JP6041012B2 - 加飾シート及びそれを用いてなる加飾成形品 - Google Patents

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Description

本発明は加飾シート及びそれを用いてなる加飾成形品に関する。
従来、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾には、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該成形シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法や、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す射出成形同時加飾法などがある。
このようにして得られる加飾成形品は、家庭用電化製品、自動車内装品などの分野のほか、自動車外装、携帯電話分野での使用も注目されている。これらの分野においては、加飾シートに対して、加飾成形品に優れた耐磨耗性や耐擦傷性のほか、耐溶剤性や耐薬品性などの表面特性を付与しうると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性が求められる。
耐摩耗性や耐擦傷性のような表面物性を得ることを目的として、樹脂成形品の表面に所定のハードコート剤を用いた加飾シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ハードコート剤、あるいは保護層を形成する剤の性状に起因して、射出成型前に加飾シート(転写シート)を硬化させているなどの理由により、一定の表面物性は得られても、優れた成形性が得られないという問題があった。また、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化して得られる表面保護層を有する加飾シートが提案されている(例えば、特許文献3参照)。当該加飾シートは、耐摩耗性や耐擦傷性のような表面物性を付与し、成形性に優れている点では、極めて優れているものの、耐溶剤性や耐薬品性の点では十分ではない場合があった。
特開2009−247011号公報 特開2008−231220号公報 特開2010−30277号公報
本発明は、このような状況下で、加飾成形品に優れた耐摩耗性や耐擦傷性とともに、優れた耐溶剤性、耐薬品性及び成形性を付与する加飾シート、ならびにこれを用いた加飾成形品を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下の加飾シート、及びこれを用いた加飾成形品を提供するものである。
1.基材上に、部分的に設けられた低艶絵柄インキ層と表面保護層とを順に有し、該低艶絵柄インキ層が体質顔料及び電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Aを架橋硬化してなるものである加飾シート。
2.体質顔料と電離放射線硬化性樹脂との質量比(P/V比)が、0.2〜1.5である上記1に記載の加飾シート。
3.電離放射線硬化性樹脂が、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーである上記1又は2に記載の加飾シート。
4.体質顔料が、平均粒径3〜6.5μmのシリカ粒子である上記1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
5.体質顔料が、吸油量(JIS K 5101−13−1:2004に準拠する)100〜350ml/100gのシリカ粒子である上記1〜4のいずれかに記載の加飾シート。
6.表面保護層が電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Bを架橋硬化してなるものである上記1〜5のいずれかに記載の加飾シート。
7.表面保護層が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む電離放射線硬化性樹脂組成物Bを架橋硬化してなるものである上記1〜6のいずれかに記載の加飾シート。
8.上記1〜7のいずれかに記載の加飾シートを用いてなる加飾成形品。
本発明によれば、加飾成形品に優れた耐摩耗性や耐擦傷性とともに、優れた耐溶剤性、耐薬品性及び成形性を付与することができる加飾シート、及びこれを用いた加飾成形品を提供することができる。
本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。
本発明の加飾シートは、基材上に、部分的に設けられた低艶絵柄インキ層と表面保護層とを順に有し、該低艶絵柄インキ層が体質顔料及びバインダー樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Aを架橋硬化してなるものであることを特徴とするものである。図1は、本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。図1に示す態様は、基材11上に、絵柄層12、プライマー層13、低艶絵柄インキ層14及び表面保護層15が順に積層されたものであり、低艶絵柄インキ層14の直上部及びその近傍における表面保護層には低光沢領域16が形成されている。以下、図1を参考に、各層について詳細に説明する。
《基材11》
基材11としては、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、アクリル樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂などが使用される。また、基材11は、これら樹脂の単層シート、あるいは同種又は異種樹脂による複層シートとして使用することができる。
基材の厚さは、用途に応じて選定されるが、通常、0.05〜1.0mm程度であり、コスト等を考慮すると0.1〜0.7mm程度が一般的である。
これらの基材はその上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法などの物理的又は化学的表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法などが挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましく用いられる。
また該基材はプライマー層を形成するなどの処理を施してもよいし、色彩を整えるための塗装や、デザイン的な観点での模様があらかじめ形成されていてもよい。
《絵柄層12》
絵柄層12は加飾樹脂成形品に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様などがあり、これらを複合した寄木、パッチワークなどの模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷などによっても形成される。
絵柄層12に用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが用いられる。
本発明の加飾シート10は、所望により、基材11と絵柄層12との間に隠蔽層(図示しない。)を設けてもよい。基材11表面の色の変化、ばらつきにより、加飾シート10の柄の色に影響を及ぼさないようにする目的で設けられる。通常不透明色で形成することが多く、その厚さは1〜20μm程度の、いわゆるベタ印刷層が好適に用いられる。
《プライマー層13》
本発明の加飾シート10は、表面保護層14の延伸部に微細な割れや白化を生じにくくするため、所望により、絵柄層12と表面保護層14との間にプライマー層13を設けることができる。プライマー層13を構成するプライマー組成物は、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル・ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが用いられる。
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸エステルを含む単独又は共重合体からなる(メタ)アクリル樹脂が好適に用いられる。ここで(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリルを意味する。
ウレタン樹脂としては、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンを使用できる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えばポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが使用される。前記イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、或いはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが用いられる。また、ウレタン樹脂とブチラール樹脂を混ぜて構成することも可能である。
(メタ)アクリル−ウレタン共重合体樹脂としては、例えばアクリル/ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂が好ましい。硬化剤としては、上記の各種イソシアネートが用いられる。アクリル/ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂は所望により、アクリル/ウレタン比(質量比)を好ましくは(9/1)〜(1/9)、より好ましくは(8/2)〜(2/8)の範囲で調整し、種々の加飾シートに用いることができるので、プライマー組成物に用いられる樹脂として特に好ましい。
《低艶絵柄インキ層14》
本発明の加飾シートは、体質顔料及びバインダー樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Aを架橋硬化してなる低艶絵柄インキ層14を有する。この低艶絵柄インキ層14は部分的に存在し、その直上部及びその近傍における表面保護層には低光沢領域16が形成される。表面保護層15側から本発明の加飾シートを見ると、低光沢領域16は視覚的に凹部として認識されるため、全体として、この低光沢領域16によって視覚的に凹凸模様として認識される。なお、低光沢領域16は図中で点の集合により表現されている。
表面保護層15の最表面における、低光沢領域16の上部は、低艶絵柄インキ層14の形成に伴って隆起し、凸形状17を有していてもよい。表面保護層15の表面がこのように凸形状を有することによって、この部分で光が散乱されるため、また表面積が増加し、かつ低艶が認識できる視野角も広がるため、上記低光沢領域17の効果と協調してさらに視覚的な凹凸感が強調される。
絵柄層12が表現しようとする模様のうち、例えば、艶を消して、視覚的に凹部を表現したい部分と低艶絵柄インキ層16を同調させることによって艶差による視覚的凹部を有する模様が得られる。絵柄層12によって木目模様を表現しようとする場合には、木目の導管部分に低艶絵柄インキ層16のインキ部分を同調させることにより、艶差により導管部分が視覚的に凹部となった模様が得られる。
低艶絵柄インキ層14の厚さは、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。また、低艶絵柄インキ層14の厚さと後述する表面保護層15の厚さとの関係は、表面保護層15の厚さが低艶絵柄インキ層14の厚さの1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることが好ましい。表面保護層の厚さが上記範囲内であると、低艶絵柄インキ層の厚さが相対的に薄くなるので、塗膜割れや白化が生じにくく優れた成形性が得られる。また、表面保護層15の厚さが低艶絵柄インキ層14の厚さの5倍以下であると、高い意匠性が得られるので好ましい。これらの観点から、低艶絵柄インキ層14の厚さは、0.6〜7μmの範囲内であることがより好ましい。
(電離放射線硬化性樹脂)
低艶絵柄インキ層14は、体質顔料及びバインダー樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Aを架橋硬化してなるものである。電離放射線硬化性樹脂組成物Aに含まれる電離放射線硬化性樹脂は、電磁波又は荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性オリゴマーや重合性モノマーの中から適宜選択して用いることができる。
重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えば、アクリル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系のオリゴマーなどが好ましく挙げられる。これらのオリゴマーのうち、多官能性の重合性オリゴマーが好ましく、官能基数としては、2〜16が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6がさらに好ましい。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテルなどの分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。これらの重合性オリゴマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート単量体が好適であり、なかでも分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有するような多官能性(メタ)アクリレートが好ましく、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いて用いればよい。官能基数としては、2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、3〜4がさらに好ましい。
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートとともに、その粘度を調整するなどの目的で、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのなかでも、低艶絵柄インキ層14に用いられる電離放射線硬化性樹脂としては、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーが耐摩耗性や耐擦傷性、耐溶剤性、耐薬品性及び成形性を加飾成形品に付与する観点で、特に好ましい。なお、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーは、アクリルの分子構造中に(メタ)アクリロイル基をペンダントさせたオリゴマーであれば特に制限はない。
アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーの数平均分子量は、通常100〜10000程度であり、1000〜5000が好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)は20〜150℃が好ましく、50〜120℃がより好ましい。
また、電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;アセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−tert−ブチルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モンフォリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリオフェニル)−ブタノン−1などのα−アミノアルキルフェノン類;ベンジルジメチルケタール、チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソンなどのイオウ化合物などが好ましく挙げられる。
光増感剤として、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤などを用いることもできる。
(体質顔料)
電離放射線硬化性樹脂組成物Aは、加飾成形品に付与する意匠性の向上を目的として、体質顔料を含有する。体質顔料としては、例えばシリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが好ましく挙げられ、吸油量、粒径、細孔容積等の材料設計の自由度が高く、意匠性、インキとしての塗工安定性に優れていることから、シリカが好ましく、特に微粉末のシリカが好ましい。
体質顔料の平均粒径は、0.1〜7μmであることが好ましい。0.1μm以上であるとインキに添加した際にインキのチキソ性が極端に高くならず、またインキの粘性が上がりすぎず印刷のコントロールがしやすい。また、導管模様部分の艶消しを表現しようとした場合、導管模様部分の低艶絵柄インキ層の好適な厚さが7μm以下であるので、シリカの平均粒径が低艶絵柄インキ層の厚さ以下であれば粒子の頭だしが比較的押えられ目立たなくなり、視覚的な違和感がおこりにくくなるからである。このような観点から、体質顔料の平均粒径は、3〜6.5μmであることがより好ましい。
体質顔料の吸油量は、吸油量(JIS K 5101−13−1:2004に準拠する)100〜350ml/100gであることが好ましく、150〜300ml/100gであることがより好ましい。体質顔料の吸油量が150ml/100g以上であれば、
低艶絵柄インキ層14が形成された領域と、それを被覆する表面保護層15(以下、「低艶絵柄インキ層形成領域/表面保護層」という)のグロス値が高くなることがないので、低艶絵柄インキ層14が形成されていない領域とそれを被覆する表面保護層15(以下、「低艶絵柄インキ層非形成領域/表面保護層」という)と低艶絵柄インキ層形成領域/表面保護層との艶差が大きくなり、高い意匠性を発揮することができる。また、体質顔料の吸油量が350ml/100g以下であれば、表面保護層/低艶絵柄インキ層のグロス値を低くする効果を有効に得ることができる。また、チキソ性を適当に維持することができるため、塗工適性が損なわれず高意匠性を有する印刷が容易となる。
低艶絵柄インキ層の体質顔料/電離放射線硬化性樹脂の質量比(P/V比)は0.2〜〜1.5の範囲であることが好ましく、0.2〜1.2であることがより好ましく、0.5〜1.2であることがさらに好ましい。P/V比が0.2以上であれば、高い意匠性を発揮することができ、1.5以下であれば、成形時に表面保護層に塗膜割れや白化が生じにくくなるからである。
本発明では低艶絵柄インキ層に用いる体質顔料の例として、上記の材料を挙げたが、本発明の意図を超えない範囲でより高意匠にするために有機又は無機着色顔料を加えてもよい。顔料としては公知の顔料を使用することができ、所望の絵柄により使用する色(顔料)及び添加量は適宜決めればよいものである。
《表面保護層15》
本発明の加飾シートは、部分的に設けられた低艶絵柄インキ層の上に、全面にわたって表面保護層15が設けられている。より具体的には、表面保護層15は、基材上に部分的に設けられた低艶絵柄インキ層14と、低艶絵柄インキ層14が設けられていない領域を含む全面にわたって被覆する層である。本発明の加飾シートは、低艶絵柄インキ層形成領域/表面保護層と、低艶絵柄インキ層非形成領域/表面保護層との光沢度の差を有していることで視覚的な凹凸感といった意匠性を発現させるものである。
意匠表現の種類により、様々な光沢度の差を利用して意匠性良好な加飾シートを製造するため、以下のように制限されるものではないが、低艶絵柄インキ層形成領域/表面保護層の光沢度(グロス値)が、20以下であるとき、より意匠性を増す点で好ましい。また低艶絵柄インキ層形成領域/表面保護層と、低艶絵柄インキ層非形成領域/表面保護層との光沢度の差が10以上であると、より意匠性が増すことができる点でさらに好ましい。
表面保護層15は、上記したように低艶絵柄インキ層14との相乗効果により視覚的な凹凸感を発現させるほか、加飾成形品に耐摩耗性や耐擦傷性とともに、優れた耐溶剤性、耐薬品性を付与する層であり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいは電離放射線硬化性樹脂などを含む樹脂組成物により形成される。
表面保護層15に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂、硬化性アクリル樹脂などが挙げられる。
《電離放射線硬化性樹脂組成物B》
本発明において、表面保護層15は電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Bを架橋硬化して得られる層であることが好ましい。電離放射線硬化性樹脂としては、低艶絵柄インキ層14に用いられるものが好ましく挙げられ、意匠性の観点から、低艶絵柄インキ層14で用いられる電離放射線硬化性樹脂と、表面保護層15で用いられる電離放射線硬化性樹脂とは異なっていることが好ましい。
電離放射線硬化性樹脂組成物Bを構成する電離放射線硬化性樹脂としては、低艶絵柄インキ層14に用いられる電離放射線硬化性樹脂のほか、ポリカーボネート(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。このポリカーボネート(メタ)アクリレートは、多官能(メタ)アクリレートと併用して用いることが好ましい。
(ポリカーボネート(メタ)アクリレート)
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートは、特に限定されず、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端あるいは側鎖に(メタ)アクリレートを有するものであればよい。この(メタ)アクリレートは、架橋、硬化する観点から、2官能以上有するものであることが好ましい。
このようなポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールの水酸基の一部又は全てを(メタ)アクリレート(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル)に変換して得られる。このエステル化反応は、通常のエステル化反応によって行うことができる。例えば、1)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ハライド又はメタクリル酸ハライドとを、塩基存在下に縮合させる方法、2)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物とを、触媒存在下に縮合させる方法、あるいは3)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸又はメタクリル酸とを、酸触媒存在下に縮合させる方法などが挙げられる。
上記のポリカーボネートポリオールは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端あるいは側鎖に2個以上、好ましくは2〜50個の、より好ましくは3〜50個の水酸基を有する重合体である。このポリカーボネートポリオールの代表的な製造方法は、ジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とから重縮合反応による方法である。
原料として用いられるジオール化合物(A)は、一般式:HO−R−OHで表される。ここで、Rは、炭素数2〜20の2価炭化水素基であって、基中にエーテル結合を含んでいてもよい。例えば、直鎖、又は分岐状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基である。
ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらジオールは、それを単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
また、3価以上の多価アルコール(B)の例としては、トリメチロールプルパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトールなどのアルコール類を挙げることができる。さらに、これらの多価アルコールの水酸基に対して、1〜5当量のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、あるいはその他のアルキレンオキシドを付加させた水酸基を有するアルコール類であってもよい。多価アルコールは、これらを単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
カルボニル成分となる化合物(C)は、炭酸ジエステル、ホスゲン、又はこれらの等価体の中から選ばれるいずれかの化合物である。その具体例としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジフェニル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの炭酸ジエステル類、ホスゲン、あるいはクロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニルなどのハロゲン化ギ酸エステル類などが挙げられる。これらは、単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
ポリカーボネートポリオールは、前記したジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とを、一般的な条件下で重縮合反応することにより合成される。例えば、ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)との仕込みモル比は、50:50〜99:1の範囲にあることが好ましく、また、カルボニル成分となる化合物(C)のジオール化合物(A)と多価アルコール(B)に対する仕込みモル比は、ジオール化合物及び多価アルコールの持つ水酸基に対して、0.2〜2当量であることが好ましい。
前記の仕込み割合で重縮合反応した後のポリカーボネートポリオール中に存在する水酸基の当量数(eq./mol)は、1分子中に平均して3以上、好ましくは3〜50、より好ましくは3〜20である。この範囲であると、後述するエステル化反応によって必要な量の(メタ)アクリレート基が形成され、またポリカーボネート(メタ)アクリレート樹脂に適度な可撓性が付与される。なお、このポリカーボネートポリオールの末端官能基は、通常はOH基であるが、その一部がカーボネート基であってもよい。
以上説明したポリカーボネートポリオールの製造方法は、例えば、特開昭64−1726号公報に記載されている。また、このポリカーボネートポリオールは、特開平3−181517号公報に記載されているように、ポリカーボネートジオールと3価以上の多価アルコールとのエステル交換反応によっても製造することができる。
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートの分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された重量平均分子量が、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000を超えることがさらに好ましい。ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御する観点から100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。耐傷付き性と三次元成形性とを両立させる観点から、さらに好ましくは、2,000を超え50,000以下であり、特に好ましくは、5,000〜20,000である。
(多官能(メタ)アクリレート)
本発明でポリカーボネート(メタ)アクリレートと併用して好ましく用いられる多官能(メタ)アクリレートは、2官能以上の(メタ)アクリレートであれば良く、特に制限はない。ただし、硬化性の観点から3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましい。ここで、2官能とは、分子内にエチレン性不飽和結合{(メタ)アクリロイル基}を2個有することをいう。
多官能(メタ)アクリレートは、オリゴマー及びモノマーのいずれでも良いが、三次元成形性向上の観点から多官能(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、該多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、上記した重合性オリゴマーと同様である。電離放射線硬化性樹脂組成物Bにおいても、電離放射線硬化性樹脂組成物Aと同様に、前記多官能性(メタ)アクリレートとともに、その粘度を調整するなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。
電離放射線硬化性樹脂組成物Bにおいて、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとの質量比は、ポリカーボネート(メタ)アクリレート:多官能(メタ)アクリレート=98:2〜70:30であることが好ましい。ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が98:2より小さくなれば(すなわち、ポリカーボネート(メタ)アクリレートの量が98質量%以下となれば)、優れた耐擦傷性が得られる。一方、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が70:30より大きくなると(すなわち、ポリカーボネート(メタ)アクリレートの量が70質量%以上なれば)、優れた成形性が得られる。このような観点から、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が95:5〜80:20となることがより好ましい。
また、本発明における表面保護層を構成する電離放射線硬化性樹脂組成物Bには、得られる硬化樹脂層の所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤などが挙げられる。
《低艶絵柄インキ層14及び表面保護層15の形成》
低艶絵柄インキ層14及び表面保護層15の形成は、各々上述の電離放射線硬化性樹脂組成物A及びBを含有する塗工液A及びBを調製し、これを塗布し、架橋硬化することで得ることができる。なお、塗工液の粘度は、後述の塗工方式により、未硬化樹脂層を形成し得る粘度であれば良く、特に制限はない。
本発明においては、例えば調製された塗工液Aをプライマー層13の上に塗工した上に、塗工液Bを硬化後の厚さが1〜20μmになるように塗工し、未硬化樹脂層を形成させる。塗工液A及びBは、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗工することができる。
本発明においては、上記の未硬化樹脂層に、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させる。
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
電子線の照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜100kGy(1〜10Mrad)の範囲で選定される。また、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が用いられる。
このようにして、形成された硬化樹脂層には、各種の添加剤を添加して各種の機能、例えば、高硬度で耐擦傷性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能などを付与することもできる。
また、上記の硬化は、塗工液Aを塗工してから硬化させて低艶絵柄インキ層14を形成し、次いで塗工液Bを塗工してから硬化させて表面保護層15を形成してもよいし、塗工液Aを塗工し、次いで塗工液Bを塗工してから、同時に硬化させて低艶絵柄インキ層14及び表面保護層15を形成してもよい。作業効率の観点から、同時に硬化させることが好ましい。
表面保護層15の厚さは、1〜20μmの範囲内であることが好ましい。表面保護層の厚さが1μm以上であれば、優れた耐摩耗性及び耐擦傷性が得られる。優れた透明感、塗装感などの意匠性や耐摩耗性を得る観点からは、表面保護層をより厚膜化することが好ましい。一方、表面保護層の厚さが20μm以下であれば、成形時に塗膜割れが生じにくく、成形性が向上し、自動車内装用途などの複雑な3次元形状への高い追従性を得ることができる。この観点から、表面保護層15の厚さは1〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。
(接着層)
本発明の加飾シート10は、射出樹脂との密着性を向上させるため、所望により、加飾シート10の裏面(低艶絵柄インキ層14とは反対側の面)に、接着剤層(図示しない。)を設けることができる。接着剤層には、射出樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂などが挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
本発明の加飾シートは、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法などの各種射出成形法に用いることができ、インサート成形法及び射出成形同時加飾法に好適に用いられる。また、本発明の加飾シートは、加飾成形品に優れた耐摩耗性や耐擦傷性とともに、優れた耐溶剤性、耐薬品性及び成形性を付与することができることから、加飾成形品の加飾用として好適に用いられる。
[加飾成形品]
本発明の加飾成形品は、上記した本発明の加飾シートを用いてなるものである。具体的には、本発明の加飾成形品は、本発明の加飾シートを、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法などの各種射出成形法に適用することにより、より好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法に適用することにより得られるものである。
インサート成形法では、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型によりあらかじめ成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾成形品を製造する。
射出樹脂は用途に応じた樹脂が使用され、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が代表的である。また、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂なども用途に応じ用いることができる。
次に、射出成形同時加飾法においては、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾成形品を製造する。
なお、射出成形同時加飾法では、射出樹脂による熱圧を加飾シートが受けるため、平板に近く、加飾シートの絞りが小さい場合には、加飾シートは予熱してもしなくてもよい。
なお、ここで用いる射出樹脂としてはインサート成形法で説明したものと同様のものを用いることができる。
以上のようにして製造された加飾成形体は、その表面保護層に成形過程で塗膜割れや白化が生じることがなく成形性が良好であり、その表面は優れた耐摩耗性や耐擦傷性とともに、優れた耐溶剤性、耐薬品性を有する。よって、本発明の加飾成形品は、その特性をいかして、自動車などの車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体、容器などの用途に好適に用いられる。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
評価方法
(1)成形性(真空成形)
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて、その外観にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
○;表面保護層に塗膜割れや白化が全く見られず、良好に型の形状に追従した。
△;三次元形状部又は最大延伸部の一部に微細な塗膜割れ又は白化が認められたが実用上問題なかった。
×;型の形状に追従できずに表面保護層に塗膜割れや白化が見られた。
得られた加飾シートを赤外線ヒーターで160℃に加熱し、軟化させる。次いで、真空成形用型を用いて真空成形を行い(最大延伸倍率100%)、型の内部形状に成形する。シートを冷却後、型より加飾シートを離型する。
(2)耐溶剤性
各実施例及び比較例で得られた加飾シートの表面にエタノールを滴下し、時計皿で被覆した。室温下で1時間放置した後、時計皿を外して、揮発しなかったエタノールを乾拭きして拭取った後の外観を下記の基準で評価した。
○;表面の変化は認められなかった。
△;表面に軽微な膨潤、剥離がみられたものの、実用上問題なかった。
×;表面に著しい膨潤、剥離がみられた。
(3)耐薬品性
各実施例及び比較例で得られた加飾シートの表面に水酸化ナトリウム水溶液(0.1N)を滴下し、時計皿で被覆した。室温下で1時間放置した後、時計皿を外して、揮発しなかったエタノールを乾拭きして拭取った後の外観を下記の基準で評価した。
○;表面の変化は認められなかった。
△;表面に軽微な膨潤、剥離がみられたものの、実用上問題なかった。
×;表面に著しい膨潤、剥離がみられた。
(4)意匠性
各実施例及び比較例で得られた加飾シートの意匠性について、下記の基準で評価した。
○;低艶絵柄インキ層部が凹部として認識され、さらには木目の質感も得られ、意匠性
が極めて高かった。
△;低艶絵柄インキ層部が凹部として認識され、意匠性が高かった。
×;意匠が平面的で、意匠性に劣るものであった。
実施例1
基材11としてABS樹脂フィルム(曲げ弾性率;2000MPa、厚さ;400μm)を用い、該フィルムの裏面に、着色顔料を配合したアクリル系樹脂組成物からなるインキを用い、グラビア印刷により木目柄の絵柄層12を形成し、その上にアクリル樹脂(アクリル酸エステルの単独重合体)からなる透明プライマー層13(厚さ3μm)を形成した。
該プライマー層13の上に、アクリルアクリレートオリゴマー(数平均分子量:4000,ガラス転移温度(Tg):90℃,官能基数:2)100質量部に、シリカ粒子(吸油量:150ml/100g、平均粒径:5μm)をP/V比1.0にて配合して得た電離放射線硬化性樹脂組成物Aをグラビア印刷にて、上記絵柄層12の木目柄の導管部と同調するように塗工し、さらに電離放射線硬化性樹脂組成物Bを硬化後の厚さが3μmとなるように塗工した。この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、組成物A及び組成物Bを硬化させて、各々低艶絵柄インキ層14及び表面保護層15を形成して、加飾シートを得た。
電離放射線硬化性樹脂組成物Bの組成
ポリカーボネートアクリレート(2官能,重量平均分子量:10000) :94質量部
ウレタンアクリレートオリゴマー(6官能,重量平均分子量:6000) :6質量部
シリカ(平均粒径:5μm) :10質量部
ポリエチレンワックス(平均粒径:5μm) :5質量部
実施例2〜8及び比較例1〜4
実施例1において、P/V比、シリカ粒子の平均粒径及び電離放射線硬化性樹脂組成物Aで用いられる樹脂を第1表に示されるものとした以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。得られた加飾シートについての各評価の結果を第1表に示す。
*1,ウレタンアクリレート(2官能、重量平均分子量:5,000)
*2,ポリエステル樹脂(Tg:−40℃、数平均分子量:10,000)
*3,ブチラール樹脂(Tg:68℃、数平均分子量:27,000)
*4,非架橋ウレタン樹脂(Tg:−63℃、数平均分子量:30,000)
*5,2液硬化型ウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール(Tg:60℃)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を配合し硬化して得られた樹脂である。
本発明の加飾シートは各種加飾成形品に用いられ、例えば、自動車などの車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体、容器などの用途の加飾樹脂成形品に好適に用いられる。
10.加飾シート
11.基材
12.絵柄層
13.プライマー層
14.低艶絵柄インキ層
15.表面保護層
16.低光沢領域
17.凸形状

Claims (8)

  1. 基材上に、部分的に設けられた低艶絵柄インキ層と表面保護層とを順に有し、該低艶絵柄インキ層が体質顔料並びに電離放射線硬化性樹脂としてアクリル(メタ)アクリレートオリゴマー及び/又はウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む電離放射線硬化性樹脂組成物Aを架橋硬化してなるものであり、該低艶絵柄インキ層の厚さが0.1〜10μmである加飾シート。
  2. 表面保護層の厚さが、低艶絵柄インキ層の厚さの1.5倍以上である請求項1に記載の加飾シート。
  3. 表面保護層の厚さが、低艶絵柄インキ層の厚さの5倍以下である請求項1又は2に記載の加飾シート。
  4. 体質顔料と電離放射線硬化性樹脂との質量比(P/V比)が、0.2〜1.5である請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
  5. 体質顔料が、平均粒径3〜6.5μmのシリカ粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の加飾シート。
  6. 体質顔料が、吸油量(JIS K 5101−13−1:2004に準拠する)100〜350ml/100gのシリカ粒子である請求項1〜5のいずれかに記載の加飾シート。
  7. 表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物Bを架橋硬化してなるものである請求項1〜6のいずれかに記載の加飾シート。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の加飾シートを用いてなる加飾成形品。
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