JP6096996B1 - 片状黒鉛鋳鉄製円筒部材 - Google Patents

片状黒鉛鋳鉄製円筒部材 Download PDF

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Abstract

優れた機械的強度を有しつつも実用的な加工性も有し、さらに耐摩耗性および耐焼付き性に優れること。片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、片状黒鉛鋳鉄が、質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。

Description

本発明は、片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に関するものである。
基地中に存在する黒鉛による潤滑作用に優れた鋳鉄製部材は、内燃機関のシリンダライナ、ブレーキドラム、昇降機用部品などの耐摩耗性が要求される部材として広く用いられている(特許文献1、2等)。この鋳鉄製部材としては様々な組成・組織・物性を有するものが提案されており、たとえば、片状黒鉛鋳鉄製の部材としては特許文献1,2に例示される部材が挙げられる。
ここで、特許文献1には、引張強さ:250MPa以上、基地硬さ:250HV以上、質量%で、C:2.70〜3.90%、Si:1.20〜2.80%、Mn:1.00〜3.20%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、炭化物面積率で6.0%以下分散した組織と、を有する片状黒鉛鋳鉄製の昇降機用部品が提案されている。このため、機械的強度および被削性に優れ、安価かつ容易に製造できる昇降機用部品を提供できる。
また、特許文献2には、肉厚が30〜350mm、引張強さ:250MPa以上、質量%で、C:2.4〜3.6%、Si:0.8%以上2.8%未満、Mn:1.1〜3.0%を含み、さらに、P:0.01〜0.6%、B:0.001〜0.2%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、炭化物が面積率で8%以下分散した組織とを有する片状黒鉛鋳鉄製の船舶機関用シリンダライナが提案されている。このため厚肉、高強度、安価な船舶機関用シリンダライナが提供できる。
特開2014−189824号公報 特開2014−62318号公報
一方、耐摩耗性が要求される部材として用いられる鋳鉄製部材は、摺動面の焼き付きが生じ難いことも重要である。これに加えて、鋳鉄製部材に、軽量化あるいは薄型化なども求められる場合は、これらの要求を満たせる機械的強度を確保しつつ、その一方で、生産性を損なわない程度の加工性も確保する必要がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械的強度を有しつつも実用的な加工性も有し、さらに耐摩耗性および耐焼付き性に優れた片状黒鉛鋳鉄製円筒部材を提供することを目的とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、片状黒鉛鋳鉄が、質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、片状黒鉛鋳鉄が、質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下、Cu:0.05%以上0.55%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、片状黒鉛鋳鉄が、パーライトおよびベイナイトからなる群より選択される少なくとも1種の基地を含む組織を有することが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、片状黒鉛鋳鉄のMoの含有量が、質量%で、0.20%以上0.55%以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、質量%で、i)片状黒鉛鋳鉄のMoの含有量が0.30%以上0.55%以下、かつ、ii)片状黒鉛鋳鉄のMoおよびNiの合計含有量が0.60%以上1.15%以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、円筒部材の肉厚が3.5mm以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、片状黒鉛鋳鉄の硬さが102HRB以上112HRB以下であり、引張強度が300MPa以上であり、かつ、ヤング率が110GPa以上であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、片状黒鉛鋳鉄が炭化物を含み、かつ、円筒部材の径方向に対して、0.2mm以上連続する連続領域内において、炭化物の面積率が0.9%以上5.0%以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、連続領域の円筒部材の径方向に対する長さが、2.7mm以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、円筒部材の内周面および外周面から選択されるいずれか一方の面が、円筒部材の径方向に対して連続領域の一方側の端部に形成されていることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、内周面が、円筒部材の径方向に対して連続領域の最内周側に形成され、かつ、内周面をピストン及びピストンリングが往復摺動する内燃機関用シリンダライナであることが好ましい。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の他の実施形態は、内周面が、円筒部材の径方向に対して連続領域の最内周側に形成され、かつ、内周面でブレーキシューと摺動する内接式ドラムブレーキのブレーキドラムであることが好ましい。
本発明によれば、優れた機械的強度を有しつつも実用的な加工性も有し、さらに耐摩耗性および耐焼付き性に優れた片状黒鉛鋳鉄製円筒部材を提供することができる。
第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒状部材に用いる片状黒鉛鋳鉄のMoおよびNiの含有量と、基地組織との関係を示すグラフである。 第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒状部材をシリンダライナとして用いた場合の一例を示す模式図である。ここで、図2(A)は、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材からなるシリンダライナを備えた内燃機関の一例を示す斜視図であり、図2(B)は、内燃機関の製造に用いられる前の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材からなるシリンダライナの一例を示す斜視図であり、図2(C)は、図2(A)中の符号IIC−IIC間の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 第一および第二の本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒状部材を内接式ドラムブレーキのブレーキドラムとして用いた場合の一例を示す模式図である。 実施例11の金属顕微鏡写真(倍率:400倍)の一例である。 実施例11の炭化物面積率の判定に用いたグレースケール化後の画像(倍率:400倍)の一例である。 引張強度およびヤング率の測定に用いた棒状試験片の側面図である。 耐焼付き性および耐摩耗性の評価に用いたリングオンプレート式往復動摩擦試験機の模式図である。
第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、片状黒鉛鋳鉄が、質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。このような組成を有する片状黒鉛鋳鉄を用いた第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、優れた機械的強度を有しつつも実用的な加工性も有し、さらに耐摩耗性および耐焼付き性に優れる。
以下に、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材および後述する第二の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に用いる片状黒鉛鋳鉄(以下、単に「鋳鉄」と略す場合がある)の組成および組織について詳述する。なお、以下の説明において、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材および後述する第二の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の双方に共通する事項について言及する場合は、単に本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材あるいは円筒部材と称す。また、%表記で示す各元素の含有量は特に説明が無い限り質量%を意味する。
Cは、基地組織としてパーライトの生成を促進し、鋳鉄の強度を増加させ、片状黒鉛を形成して自己潤滑性を向上させる作用を持つ元素である。また、Cは、炭化物を析出させることにより耐摩耗性および耐焼き付き性を向上させる。このような効果を得るためには、Cの含有量は2.85%以上であることが必要である。一方、Cの含有量が多すぎると、黒鉛の晶出が増大して、十分な引張強度が得られなくなる。このため、Cの含有量は3.35%以下であることが必要である。なお、Cの含有量は2.90%以上3.20%以下が好ましい。
Siは、鋳鉄中において黒鉛の晶出に寄与する元素である。適度な量の黒鉛を晶出させるために、Siの含有量は1.95%以上であることが必要である。一方、Siの含有量が多すぎると、フェライトを析出しやすく強度が低下し、十分な引張強度が得られなくなる。このため、Siの含有量は2.55%以下であることが必要である。なお、Siの含有量は、2.00%以上2.45%以下が好ましい。
Mnは、黒鉛を微細化するとともに、基地組織としてパーライトが生成した場合に、パーライトを安定化する作用を有する元素である。また、溶銑中において、MnはSと化合してMnSを生成することで、片状黒鉛鋳鉄の切削性を向上させる。このような効果を得るために、Mnの含有量は0.45%以上であることが必要である。一方、Mnの含有量が多すぎる場合、黒鉛晶出が妨害されて摩擦特性が低下する。このため、Mnの含有量は、0.8%以下であることが必要である。
Pは、鋳鉄の硬さを増加させるとともに、ステダイト(FePとFeCとFeとの三元共晶組織)を析出し、耐摩耗性に寄与する元素である。なお、Pの含有量が多すぎる場合、粗大なステダイト相を形成し、相手部材への攻撃性が増加するとともに、靭性および加工性の低下を招く。それゆえ、Pの含有量は0.25%以下であることが必要である。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、意図的にPを添加しない場合でも鋳鉄中にはPは不可避的不純物として少なくとも0.03%程度は含まれる。したがって、Pの含有量は0.03%以上であればよい。また、Pの含有量は、0.05%以上0.20%以下が好ましい。
Sは、溶銑中において、Mnと結合してMnSを形成することで、鋳鉄の切削性向上に寄与する元素である。Sの含有量が多すぎる場合は、鋳鉄を脆くし、所望の強度を確保できなくなる。それゆえ、Sの含有量は0.15%以下であることが必要である。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、意図的にSを添加しない場合でも鋳鉄中にSは不可避的不純物として少なくとも0.03%程度は含まれる。なお、Sの含有量は0.03%以上0.10%以下が好ましい。
Crは、基地を緻密にして基地を強化し、鋳鉄の強度および硬さを増加させる元素であり、耐酸化性の向上に効果がある。このような効果を得るためには、Crの含有量は0.15% 以上であることが必要である。一方、Crの含有量が多すぎると、靭性、加工性の低下を招く。このため、Crの含有量は0.55%以下であることが必要である。なお、Crの含有量は、0.25%以上0.55%以下が好ましい。
Moは、基地中に固溶して基地を強化し、鋳鉄の硬さ、特に引張強度を増加させる。また、Moは、パーライトが生成した場合においてこのパーライトを微細化し、鋳物である円筒部材の肉厚感度を減少し外周部と内周部とにおける機械的性質をより小さくして均質化する作用がある。また、Moは、炭化物の析出を促進し、この炭化物が耐焼付き性を向上させる作用を有する。このような効果を得るためには、Moの含有量は0.15%以上であることが必要である。一方、Moの含有量が多すぎると、靭性が低下すると共に、硬くなり過ぎることで加工性も低下する。このため、Moの含有量は0.65%以下であることが必要である。なお、Moの含有量は、耐焼付き性の観点からは0.20%以上0.65%以下が好ましく、加工性の観点からは0.15%以上0.55%以下が好ましい。また、耐焼付き性および加工性の観点からは0.20%以上0.55%以下がより好ましく、更に引張強さ向上の観点を鑑みると、0.30%以上0.55%以下が最も好ましい。
Niは、基地を緻密にして基地を強化し、黒鉛化を促進する元素である。また、Niは、黒鉛を微細均一化することにより、鋳物である円筒部材の肉厚感度を減少し外周部と内周部とにおける機械的性質をより小さくして均質化する作用がある。また、Niには、ヤング率を向上させる作用もある。このような効果を得るためには、Niの含有量は0.15%以上であることが好ましい。一方、Niの含有量が多すぎる場合、Niの含有量の増加に伴い上記の効果が飽和するため、Niの含有量は0.65%以下とされる。なお、ヤング率向上の観点からは、Niの含有量は0.25%以上0.65%以下が好ましい。
なお、MoおよびNiに関しては、MoおよびNiの合計含有量が0.3%以上1.30%以下であることが好ましい。MoおよびNiの合計含有量を上記範囲内とすることにより、引張強さおよびヤング率を向上させると共に耐摩耗性および耐焼付き性も同時に確保することが極めて容易になる。さらに、引張強さおよびヤング率を向上させると共に加工性も同時に確保するため、i)Moの含有量が0.30%以上0.55%以下、かつ、ii)MoおよびNiの合計含有量が0.60%以上1.15%以下であることがより好ましい。
また、上述したC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Ni以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
一方、片状黒鉛鋳鉄の組織は、パーライトおよびベイナイトからなる群より選択される少なくとも1種の基地を含むことが好ましい。また、片状黒鉛鋳鉄の組織には、通常、黒鉛や炭化物も含まれる。片状黒鉛鋳鉄の組織は、組成を上記範囲内で調整するなどによって適宜制御することができる。
また、基地には、パーライトおよびベイナイトからなる群より選択される少なくとも1種が含まれると共に、これら以外の相がさらに多少含まれていてもよい。なお、その他の相としては、たとえばフェライトなどが挙げられる。基地としてフェライトが含まれる場合、フェライトの占める面積率は5%以下が好ましい。また、基地にはチル化した相(セメンタイトである相)が含まれないことが好ましい。パーライトおよびベイナイトからなる群のうちでは、(I)パーライトのみが含まれていてもよく、(II)パーライトおよびベイナイトの両方が含まれていてもよく、(III)ベイナイトのみが含まれていてもよい。
基地を、基地組織(I)〜基地組織(III)のいずれとするかは、たとえば、図1に示すようにMoおよびNiの含有量により制御することができる。図1は、MoおよびNiの含有量と、基地組織との関係を示すグラフであり、図中、横軸がMoの含有量(%)を示し、縦軸がNiの含有量(%)を示す。図1に示すように、Moの含有量が約0.25±0.05%前後の範囲を境(第一境界エリアB1)にして、Moの含有量が少ない領域(第一領域I)では基地を基地組織(I)とすることが容易となり、逆に、Moの含有量が多い領域(第二領域II)では基地を基地組織(II)とすることが容易となる。
また、第一境界エリアB1よりもMoの含有量が多い領域においては、Moの含有量が0.40%以上においてNiの含有量が0.30±0.05%前後の範囲、かつ、Niの含有量が0.35%以下においてMoの含有量が約0.45±0.05%前後の範囲を境(第二境界エリアB2)にして、Moの含有量が少ない、あるいは、Niの含有量が多い領域(第二領域II)では基地を基地組織(II)とすることが容易となり、逆に、Moの含有量が多く、かつ、Niの含有量が少ない領域(第三領域III)では基地を基地組織(III)とすることが容易となる。
基地中には、微細な片状黒鉛が分散している。黒鉛のサイズは特に限定されるものでは無いが、たとえば、4から8(ISO 945−1:2008)程度である。また、黒鉛の面積率は特に限定されるものではないが、通常、6.0%以上17.0%以下程度であり、8.0%以上15.0%以下が好ましい。なお、黒鉛の面積率は、Moの含有量によって制御できる。片状黒鉛鋳鉄において,Moを含有しない組成では、C成分は炭化物を形成せずに、黒鉛として晶出したり、あるいは、基地に固溶する傾向にあるが、Moを含有する組成では、C成分は、MoおよびPを含む炭化物を形成するため、黒鉛としての晶出が減少するためである。
また、片状黒鉛鋳鉄には上述したように炭化物が含まれる。炭化物は、本実施形態の円筒部材と相手材とを摺動させた際に、一次摺動面を形成するため、仮に基地が微細化した黒鉛組織であっても摺動特性が劣化するのを抑制することができる。ここで、円筒部材の径方向(肉厚方向)に対して0.2mm以上連続する連続領域内において、炭化物の面積率が0.9%以上5.0%以下であることが耐摩耗性および耐焼付き性の観点から好ましい。炭化物の面積率を、0.9%以上とすることにより、相手材と接触摺動する摺動面として耐摩耗性および耐焼付き性を向上させることが極めて容易となる。一方、炭化物の面積率が大きすぎる場合は、鋳鉄の加工性が低下する。このため、炭化物の面積率は、5.0%以下であることが好ましい。なお、連続領域内における炭化物の面積率は、耐摩耗性および耐焼付き性の観点からは1.5%以上5.0%以下が好ましく、加工性の観点からは、0.9%以上4.2%以下が好ましく、耐摩耗性、耐焼付き性および加工性の観点からは 1.5%以上4.2%以下がより好ましい。また、本実施形態の円筒部材において、炭化物の面積率は、径方向(肉厚方向)において外周側から内周側へと向かうに従い増加する。従って、連続領域の径方向(肉厚方向)長さは、円筒部材の最大肉厚を超えない範囲で適宜選択でき、径方向長さの上限値は特に限定されるものではないが、実用上2.7mm以下とすることが好ましい。
なお、本実施形態の円筒部材は円筒状金型を使用した遠心鋳造により製造される。このため、鋳造直後の円筒部材の外周面および内周面は、鋳肌面からなる。したがって、鋳肌面からなる内周面あるいは外周面を切削加工等により加工処理することで、加工処理後の内周面および外周面から選択されるいずれか一方の面を、円筒部材の径方向に対して連続領域の一方側の端部に形成することが好ましい。連続領域の一方側の端部に形成された加工処理後の内周面あるいは外周面を、相手部材と摺動する摺動面として利用すれば、より優れた耐摩耗性および耐焼付き性を得ることができる。なお、「連続領域の一方側の端部」とは、内周面(鋳肌面)を加工処理する場合は連続領域の最内周側を意味し、外周面(鋳肌面)を加工処理する場合は連続領域の最外周側を意味する。
また、鋳肌面からなる内周面を切削加工等により加工処理した後の内周面が、円筒部材の径方向に対して連続領域の最内周側に形成されている場合、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、当該内周面を摺動面として相手部材と摺動させる部材として利用できる。具体的な用途を例示すれば、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、当該内周面をピストン及びピストンリングが往復摺動する内燃機関用シリンダライナ、あるいは、当該内周面でブレーキシューと摺動する内接式ドラムブレーキのブレーキドラムであることが特に好ましい。
さらに、連続領域の最内周側に内周面(摺動面)を形成した場合、鋳肌面からなる外周面も、必要に応じて切削加工等することで、新たな外周面(加工処理面)を形成してもよい。たとえば、特許第5815262号のように、円筒部材がシリンダブロックに鋳ぐるまれて一体成形される場合、円筒部材とシリンダブロックとの結合強度を大きくする目的で、円筒部材の外周面を複雑な形状に切削加工する。外周面が複雑な形状の場合の円筒形状の肉厚は外周面の最深の凹み部を基準とする肉厚を意味する。この場合、新たな外周面は、連続領域の最外周側を形成する面であってもよく、連続領域の最外周側よりもさらに外側の領域に形成された面であってもよい。
また、連続領域の最内周側に内周面(摺動面)を形成した場合、この内周面(摺動面)と鋳肌面からなる外周面とを有する円筒部材を、そのまま内燃機関用シリンダライナやブレーキドラムなどの各用途に応じた部材として使用してもよい。たとえば、鋳肌面からなる外周面に、円筒部材の外周側を覆うように設けられる部材(外周側部材)との接合強度を向上させるために、鋳肌面の表面粗さを大きくする場合または複数の突起が設けられている場合など、内周面(摺動面)と鋳肌面からなる外周面とを有する円筒部材を、そのまま各用途に応じた部材として使用することが好ましい。なお、鋳肌面の表面粗さを大きくする場合としては、たとえば、特許第3253605号、外周面に複数の突起が設けられる場合としては、たとえば、特許第4210468号、特許第4429025号などを挙げることができる。外周面が鋳肌面で、表面粗さが大きい場合の円筒形状の肉厚は表面粗さの谷部を基準とする肉厚を、また、突起が設けられている場合の円筒形状の肉厚は突起のない外周基底面を基準とする肉厚を意味する。
連続領域の最内周側に内周面(摺動面)を形成した場合、あるいは、連続領域の最外周側に外周面(摺動面)を形成した後における連続領域の径方向(肉厚方向)における長さも、0.2mm以上であることが好ましい。これにより、摺動面として機能する内周面あるいは外周面において、より優れた耐摩耗性および耐焼付き性を得ることが容易になる。なお、連続領域の径方向長さは、0.2mm以上あれば、各用途別の部材として完成した状態の円筒部材の最大肉厚を超えない範囲で本実施形態の円筒部材の用途に応じて適宜選択でき、肉厚の増加に応じてたとえば、0.7mm以上とすることがより好ましく、1.4mm以上とすることがさらに好ましい。なお、径方向長さの上限値は特に限定されるものではないが、実用上は2.7mm以下とすることが好ましい。なお、切削加工等により新たに形成された内周面(摺動面)あるいは外周面(摺動面)に対して、レーザ焼き入れなどの表面改質処理も施されている場合、連続領域の径方向(肉厚方向)における長さは、表面改質処理が実施される前の状態を基準として測定される長さを意味する。
なお、鋳肌面からなる内周面および外周面の切削加工は1回のみでもよく、2回以上に分けて実施してもよい。また、鋳肌面からなる内周面および外周面を有する鋳造直後の円筒部材において肉厚を基準(100%)とした場合の連続領域の径方向(肉厚方向)長さは、34%以上が好ましく、49%以上がさらに好ましい。
本実施形態の円筒部材では、遠心鋳造後に、鋳巣を除去する目的で少なくとも内周面(鋳肌面)が切削加工される。この目的での切削加工の取り代は、たとえば、1.5mm〜3.5mmに設定できる。また、外周面(鋳肌面)に対しても切削加工が施されることになる遠心鋳造直後の円筒部材の肉厚は、外周面(鋳肌面)に対して切削加工が施されない遠心鋳造直後の円筒部材の肉厚に対して、外周面(鋳肌面)の切削加工に要する取り代分だけより厚く設定される。この目的での切削加工の取り代は、たとえば、1.5mm〜3.5mmに設定できる。
本実施形態の円筒部材を、鋳肌面からなる外周面を有するシリンダライナとして用いる場合、円筒状金型を使用した遠心鋳造直後の円筒部材の外周面(鋳肌面)を基準位置(0mm)として、円筒部材の径方向(肉厚方向)に対して、(i)0.8mm〜1.2mmの範囲を含むように連続領域が形成されていることが好ましく、(ii)0.8mm〜1.5mmの範囲を含むように連続領域が形成されていることがより好ましく、(iii)0.8mm〜2.2mmの範囲を含むように連続領域が形成されていることがより好ましく、(iv)0.8mm〜3.5mmの範囲を含むように連続領域が形成されていることがさらに好ましい。なお、外周面(鋳肌面)に平均高さが0.1mm〜2mm程度の突起が形成されている場合は、突起の存在しない外周基底面を基準位置(0mm)とする。
ここで、円筒部材の内周面(鋳肌面)を切削加工等して、ピストンおよびピストン外周面に設けられた溝に装着されたピストンリングと接触摺動する新たな内周面(摺動面)を形成する場合、耐摩耗性および耐焼付き性に優れた摺動面を得るために、円筒部材の径方向(肉厚方向)に対して、(i)に示すケースでは、1.0mm〜1.2mmの範囲内に内周面(摺動面)を形成することが好ましく、(ii)に示すケースでは、1.0mm〜1.5mmの範囲内に内周面(摺動面)を形成することが好ましく、(iii)に示すケースでは、1.0mm〜2.2mmの範囲内に内周面(摺動面)を形成することが好ましく、(iv)に示すケースでは、1.0mm〜3.5mmの範囲内に内周面(摺動面)を形成することが好ましい。
また、本実施形態の円筒部材をシリンダライナとして用いる場合のみならず、その他の様々な用途に用いる場合において、新たに形成された内周面(摺動面)あるいは外周面(摺動面)における炭化物の面積率は、耐摩耗性をより向上させる観点からは2.1%以上5%以下が好ましく、耐摩耗性および耐焼付き性の双方をより向上させる観点からは3.3%以上5%以下がより好ましい。
また、第二の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、片状黒鉛鋳鉄が、質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下、C、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、NiおよびFe以外のその他の元素(以下、「元素X」と称す)を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
第二の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に用いられる片状黒鉛鋳鉄は、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に用いられる片状黒鉛鋳鉄の組成に対して、元素Xがさらに含まれる以外は、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材と同様の組成および組織を有するものである。第二の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材も、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材と同様に、優れた機械的強度を有しつつも実用的な加工性も有し、さらに耐摩耗性および耐焼付き性に優れる。
元素Xは、第一の本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に用いられる片状黒鉛鋳鉄の諸特性のうち、特定の特性をさらに改善・向上させることを目的として添加される元素である。元素Xとしては、Cuが用いられる。
Cuは、基地中に固溶して基地を強化し、パーライトの安定化に効果的な元素である。また、Cuは、鋳鉄の硬さを増加させるとともに、白銑化を阻止し、耐食性及び耐衝撃性を向上させる。このような効果を得るためには、Cuの含有量は0.05%以上である。一方、Cuの含有量の上限は、材料コストが高騰するのを抑制するために、実用上は0.55%以下である
本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、公知の鋳物の製造方法を利用して適宜製造することができる。たとえば、電気炉等を用いて溶湯を溶製し、円筒状金型を使用した遠心鋳造を行うことで、所定の寸法形状を有する本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材を作製することができる。
以上に説明したように、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、優れた機械的特性を有する片状黒鉛鋳鉄を用いるため、その肉厚を薄くして、軽量化を図ることも容易である。ここで、円筒部材の肉厚T2としては、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の用途に応じて適宜選択することができるが、3.5mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。なお、肉厚T2の下限値としては実用上1.0mm以上が好ましい。なお、上記肉厚T2は、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材が、少なくとも最終製品に用いられた状態において達成されていればよい。たとえば、図2(A)に例示するように本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材が内燃機関10に用いられるシリンダライナ20である場合、シリンダライナ20A(20)がシリンダブロック24に鋳ぐるまれた状態など、内燃機関が完成した状態(最終製品に用いられた状態)において上述した肉厚T2が実現できていればよい。
また、図2(B)に示すシリンダブロック24に鋳ぐるまれる前のシリンダライナ20B(20)単独の状態では、肉厚T1は、最終製品の所定の断面組織、最低肉厚等を確保できるように、肉厚T2に対して加工取り代αを加算した値であり、たとえば、3.5mmよりも厚くてもよく、さらに、5.5mm以上でもよい。ここで、図2(A)は内燃機関10の外観を示す斜視図であるが、図2(A)中に示すシリンダライナ20のうちシリンダブロック24に覆われて、本来、外部からは見えなくなっている部分については、点線で示してある。なお、図2に例示したようなシリンダライナ20の一般的な寸法形状は、外径:50mm以上180mm以下程度、長さ:70mm以上270mm以下程度である。
本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材に用いる片状黒鉛鋳鉄の硬さ、引張強さ、ヤング率は特に限定されるものでは無いが、硬さについては102HRB以上112HRB以下が好ましく、引張強さは300MPa以上が好ましく、ヤング率が110GPa以上であることが好ましく、これら3つの数値範囲を同時に満たすことがより好ましい。
なお、引張強さは330MPa以上、より好ましくは350MPa以上、ヤング率は120GPa以上が好ましい。
本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材の用途としては、特に限定されないが、内周面をピストン及びピストンリングが往復摺動する内燃機関に用いるシリンダライナとして用いることが特に好適である。
シリンダライナは、内燃機関に用いられ、鋳鉄製のシリンダブロックに嵌合されるドライ式シリンダライナあるいはアルミニウム合金製シリンダブロックに鋳ぐるまれるシリンダライナなどとして利用される。そして、ピストンおよびピストンの外周面に設けられた溝に装着されたピストンリングが、シリンダライナの内周面を摺動する。このため、シリンダライナには優れた耐摩耗性および耐焼付き性が要求される。また、近年では、特に自動車の燃費改善を目的としてシリンダブロックを軽量化するために、シリンダボア間のピッチも小さくなりつつある。このため、燃焼時のシリンダボア内壁面の温度を低下させる冷却方法が課題となっている。これに対して、図2(A)に例示したように、内燃機関10に組み込まれた状態のシリンダライナ20Aの肉厚T2をより薄くすることができれば、互いに隣り合う2つシリンダボア22間(より正確には2つのシリンダライナ20Aの外周面間)に設けられる冷却液用流路26の流路断面積をより大きくすることができる。この場合、シリンダボア22の冷却効率をより高めることが容易である。
一方、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、耐摩耗性および耐焼付き性に優れる上に、優れた機械的強度を有しているため、シリンダライナ20Aの肉厚T2を薄くすることも極めて容易である。したがって、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、上述したニーズにも十分に対応できる。
また、肉厚T2を薄くすることで、結果的に、シリンダライナ20Aの大幅な重量軽減や体積減少も容易になる。たとえば、肉厚T2:2.2mm、外径:85mm、内径:80.6mm、軸方向長さ136mmと仮定した場合において、肉厚T2を1.5mmにすれば、体積が77.8cmから53.5cmへと31%減少し、重量では564.1gから387.9gへと176.2g減少する。ここで、重量計算は、片状黒鉛鋳鉄の比重を7.25g/cmとして実施した。
また、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、内周面でブレーキシューと摺動する内接式ドラムブレーキのブレーキドラムとして用いることも好適である。図3は、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材をブレーキドラムとして用いた内接式ドラムブレーキの一例を示す模式断面図であり、ホイールの回転軸を含む面でホイールを切断した場合の断面図について示している。図3に例示したように、中心線Lを回転軸とするホイール30の一部を成す略円筒状のドラム部32の内周面32Sには、ブレーキドラム34(本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材)が鋳包みにより装着されている。また、ブレーキドラム34の内周面34S側にはブレーキシュー36が配置されている。そして制動時には、ブレーキシュー36が、ブレーキドラム34の内周面34Sと接触して摺動する。
なお、内接式ドラムブレーキのブレーキドラムには耐摩耗性、耐焼付き性および熱伝達性が求められる。これに対して、本実施形態の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材は、耐摩耗性および耐焼付き性に優れる上に、機械的強度が優れるために、ブレーキドラム34の肉厚を薄くすることも可能である。そして、ブレーキドラム34の薄肉化は、結果的に、熱伝達性を向上させることもできる。
以下に本発明の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下に示す実施例にのみ限定されるものでは無い。
1.円筒部材の製造
遠心鋳造により円筒部材(外径:85mm、内径:74mm(肉厚5.5mm)、軸方向長さ:136mm)を作製した。なお、遠心鋳造に際しては、円筒状金型の内周面に厚さ1mmの塗型材を塗布した後に、溶湯を流し込んで円筒部材を形成した。また、円筒状金型から取り出した円筒部材の外周面(鋳肌面)に付着した塗型材は、ショットブラストにより除去した。このようにして得られた円筒部材の外周面の表面粗さは、最大高さRyで160μmであった。
2.各種評価用試験片の準備
各実施例および各比較例の円筒部材の周方向に対して0度、90度、180度および270度の位置から、合計4本の棒状部材(長さa:136mm、幅b:15mm、厚さc:5.5mm)を切り出すと同時に、円筒部材を周方向に対して4つに分割することで、4本の円弧柱状部材を得た。なお、円筒部材から切り出して得た部材あるいは試験片の長さa,幅b,厚さcは、それぞれ、円筒部材の軸方向長さ、周方向長さ、径方向(肉厚方向)長さに対応している。
次に、各々の棒状部材の長手方向の中央部から第一試験片(長さa:25mm、幅b:15mm、厚さc:5.5mm)を切り出した。また、棒状部材の長手方向の中央部の両側から、2つの部材(長さa:40mm、幅b:15mm、厚さc:5.5mm)を切り出し、これら2つの部材を1組とする組成分析用の第二試験片とした。これにより1本の円筒部材から4本の第一試験片と4組の第二試験片とを準備した。
また、各々の円弧柱状部材から引張強度試験用の第三試験片(概略形状:長さa:120mm、外径4mm)、ヤング率試験用の第四試験片(概略形状:長さa:120mm、外径4mm)、耐焼付き試験用の第五試験片(長さa:70mm、幅b:10mm、厚さc:5.5mm)、および耐摩耗性試験用の第六試験片(長さa:70mm、幅b:10mm、厚さc:5.5mm)を切り出した。これにより1本の円筒部材から各々4本の第三試験片〜第六試験片を準備した。なお、第三試験片および第四試験片の詳細形状については後述する。
3.円筒部材の各種評価
表1に示す各実施例および各比較例の円筒部材について、組成、黒鉛面積率、炭化物面積率、基地組織、硬さ、引張強度、ヤング率、耐焼付き性、耐摩耗性、および加工性について評価した。結果を表1〜表5に示す。なお、表1〜表5に示す比較例1の円筒部材に用いられている片状黒鉛鋳鉄は、市販の自動車の内燃機関に使用されているシリンダライナの構成材料と同様のものである。また、表1〜表5中の各種評価項目の評価方法の詳細は以下の通りである。
(1)組成
表1に得られた円筒部材の組成をJIS 2611−1977に基づき光電測光式発光分光分析法(Photoelectric Emission Spectrochemical Analysis)(島津製作所製、PDA−7020)により分析した結果を示す。なお、組成分析は、第二試験片を完全に溶解して所定の形状にした測定用サンプルを用いて実施した。また、表1に示す結果は4つの第二試験片の各々の測定値を平均した値である。
(2)黒鉛面積率
各実施例および各比較例の第一試験片の切断断面(長さa:25mm、厚さc:5.5mm)を研磨した。続いて、研磨された面を、円筒部材の外周面側から0.8mm、1.5mm、2.2mmおよび3.5mmの位置について金属顕微鏡(倍率:400倍)により写真撮影した。次に、得られた写真を二値化処理(グレースケール化)して画像解析することにより黒鉛面積率(%)を求めた。結果を表2に示す。なお、表2に示す黒鉛面積率(%)は、4つの第一試験片の測定値を平均した値である。
なお、参考までに、図4に、実施例11の金属顕微鏡写真(倍率:400倍)を示す。図4に示すように片状黒鉛(図中の黒色の片状部分)が観察された。なお、同様の片状黒鉛は、他のすべての実施例および比較例においても観察された。
(3)炭化物面積率
黒鉛面積率の測定に用いた第一試験片の研磨面(長さa:25mm、厚さc:5.5mm)を再度研磨し、腐食液(10%ナイタール液)でエッチング処理した。続いて、エッチング処理された面を、円筒部材の外周面側から0.8mm、1.5mm、2.2mmおよび3.5mmの位置について金属顕微鏡(倍率:400倍)により写真撮影した。次に、得られた写真を二値化処理(グレースケール化)して画像解析することにより炭化物面積率(%)を求めた。結果を表2に示す。なお、表2中に示す炭化物面積率(%)は、4つの第一試験片の測定値を平均した値である。
なお、参考までに、図5に、実施例11の炭化物面積率の判定に用いたグレースケール化後の画像(倍率:400倍)を示す。図5に示すように白い部分が炭化物である。なお、同様の炭化物は、他のすべての実施例および比較例においても観察された。
(4)基地組織
炭化物面積率の測定に用いた第一試験片のエッチング面(長さa:25mm、厚さc:5.5mm)を再度研磨し、腐食液(3%ピクラール液)でエッチング処理後、円筒部材の外周面側から0.8mm、1.5mm、2.2mmおよび3.5mmの位置について、パーライトおよびベイナイトのうちのいずれが含まれているのかを金属顕微鏡により目視で判定した。結果を表2に示す。なお、表2中、「P」は、パーライトが観察されたことを意味し、「B」は、ベイナイトが観察されたことを意味し、「P+B」は、パーライトおよびベイナイトの双方が観察されたことを意味する。
なお、図4に例示した金属顕微鏡写真に示すように、金属顕微鏡観察に際して、ベイナイトは白い部分として観察され、パーライトは灰色の部分として観察される。
(5)硬さ
第一試験片の切断断面(長さa:25mm、厚さc:5.5mm)について、円筒部材の外周面側から2.0mmの位置について硬さを測定した。ここで、硬さの測定方法は、JIS Z 2245に準拠して実施した。結果を表2に示す。なお、表3に示す硬さは、4つの第一試験片の測定値を平均した値である。
(6)引張強度およびヤング率
引張強度およびヤング率の測定に用いた第三試験片および第四試験片として図6に示す棒状試験片40を用いた。この棒状試験片40は、長さL1が120mmであり、軸方向Cの両端側部分42の直径Dが4mmの円柱状部分であり、軸方向Cの中央部分44の直径dが3mmの円柱状部分である。また、中央部分44の表面は上仕上げ加工されており、中央部分44の両端部分をR15で面取り加工した面取り加工部44Rを除いた中央部分44の長さL2は40mmである。引張強度およびヤング率は、それぞれJIS Z 2241およびJIS Z 2280に準拠して測定した。具体的には、棒状試験片40を引張試験機(島津製作所製、型式AG−5000E)にセットして、引張速度0.3mm/minにて測定を実施した。結果を表2に示す。なお、表3に示す引張強度およびヤング率は、4つの試験片の測定値を平均した値である。
なお、本試験では、軸方向長さが136mmの円筒部材を用いたが、仮に、軸方向長さが120mm以下の円筒部材を用いる場合には、長さL1が50mm、長さL2が20mmの棒状試験片40を使用して引張強度およびヤング率を評価する。
(7)耐焼付き性
耐焼付き性は、図7に示すリングオンプレート式往復動摩擦試験機を用いて評価した。また、1つの第五試験片から1つの下試験片50を採取した。ここで、各下試験片50につき、円筒部材の外周面側から、まず3.5mmの位置について、次に2.2mmの位置について、試験を実施した。
ここで耐焼付き性の評価は、以下の手順で実施した。まず、平板形状の下試験片50の表面50Sに、スピンドル油を塗布した後、ピン形状の上試験片52の半球状先端部52Eをスプリングにより荷重Pで押し付ける。この状態で、下試験片50を荷重Pの印加方向と直交する方向に往復動させた。そして、上試験片52の半球状先端部52Eと下試験片50の表面50Sとを摺動させつつ、一定時間が経過する毎に荷重Pを一定値づつ増加させ、下試験片50の表面50Sに焼き付き(スカッフ)が発生する荷重P(焼き付き荷重)を測定した。
試験条件は以下の通りである。
(a)上試験片52
・材質:JIS SUS420J2材
・半球状先端部52E表面(摺動面)のコーティング:硬質クロムメッキ
・半球状先端部52E表面(摺動面)のコーティング後仕上げ加工:鏡面加工
・荷重Pの増加速度:開始1分間20N、1分経過毎20Nを増加
(b)下試験片50
・サンプル:第五試験片(長さa:70mm、幅b:10mm、厚さc:5.5mm)において、円筒部材の外周面および内周面に対応する面を切削・鏡面加工することで平板状にした部材
・表面50S(摺動面)の仕上げ加工:鏡面加工(なお、試験は、外周面から3.5mmの位置に表面50S(摺動面)を形成して1回目の試験を実施後、再度加工して外周面から2.2mmの位置に表面50S(摺動面)を形成して2回目の試験を実施した。)
・移動速度:1分当たり100往復
・一往復の移動距離:100mm
結果を表4に示す。ここで、表4に示す「焼付き荷重比」の計算に用いた焼付き荷重は、円筒部材の径方向の同一位置について、4つの試験片の測定値を平均した値である。なお、表4中に示す「焼付き荷重比」は、比較例1の焼付き荷重を基準値(100)とした場合の焼付き荷重の相対値である。また、表4中に示す「耐焼付き性評価」の評価基準は以下の通りである。
−「耐焼付き性評価」の評価基準−
A:焼付き荷重比が150以上。
B:焼付き荷重比が120以上150未満。
C:焼付き荷重比が100以上120未満。
(8)耐摩耗性
耐摩耗性は、図7に示すリングオンプレート式往復動摩擦試験機を用いて評価した。
また、1つの第五試験片から1つの下試験片50を採取した。ここで、各下試験片50試験片につき、円筒部材の外周面側から、まず3.5mmの位置について、次に2.2mmの位置について、試験を実施した。ここで耐摩耗性の評価は、以下の手順で実施した。まず、平板形状の下試験片50の表面50Sに、ピン形状の上試験片52の半球状先端部52Eをスプリングにより荷重Pで押し付ける。この状態で、下試験片50を荷重Pの印加方向と直交する方向に往復動させた。また、下試験片50の表面50Sと、上試験片52の半球状先端部52Eとの間には、試験中、チユービングポンプあるいはエアディスペンサーを用いてスピンドル油を滴下し続けた。そして、一定時間経過後に往復動を停止させて、下試験片50の表面50Sの摩耗深さを表面粗さ計により測定した。
試験条件は以下の通りである。
(a)上試験片52
・材質:JIS SUS420J2材
・半球状先端部52E表面(摺動面)のコーティング:CrN膜(PVD(Physical Vapor Deposition)法により成膜)
・半球状先端部52E表面(摺動面)のコーティング後仕上げ加工:鏡面加工
・荷重P:100N
(b)下試験片50
・サンプル:第六試験片(長さa:70mm、幅b:10mm、厚さc:5.5mm)において、円筒部材の外周面および内周面に対応する面を切削・鏡面加工することで平板状にした部材
・表面50S(摺動面)の仕上げ加工:鏡面加工(なお、試験は、外周面から3.5mmの位置に表面50S(摺動面)を形成して1回目の試験を実施後、再度加工して外周面から2.2mmの位置に表面50S(摺動面)を形成して2回目の試験を実施した。)
・移動速度:1分当たり600往復
・一往復の移動距離:100mm
(c)試験時間:60分
結果を表4に示す。ここで、表4に示す「摩耗量比」の計算に用いた摩耗深さは、円筒部材の径方向の同一位置について、4つの試験片の測定値を平均した値である。なお、表4中に示す「摩耗量比」は、比較例1の摩耗量を基準値(100)とした場合の摩耗量の相対値である。また、表4中に示す「耐摩耗性評価」の評価基準は以下の通りである。
−「耐摩耗性評価」の評価基準−
A:摩耗量比が10以下。
B:摩耗量比が10を超え50以下。
C:摩耗量比が50を超え100以下。
(9)加工性
加工性は、以下の手順で評価した。評価には、各実施例および比較例について、各々4本の円筒部材を用い、以下の切削試験を4回実施した。まず、刃具が回転するマシニングセンタを用いて、各実施例および比較例の円筒部材の内周面(鋳肌面)を、肉厚が2.2mmになるまで荒加工し、鋳巣を完全に除去した。次に、荒加工された内周面に対して新品の刃具(材種:CBN、スローアウェイチップ、ノーズ半径R:0.8mm)を用いて肉厚が1.4mmになるまで切削を行い、切削終了後の刃具のフランク面における最大摩耗幅を測定した。この時の切削条件は、切削長さ:136mm、切り込み:0.05mm、切削送り:0.35mm/rev、刃具回転数3000rpmとし、切削液は十分に供給した。
結果を表5に示す。ここで、表5に示す「刃具摩耗比」の計算に用いた最大摩耗幅は、4回の切削試験の測定値を平均した値である。なお、表5中、「刃具摩耗比」は、比較例4の最大摩耗幅を基準値(100)とした場合の最大摩耗幅の相対値である。また、表5中の「加工性評価」の評価基準は以下の通りである。
−「加工性評価」の評価基準−
A:刃具摩耗比が80未満
B:刃具摩耗比が80以上90未満
C:刃具摩耗比が90以上100以下
なお、実施例1〜21の円筒部材を、鋳肌面からなる外周面を有するシリンダライナとして用いる場合、たとえば、遠心鋳造後の円筒部材の内周面(鋳肌面)のみを切削加工等することで、外周面(鋳肌面)からの距離が1.0mm〜2.0mmの範囲内に新たな内周面(ピストン及びピストン外周面に設けられた溝に装着されたピストンリングと接触摺動する摺動面)を形成することができる。なお、内周面(鋳肌面)の切削加工に際しては、鋳巣を完全に除去する目的で、切削による取り代が2mmに設定される。その後、さらに切削加工等を行うことで、外周面(鋳肌面)からの距離が上述した範囲内に内周面(鋳肌面)を形成することができる。この場合、新たな内周面(摺動面)における炭化物の面積率は、いずれの実施例においても0.9%以上5.0%以下の範囲内となる。
10 :内燃機関
20、20A、20B :シリンダライナ(片状黒鉛鋳鉄製円筒部材)
22 :シリンダボア
24 :シリンダブロック
26 :冷却液用流路
30 :ホイール
32 :ドラム部
32S :内周面
34 :ブレーキドラム(片状黒鉛鋳鉄製円筒部材)
34S :内周面
36 :ブレーキシュー
40 :棒状試験片
42 :両端側部分
44 :中央部分
44R :面取り加工部
50 :下試験片
50S :表面
52 :上試験片
52S :半球状先端部

Claims (12)

  1. 片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、
    前記片状黒鉛鋳鉄が、
    質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  2. 片状黒鉛鋳鉄製の円筒部材であって、
    前記片状黒鉛鋳鉄が、
    質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下、Cu:0.05%以上0.55%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  3. 前記片状黒鉛鋳鉄が、パーライトおよびベイナイトからなる群より選択される少なくとも1種の基地を含む組織を有することを特徴とする請求項1または2に記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  4. 前記片状黒鉛鋳鉄のMoの含有量が、質量%で、0.20%以上0.55%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  5. 質量%で、i)前記片状黒鉛鋳鉄のMoの含有量が0.30%以上0.55%以下、かつ、ii)前記片状黒鉛鋳鉄のMoおよびNiの合計含有量が0.60%以上1.15%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  6. 前記円筒部材の肉厚が3.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  7. 前記片状黒鉛鋳鉄の硬さが102HRB以上112HRB以下であり、引張強度が300MPa以上であり、かつ、ヤング率が110GPa以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  8. 前記片状黒鉛鋳鉄が炭化物を含み、かつ、前記円筒部材の径方向に対して、0.2mm以上連続する連続領域内において、前記炭化物の面積率が0.9%以上5.0%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  9. 前記連続領域の前記円筒部材の径方向に対する長さが、2.7mm以下であることを特徴とする請求項に記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  10. 前記円筒部材の内周面および外周面から選択されるいずれか一方の面が、前記円筒部材の径方向に対して前記連続領域の一方側の端部に形成されていることを特徴とする請求項またはに記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  11. 前記内周面が、前記円筒部材の径方向に対して前記連続領域の最内周側に形成され、かつ、前記内周面をピストン及びピストンリングが往復摺動する内燃機関用シリンダライナであることを特徴とする請求項10に記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
  12. 前記内周面が、前記円筒部材の径方向に対して前記連続領域の最内周側に形成され、かつ、前記内周面でブレーキシューと摺動する内接式ドラムブレーキのブレーキドラムであることを特徴とする請求項10に記載の片状黒鉛鋳鉄製円筒部材。
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