以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下、直噴エンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1に示されるように、エンジンシステムは、エンジン(エンジン本体)1、エンジン1に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエータを制御するエンジン制御器100を有する。このエンジンシステムは、幾何学的圧縮比が12以上20以下(例えば14)の高圧縮比エンジン1を備える。
エンジン1は、火花点火式4ストローク内燃機関であって、図1には1つのみ図示するが、直列に配置された第1〜第4の4つの気筒11を有する。但し、ここに開示する技術が適用可能なエンジンは、直列4気筒エンジンには限定されない。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。
このエンジン1には、エタノール(バイオエタノールを含む)を含有する燃料が供給される。特にこの車両は、エタノールの濃度が25%(つまり、E25)〜100%(つまり、E100)までの任意の濃度の燃料が使用可能なFFVである。図示は省略するが、この車両は、前記の燃料を貯留する燃料(メインタンク)のみを有しており、従来のFFVのように、ガソリン濃度の高い燃料を、メインタンクとは別に貯留するためのサブタンクを有していない。ただし、サブタンクを設けてもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の上に載置されるシリンダヘッド13と、シリンダブロック12に下に設けられるオイルパン23とを備えている。ブロック12の内部に気筒11が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14が、コネクティングロッド16を介してピストン15に連結されている。シリンダブロック12の下部とオイルパン23とによってクランク室12aが形成されている。オイルパン23の内側には、エンジンオイルを貯留するオイル貯留部23aが形成されている。オイル貯留部23aとクランク室12aとは、連通している。オイル貯留部23aは、貯留部の一例である。
各気筒11の天井部には、略中央部からシリンダヘッド13の下端面付近まで延びる2つの傾斜面が形成されており、それらの傾斜面が互いに差し掛けられた屋根のような形状をなすいわゆるペントルーフ型となっている。
前記ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されており、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。ピストン15の頂面は、前述した気筒11の天井面のペントルーフ型の形状に対応するように、その周縁部から中央部に向かって隆起する台形状に形成されており、これによって、ピストン15が圧縮上死点に到達したときの燃焼室容積を小さくして、12以上の高い幾何学的圧縮比を達成している。ピストン15の頂面にはまた、その概略中心位置に、概ね球面状に凹陥したキャビティ151が形成されている。このキャビティ151は、気筒11の中心部に配設された点火プラグ51に相対するように、配置されており、これによって、燃焼期間を短縮するようにしている。つまり、前述したように、この高圧縮比エンジン1は、ピストン15の頂面が隆起していて、ピストン15が圧縮上死点に到達したときに、ピストン15の頂面と気筒11の天井面との間隔が極めて狭くなるように構成されている。このため、キャビティ151を形成していないときには、初期火炎がピストン15の頂面と干渉して冷却損失が増大し、火炎伝播が阻害されて燃焼速度が遅延してしまう。これに対し、前記のキャビティ151は、初期火炎の干渉を回避して、その成長を妨げないため、火炎伝播が速くなって、燃焼期間が短縮し得る。このことは、ガソリン濃度の高い燃料においては、ノッキングの抑制に有利になり、点火時期の進角によるトルクの向上に寄与する。
気筒11毎に、吸気ポート18及び排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれが燃焼室17に連通している。吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動され、それによって所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40は、それぞれ吸気カムシャフト31及び排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31,41は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト14に連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31,41を一回転させる。
吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の開閉時期を変更可能な吸気バルブタイミング可変機構32を含んで構成され、排気弁駆動機構40は、排気弁22の開閉時期を変更可能な排気バルブタイミング可変機構42を含んで構成される。吸気バルブタイミング可変機構32は、この実施形態では、吸気カムシャフト31の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)により構成され、排気バルブタイミング可変機構42は、排気カムシャフト41の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な電動式の位相可変機構により構成されている。吸気バルブタイミング可変機構32は、吸気弁21の閉弁時期を変更することにより、有効圧縮比を調整し得るものである。尚、有効圧縮比とは、吸気弁閉弁時の燃焼室容積と、ピストン15が上死点にあるときの燃焼室容積との比である。尚、VVTは、液圧式又は機械式であってもよい。
点火プラグ51は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ51の電極は、気筒11の概略中心において燃焼室17の天井部に臨んでいる。点火システム52は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造で、この実施形態ではシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。このエンジン1は、燃料を気筒11内に直接噴射する、いわゆる直噴エンジンであり、燃料噴射弁53の先端は、上下方向については吸気ポート18の下方に、また、水平方向については気筒11の中央に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。但し、燃料噴射弁53の配置はこれに限定されるものではない。燃料噴射弁53は、この例においては、多噴口(例えば6噴口)型の燃料噴射弁(Multi Hole Injector:MHI)である。各噴口の向きは、図示は省略するが、気筒11内の全体に燃料が噴射できるように、噴口軸の芯先が広がっている。MHIの利点は、多噴口であるため一噴口の径が小さく、比較的高い圧力で燃料を噴射し得る点、及び、気筒11内の全体に燃料を噴射可能に広がっているため、燃料のミキシング性が高まると共に、燃料の気化・霧化が促進される点にある。従って、吸気行程中に燃料を噴射した場合は、気筒11内の吸気流動を利用した、燃料のミキシング性、及び、気化・霧化の促進の点で有利になる一方、圧縮行程において燃料を噴射した場合は、燃料の気化・霧化の促進により、気筒11内のガス冷却の点で有利になる。尚、燃料噴射弁53は、MHIに限定されるものではない。
燃料供給システム54は、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプ(燃料ポンプ)と、この高圧ポンプに対して燃料タンクからの燃料を送る配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路と、を備えている。燃料ポンプは、この例ではエンジン1によって駆動される。尚、燃料ポンプを電動ポンプとしてもよい。燃料噴射弁53が多噴口型である場合は、微小な噴口から燃料を噴射するために、燃料噴射圧力は比較的高く設定される。電気回路は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて燃料噴射弁53を作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を、燃焼室17内に噴射させる。ここで、燃料供給システム54は、エンジン回転数が上昇するに伴い燃圧を高く設定する。これは、エンジン回転数が上昇するに伴い、気筒11内に噴射される燃料量も増大するが、燃圧が高くなることで、燃料の気化・霧化に有利になると共に、燃料噴射弁53の燃料噴射に係るパルス幅を可及的に短くするという利点がある。前述したように、燃料タンクには、E25〜E100までの任意のエタノール濃度のアルコール含有燃料が貯留されている。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流は、スロットルボディ56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボディ56にはスロットル弁57が配置されており、このスロットル弁57は、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットル・アクチュエータ58が、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁57の開度を調整する。
サージタンク55aには、PCV(Positive Crankcase Ventilation)ホース59の下流端が接続されている。PCVホース59の上流端は、エンジンブロック12にPCVバルブ59aを介して接続されている。PCVホース59は、エンジンブロック12のクランク室12aと連通している。PCVバルブ59aは、クランク室12aからPCVホース59へのブローバイガスの流入を許容する一方で、PCVホース59からクランク室12aへの気体の流入を阻止する。こうして、サージタンク55aには、クランク室12a内のブローバイガスがPCVホース59を介して流入する。PCVホース59は、ブローバイ通路の一例である。サージタンク55aは、吸気通路の一例である。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管61内の通路に連通している。この排気マニホールド60は、図示を省略するが、各気筒11の排気ポート19に接続された分岐排気通路が、排気順序が隣り合わない気筒同士で第1集合部により集合され、各第1集合部の下流の中間排気通路が第2集合部で集合された構造となっている。すなわち、このエンジン1の排気マニホールド60には、いわゆる4−2−1レイアウトが採用されている。排気管61には、リニアO2センサ79が設けられている。リニアO2センサ79は、排気ガス中の酸素濃度に基づいて混合気の空燃比を検出する。
エンジン1にはまた、その始動時にクランキングを行うためのスタータモータ20が設けられている。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。エンジン制御器100は、制御部の一例である。
尚、制御部は、ハードロジックで実現してもよい。制御部は、1つの素子で構成してもよいし、物理的に複数の素子で構成してもよい。複数の素子で構成する場合、1つの制御を複数の素子で実現してもよい。
エンジン制御器100は、エアフローセンサ71からの吸気流量及び吸気温度、吸気圧センサ72からの吸気マニホールド圧、クランク角センサ73からのクランク角パルス信号、水温センサ78からのエンジン水温、リニアO2センサ79からの空燃比というように、種々の入力を受ける。エンジン制御器100は、例えばクランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転数を計算する。また、エンジン制御器100は、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号を受ける。さらに、エンジン制御器100には、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号が入力される。加えて、シリンダブロック12には、当該シリンダブロック12の振動を電圧信号に変換して出力する加速度センサからなるノックセンサ77が取り付けられており、その出力信号もエンジン制御器100に入力される。
エンジン制御器100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル・アクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、並びに、吸気及び排気バルブタイミング可変機構32、42等に出力する。エンジン制御器100はまた、エンジン1の始動時には、スタータモータ20に駆動信号を出力する。
ここで、FFV用のエンジンシステムに特有の構成として、エンジン制御器100は、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度を推定する。エタノールの理論空燃比(9.0)は、ガソリンの理論空燃比(14.7)よりも小さく、燃料のエタノール濃度が高いほど理論空燃比はリッチ側になることから、理論空燃比でエンジンを運転している条件下において、排気ガス中に燃え残りの酸素が存在しているときには、燃料のエタノール濃度が予想よりも高かったと判断することができる。エンジン制御器100は、このことを利用して、リニアO2センサ79が検知した排気ガス中の酸素濃度に基づき燃料のエタノール濃度を推定する。尚、燃料のエタノール濃度を推定する代わりに、燃料のエタノール濃度を検出するセンサを設けてもよい。
エンジン制御器100はさらに、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、気筒11内に供給した燃料の気化率を算出する。気化率は、気筒11内に供給する燃料量(言い換えると、燃料噴射弁53が噴射した燃料量)に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比によって定義される。エンジン制御器100は、混合気の空燃比と、リニアO2センサ79の検出値とに基づいて燃焼に寄与した燃料量の重量を算出し、算出した燃料重量と、燃料噴射弁53の燃料噴射量とから気化率を算出する。
このエンジンシステムは、前述の通りFFVに搭載されたシステムであり、エンジン1には、E25〜E100までの任意の混合比のアルコール含有燃料が供給される。ここで、図2は、ガソリンの気化特性とエタノールの気化特性とを比較する図である。尚、図2は、1気圧下における温度変化に対する、ガソリン及びエタノールそれぞれの蒸留量(%)の変化を示している。ガソリンは多成分燃料であることから、各成分の沸点に応じて蒸発する。ガソリンの蒸留量は、温度変化に対しおおよそ線形的に変化することなる。つまり、ガソリンは、エンジン1の温度状態が比較的低いときにも気化して、可燃混合気を形成することが可能である。
これに対しエタノールは単一成分燃料であることから、特定温度(つまり、エタノールの沸点である78℃)以下では、蒸留量が0%になる一方で、特定温度を超えると、蒸留量が100%になる。このように、ガソリンとエタノールとを比較すると、特定温度以下では、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも低くなる一方で、特定温度を超えると、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも高くなる。そのため、エンジン1の温度状態が所定温度以下(例えば水温が20℃以下程度)の冷間状態では、エタノールを含有する燃料は、ガソリンと比較して気化率が低くなる。そうして、エンジン1が冷間状態にあるときには、エンジン1の温度状態が低いほど、また燃料のエタノール濃度が高いほど、燃料の気化率は低下することになる。
このように、エンジン1の温度状態や、燃料のエタノール濃度によって燃料の気化率が変化することから、エンジン制御器100は、目標となる気化燃料量が得られるように、エンジン負荷等に応じて設定されるベースの燃料量に対し、燃料の気化率に応じて燃料量の増量補正を行う。すなわち、燃料の気化率が低いほど、燃料噴射弁53が噴射する燃料量は増量する。
また、エンジン制御器100は、特に部分負荷の運転領域においては、エンジン1の温度に応じてエンジン1の有効圧縮比を調整している。エンジン制御器100は、エンジン水温に基づいてエンジン1の温度を判定している。図3は、エンジン水温に対する吸気弁21の閉弁時期の関係を示す図である。エンジン制御器100は、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも遅いタイミングに設定しており、エンジン水温が低いほど、即ち、エンジン1の温度が低いほど、吸気弁21の閉弁時期を進角させている。より詳しくは、エンジン制御器100は、エンジン水温が低くなるにつれて、吸気弁21の閉弁時期を階段状に進角させている。吸気弁21の閉弁時期を進角させることによって、有効圧縮比が高くなり、圧縮行程中の気筒11内の圧力及び温度が高くなる。前述の如く、エンジン1の温度が低いほど、エタノールの気化率が低下し、燃焼安定性が悪化する。それに対し、エンジン水温が低いほど、即ち、エンジン1の温度が低いほど、有効圧縮比を高くすることによって、燃焼安定性を向上させることができる。それに加えて、有効圧縮比を高くすることによって気筒11内の温度が高くなるので、エタノールの気化を促進することができる。この点においても、燃焼安定性を向上させることができる。一方、エンジン水温が高いときには、吸気弁21の閉弁時期が比較的遅くに設定され、有効圧縮比が低くなっている。部分負荷の運転領域においては、あまり大きな出力が要求されないため有効圧縮比を低くすることができ、それによってポンプ損失を低減して燃費の向上を図っている。
それに加えて、エンジン制御器100は、クランク室12aで蒸発してPCVホース59を介してサージタンク55aに流入するエタノールの量に応じて、エンジン1の有効圧縮比を調整している。
詳しくは、冷間時のように気化率が低い条件下では、一部のエタノールは、気化せずに液体の状態のまま燃焼室17に存在する。液体のエタノールは燃焼し難いので、液体のエタノールの多くは未燃のまま燃焼室17に残留する。残留したエタノールは、クランク室12a内に滴下し、オイルパン23のエンジンオイルに混入する。エンジンオイルの温度が比較的低いときには、エタノールの温度も沸点に達していないので、液体のままエンジンオイル中に存在する。しかし、エンジン1の運転に従ってエンジンオイルの温度が上昇し、エタノールの温度が沸点に達すると、該エタノールは一気に蒸発する。この蒸発したエタノール(以下、「蒸発エタノール」ともいう)は、周りのエンジンオイルを微粒化した状態で含有することになる。蒸発エタノールは、ブローバイガスとしてクランク室12aからPCVホース59を介して流出し、サージタンク55aに流入する。その後、エタノールは、吸気マニホールド55を介して燃焼室17に供給される。こうして、蒸発エタノールを介して、微粒化したエンジンオイルが燃焼室17に導入される。エンジンオイルは燃焼安定性の観点からは好ましくないので、エンジンオイルの量が多くなるほど燃焼安定性が悪化する。燃焼室17へ導入されるエンジンオイルは、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールが多くなるほど、多くなる。
それに対し、エンジン制御器100は、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールが多くなるほど、エンジン1の有効圧縮比を高くしている。具体的には、エンジン制御器100は、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量が所定値以上となると、エンジン1の有効圧縮比を高くしている。エンジン制御器100は、リニアO2センサ79からの酸素濃度に基づいてPCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量が所定値以上か否かを判定している。つまり、エンジン制御器100は、出力要求に応じた空気量、空燃比、燃料量でエンジン1を運転している。その状態で、クランク室12aの蒸発エタノールが燃焼室17に導入されると、燃焼室17内の燃料量は所望の燃料量よりも多くなり、燃焼室17内は酸素不足となる。その結果、リニアO2センサ79は、空燃比がリッチ側にあること、即ち、酸素濃度が不足であることを示す出力値を出力する。エンジン制御器100は、酸素濃度の不足率が所定値以上になると、エンジン1の有効圧縮比を高くしている。
図4に、エンジンの運転サイクルに対する酸素濃度の不足率の変化を示す。ここで、酸素濃度の不足率とは、理論空燃比を実現する酸素濃度に対して不足している酸素濃度の比率である。例えば、オイルパン23にエタノールが混入した状態からエンジン1の運転を開始したとすると、図4に示すように、エンジンオイルの温度が上昇するまでの間は、エンジンオイル中のエタノールはあまり蒸発しないので、酸素濃度は目標値に近い値となっている。エンジン1の運転がしばらく続いてエンジンオイルが上昇すると、エタノールの蒸発が始まり、蒸発エタノールがPCVホース59、サージタンク55a及び吸気経路55bを介して燃焼室17に導入される。その結果、酸素濃度が不足するようになる。そして、蒸発エタノールの増加に伴い、酸素濃度の不足率も徐々に大きくなる。エンジンオイル内のエタノールが全て蒸発すると、燃焼室17へ導入される蒸発エタノールの量も徐々に減少し、酸素濃度の不足率も徐々に小さくなる。やがて、酸素濃度は目標値に一致する。
ここで、エンジン制御器100は、酸素濃度の不足率が所定値以上となると、吸気弁21の閉弁時期を進角させて、有効圧縮比を高くしている。酸素濃度の不足率が大きいことは、蒸発エタノールが多いことを表している。つまり、エンジン制御器100は、図5に示すように、エタノール蒸発量に応じて有効圧縮比を調整している。具体的には、エンジン制御器100は、エタノール蒸発量が所定値以上となると、有効圧縮比を高くしている。エタノールが蒸発するのはエンジン1の温度が高いときなので、図1で見れば、エンジン水温が高い、吸気弁21の閉弁時期が最も遅く設定された領域において吸気弁21の閉弁時期が進角側に調整されることになる(図1の破線参照)。尚、エンジン制御器100は、酸素濃度の不足率が所定値未満となると、吸気弁21の閉弁時期を遅角側に調整して、有効圧縮比を低くしている。
蒸発エタノールは、エンジンオイルを含んでいるため、燃焼室17の蒸発エタノールの量が増えることは、燃焼室17のエンジンオイルの量が増えることを意味し、ひいては、燃焼安定性が悪化することを意味する。それに対し、燃焼室17に導入される蒸発エタノールの量が多いときには有効圧縮比が高く設定されるため、エンジンオイルの増加に起因する燃焼安定性の悪化を抑制することができる。
一方、燃焼室17に導入される蒸発エタノールの量が少ないときには、燃焼室17へのエンジンオイルの導入も少ないので、有効圧縮比を低減することによって、ポンプ損失を低減して燃費の向上を図ることができる。
したがって、前記実施形態によれば、エンジン1は、特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率の低い特殊燃料、具体的にはエタノールを含む燃料が供給されるように構成されている。エンジン1は、クランク室12aに連通し、エンジンオイルを貯留するオイル貯留部23aと、前記クランク室12aのブローバイガスをサージタンク55aへ導くPCVホース59と、エンジン1の運転を制御するエンジン制御器100とを備えている。エンジン制御器100は、前記オイル貯留部23aにおいて蒸発し、前記PCVホース59を介して前記サージタンク55aへ流入するエタノールが多いときには、前記PCVホース59を介して前記サージタンク55aへ流入するエタノールが少ないときに比べて、前記エンジン1の有効圧縮比を高くする。
この構成によれば、燃焼室17内に未燃で且つ液体の状態のまま残留したエタノールは、クランク室12aに滴下し、オイル貯留部23aのエンジンオイルに混入する。エンジンオイルに混入したエタノールは、温度が上昇すると蒸発し、クランク室21内に充満する。エタノールは、蒸発する際に周りのエンジンオイルを微粒化した状態で含有することになる。クランク室12a内の蒸発エタノールは、ブローバイガスとしてPCVホース59を介してサージタンク55aへ流入する。その後、蒸発エタノールは、吸気経路55bを介して燃焼室17へ導入される。そして、燃焼室17へ導入される蒸発エタノールが多いということは、微粒化したエンジンオイルが燃焼室17へたくさん導入されるということなので、そのようなときには、エンジン1の有効圧縮比が高くされる。微粒化したエンジンオイルが多いという燃焼安定性に不利な運転条件下であっても、有効圧縮比を高めることによって、燃焼安定性の悪化を抑制することができる。
一方、燃焼室17へ導入される蒸発エタノールが少ないときには、燃焼室17へ導入されるエンジンオイルも少ないので、有効圧縮比を低下させても燃焼安定性に与える影響は小さい。さらに、部分負荷の運転領域においては、要求出力が小さいので、有効圧縮比を下げても問題がない。むしろ、有効圧縮比を下げることによって、ポンプ損失を低減して燃費を向上させることができる。
また、エンジン1は、吸気ポート18を開閉する吸気弁21をさらに備え、前記エンジン制御器100は、所定負荷以下の部分負荷時において前記吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも遅い時期に設定しており、前記PCVホース59を介して前記サージタンク55aへ流入するエタノールが多いときには、前記PCVホース59を介して前記サージタンク55aへ流入するエタノールが少ないときに比べて、前記吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点に近づける。
つまり、前述の有効圧縮比を高めることは、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点に近づけることにより実現される。
吸気弁21の閉弁時期を進角させることは、エンジン1の有効圧縮比をクランクロッドやコンロッドの構成により機械的に変更する構成に比べて、有効圧縮比を容易に且つ高い応答性で調整することができる。
また、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも後ろの領域で調整することによって、高回転の運転領域であっても適切な運転を実現しつつ、有効圧縮比を調整することができる。つまり、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも早い側に設定すると、吸気弁21が開かれている期間が短くなり、吸気慣性の影響が大きい高回転の運転領域では、吸気を十分に充填することが難しくなる。それに比べて、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも後ろの領域で調整する場合には、吸気弁21が開いている期間を長くすることができ、吸気を吸い込む期間を確保することができる。
このように、燃焼室17へ導入される蒸発エタノールが多いときには、吸気弁21の閉弁時期を進角させて燃焼安定性を向上させることができると共に、燃焼室17へ導入される蒸発エタノールが少ないときには、吸気弁21の閉弁時期を遅閉じにして燃費の向上を図ることができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記の構成はFFVとしているが、ここに開示する技術は、FFVでなくても、アルコールを含有する燃料が供給されるエンジンを搭載する車両に広く適用することが可能である。
前記実施形態では、特殊燃料としてエタノールを用いた例を説明したが、特殊燃料はそれ以外の物質であってもよい。例えば、特殊燃料は、メタノール等のアルコール、食用油や産業油等の油であってもよい。また、特殊燃料と混合される燃料は、ガソリンに限られない。
前記実施形態では、リニアO2センサ79からの酸素濃度に基づいてPCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量が所定値以上か否かを判定している。しかし、PCVホース59を介して流入する蒸発エタノールの量の判定は、リニアO2センサ79からの酸素濃度に基づくものに限られない。
前記実施形態では、酸素濃度の不足率が所定値以上になると、即ち、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量が所定値以上になると、エンジン1の有効圧縮比を一律に所定値まで高めている。しかし、これに限らず、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量に応じて、エンジン1の有効圧縮比を変化させてもよい。すなわち、PCVホース59を介してサージタンク55aに流入する蒸発エタノールの量が多くなるほど、エンジン1の有効圧縮比を高く、即ち、遅閉じに設定された吸気弁21の閉弁時期の進角量を大きくしてもよい。