以下に、本発明の実施形態に係る静電チャックを図面を参照して説明する。なお、第2実施形態以降の説明において、既に説明された実施形態の構成と同一若しくは類似する構成については、既に説明された実施形態の符号と同一の符号を付すことがあり、また、説明を省略することがあるものとする。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る吸着装置51の概略構成を示す断面図である。
吸着装置51は、ウェハWを上面1aにて保持する静電チャック1と、静電チャック1に電圧を印加する電源装置53とを有している。吸着装置51は、この他に、例えば、静電チャック1に形成された不図示の穴部に挿通されて、ウェハWを静電チャック1から離脱させる不図示のリフトピンや、静電チャック1の上面1aの温度均一化等を目的として静電チャック1に形成された不図示の穴部を介して静電チャック1の上面1aにガスを供給する不図示のガス供給装置等を有しているが説明は省略する。
静電チャック1は、例えば、ジョンソン・ラーベック力型、且つ、双極方式の静電チャックとして構成されており、基板3と、基板3に埋設された1対の第1電極5とを有している。そして、静電チャック1は、1対の第1電極5の一方に正の電圧が印加され、他方に負の電圧が印加されることにより、上面1aにウェハWを吸着する吸着力を生じる
なお、静電チャック1は、いずれの方向が上下方向として利用されてもよいものであるが、本実施形態では、便宜上、図1の紙面上方を上方として、上面等の語を用いるものとする。
基板3は、誘電体により形成されている。誘電体の抵抗率は、1013Ω・cm未満、より具体的には、例えば、108〜109Ω・cmである。このような誘電体としては、例えば、セラミック焼結体、より具体的には、窒化アルミニウム質焼結体、酸化アルミニウム質焼結体および窒化ケイ素質焼結体が挙げられる。
基板3は、例えば、厚さが概略一定の板状であり、その平面形状は、円形や矩形等の適宜な形状とされてよい。基板3の外形寸法は、静電チャック1の用途に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、平面視における直径は102mmオーダーであり、厚みは1〜10mmオーダーである。
なお、オーダーは、数値のおよその桁数(及び単位)を示している。例えば、上記において、直径が102mmオーダーであることは、直径が2桁の数字(100mm〜999mm)で表わされる程度であることを意味し、厚みが1〜10mmオーダであることは、厚みが1〜2桁の数字(1mm〜99mm)で表わされる程度であることを意味する。
基板3は、その上面から突出する複数のピン3bと、基板3の上面において複数のピン3bの間に位置する底面3cとを有している。ウェハWは、複数のピン3bの頂面に当接して静電チャック1に保持される。
複数のピン3bは、例えば、静電チャック1のウェハWに対する接触面積を低減することによって、ウェハWに疵がつくことを抑制したり、塵(パーティクル)が静電チャック1とウェハWとの間に介在してウェハWの平行度が損なわれることを抑制したりすることに寄与する。
複数のピン3bの形状、寸法及び配置は適宜に設定されてよい。例えば、複数のピン3bは、概略円柱状に形成されており、その直径は、例えば、10〜102μmオーダーであり、その底面3cからの高さは、例えば、1〜102μmオーダーである。また、例えば、複数のピン3bは、概ね格子状等の縦横に配列されており(図3参照)、その間隔は、例えば、1〜10mmオーダーである。複数のピン3bの、基板3の上面全体の面積(複数のピン3bの頂面の面積及び底面3cの面積の合計)に対する比率は、例えば、1%オーダーであり、好ましくは1〜3%である。
底面3cは、例えば、概ね平面状に形成されている。その算術平均粗さは、例えば、1μm未満である。ウェハWが複数のピン3bの頂面に当接すると、ウェハWと底面3cとの間には間隙が構成される。なお、当該間隙には、例えば、ヘリウム等のガスが供給される。当該ガスは、ウェハWにおける、複数のピン3bに当接する位置と、底面3cに対向する位置との温度差を緩和することに寄与する。
基板3において、第1電極5と底面3cとの間の部分の厚みは、種々の観点から適宜に設定される。例えば、当該厚みは、絶縁破壊防止の観点から、ある程度の大きさが必要とされる。その一方で、当該厚みを大きくし過ぎると、第1電極5と複数のピン3bの頂面との間の厚みも大きくなり、その結果、吸着力が低下することから、当該厚みは、極力小さくされる。また、基板3の加工精度(例えば焼成による厚みの変化)も考慮される。その結果、例えば、第1電極5と底面3cとの間の部分の厚みは、10−1〜1mmオーダーであり、好ましくは、1mm程度である。
1対の第1電極5は、概ね互いに同一の大きさ、形状及び位置(ただし、図1の紙面左右方向において対称の位置)とされている。各第1電極5は、概ね平板状に形成されており、その厚みは、例えば、10−1〜10μmオーダーである。各第1電極5の平面形状は、例えば、各第1電極5が基板3の概ね半分にわたって広がるように、基板3の平面形状等に応じて適宜に設定されている。例えば、各第1電極5の平面形状は、基板3の平面形状が円形であれば、半円状である。なお、2つの第1電極5は、その大きさ、形状若しくは位置が異なるものとされてもよいし、各第1電極5の平面形状は、櫛歯形状等の適宜に隙間が形成されたパターンとされてもよい。
第1電極5の材料は、例えば、金属である。基板3がセラミック焼結体からなる場合においては、基板3との同時焼成が好適になされる金属であることが好ましい。このような金属としては、例えば、タングステン(W)、タングステンカーバイト(WC)、モリブデン(Mo)を挙げることができる。
図2は、図1の領域IIの拡大図である。
静電チャック1は、上述した基板3及び第1電極5に加えて、第1電極5に対応させて底面3c上に形成された第2電極7と、第2電極7を覆う絶縁膜9とを有している。
第2電極7は、図2において模式的に示す電荷Eの発生及び/又は除去に関して、第1電極5を補助するためのものである。第2電極7は、概ね板状に形成されている。その厚みは、例えば、ピン3bの高さ未満の範囲で適宜に設定されてよい。また、第2電極7の材料は、例えば、金属であり、より具体的には、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)若しくは上述した第1電極5の材料の好適例である。
図3は、第2電極7の平面形状を部分的に示す平面図である。図3において、ハッチングして示す領域が第2電極7を示している。
第2電極7は、第1電極5に対応するように底面3cの全面にわたって形成されている。すなわち、第2電極7は、複数のピン3bに囲まれた領域(本実施形態では4つのピン3b間に囲まれた矩形領域)全体にわたるベタ状部分を複数有している。なお、底面3cのうち、基板3の外縁付近若しくは各種の穴部の周囲部分等において、第2電極7が設けられていない微小部分があってもよい。底面3cの9割以上にわたって第2電極7が形成されており、また、後述する第2の実施形態のように底面3cを露出させる意図的なパターニングがなされていない限り、第2電極7は、底面3c全体を覆っているといえる。
別の観点では、第2電極7は、基板3の上面全体を覆うのではなく、基板3の上面を露出させる複数の隙間(ピン3bを露出させる第2電極7の穴部)が基板3の上面全体に概ね均等に分散配置されるようにパターニングされている。なお、ここでいう隙間は、あくまで基板3の上面を第2電極から露出させる部分であり、基板3自体の穴部(例えばリフトピンが挿通される穴部)上における第2電極7の穴部は含まない。
図2に戻って、絶縁膜9は、第2電極7からの放電の抑制等に寄与するものである。絶縁膜9は、第2電極7の全面を覆っており、その平面形状は、第2電極7と同様である。絶縁膜9の厚みは、例えば、概ね一定であり、また、当該厚みと第2電極7の厚みとの合計が複数のピン3bの高さを超えない範囲で適宜に設定される。例えば、絶縁膜9の厚みは、1〜10μmオーダー、好ましくは1μmオーダーである。絶縁膜9の材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。有機材料としては、例えば、ポリイミド樹脂等が挙げられる。無機材料としては、例えば、酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)及び窒化珪素(Si3N4)を挙げることができる。
ウェハWは、例えば、シリコン等の半導体からなるウェハ本体Waと、ウェハ本体Waの材料が酸化された材料(例えば酸化珪素)からなる酸化膜Wbとを有している。酸化膜Wbは、ウェハWが高温の酸化雰囲気下で処理されることにより形成され、その厚みは、例えば、1nm〜1μmオーダーである。
次に、静電チャック1の作用を説明する。
まず、参考までに、第2電極7が設けられていない場合(従来の静電チャック)における作用を説明する。
まず、静電チャックの上面にウェハWが載置される。すなわち、ピン3bの頂面にウェハWが当接する。
次に、1対の第1電極5に互いに極性(正負)が逆の電圧を印加する。この電圧印加により、一方の第1電極5からウェハWを介して他方の第1電極5へ電流が流れる。この際、第1電極5からピン3bの頂面へ移動した電荷Eは、図2において示すように、極性が逆の電荷Eと酸化膜Wbを挟んで対向し、互いに引き付け合う。これにより、静電チャック1は吸着力を生じる。
その後、1対の第1電極5を接地し、若しくは、1対の第1電極5に対して吸着時とは極性が逆の電圧を印加すると、ピン3bの頂面付近の電荷Eは、第1電極5へ移動し、除去される。これにより、静電チャック1の吸着力は消去される。
その後、ウェハWは、不図示のリフトピンによって基板3から離脱される。
このように、ジョンソン・ラーベック力型の静電チャックにおいては、第1電極5において生じた電荷Eがピン3bの頂面へ移動することにより、ウェハ本体Waの電荷Eと静電チャックの電荷Eとは、ウェハ本体Waと第1電極5との距離よりも短い距離(酸化膜Wbの厚み)で対向する。その結果、第1電極5において生じた電荷Eが第1電極5に留まる場合に比較して、大きな吸着力を得ることができる。
しかし、その一方で、吸着力の発生及び消去においては、電荷Eが第1電極5とピン3bの頂面との間を移動する時間が必要になることから、応答性が低くなる。特に、吸着力の消去に要する時間は長くなりやすい。これは、酸化膜Wbは、電圧が低くなると抵抗が大きくなるバリスタ特性を示し、このため、電荷Eの除去に伴って電圧が降下すると、電流が流れにくくなることからである。
本実施形態の静電チャック1においては、ウェハWの載置後、吸着力を発生させるときに、第2電極7に電圧を印加する。第2電極7は、第1電極5よりもピン3bの頂面に近い位置に設けられていることから、電荷Eの移動時間を短くし、ひいては、吸着力の発生に要する時間を短くすることができる。
また、本実施形態の静電チャック1においては、吸着力を消去する際に、図2において矢印y1で示すように、ピン3bの頂面付近の電荷Eを第2電極7へ逃がす。第2電極7は、第1電極5よりもピン3bの頂面に近い位置に設けられていることから、電荷Eの移動時間を短くし、ひいては、吸着力の消去に要する時間を短くすることができる。
ここで、第2電極7は、基板3に埋設されていないことから、第1電極5に比較して、絶縁破壊を生じやすい。また、絶縁破壊は、繰り返し長時間にわたって電圧が印加されるほど生じやすい。そこで、第1電極5に代えて第2電極7を設けるのではなく、第1電極5に加えて第2電極7を設け、被処理物の加工などのために吸着力を保持している間は第1電極5を用いて第2電極7による絶縁破壊を抑制しつつ、吸着力の発生及び消去の際に第2電極7を用いて吸着力を速く制御することができる。
図4(a)及び図4(b)は、そのような第1電極5及び第2電極7の使用例を説明するための図である。図4(a)は、第2電極7が設けられていない静電チャック(従来技術)における電圧の経時変化の例を示し、図4(b)は、本実施形態の静電チャックにおける電圧の経時変化の例を示している。これらの図において、横軸は時間であり、縦軸は電圧若しくは電位である。
図4(a)において、実線L11は、第1電極5に印加される電圧を示し、点線L13は、ピン3bの頂面における電位を示している。
図4(a)の例では、t=0から第1電極5に対する電圧の印加を開始し、電圧が一定の値に達すると、電圧をその値に保持し、その後、電圧の印加を停止している。ピン3bの頂面における電位は、この電圧の変化に応じて、上昇し、一定に保持され、降下している。すなわち、吸着力が発生し、保持され、消去されている。
ただし、上述したように、第1電極5に印加される電圧の変化に対して、ピン3bの頂面における電位の変化は遅れる。特に、酸化膜Wbのバリスタ特性に起因して、ピン3bの頂面における電位の降下は、第1電極5の電圧の降下に対して大幅に遅れる。
図4(b)において、実線L21は、第1電極5に印加される電圧を示し、1点鎖線L25は、第2電極7に印加される電圧を示し、点線L23は、ピン3bの頂面における電位を示している。
この例では、第1電極5に印加される電圧は、図4(a)と同様である。ただし、第2電極7には、第1電極5への電圧の印加開始と同時に、第1電極5に印加される電圧と同一の極性の電圧の印加が開始される。当該電圧印加は、一時的に行われるものであり、ピン3bの頂面における電位が一定に保持されている間は停止する。また、第2電極7には、第1電極5の電圧の降下開始と同時に、第1電極5に印加される電圧と逆の極性の電圧(逆電圧)の印加が開始される。当該電圧印加は、一時的に行なわれるものであり、ピン3bの頂面における電位が速く降下するように制御され、電位が降下した後は停止する。
その結果、ピン3bの頂面における電圧の上昇及び降下が速やかに行われ、ひいては、吸着力の発生及び消去が速やかに行われる。すなわち、吸着力の制御の応答性が向上する。その一方で、ピン3bの頂面における電位が一定に保持されている間は、第1電極5への電圧印加によって吸着力を生じさせていることから、絶縁破壊は抑制される。
図5は、図4(b)に例示した動作を実現する電源装置53の構成例を説明する等価回路図である。
図5において点線で囲まれたブロックは、紙面上方側から順に、ウェハW、静電チャック1及び電源装置53を表わしている。1点鎖線RLを境界にして、図5の紙面左側の部分及び紙面右側の部分それぞれは、各第1電極5に対応する部分を表わしている。当該部分同士は、印加される電圧の極性が逆であることを除いて、互いに同一の構成である。
ウェハWにおいて、各第1電極5に対応する部分は、互いに直列に接続されたウェハ側キャパシタ101及びウェハ側バリスタ103、並びに、これらに並列に接続されたウェハ側抵抗105によって表される。なお、ウェハ側キャパシタ101は、ウェハW内のキャパシタだけでなく、ウェハWと静電チャック1との間隙によって構成されるキャパシタを含むものとする。また、ウェハ側抵抗105は、ウェハW内の抵抗だけでなく、ウェハWと静電チャック1との接触抵抗を含むものとする。2組のウェハ側キャパシタ101、ウェハ側バリスタ103及びウェハ側抵抗105は、ウェハW内において互いに接続されている。
静電チャック1において、第1ブロック107は、基板3の、第1電極5とピン3bの頂面との間の部分を表わしており、第2ブロック109は、基板3の、第2電極7とピン3bの頂面との間の部分を表わしている。第1ブロック107は、互いに並列に接続された第1キャパシタ111及び第1抵抗113により表わされ、第2ブロック109は、互いに並列に接続された第2キャパシタ115及び第2抵抗117により表わされる。第1ブロック107及び第2ブロック109は、ウェハWに対して互いに並列に接続されていると捉えることができる。
既に述べたように、第2電極7は、第1電極5よりもピン3bの頂面に近いことから、第1抵抗113の抵抗値は、第2抵抗117の抵抗値よりも大きい。
電源装置53は、第1電極5(第1ブロック107)に電圧を印加するための第1電源55と、第2電極7(第2ブロック109)に電圧を印加するための第2電源57とを有している。これら電源は、例えば、商用電源から供給された電力を適宜な直流電圧の電力に変換して各電極に供給する。
なお、第1電源55及び第2電源57は、これら電源の機能により、若しくは、これら電源と電極との間に介在する適宜なスイッチ装置により、電極に印加する電圧の極性を逆転させることが可能であるが、図5では、一方の極性の電圧を印加するときの状態に基づいて等価回路図が示されている。
既に述べたように、1対の第1電源55は、互いに逆の極性の電圧を1対の第1電極5に印加する。また、1対の第2電源57も、互いに逆の極性の電圧を1対の第2電極7に印加する。なお、図5では、吸着力の消去時において、第2電源57によって、吸着時の電圧(図5では第1電源55の電圧)とは極性が逆の電圧が印加される状態に基づいて等価回路図が示されている。
第1電極5と第1電源55との間には、第1電極5の接続先を、第1電源55と基準電位部(例えば大地若しくは吸着装置51の筐体)との間で切り換える第1スイッチ59が設けられている。第1スイッチ59は、例えば、トランジスタにより構成されている。第1スイッチ59により第1電極5と第1電源55とが接続されることにより、第1電源55から第1電極5に電圧が印加され、また、その接続が遮断されて第1電極5が接地されることにより、第1電極5及びその周辺の電荷は除去される。
第2電極7と第2電源57との間には、第2電極7と第2電源57とを接続及び遮断する第2スイッチ61が設けられている。第2スイッチ61は、例えば、トランジスタにより構成されている。第2スイッチ61で第2電極7及び第2電源57を接続することにより、第2電源57から第2電極7への電圧印加が許容され、その接続が遮断されることにより、第2電極7への電圧印加が禁止される。
電源装置53は、吸着力の消去時に、第2電極7への逆電圧の印加が適切になされるように、第2電極7の電圧を制御するコントローラ63を備えている。コントローラ63は、例えば、OPアンプを含んで構成され、PID制御によって第2電極7の電圧を制御するように、適宜な電圧を第2電極7に印加可能である。これにより、例えば、ピン3bの頂面の電位が基準電位を逆の極性側へ超えてしまうオーバーシュートの発生を抑制できる。なお、コントローラ63は、第1スイッチ59及び第2スイッチ61等の各種スイッチの制御も行ってよい。
コントローラ63に含まれるOPアンプは、耐圧が比較的低い。例えば、第1電極5又は第2電極7に印加される電圧は1kV程度であるのに対して、OPアンプの耐圧は400V程度である。そこで、電源装置53は、吸着力の消去時においては、まず、第2電源57により第2電極7に逆電圧を印加し、電荷の除去がある程度進行した後に、第2電源57に代わってコントローラ63により第2電極7の電圧を制御する。
具体的には、コントローラ63と第2電極7との間には、これらを接続及び遮断するコントローラ側スイッチ65が設けられている。また、第2電極7の電圧は、コントローラ側抵抗67によって分圧されてコントローラ63に入力されている。
吸着力の消去時においては、まず、第1スイッチ59がOFFされ、これにより第1電源55による第1電極5への電圧印加が停止され、また、第2スイッチ61がONされ、これにより第2電源57による第2電極7に対する逆電圧の印加が開始される。そして、コントローラ63は、電荷の除去に伴って第2電極7の電圧が所定の電圧(例えば300V)を下回ったことを検知すると、第2スイッチ61をOFFして第2電源57による第2電極7への逆電圧の印加を停止し、また、コントローラ側スイッチ65をONして、第2電極7の電圧を制御する。そして、コントローラ63は、例えば、0±50V程度の範囲に第2電極7の電圧が収まるように制御を行う。
ウェハ側キャパシタ101に蓄えられる電荷Eの量は、ウェハWの材質、ウェハWに対する加工の種類、ウェハWの温度等によって変動する。そこで、電源装置53は、ウェハ側キャパシタ101に蓄えられている電荷Eの量を推定するために、第1電源55及び第2電源57から流れる電流を計測して積算する積分器71を有している。
ウェハ側キャパシタ101の容量は、第1キャパシタ111の容量及び第2キャパシタ115の容量よりも大きい(例えば、ウェハ側キャパシタ101の容量が102nFオーダーであるのに対して、第1キャパシタ111の容量は1nFオーダー)。従って、積分器71により計測された電気量は、ウェハ側キャパシタ101に蓄えられた若しくはウェハ側キャパシタ101から除去された電荷の量と同等とみなすことができる。
具体的には、積分器71は、第1電源55及び第2電源57と、基準電位部との間に設けられている。そして、積分器71は、吸着力の発生時において第1電源55及び第2電源57により電圧が印加されているときは、双方の電源から流れる電流を積算し、吸着力の維持時において第1電源55により電圧が印加されているときは、第1電源55から流れる電流を積算する。この吸着力の発生から維持にわたって電流が積算されて得られた電気量は、ウェハ側キャパシタ101に蓄えられた電気量とみなすことができる。また、積分器71は、吸着力の消去時において第2電源57により逆電圧が印加されているときは、第2電源57から流れる電流を積算する。この積算により得られた電気量は、第2電源57によりウェハ側キャパシタ101から除去された電気量とみなすことができる。
コントローラ63は、積分器71により検出された電気量に基づいて、ピン3bの頂面に残っている電気量を推定し、当該電気量を0にするように、第2電極7の電圧制御を行う。
以上に説明した静電チャック1は、適宜な方法で製造されてよい。
例えば、基板3及び第1電極5は、従来の静電チャックの製造方法と同様の製造方法により製造されてよい。例えば、まず、第1電極5となる導電ペーストが配置されたセラミックグリーンシートの積層体を焼成する。そして、その焼成された積層体に対してサンドブラスト等によって複数のピン3b及び底面3cを形成し、第1電極5が埋設された基板3を得る。なお、複数のピン3bの形成後、基板3の上面に対して適宜な研磨加工が行われてもよい。
第2電極7及び絶縁膜9は、上記のように形成された基板3に対して、公知の薄膜形成法等によって形成されてよい。薄膜形成法は、例えば、物理蒸着法や化学蒸着法である。物理蒸着法は、例えば、スパッタリング法やイオンプレーティング法である。複数のピン3bを露出させるためのパターニングは、予めマスク(例えばフォトレジスト)が形成されてから薄膜が形成されることによってなされてもよいし、薄膜が形成されてからマスクを介してエッチングが行われることによりなされてもよい。エッチングは、第2電極7と絶縁膜9とで別個に行われてもよいし、共に行われてもよい。
ここで、仮に、第2電極7が基板3に埋設されるとすると、その加工精度等の観点から第2電極7の埋設深さを小さくすることは困難である。しかし、本実施形態では、第2電極7は、基板3に埋設されるのではなく、基板3上に設けられて、薄膜形成法により形成される絶縁膜9により覆われる。従って、絶縁膜9は、1〜10μmオーダー、さらには、1μmオーダーとされることが可能である。
以上のとおり、本実施形態では、上面にてウェハWを保持する静電チャック1は、誘電体からなる基板3と、該基板3の内部に配された第1電極5と、該基板3の上面に形成された第2電極7とを備えている。
従って、第2電極7は、基板3に埋設されておらず、ウェハWの極力近くに位置する。そして、このような第2電極7により、静電チャック1とウェハWとの界面付近への電荷の移動及び/又は該界面付近からの電荷の除去を行うことにより、吸着力の制御性、特に制御の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態では、基板3は、上面から突出した複数のピン3bと、上面において複数のピン3bの間に位置する底面3cとを有し、第2電極7は、底面3c上に形成されている。別の観点では、第2電極7は、基板3の上面を露出させる複数の隙間(ピン3bを露出させる穴部)が形成されるようにパターニングされている。
従って、複数のピン3bの位置においては、第1電極5とウェハWとの間に第2電極7が介在しないことから、第2電極7に電圧を印加せずに第1電極5に対する電圧印加のみにより吸着力を発揮しているときにおいて、複数のピン3bに保持されるべき電荷Eが第2電極7から逃げてしまうことが抑制され、複数のピン3bにおける吸着力が高く維持される。また、第2電極7(及び絶縁膜9)の厚みをピン3bの高さよりも小さくすることにより、ピン3bをウェハWに当接させ、静電チャック1の吸着力を高く維持することができる。
また、本実施形態では、第2電極7は、底面3c上において、複数のピンに囲まれた領域(本実施形態では4つのピンに囲まれた矩形領域)全体にわたるベタ状部分を有する。
従って、第2電極7による電荷Eの除去等を広い面積にわたって行うことができ、ひいては、制御の応答性が向上する。また、底面3cにおける電荷の除去を漏れなく行うことができる。
また、本実施形態では、静電チャック1は、第2電極7の上面に形成された絶縁膜9をさらに備えている。
従って、第2電極7からの放電を抑制することができる。また、適宜な誘電率の材料により絶縁膜9を形成すれば、第1電極5若しくは第2電極7に対する電圧印加によって、第2電極7の配置位置においても電荷Eを絶縁膜9に保持し、吸着力が得られることが期待される。
また、本実施形態では、静電チャック1を用いたウェハWの吸着方法は、静電チャック1の上面にウェハWを載置する工程と、第1電極5に第1電圧(図4(b)において実線L21で示す電圧)を印加することによって、ウェハWを静電チャック1で吸着する工程と、第2電極7に第1電圧と正負が逆である第2電圧(図4(b)において1点鎖線L25で示す電圧のうち紙面右側の部分)を印加した後、ウェハWを静電チャック1から離脱させる工程と、を備える。
従って、ウェハWと基板3との界面に近い第2電極7に逆電圧を印加して電荷を除去することから、速やかに電荷を除去することができる。
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態に係る静電チャック201を説明する図3に相当する平面図である。
第2の実施形態に係る静電チャック201は、第2電極207の平面形状のみが第1の実施形態と相違する。具体的には、第2電極207は、底面3c上において、ピン3bを取り囲む環状部分207aと、該環状部分207a同士を電気的に接続する線状部分207bとを有している。
環状部分207aは、例えば、一定の幅でピン3bを囲んでおり、本実施形態では、ピン3bが円形であることに対応して、内縁及び外縁は円形である。なお、環状部分207aの内縁は、ピン3bの外縁に密着する(ピン3bの外縁と同一形状である)ことが好ましいが、外縁については、ピン3bの外縁とは異なる形状とされてもよい。環状部分207aの幅は、加工精度等に起因して断線するおそれがない程度以上あればよく、適宜に設定されてよい。
線状部分207bは、例えば、互いに平行な複数の直線が構成されるように設けられている。なお、これらの複数の直線に対して直交する複数の直線が構成されたり、及び/又は、これら複数の直線に対して斜めに交差する複数の直線(対角線方向に延びる直線)が構成されたりしてもよい。線状部分207bの幅は、例えば、概ね一定であり、また、加工精度等に起因して断線するおそれがない程度以上であればよい。
なお、絶縁膜9の平面形状は、第2電極207を覆う限りにおいて、適宜な形状とされてよい。例えば、第2電極207と同様の形状とされてもよいし、第1の実施形態と同様に底面3cの全面を覆う形状とされてもよいし、その他の形状とされてもよい。
以上のとおり、第2の実施形態では、静電チャック1は、誘電体からなる基板3と、該基板3の内部に配された第1電極5と、該基板3の上面に形成された第2電極207とを備えていることから、第1の実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、吸着力の制御性が向上する。
第1の実施形態では、第2電極7をベタ状電極とすることによって、底面3cの広い範囲を第2電極7により覆い、これにより、電荷Eの除去を基板3の上面全体にわたって速やかに行うことができるようにした。一方、第2の実施形態では、環状部分207a及び線状部分207bを設けることにより、制御の応答性を維持しつつ、吸着力を向上させることができる。
具体的には、環状部分207aがピン3bを囲んでいることから、ピン3bへの電荷Eの移動及びピン3bからの電荷Eの除去は、第1の実施形態と同様に速やかに行われる。その一方で、環状部分207aと電源装置53とを線状部分207bで接続し、底面3cの一部を第2電極207から露出させていることから、この露出領域においては、第1電極5に電圧を印加することによって吸着力が生じる。第2電極7が設けられない従来の静電チャックにおいては、吸着力の3割程度を底面3cにおいて得ているが、第2の実施形態では、これに近い吸着力を得ることが期待される。
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態に係る静電チャック301を説明する図2に相当する拡大断面図である。
第3の実施形態は、第2電極307がピン3b上においても形成されており、また、絶縁膜309がピン3b上においても第2電極307を覆っている点が第1及び第2の実施形態と相違し、その他は、概ね第1及び第2の実施形態と同様である。
なお、第2電極307の平面形状は、例えば、第1の実施形態の第2電極7においてピン3bを覆う部分を追加した形状(ピン3b及び底面3cの全面を覆う形状)であってもよいし、第2の実施形態の第2電極207においてピン3bを覆う部分を追加した形状であってもよい。
また、絶縁膜309の平面形状は、第2電極307を覆う限りにおいて、適宜な形状とされてよい。例えば、絶縁膜309の平面形状は、第2電極307と同様の形状とされてもよいし、ピン3b及び底面3cの全面を覆う形状とされてもよいし、その他の適宜な形状とされてもよい。
本実施形態においては、絶縁膜309の材料は、その抵抗率が1013Ω・cm未満、好適には、108〜109Ω・cmとなるものとされている。換言すれば、絶縁膜309の材料は、抵抗率が基板3の抵抗率と同様のものとされている。このような材料としては、DLC及び窒化珪素を挙げることができる。
絶縁膜309の厚みは、概ね一定であってもよいし、位置に応じて変化してもよい。絶縁膜309は、その厚みが変化する場合、例えば、ピン3bの頂面における厚みが底面3cにおける厚みよりも大きくなるように形成される。このような厚みの異なる絶縁膜309は、例えば、基板3の底面3c及びピン3bを覆う薄膜の形成と、ピン3bの頂面のみを覆う薄膜の形成との2回の成膜を行うことにより実現される(いずれの成膜が先であってもよい。)。
また、絶縁膜309の厚みは、第1の実施形態の絶縁膜9と同様に、当該厚みと第2電極307の厚みとの合計が複数のピン3bの高さを超えない大きさであってもよいし、これよりも大きな厚みであってもよい。
ただし、本実施形態では、絶縁膜9の厚さが変化したり、ピン3bに対して相対的に厚い部分が形成されたりする場合においても、絶縁膜9は、ピン3b及び底面3cによる起伏が当該絶縁膜9の上面に現れるように厚さが設定される。また、絶縁膜309の厚みは、例えば、最大の厚みが1〜10μmオーダーである。
第3の実施形態においては、ウェハWは、ピン3b上において絶縁膜309に当接する。そして、第1電極5及び/又は第2電極307に電圧が印加された場合、これら電極において発生した電荷Eは、絶縁膜309へ移動し、ウェハ本体Waにおける極性が逆の電荷Eと酸化膜Wbを挟んで対向する。
以上のとおり、第3の実施形態では、静電チャック301は、誘電体からなる基板3と、該基板3の内部に配された第1電極5と、該基板3の上面に形成された第2電極307とを備えていることから、第1の実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、吸着力の制御性が向上する。
また、第3の実施形態では、静電チャック301は、第2電極307の上面に形成された絶縁膜309をさらに備え、絶縁膜309は、上面でウェハWを保持する。
従って、第2電極307の放電が抑制されるだけでなく、第2電極307を絶縁膜309の厚みで静電チャック1とウェハWとの界面に近づけ、吸着力の制御の応答性を向上させることができる。
また、第3の実施形態では、絶縁膜309の厚みは1〜10μmオーダーである。
従って、第2電極307を1〜10μmオーダーで静電チャック1とウェハWとの界面に近づけることができ、上述の制御の応答性向上の効果が顕著となる。なお、第2電極307を基板3に埋設した場合においては、既に述べたように、基板3の加工精度等の点から、第2電極307の埋設深さをこのようなオーダーとすることは困難であり、ひいては、このようなオーダーの距離で第2電極307をウェハWに近づけることは困難である。
また、第3の実施形態では、基板3は、上面から突出した複数のピン3bと、上面において複数のピン3bの間に位置する底面3cとを有し、絶縁膜309は、複数のピン3b及び底面3cによる起伏が当該絶縁膜309の上面に現れるようにこれらを覆っている。
従って、絶縁膜309をウェハWに当接させる態様でありながら、絶縁膜309が設けられない場合と同様に、ピン3bによる種々の効果を得ることができる。例えば、ウェハWに疵がつくことが抑制される。なお、基板3の上面の起伏が絶縁膜309の上面に現れているということは、絶縁膜309が比較的薄いものであることを間接的に示している。すなわち、上述した第2電極307を静電チャック1とウェハWとの界面に近づけることによる制御の応答性の向上の効果が顕著になることも期待される。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
静電チャックは、ジョンソン・ラーベック力型のものに限定されず、クーロン力型のものであってもよい。なお、クーロン力型の静電チャックの構成は、基板を構成する材料がジョンソン・ラーベック力型のものと違う以外は、概ねジョンソン・ラーベック力型の静電チャックの構成と同様でよい。なお、クーロン力型の静電チャックの基板を構成する材料は、抵抗率が1014Ω・cm以上の誘電体とされる。クーロン力型の静電チャックにおいては、例えば、第2電極が基板の上面に設けられることにより、基板の上面において残ってしまった分極を速やかに無くすことができ、吸着力の制御性を向上させることができる。
また、静電チャックは、双極方式のものに限定されず、単極方式のものであってもよい。なお、単極方式の場合、静電チャックの構成及び電源装置の構成は、双極方式の場合における、一方の第1電極に対応する部分の構成と概ね同様でよい。
基板は、上面にピンを有さないものであってもよい。この場合において、第2電極は、ベタ状電極とされてもよいし、複数の隙間が基板の上面に分散配置される(図3若しくは図6参照)ようにパターニングされていてもよい。なお、第2電極がベタ状電極である場合は、第3の実施形態と同様に、電荷の保持に寄与する材料からなる絶縁膜が第2電極を覆っていることが好ましい。第2電極がパターニングされている場合には、第1及び第2の実施形態と同様に、(電荷の保持に寄与する絶縁膜が無くても)第2電極の隙間において第1電極に電圧を印加することによる吸着力が確保される。
基板にピンがあり、また、第2電極が底面のみに設けられる場合(第1及び第2の実施形態参照)においても、第2電極の厚み、若しくは、第2電極及び絶縁膜の合計の厚みは、ピンの高さよりも大きくてもよい。ただし、ピンの高さが第2電極等の厚みよりも大きく、ピンが被吸着物に当接した方が、第1電極に電圧を印加することによる吸着力は大きい。
第2電極の平面形状は、実施形態に例示したものに限定されず、適宜に設定されてよい。例えば、第2電極の平面形状は、櫛歯状とされたり、複数の同心円状とされたりしてもよい。また、第2電極の、基板の上面を露出させる隙間は、孔部に限定されず、切り欠きであってもよい。例えば、第2電極が櫛歯状に形成されている場合は、複数の隙間は複数の切り欠きにより形成される。
第2電極を覆う絶縁膜は設けられなくてもよい。例えば、第1及び第2の実施形態においては、ピンが被吸着物に当接することにより、第2電極は、被吸着物から離れて、適宜なガスの雰囲気下に置かれているから、その隙間の大きさ、ガスの種類、印加される電圧等によっては、絶縁膜を設けなくても放電のおそれは低い。また、実施形態のウェハのように、被吸着物に絶縁性の被膜(酸化膜Wb参照)が形成されている場合においては、第2電極が被吸着物に当接してしまっても構わない。
被吸着物(ウェハ)は、酸化膜を有さないものであってもよい。逆に、窒化膜等の他の絶縁膜を有するものであってもよい。被吸着物の本体部分は、半導体に限定されず、絶縁体であってもよい。
第2電極は、吸着力の発生及び消去の双方において利用される必要はなく、例えば、消去のみにおいて利用されてもよい。また、被吸着物に対する加工内容に応じて、一時的に吸着力を高くしたりすることに利用されてもよい。第2電極が吸着力の消去に利用される場合において、吸着力の消去時に、第2電極は、逆電圧が印加されずに、接地されるだけであってもよい。また、第1電極は、吸着力の消去時に、逆電圧が印加されてもよい。
第2電極への電圧印加のタイミング、時間長さ、その電圧値は、実施形態に例示したものに限定されない。例えば、第2電極への電圧開始時は、第1電極への電圧開始時に対して適宜にずらされてもよいし、第2電極への逆電圧開始時は、第1電極への電圧降下開始時に対して適宜にずらされてもよい。また、例えば、第2電極に印加される電圧の大きさは、第1電極に印加される電圧よりも大きくされてもよいし、小さくされてもよい。また、第1及び第2電極に印加される電圧の上昇若しくは降下の変化は、段階的に変化してもよい。