以下に本発明の詳細な説明を述べる。以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。
上記のように、本発明は、遷移領域のランディングエネルギーを有する電子ビームを試料に照射する。遷移領域は、2次放出電子領域とミラー電子領域の間である。2次放出電子領域では、電子ビームを照射したときに、実質的に2次放出電子のみが検出される。ミラー電子領域では、実質的にミラー電子のみが検出される。これに対して、遷移領域では、ミラー電子と2次放出電子が混在する。遷移領域は、ランディングエネルギーが非常に小さい領域である。そして、遷移領域はこれまであまり着目されていなかった。本発明者は、このような遷移領域に着目し、ランディングエネルギーを遷移領域に設定し、これにより、観察能力の向上に成功した。
以下では、4つの観点について説明する。
第1の観点は、前述の[背景1]と対応し、異物観察に関する。
第2の観点は、前述の[背景2]と対応し、絶縁領域及び導電領域の観察に関する。
第3の観点は、前述の[背景3]と対応し、パターンの観察に関する。
第4の観点は、前述の[背景4]と対応し、複数の膜が形成された試料の観察に関する。
いずれの観点でも、上述の遷移領域が利用される。例えば、第1の観点において、遷移領域は、図5AのLE≦10[eV]であり、また、図5BのLE≦5[eV]であり、図33のLEA≦LE≦LEBである。ここで、LEはランディングエネルギーである。LEA及びLEBは、遷移領域の下限及び上限である。
本実施の形態において、一般的には、2次放出電子は、2次電子、反射電子及び後方散乱電子を含む。これら3種の電子が混在する場合も、2次放出電子という用語を用いる。2次放出電子の代表として、2次電子が説明されることがある。また、ミラー電子は、表面電位の作用で試料から反射される電子である。すなわち、ミラー電子は、試料に衝突することなく、試料から跳ね返ってくる。ミラー電子と2次放出電子の両者について、「試料から放出される」「試料から反射される」「電子ビーム照射により生成される」などの表現が用いられてよい。
[第1の観点]
第1の観点は、異物の観察に関し、特に、異物を検査する技術に関する。
本発明の目的は、試料表面の異物を、高速かつ確実に検出することができる電子線検査方法及び電子線検査装置を提供することにある。
本発明に係る電子線検査方法は、試料表面に所定の照射領域を有する撮像電子ビームを照射し、反射した電子を検出器により検出することにより、前記試料表面及び前記試料表面上の異物の画像を取得する電子線検査方法であって、帯電用電子ビームの照射により前記異物を帯電させ、前記異物周辺に前記試料表面とは異なる電位分布を形成する異物帯電ステップと、前記撮像電子ビームの照射により前記異物から反射され、前記電位分布の作用により曲がった軌道を通って前記検出器に到達する前記電子を検出し、前記試料表面の倍率よりも前記異物の倍率が増大されている前記異物の拡大像を取得する拡大像取得ステップと、を有する。
これにより、所定の照射領域を有する電子ビームを用いて電子線検査を行うので、広い面積を高速で検査できる。また、異物が周囲の試料表面よりも拡大された拡大像を取得できるので、確実に異物を検出することができる。
また、本発明において、前記異物帯電ステップは、前記帯電用電子ビームの照射により前記異物を負極性にチャージアップさせてよく、前記拡大像取得ステップは、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーを10eV以下としてよく、前記異物の直前で反射するミラー電子を検出して前記異物の前記拡大像を取得してよい。
これにより、低ランディングエネルギー帯で発生し易いミラー電子を用いて、異物の拡大像を確実に検出することができる。
また、本発明において、前記異物帯電ステップは、前記帯電用電子ビームの照射により前記異物の電位の絶対値を上げてよい。
これにより、背景となる試料表面と異物との電位差を大きくし、異物の拡大像のコントラストを高くし、電子線検査を容易にすることができる。
また、本発明において、前記帯電用電子ビームのランディングエネルギーは、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーよりも大きくてよい。
これにより、高いランディングエネルギーの帯電用電子ビームの照射により、異物の負電位の絶対値を高くすることができる。したがって、撮像電子ビームの照射時にミラー電子を発生し易くすることができる。
また、本発明において、前記帯電用電子ビームのランディングエネルギーは、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーよりも小さくてよい。
この構成は、適切な撮像電子ビームのランディングエネルギーが既知の場合に適している。上記構成により、撮像電子ビームを用いて異物の拡大像を取得するときに、異物表面の電位シフトが大きくなることを防ぐことができる。したがって、確実に拡大像を検出することができる。
また、本発明において、前記帯電用電子ビームと前記撮像電子ビームとでは、ランディ
ングエネルギーが等しく、ドーズ量が異なってよい。
これにより、電子ビームのランディングエネルギーを変化させることなく、ドーズ量により異物の帯電を制御することができる。したがって、容易な制御でもって異物の拡大像を検出できる。
また、本発明の方法は、前記撮像電子ビームを前記試料表面に対して非垂直に入射させてよい。
これにより、撮像電子ビームの入射角度を適切に調整し、より解像度の高い異物の拡大像を取得することができる。
また、本発明において、前記拡大像取得ステップは、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーを10eV以上とし、前記異物から放出されて反射した二次放出電子を検出し、前記異物の拡大像を取得してよい。
これにより、異物から二次放出電子を発生させ、二次放出電子に基づいて異物の拡大像を取得し、電子線検査を行うことができる。
また、本発明において、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーは、前記試料表面から反射される電子が総てミラー電子となる最高ランディングエネルギー以上であり、前記試料表面から反射される電子が総て二次放出電子となる最低ランディングエネルギーに5eVを加えた値以下のランディングエネルギーであってよい。
言い換えれば、本発明において、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーLEは、LEA≦LE≦(LEB+5eV)に設定されてよい。ここで、LEAは、前記試料表面から反射される電子が総てミラー電子となる最高ランディングエネルギーであり、LEBは、前記試料表面から反射される電子が総て二次放出電子となる最低ランディングエネルギーである。
これにより、異物と周囲の試料表面との階調差が大きいランデシィングエネルギー帯を用いて電子線検査を行うことができる。したがって、コントラストの大きい画像取得により電子線検査を容易かつ確実に行うことができる。ここで、階調は画像の輝度を表し、階調差は輝度差を表す。
また、本発明において、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーは、前記試料表面から反射される電子がミラー電子と二次放出電子との混合又は二次放出電子のみであるランディングエネルギー帯の中であって、かつ、前記異物から反射される電子がミラー電子と二次放出電子の混合であるランディングエネルギー帯の中であって、かつ、前記試料表面の像と前記異物の拡大像との階調差が最大となるランディングエネルギーに設定されてよい。
これにより、周囲の背景と異物との最も階調差が大きくなる。したがって、異物を検出し易い状態で、異物の検出を行うことができる。
本発明に係る電子線検査装置は、試料を載置するステージと、所定の照射領域を有する電子ビームを生成し、該電子ビームを前記試料に向けて照射する1次光学系と、前記試料から反射された電子を検出する検出器を有し、前記試料の所定の視野領域の画像を取得する2次光学系と、を備え、前記1次光学系は、帯電用電子ビームの照射により前記異物を帯電させて前記異物の電位分布を試料表面と異ならせ、次に撮像電子ビームを前記試料に
照射し、前記2次光学系は、前記異物から反射され、前記電位分布の作用を受けて曲がった軌道を通って前記検出器に到達する電子を検出し、前記試料表面の倍率よりも前記異物の倍率が増大されている前記異物の拡大像を取得する。
これにより、所定の大きさの照射領域を有する電子ビームにより、試料表面全体を高速に検査することができる。また、異物の像を周囲の像よりも拡大し、異物の検出を確実に行うことができる。
また、本発明において、前記1次光学系は、前記帯電用電子ビームの照射により前記異物をチャージアップさせ、次にランディングエネルギーが10eV以下の前記撮像電子ビームを前記試料に照射してよく、前記2次光学系は、前記異物の直前で反射したミラー電子を前記検出器により検出し、前記異物の拡大像を取得してよい。
これにより、低ランディングエネルギーを用いて、異物を、ミラー電子が発生し易い状態にできる。ミラー電子を用いることにより、異物の拡大像を取得し易くなる。したがって、異物の検出をより確実にすることができる。
また、本発明では、前記ステージ上に、ファラデーカップ、基準試料チップ及びEB−CCDの少なくとも1つが載置されてよい。
これにより、電子ビームのプロファイルを直接的に検出することができ、電子ビームの調整を適切に行うことができる。
また、本発明において、前記ステージ上には、基準試料チップが載置されてよく、前記基準試料チップは、円形状、十字形状又は矩形状のいずれかの形状パターンを有してよい。
これにより、ミラー電子が好適に発生するように電子ビームのビームプロファイルの調整を行うことができる。ミラー電子は異物の拡大像の検出に適しており、上記構成はミラー電子を適切に発生させることができる。
また、本発明において、前記1次光学系は、前記撮像電子ビームのランディングエネルギーを10eV以上にしてよく、前記2次光学系は、前記異物から放出されて前記検出器に到達する二次放出電子を検出して、前記異物の拡大像を取得してよい。
これにより、異物から二次放出電子を発生させることによっても、異物の検出を行うことができる。
また、本発明において、前記2次光学系は、NAアパーチャと交換可能なEB−CCDを有してよい。
これにより、2次光学系を通過する2次電子ビームについて、直接的にプロファイルを測定できる。したがって、適切な調整を行うことができる。
また、本発明において、前記2次光学系は、NAアパーチャを有してよく、該NAアパーチャは、前記ミラー電子の強度中心がアパーチャ中心位置に一致するように配置されてよい。
これにより、NAアパーチャの位置を適切に配置して、ミラー電子信号を良好に検出できるとともに、二次放出電子の検出量を相対的に小さくできる。したがって、高コントラ
ストの画像を取得することができる。
また、本発明において、前記2次光学系は、NAアパーチャを有してよく、該NAアパーチャ形状は、前記ミラー電子の強度分布の長手方向に応じた方向に長軸を有する楕円形状であってよい。
これにより、ミラー電子の強度分布に合わせた楕円形状のアパーチャが用いられる。したがって、より多くのミラー電子信号を検出することができ、高コントラストの画像を取得することができる。
また、本発明において、前記2次光学系は、複数のアパーチャを有するNAアパーチャを有してよく、該NAアパーチャは、前記複数のアパーチャが前記ミラー電子の強度中心の周辺に位置するように配置されてよい。
ここでは、NAアパーチャが、アパーチャ部材であり、複数のアパーチャが、アパーチャ部材に設けられた複数の開口である。上記構成により、ミラー電子の散乱方向に合わせてアパーチャの配置を行うことができる。そして、用途や性質に応じた適切なミラー電子の検出を行うことができる。
また、本発明において、前記2次光学系は、複数のアパーチャを有するNAアパーチャを備えてよく、該NAアパーチャは、前記複数のアパーチャのうちのいずれかが前記ミラー電子の強度中心と一致するように配置されてよい。
ここでは、NAアパーチャが、アパーチャ部材であり、複数のアパーチャが、アパーチャ部材に設けられた複数の開口である。上記構成により、散乱方向に特徴のある異物に対して有効な検査を行うことができる。異物の分類に役立つ検査を行うことも可能となる。
また、本発明において、前記2次光学系は、前記NAアパーチャを移動させる移動機構を更に備えてよい。
これにより、NAアパーチャの位置調整を、移動機構を用いて容易に行うことができる。
また、本発明において、前記1次光学系及び前記2次光学系は、前記試料上に散布されたサイズが既知の微小球体を用いて感度校正が行われた光学系であってよい。
これにより、高精度の感度校正を行うことができる。したがって、良好な条件で画像取得を行うことができる。
また、本発明の電子線検査装置は、前記ステージを収容するチャンバと、該チャンバに備えられたSEM式検査装置とを有してよく、前記検出器が取得した前記異物の拡大像の位置情報に基づいて、前記ステージを移動させ、前記SEM式検査装置で前記異物を詳細検査してよい。
これにより、迅速かつ高精度に異物のレビュー検査を行うことができ、異物検査を高速かつ高精度に行うことができる。
「発明の効果」
以上に説明したように、本発明によれば、異物検査を迅速に行うことができるとともに、異物の検出を確実かつ容易に行うことができる。
「発明の実施の形態」
以下に本発明の詳細な説明を述べる。以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。
図1Aは、本実施の形態に係る電子線検査方法によって得られる画像を示している。図1を参照して本発明の概略的な原理を説明する。
図1Aは、本実施の形態に係る写像投影法により得られた異物10の画像80を示している。異物サイズは40〔nm〕である。図1Aの画像において、異物10の大きさは、ピクセルサイズ2×2〔μm〕の領域をおおよそ満たす程度である。ここで、ピクセルサイズとは、検出器の1画素に対応する試料上の実際のサイズである。ピクセルサイズは、観察可能な試料のサイズの最小単位のことを意味する。従って、図1Aにおいては、実際の異物サイズは40〔nm〕であるにも関わらず、表示された画像80は、2×2〔μm〕の大きさに近い程度に拡大されている。このことは、ピクセルサイズが例えば1〔μm〕、1.5〔μm〕程度の大きさであっても、40〔nm〕程度の異物10を発見できることを意味する。
図1Aにおいて、撮像用の電子ビームのランディングエネルギーは、1〔eV〕である。ピクセルサイズは100〔nm〕である。従来、異物の実際のサイズが40〔nm〕である場合には、ピクセルサイズが40〔nm〕より小さいことが必要とされる。これに対して、本実施の形態は、光学倍率よりも拡大された異物10の拡大像を取得することができる。
図1Bは、従来のSEM(Scanning Electron Microscope)型の異物検査装置で得られる異物10の画像280を示している。異物サイズは40〔nm〕である。図1Bにおいて、ピクセルサイズは、図1Aと同様に2×2〔μm〕である。しかし、図1Aと比較して、図1Bでは、異物10の画像のサイズが相当に小さくなっていることが分かる。
このように、本実施の形態に係る電子線検査方法は、従来のSEM方式と比較して、異物10のサイズが大幅に増大した画像を取得できる。つまり、異物10からの検出信号が、光学倍率よりも拡大される。超微小サイズの異物に対しても高い感度を実現できる。更に、それだけでなく、実際の異物よりも大きなピクセルサイズを用いて異物を検出することができる。
図1Cは、試料20上に異物10が存在している状態を示した側面図である。図1Cにおいて、異物10の表面は球面状である。そのため、表面から反射される電子は、垂直な軌道を通らず、広がるように軌道を変える。これは以下の理由による。異物10が球面の表面形状を有するので、異物10の電位分布は、試料表面21とは異なる状態にある。そのため、マクロ的に試料表面21を見ると、異物10の存在する部分の電位分布が歪んでいる。そのために電子の軌道が変わる。この点、詳細は後述する。
図2A及び図2Bは、比較のため、従来の電子線検査方法を示している。図2Aは、従来の光方式による電子線検査方法を示している。光方式においては、いわゆる暗視野・散乱方式により異物10が検出される。すなわち、試料20の試料表面21に光、レーザが照射され、散乱光が検出器170により検出される。ところが、従来の光方式では、異物10のサイズが50〜100〔nm〕以下の超微小な異物や、有機物の付着等については、検出感度が低下する。そのため、適用が困難となってきた。感度低下の大きな要因は、光の波長よりも異物10が小さくなり、S/Nが低下することであると考えられる。
図2Bは、従来のSEM方式による電子線検査方法を示している。SEM方式では、電子ビームを絞ってピクセルサイズを小さくすることにより、超微小なパターン欠陥22等を検出できる。例えば、対象異物サイズよりも小さいピクセルサイズを用いることができるので、高分解能で異物10の検査を行うことができる。しかし、ピクセルサイズが小さいため、検査時間が膨大となり、現実的な時間での検査が困難であり、実用的ではない。
このように、従来は、超微小サイズ50〜100〔nm〕以下の異物の検査について、高感度、高速及び高スループットを実現する異物検査方法及び異物検査装置が存在しなかった。
図3A及び図3Bは、異物検査方法により取得される異物10の拡大像80と、拡大像の断面階調の一例を示している。ここで、階調は、画像の輝度を表し、階調差は輝度差である。階調が大きいほど輝度も大きい。図3Aが、拡大像80の一例であり、より詳細には、中央の白領域が異物10の拡大像81であり、黒領域が、試料20の表面像82を示している。ここで、異物サイズ(直径)は40〔nm〕であり、光学倍率は300倍である。このとき、従来の異物検査方法によれば、異物10の像のサイズは、40〔nm〕×光学倍率300=12〔μm〕である。図3Aの本実施の形態では、異物10の拡大像81のサイズは、190〔μm〕となる。また、検出器のピクセルサイズは、15〔μm〕である。
図3Bは、ピクセル位置における断面階調を示している。横軸がピクセル位置座標であり、縦軸が断面階調である。図3Bにおいて、三角形マーク(△)は、山形状(凸形状)の部分を示している。この部分は、階調が高くなっている領域であり、図3Aの白い拡大像81の部分に対応する。つまり、画像80上の拡大像81の横幅(三角形マーク△)は、190〔μm〕である。
ここで、検出器65のピクセルサイズが15〔μm〕である。そのため、従来の方法によれば、異物サイズは画像80上では12〔μm〕で表示される。よって、異物10の画像は、1ピクセル以下の信号となってしまう。1ピクセルでは、異物10を正確に表現することはできない。
一方、本実施の形態に係る異物検査方法によれば、異物10の拡大像81は、ピクセル数=12.7の像として検出可能である。よって、更に低倍率の大きなピクセルサイズで撮像可能である。大きなピクセルサイズで撮像が可能であれば、試料表面21全体を高速で検査することが可能となる。したがって、高速かつ高スループットの異物検査が可能となる。例えば、異物サイズ10〜30〔nm〕のとき、ピクセルサイズが100〜1000〔nm〕でよい。このように異物サイズより大きいピクセルサイズの使用が可能となり、高速の異物検査が可能となる。
本実施の形態に係る電子線検査方法に適用される電子線検査装置は、写像投影方式の電子線コラム(1次光学系)を有している。SEM方式では、電子ビームが絞られる。電子ビームのスポットサイズが、1ピクセル分のピクセルサイズとなる。一方、写像投影方式においては、電子ビームが、複数ピクセルを含む所定の面積領域を有する。このような電子ビームが試料20に照射される。検出器は、複数ピクセルに対応する電子を同時に検出する。複数ピクセル分の像が形成され、画像信号として取得される。このように、写像投影光学系は、電子を試料表面21に照射する電子照射系と、試料表面21から反射された電子の像を拡大倍率にて形成する光学系と、検出器70と、検出器70からの信号を処理する画像処理装置系とを有している。
図4Aは、試料に照射される電子ビームのランディングエネルギーと、試料から放出さ
れる電子との関係を示している。より詳細には、図4Aは、ランディングエネルギーを変化させながら電子ビームを試料20に照射したときの、二次放出電子の発生量を示している。
図4Aにおいて、横軸はランディングエネルギーLE〔keV〕を示し、縦軸は、入射電子の量に対する二次放出電子の発生量の比を示している。
図4Aにおいて、二次放出電子発生量が1より大きい場合は、打ち込まれる電子量よりも、放出される電子量の方が多い。したがって、試料は正に帯電する。図4Aにおいては、正帯電領域は、ランディングエネルギーLEが10〔eV〕以上、1.5〔keV〕以下の領域である。
逆に、二次電子放出量が1より小さい領域では、試料20に打ち込まれる電子量の方が、試料20から放出される電子量よりも多い。したがって、試料20は負帯電となる。図4Aにおいては、負帯電領域は、ランディングエネルギーLEが10〔eV〕以下の領域と、ランディングエネルギーLEが1.5〔keV〕以上の領域である。
図4Bは、ミラー電子を示している。図4Bにおいて、試料表面21上に異物10が存在し、異物10が負極性に帯電している。一定条件下で電子ビームが試料20に照射されると、電子ビームの電子は異物10に衝突せず、直前で向きを変えて反射する。このように、照射対象と衝突せず、直前で跳ね返ってくる電子を、ミラー電子という。照射される電子がミラー電子になるか否かは、異物10の電位分布(電荷状態)と、異物10に照射される電子ビームのランデシィングエネルギーとに依存する。例えば、異物10が負極性にチャージアップした状態にあり、かつ、ランディングエネルギーがあまり高くなければ、電子ビームは、異物10が有する負電界に跳ね返され、異物10に衝突せずに反射し、ミラー電子になる。
図4Cは、二次放出電子を示している。図4Cにおいては、電子ビームが試料20に照射され、試料表面21に衝突し、その結果、試料から二次放出電子が放出されている。異物10においても同様であり、電子ビームが異物10に衝突し、異物10から二次放出電子が放出される。
本実施の形態に係る電子線検査方法は、ミラー電子及び二次放出電子を用いて試料表面21上に存在する異物10を検出する。
図5A及び図5Bは、試料20及び異物10に照射される電子ビームのランディングエネルギーLEと、試料20から反射される電子の信号強度/平均階調との関係の例を示している。ここで、「反射する」とは、電子ビームの照射により、試料20又は異物10から、電子ビームと略反対向きの電子が返ってくることを意味する。したがって、「反射する」は、試料20又は異物10に衝突せずに反射する電子と、試料20又は異物10に衝突してから放出されて反射する二次放出電子の双方を含む。
図5Aは、照射される電子ビームのランディングエネルギーLEと、反射する電子の信号強度/平均階調との関係の一例である。図5Aにおいて、横軸が電子ビームのランディングエネルギーLEを示し、縦軸が信号強度/平均階調を示している。平均階調は、画像の輝度を表しており、信号強度と対応する。図5は、ランディングエネルギーLEが0[eV]付近の特性であり、図4よりも遙かに低いエネルギー帯の特性を示している。図5Aにおいて、ランディングエネルギーLE=10〔eV〕以下の領域が、ミラー電子による信号(白)が取得される領域である。一方、ランディングエネルギーLE=10〔eV〕以上の領域が、二次放出電子による信号(黒)が取得される領域である。ミラー電子の
領域においては、ランディングエネルギーLEが下がる程、信号強度が増加していることが分かる。
図5Bは、図5Aと異なる例を示しており、図5Bも、照射される電子ビームのランディングエネルギーと、反射する電子の信号強度/平均階調との関係を示す。図5Bにおいては、ランディングエネルギーLE=5〔eV〕以下の領域が、ミラー電子による信号(白)が取得される領域であり、ランディングエネルギーLE=5〔eV〕以上の領域が、二次放出電子による信号(黒)が取得される領域である。
図5Bの特性線は、図5Aの特性線とは、ミラー電子の信号と二次放出電子の信号の境界のランディングエネルギーLEが5〔eV〕である点で異なっている。ミラー電子と二次放出電子とのランディングエネルギーLEの境界は、試料20の特性や電子ビームのプロファイル等によって変化し、種々の値を取り得る。以後、本実施の形態に係る電子線検査方法及び電子線検査装置においては、図5Aの例(境界のランディングエネルギーLEが10〔eV〕である例)について説明する。しかし、本発明が、これに限定される訳ではない。図5Bに示したように、本発明は、境界のランディングエネルギーが10〔eV〕以下の場合にも適用されてよく、例えば境界のランディングエネルギーが5〔eV〕でよい。
また、図5A及び図5Bにおいて、ランディングエネルギーが境界以下の領域は、本発明の遷移領域に相当し、ミラー電子と2次放出電子が混在する。また、ランディングエネルギーが境界以上の領域が、本発明の2次放出電子領域に相当する。上述したように、境界ランディングエネルギーは、図5Aの例では10[eV]であり、図5Bの例では5[eV]である。
図6は、試料20の試料表面21に異物10が存在する状態を示す。図示のように、電子ビームの照射によって、電子が発生する。ランディングエネルギーLE≦10〔eV〕のときには、異物10が負にチャージアップする。異物10に電子ビームが入射すると、電子ビームの電子が、ミラー電子meとなる。したがって、電子は、異物10の衝突することなく反射して検出器70に到達する。一方、異物10の存在しない正常部位(試料表面21)では、1次電子ビームの照射により二次放出電子seが発生する。
ここで、「二次放出電子se」とは、二次電子、反射電子、後方散乱電子のいずれかを意味する。それらが混在する場合も、「二次放出電子se」に該当する。
このような二次放出電子に関しては、通常、放出率ηが小さい。特に、ランディングエネルギーLEが約50〔eV〕以下の場合には、放出率η<1.0である。ランディングエネルギーLEが0に近付くほど放出率が低下し、ランディングエネルギーLE=0では放出率がほぼ0になる。
また、電子の放出角度も分布を持っている。例えば、二次電子は、コサイン則に従って分布する。そのため、検出器70に到達する電子の透過率は、写像光学投影系では数%以下である。
一方、ミラー電子meは、入射電子が異物10に衝突する手前で反射することにより生じる。ミラー電子meは、入射した1次電子ビームの角度とほぼ対称な角度で、異物10から反射して2次系のレンズ系へ入射する。したがって、散乱や放射分布が小さく、ミラー電子meは、ほぼ100%の透過率で検出器70に到達する。
図7Aは、ランディングエネルギーLEが10〔eV〕以下のときに取得される試料表
面21上の異物10の画像80を示し、図7Bは、画像80の階調値を示している。
図7Aを参照すると、試料表面21及び異物10の画像では、異物10の拡大像81が、白領域で示され、試料表面21の表面像82が、黒領域で示されている。この場合、ミラー電子meが得られた部位では、輝度(階調)が非常に高い。
図7Bは、検出器70の画像80上の方向断面位置と、階調値との関係の一例である。y方向の範囲には、異物10の拡大像81が含まれる。図7Bに示すように、例えば、ミラー電子meが得られていない部位に比べて、ミラー電子部分の階調は、3倍程度高くなる。したがって、高輝度及び高S/Nを実現できる。
図7Bの例では、ミラー電子meが得られている部位が、得られていない部位と比べて、3倍程度高い階調値DNを示している。しかし、階調値の関係は、条件等により異なる。ミラー電子部分の階調値は、2〜10倍程度の値を取り得る。
図8は、異物10への電子ビームの照射によって、異物10からミラー電子meが発生した状態を示している。異物10の形状により、ミラー電子meの反射点のずれやチャージアップ電圧の不均一性が生じる。そのため、ミラー電子meは、軌道及びエネルギーに弱いずれを生じる。その結果、ミラー電子meが2次系のレンズ、ビームフィルタ等を通過すると、信号領域のサイズが大きくなる。
図8においては、異物10の表面電位の影響により、ミラー電子meの反射方向が、放射状に広がる。その結果、検出器10に到達した異物10の信号においては、信号サイズが電子光学系の光学倍率よりも拡大される。拡大率は、例えば5〜50倍である。
例えば、光学倍率100倍の2次系があるとする。異物10からの二次電子については、検出器70での信号サイズは、理想的な計算によれば、100倍×0.1〔μm〕=10〔μm〕である。
一方、異物10のミラー電子meの信号サイズは、例えば、30倍に拡大される。したがって、検出器70に入射する信号のサイズは、300〔μm〕になる。この現象は、単純に100〔nm〕(0.1〔μm〕)を300〔μm〕に拡大する拡大光学系と等価である。すなわち3000倍の拡大光学系が達成される。このことは、異物10より大きなピクセルサイズを使用可能であることを意味する。異物10が100〔nm〕であれば、ピクセルサイズが100〔nm〕より大きくてよい。300〜1000〔nm〕のピクセルサイズを用いることが可能となる。
対象異物よりも大きなピクセルサイズを用いることにより、試料20の試料表面21の大きな領域を一度に検査できる。したがって、高速検査の点で大変効果的である。例えば、ピクセルサイズが100〔nm〕の場合に比べて、ピクセルサイズ300〔nm〕の検査速度は、9倍にできる。ピクセルサイズ500〔nm〕では、検査速度を25倍にできる。つまり、従来は一つの検査に25時間掛かっていたとすると、本実施の形態では検査が1時間で済む。これに対して、SEM方式は、異物サイズより小さいピクセルサイズで撮像を行わなければならない。これは、SEM方式は高精度な形状画像を形成して、正常部との画像比較により異物を検出する方式だからである。
このように、写像投影光学系は、ミラー電子meと二次放出電子seとの輝度差(コントラスト)を大きくできるだけでなく、高速化をも実現することができる。
また、ランディングエネルギーLE≦10〔eV〕の場合、プレチャージを好適に使用
可能である。プレチャージは、撮像前に帯電用電子ビームを照射することによって実現される。
プレチャージは、異物10のチャージアップ電圧を高くするために行われてよい。又は、プレチャージは、撮像時の異物10の電位変化を小さくするために行われてよい。本異物検査方法では、帯電用ビームのランディングエネルギーLE1により、チャージアップ電圧の変動量が制御される。例えば、種々のサイズ、種々の容量を有する異物10が存在する。この場合に、あるチャージアップ電圧以下に帯電した異物10が、ミラー電子を用いることにより検出される。又、周囲の試料電圧とチャージアップ電圧の差異により、ミラー電子の軌道が適切になり、これにより、ミラー電子の透過率が高い状態を形成できる。この点について後述にて詳細に説明する。
次に、プレチャージの方法について説明する。プレチャージには、3つの方法がある。
〔プレチャージ−1〕
図9及び図9Bは、第1のプレチャージモード(プレチャージ−1)を説明するための図である。ここでは、帯電用電子ビームのランデシィングエネルギーをLE1、撮像電子ビームのランディングエネルギーをLE2とする。プレチャージ−1は、ランディングエネルギーをLE2<LE1に設定し、これにより、ミラー電子を発生し易くする。
図9Aでは、試料表面21上に異物10が存在しており、ランディングエネルギーLE1の帯電用電子ビームが照射され、これによりプレチャージが行われる。プレチャージのランディングエネルギーLE1は撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2よりも大きい。これにより、異物10のチャージアップ電圧が大きくなり、撮像時に電子がミラー電子になり易くなる。つまり、異物10の負電位の絶対値を大きくすることにより、異物10の手前にチャージアップによる電界分布の反射点が形成される。したがって、入射する撮像電子ビームは、異物10に衝突する前にミラー電子meとなって反射する。
図9Bでは、試料表面21の異物10に、撮像電子ビームが照射された状態を示している。図9Bにおいて、異物10は、負にチャージアップされ、負電圧の電位分布を有している。撮像電子ビームは上記のようにランディングエネルギーLE2を有する。入射電子は、異物10の表面電位の作用を受けて、異物10の衝突することなく、手前でミラー電子meとなり反射する。一方、試料表面21からは、二次放出電子seが放出され、反射される。
このように、図9A及び図9Bに示した構成によれば、帯電用電子ビームのランディングエネルギーLE1が撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2よりも大きく設定される。これにより、異物10に照射された撮像電子ビームからミラー電子meが好適に生成され、異物10の拡大像81を取得することができる。
〔プレチャージ−2〕
図10は、第2のプレチャージモード(プレチャージ−2)について説明するための図である。プレチャージ−2では、帯電用電子ビームのランディングエネルギーLE1よりも撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2が大きく設定される。本異物検査方法においては、撮像時に適切な電位変動を起こしながら、撮像を行うことができる。
図10において、横軸は、電子ビームのランディングエネルギーであり、縦軸は、異物10の表面電位を示している。帯電用電子ビームのランディングエネルギーLE1は、撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2よりも小さい。異物10の表面電位は、LE1とLE2との間で変化する。電位差△Vは図示のように小さい。
図10のプレチャージ−2は、撮像に適切な撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2が予め分かっている場合に適している。単純に適切なランディングエネルギーLE2の撮像電子ビームで撮像を行うと、撮像中に異物10の表面電位が変動してしまい、正確な拡大像81が得られない可能性がある。このような事態がプレチャージ−2におり回避される。プレチャージ−2の構成は、プリチャージにより異物10の表面電位を制御して、最適点の近くの値まで持って行く。これにより、撮像時には、異物10の表面電位の電位変化△Vを小さくできる。
〔プレチャージ−3〕
図11は、第3のプレチャージモード(プレチャージ−3)について説明するための図である。プレチャージ−3では、帯電用電子ビームのランディングエネルギーLE1が、撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2と等しく設定される。そして、帯電用電子ビームと撮像電子ビームでは、ドーズ量を異ならせる。図11において、横軸はドーズ量であり、縦軸は異物10の表面電位を示している。
プレチャージ−3は、異物10のチャージアップ電圧を安定させ、安定した撮像及び感度を実現するために有効である。図11においては、ドーズ量の変化により、異物10の表面電位が変動する。必要なドーズ量に近いドーズD1を与えるように、プレチャージが行われる。その後、ドーズD2が与えられて、撮像が行われる。このような構成が効果的であり、これにより、ドーズD2の撮像中における異物表面の電位変動△Vを小さく抑えることができる。したがって、安定した像質(形状、フォーカス等)を実現できる。
図9〜11の3種のプレチャージにおいて、プレチャージの帯電用電子ビームのビーム源は、撮像電子ビームのビーム源と同一でよく、上記のプレチャージを行うようにビーム源の条件が制御されてよい。また、プレチャージ用のプレチャージユニットが、独立して設けられてよい。これにより、スループットを向上させることができる。
プレチャージユニットは、例えば、LaB6、Wフィラメント、ホローカソード、カー
ボンナノチューブ等で構成されたカソードを用いてよい。プレチャージユニットは、電子ビームを引き出すためのウェルネルトや、引き出し電極、照射領域を制御するためのレンズを用いてもよい。プレチャージユニットのビームサイズは、コラム系で通常照射されるビームサイズと同等か、多少大きめでよい。電子ビームのランディングエネルギーは、カソードと試料との電圧差で決まる。例えば、試料20に負電圧−3000〔V〕印加されているとする。また、電子ビームのランディングエネルギーが10〔eV〕に設定されたとする。この場合、カソード電圧−3010〔V〕がカソードに印加されて、電子ビームが生成される。
「別の検査方法(LE>10〔eV〕の場合)」
図12は、電子ビームのランディングエネルギーLEが10〔eV〕より大きいときの、検出器70で取得された画像80aを示している。図12において、異物10の拡大像81aは、黒信号で表され、試料20の表面像82aは、白信号で表されている。
図13A〜図13Cは、撮像電子ビームの照射により、異物10から二次放出電子seが放出される様子を示している。
図13Aは、異物10がチャージアップし、異物10と周囲の試料表面21との電位差が大きくなっている状態における、二次放出電子seの挙動を示している。図13Aでは、異物10が負にチャージアップしており、異物10からの二次放出電子seの軌道が曲がっている。そのため、透過率(検出器70に到達する電子の割合)が極端に低下する。
その結果、観察像では、異物部分の輝度が、周囲に比べ低下する。つまり、異物10は、黒信号として検出される。
図13Bは、異物10と周囲の試料表面21の電位差が小さい状態における、二次放出電子seの挙動を示している。図13Bでは、異物10と周囲の電位差が小さいので、異物10からも試料表面21からも略同様に電子が発生する。そのため、異物10が周囲と区別し難い。つまり、取得された画像からは、異物10を検出し難い。このような事態を回避することが望まれる。そこで、異物10から二次放出電子seを検出する場合であっても、異物10を帯電用電子ビームの照射によりチャージアップさせることが好適である。チャージアップ後に撮像電子ビームすることにより、前述のように異物10の検出が容易になる。
図13Cは、正帯電領域における二次放出電子seの挙動を示している。正帯電領域においては、二次放出電子seが、一旦異物10に引き寄せられ、それから上に上昇する軌道を辿る。図示のように、異物10の電位分布による影響を受けて、二次放出電子seの軌道が曲がり、検出器70に到達する電子数が低下する。この現象は、図13Aと同様である。したがって、正帯電の場合にも、同様の現象が観察され、異物10の拡大像81aは、黒信号の像として得られる。
また、本実施の形態に係る異物検査方法及び異物検査装置においては、スループットをより高くするために、電子線写像投影方式が用いられている。写像光学系を用いることにより、試料表面21からの二次放出電子se又はミラー電子meを用いて、高速及び高スループットにて、ウエハ、マスク等の異物検出を行うことが可能になり、例えば試料洗浄後の異物検出が好適にを行われる。上述したように、異物10からの検出信号が光学倍率よりも拡大されるので、大きなピクセルサイズで超微小の異物10の信号を得ることができ、これにより高速、高スループットが実現される。
例えば、異物信号のサイズを、実サイズの5〜50倍に拡大できる。検出対象の異物サイズの3倍以上のピクセルサイズを適用することができる。このことは、特に、サイズが50〜100〔nm〕以下の異物10に対して有効である。このサイズの異物10は、光方式では検出が困難である。また、SEM方式は、異物サイズより小さいピクセルサイズを用いる必要がある。そのため、小さい異物を検出しようとすると、スループットが著しく低下する。本実施の形態に係る電子線検査方法によれば、プロセス途中のウエハ上の異物10を、写像投影方式を用いることにより高速に検出できる。また、拡大像81、81aを得ることにより、確実に異物10を検出することができる。
「電子検査装置」
図14は、本発明を適用した電子線検査装置の構成を示した図である。上述においては、異物検査方法の原理的な部分について主に説明した。ここでは、上述の異物検査方法を実行するのに適用される異物検査装置について説明する。従って、上述のすべての異物検査方法は、下記の異物検査装置に適用することができる。
電子線検査装置の検査対象は試料20である。試料20は、シリコンウエハ、ガラスマスク、半導体基板、半導体パターン基板、又は、金属膜を有する基板等である。本実施の形態に係る電子線検査装置は、これらの基板からなる試料20の表面上の異物10の存在を検出する。異物10は、絶縁物、導電物、半導体材料、又はこれらの複合体等である。異物10の種類は、パーティクル、洗浄残物(有機物)、表面での反応生成物等である。電子線検査装置は、SEM方式装置でもよく、写像投影式装置でもよい。この例では、写像投影式検査装置に本発明が適用される。
写像投影方式の電子線検査装置は、電子ビームを生成する1次光学系40と、試料20と、試料を設置するステージ30と、試料からの2次放出電子又はミラー電子の拡大像を結像させる2次光学系60と、それらの電子を検出する検出器70と、検出器70からの信号を処理する画像処理装置90(画像処理系)と、位置合わせ用の光学顕微鏡110と、レビュー用のSEM120とを備える。検出器70は、本発明では2次光学系60に含まれてよい。また、画像処理装置90は本発明の画像処理部に含まれてよい。
1次光学系40は、電子ビームを生成し、試料20に向けて照射する構成である。1次光学系40は、電子銃41と、レンズ42、45と、アパーチャ43、44と、E×Bフィルタ46と、レンズ47、49、50と、アパーチャ48とを有する。電子銃41により電子ビームが生成される。レンズ42、45及びアパーチャ43、44は、電子ビームを整形するとともに、電子ビームの方向を制御する。そして、E×Bフィルタ46にて、電子ビームは、磁界と電界によるローレンツ力の影響を受ける。電子ビームは、斜め方向からE×Bフィルタ46に入射して、鉛直下方向に偏向され、試料20の方に向かう。レンズ47、49、50は、電子ビームの方向を制御するとともに、適切な減速を行って、ランディングエネルギーLEを調整する。
1次光学系40は、電子ビームを試料20へ照射する。前述したように、1次光学系40は、プレチャージの帯電用電子ビームと撮像電子ビームの双方の照射を行う。実験結果では、プレチャージのランディングエネルギーLE1と、撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2との差異は、好適には5〜20〔eV〕である。
この点に関し、異物10と周囲との電位差があるときに、プレチャージのランディングエネルギーLE1を負帯電領域で照射したとする。LE1の値に応じて、チャージアップ電圧は異なる。LE1とLE2の相対比が変わるからである(LE2は上記のように撮像電子ビームのランディングエネルギーである)。LE1が大きいとチャージアップ電圧が高くなり、これにより、異物10の上方の位置(検出器70により近い位置)で反射ポイントが形成される。この反射ポイントの位置に応じて、ミラー電子の軌道と透過率が変化する。したがって、反射ポイントに応じて、最適なチャージアップ電圧条件が決まる。また、LE1が低すぎると、ミラー電子形成の効率が低下する。本発明は、このLE1とLE2との差異が望ましくは5〜20〔eV〕であることを見い出した。また、LE1の値は、好ましくは0〜40〔eV〕であり、更に好ましくは5〜20〔eV〕である。
また、写像投影光学系の1次光学系40では、E×Bフィルタ46が特に重要である。E×Bフィルタ46の電界と磁界の条件を調整することにより、1次電子ビーム角度を定めることができる。例えば、1次系の照射電子ビームと、2次系の電子ビームとが、試料20に対して、ほぼ垂直に入射するように、E×Bフィルタ46の条件を設定可能である。更に感度を増大するためには、例えば、試料20に対する1次系の電子ビームの入射角度を傾けることが効果的である。適当な傾き角は、0.05〜10度であり、好ましくは0.1〜3度程度である。
図15では、試料表面21上に存在する異物10に対して1次系電子ビームが照射されている。電子ビームの傾き角は、θである。角度θは例えば、±0.05〜10°の範囲であってよく、また好ましくは、±0.1〜±3°の範囲であってよい。
このように、異物10に対して所定の角度θの傾きを持って電子ビームを照射させることにより、異物10からの信号を強くすることができる。これにより、ミラー電子の軌道が2次系光軸中心から外れない条件を形成することができ、したがって、ミラー電子の透過率を高めることができる。したがって、異物10をチャージアップさせて、ミラー電子を導くときに、傾いた電子ビームが大変有利に用いられる。
図14に戻る。ステージ30は、試料20を載置する手段であり、x−yの水平方向及びθ方向に移動可能である。また、ステージ30は、必要に応じてz方向に移動可能であってもよい。ステージ30の表面には、静電チャック等の試料固定機構が備えられていてもよい。
ステージ30上には試料20があり、試料20の上に異物10がある。1次系光学系40は、ランディングエネルギーLE−5〜−10〔eV〕で試料表面21に電子ビームを照射する。異物10がチャージアップされ、1次光学系40の入射電子が異物10に接触せずに跳ね返される。これにより、ミラー電子が2次光学系60により検出器70に導かれる。このとき、二次放出電子は、試料表面21から広がった方向に放出される。そのため、2次放出電子の透過率は、低い値であり、例えば、0.5〜4.0%程度である。これに対し、ミラー電子の方向は散乱しないので、ミラー電子は、ほぼ100%の高い透過率を達成できる。ミラー電子は異物10で形成される。したがって、異物10の信号だけが、高い輝度(電子数が多い状態)を生じさせることができる。周囲の二次放出電子との輝度の差異・割合が大きくなり、高いコントラストを得ることが可能である。
また、ミラー電子の像は、前述したように、光学倍率よりも大きい倍率で拡大される。拡大率は5〜50倍に及ぶ。典型的な条件では、拡大率が20〜30倍であることが多い。このとき、ピクセルサイズが異物サイズの3倍以上であっても、異物を検出可能である。したがって、高速・高スループットで実現できる。
例えば、異物10のサイズが直径20〔nm〕である場合に、ピクセルサイズが60〔nm〕、100〔nm〕、500〔nm〕等でよい。この例ように、異物の3倍以上のピクセルサイズを用いて異物の撮像及び検査を行うことが可能となる。このことは、SEM方式等に比べて、高スループット化のために著しく優位な特徴である。
2次光学系60は、試料20から反射した電子を、検出器70に導く手段である。2次光学系60は、レンズ61、63と、NAアパーチャ62と、アライナ64と、検出器70とを有する。電子は、試料20から反射して、対物レンズ50、レンズ49、アパーチャ48、レンズ47及びE×Bフィルタ46を再度通過する。そして、電子は2次光学系60に導かれる。2次光学系60においては、レンズ61、NAアパーチャ62、レンズ63を通過して電子が集められる。電子はアライナ64で整えられて、検出器70に検出される。
NAアパーチャ62は、2次系の透過率・収差を規定する役目を持っている。異物10からの信号(ミラー電子等)と周囲(正常部)の信号の差異が大きくなるようにNAアパーチャ62のサイズ及び位置が選択される。あるいは、周囲の信号に対する異物10からの信号の割合が大きくなるように、NAアパーチャ62のサイズ及び位置が選択される。これにより、S/Nを高くすることができる。
例えば、φ50〜φ3000〔μm〕の範囲で、NAアパーチャ62が選択可能であるとする。検出される電子には、ミラー電子と二次放出電子が混在しているとする。このような状況でミラー電子像のS/Nを向上するために、アパーチャサイズの選択が有利である。この場合、二次放出電子の透過率を低下させて、ミラー電子の透過率を維持できるようにNAアパーチャ62のサイズを選択することが好適である。
例えば、1次電子ビームの入射角度が3°であるとき、ミラー電子の反射角度がほど3°である。この場合、ミラー電子の軌道が通過できる程度のNAアパーチャ62のサイズを選択することが好適である。例えば、適当なサイズはφ250〔μm〕である。NAア
パーチャ(径φ250〔μm〕)に制限されるために、2次放出電子の透過率は低下する。したがって、ミラー電子像のS/Nを向上することが可能となる。例えば、アパーチャ径をφ2000からφ250〔μm〕にすると、バックグランド階調(ノイズレベル)を1/2以下に低減できる。
異物10は、任意の種類の材料で構成されてよく、例えば半導体、絶縁物、金属等でよい。図16A及び図16Bは、試料表面21上にある金属材料の異物10aを示している。図16Bは、金属材料の異物10aの拡大図である。図16Bにおいて、異物10aは、金属又は半導体等でよく、又はそれらが混在してもよい。図示のように、異物表面に自然酸化膜11等が形成されるので、異物10は絶縁材料で覆われる。よって、異物10の材料が金属であっても、酸化膜11にてチャージアップが発生する。このチャージアップが本発明に好適に利用される。
図14に戻る。検出器70は、2次光学系60により導かれた電子を検出する手段である。検出器70は、その表面に複数のピクセルを有する。検出器70には、種々の二次元型センサを適用することができる。例えば、検出器70には、CCD(Charge Coupled Device)及びTDI(Time Delay Integration)−CCDが適用されてよい。これらは、
電子を光に変換してから信号検出を行うセンサである。そのため、光電変換等の手段が必要である。よって、光電変換やシンチレータを用いて、電子が光に変換される。光の像情報は、光を検知するTDIに伝達される。こうして電子が検出される。
ここでは、検出器70にEB−TDIを適用した例について説明する。EB−TDIは、光電変換機構・光伝達機構を必要としない。電子がEB−TDIセンサ面に直接に入射する。したがって、分解能の劣化が無く、高いMTF(Modulation Transfer Function)及びコントラストを得ることが可能となる。従来は、小さい異物10の検出が不安定であった。これに対して、EB−TDIを用いると、小さい異物10の弱い信号のS/Nを上げることが可能である。したがって、より高い感度を得ることができる。S/Nの向上は1.2〜2倍に達する。
また、EB−TDIの他に、EB−CCDが備えられてよい。EB−TDIとEB−CCDが交換可能であり、任意に切り替えられてよい。このような構成を用いることも有効である。例えば、図17に示すような使用方法が適用される。
図17は、EB−TDI72と、EB−CCD71を切り替え可能な検出器70を示す。2つのセンサは用途に応じて交換可能であり、両方のセンサを使うことができる。
図17において、検出器70は、EB−CCD71及びEB−TDI72を備える。EB−CCD71及びEB−TDI72は、電子ビームを受け取る電子センサである。電子ビームeは検出面に直接に入射される。この構成においては、EB−CCD71は、電子ビームの光軸調整を行うために使用され、また、画像撮像条件の調整と最適化を行うために使用される。一方、EB−TDI72を使用する場合には、EB−CCD71が移動機構Mによって光軸から離れた位置に移動される。それから、EB−CCD71を使用することにより求められた条件を使用し、又は参考にして、EB−TDI72により撮像が行われる。画像を用いて、評価又は測定が行われる。
この検出器70においては、EB−CCD71を使用することにより求められた電子光学条件を用いて又は参考にして、EB−TDI72による半導体ウエハの異物検出を行うことができる。
EB−TDI72による異物検査の後に、EB−CCD71を使用してレビュー撮像が
行われてよく、異物種や異物サイズ等の欠陥評価が行われてよい。EB−CCD71では、画像の積算が可能である。積算によりノイズを低減可能である。したがって、高いS/Nで欠陥検出部位のレビュー撮像を行うことが可能である。更に、EB−TDI72の画素に比べてEB−CCD71の画素が小さいことが有効である。つまり、写像投影光学系で拡大された信号のサイズに対して、撮像素子のピクセル数を多くすることができる。したがって、より高い分解能を有する画像を得ることができる。この画像は、検査や欠陥の種類等の分類・判定のために用いられる。
EB−TDI72は、画素を二次元的に配列した構成を有し、例えば矩形形状を有している。これにより、EB−TEI172は、電子ビームeを直接受け取って電子像を形成可能である。画素サイズは、例えば12〜16〔μm〕である。一方、EB−CCD71の画素サイズは、例えば6〜8〔μm〕である。
また、EB−TDI72は、パッケージ75の形に形成される。パッケージ75自体が、フィードスルーの役目を果たす。パッケージのピン73は、大気側にてカメラ74に接続される。
図17に示す構成は、種々の欠点を解消できる。解消される欠点は、FOP、ハーメチック用の光学ガラス、光学レンズ等による光変換損失、光伝達時の収差及び歪み、それによる画像分解能劣化、検出不良、高コスト、大型化等である。
図18A及び図18Bは、電子ビーム軌道の条件を効率よく決定する方法に関する説明図であり、この方法は、ミラー電子像を得るときに有効である。電子ビーム軌道の条件は、1次光学系40、2次光学系60のレンズ42、45、47、49、50、61、63のレンズ条件及びアライナ64のアライナ条件である。
図18Aは、シリコン基板の試料20の試料表面21上に、ポリシリコン層23及び二酸化ケイ素膜24の積層構造が設けられた構成を示している。積層構造の切れ目に凹溝25が形成されている。図18Bでは、シリコン基板の試料20の試料表面21上に、二酸化ケイ素層24aが形成されている。層の切れ目には、凹溝25aが形成されている。
図18Aは、ミラー電子meの信号強度の分布図mesを示している。ミラー電子meが発生する領域にランディングエネルギーが設定されると、入射電子の軌道が曲がりやすくなり、パターンのエッジ部26にてミラー電子meの発生が起こりやすくなり、凹溝25のエッジ部26の信号強度が高くなる。
図18Bは、電子ビームEBが入射し、ミラー電子meが反射する軌道を示している。電子は、試料20に入射し、一方のエッジ部26aで反射して略水平に進み、凹溝25aの反対側に移動し、反対側のエッジ部26aで反射して上昇する。こうして、凹溝25aのエッジ部でミラー電子が発生し易くなっている。
このような現象は、特に、凹状の対称構造で顕著である。対称構造は、例えば、ファラデーカップや十字溝構造等である。このとき、エッジ部26、26aで発生するミラー電子の対称性が画像の解像度に影響する。画像において両エッジの階調差が±5%以下になるように、階調の対称性を達成することが望まれる。階調は画像の輝度であり、階調差は輝度差である。このような対称性が得られるようにレンズ条件及びアライナ条件を調整すると、ミラー電子でのレンズ及びアライナ条件を最適化できる。そして、解像度の良いミラー電子像を実現することが可能となる。この調整方法を用いない場合に比べて、S/Nを10〜30%向上でき、かつ調整時間を10〜50%程度短縮可能となる。
図19は、ファラデーカップ31を示した側断面図である。ファラデーカップ31は、導体の開口32と、カップ状の金属電極33を備える。ファラデーカップ31は、開口32を通過した電子量を、電流計34により測定する。開口32は、例えば、直径30〔μm〕程度の大きさであってよい。ファラデーカップ31は凹溝形状を有するので、上述したようにエッジ部でミラー電子が発生し易い。したがって、調整を行うのにファラデーカップ31を役立てることができる。
次に、本発明に係る異物検査方法を、図14の異物検査装置に適用する例について説明する。
前出の図4Aは、“2次電子イールド”−“ランディングエネルギーLE”の相関を示している。この相関は、LE>10〔eV〕の電子ビームを使用して異物10を検出するメカニズムを示している。異物10に照射されるランディングエネルギーLEに応じて、二次電子放出率が異なる。そのため、負帯電状態と正帯電状態が形成される。例えば、絶縁物がSiO2である場合、下記の帯電状態が見られる。
50〔eV〕≧LE:負帯電
50<LE≦1500〔eV〕:正帯電
1500〔eV〕<LE:負帯電
いずれの場合も、異物10がチャージアップして、異物とその周囲の電位が異なる値になり、異物周辺の電位分布がひずんだ状態になる。この歪んだ電界が、異物10からの二次電子の軌道を大きく曲げ、透過率を低下させる。従って、異物から検出器に到達する電子の数が、異物の周囲と比較して極端に少なくなる。よって、異物の輝度が周囲より小さく(黒信号)なり、高いコントラストで異物10を検出することが可能となる。異物の黒信号のサイズは、光学倍率よりも拡大される。5〜20倍の拡大された異物の信号を捕らえることが可能である。この現象と検出は、上記の3つのエネルギー領域で同様に実現可能である。
次に、電子ビームを用いた写像投影方式の電子線コラム系の例を示す。試料20は、ウエハ、露光用マスク、記録メディア等でよい。ウエハの場合、8〜12インチのシリコンウエハに、LSI製造途中の回路パターンが形成されてよい。又は、ウエハにはパターンが無くてもよい。ウエハは、成膜された後のパターンがない状態にあってもよい。また、ウエハは、成膜後、研磨やCMP等の平坦化処理された状態でもよい。また、ウエハは、成膜等の処理がなされる前の状態のSi基板などでもよい。
この試料20は、x、y、θの制御ステージ30に設置されている。電子ビームは電子銃41から出射される。レンズ42、アパーチャ43、44、4重極レンズ45、E×Bフィルタ46等によりビーム照射領域と照射エネルギーが制御されて、試料表面に電子ビームが照射される。例えば、ビーム径が、φ300[μm](又は、270×80〔μm〕程度の楕円)である。写像光学系は、試料表面21からの放出電子の像を、拡大倍率50〜500倍にて、検出器70に結像する。試料20には負の電圧が印加されている。1次光学系40の第一レンズ50主面の電位は、正である。従って、試料20近傍では、正の電界が形成されている。例えば、正電界は、1〜3〔kV/mm〕であってよい。検出器70は、MCP(Micro Channel Plate)、蛍光板、FOP(Fiber Optical Plate)、TDIで構成されている(内部構成は図示せず)。MCPが検出電子量の増倍を行い、蛍光板が電子を光信号に変換する。この2次元の光信号が、FOPにより伝達されて、TDIセンサにて像が形成され、信号が検出される。TDIを用いる場合、試料を連続的に移動しながら、2次元画像信号が取得される。したがって、画像信号取得を高速で行うことができる。画像処理機構が、TDIからの信号を処理し、電子像形成及び異物検出、異物分類判別を行う。
このような電子線コラム系を用いて、試料20上の異物10の検査を行う例を述べる。試料20に照射される1次系電子ビームのランディングエネルギーLEが、2〔eV〕に設定される。ランディングエネルギーLEは、1次光学系40の電子銃41のカソード電圧と試料の電圧(印加電圧)との差である。この電子ビームの照射により、異物10がチャージアップする。そして、異物10に照射されるビームだけが、ミラー電子となる。ミラー電子は、2次光学系60によって検出器70に導かれる。異物10のない正常部では、ビーム照射による2次放出電子が検出器70に導かれる。2次放出電子は、2次電子、反射電子又は後方散乱電子である。これら電子が混在してもよい。
ここで、LEが0に近いほど、2次放出電子の放出率ηが低下する。更に、表面からの放出方向は、発散分布を示す(例えば、2次電子の分布は、コサイン則に従う)。そのため、2次光学系60にて検出器70に到達する2次放出電子についての設計計算を行った場合、2次放出電子の到達率が、数%程度になる。このように、ミラー電子の到達率が高く、周囲部位の電子の到達率及び放出率が低い。そのため、相対的に大きな電子数の比、つまり輝度の差が発生する。したがって、大きなコントラスト及びS/Nを得ることが可能となる。例えば、ピクセルサイズが100〔nm〕であり、異物10の径がφ=20〔nm〕である場合に、S/Nが5〜10になる。通常、S/N≧3で、検出及び検査が十分に可能である。したがって、本発明によれば、上記例のようなごく微小の異物10の検査を、異物サイズより大きなピクセルサイズにて実現することが可能となる。
上述した装置系で、プレチャージの帯電用電子ビームを用いた例について説明する。
LE1は、プレチャージの帯電用電子ビームのランディングエネルギーであり、LE2は、撮像及び検査時の電子ビームのランディングエネルギーである。LE1=14〔eV〕、LE2=1〔eV〕の条件にて、絶縁物の異物10を効率よく検査できる。Si、SiO2膜、金属膜、SOI、ガラスマスク等の面上の異物10を検査可能である。この工
程では、検査領域全面に、LE1=14〔eV〕で、帯電用電子ビームが照射される。次に、LE2=1〔eV〕で、撮像電子ビームが照射されて、異物10の撮像及び検査が行われる。この工程の実施は、プレチャージ効果がどの程度の時間維持できるかに依存する。通常、除電処理等を施さなければ、10〜30時間程度、場合によっては150時間以上、プレチャージ効果を維持可能である。
この様なプレチャージを行った場合、プレチャージを行わない場合と比較して、ミラー電子形成の効果を大きくできる。そして、S/Nを3〜10倍程度向上することが可能である。
ランディングエネルギーが、LE≦10〔eV〕であって、特に、LE≦0〔eV〕の領域にある場合、正常部でミラー電子が形成され得る。この条件が設定されたとしても、本発明は、異物10からのミラー電子が検出器70に到達して、正常部のミラー電子が検知器70に到達しない状況を形成することができ、異物10の検査を高いS/Nで行うことが可能である。より詳細には、試料表面21が平坦であり、電子ビームがほぼ垂直に入射される。正常部の入射ビームは、試料表面21で減速される。そのため、電子の軌道が曲がり、2次光学系60の中心から外れる。結果として、この現象が、正常部から検出器70に導かれる電子数を低下させる。一方、異物10からのミラー電子は、異物10の曲面、または、斜面から上昇し、2次光学系60の中心付近の軌道を通って、検出器70に導かれる。よって、異物10からのミラー電子信号は、高い透過率で検出器に導かれる。そして、高いS/Nを達成することが可能となる。この点について、図20を用いて詳細に説明する。
図20は、異物10及び周辺の正常部からミラー電子が出る場合のフィルタリングを説明するための図である。図20では、異物10が試料20上に存在した状態で電子ビームが照射され、異物10及び試料表面21の双方からミラー電子が反射している。このような場合において、本発明は、異物10から反射されたミラー電子は検出器70に到達し、正常部の試料表面21からはミラー電子が検出器70に到達しないという現象を起こす。つまり、異物10がチャージアップし、異物と周囲の正常部(試料表面21)との間に電位差が生じる。これにより、異物10からのミラー電子と周囲の正常部の試料表面21からのミラー電子とを分離することができる。
例えば、図15において説明したように、1次電子ビームの入射角度が、垂直から少し傾けられ、中心からずらされる。これにより、ミラー電子の軌道が2次光学系60の中心付近を通る条件を作ることが可能である。平坦な正常部では、ミラー電子の軌道がずれる。正常部からのミラー電子の軌道は、2次光学系60の中心部からずれてしまい、その結果、検出器70に到達する電子の数量、確率が低下する。または、正常部からのミラー電子は、2次光学系60のコラムとの衝突によって迷走電子等になってしまう。よって、異物10と周囲の試料表面21との間で、検出器70に到達する電子数量又は電子密度の差が発生する。これにより、大きな階調差、つまりコントラストを形成することが可能となる。
このとき、軌道のずれに影響を与える要素は、レンズ47、49、50、61、63の強度、フォーカスであり、また、E×Bフィルタ46及びNAアパーチャ62である。レンズ47、49、50、61、63については、異物10からのミラー電子軌道が2次光学系60の中心を通るような条件を得るように、フォーカス及び強度が調整されている。周囲の正常部(試料表面21)からのミラー電子と、異物10からのミラー電子とでは、レンズ入射角度及びフォーカスが異なる。そのため、正常部からのミラー電子は、2次光学系60の中心からずれた軌道を通ることになる。また、NAアパーチャ62は、中心からずれた軌道を通るミラー電子を遮断し、検出器70への到達量及び到達確率を低減する。更に、ミラー電子がE×Bフィルタ46を通過するときに、異物10からのミラー電子が後段のNAアパーチャ62及び検出器70に到達する軌道を通るように、E×Bフィルタ46が調整されている。これにより、ミラー電子はE×Bフィルタ46の通過時に適当に調整される。異物10からのミラー電子と周囲の正常部(試料表面21)からのミラー電子では、E×Bフィルタ46への入射角度及び軸方向(Z軸方向)のエネルギーが異なる。よって、正常部の試料表面21から反射されたミラー電子は、後段のNAアパーチャ62、レンズ61、63の中心から外れる。したがって、検出器70に入射する確率が低下する。
通常、有効に使用できるLE領域は、−30〜0〔eV〕である。但し、2次光学系60の光軸と試料面の角度が垂直からずれている場合、LEが0〔eV〕以上でもミラー電子形成がなされる場合がある。また、パターンがあるウエハなどのように表面の微小凹凸がある試料においても、LEが0〔eV〕以上でもミラー電子形成がなされる場合がある。例えば、−30〜10〔eV〕のLE領域で、この様な状況が形成される可能性がある。
また、プレチャージを効果的に用いることにより、SEMにも本発明に係る電子線検査方法を適用することが可能である。例えば、SEMにおいても、以下のような条件でプレチャージを行ってから撮像及び検査を行うことにより、異物検査が可能である。
プレチャージLE1: 0〜30〔eV〕
撮像LE2: −5〜20〔eV〕
例えば、プレチャージLE1=25〔eV〕、撮像LE2=5〔eV〕の条件で撮像が
行われる。そうすると、異物(絶縁物、又は絶縁物を含む物体)がチャージアップして、表面電位が負に帯電する(例えば−7V)。次に、撮像電子ビーム(LE2=5〔eV〕)が照射される。これにより、異物のチャージアップしている部位だけでミラー電子が形成され、検出器70にてミラー電子が取得される。異物10のない正常部位は、2次放出電子を生じる(2次放出電子は、二次電子、反射電子、後方散乱電子のいずれかであり、又は、これらが混在してもよい)。2次放出電子の放出率が低いので、正常部の輝度が低い。異物10のミラー電子と正常部の2次放出電子の輝度差(コントラスト)は大きく、したがって高い感度で異物10を検出することが可能でとなる。
プレチャージを効率的に行うために、プレチャージ装置を撮像部の前に設けても良い。
また、SEM方式にてプレチャージが行われない場合は、次の欠点が考えられる。通常、SEM式では、パターンや異物10の画像形成及び形状認識を適切に行うために、電子ビームのスポットサイズが、検出したいパターン欠陥や異物サイズ等の対象物サイズより小さく設定される。従って、ビームのスポットサイズと異物サイズの差異に起因して、異物10の局所的及び時間的チャージアップの電位変化が起こる。そのため、安定した信号が得られない。または、安定したミラー電子を得ることが困難となる。よって、プレチャージにより異物10の表面電位状態を安定させ、または、異物10のチャージアップ状態及び電位を安定させ、その後、撮像を行うことが重要である。
また、従来のSEM式では、ビームスキャンが行われるので、試料20に対するビーム入射角度が、スキャン位置に応じて大きく変化する。ミラー電子のビームが形成される場合、入射角度に応じてビームの反射角度が異なる。その結果、検出器70に入る電子の確率が、スキャン位置に応じて大きく異なるという欠点がある。そのため、均一で精度の良い像を取得することが難しい。この欠点を克服するためには、試料に対する電子ビームの入射角度がほぼ垂直になるように、アライナ及びレンズ電圧の調整が連携して好適に行われる。
このように、本発明に係る電子線検査方法は、条件を適切にすることにより、SEM式にも適用可能である。
図21は、本発明が適用された電子線検査装置を示す。ここでは、全体的なシステム構成の例について説明する。
図21において、異物検査装置は、試料キャリア190と、ミニエンバイロメント180と、ロードロック162と、トランスファーチャンバ161と、メインチャンバ160と、電子線コラム系100と、画像処理装置90を有する。ミニエンバイロメント180には、大気中の搬送ロボット、試料アライメント装置、クリーンエアー供給機構等が設けられる。トランスファーチャンバ161には、真空中の搬送ロボットが設けられる。常に真空状態のトランスファーチャンバ161にロボットが配置されるので、圧力変動によるパーティクル等の発生を最小限に抑制することが可能である。
メインチャンバ160には、x方向、y方向及びθ(回転)方向に移動するステージ30が設けられ、ステージ30の上に静電チャックが設置されている。静電チャックには試料20そのものが設置される。または、試料20は、パレットや冶具に設置された状態で静電チャックに保持される。
メインチャンバ160は、真空制御系150により、チャンバ内を真空状態が保たれるように制御される。また、メインチャンバ160、トランスファーチャンバ161及びロードロック162は、除振台170上に載置され、床からの振動が伝達されないように構
成されている。
また、メインチャンバ160には電子コラム100が設置されている。この電子コラム100は、1次光学系40及び2次光学系60のコラムと、試料20からの2次放出電子またはミラー電子等を検出する検出器70を備えている。検出器70からの信号は、画像処理装置90に送られて処理される。オンタイムの信号処理及びオフタイムの信号処理の両方が可能である。オンタイムの信号処理は、検査を行っている間に行われる。オフタイムの信号処理を行う場合、画像のみが取得され、後で信号処理が行われる。画像処理装置90で処理されたデータは、ハードディスクやメモリなどの記録媒体に保存される。また、必要に応じて、コンソールのモニタにデータを表示することが可能である。表示されるデータは、例えば、検査領域、異物数マップ、異物サイズ分布/マップ、異物分類、パッチ画像等である。このような信号処理を行うため、システムソフト140が備えられている。また、電子コラム系に電源を供給すべく、電子光学系制御電源130が備えられている。また、メインチャンバ160には、光学顕微鏡110や、SEM式検査装置120が備えられていてもよい。
図22は、同一のメインチャンバ160に、写像光学式検査装置の電子コラム100と、SEM式検査装置120とを設置する場合の構成の一例を示している。図22に示すように、写像光学式検査装置と、SEM式検査装置120が同一のチャンバ160に設置されていると、大変有利である。同一のステージ30に試料20が搭載されており、試料20に対して、写像方式とSEM方式の両方での観察又は検査が可能となる。この構成の使用方法と利点は、以下の通りである。
まず、試料20が同一のステージ30に搭載されているので、試料20が写像方式の電子コラム100とSEM式検査装置120との間を移動したときに、座標関係が一義的に求まる。したがって、異物の検出箇所等を特定するときに、2つの検査装置が同一部位の特定を高精度で容易に行うことができる。
上記構成が適用されなかったとする。例えば、写像式光学検査装置とSEM式検査装置120が別々の装置として分離して構成される。そして、分離された別々の装置間で、試料20が移動される。この場合、別々のステージ30に試料20の設置を行う必要があるので、2つの装置が試料20のアライメントを別個に行う必要がある。また、試料20のアライメントが別々に行われる場合、同一位置の特定誤差は、5〜10〔μm〕となってしまう。特に、パターンのない試料20の場合には、位置基準が特定できないので、その誤差は更に大きくなる。
一方、本実施の形態では、図22に示すように、2種類の検査において、同一のチャンバ160のステージ30に試料20が設置される。写像方式の電子コラム100とSEM式検査装置120との間でステージ30が移動した場合でも、高精度で同一位置を特定可能である。よって、パターンのない試料20の場合でも、高精度で位置の特定が可能となる。例えば、1〔μm〕以下の精度での位置の特定が可能である。
このような高精度の特定は、以下の場合に大変有利である。まず、パターンの無い試料20の異物検査が写像方式で行われる。それから、検出した異物10の特定及び詳細観察(レビュー)が、SEM式検査装置120で行われる。正確な位置の特定ができるので、異物10の存在の有無(無ければ疑似検出)が判断できるだけでなく、異物10のサイズや形状の詳細観察を高速に行うことが可能となる。
前述したように、異物検出用の電子コラム100と、レビュー用のSEM式検査装置120が別々に設けられると、異物10の特定に多くの時間を費やしてしまう。また、パタ
ーンのない試料の場合は、その困難度合いが高まる。このような問題が本実施の形態により解決される。
以上に説明したように、本実施の形態では、写像光学方式による異物10の撮像条件を用いて、超微小な異物10が高感度で検査される。さらに、写像光学方式の電子コラム100とSEM式検査装置120が同一チャンバ160に搭載される。これにより、特に、30〔nm〕以下の超微小な異物10の検査と、異物10の判定及び分類を、大変効率良く、高速に行うことができる。
次に、写像投影型検査装置とSEMの両方を用いる検査の別の例について説明する。
上述では、写像投影型検査装置が異物を検出し、SEMがレビュー検査を行う。しかし、本発明はこれに限定されない。2つの検査装置が別の検査方法に適用されてよい。それぞれの検査装置の特徴を組み合わせることにより、効果的な検査が可能となる。別の検査方法は、例えば、以下の通りである。
この検査方法では、写像投影型検査装置とSEMが、異なる領域の検査を行う。更に、写像投影型検査装置に「セルtoセル(cell to cell)」検査が適用され、SEMに「ダイtoダイ(die to die)」検査が適用され、全体として効率よく高精度の検査を実現される。
より詳細には、写像投影型検査装置が、ダイの中で繰返しパターンが多い領域に対して、「セルtoセル」の検査を行う。そして、SEMが、繰返しパターンが少ない領域に対して、「ダイtoダイ」の検査を行う。それら両方の検査結果が合成されて、1つの検査結果が得られる。「ダイtoダイ」は、順次得られる2つのダイの画像を比較する検査である。「セルtoセル」は、順次得られる2つのセルの画像を比較する検査であり、セルは、ダイの中の一部である。
上記の検査方法は、繰返しパターン部分では、写像投影方式を用いて高速な検査を実行し、一方、繰返しパターンが少ない領域では、高精度で疑似が少ないSEMで検査を実行する。SEMは高速な検査に向かない。しかし、繰返しパターンが少ない領域は比較的狭いので、SEMの検査時間が長くなりすぎずにすむ。したがって、全体の検査時間を少なく抑えられる。こうして、この検査方法は、2つの検査方式のメリットを最大に活かし、高精度な検査を短い検査時間で行うことができる。
次に、図21に戻り、試料20の搬送機構について説明する。
ウエハ、マスクなどの試料20は、ロードポートより、ミニエンバイロメント180中に搬送され、その中でアライメント作業がおこなわれる。試料20は、大気中の搬送ロボットにより、ロードロック162に搬送される。ロードロック162は、大気から真空状態へと、真空ポンプにより排気される。圧力が、一定値(1〔Pa〕程度)以下になると、トランスファーチャンバ161に配置された真空中の搬送ロボットにより、ロードロック162からメインチャンバ160に、試料20が搬送される。そして、ステージ30上の静電チャック機構上に試料20が設置される。
図23は、メインチャンバ160内と、メインチャンバ160の上部に設置された電子コラム系100を示している。図14と同様の構成要素については、図14と同様の参照符号を付し、その説明を省略する。
試料20は、x、y、z、θ方向に移動可能なステージ30に設置される。ステージ3
0と光学顕微鏡110により、高精度のアライメントが行われる。そして、写像投影光学系が電子ビームを用いて試料20の異物検査及びパターン欠陥検査を行う。ここで、試料表面21の電位が重要である。表面電位を測定するために、真空中で測定可能な表面電位測定装置がメインチャンバ160に取り付けられている。この表面電位測定器が、試料20上の2次元の表面電位分布を測定する。測定結果に基づき、電子像を形成する2次光学系60aにおいてフォーカス制御が行われる。試料20の2次元的位置のフォーカスマップが、電位分布を元に製作される。このマップを用いて、検査中のフォーカスを変更制御しながら、検査が行われる。これにより、場所による表面円電位の変化に起因する像のボケや歪みを減少でき、精度の良い安定した画像取得及び検査を行うことが可能となる。
ここで、2次光学系60aが、NAアパーチャ62、検出器70に入射する電子の検出電流を測定可能に構成され、更に、NAアパーチャ62の位置にEB−CCDが設置できるように構成れている。このような構成は大変有利であり、効率的である。図23では、NAアパーチャ62とEB−CCD65が、開口67、68を有する一体の保持部材66に設置されている。そして、NAアパーチャ62の電流吸収とEB−CCD65の画像取得を夫々、独立に行える機構を、2次光学系60aが備えている。この機構を実現するために、NAアパーチャ62、EB−CCD65は、真空中で動作するX、Yステージ66に設置されている。したがって、NAアパーチャ62及びEB−CCD65についての位置制御及び位置決めが可能である。そして、ステージ66には開口67、68が設けられているので、ミラー電子及び2次電子がNAアパーチャ62又はEB−CCD65を通過可能である。
このような構成の2次光学系60aの動作を説明する。まず、EB−CCD65が、2次電子ビームのスポット形状とその中心位置を検出する。そして、そのスポット形状が円形であって最小になるように、スティグメーター、レンズ61、63及びアライナ64の電圧調整が行われる。この点に関し、従来は、NAアパーチャ62の位置でのスポット形状及び非点収差の調整を直接行うことはできなかった。このような直接的な調整が本実施の形態では可能となり、非点収差の高精度な補正が可能となる。
また、ビームスポットの中心位置が容易に検出可能となる。そこで、ビームスポット位置に、NAアパーチャ62の孔中心を配置するように、NAアパーチャ62の位置調整が可能となる。この点に関し、従来は、NAアパーチャ62の位置の調整を直接行うことができなかった。本実施の形態では、直接的にNAアパーチャ62の位置調整を行うことが可能となる。これにより、NAアパーチャの高精度な位置決めが可能となり、電子像の収差が低減し、均一性が向上する。そして、透過率均一性が向上し、分解能が高く階調が均一な電子像を取得することが可能となる。
また、異物10の検査では、異物10からのミラー信号を効率よく取得することが重要である。NAアパーチャ62の位置は、信号の透過率と収差を規定するので、大変に重要である。2次電子は、試料表面から広い角度範囲で、コサイン則に従い放出され、NA位置では均一に広い領域(例えば、φ3〔mm〕)に到達する。したがって、2次電子は、NAアパーチャ62の位置に鈍感である。これに対し、ミラー電子の場合、試料表面での反射角度が、1次電子ビームの入射角度と同程度となる。そのため、ミラー電子は、小さな広がりを示し、小さなビーム径でNAアパーチャ62に到達する。例えば、ミラー電子の広がり領域は、二次電子の広がり領域の1/20以下となる。したがって、ミラー電子は、NAアパーチャ62の位置に大変敏感である。NA位置でのミラー電子の広がり領域は、通常、φ10〜100〔μm〕の領域となる。よって、ミラー電子強度の最も高い位置を求めて、その求められた位置にNAアパーチャ62の中心位置を配置することが、大変有利であり、重要である。
このような適切な位置へのNAアパーチャ62の設置を実現するために、好ましい実施の形態では、NAアパーチャ62が、電子コラム100の真空中で、1〔μm〕程度の精度で、x、y方向に移動される。NAアパーチャ62を移動させながら、信号強度が計測される。そして、信号強度が最も高い位置が求められ、その求められた座標位置にNAアパーチャ62の中心が設置される。
信号強度の計測には、EB−CCD65が大変有利に用いられる。これにより、ビームの2次元的な情報を知ることができ、検出器70に入射する電子数を求めることができるので、定量的な信号強度の評価が可能となるからである。
あるいは、NAアパーチャ62の位置と検出器70の検出面の位置とが共役の関係を実現するように、アパーチャ配置が定められてよく、また、アパーチャと検出器の間にあるレンズ63の条件が設定されてよい。この構成も大変有利である。これにより、NAアパーチャ62の位置のビームの像を、検出器70の検出面に結像される。したがって、NAアパーチャ62の位置におけるビームプロファイルを、検出器70を用いて観察することができる。
また、NAアパーチャ62のNAサイズ(アパーチャ径)も重要である。上述のようにミラー電子の信号領域が小さいので、効果的なNAサイズは、10〜200〔μm〕程度である。更に、NAサイズは、好ましくは、ビーム径に対して+10〜100〔%〕大きいサイズである。
この点に関し、電子の像は、ミラー電子と二次放出電子により形成される。上記のアパーチャサイズの設定により、ミラー電子の割合をより高めることが可能となる。これにより、ミラー電子のコントラストを高めることができ、つまり、異物10のコントラストを高めることができる。
更に詳細に説明すると、アパーチャの孔を小さくすると、アパーチャ面積に反比例して2次放出電子が減少する。そのため、正常部の階調が小さくなる。しかし、ミラー信号は変化せず、異物10の階調は変化しない。よって、周囲の階調が低減した分だけ、異物10のコントラストを大きくでき、より高いS/Nが得られる。
また、x、y方向だけでなく、z軸方向にアパーチャの位置調整を行えるように、アパーチャ等が構成されてよい。この構成も有利である。アパーチャは、ミラー電子が最も絞られる位置に好適に設置される。これによりミラー電子の収差の低減、及び、2次放出電子の削減を、大変効果的に行うことができる。したがって、より高いS/Nを得ることが可能となる。
上述のように、ミラー電子は、NAサイズと形状に非常に敏感である。よって、NAサイズと形状と適切に選択することは、高いS/Nを得るために大変重要である。以下、そのような適切なNAサイズと形状の選択を行うための構成の例を説明する。ここでは、NAアパーチャ62のアパーチャ(孔)の形状についても説明する。
ここで、NAパーチャ62は、孔を有する部材(部品)である。一般に、部材がアパーチャと呼ばれることもあり、孔がアパーチャと呼ばれることもある。以下のアパーチャ関連の説明において、図24〜図28を参照するときは、部材(部品)とその孔を区別するため、部材をNAアパーチャと呼ぶ。そして、部材の孔を、アパーチャという。以下の説明において、符合62、62a〜62dは、NAアパーチャである。符号169、69、69a、69bは、アパーチャ(孔)である。アパーチャ形状は、一般に、孔の形状を意味する。
図24は、参考例であり、従来のアパーチャ169を示している。図24に示すように、従来は、円形のアパーチャ169が固定位置に設置されていた。よって、上述のような適切なNAサイズと形状の選択はできなかった。
一方、本実施の形態に係る試料検査装置は、NAアパーチャ62の位置を2次元的又は3次元的に移動し、位置設定を行えるように構成されている。NAアパーチャ62の移動は、図23において説明したX−Yステージ66を用いて行われてよい。そして、複数のアパーチャから適当なアパーチャが適宜選択されてよく、そして、位置決めが行われてよい。また、一つのNAアパーチャ62に複数のアパーチャ孔69が設けられてよい。そして、それらの一つを選択するためにNAアパーチャ62が移動されてよい(この構成も、複数のアパーチャからの選択に相当する)。また、他の移動機構が用いられてよい。例えば、X−Yステージ66の代わりに、NAアパーチャ62がリニアモータにより移動されてよい。また、回転支持部材でNAアパーチャ62が支持されてよく、通常の回転式のモータがNAアパーチャ62の位置移動を行ってよい。以下、NAアパーチャ62の孔の形状に関する具体例について説明する。
図25は、アパーチャ69の形状の一例を示している。図25において、アパーチャ69は、楕円形の孔形状を有している。この孔形状は、ミラー電子信号の強度分布に合うように設定されている。この例では、アパーチャにおけるミラー電子の強度分布の測定結果において、強度分布がy方向に長い楕円形状である。ここで、y方向とは、E×Bフィルタ46で偏向される方向である。y方向は、1次電子ビームの光軸の方向と一致する。つまり、y方向の楕円形状の原因は、E×Bフィルタ46での偏向成分であると考えられる。よって、効率よくミラー電子を捕捉するためには、y方向に長軸を有するアパーチャ形状が大変有利である。これにより、従来よりもミラー電子の収率を高め、より高いS/N(例えば、×2以上)を得ることが可能となる。例えば、2次電子ビームの強度分布が、y方向に100〔μm〕、x方向に50〔μm〕とする(これらの値は、半値全幅である)。楕円形のアパーチャ69は、2次電子ビーム径に対して、プラス10〜100〔%〕の範囲で選択される。例えば、アパーチャサイズがy方向に150〔μm〕、x方向に75〔μm〕になるように、アパーチャが選択されてよい。
次に、図26乃至図29を用いて、複数のアパーチャ69を有するNAアパーチャ62の構成について説明する。ここでは、NAアパーチャ62a〜62cがアパーチャ部材であり、アパーチャ69aが、アパーチャ部材に設けられた開口である。
図26は、複数のアパーチャ69aを有するNAアパーチャ62aの構成の一例を示している。図26において、NAアパーチャ62aは、2つの円形のアパーチャ69aを有する。この例では、ミラー電子の強度中心を基準に、2つの孔が±y方向にずらした位置に配置される。ずれ量は、例えば、50〔μm〕程度である。この構成は、異物10から散乱された+y側と−y側のミラー電子の双方を捕捉できる。したがって、この構成は、散乱したミラー電子の信号と、バックグラウンドの2次放出電子との信号量の差を大きくでき、高いS/Nを得ることが可能となる。この理由を説明すると、2次放出電子の場合、散乱方向に飛散する量が少量に限られる。そのため、バックグラウンドが低減し、相対的にS/Nを向上させることができる。
図27は、4つのアパーチャ69aを有するNAアパーチャ62aの構成の一例を示している。図27において、4個の円形のアパーチャ69aが、x軸及びy軸に対称に配置されている。すなわち、2つのアパーチャ69aがx軸上に配置され、2つのアパーチャ69aがy軸上に配置され、4つのアパーチャ69aが中心(原点)から等距離に位置している。別の言い方では、4つのアパーチャ69aは、原点の回りに等間隔に配置されて
いる。さらに簡単にいうと、4つのアパーチャ69aが菱形状に配置されている。これにより、異物10からx方向とy方向の双方に散乱されたミラー電子が存在する場合にも、高S/Nで電子を取得することができる。
図28は、4つのアパーチャ69aを有するNAアパーチャ62cを示している。図28の構成は、図27の構成と異なる一例である。図28においては、4個の円形のアパーチャ69aが、xy平面における第1象限から第4象限にそれぞれ配置されている。この例でも、4つのアパーチャ69aは、x軸及びy軸に対称に配置されており、中心(原点)から等距離に配置されている。別の言い方では、4つのアパーチャ69aは、原点の回りに等間隔に配置されている。このような形状のNAアパーチャ62cにおいても、ミラー電子の信号強度が高くなる位置にアパーチャ69aを設けることができ、高S/Nの信号を取得することができる。
図27及び図28に示すように、アパーチャ69aの数が同じであって、それらの配置が異なってよい。これにより、用途に応じた適切なNAアパーチャ62b、62cを用いることができる。これにより、各々の用途について、高いS/Nを取得することが可能となる。
図29は、8つのアパーチャ69bを有するNAアパーチャ62dの構成の一例を示した図である。図29に示すように、アパーチャ69dの数は、4つよりも更に多くてもよい。図29に示したNAアパーチャ62dにおいては、ミラー電子の強度中心の回りの円周上に、複数のアパーチャ69bが等間隔に配置されている。この構成は、円周上のどこかのアパーチャ69bの位置に特異的に強い散乱をするミラー電子がある場合に有利である。そのようなミラー電子の適切な捕捉が可能となる。
また、図26乃至図29では、ミラー電子の信号の強度中心とアパーチャ69a、69bとの関係については、アパーチャ位置が強度中心とずれている。しかし、本発明はこれに限定されず、アパーチャ位置が強度中心と一致してよい。すなわち、一つのアパーチャ69a、69bが、ミラー電子強度中心と一致するように設置されてよい。この場合、他のアパーチャ69a、69bは、散乱したミラー電子の捕捉を行う。それらが強度中心のミラー電子とともに電子像に含まれる。このような合成像が検出器70で得られる。このようにして、強いミラー電子と特異的に散乱されたミラー電子との合成像を取得することができる。したがって、高いS/Nを得ることができるとともに、散乱方向に特徴がある異物10を効果的に検出できる。また、散乱方向の特徴を、異物10の分類に役立てることも可能となる。
更に、本実施の形態によれば、使用するランディングエネルギーLEに対して、適切な形状のアパーチャ69、69a、69bを選択することもできる。この選択も大変に有利な効果を提供する。ランディングエネルギーLEによりミラー電子の強度分布が変化する。そこで、本実施の形態の検査装置は、使用するランディングエネルギーLEに応じたサイズ及び形状を有するアパーチャ69、69a、69bを用いるように構成されてよい。これにより強度分布に応じてアパーチャを調整でき、大変有利である。例えば、ミラー電子が、y方向に長い楕円形状の強度分布を有する場合を考える。このとき、異なった2つの条件で撮像又は検査が行われるとする。例えば、1番目の撮像・検査条件では、ランディングエネルギーが第1の値すなわちLE=3〔eV〕であるとする。第2番目の撮像・検査条件では、ランディングエネルギーが第2の値すなわちLE=2〔eV〕とする。ここで、ランディングエネルギーLEが小さくなると、NAアパーチャ62、62a〜62dの位置ではミラー電子強度分布が大きくなる。このような分布変化に適合するように、NAアパーチャ62、62a〜62dが好適に選択される。例えば、第1のランディングエネルギーが用いられるときは、y方向に100〔μm〕、x方向に50〔μm〕の楕円
のアパーチャ69が選択されてよい。第2のランディングエネルギーが用いられるときは、ミラー電子強度分布が2倍程度大きく。そこで、y方向に200〔μm〕、x方向に100〔μm〕の楕円形状のアパーチャ69が用いられてよい。このようにアパーチャを選択することにより、大変効果的にミラー電子を検出できる。
また、図18において説明したファラデーカップ等の構成について再度説明する。これら構成は、図23の電子線検査装置に設置されてよい。
図30は、図23のステージ30を示している。ステージ30上には、ファラデーカップ31と、凹溝25、25aを有する基準試料チップ26と、EB−CCD37が設置されている。これにより、1次電子ビームの均一性及び照射位置を高い精度で監視(モニタ)でき、また、時間による1次電子ビームの変動を高い精度で監視できる。
この点に関し、従来は、1次電子ビームを直接監視する手段がなかった。そのために、従来は、定期的に、同一試料20上の複数の点にファラデーカップ31が載置され、ファラデーカップ31により電子ビーム照射の像が取得される。この像が、ビームの評価及び調整に用いられていた。しかし、従来技術では、1次光学系40と2次光学系60aの変動が重畳された画像しか得られない。それら2つの光学系の要因を分離し、評価及び調整することが煩雑であり、精度も悪かった。本実施の形態は、このような問題を解決できる。
また、本実施の形態によれば、1次電子ビームの電流密度分布も高精度で測定可能となる。1次光学系のレンズ42、45、アライナ、電子銃41の電子放出制御系に対し、精度の良いフィードバックを行える。したがって、より均一なビームプロファイルの形成が可能となる。例えば、従来の電流密度分布の測定では、直系φ30〔μm〕程度のファラデーカップが用いられる。そして、30〔μm〕のピッチで、5点程度が測定される。このような測定では、ファラデーカップ31の孔サイズによって分解能が制限される。また、一点ずつの測定が行われるので、時間が掛かる。そのため、電子ビームが照射された瞬間の分布を測定することができなかった。
本実施の形態に係る異物検査装置によれば、1次電子ビームのビームプロファイルを直接的に測定できる。そして、測定結果に基づいて、1次電子ビームを適切に調整することができる。
また、このような1次電子ビームの調整において、異物10のサイズと信号強度又はS/Nとの関係を求めるために、本実施の形態は規格化されたサンプルを製作して用いてよい。このようなサンプルの使用により、大きな利点が得られる。例えば、試料の単一膜上に、サイズの分かっている規格化された微小球体が散布される。このような試料を用いて、感度校正を行うことが好適である。
図31は、サンプル15が散布された試料20を示している。サンプル15は、異物10を模式的に代替する。そこで、異物10に近いサイズを有し、異物10に近い材質からなるサンプルを用いることが好ましい。例えば、サンプル15は規格化された微小球体であり、材料はPSL(ポリスチレンラテックス)である。超微粒子が用いられてもよい。試料20は、Si等の半導体ウエハでよい。半導体ウエハ上に膜が成膜されていてよい。試料20は、膜が形成されたガラス基板でもよい。試料20上の膜は、導電膜、絶縁膜のどちらであってもよい。例えば、半導体ウエハ上の膜は、SiO2、Ta、Cu、Al、
W等の膜でよい。また、ガラス基板上の膜は、例えば、Cr、CrN、Ta、TaN、TaBN、TaBO、Si、Al、Mo等の膜でよい。
図31において、サンプル15の大きさが既知である。したがって、サンプル15の画像を取得することにより、サンプル15のサイズと、信号強度又はS/Nとの関係を求めることができる。
図32は、図31に示されるサンプル15の画像を取得したときに得られる測定結果を示している。図32は、サンプル15と信号強度の関係の一例である。図32において、横軸はサンプル15のサイズであり、縦軸は信号強度である。縦軸は、S/Nであってもよい。サンプル15のサイズを種々変化させることにより、サンプルサイズに対応する信号強度が求まる。信号強度から、図32で示したように、グラフが作成される。これにより、異物10のサイズと信号強度又はS/Nの関係を把握することができる。
上記では、サンプル15として微小球体が用いられる。適当な球体のサイズは、特に、100〔nm〕以下である。つまり、φ1〜φ100〔nm〕の微小球体が、有利に用いられる。
これまで説明してきたように、本実施の形態に係る電子線検査装置及び電子線検査方法は、ナノオーダーの超微小な異物10に対しても感度を有する。上記のような微小なサンプル15は、微小な異物10の検査のために特に有利に用いられる。
この点に関し、従来の光式の異物検査方式では、光の波長によって分解能が制約されるため、100〔nm〕より小さいサイズの異物10の検出が困難であった。本実施の形態に係る電子線検査装置及び電子線検査方法によれば、十分な感度が得られ、微小な異物10を検出することができる。
次に、図33を参照し、ランディングエネルギーの適切な設定を実現する実施の形態について、更なる説明を行う。
図33は、本実施の形態に係る電子線検査方法におけるビームランディングエネルギーに対する階調特性を示している。この異物検査方法は、ベタ面またはパターン面を有する試料20に対して適用されてよい(ベタ面は、パターンが無い面である。以下同じ)。本実施の形態は、図33に示す特性を取得し、図33の特性を用いてランディングエネルギーLEの領域を選択することに特徴を有する。階調特性(ランディングエネルギーLEに対する階調値の変化)は、検出される電子の種類と関係する。以下に電子の種類を示す。
LE<LEA: ミラー電子
LEA≦LE≦LEB 二次放出電子とミラー電子の混在した状態
LEB≦LE 二次放出電子
ここで、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕の領域にLEを設定することにより、高いS/Nの像を取得することが可能となり、高感度の欠陥検査及び異物検査が可能となる。この設定の理由について説明する。例えば、SiやWなどのベタ面の上に異物10があったとする。本実施の形態では、異物10がチャージアップしてミラー電子を形成する。このとき、バックグラウンドであるベタ面(パターンが無い面)の階調が小さいことが望まれる。S/Nが高くなるからである。ベタ面の階調を小さくするためには、2次電子放出領域及び混在領域のエネルギー条件が適当である。混在領域は、ミラー電子と二次放出電子が混在する領域である。混在領域は、2次放出電子領域とミラー電子領域の間にあり、遷移領域に相当する。
混在領域は、図33のLEA≦LE≦LEBである。この領域では、異物10からはミラー電子が発生し、バックグラウンドの試料20からは2次放出電子が発生していると考えられる。LE<LEAのミラー電子領域では、バックグラウンドからもミラー電子が発
生する。したがって、バックグラウンドの階調が高くなり、異物10の階調とバックグランドの階調との差異が小さくなる。つまりS/Nが小さくなる。また、LEBよりもLEがずっと大きいエネルギー領域では、異物10からも2次放出電子が発生してしまう。この場合も、S/Nが小さくなってしまう。
異物10の検出を容易にするためには、異物10の拡大像81と、バックグラウンドの試料表面21の表面像82との階調差を最も大きくすることが好ましい。階調差は、図33に示したランディングエネルギーLEに対する階調特性に依存する。また、図33においては、一本の特性曲線が示されている。これに対して、本実施の形態は、例えば、異物10の特性曲線と、純粋な試料20の特性曲線との2本の特性曲線を好適に用いる。本実施の形態は、それらの2つの特性を比較し、最も階調差が大きい範囲のランディングエネルギーLEを用いてよい。これにより、ランディングエネルギーを適切に定めることができる。
上記に関し、異物10の特性曲線と、試料表面21の特性曲線との組み合わせに依存して、階調差が大きいエネルギー帯域が変化する。そこで、検査対象の特性曲線を用いてランディングエネルギーが好適に設定される。
また、これまでの実験的経験により、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕の領域のLEが、大変有利に用いられ、大きな効果が得られる。このエネルギー領域を適用する方法及び構成は、これまで説明された任意の方法及び構成に対し、可能な範囲で適用されてよい。これにより、高いS/Nを取得することが可能となり、高感度、高速の欠陥検査及び異物検査が可能となる。
次に、図34を用いて、異物10の検出又は検査において効率的な1次系電子ビームのランディングエネルギーLEについて更に詳細に説明する。図34は、1次系の電子ビームのランディングエネルギーLEと、画像の階調との関係を示している。図34には、試料20と異物10との関係として、試料20の階調特性と異物10の階調特性が示されている。
図33の説明で言及したように、LEAよりランデシィングエネルギーLEが小さい領域は、ミラー電子領域を示している。ミラー電子領域とは、試料20上に異物10の存在しない正常部からほぼ総てミラー電子のみが検出されるエネルギー領域である。
また、ランディングエネルギーLEが、LEBより大きい領域は、2次電子領域を示している。2次電子領域は、試料20の正常部からほぼ総て2次電子のみが検出される領域である。ここでは、簡単のため、2次電子に着目し、2次電子領域という用語を用いている。より詳細には、2次放出電子領域であり、2次放出電子が発生する。2次放出電子は、既に述べたように、2次電子、反射電子及び後方散乱電子を含んでよい。
また、ランディングエネルギーLEが、LEA以上LEB以下の領域は、混在領域である。混在領域は、試料20の正常部から、ミラー電子と2次電子の双方が検出される混在領域を示している。混在領域は、ミラー電子領域と2次電子領域の間の遷移領域である。
上述のように、照射する1次系の電子ビームのランディングエネルギーLEは、LEA≦LE≦LEB、又は、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕のエネルギー領域に設定されるのが好ましい。このことについて、図34を用いて、更に詳細に説明を行う。
図34は、異物10と、試料20上の正常部との各々について、1次系電子ビームのランディングエネルギーLEに対する階調DNの変化を示している。階調DN(Digital Nu
mber)は、検出器70で検出される電子数に対応する。異物10と試料20との接触抵抗が高い場合、又は、異物10が帯電した場合、異物10は、周囲の正常部と異なる階調変化を示す。これは、異物10の電位変化が発生し、ミラー電子が発生しやすくなるからである。発明者等の発見によれば、LEA〜LEBの範囲が−5〔eV〕〜+5〔eV〕である場合が、多く確認されている。そして、上述したように、正常部と比較して、異物10は、1次系電子ビームのランディングエネルギーLEが高い状態でもミラー電子を生じさせる(ここで、ミラー電子は2次電子と混在してよい)。したがって、異物10の撮像又は検査を行うときに、LEA〜LEB+5〔eV〕が、使用するランディングエネルギーLE領域として適している。例えば、LEA〜LEBが−5〔eV〕〜+5〔eV〕であるとする。この場合、ランディングエネルギーLE領域は、大変好ましくは、−5〔eV〕〜+10(=5+5)〔eV〕である。
また、ランディングエネルギー範囲“LEA〜LEB+5〔eV〕”は、基板の材料に関わらず、総ての種類の基板に対して有効である。例えば、ランディングエネルギー範囲“LEA〜LEB+5〔eV〕”は、パターン等の形成された基板に対しても、異物が表面に存在する基板等に対しても有効である。このLE範囲は、更に、基板や異物の材料を問わず有効である。例えば、ガラス基板の観察においても、ランディングエネルギー範囲“LEA〜LEB+5〔eV〕”が好適に適用される。これにより、良好な画像を得ることができる。
ここで、異物10が高いコントラストで撮像できる理由は、図34から明らかである。図34に示すように、異物10と周囲の正常部では、輝度変化が異なる。そして、正常部と比べて、異物10では、高ランディングエネルギーLE(=LEB+5〔eV〕)にて、ミラー電子が発生する。そのため、図示のように、異物10と正常部の階調差ΔDNを大きく取ることができる。例えば、正常部の階調DNが50DNであり、正常部の輝度変動(ノイズ)が3DNであるとする。また、異物10の階調DNが100DNであるとする。この場合、階調差ΔDN=50DN(=100DN−50DN)である。そして、S/Nは、50/3=16.7である。このようにして、高いS/N値を得ることができる。これは、まさに上述したLEA〜LEB+5〔eV〕のランディングエネルギーLE領域で発生する現象である。この現象を利用することによって、高いコントラストでの撮像又は検査が可能となる。他のランディングエネルギーLE領域では、異物10のみをミラー電子発生状態にすることができず、したがって、上記のように異物10と周囲の正常部とのコントラストを高くすることもできない。よって、異物10の検出においては、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕の範囲で検出を行うことが好ましい。
以上に現時点で考えられる本発明の好適な実施の形態を説明したが、本実施の形態に対して多様な変形が可能なことが理解され、そして、本発明の真実の精神と範囲内にあるそのようなすべての変形を添付の請求の範囲が含むことが意図されている。
「産業上の利用可能性」
本発明は、電子線を用いて半導体ウエハ等の試料上の異物の存在の有無を検査し、又、欠陥の有無等を検査する電子線検査装置に利用することができる。
[第2の観点]
第2の観点は、絶縁領域及び導電領域の観察に関する。
本発明の目的は、試料面に絶縁領域と導電領域が形成されている場合に、試料面の観察を高コントラストで行うことができる技術を提供することにある。
本発明の試料観察装置は、絶縁領域と導電領域が形成された試料面に撮像電子ビームを
照射する電子ビーム源と、前記撮像電子ビームの照射により前記試料面の構造情報を得た電子の方向付けを行うE×Bフィルタであって、前記撮像電子ビームの入射方向と逆向きに進行する前記電子の速度に応じて、電界と磁界により前記電子の方向付けを行うE×Bフィルタと、該E×Bフィルタにより方向付けされた前記電子を検出し、検出された前記電子から前記試料面の画像を取得する検出器と、前記撮像電子ビームの照射エネルギーを、前記電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域に設定する照射エネルギー設定部(帯電電子ビーム照射手段)と、を含む。
これにより、画像の材料コントラストが大きくなる遷移領域のエネルギー帯を用いて試料面の画像を取得することができる。したがって、高いコントラストにより絶縁領域と導電領域を識別できる画像を得ることができる。
また、本発明において、前記電子ビーム源は、前記撮像電子ビームを照射する前に、前記試料面の前記絶縁領域を帯電させるために予め帯電電子ビームを照射してよく、前記E×Bフィルタは、前記導電領域の構造情報を得た電子又は前記絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に前記検出器に導いてよい。
これにより、撮像前に電子ビームを予め照射することにより、絶縁領域を負に帯電させることができる。絶縁領域と、接地電位である導電領域との電位差を大きくできる。したがって、絶縁領域と導電領域の材料コントラストを一層高めることができる。
また、本発明の装置は、前記撮像電子ビームを照射する前に、前記試料面の前記絶縁領域を帯電させるために予め帯電電子ビームを照射する帯電電子ビーム照射部(帯電電子ビーム照射手段)を更に有してよく、前記E×Bフィルタは、前記導電領域の構造情報を得た電子又は前記絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に前記検出器に導いてよい。
これにより、絶縁領域を負に帯電させることができる。絶縁領域と、接地電位である導電領域との電位差を大きくできる。したがって、絶縁領域と導電領域の材料コントラストを一層高めることができる。また、帯電用の専用の電子ビーム照射部を用いることにより、帯電電子ビームと撮像電子ビームの切り替えを迅速に行うことができ、観察時間を短縮することができる。
また、本発明の装置は、アパーチャ径が異なる複数種類のNAアパーチャを有するNA調整アパーチャと、該NA調整アパーチャを移動させるNA調整アパーチャ移動機構とを有してよく、前記導電領域の構造情報を持つ前記電子が前記NAアパーチャを通過するように、前記NAアパーチャの位置と前記アパーチャ径を調整し、前記画像のコントラストを最適にしてよい。
ここで、NA調整アパーチャは、本発明に係る位置と径の少なくとも一方を調整できるアパーチャである。上記構成により、検出器付近でも、導電領域からの電子を絶縁領域からの電子と区別及び分離できる。したがって、導電領域からの電子を確実に検出でき、導電領域と絶縁領域との材料コントラストを一層高めることができる。
また、本発明において、前記検出器は、前記電子を直接検出するEB−CCD又はEB−TDIであってよい。
これにより、電子を直接的に検出でき信号ロスの少ない高分解能型の検出器を用いて、高分解能の画像を取得することができる。
また、本発明において、前記試料面は、前記絶縁領域の面積が前記導電領域の面積より
大きい半導体ウエハ上に形成されたコンタクトプラグ、又は、レチクルのコンタクト構造を含んでよい。
半導体ウエハのコンタクトプラグや、レチクルのコンタクト構造では、絶縁領域の面積と比較して導電領域の面積が非常に小さい。すなわち導電領域の面積比が非常に小さい。このような場合に、本発明は、材料コントラストを高めることができ、画像中で導電領域が浮かび上がるような画像を取得することができる。こうして、絶縁材料の面積割合が多い試料に対しての観察又は検査を容易に行うことができる。
また、本発明の半導体製造方法は、半導体ウエハを加工する工程と、上記の試料観察装置を用いて、加工された前記半導体ウエハの試料面を観察する工程と、を含む。
これにより、半導体製造プロセスにおいて、材料コントラストの高い画像により半導体ウエハの良否を観察又は検査することができる。したがって、欠陥等の発見を容易に行うことができる。
また、本発明は、試料観察方法であって、絶縁領域と導電領域が形成された試料面に撮像電子ビームを照射し、前記試料面の構造情報を得た電子を検出して前記試料面の画像を取得し、前記試料面に照射される前記撮像電子ビームが、前記電子がミラー電子と二次電子の双方を含む遷移領域の照射エネルギーを有する。
これにより、導電材料と絶縁材料との間で画像中の材料コントラストが大きいエネルギー帯を用いて画像を取得することができる。したがって、観察を容易にできる画像を取得することができる。
また、本発明の方法は、前記撮像電子ビームの照射前に、前記試料面の前記絶縁領域を帯電させる帯電電子ビームを照射してよい。
これにより、絶縁領域を負に帯電させることができる。絶縁領域と、接地電位である導電領域との電位差を高めることができる。したがって、電子ビームの照射により生じる電子の速度を、材料によって異ならせることができる。そして、材料コントラストを一層高めることができる。
また、本発明の半導体製造方法は、半導体ウエハを加工する工程と、上記の試料観察方法を用いて、加工された前記半導体ウエハの試料面を観察する工程と、を含む。
これにより、材料コントラストの大きい画像を用いて、半導体製造プロセスにおける半導体ウエハの表面を観察又は検査することができる。したがって、欠陥等の発見を容易にすることができる。
「発明の効果」
本発明によれば、試料面の絶縁領域と導電領域についての材料コントラストの高い画像を取得することができる。
「発明の実施の形態」
以下に本発明の詳細な説明を述べる。以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。
図35は、本発明の実施の形態に係る試料観察装置の構成の一例を示している。図35において、試料観察装置は、電子ビーム源1010と、1次系レンズ1020と、コンデ
ンサレンズ1030と、E×B1040と、トランスファーレンズ1050と、NA(Numerical Aperture、開口数)調整アパーチャ1060と、プロジェクションレンズ1070と、検出器1080と、画像処理装置1090と、ステージ1100と、照射エネルギー設定部1110と、電源1115とを備える。また、試料観察装置は、必要に応じて、帯電電子ビーム照射部1120を備えてもよい。更に図35に示すように、試料観察装置の関連構成要素として、ステージ1100の上に試料1200が載置されている。試料1200は、表面に試料面1201を有する。
上記構成において、1次系レンズ1020等は本発明の1次光学系を構成する。電子ビーム源も本発明では1次光学系に含まれてよい。また、トランスファーレンズ1050、NA調整アパーチャ1060、プロジェクションレンズ1070等が本発明の2次光学系を構成する。検出器1080も本発明では2次光学系に含まれてよい。また、画像処理装置1090は本発明の画像処理部に含まれる。
電子ビーム源1010は、電子ビームを試料1200の試料面1201に照射する手段である。電子ビーム源1010は、例えば、電子源1011と、ウェーネルト電極1012と、アノード1013とを備える。電子ビーム源1010は、電子源1011で電子を発生させ、ウェーネルト電極1012で電子を引き出し、アノード1013で電子を加速して、電子ビームを試料面1201に向けて照射する。
電子ビーム源1010は、複数の画素を同時に撮像できるように、複数画素を包含できる所定の面積を有する電子ビームを生成してよい。このような径が大きい電子ビームを、面状の電子ビームと呼ぶことができる。これにより、試料面1201への1回の電子ビームの照射により、複数画素を同時に撮像することができる。したがって、広い面積の二次元画像を高速に取得することができる。
照射エネルギー設定部1110は、電子ビームの照射エネルギーを設定する手段である。照射エネルギー設定部1110は、電源1115を含む。電源1115は、電子ビーム源1010に電力を供給し、電子源1011から電子を発生させる。電子源1011から電子を発生させるため、電源1115の負極が電子源1011に接続される。電子ビームの照射エネルギーは、試料1200と電子源カソードとの電位差により定められる。電子源カソードは、電子ビーム源1010の電子源1011に備えられたカソードである。よって、照射エネルギー設定部1110は、電源1115の電圧を調整することにより、照射エネルギーを調整及び設定することができる。以後、電源1115の電圧を、「加速電圧」と呼ぶ。本実施の形態においては、照射エネルギー設定部1110が電子ビームの照射エネルギーを適切な値に設定することにより、取得画像の材料コントラストを高める。照射エネルギーの具体的な設定方法については、後述する。
1次系レンズ1020は、電子ビーム源1010から発射された電子ビームに電界又は磁界を与えて、電子ビームを偏向させ、試料面1201の所望の照射領域に導くための光学手段である。図35に示すように、複数の1次系レンズ1020が用いられてよい。1次系レンズ1020には、例えば、四極子レンズが適用されてよい。
E×B1040は、電子ビーム又は電子に電界と磁界を付与し、ローレンツ力により電子ビーム又は電子を方向付けし、電子ビーム又は電子を所定の方向に向かわせるための手段である。E×B1040の電界及び磁界は、電子ビーム源1010から発射された電子ビームを試料面1201の方向に向かわせるローレンツ力を発生するように設定される。また、電子ビームの試料面1201への照射により、試料面1201の構造情報を得た電子については、E×B1040の電界と磁界は、電子ビームをそのまま上方に直進させ、検出器1080の方向に向かわせるように設定される。これにより、試料面1201に入
射する電子ビームと、試料面1201側から生じて入射方向と逆向きに進行する電子とを分離することができる。E×Bは、ウィーンフィルタと呼ばれる。そこで、本発明では、E×Bフィルタという用語が用いられる。
コンデンサレンズ1030は、電子ビームを試料面1201に結像させるとともに、試料面1201の構造情報を得た電子を収束させるためのレンズである。よって、コンデンサレンズ1030は、試料1200の最も近傍に配置される。
トランスファーレンズ1050は、E×B1040を通過した電子を、検出器1080の方向に導くともに、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061付近でクロスオーバーを生じさせるための光学手段である。
NA調整アパーチャ1060は、通過電子数を調整するための手段である。NA調整アパーチャ1060は、中央にNAアパーチャ1061を有する(すなわち、NA調整アパーチャ1060がアパーチャ部材であり、NAアパーチャ1061が開口である)。NA調整アパーチャ1060は、試料面1201側から上昇してトランスファーレンズ1050により導かれた電子を通過させる検出器1080への通路として機能する。また、NA調整アパーチャ1060は、撮像の雑音となる電子が検出器1080に向かわないように電子を遮断し、通過電子数を調整する。本実施の形態において、NA調整アパーチャ1060は、試料面1201の導電領域の構造情報を得た電子又は絶縁領域の情報を得た電子の一方を選択的に通過させ、他方の電子を遮蔽する。詳細については後述する。
プロジェクションレンズ1070は、最終焦点調整手段であり、NA調整アパーチャ1060を通過した電子に作用して、検出器1080の検出面1081上に像を結像させる。
検出器1080は、試料面1201への電子ビーム照射により試料面1201の構造情報を得た電子を検出し、試料面1201の画像を取得するための手段である。検出器1080には、種々の検出器が適用され得る。検出器1080は、例えば、並列画像取得を可能にするCCD(Charge Coupled Device)検出器でよく、また、TDI(Time Delay Integration)−CCD検出器でよい。検出器1080がCCDやTDI−CCD等の2次
元画像撮像型であり、電子ビーム源1010が複数画素を含む所定の面積へ面ビームを照射する。これにより、1箇所のビーム照射にて並列撮像が行われて、広い面積の画像が取得可能である。したがって、試料面1201の高速な観察が可能となる。CCDやTDI−CCDは、光を検出して電気信号を出力する検出素子である。そのため、検出器1080にCCDやTDI−CCDを適用する場合には、電子を光に変換する蛍光板や、電子を増倍するMCP(マイクロチャンネルプレート)が必要である。これら構成も検出器1080に含まれてよい。
検出器1080は、EB−CCD又はEB−TDIであってもよい。EB−CCD及びEB−TDIは、二次元画像撮像型の検出器である点で、CCD及びTDI−CCDと同様である。しかし、EB−CCD及びEB−TDIは、電子を直接検出し、光−電子間の変換を経ることなく電気信号を出力する。したがって、上述のような蛍光板やMCPが必要とされない。途中の信号ロスが減少するので、高分解能な画像取得が可能となる。検出器1080には、このような高分解能型のEB−CCD又はEB−TDIが適用されてよい。
画像処理装置1090は、検出器1080から出力された電気信号に基づいて、試料面1201の画像を生成する装置である。具体的には、検出器1080から出力された座標情報及び輝度情報に基づいて、二次元画像が生成される。本実施の形態は、試料面120
1に絶縁材料と導電材料を含む試料1200を観察する。絶縁領域と導電領域とに輝度差が発生し、材料コントラストの高い画像が取得されることが好ましい。このような要求に応え、良好な画像が取得できるように、画像処理装置1090が必要な画像処理及び画像生成を行う。
ステージ1100は、上面に試料1200が載置されることにより、試料1200を支持する手段である。ステージ1100は、試料面1201の被観察領域の総てに電子ビームの照射が可能なように、水平方向、例えばX−Y方向に移動可能であってよく、また、水平方向に回転可能でよい。また、ステージ1100は、必要に応じて、鉛直方向、つまりZ方向に移動可能であってもよい。ステージ1100を移動可能に構成するために、モータやエア等の移動手段が備えられてよい。
帯電電子ビーム照射部1120は、試料面1201を帯電させるために設けられたビーム照射手段である。試料面1201の帯電は、電子ビーム源1010が撮像用の撮像電子ビームを照射する前に行われる。帯電電子ビーム照射部1120は、必要に応じて設けられてよい。試料面1201を撮像する前に試料面1201の絶縁領域に予め電子ビームを照射すると、絶縁領域が負に帯電する。一方、導電領域は常に接地電位である。したがって、材料に応じた電位差を試料面1201に作ることが可能となる。この電位差により、導電領域と絶縁領域との材料コントラストを高めることができる。このように、撮像電子ビームの前に、帯電電子ビームを試料面1201に照射したい場合に、帯電電子ビーム照射部1120が好適に設けられる。
別の構成では、帯電電子ビーム照射部1120が用いられなくてよい。電子ビーム源1010が帯電電子ビームを照射し、次いで同じ電子ビーム源1010が撮像電子ビームを試料面1201に照射してよい。この構成でも、同様の帯電電子ビーム照射が可能である。よって、帯電電子ビーム照射部1120は、例えば、帯電電子ビームを試料面1201に照射したい場合であって、特に、帯電電子ビームの照射の後にすぐに撮像電子ビームを照射したい場合に設けられてよい。一般的に、撮像電子ビームと、帯電電子ビームとでは、照射エネルギーが異なる。帯電電子ビーム照射部1120を設けることにより、帯電電子ビーム照射と撮像電子ビーム照射の間の照射エネルギーの調整を不要とすることができる。したがって、迅速な撮像を行うことができる。観察時間の短縮等が強く要請される場合には、帯電電子ビーム照射部1120が好適に設けられる。これにより、観察時間短縮の要請に応えることができる。
試料1200は、その表面の試料面1201に、絶縁材料からなる絶縁領域と、導電材料からなる導電領域とを含む。種々の形状の試料1200が適用され得る。試料1200は、例えば、半導体ウエハ、レチクル等の基板でよい。本実施形態に係る試料観察装置は、絶縁領域の面積比が導電領域よりも大きい場合に、好適に試料面1201を観察することができる。例えば、試料1200が、半導体ウエハのコンタクトプラグや、レチクルのコンタクト構造である場合、導電領域の面積比が小さい。このような場合に、良好に試料面1201の画像を取得し、観察を行うことができる。なお、導電材料及び絶縁材料には、種々の材料が適用され得る。例えば、導電材料はW(タングステン)等のプラグ材料でよい。絶縁材料は、半導体ウエハの絶縁層として利用されるSiO2(シリコン酸化膜)
等でよい。
次に、図35に係る試料観察装置を用いて実行される試料観察の内容について、具体的に説明する。
図36A及び図36Bは、撮像電子ビームの照射エネルギーと材料コントラストの関係の一例を示している。図36Aは、照射エネルギー帯域によって異なる画像の例を示して
いる。図36Bは、撮像電子ビームの照射エネルギーと検出器電流との相関関係を示している。
図36Bにおいて、横軸は、撮像電子ビームの照射エネルギー(ランディングエネルギーLE)を示し、縦軸は、検出器1080における検出器電流の大きさを示す。また、図36Bにおいて、実線で示された特性曲線は、10〜300〔μm〕のアパーチャ径を有するNA調整アパーチャ1060の傾向を示す。一点鎖線で示された特性曲線は、1000〜3000〔μm〕のアパーチャ径を有するNA調整アパーチャ1060の傾向を示している。また、アパーチャ径10〜300[μm]の場合において、二次電子領域は、LE=2〜10〔eV〕であり、遷移領域は、LE=−2〜2〔eV〕であり、ミラー電子領域は、LEが−2〔eV〕以下の領域である。
ここで、二次電子は、本発明の二次放出電子に含まれ、図2の二次電子領域は本発明の二次放出電子領域の一例である。二次放出電子とは、試料面1201への電子ビームの衝突によって、試料1200から放出される電子のことを言う。二次放出電子は、いわゆる二次電子の他に反射電子及び後方散乱電子等を含んでよい。反射電子は、入射エネルギーと略等しい反射エネルギーを有する電子である。後方散乱電子は、後方に散乱する電子である。しかし、二次放出電子の中で、二次電子が主に検出される。そこで、以下では、本発明について説明するために、二次電子が、主要な二次放出電子として説明されてよい。二次電子は、試料1200からの放出の仕方がコサイン則に従うという性質を有する。
また、ミラー電子とは、試料面1201に衝突せずに反射する電子のことを意味する。より詳細には、電子ビームが、試料面1201に向かって進み、試料面1201に衝突せず、試料面1201近傍で進行方向を逆向きに変え、その結果、ミラー電子になる。例えば、試料面1201の電位が負電位であり、電子ビームのランディングエネルギーが小さいとする。この場合には、電子ビームは、試料面1201近傍の電界の作用を受け、試料面1201に衝突せず、逆向きに進行方向を変え、この現象がミラー電子を生じさせる。本実施形態に係る試料観察装置及び試料観察方法においては、ミラー電子は、上記のように、「試料面1201に衝突することなく、進行方向を逆向きとして反射する電子」である。
図36Bにおいては、二次電子領域は、ランディングエネルギーLE=2〜10〔eV〕の領域である。二次電子領域では、NA調整アパーチャ1060のアパーチャ径の相違に依存して、検出電流が大きく異なっている。この理由は、二次電子の試料面放出角がコサイン則により決まり、電子の広がりがNA調整アパーチャ1060の位置で大きくなることにある。
ランディングエネルギーLEが2〔eV〕以下に低下すると、ミラー電子が少しずつ増加する。このエネルギー領域は、ミラー電子と二次電子が混在する遷移領域である。遷移領域では、NA調整アパーチャ1060のアパーチャ径の大きさの相違による検出器電流の差は小さい。
ランディングエネルギーLEが−2〔eV〕以下になると、二次電子の放出は見られなくなり、ミラー電子の放出量は一定となる。この領域は、ミラー電子領域である。ミラー電子領域では、NA調整アパーチャ1060のアパーチャ径のサイズに依存しては、検出器電流の差が見られない。このことから、ミラー電子は、NA調整アパーチャ1060の位置では集束していると考えられる。集束範囲は、φ300〔μm〕以下でφ10〔μm〕以上のあたりであると考えられる。ミラー電子は、基板表面に衝突せずに反射されるので、指向性が良く、直進性が高く、集束範囲が狭くなる。
図2では、アパーチャ径が、10〜300〔μm〕及び1000〜3000〔μm〕である。これらは、実線と破線の2つの傾向を得るための適当な2つのアパーチャ径範囲として用いられた。アパーチャ径が10〔μm〕未満又は3000〔μm〕より大きい場合も、特性曲線は同じ傾向を示すと考えられる。ここでは、ノイズ増大による測定の限度のため、アパーチャ径が10〔μm〕以上、3000〔μm〕以下に定められた。
図37は、照射電子ビームのランディングエネルギーLEに応じたミラー電子及び二次電子の発生現象を模式的に示している。ミラー電子及び二次電子は、どちらも試料面1201の構造情報を得る。ミラー電子及び二次電子では角度が相違しており、このことは、図36A及び図3Bを参照して説明した通りである。
図37は、ミラー電子領域と遷移領域について、実効ランディングエネルギーと電子の挙動との関係を表している。
図37の例では、ミラー電子領域は、実効ランディングエネルギーLEが0〔eV〕以下の領域である。ミラー電子領域においては、照射電子ビームが試料面1201に衝突せず、空中で反射してミラー電子になる。図37に示すように、照射ビームが試料面1201に対して垂直に入射した場合には、ミラー電子も垂直に反射し、電子の進行方向が一定である。
一方、遷移領域においては、ミラー電子は、試料面1201に衝突することなく、空中で向きを反転させ、反射している。この現象は、ミラー電子領域におけるミラー電子と同様である。しかし、一部の照射電子ビームは、試料面1201に衝突し、その結果、試料1200の内部から空中に二次電子が放出される。ここで、照射電子ビームが試料面1201に対して鉛直に入射したので、ミラー電子が鉛直方向に反射している。しかし、二次電子は、コサイン則に従って種々の方向に拡散している。コサイン則の分布は、鉛直方向にコサインの関係を有する。ランディングエネルギーが高くなる程、二次電子の割合がミラー電子の割合に比べて大きくなる。
図37に示すように、ミラー電子は進行方向が一定して良好な指向性を有するが、二次電子の進行方向はコサイン則に従って拡散し、指向性は良好でない。
上述した例では、遷移領域が−2〔eV〕〜2〔eV〕である。遷移領域は、ミラー電子と二次電子が混在する領域である。発明者等は、種々の実験の経験により、以下に述べるエネルギー範囲でこのような遷移現象(混在現象)が起こることと、その領域の使用がパターン撮像において大変効果的であることを見いだした。
照射する1次系の電子ビームにおいて、ランディングエネルギーLEが、LEA≦LE≦LEB、又は、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕の領域であることが好ましい。
以下、この内容について詳細に説明を行う。図38は、ランディングエネルギーLEに対する試料表面1201の階調の変化を示した図である。ここで、階調は、画像の輝度に対応し、そして、検出器1080で取得する電子数に比例している。
図38では、ランディングエネルギーLEがLEA以下の領域が、ミラー電子領域である。ランディングエネルギーLEがLEB以上の領域が二次電子領域である。そして、ランディングエネルギーLEがLEA以上、LEB以下の領域が、遷移領域である。本発明に関する多くの確認結果では、LEA〜LEBの好ましい範囲が、−5〔eV〕〜+5〔eV〕であった。つまり、LEA及びLEBが、好ましくは、−5〔eV〕≦LEA≦LEB≦+5〔eV〕の関係を満たす。
絶縁領域と導電領域では、ミラー電子の形成状況に差がある。これにより、特性線の差異が発生し、つまり階調差が発生して、階調差が大きなコントラストを形成する。つまり、材料や構造の違いによって、絶縁領域の特性線と導電領域の特性線が相互にずれ、階調差が形成される。そして、まさに、上述したランディングエネルギーLEの範囲が重要であることが発見された。−5〔eV〕≦LEA≦LEB≦+5〔eV〕、又は、LEA≦LE≦LEB+5〔eV〕(例えば、−5〔eV〕〜+10(=5+5)〔eV〕)の領域でランディングエネルギーLEを用いることが、大変有効である。
図36Aに戻り、各々の発生電子領域における絶縁材料と導電材料とのコントラストについて説明する。導電材料及び絶縁材料は、導体及び絶縁体で形成された種々の材料であってよい。例えば、導電材料はW(タングステン)であり、絶縁材料はSiO2(シリコ
ン酸化膜)等でよい。
図36Aは、各々の発生電子領域における材料コントラストの一例であり、二次電子領域、遷移領域及びミラー電子領域の材料コントラストを示している。まず、ミラー電子領域における材料コントラストに着目すると、導電材料と絶縁材料で差が無い。ミラー電子領域においては、試料面1201より手前で電子が反射されるので、導電材料と絶縁材料のコントラスト差が無くなってしまうからである。また、遷移領域と二次電子領域では、ともに、導電材料と絶縁材料とで差がある。遷移領域の方が、導電材料と絶縁材料のコントラスト差が大きい。この理由は、検出される電子がミラー電子を含むことにあると考えられる。ミラー電子の指向性が良いので、信号量が増加し、コントラストが高まると考えられる。
このように、二次電子とミラー電子が混在する遷移領域で試料面1201の画像を取得することにより、導電材料と絶縁材料とのコントラストを高めることができる。
遷移領域において、試料表面3201の絶縁領域に、撮像前に予め電子ビームが照射されてよい。これにより、絶縁材料は帯電し、電位がマイナス数〔eV〕程度になる。一方、導電材料の電位は、一定の接地電位である。エネルギー差があるので、E×B1040では、導電材料の構造情報を得た電子と比較して、絶縁材料の構造情報を得た電子の軌道がずれる。したがって、適切な調整を行うことにより、検出器1080に到達する電子を、導電材料の構造情報を得た電子に限定することができる。また、遷移領域は、二次電子とミラー電子が混在するエネルギー領域である。二次電子とミラー電子が混在する場合、絶縁領域からの電子軌道が、双方の電子においてシフトする。ここで、電界方向の力は、F=e・E(eは電子の電荷1.602×10-19〔C〕、Eは電界〔V/m〕)である
。電子に働く力は速度v〔m/s〕に依存しない。一方、磁界方向の力は、F=e・(v×B)であり、電子の速度v〔m/s〕に依存する。通常は、導電性基板から出射された電子が直進するように、E×B条件(ウィーン条件)が設定されている。しかし、電子の速度v〔m/s〕が変化することにより、磁界方向の力が変化する。そのため、E×B1040の下流側(検出器1080側)で、電子の軌道がシフトする。
図39A及び図39Bは、試料面1201の構造情報を得た電子の軌道の一例を示した模式図である。図39Aは、電子軌道の側面図であり、図39Bは、電子軌道を示す部分拡大図である。
図39Aにおいて、試料1200が下方に配置されている。試料1200には、試料用電源1101により、負電位が印加されている。試料1200では、導電材料1202の上を、絶縁材料1203が覆っている。ホール1204は、絶縁材料1203の切れ目である。導電材料1202がホール1204から露出して、試料面1201の一部を構成し
ている。例えば、レチクルのコンタクト構造においては、図39Aに示す試料1200のように、ホール1204の底面が導電材料1202で構成されることが多い。また、試料観察装置の構成要素としては、E×B1040と、NA調整アパーチャ1060と、検出器1080のみが示されている。
図39Aにおいて、電子ビームEBが右上方から発射されている。電子ビームは、E×B1040により偏向されて、試料面1201に鉛直に入射している。そして、試料面1201の構造情報を得た電子のうちで、電子ecは、導電領域1202の構造情報を得ている。この電子ecは、直進してNA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061を通過している。一方、電子eiは、絶縁領域1203の構造情報を得た電子である。電子eiは、軌道を変え、NAアパーチャ1061の周辺へ進み、NA調整アパーチャ1060の部材部分に衝突している。つまり、導電領域1202の構造情報を得た電子ecは、検出器1080に到達し、絶縁領域1203の構造情報を得た電子eiは、検出器1080に到達していない。
この例では、試料面1201の大部分を絶縁材料1203が占め、一部(ホール1204の底面)が導電材料1202である。このような構造が、レチクルのコンタクト構造では多く見られる。このような構造において、本実施の形態は、導電材料1202の表面構造情報を得た電子ecのみを検出器1080に導き、絶縁材料1203の表面構造情報を得た電子eiを検出器1080に到達させない。これにより、特異的に高コントラストの画像を取得することができる。ここで、電子ec、eiは、ミラー電子及び二次電子の双方を含む。
また、このような材料種類に応じた電子の分離検出は、レチクル以外の試料に適用されてよく、例えば、半導体ウエハ等のライン/スペースパターンの検出にも同様に適用できる。
図39Bは、NA調整アパーチャ1060を下側から見た拡大図を示している。長方形状のNA調整アパーチャ1060の一部に、NAアパーチャ1061が形成されている。電子ecは、導電領域1202の構造情報を得ている。この電子ecは、NAアパーチャ1061内に含まれており、したがってNAアパーチャ1061を通過できる。一方、電子eiは絶縁領域1203の構造情報を得た電子である。電子eiの大部分が、NA調整アパーチャ1060に遮られ、NAアパーチャ1061を通過できない。
導電材料1202及び絶縁材料1203からのミラー電子の電子軌道は、NA調整用アパーチャ1060の位置にてクロスオーバー点を有し、最小スポットの100〔μm〕となる。よって、E×B1040による軌道シフトを利用することにより、NA調整アパーチャ1060が、導電材料1202の構造情報を得た電子ecを容易に選択的に分離できる。この分離は、光学的な分解能を失うことなく実行可能である。材料間で帯電電位の差が大きい場合には、NA調整アパーチャ1060の位置での軌道シフトも大きい。したがって、より大きなアパーチャ径を有するNA調整アパーチャ1060を使用可能であり、検出される電子の数を増大でき、画像を好適に形成することが可能となる。
撮像電子ビームを照射する前に試料面1201の絶縁領域1203に帯電電子ビームを照射する場合には、電子ビーム源1010が用いられてよい。また、帯電電子ビーム照射部1120が設置されている場合には、それが用いられてよい。検出器1080による撮像を行わない状態で、帯電電子ビームが試料1200の試料面1201に照射されてよい。この場合、絶縁領域1203にのみ帯電電子ビームが照射されてよい。しかし、導電領域1202に帯電電子ビームが照射されても、表面電位はゼロ電位となる。したがって、導電領域1202と絶縁領域1203が特に区別されなくてよく、所定の照射エネルギー
の帯電電子ビームが、試料面1201の撮像領域に照射されてよい。
図40A及び図40Bは、NAアパーチャ1061の最適位置を説明する図であり、より詳細には、NA調整アパーチャ1060の位置におけるミラー電子及び二次電子の軌道の広がりと、NAアパーチャ1061の最適位置との関係を示す。図40Aは、ミラー電子に関して、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の最適位置を示す。図40Bは、二次電子に関して、NAアパーチャ1061の最適位置を示す。図40A及び図40Bにおいて、黒い円が、導電領域1202の構造情報を得た電子ecを示す。灰色の円が、絶縁領域1203の構造情報を得た電子eiを示している。
図40Bに示すように、試料面1201の構造情報を得た電子が二次電子である場合には、導電領域1202から放出された電子ecと絶縁領域1203から放出された電子eiが、大部分の領域で重なっている。この場合、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の中心が、導電領域1202から放出された電子の軌道の中心に略一致する位置に合わされる。この位置が、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の最適位置であると考えられる。これにより、試料面1201の導電領域1202から放出された電子ecが、電子ecの電子密度の最高部分を中心として検出可能である。しかしながら、図40Bに示すように、絶縁領域1203から放出された電子eiの電子軌道も、導電領域1202から放出された電子ecの軌道とほぼ重なっている。そのため、両者を分離して検出することはできない。よって、二次電子領域においては、導電領域1202から放出された二次電子ecと絶縁領域1203から放出された二次電子eiの信号の相違に基づいて、導電領域1202と絶縁領域1203を区別することになる。
一方、図40Aにおいては、導電領域1202の構造情報を得たミラー電子ecと、絶縁領域1203の構造情報を得たミラー電子eiでは、電子軌道に差が生じており、2つの電子軌道の中心が互いにずれた位置関係にある。このような場合に、例えば、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の位置が、導電領域1202の構造情報を得た電子ecが総て通過し、絶縁領域1203の構造情報を得た電子eiがNAアパーチャ1061をあまり通過できないように配置される。これにより、導電領域の構造情報を得た多数の電子ecのみが分離されて、検出器1080に導かれる。したがって、導電領域1202と絶縁領域1203の材料コントラストを高くすることができる。従来通常は、このような分離を行うためには、複数の磁界と電界から構成される色収差補正器(モノクロメータ)が必要である。しかし、本実施の形態に係る試料観察装置及び試料観察方法によれば、色収差補正器が設置されなくてよい。NA調整アパーチャ1060の位置調整のみによって、同様の効果が得られ、好適な画像を取得することができる。
図39A〜図40Bの例は、導電領域1202の構造情報を得た電子ecを選択的に検出器1080に導き、絶縁領域1203の構造情報を得た電子eiを検出器1080に導かないように構成されている。しかし、逆の構成も可能であり、E×B1040の設定とNA調整アパーチャ1060の配置及びアパーチャ径の調整により実現される。つまり、変形例は、絶縁領域1203の構造情報を得た電子eiを検出器1080に選択的に導き、導電領域1202の構造情報を得た電子ecを検出器1080に導かないように構成される。このように、本実施の形態は、導電領域1202の構造情報を取得した電子ecと、絶縁領域1203の構造情報を取得した電子eiのどちらかを選択的に検出器80に導く。いずれの電子を導き検出するかは、用途に応じて適宜自由に決定されてよい。
次に、測定結果の例について説明する。以下の実験例は、本実施の形態に係る試料観察装置及び方法により得られた、種々の条件での材料コントラストの測定結果を示す。
<実験例1> 図41A及び図41Bは、実験例1にて観察される試料1200の構造
と、取得された画像の一例を示している。図41Aは、試料1200であるコンタクトプラグの断面構造を示している。図41Bは、コンタクトプラグ構造を有する試料面1201の取得画像の一例を示している。
図41Aでは、半導体基板であるシリコン基板1205の上に、絶縁領域1203及び導電領域1202が形成されている。絶縁領域1203は、SiO2で形成されている。
また、導電領域1202は、タングステンの材料で形成され、コンタクトプラグ形状を有している。試料面1201の平面構造においては、絶縁領域1203がベースであり、導電領域1202が点又は円としてベースの中に形成されている。
図41Bは、試料観察により取得された試料面1201の画像の一例であり、絶縁領域1203が、画像の黒いベース部分である。黒いベース中から、白い円形の導電領域1202が浮かび上がっている。このように、材料コントラストを高めることにより、本実施の形態は、絶縁領域1203と導電領域1202の区別が容易な画像を取得することができ、欠陥等の観察や検査も容易に行うことが可能となる。
図41Bの例では、絶縁領域1203が低輝度で黒くなり、導電領域1202が高輝度で白くなる。この画像を得るために、上述したように、例えば、絶縁領域1203から発生する電子を選択的に検出するようにNA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の位置が調整される。
次に、このような高コントラストの画像を取得するための試料観察方法の設定条件の一例について説明する。
図42A及び図42Bは、試料観察方法の測定結果を示している。試料観察の設定条件は、以下の通りである。電子ビーム源1010の電子源1011のカソードの電圧が−3995〜−40005〔eV〕である。試料面1201の電圧が−4000〔eV〕である。また、ランディングエネルギーLEが−1〔eV〕であり、これにより、ランディングエネルギーが遷移領域内で最適化された。電子ビームの照射電流密度は、0.1〔mA/cm2〕である。検出器1080の画素サイズは、50〔nm/pix〕である。NA
調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061のアパーチャ径は、φ150〔μm〕である。帯電電子ビームによるプレドーズ量は1〔mC/cm2〕である。
図42Aは、上述の条件下で電子ビームのランディングエネルギーを変化させたときの、図41Aの断面構造を有するコンタクトプラグの観察結果を示した表である。図42Bは、図42Aの測定結果のグラフである。
図42Bにおいて、横軸が、ランディングエネルギーLEを示し、縦軸が、取得された画像の平均階調を示している。絶縁領域の特性曲線は、略正方形マークで表される点を結んだ曲線によって示される。導電領域の特性曲線は、ダイヤ形マークで表される点を結んだ曲線によって示されている。また、絶縁領域と導電領域の平均階調からコントラストが算出された。コントラストは、三角マークで表される点を結んだ曲線によって示されている。コントラストは、式(1)を用いて算出される。
コントラスト=|導電材の平均階調−絶縁材の平均階調|
÷(導電材の平均階調+絶縁材の平均階調)・・・(1)
このように、コントラストは、“導電材の平均階調−絶縁材の平均階調”の絶対値を、“導電材の平均階調+絶縁材の平均階調”で割算した値である。
図42A、図42Bにおいて、ランディングエネルギーLE=−1〔eV〕のときに、コントラストが0.8であり、最高である。ランディングエネルギーLE=−1〔eV〕
は、図36Bにおいて説明したように、ミラー電子と二次電子が混在する遷移領域内である。したがって、遷移領域において最高の材料コントラストが得られていることが分かる。
上記の実施の形態では、ミラー電子又は2次放出電子が検出器の方向に直進するようにE×Bフィルタ(ウィーンフィルタ)の条件が設定されていた。しかし、本発明は上記に限定されない。例えば、1次ビーム(照射される電子ビーム)と2次ビーム(ミラー電子及び2次放出電子)の双方が直進しなくてもよい。すなわち、双方のビームが、E×Bフィルタの作用で偏向されてよい。また例えば、1次ビームが直進し、2次ビームが、E×Bフィルタの作用で偏向角度を有してよい。これらの構成も本発明の範囲に含まれる。
<実験例2> 図43A及び図43Bは、実験例2の測定結果を示している。図43Aは、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表である。図43Bは、図43Aの測定結果のグラフである。試料観察装置の種々の設定条件と、測定対象の試料1200は、実験例1と同様であり、説明を省略する。
実験例2においては、帯電電子ビームが試料面1201に照射され、それから、試料面1201が撮像された。図43A、図43Bに示すように、撮像前に1〔mC/cm2〕
以上の帯電電子ビームが予め照射されたときに、コントラストが0.8以上となり、安定なコントラストが得られた。つまり、帯電電子ビームのドーズ量が1〔mC/cm2〕以
上のときに、試料面1201の絶縁領域1203の帯電が飽和して負電位となり、安定したコントラストが得られたことになる。
<実験例3> 図44A及び図44Bは、実験例3の測定結果を示している。図44Aは、NA調整アパーチャ1060の位置とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表である。図44Bは、図44Aの測定結果のグラフである。試料観察装置の種々の設定条件及び測定対象の試料1200は、実験例1と同様であり、説明を省略する。
図44A及び図44Bでは、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の位置を調整しながら測定が行われた。その結果、アパーチャ位置が、中心位置である0〔μm〕のときに、最大のコントラスト0.8が得られた。つまり、NA調整アパーチャ1060のNAアパーチャ1061の中心が光軸と一致するときに、導電領域1202の構造情報を得た電子ecを最も多く通過させることができる。また、中心からマイナス方向にNA調整アパーチャ1060が移動するに従い、絶縁領域1203から生じる電子eiとの干渉によってコントラストが低下する。逆に、中心からプラス方向にNA調整アパーチャ1060が移動した場合も、やはり、導電領域1202の構造情報を得た電子ecの信号が低下し、コントラストは低下する。この結果は、図40Aを参照して説明された事項と一致している。
<実験例4> 図45A及び図45Bは、実験例4の測定結果を示している。図45Aは、試料面1201とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表である。図45Bは、図45Aの測定結果のグラフである。試料観察装置の種々の設定条件及び測定対象の試料1200は、実験例1と同様であり、説明を省略する。
図45A及び図45Bにおいては、実験例1〜3における測定結果の最適条件が適用された。そして、試料面1201の導電領域1202と絶縁領域1203の面積比を変化させながら、コントラストが測定された。この測定では、面積比は、パターン幅の比である。また、図45A及び図45Bにおいて、LEEMは、低エネルギー電子顕微鏡(Low-energy Electron Microscopy)であり、本実施の形態に係る試料観察装置の測定結果である。SEMは、従来の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)の測定結果であ
り、本発明との比較のために示されている。
本実施形態(LEEM)では、図41Bに示したように、主に導電領域1202が高輝度で明るい。そのため、導電領域1202の面積比が低下すると、導電領域1202が周囲からの干渉を受けにくくなり、コントラストが高くなる。SEM方式(例えば、ランデシィングエネルギーが1000〔eV〕程度)では、材料の二次電子放出係数に依存して、絶縁材料1203が明るい。絶縁材料1203の面積割合が増加すると、導電領域1202の信号が、二次電子の軌道の広がりによって消されてしまう。その結果、コントラストは極めて低くなる。
図45A及び図45Bに示すように、導電領域1202と絶縁領域1203との面積比が小さいときには、まだ、本実施の形態(LEEM)と従来のSEMで、コントラストの差は比較的小さい。導電領域1202:絶縁領域1203=1:2のときには、コントラストの差は0.3程度である。試料面1201における絶縁領域1203の面積が増加するにつれて、本実施形態(LEEM)のコントラストが増加する。一方、従来のSEMのコントラストは、低下している。導電領域1202:絶縁領域1203=1:10の場合においては、コントラストの差は0.75に達している。
このように、本実施形態に係る試料観察装置は、導電材料1202の面積割合が小さい試料1200の試料面1201の観察には特に有効である。試料面1201が、絶縁材料1203の割合が大きいコンタクト構造を有する場合には、材料コントラストの高い画像を取得することができ、大きな利点が得られる。また、検出対象を逆にすれば、絶縁材料1203の割合が低く、導電材料1202の割合が高い試料面1201を有する試料1200に対しても、効果的に観察を行うことができる。
〔別の実施の形態〕(アパーチャ移動機構)
図46は、別の実施の形態に係る試料観察装置の構成の一例を示している。図46において、試料観察装置は、電子ビーム源1010と、1次系レンズ1020と、コンデンサレンズ1030と、E×B1040と、トランスファーレンズ1050と、NA調整アパーチャ1060aと、プロジェクションレンズ1070と、検出器1080と、画像処理装置1090と、ステージ1100と、エネルギー設定部1110と、電源1115とを備える。また、必要に応じて、帯電電子ビーム照射部1120が備えられてよい。また、関連構成要素として、試料1200が試料面1201を上面として、ステージ1100上に載置されている。上記の説明に関し、本実施の形態の構成は、前述の図35の実施の形態と同様である。図35の実施の形態と同様の構成要素については、同一の参照符号が付されており、説明が省略される。
図35の実施の形態との相違点として、図46の試料観察装置では、NA調整アパーチャ1060aが、可動式かつ複数選択式のNA調整アパーチャ移動機構を備えている。
NA調整アパーチャ1060aは、サイズの異なる複数のNAアパーチャ1061、1062を備えている。NA調整アパーチャ1060がアパーチャ部材であり、NAアパーチャ1061、1062が開口である。NA調整アパーチャ1060aが水平方向に移動することにより、NAアパーチャ1061とNAアパーチャ1062が切替可能である。
このように、本実施の形態に係る試料観察装置は、アパーチャ径の異なる複数種類のNAアパーチャ1061、1062を有するNA調整アパーチャ1060aを備え、これらが交換可能に構成されている。これにより、試料1200の種類及び試料面1201の構造等の種々の条件に応じて、最適なサイズのアパーチャを選択し、高い材料コントラストを有する画像を取得することが可能となる。
図47A及び図47Bは、本実施の形態における可動式のNA調整アパーチャの例を示している。図47Aは、スライド移動式のNA調整アパーチャ1060bの構成の一例を示した上面図である。図47Bは、回転移動式のNA調整アパーチャ1060cの構成の一例を示した上面図である。NA調整アパーチャ1060b、1060cがアパーチャ部材であり、NAアパーチャ1061〜1064が開口である。
図47Aにおいて、NA調整アパーチャ1060bは、アパーチャ径が異なる複数のNAアパーチャ1061、1062、1063を備えている。また、NA調整アパーチャ1060bは、長手方向の両側に、スライド式のNA調整アパーチャ移動機構1065を備える。
このように、本実施の形態では、長方形の板状のNA調整アパーチャ1060bに複数のNAアパーチャ1061、1062、1063が形成される。そして、スライド式のNA調整アパーチャ移動機構1065により、NA調整アパーチャ1060が水平方向へ移動可能である。これにより、用途に応じてNA調整アパーチャ1060bのアパーチャ径及びアパーチャ位置を調整することができる。種々の試料1200や用途に対応して試料面1201の最適な画像を取得することが可能となる。
スライド式のNA調整アパーチャ移動機構1065は、例えば、NA調整アパーチャ1060bを上下からレール状部材で挟み込みように構成される。移動機構は例えばリニアモータを有する。また、回転式のレール部材でNA調整アパーチャ1060bが挟時されてよく、回転式モータが回転レール部材を回転させてNA調整アパーチャ1060bを移動してよい。スライド式のNA調整アパーチャ移動機構1065は、用途に応じて種々の構成を有してよい。
図47Bにおいて、NA調整用アパーチャ1060cは、円盤状の板であり、複数のNAアパーチャ1061〜1064を有し、中心に回転式NA調整用アパーチャ移動機構1066を備える。NAアパーチャ1061〜1064のアパーチャ径は異なっている。NAアパーチャ1061が最も大きく、だんだんアパーチャ径が小さくなり、NAアパーチャ1064が最も小さい。回転式のNA調整用アパーチャ移動機構1066には、回転式モータ等が適用されてよい。
このように、本実施の形態に係る試料観察装置は、例えば、回転移動によってNA調整アパーチャ1060cのアパーチャ径を切り替えるように構成されてよい。
本実施の形態によれば、複数のアパーチャサイズを選択可能であり、かつアパーチャ位置の調整が可能である。これにより、用途や試料1200の種類にも柔軟に対応でき、様々な条件下においても最適なコントラストをもつ画像を取得することができる。
上記の説明では、アパーチャ位置が水平面上でx、y方向に調整された。本発明の範囲で、アパーチャ位置は、回転方向の位置、すなわちアパーチャ角度も含んでよい。回転方向の位置調整は、アパーチャを水平面上で回転することにより行わてよく、回転中心は2次光学系の軸でよい。
また、上記の説明では、NA調整アパーチャ1060のが移動機構によって水平面上でx、y方向)に移動された。しかし、本発明の範囲内で、移動機構は、NA調整アパーチャ1060を垂直方向(Z方向)に移動可能に構成されてよい。これにより、Z方向にもアパーチャ位置調整が可能である。Z軸方向は、2次光学系の軸方向である。例えば、Z軸方向にもアパーチャが移動され、信号強度が測定され、信号強度が最も高くなる位置へ
とアパーチャ位置が調整されてよい。アパーチャは、ミラー電子が最も絞られる位置に好適に設置される。これによりミラー電子の収差の低減、及び、2次放出電子の削減を、大変効果的に行うことができる。したがって、より高いS/Nを得ることが可能となる。
また、本実施の形態では、更に、アパーチャ形状も調整されてよい。アパーチャ形状は、アパーチャ高さにおけるミラー電子のスポット形状(プロファイル)に合うように好適に調整される。例えば、アパーチャ形状は、ミラー電子のスポット形状が強度分布の長手方向に応じた方向に長軸を有する楕円形であってよい。これにより、ミラー電子の検出数を相対的に増加できる。また、複数のアパーチャ孔が、一つのアパーチャとして機能するように設けられてよい。それら複数のアパーチャ孔が、ミラー電子の強度中心の周辺に配置されてよく、また、強度中心を囲むように配置されてよく、用途や性質に応じて適切にミラー電子を検出できる。また、それら複数のアパーチャ孔の一つが、ミラー電子の強度中心と一致するように配置されてよく、散乱方向に特徴のある対象を適切に観察できる。
〔検出器の好適な構成〕
前述したように、電子の検出器は、EB−CCD又はEB−TDIであってよい。EB−CCD又はEB−TDIは、電子が直接入射されるように構成されている。これら検出器を用いることにより、高いコントラストを有する画像を取得できる。MCP、FOP(Fiber Optical Plate)、蛍光板及びTDIからなる従来構成と比較すると、コントラス
トが3倍程度になる。これは、MCPとFOPの透過による劣化が無いからである。特に、コンタクト構造のホール底面1202からの光を検出するとき、従来型の検出器では、スポット(ドット)がなだらかになってしまう。この点に関し、EB−CCD又はEB−TDIは有利である。更に、MCP使用によるゲイン劣化が無いので、有効画面上の輝度ムラが無く、交換周期が長い。よって、検出器のメインテナンスの費用及び時間を削減することができる。
このように、EB−CCD及びEB−TDIは、高コントラストの画像の取得できる点で好ましく、また、耐久性等に関しても好ましい。ここでは、更に、EB−CCD及びEB−TDIを使用する好適な例について説明する。
図48は、検出器1080aに構成を示している。検出器1080aは、図35等の検出器1080として好適に用いられる。検出器1080aは、EB−CCD1081とEB−TDI1082とを有している。検出器1080a、EB−TDI102とEB−CCD1081とを切り替え可能であり、用途に応じて双方を交換及び使用可能に構成されている。EB−CCD1081及びEB−TDI1082は、電子ビームを受け取る電子センサであり、検出面に直接に電子を入射させる。この構成においては、EB−CCD1081は、電子ビームの光軸調整と、画像撮像条件の調整及び最適化を行うのに使用される。EB−TDI1082を使用する場合には、EB−CCD1081が移動機構Mによって光軸から離れた位置に移動される。それから、EB−CCD1081を使用することにより求めた条件を使用し又は参考にして、EB−TDI1082により撮像が行われて、試料面1201が観察される。
本実施の形態では、例えば試料が半導体ウエハである。EB−CCD1081を用いて電子光学条件が求められる。それから電子光学条件を用いて又は参考にして、EB−TDI1082による半導体ウエハの画像が取得される。また、EB−TDI1082を用いて試料面1201が検査され、次に、EB−CCD1081を使用してレビュー撮像が行われ、パターン欠陥が評価されてよい。このとき、EB−CCD1081は、画像を積算可能であり、それによりノイズの低減が可能で、高いS/Nで欠陥検出部位のレビュー撮像を行うことができる。ここで、更に有効な例では、EB−CCD1081の画素がEB−TDI1082の画素よりも小さい。この構成は、写像投影光学系で拡大された信号の
サイズに対して、ピクセル数を多くできる。したがって、検査のため、また、欠陥の種類等の分類及び判定のために、より高い分解能で撮像を行うことが可能となる。
EB−TDI1082は、電子を直接受け取って電子像を形成できるように、画素を二次元的に配列した構成を有している。EB−TDI1082は例えば矩形形状を有し、画素サイズは、例えば12〜16〔μm〕である。一方、EB−CCD1071の画素サイズは、例えば6〜8〔μm〕である。
また、図48では、EB−TDI1082は、パッケージ1085の形に形成される。パッケージ1085自体がフィードスルーの役目を果たす。パッケージのピン1083は大気側にてカメラ1084に接続される。
図48の構成は、FOP、ハーメチック用の光学ガラス、光学レンズ等による光変換損失を低減でき、光伝達時の収差及び歪みを低減でき、さらに、それら要因による画像分解能劣化、検出不良、高コスト、大型化等の欠点を解消することができる。
〔試料観察装置の全体構成〕
図49は、本実施の形態に係る試料観察装置の全体構成の例を示している。図49の構成は、図35又は図46の装置の周辺構成として好適に備えられる。
図49において、試料観察装置は、試料キャリア1190と、ミニエンバイロメント1180と、ロードロック1162と、トランスファーチャンバ1161と、メインチャンバ1160と、電子コラム1130と、画像処理装置系1090とを備える。ミニエンバイロメント1180は、大気中の搬送ロボット、試料アライメント装置、クリーンエアー供給機構等を備える。トランスファーチャンバ1161は、真空中の搬送ロボットを備えている。常に真空状態のトランスファーチャンバ1161にロボットが備えられているので、圧力変動によるパーティクル等の発生を最小限に抑制することが可能である。
メインチャンバ1160には、x、y、θ(回転)方向に移動するステージ1100がありその上に静電チャックが設置されている。試料1200そのものまたは試料1020がパレットや冶具に設置された状態で、静電チャックに設置される。
メインチャンバ1160は、真空制御系1150により、チャンバ内が真空状態が保たれるように制御される。また、メインチャンバ1160、トランスファーチャンバ1161及びロードロック1162は、除振台1170上に載置されており、床からの振動が伝達されないように構成されている。
また、メインチャンバ1160には電子コラム1130が設置されている。このコラムは、1次光学系、2次光学系及び検出器1080を備え、検出器1080は2次光学系に含まれる。1次光学系は、電子ビーム源1010及び1次系レンズ1020を含む。2次光学系は、コンデンサレンズ1030、E×B1040、トランスファーレンズ1050、NA調整アパーチャ1060、60a〜60c及びプロジェクションレンズ1070を含む。検出器1080は、試料1200からの二次電子及びミラー電子を検出する。また、電子コラム1130の関連構成要素として、光学的顕微鏡1140及びSEM1145が備えられている。光学的顕微鏡1140は試料1200の位置合わせに用いられる。SEM1145は、レビュー観察に用いられる。
検出器1080の信号は、画像処理装置系1090に送られて信号処理される。オンタイムの信号処理及びオフタイムの信号処理の両方が可能である。オンタイムの信号処理は、観察を行っている間に行われる。オフタイムの信号処理を行う場合、画像のみが取得さ
れ、後で信号処理が行われる。画像処理装置1090で処理されたデータは、ハードディスクやメモリなどの記録媒体に保存される。また、必要に応じて、コンソールのモニタに表示することが可能である。表示されるデータは、例えば、観察領域、欠陥マップ、欠陥分類、パッチ画像等である。このような信号処理を行うため、システムソフト1095が備えられている。また、電子コラム系1130に電源を供給すべく、電子光学系制御電源1118が備えられている。電子光学系制御電源1118は、電子ビーム源1010の電子源1011に電力を供給する電源1115と、電源1115を制御する照射エネルギー制御部1110を含む。
次に、試料1200の搬送機構について説明する。
ウエハ、マスクなどの試料1200は、ロードポートより、ミニエンバイロメント1180中に搬送され、その中でアライメント作業がおこなわれる。試料1200は、大気中の搬送ロボットにより、ロードロック1162に搬送される。ロードロック1162は、大気から真空へと、真空ポンプにより排気される。圧力が一定値(1〔Pa〕程度)以下になると、トランスファーチャンバ1161に配置された真空中の搬送ロボットにより、ロードロック1162からメインチャンバ1160に、試料1200が搬送される。そして、ステージ1030上の静電チャック機構上に試料1200が設置される。
「写像投影型検査装置とSEMの両方を備えた構成について」
図49においては、メインチャンバ1160に、電子コラム1130及びSEM1145が備えられている。電子コラム1130は、メインチャンバ1160と共に、本実施の形態に係る写像投影型の試料観察装置を構成している。したがって、本実施の形態の試料検査装置は、写像投影型観察装置とSEM型観察装置の両方を備えた複合型の観察装置を構成している。
本実施の形態では、ステージ1100が移動可能に構成される。ステージであり、特に、電子コラム1130(写像投影型観察装置)の観察位置とSEM1145の観察位置との間で移動可能である。このような構成により、写像方式とSEMという2種類の装置の両方を用いる場合に、観察及び検査を迅速かつ高精度に行うことができる。例えば、写像投影型観察装置で欠陥が検出され、それから、SEMで欠陥が詳細にレビューされる。以下、この特徴について更に詳細に説明する。
上記構成によれば、試料1200が同じステージ1100に搭載されたまま、電子コラム1130とSEM1145の両方が使用される。したがって、試料1200(ステージ1100)が電子コラム1130とSEM1145との間を移動したときに、座標関係が一義的に決まる。このことは、試料1200の所定箇所を特定したり、欠陥箇所を特定するときに有利である。2つの検査装置が、同一部位の特定を高精度で容易に行うことができる。例えば、電子コラム1130により欠陥箇所が特定される。この欠陥箇所が、SEM1145にて迅速に位置決めされる。
上記の複合型の構成が適用されなかったとする。例えば、写像式光学検査装置とSEMが、別々の真空チャンバに分かれて配置されたとする。分離された別々の装置間で試料を移動する必要があり、別々のステージに試料を設置する必要がある。そのため、2つの装置が試料のアライメントを別個に行う必要があり、時間がかかる。また、試料のアライメントを別々に行う場合、同一位置の特定誤差は、5〜10〔μm〕となってしまう。
一方、本実施の形態では、2種類の検査において、同一のチャンバ1160の同一のステージ1100に、試料1200が設置される。写像方式の電子コラム1130とSEM1145との間でステージ1100が移動した場合でも、高精度で同一位置を特定可能で
ある。例えば、1〔μm〕以下の精度での位置の特定が可能である。
このような高精度の特定は、以下の場合に大変有利である。まず、試料1200の検査が写像方式で行われ、欠陥が検査される。それから、検出した欠陥の特定及び詳細観察(レビュー)が、SEM1145で行われる。正確な位置の特定ができるので、欠陥の有無(無ければ疑似検出)が判断できるだけでなく、欠陥のサイズや形状の詳細観察を高速に行うことが可能となる。
「写像投影型検査装置とSEMの両方を用いる検査の別の例」
上述では、写像投影型検査装置が欠陥を検出し、SEMがレビュー検査を行う。しかし、本発明はこれに限定されない。2つの検査装置が別の検査方法に適用されてよい。それぞれの検査装置の特徴を組み合わせることにより、効果的な検査が可能となる。別の検査方法は、例えば、以下の通りである。
この検査方法では、写像投影型検査装置とSEMが、異なる領域の検査を行う。更に、写像投影型検査装置に「セルtoセル(cell to cell)」検査が適用され、SEMに「ダイtoダイ(die to die)」検査が適用され、全体として効率よく高精度の検査を実現される。
より詳細には、写像投影型検査装置が、ダイの中で繰返しパターンが多い領域に対して、「セルtoセル」の検査を行う。そして、SEMが、繰返しパターンが少ない領域に対して、「ダイtoダイ」の検査を行う。それら両方の検査結果が合成されて、1つの検査結果が得られる。「ダイtoダイ」は、順次得られる2つのダイの画像を比較する検査である。「セルtoセル」は、順次得られる2つのセルの画像を比較する検査であり、セルは、ダイの中の一部である。
上記の検査方法は、繰返しパターン部分では、写像投影方式を用いて高速な検査を実行し、一方、繰返しパターンが少ない領域では、高精度で疑似が少ないSEMで検査を実行する。SEMは高速な検査に向かない。しかし、繰返しパターンが少ない領域は比較的狭いので、SEMの検査時間が長くなりすぎずにすむ。したがって、全体の検査時間を少なく抑えられる。こうして、この検査方法は、2つの検査方式のメリットを最大に活かし、高精度な検査を短い検査時間で行うことができる。
以上に本実施の形態に係る試料観察装置及び方法について説明した。本実施の形態は、半導体製造プロセスに好適に適用される。半導体ウエハを加工した後の試料面1201の観察や検査のために、本実施の形態が好適に適用される。本実施の形態によれば、絶縁領域1203と導電領域1202を試料面1201に有する半導体ウエハを観察し、高いコントラストの画像を取得して、半導体ウエハの良否を検査することができる。これにより、欠陥の無い半導体ウエハを製造することができる。このように、本実施の形態は、半導体製造方法に好適に適用される。
上述した各種の構成は、用途に応じて適当に組み合わせられてよい。例えば、図35の構成は、図48及び図49の構成と好適に組み合わされる。また、図46の構成が、図48及び図49の構成と好適に組み合わせれる。
以上に現時点で考えられる本発明の好適な実施の形態を説明したが、本実施の形態に対して多様な変形が可能なことが理解され、そして、本発明の真実の精神と範囲内にあるそのようなすべての変形を添付の請求の範囲が含むことが意図されている。
「産業上の利用可能性」
本発明は、半導体ウエハやレチクル等の基板の表面を観察する試料観察装置に利用することができ、また、欠陥を検出する試料欠陥検出装置に利用することができる。
[第3の観点]
第3の観点は、パターンの観察に関する。
本発明の目的は、微細なパターンを観察できる技術を提供することにある。
本発明は、電子ビームを用いて試料のパターンを観察する試料観察方法であって、前記試料に電子ビームを照射するステップと、前記電子ビームの照射によって生じるミラー電子を検出するステップと、検出された前記ミラー電子から試料の画像を生成するステップとを有し、前記電子ビームを照射するステップは、両側にエッジを有する凹パターンに前記電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された前記電子ビームを前記試料に照射する。
上記構成において、本発明は、両側にエッジがあるために凹パターンではミラー電子が生じやすいというミラー電子発生現象の特性に着目している。凹パターンでのミラー電子発生量は、電子ビームのランディングエネルギーに依存する。そこで、凹パターンにて照射電子が効率よくミラー電子になるように、ランディングエネルギーが設定される。後述するようにランディングエネルギーは相当に低い値に設定されることになる。これにより、凹パターンでの解像度とコントラストを増大でき、微細なパターンの観察が可能になる。
本発明では、写像投影型観察装置が好適に用いられる。これにより、微細なパターンを短時間で観察することができる。
前記ランディングエネルギーは、前記ミラー電子と2次放出電子が混在する領域に設定されてよい。
これにより、パターンでミラー電子が生成するようにランディングエネルギーを適当に設定でき、パターンのコントラストを増大することができる。
前記ランディングエネルギーは、LEA≦LE≦LEB+5eVに設定されてよい。ここで、LEは前記電子ビームの前記ランディングエネルギーであり、LEA及びLEBは、前記ミラー電子と2次放出電子が混在する領域の最低ランディングエネルギー及び最高ランディングエネルギーである。
これにより、パターンでミラー電子が生成するようにランディングエネルギーを適当に設定でき、パターンのコントラストを増大することができる。
前記照射電子は、前記凹パターンの一方のエッジに向って入射し、前記一方のエッジの近傍で他方のエッジに向かって曲り、前記他方のエッジの近傍で曲がってミラー電子になってよい。
これにより、パターンでミラー電子が生じる現象を上手く利用して、ミラー電子を適切に検出でき、パターンのコントラストを増大することができる。
前記照射電子は、前記凹パターンの一方のエッジに向って入射し、前記一方のエッジの近傍を通るカーブ軌道に沿って前記凹パターン内に侵入し、前記凹パターンの底部に衝突することなく進行方向を転換し、前記凹パターンの他方のエッジの近傍を通って、前記ミ
ラー電子になってよい。
これにより、パターンでミラー電子が生じる現象を上手く利用して、ミラー電子を適切に検出でき、パターンのコントラストを増大することができる。
本発明は、前記試料から前記ミラー電子の検出器までの間の2次光学系にアパーチャを配置し、前記アパーチャのサイズ、位置及び形状の少なくとも一つを、前記アパーチャを通過する前記ミラー電子に応じて調整してよい。
これにより、パターンのコントラストを増大できる。より詳細には、試料から検出される電子は、ミラー電子と2次放出電子を含む。2次放出電子は広範囲に広がるのに対し、ミラー電子はあまり広がらない。したがって、ミラー電子に応じてアパーチャを適切に調整することにより、アパーチャを通過する2次放出電子を減らし、ミラー電子の検出量を相対的に増大できる。したがって、パターンのコントラストを更に増大できる。
本発明は、前記アパーチャにおける前記ミラー電子の像を生成し、該像のサイズに応じて前記アパーチャのサイズを調整してよい。また、本発明は、前記アパーチャにおける前記ミラー電子の像を生成し、該像の位置に応じて前記アパーチャの位置を調整してよい。また、本発明は、前記アパーチャにおける前記ミラー電子の像を生成し、該像の形状に応じて前記アパーチャの形状を調整してよい。
本発明は試料検査方法であってよく、上述の試料観察方法により前記ミラー電子から前記試料の画像を生成し、前記試料の画像を用いて前記試料のパターンを検査してよい。
これにより、本発明の試料観察方法を用いて微細なパターンを好適に検査できる。
本発明の試料観察装置は、試料が載置されるステージと、前記試料に電子ビームを照射する1次光学系と、前記電子ビームの照射によって生じるミラー電子を検出する2次光学系と、検出された前記ミラー電子から試料の画像を生成する画像処理部とを備え、前記1次光学系は、両側にエッジを有する凹パターンに前記電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された前記電子ビームを前記試料に照射する。
この構成も、上述したように、凹パターンでミラー電子が生じやすい現象に着目し、ミラー電子が生じやすいようにランディングエネルギーを調整する。これにより、パターン画像の解像度とコントラストを増大でき、微細なパターンの観察が可能になる。
前記1次光学系は、前記ミラー電子と2次放出電子が混在する領域に設定された前記ランディングエネルギーを有する前記電子ビームを照射してよい。
これにより、上述したように、ランディングエネルギーを適当に設定でき、パターンのコントラストを増大することができる。
前記ランディングエネルギーは、LEA≦LE≦LEB+5eVに設定されてよい。ここで、LEは前記電子ビームの前記ランディングエネルギーであり、LEA及びLEBは、前記ミラー電子と2次放出電子が混在する領域の最低ランディングエネルギー及び最高ランディングエネルギーである。
これにより、上述したように、ランディングエネルギーを適当に設定でき、パターンのコントラストを増大することができる。
前記2次光学系は、前記試料から前記ミラー電子の検出器までの間に配置されたアパーチャと、前記アパーチャのサイズ、位置及び形状の少なくとも一つを、前記アパーチャを通過する前記ミラー電子に応じて調整してよい。
これにより、上述したように、ミラー電子に応じてアパーチャを適切に調整できる。アパーチャを通過する2次放出電子を減らし、ミラー電子の検出量を相対的に増大でき、パターンのコントラストを更に増大できる。
本発明は、前記2次光学系がアパーチャを有し、前記アパーチャの位置が、前記ミラー電子の強度中心と前記アパーチャの中心が一致するように調整されてよい。
これにより、ミラー電子を良好に検出できるとともに、2次放出電子の検出量を相対的に低減できる。したがって、高いコントラストの画像を取得できる。
前記2次光学系がアパーチャを有してよく、前記アパーチャの形状は、前記ミラー電子の強度分布の長手方向に応じた方向に長軸を有する楕円形状であってよい。
この構成では、ミラー電子の強度分布に応じて楕円形状のアパーチャが用いられる。これにより、高いコントラストの画像を取得できる。
前記2次光学系がアパーチャを有してよく、前記アパーチャが複数の孔を有してよく、前記複数の孔が、前記ミラー電子の強度中心を囲むように配置されてよい。
この構成では、ミラー電子の散乱方向に応じて複数の孔が適切に配置される。これにより、用途や性質に応じて適切にミラー電子を検出することができる。また、複数の孔は強度中心の周辺に配置されてよい。
前記2次光学系がアパーチャを有してよく、前記アパーチャが複数の孔を有してよく、前記複数の孔の一つが、前記ミラー電子の強度中心と一致するように配置されていてよい。
これにより、散乱方向に特徴のある観察対象を適切に観察できる。そして、観察対象の分類に有用な情報を得ることができる。
本発明は、複合型の試料観察装置であってよく、写像投影型観察装置と、前記写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置とを備えてよい。前記写像投影型観察装置が、上述の試料観察装置でよい。前記写像投影型観察装置及び前記SEM型観察装置が、ステージを収容するチャンバに備えられてよく、前記ステージが、前記写像投影型観察装置の観察位置とSEM型観察装置の観察位置との間で移動可能であってよい。
これにより、写像投影型観察装置とSEM型観察装置が共通のチャンバに搭載される。したがって、2つの装置を用いた観察を迅速かつ高精度に行うことができる。例えば、写像投影型観察装置でパターン欠陥が検出される。それから、SEMでパターン欠陥が詳細にレビューされる。このような欠陥検査を迅速かつ高精度に行うことができる。
本発明は、上述の試料観察装置を備えた試料検査装置であってよく、この検査装置は、前記画像処理部により前記ミラー電子から生成された前記試料の画像を用いて前記試料のパターンを検査する。これにより、本発明の試料観察装置を用いて微細なパターンを好適に検査できる。
「発明の効果」
上述のように、本発明は、ランディングエネルギーを適切に設定することにより、微細なパターンを観察できる技術を提供することができる。
「発明の実施の形態」
以下に本発明の詳細な説明を述べる。以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。
本実施の形態では、写像投影型観察装置(写像投影光学系を有する電子線観察装置)を用いて試料が観察される。この種の電子線観察装置は、1次光学系及び2次光学系を備える。1次光学系は、電子銃から出射される電子ビームを試料に照射して、試料の構造等の情報を得た電子を生成する。2次光学系は、検出器を有し、電子ビームの照射により生成された電子の像を生成する。写像投影型観察装置では、大きな径の電子ビームが用いられ、広範囲の像が得られる。
電子ビームを試料に照射すると、複数の種類の電子が2次光学系で検出される。複数種類の電子とは、ミラー電子、2次電子、反射電子、後方散乱電子である。本実施の形態は、主としてミラー電子の特性を利用して、試料を観察する。ミラー電子とは、試料に衝突せず、試料の直前で跳ね返ってくる電子をいう。ミラー電子現象は、試料表面の電場の作用によって生じる。
また、本実施の形態では、2次電子、反射電子及び後方散乱電子を、2次放出電子という。これら3種の電子が混在する場合も、2次放出電子という用語を用いる。2次放出電子のうちでは、2次電子が代表的である。そこで、2次電子が、2次放出電子の代表として説明されることがある。ミラー電子と2次放出電子の両者について、「試料から放出される」「試料から反射される」「電子ビーム照射により生成される」などの表現が用いられてよい。
図50は、試料に電子ビームを照射したときのランディングエネルギーLEと階調DNの関係を示している。ランディングエネルギーLEとは、試料に照射される電子ビームに付与されるエネルギーである。電子銃に加速度電圧Vaccが印可され、試料にリターディング電Vrtdが印可されるとする。この場合、ランディングエネルギーLEは、加速電圧とリターディング電圧の差で表される。
また、図50において、縦軸の階調DNは、2次光学系の検出器で検出された電子から生成した画像における輝度を表す。すなわち、階調DNは、検出される電子の数を表す。多くの電子が検出されるほど、階調DNが大きくなる。
図50は、0[eV]付近の小さいエネルギー領域における階調特性を示している。図示のように、LEがLEBより大きい領域(LEB<LE)では、階調DNは、比較的小さい一定の値を示す。LEがLEB以下、LEA以上の領域(LEA≦LE≦LEB)では、LEが小さくなるほど、階調DNが増大する。LEがLEAより小さい領域(LE<LEA)では、階調DNが、比較的大きい一定の値を示す。
上記の階調特性は、検出される電子の種類と関係している。LEB<LEの領域では、検出される殆どすべての電子が、2次放出電子である。この領域は、2次放出電子領域ということができる。一方、LE<LEAの領域では、検出される殆どすべての電子が、ミラー電子である。この領域は、ミラー電子領域ということができる。図示のように、ミラー電子領域の階調は、2次放出電子領域の階調より大きい。これは、2次放出電子と比べ
て、ミラー電子の分布の範囲が小さいからである。分布範囲が小さいので、より多くの電子が検出器に到達でき、階調が大きくなる。
また、LEA≦LE≦LEBの領域は、2次放出電子領域からミラー電子領域(又はその逆)への遷移領域である。この領域は、ミラー電子と2次放出電子が混在する領域であり、混在領域ということもできる。遷移領域(混在領域)では、LEが小さくなるほど、ミラー電子の発生量が増大し、階調が増大する。
LEA及びLEBは、遷移領域の最低ランディングエネルギー及び最高ランディングエネルギーを意味している。LEA及びLEBの具体的な値を説明する。本発明者の研究結果では、LEAが−5[eV]以上であり、LEBは5[eV]以下である(すなわち、−5[eV]≦LEA≦LEB≦5[eV])。
遷移領域のメリットとしては次の通りである。ミラー電子領域(LE<LEA)では、ビーム照射により発生する全ての電子がミラー電子になる。そのため、試料の形状に関係なく、検出される電子が全てミラー電子になり、試料の凹部でも凸部でも階調の差が小さくなり、パターンや欠陥のS/N及びコントラストが小さくなってしまう。したがって、ミラー電子領域を検査に使用するのは難しい場合がある。これに対して、遷移領域では、形状のエッジ部の部位にて特徴的かつ特異的にミラー電子が生じ、他の部位では2次放出電子が生じる。したがって、エッジのS/N及びコントラストを高くすることができる。したがって、遷移領域は検査を行うときに大変有効である。以下、この点について詳細に説明する。
図51は、上記の遷移領域の現象を示している。図51において、ミラー電子領域(LE<LEA)では、総ての電子が、試料に衝突することなく、ミラー電子になる。これに対して、遷移領域では、一部の電子が試料に衝突し、試料が2次電子を放出する。LEが大きくなるほど、2次電子の割合が多くなる。そして、図示されないが、LEがLEBを超えると、2次電子のみ検出される。
次に、図52は、試料表面の凹凸構造のエッジ部におけるランディングエネルギーLEと階調DNの関係を示している。エッジ部は、凹部の両端に位置し、試料の高さが変化する部分である。図52において、点線がエッジ部の階調特性を示し、実線が他の部分の階調特性を示す。他の部分の特性は、図50の特性に対応する。
図52に示すように、エッジ部とその他の部分では、特性線が異なっている。エッジ部の特性線は、ランディングエネルギーが大きくなる方向にずれている。すなわち、エッジ部では、遷移領域の上下限が大きく、遷移領域の上限はLEB+5[eV]である。ここで、LEBは、エッジ以外の部位の遷移領域の上限である。このような特性線のシフトが生じるのは、形状、構造及び材料等がエッジ部と他の部分で異なるからである。そして、特性線のずれることにより、エッジ部と他の部分で階調差ΔDNが生じる。
次に、図52に示されるようにエッジ部の特性が他の部位と異なる理由について、そして階調差ΔDNが生じる理由について検討する。
図53は、試料の凹凸構造の例であり、微細なライン/スペース形状の断面を示している。例えば凸部がラインであり、凹部がスペースである。ライン幅及びスペース幅が100μ以下である。図53の形状では、導体(Si)が凹凸形状を有している。そして、凸部の最上部に酸化膜(SiO2等)が形成されている。
図54は、図53の構造に電子ビームを照射したときに凹凸構造のエッジ部でミラー電
子が生じる現象を示している。図54では、縦縞のパターンが形成されている。電子ビームが照射されると、照射電子が、凹部(溝)の一方のエッジの付近で軌道を変え、横方向に曲がり、溝の反対側のエッジに向かって進む。そして、照射電子は、反対側のエッジ付近で再び軌道を変え、上方に戻っていく。こうして、照射電子は、試料に衝突することなく、ミラー電子になる。このようにしてエッジで生じるミラー電子を、エッジミラー電子ということができる。エッジミラー電子は、両端のエッジから対称に生じる。図55も、図54と同様に、図53の構造にて生じるエッジミラー電子を示している。図55では、横縞のパターンが形成されている。
また、図56は、照射電子がエッジミラー電子に変化する電子軌道のもう一つの例である。この例では、照射電子が、凹部の一方のエッジに向って入射し、一方のエッジの近傍を通るカーブ軌道に沿って凹部内に侵入し、凹部の底部に衝突することなく進行方向を転換し、凹部の他方のエッジの近傍を通って、ミラー電子になる。このようなミラー電子も、エッジミラー電子である。エッジ構造では、各照射電子が、図54又は図56の軌道を通り、或いは図54及び図56の中間的な軌道を通り、エッジミラー電子になると考えられる。
次に、電子の軌道がエッジ付近で曲がりやすい理由について説明する。図54の構造では、導体の凸部の表面に酸化膜が形成されている。この構造では、試料表面の酸化膜が負に帯電する。そして、凹部内の導体の電位が、酸化膜の電位よりも相対的に高くなる。エッジ付近で電位が変化するために、電子の軌道が上述のように曲がりやすく、その結果、エッジミラー電子が生じる。
本実施の形態では、プレチャージを行うことも好適である。プレチャージは、試料観察の前に行われる電子ビームの照射である。プレチャージにより、試料の絶縁領域が負に帯電する(図54等の例では、試料表面の酸化膜が負に帯電する)。プレチャージを行うことにより、絶縁領域の電位が安定する。これにより、エッジミラー電子が安定して発生し、図52の特性が安定して得られる。したがって、試料観察を良好に行うことができ、試料観察結果を用いる検査の精度も向上できる。
プレチャージの電子ビームは、試料観察のための電子光学系を用いて照射されてよい。あるいは、別の電子銃が、プレチャージのために設けられてよい。
図57は、試料の凹凸構造に関する別の例を示している。図57も、ライン/スペース形状の断面である。図57では、Si面に、酸化膜(SiO2等)の凸部が形成されてい
る。このような構造では、凹部の両側のエッジにて、等電位面が屈曲する。等電位面の屈曲の影響で、照射電子の軌道が曲がる。その結果、図57の構造においても、照射電子は、図54〜図56に示された軌道を通り、エッジミラー電子になる。図57の構造でもプレチャージが好適に行われ、これにより、凸部の酸化膜の電位を安定させることができる。
また、導電材のみによって凹凸構造が形成されることがある。この場合も、凹凸に沿って等電位面が形成される。そして、凹部の両側のエッジでは等電位面が屈曲する。この等電位面の屈曲の影響で、照射電子の軌道が曲がる。その結果、照射電子は、上述したような軌道を通り、エッジミラー電子になる。
また、導電材のみで凹凸面が形成されている場合でも、導電膜の表面には自然酸化膜が存在している。したがって、プレチャージを行うことが好適であり、これにより電位を安定させることができる。
以上に詳細に説明したように、試料の凹部では、電子が両端のエッジ付近を通ってUターンし、エッジミラー電子になる。そのため、エッジミラー電子は、通常の部位のミラー電子よりも発生しやすい。その結果、図52に示されるように、エッジ部では、エッジ以外の部分よりも、遷移領域が高いエネルギー側へと広がっている。
また、上記領域では、ミラー電子と2次放出電子が混在する。2次放出電子は、前述したように、2次電子、反射電子又は後方散乱電子である(あるいは、それらが混在している)。2次放出電子は、等方的に広がって放出される。そのため、検出器には、最大でも数%の電子しか到達しない。これに対して、エッジミラー電子は、照射電子がそのまま反射することにより生成される。したがって、エッジミラー電子については、透過率(検出器への到達率)がほぼ100%である。したがって、高い輝度(階調)が得られ、周囲との階調差ΔNが大きくなる。
上記のように、エッジ部では、ミラー電子が生じやすく、しかも、ミラー電子の透過率が大きい。その結果、図52に示されるように、ランディングエネルギーLEが大きい方へと、エッジ部の階調特性線がずれ、エッジ部と他の部位の間に階調差ΔDNが生じる。
本実施の形態は、上記の現象を利用して、解像度が高くコントラストも大きいパターン画像を生成する。上記で説明された凹構造は、本発明の凹パターンに相当する。本実施の形態では、凹パターンで効率よくエッジミラー電子が生じるように、ランディングエネルギーを設定する。ランディングエネルギーLEは、図示のように、従来一般の観察技術と比べて非常に低い値に設定されることになる。このようなエネルギー設定により、パターンと周囲の階調差ΔDNが大きくなり、高い解像度と高いコントラストの画像が得られる。
具体的には、LEA≦LE≦LEB、又は、LEA≦LE≦LEB+5[eV]になるように、ランディングエネルギーLEが設定される。これにより、ミラー電子と2次電子が混在する領域にランディングエネルギーLEが設定される。
前述したように、本発明の研究結果では、−5[eV]≦LEA≦LEB≦5[eV]である。例えば、LEA=−5[eV]、LEB=5[eV]であったとする。この場合、ランディングエネルギーLEは、−5[eV]≦LE≦5+5[eV]=10[eV]に設定される。さらに詳細には、ランディングエネルギーLEに依存してミラー電子と2次放出電子の混在の状況が変化し、階調差も変化する。ミラー電子の発生数が比較的小さい領域にランディングエネルギーLEを設定することで、大きな効果が得られると考えられる。
次に、上記の試料観察方法を実現するための試料観察装置について説明する。以下の説明では、試料観察装置が、試料検査装置に組み込まれており、試料のパターン欠陥の検査に用いられる。図58は試料検査装置の全体構成を示しており、図59は、試料検査装置の主要部を示している。
図58を参照すると、試料検査装置2010は、試料キャリア2012と、ミニエンバイロメント2014と、ロードロック2016と、トランスファーチャンバ2018と、メインチャンバ2022と、電子コラム2024と、画像処理装置2090を有する。ミニエンバイロメント2014には、大気中の搬送ロボット、試料アライメント装置、クリーンエアー供給機構等が設けられる。トランスファーチャンバ2018には、真空中の搬送ロボットが設けられる。
メインチャンバ2022には、x方向、y方向及びθ(回転)方向に移動するようにス
テージ2030が設けられる。ステージ2030の上に静電チャックが設置されている。静電チャックには試料そのものが設置される。または、試料は、パレットや冶具に設置された状態で静電チャックに保持される。
メインチャンバ2022は、真空制御系2026により、チャンバ内を真空状態が保たれるように制御される。また、メインチャンバ2022、トランスファーチャンバ2018及びロードロック2016は、除振台2028上に載置され、床からの振動が伝達されないように構成されている。
また、メインチャンバ2022には電子コラム2024が設置されている。この電子コラム2024は、電子銃、レンズ、配線及びフィールドスルーを備え、更に、図示のように検出器2070を備えている。これら構成が、電子ビームによる写像投影のための1次光学系及び2次光学系を実現している。
検出器2070の出力信号は、画像処理装置2090に送られて処理される。オンタイムの信号処理及びオフタイムの信号処理の両方が可能である。オンタイムの信号処理は、検査を行っている間に行われる。オフタイムの信号処理を行う場合、画像のみが取得され、後で信号処理が行われる。画像処理装置で処理されたデータは、ハードディスクやメモリなどの記録媒体に保存される。また、必要に応じて、コンソールのモニタにデータを表示することが可能である。このような信号処理を行うため、システムソフト2140が備えられている。システムソフト2140はコンピュータにてプログラムを実行することにより実現される。また、電子コラム系に電源を供給すべく、電子光学系制御電源2130が備えられている。また、メインチャンバ2022には、光学顕微鏡2110及びSEM式検査装置(SEM)2120が備えられている。
図58の試料検査装置2010では、ウエハ、マスクなどの試料が、試料キャリア2012(ロードポート)からミニエンバイロメント2014に搬送される。ミニエンバイロメント2014では、アライメント作業が行われる。
次に、試料は、大気中の搬送ロボットにより、ロードロック2016に搬送される。ロードロック2016は、大気から真空状態へと、真空ポンプにより排気される。圧力が、一定値(例えば1〔Pa〕程度)以下になると、トランスファーチャンバ2018に配置された真空中の搬送ロボットにより、試料がロードロック2016からメインチャンバ2022へ搬送される。試料は、ステージ2030上の静電チャック機構上に保持される。
メインチャンバ2022では、試料が検査される。ここでは、上述した本発明の試料観察方法を利用して、試料のパターンが検査される。また、後述するように、SEM2120を持ちいて検査が行われる。検査が終了すると、試料は、逆の経路を通って、試料キャリア2012へと戻る。
次に、図59を参照し、試料検査装置2010の主要部について説明する。図59の構成は、図58のメインチャンバ2022及び電子コラム2024などに相当する。
図59において、試料検査装置2010は、電子ビームを生成する1次光学系2040と、試料2020を設置するステージ2030と、試料からの2次放出電子及びミラー電子の像を生成する2次光学系2060と、それらの電子を検出する検出器2070と、検出器2070からの信号を処理する画像処理装置2090とを備える。検出器2070は、本発明では2次光学系2060に含まれてよい。また、画像処理装置2090は本発明の画像処理部に含まれてよい。また、試料検査装置2010は、装置全体を制御するために制御部2100を備えている。制御部2100は、図58のシステムソフト2140に
対応する。更に、試料検査装置2010には、位置合わせのために光学顕微鏡2110が設けられ、レビューのためにSEM2120が設けられている。
1次光学系2040は、電子ビームを生成し、試料2020に向けて照射する構成である。1次光学系2040は、電子銃2041と、レンズ2042、2045と、アパーチャ2043、2044と、E×Bフィルタ2046と、レンズ2047、2049、2050と、アパーチャ2048とを有する。電子銃2041により電子ビームが生成される。レンズ2042、2045及びアパーチャ2043、2044は、電子ビームを整形するとともに、電子ビームの方向を制御する。そして、E×Bフィルタ2046にて、電子ビームは、磁界と電界によるローレンツ力の影響を受ける。電子ビームは、斜め方向からE×Bフィルタ2046に入射して、鉛直下方向に偏向され、試料2020の方に向かう。レンズ2047、2049、2050は、電子ビームの方向を制御するとともに、適切な減速を行って、ランディングエネルギーLEを調整する。
写像投影光学系の1次光学系2040では、E×Bフィルタ2046が特に重要である。E×Bフィルタ2046の電界と磁界の条件を調整することにより、1次電子ビーム角度を定めることができる。例えば、1次系の照射電子ビームと、2次系の電子ビームとが、試料2020に対して、ほぼ垂直に入射するように、E×Bフィルタ2046の条件が設定される。つまり、E×Bフィルタ2040は、ウィーンフィルタとして使用される。ウィーンフィルタの条件は上記に限定されない。例えば、1次ビーム(照射される電子ビーム)と2次ビーム(ミラー電子及び2次放出電子)の双方が直進しなくてもよく、すなわち、E×Bフィルタの作用で偏向されてよい。また例えば、1次ビームが直進し、2次ビームが、E×Bフィルタの作用で偏向されてよい。これらの構成も本発明の範囲に含まれる。
1次光学系2040は、撮像のための電子ビームだけでなく、プレチャージのための電子ビームも照射してよい。あるいは、プレチャージのための電子銃等が設けられてもよい。
ステージ2030は、上述したように、試料2020を載置するための構成である。ステージ2030は、xy方向(水平方向)及びθ方向(水平面上での回転方向)に移動可能である。また、ステージ2030は、必要に応じてz方向(垂直方向)に移動可能であってもよい。ステージ2030の表面には、静電チャック等の試料固定機構が備えられている。
2次光学系2060は、試料2020から反射した電子を、検出器2070に導く構成である。既に説明したように、ミラー電子及び2次放出電子が検出器2070に導かれる。2次光学系2060は、レンズ2061、2063と、アパーチャ2062と、アライナ2064と、検出器2070とを有する。電子は、試料2020から反射して、対物レンズ2050、レンズ2049、アパーチャ2048、レンズ2047及びE×Bフィルタ2046を再度通過する。そして、電子は2次光学系2060に導かれる。2次光学系2060においては、電子は、レンズ2061、アパーチャ2062、レンズ2063を通過し、アライナ2064で整えられて、検出器2070に検出される。
アパーチャ2062は、2次系の透過率・収差を規定する役目を持っている。本実施の形態では、アパーチャ2062のサイズ、位置及び形状が調整可能である。この調整を行うために、アパーチャ調整機構2200が設けられている。アパーチャ調整は、観察画像における試料パターンのコントラストを大きくするために行われる。アパーチャ調整については後述する。
検出器2070は、2次光学系2060により導かれた電子を検出する構成である。検出器2070は、検出面に複数のピクセルを有する。検出器2070には、種々の二次元型センサを適用することができる。例えば、検出器2070には、CCD(Charge Coupled Device)及びTDI(Time Delay Integration)−CCDが適用されてよい。これら
は、電子を光に変換してから信号検出を行うセンサである。そのため、光電変換等の手段が必要である。よって、光電変換又はシンチレータを用いて、電子が光に変換される。
また、検出器2070には、EB−TDIが適用されてよい。EB−TDIは、光電変換機構及び光伝達機構を必要としない。電子がEB−TDIセンサ面に直接に入射する。したがって、分解能の劣化が無く、高いMTF(Modulation Transfer Function)及びコントラストを得ることが可能となる。また、検出器2070には、EB−CCDが適用されてもよい。
制御部2100は、コンピュータで構成され、試料検査装置2010の全体を制御する。制御部2100は、図58のシステムソフト2140と対応する。
制御部2100は、電子銃2041を含む1次光学系2040を制御して、ランディングエネルギーLEを調整する。本実施の形態では、前述したように、試料2020のパターンにてエッジミラー電子が効率よく発生するように、ランディングエネルギーLEが設定される。また、制御部2100は、1次光学系2040及び2次光学系2060を制御して、電子銃2041から検出器2070までの電子の軌道を制御及び調整する。より詳細には、電子ビームが電子銃2041から試料2020まで所定の適切な軌道を通り、さらに試料2020からの電子が検出器2070まで所定の適切な軌道を通るように、電子軌道が制御される。また、制御部2100は、後述にて詳細に説明するように、アパーチャ調整機構2200を制御して、アパーチャ調整を行わせる。
また、制御部2100は、画像処理装置2090を制御して、検出器2070からの信号を処理して、試料2020のパターンの画像を生成させる。さらに、制御部2100は、画像処理装置2090で生成された画像を処理し、パターン欠陥についての判定を行うように構成されている。
以上に、試料検査装置2010の各部の構成について説明した。次に、試料検査装置2010の動作を説明する。
試料検査装置2010は、電子ビームを試料2020に照射しながら、ステージ2030を水平方向に移動し、試料2020からの電子を検出器2070にて検出し、検出信号から試料2020の画像を生成する。電子ビームは、電子銃2041から発射され、1次光学系2040に導かれて、試料2020に照射される。入射過程では、E×Bフィルタ2046にて電子ビームの向きが変えられる。本実施の形態では、写像投影法により検査が行われる。そのため、試料の比較的広い範囲を照射するように、大きな径の電子ビームが用いられる。例えば、直径30〜1000[μm]の円形のビームが用いられる。また、長軸が30〜1000[μm]の楕円形のビームが用いられてよい。楕円ビームの短径は、長径の1/2〜1/4でよい。
電子ビームのランディングエネルギーLEは、上述の試料観察方法の説明で述べたように、エッジミラー電子がパターンのエッジにて発生しやすいように設定されている。具体的には、ランディングエネルギーLEが、LEA≦LE≦LEB+5[eV]に設定される。LEA、LEBは、図50における遷移領域の下限及び上限であり、例えば、−5[eV]及び5[eV]である。
したがって、電子ビームが試料2020のパターンに照射されたときに、エッジミラー電子が発生する。より詳細には、電子ビームのうちで、一部の電子がパターンのエッジ付近に照射される。このようなエッジ付近への電子が、図54〜図56に例示された軌道を通り、エッジミラー電子になる。
試料2020で生じた電子は、2次光学系2060によって検出器2070に導かれる。そして、電子の像が検出器2070の検出面に生成される。電子ビームの照射により、試料2020では、エッジミラー電子の他に、通常のミラー電子も生じ得る。また、ミラー電子の他に、2次放出電子も生じる。したがって、検出器2070には、これらの種類の電子の像が形成される。
検出器2070は、電子を検出して、検出信号を画像処理装置2090に送る。画像処理装置2090では、検出信号を処理して、試料2020の画像を生成する。ここで、本実施の形態では、ランディングエネルギーLEが適切に設定されており、検出器2070に多くのエッジミラー電子が到達する。すなわち、エッジミラー電子の検出数が、他の種類の電子と比べて多い。エッジミラー電子は、試料2020のパターンのエッジで生じる。したがって、試料2020の画像においては、パターンの階調(輝度)が大きくなる。そして、他の部分との階調差が大きくなる。したがって、パターンのコントラストが大きくなる。
制御部2100は、このような試料2020の画像を用いて、パターン欠陥の判定を行う。制御部2100は、パターンの欠陥の有無を判定してよく、欠陥の位置を検出してよく、さらに欠陥の種類を判定してよい。また、本実施の形態の試料検査装置2010は、パターン欠陥だけでなく、異物を検査してもよい。この場合、制御部2100は、試料2020の画像を処理して、異物の有無を判定してよい。さらに、他の検査も行われてよい。
欠陥判定処理は、「ダイtoダイ(die to die)」であってよい。この処理は、試料2020の2つのダイの画像を比較する。より詳細には、順次得られる2つのダイの画像が比較される。2つのダイのパターンが相違する場合に、制御部2100は、欠陥があると判定する。
欠陥判定処理は、「ダイto anyダイ(die to any die)」であってよい。この場合、試料2020から特定のダイの画像が得られ、判定基準として保持される。そして、判定基準のダイの画像が、他の多数のダイの画像と順番に比較される。この場合も、ダイのパターンが相違する場合に、制御部2100は、欠陥があると判定する。
さらに、欠陥判定処理は、「ダイtoデータベース(die to database)」であってよ
い。この場合、ダイの画像が、設計データ等の登録データと比較される。設計データは例えばCADデータである。そして、ダイの画像が登録データと相違する場合に、制御部2100は、欠陥があると判定する。
また、欠陥判定処理は、セル(cell)の欠陥を判定してよい。この場合、上述のダイの画像の代わりに、セルの画像が処理される。欠陥判定処理は、「セルtoセル(cell
to cell)」でもよく、「セルto anyセル(cell to any cell)」でもよく、「セルtoデータベース(cell to database)」でもよい。
このようにして、制御部2100は、欠陥判定を行う。欠陥判定結果は、モニタに表示されてよく、記録媒体に記録されてよい。また、欠陥判定結果は、以下に説明するように、次の段階でSEM2120により利用されてよい。
「写像投影型検査装置とSEMの両方を備えた構成について」
図60は、試料検査装置2010の一部であり、特に、メインチャンバ2022、電子コラム2024及びSEM2120を示している。電子コラム2024は、メインチャンバ2022と共に、写像投影型観察装置を構成している。したがって、本実施の形態の試料検査装置は、写像投影型観察装置とSEM型観察装置の両方を備えた複合型の観察装置を構成している。
図60に示されるように、本実施の形態では、ステージ2030が移動可能であり、特に、電子コラム2024(写像投影型観察装置)の観察位置とSEM2120の観察位置との間で移動可能である。このような構成により、写像方式とSEMという2種類の装置の両方を用いる場合に、観察及び検査を迅速かつ高精度に行うことができる。例えば、写像投影型観察装置でパターン欠陥が検出され、それから、SEMでパターン欠陥が詳細にレビューされる。以下、この特徴について更に詳細に説明する。
図60の構成によれば、試料2020が同じステージ2030に搭載されたまま、電子コラム2024とSEM2120の両方が使用される。したがって、試料2020(ステージ2030)が電子コラム2024とSEM2120との間を移動したときに、座標関係が一義的に決まる。このことは、パターンの所定箇所を特定したり、パターン欠陥箇所を特定するときに有利である。2つの検査装置が、同一部位の特定を高精度で容易に行うことができる。例えば、電子コラム2024により欠陥箇所が特定される。この欠陥箇所が、SEM2120にて迅速に位置決めされる。
上記の複合型の構成が適用されなかったとする。例えば、写像式光学検査装置とSEMが、別々の真空チャンバに分かれて配置されたとする。分離された別々の装置間で試料を移動する必要があり、別々のステージに試料を設置する必要がある。そのため、2つの装置が試料のアライメントを別個に行う必要があり、時間がかかる。また、試料のアライメントを別々に行う場合、同一位置の特定誤差は、5〜10〔μm〕となってしまう。
一方、本実施の形態では、図60に示すように、2種類の検査において、同一のチャンバ2022の同一のステージ2030に、試料2020が設置される。写像方式の電子コラム2024とSEM2120との間でステージ2030が移動した場合でも、高精度で同一位置を特定可能である。例えば、1〔μm〕以下の精度での位置の特定が可能である。
このような高精度の特定は、以下の場合に大変有利である。まず、試料2020の検査が写像方式で行われ、パターン及びパターン欠陥が検査される。それから、検出した欠陥の特定及び詳細観察(レビュー)が、SEM2120で行われる。正確な位置の特定ができるので、欠陥の有無(無ければ疑似検出)が判断できるだけでなく、欠陥のサイズや形状の詳細観察を高速に行うことが可能となる。
前述したように、欠陥検出用の電子コラム2024と、レビュー用のSEM式検査装置2120とが別々に設けられると、欠陥位置の特定に多くの時間を費やしてしまう。このような問題が本実施の形態により解決される。
以上に説明したように、本実施の形態では、写像光学方式によるパターンとパターン欠陥の撮像条件を用いて、超微小なパターンが高感度で検査される。さらに、写像光学方式の電子コラム2024とSEM式検査装置2120が同一チャンバ2022に搭載される。これにより、特に、100〔nm〕以下の超微小なパターンの検査と、パターンの判定及び分類を、大変効率良く、高速に行うことができる。
「写像投影型検査装置とSEMの両方を用いる検査の別の例」
上述では、写像投影型検査装置が欠陥を検出し、SEMがレビュー検査を行う。しかし、本発明はこれに限定されない。2つの検査装置が別の検査方法に適用されてよい。それぞれの検査装置の特徴を組み合わせることにより、効果的な検査が可能となる。別の検査方法は、例えば、以下の通りである。
この検査方法では、写像投影型検査装置とSEMが、異なる領域の検査を行う。更に、写像投影型検査装置に「セルtoセル(cell to cell)」検査が適用され、SEMに「ダイtoダイ(die to die)」検査が適用され、全体として効率よく高精度の検査を実現される。
より詳細には、写像投影型検査装置が、ダイの中で繰返しパターンが多い領域に対して、「セルtoセル」の検査を行う。そして、SEMが、繰返しパターンが少ない領域に対して、「ダイtoダイ」の検査を行う。それら両方の検査結果が合成されて、1つの検査結果が得られる。「ダイtoダイ」は、前述のように、順次得られる2つのダイの画像を比較する検査である。「セルtoセル」は、順次得られる2つのセルの画像を比較する検査であり、セルは、ダイの中の一部である。
上記の検査方法は、繰返しパターン部分では、写像投影方式を用いて高速な検査を実行し、一方、繰返しパターンが少ない領域では、高精度で疑似が少ないSEMで検査を実行する。SEMは高速な検査に向かない。しかし、繰返しパターンが少ない領域は比較的狭いので、SEMの検査時間が長くなりすぎずにすむ。したがって、全体の検査時間を少なく抑えられる。こうして、この検査方法は、2つの検査方式のメリットを最大に活かし、高精度な検査を短い検査時間で行うことができる。
「アパーチャ調整」
次に、本実施の形態のもう一つの特徴であるアパーチャ調整について説明する。
まず、アパーチャ調整の概要を説明する。アパーチャ調整では、2次光学系2060のアパーチャ2062のサイズ、位置及び形状が、アパーチャ2062を通過するミラー電子に合うように調整される。この意味で、本実施の形態のアパーチャ2062は、可変アパーチャ(又は調整用アパーチャ等)と呼ぶことができる。調整目標は、アパーチャ2062の高さでのミラー電子のスポット(プロファイル)と、アパーチャ2062の孔とを極力一致させることである。ただし、実際にはミラー電子スポットとアパーチャ2062を完全に一致させることは困難である。したがって、実際には、ミラー電子スポットよりもある程度広く、アパーチャ2062が調整されてよい。
このようにしてアパーチャ2062を調整することにより、画像中のパターンのコントラストを増大できる。より詳細には、試料から検出される電子は、ミラー電子と2次放出電子を含む。既に説明したように、2次放出電子は広範囲に広がるのに対し、ミラー電子はあまり広がらない。したがって、ミラー電子に応じてアパーチャ2062を適切に調整することにより、アパーチャ2062を通過する2次放出電子を減らし、ミラー電子の検出量を相対的に増大できる。したがって、パターンのコントラストを更に増大できる。
アパーチャ2062は、アパーチャ調整機構2200により調整される。具体的には、複数種類のアパーチャ2062が備えられてよい。複数種類のアパーチャ2062では、サイズ及び形状が異なる。それら複数種類のアパーチャ2062は一体的に構成されてもよく、別々の部材であってもよい。アパーチャ調整機構2200は、光軸上で観察に用いられるアパーチャ2062を切り換え可能である。そして、アパーチャ調整機構2200
は、制御部2100の制御下で、複数種類のアパーチャ2062からミラー電子に応じたアパーチャ2062を選択し、光軸上に配置する。さらに、アパーチャ調整機構2200は、ミラー電子に応じてアパーチャ2062の位置を調整する。こうして、アパーチャ2062のサイズ、形状及び位置が好適に調整される。
本発明の範囲内で、アパーチャ2062の位置は、2次光学系2060の軸に沿った方向の位置も含んでよい。したがって、アパーチャ調整機構2200は、アパーチャ2062を水平方向(XY方向)に移動するだけでなく、光軸方向(Z方向)に移動して、アパーチャ位置を最適化してよい。また、アパーチャ2062の位置は、回転方向の位置、すなわちアパーチャ角度も含んでよい。アパーチャ調整機構2200は、アパーチャ2062を水平面上で回転してよく、回転中心は2次光学系2060の軸でよい。
上記のアパーチャ調整のためには、アパーチャにおけるミラー電子の像を測定することが効果的である。このミラー電子像は、上記のミラー電子スポットを表す。そこで、アパーチャにおけるミラー電子像に適合するように、アパーチャ2062が調整される。
アパーチャにおけるミラー電子像を測定するためには、EB−CCD等の検出器がアパーチャの高さに好適に追加される。あるいは、アパーチャ2062と、検出器2070(図59)とを、光学的に共役な位置に配置することが好適である。これにより、検出器2070にて、アパーチャ2062におけるミラー電子像が得られる。
以上に、アパーチャ調整の概要を説明した。次に、具体例を用いながら、アパーチャ調整についてさらに詳細に説明する。
(アパーチャ位置の調整)
パターン観察では、パターンからのミラー信号を効率よく取得することが重要である。アパーチャ2062の位置は、信号の透過率と収差を規定するので、大変に重要である。2次電子は、試料表面から広い角度範囲で、コサイン則に従い放出され、アパーチャでは均一に広い領域に到達する。したがって、2次電子は、アパーチャ2062の位置に鈍感である。これに対し、ミラー電子の場合、試料表面での反射角度が、1次電子ビームの入射角度と同程度となる。そのため、ミラー電子は、小さな広がりを示し、小さなビーム径でアパーチャ2062に到達する。例えば、ミラー電子の広がり領域は、二次電子の広がり領域の1/20以下となる。したがって、ミラー電子は、アパーチャ2062の位置に大変敏感である。アパーチャにおけるミラー電子の広がり領域は、通常、φ10〜100〔μm〕の領域となる。よって、ミラー電子強度の最も高い位置を求めて、その求められた位置にアパーチャ2062の中心位置を配置することが、大変有利であり、重要である。
このような適切な位置へのアパーチャ2062の設置を実現するために、アパーチャ調整機構2200が、アパーチャ2062を、電子コラム2024の真空中で、1〔μm〕程度の精度で、x、y方向に移動させる。アパーチャ2062を移動させながら、信号強度が計測される。画像の輝度が、信号強度として求めれてよい。評価値は例えば輝度の合計である。そして、信号強度が最も高い位置が求められ、その求められた座標位置に、アパーチャ2062の中心が設置される。
上記では、アパーチャ2062がxy方向に移動された。本発明の範囲内で、アパーチャ2062がアパーチャ調整機構2200により回動されて、アパーチャ2062の角度が調整されてもよい。そして、信号強度の計測結果に基づき、角度が設定されてよい。角度は、回転方向の位置であり、したがってアパーチャの角度も本発明ではアパーチャ位置に含まれる。アパーチャ2062の回転軸は、2次光学系2060の軸であってよい。ま
ず、上述したxy方向の調整が行われ、信号強度が最も高い位置へとアパーチャ中心が調整されてよい。それから、アパーチャ2062が所定の小さい角度ずつ回転され、信号強度が最も高くなる角度へアパーチャ2062が調整されてよい。
また、x、y方向だけでなく、z軸方向にアパーチャ2062の位置調整を行えるように、アパーチャ等が構成されてよい。z軸方向は、2次光学系2060の軸方向である。この場合、z軸方向にもアパーチャ2062が移動され、信号強度が測定され、信号強度が最も高くなる位置へとアパーチャ2062が調整されてよく、この構成も有利である。アパーチャ2062は、ミラー電子が最も絞られる位置に好適に設置される。これによりミラー電子の収差の低減、及び、2次放出電子の削減を、大変効果的に行うことができる。したがって、より高いS/Nを得ることが可能となる。
(信号強度の計測の構成)
ここでは、信号強度計測のためのさらに好適な構成を説明する。
図61は、図59の試料検査装置の変形例である。図61では、2次光学系2060aの構成が、図59の2次光学系2060と異なっており、具体的には、アパーチャの高さにEB−CCD2065が設けられている。アパーチャ2062とEB−CCD2065は、開口2067、2068を有する一体の保持部材であるXYステージ2066に設置されている。XYステージ2066には開口2067、2068が設けられているので、ミラー電子及び2放出次電子がアパーチャ2062又はEB−CCD2065に到達可能である。
XYステージ2066は、アパーチャ2062とEB−CCD2065を移動し、それらの位置制御及び位置決めを行う。これによりアパーチャ2062とEB−CCD2065が切り換えられ、そして、アパーチャ2062の電流吸収とEB−CCD2065の画像取得が独立に行われる。XYステージ2066は、アパーチャ調整機構2200により駆動される(XYステージ2066がアパーチャ調整機構2200の一部であってよい)。
このような構成の2次光学系2060aを用いる場合、まず、EB−CCD2065を用いて、電子ビームのスポット形状とその中心位置が検出される。画像処理装置2090又は他の構成がEB−CCD2065の検出信号を処理して画像を生成してよい。制御部2100が、検出信号の画像からミラー電子のスポット形状と中心位置を求めてよい。前述のようにミラー電子の輝度は、2次放出電子の輝度より大きい。したがって、ミラー電子のスポットが、周囲の2次放出電子の部分よりも明るくなる。そこで、例えば、輝度が所定値以上の領域が、ミラー電子のスポット(プロファイル)として特定される。また例えば、画像からエッジで囲まれた領域が、ミラー電子のスポットとして検出される。そして、制御部2100は、XYステージ2066を制御し、検出されたスポットの中心位置に、アパーチャ2062の孔中心を配置する。
以上に説明したように、本実施の形態では、EB−CCD2065が大変有利に用いられる。ビームの2次元的な情報を知ることができ、検出器2070に入射する電子数を求めることができるので、定量的な信号強度の評価が可能となる。そして、このような計測結果を利用して、直接的にアパーチャ2062の位置調整を行うことが可能となる。これにより、アパーチャの高精度な位置決めが可能となり、電子像の収差が低減し、均一性が向上する。そして、透過率均一性が向上し、分解能が高く階調が均一な電子像を取得することが可能となる。
また、図61の構成は、アパーチャ2062を少しずつ動かしながら信号強度を計測す
るといった作業を不要にできる。したがって、計測時間の短縮にも有効である。
また、図61の構成は、アパーチャ調整だけでなく、スポット形状の調整にも好適に利用される。制御部2100は、スポット形状が極力円形に近く、最小になるように、スティグメーター、レンズ2061、2063及びアライナ2064の電圧調整を行う。この点に関し、従来は、アパーチャ2062におけるスポット形状及び非点収差の調整を直接行うことはできなかった。このような直接的な調整が本実施の形態では可能となり、非点収差の高精度な補正が可能となる。
また、図61の構成では、EB−CCD2065が検出器として設けられている。しかし、他の種類の検出器が設けられてもよい。
図61では、EB−CCD2065の追加により、アパーチャ2062におけるビーム像が得られた。しかし、別の構成によっても同様のビーム像を得ることが可能である。具体的には、z方向において、アパーチャ2062と検出器2070の検出面の位置関係が、光学的に共役の関係になるように、アパーチャ2062を配置したり、あるいは、アパーチャ2062と検出器2070の間にあるレンズ2063の条件を設定する。この構成も大変有利である。これにより、アパーチャ2062の位置におけるビームの像が、検出器2070の検出面に結像される。したがって、アパーチャ2062におけるビームプロファイルを、検出器2070を用いて観察することができ、アパーチャ2062のミラー電子像が得られる。しかも、EB−CCD2065を設けなくてもよい。
その他、上述の説明では、測定結果がアパーチャ位置調整に用いられた。制御部2100は、測定結果を下記のアパーチャサイズ及びアパーチャ形状の調整にも好適に使用してよい。
(アパーチャサイズ及びアパーチャ形状の調整)
アパーチャ2062のサイズ(アパーチャ径)も本実施の形態では重要である。上述のようにミラー電子の信号領域が小さいので、効果的なサイズは、10〜200〔μm〕程度である。更に、アパーチャサイズは、好ましくは、ビーム径に対して+10〜100〔%〕大きいサイズである。
この点に関し、電子の像は、ミラー電子と二次放出電子により形成される。アパーチャサイズの設定により、ミラー電子の割合をより高めることが可能となる。これにより、ミラー電子のコントラストを高めることができ、つまり、パターンのコントラストを高めることができる。
更に詳細に説明すると、アパーチャの孔を小さくすると、アパーチャ面積に反比例して2次放出電子が減少する。そのため、正常部の階調が小さくなる。しかし、ミラー電子信号は変化せず、パターンの階調は変化しない。よって、周囲の階調が低減した分だけ、パターンのコントラストを大きくでき、より高いS/Nが得られる。
アパーチャ形状についても同様の原理が成り立つ。アパーチャ形状を、アパーチャ2062におけるミラー電子のスポット形状(プロファイル)に合わせることが好適である。これにより、ミラー電子信号を変えずに、アパーチャ2062を通過する2次放出電子を低減できる。したがって、パターンのコントラストを大きくでき、より高いS/Nが得られる。
上記のアパーチャサイズ及び形状の調整においても、上述した信号計測が行われてよい。アパーチャサイズ及び形状を少しずつ変えながら、信号計測が繰り返されてもよい。好
ましくは、図61の構成を用いて、アパーチャ2062におけるミラー電子のスポットが計測される。あるいは、検出器2070とアパーチャ2062の位置関係を共役関係に設定することにより、検出器2070にてスポットの像が取得される。これにより、簡単かつ迅速にアパーチャサイズ及び形状を調整できる。
以上に説明したように、ミラー電子は、アパーチャサイズと形状に非常に敏感である。よって、アパーチャサイズと形状と適切に選択することは、高いS/Nを得るために大変重要である。
(アパーチャのバリエーションについて)
次に、本実施の形態に好適に適用されるアパーチャのバリエーションについて、図62〜図67を参照して説明する。
図59等ではアパーチャ2062が単なる線で表されている。しかし、実際のアパーチャ2062は、孔を有する部材(部品)である。一般に、部材がアパーチャと呼ばれることもあり、孔がアパーチャと呼ばれることもある。以下のアパーチャのバリエーションの説明では、部材(部品)とその孔を区別するため、部材をアパーチャ部材と呼ぶ。そして、部材の孔を、アパーチャ孔という。その他の識別の方法として、アパーチャ部材をNAアパーチャ等と呼ぶことも可能である。
図62〜図67では、符合2062a〜2062dは、アパーチャ部材である。符号2169、2069、2069a、2069bは、アパーチャ孔を示す。アパーチャ形状は、一般に、アパーチャ孔の形状を意味する。アパーチャサイズ及び位置も、具体的にはアパーチャ孔のサイズ及び位置である。ここではアパーチャ部材とアパーチャ孔を区別するものの、本明細書の全体では一般的表現に従ってアパーチャ部材及びアパーチャ孔が単にアパーチャと呼ばれてよい。
図62は、参考例であり、従来のアパーチャ孔2169を示している。図62に示すように、従来は、円形のアパーチャ孔2169が固定位置に設置されていた。よって、上述のような適切なアパーチャサイズと形状の選択はできなかった。一方、本実施の形態に係る試料検査装置2010は、アパーチャを2次元的又は3次元的に移動し、アパーチャ調整を行えるように構成されている。
図63は、アパーチャ形状の一例を示している。図63において、アパーチャ孔2069は、楕円形である。この孔形状は、ミラー電子信号の強度分布に合うように設定されている。この例では、アパーチャ部材2062におけるミラー電子の強度分布の測定結果において、強度分布がy方向に長い楕円形状である。ここで、y方向とは、E×Bフィルタ2046で偏向される方向である。y方向は、1次電子ビームの光軸の方向と一致する。y方向の楕円形状の原因は、E×Bフィルタ2046での偏向成分であると考えられる。よって、効率よくミラー電子を捕捉するためには、y方向に長軸を有するアパーチャ形状が大変有利である。これにより、従来よりもミラー電子の収率を高め、より高いS/N(例えば、×2以上)を得ることが可能となる。例えば、2次電子ビームの強度分布が、y方向に100〔μm〕、x方向に50〔μm〕とする(これらの値は、半値全幅である)。楕円形のアパーチャ孔2069は、2次電子ビーム径に対して、プラス10〜100〔%〕の範囲で選択される。例えば、アパーチャサイズがy方向に150〔μm〕、x方向に75〔μm〕になるように、アパーチャ孔2069が選択されてよい。
次に、図64乃至図67を用いて、複数のアパーチャ孔を有するアパーチャ部材の構成について説明する。ここでは、複数のアパーチャ孔が、一つのアパーチャとして機能する。
図64は、複数のアパーチャ孔2069aを有するアパーチャ部材2062aの構成の一例を示している。図64において、アパーチャ部材2062aは、2つの円形のアパーチャ孔2069aを有する。この例では、ミラー電子の強度中心を基準に、2つの孔が±y方向にずらした位置に配置される。ずれ量は、例えば、50〔μm〕程度である。この構成は、散乱された+y側と−y側のミラー電子の双方を捕捉できる。したがって、この構成は、散乱したミラー電子の信号と、バックグラウンドの2次放出電子との信号量の差を大きくでき、高いS/Nを得ることが可能となる。この理由を説明すると、2次放出電子の場合、散乱方向に飛散する量が少量に限られる。そのため、バックグラウンドが低減し、相対的にS/Nを向上させることができる。
図65は、4つのアパーチャ孔2069aを有するアパーチャ部材2062aの構成の一例を示している。図65において、4つの円形のアパーチャ孔2069aが、x軸及びy軸に対称に配置されている。すなわち、2つのアパーチャ孔2069aがx軸上に配置され、2つのアパーチャ孔2069aがy軸上に配置され、4つのアパーチャ孔2069aが中心(原点)から等距離に位置している。別の言い方では、4つのアパーチャ孔2069aは、原点の回りに等間隔に配置されている。さらに簡単にいうと、4つのアパーチャ孔2069aが菱形状に配置されている。これにより、x方向とy方向の双方に散乱されたミラー電子が存在する場合にも、高S/Nで電子を取得することができる。
図66は、4つのアパーチャ孔2069aを有するアパーチャ部材2062cを示している。図66の構成は、図65の構成と異なる一例である。図66においては、4個の円形のアパーチャ孔2069aが、xy平面における第1象限から第4象限にそれぞれ配置されている。この例でも、4つのアパーチャ孔2069aは、x軸及びy軸に対称に配置されており、中心(原点)から等距離に配置されている。別の言い方では、4つのアパーチャ孔2069aは、原点の回りに等間隔に配置されている。このような形状のアパーチャ部材2062cにおいても、ミラー電子の信号強度が高くなる位置にアパーチャ孔2069aを設けることができ、高S/Nの信号を取得することができる。
図65及び図66に示すように、アパーチャ孔2069aの数が同じであって、それらの配置が異なってよい。これにより、用途に応じた適切なアパーチャ部材2062b、2062cを用いることができる。そして、各々の用途について、高いS/Nを取得することが可能となる。
図67は、8つのアパーチャ孔2069bを有するアパーチャ部材2062dの構成の一例を示した図である。図67に示すように、アパーチャ孔2069dの数は、4つよりも更に多くてもよい。図67に示したアパーチャ部材2062dにおいては、ミラー電子の強度中心の回りの円周上に、複数のアパーチャ孔2069bが等間隔に配置されている。この構成は、円周上のどこかのアパーチャ孔2069bの位置に特異的に強い散乱をするミラー電子がある場合に有利である。そのようなミラー電子の適切な捕捉が可能となる。
また、図64乃至図67では、ミラー電子の信号の強度中心とアパーチャ孔2069a、2069bとの関係については、アパーチャ位置が強度中心とずれている。しかし、本発明はこれに限定されず、アパーチャ位置が強度中心と一致してよい。すなわち、一つのアパーチャ孔が、ミラー電子強度中心と一致するように設置されてよい。この場合、他のアパーチャ孔は、散乱したミラー電子の捕捉を行う。それら電子が強度中心のミラー電子とともに電子像に含まれる。このような合成像が検出器2070で得られる。このようにして、強いミラー電子と特異的に散乱されたミラー電子との合成像を取得することができる。したがって、高いS/Nを得ることができるとともに、散乱方向に特徴がある観察対
象を効果的に検出できる。また、散乱方向の特徴を、観察対象の分類に役立てることも可能となる。
(ランディングエネルギーに応じたアパーチャ調整)
更に、本実施の形態によれば、使用するランディングエネルギーLEに対して、適切なアパーチャ孔形状及びサイズを選択することもできる。この選択も大変に有利な効果を提供する。ランディングエネルギーLEによりミラー電子の強度分布が変化する。そこで、本実施の形態の検査装置は、使用するランディングエネルギーLEに応じたアパーチャサイズ及び形状を選択するように構成されてよい。これにより強度分布に応じたアパーチャ調整ができ、大変有利である。例えば、ミラー電子が、y方向に長い楕円形状の強度分布を有する場合を考える。異なった2つの条件で撮像又は検査が行われるとする。例えば、1番目の撮像・検査条件では、ランディングエネルギーが第1の値すなわちLE=3〔eV〕であるとする。第2番目の撮像・検査条件では、ランディングエネルギーが第2の値すなわちLE=2〔eV〕とする。ここで、ランディングエネルギーLEが小さくなると、アパーチャ高さではミラー電子強度分布が大きくなる。このような分布変化に適合するように、アパーチャサイズ及び形状が好適に選択される。例えば、第1のランディングエネルギーが用いられるときは、y方向に100〔μm〕、x方向に50〔μm〕の楕円のアパーチャ孔2069が選択されてよい。第2のランディングエネルギーが用いられるときは、ミラー電子強度分布が2倍程度大きく。そこで、y方向に200〔μm〕、x方向に100〔μm〕の楕円形状のアパーチャ孔2069が用いられてよい。このようにして、大変効果的にミラー電子を検出できる。
(アパーチャ調整機構)
最後にアパーチャ調整機構について説明を補足する。本実施の形態では、複数のアパーチャ(アパーチャ部材)が一体化されてよい。すなわち、一つのアパーチャ部材に複数のアパーチャ孔が設けられてよい。複数のアパーチャ孔では、形状及びサイズが異なってよい。この場合、アパーチャ調整機構は、アパーチャ部材を移動することにより、アパーチャ孔を切り換え、アパーチャ形状及びアパーチャサイズを調整する。
別の例は、アパーチャが一体化されない構成である。すなわち、複数のアパーチャ部材が設けられ、各々アパーチャ部材が、アパーチャ孔を有している。複数のアパーチャ部材では、孔サイズ及び孔形状の少なくとも一方が異なる。この場合、アパーチャ調整機構は、アパーチャ部材を選択及び切り換えることにより、アパーチャ形状及びアパーチャサイズを調整する。
上記の2つの構成が組み合わされてよい。例えば、アパーチャ形状の種類ごとに、1つのアパーチャ部材が用意される。各アパーチャ部材は、同一形状でサイズが異なる複数のアパーチャ孔を有する。逆に、アパーチャサイズ毎に、1つのアパーチャ部材が用意される。この場合、各アパーチャ部材は、同一サイズで形状が異なる複数のアパーチャ孔を有してよい。
アパーチャ調整機構2200は、アパーチャを移動及び切り換えるために任意の構成を有してよい。図61の例に示されたXYステージが用いてアパーチャが移動及び切り換えられてよい。また、アパーチャがリニアモータにより移動及び切り換えられてよい。また、回転支持部材でアパーチャが支持されてよく、通常の回転式のモータがアパーチャを移動し、また、切り換えてよい。
以上に本実施の形態のアパーチャ調整について詳細に説明した。上記のアパーチャは、サイズ、位置及び形状の全部を変更可能であった。本発明はこのような構成に限定されない。本発明の範囲で、サイズ、位置及び形状の少なくとも1つが調整されてよい。
また、上記説明では、アパーチャ設定は随時変更可能であった。しかし、本発明の範囲で、アパーチャ設定は、調整後に固定されてもよい。この場合、まず、上述の原理に従ってアパーチャサイズ、位置、形状が調整及び決定されてよい。それから、決定されたアパーチャ仕様が固定的に用いられてよい。例えば上述の楕円形状のアパーチャが継続的に用いられてよい。
以上に本発明の実施の形態について説明した。本発明によれば、ランディングエネルギーを適切に調整することにより、試料の微細なパターンのコントラストを増大でき、したがって、微細なパターンを観察できる。
本発明は、特に、両側にエッジがあるために凹パターンではミラー電子が生じやすいというミラー電子発生現象の特性に着目している。このような特性は従来はパターン観察に活用されていなかった。凹パターンでのミラー電子発生量は、電子ビームのランディングエネルギーに依存する。そこで、凹パターンにて照射電子が効率よくミラー電子になるように、ランディングエネルギーが設定される。これにより、凹パターンでの解像度とコントラストを増大でき、微細なパターンの観察が可能になる。
本発明の技術は、ランディングエネルギーを相当に低い値に設定する。そこで、本発明の観察技術は、低ランディングエネルギー技術と呼んでよい。
本発明は、上記の低ランディングエネルギー技術を写像投影型観察装置に適用している。これにより、微細なパターンを短時間で観察することができる。
また、低ランディングエネルギーは、具体的には、ミラー電子と2次放出電子が混在する遷移領域に設定されてよい。また、ランディングエネルギーLEは、LEA≦LE≦LEB+5eVに設定されてよい。このような設定により、パターン部分でミラー電子が発生しやすくなり、画像でのパターンのコントラストを増大できる。
また、本発明では、上述にて詳細に説明したように、アパーチャのサイズ、位置及び形状が好適に調整され、これにより、画像中のパターンのコントラストを更に増大することができる。
また、本発明では、写像投影型観察装置とSEMが同一チャンバに備えられ、同一ステージを使用し、複合型の観察装置を構成する。これにより、2種類の検査を連続して行うときに、位置決めの時間が短くなり、かつ、位置決め精度が大幅に増大する。したがって、迅速かつ高精度な観察が可能になる。
以上に現時点で考えられる本発明の好適な実施の形態を説明したが、本実施の形態に対して多様な変形が可能なことが理解され、そして、本発明の真実の精神と範囲内にあるそのようなすべての変形を添付の請求の範囲が含むことが意図されている。
「産業上の利用可能性」
以上のように、本発明にかかる試料観察技術は、半導体のウエハ又はマスクなどの検査において有用である。
[第4の観点]
第4の観点は、複数の膜が形成された試料の観察に関し、特に、下記の膜付基板の検査に関する。
本発明の目的は、膜付基板表面の下に存在する基板の形状や下層の膜等の形状を検出できる技術を提供することにある。また、本発明の目的は、下層の膜等に存在する異物等を検出できる技術を提供することにある。
本発明は、膜付基板の検査方法に関する。前記膜付基板は、立体形状が形成された基板と、該基板上に積層形成された異なる材料からなる複数の膜とを有し、更に、前記膜付基板が、最上層の膜が除去されて下層の膜が露出した構造を含む。膜付基板の検査方法は、前記基板上に前記立体形状が形成された領域の直上にある前記最上層の膜の表面電位と、前記基板上に立体形状が形成されていない領域の直上にある前記最上層の膜の表面電位と、前記下層の膜の表面電位とで、表面電位が異なるように設定されたランディングエネルギーを有する荷電粒子ビームを、前記膜付基板の表面に照射する工程と、前記膜付基板の表面電位の情報を取得した電子を検出し、前記膜付基板の表面の電位コントラストを取得する工程と、該電位コントラストに基づいて、前記最上層の膜の形状と、前記基板上に形成された立体形状とを同時に検出する工程と、を含む。
これにより、膜付基板表面の静電容量を利用することにより、膜付基板表面の最上層の膜の形状のみならず、表面からは見えない領域まで検査することができる。したがって、膜付基板の厚さ方向の形状も検査することができる。
また、本発明の方法は、前記電位コントラストに基づいて、異物を更に検出してよい。
これにより、電位コントラストに基づいて、膜付基板上又は膜付基板内に含まれる異物の存在を検出することができる。
また、本発明の方法は、前記荷電粒子ビームを、異なるランディングエネルギーで前記膜付基板の表面に複数回照射してよい。
これにより、膜付基板の表面の電位コントラストを取得し易い状態で、検査を行うことができる。
また、本発明は、前記荷電粒子ビームのランディングエネルギーを、照射毎に小さくしてよい。
これにより、膜付基板表面が、ミラー電子が発生しやすい状態になる。ミラー電子は、膜付基板に衝突する前に反射する電子である。上記構成により、ミラー電子が発生し易くなり、膜の形状を適切に検出することができる。
また、本発明は、基板上に積層形成された異なる材料からなる複数の膜の形状を検出する膜付基板の検査方法である。この方法は、前記膜の材料の種類及び厚さの相違に応じて前記膜付基板の表面電位が異なるように設定されたランディングエネルギーを有する荷電粒子ビームを前記膜付基板の表面に照射する工程と、前記膜付基板の表面電位の情報を取得した電子を検出し、前記膜付基板の表面の電位コントラストを取得する工程と、該電位コントラストに基づいて、前記複数の膜の形状を検出する工程と、を有する。
これにより、膜付基板表面の静電容量の相違を利用することにより、基板上に形成されら複数層の膜の形状を、膜付基板表面から検出することができる。したがって、膜付基板表面の画像を単純に取得しただけでは検出できない膜の形状欠陥を検出することができる。本発明においては、各々の膜の形状が好適に検出されてよい。
また、本発明において、前記複数の膜の形状は、部分的又は局所的に厚さが異なる形状
でよい。
これにより、部分的に生じた厚さムラを、膜の欠陥として検出することができる。
また、本発明は、前記電位コントラストに基づいて、異物を更に検出してよい。
これにより、膜中に異物が存在した場合に、電位コントラストの大きな変化により異物を検出することができる。したがって、膜中の異物を膜付基板の表面から検出することができる。
また、本発明は、前記荷電粒子ビームを、異なるランディングエネルギーで前記膜付基板の表面に複数回照射してよい。
これにより、膜付基板表面の状態を調整し、材料の厚さの相違に応じて膜付基板表面の電位コントラストの差が生じやすくできる。したがって、適切な条件下で膜付基板の検査を行うことが可能となる。
また、本発明は、前記荷電粒子ビームのランディングエネルギーを、照射毎に小さくしてよい。
これにより、膜付基板表面が、ミラー電子が発生しやすい状態になる。ミラー電子は、膜付基板に衝突する前に反射する電子である。上記構成により、ミラー電子が発生し易くなり、膜の形状を適切に検出することができる。
また、本発明において、前記複数の膜は、絶縁物の材料からなる膜を含んでよい。
これにより、絶縁膜を含む膜の検査においても、膜の形状を適切に検出することができ、形状欠陥を発見することができる。
また、本発明において、前記荷電粒子ビームのランディングエネルギーは、−10eV以上50eV以下の範囲内にあってよい。より好ましくは、ランディングエネルギーは、−5eV以上、5eV以下の範囲内であってよい。
これにより、電位コントラストの変化が大きいミラー電子を好適に利用でき、多層膜の形状を検出することができる。
また、本発明は、膜付基板の検査装置であって、前記膜付基板は、立体形状が形成された基板と、該基板上に積層形成された異なる材料からなる複数の膜とを有し、更に、前記膜付基板が、最上層の膜が除去されて下層の膜が露出した構造を含む。膜付基板の検査装置は、前記基板上に前記立体形状が形成された領域の直上にある前記最上層の膜の表面電位と、前記基板上に立体形状が形成されていない領域の直上にある前記最上層の膜の表面電位と、前記下層の膜の表面電位とで、表面電位が異なるように設定されたランディングエネルギーを有する荷電粒子ビームを、前記膜付基板の表面に照射する荷電粒子照射部(荷電粒子照射手段)と、前記膜付基板の表面電位の情報を取得した電子を検出し、前記膜付基板の表面の電位コントラストを取得する検出器と、該電位コントラストに基づいて、前記最上層の膜の形状と、前記基板上に形成された立体形状とを同時に検出する演算部(演算手段)と、を含む。
これにより、膜付基板表面の最上層の膜の形状のみならず、表面からは視認できない基板の立体形状を検出することができる。層の下の基板の欠陥も含む形状欠陥の検査を行う
ことができる。
また、本発明は、基板上に積層形成された異なる材料からなる複数の膜の形状を検出する膜付基板の検査装置である。この装置は、前記膜の材料の種類及び厚さの相違に応じて前記膜付基板の表面電位が異なるように設定されたランディングエネルギーを有する荷電粒子ビームを前記膜付基板の表面に照射する荷電粒子照射部(荷電粒子照射手段)と、前記膜付基板の表面電位の情報を取得した電子を検出し、前記膜付基板の電位コントラストを取得する撮像素子と、該電位コントラストに基づいて、前記複数の膜の形状を検出する演算部(演算手段)と、を有する。
これにより、多層膜の厚さムラ等の形状欠陥を膜付基板表面から検出することができる。1回の検査で多層膜全体の形状欠陥を検出できるので、検査効率を向上させることができる。本発明においては、各々の膜の形状が好適に検出されてよい。
「発明の効果」
上記のように、本発明によれば、膜付基板上の表面層だけでなく、下側に存在する膜や基板の形状を表面から検出することができる。
「発明の実施の形態」
以下に本発明の詳細な説明を述べる。以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。
図68は、本実施の形態に係る膜付基板の検査方法を実行するための検査装置の概略構成を示している。
図68において、膜付基板3040が載置されており、膜付基板3040の表面に電子銃3060aから電子ビームが照射されている。電子ビームは、本発明の荷電粒子ビームの一例である。荷電粒子ビームはイオン等を利用したビームであってもよい。以下に説明する本実施の形態では、電子ビームが用いられる。膜付基板3040は、基板3010と、基板3010の上に形成された多層膜3020を有する。多層膜3020は、複数層3021〜3024からなる。本実施の形態は、種々の用途の膜付基板3040に適用されてよい。膜付基板3040は、例えば、レチクル(フォトマスク)に用いられる基板であってもよい。以下に説明される例においても、膜付基板3040が、レチクルに適用される。
基板3010は、膜付基板3040の主材料として用いられる基材であり、例えば、ブランクス等のガラス基板である。多層膜3020は、異なる材料からなる複数の膜3021〜3024から構成される。膜3021〜3024は、異なる材料からなる膜を2種類以上含んでいる。したがって、例えば2種類の材料が、膜3021〜3024として交互に積層されていてもよい。
図68において、電子銃3060には、加速度電圧Vaccが印加されている。膜付基板3040には、リターディング電圧RTDが印加されている。加速電圧(Vacc)は、電子銃から発生した電子をグランドに対して加速させるために印加される。加速電圧(Vacc)は、例えば−4000〔V〕から−7000〔V〕の任意の電圧である。
膜付基板3040であるレチクル表面に、例えば−4000〔V〕の電圧が印加される。電子は、加速電圧によってグランドに対して加速されている。加速電圧が−4000〔V〕の場合は、電子から見たレチクルの電圧は、0〔V〕である。加速電圧が−7000〔V〕の場合は、電子から見たレチクルの電圧は、−3000〔V〕である。
上記の説明において、レチクル(膜付基板3040)に印加される電圧が、リターディング電圧(RTD)である。加速電圧からリターディング電圧を引いた値がランディングエネルギーLEである。すなわち、ランディングエネルギーLEは、グランドに対して加速した電子から見たレチクルの電圧である。
ランディングエネルギーLEの調整方法について説明する。概ね100〔V〕単位での調整を行う場合は、加速度電圧Vaccによって調整が行われる。10V程度の微調整は、リターディング電圧RTDを変えることによって行われる場合もある。また、リターディング電圧RTDとは別の電圧が、レチクル最表面の電圧に重畳されているとする。このような場合は、例えば、チャージアップ等の影響で生じる。この場合、表面電圧ΔVの補正が、リターディング電圧RTDの調整によって行われる。
図68の例においては、加速電圧Vaccが−4005〔V〕であり、リターディング電圧RTDが−4002〔V〕である。電子銃3060から発射された電子が膜付基板3040の表面に入射するとき、ランディングエネルギーLEは3〔eV〕である。
LE=(RTD−Vacc)×e= [−4002−(−4005)]×e=3[eV]
このように、膜付基板3040に照射される荷電粒子ビームのランディングエネルギーLEは、電子銃3060側の加速度電圧Vaccと、膜付基板3040の表面に印加されるリターディング電圧RTDの調整により設定することができる。
ここで、本実施の形態では、SEM式電子顕微鏡や写像投影型電子顕微鏡等が、荷電粒子ビームを用いて、膜付基板3040の表面を撮像する。膜付基板3040の表面の材料及び形状の違いと、ランディングエネルギーLEとに応じて、膜付基板3040の表面から返ってくる電子の量が異なる。材料の違いは、例えば、絶縁材料と導体の組合せ、誘電率の違う絶縁体の組合せ、さらにそれら全ての組合せである。また、形状の違いは、表面の凹凸等である。電子の量の差は、材料の違いによる明るさの違い、又は、表面形状の違いによる明るさの違いとして、膜付基板の表面の画像に現れる。材料の違いによる明るさの違いを、「材料コントラスト」と呼ぶ。また、表面形状の違いによる明るさの違いを、「形状コントラスト」と呼ぶ。
これらのコントラスト等は、表面電位の違いによって生じる現象である。膜付基板3040を構成する材料の違い又は形状の違いが、基板表面の電位の違いを生じる。この表面電位の違いが、表面から返ってくる電子の量の違いを生じさせる。
この電位の違いは材料の持つ特性によって生じる。材料特性は、例えば、導体のシート抵抗値であり、絶縁物の比誘電率である。また、導体と絶縁物の層状の構造では、厚みの相違による静電容量の差によって電位の違いが生じる。また、形状の相違に応じた電界分布の相違等によっても、電位の違いが生じる。
電子ビームの照射によって、表面電位の違いをより顕著にする事も可能である。また、自然帯電による電位の違いを利用することもできる。
基板上に多層膜(少なくとも二類の材料の積層された膜)が形成されており、多層膜の中に異物が存在したとする(異物が、多層膜の最表面には無い場合)。電子ビームの照射によって、多層膜内の異物の存在が最表面の電位の違いとして明確に現れれば、多層膜中の異物を電位の違いから検出することが可能となる。すなわち、多層膜中の異物の有無によって表面電位が異なるように電子ビームを照射することにより、異物の検出が可能になる。
図69は、ランディングエネルギーLEの相違に応じた明るさの相違を示している。より詳細には、図69は、ランディングエネルギーLEの違う電子ビームを基板に照射したときの、基板から戻ってくる二次放出電子の量の相違に基づく画像の明るさの相違を示している。図69では、膜付基板3040の表面電位が0である(表面電位ΔV=0)。
実際は、膜付基板3040の表面では、電子ビーム照射による帯電及び自然帯電により、そして、表面材料の誘電率及び二次電子放出効率などによっても、表面電位に分布が生じている。
図70A及び図70Bは電子ビーム照射による電位差の一例であり、基板3010に形成された形状と、基板3010上の膜3020に形成された形状とにおける電位差を示す。図70Aは、膜付基板3040の表面電位を示した図である。図70Bは、膜付基板3040の断面構成を示した図である。電位差の原理として、電位差は、静電容量の違い、及び最表面に露出している材料の違いによって生じる。
図70Bにおいては、基板3010に窪み形状3011が形成されている。また、基板3010の上には、多層膜3020が形成されている。多層膜3020は、下層膜3021と、最上層膜3022とから構成されている。下層膜3021と、最上層膜3022は、異なる材料から構成されている。下層膜3021は、基板上の層を形成しており、基板3010の窪み形状3011を充填している。最上層膜3022は、下層膜3021の上に積層され、膜付基板3040の表面を形成している。最上層膜3022は、切れ目を構成する溝形状3030を有する。溝形状3030の底部では、下層膜3021が露出している。
膜付基板3040の大部分の領域において、下層膜3021及び最上層膜3022が均一の厚さを有する。基板3010上に窪み形状3011が形成された領域では、下層膜3021が、周囲よりも厚い形状を有する。最上層膜3022に溝形状3030が形成された領域では、最上層膜3022が欠落し、全体の厚みが薄く、そして、表面が下層膜3021で構成されている。
図70Bに示される材料及び厚みの相違の影響を受けて、図70Aの表面電位に分布が生じている。この表面電位は、ランディングエネルギーの設定値LEと実効値LEeに電位差ΔVを生じさせる。より詳細には、同一のランディングエネルギーLEを有する電子ビームが膜付基板3040に照射されたとする。LEは設定値であり、加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDの差である。また、膜付基板3040の表面におけるランディングエネルギーの実際の値を、実効ランディングエネルギーLEeという。実効値LEeは、設定値LEに対して電位差ΔVだけ異なる。電子差ΔVが表面電位に相当する。実効ランディングエネルギーLEeは、LEe=LE+ΔVで表される。
上記のように、膜付基板3040内に表面電位の分布があり、ΔVが異なる領域が存在したとする。膜付基板3040の全体が、同一のランディングエネルギーLEを有する電子ビームの照射を受ける。その結果、実効ランディングエネルギーLEeに差が生じる。このLEeの差が、画像中の明るさの違いとして捉えられて、電位コントラストとして検出される。
画像中の明るさの差は、例えば、パターン、パーティクル又は膜中の異物を示している。図70A及び図70Bの例では、立体的なパターンの形状によって、画像の明るさの差が生じる。図70Bにおいて、基板3010の窪み形状3011の領域では、下層膜3021が周囲より厚く形成されている。この領域の直上では、表面電位が大きく低下してい
る。一方、溝形状3030は、最上層膜3022が除去された場所であり、下層膜3021が露出している。この領域の直上では、表面電位が、周囲よりもやや高い値を示している。このことから、下層膜3021と最上層膜3022の特性の差が分かる。下層膜3021の材料は、表面電位を大きく低下させる。下層膜3021の材料と比べると、最上層膜3022の材料では、表面電位低下の程度が小さい。
このように、本実施の形態に係る検査方法は、基板及び膜の形状及び材料によって表面電位が異なるように設定されたランディングエネルギーLEを有する電子ビームを照射する。より詳細には、「基板3010上に窪み形状3011等の立体形状が形成されている領域の直上の表面電位」と、「基板3010上に窪み形状3011等の立体形状が形成されていない領域の直上の表面電位」と、「最上層の膜3022に溝部3030等の立体形状が形成されており下層膜3021が露出した領域の表面電位」とで、表面電位を異ならせるように、ランディングエネルギーLEが設定される。本実施の形態の方法は、このような電子ビームを膜付基板3040の表面に照射し、表面電位の電位分布に基づく電位コントラストを取得する。これにより、膜付基板3040の形状を検出することができる。
図71は、膜付基板3040に構成されたパターンと形状欠陥の例を示した斜視図である。図71の例では、膜付基板3040が図70Bに示した断面形状に対応しており、更に、形状欠陥3031、3032を有している。
より詳細には、図70Aと同様、図71において、膜付基板3040はを基板3010と多層膜3020を有する。基板3010の上に、立体形状として窪み形状3011が形成されている。基板3010の上に下層膜3021が形成されており、下層膜3021の上に最上層膜3022が積層されている。最上層膜3022が、膜付基板3040の表面をなす。最上層膜3022において、溝形状3030の部分が除去されている。溝形状3030では、下層膜3021が露出して、膜付基板3040の表面を構成している。そして、溝形状3030の部分に、形状欠陥3031、3032が形成されている。設計パターンでは、溝形状3030の部分が長方形の形状を有し、すなわち、長方形の部分が最上層膜3022から除去される。しかし、図71においては、横に突出するように形状欠陥3031が形成されている。また、溝形状3030が横に窪み、形状欠陥3032が形成されている。上記のように、図71では、膜付基板3040の立体構造中で、横方向すなわち平面に沿った方向にパターン欠陥が形成されている。
本実施の形態によれば、膜付基板3040の表面の電位コントラストを取得することにより、上記のパターン欠陥部分についても、パターン形状が検出される。検出された形状を、設計形状と比較することにより、形状欠陥を把握及び検出できる。このようにして、本実施の形態によれば、表面形状、下層膜形状及び基板形状を含む広い範囲で、膜付基板3040の形状を検査でき、そして形状欠陥を検出することができる。
図72は、パターン及び表面の異物によって生じる電位分布の電位コントラストの模式図である。最下段(符号(c))は、断面構成であり、図70Bの構成と対応している。中段(符号(b))は、断面構成に電子ビームが照射されたときの表面電位分布を示している。最上段(符号(a))は、表面電位により生ずる画像中の輝度分布を示している。
図72において、膜付基板3040の構成(符号(c))は、図70Bの構成と同様である。ただし、図70Bと異なり、図72においては、最上層膜3022の表面上に、異物3050が存在する。このように、膜付基板3040のパターン形状が設計通りに形成されていても、異物3050が存在する場合がある。本実施の形態によれば、このような異物3050を検出することもできる。以下、具体的な検査方法について説明する。
図72において、中段の図(符号(b))は、膜付基板3040の表面電位分布であり、更に、表面電位分布と、電位コントラスト像の輝度(階調)との関係を示している。表面電位に応じて輝度が変化することが分かる。図70Aを参照して既に説明したように、表面電位分布は、膜付基板3040の断面形状に対応する。基板3010の窪み形状3011の領域では、直上の表面電位が低下する。また、最上層膜3022の溝形状3030の場所では、下層膜3021が表面に露出しており、この領域では、表面電位が上昇している。一方、異物3050の存在する場所では、表面電位が低下している。異物3050の場所の表面電位は、窪み形状3011の領域の表面電位よりもさらに大きく低下している。このように、異物3050が存在する箇所は、基板3010や最上層3022のパターン形状とは異なる表面電位を示す。図72の例においては、形状パターンの電位変化よりも、異物の電位変化が大きい。したがって、異物3050による電位変化を認識することができる。
上記の例のように、一般に、膜付基板3040のパターン形状の表面電位変化よりも、異物3050のよる表面電位変化が大きい場合が多いと考えられる。この特性に基づいて、異物3050の混入を検出することができる。図72の中段の図には、表面電位と明るさの関係のグラフが付されている。このグラフは、膜付基板3040の表面電位の差が、電位コントラストの輝度に反映されることを示す。
図72において、最上段の図(符号(a))は、表面電位に応じた輝度DNを、電位コントラストの形式で示している。図示のように、輝度(階調)が場所によって異なり、そして、異物の有無によっても輝度が異なる。より詳細には、「基板3010上に立体形状の窪み形状3011が形成された領域の直上の輝度」と、「最上層膜3022に溝形状3030が形成された領域の直上の輝度」と、「基板3010上に下層膜3021と最上層3022が形成された領域の直上の輝度」と、「異物3050の存在する領域の直上の輝度」とについて、すべての輝度の相違が見られる。このように、本実施の形態に係る検査方法は、膜付基板3040の形状欠陥のみならず、異物の混入も検出することができる。
次に、電子ビームのランディングエネルギーの設定値について説明する。ここで使用されるランディングエネルギーは、0[eV]付近の低いエネルギーである。このような低エネルギー領域では、ランディングエネルギーに依存して、検出される電子の種類が変化する。検出される電子は、ミラー電子及び二次放出電子である。二次放出電子は二次電子、反射電子、後方散乱電子を含み、これらが混在してよい。二次電子が代表的な二次放出電子であるので、以下の説明では二次電子が例として用いられてよい。また、ミラー電子は、膜付基板3040の表面に衝突することなく、膜付基板3040から反射してくる電子のことを言う。電子ビームが膜付基板3040の直前で向きを変え、これによりミラー電子が生じる。
ランディングエネルギーが大きいときは、主に2次放出電子が検出される。この領域を、2次放出電子領域という。また、ランディングエネルギーが小さいときは、主にミラー電子が検出される。この領域をミラー電子領域という。2次放出電子領域とミラー電子領域の間の領域では、ミラー電子と2次放出電子が混在する。この領域を遷移領域又は混在領域という。遷移領域は、2次放出電子領域の下限(LEB)と、ミラー電子領域の上限(LEA)との間の領域である。2次放出電子領域を2次電子モードといい、ミラー電子領域をミラー電子モードといい、遷移領域をミラー・2次電子混在モードといってよい。
本実施の形態では、上記のエネルギー領域のうちで、遷移領域(混在領域)が好適に適用される。これにより、上述のような膜付基板3040の表面電位の電位コントラストを適切に取得することができる。
ミラー電子と2次電子は、二次電子光学系で異なる軌道を通る。したがって、遷移領域(ミラー・2次電子混在モード)用いた検査においても、アパーチャのサイズや位置の変更によってミラー電子のみ又は二次電子のみを選択的に抽出でき、所望の画像情報を取得することが可能である。
また、電子ビームの膜付基板3040への照射は、複数回行われてよい。この方法は、ミラー電子を発生させるため有効である。この点について詳細に説明する。
ミラー電子を発し易くするためにプレチャージを行うことが知られている。プレチャージでは、予め帯電用の電子ビームが照射される。この帯電用の電子ビームのランディングエネルギーは、電位コントラストを取得するときに照射される撮像用の電子ビームのランディングエネルギーより高く設定される。これにより、膜付基板3040の表面が予め、ある程度帯電し、ミラー電子が発生し易くなることが知られている。
本実施の形態は、上記の現象を利用するために、複数回のビーム照射を行う。例えば、まず、帯電用の高ランディングエネルギーの電子ビームが、膜付基板3040の表面に照射され、基板表面が帯電される。その後に、低ランディングエネルギーの電子ビームが照射され、膜付基板3040の表面の電位コントラストが取得される。
また、帯電用の電子ビームは、1回だけでなく、複数回、膜付基板3040の表面に照射されてよい。この場合、照射の度に、ランディングエネルギーが低減されてよい。例えば、前回(今回)のランディングエネルギーをLEpとし、次回のランディングエネルギーをLEnとする。この場合、LEpよりLEnを小さくする。こうして、徐々に電子ビームのランディングエネルギーが低くなってよい。このような照射方法により、ミラー電子を発生させ易くすることができ、明度差の大きい電位コントラストを取得することができる。
以上に、本実施の形態に係る膜付基板の検査方法について説明した。本実施の形態の検査方法は、膜付基板3040の表面に荷電粒子ビームを照射し、膜付基板3040の静電容量等の相違により発生する表面電位分布から電位コントラストを取得し、膜付基板3040の基板3010及び最上層膜3022の形状を同時に検出することができる。更に、取得した電位コントラストが、設計通りのパターン形状に対応する所定の電位コントラストと比較され、これにより、異物3050の存在を検出することができる。
また、本実施の形態は、基板3010の立体形状が、窪み形状3011である場合を例に挙げて説明した。しかし、立体形状が例えば凸形状であっても、静電容量に影響を与え、その直上の表面電位を変化させる。したがって、立体形状は突起形状であってもよい。
「別の実施の形態」(図73〜図76)
次に、図73を参照し、本発明のもう一つの実施の形態を説明する。図73は、本実施の形態の検査方法を説明するための図である。ここでは、検査対象が膜付基板3040aである。この検査対象の詳細構成が、上述の実施の形態と異なる。検査方法は上述の実施の形態と概ね同様である。よって、図68及び図69の説明は、以下に述べる膜付基板3040aの検査にも適用されてよい。
図73は、上述の実施の形態と異なる断面構成を示しており、さらに、断面構成と表面電位及び輝度との関係を示している。最下段(符号(c))が、本実施の形態における膜付基板3040aの断面構成を示している。中段(符号(b))は、膜付基板3040aの断面形状に対応した表面電位の一例を示す。更に、最上段(符号(a))は、表面電位に対応した輝度の電位コントラストの一例を示す。
図73の基板構成では、基板3010aの上に、多層膜3020aが積層されている。多層膜3020aは、基板3010a上に形成された第1の下層膜3021aと、第1の下層膜3021a上に積層形成された第2の下層膜3022aと、第2の下層膜3022aの上に積層形成された第3の下層膜3023aと、第3の下層膜3023a上に形成された最上層膜3024aとから構成されている。最上層膜3024が膜付基板3040aの表面である。
基板3010aは、例えば、ブランクス等のガラス基板等から構成されたレチクル用の基板でよい。前述の実施の形態に係る図70B等の構成と異なり、図73では、基板3010aの表面には立体形状が設けられていない。例えば、基板3010aには、図70Bの窪み形状が設けられていない。基板3010aの上面は、平面である。このような場合にも、本実施の形態に係る検査方法を適用可能である。
多層膜3020aは、少なくとも2種類以上の材料を含む複数の膜で構成される。図73においては、4層の多層膜3020aが適用されている。総ての膜3021a〜3024aにおいて材料が異なっていてもよい。同じ材料の膜も存在してよく、要するに材料が部分的に重複してもよい。
多層膜3020aの複数の膜3021a〜3024aの各々に関し、立体的形状は意図されていない。各々の膜3021a〜3024aは、均一な厚さの膜として構成されている。すなわち、各々の膜3021a〜3024aにおいては、設計上の膜厚さが均一で一定である。しかしながら、実際に製造された膜付基板3040aにおいては、欠陥等により、膜3021a〜3024aが均一に形成されない場合がある。図73においては欠陥3033、3034が、第3の下層膜3023aと最上層膜3024aに発生している。欠陥3033、3034は、局所的又は部分的に周囲と厚みが異なる箇所である。本実施の形態に係る検査方法は、このような欠陥、すなわち、均一の厚さを有する膜3021a〜3024aにおける厚さムラの形状欠陥を検出できる。
また、図73では、異物3050が、多層膜3020aの内部、より詳細には、下層膜3023a内に存在する。本実施の形態に係る検査方法は、このような多層膜3020a中の下層膜3021a〜3023a内に存在する異物3050の検出も行う。
図73において、中段の図(符号(b))は、膜付基板3040aの表面電位ΔVを示した図である。基板表面に照射される電子ビームは、一定のランディングエネルギーLEを有する。したがって、実効ランディングエネルギーLEeは、LE+ΔVになる。前出の図69は、表面電位ΔVが一定値0であって、ランディングエネルギーLEが変化させた時の明るさの違いを示している。しかし、ランディングエネルギーLEが一定であってΔVが変化しても、LEeに応じて明るさが変わり、輝度特性は等価といえる。
図73において、欠陥領域3033は、第3の下層膜3023aが薄くなり、最上層膜3024aが厚くなった形状欠陥の領域である。この欠陥領域3033については、直上の表面電位が低下している。また、欠陥領域34は、第3の下層膜3023aが厚くなり、最上層膜3024aが薄くなった形状欠陥領域である。この欠陥領域3034についても、直上の表面電位が低下している。しかし、欠陥領域3034より欠陥領域3033の方が、低下量が大きい。すなわち、最上層膜が厚い場合の方が、表面電位が大きく低下している。また、異物3050の直上の表面電位も低下している。その異物部分の低下量は、欠陥領域3033の低下量よりも更に大きい。そして、異物部分の低下量が最も大きい。このように、多層膜3020a中の膜3023a、3024aの不均一が、表面電位の変化として現れるとともに、異物3050の存在も表面電位の変化として現れる。
図73において、最上段の図(符号(a))は、上記の表面電位の相違に応じた画像の輝度差を示しており、輝度変化は電位コントラストに相当する。この電位コントラストは、上述の膜付基板3040aの表面電位を取得した画像にて観察される。表面電位よりは輝度差が若干小さくなっているが、表面電位分布が輝度差に反映される。したがって、輝度差に基づいて形状欠陥3033、3034及び異物3050を検出することができる。
図74は、図73の断面構成の拡大図であり、静電容量の違いによる表面電位の違いを説明するための模式図である。図74において、ΔV0は、正常部位の表面電位であり、ΔV1、ΔV2は、形状欠陥3033、3034の直上の表面電位であり、ΔV3は異物3050の直上の表面電位である。表面電位ΔVは、ΔV=Q/C、C=(d/ε0・εr)で表される。したがって、図74のそれぞれの表面電位ΔV0〜ΔV3は、下記の式により表される。
ΔV0=ε0・Q(2(εr1+εr2)/d0)
ΔV1=ε0・Q((εr1/d1)+(εr2/(2d0−d1))+((εr1+εr2)/d0
))
ΔV2=ε0・Q((εr1/d2)+(εr2/(2d0−d2))+((εr1+εr2)/d0))
ΔV3=ε0・Q(((2εr1+εr2)/d0)+(εr3/d3))
ここで、図74に示されるように、d0〜d2は膜厚であり、d3は異物の厚さであり、εr1、εr2は、各膜の誘電率であり、εr3は異物の誘電率である。
また、同一のランディングエネルギーLEで膜付基板3040aを照射した場合、図74の4箇所では、実効ランディングエネルギーLEeが以下の通りになる。
実効LE0=LE+ΔV0
実効LE1=LE+ΔV1
実効LE2=LE+ΔV2
実効LE3=LE+ΔV3
このように、実効ランディングエネルギーLEeを、明るさの差として捉えることが出来る。
よって、膜や異物等の物質の誘電率が予め判っていれば、明るさの違いから膜の厚さの違いを観測及び計測することも可能である。このような静電容量の考え方は、図70A、図70B等を参照した上述の実施の形態についての説明では言及されなかった。しかし、上述の実施の形態においても同様の原理を適用することができる。表面電位ΔVによって実効ランディングエネルギーLEが変化し、それに応じて明るさの変化が生じる。したがって、図72及び図73に示されるように、明るさ(輝度)とランディングエネルギーLEの関係(図69)に基づいて、表面電位分布を明るさの分布に変換できる。
次に、図75及び図76を用いて、検査対象の多層膜の断面構造について更に説明する。図75及び図76は、多層膜の断面構造のより具体的な例を示している。この構造は、上述の図74の膜付基板に適用されてよい。
図75においては、ガラス基板3010b上に、多層膜2021bが形成されている。軟X線(EUV:extreme-ultraviolet)を反射させるために、多層膜2021bは、モ
リブデン(Mo)とシリコン(Si)で構成され、キャッピング3022bで蓋をされている。多層膜3021bの上にバッファー層3023bが形成されており、バッファー層3023bは、クロムナイトライド(CrN)やルテニウム(Ru)、ルテニウム合金からなる。バッファー層3023bの上に、パターンを形成するタンタルボロンナイトライド(TaBN)の層3024bが形成されている。更に層3024bの上に、光検査時の
光の反射を防止するためのタンタルボロンオキサイド(TaBO)の層3025bが形成されている。これらの膜が全体として多層膜3020bを構成している。
図75においては、ゴミ等の異物3050が欠陥として、レチクルの最表面及び多層膜3020bに存在する。多層膜2020b中では、積層された層の間に異物3050が存在する。異物3050は、パターン3028の転写時に致命的な欠陥となってしまう。そのため、それぞれの膜3021b〜3025bが形成された段階、及び、ある程度複数の膜が形成された段階で、膜上及び膜中の異物を発見しなければならない。
図76は、多層膜3020cの断面構造であって、図75とは異なる例を示している。図76の多層膜3020cは、光検査時の光の反射を防止するTaBOの層3025bが無い点においてのみ、図75の多層膜3020bと異なっている。図75と同様の構成要素には同一の参照符号が付されており、説明は省略される。
図76においても、異物3050が、多層膜3020cの最表面、パターン3028内、膜3021b〜3024bの内部に混入する。そこで、図75の場合と同様に、各膜3021b〜3024bを形成する段階で、膜上又は膜中に存在する異物3050を発見する必要がある。
図75及び図76の多層膜3020b、3020cは、図70等を用いて説明された前述の実施の形態の膜付基板3040にも適用されてよい。図75及び図76の基板3010b、3010cに形状パターンが設けられ、更に、最上層3025b(TaBO)又は最上層3024b(TaBN)に形状パターンが設けられ、これにより、図75及び図76の構成が図70の膜付基板3040に該当する。このような膜付基板3040に対して、図70等の実施の形態の検査方法が好適に適用可能である。
また、図73〜図76に示した本実施の形態に係る検査方法においても、図70A等に示された前述の実施の形態と同様に、電子ビームの照射が複数回行われて、電位コントラストが取得されてよい。図73〜図76の実施の形態では、多層膜3020a〜3020c中の異物3050が検出され、また、形状欠陥領域3033、3034(部分的又は局所的に厚みの異なる箇所)が検出された。電子ビームの照射を複数回行うことにより、異物及び欠陥の電位分布が強調され、安定する。したがって、材料の相違に応じて、より強い電位コントラストを得ることができる。
更に、図73〜図76の実施の形態においても、図70等の前述の実施の形態と同様に、ミラー電子が発生するように電子ビームが膜付基板3040aに照射されてよい。ランディングエネルギーLEの範囲は、−10〔eV〕以上50〔eV〕以下等でよく、この範囲が前述図70等の実施の形態にも適用されてよい。これにより、本実施の形態においても、ミラー電子を利用して、表面の電位コントラストを適切に取得することができる。
また、図73〜図76の実施の形態の例では、膜付基板3040aにレチクルが適用されている。しかし、他のマスクにも本実施の形態が適用されてよい。また、半導体基板等に多層膜3020a〜3020cが形成されている場合にも、本実施の形態が適用されてよい。
以上に、本発明の実施の形態に係る検査方法について説明した。図70等の実施の形態では、膜付基板3040が検査され、図73等の実施の形態では、膜付基板3040aが検査された。これらの実施の形態は、膜厚の相違や異物の存在によって生じる表面電位の違いを明るさの分布として捉えることができ、膜等の断面構造(深さ方向)の構造を知ることが出来る。そして、本実施の形態は、多層膜3020、3020a〜3020c中に
存在する複数の膜3021、3022、3021a〜3024a、3021b〜3025bの膜厚の違いを検出でき、また、異物3050を検出できる。したがって、膜等の断面構造(深さ方向)の構造を知ることが出来る。
また、本実施の形態によれば、検出された輝度差から、パターンの欠陥3031〜3034の位置や、異物3050の位置を知ることもできる。そこで、検出された欠陥が、設計上の基板表面に位置する場合、SEM等別の検査装置を用いて欠陥箇所を改めて精密に検査をすることも可能である(レビュー検査)。また、検出された形状欠陥3031〜3034が、設計上で膜付基板3040、3040aの表面以外の場所にあるとする。このような欠陥は、深さ方向の欠陥として処理される。例えば、欠陥検出位置で基板を切断して、検出された欠陥を確認することも出来る。
次に、本実施の形態に係る膜付基板の検査装置について説明する。本実施の形態の検査装置は、上述の図70Bに示された膜付基板3040の検査にも、図73〜図76を参照して説明された膜付基板3040aの検査にも適用可能である。
図77は、本実施の形態の検査装置の全体的な構成の一例を示す。本実施の形態では、本発明が、写像投影型の電子顕微鏡に適用される。すなわち、写像投影型の検査装置が、本発明の検査方法に従って膜付基板3040、3040aを検査する。
図77に示すように、検査装置は、電子線源3065と、1次光学系3070と、撮像素子3090と、2次光学系3080と、ステージ3100とから構成され、これら要素が、真空容器3075、3085、3105の中に収容されている。電子線源3065は、電子ビームを発生させる。1次光学系3070は、発生した電子ビームを基板に導く。撮像素子3090は、電子線を照射することによって基板から戻ってくる電子を捉えて画像信号を生成する。2次光学系3080は、電子線照射により基板から戻ってくる電子を撮像素子3090に導く。ステージ3100は、膜付基板3040、3040aを搭載する構成であり、少なくとも一方向に移動可能である。
撮像素子3090は、記憶装置3091を介して、演算処理部3092に接続されている。演算処理部3092はコンピュータで構成され、本発明の演算部に相当する。演算処理部3092は、ステージ3100を制御するステージ制御ユニット3095に接続されている。上記構成において、撮像素子3090は電子の検出器として機能し、本発明では2次光学系に含まれてよい。また、撮像素子3090、記憶装置3091及び演算処理部3092は本発明では画像処理部を構成してよい。
また、ステージ3100は、防振台3102の上に載置され、床からの振動が伝達されないように構成されている。ステージ3100は真空容器(チャンバ)3105に収容されている。真空容器3105の隣には、予備環境室(ミニエンバイロメント)3110が設けられている。予備環境室3110の室内は密封され、清浄に保たれている。予備環境室3110内には、膜付基板3040、3040aを載置する仮置場3111が収容されている。また、予備環境室3110には、ターボ分子ポンプ3120が設けられている。ターボ分子ポンプ3120は、ドライポンプ3121とともに予備環境室3110及び真空容器3075、3085、3105の真空排気を行うように構成されている。また、真空容器3105と予備環境室3110は、ゲート弁3130を用いて開放及び密封を行えるように構成されている。
電子線源3065は熱電子放出型の電子銃3060aを用いている。この電子銃3060aは主にLAB6を用いている。電子銃3060aは、タングステンからなるフィラメ
ントや、Th−W、W2C等のタングステン系や、(Ba、Sr、Ca)CO3からなる酸
化物陰極等で構成されてもよい。電子線源3060(電子銃3060a)は本発明では1次光学系に含まれてよい。
一次光学系3070は、複数の静電レンズ3071、3072、3073、3074から構成されている。
撮像素子3090は、TDI(Time Delay Integration)で構成されている。TDIは、スキャン撮像も可能な素子である。撮像素子3090は、MCP、蛍光板、FOPを、TDIの前に備える。MCPが電子を増幅し、蛍光板が、増幅された電子を光に変換し、FOP(ファイバーオプティックプレート)が、光をTDIに導く。また、TDIの代わりにEB−TDIが用いられてよい。EB−TDIは、電子を直接受けて画像に変換できる。また、スキャン画像以外のスチル像の撮像を行う場合は、TDIの代わりにCCDが用いられてよい。また、EB−TDIの代わりにEB−CCDが用いられてよい。更に、TDIの前にEB−CCDを設けられてよく、TDIがスキャン像を生成し、EB−CCDがスチル像を生成してよい。
撮像素子3090は、膜付基板3040、3040aの表面の電位コントラスト像を取得する。電位コントラスト像は、記憶装置3091に記憶される。記憶された電位コントラスト像は、演算処理部3092に送られる。演算処理部3092は、電位コントラスト像と設計パターンとの間で形状比較を行う。電位コントラスト像の形状が、設計パターンに対応しない場合、演算処理部3092は、形状欠陥3031〜3034が存在すると判定する。前述の検査方法が適用されてよく、これにより、演算処理部3092は、電位コントラスト像から、どのような形状欠陥が生じているかを判定することができる。また、演算処理部3092は、形状欠陥3031〜3034に該当しない欠陥を検出した場合に、異物3050が存在するとの判定を行うことができる。
二次光学系3080は、複数の静電レンズ3081、3082、3083から構成されている。図77に示す例では、一次光学系3070が、二次光学系3080に対し斜めに配置されている。電子ビームは、電子銃3060aから発射され、電界と磁界からなるE×Bフィルタ3076で向きを変える。電子ビームは、膜付基板3040、3040aに対して垂直若しくは概ね垂直に照射される。そして、電子ビームは、膜付基板3040、3040aから上昇し、E×Bフィルタ3076を直進し、二次光学系3080によって撮像素子3090に導かれる。
電子ビームは、一次光学系3070によって、円若しくは楕円または矩形に形成され、そして膜付基板3040、3040aに導かれ、照射される。電子ビームのサイズは、概ね、撮像素子3090より若干大きく設定される。撮像素子3090は前述のようにTDI、EB−TDI、CCD、EB−CCD等である。電子ビームの形状及びサイズは、撮像素子3090毎に調整されてよく、また、一番大きい撮像素子に合わせて設定されてよい。
電子ビームのランディングエネルギーLEは、加速電圧Vaccとリターディング電圧RTD(基板電圧)との組み合わせによって調整される。加速電圧Vaccは、一次光学系3070で電子に付与される。加速電圧Vaccは、例えば加速電圧設定部3061により設定されてよい。リターディング電圧RTDは、ステージ3100に設けられた基板電圧調整機構3101によって決まる。
加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDの組み合わせは、膜付基板3040、40aから得たい情報に応じて変えることが出来る。例えば、膜付基板3040、3040aの二次電子像を得るためには、加速電圧Vaccが100〔eV〕から数k〔eV〕に
設定され、リターディング電圧RTDが二次系設定電圧(二次系についてのE×B直進条件)に設定される。また、膜付基板3040、3040aから反射電子像を得るとする。反射電子は、照射電子と基板表面材料との間で起きる完全弾性衝突によって発生する電子である。反射電子像を得るためには、完全弾性衝突が起こるようなランディングエネルギーLEを実現するように、リターディング電圧RTDが調整される。ミラー電子像が得るためには、ランディングエネルギーLEが、−10〜数10〔eV〕に好適に設定される。より好ましくは、ランディングエネルギーLEが、−5[eV]以上、5[eV]以下(遷移領域)に設定される。ミラー電子は、既に述べたように、膜付基板3040、3040aの表面電位によって、照射電子ビームが表面近傍で跳ね返ることにより生じる。より詳細には、前述の検査方法の説明にて詳しく述べたランディングエネルギーLEの範囲が好適に適用される。
前述の検査方法の説明では、各種の検査が説明された。例えば、図71の検査は、パターンの形状欠陥3031、3032に対して行われ、また、図72の検査は、膜付基板3040上の異物3050を検出する。また、図73の検査は、膜付基板3040a上に構成された多層膜3020a〜3020c中の異物3050を検出し、また、部分的若しくは局所的に厚みの違う箇所の形状欠陥領域3033、3034を検出する。更に、図70Bの検査は、基板3010上に構成されたパターン3011の形状を検出し、また、多層膜3020中に構成されたパターン3030の形状を検出し、また、検出された形状の比較を行った。本実施の形態の検査装置では、ランディングエネルギーLEが、それぞれの検査に適した値に設定される。また本検査装置は、複数回のビーム照射を行ってよい。この場合、検査装置は、複数回のビーム照射でランディングエネルギーLEを変更してよい。また、検査装置は、同じランディングエネルギーLEのビーム照射を複数回行ってよい。
複数回電子ビームを照射する場合、照射回数は例えば2回である。この場合、初回のビーム照射のランデシィグエネルギーLEは、やや大きく設定される(例えば、28〔eV〕)。次回のランディングエネルギーLEは、初回より小さく設定される(例えば、15〔eV〕)。これにより、膜付基板3040、3040aの表面の電位差が明確に現れ、その結果、検出感度を上げる事ができる。
また、電子ビームを複数回照射する場合は、初回照射の電子ビームのランディングエネルギーLEが、深さ方向のビーム到達位置を考慮して設定されることが好適である。この場合、初回照射のランディングエネルギーLEは、検査対象の膜3021、3022、3021a〜3024a、3021b〜3025bの深さへ電子ビームが到達するように好適に調整される。これにより、特定の膜の深さ部分における電位差が明確に現れ、所望の深さの電位分布を電位コントラストとして捕らえることが出来る。こうして、膜3021、3022、3021a〜3024a、3021b〜3025bの構造を3次元画像として好適に得ることができる。
本実施の形態では、荷電粒子ビームが電子ビームであった。本発明の範囲内で、荷電粒子ビームは電子ビーム以外のビームでよく、例えば、イオンビームでよい。また、荷電粒子ビーム以外のビームが適用されてよい。ただし、適用可能なビームは、基板表面に電位差を生じさせ、かつ、基板から電子が返ってくる事を期待できるビームである。例えば高速原子ビームが適用されてよい。
以上に説明したように、本実施の形態では、本発明の検査装置が、写像型電子顕微鏡に適用される。本実施の形態によれば、加速電圧設定部3061及び基板電圧調整機構3101が、電子ビームのランディングエネルギーLEを調整する。ベースの基板と基板上の各々の膜の材料と厚さに応じて表面電位が異なるように、ランディングエネルギーLEが
好適に設定される。そして、電子ビームの照射により得られた表面の電位コントラスト像に基づいて、膜付基板の形状を検出できる。特に、高さ方向の形状を検出でき、したがって、立体形状を検出できる。そして、膜付基板3040、3040aに異物3050が混入している場合には、電位コントラスト像に基づいて異物3050の存在も検出できる。
図78は、本発明の別の実施の形態に係る膜付基板の検査装置の全体構成を示している。本実施の形態では、本発明がSEM式電子顕微鏡に適用され、すなわち、SEMが本発明の検査方法に従って膜付基板3040、3040aを検査する。この検査装置は、図70Bに示された膜付基板3040の検査にも、図73〜図76に示された膜付基板3040aの検査にも適用可能である。
図78の検査装置は、電子線源3065aと、1次光学系3070aと、撮像素子3090aと、ステージ3100aとを備え、これら要素が、真空容器3075a、3085a、3105aの中に納められている。電子線源3065aは電子ビームを発生する。1次光学系3070aは、電子ビームを膜付基板3040、3040aに導き、走査する。撮像素子3090aは、電子線を走査しながら照射することによって膜付基板3040、3040aから戻ってくる電子を捉え、電子から画像信号を生成する。ステージ3100aは、膜付基板3040、3040aを搭載する構成であり、少なくとも一方向に移動可動である。
電子線源3065aは、熱電子放出型の電子銃3060bを用いている。この電子銃3060bは、主にLaB6を用いている。電子銃3060bは、タングステンからなるフ
ィラメントや、Th−W、W2C等のタングステン系や、(Ba、Sr、Ca)CO3からなる酸化物陰極等で構成されてもよい。
一次光学系3070aは、レンズ3071a、3072a、3073aで構成されている。これらレンズは、静電レンズでよく、また、電磁レンズでよく、あるいは、それらの両方でもよい。撮像素子3090aは、一般には二次電子増倍管である。
本実施の形態に係る検査装置では、電子ビームが一次光学系3070aで細いビームに絞られ、膜付基板上で走査される。そして、撮像素子3090aが、膜付基板からの電子を検出し、画像を生成する。これにより、電位コントラスト画像が得られる。
その他の構成要素は、図77の検査装置と同様でよい。したがって、同様の構成には同一又は類似の参照符号が付されており、説明は省略される。
このように、図78の実施の形態においては、本発明が、SEM型電子顕微鏡に適用されて、検査装置が構成される。本実施の形態でも、膜付基板3040、3040aの形状検査や異物3050の検査を行うことができる。本実施の形態で実行される検査方法の詳細は、前述した通りである。
「産業上の利用性」
本発明は、電子線を用いてマスク等の膜付基板の形状及び異物を検査する検査装置に利用することができる。
以上に本発明について実施の形態を用いて詳細に説明した。上述のように本出願では、4つの観点が説明された。本発明の範囲内で、2つ以上の観点が組み合わされてよい。一つの観点の全体と、他の観点の全体とが組み合わされてよい。一つの観点における一部の構成が、他の観点に組み合わされてよい。また、一つの観点の一部と、他の観点の一部が組み合わされてよい。
以上に現時点で考えられる本発明の好適な実施の形態を説明したが、本実施の形態に対して多様な変形が可能なことが理解され、そして、本発明の真実の精神と範囲内にあるそのようなすべての変形を添付の請求の範囲が含むことが意図されている。