画像記録装置あるいは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置には、液体吐出ヘッドが組み込まれている。
液体吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、ノズルが連通する加圧室と、加圧室内の圧力を加圧する圧電素子(例えば、電気−機械変換素子)と、振動板と、エネルギー発生手段と、を備える。そして、エネルギー発生手段で発生したエネルギーで加圧室内インクを加圧しノズルからインク滴を吐出させる。
圧力室には、インク吐出を起こすために個別の圧電素子が配置されている。圧電素子は電気−機械変換素子と総称される。電気−機械変換素子は電気的入力を機械的な変形に変換するもので、その構造は電気的入力を実行する上部、下部の電極対とその間に圧電体などの膜が挟まれた積層構造を有している。
圧電素子の形成方法として、まずドライエッチング法がある。例えば、下部電極上に真空成膜法により圧電体膜を堆積し、さらに上部電極を堆積する。そして、下部電極、圧電体膜、および上部電極に、ドライエッチング加工を施す。しかし、圧電体膜がPZT膜の場合、そのドライエッチングは容易ではない。RIE(反応性イオンエッチング)でSi系デバイスは容易にエッチング加工できるものの、PZT等の金属複合酸化物はイオン種のプラズマエネルギーを高める必要がある。例えば、ICPプラズマ、ECRプラズマ、ヘリコンプラズマ等の特殊なプラズマ源が必要とされる。このため製造装置は高額になる。また、PZT膜では、下地電極膜との選択比を稼げない。特に大面積基板ではエッチング速度の不均一が生じる。
また、圧電素子の別の形成方法として、水熱合成法がある。水熱合成法では、基板上に形成されたTi電極上のみにPZT膜が成長する。但し、この方法で充分な耐圧を備えたPZT膜を得るには、PZT膜の膜厚を5μm以上にする必要がある。膜厚が5μm未満になると、絶縁破壊を起こし易くなるためである。また、水熱合成が強アルカリ性の水溶液下で合成されるため、基板であるシリコン材の保護が必須となる。
また、圧電素子のさらに別の形成方法として、真空蒸着法がある。真空蒸着法では、シャドウマスクを用いて、圧電体膜のパターニングを行う。しかし、PZT成膜は通常、基板温度が500〜600℃で実行される。これは、圧電性出現のために高温化処理を行って複合酸化物を結晶化させるためである。一般的にシャドウマスクはステンレス製であり、シリコン基板とステンレス材の熱膨張差も大きい。このため、シャドウマスクを用いると、圧電体膜の寸法を充分に制御できない。さらに、シャドウマスクの使い捨ては実用性には不向きである。また、シャドウマスクを用いると、MO−CVD法やスパッタリング法の場合、堆積膜の回り込みが大きくなる。
また、圧電素子のさらに別の形成方法として、AD法がある。AD法では、予めレジストパターンを形成し、レジスト膜から表出された部位にPZTを成膜する。但し、AD法でも、充分な耐圧を備えたPZT膜を得るには、膜厚を5μm以上にする必要がある。また、AD法では、レジスト膜上にもPZT膜が堆積する。このため、研磨処理により一部の堆積膜を除去した後、リフトオフ工程を伴う。また、大面積における均一研磨も煩雑である。さらにレジスト膜は耐熱性が充分ではない。このため、室温でAD法による成膜を実行し、ポストアニール処理を経た後に圧電性を示す膜に変換している。
また、圧電素子のさらに別の形成方法として、スピンコート法がある。スピンコート法では、基板全面にPZT前駆体であるゾルゲル溶液を塗布する。これにより、均一な圧電体膜を形成することができる。但し、スピンコート法に従うと、乾燥、熱分解、結晶化等の焼成工程を伴う。これらの工程において、圧電体膜にクラックを発生させず、かつ所望の膜厚を得るためには、ゾルゲル溶液の塗布回数を多くする必要がある。また、スピンコート法では、大量のゾルゲル溶液が廃棄されることになり、材料が無駄になったり、前駆体材料に含まれる鉛が環境面に悪影響を及ぼしたりする場合がある。
また、圧電素子のさらに別の形成方法として、インクジェット法がある。インクジェット法では、下地基板の濡れ性を制御し、PZT前駆体ゾルゲル溶液の塗り分けをする。これにより、PZT膜のパターニングが可能になる。この製造過程の概要を図9、10を用いて説明する(例えば、非特許文献1参照)。
図9、10に示すプロセスでは、アルカンチオールが特定金属上に自己配列する現象を利用している。
まず、図9(a)のように、Pt(白金)電極200を準備した後、図9(b)に示すように、Pt(白金)電極200の全面にSAM膜(自己組織化単分子膜)を形成する。SAM膜上はアルキル基が配置しているので、その表面は疎水性になる。
次に、図9(c)に示すように、フォトリソグラフィー・エッチングにより、レジスト膜201をパターニングする。続いて、レジスト膜201から表出するSAM膜をエッチングにより取り除く。さらに、レジスト膜201を除去する。この状態を、図9(d)に示す。
図10(a)に示すように、レジスト膜201で覆われた領域は、レジスト除去後もSAM膜が残るので、この部位は疎水性を維持する。一方、SAM膜が選択的に除去された領域は、白金表面となっているので親水性を示す。
次に、図10(b)に示すように、インクジェットヘッド250を用いて、親水性領域に、PZT前駆体であるゾルゲル溶液を塗布して、親水性領域にゾルゲル塗膜251を形成する。塗布領域は、表面エネルギーのコントラストにより親水性の領域になる。
次に、図10(c)に示すように、ゾルゲル塗膜251を、例えば、赤外線ランプによる加熱処理を行い、乾燥・熱分解・結晶化を実施する。これにより、所望のPZT膜301が形成される。この状態を、図10(d)に示す。また、図10(b)〜図10(d)の工程を繰りかえすことにより、PZT膜301の厚膜化を図ることができる。例えば、繰り返し成膜によって、PZT膜を5μmの厚さまで形成できる。
しかし、実際には、ゾルゲル塗膜300の加熱処理において、熱分解温度は500℃程度に達し、結晶化温度は、700℃程度に達する。このため、SAM膜は消滅してしまう。従って、インクジェット法では、繰り返しの成膜毎に、SAM膜をパターニングする必要がある。また、一回の成膜で得られるPZT膜厚は薄く、厚膜化を図るには複数回のプロセスルーチンを要する。これにより、図9、10に示すプロセスでは、製造工程数が増加してしまう。
また、圧電素子のさらに別の形成方法として、レーザ加熱法がある(例えば、特許文献1参照)。レーザ加熱法では、前駆体にレーザ照射を行って前駆体の加熱を行う。レーザ照射による前駆体加熱はエネルギー変換効率がよく、タクトタイムが早く、急加熱、急冷却が可能になる。
しかしながら、前駆体に照射されるレーザの出力制御は一般的に難しい。例えば、レーザパワーが強すぎると、被膜にクラックが入り圧電素子としての機能を失う。逆に、レーザパワーが弱すぎると、前駆体の溶媒が完全に蒸発しない、あるいは被膜が結晶化し難くなるため、圧電素子としての機能が低下する。さらに、前駆体の相状態および膜厚に応じて光吸収率が変わることも難点の一つである。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下に説明する複数の実施例は可能な限り複合させることができる。
(第1実施形態)
図1は、薄膜形成方法を実施する薄膜形成装置の概要を説明する図である。
薄膜形成装置1は、基板30上に設けられた電極層15上に電気−機械変換膜10の前駆体溶液90から電気−機械変換膜10を形成する装置である。薄膜形成装置1は、前駆体溶液90を収容し、基板30を前駆体溶液90に浸漬することが可能な溶液ホルダ20と、溶液ホルダ20内で、電極層15と前駆体溶液90との界面にレーザ光を照射することが可能なレーザ照射部60と、レーザ照射によって前駆体溶液90から変化した電気−機械変換膜10の結晶状態に基づいてレーザ光の照射条件を変えることが可能なコントローラ70と、を備える。そのほか、薄膜形成装置1は、溶液ホルダ20と、基板30と、スペーサ40と、蓋部50と、を備える。レーザ照射部60は、光源60a、シャッタ60b、光学系部品60cおよび対物レンズ60dを有する。さらに、薄膜形成装置1は、X線回折装置80を備えてもよい。図1には、一例として、X線回折装置80が一体となった薄膜形成装置1が表示されている。
溶液ホルダ20は、電気−機械変換膜10の前駆体溶液(前駆体ゾルゲル溶液)90を収容することが可能である。基板30は、電気−機械変換膜10の前駆体溶液の中に浸される。基板30の表面には電極層15を形成することが可能である。レーザ照射部60によって、電極と前駆体溶液90との界面にレーザ光を照射することが可能である。
薄膜形成装置1では、レーザ照射によって前駆体溶液90の一部が加熱される。前駆体溶液90の一部とは、基板30の表面に形成された電極に接する前駆体溶液90である。薄膜形成装置1では、この一部を電極上で電気−機械変換膜10に変化させた電気−機械変換膜10の結晶状態の情報に基づいてレーザ光の照射条件を変えることができる。そして、照射条件が変えられたレーザ光を再び電極と電気−機械変換膜10との界面に照射することが可能である。
電気−機械変換膜10がPZT膜の場合、前駆体溶液の例として、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料とし、これら出発材料を共通溶媒であるメトキシエタノールに溶解した均一溶液が挙げられる。この均一溶液をPZT前駆体溶液と呼称する。
また、PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられる。この場合は、バリウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料とし、この出発材料を共通溶媒であるメトキシエタノールに溶解した均一溶液を用いる。これにより、チタン酸バリウム前駆体溶液を得ることができる。
これらの前駆体溶液90中のPZT、チタン酸バリウムは、大気中や溶媒中の水分によって容易に加水分解する場合がある。この加水分解を抑制する安定剤として、溶媒意中にアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を適量添加することが望ましい。
レーザ照射部60の光源60aには、レーザ光60eを出射するレーザ光源が用いられている。レーザ光の照射条件は、電気−機械変換膜10、基板30、および前駆体溶液90の種類により適宜選択される。レーザ光60eを走査し電極に照射することで、前駆体溶液90の熱処理を行うことができる。
熱処理は、前駆体溶液90中の溶媒成分を乾燥する工程と、乾燥させた前駆体ゾルゲル膜を熱分解する工程と、熱分解をされた前駆体ゾルゲル膜を結晶化する工程と、を含む。前駆体ゾルゲル膜についてはパターニングを施してもよい。
レーザ光60eとしては、連続発振型(CW)のダイオード励起固体レーザ、Arイオンレーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ等のパルスレーザが挙げられる。レーザ光の照射条件パラメータは、レーザ種(レーザ波長)、出力、ビーム径、照射時間、および走査速度等である。照射条件パラメータは、前駆体溶液中の溶媒が有する吸収波長帯域、前駆体ゾルゲル膜の膜厚、前駆体溶液の塗布量によって適正化される。例えば、連続照射型(CW)レーザの場合、走査時の移動速度を変えることで照射時間を調整することができる。また、パルス型レーザの場合、発光時間を変えることで照射時間を調整することができる。
光学系部品60cには光学顕微鏡が用いられている。光学系部品60cは光源60aからの光を集光する。対物レンズ60dは光学系部品60cと接続されており、照射スポット径は対物レンズ60dで調整される。レーザ光60eの照射スポット径については、対物レンズ60dを用いて数μm〜数百μmに調整することが可能である。光源60aと光学系部品60cの間にはシャッタ60bが設けられている。シャッタ60bは、光源60aからのレーザ光60eを入射させたり、遮蔽したりする開閉操作をする。
光源60a、光学系部品60c、および対物レンズ60dを含むレーザ照射部60は、3次元(X、Y、Z方向)に移動することができる。レーザ照射部60は、電気−機械変換膜10のパターン形状、基板30の厚さ、前駆体溶液の成分等に適合させて適宜動作して、レーザ光の走査を行う。光源60a、シャッタ60b、光学系部品60cおよび対物レンズ60dの調整は、コントローラ70によって制御されている。
溶液ホルダ20は、前駆体溶液を収容できる構造となっている。溶液ホルダ20は、レーザ光60eが基板30まで到達できるように、その上側が開口されている。また、基板30の位置決めは、スペーサ40によってなされる。
蓋部50は、ガラス材で構成されている。これにより、レーザ光60eは蓋部50を透過する。蓋部50は、溶液ホルダ20の上側の開口をふさぐように設置されている。蓋部50は、前駆体溶液90を溶液ホルダ20内に保持する機能を併せ持つ。
基板30としては、ガラス基板、シリコン基板を選択することができる。電気−機械変換素子(圧電素子)を基板30上に形成するには、電気−機械変換膜10がパターニングされる基板30の表面部分に予め電極層15を形成してもよい。
薄膜形成装置1を用いて、基板30に設けられた電極層15上に電気−機械変換膜10を形成する薄膜形成方法では、(1)基板30を、電気−機械変換膜10の前駆体溶液に浸漬する工程と、(2)前駆体溶液中で、電極層15に対しレーザ光を全反射臨界角で入射し、電極層15と前駆体溶液90の界面にレーザ光60eを照射して、電極層15上に前駆体溶液90の一部を変化させた電気−機械変換膜10を形成する工程と、(3)電気−機械変換膜10の結晶状態を評価する工程と、評価によって得られた評価値が目的値の範囲外である場合に、レーザ光60eの照射条件を変え、照射条件が変えられたレーザ光60eを再び電極層15と電気−機械変換膜90との界面に照射する工程と、を有する。薄膜形成方法の詳細については後述する。
電極層15はスパッタ法等で基板全面に成膜して形成される。電極層15を形成後にフォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を経て、電気−機械変換素子のパターン(平面形状)に対応した電極層15をパターニングするとなお好適である。これはレーザ光照射により電気−機械変換膜10を形成する際に、電極層15がレーザ光照射の目標物となるためである。電極層15をパターニングすることで、レーザ光の走査が容易になると共に、必要な箇所、すなわち電極層15の箇所のみに照射することができ、タクトタイムが早くなる。その結果、生産効率が向上し、コスト削減をもたらす。
以下、本発明のより具体的な実施形態を説明する。
前駆体溶液の作製において、出発材料として、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いる。酢酸鉛の結晶水をメトキシエタノールに溶解後、脱水する。鉛量は、化学量論組成に対し13mol%過剰とする。鉛量をこのような量に調整したのは、レーザ光照射による熱処理中の所謂鉛抜けによる電気−機械変換膜10の結晶性低下を防ぐためである。
続いて、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進める。さらに、酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液を混合させて前駆体溶液を製造する。前駆体溶液のPZT固形分濃度は0.5mol/Lとする。また、前駆体溶液には、安定剤としてアセチルアセトンを添加する。
図2は、電気−機械変換膜を形成する過程を説明するための断面模式図である。
まず、図2(a)に示すように、ステップ1として、前駆体溶液内に基板30を設置する。すなわち、前駆体溶液90を電気−機械変換膜10の形成用の基板30と共に、溶液ホルダ90に封入する。図2(a)では、すでに基板30上に電気−機械変換膜10が形成されている状態が示されているが、前駆体溶液内に基板30を設置した直後においては、電気−機械変換膜10は形成されていない。図2(a)では、レーザ照射後の状態が示されている(後述)。基板30としてはシリコン基板を用いる。基板30上には、予め電極層15をパターニングする。例えば、基板スパッタ法により基板30上に電極層15であるPt膜を順次積層して、フォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程を経て電極層30をパターニングする。
電極層30を上から眺めた平面形状は、例えば長方形であり、長手方向の長さが1500μmで、幅(長手方向に対して略垂直な方向の長さ)が50μmである。さらに、電極層30を幅の方向に100μmピッチで複数配列する。なお、基板30と電極層15との間には、中間層である振動板/酸化物電極層、振動板/酸化物電極層/密着層(例えば、TiO2層)を形成してもよい。
続いて、基板30を電極層15の上面が上側となるように溶液ホルダ90内の所定の位置に固定する。さらに、前駆体溶液90によって覆われた基板30と前駆体溶液90とを溶液ホルダ20および蓋部50によって封止する。蓋部50としては、使用するレーザ光を透過するカバーガラス基材を用いる。
次に、ステップ2として、レーザ光60eの照射による加熱により、電気−機械変換膜10を形成する。
例えば、基板30上の電極層15に対し、レーザ照射部60から発生らせるレーザ光60eを照射する。例えば、光源60aからレーザ光60eを光学系部品60cに入射し、対物レンズ60dによって集光させる。レーザ光60eの波長(λ)は、532nmである。光源60aは、連続照射型(CW)レーザ源である。出力は、100mWとする。対物レンズ60dを使用することで、電極層15に到達する直線のレーザ光のスポット径を50μmとする。
このとき、レーザ照射部60からレーザ光60eの電極層15(もしくは、基板30)に対する入射角が全反射臨界角θとなるように調整する。これにより、対物レンズ60dから電極層15に達するレーザ光60eは、さらに電極層15と前駆体溶液90との接触面(界面)に沿って進行させることができる。電極層15と前駆体溶液90との接触面を進行するレーザ光を「全反射光」とする。また、対物レンズ60dから電極層15にまで到達したレーザ光60eが全反射光に屈折する点Pを「入射位置」とする。この接触面における全反射光の進行によって、電極層15と前駆体溶液90の接触面の広い範囲にわたりレーザ光60eが照射される。
レーザ光60eについては、前駆体溶液90に吸収されにくいように、その波長が選択されている。レーザ光60eの前駆体溶液90の透過率は90%以上である。従って、レーザ光60eは前駆体溶液90に吸収されることなく、全反射光によって電極層15の表面が選択的に加熱される。これにより、電極層15上で選択的に前駆体溶液90が熱硬化し、電極層15上に電気−機械変換膜10が形成される。
このように、レーザ光60eを全反射によって電極層15と前駆体溶液90との界面において進行させているが、本実施例においては、全反射光が界面において進行する方向と、電極層15の長手方向と、を一致させている。すなわち、全反射光の進行方向を電極層15のパターン(換言すれば、所望の電気−機械変換膜10のパターン)の長手方向と一致させている。さらに、電極層15と前駆体溶液90との界面において進行するレーザ光60eを、前記界面において進行するレーザ光60eの方向に沿って移動させることが可能である。これにより、電気−機械変換膜10のパターニングを効率よく行うことができる。その理由を以下に説明する。
例えば、全反射条件を満たさない条件を想定してみる。例えば、図2(b)に示すように、レーザ光60eの電極層15(もしくは、基板30)に対する入射角が全反射臨界角ではない場合、電極層15と前駆体溶液90との接触面にはスポット状のレーザ光60eが照射されるのみである。
この状態で電極層15上に電気−機械変換膜10を形成するには、レーザ光60eのスポットを電極層15のパターンに沿って走査する必要がある。例えば、走査速度100μm/sでは、電極層15のパターンの長手方向1回分の走査に15秒を要する。
これに対し、本実施例では、コントローラ70の制御によってレーザ照射部60から電極層15に入射するレーザ光60eを全反射光の進行方向(図2(a)の矢印A)に沿って走査する。そして、レーザ光60eの基板30(もしくは、電極層15)に対する入射角が全反射臨界角θの場合、レーザ光60eの接触面における出射光路はスポットよりも長くなる。このため、この長い出射光路の方向を電極層15の長手方向に合致させることでレーザ光60eの走査距離を大幅に短縮できる。
具体的には、レーザ光60eの入射位置を長手方向に500μm走査する。走査速度は、100μm/sである。この際、全反射臨界角θの入射角度は維持されたままであり、接触面における出射光路の方向は電極層15の長手方向に一致させている。全反射光の光量は入射位置から遠ざかるほど小さくなるため、このような走査を行うことにより、電極層15上の前駆体溶液90を万遍なく加熱することができる。
本実施例では、長手方向1回分の走査時間が5秒であり、長手方向の長さが1500μmの電気−機械変換膜10が形成される。電気−機械変換膜10は、膜厚のばらつき、クラック等が抑えられた良質な膜である。
さらに、全反射光のスポット径を、予め基板30に設けた電極層15の幅(換言すれば、所望の電気−機械変換膜の短手方向の長さ)以下に調整することで、前駆体溶液90の硬化性が良好になる。
レーザ光60eの電極層15(もしくは、基板30)に対する入射角が全反射臨界角θである場合、全反射光の短手方向の寸法は、全反射光のビーム径に相当する。全反射光の短手方向のビームプロファイルは、通常の円形照射スポットと同様に一般的なガウシアンプロファイルになる。
ところで、全反射光の幅が電極層15のパターンの短手方向の寸法、すなわち所望の電気−機械変換膜10のパターンの短手方向の寸法より大きくなると、所望より幅の広い電気−機械変換膜が形成されてしまう。すなわち、幅方向において電極層15がパターニングされていない基板30上にもレーザ光60eが漏れて、電極層15がパターニングされていない基板30上にも電気−機械変換膜が形成されてしまう。このため、全反射光の幅が電極層15のパターンの短手方向の寸法より大きくなると、電気−機械変換素子の寸法を精度よく制御できなくなる。これにより、所望の圧電特性が得られなくなる。
これに対し、実施例では、電極層15と前駆体溶液90との界面において進行するレーザ光60e(全反射光)の光路幅を電極層15の短手方向の長さ以下としでいる。全反射光の光路幅は、例えば50μmである。例えば、全反射光の幅を、電極層15のパターンの短手方向の寸法、すなわち所望の電気−機械変換膜10のパターンの短手方向の寸法と等しくすれば、全反射光の走査は、長手方向の一回のみで済む。これにより、所望の電気−機械変換膜を容易に形成することができる。
また、全反射光の幅を、電極層15のパターンの短手方向の寸法、すなわち所望の電気−機械変換膜10のパターンの短手方向の寸法より短くすれば、よりエネルギー密度の高い全反射光を電極層15と前駆体溶液90との接触面に沿って進行させることができる。例えば、全反射光の光路幅を10μmとする。そして、全反射光を電極層15と前駆体溶液90との接触面内で短手方向に数回シフトさせ、さらに長手方向に走査することで、より結晶性の高い電気−機械変換膜10を形成することができる。
このような方法によって、膜厚のばらつきが抑制され、クラック等のない良質な電気−機械変換膜10を形成することができる。
さらに、図2(c)に示すように、全反射光を二光束としてもよい。そして、レーザ照射部60からレーザ光60eを電極層15の両端部に入射してもよい。電極層15の両端部から互いにレーザ光60eを入射することで、電気−機械変換膜10をより簡便に作製することができる。
レーザ光60eの電極層15に対する入射角が全反射臨界角θの場合、電極層15と前駆体溶液90との接触面に沿って進行する全反射光の光量は入射位置から遠くなるに連れて小さくなる。
上述したように、電極層15の長手方向にレーザ光60eの入射位置を走査すれば光量は確保される。しかし、全反射を利用しても走査を行わない場合は、入射位置とは反対側の電極層15の端部まで充分な光量の全反射光が届かない場合がある。このような場合、形成した電気−機械変換膜のパターン内で膜厚がばらついたり、クラック等が発生したりする。その結果、膜質の不均一な電気−機械変換膜が形成されてしまう。
これに対し、図2(c)では、全反射光を二光束とし、2つのレーザ光60eを電極層15の両端部から互いに入射している。このような方法によれば、全反射光を走査することなく、所望の電気−機械変換膜10を形成することができる。例えば、幅が50μmで、長手方向の長さが1500μmの良質な電気−機械変換膜10を形成することができる。
なお、全反射光を二光束とした場合でも、それぞれの入射位置を電極層15の中心に向かって走査してもよい。この場合、2つのレーザ光60eのそれぞれの入射位置を電極層15の中心に向かって走査するので、単一のレーザ光を使用した場合よりも走査距離が半減する。その結果、製造工程が短縮する。
図3は、薄膜形成方法のフローを説明する図である。
図3に示すフローチャートでは、上述した製造過程のほかに、電気−機械変換膜の結晶性評価等が追加されている。例えば、ステップ3としての標準サンプルの結晶性評価については、電気−機械変換膜10の結晶性を評価する前に行われる。電気−機械変換膜10の結晶状態の情報を得る装置は、X線回折装置(XRD装置)80である。
図3のフローチャートをX線回折装置80の概要(図4)と結晶性評価(図5)を説明しながら説明する。
図4は、X線回折装置の一例を説明する図である。
X線回折装置80については市販されている装置でよく、例えば、D8 Discover with Vantec 2000(Bruker Axs社)を使用することができる。
X線回折装置80において、出力45kV、110mAの条件で、X線照射エリアφ30μmで、軸角度(2θ)を20度から50度、角度分解能を0.02度に設定する。そして、2048ピクセルの受光素子にてTime stepを0.5秒にする。X線回折装置80では、1フレームあたり約10分で評価することができる。
図5は、軸角度と回折強度との関係を説明する図であり、(a)は、標準サンプルに係る軸角度とピーク強度との関係、(b)は、実施例に係る軸角度とピーク強度との関係である。
図5(a)には、標準サンプルのPZT膜に関する特徴的な配向のピークが観測されている。標準サンプルの評価は、電気−機械変換膜10の形成前に実行しておくと、生産性の面でなお好適である。標準サンプルの評価は、図3のフローチャートのステップ3’である。標準サンプルの評価を電気−機械変換膜10の形成前に実行する場合は、ステップ3を省略できる。
ステップ4として、結晶性の目標値の設定を行う。例えば、標準サンプルの評価結果より目標とする配向ピークを選択し、目標とするピーク値および軸角度(2θ)の範囲情報をコントローラ70に入力する。本実施例ではPZT膜の(110)配向の結晶性を重視するため、(110)配向に相当する2θ:31度付近のピーク強度を目標値とする。例えば、目標値を「2θが31度でのピーク強度(Intensity)が700以上」とする。
X線回折で得られるピーク強度は、PZT膜の厚みが厚くなると大きくなる傾向にある。また、一般的にピーク幅が狭いほど結晶性がよく(ぺロブスカイト構造)、圧電素子としての特性が高い。逆に、ピーク幅が広いと結晶性が悪く(パイロクロア構造)、圧電素子の特性が悪い。本実施例の(110)配向結晶性を示す2θ:31度付近のピークは、30度から32度の幅がある。従って、例えば、ピーク幅を30.5度から31.5度まで狭くなる条件を目標値として追加することもできる。
なお、目標値の設定は、電気−機械変換膜10の形成前に実行しておくと生産性の面でなお好適である。図3のフローチャートでは、電気−機械変換膜10の形成前の目標値の設定をステップ4’としている。この場合、ステップ4を省略できる。上述したステップ3およびステップ4を省略すれば、ステップ2から直接ステップ5へ移行することができる。
また、ステップ5として、X線回折にて、レーザ加熱によって形成された電気−機械変換膜10の結晶性を評価する。そして、結晶性評価により得られた結晶状態の情報が前駆体溶液90を加熱して結晶化を行うためのレーザ光60eの照射条件にフィードバックされる。すなわち、リアルタイムで、ステップ5で設定された結晶性結果と目標値と比較し、実施例に係る電気−機械変換膜10と標準サンプルに係る電気−機械変換膜とが同等の結晶性になるまでレーザ照射による加熱を続ける。
このリアルタイム評価については、それぞれの結晶性を高速かつ高精度に評価する必要がある。例えば、受光素子を2θレンジ内でアレイ化することで、PANalytical社やRigaku社製のXRD装置のような単一受光素子をある角度において駆動させる方式よりも高精度かつ高速に測定できる。また、測定レンジを限定することでも高精度、高速測定に対応できる。例えば、軸角度(2θ)を全範囲(20〜50度)で変える必要はなく、目標値の設定として注目した31度付近で変えれば、高精度、高速測定に対応できる。
このようにリアルタイム測定された結晶性の情報を基に結晶性を判定し、目標値に達した場合は電気−機械変換膜10の成膜を終了させる。また、目標値に達していない場合はレーザ照射条件をリアルタイムにカスタマイズし、ステップ2と同様に再度全反射光を用いて前駆体溶液90を加熱する。これにより、良好な電気−機械変換膜10が形成される。
レーザ照射条件の可変パラメータとしては、レーザ出力、レーザ照射時間、照射回数、走査速度等が挙げられる。これらのパラメータのいずれかを変えて目標とする結晶性に達するまでレーザ加熱を行うことで、結晶性に優れた電気−機械変換膜10を作製することができる。
図5(b)に、1回目のみのレーザ照射によって形成された電気−機械変換(PZT)膜の評価結果を示す。この結果では、2θ:31度付近のピーク強度(Intensity値)が目標値の700以上に達していない。このため、全反射光による加熱を再度実施したところ、ピーク強度は、図5(a)に示す結果とほぼ同様になった。さらに、電気−機械変換膜10としてのPZT膜の厚みは1.4μmとなり、クラックなどの欠陥は生じなかった。また、実施例に係るPZT膜のX線回折のチャートは、標準サンプルに係るPZT膜のX線回折チャートと同等になった。
また、X線回折装置80を薄膜形成装置1に組み込むことにより、レーザ光照射部60とX線回折装置80とが一台の薄膜形成装置1内で機能する。これにより、図3に示すフローチャートがスムーズにかつ迅速に遂行される。
また、電気−機械変換膜10は、基板30を液体ホルダ20から取りだした段階では、電極層15上に形成されている。このとき、電極層15外の領域には前駆体溶液90が付着接触している。この前駆体溶液90については、メタノール溶媒を用いて洗浄することにより除去できる。さらに、電気−機械変換膜10上に上部電極膜(Pt膜)を成膜して、電気−機械変換膜10を含む電気−機械変換素子を形成した。電気−機械変換素子の構造は、下層から電極層15/電気−機械変換膜10/上部電極膜の順で積層された積層構造である。
図6は、P−Eヒステリシス曲線の例を示す図である。
電気−機械変換膜10がPZT膜であるときの分極量(Polarization)と膜への印加電界(Applied field)の関係は,図6のようなヒステリシスを持ったP−E曲線となった。図6から、残留分極(曲線と縦軸との交点)は21μC/cm2、であり、抗電界(曲線と横軸との交点)は38.7kV/cmである。また、PZT膜の比誘電率は1470であり、誘電損失は0.03であった。形成したPZT膜は、通常のセラミック焼結体と同等の特性を有することが分かった。
また、PZT膜の電気−機械変換能を、電界印加による変形量をレーザドップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その結果、圧電定数d31は140pm/Vとなり、この値からもセラミック焼結体と同等の特性を有することが分かった。すなわち、形成したPZT膜は液体吐出ヘッドとして充分に機能し得る特性値を有する。
(第2実施形態)
図7は、液体吐出ヘッドの断面模式図であり、(a)は、単一の液体吐出ヘッドの断面模式図であり、(b)は、複数個配置した液体吐出ヘッドの断面模式図である。
図7に示す液体吐出ヘッド2A、2Bのそれぞれは、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置もしくは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置の液体吐出ヘッドである。図7(b)に示す液体吐出ヘッド2Bは、図7(a)に示す液体吐出ヘッド2Aを複数個配置したものである。液体吐出ヘッド2Aの構成について説明する。
液体吐出ヘッド2Aは、インク滴を吐出するノズル102と、ノズル102が連通する圧力室101と、圧力室101内に充填されるインクを加圧する圧電素子などの電気−機械変換素子109、および圧力室101に接する振動板105と、を備える。
電気−機械変換素子109は、下側から順に、酸化物電極層17(中間層)/電極層15(下部電極膜)/電気−機械変換膜10/電極層16(上部電極膜)の順で積層された積層構造を有する。
液体吐出ヘッド2Aでは、電極層15と電極層16とに電圧を印加して電気−機械変換素子109を振動させてエネルギーを発生させる。これにより、ノズル102からインクが噴出する。なお、符号103は、ノズル板を示し、符号104は、圧力室基板(シリコン基板)を示す。
本発明によれば、電気−機械変換素子109が簡便な製造工程で形成できる。電気−機械変換膜10は、上述したようにバルクセラミックスと同等の特性を有する。
液体吐出ヘッド2Aを形成するときは、上述した基板30に圧力室101を形成するための裏面エッチングを施し、基板裏面に凹部、すなわち圧力室101を形成する。そして、ノズル102を有するノズル板103と、圧力室基板104(すなわち、エッチング後の基板30)と、を接合することで液体吐出ヘッド2Aが形成される。なお、図では液体供給手段、流路、流体抵抗について割愛している。
(第3実施形態)
図8は、インクジェット記録装置を説明する模式図であり、(a)は、インクジェット記録装置の斜視模式図、(b)は、インクジェット記録装置の機構部分の側面模式図である。
インクジェット記録装置3は、液体吐出ヘッド2Aもしくは2Bを搭載している。インクジェット記録装置3は、記録装置本体810の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部820等を収納している。
記録装置本体810の下方部には前方側から多数枚の用紙830を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイ)840を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙830を手差しで給紙するための手差しトレイ850を開倒することができる。記録装置本体810は、給紙カセット840あるいは手差しトレイ850から給送される用紙830を取り込み、印字機構部820によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ860に排紙する。
印字機構部820は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド910と従ガイドロッド920とでキャリッジ930を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ930は、記録ヘッド940を複数のインク滴吐出方向を下方に向けて装着している。複数のインク吐出口(ノズル)は、主走査方向と交差する方向に配列されている。なお、記録ヘッド940は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッドからなる。キャリッジ930には記録ヘッド940に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ950が交換可能に装着されている。
インクカートリッジ950は、上方に大気と連通する大気口を有し、下方には液体吐出ヘッドへインクを供給する供給口を有し、内部にはインクが充填された多孔質体を有する。多孔質体の毛管力により液体吐出ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、ここでは各色の記録ヘッド940を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の記録ヘッドとしてもよい。
キャリッジ930は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド910に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド920に摺動自在に載置している。キャリッジ930を主走査方向に移動走査する。例えば、主走査モータ970で回転駆動される駆動プーリ980と従動プーリ990との間にタイミングベルト1000を張装し、タイミングベルト1000をキャリッジ930に固定し、主走査モータ970の正逆回転によってキャリッジ930が往復駆動される。
一方、給紙カセット840にセットした用紙830をヘッド940の下方側に搬送するために、給紙カセット840から用紙830を分離給装する給紙ローラ1010およびフリクションパッド1020と、用紙830を案内するガイド部材1030と、給紙された用紙830を反転させて搬送する搬送ローラ1040と、この搬送ローラ1040の周面に押し付けられる搬送コロ1050および搬送ローラ1040からの用紙830の送り出し角度を規定する先端コロ1060とを設けている。搬送ローラ1040は副走査モータ1070によってギヤ列を介して回転駆動される。
また、記録装置本体810には、キャリッジ930の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ1040から送り出された用紙830を記録ヘッド940の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材1090が設けられている。この印写受け部材1090の用紙搬送方向下流側には、用紙830を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ1110、拍車1120を設け、さらに用紙830を排紙トレイ860に送り出す排紙ローラ1130および拍車1140と、排紙経路を形成するガイド部材1150、1160とを配設している。
記録時には、キャリッジ930を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド940を駆動することにより、停止している用紙830にインクを吐出して1行分を記録し、用紙830を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙830の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙830を排紙する。
また、キャリッジ930の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド940の吐出不良を回復するための回復装置1170を配置している。回復装置1170はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ930は印字待機中にはこの回復装置1170側に移動されてキャッピング手段でヘッド940をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド940の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、このインクジェット記録装置3においては、液体吐出ヘッド2Aもしくは2Bを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
以上、実施形態を説明してきたが、本発明によれば、信頼性が高く、かつ迅速に電気−機械変換膜を形成することができる薄膜形成装置、薄膜形成方法、液体吐出ヘッド、およびインクジェット記録装置、さらに信頼性が高い電気−機械変換素子が実現する。また、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではない。他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができる。いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。