JP3709445B2 - ディスクブレーキ用ロータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車両に用いて好適の、ディスクブレーキ用ロータに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、車両に用いられるブレーキ装置では、車両の運動エネルギを摩擦により熱エネルギに変換しこれを大気に放散することで、車両を減速又は停止させるようになっている。
上述のようなブレーキ装置としては、ドラムブレーキとディスクブレーキとに大別することができるが、ディスクブレーキの方がドラムブレーキに対して放熱性に優れており、また、片効きしにくいなどの安定した性質を有している。
【0003】
このため、小型車(乗用車・小型トラック)においては従来から広くディスクブレーキが普及しているが、大型車(大・中型トラック)においては、コストや耐久性の点から高速車両以外では現在でもドラムブレーキが主流となっている。しかし、今後は大型車の高性能化が進み、大型車にもディスクブレーキの採用が進むことが予想される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に、小型車用ディスクロータでは、高熱伝導率を有する材料が用いられているが、このような材料は高CE値(CE:カーボン当量=C+Si/3)であり、大型車には強度的に十分とはいえない。このため、小型車用ディスクロータの材質をそのまま大型車に適用することはできない。
【0005】
また、大型車用では、小型車よりもはるかに大きい熱負荷が加わること、さらには高強度ということも耐久性にとっては重要であり、このような観点からも小型車と同様の材質のロータ材を用いることはできない。
ところで、ディスクブレーキに要求される特性としては、耐ヒートクラック性,耐摩耗性,鳴き,耐食性等があり、大型車用のディスクロータ(又は、単にロータという)の材質としてはこれらの諸性質に総合的に優れている片状黒鉛鋳鉄が従来より用いられている。最近では高温強度向上のためにNi(ニッケル),Cr(クロム),Mo(モリブデン)を添加したNCM(低合金片状黒鉛鋳鉄)が使用されているものの、Niは高価な材料であるため、このような従来のロータは製造コストが高いという課題があった。
【0006】
また、近年最も重要視されている特性が耐ヒートクラック性であり、この耐ヒートクラック性に優れた材料の開発が要求されている。
ヒートクラックは、制動時のロータ表面のヒートスポット部に生じる局所的な温度勾配による熱疲労により発生する亀裂(クラック)であり、その後ロータ表面と下面(ロータ裏面)とに生じる温度勾配による熱疲労により進展する。したがって、材質的には高熱伝導率,低熱膨張係数,高温特性(高温強度,クリープ特性)に優れた材料が耐ヒートクラック性向上には重要な要素であると考えることができる。
【0007】
ここで、耐ヒートクラック性を向上させるには低合金片状黒鉛鋳鉄のNi添加量を増加させればよいが、上述したようにNi材は高価であり、Ni添加量を増やすとさらなるコスト上昇を招くという課題がある。
ところで、特公昭63−39656号公報及び特公平8−32944号公報にはディスクロータに関する技術が開示されている。このうち、特公昭63−39656号公報には、耐ヒートクラック性に優れた高強度のディスクロータ材が提案されている。
【0008】
この技術では、熱伝導率が高い片状黒鉛鋳鉄をベースにマトリックスを強化し、材料を高強度化することで耐ヒートクラック性の向上を図っている。合金元素としてはNi,Mo,V,Ceが添加されている。ここで、Niはマトリックスをベイナイト化する目的で添加されており、添加量は2.0〜4.0%である。また、Moの添加量が1.0〜3.0%であるのも同様の理由による。Ceはチル化によるマトリックスの脆化を防止する目的で、また、Vはマトリックス強化の目的で添加されている。
【0009】
しかしながら、上述の技術ではNi添加量が2.0〜4.0%と高く、コストが大幅に上昇してしまい、上記の課題を解決することはできない。
一方、特公平8−32944号公報の技術では、ディスクロータ材をより高熱伝導率にして、耐ヒートクラック性の向上を図っている。具体的には、Cを3.5〜3.7%と高い値に設定し、これによる強度低下をMo,V,Ceを添加することにより補っている。Niは添加していないが、これはNiが極端に熱伝導率を下げるためであると考えられる。
【0010】
しかしながら、Cの添加量を高めると熱伝導率を高くでき発生熱応力を低減することができるものの、黒鉛晶出量の増加を招き、必ずしも耐ヒートクラック性を向上させることはできないという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、Ni添加量を低減しながら耐ヒートクラック性に優れた、ディスクブレーキ用ロータを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このため、本発明のディスクブレーキ用ロータは、質量比率で、C:2.8〜3.8%,Si:1.8〜3.4%,Mn:0.5〜1.0%,S:0.02〜0.10%,Cr:0.1〜1.5%,Mo:0.1〜1.0%,Cu:0.1〜1.2%,Ni:0.1〜1.2%,Sn:0.032%以下,Ce:0.01〜0.05%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴としている。
【0012】
ここで、C(炭素)及びSi(シリコン)は、鋳鉄で黒鉛を晶出させるのに重要な元素であり、これらの元素の影響は、炭素当量CE=C+Si/3を用いて総合的に考える必要がある。CE値は、耐ヒートクラック性に影響を与える黒鉛数,黒鉛面積率及び熱伝導率を変化させる因子であり、また、材料の強度も大きく変化させるので、これらのバランスを考慮し添加量を選定しなければならない。これらの点を考慮して添加量はC:2.8〜3.8%,Si:1.8〜3.4%とした。
【0013】
Mn(マンガン)は、脱酸,脱硫作用を有しており、またパーライト化を促進する元素である。しかし、過度の添加はチル化を招くので、添加量は0.5〜1.0%とした。
S(硫黄)は、P(リン)と同様に不純物として存在し、炭化物生成促進傾向と黒鉛化傾向との両作用を有している。Sは希土類元素Ceと化学量論的に反応し、黒鉛晶出の下地となる。これによりチル化の低減、黒鉛の微細化、強度の向上等の効果がある。しかし多量添加すると粒界に析出して耐酸化性及び耐食性を低下させるので、添加量は0.02〜0.10%とした。
【0014】
Cr(クロム)は、フェライトの析出を抑え、パーライトの析出を助長且つ促進するので機械的性質を向上させる。しかし、1.5%以上添加するとチル化を招くので、添加量は0.1〜1.5%とした。
Mo(モリブデン)は、Crと同様にパーライトを緻密化し、機械的性質を向上させる。しかし、1.0%以上添加するとマトリックスがベイナイト化するので、添加量は0.1〜1.0%とした。
【0015】
Cu(銅)は、パーライト安定元素であり、また弱い黒鉛化促進元素であるが、Cu自体では機械的性質の向上は小さいので、Cr及びMoの炭化物生成促進元素と組み合わせて用いる。添加量は0.1〜1.2%とした。
Ni(ニッケル)は、熱伝導率を低下させ、ディスクロータにおいては発生熱応力を大きくしてしまうが、一方で黒鉛化促進元素であり、材料組織中の黒鉛を微細化させ黒鉛数を増やし、クラックの進展を遅らせる作用がある。しかし、Niを1.2%以上添加するとマトリックスがベイナイト化し、またコストも上昇してしまうので、添加量は0.1〜1.2%とした。なお、さらに好ましくはNiの添加量は0.5〜0.6%である。
【0016】
Ce(セリウム)はSと化合物を作り、これが黒鉛晶出核となり黒鉛化を促進し、黒鉛を微細化する。また、Ce添加をCr,Moと併用するとパーライトがより緻密化し、機械的性質が向上する。しかし、多量添加は逆にチル化を促進してしまうので、添加量は、0.01〜0.05%とした。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータについて説明する。
(1)供試材の化学成分と諸性質
本実施形態のディスクブレーキ用ロータの化学成分(組成)を、比較のために試作したロータの化学成分とともに図1に示す。図1に示すNo1〜No5,FC250,現行材の各供試材は、いずれも片状黒鉛鋳鉄であって、このうち現行材は従来の大型車用ディスクロータに使用されているもので、耐ヒートクラック性に優れているもののNi添加量が多く比較的コストが高い。また、FC250はJISで定められた一般的な材料である。また、これらの各供試材は、図1に示す成分以外の残部は、不可避不純物を含むFe(鉄)である。
【0018】
No1〜No5の各供試材は、現行材に対してNi及びCeの添加量をパラメータとして変化させた片状黒鉛鋳鉄であって、このうちNo5が本発明のディスクロータである。なお、図1では、No1〜No5の供試材において、Ni,Ce以外の成分にもばらつきが見られるが、これは実際に試作したロータの分析値を記載したためであり、Ni,Ce以外の成分の添加量は各供試材とも実質同一である。
【0019】
図2は各供試材の熱的性質及び常温ヤング率を示す図であり、熱伝導率はFC250材が最も高く、Ni添加及びCe接種により熱伝導率が低下することがわかる。熱膨張率係数及び常温ヤング率は各試料ともほぼ同じである。
図3は高温強度特性を示す図であり、Ceを接種した供試材(No1,No3,No5)は他の材料よりも強度が高いことを示している。
(2)耐ヒートクラック性の試験方法
次に、各供試材の耐ヒートクラック性について説明する。ここで、耐ヒートクラック性について定義すると、耐ヒートクラック性に優れているとは、ヒートクラックの発生,進展によりディスクロータが破損するまでの寿命(以下、ヒートクラック寿命という)が長いことをいう。また、ヒートクラック寿命は、クラック発生に要するサイクル数+進展に要するサイクル数(進展寿命)で定義される。
【0020】
この試験には、実際に試作した各供試材のロータを車両に搭載してヒートクラックを発生させる実機ダイナモ試験と、テストピース(TP)を用いてこの実機ダイナモ試験をシミュレートした台上試験(ヒートクラックシミュレーション試験)とがあり、これらの試験を両方行なった。
図4(a)〜(c)はヒートクラックシミュレーション試験を説明するための図である。この試験に用いた試験機はファレックス磨耗試験機を改造したものであり、図4(a)に示すように、回転円盤3にはリング状のパッド2が取り付けられている。また、ディスクロータ(以下、ロータともいう)1は固定されており、回転円盤3をモータ4により回転させて、制動を行なうようになっている。
【0021】
また、ロータ1にはリンク機構5を介しておもり6が取り付けられている。図示するようにリンク機構5にはシリンダ機構7が接続されており、このシリンダ機構7を作動させることでロータ1に荷重を加えることができるようになっている。
また、図4(a)に示すように、ロータ1には冷却用エアが供給可能に構成されている。ここで、図4(b)に示すように、各供試材のロータ1の側面にはエア供給切り欠き1aが形成されており、さらに、図4(c)に示すように、ロータ1の内部にはエア供給溝1bが形成されている。そして、試験時には、このエア供給切り欠き1aからエア供給溝1bに冷却エアを供給することで、ロータ下面(裏面)が冷却されるようになっている。
【0022】
これは、実際の車両においてもロータ1には冷却用のエアが供給されるように構成されているからであり、実際の使用状況に極力近付けるためである。
なお、図4(c)に示すように、ロータ1の摺動面(表面)及び下面(裏面)には温度センサとしての熱電対8が設けられている。
試験条件は、面圧:5.6MPa,回転数:3000rpm,温度:表面50〜500℃,下面50〜260℃,最大温度差:Δ240℃である。このうち最も重要なパラメータは表面温度であり、表面温度が上記の値となるように、他の条件が設定されている。
【0023】
また、熱サイクル条件について説明すると、ロータ1の表面を50℃から500℃(下面260℃)まで摺動加熱し(約40秒)、その後ロータ1をエア冷却してロータ表面を50℃まで冷却する(約120秒)。そして、これを1サイクルとしてカウントする。
(3)シミュレーション試験及びダイナモ試験結果
図5はヒートシミュレーション試験における各材料の平均ヒートクラック長さと熱サイクル数との関係を示す。ここで、平均ヒートクラック長は以下のようにして求める。まず、各供試材の表面において、所定の大きさの観察面(例えば1mm×1mm)を無作為に抽出する。そして、この観察面で観察できたクラックのうち、長い順に5本のクラックを選びその平均値を算出する。さらに、観察面を複数箇所(例えば5個所)に設定し、各観察面での平均値をさらに平均化して平均ヒートクラック長さを算出するのである。
【0024】
ここで、図5中の直線は近似値であるが、この直線の傾きは単位熱サイクル当たりのヒートクラックの伸長量を示していることになるので、以下、この傾きを進展速度と定義する。また、各供試材の進展速度を図6に示す。
そして、この結果から、現行材の進展速度はFC250の1/4.1倍であることが確認できた。また、No5の供試材は、Niの添加量が現行品である現行材の半分以下であるにもかかわらず、現行材とほぼ同等の進展速度であることが確認できた。
【0025】
また、図示はしないが、実機ダイナモ試験結果から現行材のFC250に対するヒートクラック寿命は4.4倍であり、上記ヒートシミュレーション試験の進展速度の比と対応していることが確認できた。
以上の結果から、耐ヒートクラック性はクラック発生までのサイクル数の影響はなく、進展寿命で評価することができることがわかる。
【0026】
図7はNo5及び現行材の実機ダイナモ試験における最大ヒートクラック長さと熱サイクルとの関係を示す図であるが、この実機ダイナモ試験の結果からも、No5の供試材は、現行材と同等の耐ヒートクラック性を有していることがわかる。
(4)シミュレーション試験による各材料の進展速度と諸性質及びミクロ組織との相関
図1〜図3及び図6から、ヒートクラックの進展速度は材料の引っ張り強度,ヤング率,熱伝導率及び熱膨張率とは、ほとんど相関がないことがわかる。
【0027】
そこで、ヒートクラックの進展速度が材料組織中のどの性質と相関関係があるのかを調べた。図8(a)〜(f)はCE値一定の条件下でマトリックス硬度,黒鉛面積率,黒鉛間距離,供晶セル数,黒鉛長さ及び黒鉛数とヒートクラックの進展速度との相関を調べた結果を示す図である。これらの結果から、進展速度は黒鉛数と最も強い相関があることがわかった〔図8(f)参照〕。
【0028】
この場合、進展速度(y)は、組織中の黒鉛数(x)をパラメータとして下式で近似することができる。
y=a/x2 +b(a,bはともに定数)
したがって、基本的に黒鉛数が多いほどヒートクラックの進展速度が低下して、耐ヒートクラック性が向上することがわかる。
(5)黒鉛数とNi及びCeとの関係
図9(a)は各供試材の進展速度と黒鉛数との関係を詳細に示す図であり、図8(f)と実質同じ図である。この図から、No5の材料は、現行材に対して黒鉛数が僅かに少ないものの、耐ヒートクラック性については現行材とほぼ同等であることがわかる。
【0029】
これは、Ce接種の有無に関係がある。図9(b)は黒鉛数とNi及びCeとの関係を示すものであるが、この図から、Ni及びCeは黒鉛数を増加させ、クラックの進展速度を低下させる作用があることがわかる。なお、図9(b)では、FC250材は試験条件が他の供試材と異なるためFC250材のデータは省略する。
つまり、単に黒鉛数を増加させるのであればNi添加量を増大すれば良いが、Niは高価であるためコストが上昇する。これに対して、Ceを接種するとNi添加量を増やさなくても黒鉛数を増大させることができるのである。
【0030】
これは、CeとSとが結合して黒鉛晶出核となり黒鉛化を促進し、黒鉛を微細化するためである。また、Ce接種をCr,Moと併用するとパーライトがより緻密化して強度も向上するのである。
ただし、図10に示すように、Ceの接種過多はチル化を招くため、Ceの接種量(添加量)は0.01〜0.05%とする。
【0031】
上述のように、本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータによれば、Ce接種を行なうことでNi添加量を低減しながら耐ヒートクラック性を損なうことなく低コストなディスクロータを製作することができる利点がある。
【0032】
これは、Ce接種を行なうことで、材料組織中の黒鉛が微細化し、黒鉛数が増加する(Ni添加と同様の効果がある)からである。黒鉛晶出量(黒鉛面積率)が同等であれば、黒鉛が微細に分布している方がクラックの進展速度が遅くなり、この結果、耐ヒートクラック性が向上するのである。
また、Ce接種を行なうことで、パーライトが緻密化され、マトリックスが硬くなり強度も向上するという利点がある。
【0033】
なお、本発明のディスクブレーキ用ロータは、▲1▼片状黒鉛鋳鉄の組織における黒鉛数が多いほどクラック進展速度が低下する(即ち、耐ヒートクラック性が向上する)、▲2▼Ce接種により黒鉛数を増大させることができ、この分だけNiの添加量を低減させることができる、という知見に基づいてなされたものである。したがって、本発明のディスクブレーキ用ロータは、上述の実施形態中の重量比率(No5の供試材の重量比率)に限定されるものでない。ここで、本発明のディスクブレーキ用ロータとしては、上述した特性を考慮して、少なくとも重量比率で、C:2.8〜3.8%,Si:1.8〜3.4%,Mn:0.5〜1.0%,S:0.02〜0.10%,Cr:0.1〜1.5%,Mo:0.1〜1.0%,Cu:0.1〜1.2%,Ni:0.1〜1.2%,Ce:0.01〜0.05%をそれぞれ含んで構成されていればいればよい。
【0034】
ここで、C(炭素)及びSi(シリコン)は、鋳鉄で黒鉛を晶出させるのに重要な元素であり、これらの元素の影響は、炭素当量CEを用いて総合的に考える必要がある。CE値は、耐ヒートクラック性に影響を与える黒鉛数,黒鉛面積率及び熱伝導率を変化させる因子であり、また、材料の強度も大きく変化させるので、これらのバランスを考慮し添加量を選定しなければならない。これらの点を考慮して添加量はC:2.8〜3.8%,Si:1.8〜3.4%とした。
【0035】
Mn(マンガン)は、脱酸,脱硫作用を有しており、またパーライト化を促進する元素である。しかし、過度の添加はチル化を招くので、添加量は0.5〜1.0%とした。
S(硫黄)は、P(リン)と同様に不純物として存在し、炭化物生成促進傾向と黒鉛化傾向との両作用を有している。Sは希土類元素Ceと化学量論的に反応し、黒鉛晶出の下地となる。これによりチル化の低減、黒鉛の微細化、強度の向上等の効果がある。しかし、多量添加すると粒界に析出して耐酸化性及び耐食性を低下させるので、添加量は0.02〜0.10%とした。
【0036】
Cr(クロム)は、フェライトの析出を抑え、パーライトの析出を助長且つ促進するので機械的性質を向上させる。しかし、1.5%以上添加するとチル化を招くので、添加量は0.1〜1.5%とした。
Mo(モリブデン)は、Crと同様にパーライトを緻密化し、機械的性質を向上させる。しかし、1.0%以上添加するとマトリックスがベイナイト化するので、添加量は0.1〜1.0%とした。
【0037】
Cu(銅)は、パーライト安定元素であり、また弱い黒鉛化促進元素であるが、Cu自体では機械的性質の向上は小さいので、Cr及びMoの炭化物生成促進元素と組み合わせて用いる。添加量は0.1〜1.2%とした。
Ni(ニッケル)は、熱伝導率を低下させ、ディスクロータにおいては発生熱応力を大きくしてしまうが、一方で黒鉛化促進元素であり、材料組織中の黒鉛を微細化させ黒鉛数を増やし、クラックの進展を遅らせる作用がある。しかし、Niを1.2%以上添加するとマトリックスがベイナイト化し、またコストも上昇してしまうので、添加量は0.1〜1.2%とした。なお、好ましくはNiの添加量は0.5〜0.6%であり、この場合には、耐ヒートクラック性を維持しながらコストを極力低減できる。
【0038】
Ce(セリウム)はSと化合物を作り、これが黒鉛晶出核となり黒鉛化を促進し、黒鉛を微細化する。また、Ce添加をCr,Moと併用するとパーライトがより緻密化し、機械的性質が向上する。しかし、図10に示すように、多量添加は逆にチル化を促進してしまうので、添加量は0.01〜0.05%とした。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明のディスクブレーキ用ロータによれば、Ni添加量を低減する代わりにCe接種を行なうことで耐ヒートクラック性を損なうことなく低コストなロータを提供することができる利点がある。また、Ce接種を行なうことで、パーライトが緻密化され、マトリックスが硬くなり強度も向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの化学成分を他の供試材とともに示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの熱的性質や常温ヤング率を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの高温強度特性を示す図である。
【図4】(a)〜(c)はいずれも本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータのヒートシミュレーション試験を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータのシミュレーション試験の結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの進展速度を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの実機ダイナモ試験にの結果を示す図である。
【図8】(a)〜(f)はいずれも本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータのヒートクラック進展速度との相関因子を調べた結果を示す図である。
【図9】(a)は本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータの進展速度と黒鉛数との関係を詳細に示す図、(b)は同じく黒鉛数とNi及びCeとの関係を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかるディスクブレーキ用ロータのCe接種量とチル深さとの関係を説明するための図である。
【符号の説明】
1 ディスクロータ(ロータ)
2 パッド
Claims (1)
- 質量比率で、C:2.8〜3.8%,Si:1.8〜3.4%,Mn:0.5〜1.0%,S:0.02〜0.10%,Cr:0.1〜1.5%,Mo:0.1〜1.0%,Cu:0.1〜1.2%,Ni:0.1〜1.2%,Sn:0.032%以下,Ce:0.01〜0.05%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする、ディスクブレーキ用ロータ。
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