以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る多気筒エンジンの冷却構造を備えた多気筒エンジンの冷却装置1の構成を模式的に示す。このエンジン冷却装置1は、エンジン2の本体部20を構成するシリンダブロック21及びシリンダヘッド22にそれぞれ形成されたウォータジャケット23,24と、冷却水(冷却液)によって車内を暖房する(車内の空気を加熱する)ために図示しないダッシュボードの内部等に配設された空調ユニットのヒータコア30と、オイルを冷却水と熱交換するためのオイルクーラ31と、冷却水によって図示しないトランスミッションフルードを加熱又は冷却するためのATFウォーマ32と、冷却水によって図示しないEGR通路を流通する排気を冷却するためにEGR通路に配設されたEGRクーラ33と、EGR通路を流通する排気流量を調整するためにEGR通路に配設されたコールド用のEGRバルブ34と、外気によって冷却水を冷却するために車両の前部等に配設されたラジエータ37と、ヒータコア30とシリンダヘッド22のウォータジャケット24の後述の排気側ジャケット24bとの間で冷却水を循環させるための第1冷却水通路40と、オイルクーラ31とエンジン本体部20との間で冷却水を循環させるための第2冷却水通路41と、EGRクーラ33、EGRバルブ34及びATFウォーマ32とエンジン本体部20との間で冷却水を循環させるための第3冷却水通路42と、ラジエータ37とエンジン本体部20との間で冷却水を循環させるための第4冷却水通路43と、シリンダブロック21のウォータジャケット23に冷却水を送給する機械式ウォータポンプ(以下、単にウォータポンプという。)51とを備えている。
エンジン2は、直列に並ぶ4つのサイアミーズタイプのシリンダ25,25,…がクランク軸(図示省略)の軸方向に沿って直列に並ぶ直列4気筒エンジンであり、低負荷時に圧縮自己着火燃焼運転(CI運転)を行う一方、エンジンのCI運転における燃焼不安定時や高負荷時に火花着火燃焼運転(SI運転)を行う火花着火式エンジンである。このエンジン2は、アルミニウム合金製の上記シリンダブロック21と該シリンダブロック21の上側に組み付けられる同じくアルミニウム合金製の上記シリンダヘッド22とによって構成され、これらシリンダブロック21とシリンダヘッド22とによって形成される上記シリンダ25,25,…内でピストン(図示省略)が上下動するように構成されている。
図2は、シリンダブロック21の平面図である。上記エンジン2は、車両前部に設けられたエンジンルーム内に、クランク軸が車幅方向に向かって延びるように横置き搭載されるものである。エンジン2の左側(図2において上側)には、各シリンダ25内に吸気を導入するための吸気マニホールド(図示省略)が配設されている一方、エンジン2の右側(図2において下側)には、排気系(排気マニホールド等、図示省略)が設けられている。このシリンダブロック21において、その長手方向(気筒列方向であり、以下、エンジン前後方向ともいう)両端部及びシリンダボア間25a,25a,…のそれぞれの吸気側及び排気側には、シリンダヘッド22とボルト締結するためのボルトが螺合されるボルト穴21a,21a,…が形成されている。
シリンダブロック21のウォータジャケット23は、4つのシリンダ25,25,…の外周を囲むようにしてシリンダブロック21のエンジン前後方向全体に亘って形成され、シリンダボア間25a,25a,…に対応する箇所がくびれている。また、上記ウォータジャケット23の外周りを形成するシリンダブロック外周壁27の排気側エンジン前端部には、ウォータポンプ51から送給される冷却水をウォータジャケット23に導入する冷却水導入路28(冷却液導入部)が形成されている。冷却水導入路28は、シリンダブロック外周壁27のウォータジャケット23下部に対応する箇所に形成され、最もエンジン前側のシリンダ25に近づくに従ってエンジン後側に傾斜している。そのため、冷却水導入路28からウォータジャケット23の下部に導入された冷却水は、エンジン前側及び後側に分岐し、大部分がエンジン後側に流れ、その他がエンジン前側に流れる。
シリンダブロック21のウォータジャケット23には、該ウォータジャケット23を流れる冷却水の水路を形成するジャケットスペーサ80が配設されている。図3及び図4は、それぞれウォータジャケット23にジャケットスペーサ80が配設されたエンジン本体部20の図2のIII-III線断面相当図及びIV-IV線断面相当図である。また、図5及び図6は、ジャケットスペーサ80の全体斜視図であって、それぞれ排気側及び吸気側から見たものである。さらに、図7はジャケットスペーサ80を示す図であって、(a)は平面図、(b)は排気側から見た側面図、(c)は吸気側から見た側面図、(d)はエンジン前側から見た側面図、(e)はエンジン後側から見た側面図である。なお、図7(b)及び(d)には、冷却水導入路28に対応する箇所を破線で示している。
ジャケットスペーサ80は、耐熱性の合成樹脂からなる。このジャケットスペーサ80は、ウォータジャケット23の下側部分(本実施形態では略下半部分)に配設されるスペーサ本体部81を有している。このスペーサ本体部81は、エンジン前後方向に細長い略円筒状をなし、シリンダボア間25a,25a,…に対応する箇所がこれらシリンダボア間25a,25a,…の形状に沿ってくびれている。スペーサ本体部81は、図3及び図4に示すように、シリンダ25,25,…に近接しており、これらシリンダ25,25,…との間には、僅かに隙間が形成されている。また、スペーサ本体部81の排気側部分は、吸気側部分よりも高く形成されている。
スペーサ本体部81の上端及び下端には、外方に張り出す一対の鍔部82,83が形成されている。これら上下一対の鍔部82,83のうち下側の鍔部(以下、下側鍔部という)83は、図5及び図6に示すように、スペーサ本体部81の下端全周に亘って形成されている。この下側鍔部83は、図3及び図4に示すように、ウォータジャケット23の下端幅とほぼ同じ幅を有している。
また、スペーサ本体部81の外周面における下側鍔部83の上側且つ冷却水導入路28に対応する箇所の下側の部分には、図5及び図7(b)等に示すように、当該冷却水導入路28から導入された冷却水がスペーサ本体部81の下方に回り込むのを防ぐと共に、この導入された冷却水をエンジン前後方向に案内する案内片84(案内部)が形成されている。
一方、上側の鍔部(以下、上側鍔部という)82(鍔部)は、スペーサ本体部81の上端の略全周に亘って形成されており、この上側鍔部82のエンジン前端部には、切欠部85(図5参照)が形成されている。具体的には、上側鍔部82は、スペーサ本体部81の上端における冷却水導入路28に対応する箇所から図7(a)の時計回りに周回して吸気側部分のエンジン前端部手前まで形成されており、このエンジン前端部から時計回りに冷却水導入路28対応箇所手前まで切欠部85が形成されている。
また、この上側鍔部82は、図3及び図4に示すように、ウォータジャケット23の上下方向略中央部における幅と同じ幅を有している。したがって、ウォータジャケット23は、上側鍔部82によって上下に区画されている。そして、上側鍔部82と下側鍔部83との間には、冷却水導入路28から導入された冷却水が流れる下側冷却水路23aが形成されている。
さらに、上側鍔部82直下のスペーサ本体部81のシリンダボア間25a,25a,…対応箇所には、図5乃至図7に示すように、上下方向に細長い矩形状の開口部81a,81a,…が形成されている。具体的には、スペーサ本体部81の排気側部分上端部におけるシリンダボア間25a,25a,25a対応箇所にそれぞれ開口部81a,81a,81aが形成されている一方、吸気側部分上端部におけるシリンダボア間25a,25a,25a対応箇所にそれぞれ開口部81a,81a,81aが形成されている。なお、図5には、全開口部81a,81a,…のうち吸気側の開口部81a,81a,81aだけが図示され、排気側の開口部81a,81a,81aが後述する第1保持片部88aの排気側部分に隠れている。また、図6には、全開口部81a,81a,…のうち排気側の開口部81a,81a,81aだけが図示され、吸気側の開口部81a,81a,81aが上記の第1保持片部88aの吸気側部分に隠れている。
そして、スペーサ本体部81の外周面のうち排気側部分のエンジン前端部には、図5及び図7(b)に示すように、エンジン前後方向に略水平に延びる突出片部86が外方に張り出すように形成されている。具体的には、該突出片部86は、案内片84の上側且つ排気側の開口部81a,81a,81aの下側において、冷却水導入路28対応箇所のエンジン後側から最もエンジン前側の開口部81aの下方まで延びている。この突出片部86の突出幅は、熱膨張などを考慮して、図4に示すように、ウォータジャケット23の上下方向略中央部における幅よりも僅かに小さく設定されているが、好ましくは、突出片部86の突出幅は、ウォータジャケット23の幅と同じで隙間がない方がよい。
また、図6及び図7(c)に示すように、スペーサ本体部81の吸気側部分の外周面におけるエンジン後端部からエンジン前後方向中央前寄り部分には、案内突部87が外方に張り出すように形成されている。具体的には、案内突部87は、下側鍔部83の吸気側部分におけるエンジン後側のシリンダボア25b対応箇所から後側の開口部81aの下方まで前側に向かって上方に傾斜し、さらに、エンジン前側の開口部81aの下方まで前方に略水平に延びている。案内突部87の幅は、熱膨張などを考慮して、図3及び図4に示すように、ウォータジャケット23の幅よりも僅かに小さく設定されているが、好ましくは、案内突部87の幅は、ウォータジャケット23の幅と同じで隙間がない方がよい。
一方、スペーサ本体部81の上端には、ジャケットスペーサ80をウォータジャケット23内に保持する保持片部88が形成されている。この保持片部88は、図3及び図4に示すように、ジャケット本体部81の上端から上方に延びて、先端がウォータジャケット23の天井面、即ち後述するガスケット29の下面に近接している。したがって、ジャケットスペーサ80が冷却水の浮力によって浮かんでも、この保持片部88がガスケット29の下面に当接するため、ジャケットスペーサ80が所定位置に保持される。したがって、スペーサ本体部81がウォータジャケット23の下部に止まり、シリンダボア25b,25b,…の下部全周を常時取り囲むことができる。
この保持片部88は、上側鍔部82の外周端における上記突出片部86上方に対応する箇所から図7(a)において時計回りに周回して、吸気側のエンジン前端まで形成された第1保持片部88aと、スペーサ本体部81の上端における上記突出片部86上方のエンジン前側に対応する箇所から図7(a)の反時計回りにエンジン前後方向前端まで形成された第2保持片部88bと、この第2保持片部88bの後端と第1保持片部88aの前端とを連結する連結片部88cと、によって構成されている。そして、上側鍔部82の上側には、この保持片部88とシリンダ25,25,…との間のスペースに冷却水が流れる上側冷却水路23bが形成されている。
図8は、エンジン2のシリンダヘッド22の概略構成を示す断面図であり、より具体的には、エンジン前後方向に直交し且つシリンダボア25bの中央を通る平面でシリンダヘッド22を切った断面を示す図である。シリンダヘッド22は、概略直方体形状のブロック材で構成され、その下面の上記各シリンダボア25b対応箇所が燃焼室26の天井面を構成している。各天井面の吸気側には、一対の吸気ポート22a,22aがエンジン前後方向に間隔をあけて形成され、また、排気側には、一対の排気ポート22b,22bがエンジン前後方向に間隔をあけて形成されている。
シリンダヘッド22の内部には、上記ウォータジャケット24が形成されている。このウォータジャケット24は、各シリンダ25の燃焼室26の周囲に形成されたジャケット本体24aと、各シリンダ25の排気ポート22bの反燃焼室26側に形成された排気側ジャケット24bと、を有している。
ジャケット本体24aは、各シリンダ25の燃焼室26の周囲近傍において各シリンダ25の吸排気ポート22a,22bやプラグホールの外周を包み込むようにしてシリンダヘッド21のエンジン前後方向全体に亘って形成され、後端部に開口する導出路44に連通している。また、ジャケット本体24aは、エンジン前後方向両端部に形成された孔部を介して、排気側ジャケット24bのエンジン前後方向両端部にも連通している。これにより、ジャケット本体24aを流れる冷却水は、順次、排気側ジャケット24bに流通するようになっている。
排気側ジャケット24bは、各シリンダ25の排気ポート22bの上側近傍においてシリンダヘッド22のエンジン前後方向全体に亘って形成されている。排気側ジャケット24bのうち吸気側とは反対側(短手方向外側)の端部及び後端部は、他の部分よりも肉厚に形成されている。
図9は、ガスケット29が取り付けられたシリンダヘッド22の下面を示す図である。シリンダヘッド22の下面には、ジャケット本体24aを覆うようにガスケット29が配設されている。このガスケット29には、燃焼室26,26,…に対応する部分に円形の孔が形成されている一方、シリンダブロック21に形成されたボルト穴21a,21a,…に対応する部分にボルト挿通孔29a,29a,…が形成されている。
さらに、ガスケット29のシリンダボア間25a,25a,…に対応する部分には、シリンダブロック21のウォータジャケット23とシリンダヘッド22のジャケット本体24aとを連通する円形の第1連通路29b,29b,…が貫通形成されている一方、シリンダブロック21のウォータジャケット23のエンジン前後方向前端に対応する部分には、該ウォータジャケット23とジャケット本体24aとを連通する一対の略矩形状の第2連通路29c,29cが貫通形成されている。
上記構成を備えたエンジン本体部20にウォータポンプ51から送給されると、冷却水は、冷却水導入路28からシリンダブロック21のウォータジャケット23を周回し、ガスケット29の第2連通路29cを経由してシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。この周回する途中で、冷却水は、ガスケット29の第1連通路29b,29b,…を経由してシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。
ここで、シリンダブロック21のウォータジャケット23を周回する際の冷却水の流れを具体的に説明すると、冷却水導入路28から導入された冷却水は、先ず、冷却水導入路28と対向するスペーサ本体部81の外周面に当たり、エンジン前側と後側に分岐する。冷却水導入路28は上述の如くシリンダ25に近づくに従ってエンジン後側に傾斜しているため、冷却水導入路28から導入された冷却水の流れは、エンジン後側に向かって方向付けられている。したがって、冷却水導入路28からウォータジャケット23の排気側部分に導入された冷却水は、大部分がエンジン後側に向かって流れ、その他が前側に向かって流れる。
エンジン前側に向かって流れる冷却水は、最もエンジン前側のシリンダボア25bの周囲を回り込み、ジャケットスペーサ80の上側鍔部82に形成された切欠部85から第2連通孔29c,29cを通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。
一方、エンジン後側に向かって流れる冷却水は、冷却水導入路28近傍において、上側鍔部82、保持片部88及び連結片部88cによって上側冷却水路23bへの流入を阻止されている。したがって、この冷却水のほとんどが下側冷却水路23aを流れる。下側冷却水路23aを流れる冷却水は、冷却水導入路28のエンジン後側の突出片部86によって上下に分配調整され、さらに、突出片部86がエンジン前後方向に延びているため、突出片部86の上側及び下側を流れる冷却水がエンジン前後方向にスムーズに流れる。このように、突出片部86により、冷却水の整流効果が高められる。
そして、下側冷却水路23aを流れる冷却水がエンジン前側の開口部81aの位置に到達すると、突出片部86の上側を流れる冷却水が当該開口部81aに流入して、スペーサ本体部81の内側に流れ込み、シリンダヘッド22の低圧のジャケット本体24aに向かって上方に引っ張られる。このとき、冷却水は、開口部81aよりも高い位置にある、燃焼室26に近接するシリンダボア間25a上端部に接触する。したがって、比較的高温になり易いシリンダボア間25a上端部を効果的に冷却することができる。
一方、突出片部86の下側を流れる冷却水は、当該突出片部86によって上記の開口部81aへ流入するのを制限され、そのままエンジン後側に向かって流れる。これにより、冷却水導入路28に最も近い開口部81aの近傍を流れる流速及び流圧の高い冷却水の該開口部81aへの流入を抑制することができると共に、その下流側に流れる冷却水の流量を増加させることができる。その結果、全開口部81a,81a,…に流入する冷却水の流量が略均一化される。したがって、シリンダボア間25a,25a,…を略均一に冷却することができる。
冷却水導入路28に最も近い開口部81aの位置を通過した冷却水は、ウォータジャケット23の排気側部分をエンジン後側に向かって流れる。その途上で、冷却水の一部が排気側の中央及びエンジン後側の開口部81a,81aに流入し、それぞれに対応するシリンダボア間25a,25aに接触して当該シリンダボア間25a,25aを冷却する。そして、シリンダボア間25a,25aに接触した冷却水は、その上方の第1連通路29b,29bを通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。
ウォータジャケット23の排気側部分を流れた冷却水は、最もエンジン後側のシリンダボア25b周りを回り込み、ウォータジャケット23の吸気側部分をエンジン前側に向かって流れる。このとき、冷却水導入路28からの距離が遠ざかり、冷却水の勢いが低下するものの、スペーサ本体部81外周面の吸気側に案内突部87が形成されているため、冷却水が案内突部87の上側を流れて、流路断面積が徐々に小さくなり、流速が徐々に大きくなる。その結果、ウォータジャケット23の吸気側を流れる冷却水は、排気側の開口部81a,81a,81aに流入する冷却水と同様に、吸気側の開口部81a,81a,81aに勢いよく流れ込む。
流れ込んだ冷却水は、吸気側の開口部81a,81a,81aに対応するシリンダボア間25a,25a,25a、特にシリンダボア間25a,25a,25aの各上端部に接触して冷却し、その上方に形成された第1連通路29b,29b,29bを通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。したがって、吸気側のシリンダボア間25a,25a,25aも、排気側のシリンダボア間25a,25a,25aと同程度に冷却される。したがって、すべてのシリンダボア間25a,25a,25aをより一層均一に冷却することができる。
また、案内突部87は、エンジン前後方向に延びているため、上記突出片部86と同様に、冷却水をエンジン前後方向に流す整流作用を発揮する。なお、案内突部87の下側を流れる冷却水は、案内突部87の下側で淀んでいる。
そして、ウォータジャケット23の吸気側部分を流れた冷却水は、最もエンジン前側のシリンダボア25b周りを回り込み、上側鍔部82に形成された切欠部85からガスケット29の第2連通路29c,29cを通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。
なお、ジャケットスペーサ80の各開口部81aに流入した冷却水は、ガスケット29の第1連通路29b,29b,…によってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する他に、上側冷却水路23bを淀みながらも緩やかに流れる。このとき、保持片部88のシリンダボア間25a,25a,…に対応する部分がシリンダボア間25a,25a,…に沿ってくびれているため、上側冷却水路23bを流れる冷却水は、保持片部88のシリンダボア間25a対応部分によってシリンダボア間25aに案内される。したがって、上側冷却水路23bを流れる冷却水も、シリンダボア間25a,25a,…の冷却に利用される。
ところで、シリンダブロック21のウォータジャケット23を流れる冷却水は、ウォータポンプ51によって形成される流れや燃焼室26からの熱伝達によって対流する可能性がある。この対流により、シリンダブロック21のウォータジャケット23にある冷却水がシリンダヘッド22のウォータジャケット24に流入し、該ウォータジャケット24で流動することにより、燃焼室26の周囲が冷却されるおそれがある。ジャケットスペーサ80は、このような冷却水による対流を抑制する。
即ち、ジャケットスペーサ80の上側鍔部82は、その下側の下側冷却水路23aを流れる冷却水が燃焼室26近傍の上側冷却水路23bへ流入するのを抑制している。また、下側鍔部83は、下側冷却水路23aを流れる冷却水がスペーサ本体部81の下方への回り込むのを抑制している。これにより、冷却水がスペーサ本体部81の内側、即ちスペーサ本体部81とシリンダ25,25,…との間に流入するのを抑制している。そのため、シリンダブロック21のウォータジャケット23における冷却水の対流が抑制される。
また、上側冷却水路23bにも上述の如く冷却水が淀みながらも流動しており、燃焼室26に近いことから冷却水が加熱されて対流が生じる可能性がある。ここで、密閉空間における液体の自然対流による熱伝達率は、該密閉空間(ここでは、ウォータジャケット23)の幅に対する高さの比の−1/9乗に比例する。つまり、当該熱伝達率は、幅が小さいほど自然対流が抑制されて小さくなる。そこで、上側冷却水路23bの外周を形成する保持片部88によって上側冷却水路23bの幅がウォータジャケット23よりも狭められ、保持片部88が設けられていない場合と比較して上側冷却水路23bで生じる対流が抑制される。
このようにジャケットスペーサ80は、ウォータポンプ51の作動によって冷却水が対流してウォータジャケット23からジャケット本体24aに流入し、冷却水が当該ジャケット本体24aで流動するのを抑制する対流抑制手段を構成している。
冷却水導入路28から導入された冷却水は、以上のようにしてシリンダブロック21のウォータジャケット23を流れてシリンダヘッド22のウォータジャケット24に流入し、導出路44に流れる。
導出路44には、図1に示すように、冷却水の温度を検出するための第1水温センサ70が配設されている。導出路44には、第2〜第4冷却水通路41〜43が連通している。
導出路44と第1〜第4冷却水通路40〜43との連通部には、導出路44からの冷却水が流通する通路を切り換える流調弁60が設けられている。流調弁60は、例えば従来周知の流量調整バルブやサーモスタットで構成され、その内部の流路は、第1冷却水通路40を構成する流路と、第2〜第4冷却水通路41〜43を構成する流路とに独立している。この流調弁60の作動は、エンジンコントロールユニット(以下、ECUという。図10を参照)7の流調弁制御部7aによって制御されるようになっている。
以上により、シリンダヘッド22のウォータジャケット24を流通した比較的高温の冷却水は、導出路44から第1〜第4冷却水通路40〜43に流出するようになる。
第1冷却水通路40の上流端部は、流調弁60及び導出路44を介して排気側ジャケット24bに連通する一方、その下流端部は、ウォータポンプ51の吸入側に連通している。第1冷却水通路40には、ヒータコア30と冷却水の温度を検出するための第2水温センサ71とが上流側から順に設けられている。第1冷却水通路40を流通する冷却水は、ヒータコア30において車内の空気と熱交換してこの空気を加熱した後に、ウォータポンプ51に流入する。
第2冷却水通路41は、ラジエータ37の下流側で第4冷却水通路43に合流している。第2冷却水通路41の下流端部は、ウォータポンプ51の吸入側に連通している。第2冷却水通路41における第4冷却水通路43との合流部の上流側には、オイルクーラ31が設けられている。第2冷却水通路41を流通する比較的高温の冷却水は、オイルクーラ31においてオイルと熱交換した後に、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。
第3冷却水通路42は、ラジエータ37の下流側で且つ第2及び第4冷却水通路41,43の合流部の上流側で第4冷却水通路43に合流している。第3冷却水通路42の上流端部は、第2冷却水通路41におけるオイルクーラ31の上流側、即ち第2冷却水通路41における流調弁60とオイルクーラ31との間に連通している。第3冷却水通路42の下流端部は、ウォータポンプ51の吸入側に連通している。第3冷却水通路42における第4冷却水通路43との合流部の上流側には、EGRクーラ33及びEGRバルブ34とATFウォーマ32とが上流側から順に設けられている。EGRクーラ33とEGRバルブ34とは、第3冷却水通路42において並列に設けられている。第3冷却水通路42を流通する比較的高温の冷却水は、EGRクーラ33において排気と熱交換してこの排気を冷却し且つEGRバルブ34においてEGRバルブ34と熱交換した後に、ATFウォーマ32においてATFと熱交換して、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。
第4冷却水通路43の下流端部は、ウォータポンプ51の吸入側に連通している。第4冷却水通路43には、ラジエータ37が設けられている。第4冷却水通路43を流通する比較的高温の冷却水は、ラジエータ37において外気と熱交換して冷却された後に、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。
ウォータポンプ51は、例えばインペラの回転によって冷却水を送り出す従来周知の遠心式のものであり、そのインペラのシャフトがエンジン本体部20のクランク軸の回転によって駆動されるようになっている。
ECU7は、周知の如くCPUやメモリ、I/Oインターフェース回路、ドライバ回路等を備えて、エンジン2の運転制御のためにシリンダ25毎の燃料噴射制御や点火時期制御を行うものであるが、これに加えて、燃焼室26の壁温や暖房運転の状態等に応じて、流調弁60の作動を制御するようになっている。
すなわち、ECU7は、図10に示すように、少なくとも、エンジン2の負荷状態を検出するための負荷状態センサ72(例えば車両のアクセル開度センサやエアフローセンサ等である)からの信号を入力して、これによりエンジン2の負荷状態を判定し、低負荷時にはエンジン2の圧縮自己着火運転を行う一方、高負荷時にはエンジン2の火花着火運転を行うようになっている。シリンダブロック21のウォータジャケット23で生じる冷却液の対流がジャケットスペーサ80によって抑制されるので、燃焼室26の壁温が冷却され難い状態となり燃焼室26の壁温の早期上昇が促進され、早期に圧縮自己着火燃焼を安定させると共に維持することができる。その結果、圧縮自己着火燃焼運転領域を拡大することが可能となり、燃費を向上させることができる。
また、ECU7は、少なくとも、第1水温センサ70からの信号と、暖房運転の状態を検出するための暖房運転状態センサ73(例えば暖房スイッチのオン・オフ状態を検出するセンサ等である)からの信号を入力して、燃焼室26の壁温と暖房運転の状態を判定し、これに応じて流調弁60の作動を制御するようになっている。
以上のように構成されたエンジン冷却装置1における冷却水の全体的な流れは、図1に模式的に示すようになる。同図は、流調弁60が第1〜第4冷却水通路40〜43を閉じているときの流れを示している。このとき、エンジン本体部20内のウォータジャケット23,24において冷却水の流れは殆ど起きない。そして、燃焼室26における燃焼によってシリンダブロック21のウォータジャケット23に冷却水の対流が生じ得るが、上述のように、ジャケットスペーサ80によってウォータジャケット23における冷却水の対流が抑制される。そのため、シリンダブロック21のウォータジャケット23からシリンダヘッド22のジャケット本体24aへの冷却水の流入が抑制され、当該ジャケット本体24aにおいて冷却水の流動が殆ど起きない。その結果、燃焼室26周囲が冷却され難くなる。
一方、流調弁60が第2〜第4冷却水通路41〜43を閉じて、第1冷却水通路40を開いているときには、図11に示すように、ウォータポンプ51からシリンダブロック21に形成された冷却水導入路28に送られた冷却水は、シリンダブロック21のウォータジャケット23から第1連通孔29bを介さずにガスケット29の第2連通路29cを介してシリンダヘッド22のジャケット本体24aのエンジン前端部を通り、そのまま排気側ジャケット24bに流入する。したがって、冷却水は、シリンダブロック21のウォータジャケット23及びシリンダヘッド21のジャケット本体24aを殆ど流れることなく排気側ジャケット24bに流入する。なお、この冷却水の流れに引っ張られ(誘発され)てシリンダブロック21のウォータジャケット23における冷却水が対流する可能性があるが、ウォータジャケット23に配設されたジャケットスペーサ80によってこの冷却水の対流が抑制される。その後、冷却水は、排気側ジャケット24bを流通して導出路44を通り、第1冷却水通路40を流れて、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。このとき、ヒータコア30との間で冷却水は熱交換する。
また、流調弁60が第2及び第3冷却水路41,42を開き且つ第4冷却水路43を閉じているときには、図12に示すように、ウォータポンプ51からシリンダブロック21に形成された冷却水導入路28に送られた冷却水は、シリンダブロック21のウォータジャケット23からガスケット29の第1連通路29b及び第2連通路29cを通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。このときにも、ジャケットスペーサ80によってシリンダブロック21のウォータジャケット23における冷却水の対流が抑制される。その後、冷却水は、ジャケット本体24aから排気側ジャケット24bを流通した後に、導出路44を通って、第2及び第3冷却水路41,42を流通し、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。このとき、オイルクーラ31、EGRクーラ33、EGRバルブ34及びATFウォーマ32との間で冷却水が流れる一方、ラジエータ37との間では冷却水は流れない。さらに、流調弁60が第1冷却水通路40を開いているときには、上述と同様にヒータコア30との間で冷却水は熱交換する。
また、流調弁60が第2〜第4冷却水通路41〜43を開いているときには、図13に示すように、ウォータポンプ51からシリンダブロック21に形成された冷却水導入路28に送られた冷却水は、上述と同様にシリンダヘッド22のウォータジャケット24に流れ、第2〜第4冷却水通路41〜43を流通した後に、ウォータポンプ51の吸入側に戻される。このとき、オイルクーラ31、EGRクーラ33、EGRバルブ34、ATFウォーマ32及びラジエータ37との間で冷却水は流れる。さらに、流調弁60が第1冷却水通路40を開いているときには、上述と同様にヒータコア30との間で冷却水は熱交換する。
以上のように、流調弁60は、冷却水の温度上昇に従って、第2及び第3冷却水通路41,42、第4冷却水通路43の順に開くようになっている。
−流調弁の作動制御−
次に、エンジン始動後におけるECU7によるエンジン2及び流調弁60の作動制御について説明する。
エンジン冷間時(エンジン暖機中)で且つ冷却水温度が第1目標水温(例えば80℃)未満であって、暖房運転の停止時(暖房要求がないとき)には、エンジン2の火花着火運転を行うとともに、流調弁60を、第1〜第4冷却水通路40〜43を閉じるように作動させる。こうすると、エンジン本体部20内のウォータジャケット23,24における冷却水の流通、特に、シリンダブロック21のウォータジャケット23における冷却水の対流がジャケットスペーサ80によって抑制され、燃焼室26の壁温が冷却され難い状態となる。その結果、燃焼室26の壁温の早期上昇が促進される。
一方、エンジン冷間時で且つ冷却水温度が第1目標水温未満であって、暖房運転時(暖房要求があるとき)には、図11に示すように、エンジン2の火花着火運転を行うとともに、流調弁60を、第1冷却水通路40を開き且つ第2〜第4冷却水通路41〜43を閉じるように作動させる。こうすると、シリンダブロック21及びシリンダヘッド22のウォータジャケット23,24を冷却水が流れる。このとき、ジャケットスペーサ80によって冷却水がシリンダボア間25a,25a,…に均一に供給され、これらシリンダボア間25a,25a,…が均一に冷却される。さらに、ジャケットスペーサ80によってシリンダブロック21のウォータジャケット23における冷却水の対流が抑制され、シリンダヘッド22のジャケット本体24aにおける冷却水の流動が抑制される。その結果、燃焼室26の壁温の早期上昇が促進される。そして、ヒータコア30との間で冷却水は流通し、車内が暖房される。
なお、暖房運転時、流調弁6を、エンジン2の回転数が増加するのに伴って冷却液の流量を制限するように作動させる。そうすると、暖房運転時にエンジンの回転数が増加することにより、第1冷却水通路40を流れる冷却水の単位流量当たりの保有する熱量が増加し、一部の熱は熱交換されず、第1冷却水通路40を循環しているだけとなりウォータポンプ駆動力に無駄な仕事が発生する。そのため、第1冷却水通路40を流れる冷却水の流量が低減したとしても、暖房要求を満たす熱量をヒータコア30に供給することができる。その結果、ヒータ性能を確保することができる。したがって、暖房運転時にエンジン2の回転数増加に伴って第1冷却水通路40を流れる冷却水流量を制限したとしても、ヒータ性能を確保することができる。そこで、暖房運転時にエンジン2の回転数増加に伴って流調弁60によって第1冷却水通路40を流れる冷却水流量を制限することにより、ヒータ性能を確保しつつ、冷却水を循環させるウォータポンプ51の仕事量が低減し、ウォータポンプ51を駆動するエンジン2の駆動負荷を低減することができる。
また、エンジン冷間時であって、冷却水温度が第1目標水温以上になったときには、燃焼室26の壁温が目標壁温(所定温度)以上になったとして、図12に示すように、エンジン2の運転状態を火花着火運転から圧縮自己着火運転に切り替えるとともに、流調弁60を、第2及び第3冷却水通路41,42を開き且つ第4冷却水通路43を閉じるように作動させる。こうすると、エンジン本体部20内のウォータジャケット23,24において冷却水は流通する。さらに、EGRクーラ33、EGRバルブ34及びATFウォーマ32との間で冷却水は流通し、EGRクーラ33において排気と熱交換してこの排気を冷却し且つEGRバルブ34においてEGRバルブ34と熱交換した後に、ATFウォーマ32においてATFと熱交換する。その上、暖房運転時には、ヒータコア30との間で冷却水は流通し、車内が暖房される。
また、エンジン2の暖機完了後であって、冷却水温度が第1目標温度よりも高い第2目標水温以上になったときには、エンジン2からの放熱要求があるとして、図13に示すように、流調弁60を、第2〜第4冷却水通路41〜43を開くように作動させる。こうすると、上述と同様にエンジン本体部20内のウォータジャケット23,24において冷却水は流通する。さらに、上述と同様にEGRクーラ33、EGRバルブ34及びATFウォーマ32との間で冷却水は流通する。その上、ラジエータ37との間で冷却水は流通し、ラジエータ37において冷却水が外気と熱交換して冷却される。加えて、暖房運転時には、上述と同様にヒータコア30との間で冷却水は流通する。
なお、エンジン2の暖気完了後も、シリンダブロック21のウォータジャケット23の冷却水がジャケットスペーサ80の開口部81a,81a,…を通ってシリンダボア間25a,25a,…に接触し、その上方の第1連通孔29b,29b,…を通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。このため、暖機完了後においてもシリンダボア間25,25,…を冷却することができる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、ジャケットスペーサ80の保持片部88が上側鍔部82の略全周に亘って形成されているが、これに限定されず、例えば、図14に示すジャケットスペーサ180のように、上側鍔部182のシリンダボア間25a,25a,…対応箇所のみに形成されていてもよい。具体的には、保持片部188,188,…は、上側鍔部182におけるシリンダボア間25aの上流側に対応する箇所に、該上側鍔部182の外周端に沿って湾曲するように形成されている。そして、上側冷却水路23bを流れる冷却水は、シリンダボア間25a,25a,…に接近すると、保持片部188,188,…によってシリンダボア間25a,25a,…に案内される。そして、案内された冷却水は、シリンダボア間25a,25a,…に接触し、上方の第1連通路29b,29b,…を通ってシリンダヘッド22のジャケット本体24aに流入する。
また、上記実施形態では、ジャケットスペーサ80の突出片部86がエンジン前後方向に排気側の開口部81a,81a,81aのうちエンジン前側の開口部81aの下方まで延びているが、これに限定されず、例えば、突出片部86が当該エンジン前側の開口部81aよりもエンジン後方に延びていてもよい。