医療分野において輸液や輸血等を行う液体流路では、シリンジや輸液バッグ等を接続および切り離し可能とするために、ニードルレスコネクターが用いられる場合がある。かかるニードルレスコネクターの一種として、ハウジングの長さ方向の一方側と他方側に薬液流路の入口と出口を設けると共に、薬液流路を連通状態と遮断状態に切り換える弁体を薬液流路の入口に配置した構造のものが知られている。このようなニードルレスコネクターでは、血管に挿入されたカテーテルを薬液流路の出口に接続した状態で、薬液流路の入口から雄ルアーを挿し入れることにより薬液流路が連通状態とされて、薬液を雄ルアーからカテーテルへ注入することができるようになっている。
具体的には、特表2008−540045号公報(特許文献1)に記載されている構造のニードルレスコネクターがある。この特許文献1に記載のニードルレスコネクターでは、薬液流路の入口に対してロッド状の可動弁体が配設されており、雄ルアーで可動弁体を内方に押し込むことで薬液流路が連通状態とされるようになっている。
ところが、かかる特許文献1に記載のニードルレスコネクターでは、可動弁体を外方に向けて付勢して薬液流路を遮断状態に保つためのゴムばねやコイルスプリングを、小型のハウジングの内部に組み付けなければならず、構造が複雑で製造も難しいという問題があった。しかも、可動弁体の外面やそれが収容されるハウジング内面に成形バリや傷等があると、可動弁体が引っ掛かって作動し難くなり、薬液流路の連通状態と遮断状態への切り換えが不安定になるおそれもあった。
加えて、上述の従来構造のニードルレスコネクターでは、雄ルアーを抜き取る際に、薬液流路に接続されたカテーテルへの血管からの血液の入り込み(逆流)を防止することが難しいという問題もあった。薬液流路への血液の逆流により血液凝固が生じるおそれがあることから、雄ルアーを抜き取る際の血液の逆流が防止されるニードルレスコネクターが求められているのである。
なお、特表2002−514475号公報(特許文献2)のFIG.30〜31には、薬液流路の入口にスリットを有する弾性弁体を設けると共に、薬液流路内に拡縮変形可能な中空弾性体を収容配置したニードルレスコネクターが開示されている。このニードルレスコネクターでは、弾性弁体のスリットを通じて挿し入れられる雄ルアーで中空弾性体を縮小変形させ、雄ルアーの抜き取りに伴って中空弾性体の縮小変形を復元解消させるようになっている。そして、かかる中空弾性体の復元拡大により、雄ルアーの抜き取り時における血液の逆流防止が図られている。
しかしながら、特許文献2のFIG.30〜31に記載のニードルレスコネクターでは、開口部を薬液流路の出口側に向けて中空弾性体が組み付けられていることから、入口側から雄ルアーが中空弾性体に押し付けられると、中空弾性体が全周に亘って略均等に膨らむこととなり、中空弾性体が薬液流路の内周面に対して全周に亘って密着して薬液流路が遮断されるおそれがあり、薬液流路を安定して確保し難いという問題があった。
しかも、かかる中空弾性体は、薬液流路の出口側に向けた開口部をハウジング内に固定して組み付ける必要があり、その組み付けが極めて難しく、出口側の薬液流路も中空弾性体を避けて屈曲した複雑な形状で形成しなければならなくなって、製造が一層困難になる。更に、中空弾性体の内部を外部空間に連通する通孔も、薬液流路を避けつつ出口側に向かって延びるように形成しなければならないことから、これら通孔や薬液流路のスペース確保と形成が一層難しいという問題もあった。
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、ハウジングの長さ方向の一方側と他方側に薬液流路の入口と出口が設けられ、且つ、血液等の逆流が防止され得る、新規な構造のニードルレスコネクターを提供することにある。
かかる課題を解決するために為された本発明の第1の態様は、ハウジングの長さ方向の一方側と他方側に薬液流路の入口と出口が設けられているニードルレスコネクターにおいて、前記ハウジングの長さ方向の中間部分に弾性体収容部が設けられて、該ハウジングの長さ方向と直交する横方向に開口する袋状弾性体が該弾性体収容部に配置されており、該袋状弾性体の開口部を固定的に支持する部分が該ハウジングにおける該弾性体収容部の横方向に設けられていると共に、該弾性体収容部における該袋状弾性体の外周側に前記薬液流路が形成されており、前記入口から挿し入れられる雄ルアーで該袋状弾性体が押されて弾性変形されることで該薬液流路の容積が増大されると共に、該雄ルアーが抜き取られて該袋状弾性体の弾性変形が復元解消されることで該薬液流路の増大した容積が縮小されるようになっているニードルレスコネクターを特徴とする。
本態様に係るニードルレスコネクターでは、入口から雄ルアーが差し入れられた連通状態において、袋状弾性体が雄ルアーで押されて潰されるように弾性変形した状態に維持される。かかる連通状態から雄ルアーが抜き取られる際には、袋状弾性体が弾性的に復元して膨らむことから、袋状弾性体の外周側に形成された薬液流路の容積が減少する。これにより、雄ルアーを抜き取るに際してのニードルレスコネクター内の薬液流路の負圧発生が防止されて、血液の逆流が効果的に回避され得る。
しかも、本態様のニードルレスコネクターでは、ハウジングに対して袋状弾性体が横方向に開口した状態で組み付けられており、雄ルアーによって袋状弾性体が側方から押し潰されるように変形する。それ故、袋状弾性体が均等に膨らむことがなく、袋状弾性体の変形状態下でも袋状弾性体の外周側に形成された薬液流路の連通状態が安定して維持され得る。
また、本態様のニードルレスコネクターでは、袋状弾性体がハウジングの横方向に開口していることから、出口側の薬液流路も袋状弾性体の開口部分を避けて容易に形成することが可能となる。
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記袋状弾性体の袋状内部を外部空間に連通する開放通路が該袋状弾性体の前記開口部から前記ハウジングの横方向に延びて外周面に開口しているものである。
本態様では、袋状弾性体の袋状内部の空気ばねが開放通路で解消されて、雄ルアーにより袋状弾性体が一層小さく押し潰されることから、雄ルアーが抜き取られる際の薬液流路の容積減少量を多くして、血液の逆流を一層効果的に防止することが可能になる。
本発明の第3の態様は、前記第2の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性体収容部が前記ハウジングの横方向に開口して形成されており、該弾性体収容部に対して横方向から組み付けられた前記袋状弾性体の開口周縁部が蓋体によって固定されていると共に、該蓋体を貫通して前記開放通路が形成されているものである。
本態様では、ハウジングの横方向から袋状弾性体を嵌め入れて組み付けることが出来、入口側および出口側の薬液流路を避けて袋状弾性体を容易にハウジングに組み付けることが可能になる。また、蓋体に開放通路が形成されることから、ハウジングに形成された薬液流路を避けて開放通路を容易に形成することもできる。
本発明の第4の態様は、前記第1〜3の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記ハウジングの前記弾性体収容部において、前記薬液流路の入口側開口部が形成された入口側壁面と出口側開口部が形成された出口側壁面とが互いに対向位置しており、それら入口側壁面と出口側壁面とに対して前記袋状弾性体が弾性的に押し付けられると共に、該入口側開口部が該袋状弾性体で覆蓋されているものである。
本態様では、雄ルアーを抜き取った状態において、ハウジング内に形成された薬液流路が、袋状弾性体によって遮断状態に保持され得る。また、袋状弾性体は、雄ルアーを入口から差し入れるだけで、特別な切換操作を必要とすることなく、遮断状態から連通状態に切り換えられる。それ故、薬液流路の遮断状態と連通状態を、一層確実に且つ容易に切り換えることが出来て、作動の信頼性が向上される。
しかも、本態様では、弾性体収容部の入口側壁面と出口側壁面とに当接状態で袋状弾性体が組み付けられることから、袋状弾性体の内部容積ひいては雄ルアーの抜き差しに伴う薬液流路の容積変化量も、優れたスペース効率で大きく確保することが可能になり、雄ルアーの抜き取りに際しての血液の逆流防止効果の更なる向上も図られ得る。
本発明の第5の態様は、前記第1〜4の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記袋状弾性体が、U字状に湾曲した周壁部と、前記薬液流路の前記入口側と前記出口側とにそれぞれ位置する一対の平板状壁部とによって形成されているものである。
本態様では、袋状弾性体において、雄ルアーの押し付けによって入口と出口の対向方向で押し潰すように弾性変形させて効率的に内部容積を変化させることが可能となる。なお、本態様の袋状弾性体では、弾性体収容部における薬液流路の入口側と出口側を、一対の平板状壁部によって内部からシールすることにより、雄ルアーが抜き取られた状態で薬液流路が一層安定して遮断状態に維持されるようにしても良い。
本発明の第6の態様は、前記第1〜5の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記ハウジングの前記弾性体収容部における周壁内面には、前記ハウジングの長さ方向に延びる連通凹溝が形成されているものである。
本態様では、雄ルアーが挿し入れられることにより、たとえ袋状弾性体が外周側に膨らんで弾性体収容部の周壁面に押し付けられても、連通凹溝によって薬液流路の連通状態が安定して維持され得る。
本発明の第7の態様は、前記6の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記ハウジングの前記弾性体収容部における前記出口側壁面には、前記連通凹溝を前記出口側開口部につなぐ接続凹溝が形成されているものである。
本態様では、雄ルアーが挿し入れられることにより、たとえ袋状弾性体が、弾性体収容部における薬液流路の出口側の壁面に押し付けられても、接続凹溝によって薬液流路の連通状態が安定して維持され得る。特に、弾性体収容部の周壁面に形成された前述の連通凹溝と組み合わせて接続凹溝を採用することで、雄ルアーが挿し入れられた状態において、袋状弾性体の外周側に薬液流路を一層安定して形成することが可能となる。
本発明の第8の態様は、前記1〜7の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記ハウジングにおける前記薬液流路の入口部分には弁体が装着されていると共に、該弁体と前記袋状弾性体との間に押し子が配置されており、該弁体から挿し入れられる前記雄ルアーが該押し子を介して該袋状弾性体を押すようになっているものである。
本態様では、袋状弾性体が押し子によって押されることから、例えば雄ルアーが短かったり、雄ルアーの先端が細かったり等した場合でも、押し子により袋状弾性体を安定して押して弾性変形させることができる。
また、本態様に係るニードルレスコネクターでは、ハウジングの長さ方向の一方側と他方側に薬液流路の入口と出口が設けられていると共に、スリットを有する弾性弁体が該入口に装着されており、該薬液流路の該入口に雄ルアーが挿し入れられることにより該弾性弁体の該スリットが開かれて該薬液流路が遮断状態から連通状態に切り換えられるニードルレスコネクターの構成を採用することもできる。
本発明に従う構造とされたニードルレスコネクターにおいては、雄ルアーの挿し入れにより雄ルアーで押し潰されて弾性的に縮小変形した袋状弾性体が、雄ルアーが抜き取られる際に弾性的に復元して膨出する。これにより、コネクター内の薬液流路に陽圧が発生して、血液等の逆流防止効果が発揮されるのである。
しかも、ハウジングに対して袋状弾性体が横方向に開口して組み付けられていることから、ハウジングにおける薬液流路の入口および出口を、袋状弾性体の開口部分を避けて容易に形成することができる。また、雄ルアーの差し入れ状態下でも、雄ルアーで押された袋状弾性体が弾性体収容部の内周面に対して全周に亘って押し付けられることが防止され、袋状弾性体の外周側に形成された薬液流路の連通状態を安定して維持することが可能となる。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1〜4には、本発明の一実施形態としてのニードルレスコネクター10が示されている。このニードルレスコネクター10には、ハウジング12において長さ方向となる図4の上下方向に延びる薬液流路14が形成されている。そして、ハウジング12の長さ方向の一方の側に薬液流路14の入口16が設けられていると共に、他方の側に薬液流路14の出口18が設けられている。なお、以下の説明中、上下方向は、原則として図4中の上下方向を言う。
より詳細には、ハウジング12は分割構造とされており、図4の下方となる下部ハウジング20と、図4の上方となる上部ハウジング22から構成されている。なお、これら上下のハウジング20,22は、何れも、例えば硬質の合成樹脂材料の成形品とされる。
下部ハウジング20は、図5,6にも単体構造が示されているように、上方に向かって開口する中央凹所24を備えている。また、中央凹所24の周壁部26には、周上の一カ所において内外に貫通する開口窓28が形成されている。この開口窓28は、中央凹所24の周方向で略半周の長さで形成されており、開口窓28の外側の開口周縁部には、開口窓28の全周に亘って延びる段差29を有する嵌合面30が設けられている。また、開口窓28の周方向両端近くには、それぞれ、嵌合面30から突出した一対の係止突起32,32が形成されている。更に、中央凹所24の開口側の段差29の端部には、後述する弾性体収容部54と袋状弾性体70が嵌合する際に両者を係止する係止凸起33aが、所定の高さで段差29の全周に亘って設けられている。また、後述する袋状弾性体70の周縁部76の裏面(図4における右方向)には、係止凸起33aに対応する位置と大きさで係止凹溝33bが設けられている。
さらに、下部ハウジング20には、中央凹所24の底壁部34から下方に向かって突出する下側筒状部36が形成されている。この下側筒状部36の中心孔38が、上端部において中央凹所24の底面40の中央に開口している一方、下端部において外部に開口している。また、中央凹所24の底面40は後述する弾性体収容部54の底面40でもあり、更に底面40における中心孔38は薬液が弾性体収容部54(中央凹所24)から排出されるための出口側開口部となっており、更にまたこの底面40は出口側開口部が形成された出口側壁面ともなっている。なお、本実施形態では、下側筒状部36の周囲を囲む外周筒壁42が設けられており、例えばこの外周筒壁42の内周面にねじ溝を形成してロック型のルアー構造を構成することも可能である。
また、下部ハウジング20における中央凹所24の周壁部26、これは後述する弾性体収容部54の周壁部26でもあるが、その内面44には上下方向の全長に亘って連続して延びる連通凹溝46が形成されている。更にまた、中央凹所24の底壁部34の内面(底面40)、これは後述する弾性体収容部54の底面40でもあるが、その底面40には中央に設けられた中心孔38の開口部から径方向外方に向かって延びる接続凹溝50が形成されている。そして、連通凹溝46の下端が、接続凹溝50の外周端に接続されて相互に連通されている。これら連通凹溝46および接続凹溝50は、中央凹所24の周方向に複数形成されていても良いが、本実施形態では、開口窓28と反対側に位置して各一つ形成されている。
そして、このような構造とされた下部ハウジング20に対して、上方から上部ハウジング22が重ね合わされている。かかる上部ハウジング22は、下部ハウジング20の上面の略全体を覆うようにして、上部ハウジング22に対して固着されている。
上部ハウジング22の下面の略中央部分には、嵌合突部52が設けられており、この嵌合突部52が下部ハウジング20の中央凹所24の開口部に対して嵌まり合うことで、中央凹所24の開口部を覆蓋する状態で上部ハウジング22が下部ハウジング20に組み付けられている。そして、下部ハウジング20と上部ハウジング22が組み合わされることでハウジング12が構成されている。また、かかるハウジング12には、下部ハウジング20の中央凹所24が上部ハウジング22で覆蓋されることにより、長さ方向の中間部分に位置する弾性体収容部54が形成されている。なお、この弾性体収容部54は、開口窓28を通じて、ハウジング20の外周面において横方向に向かって開口している。
また、上部ハウジング22には、嵌合突部52の略中央部分において上方に向かって突出する上側筒状部56が形成されている。この上側筒状部56の中心孔58が、下端部において弾性体収容部54の天井面60の中央に開口している一方、上端部において外部に開口している。また、弾性体収容部54の天井面60における中心孔58は薬液が弾性体収容部54に流入するための入口側開口部となっており、更にこの天井面60は入口側開口部が形成された入口側壁面ともなっている。更にまた、この入口側壁面(即ち、天井面60)は、出口側壁面(即ち、底面40)と互いに対向する構造になっている。なお、本実施形態では、上側筒状部56の外周面にねじ溝が形成されており、ロック型の雄ルアーが装着可能とされている。
さらに、上部ハウジング22の上側筒状部56は、下部ハウジング20の下側筒状部36と略同一中心軸上で上下方向に延びるように位置している。そして、上部ハウジング22の上側筒状部56の上端の開口部分が、薬液流路14の入口16とされている一方、下部ハウジング20の下側筒状部36の下端の開口部分が、薬液流路14の出口18とされている。
また、上部ハウジング22の上側筒状部56の上端の開口部分には、弾性弁体62が装着されている。この弾性弁体62は、ゴムやシリコーン等の弾性材料で形成された略円板形状を有しており、中央部分には径方向に延びるスリット64が厚さ方向に貫通形成されている。そして、かかる弾性弁体62の外周縁部が、上側筒状部56の上端の開口部分の内周面に固着されており、スリット64が密着状態に弾性保持されることにより、薬液流路14の入口16を平常時において遮断状態に保つディスク弁とされている。
更にまた、上部ハウジング22の上側筒状部56には、その中心孔58に対してブロック状の押し子66が収容されている。この押し子66は、上側筒状部56の中心孔58の内径よりも僅かに小さい外径寸法の略円形ブロック形状を有しており、上側筒状部56の中心孔58内で、弾性弁体62よりも下方に位置して、弾性弁体62の下面近くから、中心孔58の下端の開口部近くまで至る長さを有している。そして、上側筒状部56内で、押し子66が長さ方向に移動可能とされており、下方への移動により、押し子66の下端部が弾性体収容部54内に突出するようになっている。
また、図7にも示されているように、押し子66の表面には流路溝68が形成されている。かかる流路溝68は、押し子66の上面の略中央から外周縁部まで、押し子66の上面に開口して外周面に向かって延びており、更に押し子66の外周面に開口して外周面を下方に延びて軸方向中間部分まで連続して至っている。また、流路溝68の溝幅は軸方向下方に行くに従って小さくされており、流路溝68は正面視がV字状となるように形成されている。更にまた、流路溝68の底面は押し子66の軸に対して傾斜しており、流路溝68の軸直角方向の深さが下方に行くほど浅くされている。なお、本実施形態では、流路溝68は同形状で2本形成されており、一方の流路溝68に対して、周方向対称位置にもう一方の流路溝68が形成されている。そして、押し子66が下方に移動して弾性体収容部54内に突出すると、流路溝68の下端部が弾性体収容部54内に露出して、流路溝68が弾性体収容部54に対して連通状態とされるようになっている。
一方、ハウジング12に形成された弾性体収容部54には、袋状弾性体70が収容状態で組み付けられている。この袋状弾性体70は、図8〜10にも示されているように、ゴムやシリコーン等の弾性材料で形成されており、一つの開口部を有する袋構造とされている。特に本実施形態では、ハウジング12の長さ方向と直交する横方向に開口しており、弾性体収容部54の内周面形状に略対応した外周面形状をもって、全体に略一定の厚さで形成されている。より具体的には、U字状に湾曲した周壁部72と、平板形状とされた上下一対の平板状壁部74,74とによって袋構造が形成されている。また、側方への開口部は、弾性体収容部54の開口窓28に対応した形状を有しており、開口部分にはフランジ状の周縁部76が一体形成されている。
そして、この袋状弾性体70は、ハウジング12の横方向から開口窓28を通じて弾性体収容部54に嵌め入れられて収容状態で組み付けられている。この際、係止凸起及び凹溝33a,bが嵌合し、袋状弾性体70が弾性体収容部54内の所定位置に収まるようにされており、係止凸起及び凹溝33a,bは、袋状弾性体70が弾性体収容部54の内部へ入り込み過ぎないようにするストッパ機能を有している。また、ハウジング12の開口窓28には、蓋体78が重ね合わされている。この蓋体78は、湾曲板の裏面(図4中の右方向)中央に中空ブロック状の係止片79を設けた形状とされており、ハウジング12の開口窓28を全体に亘って覆うと共に、係止片79が袋状弾性体70の内部に入り込むようになっている。更に、係止片79は袋状弾性体70側が開口しており、係止片79の内部と後述する袋状弾性体70の袋状内部である内部空所82は連通されている。蓋体78をハウジング12の開口窓28に重ね合わせる際には、係止片79が袋状弾性体70の開口部に入り込むと共に、本実施形態では、蓋体78の周方向両端近くに一対の係止孔80,80が形成されており、ハウジング12に突設された係止突起32,32が、これら係止孔80,80に係止されることによって蓋体78がハウジング12に対して固着されている。
また、ハウジング12に組み付けられた袋状弾性体70は、その開口部分に形成された周縁部76が、ハウジング12の開口窓28の周縁部分に形成された嵌合面30に対して外周面から重ね合わされて、蓋体78で押し付けられている。これにより、袋状弾性体70の開口部分が、ハウジング12の開口窓28の周縁部分に対して流体密に固定されていると共に、蓋体78で覆蓋されている。
これにより、ハウジング12の弾性体収容部54には、袋状弾性体70の外周側において薬液流路14が形成されている。この薬液流路14は、弾性体収容部54の中だけでなく、弾性体収容部54に連通された上側筒状部56の中心孔58と下側筒状部36の中心孔38とを含んで構成されている。
また、ハウジング12の弾性体収容部54には、袋状弾性体70の袋状内部において、薬液流路14から遮断された内部空所82が形成されている。なお、蓋体78の中央部分には内外に貫通する開放通路84が形成されており、この開放通路84を通じて、袋状弾性体70の内部空所82が外部空間に連通されている。
特に本実施形態の袋状弾性体70は、その外周面を弾性体収容部54の内周面に対して略全面に亘って密着された状態で組み付けられている。そして、袋状弾性体70の内部空所82に大気圧が及ぼされた状態下、袋状弾性体70の弾性に基づいて、袋状弾性体70の上下の平板状壁部74,74が、弾性体収容部54の天井面60(即ち、入口側壁面)および底面40(即ち、出口側壁面)にそれぞれ押し付けられている。
これにより、弾性体収容部54の天井面60(入口側壁面)に設けられた上側筒状部56の中心孔58(入口側開口部)の開口が、袋状弾性体70の上壁部である平板状壁部74で覆蓋されて、ハウジング12の内部でも薬液流路14が遮断状態に保持されるようになっている。なお、弾性体収容部54の周壁内面(即ち、中央凹所24の周壁内面)44や底面40では、袋状弾性体70が押し付けられた状態でも、連通凹溝46および接続凹溝50によって、薬液流路14の連通状態が維持されるようになっている。
上述の如き構造とされたニードルレスコネクター10は、前述のように薬液流路14の基端開口部に対して血管内留置カテーテル等が接続されて使用される。そして、かかる使用状態下、図11に示されているように、上方から、シリンジ92等の雄ルアー94がハウジング12の上側筒状部56の入口16から挿し入れられる。これにより、雄ルアー94が弾性弁体62のスリット64を拡開して挿通されると共に、雄ルアー94の先端面が、押し子66の上端面に押し当てられて、押し子66を下方に移動させる。
これにより、雄ルアー94の押込力が、押し子66を介して、袋状弾性体70に及ぼされて、押し子66の下面が、袋状弾性体70の平板上壁部74の略中央部分に押し付けられる。その結果、袋状弾性体70が、ハウジング12の弾性体収容部54内で上下に押し潰されるように弾性変形する。要するに、雄ルアー94をハウジング12の上側筒状部56の入口16へ押し込むことにより、上側筒状部56の中心孔58が、弾性体収容部54内に連通されて、薬液流路14が、入口16から出口18に至る全長に亘って連通状態とされる。その結果、シリンジ92の内部が、薬液流路14を通じて、血管内留置カテーテル等に対して連通状態に維持され、目的の薬液等を血管内へ注入することが可能となる。
併せて、雄ルアー94の挿入に伴う袋状弾性体70の弾性変形により、袋状弾性体70は、その内部容積が減少する一方、袋状弾性体70の外周側の薬液流路14は、その容積が増大することとなる。それ故、雄ルアー94を抜き取ると、袋状弾性体70が、それ自体の弾性に基づいて、図4に示されている如き原形に復元することにより、押し潰されて縮小変形されていた袋状弾性体70の内部容積が増大する。これに伴い、かかる袋状弾性体70の内部容積の増大分に相当する量だけ、袋状弾性体70の外周側に形成された薬液流路14の容積が減少する。その結果、薬液流路14に陽圧(正圧)が発生することとなり、血液等の逆流防止効果が発揮されるのである。
特に上述の如き構造のニードルレスコネクター10では、側方に開口する袋状弾性体70を採用したことで、周壁部の変形特性が均一でなく、上下の押し付け力による袋状弾性体70の弾性変形が、全周囲に亘って均一に膨らむことなく偏った周上の変形が生ぜしめられる。具体的には、雄ルアー94接続時、袋状弾性体70は中央凹所24の底面40に重ね合わされた下壁部分よりも押し子66が押し当てられる上壁部分の方が大きく変形すると共に、その周壁部分においても、図9,10中の左方の開口縁部や右方の底部に比して、それら開口部と底部との中間部分の両側壁部分が大きく変形する。それ故、袋状弾性体70の変形状態において、袋状弾性体70の外周側における薬液流路14を連通状態に維持し易い。特に本実施形態では、弾性体収容部54の周壁内面44に連通凹溝46が形成されていることから、かかる薬液流路14の連通状態が一層安定して維持され得る。しかも、側方に開口する袋状弾性体70の開口周縁部が、ハウジング12によって固定的に変形不能に支持されていることから、袋状弾性体70の弾性変形が一層不均一となって、薬液流路14の連通状態への維持が一層容易となる。
また、袋状弾性体70は、ハウジング12の弾性体収容部54に対して、横方向から組み付けることが出来るから、上下方向に延びる薬液流路14への影響を避けて、袋状弾性体70の組み付けを容易に行うことが出来る。更にまた、袋状弾性体70の外部空間への開放通路84も、上下方向に延びる薬液流路14を避けて、ハウジング12の横方に開口する態様で容易に形成することが可能となる。その結果、薬液流路14を含む全体の構造を簡略化することが出来ると共に、製造も容易とすることが可能になる。
更にまた、本実施形態のニードルレスコネクター10では、押し子66を介して、雄ルアー94の押し付け力を袋状弾性体70に作用させることが出来るから、雄ルアー94の形状や大きさなどに拘わらず、袋状弾性体70に対する当接面の形状や大きさを一定とすることができる。これにより、袋状弾性体70を安定して押し潰して弾性変形させることが可能になり、薬液流路14が安定して形成されると共に、目的とする逆流防止効果もより安定して得ることが可能になる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施可能である。
例えば、前記実施形態においては、袋状弾性体70に形成される内部空所82は開放通路84により外部と連通されていたが、開放通路84を設けることなく内部空所82を密閉空間としても良い。それにより、薬液等の注入後、シリンジ等92を抜き取る際に、内部空所82の空気ばねの作用により、袋状弾性体70の復元力が一層大きく確保され得る。
また、前記実施形態では、袋状弾性体70は弾性体収容部54に密着するように組み付けられていたが、その必要はなく、例えば、袋状弾性体70の高さ、幅、奥行き等を弾性体収容部54に比べ、所定値だけ小さくする等しても良い。それにより、袋状弾性体70の形状は弾性体収容部54と異なる外形状としてもよい。更に前記実施形態において、ニードルレスコネクター10へのシリンジ92等の挿入前は、薬液流路14は上部ハウジング22と袋状弾性体70が密着する形で閉じられていたが、その必要はなく、例えば袋状弾性体70の形状を弾性体収容部54と異ならせるに伴い、上部ハウジング22と袋状弾性体70の間に隙間を生じさせ、その結果、上側筒状部56の中心孔58と連通凹溝46の間を常時連通させるような状態にしても良い。
更にまた、袋状弾性体70の大きさや形状を変化させることにより、薬液流路14の断面積を任意に設定することができる。それにより、例えば、高粘度の薬液を注入する場合には薬液流路の断面積が大きなニードルレスコネクターを用いたり、低粘度の薬液を注入する場合には薬液流路の断面積が小さなニードルレスコネクターを用いるなど、注入する薬液に適したニードルレスコネクターを選択することが可能となる。
更に、前記実施形態では、ハウジング12は上部、下部ハウジング22,20に分割されていたが、その具体的な構造は限定されるものではない。例えば、上部、下部ハウジング22,20は一体成型品で構成されていてもよく、或いは、シリンジに接続されるハウジング上部材と、弾性体収容部54を有して袋状弾性体70が嵌め込まれるハウジング中部材と、カテーテル等に接続されるハウジング下部材とに3分割、更に或いは3分割以上のハウジング構造を採用しても良い。
また、スリット64の形状も限定されるものではなく、前記実施形態では、弾性弁体62の中央部分において径方向に一本形成されていたが、薬液流路14の連通又は遮断という機能を損なわない範囲において、複数本のスリットを放射状に形成するといった形状も可能である。
更に、前記実施形態では押し子66を用いていたが、押し子66は必ずしも設ける必要はなく、雄ルアー94の先端面を袋状弾性体70に直接押し当てて、袋状弾性体70を弾性変形させるようにしてもよい。また押し子を設ける際にも、薬液流路14を連通させる機能が発揮されるのであれば、その外形や溝の形状等は限定されない。例えば、前記実施形態では、押し子66に対して2本の流路溝68,68が形成されていたが、1本であってもよいし、複数本であっても良い。また、複数本の流路溝を互いに連通させても良い。流路溝の形状についても、溝幅が一定であっても良いし、底面を軸に対して傾斜させる必要もない。