以下に添付図面を参照して、この発明にかかる吸着装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる吸着装置の要部について模式的に示す断面図である。図1に示すように、静電チャック(吸着装置)10は、例えばスパッタリング装置、ドライアッシング装置、ドライエッチング装置などの、ウェハ(処理ウェハ)1にデバイス構造を形成するための各種プロセス処理装置の処理室50内に配置される。各種プロセス処理装置によって処理される処理ウェハ1は、従来の薄型化されていないウェハ(厚ウェハ)であってもよいし、従来のウェハよりも薄型化されたウェハ(薄型ウェハ)であってもよいし。
静電チャック10は、処理ウェハ1を固定するためのステージ11と、ステージ11の、処理ウェハ1が固定される側の表面(おもて面)を保護する保護膜12と、保護膜12に選択的に設けられた導電体21と、電圧源16からの印加電圧により処理ウェハ1とステージ11との間に、処理ウェハ1をステージ11に固定する力を発生させる導電層13と、処理ウェハ1を冷却する冷却部14と、導電層13を電圧源16に接続する電圧配線15と、を備える。
静電チャック10は、例えば電圧源16から導電層13に正電圧および負電圧を印加し、処理ウェハ1とステージ11との間に発生させた力によって処理ウェハ1をステージ11に固定(静電チャッキング)する吸着装置である。静電チャック10の平面形状は、円形状であってもよい。具体的には、ステージ11、保護膜12、および導電層13の平面形状は、円形状であってもよい。以下に、静電チャック10の各構成部について説明する。
ステージ11は、例えばセラミックなど無機化合物の焼結体からなる。ステージ11のおもて面には、保護膜12の粘着層22側の面がステージ11側となるように、保護膜12が貼り付けられている。このため、処理ウェハ1は、保護膜12を介してステージ11のおもて面側に固定され、処理室50内の例えば金属ターゲット51に対向する。
ステージ11のおもて面に保護膜12を貼り付けることにより、ステージ11のおもて面側に固定された処理ウェハ1が、ステージ11の表面に接触することはない。このため、ステージ11のおもて面側に固定される処理ウェハ1に割れや欠けが生じたとしても、ステージ11のおもて面が、割れや欠けが生じた処理ウェハ1によって傷ついて劣化したり、処理ウェハ1の欠片などによる汚れが生じることを回避することができる。
保護膜12の表面には、複数の導電体21が一定の間隔をあけて選択的に設けられている。保護膜12の表面に設けられた導電体21は、粘着層22によって覆われている。保護膜12の厚さは、例えば100μm以下であってもよい。粘着層22の厚さは、例えば数μm以下程度であってもよい。導電体21の厚さは、例えば1μm以下であってもよい。
後述するように、保護膜12に導電体21を設けることで、静電チャック10のオン時に保護膜12に蓄積される電荷20を保護膜12から逃げやすくすることができる。導電体21の厚さが厚いほど導電体21を含む保護膜12全体の抵抗が低くなるので、保護膜12に蓄積される電荷20が保護膜12から逃げやすくなる。このため、導電体21の厚さは、保護膜12および粘着層22の厚さや抵抗率に合わせて適宜変更するのが好ましい。導電体21についての説明は、後述する。
保護膜12は、粘着層22による粘着テープ状をなし、交換可能な状態でステージ11のおもて面に貼り付けられている。このため、保護膜12の処理ウェハ1が接触する側の面が、例えば割れや欠けが生じた処理ウェハ1によって傷つき劣化したり、処理ウェハ1の欠片などによる汚れが生じた場合に、新しい保護膜12をステージ11のおもて面に貼り付けることで、ステージ11のおもて面側を平坦で清浄な状態に再生することができる。
保護膜12は、保護膜12に接する処理ウェハ1からうける応力によって変形しやすく、かつステージ11から処理ウェハ1を離脱させたときに元の形状に戻る弾性率を有する材料からなる。具体的には、保護膜12は、例えばポリイミド膜、樹脂膜などの絶縁膜である。これにより、例えばステージ11のおもて面に対して凸状または凹状に反った薄型の処理ウェハ1を、ステージ11のおもて面側に固定する場合でも、保護膜12に接触する処理ウェハ1に局所的にかかる応力を低減することができる。これにより、処理ウェハ1に割れや欠けが生じることを防止することができる。
導電層13は、ステージ11と冷却部14との間に設置され、ステージ11および冷却部14に接する。例えば、導電層13のステージ11に接する面の全面がステージ11に接し、導電層13の冷却部14に接する面の全面が冷却部14に接する。
ステージ11と冷却部14との間には、例えば複数の導電層13が、ステージ11のおもて面に平行な方向に並列に配置されている。複数の導電層13は、それぞれステージ11に接する。複数の導電層13は、それぞれ電圧配線15の一端に接続されている。電圧配線15の他端には、電圧源16が接続されている。
各導電層13には電圧源16から正電圧または負電圧が印加され、正電圧が印加された導電層13は正電極として機能し、負電圧が印加された導電層13は負電極として機能する。ステージ11のおもて面に平行な方向に正電極として機能する導電層13と、負電極として機能する導電層13とが交互に配置された構成となるように、各導電層13に正電圧および負電圧が印加される。
例えば、導電層13がステージ11のおもて面に平行な方向に並列して配置された第1,2の導電層31,32からなる場合、第1の導電層31に正電圧を印加して正電極として機能させ、第2の導電層32に負電圧を印加して負電極として機能させる。
ステージ11の裏面側に設けられた第1の導電層31および第2の導電層32がそれぞれ正電極および負電極として機能することにより、ステージ11のおもて面側に設置された処理ウェハ1の、ステージ11側の表面が分極し、第1,2の導電層31,32との間に電位差が生じる。これにより、ステージ11を介して第1の導電層31に対向する処理ウェハ1の表面に負電荷があらわれ、ステージ11を介して第2の導電層32に対向する処理ウェハ1の表面に正電荷があらわれる。したがって、処理ウェハ1の第1の導電層31に対向する部分と第1の導電層31との間、および処理ウェハ1の第2の導電層32に対向する部分と第2の導電層32との間に、互いを吸引する静電引力(クーロン力)が発生し、処理ウェハ1がステージ11のおもて面側に固定される(双極方式)。ここでは、保護膜12に関する記載は省略するが、処理ウェハ1とステージ11との間には、ステージ11のおもて面を保護する保護膜12が設けられている。
第1,2の導電層31,32は、ステージ11のおもて面側に固定された処理ウェハ1をステージ11から離脱させたときに、処理ウェハ1の極性に偏りを生じさせない構成を有する。例えば、第1,2の導電層31,32への電圧源16からの印加電圧の極性は、それぞれが任意に反転可能である。第1の導電層31および第2の導電層32にそれぞれ正電圧および負電圧を印加した後に、第1,2の導電層31,32への印加電圧の極性を適宜反転させることで、処理ウェハ1の表面にあらわれる正電荷および負電荷が処理ウェハ1の表面に固定されることを防止することができる。
第1,2の導電層31,32は、それぞれ櫛歯状の平面形状を有してもよい。この場合、第1,2の導電層31,32は、互いの櫛歯状の凹凸部が噛み合うように配置される(不図示)。櫛歯状の凹凸部が噛み合うように第1,2の導電層31,32を配置することにより、第1の導電層31の凸部および第2の導電層32の凸部が交互に繰り返し配置される。このため、第1の導電層31に正電圧が印加され、第2の導電層32に負電圧が印加されたときに、正電極と負電極とが交互に繰り返し配置された状態となる。
また、第1の導電層31の凸部および第2の導電層32の凸部が交互に繰り返し配置されることにより、例えば半円形状の平面形状を有する第1,2の導電層31,32の直線部分どうしを合わせた構成の導電層13とする場合に比べて、処理ウェハ1の表面に正電荷および負電荷があらわれる範囲を細かく分けることができ、処理ウェハ1の極性に偏りを生じさせにくくすることができる。
冷却部14は、導電層13を介してステージ11に接する。冷却部14は、ステージ11の温度を制御し、ステージ11のおもて面側に貼り付けられた保護膜12にほぼ全面が接触する処理ウェハ1を冷却する。冷却部14に代えて、処理ウェハ1を加熱する加熱部(不図示)を備えてもよい。この場合、ステージ11のおもて面に貼り付けられている保護膜12は、加熱部によってステージ11が加熱されたときに溶融しない程度の耐熱性を有する。
また、加熱部は、ステージ11のおもて面に貼り付けられている保護膜12を構成する材料の融点未満の温度で処理ウェハ1を加熱してもよい。例えば、ポリイミドからなる保護膜12が用いられている場合、加熱部は、ポリイミドの融点である400℃未満で処理ウェハ1を加熱する。
次に、導電体21について詳細に説明する。上述したように、導電体21は、保護膜12のステージ11側となる表面に選択的に設けられ、かつ粘着層22によって覆われている。これにより、導電体21は、処理ウェハ1およびステージ11に接触しない。このため、保護膜12の表面に設けた導電体21によって、処理ウェハ1が傷ついたり、ステージ11に劣化や汚れなどが生じることはない。
また、導電体21の電位は固定されていない(例えば接地電位ではない)。このため、保護膜12に導電体21を設けることによって、静電チャック10のオン時に、保護膜12に蓄積された電荷20が導電層13へと逃げやすくなる。具体的には、放電されにくい保護膜12の、ステージ11から離れた部分に蓄積される電荷20が導電層13へと逃げやすくなる。
より具体的には、ステージ11と保護膜12との界面に導電体21を設けることにより、静電チャック10のオン時、導電体21よりもステージ11から離れた保護膜12内に蓄積されている電荷20は、導電体21に引き寄せられ、さらに導電層13へと放電される(図1の矢印参照)。静電チャック10のオン時、保護膜12内に蓄積されている電荷20は、常時導電層13へと放電される。このため、静電チャック10のオフ時に、保護膜12内に電荷20は存在しない。
静電チャック10のオフ時、保護膜12内に電荷20が存在しないため、処理ウェハ1とステージ11との間に静電引力が発生し、処理ウェハ1がステージ11に貼り付けられることはない。したがって、静電チャック10のオフ時に、処理ウェハ1をステージ11から離脱させやすくなる。静電チャック10のオン時とは、導電層13に電圧が印加され、導電層13によって処理ウェハ1とステージ11との間に静電引力が発生している状態である。静電チャック10のオフ時とは、導電層13への印加電圧が遮断された状態である。
より具体的には、静電チャック10のオン時、保護膜12には、正の電荷20または負の電荷20が蓄積される。例えば、導電層13が第1,2の導電層31,32からなり、第1の導電層31を正電極として機能させ、第2の導電層32を負電極として機能させるときに、保護膜12に負の電荷20が蓄積された場合、保護膜12に蓄積された負の電荷20は、保護膜12内の電荷20自身の位置に近い導電体21に引き寄せられた後、正電極として機能する第1の導電層31へと放電される。また、保護膜12に正の電荷20が蓄積された場合、保護膜12に蓄積された正の電荷20は、保護膜12内の電荷20自身の位置に近い導電体21に引き寄せられた後、負電極として機能する第2の導電層32へと放電される。
複数の導電体21は、保護膜12の表面に等間隔に規則的に配置されるのが好ましい。例えば、複数の導電体21は、マトリクス状に等間隔に配置されるのが好ましい。これにより、その理由は、次の通りである。静電チャック10のオン時、保護膜12の、導電体21と処理ウェハ1との間に挟まれた部分には、処理ウェハ1をステージ11に固定する力は発生しない。導電体21を等間隔に規則的に配置することで、処理ウェハ1とステージ11との間に発生させた処理ウェハ1をステージ11に固定する力を処理ウェハ1全面に均一に生じさせることができるからである。複数の導電体21がマトリクス状に配置されることにより、保護膜12の表面の、導電体21が設けられた部分を除く部分は、格子状の平面形状をなす。
また、導電体21を等間隔に規則的に配置していない場合、隣り合う導電体21の間隔が広くなっている部分で、保護膜12に蓄積された電荷20を導電体21に引き寄せにくくなる。このため、保護膜12に蓄積された電荷20が導電体21へと移動する間隔を等間隔に規則的に配置することで、保護膜12に蓄積された電荷20を導電体21に引き寄せやすくし、保護膜12に蓄積された電荷20が保護膜12に局所的に残ることを回避することができるからである。
図2は、実施の形態1にかかる吸着装置を構成する部材の平面レイアウトについて示す平面図である。図2において、複数の導電体21は、マトリクス状に等間隔に配置されている。これにより、保護膜12の、導電体21が設けられていない部分は、格子状の平面形状をなす。導電体21の平面形状は、例えば矩形状であるのがよい。好ましくは、導電体21の平面形状は、例えば正方形状であるのがよい。導電体21の平面形状を矩形状とすることで、保護膜12の表面の、導電体21を設けた部分と、導電体21を設けていない部分との面積比を正確に設定することができる。
保護膜12の表面の、導電体21を設けていない部分の面積は、導電体21を設けた部分の1倍以上5倍以下の面積であるのが好ましい。好ましくは、保護膜12の表面の、導電体21を設けていない部分の面積は、導電体21を設けた部分の3倍程度の面積であるのがよい。また、導電体21の幅t1は、3mm以上6mm以下であるのがよい。好ましくは、導電体21の幅t1は、4mmであるのがよい。また、隣り合う保護膜12の間隔t2は、例えば保護膜12の幅t1と等しいのが好ましい。
導電体21を等間隔に規則的に配置し、かつ導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2を上記範囲内の寸法とすることで、静電チャック10のオン時に、処理ウェハ1をステージ11に固定する力を増大させることができ、かつ導電層13へ放電されずに保護膜12に残ってしまう電荷20を低減することができる。これにより、保護膜12の、導電体21が設けられていない部分のみで、導電体21を設けずポリイミド膜のみで保護されたステージを備える従来の静電チャック(図7参照)と同程度の静電引力を処理ウェハ1とステージ11との間に発生させることができる。かつ、静電チャック10のオフ時に、ステージ11から処理ウェハ1を離脱しやすくすることができる。
また、冷却部14によって、ステージ11に固定された処理ウェハ1を冷却する際に、処理ウェハ1は、保護膜12の、導電体21が設けられていない部分を介して冷却される。導電体21を等間隔に規則的に配置し、かつ導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2を上記範囲内の寸法とすることで、冷却部14によって、ステージ11に固定された処理ウェハ1の表面および内部の温度を制御性よく均一に冷却することができる。
図2に示す導電体21の平面レイアウトは、保護膜12の表面の、導電体21を設けていない部分の面積を、導電体21を設けた部分の面積の3倍程度に設定するための、導電体21の平面レイアウトの一例である。例えば、図2に示すように、正方形状の導電体21を等間隔に規則的に配置し、かつ導電体21の幅t1と同じ間隔t2(=t1)でマトリクス状に等間隔に導電体21を配置する。
このように導電体21が配置された保護膜12において、1つの導電体21aと、導電体21aの1頂点およびこの頂点を共有する2辺側に隣り合う3つの導電体21b,21c,21dとの間で、導電体21aの1頂点およびこの頂点を共有する2辺を囲む、導電体21aを設けていない部分12aとを含む領域61内で、導電体21aを設けていない部分12aの面積は、導電体21aを設けた部分の面積の3倍となる。
保護膜12の表面全体における導電体21の平面レイアウトは、導電体21aを設けた部分と導電体21aを設けていない部分12aとを含む領域61と同様の平面レイアウトが複数隣り合って配置された状態となっている。このため、保護膜12の表面全体において導電体21を設けていない部分の面積は、導電体21を設けた部分の面積の3倍程度となる。
導電体21は、例えばスパッタリングによって形成される。具体的には、まず、フォトリソグラフィによって、ステージ11に貼り付ける側の保護膜12の表面に、導電体21の形成領域が開口するレジストマスクを形成する。具体的には、導電体21の形成領域が正方形状に開口する格子状の平面形状を有するレジストマスクを形成する。ついで、このレジストマスクをマスクとしてスパッタリングを行い、保護膜12の裏面に、導電体21となる金属膜を成長させる。ついで、保護膜12の、導電体21となる金属膜を成長させた表面に、導電体21を覆うように粘着層22を形成する。これにより、導電体21が一体化したテープ状の導電体21が完成する。
導電体21が保護膜12と一体化していることにより、ステージ11に保護膜12を貼り付けるだけで、処理ウェハ1とステージ11との間に導電体21を設けることができる。また、保護膜12に劣化や汚れが生じた場合に、ステージ11に保護膜12を貼り付けるだけで、容易に、かつ早く導電体21および保護膜12をステージ11のおもて面に設けることができる。また、ステージ11に保護膜12を貼り付けるだけで、処理ウェハ1とステージ11との間に導電体21を設けることができるので、導電体21を設けるための特殊な加工をステージ11に施す必要がない。このため、静電チャック10の導入時のコストを抑えることができる。
保護膜12の表面に導電体21を形成するためのスパッタリングは、例えば、処理ウェハ1にデバイス構造に形成するためのスパッタリング装置を用いて行ってもよい。このとき、導電体21を形成するための材料として、処理ウェハ1にデバイス構造を形成するための材料を用いてもよい。具体的には、導電体21は、ニッケル(Ni)や金(Au)など導電性の高い材料を主成分とする材料で構成されていてもよい。このように、既存の設備や材料を用いて導電体21を形成することで、コストを低減することができる。
また、導電体21は、保護膜12に密着しやすい材料や、やわらかく変形しやすい材料からなるのが好ましい。具体的には、導電体21は、例えば、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などを主成分とする材料で構成されていてもよい。
静電チャック10の動作について、導電層13が第1,2の導電層31,32からなる場合を例に説明する。ステージ11のおもて面に保護膜12を介して処理ウェハ1を設置した後、例えば、第1の導電層31に正電圧を印加し、かつ第2の導電層32に負電圧を印加することで、静電チャック10をオン状態にする。これにより、ステージ11のおもて面側に設置された処理ウェハ1のステージ11側の表面が分極し、第1,2の導電層31,32との間に電位差が生じる。そして、この電位差により、処理ウェハ1とステージ11との間に静電引力が発生し、処理ウェハ1が保護膜12を介してステージ11のおもて面側に固定される。
静電チャック10のオン時、保護膜12には、正の電荷20または負の電荷20が蓄積されるが、ステージ11と保護膜12との界面に導電体21が設けられていることにより、保護膜12に蓄積された電荷20は、導電体21を通ってまたは導電体21近傍に引き寄せられて、異なる極性を有する第1,2の導電層31,32へと放電される。具体的には、保護膜12に負の電荷20が蓄積された場合、負の電荷20は、正電極として機能する第1の導電層31へと放電される。保護膜12に正の電荷20が蓄積された場合、正の電荷20は、負電極として機能する第2の導電層32へと放電される。
ついで、処理ウェハ1が固定されたステージ11を冷却部14によって冷却することで、処理ウェハ1を冷却する。ついで、ステージ11に固定された状態のまま、処理ウェハ1にデバイス構造を形成するための各種プロセス処理を行う。ついで、導電層13への印加電圧を遮断し、処理ウェハ1への静電吸着力を消滅させる(オフ状態)。保護膜12に蓄積される電荷20は静電チャック10のオン時に導電層13に放電されているため、処理ウェハ1はステージ11から容易に離脱される。これにより、静電チャック10の一連の動作が終了される。
以上、説明したように、実施の形態1によれば、保護膜12のステージ11側の面に、導電体21が等間隔に規則的に配置されていることで、静電チャック10のオン時に保護膜12に蓄積される電荷20を、電荷20と異なる極性の導電層13へ放電することができる。これにより、静電チャック10のオフ時に、処理ウェハ1とステージ11との間に静電引力を生じさせる電荷20は保護膜12内に存在しない。したがって、ステージ11から処理ウェハ1を容易に離脱することができる。
また、保護膜12のステージ11側の面に等間隔に規則的に導電体21が配置されているため、静電チャック10のオン時には、処理ウェハ1の全面にわたって均一な力で処理ウェハ1をステージ11に固定することができ、かつ静電チャック10のオフ時には、ステージ11から処理ウェハ1を容易に離脱することができる。
また、保護膜12のステージ11側の面に等間隔に規則的に導電体21が配置されていることにより、静電チャック10のオン時に、導電体21を設けずポリイミド膜のみで保護されたステージを備える従来の静電チャック(図7参照)と同程度の静電引力を処理ウェハ1とステージ11との間に発生させることができ、ステージ11から処理ウェハ1を剥がれにくくすることができる。
また、ステージ11が保護膜12によって保護されていることにより、例えば割れや欠けが生じた処理ウェハ1によってステージ11が傷つき劣化したり、処理ウェハ1の欠片などによる汚れがステージ11に生じることを回避することができる。また、保護膜12は交換可能な状態でステージ11に貼り付けられている。このため、保護膜12に劣化や汚れが生じた場合でも、新しい保護膜12に貼り換えることで、ステージ11を平坦で清浄な状態に再生することができる。これにより、ステージ11表面を研削するなど、ステージ11自体を再生する処理を行う必要がない。したがって、ステージ表面をポリイミド膜で保護していない従来の静電チャック(例えば、上記特許文献1参照)よりも1/10程度のコスト低減を図ることができる。
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2にかかる吸着装置を構成する部材の平面レイアウトについて示す平面図である。実施の形態2にかかる静電チャック41は、実施の形態1にかかる静電チャックにおいて、導電体の平面形状を正八角形状とした構成を有する。
図3に示す静電チャック41においては、保護膜12の表面に、対辺間の長さがt3の正八角形状の導電体23が配置されている。導電体23は、例えば、隣り合う導電体23の各1辺が平行になるように、導電体23の対辺間の長さ(導電体23の幅)t3と同じ間隔t4(=t3)で規則的に島状に配置される。また、複数の導電体23は、マトリクス状に等間隔に配置されている。これにより、保護膜12の表面の、導電体23を設けていない部分は、格子状の平面形状をなす。
このように、保護膜12の表面に正八角形状の導電体23を配置することで、1つの導電体23aと、この導電体23aの1辺およびこの1辺の各端部に接する2辺に隣り合う3つの導電体23b,23c,23dとの間で、導電体23aの連続する3辺を囲む、導電体23aを設けていない部分12aとを含む領域62内で、導電体23aを設けていない部分12aの面積は、導電体23aを設けた部分の面積の3倍程度となる。したがって、保護膜12の表面全体において導電体23を設けていない部分の面積は、導電体23を設けた部分の面積の3倍程度となる。
導電体23の幅t3は、実施の形態1にかかる静電チャックに備えられた導電体21の幅と同様の条件で設定される。図3に示す静電チャック41のステージ、保護膜、導電層、冷却部、電圧配線、電圧源(不図示)は、実施の形態1にかかる静電チャックと同様である。
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3にかかる吸着装置について模式的に示す説明図である。実施の形態3にかかる静電チャック42は、実施の形態1にかかる静電チャックにおいて、保護膜12の内部に導電体24を配置した構成を有する。
図4に示す静電チャック42において、導電体24は、保護膜12の内部に選択的に設けられている。導電体24は、保護膜12に接する処理ウェハ1の主面に平行な方向に、かつ等間隔に規則的に配置されている。導電体24の平面形状および平面レイアウトは、実施の形態1,2の導電体21,23と同様である。図4に示す静電チャック42のステージ11、保護膜12、導電層13、冷却部14、電圧配線15、電圧源16は、実施の形態1にかかる静電チャックと同様である。図4に示す静電チャック42の動作は、実施の形態1にかかる静電チャックと同様である。
保護膜12の内部に導電体24を形成する方法について説明する。例えば、保護膜12を、複数のポリイミド膜が積層されてなる積層膜とする。保護膜12となる積層膜のうち、保護膜12の下層となるポリイミド膜(以下、下層膜とする)を積層する。ついで、フォトリソグラフィによって、下層膜の表面に、導電体24の形成領域が開口するレジストマスクを形成する。ついで、レジストマスクをマスクとして、実施の形態1と同様にスパッタリングを行い、下層膜の表面に導電体24となる金属膜を選択的に形成する。ついで、下層膜の、導電体24を形成した側の表面に、保護膜12となる積層膜のうち、保護膜12の上層となるポリイミド膜(以下、上層膜とする)を積層する。ついで、保護膜12の表面に粘着層22を形成する。これにより、内部に導電体24が形成されたテープ状の保護膜12が完成する。粘着層22は、保護膜12の上層膜側の表面に形成してもよいし、保護膜12の下層側の表面に形成してもよい。
以上、説明したように、実施の形態3によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態4)
図5は、実施の形態4にかかる吸着装置について模式的に示す説明図である。実施の形態4にかかる静電チャック43は、実施の形態1にかかる静電チャックにおいて、保護膜12の処理ウェハ1が接する側の面に導電体25を配置した構成を有する。
図5に示す静電チャック43において、導電体25は、保護膜12の処理ウェハ1に接する側の表面に選択的に設けられている。導電体25の平面形状および平面レイアウトは、実施の形態1,2の導電体21,23と同様である。図5に示す静電チャック43のステージ11、保護膜12、導電層13、冷却部14、電圧配線15、電圧源16は、実施の形態1にかかる静電チャックと同様である。図5に示す静電チャック43の動作は、実施の形態1にかかる静電チャックと同様である。
図5に示す静電チャック43において、保護膜12は、実施の形態1と同様に、容易に変形するやわらかい材料からなる。このため、保護膜12の、導電体25が設けられた側の表面に接する処理ウェハ1により導電体25がステージ11側に押し込まれた場合に、保護膜12は容易に変形する。このため、保護膜12の、導電体25が設けられた側の表面に処理ウェハ1が接触したときに、導電体25の処理ウェハ1側の表面と、保護膜12の処理ウェハ1側の、導電体25が設けられていない部分の表面とがほぼ同じ高さとなる。これにより、保護膜12および導電体25の処理ウェハ1側の表面に、処理ウェハ1ほぼ全面を接触させることができる。したがって、図1に示す静電チャックと同様に、ステージ11から処理ウェハ1を剥がれにくくすることができ、かつ冷却部14によって処理ウェハ1を効率的に均一に冷却することができる。
保護膜12の処理ウェハ1側となる表面に導電体25を形成する方法は、実施の形態1の、保護膜12のステージ11側となる表面に導電体を形成する方法とほぼ同様である。具体的には、保護膜12の処理ウェハ1側となる表面に実施の形態1と同様に導電体25を形成した後、保護膜12の、導電体25を形成した面に対して反対側の面に粘着層22を形成すればよい。
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
(実施例)
導電体21の幅および隣り合う導電体21の間隔の最適な条件について検証した。図6は、本発明にかかる吸着装置の特性について示す特性図である。まず、実施の形態1に従い、導電体21を選択的に設けた複数の保護膜12を用意した。各保護膜12は、それぞれ、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2が異なる構成となっている。複数の導電体21は、保護膜12のステージ11側の表面にマトリクス状に等間隔に配置した。これにより、保護膜12の、導電体21が設けられていない部分は、格子状の平面形状をなしている。導電体21の平面形状は、正方形状とした。保護膜12の表面の、導電体21を設けていない部分の面積を、保護膜12の導電体21を設けた部分の面積の3倍とした。導電体21の幅(1辺の長さ)t1は、1mm〜10mmの間とした。隣り合う導電体21の間隔t2は、導電体21の幅t1と等しい寸法とした(t1=t2)。導電体21の厚さは、300nm程度とした。
そして、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2に対する静電チャック10の特性を、次のように検証した。まず、静電チャック10のステージ11のおもて面に、検証対象の保護膜12を貼り付けた。ついで、静電チャック10をオン状態にし、ステージ11のおもて面に保護膜12を介して処理ウェハ1を固定した。この状態で、冷却部14によってステージ11を介して処理ウェハ1を冷却した後、処理ウェハ1の温度を測定した。ついで、静電チャック10をオフ状態にした後、処理ウェハ1の、ステージ11側の面に対して反対側の面に備え付けたばね秤を持ち上げて、ステージ11から処理ウェハ1を剥がし、このときの処理ウェハ1を引っ張る力を測定した。処理ウェハ1を引っ張る力は、120kgf/cm2以上180kgf/cm2以下とした。上記一連の処理を検証対象のすべての保護膜12に対して行った。その結果を図6に示す。
図6の横軸に、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2を示す。図6の左側の縦軸に、処理ウェハ1の剥がれやすさを示す。図6の右の縦軸に、処理ウェハ1の温度を示す。図6において、処理ウェハ1に割れや欠けが発生しない場合を剥がれやすいとし、処理ウェハ1に割れや欠けが発生した場合、または処理ウェハ1がステージ11から離れなかったり、ステージ11から跳ね上がって落下してしまった場合を剥がれにくいとした。
図6に示す結果より、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2が4mmであるときに、静電チャック10のオフ時に、最も弱い力で、ステージ11から処理ウェハ1を剥がすことができた。このとき、処理ウェハ1に割れや欠けが発生することなく、また、処理ウェハ1がステージ11から跳ね上がることもなかった。かつ、静電チャック10のオン時に、処理ウェハ1の表面および内部を効率よく冷却することができた。また、図示を省略するが、静電チャック10のオン時、従来の静電チャック(例えば、図7、上記特許文献1参照)と同程度の静電引力で、処理ウェハ1をステージ11のおもて面に固定することができることが確認された。
また、静電チャック10のオフ時に、処理ウェハ1に割れや欠け、跳ね上がりが発生することなくステージ11から処理ウェハ1を剥がすことができ、かつ静電チャック10のオン時に、処理ウェハ1の表面および内部の温度で効率よく冷却することができる許容範囲70は、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2が3mm以上6mm以下であるときであることが確認された。
一方、導電体21の幅t1および隣り合う導電体21の間隔t2が3mmより小さく6mmより大きい場合には、静電チャック10のオフ時に、ステージ11から処理ウェハ1を剥がすことができなかったり、また、ステージ11から処理ウェハ1を剥がす際に処理ウェハ1に割れや欠けが生じたり、ステージ11から跳ね上がって落下してしまった。また、静電チャック10のオン時に、処理ウェハ1の表面および内部を所望の温度で均一に冷却することができないことが確認された。
以上において本発明では、上述した実施の形態に限らず、保護膜の処理ウェハ側の表面、保護膜のステージ側の表面、および保護膜の内部のうちの2箇所以上に導電層を設けることも可能である。また、双極方式の導電層を例に説明しているが、単極方式の導電層を備えてもよい。また、導電体が設けられた保護膜は、従来の静電チャックのステージに適用することも可能である。また、導電体を保護膜に配置する際の導電体の平面レイアウトは、保護膜の表面の、導電体を設けていない部分の面積が導電体を設けた部分の1倍以上5倍以下の面積であればよく、上述した平面レイアウトに限らず、他の規則的な平面レイアウトを適用してもよい。