以下、本発明の実施形態を図面に基いて詳細に説明する。
(1)全体構成
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車(以下単に「車両」という)1のブロック構成図である。この車両1はシリーズ式のハイブリッド車である。車両1は、エンジン10と、モータジェネレータ20と、バッテリ30と、走行用モータ40とを備えている。
モータジェネレータ20は、回転軸がエンジン10の出力軸(図2に示すエキセントリックシャフト13)に連結されている。モータジェネレータ20は、エンジン10に駆動力を付与する機能と、エンジン10で駆動されて発電を行う機能とを有する。前者の機能により、モータジェネレータ20は、例えばエンジン10を駆動して始動することができる。後者の機能により、モータジェネレータ20は、始動後のエンジン10により駆動されて、例えば走行用モータ40を駆動するための電力を生成することができる。
バッテリ30は、モータジェネレータ20によって発電された電力を蓄電する(換言すれば前記電力で充電される)。本実施形態では、前記バッテリ30は、比較的、高電圧、大容量のバッテリである。バッテリ30は、車両1の外部の電源による外部充電が可能である。
走行用モータ40は、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力の少なくとも一方の電力を用いて駆動される。この走行用モータ40の駆動力が、デファレンシャル装置60を介して、駆動輪としての左右の前輪61に伝達され、車両1が走行する。走行用モータ40は、車両1の減速時は、ジェネレータとして作動する。走行用モータ40で発電された電力はバッテリ30に蓄電される。
モータジェネレータ20、バッテリ30、及び走行用モータ40の間にインバータ50が介設されている。このインバータ50を介して、モータジェネレータ20の発電電力が、バッテリ30及び走行用モータ40の少なくとも一方に供給される。また、このインバータ50を介して、バッテリ30の蓄電電力が、モータジェネレータ20及び走行用モータ40の少なくとも一方に供給される。
モータジェネレータ20は、図示しないが、回転軸と連動して回転するロータと、ロータの周囲に配置されたステータとを備えている。ロータには、磁界を発生させるためのフィールドコイルが巻装され、ステータには、磁界を発生させるための三相コイルが巻装されている。前記フィールドコイル及び三相コイルはそれぞれ個別にインバータ50に接続されている。インバータ50から三相コイルに電流が印加されると、モータジェネレータ20は、トルクを発生するモータ(電動機)として働く。一方、ロータが回転軸(ひいてはエンジン10の出力軸)によって回転されると、モータジェネレータ20は、電力を発生するジェネレータ(発電機)として働く。
モータジェネレータ20による発電時には、インバータ50からフィールドコイルに電流が印加され、それによって発生された磁界の中をロータが回転することにより、ステータの三相コイルに誘導電流が発生する。モータジェネレータ20による発電量は、フィールドコイルへの印加電流の増減によって調節される。フィールドコイルへの印加電流が高く磁束密度が高いほどモータジェネレータ20による発電量が多くなる。
エンジン10は、モータジェネレータ20による発電のために運転される。つまり、エンジン10は、モータジェネレータ20を駆動するためだけに運転される。本実施形態では、前記エンジン10は、水素タンク70に貯留されている水素を燃料(気体燃料)として使用する水素エンジンである。
図2に示すように、エンジン10は、ツインロータ式(2気筒に相当する)のロータリピストンエンジンである。2つのロータハウジング11と図示しない3つのサイドハウジングとが交互に重ね合わされてエンジン本体が構成されている。
なお、図2において、2つのロータハウジング11は展開された状態で描かれている。また、図2において、2つのロータハウジング11の中央部にそれぞれ描かれているエキセントリックシャフト13は共通する単一のものである。また、図2において、吸気通路14及び排気通路15に描かれている矢印は吸気及び排気の流れを示している。
各ロータハウジング11とその両側のサイドハウジングとでそれぞれ繭状のロータ収容室(気筒に相当する)11aが形成されている。各ロータ収容室11aに概略三角形状のロータ12が収容されている。ロータ12は、その三角形の各頂部に図示しないアペックスシールを有する。前記アペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に摺接することにより、ロータ収容室11aに3つの作動室が画成されている。
ロータ12は、前記アペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に当接した状態で、エキセントリックシャフト13の周りで自転しつつ、エキセントリックシャフト13の周りを公転する。ロータ12が1回転する間に、3つの作動室がトロコイド内周面に沿って移動し、各作動室で、吸気、圧縮、燃焼(膨張)及び排気の各行程が行われる。これにより発生する回転力がロータ12を介してエンジン10の出力軸であるエキセントリックシャフト13から取り出される。
ロータ収容室11aに吸気通路14及び排気通路15が接続されている。吸気通路14は、上流側は1つの単路であるが、下流側は2つの分岐路に分岐し、各分岐路がそれぞれ吸気行程が行われる作動室に連通するように接続されている。排気通路15は、下流側は1つの単路であるが、上流側は2つの分岐路に分岐し、各分岐路がそれぞれ排気行程が行われる作動室に連通するように接続されている。
吸気通路14の上流側の単路にスロットル弁16が配設されている。スロットル弁16は、ステッピングモータ等のスロットル弁アクチュエータ90により駆動されて、開度が調節され、吸気通路14の流通面積、すなわちエンジン10の吸入空気量を調節する。
吸気通路14の下流側の分岐路にそれぞれ予混合用インジェクタ17が配設されている。予混合用インジェクタ17は、水素タンク70から供給される水素を吸気通路14の下流側の分岐路(吸気ポートに相当する)に噴射するものである。この予混合用インジェクタ17により噴射された水素は空気と混合された状態(予混合状態)で、吸気行程が行われる作動室に供給される。予混合用インジェクタ17は、1つのロータハウジング11当たり1つ備えられている。
排気通路15の下流側の単路に排気ガスを浄化するための排気ガス浄化触媒80が配設されている。本実施形態では、前記排気ガス浄化触媒80は、NOx吸蔵還元触媒である。
各ロータハウジング11にそれぞれ直噴用インジェクタ18が配設されている。直噴用インジェクタ18は、水素タンク70から供給される水素をロータ収容室11a内(すなわち筒内)に直接噴射するものである。直噴用インジェクタ18は、1つのロータハウジング11当たり2つ備えられている。なお、各ロータハウジング11において2つの直噴用インジェクタ18はエキセントリックシャフト13の軸方向に重ねて配設されているため図2では1つしか表れていない。
各ロータハウジング11にそれぞれ2つの点火プラグ(リーディング側点火プラグ及びトレーリング側点火プラグ)19が配設されている。点火プラグ19は、予混合用インジェクタ17又は直噴用インジェクタ18により噴射された水素と空気との混合気に火花点火するものである。
予混合用インジェクタ17は、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン冷却水の温度(エンジン水温)(エンジン10の温度に相当)が所定の閾値温度未満であるときに用いられる。一方、直噴用インジェクタ18は、前記エンジン水温が前記閾値温度以上であるときに用いられる。
その理由は、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときに直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射すると、噴射の際の水素の断熱膨張に伴う急激な温度低下により、ロータ収容室11a内の水分(例えば水素の燃焼で生成した水分や空気中又は水素中に含まれていた水分等)が直噴用インジェクタ18の噴口に氷となって氷結し、直噴用インジェクタ18が作動不良を起こして燃料を噴射できなくなるからである。また、ロータ収容室11a内の水分がロータハウジング11のトロコイド内周面に氷となって氷結し、氷結した氷がロータ12のアペックスシールによって直噴用インジェクタ18の噴口に掻き込まれて、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射に支障が生じるからである。
一方、前記エンジン水温が前記閾値温度以上になれば、氷結した氷が溶けるので、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射が可能となる。また、前記エンジン水温が前記閾値温度以上であるときに直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射しても、前記のような氷結が起きないので、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射が許可される。直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射することにより、空気充填量が多くなり、より大きな燃焼エネルギーないしエンジントルクを得ることができる。
そして、本実施形態では、エンジン10の始動時は、前記エンジン水温に拘りなく(換言すれば前記エンジン水温が前記閾値温度未満であっても)、直噴用インジェクタ18による燃料噴射でエンジン10を始動する。その理由は、前回のエンジン停止時は、通常は、エンジン温度が高く、ロータ収容室11a内の水分が蒸発しているので、エンジン10の始動時は、ロータ収容室11a内の水分が少なく、氷結が起き難いからである。直噴用インジェクタ18を用いることにより、空気充填量が多くなり、安定したエンジン10の始動性が確保される。
しかし、エンジン10の始動後に、燃料の燃焼が続くと、ロータ収容室11a内の水分が増え、その場合に、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときは、氷結が起きる可能性がある。特に、本実施形態では、燃料が、燃焼により多量の水分を生成する水素であり、エンジン10が、燃焼行程が行われない部位に直噴用インジェクタ18が配設されているロータリエンジンであるため、エンジン10の始動後におけるロータ収容室11a内の水分が増え易く、また直噴用インジェクタ18の温度が上昇し難い。すなわち、本実施形態では、前記氷結の問題が起こり易いのである。
そこで、本実施形態では、エンジン10の始動後に、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替える。
(2)制御系
図2に示すように、車両1は、コントロールユニット100を備えている。コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。コントロールユニット100は、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROM等により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号を入出力する入出力(I/O)バスとを備えている。コントロールユニット100は、本発明の制御手段に相当する。
コントロールユニット100に、バッテリ電流・電圧センサ101、アクセル開度センサ102、車速センサ103、回転角センサ104、空燃比センサ105、エンジン水温センサ106、及びタンク圧力センサ107等からの検出信号や、イグニッションスイッチ110及び走行モード選択スイッチ111等からの状態信号が入力される。
バッテリ電流・電圧センサ101は、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧を検出する。アクセル開度センサ102は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(アクセル開度)を検出する。車速センサ103は、車両1の走行速度を検出する。回転角センサ104は、エキセントリックシャフト13に設けられ、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出する。この回転角センサ104は、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサを兼ねる。空燃比センサ105は、エンジン10の排気ガスの空燃比を検出する。エンジン水温センサ106は、ロータハウジング11の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に設けられ、ウォータジャケットを流れるエンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。タンク圧力センサ107は、水素タンク70内の圧力(つまり水素残量)を検出する。イグニッションスイッチ110及び走行モード選択スイッチ111は、車両1の乗員(特に運転者)により操作される。
コントロールユニット100は、前記検出信号及び状態信号に基いて、スロットル弁アクチュエータ90、予混合用インジェクタ17、直噴用インジェクタ18、点火プラグ19、及び表示パネル55(本発明の表示手段に相当)に制御信号を出力し、エンジン10を制御する(図1参照)。表示パネル55は、車両1のインストルメントパネル(図示せず)において乗員が視認可能に設けられている。表示パネル55は、コントロールユニット100の表示制御部100aによって制御される。また、コントロールユニット100は、前記検出信号及び状態信号に基いて、インバータ50に制御信号を出力し、モータジェネレータ20及び走行用モータ40を制御する(図1参照)。
(3)制御動作
コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態(エンジン10に駆動力を付与する機能が発揮される状態)と、エンジン10による駆動により発電して発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態(エンジン10で駆動されて発電を行う機能が発揮される状態)とに切り替える。
具体的に、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時は、モータジェネレータ20の作動状態を前記駆動状態としてエンジン10を始動する。コントロールユニット100は、エンジン10の始動後は、モータジェネレータ20の作動状態を前記発電状態として電力を生成する。
また、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて駆動する態様と、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて駆動する態様と、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力を用いて駆動する態様とに切り替える。走行用モータ40は、コントロールユニット100のモータ駆動制御部100b(図2参照)によって制御される。
具体的に、コントロールユニット100は、バッテリ電流・電圧センサ101により検出されたバッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基いて、バッテリ30の残存容量(バッテリ残量ともいう)(SOC:State Of Charge)を検出する。バッテリ電流・電圧センサ101及びコントロールユニット100は、本発明のバッテリ残量検出手段に相当する。コントロールユニット100は、検出したバッテリ30の残存容量と、タンク圧力センサ107により検出された水素残量とに基いて、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて駆動するか、又は、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて駆動する。
前記バッテリ30の残存容量及び前記水素残量の双方が比較的多い場合は、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動しても、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動しても、いずれでもよい。本実施形態では、この場合、車両1の乗員が走行モード選択スイッチ111(図2参照)を操作することにより、いずれの態様で走行用モータ40を駆動するかが選択される。
コントロールユニット100は、アクセル開度センサ102や車速センサ103等からの検出信号に基いて、乗員の加速要求レベルを検出する。コントロールユニット100は、走行用モータ40が、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動されているとき(すなわちエンジン10が停止中のとき)に、乗員の加速要求レベルが所定の閾値レベルよりも高くなったと判定したときは、走行用モータ40を、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様に切り替える。コントロールユニット100は、その後、乗員の加速要求レベルが前記閾値レベルよりも低くなったと判定したときは、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様に戻す。
走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様から、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動する態様、又は、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様に切り替えるときは、モータジェネレータ20による発電を行う必要がある(すなわちエンジン10の始動要求がある)ので、コントロールユニット100は、停止中のエンジン10を始動する。逆に、走行用モータ40を、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動する態様、又は、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様から、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様に切り替えるときは、モータジェネレータ20による発電を行う必要がない(すなわちエンジン10の停止要求がある)ので、コントロールユニット100は、運転中のエンジン10を停止する。
図3は、本実施形態に係る車両1の水素残量とバッテリ残量(バッテリSOC)とをパラメータとする走行モード切り替えマップである。コントロールユニット100は、バッテリ30の残存容量と水素タンク70内の水素残量とに基いて、図3に示す走行モード切り換えマップに従って、走行用モータ40の走行モードを切り換える。
本実施形態では、走行モードとして、EVモード(通常EVモード)と、緊急EVモードと、通常水素モード(本発明の強制発電モードに相当)と、緊急水素モード(本発明の緊急発電モードに相当)と、選択モードとが設定されている。EVモード及び緊急EVモードは、エンジン10を停止した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行わずに)、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動するモードである。通常水素モード及び緊急水素モードは、エンジン10を運転した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行いつつ)、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動するモードである。選択モードとは、乗員が走行モード選択スイッチ111を操作することにより、EVモード、すなわちモータジェネレータ20による発電を行わずエンジン10を停止するモードと、水素モード、すなわちモータジェネレータ20による発電を行うためエンジン10を運転するモードとを自由に選択して切り換えることが可能なモードである。
コントロールユニット100は、水素残量が所定の閾値残量V1未満の場合で、バッテリ残量が所定の第1閾値C1以上のとき(つまりバッテリ電力は余裕があるがエンジン10の燃料は余裕がないとき)は、走行モードをEVモード(通常EVモード)とする。これにより、モータ駆動制御部100bは、バッテリ30の蓄電電力のみで走行用モータ40を駆動する。前記閾値残量V1は、水素タンク70内の水素残量が空に相当する量又は空に近い量であるので、表示制御部100aは、水素残量が前記閾値残量V1未満のときは、表示パネル55において、水素残量が空又は空に近い旨の警報表示を行う。
コントロールユニット100は、水素残量が前記閾値残量V1未満の場合で、バッテリ残量が前記第1閾値C1未満のとき(つまりバッテリ電力もエンジン10の燃料も余裕がないとき)は、走行モードを緊急EVモードとする。これにより、モータ駆動制御部100bは、走行用モータ40の駆動を一時的に制限する等の緊急的対応を行いつつ、バッテリ30の蓄電電力のみで走行用モータ40を駆動する。この緊急EVモードでは、水素残量及びバッテリ残量が共に少なくなっているので、表示制御部100aは、表示パネル55において、水素残量が空又は空に近い旨の警報表示と、バッテリ残量も少なくなっている旨の警報表示とを併せて行う。
なお、コントロールユニット100は、バッテリ残量が前記第1閾値C1より小さい所定の使用下限容量未満のときは、車両1の走行を停止する。また、コントロールユニット100は、バッテリ30の劣化を抑制するため、バッテリ残量が前記第1閾値C1より大きい所定の使用上限容量以上にならないようにバッテリ30の充電管理を行う。
コントロールユニット100は、水素残量が前記閾値残量V1以上の場合で、バッテリ残量が前記第1閾値C1以上のとき(つまりバッテリ電力もエンジン10の燃料も余裕があるとき)は、走行モードを選択モードとする。これにより、モータ駆動制御部100bは、乗員の走行モード選択スイッチ111の操作に応じて、EVモードが選択された場合は、バッテリ30の蓄電電力のみで走行用モータ40を駆動し、水素モードが選択された場合は、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみで走行用モータ40を駆動する。水素モードが選択された場合は、コントロールユニット100は、モータジェネレータ20による発電を行うため、エンジン10を運転する。
コントロールユニット100は、水素残量が前記閾値残量V1以上の場合で、バッテリ残量が前記第1閾値C1未満のとき(つまりエンジン10の燃料は余裕があるがバッテリ電力は余裕がないとき)は、走行モードを強制的に水素モード、特に通常水素モードとする。これにより、モータ駆動制御部100bは、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみで走行用モータ40を駆動する。コントロールユニット100は、モータジェネレータ20による発電を行うため、エンジン10の運転を開始する。表示制御部100aは、表示パネル55において、バッテリ残量が低下しているので給電することを促す旨の警告ランプ(図示せず)を点灯する。
コントロールユニット100は、水素残量が前記閾値残量V1以上の場合で、バッテリ残量が前記第1閾値C1より小さい所定の第2閾値C2未満のとき(つまりエンジン10の燃料は余裕があるがバッテリ電力はほとんど余裕がないとき)は、走行モードを強制的に水素モード、特に緊急水素モードとする。これにより、モータ駆動制御部100bは、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみで走行用モータ40を駆動する。コントロールユニット100は、併せて、エンジン10の回転数を、前記通常水素モードのときよりも所定量増加させる。この緊急水素モードでは、バッテリ残量がさらに低下しているので、表示制御部100aは、表示パネル55において、給電することを強く促す旨の警告ランプ(図示せず)を点滅させる。また、表示制御部100aは、表示パネル55において、バッテリ30の残量ゲージ(図示せず)をゼロ表示にする。
選択モードにおいて水素モードが選択された場合、又は、水素モード(通常水素モード及び緊急水素モード)においては、モータ駆動制御部100bは、基本的には、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動するので、バッテリ残量が低下することはない(バッテリ残量は維持される)。しかし、コントロールユニット100が、乗員の加速要求レベルが所定の閾値レベルよりも高くなったと判定したときは(換言すればモータジェネレータ20の発電電力のみでは走行用モータ40の出力が不足すると判定したときは)、モータ駆動制御部100bは、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力の双方の電力を用いて走行用モータ40を駆動する態様に切り替える。その結果、水素モードであるにも拘らず、バッテリ残量が低下する場合がある。
そこで、本実施形態では、選択モードから水素モード(通常水素モード)に移行すると、すなわち、バッテリ残量が前記第1閾値C1を下回ると、その旨を運転者に報知するために、表示パネル55において警告ランプが点灯される。さらに、水素モード内で通常水素モードから緊急水素モードに移行すると、すなわち、バッテリ残量が前記第2閾値C2を下回ると、その旨を運転者に報知するために、表示パネル55において警告ランプが点滅され、また、バッテリ30の残量ゲージがゼロ表示される。
しかし、運転者が前記表示に気づかず、そのまま走行を続けると、ついにはバッテリ残量が前記使用下限容量まで低下して、車両1の走行が停止してしまう。
そこで、本実施形態では、バッテリ残量の低下をより確実に運転者に報知するために、走行モードが同じ水素モードであっても、バッテリ残量が前記第2閾値C2未満となったときは、すなわち、通常水素モードから緊急水素モードに移行したときは、バッテリ残量が前記第2閾値C2以上であったとき(つまり通常水素モードであったとき)に比べて、エンジン10の回転数を所定量増加させるのである。
この結果、走行モードが同じ水素モードであっても、通常水素モードから緊急水素モードに移行したとき、エンジン回転が上昇する。このようなエンジン回転の上昇は、運転者に振動数の変化やトルクショックを体感させ、運転者の気を引く現象である。運転者は、何も操作をしていないのに、突然エンジン回転が上るので、車両1の異変を感じ、何かが起こったことに気づく。したがって、運転者の注意が喚起され、前記警告ランプや残量ゲージの表示と相俟って、バッテリ残量の低下をより確実に運転者に報知することができる。
図4は、本実施形態に係る車両1のエンジン出力とエンジン回転との関係図である。図中鎖線(i)は、通常水素モードのときのエンジン出力に対するエンジン回転の変化を示し、図中実線(ii)は、緊急水素モードのときのエンジン出力に対するエンジン回転の変化を示す。
図示したように、エンジン出力が大きいほど、エンジン回転が大きくなる。鎖線(i)から実線(ii)への増加量(図中の矢印Y参照)、すなわち、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時のエンジン回転数の増加量は略一定とされている。そのため、エンジン回転数の増加率はエンジン出力に応じて変わり、数%から数10%の間とされる。
本実施形態では、図5に示すように、コントロールユニット100は、車速が高いほど車室内の音圧レベルが大きくなるようにエンジン回転数を増加させる。図5において、点線は、EVモードのときの車速に対する音圧レベルの変化を示し、破線は、通常水素モードのときの車速に対する音圧レベルの変化を示し、実線は、緊急水素モードのときの車速に対する音圧レベルの変化を示す。一方、鎖線は、目標ラインであり、コントロールユニット100は、緊急水素モードのときの音圧レベルの変化がこの目標ラインに近づくようにエンジン回転数を増加させる。目標ラインは、ハイブリッド車ではない、エンジンで走行する通常のガソリン車のものである。
図示したように、車速が高いほど、車室内の音圧レベルが大きくなる。EVモードでは、エンジン10が停止しているので、エンジン音がない分、音圧レベルは最も小さい。通常水素モードでは、エンジン10が運転されるので、エンジン音が加わる分、音圧レベルは大きくなる。目標ラインは、エンジンで走行する通常のガソリン車のものなので、ハイブリッド車に比べて、エンジントルクが大きく、音圧レベルは最も大きい。このような、非ハイブリッド車の音圧レベルを、緊急水素モードのときの音圧レベルの狙いの値とするので、運転者は確実にエンジン回転の上昇に気づくことになる。
図6は、本実施形態に係る車両1のエンジン回転とスロットル開度との関係図である。図中鎖線(iii)は、通常水素モードのときのエンジン回転に対するスロットル弁16の開度の変化を示し、図中実線(iv)は、緊急水素モードのときのエンジン回転に対するスロットル弁16の開度の変化を示す。
図示したように、エンジン回転が大きいほど、スロットル弁16の開度が大きくなる。鎖線(iii)から実線(iv)への減少量、すなわち、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時のスロットル弁16の開度の減少量は略一定とされている。
このように、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時に、スロットル弁16の開度が小さくされることにより、吸入空気量が減量され、エンジントルクが低減する。そのため、図4に矢印Yで示したように、エンジン回転数が増加されても、トルク及び回転数をパラメータとして定められるエンジン出力が増大せず(一定に維持され)、不快なトルクショックの発生が抑制される。また、モータジェネレータ20による発電量が増加しない(一定に維持される)ので、バッテリ30の過度な充電が回避されて、バッテリ30の劣化が抑制される。
次に、前記コントロールユニット100による処理動作を図7に示すフローチャートに基いて説明する。この処理動作は、車両1の走行が開始されたときにスタートする。なお、この処理動作は、水素残量が前記閾値残量V1以上ある場合のものである(図3参照)。
すなわち、コントロールユニット100は、ステップS1で、各種データ(図2参照)を入力した上で、ステップS2で、バッテリ残量(SOC)が前記第1閾値C1未満か否かを判定し、YESのときは、ステップS3で、バッテリ残量(SOC)が前記第2閾値C2未満か否かを判定する。
コントロールユニット100は、ステップS2でNOのときは、走行モードを選択モードとし(ステップS4)、ステップS3でNOのときは、走行モードを通常水素モードとし(ステップS5)、ステップS3でYESのときは、走行モードを緊急水素モードとする(ステップS6)。
コントロールユニット100は、ステップS4では、走行モード選択スイッチ111に応じて、走行モードをEVモード又は水素モードとする。EVモードのときは、エンジン10を停止した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行わずに)、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動する。水素モードのときは、エンジン10を運転した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行いつつ)、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動する。
コントロールユニット100は、ステップS5では、エンジン10を運転した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行いつつ)、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動する。併せて、表示制御部100aは、バッテリ残量が低下しているので給電することを促す旨の警告ランプを点灯する。
コントロールユニット100は、ステップS6では、エンジン10を運転した状態で(つまりモータジェネレータ20による発電を行いつつ)、基本的に、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて走行用モータ40を駆動する。その上で、コントロールユニット100は、通常水素モードのときに比べて、エンジン10の回転数を所定量増加させる。併せて、表示制御部100aは、バッテリ残量が空に近いので給電することを強く促す旨の警告ランプを点滅させる。また、バッテリ30の残量ゲージをゼロ表示にする。
(4)作用等
以上のように、本実施形態では、燃料の燃焼でトルクを発生するエンジン10と、エンジン10で駆動されて発電を行うモータジェネレータ20と、モータジェネレータ20によって発電された電力を蓄電するバッテリ30と、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力の少なくとも一方の電力を用いて駆動される走行用モータ40とを含むハイブリッド車1において、次のような特徴的構成を採用した。
すなわち、コントロールユニット100は、バッテリ残量(SOC)が第1閾値C1未満のときは(ステップS2でYES)、エンジン10を運転してモータジェネレータ20による発電を行い、走行用モータ40に供給される電力の少なくとも一部をモータジェネレータ20による発電電力で賄う通常水素モードとし(ステップS5)、バッテリ残量が第1閾値C1より小さい第2閾値C2未満のときは(ステップS3でYES)、通常水素モードのときよりも高い回転数でエンジン10を運転してモータジェネレータ20による発電を行う緊急水素モードとする(ステップS6)。
この構成によれば、エンジン10と、モータジェネレータ20と、バッテリ30と、走行用モータ40とを含むハイブリッド車1において、バッテリ残量が第1閾値C1未満のときは、エンジン10を運転してモータジェネレータ20による発電を行う通常水素モードとされ、バッテリ残量が第1閾値C1より小さい第2閾値C2未満のときは、通常水素モードのときよりも高い回転数でエンジン10を運転する緊急水素モードとされる。
そのため、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時、エンジン回転が上昇する。このようなエンジン回転の上昇は、運転者にエンジン音の変化やトルクショックを体感させる。運転者は、何も特別な操作をしていないのに、突然エンジン回転が上るので、車両1の異変を感じ、何事かが起こったことに気づく。したがって、ただ単に情報を表示したり音声を出力するよりも、運転者の注意が喚起され、バッテリ残量の低下をより確実に運転者に報知できる。
以上により、本実施形態によれば、バッテリ残量の低下をより確実に運転者に報知し得るハイブリッド車1の制御装置が提供される。
本実施形態では、コントロールユニット100は、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時、エンジン出力を一定としつつエンジン回転数を所定量増加させる。
この構成によれば、走行に必要な要求出力に対してエンジン発生出力は一定に維持しつつ、エンジン音を高くして警報することができる。
本実施形態では、コントロールユニット100は、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時、エンジン10の吸気通路14に設けられたスロットル弁16の開度を小さくすることにより、エンジン出力を一定とする。
この構成によれば、スロットル弁16の開度を小さくすることにより、吸入空気量が減量されて、エンジントルクが低減する。そのため、トルク及び回転数により定められるエンジン出力が合理的に一定に維持される。
本実施形態では、コントロールユニット100は、通常水素モードから緊急水素モードへの移行時、車速が高いほど車室内の音圧レベルが大きくなるようにエンジン回転数を増加させる(図5)。
一般に、車速が高くなると、ロードノイズや風きり音等が大きくなる。一方、エンジン10がモータジェネレータ20を駆動するためだけに運転されるシリーズ式のハイブリッド車1では、エンジン回転数は目標発電量によって決まり、車速に影響されない(例えばエンジン回転数は車速に依らず一定に維持される)。すると、前記ハイブリッド車1では、車速が高くなると、エンジン音がロードノイズや風きり音等でかき消される可能性がある。エンジン音が他の音でかき消されると、運転者にバッテリ残量の低下を満足に報知できなくなる。
そこで、この構成によれば、車速が高いほど車室内の音圧レベルが大きくなるようにエンジン回転数が増加されるので(図5)、車速にそぐわない過剰な音圧レベルの上昇を回避しつつ、車速が高いときでも、エンジン音がロードノイズや風きり音等でかき消されず、常に、運転者にバッテリ残量の低下を満足に報知することができる。
なお、前記実施形態では、エンジン10は、ロータリピストンエンジンであったが、レシプロエンジンであってもよい。また、水素以外の気体燃料(例えば天然ガスやプロパンガス等)を用いるエンジンであってもよい。また、気体燃料以外の液体燃料(例えばガソリンや軽油やアルコール等)を用いるエンジンであってもよい。