方、野生型PolDヘテロオリゴマー酵素は0.2M食塩存在下ではDNAポリメラーゼ活性は大きく低下した。
以下に上記小サブユニットのアミノ基末端200残基(DP1(1−200))のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。DP1(167−200;配列番号33)は下線部で示される。
本酵素の小サブユニットのアミノ末端側ドメイン、DP1(1-200)、の遺伝子配列(配列番号7)
本酵素の小サブユニットのアミノ末端側ドメイン、DP1(1-200)のアミノ酸配列(配列番号8)
上記DP1(167−200)と相同する配列は、パイロコッカス属古細菌由来のPolD酵素の小サブユニットに広く存在し、上記DNA合成活性制御領域はパイロコッカス属細菌に広く保存されており、図12に、該領域の配列アライメントを示す。
したがって、少なくとも、パイロコッカス属菌由来のPolDにおけるDP1(167−200)と相同する領域を欠失させれば、パイロコッカス・ホリコシ以外のパイロコッカス属菌由来のPolD酵素においても、高塩濃度下におけるDNAポリメラーゼ活性、及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を向上させることが可能である。DP1(167−200)との相同率は、少なくとも45%以上、好ましくは55%以上、さらに好ましくは80%以上であれば、DNAポリメラーゼ活性制御領域であるといえ、本発明においては、このようなDP1(167−200)と相同性を有する領域を欠失した他のパイロコッカス属菌由来の小サブユニット変異体、あるいは該変異体を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素も含む。
本発明においては、小サブユニットのDNAポリメラーゼ活性制御領域を欠失させるが、欠失させる範囲はDNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を損なわない限り、DNAポリメラーゼ活性制御領域を少なくとも含めばよい。このためには、DNAポリメラーゼ活性制御領域を含むように小サブユニットのN末端側を欠失させることが好ましい。例えば、パイロコッカス・ホリコシ由来のPolDの場合、上記小サブユニットの167―200残基を欠失したものに加え、1−200残基、140−200残基を欠失した小サブユニット変異体について、上記配列番号5に示すインテイン配列を欠失させた大サブユニットとヘテロオリゴマー酵素を形成した場合に高塩濃度下のDNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性向上効果を奏することを確認している。
すなわち、本発明の小サブユニット変異体をより具体的に挙げれば、例えば、パイロコッカス・ホリコシ由来の、配列番号1に示されるアミノ酸配列において少なくとも167−200番目の領域が欠失したアミノ酸配列を有するパイロコッカス・ホリコシ由来の小サブユニット変異体が挙げられるが、該アミノ酸配列において、1乃至数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する小サブユニット変異体であっても、大サブユニットとヘテロオリゴマーを構成したとき、DNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を有するものである限り、これらを包含する。また、これら小サブユニットとヘテロオリゴマー酵素を構成する大サブユニットは、上記配列番号5に示すアミノ酸配列を有するものの他に、該配列と1乃至数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するものもヘテロオリゴマーを構成したとき、DNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を有するものである限り、これらを包含する。
また、本発明における、DNAポリメラーゼ活性制御領域を削除した小サブユニット変異体をコードするDNAを得るための手段には特に制限がなく、常法による。例えばパイロコッカス属菌の小サブユニットをコードするDNAあるいは該DNAを含むプラスミド等のベクターを鋳型とし、適宜残存させる領域の塩基配列を基に合成したプライマーを使用し、PCRより増幅させる手段が挙げられる。
本発明の小サブユニット変異体をコードするDNAの具体例は、例えば、パイロコッカス・ホリコシ由来の配列番号2に示される遺伝子配列中、少なくとも上記DNA合成活性制御領域をコードする部分(499−600)を欠失した塩基配列を有するDNAが挙げられるが、該DNAと相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なDNAであって、DNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素の小サブユニットとなりうるタンパク質を発現可能なものであってもよい。
本発明におけるストリンジェントな条件とは、0.5%SDS、5×デンハルツ及び100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC中で、42℃以上、例えば、50℃〜65℃、あるいは65〜70℃のよりシビアな条件で4時間〜一晩保温し、次いで、6×SSC中、室温で10分間、0.1% SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1% SDSを含む0.2×SSC中、42℃で30分間洗浄する条件である。
また、上記少なくともDNAポリメラーゼ活性制御領域をコードする部分(499−600)を欠失した塩基配列を有するDNA該塩基配列において、1乃至数個のヌクレオチドが欠失、置換または付加されたDNAであっても、DNAポリメラーゼ活性及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素の小サブユニットとなりうるタンパク質を発現可能なものであればよい。
本発明においては、これら小サブユニット変異体をコードするDNA及び上記大サブユニットをコードするDNAを組み合わせて、これらが共発現可能なように宿主微生物に導入するが、この導入においては、上記小サブユニット変異体をコードするDNAと大サブユニットをコードするDNAとを別々のプラスミド等の発現ベクターに連結して、宿主微生物に導入してもよいが、これら小サブユニットをコードするDNA変異体と大サブユニットをコードするDNAとを同一の発現ベクターに導入し、同一のあるいは2つのプロモータ下で発現させることが好ましい。本明細書にいう共発現とは宿主内で2つのDNAが同時に発現し、これらによりコードするタンパク質が生成可能なことをいう。また、使用する宿主微生物としては、大腸菌、枯草菌等の細菌類、あるいは酵母等が挙げられる。
上記のように小サブユニット変異体をコードするDNAと大サブユニットをコードするDNAを導入することにより得られた形質転換体を、それぞれの宿主微生物にとって好適な培地で培養することにより、菌体を含む培養物から耐熱性ヘテロオリゴマー酵素を採取する。該酵素は高塩濃度下におけるDNAポリメラーゼ活性、及び3’―5エキソヌクレアーゼ’活性を著しく高められた酵素である。
なお、パイロコッカス・ホリコシ由来の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素における、小サブユニット、インテイン配列を含まない大サブユニット、これらを共発現するベクターpET15b/PolSL(-Intein)、及びこれを含む形質転換体の製法については、上記本発明者の先の出願(特願2000−116257号(特開2001−299348号公報))に詳述されているが、これらの製法については、参考例として以下に示す。
《参考例》
(1) 菌の培養
パイロコッカス・ホリコシ(理化学研究所受託番号JCM9974)は次の方法で培養した。13.5gの食塩、4gのNa2SO4, 0.7 gのKCl, 0.2g のNaHCO3 0.1gのKBr、30 mgのH3BO3、10gのMgCl2・6H2O、1.5g のCaCl2 、25mgのSrCl2、1.0mlのレザスリン溶液(0.2g/L)、1.0gの酵母エキス、5gのバクトペプトンを1Lに溶かし、この溶液のpHを6.8に調整し加圧殺菌した。ついで、乾熱滅菌した元素硫黄を0.2%となるように加え、この培地をアルゴンで飽和して嫌気性とした後、JCM9974を植菌した。培地が嫌気性となったか否かはNa2S溶液を加えて、培養液中でNa2Sによるレザスリン溶液のピンク色が着色しないことにより確認した。この培養液を95℃で2〜4日間培養し、その後遠心分離し集菌した。
(2) 染色体DNAの調製
JCM9974の染色体DNAは以下の方法により調製した。培養終了後5000rpm、10分間の遠心分離により菌体を集菌する。菌体を10mM Tris(pH 7.5)- 1mM EDTA 溶液で2回洗浄後InCert Agarose(FMC社製)ブロック中に封入する。このブロックを1%N-ラウロイルサルコシン(lauroylsarcosine), 1mg/mlプロテアーゼK溶液中で処理することにより、染色体DNAはAgaroseブロック中に分離調製される。
(3) 染色体DNAを含むライブラリークローンの作製
上記(2)で得られた染色体DNAを制限酵素HindIIIで部分分解後、アガロースゲル電気泳動により約40kb長の断片を調製した。このDNA断片と制限酵素HindIIによって完全分解したBacベクターpBAC108L及びpFOS1とをT4リガーゼを用いて結合させた。前者のベクターpBAC108Lを用いた場合には結合終了後のDNAをただちに大腸菌内へ電気孔窄法により導入した。後者のベクターpFOS1を用いた場合には結合終了後のDNAをGIGA Pack Gold (ストラタジーン社製)により試験管内でλファージ粒子内に詰め込み、この粒子を大腸菌に感染させることによりDNAを大腸菌内に導入した。これらの方法により得られた抗生物質クロラムフェニコール耐性の大腸菌集団をBAC及びFosmidライブラリーとした。ライブラリーからJCM9974の染色体をカバーするのに適したクローンを選択して、クローンの整列化を行った。
(4) 各BAC或いはFosmidクローンの塩基配列決定
整列化されたBAC或いはFosmidクローンについて順次以下の方法で塩基配列を決定した。大腸菌より回収した各BAC或いはFosmidクローンのDNAを超音波処理することにより断片化し、アガロースゲル電気泳動により1kb及び2kb長のDNA断片を回収した。この断片をプラスミドベクターpUC118のHincII制限酵素部位に挿入したショットガンクローンを各BAC或いはFosmidクローン当たり500クローン作製した。各ショットガンクローンの塩基配列をパーキンエルマー、ABI社製自動塩基配列読み取り装置373または377を用いて決定した。各ショットガンクローンから得られた塩基配列を塩基配列自動連結ソフトSequencherを用いて連結編集し、各BAC或いはFosmidクローンの全塩基配列を決定した。
(5) DNAポリメラーゼ遺伝子の同定
上記で決定された各BAC或いはFosmidクローンの塩基配列の大型計算機による解析を行い、DNAポリメラーゼの大サブユニットをコードする遺伝子(配列番号4)と小サブユニットをコードする遺伝子(配列番号2)が同定された。
(6) 小サブユニット発現プラスミドの構築
小サブユニット構造遺伝子領域の前後に制限酵素(NdeIとBamHI)サイトを構築する目的で下記のDNAプライマーを合成し、PCRでその遺伝子の前後に制限酵素サイトを導入した:上部プライマー: PolS1; 5'-TTTTGTCGACGTACATATGGATGAATTCGTAAAG-3'(配列番号9;下線部はNdeIサイトを示す);
下部プライマー: PolS2; 5'-TTTTGAGCTCTTTGGATCCTTAGAAGCTCCATCAGCACCACCT-3'(配列番号10;下線部はBamHIサイトを示す)。
PCR反応後、制限酵素(NdeIとBamHI)で完全分解(37℃で2時間)した後、その構造遺伝子を精製した。さらに、pET11a或いはpET15b(ともにNovagen社製)を制限酵素NdeIとBamHIで切断・精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで16℃、2時間反応させ連結した。連結したDNAの一部を大腸菌E. coli XL1-BlueMRF1 (Stratagene社製)のコンピテントセルに導入し形質転換体のコロニーを得た。得られたコロニーから発現プラスミドをアルカリ法で精製した。得られた発現プラスミドは各々pET11a/PolS或いはpET15b/PolSと略記された。構造遺伝子上にランダム変異がないことはDNA配列決定により確認された。
(7) 完全長の大サブユニットを発現するためのプラスミドの構築
完全長の大サブユニット遺伝子を2段階でpGEMEX-1ベクター(プロメガ社製)にクローニングした。前半部のDNA断片は以下の二つのプライマーを用い、PCR法で得た:上部プライマー: PolL1; 5'-CTCGACTTTAGCATATGGCTCTGATGGAGC-3'(配列番号11;下線部はNdeIサイトを示す);
下部プライマー: PolL2; 5'-GCTTGTCGACGCCATAAACTTTGACATTATCCATTGCGCGCTTAAGCAAC-3'(配列番号12;下線部はSalIサイトを示す)。
このPCR産物をNdeIとSalIで完全消化した後、pGEMEX-1ベクターにクローニングし、pGEM/PolL1-2と略記した。
後半部のDNA断片は以下の二つのプライマーを用い、PCR法で得た:上部プライマー:
PolL3; 5'-TTTATGGCGTCGACAAGCTGAAGG-3'(配列番号13;下線部はSalIサイトを示す);
下部プライマー: PolL4; 5'-TATAACTTATGCATTGTGGTTATTTCGCTGAGAAG-3'(配列番号14;下線部はNsiIサイトを示す)。
このPCR産物はSalIとNsiIで完全消化した後、先に調製したpGEM/PolL1-2にクローニングし、完全長の大サブユニット遺伝子を含むpGEM/PolLを得た。
(8) インテインを除去した大サブユニットを発現するためのプラスミドの構築
パイロコッカス・ホリコシ(P. horikoshii)のDNAポリメラーゼの大サブユニット遺伝子の中には(蛋白質性のイントロンをコードする)インテインが一つ含まれるので、プライマーPolL3とPolL6(下記)を用いたPCR法でインテインの上流のDNA断片を増幅し、プライマーPolL5(下記)とPolL4を用いたPCR法でインテインの下流のDNA断片を増幅した。この2断片とプライマーPolL3とPolL4を用い、インテインの除かれたDNA断片をオーバーラップPCRで増幅した。次にこの産物を制限酵素SalIとNsiIで完全消化した後、先に調製したpGEM/PolL1-2にクローニングし、インテインの除かれた大サブユニット遺伝子を含むpGEM/PolL(-Intein)を得た。
PolL5: 5'-CACGCTGCAAAGAGGAGAAATTGCGATGGTGATGAAGATGCT-3'(配列番号15)
PolL6: 5'-AGCATCTTCATCACCATCGCAATTTCTCCTCTTTGCAGCGTG-3'(配列番号16)
(9) 小サブユニットとインテインを除去した大サブユニットを共発現するプラスミドの構築
目的のヘテロダイマーDNAポリメラーゼの安定した生産を図るために両サブユニットを共発現するプラスミドの構築を行った。まず、pET15b/PolSのBamHIサイトの直上流域に新しいマルチクローニングサイトを導入するためにプライマーPolS1とPolS3(下記)を用いPCR反応を行った。なお、下記のようにPolS3には5'-末端より順番にBamHI、NsiI、SalI、SacIIサイトがコードされている。PCR産物をNdeIとBamHI処理し、pET15bに挿入することにより、小サブユニットの終止コドンとBamHIサイトの間にマルチクローニングサイトを含むpET15b/PolS(M)を造成した。次に、pGEM/PolL(-Intein)を鋳型DNAとし、プライマーPolL7(下記)とPolL2を用いPCR反応を行った。得られた産物は新しいSacIIサイトを5'-末端にもち、pGEM/PolL(-Intein)のタンパク質発現ユニットのうち、リボソーム結合サイトからコード領域中のSalIサイトまでを含んでいる。
これをSacIIとSalI処理し、pET15b/PolS(M)に造成されたマルチクローニングサイトに挿入した。このプラスミドはpET15b/PolSL1-2と略記される。さらに、pGEM/PolL(-Intein)をSalIとNsiI処理し、大サブユニットの後半部分の遺伝子(インテインを含まない)を単離し、これをpET15b/PolSL1-2のタンパク質発現ユニットの最後に残ったSalIとNsiIサイトに挿入した。得られたプラスミドはpET15b/PolSL(-Intein)と略記される。この発現プラスミドpET15b/PolSL(-Intein)によりアミノ末端にヒスチジンタグが付加した小サブユニットとインテインを含まない大サブユニットの共発現が可能になった。
PolS3: 5'-CGGGATCCATGCATGGTCGACACCGCGGTCAGCACCACCTACTAAAGTCGAG-3'(配列番号17;下線部は5'-末端より順番にBamHI, NsiI, SalI, SacIIサイトを示す。)
PolL7: 5'-GGTGTCCGCGGCTCACTATAGGGAGACCAC-3'(配列番号18;下線部はSacIIサイトを、太字はpGEMEX-1ベクターのリボソーム結合サイトを示す。)
(10) 組換え遺伝子の発現大腸菌(E. coli BL21-CodonPlus(DE3)-RIL, Stratagene社製)のコンピテントセルを融解して、ファルコンチューブに0.1mL移した。その中に発現プラスミド溶液0.005mLを加え氷中に30分間放置した後42℃でヒートショックを30秒間行い、SOCmedium 0.9mLを加え、37℃で1時間振とう培養する。その後アンピシリンを含む2YT寒天プレートに適量まき、37℃で一晩培養し、形質転換体を得た。この形質転換体はE. coli BL21-CodonPlus(DE3)-RIL/ pET15b/PolSL(-Intein)と命名され、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに受託番号FERM P-17816として寄託されている。

以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
〔実施例1〕小サブユニットのアミノ末端側ドメイン、DP1(1-200)、の野生型および欠失変異体の発現プラスミドの構築
DP1(1-200)の野生型およびN-末端、C-末端欠失変異体の構造遺伝子領域の前後に制限酵素(NdeIとBamHI)サイトを導入し、各遺伝子を増幅する目的で、以下のDNAプライマー対を合成した。
1) DP1(1-200)に関して:
上部プライマーF1;
5'-GGGGGCATATGGATGAATTCGTAAAGGGATTA-3' (配列番号19;下線部はNdeIサイトを示す)
下部プライマーR4;
5'- GGGGGATCCTCAATAGTCTTTTTCTATCGGAACGAC -3' (配列番号20;下線部はBamHIサイトを示す)

2) DP1(33-200)に関して:
上部プライマーF2;
5'-TTCAATGAGGGACATATGTCGCTCATAGAA-3' (配列番号21;下線部はNdeIサイトを示す)
下部プライマーR4
3) DP1(49-200)に関して:
上部プライマーF3;
5'-TCCAGGGAAACGCATATGATAGATGATGAG-3' (配列番号22;下線部はNdeIサイトを示す)
下部プライマーR4

4) DP1(66-200)に関して:
上部プライマーF4; 5'-TCCATCGGGGCTCATATGGAACTTCCACAG-3' (配列番号23;下線部はNdeIサイトを示す)
下部プライマーR4
5) DP1(85-200)に関して:
上部プライマーF5;
5'-GGAGAAGGTTCACATATGGTTCCAGATCAT-3' (配列番号24;下線部はNdeIサイトを示す)
下部プライマーR4

6) DP1(1-139)に関して:
上部プライマーF1
下部プライマーR1;
5'- GGGGGATCCTCATCCAGTGGAAATAGAACTCTC -3' (配列番号25;下線部はBamHIサイトを示す)
7) DP1(1-166)に関して:
上部プライマーF1
下部プライマーR2;
5'- GGGGGATCCTCAAACATACGTGAAGGGATAGC -3' (配列番号26;下線部はBamHIサイトを示す)

8) DP1(33-166)に関して:
上部プライマーF2
下部プライマーR2

9) DP1(33-180)に関して:
上部プライマーF2
下部プライマーR3;
5'- GGGGGATCCTCAATACTTAGGATACTCTTCTAGTT -3' (配列番号27;下線部はBamHIサイトを示す)
PCR反応後、制限酵素(NdeIとBamHI)で完全分解(37℃で2時間)した後、その構造遺伝子を精製した。さらに、pET15b(Novagen社製)を制限酵素NdeIとBamHIで切断・精製した後、上記の構造遺伝子とT4リガーゼで16℃、2時間反応させ連結した。連結したDNAの一部を大腸菌E. coli XL1-BlueMRF1 のコンピテントセルに導入し形質転換体のコロニーを得た。得られたコロニーから発現プラスミドをアルカリ法で精製した。得られた発現プラスミドは各々pET15b/ DP1(1-200)、pET15b/ DP1(33-200)、pET15b/ DP1(49-200)、pET15b/ DP1(66-200)、pET15b/ DP1(85-200)、pET15b/ DP1(1-139)、pET15b/ DP1(1-166)、pET15b/ DP1(33-166)、pET15b/ DP1(33-180)、と略記する。構造遺伝子上にランダム変異が無い事はDNAシーケンスイングにより確認された。
〔実施例2〕DP1のN末端側あるいは内部配列が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS(1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)、を発現する為のプラスミドの構築

(1) DP1のN末端側が欠失したヘテロオリゴマー変異体を発現するプラスミドの構築法を以下に示す。まず、共発現ベクターpET15b/PolSL(-Intein)(参考例9,10参照)を鋳型にし、以下のDNAプライマー対を使用し、DP1の3'領域がPCR増幅された。
1) PolDΔS (1-200)に関して:
上部プライマーF6;
5'-TGGATACCTCATATGGAGATAAAGTTCGACGTTAGACG-3' (配列番号28;下線部はNdeIサイトを示す。太字はDP1遺伝子からの配列を示す)
下部プライマーS2M;
5'-CGGGATCCATGCATGGTCGACACCGCGGTCAGCACCACCTACTAAAGTCGAG -3' (配列番号29;下線部は左から各々、BamHI、SalI、SacIIサイトを示す。太字はDP1遺伝子3'端の相補鎖配列を示す)
2) PolDΔS (1-65)に関して:
上部プライマーF4
下部プライマーS2M

さらに、その増幅産物はNdeIとBamHIサイトを用い、pET15bに挿入された。次に、2nd PCRを、目的インサートを含むpET15bベクターを鋳型とし、上部プライマーpET-Sph; 5'-CAAGGAATGGTGCATGCAAGGAGATGGC-3' (配列番号30;下線部はpET15bベクターのNdeIサイトの354 bp上流に存在するSphIサイトを示す)と下部プライマーS2Mを用いて行なった。この増幅産物をSphIとSacIIで消化し、pET15b/PolSL(-Intein)のSphI-SacII断片とすげ替えることにより、2種の共発現ベクターpET15b/ SΔ (1-200)LとpET15b/ S Δ (1-65)Lを得た。
(2) DP1の内部配列が欠失したヘテロオリゴマー変異体を発現するプラスミドの構築法を以下に示す。
図1にoverlap PCR法による内部配列が欠失したDP1遺伝子の増幅に必要なプライマー対の塩基配列とDP1遺伝子上の位置を示す。まず、共発現ベクターpET15b/PolSL(-Intein)を鋳型にし、以下の2種のDNAプライマー対を使用し、DP1の5'断片と3'断片を別々にPCR増幅した。これらの2断片は、前者の3'領域と後者の5'領域が重複されるようにプライマー設計がなされているので、次に2断片は混合され、外側プライマーを用いてoverlap PCRで連結された。
1) ΔS (140-200)に関して:
DP1の5'断片; 上部プライマーF1と下部プライマーR5
DP1の3'断片; 上部プライマーF7と下部プライマーS2M
2) ΔS (167-200) に関して:
DP1の5'断片; 上部プライマーF1と下部プライマーR6
DP1の3'断片; 上部プライマーF8と下部プライマーS2M
さらに、そのoverlap PCR産物はNdeIとBamHIサイトを用い、pET15bに挿入された。次に、目的インサートを含むpET15bベクターを鋳型とし、上部プライマーpET-Sph; 5'-CAAGGAATGGTGCATGCAAGGAGATGGC-3' (配列番号30;下線部はpET15bベクターのNdeIサイトの354 bp上流に存在するSphIサイトを示す)と下部プライマーS2Mを用いてPCR反応を行なった。この増幅産物をSphIとSacIIで消化し、pET15b/PolSL(-Intein)のSphI-SacII断片とすげ替えることにより、2種の共発現ベクターpET15b/ S Δ (140-200)LとpET15b/ SΔ (167-200)Lを得た。
〔実施例3〕組換え遺伝子の発現
大腸菌(E. coli BL21-CodonPlus(DE3)-RIL, Stratagene社製)のコンピテントセルを融解して、ファルコンチューブに0.1mL移す。その中に発現プラスミド溶液0.005mLを加え氷中に30分間放置した後42度でヒートショックを30秒間行い、SOCmedium0.9mLを加え、37度で1時間振とう培養する。その後アンピシリンを含む2YT寒天プレートに適量まき、37度で一晩培養し、形質転換体を得た。
当形質転換体をアンピシリンを含む2YT培地(2リットル)で600nmの吸収が0.6に達するまで培養した後、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を加え37℃でさらに3時間培養した。培養後遠心分離(6,000rpm,20min)で集菌した。
〔実施例4〕小サブユニットのアミノ末端側ドメイン、DP1(1-200)の野生型および欠失変異体の精製
集菌した菌体をA緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0), 100 mM NaCl)で懸濁し、氷中で超音波破砕した。さらに75℃で15分加熱後、遠心分離(12,000 g、10分)し上澄液を得た。これを粗酵素液とした。次にこの粗酵素液をA緩衝液で平衡化したHitrap Qカラム(5ml,アマシャムバイオサイエンス社製)に添加し、A緩衝液で洗浄後、NaCl 濃度勾配(0.1-1M)で溶出した。ここで得られた溶出画分はセントリコンYM-10(ミリポア社)で濃縮し、Superose 12カラム(HR 10/30、アマシャムバイオサイエンス社製)に添加し、B緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0), 200 mM NaCl)で溶出した。その後ピーク画分はマイクロコンYM-10(ミリポア社)で濃縮され、4℃で保存された。
〔実施例5〕DP1のN末端側あるいは内部配列が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS (1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)、の精製
集菌した菌体を 50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し、フレンチプレスで細胞破砕した。さらに85℃で30分加熱後、遠心分離(27,000 g、20分)し上澄液を得た。これを粗酵素液とした。次にこの粗酵素液を50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したHitrap Qカラム(5ml,アマシャムバイオサイエンス社製)に添加し、同緩衝液で洗浄後、NaCl 濃度勾配(0-1M)で溶出した。この溶出液をC緩衝液(20mMトリス塩酸緩衝液 (pH7.9), 0.5 M NaCl, 5 mM イミダゾール)で平衡化したNi-カラム(1 ml, Novagen)に添加し、25 mM イミダゾールを含む20mMトリス塩酸緩衝液 (pH7.9), 0.5 M NaClで洗浄し、200 mM イミダゾールを含む20mMトリス塩酸緩衝液 (pH7.9), 0.5 M NaClで溶出した。ここで得られた溶出画分はセントリコンYM-10(ミリポア社)で濃縮し、Superose 12カラム(HR 10/30、アマシャムバイオサイエンス社製)に添加し、B緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0), 200 mM NaCl)で溶出した。その後、PolDヘテロオリゴマー酵素を含むピーク画分は等量の50%グリセロールと混和され、-20℃で保存された。
〔実施例6〕酵素活性の解析
以下A〜Eにおける実験において用いた手法、試薬は以下のとおりである。
(1)DNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)
プライマー伸長活性測定用の基質調整は以下の様である。まず、25 μlアニール緩衝液中(10 mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5), 10 mM MgCl2, 1 mM DTT, 50 mM NaCl)で、20 μMの84-merオリゴマー
(5'-TCCTCTAGAGTCGACCTGCAGGCATGCAAGCTTGGCACTGGCCGTCCTTTTACAACGTCGTGACTGGGAAAACCCTGGCGTTAC-3'(配列番号31))と20 μMの5'-FAMラベル化された34-merオリゴマー
(5'-GTAACGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTA-3'(配列番号32))を混和し、100℃、5分間加熱し、室温までovernightで徐冷しすることによりアニールさせた。
プライマー伸長反応は、10 μl反応液中(20 mM トリス塩酸緩衝液(pH8.8), 6 mM MgCl2, 10 mM KCl, 10 mM (NH4)2SO4, 0.1% Triton, 0.25 mM dNTP, 200 nM アニール基質を含む)で行われた。
反応はDNAポリメラーゼを加え、60℃で行われた。所定時間後に40μlのStop液(95%ホルムアミド、10 mM EDTA、0.5 mg/mlのブロモフェノールブルーを含む)を加える事で反応停止させた。反応産物は5分間の煮沸後、氷水中で急冷され、1x TBE緩衝液を用いた7M尿素含有12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分離された。PAGEパターンはフルオロイメージャー585(アマシャムバイオサイエンス社製)で可視化され、分析された。
(2)3'-5'エキソヌクレアーゼ活性
反応系にdNTP を含まないこと以外はプライマー伸長活性測定と同様な反応条件を用いた。DNAポリメラーゼを加え、60℃で15分間反応させた。所定時間後に40μlのStop液(95%ホルムアミド、10 mM EDTA、0.5 mg/mlのブロモフェノールブルーを含む)を加える事で反応停止させた。反応産物は5分間の煮沸後、氷水中で急冷され、1x TBE緩衝液を用いた7M尿素含有12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分離された。PAGEパターンはフルオロイメージャー585(アマシャムバイオサイエンス社製)で可視化され、分析された。
(3)タンパク質定量とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
タンパク質量はProtein assay system (Bio-Rad社)を用い、牛血清アルブミンを標準タンパク質として定量された。SDS-PAGEはLaemmli法に従い、タンパク質バンドはクマシーブリリアントブルーR-250で染色され、分子量マーカーとして広レンジタンパク質マーカー(Bio-Rad社)を用いた。

A.PolDヘテロオリゴマーのDP1(1-200)の欠失変異体の0.2 M NaCl存在下におけるDNAポリメラーゼ活性
(1)PolDヘテロオリゴマー野生型とDP1(1-200)の欠失変異体。
図2.に実施例5で得られた精製酵素標品のSDS-PAGEパターンを示す。野生型とDP1(1-200)の欠失変異体(PolDΔS (1-200))は完全に精製された。

(2)食塩濃度変化によるPolDヘテロオリゴマー野生型と、実施例5で得られたDP1(1-200)欠失変異体(PolDΔS (1-200))の3'-5'エキソヌクレアーゼ活性とDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)への影響。
3'-5'エキソヌクレアーゼ活性は図3Aに示すように、84/34-mer DNA基質を用い、食塩濃度を0から300mM(0, 100, 150, 200, 300mM)まで変化させて測定した。食塩が存在しないと、PolDΔS (1-200)は野生型に較べると高い3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を示した。食塩の効果は阻害的で、両酵素において、塩濃度が上昇すると3'-5'エキソヌクレアーゼ活性は低下し、0.2M濃度でほとんど検出出来ない。
一方、DNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)は図3Bに示すように、84/34-mer FAMラベル化2本鎖DNA基質を用い、0.2 M食塩存在下でのプライマー伸長活性として、食塩濃度を0から300mMまで変化させて測定された。食塩が存在しないと、PolDΔS (1-200)は野生型に較べると、高い3'-5'エキソヌクレアーゼ活性による基質の分解のため、DNAポリメラーゼ活性は低く抑えられた。しかし、野生型PolDのDNAポリメラーゼ活性は塩濃度に感受性で、塩濃度が上昇すると低下したが、PolDΔS (1-200)のそれは塩濃度耐性で、0.2 Mまで、DNAポリメラーゼ活性は高く維持された。そのレベルは食塩のない時の野生型PolDのDNAポリメラーゼ活性レベルと同等であった。このことは、DP1(1-200)の欠失が食塩耐性を欠失変異体PolDΔS (1-200)に付与することを示す。
(3) 0.2 M食塩存在下でのPolD野生型とPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)の比較。
0.2 M食塩存在下でのPolD野生型とPolDΔS(1-200)のDNAポリメラーゼ反応(プライマー伸長反応)を、84/34-mer FAMラベル化2本鎖DNA を用いて60℃2分間行い、 0.2 M食塩存在下でのPolD野生型とPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)を産物の長さと産物量で評価した。図4に示すように、5PolDΔS (1-200)は0.2
M食塩存在下であろうと5分間で全長(84-mer)の産物を合成できたが、PolD野生型は0.2 M食塩存在下では12.5分後でも全長産物は合成できなかった。
(4) 0.2 M食塩存在下でのPolD野生型とPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)の測定。
0.2 M食塩存在、非存在下でPolD野生型とPolDΔS (1-200)を用いてプライマー伸長反応を行い、DNA合成産物量を定量した。プライマー伸長反応は、84/34-merのFAMラベル化2本鎖DNA基質を用い、60℃、2分間行った。結果を図7に示す。図5の結果から明らかなように、 食塩存在下でPolDΔS (1-200)はPolD野生型の2倍の産物を合成できた。この結果は、PolDからのDP1(1-200)の欠失は、その変異体に0.2 M食塩存在下であろうと、食塩非存在下のPolD野生型と同等のDNAポリメラーゼ活性を付与することを示した。
B.DP1(1-200)による0.2 M NaCl存在下でのDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)の抑制
0.2 M NaCl存在下で、実施例5で得られたPolDΔS (1-200)を、実施例4で得られたDP1(1-200)、及び牛血清アルブミン(BSA)と各割合で添加混合し、84/34-mer FAMラベル化2本鎖DNA基質を用い、プライマー伸長反応を60℃、2分間行った。
なお、DP1(1-200)及びBSAのPolDΔS (1-200)に対するモル比は、それぞれ0:1、15:1、30:1、60:1、90:1、120:1とした。
結果は、図6に示すように、0.2 M食塩存在下で高く維持されたPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性は過剰量のDP1(1-200)の添加で抑制された。0.2 M食塩存在下で、PolDΔS (1-200)の反応液にDP1(1-200)を加えると、その添加量の増加に伴いプライマー伸長産物量が減少し、産物の長さも短くなった。DP1(1-200)がPolDΔS (1-200)量の120倍加えられた時に、その活性はPolD野生型とほぼ同等になった。すなわち、DP1(1-200)はDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)を抑制する。
C.DP1(1−200)の各種欠失変異体の使用に基づく、DNAポリメラーゼ活性制御領域の同定
(1)各種欠失変異体
実施例4で得られた、DP1(1−200)の各領域を欠失させたDP1(1−200)の各種欠失変異体のSDSパターンを図7に示す。図7に示されるように、DP1(1−200)及びDP1の各種欠失変異体は完全に精製された。
(2) DP1(1-200)中のDNAポリメラーゼ活性制御領域の同定。
0.2 M NaCl存在下で、PolDΔS (1-200)を、各濃度のDP1(1-200)野生型及びその各種変異体とそれぞれ混和し、プライマー伸長反応を、84/34-mer FAMラベル化2本鎖DNA基質を用いて60℃、2分間行い、プライマー伸長活性を測定した。
なお、DP1(1-200) 野生型及びその各種欠失変異体のPolDΔS (1-200)に対するモル比は、それぞれ15:1、30:1、60:1、90:1、120:1とした。
結果を図8に示す。これによれば、DP1(1-200)のN末端欠失変異体が添加された時に、プライマー伸長活性への抑制効果が見られ、欠失変異体量が増加するにつれ、鎖長が減少した。一方、DP1(1-200)のC末端欠失変異体(DP1(1-139), DP1(1-166), DP1(33-166))では、そのようなプライマー伸長活性への阻害効果は検出されなかった。
このことから、34残基ポリペプチド、DP1(167-200)はDNA合成活性制御領域であり、PolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)を維持する機能を阻害することが明らかになった。
D.各種ヘテロオリゴマー変異体のプライマー伸長活性の測定
(1)実施例5で得られた、各種DP1のN末端側あるいは内部配列が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS (1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)、のSDS-PAGEパターン。
図9に示すように、ヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS (1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)は完全に精製され、DP2と欠失DP1に相当する2本のタンパク質バンドが確認された。このことからいずれの変異体もヘテロオリゴマー構造を形成することができ、85℃、30分間の加熱処理に耐性であることが明らかになった。なお、この試験においては各1.6μgのヘテロオリゴマー変異体がSDS-PAGEで分析された。
(2) DP1のN末端側あるいは内部配列が欠失したヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS (1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)のプライマー伸長活性の測定。
上記各ヘテロオリゴマー変異体を用いて、プライマー伸長反応を、84/34-mer FAMラベル化2本鎖DNA基質を用いて60℃、2分間行い、プライマー伸長活性を測定した。なお、伸長DNA産物の定量は、Fluor Imagerを用いて計測される蛍光強度の積算により行った。その際、標準偏差(SD)値は3回の独立した実験結果を基に計算された。
図10に示すように、食塩非存在下ではPolDΔS (1-200)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)のDNA合成活性は野生型PolDより低かった。0.2M食塩存在下ではPolDΔS (1-200)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)のDNA合成活性は高く維持されたが、逆に野生型PolDとPolDΔS (1-65)は活性が減少した。このことから34残基ポリペプチド、DP1(167-200)が食塩存在下でのDNAポリメラーゼ活性制御に必須な配列であることが明らかになった。また、この事実から、34残基ポリペプチド、DP1(167-200)をPolDから欠失させるならば、高食塩存在下でも、DNA伸長活性を高く維持した変異酵素の創成が可能であることが明かである。
E.34残基ポリペプチドの3'-5'エキソヌクレアーゼ活性の抑制
DP1(1-200) 及びその8種の欠失変異体(DP1(33-200)、(DP1(49-200)、DP1(66-200)、(DP1(85-200)、(DP1(1-139)、DP1(1-166)、DP1(33-180、DP1(33-166))を、それぞれPolDΔS (1-200)と60:1のモル比で混和し、51-merのFAMラベル化一本鎖DNAを基質として、60℃、15分反応させ、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を測定した。また、上記D.(2)で用いた各種ヘテロオリゴマー変異体(PolDΔS (1-200)、PolDΔS (1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200))を、DP1(1−200)及びその8種の欠失置換体の非存在下、84/34-merFAMラベル化2本鎖DNA基質、及び51-merのFAMラベル化一本鎖DNAを基質として、それぞれ60℃、15分反応させ、それぞれ3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を測定した。
なお、これらにおいては、上記A.(2)に記載したように、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性に対し食塩は阻害的に働くので、本試験の3'-5'エキソヌクレアーゼ活性測定には食塩は加えなかった。
結果を図13に示す。これによれば、C末端欠失タンパク質が加えられた場合は、PolDΔS (1-200)のエキソヌクレアーゼ活性の抑制は観察されなかった。一方、DP1(1-200)やN末端欠失タンパク質が加えられた場合は、PolDΔS (1-200)のエキソヌクレアーゼ活性が減少した(図11A)。また、PolDΔS (167-200))は良好な3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を示したが、PolDΔS (1-65)は野生型と同等であった(図11B) 。
これらのことから34残基ポリペプチド、DP1(167-200)が食塩非存在下での3'-5'エキソヌクレアーゼ活性制御に必須な配列であることが明らかになった。したがって、34残基ポリペプチド、DP1(167-200)をPolDから欠失させるならば、食塩非存在下で、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性が高進した変異酵素の創成が可能であることが明かである。
F.他のPyrococcus属菌由来のPolD酵素における、DP1(167−200)と相同性を有する領域
他のPyrococcus属菌由来のPolD酵素のアミノ酸配列を抽出し、DP1(167−200)領域について、GeneWorks program (IntelliGenetics)により、その配列アライメントを作成した(配列番号33〜35、図12)。
なお、各PolD配列のアクセッション番号は、P. horikoshii, BA000001; P. abyssi, AJ248283; P. furiosus, AE010127である。
これによれば、DNAポリメラーゼ活性(プライマー伸長活性)制御領域であり、かつ、NaCl非存在下で3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を抑制する領域である34残基ポリペプチド、DP1(167-200)はPyrococcus属の産するPolDのDP1サブユニットに広く保存されていることが明らかである。従って、この相同領域を欠失させるならば、P. horikoshii由来PolDで観察されたDNA合成活性と3'-5'エキソヌクレアーゼ活性への機能改変がP. abyssiとP. furiosus由来PolD酵素でも再現可能である。
overlap PCR法による内部配列が欠失したDP1遺伝子(ΔS(140-200)及びΔS(167-200))の増幅に必要なプライマー対の塩基配列とDP1遺伝子上の位置を示す図である。 PolDヘテロオリゴマー野生型とDP1(1-200)の欠失変異体のSDS-PAGEパターンを示す図である。Mは分子量マーカーを示す。 食塩濃度のPolDヘテロオリゴマー野生型とDP1(1-200)の欠失変異体の3'-5'エキソヌクレアーゼ活性(A)とDNAポリメラーゼ活性(B)へ与える影響を示す図である。-Enzymeは酵素反応系からDNAポリメラーゼを除いたコントロールサンプルを示す。 0.2M食塩存在下と非存在下での、PolD野生型とPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性の経時変化を示す図である。 0.2M食塩存在下と非存在下での、PolD野生型とPolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性の定量試験の結果を示す図である。左は0.2M食塩存在下と非存在下でプライマー伸長反応を行った産物の電気泳動パターンを示し、右は該電気泳動パターンから計算された、全プライマー量に対する伸長産物の割り合いを示す。 DP1(1-200)添加による、PolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性の変化を示す図である。 DPI(1−200)及びその各種欠失変異体のSDS−PAGEパターンを示す図である。Mは分子量マーカーを示す。 DP1(1−200)及びその各種欠失変異体による、PolDΔS (1-200)のDNAポリメラーゼ活性の抑制能を測定した結果を示す図である。 PolDヘテロオリゴマー変異体を構成するDPIのN末端と欠失位置(A) 及びこれら酵素のSDS-PAGEパターン(B)を示す図である。Mは分子量マーカーを示す。 ヘテロオリゴマー変異体、PolDΔS (1-200)、PolDΔS(1-65)、PolDΔS (140-200)、PolDΔS (167-200)のプライマー伸長活性を測定した結果を示す図である。 DP1(1-200)及びその各種欠失置換体の3'-5'エキソヌクレアーゼ活性抑制機能、及び 各種ヘテロオリゴマーの3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を測定した結果を示す図である。 DP1(167−200)領域についての各PolD酵素におけるアミノ酸配列アライメントを示す図である。

Claims (5)

  1. 以下に示される大サブユニットと小サブユニット変異体とからなり、かつDNAポリメラーゼ活性及び3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体。
    (1)a)配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいはb)a)のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する大サブユニット。
    (2)a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいはb)a)のアミノ酸配列において、1乃至数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する小サブユニット変異体。
  2. 請求項1に記載の大サブユニットをコードするDNAと、同小サブユニット変異体をコードするDNAとからなる、請求項1に記載の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体をコードするDNA。
  3. 小サブユニット変異体をコードするDNAが、配列番号2に示される塩基配列において、499〜600番目の領域が削除された塩基配列を有するか、あるいは、該塩基配列において1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、又は付加された塩基配列を有することを特徴とする、請求項2に記載の耐熱性ヘテロオリゴマー酵素変異体をコードするDNA。
  4. 請求項2又は3に記載の小サブユニット変異体をコードするDNA及び請求項2に記載の大サブユニットをコードするDNAを、共発現可能に含むことを特徴とする、組み換えベクター。
  5. 請求項4に記載の組み換えベクターが導入されていることを特徴とする、形質転換体。
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