JP2008109933A - 新しい触媒機能を有するl−ラムノースイソメラーゼの用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】D−プシコースに、特定な配列のアミノ酸配列からなり、かつ、以下の(イ)の化学的性質によって特定されるPseudomonas stutzeri(IPOD FERM BP-08593)由来のL-ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質を作用させてD−アロースへと異性化するD−アロースの生産方法。(イ)作用 太い黒線で示される、D−アロースとD−プシコース、D−アルトロースとD−プシコースからなる群から選ばれるアルドースとケトース間の異性化反応を触媒する。
【選択図】図7
Description
また、L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物から単離され、それをコードする遺伝子の配列も報告されている。本発明は、土壌より分離したバクテリア(Pseudomonas stutzeri)のL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列を決定したところ、これまで報告されている遺伝子配列との相同性のないもので、遺伝子的にも、蛋白質的に新規なものであることが明らかとなったものである。
この配列を利用することで、遺伝子操作を利用して酵素を大量生産しそれを用いる希少糖や、その他各種遺伝子工学的手法を用いた用途に利用できるものである。
さらにまた、Pseudomonas stutzeriの生産するL-ラムノースイソメラーゼがこれまで見いだされていなかった新しい糖異性化反応を触媒する触媒機能をもつことを明らかにしたものである。
L-ラムノースイソメラーゼは、希少糖D-アロースをD-プシコースから生産する時に有用な酵素である。本発明は遺伝子工学的な手法を用いて純粋な酵素を生産し検討した結果、これまで認めることのできなかった新しい異性化反応を触媒する能力を見いだしたもので、各種の希少糖の生産に利用できるものである。
希少糖の生理活性に着目し、細胞を用いる実験によりその裏付けをすることは本発明者らによってはじめられた。21世紀は生命科学の世紀とも言われており、現在、国際的にDNA研究、タンパク質研究が進められている。ポストゲノム研究における糖と言えば糖鎖研究が中心であるが、本発明者らの属する香川医科大学(現 香川大学医学部)、香川大学農学部では、単糖に着目し、単糖に生理活性はないか等その応用研究を進めている。その背景としては、香川大学の農学部の方で希少糖の生産に関する網羅的な研究が長年積み重ねられてきて、近年になり一部の希少糖の大量生産技術が確立されたことが挙げられる。香川医科大学(現 香川大学医学部)においても糖に生理活性を探求する研究が数年前から開始されていた。その両者がドッキングした形で、香川大学農学部で生産された希少糖(単糖)を用いて生理活性を探求する研究が、1999年から地域先導研究として開始され、さまざまな生理活性を有することが発見されてきている。
一方、プシコースの試薬・医薬品等の中間原料としての応用例は、次に示される。例えば、非特許文献1によれば、D−プシコースを原料としたヒダントイン誘導体の合成例が報告されている。また、非特許文献2によれば、D-フラクトフラノシルヌクレオシドの合成例が開示されている。いずれの先行技術にもD-プシコースが医薬品等の原料・中間体として利用できることが報告されているにすぎない。
しかし、「単糖」に着目し、希少糖の応用研究を進めるためにも、また、新規用途が完成された場合は一層、希少糖の大量生産技術の確立が必要となる。
(イ)作用
L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する酵素である。D-アロースとD-プシコースの間の異性化にも作用することが既知であり(非特許文献3)、D-プシコースからD-アロースを生産することができる酵素である。異性化酵素はもっとも高い活性を示す基質を元に命名されるため、L-ラムノースイソメラーゼと同一で命名された酵素は、大腸菌および枯草菌から単離され、それをコードする遺伝子の配列が報告されている。
(ロ)基質特異性
L-ラムノースおよびL-ラムニュロースを基質とする。のみならず、L−リキソースおよびL−キシルロース、L−マンノースおよびL−フラクトース、D−リボースおよびD−リブロース、D−アロースおよびD−プシコースを基質とする。
(ハ)作用pHおよび至適pH
作用pHは7.0〜10.0であり、至適pHは9.0である。
(ニ)pH安定性
種々のpHで4℃、1時間保持した場合、pH6.0〜11.0の範囲で安定である。
(ホ)作用温度および至適温度
作用温度は40〜65℃であり、至適温度は60℃である。
(ヘ)温度安定性
40℃、10分では安定しており、50℃、10分でも90%以上残存している。
(ト)キレート剤の影響
キレート剤であるEDTA、EGTAを活性測定時に共存させても、ほとんど活性は阻害されない。
(チ)金属イオンの影響
1mMのコバルトイオンにより約30%阻害される。
(リ)SDS−PAGE法による分子量
約43,000である。
そのため、図1のイズモリングの種々の希少アルドース、希少ケトースの生産には、その構造を考慮した検討を行うことで目的とする希少糖を生産することが重要な検討課題となっている。
本発明は、多糖(未利用資源に無尽蔵に存在する)を原料として、ブドウ糖等単糖へ変換するところまでは従来法と同じであるが、それから先が酵母によるアルコール発酵ではなく、希少糖という付加価値の高いものへの最適な生産経路を設計し、希少糖大量生産技術を確立することを目的とする。
本発明は、Pseudomonas stutzeri (IPOD FERM BP-08593)の生産するL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列を提供すること、各種遺伝子工学的手法によりこれまで見いだされていなかった新しい糖異性化反応を触媒する触媒機能を発見すること、ならびに、新規触媒機能を希少糖生産および生理活性探索へ利用することを目的とする。
本発明は、新規かつ有用なL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子の配列を提供し、遺伝子操作、さらに明らかにした新規触媒機能を利用した希少糖の生産や各種遺伝子工学的手法、あるいは該新規触媒機能を用いた用途に利用できるようにすることを目的とする。
本発明は、Pseudomonas stutzeri (IPOD FERM BP-08593)の生産するL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列を、さらに明らかにした新規触媒機能を、イズモリング全体図を用いて、希少糖生産に利用すること、さらに、希少糖の生理活性探索に寄与することを目的とする。
さらに、本発明は、イズモリング(図1)の希少糖戦略の中で、多種類の希少アルドースに作用し、多種類の希少ケトースを生産するために最も効率のよいイソメラーゼを得ることによって、多種類の希少糖を生産する反応系を確立することを目的とする。
本発明は、土壌より分離したバクテリア(Pseudomonas stutzeri LL172)のL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列を決定したところ、これまで報告されている遺伝子配列との相同性のないもので、遺伝子的にも、蛋白質的に新規なものであることが明らかとなったものである。この配列を利用することで、遺伝子操作を利用して酵素を大量生産しそれを用いる希少糖や、その他各種遺伝子工学的手法を用いた用途に利用できるものである。
L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化反応を触媒するPseudomonas stutzeri(IPOD FERM BP-08593) 由来のL-ラムノースイソメラーゼをコードするDNAと、該DNAを用いる組換えDNA技術によるポリペプチドの製造方法を提供することにより解決する。
さらに、本発明者らは研究をすすめ、Pseudomonas stutzeri(IPOD FERM BP-08593)の生産するL-ラムノースイソメラーゼがこれまで見いだされていなかった新しい糖異性化反応を触媒する触媒機能をもつことを明らかにした。本発明においては、イズモリング(図1)の中の、異性化反応を触媒する酵素をL-ラムノースイソメラーゼのもつ新たに発見された触媒能力を利用して各種希少糖を生産するものである。
これまでは個別の異性化反応を、個別の異なるイソメラーゼを用いて反応していたものを、L-ラムノースイソメラーゼの非常に広い基質特異性を利用することで、一つの酵素を用いて、多種類の希少糖を生産しようとするものである。
すなわち、本発明は、L-ラムノースイソメラーゼが多くの異性化反応を触媒することにより、これまで不可能であった希少糖の生産を一つの酵素を有効に利用して効率的に各種の希少糖の生産が可能になった。
(1) 以下の(a)または(b)のタンパク質をコードするDNA。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL-ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(2) 配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列またはこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNA。
(3) 上記(2)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、L-ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(4) Pseudomonas stutzeri (IPOD FERM BP-08593)由来のL-ラムノースイソメラーゼである上記(1)、(2)または(3)のDNA。
(5) 上記のL-ラムノースイソメラーゼは、以下の物理化学的性質を有する酵素である上記(4)のDNA。
(イ)作用
図7,図8,図9に太い黒線で示される異性化反応を触媒する。
(ロ)作用pHおよび至適pH
作用pHは7.0〜10.0であり、至適pHは9.0である。
(ハ)pH安定性
種々のpHで4℃、1時間保持した場合、pH6.0〜11.0の範囲で安定である。
(ニ)作用温度および至適温度
作用温度は40〜65℃であり、至適温度は60℃である。
(ホ)温度安定性
40℃、10分では安定しており、50℃、10分でも90%以上残存している。
(ヘ)キレート剤の影響
キレート剤であるEDTA、EGTAを活性測定時に共存させても、ほとんど活性は阻害されない。
(ト)金属イオンの影響
1mMのコバルトイオンにより約30%阻害される。
(チ)SDS−PAGE法による分子量
約43,000である。
(6) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(7) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL-ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質。
(8)L-ラムノースイソメラーゼ活性は、以下の物理化学的性質によって特定されるものである上記(6)または(7)のタンパク質。
(イ)作用
図7,図8,図9に太い黒線で示される異性化反応を触媒する。
(ロ)作用pHおよび至適pH
作用pHは7.0〜10.0であり、至適pHは9.0である。
(ハ)pH安定性
種々のpHで4℃、1時間保持した場合、pH6.0〜11.0の範囲で安定である。
(ニ)作用温度および至適温度
作用温度は40〜65℃であり、至適温度は60℃である。
(ホ)温度安定性
40℃、10分では安定しており、50℃、10分でも90%以上残存している。
(ヘ)キレート剤の影響
キレート剤であるEDTA、EGTAを活性測定時に共存させても、ほとんど活性は阻害されない。
(ト)金属イオンの影響
1mMのコバルトイオンにより約30%阻害される。
(チ)SDS−PAGE法による分子量
約43,000である。
(9) 上記(6)、(7)または(8)のタンパク質と、翻訳開始コドンタンパク質とを結合させた融合タンパク質。
(10) 上記(1)ないし(5)のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
また、本発明は、下記の(11)の宿主細胞を要旨とする。
(11) 上記(6)、(7)または(8)のタンパク質を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞。
(12) 上記(11)の宿主細胞を培地に培養し、得られる培養物からL-ラムノースイソメラーゼ活性を有する組換えタンパク質を採取することを特徴とする組換えタンパク質の製造方法。
(13) 図1で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数の異なる単糖全てをつないだ連携図を希少糖生産に利用する方法であって、目的とする希少糖の、単糖の全体像中の位置を把握し、上記(6)、(7)、(8)または(9)のタンパク質を作用させるその最適な生産経路を設計することを特徴とする方法。
(14) 希少糖生産が希少糖大量生産である上記(13)の方法。
(15) 希少糖生産が未利用資源からの希少糖生産である上記(13)または(14)の方法。
(16) 目的とする希少糖が、生理活性が判明した希少糖である上記(13)、(14)または(15)の方法。
本発明は、最も安価に大量に入手できる原料はD−グルコース(ブドウ糖)である。このD−グルコースはほとんどすべての未利用植物に大量に存在する糖であり、これを有効に利用して目的とする希少糖への最適な生産経路を設計するツールを提供することができる。
また、本発明は、希少糖の生産分野ばかりではなく、希少糖の持つ生理活性を探索する研究においても有効なツールを提供することができる。
Pseudomonas stutzeri LL172由来のL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列は、これまで報告されているL-ラムノースイソメラーゼの遺伝子配列との相同性のないもので、遺伝子的にも、蛋白質的に新規なものであることが明らかとなったものである。
また、上記L-ラムノースイソメラーゼ活性としては、好ましくはL-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する酵素活性を挙げることができる。また、D-アロースとD-プシコースの間の異性化を触媒する酵素活性を挙げることができる。D-アロースをD-プシコースから生産できる活性は、Pseudomonas stutzeri LL172由来のL-ラムノースイソメラーゼ以外には報告されていない。
さらに、Pseudomonas stutzeri LL172の生産するL-ラムノースイソメラーゼは、以下の物理化学的性質を有する酵素であること明らかにした。
(イ)作用
L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する。D-アロースとD-プシコースの間の異性化にも作用し、D-プシコースからD-アロースを生産することができる酵素である。以上が既知の主たる作用である。さらに本発明者らによりこの度明らかとなったL−ラムノースイソメラーゼの新規触媒反応を含めた全ての異性化反応は、イズモリングの図7,図8,図9に示される。基質特異性は表1,2,3参照。
L-ラムノースおよびL-ラムニュロースを基質とする。のみならず、L−リキソースおよびL−キシルロース、L−マンノースおよびL−フラクトース、D−リボースおよびD−リブロース、D−アロースおよびD−プシコースを基質とする。以上が既知の主たる基質特異性である。図7,図8,図9よりL−ラムノースイソメラーゼが単糖の多くを基質とすることが理解できる。
すなわち、活性の大小はあるものの、L−ラムノースイソメラーゼが触媒することが確認された異性化反応は図7中太い黒線で示したものである。一方、異性化反応が確認できなかったものは、太い点線で示した4種であることが一目瞭然に理解できる。
また、図9、図10に示すように、これも活性の大小はあるものの、ペントースおよびテトロースにおける全異性化活性を持つことを示している。
(ハ)作用pHおよび至適pH
作用pHは7.0〜10.0であり、至適pHは9.0である。
(ニ)pH安定性
種々のpHで4℃、1時間保持した場合、pH6.0〜11.0の範囲で安定である。
(ホ)作用温度および至適温度
作用温度は40〜65℃であり、至適温度は60℃である。
(ヘ)温度安定性
40℃、10分では安定しており、50℃、10分でも90%以上残存している。
(ト)キレート剤の影響
キレート剤であるEDTA、EGTAを活性測定時に共存させても、ほとんど活性は阻害されない。
(チ)金属イオンの影響
1mMのコバルトイオンにより約30%阻害される。
(リ)SDS−PAGE法による分子量
約43,000である。
希少糖は、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
図1で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図1から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。また、利用価値がないということも理解することができる。
そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD−フラクトースとD−プシコース、L−ソルボースとL−タガトース、D−タガトースとD−ソルボース、L−プシコースとL−フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。
この図5をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D−グルコースとL−グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D−グルコースを出発点としてL−グルコースを生産しようと思えば、D−グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL−グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD−ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D−グルコースからD−フラクトース、D−プシコースを製造し、さらにD−アロース、アリトール、D−タリトールを製造することができるようになった。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
炭素数5のイズモリングの特徴は、特に図6から明らかなように、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが大きな特徴である。これら全ペントースは、酵素反応により連結されていることから、炭素数6のイズモリングの場合と全く同様に、すべてのペントースが構造的に整理され(知識の構造化)、全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できる意義を持っている。
全体の配置は、炭素数5と同様に左右対称であり、アルドース4個、ケトース2個および糖アルコール3個全てを含んでいる。すなわち炭素数5,6のイズモリングと同様の意義が存在する。
最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD−キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。
イズモリングの図7,図8,図9から明らかなように、イズモリングを用いて異性化反応を整理することが全体を理解する手段として如何に有効であるかを示している。さらに、L−ラムノースイソメラーゼが単糖の多くを基質とすることが理解できる。
すなわち、活性の大小はあるものの、L−ラムノースイソメラーゼが触媒することが確認された異性化反応は図7中太い線で示したものである。一方、異性化反応が確認できなかったものは、太い点線で示した4種であることが一目瞭然に理解できる。
また、図8、図9に示すように、これも活性の大小はあるものの、ペントースおよびテトロースにおける全異性化活性を持つことを示している。
このようにイズモリングを利用することで、L−ラムノースイソメラーゼの触媒する反応を明確に示すことができると同時に、反応が確認できないものを明確に認識することが可能である。
新しく確認された各種の異性化活性はアルドースからの反応と、ケトースからの反応の結果が若干異なるなど詳細な反応機構を検討すること必要があるが、図7,図8,図9が示すように非常に多くの希少糖の生産に利用できる可能性を持つことが明らかとなった。
[配列決定]
Pseudomonas stutzeri LL172 由来L-ラムノースイソメラーゼ遺伝子は、配列表1および図2に示すとおり、ORF1,290-bpからなり430アミノ酸をコードする新規のL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子である。配列表2のアミノ酸配列からの計算分子量は46,946とオーセンティックの酵素の分子量約43,000よりやや大きいものであった。
本遺伝子を大腸菌で組換え発現させると本酵素を活性発現し分子量も約43,000と一致した。
従って配列表1および図2に示した遺伝子配列は、L-ラムノースイソメラーゼのものであると確認された。
[本遺伝子配列の特徴]
L-ラムノースイソメラーゼの遺伝子はすでに大腸菌と枯草菌で構造が解析されているが、Pseudomonas stutzeri LL172 菌由来のL−ラムノースイソメラーゼとのアミノ酸配列の相同性は図3に示すとおり20%以下と低く、触媒部位も一致しないので同一の酵素ではないと断定した。
すなわちこれまで発表されているL-ラムノースイソメラーゼとは全く新しい遺伝子配列をもつ酵素であった。
アミノ酸配列の相同性をデータベースで用いて解析すると、図4に示すとおり、未同定の推定イソメラーゼと40%程度の高い相同性を示すが、これらの菌の遺伝子はゲノムプロジェクトによりシークエンスされた結果であり、酵素としては同定されていない。
以上の結果から、本菌由来のL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子は、新規の酵素をコードする遺伝子であると断定することができた。
遺伝子配列が明確になったことで、この遺伝子配列を利用した分子生物学的手法による各種の実験が可能となる。
例えば、この遺伝子を大腸菌に形質転換し、大量に生産することが可能である。その他この遺伝子にさらに何か新たな遺伝子を結合させるなどして、新しい性質を持つ酵素を生産することが可能となる。
1 L-ラムノースイソメラーゼの精製と部分アミノ酸配列の決定
Pseudomonas stutzeri LL172 をトリプティックソイブロス培地で30℃2日間培養しポリエチレングリコール分画、陰イオン交換クロマトグラフィーにて精製後電気泳動で分子量と純度を確認する。分子量は約42,000に単一のバンドとして得られる。臭化シアンを用いて酵素を部分分解しN末端および4箇所の部分アミノ酸配列を決定した。
上記の培地で培養後、定法に従いCTABを用いて染色体DNAを抽出する。部分アミノ酸配列を元にミックスプライマーを合成し組み合わせを変えて2回のPCRにより特異的に増幅されるPCR産物を得てプローブに用いる。プローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行いL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子の染色体上の位置を決定した。
染色体マッピングにより制限酵素ApaIとSacIで消化した約4.6kbの断片に遺伝子が含まれていることが分かったのでクローニングベクターpBluescriptIISK+に連結しゲノムライブラリを構築してプローブを用いてスクリーニングした。
L-ラムノースイソメラーゼ遺伝子は配列表1および図2に示すとおりORF 1,290-bpからなり430アミノ酸(配列表2)をコードする新規のL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子である。アミノ酸配列からの計算分子量は46,946とC末端側に修飾を受ける元菌の酵素の分子量約42,000よりやや大きい。L-ラムノースイソメラーゼの遺伝子はすでに大腸菌と枯草菌で構造が解析されているが、本菌由来のL-ラムノースイソメラーゼとのアミノ酸配列の相同性は図3に示すとおり20%以下と低く、触媒部位も一致しないので同一の酵素ではないと断定した。また、大腸菌のL-ラムノースイソメラーゼと放線菌のキシロースイソメラーゼで保存されている異性化酵素のコンセンサスアミノ酸残基9箇所のうち5箇所は保存されているがMn結合や基質結合部位は保存されていない。アミノ酸配列の相同性をデータベースで用いて解析すると図4に示すとおり未同定の推定イソメラーゼと40%程度の高い相同性を示すが、これらの菌の遺伝子はゲノムプロジェクトによりシークエンスされた結果であり、酵素としては同定されていない。
以上の結果から本菌由来のL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子は新規の酵素をコードする遺伝子であると断定した。
L-ラムノースイソメラーゼの翻訳開始コドンと高発現ベクターpQE60の翻訳開始コドンを一致させるようプライマーを設計しPCRで増幅させたL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子をpQE60に組み込んで大腸菌JM109を形質転換し組換え大腸菌を作成した。組換え大腸菌は通常培地で37℃一晩培養するとL-ラムノースイソメラーゼを活性発現しN末端アミノ酸配列、分子量、および、酵素学的諸性質は元菌由来の酵素と一致、酵素生産量は10倍以上上昇し高発現が可能となった。
すなわち、D−グルコースを原料として発酵法により、炭素数の一つ少ないD−リキソールへ変換し、酸化反応、異性化反応によって希少糖D−リキソースを生産することが可能である。(Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol. 88, 676, 1999 )
すなわち、D−グルコースを出発物質として、炭素数の2少ないエリスリトールを発酵法で生産し、それを原料として用いることで、酸化反応と異性化反応によって希少糖L−エリスロースを生産することが可能である。
実施例5と同様の条件で酵素を得た。KmおよびVmaxの測定には酵素を固定化することなく用いて測定を行った。その結果を表3に整理して示した。すなわち、表3は、精製したL-ラムノースイソメラーゼの各種基質に対するKmおよびVmaxを測定した結果である。
C末端にヒスタグを連結したL-ラムノースイソメラーゼ遺伝子を導入した大腸菌JM109を用いた。
《培地組成および培養条件》
ポリペプトン3.5%、酵母エキス2.0%、NaCl0.5%(pH7.0)の培地に大腸菌JM109を接種し、28℃12時間培養後終濃度1mMの1PTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加した。その後4時間培養を続け、遠心分離により菌体を集菌した。
《酵素の抽出、酵素の精製および酵素の精製と固定化》
菌体を0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.0で2回洗浄した。洗浄菌体をアルミナ粉末とともに磨砕したのち遠心分離を行い、不溶性物質をアルミナ粉末とともに除去し粗酵素液をえた。その粗酵素液をNi−NTAカラムを用いてアフィニティークロマト法によって酵素を精製し純粋な酵素を得た。酵素を超純水に対して透析した後、凍結乾燥して粉末の純粋な酵素をえた。その酵素20mgをキトパール樹脂1gに吸着させることで固定化酵素を調製した。
上記固定化酵素3g、0.05MグリシンNaOH緩衝液(pH9.0)3.0mL,1M MnCl2 3.0μLおよび各種基質60mg(終濃度20mg/mL)の酵素反応液組成で、42℃で反応を行った。
L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物から単離され、それをコードする遺伝子の配列も報告されている。本発明は、土壌より分離したバクテリア(Pseudomonas stutzeri)のL-ラムノースイソメラーゼをコードする遺伝子配列を決定したところ、これまで報告されている遺伝子配列との相同性のないもので、遺伝子的にも、蛋白質的に新規なものであることが明らかとなったものである。
この配列を利用することで、遺伝子操作を利用した希少糖に生産や各種遺伝子工学的手法を用いた用途に利用できるものである。
2. 従来の未利用資源、特に植物性バイオマス(例えば木材や各種未利用植物資源等)の有効利用は、それをブドウ糖へ加水分解しそれをアルコールへと変換することが大きな目標であった。しかしアルコールへ変換しても付加価値が低いため実用化は無理であった。本発明の特徴は、ブドウ糖等単糖へ変換するところまでは従来法と同じであるが、それから先が酵母によるアルコール発酵ではなく、各種生物反応による希少糖への変換である。これによって、アルコールという付加価値の低いものから、希少糖という付加価値の高いものを生産することを可能にするプロセスを提供することができる。
3. 多糖(未利用植物性資源に無尽蔵に存在する)を原料として、部分分解する方法等により、オリゴ糖が生産できる。これも機能性のある付加価値のあるものとして用途が開発されている。しかし、単糖という最小単位にまで分解するともう新しい展開はないと考えられていた。それを打破したのが、ひとつの単糖(希少糖)から新しい単糖(希少糖)へと次々に変換することを目標とした生産戦略ができたことが大きな意義と考えている。多糖を分解すると単糖になる、それを原料として次々に単糖(希少糖)を生産するという発想の新しさである。多糖は、上流の原料であり、それを分解して単糖として原料とするということである。これは、原料がたとえ、木(セルロース)であろうと、でんぷんであろうと、何であろうと、どんなに異なった多糖であろうと単糖まで分解すれば同じものとなるということがその基本的戦略である。
4. 図1から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。イズモリングC6の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。どのような廃棄物あるいは、糖質副産物が得られてもこの図からその利用法を考察することができるのである。また、利用価値がないということも理解することができるのである。
5. 単糖に関しての研究計画の中で、図1のように全ての炭素数の異なるものを包括してとらえる考え方は存在しなかった(図10参照)。個別の反応は、それぞれの目的によって行われてきた。個別の目的で進めてきた研究が総合的に関係づけられることで、相互の技術をつなぎ合わせる方向が見いだせる。たとえば、廃棄物あるいは副産物として邪魔者として扱われてきたものが、単糖であるかぎり、その全てについて価値判断が可能となる。そして何の原料になるかを直ぐに判断できる。このように、単糖全体を図・システムとしてとらえる新しい技術思想を提示することができる。
6. 本発明のこの技術思想は、単糖を見直す、単糖の価値を評価する方法につながってゆく。単糖という一般には「自然界では最も単純な有機物」という概念を、単糖全体を考慮に入れることで、複雑でしかも可能性が大きく広がる有機物であることを直感できるシステムにつながる。
7. 「単糖はこれだけしかない」、「単糖はこれが全てである」ということを認識できることの重要性がある。逆の見方からすると、これだけ全部を研究することで単糖全体を知ることが可能であるという研究計画を明確にできることを示している。限界を知ることは、可能性を知ることになるのである。
8.本発明は、希少糖の生産分野ばかりではなく、希少糖の持つ生理活性を探索する研究においても有効性を発揮する。例えば、ある希少糖に生理活性が判明したとき、図1で示される連携図の存在位置を確認する。そして構造の近い希少糖に関しての生理活性との比較、あるいは、構造的に鏡像関係にある希少糖の生理活性を検討することで、生理活性の機構を分子の構造から類推する助けになるであろう。また、これまでランダムに試行錯誤に研究していた生理活性の研究を、イズモリングの全体像を把握することを基盤として、計画的に進めることに優位に利用できることが期待される。
9.本発明は希少糖の生産戦略としての有用性および、その用途、特に生理活性の研究においても有用性を発揮する。これは、従来の構造のみからの単糖の羅列的分類と個別的認識法から、酵素反応による個々の単糖の連結という生産面での体系化が可能となったこと。さらに、希少糖の生理機能を解析し、イズモリング上に性質を集積することにより、これまで単純な羅列的理解から、単糖全体を、「単糖の構造」、「単糖の生産法」、および「単糖の生理機能」を包括的に理解することに大いに利用できると期待される。
10.本発明において明らかとなったL−ラムノースイソメラーゼの新規触媒反応を含めて全ての異性化反応を、イズモリングの図7,図8,図9に示した。図から明らかなように、イズモリングを用いて異性化反応を整理することが全体を理解する手段として如何に有効であるかを示している。さらに、L−ラムノースイソメラーゼが単糖の多くを基質とすることが理解できる。
すなわち、活性の大小はあるものの、L−ラムノースイソメラーゼが触媒することが確認された異性化反応は図7中太い線で示したものである。一方、異性化反応が確認できなかったものは、太い点線で示した4種であることが一目瞭然に理解できる。
また、図8、図9に示すように、これも活性の大小はあるものの、ペントースおよびテトロースにおける全異性化活性を持つことを示している。
11.このようにイズモリングを利用することで、L−ラムノースイソメラーゼの触媒する反応を明確に示すことができると同時に、反応が確認できないものを明確に認識することが可能である。
12.新しく確認された各種の異性化活性はアルドースからの反応と、ケトースからの反応の結果が若干異なるなど詳細な反応機構を検討すること必要があるが、図7,図8,図9が示すように非常に多くの希少糖の生産に利用できる可能性を持つことが明らかとなった。
Claims (5)
- D−プシコースに配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、かつ、以下の(イ)〜(チ)の物理化学的性質によって特定されるPseudomonas stutzeri (IPOD FERM BP-08593)由来のL-ラムノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質を作用させてD−アロースへと異性化することを特徴とするD−アロースの生産方法。
(イ)作用
図7に太い黒線で示される、D−グルコースとD−フラクトース、D−アロースとD−プシコース、D−アルトロースとD−プシコース、D−グロースとD−ソルボース、L−グルコースとL−フラクトース、L−マンノースとL−フラクトース、L−アルトロースとL−フラクトース、L−タロースとL−タガトース、L−ガラクトースとL−タガトース、およびL−グロースとL−ソルボースからなる群から選ばれるアルドースとケトース間の異性化反応、図8に太い黒線で示される、D−キシロースとD−キシルロース、D−リキソースとD−キシルロース、D−アラビノースとD−リブロース、D−リボースとD−リブロース、L−リボースとL−リブロース、L−アラビノースとL−リブロース、L−リキソースとL−キシルロース、およびL−キシロースとL−キシルロースからなる群から選ばれるアルドースとケトース間の異性化反応、図9に太い黒線で示される、D−エリスロースとD−エリスルロース、D−スレオースとD−エリスルロース、L−エリスロースとL−エリスルロース、およびL−スレオースとL−エリスルロースからなる群から選ばれるアルドースとケトース間の異性化反応をそれぞれ触媒する。
(ロ)作用pHおよび至適pH
作用pHは7.0〜10.0であり、至適pHは9.0である。
(ハ)pH安定性
種々のpHで4℃、1時間保持した場合、pH6.0〜11.0の範囲で安定である。
(ニ)作用温度および至適温度
作用温度は40〜65℃であり、至適温度は60℃である。
(ホ)温度安定性
40℃、10分では安定しており、50℃、10分でも90%以上残存している。
(ヘ)キレート剤の影響
キレート剤であるEDTA、EGTAを活性測定時に共存させても、ほとんど活性は阻害されない。
(ト)金属イオンの影響
1mMのコバルトイオンにより約30%阻害される。
(チ)SDS−PAGE法による分子量
約43,000である。 - D−プシコースが、D−フラクトースをエピ化して生産したものである請求項1のD−アロースの生産方法。
- D−プシコースが、D−グルコースを異性化してD−フラクトースへ導き、そのD−フラクトースをエピ化して生産したものである請求項1または2のD−アロースの生産方法。
- D−プシコースが、未利用資源からD−グルコースを得て、そのD−グルコースを異性化してD−フラクトースへ導き、そのD−フラクトースをエピ化して生産したものである請求項1または2のD−アロースの生産方法。
- 目的とするD−アロースがD−プシコースとD−アロースの混合物である請求項1ないし4のいずれかのD−アロースの生産方法。
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