JP6065177B2 - 果汁発酵飲料の製造方法、及び果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法 - Google Patents

果汁発酵飲料の製造方法、及び果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法 Download PDF

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本発明は、保存時の着色を回避可能な果汁発酵飲料の製造方法、及び果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法に関する。
果実ワイン等の果汁発酵飲料は、果実の粉砕物をそのまま発酵させるか、果汁を加熱処理により濃縮した濃縮果汁を希釈し、これに酵母を添加して発酵させて、アルコール濃度1%から20%の発酵液をろ過して得られるものである。このような果汁発酵飲料の原料としては、ブドウが最も一般的に用いられているものの、他にも、リンゴ、ウメ、洋ナシ、モモ等が利用されることもある。
ここで、一般的に、果実ワイン等の果汁発酵飲料には、空気中の酸素による酸化に伴う保存時の品質の劣化を予防するため、酸化防止剤が添加されることがあるが、付加価値を高めた果汁発酵飲料として、酸化防止剤を添加していない果汁発酵飲料も提供されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2010−200651号公報
しかしながら、酸化防止剤無添加の果汁発酵飲料も含め、果汁発酵飲料を一定期間以上保存した場合、空気中の酸素による飲料中の成分の酸化に伴い、果汁発酵飲料が着色により褐変したり、果汁発酵飲料の味質が低下したりして、果汁発酵飲料の商品価値が大きく低下することが問題として報告されていた。
よって、本発明は、一定期間以上保存した場合においても、着色による褐変や味質の低下が最低限に抑えられる果汁発酵飲料の製造方法、及び果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法を提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、濃縮果汁中に存在する5−ヒドロキシメチルフルフラール(以下、「5HMF」ともいう)、及び5HMFから生成される果汁発酵飲料中の2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン(以下、「2,5BHMF」ともいう)の存在量が、濃縮果汁を用いた果汁発酵飲料の着色の度合いに相関していることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は、以下のものを提供する。
本発明の第一の態様は、濃縮果汁を使用した果汁発酵飲料の製造方法であって、濃縮果汁中の5−ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の含有量を測定し、5HMFの含有量に基づいて発酵に使用する濃縮果汁を選択する濃縮果汁選択工程と、選択された前記濃縮果汁を使用して果汁を発酵する発酵工程とを含む果汁発酵飲料の製造方法である。
本発明の第二の態様は、濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、濃縮果汁中の5−ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の含有量が発酵時における濃度に換算して50ppmを越える場合に、当該濃縮果汁から製造された果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法である。
本発明の第三の態様は、濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、果汁発酵飲料中の2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン(2,5BHMF)の含有量が50ppmを越える場合に、当該果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法である。
本発明の果汁発酵飲料の製造方法によれば、濃縮果汁を使用した果汁発酵飲料において、濃縮果汁中の5HMFの含有量に基づいて濃縮果汁を選択し、選択された当該濃縮果汁を使用して果汁発酵飲料を製造するので、当該濃縮果汁から得られた果汁発酵飲料を一定期間以上保存した場合においても、着色による褐変や味質の低下を最低限に抑えることができる。
また、本発明の果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法によれば、濃縮果汁中の5HMF又は果汁発酵飲料中の2,5BHMFの含有量に基づいて、果汁発酵飲料が保存時に着色するか否かを判定するので、一定期間以上保存した場合に着色を起こす果汁発酵飲料が流通することを防止でき、品質の高い果汁発酵飲料のみを提供することができる。
濃縮果汁中の5HMF、及び白ワイン中の2,5BHMFの存在量と、白ワイン保存後の着色の増加度(ΔOD430)との相関関係を示す図面である。
以下、本発明について詳細に説明する。
<果汁発酵飲料の製造方法>
本発明の濃縮果汁を使用した果汁発酵飲料の製造方法は、濃縮果汁中の5−ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の含有量を測定し、5HMFの含有量に基づいて発酵に使用する濃縮果汁を選択する濃縮果汁選択工程と、選択された前記濃縮果汁を使用して果汁を発酵する発酵工程とを含む。
[濃縮果汁選択工程]
濃縮果汁選択工程においては、濃縮果汁中の5HMFの含有量を測定し、5HMFの含有量に基づいて発酵に使用する濃縮果汁を選択する。
濃縮果汁選択工程において選択する濃縮果汁としては、特に限定されるものではないが、果汁発酵飲料の着色を防止するという観点から、白色系の果実から得られる濃縮果汁であっても好ましく使用することができる。具体的には、白色ブドウ果汁、リンゴ果汁、洋ナシ果汁、モモ果汁、ライチ果汁、梅果汁、及びアプリコット果汁からなる群から選ばれる少なくとも1種の濃縮果汁を使用することが好ましく、白色ブドウ果汁、リンゴ果汁、洋ナシ果汁、及びモモ果汁からなる群から選ばれる少なくとも1種の濃縮果汁を使用することが好ましい。これらの濃縮果汁から得られる果汁発酵飲料としては、例えば、白ワイン、シードル、及びフルーツワインを挙げることができ、この中でも特に白ワインが好ましい。
(5−ヒドロキシメチルフルフラール)
5HMFは糖質の加熱により生成する成分で、様々な食品に存在するものの、これまで、果汁飲料を含め、食品の着色との関係性は指摘されていなかった。本発明の発明者らは、後述する実施例にても示すように、濃縮果汁中における5HMFの存在量が当該濃縮果汁から製造された果汁発酵飲料の、一定期間保存後における着色の度合いと相関することを見出し、5HMFの含有量が少ない濃縮果汁を選択して果汁発酵飲料を製造することにより、一定期間保存後においても着色しにくい果汁発酵飲料を製造することを可能とするものである。
なお、上述の通り、5HMFは糖質の加熱により生成するため、濃縮果汁以外の加熱処理を加えていない果汁や、加熱処理以外の処理によって得られる濃縮果汁中には多量には存在しない成分である。このため、本発明の果汁発酵飲料の製造方法は、加熱処理により得られた濃縮果汁を使用した果汁発酵飲料の製造に好適に適用されるものである。
濃縮果汁選択工程においては、5HMFの含有量が、発酵時における濃度(即ち、濃縮果汁の希釈後の濃度)に換算して50ppm以下である濃縮果汁を選択することが好ましく、40ppm以下である濃縮果汁を選択することが更に好ましい。5HMFの含有量が上記の範囲内の濃縮果汁を選択することにより、一定期間保存後における着色の度合いが非常に低い果汁発酵飲料を製造することができる。
[発酵工程]
発酵工程においては、選択された上記濃縮果汁を使用して果汁を発酵する。一般に、濃縮果汁を使用した果汁発酵飲料の製造にあたっては、濃縮果汁等を希釈・混合した溶液に、酵母を添加し、通常15℃から30℃の温度で5日間から30日間発酵させる。この際、使用する濃縮果汁の糖度に応じて更に糖分を補い、発酵後の果汁発酵飲料のアルコール度数を調整してもよい。
(発酵助成剤)
本発明の果汁発酵飲料の製造方法においては、発酵を助成し、健全な醸造を期するため、濃縮果汁に発酵助成剤を添加してもよい。発酵助成剤としては、具体的には、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、不活性酵母、酵母細胞壁、酵母エキス、チアミン塩酸塩、葉酸、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、ビオチン等を挙げることができる。
しかしながら、後述する実施例に示すように、2,5BHMFがアンモニウムイオンと共存する場合、果汁発酵飲料における着色の度合いが増大する場合があるため、発酵助成剤の添加量は、発酵時における窒素源の濃度が500ppm以下になるように制限することが好ましく、400ppm以下となるように制限することがより好ましい。ここで窒素源とは資化性アミノ酸とアンモニウムイオンの合計量である。また、窒素源の濃度は、健全な発酵を促進する観点から、300ppm以上であることが好ましい。発酵助成剤の添加量を上記の範囲内のものとすることにより、酵母による健全な発酵を促進しつつ、果汁発酵飲料の一定期間保存後の着色の度合いを低減させることができる。なお、発酵助成剤の添加量を、発酵時の窒素源の濃度が400ppm以下になるように制限する場合において、当該発酵助成剤としては、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等を挙げることができる。
(その他の成分)
なお、本発明の果汁発酵飲料の製造方法においては、発酵工程の前後において、果汁発酵飲料の製造に慣用される各種添加剤を添加してもよい。ここで、果汁発酵飲料には、酸化防止剤を添加してもよいが、本発明の果汁発酵飲料の製造方法によれば、果汁発酵飲料に酸化防止剤を添加しなくても果汁発酵飲料の酸化、着色を防止できるので、果汁発酵飲料に酸化防止剤を添加しなくても、商品価値の高い果汁発酵飲料を提供することができる。
<果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法>
本発明は、濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、濃縮果汁中の5HMFの含有量が発酵時における濃度に換算して50ppmを超える場合に、当該濃縮果汁から製造された果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法にも関する。また、同時に、本発明は、濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、果汁発酵飲料中の2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン(2,5BHMF)の含有量が50ppmを越える場合に、当該果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法にも関する。
上述のとおり、濃縮果汁中における5HMFの存在量は当該濃縮果汁から製造された果汁発酵飲料の、一定期間保存後における着色の度合いと相関する。ここで、濃縮果汁中の5HMFは、発酵後の果汁発酵飲料中においては2,5BHMFに変換されるため、濃縮果汁中においては5HMF、果汁発酵飲料中においては2,5BHMFの濃度が50ppmを越える場合に、当該果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測することにより、果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法を実施することができる。
本発明によれば、濃縮果汁中の5HMF又は果汁発酵飲料中の2,5BHMFの含有量に基づいて、果汁発酵飲料が保存時に着色するか否かを判定するので、一定期間以上保存した場合に着色を起こす果汁発酵飲料が流通することを防止でき、品質の高い果汁発酵飲料を提供することができる。
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
<試験例1>
白ワインの着色における2,5BHMFの影響を調べるため、市販の白ワインに2,5BHMF標準品を20ppmから400ppm添加し、300mLの瓶に充填して37℃で保存した。保存開始時と、保存開始後1週、2週、及び4週でサンプリングし、保存開始時からの着色度の増加量(ΔOD430)を調べた。結果を表1に示す。
表1
Figure 0006065177
表1から明らかなように、白ワインに2,5BHMFを添加した場合、2.5BHMFの添加量が増加するに従って、白ワインの着色の程度が増加していることが分かる。このため、2,5BHMFの存在量に応じて白ワインの着色の度合いを予測できることが分かった。
<試験例2>
種々の白ブドウ濃縮果汁中の5HMFの濃度を測定した。これらの濃縮果汁について、常法により果汁発酵飲料(白ワイン)を調製し、保存前の白ワインにおける2,5BHMFの濃度を測定した。これを300mLの瓶に充填し、37℃で1ヶ月保存した。白ワイン保存前後の着色度(OD430)を測定し、5HMF濃度、2,5BHMF濃度と、保存前後の着色度の増加量(ΔOD430)の関係性を調べた。結果を表2に示す。
表2
Figure 0006065177
1: 醗酵時における濃度を示す。
表2から明らかなように、濃縮果汁中の5HMFの含有量が増加し、保存前の白ワイン中の2,5BHMFの含有量が増加するに伴い、白ワインの保存後の着色は増加した。特に、濃縮果汁中の5HMF濃度、及び白ワイン中の2,5BHMFの濃度が50ppmを下回る本発明の白ワインであるNo.2、4、5の白ワインは、着色度の増加量(ΔOD430)が0.1を下回ると予測されたが予測どおり、ΔOD430は0.1を下回った。以上より、濃縮果汁中の5HMFの含有量、及び保存前の白ワイン中の2,5BHMFの含有量と、白ワインの保存後の着色には相関関係があることが分かった。
<試験例3>
白ワインに調製して保存した場合に、着色の度合いが低いロットの濃縮果汁に5HMFを添加することで、白ワインの保存中の着色の度合いが増加するか否かを調べた。白ワインに調製して保存した場合の着色の度合いが低い濃縮果汁(No.2)に対して、5HMFの総量が、白ワインに調製して保存した場合の着色の度合いが高い濃縮果汁(No.1)と同程度になるように、5HMFを添加し、各濃縮果汁を白ワインに調製して(No.3)、300mLの瓶に充填し、37℃で1ヶ月間保存した。濃縮果汁中の5HMFの濃度、白ワイン中の2,5BHMFの濃度、及び白ワイン保存前後の着色度の変化量(ΔOD430)を調べた。結果を表3に示す。なお、上述のように、表3中、No.1は白ワインに調製して保存した場合の着色の度合いが強い濃縮果汁、No.2は白ワインに調製して保存した場合の着色の度合いが低い濃縮果汁、No.3はNo.2の濃縮果汁に5HMFを370ppm添加した濃縮果汁を示す。
表3
Figure 0006065177
1: 醗酵時における濃度を示す。
表3より明らかなように、白ワインとして調製して保存した場合に着色の度合いが低い濃縮果汁に、5HMFを添加した濃縮果汁から調製された白ワインは、白ワインとして調製して保存した場合に着色の度合いが高い濃縮果汁から調製された白ワインと同等程度に着色した。
<試験例4>
白ワイン中で2,5BMHF以外に単独で着色に寄与する成分や、2,5BMHFと相互作用して着色に寄与する成分を調べるため、モデルワイン系(アルコール度数11%、エキス分5%、及び酒石酸換算酸度5.5g/LでpH3.5)を用い、ワイン中に含まれることが知られている各成分を単独又は複数添加して保存試験を行った。
モデルワイン系に添加した各成分の種類と添加量を表4に示し、各成分を添加したモデルワイン系に2,5BHMFを添加した場合と添加しない場合における、100mLバイアル瓶に充填して37℃で1ヶ月間保存した場合の着色度の変化量(ΔOD430)を表5に示す。
表4
Figure 0006065177
表5
Figure 0006065177
表5から明らかなように、単独で添加する成分としては、プロシアニジンB1と2,5BHMFが白ワインの保存時における着色に寄与していることが分かる。また、リン酸水素二アンモニウム、カテキン、及びプロシアニジンB1は2,5BHMFの共存下での白ワインの保存時における着色に寄与していることが分かった。このため、2,5BHMFに加えてこれらの成分の含有量を低下させることにより、白ワインの保存時における着色を防止できることが分かる。

Claims (2)

  1. 濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、濃縮果汁中の5−ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の含有量が発酵時における濃度に換算して50ppmを越える場合に、当該濃縮果汁から製造された果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法。
  2. 濃縮果汁を使用して製造される果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法であって、果汁発酵飲料中の2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン(2,5BHMF)の含有量が50ppmを越える場合に、当該果汁発酵飲料の着色度(OD430)が、37℃で1ヶ月間保存後に0.1以上増加すると予測する果汁発酵飲料の保存時における着色の予測方法。
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