JP6051163B2 - ポリオール酸化酵素および該酵素を用いる希少糖の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物に由来する新規ポリオール酸化酵素、このポリオール酸化酵素の希少糖に特異的な性質を利用することにより、希少糖の効率的な製造方法に関する。
酵素が特定の物質とのみ選択的に反応する分子識別機能を利用して目的の物質の製造や、目的の物質の検出を行うセンサーに利用されていることはよく知られている。
酵素センサーとしては、これまでの一般的な分析方法である液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどに比べて、簡便、迅速、正確、小型、かつ低コストなどのメリットがあげられる。そのため、臨床診断や食品分析、環境汚染の測定などで広く利用されている。
酵素センサーとしては、例えば、 D−ソルビトールやグルコースが混在する検体に、キシリトールオキシダーゼ含有試薬を添加してキシリトールをD−キシロースに変換後、キシロースデヒドロゲナーゼ含有試薬を作用させて、生じたD−キシロースを検出し、検体中に存在するキシリトールを簡便かつ特異的に定量できるようにした(特許文献1)や、ソルビトール、マンニトール、キシリトールおよびアラビトールからなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオールを含有する試料にソルビトールオキシダーゼを作用させ、生成する過酸化水素またはD−グルコース、マンノース、キシロースまたはアラビノースまたは消費する酸素量を測定してポリオールを測定する試料中のポリオールの測定法(特許文献2)など数多くの提案がなされている。
酵素センサーが実用化された代表的な例としては、グルコース酸化酵素を利用した糖尿病患者が利用する血糖値測定器がある。血液には多くの成分が混じり合っていて、この中から選択的にグルコースを検出することは大変難しい。しかし、グルコース酸化酵素を利用することにより血中からグルコースを選択的に識別することができる。この血糖値測定器は糖尿病患者がインスリンの投与を行う際に自己採血により簡便に血糖値をモニターすることができることから、その市場は拡大している。血糖値測定器にも用いられている酸化酵素は一般に、基質を酸化する際に電子受容体として酸素を消費し、過酸化水素を生産する反応を触媒する。酸素の消費は酸素電極で、過酸化水素の生成は過酸化水素電極を用いることで簡便に測定ができることから、酸化酵素は酵素センサーへの利用に適した酵素である。
近年、我が国においては高齢化社会が進み、それに伴う医療技術の充実が叫ばれている。また、酵素センサーの応用が進みつつある食品分析や環境測定は、今後さらに酵素センサーのニーズが高まる分野であると予想される。しかし、現在、基質特異性の高い酸化酵素は限られているため、今後酵素センサーを開発するにあたり、新規の酸化酵素の検索が必要となる。
ところで、希少糖は自然界には存在しない、あるいはごく微量にしか存在しない単糖で、これまでほとんど研究がされていなかったが、D−プシコース、D−アロースの大量生産が可能になったことで、希少糖の生産技術の研究や、生理作用、化学的性質に関する研究が着手され、特異的な生理作用が次々と解明されてきた。それらの医薬としての実用化に際しては希少糖に特異的に反応する酵素の提供が望まれている。希少糖の生理活性の例を次の表1に示す。
また、酵素の化合物の製造への利用についても数多く化合物や酵素に関わる提案がなされていて、例えば、近年、D−タガトース-3-エピメラーゼ(DTE)を利用することにより、希少糖の1種であるD−プシコースやD−アロースの大量生産技術が確立された。 Pseudomonas stutzeri(IPOD FERM BP-08593)由来のL−ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質を作用させてD−アロースへと異性化するD−アロースの生産方法(特許文献3)や、D−プシコースおよび/またはL−プシコースを含有する溶液にD−キシロース・イソメラーゼを作用させて、D−プシコースからはD−アロースとD−アルトロースを、L−プシコースからはL−アルトロースを生成せしめ、これらD−アロース、D−アルトロース及びL−アルトロースから選ばれる1種または2種以上のアルドヘキソースを採取するアルドヘキソースの製造方法(特許文献4)が提案されている。
特開平11−346797号公報 特開平6−169764号公報 特開2008−109933号公報 特開2002−17392号公報
Agric. Biol. Chem., 43, 2531-2535 (1979) J. Biosci. Bioeng., 88, 676-678 (1999) 食品衛生学雑誌 49, 82-87. (2008) Jan. J. Med. Mycol. , 45, 55-58. (2004)
上述のように、希少糖には実用性の高い生理活性があることがわかってきており、この他にも甘味料、農薬、医薬、工業材料など、広い分野での実用化の可能性を秘めている。そのため、今後は、簡便かつ迅速な定量法が必要になると考えられる。しかし、その微量定量法は未だ確立されていないため、各希少糖に特異性の高い酸化酵素を見出し、酵素センサーへと利用できればその意義は大きい。また、すべての希少糖で大量生産が確立されているわけではなく、多段階の反応を経て、少量しか生産できないものも多く、酸化反応により希少糖を生産する酵素が発見されれば、一段階の反応で高収率な新規の希少糖大量生産経路を作り出すことができ、さらなる希少糖研究の進展につながることが期待される。
こうした状況の中で、フスマ培地は湿度の低い培地の表面で微生物が生育する点で、微生物が自然界で生育している状況と似ていることはよく知られている。フスマ培地を用いて放線菌や糸状菌を培養すると、通常の液体培地などでは生産されない、多くのユニークな酵素を菌体外に生産することが多数報告されている。例えば、Trichoderma virideが生産するリジン酸化酵素(非特許文献1)などは、フスマ培地を用いることによって基質特異性の高い酸化酵素が得られている。こうした従来技術を検討することにより、本発明は希少糖に特異的に作用する新規な酵素を提供することを可能としたのである。
本発明は、希少糖に対し基質特異性の高いポリオール酸化酵素を提供すること、ならびに、このポリオール酸化酵素の希少糖に特異的な性質を利用することにより、希少糖の効率的な製造方法を提供することを目的とする。また、各希少糖に特異性の高い酸化酵素を見出し、各希少糖の酵素センサーを提供することを目的とする。
本発明は以下の(1)および(2)に記載のポリオール酸化酵素を要旨とする。
(1)下記(a)から(e)に記載の性質によって特定されるペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物であるPenicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156)由来のポリオール酸化酵素。
(a)安定pHはpH6.0以上であり、反応至適pHは7.0から9.0である。
(b)作用温度は50℃以下であり、反応至適温度は40℃である。
(c)分子量が約113kDaである。
(d)基質特異性はポリオールの2位と3位のOH基がL−エリスロ型の構造を特異的に認識して反応し、4位のOH基がL−リボ型であることは認識できず反応しない。
(e)作用はD−マンニトール、D−アラビトール、D−ソルビトール、エリスリトールから選ばれる糖アルコールを酸化し、対応するD−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生成する。
)上記ポリオール酸化酵素が、小麦フスマを培地として上記のペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物を培養して得られたものである上記()に記載のポリオール酸化酵素。
本発明は以下の()に記載のポリオール酸化酵素製造する方法、および()に記載の希少糖の生産方法を要旨とする。
(3)上記(1)に記載のポリオール酸化酵素を製造する方法であって、
ポリオール酸化酵素産生能を有するPenicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156)からなる微生物を小麦フスマ培地で培養して当該ポリオール酸化酵素を生成させ、得られる培養物から当該ポリオール酸化酵素を回収することを特徴とする、方法。
(3)D−マンニトール、D−アラビトール、D−ソルビトール、エリスリトールから選ばれる糖アルコールに、Penicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156) 由来の上記(1)に記載のポリオール酸化酵素を作用させ、対応するD−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生成させることを特徴とする、D−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生産する方法。
本発明により以下の効果が奏される。
1.希少糖に対し基質特異性の高いポリオール酸化酵素を提供することができる。
2.D−アラビトール、エリスリトール、D−マンニトール、D−ソルビトールに対する基質特異性の高いポリオール酸化酵素を提供することができる。
3.一般的な分析方法である液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどに比べ、簡便、迅速、正確、小型、かつ低コストとなり、希少糖に関わる臨床診断や食品分析、環境汚染の測定などに有用である。
4.希少糖を効率よく製造することができる。
5.本酵素は一段階の反応で、しかも酸化反応の不可逆な反応のためほぼ100 %の収率で希少糖の大量生産が可能になることが期待される。
6.本ポリオール酸化酵素を利用することにより以下の糖類の特異的製造方法を提供できる。
a. D−アラビトールを原料としてD−リキソースを製造する方法、
b. エリスリトールを原料としてL−エリスロースを製造する方法、
c. D−マンニトールを原料としてD−マンノースを製造する方法、
d. D−ソルビトールを原料としてL−グロースを製造する方法
ポリオール酸化酵素生産菌(A株またはB株)の酸化酵素の反応を示す。 D−グルコース酸化酵素生産菌(C株)の酸化酵素反応を示す。 C株のPDA培地での形態を示す。 D−ソルビトールを基質とする本酵素反応生成物のHPLC分析を示す。 基質による酵素誘導生産の検討結果を示す。 小麦フスマ粒子の粗さが酵素生産性に及ぼす影響を示す。 粗酵素液中における酵素の安定性を示す。 TOYOPEARL Butyl-650Mカラムクロマトグラフィーを示す。 TOYOPEARL DEAE-650Mカラムクロマトグラフィーを示す。 Hiprep Q XL カラムクロマトグラフィーを示す。 HiLoad 16/10 Superdex 200 grade カラムクロマトグラフィーを示す。 Native-PAGE(左)とSDS-PAGE(右)を示す。 ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いた分子量の算出結果を示す。 本酵素の温度安定性を示す。 本酵素のpH安定性を示す。 本酵素の反応最適温度を示す。 本酵素の反応最適pHを示す。 ポリオール(D体)の構造式と基質認識部位を示す。 D−アラビトールに対する本酵素の作用を示す。 D−ソルビトールに対する本酵素による反応を示す。 18SrDNAの構造と目的増幅部位を示す。 PCR後のアガロースゲル電気泳動の写真を示す。 PCR増幅断片におけるアラインメント検索を示す。 ポリオール生産菌の顕微鏡写真を示す。
本発明は、次の(a)から(e)の性質によって特定されるペニシリウム(Penicillium)に属する微生物由来のポリオール酸化酵素に関するものである。
(a)安定pHはpH6.0以上であり、反応至適pHは7.0から9.0である。
(b)作用温度は50℃以下であり、反応至適温度は40℃である。
(c)分子量が約113kDaである。
(d)ポリオールの2位と3位のOH基がL−エリスロ型の構造を特異的に認識して反応し、4位のOH基がL−リボ型であることは認識できず反応しない。
(e)基質特異性が、D−アラビトール、エリスリトール、D−マンニトール、D−ソルビトールの順である。
本発明のポリオール酸化酵素は、D−アラビトール、エリスリトール、D−マンニトール、D−ソルビトールに対する基質特異性が顕著であって希少糖の製造あるいは希少糖の検出など有用である。特に、D−マンニトールからD−マンノース、D−アラビトールからD−リキソース、D−ソルビトールからL−グロース、エリスリトールからL−エリスリトールの製造に有用である。
本発明の酸化酵素は、香川県三木町池戸公民館から採取した土壌から得た菌株KU-1に由来するものであって、以下の段落で詳細に説明するように、この菌株はペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株であることが判明した。この菌株Penicillium sp.KU-1は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-1156であるとして平成23年(2011年)10月26日に国内寄託されており、そこから入手可能である。このたび国際出願をするに際し、原寄託(NITE P−1156)を上記の原寄託をした国際寄託当局に2012年10月16日に移管請求をし、2012年10月25日に該国際寄託当局より原寄託についての受託証(NITE BP−1156)が発行された。
本発明の上記ポリオール酸化酵素を産生するペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株Penicillium sp.KU-1を以下の記載においてA株と称することもある。
既知のポリオール酸化酵素としてストレプトマイセス(Streptmyces)属が生産するソルビトール酸化酵素 やキシリトール酸化酵素が挙げられるが、D−ソルビトールを基質とするこれらの酵素反応ではD−グルコースが生産されることが明らかとなっている。その一方で、ペニシリウム(Penicillium)属が生産する酵素は、D−ソルビトールからは(L−)グロース、D−アラビトールからは(D−)リキソースが生産されることが強く示唆されている。現在、L−グロースはL−ソルボースから異性化酵素を用いて生産されている。そして、D−リキソースはD−グルコースからD−アラビトール、D−キシロースと多段階の反応を経て生産されている 。さらに、異性化酵素を用いた反応であるため、生産されるD−リキソースの収率は低い。その点において本酵素は一段階の反応で、さらに酸化反応が不可逆反応であるため、ほぼ100%の収率でこれらの希少糖の大量生産が可能である。そのため、本発明の酵素は希少糖の新たな生産系への利用が期待されるものである。
以下に本発明の酸化酵素について説明する。
[1.微生物の単離]
l.実験方法
1.1 試薬
培地に使用したPotato Dextrose Agar(PDA)はBection,Dickinson and Company製のものを使用した。
1.2 培地組成および培養条件
様々な場所で採取した土壌約1gに約5mlの水を添加し、土壌懸濁液を作成した。その上清をさらに100倍希釈したものをPDA培地に50μl塗布し、28℃で培養した。そこから形成されたコロニーの中から、糸状菌と思われる菌株を同様の培地に接種し、28℃で培養して菌株を単離した。
2.結果および考察
本学の棟内やその周辺を中心とする香川県内や、県外では大阪府内の公園などから土壌を採取した。そこから糸状菌と思われる139株の菌株の単離を行った。採取した土壌によってバクテリアが中心であったものや、多くの糸状菌のコロニーが確認できたものなど様々であったことから、採取場所によって土壌微生物の種類が異なることが明らかとなった。また、糸状菌よりもバクテリアの方が生育速度が速いため、培地全体にバクテリアが広がり、糸状菌の単離が困難であったものがあった。これを防ぐために、アンピシリンなどの抗生物質を添加した培地での培養を行うことで効率の良い糸状菌の単離が可能になると考えられる。
[新規酸化酵素のスクリーニング]
土壌から単離した糸状菌を小麦フスマ培地にて培養し、培地中に酸化酵素を分泌生産する糸状菌のスクリーニングを行った。
1.実験方法
1.1試薬
培地として使用した小麦フスマ培地の小麦フスマはJA香川で購入したもの、Potato Dextrose Broth(PDB)はBection,Dickinson and Company製のものを使用した。緩衝液はリン酸カリウム緩衝液(pH7)を用い、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムともに和光純薬工業株式会社製を用いた。基質として使用した糖類のD−グルコース、D−マンニトール、D−ソルビトールはナカライテクス株式会社製、D−フルクトース、D−ガラクトース、D−マンノースは和光純薬工業株式会社製、アリトール、D−タガトース、D−プシコース、D−アロースは香川大学希少糖センターから得たものを使用した。基質として使用したアミノ酸である、クレアチン、クレアチニンは和光純薬工業株式会社製、L−オルニチン、L−シトルリン、γ−アミノ酪酸はSIGMA−ALDRICH CO.製を用いた。酸化酵素測定に用いたペルオキシダーゼ(ABTS)は、それぞれ和光純薬工業株式会社のものを用いた。
1.2培地組成および培養条件
PDB5mlに単離した菌体を接種し、1週間28℃で振とう培養した。200ml容三角フラスコに小麦フスマ6g、水15mlを加えて混合し、オートクレーブで滅菌したものを小麦フスマ培地として用いた。作成した小麦フスマ培地に液体培養した菌体を培養液ごと全量加え、28℃で培養した。培養2週間後に以下に述べた方法で抽出液を調製し、酸化酵素活性測定に用いた。
1.3培地抽出液の調製
菌体を生育させた小麦フスマ培地に10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を20ml加えてよく浸し、氷上で1時間静置後、ガーゼを用いて圧搾した。その後4℃、12,000r.p.mで18分遠心分離によって微粒子を取り除き、これを粗抽出液とした。
1.4一次スクリーニングに使用した基質
1次スクリーニングは効率性を考えて糖混合溶液とアミノ酸混合溶液を用いた。各基質は最終濃度0.5Mになるよう調整した。混合溶液の組み合わせは表2に示す。1次スクリーニングで活性が検出された粗抽出液は、0.5Mの各基質を単独で用いて2次スクリーニングを行い、基質の特定を行った。
1.5酸化酵素活性測定方法
酸化酵素の活性測定方法はペルオキシダーゼ法を用いた。D−グルコース酸化酵素を例とすると、ペルオキシダーゼ法の原理は以下のようになる。
この方法は、酸化反応により生じる過酸化水素を比色定量することで活性を測定する。基質との酸化反応により生成された過酸化水素とペルオキシダーゼが反応すると、ABTSの酸化反応が触媒され、酸化型のABTSが生じる。酸化型ABTSは青色に呈色するため、目視あるいは420nmの吸光度を測定することで酸化酵素活性を検出することができる。活性測定は小麦フスマ培地から抽出した粗抽出液を用いた。酸化酵素活性測定のための反応液組成は、表3に示した。また、コントロールとして、基質の代わりに水を加えた反応液も同様に作成した。室温で反応させた後、呈色の有無を目視によって確認し、呈色が見られた反応液に添加した粗抽出液に酸化酵素活性があると判断した。
2.結果および考察
酸化酵素のスクリーニングを行った結果、酸化酵素を生産していると考えられる糸状菌を3株発見した。そのうちの2株はポリオール酸化酵素を生産する微生物で、三木町池戸公民館から採取した株(以下、A株とする)と、大阪府守口市内の公園から採取した株(以下、B株とする)であった。A株とB株はどちらもポリオール酸化酵素を生産するが、A株の酸化酵素はD−ソルビトールとD−マンニトールを基質とし、アリトールには反応性を示さなかったのに対し、B株の酵素はD−ソルビトール、D−マンニトール、アリトールの全てを基質とする点で異なっていた。また、両酵素ともアルドースやケトースには反応しなかったことからポリオールに基質特異性を示すことが明らかとなった。これらの酵素のペルオキシダーゼ法による酵素反応を図1に示す。これまで報告されているポリオール酸化酵素の種類は少ない。しかし、基質特異性の異なる2株のポリオール酸化酵素が発見できたことから、自然界にポリオール酸化酵素を生産する微生物は意外と広く分布している可能性が考えられ、残りの1は大阪府東大阪市の土壌から採取した株(以下C株とする。)はD−グルコース酸化酵素を生産しており、他の単糖には反応せずD−グルコースに高い基質特異性を示す酸化酵素であった。単離された糸状菌の形状から、C株はAspergillus nigerと考えられる。A. nigerは基質特異性が高いD−グルコース酸化酵素を生産することが既に知られており、この酵素のペルオキシダーゼ法による酵素反応を図2に、C株をPDA培地で培養したものを図3に示す。
[2.A株が生産するポリオール酸化酵素の生産条件の検討]
液体培養での酵素生産の有無や、基質の添加による酵素生産の誘導生産の有無などA株が生産するポリオール酸化酵素の生産条件について検討を行った。
1.実験方法
1.1 供試菌
ポリオール酸化酵素生産菌であるA株を用いた。
1.2 試薬
培地として用いたYeast extract はナカライテクス株式会社製のものを使用した。
1.3 培地組成および培養条件
滅菌水5mlに菌を懸濁し、懸濁液1mlを(1)PDB と(2)Yeast extract、マンニトール、D−ソルビトールをそれぞれ0.5%加えた液体培地各100mlに接種した後、28℃で振とう培養した。
1.4 粗酵素溶液の調製
培養2日目から、各培養液から500μlずつ抜き取ったものを、12000r.p.m.、4℃、10分間遠心分離後、上清を回収し、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析した。これを粗酵素溶液とした。
1.5 酵素活性測定方法
前記反応溶液組成において、D−ソルビトールを基質として用いた反応を行い、ABTSの呈色を目視により測定して活性の有無を調べた。
2.結果および考察
液体培養を行い、培養2日目から10日目まで粗酵素溶液の酵素活性測定を行ったが、(1)PDBと(2)Yeast extract、D−マンニトール、D−ソルビトールをそれぞれ0.5%加えた液体培地のどちらにおいても酵素活性は検出されなかった。このことより、この酵素は小麦フスマ培地などの固体培地において良好に生産される酵素であり、また、基質による誘導生産は起こらないことが示唆された。糸状菌は一般的に液体培養より固体培養の方が多様な酵素を生産することが知られており、この酵素も例外ではなかったと考えられる。
[3.D−ソルビトールを基質とする反応生産物のHPLC解析]
D−ソルビトールを基質として酵素反応を行い、その反応生成物の解析をHPLCを用いて行った。
1.実験方法
1.1 供試菌
ポリオール酸化酵素生産菌であるA株を用いた。
1.2 試薬
HPLCサンプルの脱塩処理に使用したアンバーライトはオルガノ株式会社製を、ダイヤイオンは三菱化学株式会社製を使用した。
1.3 培地組成および培養条件
前記同様の方法で行った。
1.4 酵素溶液の調製
前記と同様の方法で行った。
1.5 酵素反応
表4に示す組成で粗抽出液とD−ソルビトールを24時間室温で反応させ、煮沸によって反応を停止させた。反応が進むにつれて溶存酸素が減少することが考えられたため、ピペッターを用いて反応液中に空気を注入した。また、反応溶液を混合後すぐに煮沸して反応を停止させたものと、熱処理した粗酵素溶液で同様に24時間反応させたものをコントロールとした。
1.6 脱塩処理、解析
酵素反応を煮沸で止めた後、微粒子を取り除くため13,000r.p.m.で10分遠心分離して上清を回収した。それにダイヤイオンとアンバーライトを1:2の割合で混ぜたものを少量添加して1時間静置し、反応液の脱塩を行った。その上清を回収し、13,000r.p.m.5分遠心分離した後、0.22μmフィルター(Ultrafree-MC)に入れて6000r.p.m.で5分遠心分離した。フィルターを通過した溶液を全量回収し、HPLC専用チューブ(サンプルカップIA)に泡が入らないように注入した。オートサンプラーにかけ解析を行った。
1.7 HPLCの条件
GL−C611カラムクロマトグラフィー(日立化成工業株式会社)を用い、10‐4M水酸化ナトリウム水溶液を移動相とし、示差屈折計によって検出を行った。
2.結果および考察
D−ソルビトールを基質として24時間酵素反応を行い、その反応生成物のHPLCを用いて解析を行った。その結果、図4に示すように、21分付近でコントロールの反応液には存在しないピークが確認された。これは、希少糖であるグロースの溶出時間とー致する。また、9分付近のピークは塩などが考えられ、20分付近のピークはイドースの溶出時間と一致するが、コントロールにも同様のピークが確認されたため、酵素反応に由来する物質ではないかことが考えられる。そして、28分付近のピークは、基質として用いたD−ソルビトールである。
この結果より、A株が生産する酵素とD−ソルビトールの反応生成物は希少糖であるグロースであることが強く示唆された。また、光学活性についての測定は行なっていないが、基質がソルビトールであることを考慮すると、構造的に生成物はL−グロースであると考えられる。しかし、酸化反応は不可逆的な反応であるのにも関わらず、反応24時間後に生成された(L−)グロースは約3%と微量であった。これは、粗酵素溶液を用いた点と、反応溶液中の酸素濃度が不十分であった点が原因であると考えられる。
[4.ペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株(A株) 由来ポリオール酸化酵素の生産条件の検討]
液体培養での酵素生産の有無や、基質の添加による酵素生産の誘導生産の有無など、ペニシリウム(Penicillium)属由来ポリオール酸化酵素を酵素溶液をより効率良く取得できる方法の検討を行った。
1.実験方法
1.1 供試菌
ポリオール酸化酵素生産するペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株(A株)を用いた。
1.2 培地組成および培養条件
1)液体培地
滅菌水5mlに菌を懸濁し、懸濁液1mlを(1)PDBと(2)Yeast extract、D−マンニトール、D−ソルビトールをそれぞれ0.5%加えた液体培地各100mlに接種した後、28℃で振とう培養した。
2)基質による酵素誘導生産の検討
PDB培地で28℃、3日間振とう培養した本菌を5mlずつD−マンニトール非添加培地とD−マンニトール添加培地にそれぞれ接種し、28℃で静養培養した。
3)小麦フスマの粒子の粗さが酵素生産性に及ぼす影響
以下の組成の小麦フスマ培地を、小麦フスマ培地への糖の添加と同の方法で菌を接種、培養した。小麦フスマと水の割合を表7および表8に示す。
1.3 酵素溶液の調製
1)液体培地
培養2日目から、各培養液から500μlづつ抜き取ったものを、12,000r.p.m.、4℃、10分間遠心分離後、上清を回収したものを10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析した。これを粗酵素溶液とした。
2)基質による酵素誘導生産の検討
前記と同様の方法で粗酵素溶液を取得した。ただし、緩衝液は10mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)に変更した。
3)小麦フスマの粒子の粗さが酵素生産性に及ぼす影響
基質による酵素誘導生産の検討と同様の方法で抽出を行い粗酵素溶液を取得した。
1.4 酵素活性測定方法
1)液体培地
前記反応液組成で、D−マンニトールを基質として用いた反応を行い、ABTSの呈色を目視により定して活性の有無を調べた。
2)基質による酵素誘導生産の検討
本酵素活性の測定は前記と同様のペルオキシダーゼ法を用いて420nmの吸光度の上昇を測定することにより行った。酵素反応はD−マンニトールを添加することにより開始させ、日立製分光光度計U−2010を用いて30℃の反応条件下で10分間の時間変化で吸光度を定した。反応は表9のように反応液が総量1mlとなるように調製した。1unitは、吸光度420nmにおいて1分間に吸光度が1上昇する酵素量と定義した。
3)小麦フスマの粒子の粗さが酵素生産性に及ぼす影響
小麦フスマ培地への糖の添加と同様の方法で溺定を行った。
2.結果および考察
1) 液体培地
培養2日目から10日目まで粗酵素溶液の酵素活性測定を行ったが、どちらの液体培地においても酵素活性は検出されなかった。この結果より、この酵素は小麦フスマ培地などの固体培地において良好に生産される酵素であることが示唆された。また、液体培地と固体培地での生育速度は同じまたは液体培地の方が速かったため、酵素生産条件は菌糸生長に依存していないことが示唆された。
2)基質による酵素誘導生産の検討
培養6日日から18日目まで粗酵素溶液の抽出と酵素活性測定を行い、その結果を図5に示した。酵素活性に大きな差が見られなかったことから、この酵素は基質の添加による酵素産生の誘導は起こらないことが示唆された。また、小麦ふすまにはマンニトールなど誘導源となる糖が含まれているため、さらに基質を小麦フスマ培地に添加してもそれ以上の誘導は見らなかったという可能性も否定できない。
3)小麦フスマ粒子の粗さが酵素生産性に及ぼす影響
培養6日目から12日目までの粗酵素溶液の抽出と酵素活性測定を行い、その結果を図6に示した。この結果により、ピーク時には2.6倍の差がみられ、粒子が細かい小麦フスマを用いた本菌の培養のほうが良好に酵素を生産することができることが明らかとなった。また、酵素活性のピークは培養9日目付近に現れた。これらの結果より、粒子が細かい小麦フスマ培地で9日間培養したものから抽出した粗酵素溶液を用いて本酵素の精製を試みた。
[5.粗酵素溶液を用いた酵素安定性の検討]
精製に先立ち、粗酵素液中における本酵素の安定性について検討を行った。
1.実験方法
1.1 供試菌
ポリオール酸化酵素生産するペニシリウム(Penicillium)属する菌株(A株)を用いた。
1.2 試薬
硫安分画に用いた硫酸アンモニウムはナカライテクス株式会社製を使用した。
1.3 培地組成および培養条件
500ml容三角フラスコに小麦フスマ20gと水40mlを加えスパーテルでよく混合し、綿栓をしてオートクレーブで滅菌したものを小麦フスマ培地として用いた。これに、PDBで3日間振とう培養したものを5ml接種し、28℃、10日間静置培養した。
1.4 酵素溶液の調製
上記と同様の方法で粗抽出液を取得した。ただし、緩衝液は10mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)に変更した。粗抽出液の半分は粗酵素溶液として氷上静置0時間、5時間後、24時間後での残存酵素活性を測定した。残りは硫安塩析により50〜70%飽和硫安画分を調製し、同様に氷上静置0時間後、5時間後、24時間後の残存酵素活性を測定した。
1.5 酵素活性測定方法
上記と同様の方法で行った。
2 結果および考察
酵素活性を測定した結果を図7と表10.に示した。
粗酵素溶液を氷上で5時間静置後の残存酵素活性は約5%であり、24時間後には完全に失活した。しかし、硫安塩析により調製した50〜70%飽和画分は、氷上で24時間静置後でも残存活性が60%であった。このことから、粗酵素溶液中には高いプロテアーゼ活性が存在し、硫安分画によってある程度プロテアーゼを除くことができることが示唆された。
[6.ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物由来のポリオール酸化酵素の精製]
1.実験方法
1-1 供試菌
ポリオール酸化酵素生産するペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株(A株)を用いた。
1-2 培地組成および培養条件
500ml容三角フラスコに小麦フスマ20gと水30mlを加えて混合し、綿栓をしてオートクレーブで滅菌したものを小麦フスマ培地として用い、28℃で9日間培養した。
1.3 酵素活性測定方法
本酵素活性の測定は前記と同様のペルオキシダーゼ法を用いて420nmの吸光度の上昇を測定することにより行った。酵素反応はD−マンニトールを添加することにより開始させ、日立製分光光度計U−2010を用いて30℃の反応条件下で10分間の時間変化で吸光度を測定した。反応は表11のように反応液が総量1mlとなるように調製した。1unitは、吸光度420nmにおいて1分間に吸光度が1上昇する酵素量と定義した。
1.4 タンパク質定量
タンパク質の定量にはBradford法に基づき、ナカライテクス株式会社製プロテインアツセイCBB溶液を用いて行った。検量線の作成には標準タンパク質として牛血清アルブミンを用いた。吸光度の測定には日立製分光光度計U−3200を用いた。
1.5 ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)SDS−PAGEは、分離ゲル15%、濃縮ゲル4%になるように調整し、Laemmliの方法に従って行った。分子量マーカーはSIGMA社製のProtein Marker Low Rangeを用いた。
1.6 Native−PAGEと活性染色
Native−PAGEは、分離ゲル15%、濃縮ゲル4%になるように調整しDavis法に従って行った。活性染色は、泳動後ゲルを水にて洗浄した後、遮光状態で表11で示したものと同様の組成の溶液に浸すことにより行った。
1.7 酵素精製
酵素精製は、(1)〜(4)では全て氷上もしくは4℃で行った。また、緩衝液は10mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)を用いた。
(1)粗酵素溶液の調製
培養後の培地に緩衝液を60ml加えてよく混合し、氷上で1時間以上静置した後、ガーゼを用いて圧搾し、培地中の酵素を抽出した。これを4℃、800r.p.m.で10分遠心分離によって微粒子を取り除き、これを粗酵素溶液とした。
(2)50〜70%飽和硫酸アンモニウム分画
粗酵素溶液に硫酸アンモニウムをまず50%飽和となるように加え、溶解した後4℃で3時間撹拌した。これを4℃、8,000r.p.m.で10分遠心分離した。その上清を回収し70%飽和となるように硫酸アンモニウムを加えて溶解し、4℃で一晩撹拌した。これを4℃、8,000r.p.m.で10分遠心分離し、硫酸アンモニウムで40%飽和にした緩衝液で沈殿を溶解させた。
(3)TOYOPEARL Butyl-650Mカラムクロマトグラフィー
硫酸アンモニウムで40%飽和にした緩衝液で平衡化したTOYOPEARL Butyl-650M カラム(φ2.0cm×8.0cn)に供した。カラムは硫酸アンモニウムで40%飽和にしたリン酸カリウム緩衝液100mlで洗浄し、酵素は緩衝液中の硫酸アンモニウム飽和濃度を30%、20%を各100mlずつと段階的な変化により溶出し、活性のある画分を回収した。回収した画分に含まれている硫酸アンモニウムを緩衝液で4℃、一晩透析によって除去した。ここでの吸光度420nmの上昇は日立製分光光度計U−3200を用い、時間変化による測定は行わずに反応開始から1分後の1点での吸光度の値を測定した。
(4)TOYOPEARLDEAE−650Mカラムクロマトグラフィー
緩衝液で平衡化したTOYOPEARL DEAE−650Mカラム(φ1.0cmx5.0cm)に供した。カラムは50mlの緩衝液で洗浄し、酵素は緩衝液中の塩化ナトリウム濃度を0mM、100mM、150mM、200mMを各50mlずつと段階的な変化により溶出し、活性のある部分を回収した。回収した画分に含まれている塩化ナトリウムを緩衝液で4℃、一晩透析によって除去した。ここでも、吸光度420nmの上昇は日立製分光光度計U−3200を用い、時間変化による測定は行わず、反応開始から1分後のl点での吸光度の値を測定した。
(5)Hiprep Q XLカラムクロマトグラフィー
Amicon Ultra-15(Millipore社製)を用いて約1mlに濃縮後、200mlの緩衝液で平衡化したHiprep Q XL(GE Healthcare)に供した。酵素は緩衝液中の塩化ナトリウム濃度を0〜0.5Mへ直線的濃度勾配をかけることにより溶出し、活性のある画分を回収した。回収した画分に含まれる塩化ナトリウムを緩衝液で4℃、一晩透析によって除した。ここでの吸光度測定も日立製分光光度計U−3200を用い、反応開始から1分後の吸光度の値を測定した。
(6)HiLoad 16/10 Superdex 200 prep grade カラムクロマトグラフィー
0.15MのNaClを添加した緩衝液200mlで平衡化したHiLoad 16/10 Superdex 200 prep grade GE Healthcare)に供した。ここでの吸光度測定は日立製分光光度計U−300を用い、反応開始から5分後の吸光度の値を測定した。
2.結果および考察
ポリオール酸化酵素の精製はTOYOPEARL Butyl-650Mカラムクロマトグラフィー(疎水カラムクロマトグラフィー)、TOYOPEARL DEAE−650Mカラムクロマトグラフィー(弱陰イオン交換カラムクロマトグラフィー)、Hiprep Q XLカラムクロマトグラフィー(強陰イオン交換カラムクロマトグラフィー)、Hiroad 16/10 Superdex 200 prep gradeカラムクロマトグラフィー(ゲルろ過カラムクロマトグラフィー)の順で行った。
TOYOPEARL Butyl-650M カラムクロマトグラフィーの溶出パターンを図8に示した。30%飽和硫酸アンモニウムで1つの活性のピークが認められたので、これらの活性のある7〜12までのフラクションをまとめて透析後、次のカラムクロマトグラフィーに用いた。また、20%飽和硫酸アンモニウムに置き換わって間もない45番目付近のフラクションでも小さな活性のピークが確認できた。これは30%飽和硫酸アンモニウムで溶出しきれなかった酵素が溶出したのではないかと考える。
TOYOPEARL DEAE-650M カラムクロマトグラフィーの溶出パターンを図9に示した。100mM塩化ナトリウムで溶出した8〜22までのフラクションと150mMで溶出した40〜52までのフラクションで2つの活性のピークが認められたが、比活性を比較したところ、8〜22までのフラクションの方が高かったため、これらのフラクションをまとめて透析後、Amicon Ultra-15(Millipore社製)を用いて約1mlに濃縮し、Hiprep Q XLカラムクロマトグラフィーに用いた。2つのピークが確認されたことから、アイソザイムや異なる酵素の存在が考えられる。
次に用いたHiprep Q XLカラムクロマトグラフィーでは図10のような溶出パターンとなり、1つの活性のピークが認められた。高い活性が確認されたフラクション89〜97の画分をまとめて透析後、Amicon Ultra-15(Millipore社製)を用いて約1mlに濃縮し、HiLoad 16/10 Superdex 200 prep grade カラムクロマトゲラフイ一に供することにした。HiLoad 16/10 Superdex 200 prep gradeカラムクロマトグラフィーでは図11に示すような溶出パターンとなった。また、精製過程を通じて280nmの吸光度によるタンパク掌の定量はHiprep Q XL カラムクロマトグラフィーから行った。これは、粗酵素溶液に茶色い色素が含まれており、TOYOPEARL DEAE−650M力ラムクロマトグラフィーまでサンプルが着色していたためである。精製表は表12に示す。精製の結果、収率は約0.1%、精製倍率は約3.0倍であった。
[7.ペニシリウム(Penicillium)属に属する菌株(A株)由来のポリオール酸化酵素の諸性質の解析]
ポリオール酸化酵素の諸性質の解析を上述の方法で得られた精製酵素溶液を用いて諸性質の解析を行った。
1. 実験方法
1.1 純度の検定
Native−PAGEを行ない、活性染色とGBB染色のそれぞれを行うことにより、純度の検定を行った。
1.2 分子量ととサブユニット構造の検討
上述したように、精製の最終段階にHiLoad 16/10 Superdex 200 Prep gradeカラムクロマトグラフィー(ゲルろ過カラムクロマトグラフィー)を用いたので、分子量の算出も同時に行った。分子量マーカーには、SIGMA社製のGELFILTRATION MOLECULAR WEIGHT MARKERS のCytochrome c、Carbonicanhydrase、Albumin,Alcohol dehydrogenaseを用いて酵素の分子量の測定を行った。また、精製酵素のSDS−PAGEの結果から、サブユニット構造の検定を行った。
1.3 温度安定性の検討
反応液組成は表11とほぼ同様の組成で行った。10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃で検定を行った。基質はD−マンニトールを用い、30℃の条件下の反応によって生じる吸光度420nmの上昇を日立製分光光度計U−2810を用いて測定した。反応液の量が1mlとなるように調製し、420nmにおいて吸光度が1分間に1.0上昇する酵素量を1unitと定義した。
1.4 pH安定性の検討
各pHの緩衝液が最終濃度0.1Mとなるよう酵素と混合し、氷上で15時間静置後、残存酵素活性を測定した。各緩衝液はpH2.0、3.0、4.0、5.0、6.0にはクエン酸緩衝液、pH6.0、7.0、8.0にはリン酸カリウム緩衝液、pH8.0、9.0にはグリシンNaOH緩衝液、pH8.0、9.0、10.0にはTris−HCl緩衝液を使用した。活性はD−マンニトールを基質とし、30℃の条件下での反応によって生じる吸光度420nmの上昇を日立製分光光度計U−2010を用いて測定した。また、反応液中の酵素の中には安定性を試験するために加えた各pHの緩衝液が含まれている。反応はすべて統一したpHで行うために、反応液にはリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)を通常の反応液組成より多めに加え、反応がpH8.0の条件下で安定するようにした。(表13)
1.5 反応最適温度の検討
反応液組成は温度安定性の検定と同様にした。10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃で10分間の吸光度420nmの上昇をそれぞれ測定した。吸光度の測定には日立製分光光度計U−3208を用いた。
1.6 反応最適pHの検討
反応液組成を表14に示す。各pHの緩衝液は、pH安定性の検定と同様のものを用いた。反応液を総量1mlなるように調製し、反応溶液中の緩衝液濃度は最終濃度50mMとなるように調製した。活性は30℃の条件下で反応によって生じる吸光度420nmの上昇を日立製分光光度計U−2010を用いて測定した。また、反応溶液中に酵素であるペルオキシダーゼが含まれている。このペルオキシダーゼによるpHの影響を受けないようにするために、通常よりもペルオキシダーゼを多めに加えた。
2 結果および考察
本酵素の詩性質の検討を行ったところ、以下のような結果が得られた。
2.1 純度の検定
図12に示すように、Native−PAGEでほぼ1本のタンパク質バンドが検出され、その位置は活性染色で確認できたバンドの位置と一致した。この結果より、本酵素はほぼ均−に精製されたことが示唆された。しかし、ほぼ均−に精製されていたのにも関わらず、精製倍率が3倍と極めて低かったのはプロテアーゼの影響などによって精製過程での失活が原因と考えられる。そのため、本酵素の製にはプロテアーゼ阻害剤を使用することなどの工夫が必要であると考えられる。
2.2 分子量とサブユニット構造の検討
図13に示すように、本酵素の分子量はゲルろ過カラムクロマトグラフイーでは約113kDaと算出され、SDS−PAGEでは約50kDaと60kDaの位置に2本のバンドが検出された。これらの結果より、本酵素は分子量約50kDaと60kDaのサブユニットから構成きれるヘテロダイマー酵素であることが示唆された。既知のポリオール酸化酵素でヘテロダイマー酵素の報告は無いため、この酵素の新規性が高いと言える。
2.3 温度安定性の検討
10℃〜60℃において、それぞれの安定性を試験したところ図14に示すように、本酵素は30℃以下で安定であることが明らかとなった。また、40℃では残存活性が約80%あるが、50℃以上では完全に失活した。
2.4 pH安定性の検討
pH2.0〜10.0において、酵素活性を測定したところ図15に示すように、pH6.0以上で安定であった。また、pH9.0におけるTris−HCl緩衝液での酵素活性が著しく高く、同じpH9.0のグリシン−NaOH緩衝液と比較しても約2倍の差があった。このことより、Tris−HCl緩衝液が本酵素活性に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
2.5 反応最適温度の検討
10℃〜60℃において、図16に示すように酵素活性を測定したところ、40℃が反応最適温度であることがわかった。
2.6 反応最適pHの検討
図17に示すように、pH2.0〜10.0において、それぞれの酵素反応液で反応を測定したところ、pH8.0が反応最適pHであることがわかった。また、pH6.0以下では全く活性が認められなかった。また、pH安定性の検討と同様、pH8.0におけるTris−HCl緩衝液での酵素活性が著しく高く、同じpH8.0のグリシン−NaOH緩衝液と比較しても約2倍の差があった。このことより、Tris−HCl緩衝液が本酵素活性に何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。さらに、pH9.0で急激な活性の低下が見られた。これは、ペルオキシダーゼを通常の反応液組成より多く加え、ペルオキシダーゼによるpHの影響を防ごうとしたが、ペルオキシダーゼ活性はpH9.0以上で急激に低下するため、やはりその影響を受けてしまったのではないかと考えられる。
2.7 本酸化酵素と既知酸化酵素との諸特性における比較
本酵素と既知のポリオール酸化酵素や小麦フスマ培地で特異的に生産される酸化酵素の酵素学的、タンパク質化学的諸性質の比較を行った。
既知のポリオール酸化酵素の諸性質と本酵素の諸性質を表15に示した。本酵素は他のポリオール酸化酵素に比べて非常に分子量が大きく、温度安定性が低い。さらに、ヘテロダイマー酵素であるという報告例はこれまでに無い。これらの点は本酵素の新規性をより強く支持する結果となった。また、既知の小麦フスマ培地で特異的に生産される酸化酵素の諸性質と本酵素の性質を表16に示した。pH安定性や反応最適温度は類似しているが、既知のポリオール酸化酵素で比較した時と同様、温度安定性が他の酸化酵素より低い。しかし、本酵素と同じペニシリウム(Penicillium)属菌由来のグルタチオン酸化酵素とグリセロール酸化酵素では、ヘテロダイマー酵素であり、そのため分子量が大きいという点で類似していた。これより、ペニシリウム(Penicillium)属菌は小麦フスマ培養において他の菌種に比べて多くのヘテロダイマ一酵素を菌体外に分泌生産するのではないかと考えられる。また、ペニシリウム(Penicillium)属菌由来のグリセロール酸化酵素では、この酵素は細胞表面に結合している酵素であるため、酵素抽出の際に界面活性剤を緩衝液に添加することにより、酵素活性が非常に高くなったという報告がある。
[8.酵素の基質特異性]
1 基質特異性
部分精製酵素を用いて測定した本酵素の基質特異性は以下に示す表17のようになった。検定したポリオールのうち、D−アラビトール、エリスリトール、D−マンニトール、D−ソルビトールの順に活性が高く、その他のポリオールでは高い活性は見られなかった。
ポリオールD体の構造を図18に示した。検定したすべてのポリオールで構造を比較したところ活性の高い4つのポリオールで共通の構造が確認された。図18に示すように、本酵素はフィッシャーの構造式であらわしたとき、2位と3位のOH基が右を向いたL−エリスロ型を特異的に認識していることが示唆された。しかしこの構造は、活性の低いリビトール、アリトール、D−タリトールにも見られる。活性の高い4つとこれらの構造を比較すると、その違いは4位のOH基が右を向いたL−リボ型の構造であることがわかる。これより本酵素は4位のOH基がL−リボ型の構造を認識できないため、これらのリビトール、アリトール、D−タリトールでは酸化反応が起こらないと考えられた。
基質特異性、基質認識機構ともに従来報告されているポリオール酸化酵素とは異なるものであり、本酵素が新規の酸化酵素である。
2 HPLCによる反応生成物の検定
ポリオール酸化酵素の反応生成物をHPLCによって解析した。その結果、D−マンニトール、D−アラビトール、D−ソルビトールを基質とした際の生成物が判明した。エリスリトールは、四炭糖であり、生成物の判別が現段階では困難であったため今回は解析を行わなかった。D−マンニトールからはマンノースの生産が確認された。光学活性については測定していなが、基質がD−マンニトールであることを考えると構造的に生成物はD−マンノースであると考えられる。
D−アラビトールを基質としたときの酵素反応液のHPLC分析結果より、D−アラビトールからの生成物がリキソースであることが判明した。こちらも生成物の光学活性は測定していないが、構造的に反応生成物はD−リキソースであると考えられる。その反応の構造式を図19に示す。これまでに報告されているポリオール酸化酵素ではD−アラビトールの1位の水酸基が酸化を受けてD−アラビノースが生成されていた。ここではストレプトマイセス(Streptmyces)属が生産するソルビトール酸化酵素を例に挙げた。一方、本酵素ではD−アラビトールの6位の水酸基の酸化を触媒し、希少糖D−リキソースを生成することが示唆された。ここで、HPLC結果においてD−アラビトールのピークの直前に1つのピークが見られるが、酵素反応前にも、どの基質においても確認されたためこのピークは菌体由来の糖以外の成分であると考えられた。
次にD−ソルビトールを基質とした際の反応生成物のHPLC解析結果より、D−ソルビトールからはグロースの生成が確認された。こちらも光学活性については測定していないが、D−ソルビトールから生成されていることから、構造的にL−グロースが生成されていると考えられる。その反応の構造式を図20に示した。ここでも既知のポリオール酸化酵素であるソルビトール酸化酵素を例に挙げる。先のD−マンニトール、D−アラビトールを基質としたときの結果と合わせて、本酵素はポリオールの6位の水酸基を酸化する酵素であると考えられた。これまでに報告されているポリオール酸化酵素で6位の水酸基を酸化する酵素は報告されておらず、改めて本酵素が新規の酸化酵素であることが示唆された。
ここで、本酵素がポリオールの6位の水酸基の酸化を触媒するという点から、今回HPLC解析を行わなかったエリスリトールを基質とした酸化反応を予想した。エリスリトールの6位の水酸基が酸化を受けるとL−エリスロースの生成が予想される。これより本酵素の酸化反応により、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースの3つの希少糖が生成されることが強く示唆された。
これらの希少糖の従来の生産方法を調べてみたところ、D−リキソースはD−グルコースからD−アラビトール、D−キシロースと多段階の反応を経て、生産されていた(非特許文献2)。しかも異性化酵素のため、生産されるD−リキソースが高い収率で得られるとは言い難い。L−グロースもL−ソルボースから異性化酵素を用いることで生産されている。L−エリスロースはエリスリトールをグルコノバクター(Gliconobacter)属の菌株の細胞膜外表層に存在する膜結合型メソ-エリスリトール脱水素酵素で酸化発酵によってL−エリスルロースを生成した後、異性化酵素を用いてL−エリスロースを生産していた。このように、これらの希少糖の生産は多段階の反応系を含むことに加え、異性化酵素を用いる反応であるため100 %の収率は望めなかった。その点において本酵素は一段階の反応で、しかも酸化反応の不可逆な反応のためほぼ100 %の収率でこれらの希少糖の大量生産が可能になることが期待される。
. ポリオール酸化酵素生産菌の同定]
ポリオール酸化酵素生産菌の同定を行うために、18S rDNAの配列を決定することを目指した。18S rDNAは真菌の微生物に特異的に見られる構造で、放線菌やバクテリアでは存在しない構造である。その18S rDNAの構造を図21に示す。
1. 実験方法
1.1 プライマーの作成
今回作成したプライマーの塩基配列を表18に示した。
(1)18S_ F1プライマーの作成は、Byssochlamys spp. 同定のための遺伝子指標の評価(非特許文献3、4)を参考にして行った。
(2)18S_F2、およびITS_R1プライマーは、株式会社ベックスのホームページ(http://www.bexnet.co.jp/product/microbialprimer.html)を参考に作成した。
18S_F1は18S rDNAの下流にある広く真菌に共通する配列の領域に、18S_F2はITS領域に入る直前の18S rDNAの配列の領域に、ITS_R1は5.8Sの中ほどに位置する領域に相同的な配列となるように作成した(図21)。
1.2 PCRおよびシークエンス反応
(1)ゲノムの調整方法
1)液体培養した菌体を乳鉢に入れ、液体窒素を加えすりつぶしてマイクロチューブに移した。
2)600μlの2 % CTAB soln.を加え、転倒混和した。
3)65℃に熱しヒートブロックにチューブを移し、30分間加温し、12,000 r.p.m.で10分遠心した。
4)上清を回収し、そこに量のクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)を加え、5分間穏やかに撹拌する。
5)12,000 r.p.m.で15分、遠心した後、上部の水を回収した。
6) 4,5をもう一度繰り返し、水を新しいチューブに移す。
7)1〜1.5 vol.の1 %CTAB soln.を加え、転倒混和後、1時間室温で静置し、8,000 r.p.m.で10分遠心した。
8)上清を捨て、400μlの1M CsClを加え、完全に溶解させた。
9)800μl の100 %エタノールを加え、転倒混和後、-20℃で20分以上静置し、12,000 r.p.m.で5分遠心した。
10)上清を捨て、沈殿に400μlの70 %エタノールを加え、12,000 r.p.m.で5分遠心した。
11)上清を捨て、沈殿を真空乾燥機で風乾し、20μlのTEバッファーに溶解し、37℃で1時間処理した。
12)フェノールとクロロホルムを100μlずつ添加し、12,000 r.p.m.で10分遠心し、上清を回収した。
13)量のクロロホルムを加え、12,000 r.p.m.で10分遠心し、上清を回収した。
14)エタノール沈殿を行い、12,000 r.p.m.で10分遠心し、遠心した後、TEバッファー30μlで溶した。
(2)PCR
18S_F1プライマーとITS_R1プライマーを用い、(1)で得られたポリオール酸化酵素生産菌のゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行った。PCRの条件は95℃で3分変性させた後、95℃、50℃、75℃を33サイクル行った。表19に記載のPCR反応液を使用した。
(3)シークエンス反応
PCRによって増幅された断片を電気泳動した後、ゲル抽出を行った。その後、それぞれのプライマーを用いてシークエンス反応を行った(図21)。シークエンス反応の条件は95℃、50℃、75℃を25サイクル行った。表20にシークエンス反応液の組成を示した。
2.結果および考察
PCR後、アガロースゲルで電気泳動した結果、目的サイズ断片の増幅が 確認された(図22)。そのため、本菌が真核の糸状菌であることが判明した。
シークエンス反応後解析を行った結果、18S_F1を用いたシークエンス反応で250 bp、ITS_R1を用いた反応で180 bpの塩基配列が明らかとなった。また、(2)18S_F2のシークエンス反応より159 bpの配列が決定した。それぞれの解析の結果、ポリオール酸化酵素生産菌のPCR増幅断片の全長は解読できなかった。しかし、それぞれで得られた配列と相同性の高い菌を検索したところ、18S_F1プライマーを用いて得られた250 bpは94%の相同性でペニシリウム(Penicillium)属93%でアスペルギルス(Aspergillus)属と相同性が見られたITS_R1プライマーを用いて得られた180 bpでは90%でペニシリウム(Penicillium)菌と相同性が見られた(図23)。図23また18S_F2を用いて得られた159 bpでは100 %の相同性でペニシリウム(Penicillium)属と塩基配列が一致した(図23)。よって、本菌がペニシリウム(Penicillium)属菌であることが強く示唆された。
図24にポリオール酸化酵素生産菌の写真と、光学顕微鏡(×1000)での写真を示す。これらの形態からも、本菌がペニシリウム(Penicillium)属であることが示唆された。
これまでに報告されている、微生物が生産するポリオールの酸化酵素において、菌体外酵素はほとんどその報告がない。その点からも本酵素が新規性の高い酵素であると考えられる。
本発明は、新規なポリオール酸化酵素を提供するものであり、特に、希少糖の生産に対して基質特異性を有することを特徴とする。希少糖は自然界には存在しないあるいは微量にしか存在しない糖である。その生産技術や生理的作用、化学的性質などについては明らかではない点が多かったが、近年いくつかの希少糖に関しては大量生産技術の確立と共に、その生理活性が解明され甘味料、農薬、試薬、工業材料など広い分野での実用化が期待されている。本発明のポリオール酸化酵素の提供はこうした産業界の期待に応えるものであって、希少糖の計測、その効率的な生産方法の新たな展開に有用な手段となる。

Claims (4)

  1. 下記(a)から(e)に記載の性質によって特定されるペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物であるPenicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156)由来のポリオール酸化酵素。
    (a)安定pHはpH6.0以上であり、反応至適pHは7.0から9.0である。
    (b)作用温度は50℃以下であり、反応至適温度は40℃である。
    (c)分子量が約113kDaである。
    (d)基質特異性はポリオールの2位と3位のOH基がL−エリスロ型の構造を特異的に認識して反応し、4位のOH基がL−リボ型であることは認識できず反応しない。
    (e)作用はD−マンニトール、D−アラビトール、D−ソルビトール、エリスリトールから選ばれる糖アルコールを酸化し、対応するD−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生成する。
  2. 上記ポリオール酸化酵素が、小麦フスマを培地として上記のペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物を培養して得られたものである請求項に記載のポリオール酸化酵素。
  3. 請求項1に記載のポリオール酸化酵素を製造する方法であって、
    ポリオール酸化酵素産生能を有するPenicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156)からなる微生物を小麦フスマ培地で培養して当該ポリオール酸化酵素を生成させ、得られる培養物から当該ポリオール酸化酵素を回収することを特徴とする、方法。
  4. D−マンニトール、D−アラビトール、D−ソルビトール、エリスリトールから選ばれる糖アルコールに、Penicillium sp.KU-1(受託番号NITE BP-1156) 由来の請求項1に記載のポリオール酸化酵素を作用させ、対応するD−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生成させることを特徴とする、D−マンノース、D−リキソース、L−グロース、L−エリスロースから選ばれるアルドースを生産する方法。
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