JP4225616B2 - 新規dna分解酵素 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は遺伝子操作用試薬として有用なDNA分解酵素及び遺伝子工学的手法を用いた該酵素の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子である二本鎖DNAを、塩基配列特異的に認識して切断するDNA分解酵素として最も頻繁に用いられているのは制限酵素と呼ばれるもので、一般に4−8塩基を認識して切断する。制限酵素は、遺伝子操作実験にとって必須の役割を果たしてきており、日常の遺伝子操作実験に用いられて、分子医学、分子生物学、生化学の発展に多大の貢献を果たしてきた。
【0003】
制限酵素以外に、二本鎖DNAの塩基配列を認識して切断する酵素としては、DNA組換え過程に関わるホーミングエンドヌクレアーゼと呼ばれる一群の酵素がある。一般に、これらの酵素は20塩基以上もの長い配列を認識に必要とするが、それぞれの酵素にとって、認識配列は特異的であるから、部位特異的DNA切断の目的で利用することができる。
【0004】
このように、DNAの配列を認識して、切断する酵素については、これまでに多くの実用例があるが、DNAの特異的な立体構造を認識して切断する酵素については、大腸菌のRuvCタンパク質を中心に僅かの研究例があるのみで、基質特異性などの生化学的性質は、ある程度明らかになっているものの、実際に実用化されたものはない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在までに、ホリディ構造などの特異的な立体構造を認識して切断する酵素は、いくつか知られてはいるが、いずれも常温生物由来のもので、熱安定性や試験管内での切断効率は低い。本発明の目的は、DNA組換え中間体である、ホリディ構造DNAを特異的に認識して切断し、二組の二本鎖DNAに解離する酵素として、実用的な酵素を開発し、遺伝子操作用試薬として提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究の結果、超好熱性古細菌 ピロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus) からDNA分解酵素活性を有する新規タンパク質を発見し、該タンパク質をコードする遺伝子をクローニングすることに成功した。さらに、この遺伝子を導入した形質転換体を作製し、該タンパク質を大量生産することに成功した。
【0007】
すなわち本発明は、耐熱性である、DNA組換え過程の中間体構造であるホリデイ構造DNAに特異的に作用して切断し二組の2本鎖DNAに解離させるDNA分解活性を有するタンパク質に関する。
該タンパク質は、例えば、図1または図2に示されるような四分岐のホリディ構造のDNAを認識して、二組の2本鎖DNAが、分離、生成されるように切断する酵素活性を有する(図8を参照)。該タンパク質は耐熱性であり、少なくとも95℃に1時間または90℃に16時間置いても上記活性を有している。
【0008】
一態様によれば本発明のタンパク質は、1)配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は2)配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0009】
本発明者らは、古細菌より、DNA組換え過程における中間体であるホリディ構造(十字架構造)DNAを特異的に認識して切断するリゾルベースの単離を目指して、人工的に合成したホリディ構造DNAを特異的に切断し、二組の二本鎖DNAに解離する活性を有するタンパク質を探索したところ、超好熱性古細菌の一種である、ピロコッカス フリオサスから目的の性質を有するタンパク質を発見した。
【0010】
そのタンパク質をコードする遺伝子領域をクローニングし、得られた遺伝子の塩基配列を調べたところ、123個のアミノ酸からなる小さなオープンリーディングフレーム(ORF)が見つかった。そこで、該ORFのみをサブクローニングして、該タンパク質を大腸菌で産生させた。得られたタンパク質を、電気泳動的に単一バンドにまで精製した後、詳細に基質特異性を調べたところ、該酵素は、図1または図2のような四分岐 (four-way junction)のホリディ構造のみを特異的に認識、切断するという目的の活性を有していた。それ以外の構造では三分岐(three-way junction) 構造は、極少量の切断産物がみられることがあるが、一本鎖、二本鎖、ループアウト構造、一塩基ミスマッチなどは切断されなかった。大過剰(10倍等量)の酵素を反応に加えた場合は、三分岐構造の切断効率は良くなり、また、ループアウト構造をも僅かに切断した。
【0011】
ホリディ構造の切断様式については、切断されたDNA鎖が、DNAリガーゼ反応により、再結合されることより、リン酸ジエステル結合が、5'−リン酸、3'-OHの形で切断されていることを確認した。
【0012】
以上の結果より、該タンパク質を、DNA立体構造特異的な新規DNA分解酵素と結論し、Pfu-HJCエンドヌクレアーゼと命名した。アミノ酸配列について、データベース検索をした結果、有意な相同性を示す、機能既知のタンパク質(あるいは、それをコードする遺伝子)は登録されていないことがわかった。しかし、高い相同配列を有するORFが、これまでに全ゲノム配列が解読されている4種の古細菌(Methanococcus jannaschii, Archaeoglobus fulgidus, Methanobacterium thermoautotrophicum, Pyrococcus horikoshii)の全てから発見され、該酵素が、少なくとも古細菌の中では保存されており、重要な酵素であることが強く示唆された。
【0013】
本発明はまた、1)配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は
2)配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、DNA組換え過程の中間体構造であるホリデイ構造DNAに特異的に作用して切断し二組の2本鎖DNAに解離させるDNA分解活性を有するタンパク質をコードする遺伝子にも関する。
該遺伝子は、好ましくは好熱性細菌に由来するものであり、好ましくは配列番号2の塩基配列を有する。
【0014】
本発明はさらに、配列番号2に記載の遺伝子とストリンジェントな条件下にハイブリダイズ可能で、かつDNA組換え過程の中間体構造であるホリデイ構造DNAに特異的に作用して切断し二組の2本鎖DNAに解離させるDNA分解活性を有するタンパク質をコードする遺伝子に関する。
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能か否かは以下のようにして調べることができる。先ず、ナイロン膜にハイブリダイズの対象となるDNAを固定化する。次にこの膜を、6×SSC、0.01M EDTA、5×Denhardt's溶液、0.5%SDS、100μg/ml変性サケDNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液に68℃で2時間浸漬する。上記組成のプレハイブリダイゼーション溶液に、標識した配列番号2に記載の遺伝子または該遺伝子の転写産物である対応するRNAを加えた溶液(ハイブリダイゼーション溶液)を調製する。この溶液に上で得られたナイロン膜を浸漬し、68℃で3〜16時間ハイブリダイズさせる。その後、2×SSC、0.5%SDSを含む溶液中に一度浸して洗浄し、さらに2×SSC、0.1%SDS溶液中で室温で約15分洗浄する。そしてさらに0.5%または0.1%SDS溶液中で68℃で2時間洗浄する。その後標識に応じ適宜な手段で検出操作を行う。
【0015】
このような遺伝子の例としては図9に示すアミノ酸配列をコードするDNAを挙げることができる。
【0016】
本発明のタンパク質は、周知のDNA組換え技術(例えばモレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning A Laboratory Manual)第2版、第15章(1989)、コールドスプリングハーバーラボラトリー発行、マニアティス他著参照)を用いて、以下のような手順で製造することができる。
1)配列番号1で表されるアミノ酸配列、または配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を調製する。
アミノ酸を欠失、置換、付加させる技術は当業者によく知られている。当該方法の詳細は上記文献に記載されている。
2)該遺伝子を適当なベクターに挿入し、発現ベクターを作製する。
3)該発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。
4)形質転換された宿主細胞を培養する。
5)該培養物から本願発明のタンパク質を単離する。
【0017】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子を大腸菌での発現ベクターpET21a(Novagenn社)に組み込んだプラスミドpPFHJC1を大腸菌BL21(DE3) に導入して得られた組み換え体は、Escherichia coli BL21(DE3)/pPFHJC1と命名、表示され、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM P-17029として寄託されている。
Pfu‐HJCエンドヌクレアーゼは、超好熱性生物から単離された、初めてのホリディ構造DNA解離酵素であり、単離精製された酵素は熱安定性を示す。高温で反応を行うことができることの利点として、従来の常温酵素と比べて、切断効率が良いこと、さらに、基質DNAの塩基配列に基づく二次構造が、切断効率に及ぼす影響が少ないということが期待される。
【0018】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
(1)ピロコッカス フリオサス ゲノムDNAの調製
P. furiosus DSM3638は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zelkulturen GmbHより入手し、文献(ヌクレイック アシッド リサーチ Nucleic Acids Research, 第21巻、259−265ページ)の方法に従って培養した。500mlの培養液から約1.2gの菌体を得た。
これを緩衝液L(10mM トリス−塩酸(pH 8.0), 1mM EDTA, 100mM NaCl)10mlに懸濁し、10%SDSを1ml加えた。撹拌の後、プロテイナーゼK(20mg/ml)を50ml加えて、55℃で60分静置した。その後反応液を順次フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出、クロロホルム抽出した後、エタノールを加えてDNAを不溶化した。回収したDNAを1mlのTE液(10mM トリス−塩酸(pH 8.0), 1mM EDTA) に溶解し、0.75mgのRNase Aを加えて37℃で60分反応させた。その後反応液をもう一度フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出、クロロホルム抽出した後、エタノール沈殿によりDNAを回収した。0.75mgのDNAが得られた。
【0020】
(2)コスミドライブラリーの作製
ストラタジーン社製 SuperCos1 Cosmid Vector kitを用いて、使用説明書に従ってライブラリーを作製した。実施例(1)で得られたDNAを制限酵素Sau 3AIで部分分解した時に、30−42キロ塩基対の断片が生じるように反応条件を決めた。切断後のDNA断片をコスミドベクターのBam HI部位に挿入して、組換えコスミドのライブラリーとした。大腸菌を形質転換して得られたコロニーから適当に10数個を選んで、コスミドを回収し、予想される大きさのDNA断片が挿入されていることを確認した。
【0021】
(3)ライブラリーより粗抽出液の調製
(2)で作製した、組換えコスミドによる形質転換体から、約500個を選んで、それぞれを2mlのLB培地で培養し、集菌後バッファーA(10mM トリス−塩酸(pH 8.0), 2mM 2-メルカプトエタノール, 10%グリセロール)500mlに懸濁後、超音波処理により破砕した。得られた粗抽出液を85℃で10分間熱処理して、大腸菌由来のタンパク質の大部分を変性させ、遠心分離により上清を集め、耐熱性プロテインライブラリーとした。
【0022】
実施例2
(1)ホリディ構造DNAの形成反応
配列表の配列番号4に示すDNAを100pmol用いてポリヌクレオチドキナーゼと [γ-32P] ATPで5'末端リン酸化した後30pmolを同量の配列番号3、5、6に示すDNAと混合し65℃、30分間の熱処理に続いて15時間かけて自然冷却で徐々に室温になるまで温度を下げて図1に示す中心部が移動する四分岐構造を形成させた。対照実験のため、末端標識した配列番号4に示すDNAを同量の配列番号7に示すDNAと混合し、同様の方法で二本鎖DNAを形成させた。
基質特異性を検討するため、末端標識した配列番号4に示すDNAを同量の配列番号8、9、10に示すDNAと混合して中心部が移動しない四分岐構造を、配列番号5、11に示すDNAと混合して中心部が移動する三分岐構造を、配列番号9、12に示すDNAと混合して中心部が移動する三分岐構造を、配列番号13に示すDNAと混合してループアウト構造を、配列番号14に示すDNAと混合して一塩基ミスマッチ、配列番号3あるいは5と混合して半二本鎖・半一本鎖DNAをそれぞれ形成させた。
【0023】
これらの基質の中で切断のみられたものについて、切断位置を決定するために、上記と同様の方法で、調べる各々の腕が末端で標識された、中心部が移動する四分岐構造(図1)、中心部が移動しない四分岐構造(図2)、中心部が移動する三分岐構造(図3)、中心部が移動しない三分岐構造(図4)、およびループアウト構造(図5)をそれぞれ形成させた。また、切断様式を調べるために、配列番号15に示すDNAを、上記と同様に末端標識した後に、上記と同様の方法で配列番号に示すDNA3、6、16と混合し、標識された腕が短い四分岐構造を形成させた。
【0024】
(3)ホリディ構造DNA切断反応
反応溶液として、10mM トリス−塩酸(pH 8.8), 10mM MgCl2, 1mM ジチオスレイトール, 200mM KCl, 10nMの中心部が移動する32P標識四分岐構造DNA,を用意し、この溶液36μl に対してピロコッカス フリオサス細胞粗抽出液4μlを加え、56℃で30分間反応させた後にフェノール/クロロホルムで反応を停止させた。
その上清 20μlに5μlのローディングバッファー[0.025%キシレンシアノール, 0.025%ブロモフェノールブルー, 40%(w/v)庶糖]を加え、5μlをTAE バッファー[40mM トリス−酢酸(pH 8.0), 1mM エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム]中で12%アクリルアミドゲル電気泳動し、アクリルアミドゲルを乾燥させた後にオートラジオグラフィーを行い切断バンドの有無を検出した。この結果、ピロコッカス フリオサス細胞粗抽出液中に四分岐構造DNAを切断する活性が発見された(図6)。
【0025】
(4)耐熱性プロティンライブラリーからの目的の切断活性のスクリーニング
上記反応溶液36μlに対して耐熱性プロテインライブラリーの各抽出液より0.8μlを5クローンずつ、即ち4μlを1反応分として加え、56℃で30分間反応させた後にフェノール/クロロホルムで反応を停止させた。その上清を上記と同様に電気泳動し、オートラジオグラフィーを行い切断バンドの有無を検出した。この結果、クローンNo.25, 463, 465, 469, 473の5区ローンで四分岐構造DNAを切断する活性が発見された。
【0026】
実施例3
(1)目的遺伝子の同定と塩基配列決定
実施例2の(4)で得られたクローン中、No.463からコスミドを単離し、コスミド中に存在するBssHIIで分解した後、EcoRIで部分分解してpUC118 ベクターにサブクローンした。得られた各クローンを実施例2の(3)と同様にホリディ構造DNA切断活性を調べると、約6kbのEcoRI - EcoRI断片が組み込まれたクローンが切断活性を示すことが判明した。そこで該EcoRI - EcoRI断片が pUC118ベクターに組み込まれたものをプラスミド pFU100と命名した。
プラスミド pFU100を用いて挿入DNAの両端から順次欠損変異体を作製した。作製には Kilo-Sequence用 Deletion Kit(宝酒造社製)を利用した。得られた種々の欠損変異体を鋳型としてDNA Sequencing Kit (Perkin Elmer)を用いて挿入断片の塩基配列を決定した。
プラスミド pFU100を用いて制限酵素部位を利用した欠損変異体を作製した。得られた種々の欠損変異体を上記と同様にホリディ構造DNA切断活性を調べ、切断活性に由来するORFを1つに限定した。
【0027】
(2)目的遺伝子の多量発現系の構築
実施例3の(1)で得られた得られた塩基配列中でホリディ構造DNA切断活性に由来すると思われるORFの両端に相当する塩基配列をもとに配列表の配列番号17、18に示すPCR プライマーを作製し、それぞれフォワードプライマー、リバースプライマー配列の中にNdeI(CATATG)、EcoRV(GATATC)配列を組み入れ、NdeI 配列中のATGを翻訳の開始コドンとして利用できるように調節した。PCR法により増幅した遺伝子をpET21a ベクターに組み込んで四分岐構造DNAを特異的に切断する酵素を産生するプラスミドを得、該プラスミド中のPCRで増幅された部分の塩基配列に変化がないことを確認した後、pPFHJC1と命名した。また、該プラスミドで形質転換された大腸菌 BL21(DE3)を Escherichia coli BL21(DE3)/pPFHJC1と命名した。
【0028】
(3)目的酵素タンパク質の製造と精製
実施例3の(2)で得られたEscherichia coli BL21(DE3)/pFHJC1をアンピシリンが100μg/mlの濃度で存在するLB培地 [トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH 7.2] 500mlで培養した。培養液の濁度が0.7 A600に達した時、誘導物質であるイソプロピル−β−D−チオガラクトシド (IPTG)を添加し、さらに3時間培養を行った。
集菌後、菌体を30mlのバッファーA に1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を加えたものに懸濁し、超音波破砕機にかけた。16,000rpm、20分間の遠心分離により粗抽出液を上清として回収し、これに80%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。16,000rpm、20分間の遠心分離により得られた沈殿を30mlのバッファーAに溶解し、再び80%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。16,000rpm、20分間の遠心分離により得られた沈殿を10mlのバッファーAに溶解し、2リットルのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を80℃で、15分間の熱処理をし、16,000rpm、20分間の遠心分離により上清を回収した。この溶液10mlをバッファーAで平衡化したHiTrap Q カラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。展開は0M→1MのNaCl直線濃度勾配により行った。目的の活性は0.5-0.8M NaClのところで溶出された。活性のある画分10mlを集め、2リットルのバッファーB[10mM リン酸カリウム(pH 6.8)、7mM 2−メルカプトエタノール、0.05mM KCl、10%グリセロール]で透析し、バッファーBで平衡化したCHT-II カラム(バイオ-ラッド社製)に供した。FPLC システムを用いて0.01M → 1Mのリン酸直線濃度勾配により展開した結果、目的の活性は0.6−0.8M リン酸のところに溶出された。この画分を2リットルのバッファーA で透析した後、精製標品とし、Pfu-HJC エンドヌクレアーゼと命名した。500mlの培養液から、約1mgの酵素が得られた。
【0029】
実施例4
(1)基質特異性
本発明の、Pfu-HJC エンドヌクレアーゼのDNA切断における基質特異性を調べるために、実施例2の(1)で作製した中心部が移動する四分岐構造、中心部が移動しない四分岐構造、中心部が移動する三分岐構造、中心部が移動しない三分岐構造、ループアウト構造、一塩基ミスマッチ、半二本鎖・半一本鎖DNAを基質DNAとして用いた。
実施例2の(3)で用いた反応溶液に、アニール後の基質DNAを 10nM 、実施例3の(3)で得られたPfu-HJC エンドヌクレアーゼを10nMになるように加え、実施例2の(3)と同様に反応を行った。
反応を停止させた後の溶液8μlに6μlのシークエンス用ローディングバッファー[98%ホルムアミド, 10mM エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム, 0.025%キシレンシアノール, 0.025%ブロモフェノールブルー] を加えて95℃で2分間熱処理した後に2.5μlを8M 尿素を含む変成ポリアクリルアミドゲルで電気泳動をした。アクリルアミドゲルを乾燥させた後にオートラジオグラフィーを行い切断バンドの有無を検出した。その結果、中心部が移動する四分岐構造、中心部が移動しない四分岐構造について強い基質特異性がみられ、中心部が移動する三分岐構造、中心部が移動しない三分岐構造も僅かに切断されることがわかった(図7)。ループアウト構造についても、さらに効率は落ちるものの、切断されていることが確認された。
【0030】
(2)切断位置の決定
本発明の HJC エンドヌクレアーゼの基質DNA内の切断部位を調べるために、実施例2の(1)で作製した各々の腕が末端標識された中心部が移動する四分岐構造、中心部が移動しない四分岐構造、中心部が移動する三分岐構造、中心部が移動しない三分岐構造、ループアウト構造を基質DNAとして用いて、実施例4の(1)と同様に反応、検出した。マーカーとして、同じ末端標識プライマーからマキサムーギルバート法によりGAラダーを作製し、隣のレーンで電気泳動を行って両者のバンドサイズを比較し、切断部位を決定した。
その結果は、図1〜5中の矢印で示したように、各基質について、複数の位置で切断が観察されるが、主として(90%以上)切断される一対の位置が決定された。
【0031】
(3)切断様式の決定
本発明のPfu-HJC エンドヌクレアーゼの切断様式を決定するために、実施例2の(1)で作製した標識された腕が短い四分岐構造を基質DNAとして用いて、実施例4の(1)と同様に反応を行った。反応停止後、エタノール沈殿によりDNAを回収し、回収したDNAを用いてT4 DNAリガーゼによるライゲーション反応を行った。反応終了後、実施例4の(1)と同様にバンドを検出した。マーカーとして、70merと59merの末端標識プライマーを隣のレーンで電気泳動を行って両者のバンドサイズを比較し、ライゲーション反応によって切断部位が結合されるか(70merのバンドが生じるか)を確認した。
その結果は図8に示すように、Pfu-HJCエンドヌクレアーゼによって切断されたDNA鎖がDNAリガーゼによって再結合されて生じる70merの位置にバンドが確認された。
【0032】
実施例5
(1)アミノ酸配列の相同性の検索
Pfu-HJCの構造について、実施例3の(1)で得られたORFをコードするDNAの塩基配列から予想されるアミノ酸配列について、インターネット上のNational Center for Biotechnology Informationのホームページで利用できるBRAST 検索を使用して、有意な相同性を示すタンパク質を公知のDNA、タンパク質データベース上から検索した。その結果、図9に示すように、全ゲノム配列が解読されている4種類の古細菌について、相同性のある配列をコードしうる遺伝子が発見された。これらは機能未知として登録されておりそれら以外には機能既知、未知にかかわらず高い相同性を示す配列のタンパク質またはオープンリーディングはデータベース上に存在しなかった。すなわち、該発明のPfu‐HJCエンドヌクレアーゼと類似した配列を有するタンパク質についてこれまでの知見は何もない。
【0033】
実施例6
(1)耐熱性
本発明のPfu‐HJCエンドヌクレアーゼの耐熱性を決定するために、実施例3の(3)で得られたPfu‐HJCエンドヌクレアーゼを80℃、90℃、95℃で10、30、60分間の熱処理を行った。90℃で一晩(約16時間)の熱処理も試みた。熱処理後のPfu‐HJCエンドヌクレアーゼを10nMになるように加え、実施例2の(3)と同様に反応、電気泳動を行い、切断バンドを検出した(図10)。この結果、Pfu‐HJCエンドヌクレアーゼは95℃で60分間、あるいは90℃で約16時間の熱処理を行っても四分岐構造DNAを切断する活性を保持していることが発見された。
【0034】
【配列表】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【図面の簡単な説明】
【図1】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼのスクリーニングに用いた、中心部が移動する人工ホリディ構造DNA。図中の枠内は分岐点の移動可能な配列を示す。矢印で示した位置は、実施例4の(2)で示した、切断点を示し、矢印の大きさは切断の度合いを表す。
【図2】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼのスクリーニングに用いた、中心部が移動しない人工ホリディ構造DNA。図中の矢印で示した位置は、実施例4の(2)で示した、切断点を示し、矢印の大きさは切断の度合いを表す。
【図3】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼの基質特異性を調べるために調製した、中心部が移動する三分岐DNA。図中の枠内は分岐点の移動可能な配列を示す。矢印で示した位置は、実施例4の(2)で示した、各基質の切断点を示し、矢印の大きさは切断の度合いを表す。
【図4】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼの基質特異性を調べるために調製した、中心部が移動しない三分岐DNA。図中の矢印で示した位置は、実施例4の(2)で示した、各基質の切断点を示し、矢印の大きさは切断の度合いを表す。
【図5】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼの基質特異性を調べるために調製した、ループアウト構造をとるDNA。図中の矢印で示した位置は、実施例4の(2)で示した、各基質の切断点を示し、矢印の大きさは切断の度合いを表す。
【図6】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼ活性の検出。図1および図2に示した、二種類の人工ホリディ構造DNA(放射性標識したもの)を用いて切断反応を行った後、反応物を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーにより検出した。
Pfu: ピロポッカス フリオサス細胞抽出液、RuvC: 大腸菌RuvC蛋白質(ホリディ構造切断酵素活性を有することが知られている)。対照として、通常の二本鎖DNA(70鎖長)を基質とした場合の反応を調べた。
【図7】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼの基質特異性を調べた例。図中に模式的に示した、各種構造をとるDNAを基質として、 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼによる切断反応を行い、反応物を、8M尿素を含む変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーにより検出した。マーカーと対比することにより、切断位置をも決定した。
【図8】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼによる切断様式の解析。
左図に示したように、鎖長の異なるDNAを組合わせて調製したホリディ構造を基質にして、 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼ反応を行った後、その産物にDNAリガーゼを加えて、切断点での結合が見られることを確かめた。反応物を、8M尿素を含む変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーにより検出した。左図のように切断点での再結合がおこると、70鎖長のDNAが生成されることになるが、実際DNAリガーゼ反応によって70鎖長のバンドが確認された。
【図9】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列と相同性を有する古細菌由来の遺伝子産物。
ピロコッカス フリオサス以外に、4種類の古細菌で相同性を有するオープンリーディングフレームがみつかった。Pfu: ピロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus)、Pho: ピロコッカス ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)、Mja:メタノコッカス ジャナシイ(Methanococcus jannaschii)、Afu: アーキオグロバス フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)、Mth: メタノバクテリウム サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)。5種全てで保存されている位置のうち、同一アミノ酸を星印で、同族アミノ酸を2点で、さらに3種以上で保存されている位置を1点で表している。
【図10】 Pfu-HJCエンドヌクレアーゼの耐熱性の解析。図中の温度と時間で熱処理をしたPfu-HJCエンドヌクレアーゼを図1に示した人工ホリディ構造DNA(放射性標識したもの)を用いて切断反応を行った後、反応物を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーにより検出した。
(バッファー:バッファーA、未処理:熱処理を行っていないPfu-HJCエンドヌクレアーゼ)
Claims (9)
- 下記、1)または2)のタンパク質。
1)アミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸配列であるタンパク質
2)アミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、DNA組換え過程の中間体構造である四分岐のホリディ機造DNAに特異的に作用して切断し二組の2本鎖DNAに解離させるDNA分解活性を有すると共に耐熱性を備えるタンパク質 - 少なくとも95℃に1時間または90℃に16時間おいても活性を有する請求項1のタンパク質。
- 請求項1または2のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
- 前記遺伝子が好熱性細菌に由来する請求項3に記載の遺伝子。
- 配列番号2の塩基配列からなるDNA分解酵素遺伝子。
- 配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつ、DNA組換え過程の中間体構造である四分岐のホリディ機造DNAに特異的に作用して切断し二組の2本鎖DNAに解離させるDNA分解活性を有すると共に耐熱性を備えるタンパク質をコードする、DNA分解酵素遺伝子。
- 前記タンパク質が、少なくとも95℃に1時間または90℃に16時間おいても活性を有する、請求項6に記載のDNA分解酵素遺伝子。
- 請求項3から6のいずれか一項に記載の遺伝子により形質転換された、形質転換細胞。
- 請求項1から2のいずれかに記載のタンパク質の製造方法であって、
1)請求項3から7のいずれかに記載の遺伝子を調製し、
2)該遺伝子をベクターに挿入して発現ベクターを作製し、
3)該ベクターで宿主細胞を形質転換し、
4)該形質転換体を培養し、
5)該培養物から請求項1から2のいずれかに記載のタンパク質を単離する、
ことを含んでなる方法。
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