JP6002684B2 - 液体封入式防振装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車や産業機械等に使用される液体封入式防振装置に関するものである。
自動車や産業機械等に使用されるエンジンマウント,ミッションマウント,サスペンションブッシュ,モータマウント等の防振装置として、液体封入式のものが賞用されている。例えば、エンジンマウントは、図4に示すように、振動源であるエンジンに取り付けられる上部保持部材1と、車体やフレーム等に取り付けられる下部保持部材2とが、加硫ゴム成形体3および筒状体4を介して一体化されている。そして、下部保持部材2にダイヤフラム5が取り付けられており、このダイヤフラム5と加硫ゴム成形体3との間に、液体Pを密封状態で収容する液体密封空間が形成されている。さらに、この液体密封空間は、オリフィス7が形成された仕切り部材8により、主液室9と副液室10の上下2室に仕切られており、その2室間で上記液体Pがオリフィス7を通って流動するようになっている。なお、11、12は、それぞれ取付用のボルトねじである(例えば、特許文献1参照)。
この構成によれば、エンジンの振動を加硫ゴム成形体3が受けても、それ自身の弾性による振動吸収作用と上記液体密封空間内における液体Pの流動作用等によって、車体側に伝達される振動が減衰されるようになっている。
また、非圧縮性流体が封入された流体封入領域に所定量のエアを混入させることによって防振特性の向上等を実現する流体封入式防振装置において、エアの混入を、簡単な設備で容易に、しかも高精度に量を設定して、行うことが出来るようにするため、流体封入領域に開口して気体を内部に保留せしめ得る気体保留穴を設け、該気体保留穴に気体を保留せしめたままの状態で、流体封入領域を協働して形成する複数の組合せ部材を非圧縮性流体中で相互に組み付けることにより、気体を保留せしめた気体保留穴を含んで流体封入領域を形成するようにした流体封入式防振装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
ところで、近年、自動車産業における技術革新はめざましく、従来に比べて非常に静かな走行が実現されつつあるが、路面の凹凸によってエンジンに大きな振動がかかると、本体ゴム弾性体が大きく弾性変形して受圧室の圧力が急速に著しく低下することで、受圧室内にキャビテーションによると解される気泡が発生し、該気泡が消失する際に発する衝撃波が車両に伝達されることに起因する異音や振動が問題となっている。
そこで、このようなキャビテーションの発生を抑制する方法として、リリーフバルブ等のデバイスを設けて主液室9と副液室10の圧力差を小さくする方法や、封入する液体Pに高蒸気圧(=低沸点)の液体を添加しておき、負圧下で上記高蒸気圧液体を気化させることによって、主液室9の圧力低下を抑える方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
特開2005−337348号公報 特開2004−169750号公報 国際公開第2009/154222号
しかしながら、上記リリーフバルブ等のデバイスを設けた場合、キャビテーション抑制のためにバルブを開放すると、主液室9と副液室10の圧力差が小さくなり、オリフィス7を通過しながら減衰性能を発揮する液体Pの移動量が少なくなるため、減衰性能が低下し、本来の目的である防振効果が充分に得られなくなるという問題がある。
また、上記特許文献2に記載された、高蒸気圧液体を添加する方法では、添加する液体の沸点が低いため、エンジンルーム等、高温となりやすい環境で使用すると、負圧にならなくても上記添加された液体が沸騰してしまい、液室内に多くの気体が常駐することにより、防振性能の低下や、前記ダイヤフラムの膨張や破裂を引き起こし、製品の機能上問題となる。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、防振効果を損なうことなく、異音発生の原因となるキャビテーションを効果的に抑制することのできる、優れた液体封入式防振装置の提供をその目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明の液体封入式防振装置は、液体を密封状態で収容する液体密封空間と、この液体密封空間を、互いにオリフィスを通じて連通した状態で複数の室に仕切る仕切り部と、上記液体密封空間の少なくとも一部を形成する加硫ゴム成形体と、この加硫ゴム成形体を保持する保持部材とを備え、上記加硫ゴム成形体に伝達された振動が、上記加硫ゴム成形体自身の弾性変形および上記各室間の液体流動によって減衰するよう構成された液体封入式防振装置であって、上記液体として、極性有機溶剤を主成分とし、この液体中に、常温、大気圧下で液体1cm3 当たり0.2cm3 以上の気体が溶存ガスとして溶け込んでいる液体が用いられ、上記溶存ガスの気化もしくは液化によって、上記加硫ゴム成形体の弾性変形に伴う液体密封空間内における圧力変動が緩和可能になっているという構成をとる。
本発明者らは、液体封入式防振装置において、防振効果を損なうことなくキャビテーションを抑制する方法について、研究を重ねた。その結果、液体密封空間内が急激に負圧になっても、その負圧が短時間で緩和されれば、気化した気体が大気泡にならず、したがってキャビテーションが抑制されることを見いだした。そして、さらに研究を重ねた結果、上記液体密封空間内の急激な減圧を緩和するには、液体に大量の溶存ガスを溶け込ませておき、負圧下で、この溶存ガスから大量の気体を発生させることが非常に有効であることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明の液体封入式防振装置は、装置内に封入する液体として、極性有機溶剤を主成分とし、この液体中に、常温、大気圧下で液体1cm3 当たり0.2cm3 以上の気体が溶存ガスとして溶け込んでいる液体を用いているため、負圧下で、上記溶存ガスに由来する大量の気体が一気に発生して負圧が緩和され、キャビテーションの原因となる大気泡の発生が抑制されることから、優れたキャビテーション抑制効果を得ることができる。そして、装置本来の、液体流動性に伴う防振性能を損うことなく、キャビテーションによる異音の発生が抑制されるため、車体等、この防振装置を取り付けた環境内を静寂を保つことができる。
そして、本発明のなかでも、特に、上記極性有機溶剤が、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方からなる液体封入式防振装置は、気体が溶け込みやすく、しかも液体の流れによる防振効果に優れているため、好適である。
また、本発明のなかでも、特に、上記液体に溶け込ませる溶存ガスが、アンモニアまたは塩化水素である液体封入式防振装置は、これらのガスが、常温、大気圧下で、非常に多く液体に溶け込むため、液体密封空間内の負圧を緩和しうる充分な量の気体を提供することができ、好適である。
なお、上記「常温」とは、ガスを溶存させようとする液体に対し、特に加熱も冷却もしていない状態の温度(通常、25℃)をいい、「大気圧」とは、上記液体に対し、特に加圧も減圧もしていない状態の圧力をいう。
本発明の一実施の形態を示す縦断面図である。 エンジンマウントの伝達荷重を測定する方法の模式的な説明図である。 (a)は本発明の実施例品の防振性能を示す線図、(b)は比較例品の防浸性能を示す線図である。 従来の液体封入式防振装置を示す断面図である。
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
本発明の一実施の形態を図1に示す。この液体封入式防振装置は、ボルト(図示せず)を介して振動源であるエンジンに取り付けられる第1保持部材20と、所定の取り付け部材(図示せず)を介して車体やフレーム等に取り付けられる略円筒状の第2保持部材21とが、加硫ゴム成形体22を介して一体化されている。また、上記第2保持部材21の下端開口内側にダイヤフラム23が液密状態で取り付けられており、上記加硫ゴム成形体22とダイヤフラム23との間に、液体Pを密封状態で収容する液体密封空間が形成されている。
そして、上記液体密封空間は、仕切り部材24を介して、主液室25と副液室26の上下2室に仕切られており、上記仕切り部材24の周縁部に設けられたオリフィス27によって、主液室25と副液室26とが連通されている。
したがって、上記構成によれば、エンジンの振動を加硫ゴム成形体22が受けると、それ自身の弾性による振動吸収作用と上記液体密封空間内における液体Pの流動作用等によって、車体側に伝達される振動が非常に小さく減衰されるのであり、優れた防振性能が発揮されるようになっている。
しかも、この装置では、上記液体密封空間に封入する液体Pとして、極性有機溶剤を主成分とし、この液体中に、常温、大気圧下で液体1cm3 当たり0.2cm3 以上の気体が溶存ガスとして溶け込んでいる液体が用いられている。これが、本発明の大きな特徴である。
上記液体Pの主成分である極性有機溶剤としては、従来から液体封入式防振装置の封入液体として用いられているエチレングリコール(以下「EG」という)単体、プロピレングリコール(以下「PG」という)単体、もしくはこれらの混合液体等を用いることができる。また、ブチルジグリコール、メチルトリグリコール、ブチルトリグリコール、メチルポリグリコール等のグリコール系溶剤、あるいは水やその他の極性流体等を用いることもできる。なかでも、EGとPGの混合液体を用いることが好適であり、特に、その混合比率(EG:PG)が50:50〜90:10のものが好適である。
なお、「主成分」とは、それだけからなる場合も含む趣旨で用いている。したがって、上記液体Pとして、上記極性有機溶剤のみを用いる場合と、上記極性有機溶剤に、任意成分として、抑泡剤、抗酸化剤等を添加して用いる場合とがある。
また、上記液体P中に、溶存ガスとして溶け込ませる気体としては、液体P中に、常温、大気圧下で液体1cm3 当たり、気体として0.2cm3 以上溶解することが必要である。すなわち、0.2cm3 未満では、液体密封空間内の圧力変動を緩和してキャビテーションを抑制する効果が充分に得られないからである。そして、その溶解体積が多ければ多いほど、キャビテーション抑制効果が高くなるが、溶解量が1000cm3 を超えると、液体封入式防振装置本来の、液体Pの流動による防振性能が低下する傾向がみられ、好ましくない。
このような気体としては、液体Pに対し、非常に溶解度が高いことが要求されるのであり、例えば、アンモニア、塩化水素等があげられる。ただし、塩化水素が毒性を有していることから、アンモニアを用いることが好適である。
ちなみに、アンモニアは、25℃、大気圧下で水1cm3 中に、気体体積量として、約613cm3 溶解する。また、塩化水素は、25℃、大気圧下で水1cm3 中に、気体体積量として、約426cm3 溶解する。これらの気体は、本発明で用いられる液体P中にも、この値とほぼ同じ量だけ溶け込むのであり、充分な量の溶存ガスとなる。
なお、上記気体を液体P中に溶け込ませる方法としては、液体Pに気体を吹き込むバブリングの他、液体Pと気体を混合状態で強制循環させる方法、液体Pを気体充満空間内で繰り返し落下させて気体と接触させる方法等、各種のエアレーションを採用することができる。また、アンモニアも塩化水素も刺激臭があるため、これらの気体を閉鎖系で取り扱うことが困難な場合は、エアレーションでなく、気体を水溶液にして液体Pに配合することが好適である。
また、前記液体Pにおいて、極性有機溶剤として、EGとPGのように複数の液体を混合したものであって、その混合時に多少空気等を巻き込んで溶存ガスとして含有するものを用いる場合は、その溶存ガスも、上記意図的に含有させた溶存ガスと同様、液体密封空間内の圧力変動に伴って気化と液化を繰り返してその緩和の助けとなるため、好適である。
このように、本発明は、上記特殊な液体Pを、液体密封空間内に封入する液体として用いるため、負圧下で、上記溶存ガスに由来する大量の気体が一気に発生して負圧が緩和され、キャビテーションの原因となる大気泡の発生が抑制されることから、優れたキャビテーション抑制効果を得ることができる。そして、装置本来の、液体流動性に伴う防振性能を損うことなく、キャビテーションによる異音の発生が抑制されるため、車体等、この防振装置を取り付けた環境内を静寂に保つことができる。
つぎに、上記エンジンマウントの製法の一例について説明する。
まず、加硫ゴム成形体22を成形するための金型を準備し、その金型の所定位置に、上記第1保持部材20および第2保持部材21をセットする。そして、加硫ゴム成形体22の材料である未加硫ゴム組成物を充填した後、加熱することにより、第1保持部材20、第2保持部材21と加硫ゴム成形体22とを一体化する。ついで、予め加熱成形していたダイヤフラム23を準備し、液体Pが貯溜された液槽内で、上記第1保持部材20、第2保持部材21と加硫ゴム成形体22との一体化物のうち第2保持部材21の下端開口から、仕切り部材24とダイヤフラム23とを嵌入して所定位置に取り付けた後、液槽から取り出す。このようにして、加硫ゴム成形体22とダイヤフラム23との間に液体Pを封入する。その後、上記第2保持部材21の下端部をかしめ、上記液体Pを完全に密封する。このようにして、上記エンジンマウントを得ることができる。
なお、上記の例は、本発明の液体封入式防振装置を、エンジンマウントに適用した例の一つであるが、上記エンジンマウントは、吊り下げ型であって、正立取り付け型であっても差し支えない。また、エンジンマウントの外、自動車用のサスペンションブッシュ、モータマウント等、各種の防振装置に適用することができる。
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。
〔実施例1〜5、比較例1〕
液体密封空間内に封入する液体Pとして、後記の表1に示す組成のものを用い、図1と同様のエンジンマウントを作製した。なお、表1に記載したアンモニア(気体)の溶存量(cm3 )は、液体Pに所定量だけアンモニア水(濃度10重量%)を配合し、その配合量を、アンモニア(気体)の、常温、大気圧下における液体P1cm3 当たりの溶存量に換算した値である。
得られたエンジンマウントAを、図2に示すように、取り付け部材32を介して加振装置30に取り付けて、自動車搭載を模擬してマウント変位を入力し、荷重センサ31によって加振時の荷重を読み取り、ハイパスフィルタ(500Hz)を通して、その伝達荷重(N)を測定した。そして、比較例1品の伝達荷重を100とした場合の、各実施例1〜5品の伝達荷重を算出し、その結果を、下記の表1に併せて示した。
Figure 0006002684
上記の結果から、実施例1〜5品は、比較例1品に比べて伝達荷重が小さくなっており、優れた防振性能を備えていることがわかる。
なお、参考までに、上記実施例1品の測定結果を図3(a)に示し、比較例1品の測定結果を図3(b)に示す。
なお、上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
本発明は、自動車や産業機械等に使用されるエンジンマウント,ミッションマウント,サスペンションブッシュ,モータマウント等の液体封入式の防振装置であって、とりわけキャビテーションによる異音の発生が効果的に抑制された防振装置に利用することができる。
20 第1保持部材
21 第2保持部材
22 加硫ゴム成形体
23 ダイヤフラム
24 仕切り部材
25 主液室
26 副液室
27 オリフィス
P 液体

Claims (3)

  1. 液体を密封状態で収容する液体密封空間と、この液体密封空間を、互いにオリフィスを通じて連通した状態で複数の室に仕切る仕切り部と、上記液体密封空間の少なくとも一部を形成する加硫ゴム成形体と、この加硫ゴム成形体を保持する保持部材とを備え、上記加硫ゴム成形体に伝達された振動が、上記加硫ゴム成形体自身の弾性変形および上記各室間の液体流動によって減衰するよう構成された液体封入式防振装置であって、上記液体として、極性有機溶剤を主成分とし、この液体中に、常温、大気圧下で液体1cm3 当たり0.2cm3 以上の気体が溶存ガスとして溶け込んでいる液体が用いられ、上記溶存ガスの気化もしくは液化によって、上記加硫ゴム成形体の弾性変形に伴う液体密封空間内における圧力変動が緩和可能になっていることを特徴とする液体封入式防振装置。
  2. 上記極性有機溶剤が、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方からなる請求項1記載の液体封入式防振装置。
  3. 上記溶存ガスが、アンモニアまたは塩化水素である請求項1または2記載の液体封入式防振装置。
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