JP6035061B2 - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents
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Description
自動車エンジンルームについていえば、最近では、自動車エンジンルームの部品の高密度化、及びエンジン出力の増加に伴い、エンジンルーム内の環境温度は増々高くなり、これまでに存在するレベルを有意に超えるような高い(長期の)耐熱エージング性がポリアミド樹脂に求められている。
ポリアミド樹脂の耐熱エージング性を向上させる技術として、銅化合物(銅の酸化物又は塩)を添加する技術が従来より知られている。
また、同様に、耐熱エージング性を向上させる技術として、融点の異なる2種類のポリアミドに銅化合物及び酸化鉄を配合する技術(例えば、特許文献1参照)、ポリアミドに微粒元素鉄を配合する技術(例えば、特許文献2参照)、ポリアミドに微細分散化金属粉末を配合する技術(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
さらに、ポリアミド樹脂に、2個を超えるヒドロキシル基を有し、かつ2000未満の数平均分子量(Mn)を有する1種又は複数種の多価アルコールとアミン系補助安定剤、及び補強剤を配合することにより、耐熱エージング性を向上させる技術も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
一方、ポリアミド樹脂に、メチロール基を0.5〜15質量%含有するフェノール樹脂を5〜60質量%配合することにより、耐塩化カルシウム性を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
また、これらの先行技術文献には、加工性や熱滞留安定性について記載はなく、これらの課題に関する着想はなかった。
そこで、本発明の課題は、耐熱エージング性、機械的強度及び加工性、さらには熱滞留安定性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することである。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(A)ジアミン及びジカルボン酸が縮合したポリアミド樹脂と、
(B)ヒドロキシメチルフェノール骨格を含有するフェノール化合物であって、1つの
フェノールユニットに対し、少なくとも1つ以上のヒドロキシメチル基を含有するフェノ
ール化合物と、
(D)銅塩と、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、光により酸を発生する化合物を含むもの、及び、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、及びハロゲン化ブチルゴムの少なくともいずれかの架橋ゴムを含むものを除く。)。
[2]
前記(B)のフェノール化合物は、フェノール性水酸基を1分子内に2個以上含有し、
さらに前記ヒドロキシメチル基を1つのフェノールユニットに対し2個以上含有する、前
記[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]
前記(B)のフェノール化合物は、融点が80℃以上250℃以下である、前記
[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4]
前記(A)のポリアミド樹脂を40質量%以上99.9質量%以下、
前記(B)のフェノール化合物を0.01質量%以上10質量%以下、
含有する前記[1]〜[3]のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]
さらに(C)無機充填材を含有する、前記[1]〜[4]のいずれか一に記載の
ポリアミド樹脂組成物。
[6]
前記(C)の無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ウォラストナイト、カオ
リン、マイカ、炭酸カルシウム、クレー及び窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上で
ある、前記[5]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[7]
前記(C)の無機充填材を0.1質量%以上60質量%以下含有する、前記[5]又は
[6]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[8]
前記(D)の銅塩と、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物
を0.01質量%以上1質量%以下含有する、前記[1]〜[7]のいずれか一に記載の
ポリアミド樹脂組成物。
[9]
前記[1]〜[8]のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
[10]
前記成形品が自動車エンジンルームの部品である前記[9]に記載の成形品。
本実施の形態は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)ヒドロキシメチルフェノール骨格を含有するフェノール化合物であって、1つのフェノールユニットに対し、少なくとも1つ以上のヒドロキシメチル基を含有するフェノール化合物と、を含むポリアミド樹脂組成物に係る。
以下、前記ポリアミド樹脂組成物の各構成要素について詳細に説明する。
ポリアミドとは、主鎖に−CO−NH−(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。以下に制限されないが、例えば、(a)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、(b)ω−アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、(c)ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合物が挙げられる。ポリアミドとしては、1種で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
前記(a)のラクタムは、以下に制限されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタムやドデカラクタムなどが挙げられる。
一方、前記(b)のω−アミノカルボン酸として、以下に制限されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω−アミノ脂肪酸などが挙げられる。なお、前記ラクタム又はω−アミノカルボン酸として、それぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
続いて、前記(c)のジアミン(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2−メチルペンタンジアミンや2−エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p−フェニレンジアミンやm−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンなどが挙げられる。他方、前記(c)ののジカルボン酸(単量体)としては、以下に制限されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。上記した単量体としてのジアミン及びジカルボン酸は、それぞれ1種単独又は2種以上の併用により縮合させてもよい。
上記で列挙したポリアミドの中でも、ポリマー鎖中の炭素数/窒素数の比(C/Nの比)として、5を超えるものが、耐熱エージング性の観点より好ましい。かかる条件を具備する好ましいポリアミドとして、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I及びポリアミド9T、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選択された1種以上が挙げられる。なお、前記C/Nの比として、より好ましくは5を超えて15以下であり、さらに好ましくは5を超えて12以下である。
共重合物であるポリアミドとしては、以下に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合物、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合物、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2−メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合物などが挙げられる。
ポリアミドの融点は、JIS−K7121に準じて測定できる。測定装置としては、例えば、PERKIN−ELMER社製「Diamond−DSC」(商品名)などが挙げられる。
前記末端のアミノ基の濃度は、好ましくは10〜100μmol/gであり、より好ましくは15〜80μmol/gであり、さらに好ましくは30〜80μmol/gである。末端アミノ基の濃度が上記した範囲内の場合、機械的強度を有意に向上させることができる。
ここで、本明細書における末端アミノ基及び末端カルボキシル基の濃度の測定方法としては、1H−NMRにより測定される、各末端基に対応した特性シグナルの積分値によって求めることができる。
前記モノアミン化合物としては、以下に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン、並びにこれらの任意の混合物などが挙げられる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性や価格などの観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ジアミン化合物は、上述した例示をそのまま引用できる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記モノカルボン酸化合物としては、以下に制限されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸及びイソブチル酸などの脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸及びフェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸などが挙げられる。本実施の形態では、これらのカルボン酸化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ジカルボン酸化合物としては、以下に制限されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸及びスベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸及び4,4'−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から誘導される単位(ユニット)が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施の形態においては、(B)フェノール化合物は次の(i)、(ii)を満足するものである。
(i)ヒドロキシメチルフェノール骨格を含有する
(ii)1つのフェノールユニットに対し、少なくとも1つ以上のヒドロキシメチル基を含有する
本実施の形態のポリアミド樹脂組成物は、含有するフェノール化合物が、前記(i)、(ii)を満足することによって、耐熱エージング性等の耐熱安定性や加工性が向上する。
前記(i)、(ii)を満足するフェノールを含有する本実施の形態のポリアミド樹脂組成物は、さらに、引張強度、耐衝撃性にも優れる。
前記フェノール性水酸基の数の上限は、特に制限されるものではないが、耐衝撃性、流動性の点から5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
前記フェノールユニット一つ当たりのヒドロキシメチル基の数の上限は、特に制限されるものではないが、耐熱エージング性や熱滞留安定性、加工性の観点から4以下が好ましく、合成のしやすさ等の点から2以下がより好ましい。
ここで、融点は、例えばISO 3146のキャピラリーチューブ法によって測定できる。
本実施の形態においては、無機充填材を配合してもよい。かかる無機充填材としては、以下に制限されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、クレー及びアパタイトが挙げられる。これらの中でも、強度及び剛性を増大させる観点から、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、クレー、窒化珪素及びアパタイトが好ましい。また、より好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、クレー及び窒化珪素である。上記した無機充填材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ウォラストナイトのうち、優れた機械的特性をポリアミド樹脂組成物に付与できるという観点から、数平均繊維径が3〜30μmであって、且つ前記樹脂組成物において、重量平均繊維長が10〜500μmであり、前記アスペクト比が3〜100であるものがさらに好ましい。
前記タルク、マイカ、カオリン及び窒化珪素のうち、優れた機械的特性をポリアミド樹脂組成物に付与できるという観点から、数平均繊維径が0.1〜3μmであるものがさらに好ましい。
ここで、本明細書における数平均繊維径及び重量平均繊維長は、ポリアミド樹脂組成物を電気炉に入れて、含まれる有機物を焼却処理し、残渣分から、例えば100本以上の無機充填材を任意に選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、これらの無機充填材の繊維径を測定することにより数平均繊維径を測定するとともに、倍率1000倍でのSEM写真を用いて繊維長を計測することにより重量平均繊維長を求める。
ガラス繊維や炭素繊維は、上記の集束剤を、公知のガラス繊維や炭素繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーターなどの公知の方法を用いて、ガラス繊維や炭素繊維に付与して製造した繊維ストランドを乾燥することによって連続的に反応させて得られる。前記繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、さらに切断工程を得て、チョップドガラスストランドとして使用してもよい。かかる集束剤は、ガラス繊維又は炭素繊維100質量%に対し、固形分率として0.2〜3質量%相当を付与(添加)することが好ましく、より好ましくは0.3〜2質量%付与(添加)する。ガラス繊維や炭素繊維の集束を維持する観点から、集束剤の添加量が、ガラス繊維又は炭素繊維100質量%に対し、固形分率として0.2質量%以上であることが好ましい。一方、ポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、3質量%以下であることが好ましい。また、ストランドの乾燥は切断工程後に行ってもよく、又はストランドを乾燥した後に切断してもよい。
本実施の形態においては、銅塩、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物を配合してもよい。かかる銅塩、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、以下に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
銅塩としては、以下に制限されないが、例えば、ハロゲン化銅(ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅など)、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅及びステアリン酸銅、並びにエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤に銅の配位した銅錯塩が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記で列挙した銅塩の中でも、好ましくはヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅及び酢酸銅よりなる群から選択される1種以上であり、より好ましくはヨウ化銅及び/又は酢酸銅である。かかる好ましい銅塩を用いた場合、耐熱エージング性に優れ、且つ押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」ともいう)を抑制可能なポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
銅塩を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中の銅塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは0.01〜0.2質量%であり、より好ましくは0.02〜0.15質量%である。上記範囲内の場合、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出や金属腐食を抑制することができる。
また、耐熱エージング性を向上させる観点から、ポリアミド樹脂組成物全量に対し、銅元素の含有濃度として、好ましくは20〜1000ppmであり、より好ましくは100〜500ppmであり、さらに好ましくは150〜300ppmである。
アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、以下に制限されないが、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム及び塩化ナトリウム、並びにこれらの混合物が挙げられる。中でも、耐熱エージング性の向上及び金属腐食の抑制という観点から、好ましくはヨウ化カリウム及び臭化カリウム、並びにこれらの混合物であり、より好ましくはヨウ化カリウムである。
アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.2〜2質量%である。上記の範囲内の場合、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出や金属腐食を抑制することができる。
上記で説明してきた(D)銅塩、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、中でも、銅塩とアルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物が好適である。
上記のハロゲン/銅が2以上である場合、銅の析出及び金属腐食を抑制することができるため好適である。一方、上記のハロゲン/銅が50以下である場合、耐熱性、靭性などの機械的な物性を殆ど損なうことなく、成形機のスクリュー等の腐食を防止できるため、好適である。
上記した成分の他に、本実施の形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の成分を添加してもよい。
以下に制限されないが、例えば、フェノール系熱安定剤(前記(B)のフェノール化合物を除く)、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤、紫外線吸収剤、光劣化防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、難燃剤、着色剤、染色剤や顔料などを添加してもよいし、他の熱可塑性樹脂を混合してもよい。ここで、上記した他の成分はそれぞれ性質が大きく異なるため、各成分についての、本実施の形態の効果をほとんど損なわない好適な含有率は様々である。そして、当業者であれば、上記した他の成分ごとの好適な含有率は容易に設定可能である。
本実施の形態において、ポリアミド樹脂組成物を製造する方法は、以下に制限されないが、単軸又は多軸の押出機によってポリアミド樹脂を溶融させた状態で混練する方法を用いることができる。無機充填材を用いる場合、上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口からポリアミド樹脂、安定剤、酸化鉄(II)を含む化合物を供給して溶融させた後、下流側供給口から無機充填材を供給して溶融混練する方法を用いることが好ましい。また、ガラス繊維や炭素繊維などのロービングを用いる場合も、公知の方法で複合することができる。
本実施の形態のポリアミド樹脂組成物は、特に制限されることなく、例えば、射出成形、ブロー成形、シート成形等による各種部品の成形体として利用できる。
これらの各種部品は、例えば、自動車用、機械工業用、電気・電子用、産業資材用、工業材料用、日用・家庭品用として好適に使用できる。
本実施の形態のポリアミド樹脂組成物は耐熱エージング性、熱滞留安定性や加工性に優れるため、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディ、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプ等の自動車エンジンルームの部品等に好適に使用できる。
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法、評価方法、原料は以下のとおりである。
<ポリアミド樹脂の融点>
JIS−K7121に準じ、PERKIN−ELMER社製「Diamond−DSC」(商品名)を用いて測定した。
ISO 3146に準じ、キャピラリーチューブ法により測定した。
<引張強度>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(PS−40E:日精樹脂株式会社製)を用いて、ISO 3167に準拠し、多目的試験片A型の成形片を成形した。その際、射出及び保圧の時間25秒、冷却時間15秒、金型温度80℃(上記のポリアミド樹脂のうち、PA66/6Tでは120℃)、溶融樹脂温度290℃(上記のポリアミド樹脂のうち、PA66/6Tでは320℃)に設定した。得られた多目的試験片(A型)を用いて、ISO 527に準拠しつつ引張速度5mm/分で引張試験を行い、引張強度を測定した。引張強度が高い程、機械的強度に優れることを示す。
前記多目的試験片(A型)を、熱風循環式オーブン内で、200℃で所定時間(250時間、1000時間)熱老化させた。23℃で24時間以上冷却した後、ISO 527に準拠しつつ引張速度5mm/分で引張試験を行い、上記の各引張強度を測定した。また、熱老化前の引張強度に対する強度保持率を算出した。熱老化後の引張強度が高い程、特に耐熱エージング性に優れることを示す。
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを、射出成形機[IS−100GN:東芝機械株式会社製]を用いて、射出+保圧時間10秒、冷却時間15秒、金型温度を80℃、溶融樹脂温度320℃に設定し、射出速度を100mm/s、射出圧力を100MPaにて、巾10mm、厚さ1.0mmのスパイラルフロー金型にて成形し、通常成形時のスパイラルフロー長xを測定した。この時の溶融樹脂の滞留時間は約4分であった。
続いて、冷却時間を75秒に変更して成形し、熱滞留時のスパイラルフロー長yを測定した。この時の溶融樹脂の滞留時間は約10分であった。
これらの評価結果をもとに、熱滞留安定性の指標として、流動性変動率を以下のように算出した。流動性変動率がゼロに近い程、熱滞留安定性に優れることを示す。ただし、マイナスになる場合は、ゲル化等が進行している可能性があるため、プラスであることが好ましい。
流動性変動率(%)=(y−x)/x×100
スクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、温度300℃で外径15mm、肉厚0.8mmのパリソンを形成し、外径50mm、長さ150mmの円筒容器を成形した。このときのパリソンの状態と、成形品の外観により、ブロー成形性を以下の基準に従い目視で評価した。
+++:パリソンの状態が良好で、成形品の外観も良好
++:パリソンの状態は良好であるが、成形品には異物があり外観が不良
+:ドローダウンが激しく、成形できない
スクリュー径30mmの単軸押出機を用いて、幅400mmのシート状に押出した。シートの厚みを測定したところ約2.5mmであった。このシート押出時の、ダイとダイから約15cm水平方向に離れた位置にある第一ローラーとの間での溶融シート状樹脂のたれ具合(ドローダウン性)とダイラインの生成状況を以下の基準に従い目視で評価した。
+++:シート全体が均等に水平状態を保ったままでローラーまで到達し、ダイラインの発生なし
++:シート全体が均等に水平状態を保ったままでローラーまで到達するがダイラインが発生
+:ドローダウンが激しく、シートとしてはまともに成形できない。
(1)ポリアミド樹脂
1−1.ポリアミド66(以下、「PA66」と略記する)
商品名:レオナ(登録商標)1300(旭化成ケミカルズ社製、融点:260℃)
1−2.ポリアミド66/6T(以下、「PA66/6T」と略記する)
商品名:アーレン(登録商標)C2000(三井化学社製、融点:310℃)
2−1.2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジヒドロキシメチルフェニル)プロパン(以下、「MP−1」と略記する)
商品名:AVライトTM−BIP−A(旭有機材工業社製、融点:130℃)
フェノール性水酸基は分子内に2個、1つのフェノールユニット当たりのヒドロキシメチル基は2個である。
商品名:AVライトDM−BIOC−F(旭有機材工業社製、融点:160℃)
フェノール性水酸基は分子内に2個、1つのフェノールユニット当たりのヒドロキシメチル基は1個である。
商品名:AVライトDM−BIPC−F(旭有機材工業社製、融点:150℃)
フェノール性水酸基は分子内に2個、1つのフェノールユニット当たりのヒドロキシメチル基は1個である。
商品名:AVライト26DMPC(旭有機材工業社製)
フェノール性水酸基は分子内に1個、1つのフェノールユニット当たりのヒドロキシメチル基は2個である。
商品名:AVライト3PC(旭有機材工業社製)
フェノール性水酸基は分子内に3個、1つのフェノールユニット当たりのヒドロキシメチル基は0個である。
商品名:AVライトPAPS−PN4(旭有機材工業社製、軟化点:111℃)
(3)ヨウ化銅(以下、「CuI」と略記する)(和光純薬工業社製)
(4)ヨウ化カリウム(以下、「KI」と略記する)(和光純薬工業社製)
(5)ガラス繊維(以下、「GF」と略記する)
商品名:ECS 03T−275H(日本電気硝子社製)
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ9番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機[ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを290℃、スクリュー回転数250rpm、及び吐出量25kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表1の上部に記載された割合となるように、上流側供給口より上記のポリアミド樹脂(PA)、フェノール化合物、CuI及びKIをそれぞれ供給し、下流側供給口よりGFを供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物のペレットの水分が800ppm以下になるように乾燥した後、溶融樹脂温度290℃、金型温度80℃で成形し、引張強度、熱老化後(1000時間後)の引張強度、流動性変動率を評価した。これらの評価(計数)結果などを下記表1に記載した。
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、且つ9番目のバレルに下流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機[ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを330℃、スクリュー回転数250rpm、及び吐出量25kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表2の上部に記載された割合となるように、上流側供給口より上記のポリアミド樹脂(PA)、フェノール化合物、CuI及びKIをそれぞれ供給し、下流側供給口よりGFを供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物のペレットの水分が800ppm以下になるように乾燥した後、溶融樹脂温度320℃、金型温度120℃で成形し、引張強度、熱老化後(1000時間後)の引張強度、流動性変動率を評価した。これらの評価(計数)結果などを下記表2に記載した。
押出機の上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有する、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=48(バレル数:12)の二軸押出機[ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用いた。前記二軸押出機において、上流側供給口からダイまでを280℃、スクリュー回転数250rpm、及び吐出量20kg/時間に設定した。かかる条件下で、下記表3の上部に記載された割合となるように、上流側供給口より上記のポリアミド樹脂(PA)、フェノール化合物をそれぞれ供給した。そして、これらを溶融混練することで樹脂組成物のペレットを製造した。得られた樹脂組成物のペレットの水分が800ppm以下になるように乾燥した後、溶融樹脂温度290℃、金型温度80℃で成形し、引張強度、熱老化後(250時間後)の引張強度、ブロー成形性、シート成形性を評価した。これらの評価(計数)結果などを下記表3に記載した。
以上のことから、本実施の形態を採ることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度、耐熱安定性及び加工性を顕著に向上させることができ、自動車部品や各種電子部品などに好適に適用可能な熱安定性のポリアミド樹脂組成物が得られることを見出した。
Claims (10)
- (A)ジアミン及びジカルボン酸が縮合したポリアミド樹脂と、
(B)ヒドロキシメチルフェノール骨格を含有するフェノール化合物であって、1つの
フェノールユニットに対し、少なくとも1つ以上のヒドロキシメチル基を含有するフェノ
ール化合物と、
(D)銅塩と、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、光により酸を発生する化合物を含むもの、及び、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、及びハロゲン化ブチルゴムの少なくともいずれかの架橋ゴムを含むものを除く。)。 - 前記(B)のフェノール化合物は、フェノール性水酸基を1分子内に2個以上含有し、
さらに前記ヒドロキシメチル基を1つのフェノールユニットに対し2個以上含有する、請
求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。 - 前記(B)のフェノール化合物は、融点が80℃以上250℃以下である、請求項1又
は2に記載のポリアミド樹脂組成物。 - 前記(A)のポリアミド樹脂を40質量%以上99.9質量%以下、
前記(B)のフェノール化合物を0.01質量%以上10質量%以下、
含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。 - さらに(C)無機充填材を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド
樹脂組成物。 - 前記(C)の無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ウォラストナイト、カオ
リン、マイカ、炭酸カルシウム、クレー及び窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上で
ある、請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。 - 前記(C)の無機充填材を0.1質量%以上60質量%以下含有する、請求項5又は6
に記載のポリアミド樹脂組成物。 - 前記(D)の銅塩と、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物
を0.01質量%以上1質量%以下含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリ
アミド樹脂組成物。 - 請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
- 前記成形品が自動車エンジンルームの部品である請求項9に記載の成形品。
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