以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が搭載されたハイブリッド車両1(以下、単に車両1という)を示す。この車両1は、所謂シリーズ型ハイブリッド車両であって、エンジン10と、回転軸が該エンジン10の出力軸(後述のエキセントリックシャフト13)に連結されていて、エンジン10を駆動して始動させかつ該始動後のエンジン10により駆動されて発電するモータジェネレータ20と、このモータジェネレータ20によって発電された電力が蓄電(充電)される高電圧・大容量のバッテリ30と、エンジン10に駆動されることによるモータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力(放電電力)のうちの少なくとも一方の電力で駆動される走行用モータ40とを備えている。
モータジェネレータ20、バッテリ30及び走行用モータ40の間には、インバータ50が設けられている。このインバータ50を介して、モータジェネレータ20の発電電力が、バッテリ30及び/又は走行用モータ40に供給されるとともに、バッテリ30からの放電電力が、モータジェネレータ20及び/又は走行用モータ40に供給される。
走行用モータ40は、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30からの放電電力の少なくとも一方が供給されることにより駆動される。この走行用モータ40の駆動力が、デファレンシャル装置60を介して、駆動輪としての左右の前輪61に伝達され、これにより、車両1が走行する。尚、走行用モータ40は、車両1の減速時には、ジェネレータとして作動して、その発電した電力がバッテリ30に充電される。また、バッテリ30は、車両1の外部の電源による外部充電が可能である。
エンジン10は、モータジェネレータ20による発電用にのみ使用される。エンジン10は、本実施形態では、水素タンク70に貯留されている水素ガスが、燃料として供給される水素エンジンである。
図2に示すように、エンジン10は、ツインロータ式(2気筒)のロータリピストンエンジンであって、2つの繭状のロータハウジング11内(気筒内)に形成されるロータ収容室11aに、概略三角形状のロータ12がそれぞれ収容されて構成されている。2つのロータハウジング11は、3つのサイドハウジング(図示せず)の間に挟み込むようにして該サイドハウジングと一体化されてなり、各ロータハウジング11とその両側のサイドハウジングとで各ロータ収容室11aが形成される。尚、図2では、2つのロータハウジング11(2つの気筒)を展開した状態で図示しており、2つのロータハウジング11内の中央部にそれぞれ描いているエキセントリックシャフト13は、同じものである。
上記各ロータ12は、その三角形の各頂部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に摺接しており、このことで、各ロータ12により各ロータ収容室11a(各気筒内)に3つの作動室(燃焼室に相当)が画成される。そして、各ロータ12は、該ロータ12の3つのアペックスシールが各々ロータハウジング11のトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト13の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト13の軸心の周りに公転するようになっている。ロータ12が1回転する間に、該ロータ12の各頂部間にそれぞれ形成された作動室が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ12を介して出力軸としてのエキセントリックシャフト13から出力される。
上記各ロータ収容室11aには、吸気行程にある作動室に連通するように吸気通路14が連通しているとともに、排気行程にある作動室に連通するように排気通路15が連通している。吸気通路14は、上流側では1つであるが、下流側では、2つの分岐路に分岐してそれぞれ上記各ロータ収容室11aに連通している。吸気通路14の上記分岐部よりも上流側には、ステッピングモータ等のスロットル弁アクチュエータ90により駆動されて吸気通路14の断面積(弁開度)を調節するスロットル弁16が配設されている。吸気通路14の上記分岐部よりも下流側の各分岐路には、上記水素タンク70から供給された水素(燃料)を吸気通路14内に噴射する予混合用インジェクタ17が配設されている。この予混合用インジェクタ17により噴射された水素は空気と混合された状態(予混合状態)で、吸気行程にある作動室に供給される。
上記排気通路15は、上流側では、各ロータ収容室11にそれぞれ連通するように2つ設けられているが、下流側では、1つに合流されている。この排気通路15の該合流部よりも下流側には、排気ガスを浄化するための排気ガス浄化触媒80が配設されている。この排気ガス浄化触媒80は、本実施形態では、NOx吸蔵還元触媒とされている。尚、図2において吸気通路14及び排気通路15に図示した矢印は、吸気及び排気の流れを示している。
上記各ロータハウジング11(各気筒)には、上記水素タンク70から供給された水素(燃料)をロータ収容室11内(気筒内)に直接噴射する直噴用インジェクタ18と、上記予混合用インジェクタ17又は直噴用インジェクタ18より噴射された水素の点火を行う点火プラグ19とが設けられている。
予混合用インジェクタ17は、後述のエンジン水温センサ106により検出されたエンジン冷却水の温度(エンジン水温)が、予め設定された設定温度よりも低いときに作動する。一方、直噴用インジェクタ18は、上記エンジン水温が上記設定温度以上であるときに作動する。これは、上記エンジン水温が上記設定温度よりも低いときには、燃料(水素)が燃焼した際に生じる水蒸気が直噴用インジェクタ18の噴口において氷結して該噴口が塞がれる場合があるからである。また、ロータハウジング11のトロコイド内周面に付着した氷が、ロータ12のアペックスシールによって直噴用インジェクタ18の噴口内に掻き込まれ、このことによっても直噴用インジェクタ18の噴口が塞がれる場合がある。このように直噴用インジェクタ18の噴口が塞がれると、ロータ収容室11内に供給される燃料量が不足する。そこで、上記氷結によるロータ収容室11内への供給燃料量の不足を防止するべく、上記エンジン水温が、直噴用インジェクタ18の噴口で氷結が生じるような温度にあるときには、予混合用インジェクタ17により燃料の噴射を行う。上記エンジン水温が上記設定温度以上になれば、直噴用インジェクタ18の噴口内の氷が溶けるとともに、燃料(水素)が燃焼した際に生じる水蒸気が氷結することもないので、空気の充填率を高めて高トルクが得られるように直噴用インジェクタ18から水素を噴射する。
ここで、エンジン10の始動時においては、その前のエンジン停止直前のエンジン水温が、通常は、上記設定温度以上であり、そのエンジン停止直前に発生した水蒸気は蒸発しているので、始動時における上記エンジン水温が上記設定温度よりも低くても、直噴用インジェクタ18の噴口内に氷が存在する可能性は低い。そこで、エンジン10の始動性を高めるべく、直噴用インジェクタ18から燃料を噴射する。そして、エンジン10の始動後においても、上記エンジン水温が上記設定温度よりも低い場合には、直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17に切り換えることになる。
尚、本実施形態では、予混合用インジェクタ17は各分岐路において1つしか設けられていないが、直噴用インジェクタ18は、各ロータハウジング11において、エキセントリックシャフト13の軸方向(図2の紙面に垂直な方向)に2つ並んで配設されている(図2では、1つしか見えていない)。
車両1には、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧を検出するバッテリ電流・電圧センサ101と、車両1のドライバによるアクセルペダルの踏み込み量(ドライバの操作によるアクセル開度)を検出するアクセル開度センサ102と、車両1の車速を検出する車速センサ103と、エキセントリックシャフト13に設けられ、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出する回転角センサ104(エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサを兼ねる)と、エンジン10の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ105と、ロータハウジング11の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に臨んで該ウォータジャケット内を流れるエンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出するエンジン水温センサ106(エンジン水温検出手段)と、水素タンク70内の圧力(つまり水素タンク70内の水素残量)を検出するタンク圧力センサ107と、吸気通路14内に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサ108と、バッテリ30の温度を検出するバッテリ温度センサ109と、エンジン10の作動制御や、インバータ50の作動制御(つまりモータジェネレータ20及び走行用モータ40の作動制御)等を行うコントロールユニット100(制御手段)とが設けられている。
コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。コントロールユニット100には、バッテリ電流・電圧センサ101、アクセル開度センサ102、車速センサ103、回転角センサ104、空燃比センサ105、エンジン水温センサ106、タンク圧力センサ107、エアフローセンサ108、バッテリ温度センサ109等からの各種信号が入力されるようになっている。
そして、コントロールユニット100は、上記入力信号に基づいて、スロットル弁アクチュエータ90、ポート噴射用インジェクタ17、直噴用インジェクタ18、点火プラグ19に対して制御信号を出力してエンジン10を制御するとともに、インバータ50に対して制御信号を出力してモータジェネレータ20及び走行用モータ40を制御する。
コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態と、エンジン10による駆動により発電して該発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態とに切り換えることが可能になっている。そして、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時には、モータジェネレータ20の作動状態を上記駆動状態としてエンジン10を始動し、エンジン10の始動後には、上記発電状態に切り換える。尚、モータジェネレータ20を、エンジン10を駆動もせずかつ発電もしない空回り状態にすることも可能である。
また、コントロールユニット100は、バッテリ電流・電圧センサ101により検出された、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基づいて、バッテリ30の充電率(SOC)を検出し、このバッテリ30のSOCと、バッテリ温度センサ109により検出されたバッテリ30の温度とに基づいて、例えば図3に示すような、コントロールユニット100の上記メモリに記憶されているマップ(図3のマップに記載されている温度は、バッテリ30の温度である)から、バッテリ30に充電することが可能な電力である充電可能電力Pinを検出する。このことで、バッテリ電流・電圧センサ101、バッテリ温度センサ109及びコントロールユニット100は、バッテリ30の充電可能電力Pinを検出する充電可能電力検出手段を構成することになる。図3から分かるように、バッテリ30の充電可能電力Pinは、バッテリ30のSOCが高い場合に低くなるとともに、バッテリ30の温度が第1所定範囲外にある場合(例えば−10℃以下の低温や60℃以上の高温である場合)には、0ないしそれに近い値になる。
尚、バッテリ30から放電することが可能な電力である放電可能電力は、充電可能電力Pinとは逆に、バッテリ30のSOCが小さい場合に低くなる。また、バッテリ30の温度に対しての放電可能電力は、充電可能電力Pinと同様の傾向にあり、バッテリ30の温度が第2所定範囲外にある場合に、0ないしそれに近い値になる。
さらに、インバータ50は、走行用モータ40の駆動を、バッテリ30からの放電電力のみでもって行う態様1と、モータジェネレータ20からの発電電力のみでもって行う態様2と、バッテリ30及びモータジェネレータ20の両方からの電力でもって行う態様3とに切換えることができる機能を持っている。この機能により、コントロールユニット100は、バッテリ30のSOCが高い場面では、態様1を優先的に使用してSOCを低下させ、SOCが低い場面では、態様2を優先的に使用してSOCを維持させることが可能になる。ここでの態様2とは、発電電力が全て走行用モータ40で消費される場合と、発電電力が走行用モータ40での消費とバッテリ30の充電との両方に使われる場合とがある。SOCを維持しながら走行する場合には、低車速域では態様1で走行し、高車速域では態様2を選択して走行用モータ40の出力よりも多くの電力を発電しながら走行するように、エンジン10の発電用始動停止制御を行うことも可能である。また、態様3の場面としては、アクセル開度センサ102等からの入力情報に基づくドライバの加速要求が非常に大きい場面が挙げられる。
コントロールユニット100は、エンジン10の停止中に、エンジン10を始動させる必要があったときには、モータジェネレータ20を駆動することによってエンジン10を回転させながら(クランキングしながら)、該エンジン10において燃料(水素)の噴射及び該噴射された燃料の点火を行うことで、該エンジン10を始動させる。こうしてエンジン10のトルクが発生すると、モータジェネレータ20の作動状態が上記発電状態となって、モータジェネレータ20により発電が行われる。
ここで、エンジン10の始動時には、モータジェネレータ20による発電電力が生じ易い。すなわち、図4に示すように、モータジェネレータ20によるエンジンのクランキング時に、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルク(モータジェネレータトルク)が正の値で増大していくが、エンジン10がトルクを発生し始めるとモータジェネレータ20を駆動し始めることになり、やがてモータジェネレータトルクは0を超えて負の値となり、モータジェネレータトルクが負の値となったときからモータジェネレータ20による発電電力が生じる。上記負の値の絶対値が、予め設定された設定値に達したときに、エンジン10が自立的に回転したと判断して、モータジェネレータ20によるエンジン10の駆動を停止し、このときに、モータジェネレータ20を空回り状態にすれば、モータジェネレータ20による発電電力が0になり(図4参照)、また、エンジン10のトルクが上昇してモータジェネレータトルクが小さくなれば(負の値の絶対値が大きくなれば)、モータジェネレータ20の回転数とトルクとに基づいた発電電力が発生することになる。尚、上記モータジェネレータトルクは、インバータ50からコントロールユニット100に送信された、モータジェネレータ20に流れる電流(駆動電流又は発電電流)及びモータジェネレータ20にかかる電圧の情報に基づいて、コントロールユニット100が算出する。
車両1には、上記エンジン冷却水を利用して車室内を暖房する暖房装置を含む空調装置が設けられている。本実施形態では、上記空調装置は、上記暖房装置に加えて、バッテリ30の放電電力及びモータジェネレータ20による発電電力のうちの少なくとも一方の電力で作動する電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82を含む(図1参照)。これら電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82は、バッテリ30とインバータ50との接続ライン(高電圧ライン)に接続される。
コントロールユニット100は、上記エンジン水温に基づいてエンジン10の暖房用始動停止制御を実行する。このエンジン水温に基づくエンジン10の始動完了後、エンジン10はアイドル回転とされ、モータジェネレータ20は空回り状態とされる。上記暖房用始動停止制御は、上記の如く検出されたバッテリ30の充電可能電力Pinが所定値以下であるときと、該所定値よりも大きいときとで異なっている。
具体的に、上記充電可能電力Pinが上記所定値よりも大きいときにおいては、図5に示すように、エンジン10の停止中に、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン水温が、予め設定された第1下限温度T1以下になったときに、モータジェネレータ20の駆動によりエンジン10を始動させる一方、エンジン10の運転中に、上記エンジン水温が、上記第1下限温度T1よりも高い値に予め設定された第1上限温度T2以上になったときに、エンジン10を停止させる。上記第1下限温度T1は、上記エンジン水温が該第1下限温度T1を下回ると、上記暖房装置による暖房性能を十分に確保することが困難な温度(例えば、30℃)である。一方、上記第1上限温度T2は、高すぎると、発生した熱を無駄に放出してしまい、低すぎると、エンジン10の始動の頻度が多くなって、クランキング等により電力を余分に消費するので、これらを考慮して適切な値に設定される(例えば、45℃)。
上記のようにエンジン10の始動時には、始動完了後にモータジェネレータ20を空回り状態にしたとしても、それまでの発電は避けることができない。このようにエンジン10の始動に伴ってモータジェネレータ20により発電電力が発生する。そして、上記充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときに、そのようなエンジン始動に伴う発電電力をバッテリ30に供給するようにすると、充電可能電力Pinよりも高い電力がバッテリ30に供給されることがある。そこで、本実施形態では、上記充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときには、エンジン冷却水の温度が第1下限温度T1を下回らないようにしながら、エンジン始動に伴う発電電力がバッテリ30に供給される頻度を出来る限り低下させるようにしている。
具体的に、上記充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときにおいては、エンジン10の停止中に、上記エンジン水温が、第1下限温度T1よりも高くかつ第1上限温度T2よりも低い値に設定された第2下限温度T3以下になったときに、エンジン10の始動に伴ってモータジェネレータ20により発生する発電電力を、所定の車載電装品が消費可能な状態にないときには、遅延制御を実行してエンジン10を始動させる。すなわち、上記エンジン水温が上記第2下限温度T3以下になっても、エンジン10を即座に始動するのではなく、エンジン10の始動を遅らせる。
上記所定の車載電装品は、エンジン始動に伴う発電電力を消費しながら作動可能な車載電装品であって、本実施形態では、走行用モータ40、電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82である。車両1が停車中である場合のように走行用モータ40が駆動トルクを出力していない場合には、エンジン始動に伴う発電電力を走行用モータ40が消費することはできない。また、電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82が電力を消費して作動していないときには、エンジン始動に伴う発電電力を電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82が消費することはできない。このようにこれらが電力を消費して作動していないときには、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にはないということになる。一方、車両1が走行して走行用モータ40が駆動トルクを出力しているとき、又は、電動コンプレッサ81若しくはPTCヒータ82が電力を消費して作動しているときには、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にあるということになる。尚、上記所定の車載電装品としては、エンジン始動に伴う発電電力を消費しながら作動可能なものであれば、どのような車載電装品であってもよく、このような車載電装品として走行用モータ40しか有していない車両である場合には、走行用モータ40のみが上記所定の車載電装品とされる。また、本実施形態のように、走行用モータ40以外に、エンジン始動に伴う発電電力を消費しながら作動可能な車載電装品を有する車両で、その車載電装品(例えばPTCヒータ82)のみを上記所定の車載電装品としてもよい。
上記遅延制御は、図6に示すように、上記エンジン水温が第2下限温度T3になったときから所定時間tが経過するまでの間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にならないときには、上記所定時間tが経過したときに、エンジン10を始動させる一方、上記の間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態になったときには、該消費可能な状態になった時点で、エンジン10を始動させる制御である。図6は、上記の間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にならなかった場合を示す。上記所定時間tは、上記エンジン水温が第2下限温度T3になったときから第1下限温度T1になるまでの時間と略同じに設定している。これにより、上記所定時間tが経過したときの上記エンジン水温は、基本的に、第1下限温度T1に略等しくなる。この結果、エンジン水温が第1下限温度T1を下回らないようにすることができ、上記暖房装置による暖房性能を確保することができる。
上記所定時間tが経過するまでの間に、例えば車両1が走行してエンジン始動に伴う発電電力を走行用モータ40が消費可能な状態になる可能性があり、このような状態になれば、エンジン10を始動しても、エンジン始動に伴う発電電力を走行用モータ40に供給することができる。したがって、上記遅延制御により、エンジン始動に伴う発電電力がバッテリ30に供給される頻度が低下する。
上記所定時間tを長く設定すれば、所定時間tが経過するまでの間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態になる可能性が高くなる。一方、所定時間tが長すぎると、第2下限温度T3を高くする必要があり、燃費の悪化が懸念される。これらのことを考慮して所定時間tを適切に設定する。例えば所定時間tは30秒とし、第2下限温度T3を35℃とする。
上記充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときにおいて、エンジン10の運転中に、上記エンジン水温が、上記第2下限温度T3よりも高い値に予め設定された第2上限温度T4以上になったときには、エンジン10を停止させる(図6参照)。本実施形態では、第2上限温度T4は、第1上限温度T2よりも高い値に設定される。こうすることで、エンジン水温が高い状態でエンジンが停止されるので、エンジン停止中にエンジン水温が第2下限温度T3以下になり難くなり、この結果、エンジン始動に伴う発電電力がバッテリ30に供給される頻度がより一層低下する。第2上限温度T4が高くなりすぎると、燃費の悪化が懸念されるので、第2上限温度T4は、第2下限温度T3と第1下限温度T1との差を、第1上限温度T2に加えた値とするのがよい。尚、第2上限温度T4は、第2下限温度T3よりも高い値であれば、第1上限温度T2と同じ値か又は第1上限温度T2よりも低い値であってもよいが、エンジン停止中にエンジン水温が第2下限温度T3以下になり難くするべく、第1上限温度T2よりも高い値にする方がよい。
本実施形態では、上記遅延制御において、上記エンジン水温が第2下限温度T3になったときから所定時間tが経過するまでの間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にならないときには、上記所定時間tが経過したときに、エンジン10を始動させるようにしたが、これに代えて、上記エンジン水温が第2下限温度T3になったときから第1下限温度T1になるまでの間に、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にならないときには、上記エンジン水温が上記第1下限温度T1以下になったときに、エンジン10を始動させるようにしてもよい。
上記充電可能電力が上記所定値以下であるときにおいて、エンジン10の停止中に、上記エンジン水温が第2下限温度T3以下になったときに、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にあるときには、上記遅延制御を実行しないで上記エンジンを始動させる(図7参照)。上記遅延制御を実行した場合と同様に、上記充電可能電力が上記所定値以下であるときにおいて、エンジン10の運転中に、上記エンジン水温が、上記第2上限温度T4以上になったときには、エンジン10を停止させる。
ここで、コントロールユニット100によるエンジン10の暖房用始動停止制御の処理動作を、図8のフローチャートに基づいて説明する。
最初のステップS1で、暖房装置が作動中であるか否かを判定し、このステップS1の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS1の判定がYESであるときには、ステップS2に進む。
ステップS2では、バッテリ30のSOCと、バッテリ温度センサ109により検出されたバッテリ30の温度とに基づいて、図3のマップから充電可能電力Pinを検出する。
次のステップS3で、上記検出した充電可能電力Pinの値に応じて、暖房用始動停止制御におけるエンジン10の始動及び停止のためのエンジン水温下限閾値及び上限閾値を設定する。すなわち、充電可能電力Pinが上記所定値よりも大きいときには、上記下限閾値を第1下限温度T1に、上記上限閾値を第1上限温度T2にそれぞれ設定し、充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときには、上記下限閾値を第2下限温度T3に、上記上限閾値を第2上限温度T4にそれぞれ設定する。
次のステップS4では、エンジン10が運転中であるか否かを判定し、このステップS4の判定がYESであるときには、ステップS5に進む一方、ステップS4の判定がNOであるときには、ステップS7に進む。
上記ステップS5では、エンジン水温が、上記設定された上限閾値(充電可能電力Pinが上記所定値よりも大きいときには、第1上限温度T2であり、充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときには、第2上限温度T4である)以上であるか否かを判定する。
上記ステップS5の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS5の判定がYESであるときには、ステップS6に進んで、エンジン10を停止させ、しかる後にリターンする。
ステップS4の判定がNOであるときに進むステップS7では、上記充電可能電力Pinが上記所定値以下であるか否かを判定する。このステップS7の判定がNOであるときには、ステップS8に進んで、エンジン水温が、上記設定された下限閾値(つまり第1下限温度T1)以下であるか否かを判定する。このステップS8の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS8の判定がYESであるときには、ステップS12に進む。
ステップS7の判定がYESであるときには、ステップS9に進んで、エンジン水温が、上記設定された下限閾値(つまり第2下限温度T3)以下であるか否かを判定する。このステップS9の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS9の判定がYESであるときには、ステップS10に進む。
ステップS10では、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にあるか否かを判定する。このステップS10の判定がYESであるときには、ステップS12に進む一方、ステップS10の判定がNOであるときには、ステップS11に進む。
ステップS11では、エンジン水温が第2下限温度T3になったときから所定時間tが経過したか否かを判定する。このステップS11の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS11の判定がYESであるときには、ステップS12に進む。
ステップS8の判定がYESであるとき、ステップS10の判定がYESであるとき、及び、ステップS11の判定がYESであるときに進むステップS12では、エンジン10を始動させ、しかる後にリターンする。
上記コントロールユニット100による暖房用始動停止制御により、充電可能電力Pinが上記所定値以下であるときにおいては、エンジン10の停止中に、エンジン水温が第2下限温度T3以下になったときに、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にあるときには、即座にエンジン10が始動する。このエンジン始動に伴う発電電力は、該発電電力を消費可能な状態にある上記所定の車載電装品に供給される。例えば走行用モータ40の駆動トルクの出力により車両1が走行しているときに、エンジン水温が第2下限温度T3以下になったときには、即座にエンジン10が始動する。このエンジン始動に伴う発電電力は、走行用モータ40に供給される。
一方、エンジン水温が第2下限温度T3以下になっても、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にないときには、遅延制御が実行される。例えば、エンジン水温が第2下限温度T3以下になる直前で車両1が停止したとき(電動コンプレッサ81及びPTCヒータ82も作動していないとする)、エンジン水温が第2下限温度T3以下になったときには、上記所定の車載電装品がエンジン始動に伴う発電電力を消費可能な状態にはなく、遅延制御が実行される。そして、エンジン水温が第2下限温度T3になったときから所定時間tが経過するまでの間に、走行用モータ40の駆動トルクの出力により車両1が走行してエンジン始動に伴う発電電力を走行用モータ40が消費可能な状態になれば、エンジン10が始動する。このエンジン始動に伴う発電電力は、走行用モータ40に供給される。これに対し、上記所定時間tが経過しても、車両1が停止したままであれば、上記所定時間tが経過したときに、エンジン10が始動する。このエンジン始動に伴う発電電力はバッテリ30に供給されることになるが、このような供給の頻度は、遅延制御を実行しない場合よりも低くなる。また、上記所定時間tは、エンジン水温が第2下限温度T3になったときから第1下限温度T1になるまでの時間と略同じに設定されているので、エンジン水温が第1下限温度T1を下回らないようにすることができ、この結果、上記暖房装置による暖房性能を確保することができる。よって、暖房性能を確保しながら、バッテリ30の早期劣化を出来る限り抑制することができる。
また、第2上限温度T4が、第1上限温度T2よりも高い値に設定されているので、エンジン停止中にエンジン水温が第2下限温度T3以下になり難くなって、エンジン始動に伴う発電電力がバッテリ30に供給される頻度がより一層低下する。
したがって、本実施形態では、エンジン冷却水を利用して車室内を暖房する暖房装置による暖房性能を確保しながら、バッテリ30の早期劣化を出来る限り抑制することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、エンジン10の暖房用始動停止制御によりエンジン10を始動した後にアイドル回転させるようにしているが、バッテリ30の充電可能電力Pinの値又は車載電装品の消費電力によっては、その範囲内で有負荷回転(発電)をしてもよい。
また、上記実施形態では、上記充電可能電力Pinが上記所定値以下になった際にエンジン始動の上記遅延制御を実行させるとしているが、その後に上記充電可能電力Pinが上記所定値よりも高い値に回復したとしても、暫くの間、上記遅延制御を実行させてもよい。さらに、エンジン10がエンストにより停止した際には、改めて上記充電可能電力Pinや上記エンジン水温に基づいて上記遅延制御を実行させてもよい。
また、上記暖房用始動停止制御よりも、発電要求(SOC維持や走行要件からの要求)によるエンジン10の発電用始動停止制御を優先させるようにしてもよい。
さらに、上記実施形態では、シリーズ型ハイブリッド車両について述べたが、エンジンにより駆動されて発電するモータジェネレータと、該モータジェネレータによる発電電力が充電されるバッテリとを備える構成を有するパラレル型ハイブリッド車両においても、本発明を適用することができる。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。