JP5988128B2 - 薄膜製造装置及び電気機械変換膜の製造方法 - Google Patents

薄膜製造装置及び電気機械変換膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、薄膜製造装置及び電気機械変換膜の製造方法に関するものである。
従来、電気機械変換膜を電極で挟むように構成された電気機械変換素子は、例えばインクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置で用いられている。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
そして、上記インクジェット記録装置は、主として、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する吐出室、加圧液室、圧力室、インク流路室と称する液室と、該液室内のインクを吐出するための圧力発生手段とで構成されている。この圧力発生手段として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型の圧力発生手段が知られている。このピエゾ型の圧力発生手段に使用される電気機械変換素子は、下部電極と、電気機械変換層と、上部電極とが積層したものからなる。各圧力室にインク吐出の圧力を発生させるのに個別の電気機械変換素子が配置されることになる。電気機械変換層は電気機械変換膜を形成する工程を複数回行って形成される。電気機械変換膜は例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が用いられ、これらは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称される。
この電気機械変換膜の製造方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、レーザブレーション法等があるが、これらのうち、ゾルの塗布、乾燥、熱分解、結晶化という工程により成膜するゾルゲル法は、結晶状態の制御性に優れている。このゾルゲル法を用いた電気機械変換膜の製造方法として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1の製造方法では、下部電極となる白金は濡れ性が強く、下部電極の表面は親液性の特性を有する親液面となる。そして、上記PZTの成分を含む溶液が下部電極の表面に塗布されると、その表面は濡れ性が弱くなり、疎液性の特性を有する疎液面となる。そして、塗布された上記PZT溶液の膜上にフォトリソグラフィーにより所定のパターンに形成されたフォトレジストを配置し、そのフォトレジストの所定のパターンに合わせたエッチングを行う。具体的には、酸素プラズマの照射又はUV光の照射によりフォトレジストで被覆されずに剥き出しになっている上記PZT溶液の膜を除去し、フォトレジストで被覆されていた上記PZT溶液の膜は残る。その後、加工に用いたフォトレジストを取り除いてフォトレジストによって被覆されていた上記PZT溶液の膜のパターニングを完了する。以上の工程を行うことにより、下部電極上のPZT液が塗布される所定部分以外の表面を疎液面にする表面改質が行われる。
次に、上記エッチングによって上記PZT溶液の膜が除去された下部電極上の所定部分には、電気機械変換膜を形成するための原料を前駆体の溶媒に溶融したPZT液の液滴が液滴吐出ヘッドのノズルから滴下される。そして、上記所定部分に滴下された上記PZT液の膜のみに所定の温度での熱処理工程を行う。この熱処理工程は、上記PZT液を乾燥させる工程、乾燥させた上記PZT液の膜を熱分解させる工程、及び熱分解された上記PZT液の膜を結晶化させる工程を含んでいる。この熱処理の方法にはいくつかある。一般的にハロゲンランプなどを使用したラピッドサーマルアーニング装置や、赤外線などで加熱する加熱装置がある。その他には、エネルギー交換効率が良く、工程作業時間が短く、急加熱が可能である利点からレーザ光照射による加熱装置も多く使用されている。このレーザ光照射による加熱装置として、特許文献2に記載のものが知られている。この特許文献2のレーザ光照射による加熱装置では、液滴吐出ヘッドにより電気機械変換の成分溶液の液滴を基板の所定部分に吐出し、電気機械変換膜の成分溶液にレーザ光を照射して熱処理工程を行っている。
しかしながら、上記特許文献2のレーザ光照射による加熱装置では、熱処理工程におけるレーザ光のレーザパワーが高すぎると電気機械変換膜にヒビが入り、電気機械変換膜としての機能を失ってしまう。レーザパワーが低すぎると、PZT液に含まれる前駆体の溶媒が完全に蒸発せず、もしくは電気機械変換膜が完全に結晶化せず、電気機械変換膜としての機能が低下してしまう。
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、最適な加熱条件で加熱することで良質な薄膜を製造できる薄膜製造装置及び電気機械変換膜の製造方法を提供することである。
上記目的を達成するために、薄膜形成材料を溶媒に溶解した溶液を対象物の所定の部分に塗布する塗布手段と、該塗布手段によって塗布された前記溶液を加熱する加熱手段とを有する薄膜製造装置において、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、加熱された前記溶液の乾燥状態を検出する乾燥状態検出手段と、前記溶液の乾燥状態に対する最適な加熱条件の関係の特性データを記憶する記憶手段と、前記加熱手段によって加熱した前記溶液の乾燥状態を前記乾燥状態検出手段によって検出し、検出した前記溶液の乾燥状態に対応する最適な加熱条件を前記記憶手段に記憶している前記特性データから決定し、決定した前記加熱条件で前記加熱手段による加熱を制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
本発明においては、薄膜形成材料を溶媒に溶解した溶液を加熱すると溶媒が蒸発して溶液が乾燥する。この溶液の乾燥状態が薄膜の品質に影響することがわかっている。このため、溶液の乾燥状態を検出して、検出した溶液の乾燥状態に対する最適な加熱条件の関係の特性データと照合する。そして、溶液の乾燥状態に対応する最適な加熱条件を決定する。決定した最適な加熱条件で加熱手段を制御して溶液の加熱を行う。これにより、加熱し過ぎたり、加熱が不足したりすることを少なくすることで、良質な薄膜を製造することができる。
本発明によれば、良質な薄膜を製造できるという効果が得られる。
本発明の実施形態の液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。 本実施形態の液滴吐出装置の概略透視斜視図である。 本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の形成を伴う電気機械変換素子の製造工程を示す工程断面図である。 P(分極)−E(電界強度)のヒステリシス曲線を示す特性図である。 薄膜製造装置で製造した電気機械変換素子を用いて構成した液滴吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。 図5の液吐出ヘッドを複数並べた構成例を示す概略構成図である。 本実施形態の薄膜製造装置における製造工程を示す模式図である。 リアルタイムレーザ光制御装置の構成を示す模式図である。 本実施形態のレーザ光制御工程を示すフローチャートである。 レーザ光の波長に対する反射率を示す特性図である。 SAM膜を除去した電極露出面及びSAM膜を配置したままの表面における純水の接触角の各様子を示す説明図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の実施形態の液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。また、図2は本実施形態の液滴吐出装置の概略透視斜視図である。両図に示す本発明の液滴吐出装置の一例であるインクジェット記録装置100は、主に、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101と、キャリッジ101に搭載した本発明を実施して製造した液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102と、記録ヘッド102へインクを供給するインクカートリッジ103とを含んで構成される印字機構部104を有している。また、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙105を積載可能な給紙カセット106を抜き差し自在に装着することができ、また用紙105を手差しで給紙するための手差しトレイ107を開倒することができ、給紙カセット106或いは手差しトレイ107から給送される用紙105を取り込み、印字機構部104によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ108に排紙する。
印字機構部104は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド109と従ガイドロッド110とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には記録ヘッド102に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ103を交換可能に装着している。インクカートリッジ103は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド102へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド102へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
また、記録ヘッド102としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド109に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド110に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ111で回転駆動される駆動プーリ112と従動プーリ113との間にタイミングベルト114を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ101に固定しており、主走査モータ111の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
一方、給紙カセット106にセットした用紙105を記録ヘッド102の下方側に搬送するために、給紙カセット106から用紙105を分離給装する給紙ローラ115及びフリクションパッド116と、用紙105を案内するガイド部材117と、給紙された用紙105を反転させて搬送する搬送ローラ118と、この搬送ローラ118の周面に押し付けられる搬送コロ119及び搬送ローラ118からの用紙105の送り出し角度を規定する先端コロ120とを設けている。搬送ローラ118は副走査モータ121によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ118から送り出された用紙105を記録ヘッド102の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材122を設けている。この印写受け部材122の用紙搬送方向下流側には、用紙105を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ123、拍車124を設け、さらに用紙105を排紙トレイ108に送り出す排紙ローラ125及び拍車126と、排紙経路を形成するガイド部材127、128とを配設している。
記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド102を駆動することにより、停止している用紙105にインクを吐出して1行分を記録し、用紙105を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙105の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙105を排紙する。
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド102の吐出不良を回復するための回復装置129を配置している。回復装置129はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置129側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド102をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
このように、このインクジェット記録装置は、本実施形態のインクジェットヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて画像品質が向上する。
次に、本発明の実施形態の電気機械変換膜の製造工程について説明する。なお、本実施形態では、圧電定数d31の変形を利用した横振動(ベンドモード)型の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子を例として説明するが、本発明はこの型の電気機械変換膜に限定されることなく適用可能である。
電気機械変換膜がPZT膜の場合、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを出発材料として合成したPZT前駆体溶液を用いることができる。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解した後、脱水する。化学量論的組成に対し鉛量を10[mol%]過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と均一に混合することによりPZT前駆体溶液を合成することができる。このPZT前駆体溶液のPZT濃度は例えば0.1[mol/l]にする。
また、電気機械変換膜がPZT膜の場合のPZT前駆体溶液は、非特許文献1に記載されている、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、均一溶液として得るようにしてもよい。上記PZT前駆体溶液は「ゾルゲル液」とも呼ばれる。
PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
また、下地となる基板上の第1の電極の表面に電気機械変換膜としてのパターン化したPZT膜を得る場合、上記溶液を塗布液として液滴吐出方式で塗布することにより塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでパターン化したPZT膜が得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるようにするのが好ましい。そして、前駆体濃度は、電気機械変換膜の成膜面積とPZT前駆体溶液の塗布量との関係から適正化するように調整するのが好ましい。また、液滴吐出装置の電気機械変換素子として用いる場合、このPZT膜の膜厚は1[μm]〜2[μm]が要求される。この膜厚を得るには十数回〜二十工程、工程を繰り返すことになる。
更に、ゾルゲル法によるパターン化した電気機械変換層の形成の場合には、下地となる基板の濡れ性を制御したPZT前駆体溶液の塗り分けをする。これは、非特許文献2に示されているアルカンチオールが特定金属上に自己配列する現象を利用したものであり、まず、基板の白金族金属の表面に、チオールのSAM(Self assembled monolayer)膜を形成する。SAM膜上はアルキル基が配置しているので、疎液性になる。このSAM膜は、例えば周知のフォトリソグラフィ・エッチングにより、フォトレジストを用いてパターニングすることができる。レジスト剥離後も、パターン化SAM膜は残っているので、この部位は疎液性になっている。一方、SAM膜が除去された部位は白金表面が露出しているため、親液性になっている。この表面エネルギーのコントラストを利用してPZT前駆体溶液の塗り分けをすることができる。本実施形態では、上記SAM膜を、PZT前駆体溶液を塗布しない領域に選択的に形成した後、以下に示すように、PZT前駆体溶液の消費量を低減することができる液滴吐出方式による塗工(インクジェット塗工)でPZT前駆体溶液を選択的に塗布している。
図3は本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の形成を伴う電気機械変換素子の製造工程を示す工程断面図である。同図の(a)に示す基板11の表面(上面)には、チオールとの反応性に優れた第1の電極としての図示しない白金族金属からなる白金電極が、例えばスパッタ法により形成されている。この基板11の白金電極の表面に、同図の(b)に示すようにSAM膜12が形成される。SAM膜12は、アルカンチオール液に基板11をディップして自己配列させることで得られる。本例では、CH(CH)−SHのアルカンチオールの分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に所定濃度(例えば数[mol/l])で溶解させたアルカンチオール液を用いた。このアルカンチオール液に基板11を浸漬させ、所定時間後に取り出した後、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することにより、白金電極の表面にSAM膜12を形成することができる。次に、同図の(c)に示すように、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト13をパターン形成し、同図の(d)に示すようにドライエッチング(例えば、酸素プラズマの照射又はUV光の照射)によりSAM膜12を除去し、加工に用いたフォトレジスト13を除去してSAM膜12のパターニングを終了する。このように形成されたSAM膜12は、純水に対する接触角が例えば92度であり、疎液性を示す。一方、SAM膜12が除去されて露出した基板11の白金電極の表面は、純水に対する接触角が例えば54度であり、親液性を示す。
次に、図3の(a)〜(d)に示す工程を行った後、PZT前駆体溶液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式、具体的には液滴吐出ヘッド14によりPZT前駆体溶液15が塗布される(図3の(e)参照)。このPZT前駆体溶液15の塗布は、疎液部であるSAM膜上にはPZT膜16が形成されず、SAM膜を除去された親液部のみにPZT膜が形成されるように行われる。最後に、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで電気機械変換膜17が得られる(図3の(f)参照)。
上記図3の方法では、上記図3の(a)〜(d)及び液滴吐出方式によるPZT前駆体溶液の塗布、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各熱処理を1回ずつ実行して所定膜厚の電気機械変換膜を得る場合について示したが、上記図3の(a)〜(d)、液滴吐出方式によるPZT前駆体溶液の塗布の図3の(e)、及び溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各熱処理の図3の(f)を、所定回数(2回以上)繰り返して実行して薄めに設定した電気機械変換膜を多層に重ねて形成し、所定膜厚の電気機械変換膜を得るようにしてもよい。この場合、電気機械変換膜のクラックの発生をより確実に防止できる。
また、上記図3の方法では、第1の電極上のPZT前駆体溶液が塗布される所定部分以外の表面をSAM膜によって疎液面にする表面改質を行っているが、第1の電極の表面が疎液面の場合は、その第1の電極上のPZT前駆体溶液が塗布される所定部分の表面を親液面にする表面改質を行ってもよい。
上述した製造工程を15回繰り返し500[nm]の膜を得た。このとき作製された膜にクラックなどの不良は生じなかった。さらに、15回のPZT前駆体の選択塗布とレーザ照射を行い、結晶化処理をした。膜にクラックなどの不良は生じなかった。膜厚は1000[nm]に達した。このパターン化膜に上部電極(白金)を成膜し電気特性、電気機械変換能(圧電定数)の評価を行った。その結果、図4のP(分極)−E(電界強度)のヒステリシス曲線が得られた。膜の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3[μC/cm]、抗電界は36.5[kV/cm]であり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持っていることがわかった。また、電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザドップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は120[pm/V]となり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。この値は液体吐出ヘッドに用いる圧電素子として十分設計できうる特性値である。電極膜として白金やSrRuOやLaNiOやIrOなどの酸化物を溶媒に溶かし、インクジェット法で塗布、レーザ照射することで圧電体層と同様に電極膜も形成することができる。
図5は上記製造方法で製造した電気機械変換素子を用いて構成した液滴吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。図示の例では、液室基板となるシリコン基板20上に、振動板30、密着層41及び下部電極(第1の電極)42を積層し、その下部電極(第1の電極)42上の所定部分に、上記簡便な製造方法により、バルクセラミックスと同等の性能を持つ電気機械変換素子(PZT素子)43及び上部電極44をパターン化して形成することができる。その後、シリコン基板20の裏面(図中の下面)からエッチング除去工程により液室22aを形成し、ノズル孔21を有するノズル板22を接合することにより、液体吐出ヘッド50を作製することができる。なお、図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は省略した。また、図5の液滴吐出ヘッド50は、図6に示すように複数個並べるように構成することもできる。
図7は本実施形態の薄膜製造装置における製造工程を示す模式図である。同図において、Y軸に移動するY軸駆動手段201の上には、基板11を固定するステージ202が設置されている。Y軸駆動手段201の上方には、液滴吐出装置300、連続照射レーザ装置400、パルス照射レーザ装置500が移動方向の上流側から下流側へ向かって並んでいる。ステージ202には図示されていない真空、静電気などの吸着手段が付随しており基板11が固定されている。また、図示されていないが、ステージ202にはX軸駆動手段も搭載されており、Y軸駆動手段201と連動して基板11を2次元的にスキャンすることができる。更に、図示されていないが、Z軸駆動手段も搭載されており、液滴吐出装置300、または連続照射レーザ装置400及びパルス照射レーザ装置500のレーザ照射システムと基板との距離を制御することができる。更に、図示されていないが、ステージ202にはZ軸を中心に回転する駆動手段も搭載されており、液滴吐出装置300、またはレーザ照射システムと基板との相対的な傾きを補正することができる。駆動系は液滴吐出装置300、またはレーザ照射システムに搭載し、前記と同じ機能を得ることが可能である。
図3に示すような基板上にSAM膜のパターンを形成し、ステージ202上に設置する。一般的に使用されるアライメント装置(CCDカメラ、CMOSカメラ)などを用いて、基板11の位置や傾きなどをアライメントする。ステージ202をY軸および必要であればX軸に駆動させて、図7に示すように基板11上のSAM膜が存在しない領域(親液部)に機能性インク301をパターニングする。基板11上の親液部に着弾した機能性インク膜302は時間とともに濡れ広がる。次に、ステージ202をY軸および必要であればX軸に駆動させて、連続照射レーザ装置400にて濡れ広がった機能性インクのパターンにレーザ光401を照射して機能性インク膜402を乾燥させる。一般的にレーザは半導体レーザやYAGレーザを用いることができる。波長は基板の光吸収率が比較高い領域、例えば400[nm]〜10000[nm]あたりを使用する。レーザパワーは数[W]から数十[W]で機能性インクの溶媒を蒸発させ、さらに熱分解も可能である。もちろん、基板の移動速度にもよるが、10[mm/s]〜1000[mm/s]あたりの速度であればパワー設定で問題ない。ビーム径は数十[μm]〜数百[μm]で、ビームプロファイルは一般的なGaussianプロファイルで問題ない。レーザ光はSAM膜がある領域も照射してしまうが、上記設定条件では基板の温度が500[℃]以下にとどまるので、SAM膜は消失しない。最後に、熱分解した機能性インク膜上をパルス照射レーザ装置500にて機能性インクパターン上のみレーザ光501を照射する。レーザパワーは同じく数[W]から数十[W]、照射時間は数[μ秒]〜数百[μ秒]、発光周波数は機能性インクのパターンと基板の移動速度に合わせる。例えば、パターン間隔が100[μm]で、基板移動速度が100[mm/s]の場合、パルスレーザの発光周波数は1[kHz]なので、一般的に市場で販売している半導体ファイバーカプリングレーザ装置、もしくは半導体レーザスタック装置を使用することが可能である。パルスレーザ発光中に基板11が移動することで、例えば照射時間が100[μ秒]で、基板移動速度が100[mm/s]の場合、10[μm]照射する範囲が広がる。このような広がりを加味し、パターン形状に合った照射タイミングを制御し、SAM膜領域に照射しないようにする必要がある。上記工程を繰り返し、積層することで、基板11上に任意のパターンと厚さの結晶化した機能性インク膜502が効率良く製作できる。
図8はリアルタイムレーザ光制御装置の構成を示す模式図である。同図において、図7と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示すリアルタイムレーザ制御装置600は、レーザ光照射装置601、フーリエ変換赤外分光光度計を含むフーリエ変換赤外分光(:Fourier Transform Infra Red、以下FT−IRと略す)計測装置の赤外線光源602及びFT−IR計測装置の検出器603を含んで構成されている。レーザ光照射装置601は、基板11上の機能性インク膜302にレーザ光604を照射する。そして、FT−IR計測装置の赤外線光源602は基板11上の機能性インク膜302に赤外線605を照射する。機能性インク膜302に透過して反射された反射光606が検出器603に入射する。FT−IR計測装置の干渉計607を赤外線光源602と機能性インク膜302との間に配置する。そして、FT−IR計測装置の検出器603によって検出された赤外線に基づいて得られた機能性インク膜302の乾燥状態の情報をレーザ光源制御部608に供給する。レーザ光源制御部608では、検出した乾燥状態の情報と予め記憶されている後述する特性データとを比較し、比較の結果検出した乾燥状態に対応するレーザ光照射条件を決定する。そして、レーザ光源制御部608は、決定したレーザ光照射条件でレーザ光照射装置601のレーザ光照射を制御する。FT−IR計測の原理は一般的に既知であるため、ここでの説明は省略する。
次に、本実施形態のレーザ光制御工程について当該工程を示す図9の動作フローに従って説明する。
先ず、図7の基板11上に機能性インクをインクジェット法もしくはスピンコート法で均一に塗布し機能性インク膜302を形成する(ステップS101)。そして、初期のレーザ光照射条件で機能性インク膜302の溶媒を蒸発させるためにレーザ光を照射して加熱し、レーザ光照射条件を微調整しながらレーザ光を照射して溶媒が完全に蒸発するまで加熱する(ステップS102)。一般的にはオーブンやRTAなど用いることが可能だが、本実施形態ではDilas社製のレーザ装置400を用いた。次に、機能インク膜302の乾燥状態をFT−IR計測装置にて計測する(ステップS103)。例えば市販されているFT−IR計測装置としてThermo Scientific社製のNocoletシリーズを使用することができる。この装置であれば27000〜15[cm^-1](370〜666,667[nm])のスペクトル範囲を、1波長で数[msec]で計測可能である。本計測で得られる情報の一例を図10に示す。図10はレーザ加熱前と加熱後の計測結果を示す。溶媒蒸発時に減少する特徴的なピークが波長6500[nm]あたりと、波長7100[nm]あたりと、波長7500[nm]あたりに見受けられる。反射率として機能性インク無し(白金基板)の測定結果を示す。溶媒などがないため、波長でのピークは見受けられない。図10中の波形700は、機能性インク膜が無い場合つまり白金基板に対するFT−IRスペクトル結果を示す。波形701は、機能性インク膜がある場合で、36[W]で4回のレーザ光照射を行って加熱後のFT−IRスペクトル結果を示す。波形702は、機能性インク膜がある場合で、36[W]で1回のレーザ光照射を行って加熱後のFT−IRスペクトル結果を示す。波形703は、機能性インク膜がある場合で、塗布直後のFT−IRスペクトル結果を示す。波形704は、波形703の波長6500[nm]あたりのピーク値を示す。波形705は、波形703の波長7100[nm]あたりのピーク値を示す。波形706は、波形703の波長7500[nm]あたりのピーク値を示す。
次に、目標とする特徴的ピークを選択する(ステップS104)。例えば本実施形態では6500[nm]あたりのピークが溶媒の蒸発状態を示すことが分かっている。そこで、本実施形態の目標値を波長6500[nm]の反射率が98%以上になることとする。一般的に、計測結果は測定領域によって大きく変わる。FT−IRの測定領域と機能性インクのパターン形状が同じもしくはFT−IRの測定領域の方が小さいほうがノイズは小さく、より効率的に計測することができる。実際のFT−IRにおける溶媒蒸発状態の測定はレーザ照射中にリアルタイムに行うので、数[msec]から数十[μsec]の測定時間しかない。測定時間が短いと、検出器に入る光量が少ないことから、結果的に反射率が低く計測されてしまう。従って、事前計測ではリアルタイム計測を考慮した計測時間に設定することが好ましい。もちろん、狙いの溶媒蒸発状態(スペクトルの見たいピーク)が異なると目標値も変わることは言うまでもない。例えば、7100[nm]あたりのピーク値を条件に設定することが好ましい。さらに、7500[nm]あたりに条件を設定することも好ましい。さらに、複数のピーク値をある割合を決めてそれを目標値として設定することも有効である。例えば、6500[nm]は反射率が95%以上、7100[nm]は反射率98%以上、7500[nm]は反射率93%以上などである。さらに、目標値の設定条件を単純にある波長のピーク値としても良いが、例えば図10が示す6500[nm]近辺のピークには幅がある。この場合、6250[nm]から6750[nm]の幅があるのが分かる。例えば目標値としてこのピーク幅が6400[nm]から6600[nm]まで狭くなることを条件として追加することもできる。
そして、目標とする反射率のピーク値、波長のレンジ情報を記録する(ステップS105)。その後、基板上に機能性インクをインクジェット法もしくはスピンコート法で均一に塗布し、膜を形成する(ステップS106)。次に、機能性インク膜をレーザ加熱する(ステップS107)。そして、FT−IR計測装置にて機能インク膜の溶媒蒸発状態を計測し(ステップS108)、リアルタイムにステップS105で記録された目標の乾燥状態の反射率値と比較する(ステップS109)。同等の溶媒乾燥状態が得られるまでレーザ加熱を続ける(ステップS109:NO、ステップS107、S108)。リアルタイム計測において、溶媒乾燥状態を高速、かつ高精度に計測するにはいくつか方法がある。一つは複数の光源と検出器を必要な波長レンジ内でアレイ化することで、一般的によく使用されているFT−IR計測装置のような単一の光源と検出器をある波長レンジで計測する方式よりも高精度、かつ高速に測定できる。もう一つは測定する波長レンジを限定する。ステップS104でも記載したが、狙いの波長が決まればその波長の範囲の情報のみ必要であるから、370[nm]から666,667[nm]までの広い範囲を測定する必要はなく、その結果高速計測が可能となる。このようにリアルタイム計測された溶媒蒸発状態の情報を基にレーザ加熱の条件をリアルタイムに変え、最適な膜を形成する。
ここで、レーザ加熱条件で変えることが可能なパラメータとして、レーザパワー、レーザ照射時間、レーザ照射回数などがある。一般的に、レーザパワーはレーザ制御装置のパワーを制御する入力電圧を変えることでリアルタイムに調整できる。レーザ照射時間は連続照射型(CW)レーザの場合図7に示すステージ202の移動速度を変えることで可能で、パルスレーザの場合発光時間を変えることで可能である。さらに、基板を再度レーザの下に搬送することで同じパターンに複数回照射することができる。このようにレーザの加熱条件をリアルタイムに変えることで、良質かつ均一な特性をもった複数パターン膜を製作することができる。更に、FT−IR計測精度を効率的に高めるために、FT−IR計測エリアとレーザ照射エリアの形状が同じ、もしくはFT−IR計測エリアの方が小さいことで、無駄なエリアの計測結果を反映することなく、高精度な制御が可能となる。
最後に、上記ステップS101からステップS108を目標の膜厚に到達するまで機能性インクを重ね塗りし続ける。本実施形態では上記工程を繰り返し、厚さ約1〜2[μm]の圧電素子を製作した。本実施形態ではレーザ照射エリア1000[μm]×50[μm]、レーザ波長980[nm]、レーザビームプロファイルはトップハット(フラット)、基板スキャン速度100[mm/s]、20〜40[W]付近に最適レーザパワーが認められ、初期的に設定した。上記条件にて製作した機能性インク膜はクラックが無く、結晶化は良好で、圧電素子特性を計測し良好であった。加熱工程が終わると、2回目以降の工程で毎回SAM膜形成する。2回目以降の手順としてはPZT前駆体溶液の消費量を低減したい場合はインクジェット塗工もしくは凸版印刷でPZTのパターンを形成し、レーザ照射システムにて溶媒蒸発、熱分解、結晶化を行う。上記工程を所望の膜厚になるまで繰り返す。この方法によるパターン化はセラミックス膜厚が5[μm]の厚さまで形成できる。下部電極として用いられる材料は耐熱性かつアルカンチオールとの反応によりSAM膜を形成する金属が選ばれる。銅や銀はSAM膜を形成するが大気下中、500℃以上の熱処理により変質してしまうので用いることはできない。
更に、金は両条件を満たすものの、積層するPZT膜の結晶化に不利に働くので使えない。白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、の単金属や白金-ロジウムなどの白金を主成分とした他の白金族元素との合金材料も有効である。シリコン基板上に配置する振動板は厚さ数ミクロンでシリコン酸化膜や窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、およびこれら各膜を積層した膜でも良い。また熱膨張差を考慮した酸化アルミニウム膜、ジルコニア膜などのセラミック膜でも良い。これら材料は絶縁体である。下部電極は圧電素子に信号入力する際の共通電極として電気的接続をするので、その下にある振動板は絶縁体か、もしくは導体であれば絶縁処理を施して用いることになる。シリコン系絶縁膜は熱酸化膜、CVD堆積膜を用い、金属酸化膜はスパッタリング法で成膜することができる。これら振動板上に白金族下部電極を配置する場合、膜密着力を強めるための密着層41が必要となる(図5参照)。密着層として可能な材料はチタン、タンタル、酸化チタン、酸化タンタル、窒化チタン、窒化タンタルやこれら積層膜が有効である。
図7に示すように連続照射レーザ装置とパルス照射レーザ装置を別々の装置として使用しているが、一般的に市場で販売している半導体ファイバーカプリングレーザ装置もしくは半導体レーザスタック装置はパルスタイプと連続照射タイプに機能を両立させることが比較的簡単であることから、1台のレーザ装置で機能性インクの溶媒蒸発、熱分解、結晶化までのプロセスと行うことができる。これにより、ステージ駆動手段のY軸方向の長さを短くすることができ、そのことによってY軸方向の移動精度が向上し、さらに装置がコンパクトになり、さらに装置の低コスト化が可能となる。
また、溶媒蒸発、熱分解、結晶化までの全ての加熱工程を連続照射型レーザ1台で行うことも可能であり、装置コストの削減につながる。連続照射型レーザを用いた場合、SAM膜が損傷してしまう。しかしながら、これは加熱後にSAM膜を形成する工程を毎層形成するたびに行うことで、問題は解消する。
更に、レーザ照射エリアの形状は一般的な円形で、かつビームプロファイルはGaussianである。例えば基板がY軸方向に移動し、円形のレーザ照射エリアで機能性インクを照射した場合円中央領域と円端部分では実照射時間が異なる。円中央の方が長い時間照射され、円端の方は短い時間照射されてしまう。そこで、本実施形態では、レーザ照射エリアを機能性インクのパターンと同じ、もしくはそれよりも大きい形状にすることで、ある形状にパターニングされた機能性インクを均一に加熱することができる。更に、ビームプロファイルが照射エリア内でフラット形状、もしくはトップハット形状(均一)にすることで、機能性インクを均一に加熱することが可能となる。上記照射エリアの形状とビームプロファイルは連続照射レーザ装置及びパルス照射レーザ装置、両方に搭載することが可能である。パルスレーザでも連続照射レーザの場合でも、より具体的には基板が同時に移動できる方向が一方向である場合、照射エリアは長方形で、かつ長方形の傾きと基板の移動方向の傾きが揃っていることが好ましい。このような構成であれば、必ず基板移動方向の照射時間が基板移動方向と直角の方向(図7のX軸)で同一となり、均一な加熱が可能となり、信頼性の高い機能性インク膜を形成することができる。更に、照射エリアのX軸方向の長さとパターンのX軸方向長さが同じにすることで、無駄なエリアを加熱することなく、効率的に機能性インクのみを加熱することができる。
レーザを用いた蒸発工程を、O濃度が50%以上の雰囲気で行うことで、より良質な膜が形成できる。これは属有機化合物の化学結合を切断するときにCが膜から抜けやすくさせるためである。Cは雰囲気中のOと結合して抜けていくため、雰囲気のO濃度が高い方が良い。更に、レーザを用いた結晶化工程において、N濃度が50%以上の雰囲気で行うことで、より良質な膜が形成できる。これは結晶化のときに膜中のPbが雰囲気のOと結合して抜けてしまうのを低減させるためである。雰囲気のO濃度を下げるためにN濃度を50%以上にすることで可能となる。
一般的に基板を加熱し、機能性インクを間接的に加熱する従来の熱処理だけの膜とエキシマレーザ照射後、熱処理を行った膜では圧電特性が向上することが分かっている。それは金属成分が含む有機化合物は異なる温度で分解されるため、材料によって結晶粒のでき方が変わる。そこで、エキシマレーザを照射することで、それぞれの金属有機化合物の化学結合を切断することで、結晶粒の形成の仕方が統一され、緻密で粒径が揃った結晶膜が形成でき、圧電素子特性が向上する。エキシマレーザによって切断された化学結合については赤外吸収スペクトルなどを用いて検証することが可能である。具体的には連続照射レーザ装置にて溶媒を蒸発させた後、例えば波長が300[nm]以下のエキシマレーザなどを照射することで、機能性インク膜の特性を向上させることができる。例えば一般的に入手可能な連続照射型KrFエキシマレーザ装置を用いて、波長230〜280[nm]、100[mJ/cm]以上のエネルギーを照射することで、機能性インク膜の特性を向上させることができる。更に、工程をO濃度が50%以上の雰囲気で行うことで、より良質な膜が形成できる。これは属有機化合物の化学結合を切断するときにCが膜から抜けやすくさせるためである。Cは雰囲気中のOと結合して抜けていくため、雰囲気のO濃度が高い方が良い。
そして、シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1[μm])を形成し、密着層としてチタン膜(膜厚50[nm])をスパッタ成膜した。引続き下部電極として白金膜(膜厚200[nm])スパッタ成膜した。アルカンチオールにCH(CH−SHを用い、濃度0.01[mol/l](溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、SAM処理を行った。その後、イソプロピルアルコールで洗浄、乾燥後、パターニングの工程に移る。
SAM処理後の疎液性は接触角測定を行い、SAM膜上での水の接触角は92.2°であった。一方、SAM処理前の白金スパッタ膜のそれは5°以下(完全濡れ)であり、SAM膜処理がなされたことがわかる。
東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、酸素プラズマ処理を行い露出部のSAM膜を除去した。処理後の残渣レジストはアセトンにて溶解除去し、同様の接触角評価を行ったところ、除去部では5°以下(完全濡れ)、レジストでカバーされていた部位のそれは92.4°の値を示し、SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
他方式のパターニングとして、同様のレジストワークにより予めレジストパターンを形成し、同様のSAM膜処理を実施後、アセトンにてレジストを除去し、接触角を測定した。レジストカバーされた白金膜上の接触角は5°以下(完全濡れ)、他の部位のそれは92.0°となり、SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
もう一つの他方式として、シャドウマスクを用いた紫外線照射を行った。用いた紫外線はエキシマランプによる波長176[nm]の真空紫外光を10分間照射した。照射部の接触角は5°以下(完全濡れ)であった(図11の(a)参照)、未照射部のそれは92.2°であり(図11の(b)参照)SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
圧電層としてPZT(53/47)を成膜する。前駆体塗布液の合成は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1[mol/l]にした。
一度のゾルゲル成膜で得られる膜厚は100[nm]が好ましく、前駆体濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される。従って、0.1[mol/l]に限定されるものではない。この前駆体溶液を先のパターン化SAM膜上にインクジェット法で塗布した。インクジェット法によりSAM膜上には液滴を吐出せず親液部のみ吐出することで接触角のコントラストにより親液部上にのみ塗膜ができた。この塗膜に際して、膜厚に応じた出力でレーザ照射を行うことで基板を加熱しパターニングされた前駆体インクの乾燥、結晶化を行い、図3の(f)に示す電気機械変換膜17を得た。
このように、このインクジェット記録装置においては本発明を実施したインクジェットヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
薄膜形成材料を溶媒に溶解した溶液を対象物の所定の部分に塗布する塗布手段と、該塗布手段によって塗布された溶液を加熱する加熱手段とを有する薄膜製造装置において、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、加熱された溶液の乾燥状態を検出する乾燥状態検出手段と、溶液の乾燥状態に対する最適な加熱条件の関係の特性データを記憶する記憶手段と、加熱手段によって加熱した溶液の乾燥状態を乾燥状態検出手段によって検出し、検出した溶液の乾燥状態に対応する最適な加熱条件を記憶手段に記憶している特性データから決定し、決定した加熱条件で加熱手段による加熱を制御する制御手段とを有する。これによれば、上記実施形態について説明したように、液滴吐出ヘッド300によって基板11に吐出された機能性インク膜302にレーザ光を照射して加熱すると溶媒が蒸発して溶液が乾燥する。フーリエ変換赤外分光光度計の検出器603を有するリアルタイムレーザ制御装置600によって機能性インク膜302の乾燥状態を検出する。そして、機能性インク膜302の乾燥状態に対する最適なレーザ光照射条件の関係の特性データと照合しながら検出した機能性インク膜302の乾燥状態に対応する最適なレーザ光照射条件を決定する。これにより、加熱し過ぎたり、加熱が不足したりすることを少なくすることで、良質な薄膜を製造することができる。
(態様B)
(態様A)において、フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線照射の照射部分の形状と基板上に塗布された溶液の形状とが略同じであり、赤外線照射の照射部分の大きさが溶液の大きさより小さい。これによれば、上記実施形態について説明したように、機能性インク膜の乾燥状態の検出を精度良く行うことができる。
(態様C)
(態様A)において、加熱手段がレーザ光源である場合、フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線照射の照射部分の形状とレーザ光源の照射部分の形状とが略同じであり、赤外線照射の照射部分の大きさがレーザ光源の照射部分の大きさより小さい。これによれば、上記実施形態について説明したように、機能性インク膜の乾燥状態の検出を精度良く行うことができる。
(態様D)
(態様A)〜(態様C)のいずれかにおいて、フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線の波長範囲を、基板上に塗布された溶液の乾燥時の特性データにおける波長ピークに合わせる。これによれば、上記実施形態について説明したように、機能性インク膜の乾燥状態の検出を精度良く行うことができる。
(態様E)
(態様A)において、加熱手段はレーザ光源であり、加熱条件であるレーザ光照射条件は、照射パワー、照射回数又は照射時間である。これによれば、上記実施形態について説明したように、機能性インク膜の乾燥状態の検出を精度良く行うことができる。
(態様F)
(態様A)〜(態様E)のいずれかの薄膜製造装置を用いて、電気機械変換膜を形成する溶液を基板の所定部分に塗布し、塗布した溶液に加熱手段によって熱処理を施して電気機械変換膜を製造する。これによれば、上記実施形態について説明したように、良質な電気機械変換膜を製造することができる
11 基板
12 SAM膜
13 フォトレジスト
14 液滴吐出ヘッド
15 PZT前駆体溶液
16 PZT膜
17 電気機械変換膜
20 シリコン基板
21 ノズル孔
22 ノズル板
22a 液室
30 振動板
41 密着層
42 下部電極
43 電気機械変換素子
44 上部電極
50 液体吐出ヘッド
100 インクジェット記録装置
201 Y軸駆動手段
202 ステージ
300 液滴吐出装置
301 機能インク
302 機能性インク膜
400 連続照射レーザ装置
401 レーザ光
402 機能性インク膜
500 パルス照射レーザ装置
501 レーザ光
502 機能性インク膜
600 リアルタイムレーザ制御装置
601 レーザ光照射装置
602 赤外線光源
603 検出器
604 レーザ光
605 赤外線
606 反射光
607 干渉計
特開2008−187302号公報 特開2007−105661号公報
K.D.Budd, S.K.Dey and D.A.Payne,Proc.Brit.Ceram.Soc.36,107(1985) A.Kumar and G.M.Whitesides, Appl.Phys.Lett.,63,2002(1993)

Claims (6)

  1. 薄膜形成材料を溶媒に溶解した溶液を対象物の所定の部分に塗布する塗布手段と、該塗布手段によって塗布された前記溶液を加熱する加熱手段とを有する薄膜製造装置において、
    フーリエ変換赤外分光光度計を用い、加熱された前記溶液の乾燥状態を検出する乾燥状態検出手段と、
    前記溶液の乾燥状態に対する最適な加熱条件の関係の特性データを記憶する記憶手段と、
    前記加熱手段によって加熱した前記溶液の乾燥状態を前記乾燥状態検出手段によって検出し、検出した前記溶液の乾燥状態に対応する最適な加熱条件を前記記憶手段に記憶している前記特性データから決定し、決定した前記加熱条件で前記加熱手段による加熱を制御する制御手段と
    を有することを特徴とする薄膜製造装置。
  2. 請求項1記載の薄膜製造装置において、
    前記フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線照射の照射部分の形状と前記基板上に塗布された前記溶液の形状とが略同じであり、赤外線照射の照射部分の大きさが前記溶液の大きさより小さいことを特徴とする薄膜製造装置。
  3. 請求項1記載の薄膜製造装置において、
    前記加熱手段がレーザ光源である場合、前記フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線照射の照射部分の形状と前記レーザ光源の照射部分の形状とが略同じであり、赤外線照射の照射部分の大きさが前記レーザ光源の照射部分の大きさより小さいことを特徴とする薄膜製造装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜製造装置において、
    前記フーリエ変換赤外分光光度計の赤外線の波長範囲を、前記基板上に塗布された前記溶液の乾燥時の前記特性データにおける波長ピークに合わせることを特徴とする薄膜製造装置。
  5. 請求項1記載の薄膜製造装置において、
    前記加熱手段はレーザ光源であり、前記加熱条件であるレーザ光照射条件は、照射パワー、照射回数又は照射時間であることを特徴とする薄膜製造装置。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜製造装置を用いて、電気機械変換膜を形成する溶液を基板の所定部分に塗布し、塗布した溶液に加熱手段によって熱処理を施して電気機械変換膜を製造することを特徴とする電気機械変換膜の製造方法
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