JP5120836B2 - 酒類の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、酒類の製造方法及びかかる製造方法により得られる酒類に関するものであり、詳しくは、酸化防止効果のある物質を添加する方法、及び必要あれば、シアン配糖体を含む果実を加熱する方法、及び/又は、低溶存酸素状態とする方法により、カルバミン酸エチル含有量を低減する酒類の製造方法及びかかる製造方法により得られる酒類に関する。
カルバミン酸エチルは、発がん性を有する可能性がある物質として知られており、一般に酒類に多く含まれている。酒類の中でもカルバミン酸エチルは、清酒、紹興酒、梅酒、フルーツブランデー及びバーボンウイスキーに多く含まれている(非特許文献1、2参照)。
清酒のカルバミン酸エチル低減法としては、その前駆物質である尿素を低減するウレアーゼを用いる方法(特許文献1参照)や尿素非生産性酵母を用いる方法(特許文献2参照)が広く使用されている。しかし、フルーツブランデーや梅酒中のカルバミン酸エチルは尿素ではなく、シアン配糖体を起源とするシアンから生成することが知られており、上記のような方法ではカルバミン酸エチルを低減することはできない。
特公昭56−20830号公報 特公平6−97993号公報 食品衛生研究、第45巻、69〜75頁 Proceedings of Euro Food Tox II、Zurich, 1986, 243〜248頁
梅酒をはじめとするシアン配糖体を含む果実を原料とする酒類においては、カルバミン酸エチルが生成する可能性があることが知られているので、これを低減する方法が求められている。また、これまでにない色香味をもつシアン配糖体を含む果実を原料とする酒類も求められている。
本発明の課題は、シアン配糖体を含む果実を原料とする酒類中のカルバミン酸エチルを低減する製造方法及びかかる酒類の製造方法から得られる酒類を提供することにある。
シアン配糖体は一般に果実中の仁に存在していることから、カルバミン酸エチルを低減するには、仁を除いて酒類を製造することが考えられる。しかしながら、実際に仁を取り除くには大変な手間がかかり、また、製成酒においてはベンズアルデヒド等のシアン配糖体由来の香味成分が減少するといった問題点も想定される。
本発明者らは、従来の製造方法とは全く別の発想で、梅酒をはじめとする酒類中のカルバミン酸エチル(エチルカーバメート、ウレタン)を低減すべく鋭意研究した結果、1)シアン配糖体を含む果実を加熱して製造に用いること、2)製造工程中に酸化防止効果のある物質を加えること、3)製造工程を低溶存酸素濃度で行うこと、の少なくともひとつにより問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らは、上記新規知見1)〜3)に基づいて新規にして有用な発明をそれぞれ完成するのに成功した。本件は、特に、新規知見2)に基づいて完成された発明について特許請求をするものである。
以下、順を追って説明することとする。しかしながら、新規知見1)、3)に基づく発明も、新規知見2)に基づく本件発明と関連しているため、そしてまた、本件発明の理解を容易にするため、新規知見1)〜3)に基づく発明について順次説明していくこととする。
本発明の酒類の製造方法によれば従来の製造方法による製品と比べて、発がん性を有する可能性があるカルバミン酸エチル含有量の少ない酒類を、複雑な操作を必要とせず、簡便な方法で製造することができる。
新規知見1)に基づく発明は、シアン配糖体を含む果実を加熱し、これを原料として酒類を製造することにより、カルバミン酸エチルを低減した酒類を製造することを重要なポイントとするものであって、次のような態様を包含するものである。
(1)シアン配糖体を含む果実を加熱し、これ(得られた加熱処理済み果実)を原料として用いることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(2)加熱方法が湯煎であることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(3)湯煎時の温度が70〜110℃であることを特徴とする上記(2)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(4)加熱方法が蒸気を用いる方法であることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(5)加熱時間が3〜30分であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(6)加熱の際に用いた及び/又は生じた水を仕込み原料として用いる上記(1)〜(5)のいずれかに記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載した方法によって製造してなることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類。
(8)シアン配糖体を含む果実を加熱処理することを特徴とするシアン配糖体を含む果実を原料とする酒類のカルバミン酸エチルを低減せしめる方法。
この発明に係る酒類の製造方法としては、シアン配糖体を含む果実を加熱して得られる果実を原料とする酒類の製造方法であれば、特に制限されない。原料として、シアン配糖体を含む果実を加熱して得られる果実を使用する以外は、常法にしたがって酒類を製造すればよく、その結果、カルバミン酸エチルが低減した酒類を得ることができる。
シアン配糖体を含む果実としては、梅、杏、ビワ、桃、チェリー、プラム等が1種又は2種以上使用することができ、加熱処理して使用する。
実際の製造に当っては、上記加熱処理した果実を使用するほかは常法にしたがって行えばよく、例えば次のようにして酒類を製造することができる。以下、梅酒(梅酒リキュールとも称される)の製造を例にとって、具体的に説明する。
加熱した梅をアルコール液(糖を含む場合もある)に浸漬し、必要な成分を浸出させればよく(浸出法)、加熱処理した青梅1kgを使用した場合の仕込配合は、35%焼酎(醸造アルコール(飲用アルコール)に加水して35%アルコール液としてもよい)1〜3L、氷砂糖0.5〜2kgで、これを1〜12ヶ月放置すればよい。もちろん、35%濃度以外の焼酎も使用可能であり、その場合は、35%焼酎の場合の仕込み配合を参考にして適宜配合を規定すればよい。
仕込み配合の例としては、次の例が挙げられる。但し、いずれにおいても、梅は秤量した後、加熱処理したものである。
(例1):冷凍梅 1.4kg、氷砂糖 0.7kg、アルコール 0.8L、水 1.6L
(例2):青梅 1kg、氷砂糖 1kg、35%焼酎 2L
(例3):青梅 1.8kg、白砂糖 0.6kg、焼酎 0.9L、みりん 0.5L、水 0.4L
加熱処理した果実を浸漬するアルコール液としては、酒類が使用される。酒類は、酒税法によるアルコール分1度以上の飲料を指し、ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類、清酒、果実酒(果実を原料として発酵させたもの)、その他の醸造酒、連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツ、合成清酒、みりん、甘味果実酒、リキュール、雑酒が包含される。
上記酒類としては、上記したものを単用してもよいし、2種以上併用してもよい。また、原料用アルコール、すなわち飲用アルコール又は醸造アルコールを添加してアルコール濃度を高めたり、あるいは、水、低アルコール飲料、ノンアルコール飲料から選ばれる少なくともひとつを添加してアルコール濃度を低下せしめたりして、アルコール濃度を調節してもよい。最終製品のアルコール濃度は、10〜40%が好適であり、通常は13〜20%であるが、好みに応じてこの範囲を逸脱しても格別の問題はない。
加熱処理した該果実を浸漬する酒類は、上記した酒類のみとしてもよいし、浸漬時に及び/又は浸漬後に、シアン配糖体を含まない果実、果汁、糖類、蜂蜜、色素、酸味料、甘味料、香料、上記した酒類の少なくともひとつを添加、併用してもよい。また、上記した酒類(原料用アルコールは除く)については、これを使用した場合、単用、併用の場合を問わず、使用した酒類の特徴を最終製品に残すことも可能である。
なお、本明細書においては、以降、該果実を浸漬するために使用する酒類(酒税法によって規定される酒類)については、これをアルコール液ということとし、最終製品を酒類ということとする。
この発明においては、シアン配糖体を含む果実を加熱処理することが必要である。加熱処理としては、湯煎、蒸気を用いる方法(例えば、蒸きょう)、熱風による乾燥加熱、電子レンジによる加熱等が例示されるが、これら例示に限定されることなく各種の加熱方法が適宜利用できる。加熱の温度は、湯煎の場合は、80〜110℃であることが好ましく、90〜110℃であることがより好ましい。それ以外の加熱方法の場合は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、湯煎の場合は水浴に残った液体、蒸きょうの場合は生じた凝縮水を用いて、仕込みを行ってもよい。湯煎時間は、3〜20分が好ましく、5〜15分が更に好ましいが、この範囲に限定されるものではない。他の加熱処理も、この条件をもとにして適宜規定すればよい。
このようにして加熱処理した該果実を使用するほかは常法にしたがえばよく、例えば、梅酒の製造にしたがい、該果実にアルコール液を混合し、つぼ又はびん等の容器に入れて(所望する場合は密閉し)、室温にて2〜3ヵ月放置すればよい。これをそのままあるいは果実を取り除いて密閉保存し、最終製品(梅酒あるいは梅酒リキュール)とする。そして、所望する時期に小さな容器にわけて販売に供する。
得られた最終製品は、アルコール濃度が12〜23%であり、カルバミン酸エチル含有量は50μg/L以下であり、30μg/L以下の場合も確認され、大幅に低下している。特に、参考例1に示したように、2ヶ月後のカルバミン酸エチル含有量は、対照84μg/Lに対して加熱処理した場合は痕跡量であって、本発明による効果がきわめて顕著であることが実証されている。
ここで、新規知見2)に基づく本件発明は、製造工程中に酸化防止効果のある物質を添加することにより、カルバミン酸エチルを低減した酒類を製造することを重要なポイントのひとつとするものであって、次のような態様を包含するものである。
(1)シアン配糖体を含む果実を原料とし、その製造工程中に原料であるシアン配糖体を含む果実以外の酸化防止効果のある物質を加えることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(2)酸化防止効果のある物質が、亜硫酸ガス、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩、ポリフェノール、アスコルビン酸、柿渋、果汁のいずれか1つ又はそれ以上であることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(3)酸化防止効果のある物質が、アルコール液(但し、原料アルコールを除く。また、酸化防止効果のないものが除かれることは当然である。)であることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(4)アルコール液が、ぶどう以外の果実を原料としたワイン及び/又はぶどうを原料としたワインであることを特徴とする上記(3)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。なお、ワインは、果実を原料として発酵させたもの、すなわち、果実酒を指すものである。
(5)ワインが酸化防止剤無添加及び/又は添加で製造されたものであることを特徴とする上記(4)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(6)アルコール液が麦を原料とした醸造酒であることを特徴とする上記(3)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(7)アルコール液が、麦を原料とした醸造酒及び/又はワインであり、更に、アルコール液(但し、麦を原料とした醸造酒(つまり、発酵をともなうもの)、ワイン及び果実リキュールを除く)と併用すること、を特徴とする上記(3)〜(6)のいずれか1項に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。なお、果実リキュールとは、果実をアルコール含有物に漬けて製造した酒類、例えば梅酒をいう。
(8)ワインを、アルコール液(ワインを除く)100容量部に対して、10〜10000容量部使用することを特徴とする上記(7)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。なお、容量とは、アルコール分20%(容量/容量)に換算したものをいう。
(9)上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載した方法によって製造してなることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類。
(10)シアン配糖体を含む果実を原料とし、その製造工程中に原料であるシアン配糖体を含む果実以外の酸化防止効果のある物質を添加すること、を特徴とする酒類のカルバミン酸エチルを低減せしめる方法。
本件発明に係る酒類の製造方法としては、製造工程中に、酸化防止剤、酸化防止効果を有する食品等の酸化防止効果のある物質を使用する方法であれば、特に限定されない。酸化防止剤を使用する以外は常法にしたがって酒類を製造すればよく、その結果、カルバミン酸エチルを低減した酒類を得ることができる。
酸化防止剤としては、亜硫酸ガス、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、同カリウム等)、ピロ亜硫酸塩(ピロ亜硫酸ナトリウム、同カリウム等)、ポリフェノール、アスコルビン酸、柿渋、タンニン、果汁が単用又は2種以上が併用される。なお、酸化防止方法としては、酸化防止剤を直接添加する方法のほか、酸化防止剤を含有する飲食品(例えば、酸化防止剤を添加したワイン等)を添加する方法、つまり間接的に酸化防止剤を添加する方法も可能である。
また、近年では、消費者の健康志向が高まっており、食品添加物を使用した食品にはマイナスイメージがある。食品添加物を使用しない方法としては酸化防止効果のある食品を用いる方法もあり、果汁、ワイン、ビール、発泡酒を用いることができる。例えば、ぶどうを原料としたワインには抗酸化成分であるポリフェノールが含まれており、ワインを使用することができる。ワインとしては、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、酒精強化ワインのいずれでもよく、酸化防止剤を使用して製造されたものでも、酸化防止剤を使用せずに製造されたものでもよい。ビールは、上面発酵ビールでも、下面発酵ビールでもよく、淡色ビール、中濃色ビール、濃色ビールのいずれでもよい。ワイン、ビール、発泡酒の酒類を用いることにより、カルバミン酸エチルが低減され、かつ、新たな色香味を有する酒類を製造することが可能となる。
酸化防止剤(酸化防止効果のある物質の代表例として、酸化防止剤を例にとって説明する)の添加時期は、酒類の製造工程であれば特に限定されない。例えば、原料仕込み時、熟成期間中、保存期間中のいずれでもよい。酸化防止剤は、その全量をこれらの時期のひとつにおいて一度に添加してもよいし、いくつかにわけてこれらの時期の2つ以上の時期に添加してもよい。また、新規知見1)及び/又は3)に基づく発明と結合してもよい。
本件発明を実施するには、酸化防止剤を添加することを除き、他は常法によればよく、既述した方法によってもよい。得られた最終製品は、アルコール濃度は従来製品と変わるところがないが、カルバミン酸エチル含有量は大幅に低下する。
カルバミン酸エチル含有量は、使用する酸化防止剤の種類によるが、対照(無添加)の場合が206μg/Lであるのに対して、10〜151μg/Lであり、10〜100μg/L、16〜77μg/Lの場合も確認されており、5〜20μg/Lの場合も充分に可能であり、この範囲以下の場合も期待することができる。
更にまた、新規知見3)に基づく発明は、製造工程を低酸素条件下で行うことにより、カルバミン酸エチルを低減した酒類を製造することを重要なポイントのひとつとするものであって、次のような態様を包含するものである。
(1)シアン配糖体を含む果実を原料とし、その製造工程を低酸素条件下で行うことを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(2)液体中の溶存酸素濃度を低減せしめることにより低酸素条件とすることを特徴とする上記(1)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(3)製造装置の空間部及び/又は各種容器の空間部の酸素を低減せしめることにより低酸素条件とすることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(4)溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とすることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の酒類の製造方法を40℃以上で行うことを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の酒類の製造方法において、低酸素条件を6ヶ月以上とすることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の酒類の製造方法において、ペントースを用いることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の酒類が、製造工程中の酒類及び/又は製造した後の酒類であること、を特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(9)上記(5)、(6)、(8)のいずれか1項において、さらに、酒類を着色するものであること、を特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(10)酒類の製造方法において果実を分離した液体部分のみを上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法でおこなうことを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(11)販売用容器に充填した上記(1)〜(10)のいずれかに記載の方法で製造した酒類の溶存酸素濃度及び/又はヘッドスペースの酸素濃度を低減させた状態で保つことを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類の製造方法。
(12)上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載した方法によって製造してなることを特徴とするカルバミン酸エチルを低減した酒類。
(13)シアン配糖体を含む果実を原料とし、その製造工程を低酸素条件下で実施することを特徴とする酒類のカルバミン酸エチルを低減せしめる方法。
(14)なお、この発明は、酒類の製造後(完成後)の酒類に当該処理を施すことも包含するものである。また、この発明は、酒類の製造中(製造工程中、製造過程中)に当該処理を施すことも包含するものである。
この発明に係る酒類の製造方法としては、製造工程を低酸素条件下で実施する方法であれば、特に限定されない。例えば、(A)原料、原料の配合混合物、熟成中のもの、製造された酒類、保存中の酒類から選ばれる少なくともひとつの液体中の溶存酸素を低減させたり、及び/又は、(B)これら液体を入れた容器のヘッドスペースの酸素を低減したり脱酸素処理や脱気処理をすればよい。
(A)の場合、インラインミキサーにより不活性ガスを混入する方法がある。具体的には、スタティックミキサー(株式会社 ノリタケカンパニーリミテド製)を用いることができる。
液体中の溶存酸素濃度は、可及的低濃度が好適であって、0.5mg/L以下、例えば0.1mg/L以下が好ましく、0.05mg/L以下がより好ましい。
(B)の場合、ヘッドスペースを脱気したり、不活性ガス(例えば、炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)で置換したりして、ヘッドスペースの酸素を可及的に低減させればよく、例えば酸素濃度を0.5mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下とすればよい。また、(B)の場合、脱酸素剤を用いることができる。脱酸素剤としては、鉄粉やカテコールを使用することができ、市販品も適宜使用可能である。市販品としては、例えばアネロパック(商品名:三菱ガス化学株式会社製:有効成分鉄粉)を使用することができる。これらの内の少なくともひとつの方法と先に述べた液体中の溶存酸素低減処理(A)とを併用すれば更に有効であり、また、製造設備、製造装置等の製造プラント全体を不活性ガス置換や脱気処理して低酸素状態とすればそのうえ更に有効である。
通常、梅酒等の酒類は、淡黄色〜黄色〜褐色に着色している。しかしながら、低酸素条件(液体中の溶存酸素濃度を低減し、所望するのであれば空間部の酸素濃度を低減した条件)で製造した酒類は、その色が薄くなることがある。その場合には、該酒類を低酸素条件のまま6ヶ月以上、好ましくは9ヶ月以上、より好ましくは1年以上貯蔵することで着色を進めてもよい。また、溶存酸素を低く保ったまま果実等の固形分と液体を分離せず、または分離した液体分のみを加熱することで着色を進めてもよい。加熱温度は40℃以上、例えば60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。また、ヘキソースよりも着色が起りやすいペントースを用いることで着色を進めることもできる。さらに、カラメル色素等の着色料、ウイスキー、ブランデー、ビール、清酒、樽貯蔵焼酎、みりん、ワイン等の着色のある酒類を用いて着色することもできる。
上記した着色処理(貯蔵処理、加熱処理、ペントース処理のすくなくともひとつ)は、酒類の製造工程中の酒類及び/又は一旦製造された酒類に対して適用することができる。また、その際、着色処理は、果実等の固形分と液体を分離することなく行ってもよいし、あるいは、分離した液体部分について行ってもよい。したがって、この発明は、着色した(例えば、通常の梅酒と同程度に着色した)酒類の製造方法を提供するものであり、また、酒類の着色方法も提供するものである。
したがって、この発明は、低酸素条件下で酒類を一旦製造した後、さらに、当該酒類に対して上記した着色処理を行って酒類を製造する方法も包含するものである。カルバミン酸エチル低減化のために行う低酸素処理の結果、本来梅酒等が有していた着色が消失ないし低減する現象は、本発明者らによってはじめて見出されたものである。したがって、当然のことながら、この現象(問題点)を解決するのに成功したこの発明は、まさに新規でありしかも卓越したものである。また、換言すれば、この発明は、上記した着色処理による酒類の着色方法も新たに提供するものである。
この発明を実施するには、低酸素条件とする点を除き(あるいは更に、加熱処理、アラビノースやキシロースといったペントースを添加する処理を除き)、他は常法によればよく、例えば既述した方法によればよい。得られた最終製品は、カルバミン酸エチル含有量が低く、また、更に加熱処理した製品は着色度が高まり、通常の梅酒と同程度の着色度が得られた。したがって、この発明は、製造した酒類について、50〜70℃、好ましくは55〜65℃での加熱処理(5〜15日間、例えば7〜11日間)による着色方法にも関するものである。低酸素条件では梅酒等の酒類の色が薄くなるので、この発明はその防止策及び/又は回復策として有効である。
カルバミン酸エチルの含有量は、低酸素条件にもよるが、対照の場合が239μg/Lであるのに対して、50μg/L以下であり、20〜40μg/Lの場合も確認されており、10〜20μg/L以下の場合も充分に可能である。
以上、新規知見1)、2)、3)に基づく発明について、それぞれ個別に説明したが、所望するのであれば、これらの発明を2つあるいは3つ結合してもよい。
以下、実施例、参考例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
(参考例1)
以下、果実を加熱して酒類を製造する方法について、梅酒を例に示す。仕込配合は、表1に示すとおりである。水162mlを容器に入れて沸騰させてから冷凍梅140gを投入し、そのまま、10分間加熱を行った。その後、容器ごと冷却して室温に戻し、アルコール88ml、氷砂糖70gを混合し2ヶ月間25℃で保存した。2ヶ月後のカルバミン酸エチル含有量は、対照84μg/Lに対して加熱法は痕跡量であった。なお、梅酒中のカルバミン酸エチルの分析法は発明者らが考案した方法(日本醸造協会誌、第101巻、519〜525頁)に準じて行った。
Figure 0005120836
(実施例1)
以下、酸化防止効果のある物質を添加して酒類を製造する方法について、梅酒を例に示す。仕込配合は、冷凍梅200g、氷砂糖100g、各種酸化防止剤を添加した35%アルコール360mlとした。なお、ワイン(ブドウ酒)は酸化防止剤不使用のものを用いており、ワインを添加する場合には、ワインを混合後のアルコール分が35%となるようアルコールの量を調整した。仕込後、2ヶ月間30℃で保存し、カルバミン酸エチル含有量を分析したところ、表2に示すとおり、酸化防止効果のある物質を添加した場合は、いずれもカルバミン酸エチル含有量が低下した。ピロ亜硫酸カリウムや赤ワインを添加した場合、対照の約半分以下のカルバミン酸エチル含有量とすることができた。ただし、食品衛生法におけるリキュールに対するピロ亜酸カリウムの残存量はSO2として30ppmとされている。なお、酸化防止効果のある物質の割合は、すべて、梅、氷砂糖添加前の溶液に対する割合である。
Figure 0005120836
(参考例2)
以下、製造工程を低溶存酸素濃度とすることにより酒類を製造する方法について、梅酒を例に示す。仕込配合は、冷凍梅200g、氷砂糖100g、35%アルコール360mlとした。低溶存酸素条件とする仕込は、仕込直後に容器ごと酸素を透過しないパウチ袋に入れ、市販の脱酸素剤であるアネロパック(三菱ガス化学株式会社製)を用いて密閉し低溶存酸素とし、30℃で保存した。なお、ヘッドスペースの酸素濃度は、嫌気指示薬(三菱ガス化学株式会社製)により0.1%以下であることを確認した。対照は、脱酸素剤を用いず、それ以外の条件は同じにして行った。3ヶ月後のカルバミン酸エチル含有量は表3に示すとおりであり、低溶存酸素条件下においては大幅に低減された。また、低溶存酸素条件下で製造した梅酒は、色が薄くフレッシュな香味のこれまでにないタイプのものであった。
Figure 0005120836
(参考例3)
以下、参考例2で製造した酒類について、液部のみを加熱する製造方法について、梅酒を例に示す。参考例2の低溶存酸素条件下で製造した梅酒をヘッドスペースがなくなるよう容器一杯に入れ密栓し、これを60℃で7〜11日間加熱した。対照は冷蔵庫に保存した。加熱した梅酒及び対照について、分析値を表4に示す。なお、着色度については、国税庁所定分析法に従って分析を行った。この方法によりカルバミン酸エチル含有量を低減し、通常の梅酒と同程度の着色度である梅酒を製造することができた。
Figure 0005120836
上述のごとく、本発明の酒類の製造方法によれば、シアン配糖体を含む果実を原料とする酒類に含まれるカルバミン酸エチルを低減することが可能となる。また、低溶存酸素条件下で製造を行えば、従来の製品とは異なる色香味を持つ酒類を製造することができる。また、赤ワイン等の酒類を添加すれば、カルバミン酸エチルを低減し、かつ、新たな香味の酒類を製造することが可能となる。このように、産業上利用効果が大である。

Claims (6)

  1. シアン配糖体を含む果実を原料とし、その原料仕込み時に酸化防止効果のある物質として亜硫酸ガス、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩、ポリフェノール、アスコルビン酸、柿渋、シアン配糖体を含む果実以外の果汁のいずれか1つのみを加え、25〜30℃で2ヶ月間保存することを特徴とする、シアン配糖体を含む果実を原料とするリキュールのカルバミン酸エチルを低減せしめる方法。
  2. シアン配糖体を含む果実を原料とし、その原料仕込み時に原料であるシアン配糖体を含む果実以外を原料とした酸化防止剤無添加の醸造酒を加え、25〜30℃で2ヶ月間保存することを特徴とする、シアン配糖体を含む果実を原料とするリキュールのカルバミン酸エチルを低減せしめる方法。
  3. 醸造酒が、ぶどう以外の果実を原料としたワイン及び/又はぶどうを原料としたワインであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
  4. 醸造酒が麦を原料とした醸造酒であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
  5. 更に、アルコール液(但し、麦を原料とした醸造酒(つまり、発酵をともなうもの)、ワイン及び果実リキュールを除く)と併用すること、を特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
  6. ワインを、アルコール液(但し、麦を原料とした醸造酒(つまり、発酵をともなうもの)、ワイン及び果実リキュールを除く)100容量部に対して、10〜10000容量部使用することを特徴とする請求項5に記載の方法。
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