以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1および図2に、本発明の一実施形態としての医療用弁を備えた医療用コネクタである三方活栓10を示す。三方活栓10は、ハウジング本体としてのホルダ12に、流路切換機構としてのコック14が取り付けられた構造とされている。なお、以下の説明において上下方向とは、特に断りのない限り、図2中の上下方向を言うものとする。
ホルダ12は、略円筒形状を有する本体部16と、本体部16の外周から突出する第一〜第三の三つの分岐管18,20,22を備えた中空構造の一体成形品とされている。これら第一〜第三の分岐管18,20,22は何れも軸方向両端部が開口した筒形状とされており、軸方向一方の端部が本体部16と接続されて本体部16の内部空間に連通されていると共に、他方の端部が、図2に点線でモデル的に示す、ホルダ12の外部空間と連通する第一〜第三の分岐開口部24,26,28とされている。これにより、第一〜第三の分岐管18,20,22それぞれの内部空間によって、第一〜第三の分岐開口部24,26,28と接続する内部流路がそれぞれ形成されている。また、第一の分岐管18と第二の分岐管20は、本体部16の外周上の対向する位置に形成されている。一方、第三の分岐管22は、本体部16の外周上で、第一の分岐管18と第二の分岐管20を90度等配する位置に形成されている。
なお、図1および図2に示す三方活栓10には、第一の分岐開口部24に対して、内周面に雌ねじが形成された雌ルアーキャップ30が外挿状態で着脱可能にねじ固定されている。また、第二の分岐管20には、内周面に雌ねじが形成されたロックアダプター32が、第二の分岐管20に形成された図示しないフランジ状部で抜け出し不能に係止されて外挿状態で装着されている。更に、第二の分岐開口部26には、雄ルアーキャップ34が外挿状態で着脱可能に取り付けられている。
かかる本体部16にコック14が挿し入れられて、回動可能で液密に組み付けられている。このコック14を回動操作することにより、第一〜第三の分岐管18,20,22の内部空間によって形成されて第一〜第三の分岐開口部24,26,28において開口する各内部流路を、選択的に連通させることが可能となっている。
また、第三の分岐開口部28には、医療用弁としての混注ポート36が設けられている。図3および図4に、混注ポート36の詳細構造を示す。混注ポート36は、ディスク形状を有する弾性弁体としての弁部材38と、筒状口体40および環状リング42を含んで構成されており、これら筒状口体40と環状リング42の間で弁部材38が挟まれて組み付けられている。なお、本実施形態では、筒状口体40および環状リング42を含んで、弁部材38が組み付けられる開口部材が構成されている。
弁部材38は、略円板形状を有する中央部44と、中央部44の外周を全周に亘って囲む略円環形状を有する環状固定部46が一体形成された、全体として略ディスク形状とされている。弁部材38は、弾性を有する材料から形成されており、気密性や再封止性を考慮して、イソプレンゴムやシリコーンゴム等の合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等から選択される材料を用いて、プレス成形やモールド成形等することによって形成されている。
そして、中央部44には、厚さ方向に貫通するスリット48が形成されている。ここにおいて、スリット48の形状としては、例えば直線形状や十字形状が採用され、本実施形態においては、中央部44の中心を通り、中央部44の外周端縁部に至らない程度で中央部44の径方向に延びる直線形状とされている。なお、スリット48は、成形された弁部材38の厚さ方向に鋭利な刃を貫通させる等して形成される。
一方、環状固定部46は、一定の略矩形断面形状をもって周方向に連続して延びている。この矩形断面は、径方向寸法(図4中、左右方向寸法)に比して、軸方向寸法(図4中、上下方向寸法)の方が大きくされている。なお、環状固定部46の軸方向寸法は、中央部44の軸方向寸法よりも小さくされており、環状固定部46の軸方向上端面が中央部44の軸方向上端面よりも内方(図4中の下方)に低くされている。これにより、環状リング42が環状固定部46の軸方向上方に重ね合わされて組み付けられた際、中央部44の軸方向上端面からの環状リング42の外方への突出が避けられている。
また、弁部材38の内面50および外面52における外周部分には、凹状断面をもって全周に亘って連続して延びる環状溝54,56がそれぞれ形成されている。環状溝54,56は、弁部材38の径方向で互いに略等しい位置に形成されており、弁部材38には、これら環状溝54,56によって、厚さ寸法が小さくされた環状の括れ状部58が形成されている。従って、本実施形態における弁部材38は、括れ状部58の内周側に中央部44が形成される一方、括れ状部58の外周側に環状固定部46が形成されて、これら中央部44と環状固定部46が括れ状部58で接続された一体成形品とされている。また、括れ状部58は、弁部材38の厚さ方向でやや内面50寄りの位置に形成されており、弁部材38の中央部44は、括れ状部58よりも外面52側が内面50側よりも厚肉とされている。
さらに、内面50において環状溝54の内側には、全周に亘って連続して延びる凹溝部60が形成されている。要するに、環状溝54の内周側の壁面が、凹溝部60で構成されている。また、この凹溝部60は、湾曲凹形の一定断面形状をもって周方向の全周に亘って延びており、弁部材38の軸方向内方(図4中の下方)に向かって開口している(図11参照)。
なお、弁部材38の直径は、好適には、5.0〜6.5mmの範囲内で設定される。後述する図14に示すように、弁部材38の直径が5.0mmよりも小さいと、外径が略4.0mmに統一された標準的なルアーロックコネクタ104のルアーチップ106の挿入が困難になる一方、直径が6.5mmよりも大きいと、第三の分岐開口部28の外径が大きくなって、標準的なルアーロックコネクタ104の雌ねじ部108との接続が困難となるからである。
また、弁部材38の厚さ寸法は、好適には、1.0〜3.0mmの範囲内で設定される。弁部材38の厚さ寸法が1.0mmよりも小さいと、シリンジ先端部等の雄コネクタの挿入時におけるシール性が不十分となるおそれがある一方、厚さ寸法が3.0mmよりも大きいと、雄コネクタの挿入抵抗が大きくなって、挿入操作が難しくなるおそれがあるからである。
このような弁部材38は、ホルダ12から別体形成された開口部材としての筒状口体40によって支持されている。筒状口体40は、大径筒部62と小径筒部64が一体形成された段付円筒形状とされている。小径筒部64の内径寸法は少なくとも開口部65側(図4中、上側)において弁部材38を収容し得る大きさとされ、雄コネクタ抜去後のスリット48の再封止状態が安定して発現されるように、好適には、弁部材38の外径寸法と略等しくされる。
かかる筒状口体40は、弁部材38を確実に保持し得る強度を有する材料から形成されることが好ましく、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂が例示される。そして、筒状口体40は、これらの材料から射出成形等によって成形される。
そして、小径筒部64における開口部65の内周縁部には、径方向内方に突出する弁受座としての環状突座68が一体形成されており、環状突座68の内周縁部には、小径筒部64の開口方向外方(図4中、上方)に向けて突出する係止突部70が一体形成されている。係止突部70は、一定の突出高さ寸法をもって全周に亘って連続する周壁形状とされている。
ここにおいて、係止突部70の内周面から環状突座68の内周面に至る部分は、弁部材38の内面50に凹溝部60が形成されていることにより、弁部材38に密着しておらず、流体流路を形成する筒状口体40の内部空間に露出されている。しかも、この露出面は、弁部材38に形成された湾曲凹形断面の凹溝部60に対応して、湾曲凸形の一定断面形状で周方向の全周に亘って延びる当接内周面71とされている。
なお、小径筒部64において、係止突部70の突設部位よりも軸方向内方に位置する周壁内面は、略一定の内径寸法をもって直線的に軸方向内方に延びる円筒状面73とされている。
そして、後述するように、シリンジの先端部等が弁部材38に挿し入れられた際、筒状口体40の内方に向かって弾性変形された弁部材38は、その凹溝部60が、係止突部70及び環状突座68の当接内周面71に対して当接すると共に、その中央部44の内面50が、小径筒部64の円筒状面73に対して当接するようにされている。その際、相互に当接する両面には、互いに対応した形状が設定されていることにより、それぞれの当接面が隙間を持たない密着状態で安定して当接されるようになっているのである。
また、係止突部70の突出高さ寸法は、弁部材38の内面50に形成された環状溝54の、環状固定部46における内面からの溝深さ寸法と等しいか、僅かに大きくされていることが好ましい。これにより、係止突部70の突出先端部と、弁部材38の環状溝54の溝底部との間における隙間の発生が防止されている。
また、環状突座68と係止突部70により、小径筒部64の内周面において周方向の全周に亘って延びる環状の嵌合凹溝72が形成されている。この嵌合凹溝72は、筒状口体40の小径筒部64側の開口方向に向かって開口している。この嵌合凹溝72の深さ寸法は、前述の係止突部70の突出高さ寸法であり、弁部材38の環状溝54の深さ寸法と等しいか僅かに大きくされている。また、嵌合凹溝72の径方向の溝幅寸法は、弁部材38の環状固定部46における括れ状部58よりも軸方向内方(内面側)に突出する部分の幅寸法と同じか僅かに小さくされている。これにより、嵌合凹溝72の内面の全体に、弁部材38の環状固定部46が密着状態で当接されて、嵌合凹溝72内の隙間が防止されている。
また、小径筒部64の外周面には、後述するルアーロックコネクタ104の雌ねじ部108が螺合する雄ねじ部74が形成されている。雄ねじ部74は、好適にはISO594で規定された、ねじの山頂径が7.0±0.2mm、ねじの谷底径が8.0±0.1mmに設定されたルアーロックコネクタの雌ねじ部との接続が可能な二条ねじとされる。
なお、筒状口体40の外径寸法は、ISO594で規定された標準的なルアーチップの接続を可能とするために、本実施形態のような雄ねじ部74を形成しない場合には、小径筒部64の外径が6.0〜7.0mmの範囲内で設定されることが好ましく、本実施形態のように雄ねじ部74を形成する場合には、ねじ山を含んだ小径筒部64の外径が7.2〜8.0mmの範囲内で設定されることが好ましい。
さらに、筒状口体40における小径筒部64の開口部65には、環状リング42が固着されている。図5〜図10に、環状リング42の単体を示す。環状リング42は、中央に貫通孔75が形成された略円環形状とされており、その外径寸法が、小径筒部64における開口部65の内径寸法と略等しくされる一方、その内径寸法が、弁部材38における中央部44の径寸法と略等しくされている。なお、環状リング42の材料としては、前述の如き筒状口体40と同様の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
また、環状リング42における上端面76の外周部分には、全周に亘って連続する環状切欠77が形成されている。一方、環状リング42における下端面78の内周部分には、下方に向けて突出する係止突部80が一体形成されている。特に本実施形態における係止突部80は、略矩形断面形状をもって周方向に部分的に延びる複数(本実施形態においては、8つ)の係止突起81によって構成された、周方向で分断された複数の突起形状とされている。また、特に本実施形態においては、複数の係止突起81は何れも略等しい形状をもって形成されており、環状リング42の周方向で略等間隔に形成されている。
ここにおいて、係止突起81の突出端面82の径方向幅寸法は、弁部材38の外面52に形成された環状溝56の底面の径方向幅寸法と同じか僅かに大きくされていると共に、係止突起81の環状リング42の下端面78からの突出高さ寸法は、弁部材38における環状固定部46の、括れ状部58からの突出高さ寸法と同じか僅かに大きくされている。これにより、係止突起81の先端部分が、弁部材38の環状溝56の底部内面に対して、隙間なく密着状態で当接されるようになっている。
さらに、環状リング42の周方向で各隣り合う係止突起81,81の間には、下方に突出する複数(本実施形態においては、8つ)の補助周壁84が一体形成されている。ここにおいて、補助周壁84の突出寸法は、係止突起81に比して小さくされる。これにより、弁部材38の環状溝56において、補助周壁84が入り込んで係合された部分(即ち、係止突起81が形成されていない部分)では、補助周壁84の突出先端側に隙間96が存在するようになっている。
なお、環状リング42は、弁部材38の中央部44を除く外周部分に配設されることから、雄コネクタの接続操作を阻害しないように、貫通孔75の内径寸法が4.4mm以上に設定されることが好ましい。貫通孔75の内径寸法が4.4mmよりも小さいと、ISO594で規定される標準的なルアーロックコネクタを挿入した場合、ルアーチップと環状リング42が接触してルアーチップを損傷し、接続時の気密性を損なうおそれがあるからである。
そして、弁部材38が筒状口体40の小径筒部64側の開口部65から挿し入れられた後に、環状リング42が小径筒部64側の開口部65から挿し入れられて、筒状口体40の開口端部92が環状リング42に固着されている。これにより、筒状口体40の環状突座68と環状リング42によって弁部材38の環状固定部46が挟持されて、これら筒状口体40、環状リング42、弁部材38が互いに組み付けられている。
かかる組み付け状態において、図11に示すように、弁部材38における環状固定部46が嵌合凹溝72に嵌め入れられると共に、筒状口体40に形成された係止突部70が、弁部材38の内面50に形成された環状溝54に嵌め入れられている。そして、相互に固着された環状リング42と筒状口体40において、相互に対向方向に突設された係止突部70と係止突起81により、弁部材38の括れ状部58が軸方向で挟まれて支持されている。
なお、筒状口体40に対する環状リング42の固着は、例えばスウェージング加工によって有利に実現される。具体的に例示すると、先ず、図12に示すように、弁部材38を筒状口体40に嵌め入れた後に、環状リング42を弁部材38の上方から筒状口体40に嵌め入れる。この段階では筒状口体40の開口端部92は未だ湾曲されておらず、軸方向に延びる円筒形状とされている。次に、図13にモデル的に示すように、外周端部に曲面98が形成された円形の凹部100を有するホーン102を用いて、筒状口体40の開口端部92に対して、超音波振動や高周波誘導加熱を利用したスウェージング加工を行なう。これにより、筒状口体40の上端部が溶融しながら径方向内側へと変形して、環状リング42の外周縁部に対して係止固定される。
特に本実施形態では、筒状口体40の開口端部92が、環状リング42の環状切欠77内に入り込むように湾曲されて環状リング42に係止されることにより、筒状口体40の上端面と環状リング42の上端面が略同一平面上に位置されている。それと共に、環状リング42の上端面は、弁部材38の上端面と略同一平面上に位置されている。これにより、混注ポート36の上端面は、略単一平面として形成されている。なお、このようなスウェージング加工に好適な加工条件としては、超音波振動を用いる場合には、超音波振動周波数が略20〜40Hz、発振時の荷重が略10〜100Nに設定され、開口端部92の凹み量である筒状口体40の沈み込み量が0.2〜0.4mmとなるように行われることが好ましい。また、スウェージング加工として、超音波振動に代えて、例えば高周波誘導加熱等の手段を用いることも可能である。
そして、混注ポート36は、筒状口体40の大径筒部62が、ホルダ12における第三の分岐管22の開口部に被されて固定される。このような構造とされた三方活栓10は、一般に、第一の分岐開口部24が輸液ルートの上流側のチューブと接続され、第二の分岐開口部26が下流側のチューブと接続されることによって、第一の分岐管18と第二の分岐管20によって輸液ルートの一部を構成して輸液ルート上に配設される。
そして、図14に示すように、第三の分岐開口部28に設けられた混注ポート36に対して、例えば雄コネクタとしてのルアーロックコネクタ104が接続される。なお、図14(a)はルアーロックコネクタ104の接続前の状態、図14(b)はルアーロックコネクタ104の接続状態を示す。ルアーロックコネクタ104は例えばISO594に規定された標準的なサイズを有する従来公知のものであり、先細の円筒テーパ形状を有し外部流路を形成するルアーチップ106と、ルアーチップ106の外周部分を囲む雌ねじ部108を備えている。
かかるルアーチップ106を、雌ねじ部108と混注ポート36の雄ねじ部74とを螺合させつつ弁部材38に押し込む。そこにおいて、弁部材38は、環状固定部46が係止突部70および係止突部80で係止される。これにより、弁部材38の中央部44が筒状口体40の内方に押し込まれて、スリット48が押し広げられる。
その結果、図14(b)に示すように、ルアーチップ106が弁部材38を貫通し、先端開口部110が筒状口体40の内部空間に開口されて、ルアーチップ106に接続されている例えばシリンジ等の内部空間が、ルアーチップ106内の流体流路を通じて第三の分岐管22の内部流路と連通状態とされる。それと共に、ルアーロックコネクタ104の雌ねじ部108が混注ポート36の雄ねじ部74と螺合することによって、ルアーチップ106の挿通状態が確実に維持される。
かかるルアーチップ106の挿通状態で、コック14を操作して第三の分岐管22と第二の分岐管20を連通状態とすることによって、シリンジ内に充填された薬液を輸液ルート上に混注することが可能となる。そして、混注が完了してルアーチップ106を抜去した後は、弁部材38の弾性復元力によって、中央部44が円板形状に復帰して、スリット48が略気密に閉塞されることとなる。
そこにおいて、上述の如き構造とされた混注ポート36においては、弁部材38の凹溝部60と、それが当接される係止突部70及び環状突座68の当接内周面71とが、互いに対応する湾曲凹形断面と湾曲凸形断面をもって形成されていることから、それらが密着状態で安定して当接されることとなり、当接面間における隙間の発生が防止される。それ故、隙間が発生することに起因する薬液の入り込みと滞留が効果的に回避され得る。
しかも、ルアーチップ106を抜き取った後、弁部材38が弾性で復元してスリット48が閉鎖された状態では、弁部材38に形成された凹溝部60により、係止突部70及び環状突座68の当接内周面71の表面には、充分に大きな開口幅をもった凹所が形成される。それ故、たとえこの凹溝部60に薬液が入り込んでいたとしても、表面張力の作用で凹溝部60に止まる力に比して充分に大きな重力が作用することとなり、凹溝部60への薬液の滞留が効果的に回避され得るのである。
また、ルアーチップ106の挿し入れ時の屈曲変形に伴って弁部材38に生ずる応力が、凹溝部60に設定された湾曲凹形断面によって分散される。加えて、弁部材38と、それが当接される係止突部70及び環状突座68とが、互いに対応する湾曲凹形断面と湾曲凸形断面をもって形成されていることから、弁部材38における応力や変形の更なる分散効果が発揮される。これにより、弁部材38における応力や変形の局部的作用に起因する耐久性の低下が軽減され得る。
なお、弁部材38は、ルアーチップ106の挿し入れに際して摩擦力で筒状口体40の内方に引っ張られて延び変形することから、図11に示されているように、かかる延び分を考慮して、ルアーチップ106の挿し入れ前の自由状態における凹溝部60の表面長さが、係止突部70及び環状突座68の当接内周面71の表面長さよりも小さくされている。
また、本実施形態の混注ポート36では、ルアーチップ106を挿し入れた際、弁部材38の中央部44の内面50が、小径筒部64の円筒状面73に対して当接することで、ルアーチップ106の挿入端位置が規定されるようになっている。それ故、ルアーチップ106の挿入端位置を、筒状口体40や環状リング42への直接の当接で規定する場合に比して、ルアーチップ106の挿入端位置において弁部材38に対して充分な圧縮力を安定して及ぼすことが出来る。その結果、弁部材38によるシール効果を安定して得ることが可能となり、流体流路のシール性の信頼性の向上も達成され得る。
なお、図14においては、雄コネクタとして雌ねじ部108を有するルアーロックタイプのコネクタを例示しているが、雌ねじ部108を有さず、ルアーチップ106のみを備える所謂ルアースリップタイプのコネクタも、勿論接続可能である。特にルアースリップタイプのコネクタの場合、ルアーチップは、弁部材38の弾性復元力のみによって接続状態が維持されることとなる。また、雄コネクタとしてルアースリップタイプのみが対象とされるような場合には、筒状口体40の段付形状や雄ねじ部74は必ずしも必要ではない。
また、本実施形態の三方活栓10では、環状リング42に設けられた係止突部80が、複数の係止突起81からなる複数の突起形状とされていることから、ルアーチップ106の挿し込みに際して、弁部材38に対する係止固定力を、周方向で断続的に設けられた各係止突起81に集中させることが出来る。その結果、弁部材38に対して大きな係止保持力を安定し得ることが可能となり、環状固定部46の径方向幅寸法も小さくすることが可能となる。
すなわち、本実施形態に従う三方活栓10によれば、極めて簡易な構成で弁部材38の強固な固着強度を確保しつつ混注ポート36の小径化を実現することが可能となるのであり、かかる小径化によって、標準的なルアーロックタイプのコネクタおよびルアースリップタイプのコネクタの何れをも、何ら特別なコネクタを介することなく接続することを可能と為し得たのである。
また、環状溝56内において係止突起81が嵌め入れられていない部分には隙間96が形成されており、かかる隙間96によって、弁部材38の弾性変形に際する逃げ領域も確保されている。
更にまた、ルアーチップ106の接続状態において、ルアーチップ106は弁部材38のみで保持されて、筒状口体40や環状リング42に対して非接触とされる。これにより、ルアーチップ106が環状リング42等に擦れることに起因して削れた樹脂が流体流路に混入するような不具合も、完全に回避されるのであり、衛生面の更なる向上も達成される。
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態の具体的な記載によって、限定的に解釈されるものではない。
例えば、前記実施形態においては、複数の係止突起81からなる係止突部80を備えた環状リング42が採用されていたが、本発明においては、そのような係止突部80を備えた環状リング42の採用は必須でない。全周に亘って一定断面形状の環状リング42を採用しても良い。
また、凹溝部60の大きさは、使用される液体の粘度や比重等を考慮して、かかる液体が表面張力の作用で凹溝部60内に滞留することがない程度に設定されるものであり、本発明では、かかる凹溝部60の径方向幅寸法や深さ寸法が制限的解釈されるものでない。
また、前記実施形態においては、筒状口体40に環状突座68が形成されて、ホルダ12と別体形成された筒状口体40によって弁部材38が支持されていたが、例えばハウジング本体に直接に弁受座を形成すること等も可能であり、前記実施形態において、ホルダ12における第三の分岐管22の開口部分に弁受座を形成する等しても良い。
また、前記実施形態においては、三方活栓のハウジングを備えた医療用コネクタへの本発明に従う医療用弁の適用例を示したが、本発明は、従来公知の各種の医療用流体流路に採用される各種のハウジングを備えた部材に設けられる医療用弁に対して適用可能である。例えば、図15(a)及び(b)に示されるように、プラグ112及びT字混注管114にも、本発明を適用することが可能である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
本発明はもともと以下に記載の発明を含むものであり、その解決課題、構成および作用効果に関して、付記しておく。
ディスク状の弾性弁体の外周部分を一対の爪状の環状係止突部で挟んで支持させた従来構造では、環状係止突部による弾性弁体の支持部において、環状係止突部と弾性弁体との間に小さな隙間が発生し易い。この隙間は、環状係止突部と弾性弁体との成形時の寸法誤差に起因する他、弾性弁体の弾性変形にも起因するものであるから、回避し難い。加えて、弾性弁体に対する雄コネクタの着脱を繰り返すことにより、弾性弁体の塑性的変形や劣化等によって、隙間が新たに発生することもあり、隙間の発生を管理することが困難である。
そして、このような隙間が存在することにより、隙間に薬液等が滞留し易い問題がある。特に、隙間が狭いことから、薬液の表面張力の作用で、滞留した薬液等が抜け難く、長期間の滞留に起因する汚染対策も必要となる場合があった。
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、ディスク状の弾性弁体の支持部に発生する隙間への薬液等の滞留を防止することが出来ると共に、弾性弁体の弾性変形時における応力集中を軽減して耐久性の向上を図ることも出来る、新規な構造の医療用弁を提供することにある。
本発明は、流体流路の開口部分を構成する開口部材に対して、中央部分にスリットが形成されたディスク状の弾性弁体が装着されており、該弾性弁体の該スリットに雄コネクタを繰り返し挿抜可能とされた医療用弁であって、前記弾性弁体の外周部分の内外両面においてそれぞれ周方向に延びる環状溝が形成されることにより環状の括れ状部が設けられ、該弾性弁体における該括れ状部よりも外周側が環状固定部とされている一方、前記開口部材の内周側に突出して弁受座が形成されていると共に、該開口部材に対して開口部側から環状リングが組み付けられて固着されており、該弁受座と該環状リングで前記弾性弁体の前記環状固定部が挟まれて支持されていると共に、該弁受座と該環状リングの内周縁部にそれぞれ係止突部が突出形成されて、これら係止突部が該弾性弁体の内外両面に形成された前記環状溝に係止されており、且つ、該係止突部が突出形成された該弁受座の内周面が湾曲凸形の断面形状とされていると共に、該弾性弁体の内面に形成された該環状溝の内周側壁面が該弁受座の内周面に対応した湾曲凹形の断面形状とされて、該弁受座の内周面に対して該弾性弁体の該環状溝の内周側壁面が径方向で隙間を隔てて対向されており、前記雄コネクタが該弾性弁体の前記スリットに差し入れられることにより該弾性弁体の該環状溝の該内周側壁面が該弁受座の該内周面に当接して重ね合わされるようになっている医療用弁を、構成上の特徴とする。
[本発明の作用・効果]
本発明に従う構造の医療用弁では、弾性弁体の内面側(流体流路側)に対する係止突部の係止部位において、係止突部が設けられた弁受座の内周面と弾性弁体との間に隙間が積極的に形成されている。それ故、係止突部と弾性弁体との隙間に薬液等が侵入しても、かかる隙間が大きく設定されていることにより、表面張力による滞留が防止され得る。
しかも、弾性弁体の径方向で隙間を挟んで対向位置する、係止突部を形成する弁受座の内周面と弾性弁体の環状溝の内周側壁面は、互いに対応した湾曲凸形断面と湾曲凹形断面とされている。それ故、シリンジ等の接続時に弾性弁体が流体流路側に入り込むように弾性変形した際、隙間を挟んで対向位置する弁受座の内周面と弾性弁体の環状溝の内周側壁面とが、互いに密着状態で当接する。これにより、隙間が消失して、隙間への薬液等の侵入そのものが防止され得る。
加えて、隙間を挟んで対向位置する弁受座の内周面と弾性弁体の環状溝の内周側壁面とが、互いに対応した湾曲凸形断面と湾曲凹形断面とされていることから、シリンジ等の接続で弾性弁体が弾性変形した際にも、弾性弁体における局所的な応力や変形の集中が回避される。これにより、シリンジ等の雄コネクタの接続に際して、弾性弁体における弾性変形が安定して実現されると共に、弁受座を含む接続部材の広い面で、弾性弁体を介して、雄コネクタの挿入部分が安定して保持され得る。しかも、弾性弁体の耐久性が向上されると共に、塑性変形が抑えられることとなり、弾性弁体への雄コネクタの着脱の繰り返しに伴う新たな隙間の発生とそれに起因する薬液等の滞留の問題も効果的に防止され得る。
[本発明のその他の態様と効果]
なお、上述の構成上の特徴を備えた本発明では、以下の何れかの態様を、必要に応じて適宜に組み合わせて採用することが可能である。
例えば、本発明では、弾性弁体において湾曲凹形の断面形状とされた環状溝の内周側壁面の断面長さ寸法が、開口部材において湾曲凸形の断面形状とされた弁受座の内周面の断面長さ寸法に合わされている構成が、採用され得る。このようにすれば、シリンジ等の装着で弾性弁体が流体流路側に入り込むように弾性変形した際、隙間を挟んで対向位置する弁受座の内周面と弾性弁体の環状溝の内周側壁面とが、より高度な密着状態で当接され得て、隙間への薬液等の侵入を一層効果的に防止できる。なお、環状溝の内周側壁面の断面長さ寸法と弁受座の内周面の断面長さ寸法とは、弾性弁体の弾性変形等も考慮して、互いに密着し得る程度に略同じに設定されていれば良い。
また、本発明では、流体流路の開口部分を構成する開口部材において、弁受座の突設部分から流体流路の内方に延びる筒壁部が設けられており、接続される雄コネクタが弾性弁体のスリットに挿し入れられて弾性弁体が開口部材の内方に押し広げられることにより、弾性弁体が筒壁部の内周面に当接されるようになっている構成が、採用され得る。このような構成によれば、例えばシリンジの先端部を弾性弁体に挿し入れて流体流路に接続する際、シリンジ先端部の挿し入れ端位置が、開口部材への当接(係合)で規定されるのではなく、開口部材の筒壁部との間で弾性弁体を挟んで圧縮した状態で規定されるようにすることが出来る。これにより、例えば、雄コネクタの先端部を、弾性弁体を介して安定して保持することができ、雄コネクタの流体流路に対する接続状態の信頼性の向上も図られ得る。しかも、雄コネクタの接続時に、弾性弁体に対して大きな圧縮力が確実に及ぼされることから、弾性弁体によるシール性能の安定性と信頼性の向上も図られ得る。
また、本発明では、弁受座の係止突部と環状リングの係止突部との少なくとも一方が、周方向で分断された複数の突起形状とされている構成が、採用され得る。係止突部を複数の突起形状とすることにより、係止突部による弾性弁体に対する係止力を、弾性弁体に作用する応力や弾性変形の集中化等に基づいて、向上させることが出来る。それにより、雄コネクタの着脱に際しての弾性弁体の脱落の問題を防止しつつ、弾性弁体を小型化することも可能となる。
また、本発明では、開口部材が大径筒部と小径筒部からなる段付筒形状とされて、大径筒部において別体の流体流路形成部材に固着されるようになっている一方、小径筒部の外周面に雄ねじ部が形成されてルアーロック型のコネクタが接続可能とされている構成が、採用され得る。
更にまた、前述の実施形態の記載から明らかなように、本発明は、以下の第一〜第三の態様を含む。
第一の態様は、流体流路の開口部分を構成する開口部材に対して、中央部分にスリットが形成されたディスク状の弾性弁体を装着されており、該弾性弁体の該スリットに雄コネクタを繰り返し挿抜可能とされた医療用弁であって、前記弾性弁体の外周部分の内外両面においてそれぞれ周方向に延びる環状溝が形成され、前記開口部材には弁受座が形成されているとともに、該開口部材に対して開口部側から環状リングが組みつけられて固着されており、該弁受座と該環状リングには該弾性弁体の内外両面に形成された該環状溝と係止可能な係止突部が形成されて、これら係止突部が該弾性弁体の内外両面に形成された該環状溝と係止されており、該環状リングにおける該係止突部は周方向で分断された複数の突起形状を有する医療用弁。
第二の態様は、流体流路の開口部分を構成する開口部材に対して、中央部分にスリットが形成されたディスク状の弾性弁体を装着されており、該弾性弁体の該スリットに雄コネクタを繰り返し挿抜可能とされた医療用弁であって、前記弾性弁体の外周部分の内外両面においてそれぞれ周方向に延びる環状溝が形成され、前記開口部材には弁受座が形成されているとともに、該開口部材に対して開口部側から環状リングが組みつけられて固着されており、該弁受座と該環状リングには該弾性弁体の内外両面に形成された該環状溝と係止可能な係止突部が形成されて、これら係止突部が該弾性弁体の内外両面に形成された該環状溝と係止されており、該環状リングにおける該係止突部は周上で第一突起と第二突起とを有し、該第二突起における該環状溝への入り込み方向の突出寸法は該第一突起に比して小さくされている医療用弁。
第三の態様は、前記弾性弁体において、内外両面に形成された前記環状溝によって括れ状部が設けられており、該括れ状部よりも外周側の環状固定部が前記弁受座と前記環状リングで挟まれて支持されている第一又は第二の態様に記載の医療用弁。