ところで、エンジンが高回転でかつ、高負荷の運転領域では、エンジンの信頼性や、触媒装置の過熱を防止する観点から、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチにすることで、燃料の気化潜熱を利用して燃焼温度及び排気ガス温度を低下させることが行われる(以下、説明の都合上、このような制御をオーバーリッチ制御と呼ぶ場合がある)。
また、FFVにおいては、前述したように、ガソリンの理論空燃比とアルコールの理論空燃比との相違から燃料におけるアルコール濃度が高いほど、燃料噴射量が増大することになると共に、エンジンの温度状態が低くかつ燃料のエタノール濃度が高いような、燃料の気化率が低くなるときには、その低い気化率を補って所望の気化燃料量が得られるように、気筒内に供給する燃料量を、予め増量する制御が行われる。
従って、FFVにおいて、特にエンジンの温度が比較的低い低温時に、前述したオーバーリッチ制御をしようとすれば、エタノール濃度が高いほど燃料噴射量が大幅に増大するようになるから、吸気行程中から燃料噴射を開始しても、圧縮行程の後半まで燃料噴射が継続してしまうことにもなる。
一方で、燃料におけるアルコール濃度が高いほど、低温時は、燃料は気化し難くなるため、気化時間を長く確保したいという要求が生まれるが、前述の通りアルコール濃度が高いほど燃料の噴射終了時期が遅れる上に、高回転域では、1サイクル当たりの時間が短くなるため、点火前に十分に長い気化時間を確保することができず、結果として、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性を低下させる虞がある。また、気筒内に噴射したものの気化せずに液滴のままの燃料が増えることになり、気筒内に残留する液滴燃料が、燃料の気化をさらに悪化させることにもなる。さらに、未燃燃料が触媒装置に供給されてしまう結果、触媒における後燃えを招くことも起こり得る。このように、燃料の気化潜熱を利用して燃焼温度の低下を図るオーバーリッチ制御が、FFVにおいては、燃料の気化が悪くなるときに、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性を低下させ、さらにはエンジンの信頼性低下や触媒装置の過熱を招くことにもなり得る。
ここに開示する技術は、前記の実情を考慮した技術であり、その目的とするところは、特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率の低いアルコールを含む燃料が供給されるエンジンにおいて、その温度状態が所定温度以下でかつ、エンジンの運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときに、燃料の性状に関わらず、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性を確保することにある。
具体的にここに開示する技術は、火花点火式エンジンの制御装置に係る。この火花点火式エンジンの制御装置は、特定温度以下の条件下でガソリンよりも気化率の低いアルコールを含む燃料が供給されるように構成された、幾何学的圧縮比が12以上のエンジン本体、前記燃料を噴射する燃料噴射弁を有しかつ、当該燃料噴射弁が噴射した前記燃料を前記エンジン本体の気筒内に供給するように構成された燃料供給機構、前記気筒内の混合気に点火するよう構成された点火プラグ、及び、少なくとも前記燃料供給機構の制御を通じて前記エンジン本体を運転するように構成された制御器、を備える。
そして、前記制御器は、前記エンジン本体の温度状態が所定温度以下のときでかつ、前記エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときには、吸気行程中に開始した燃料噴射が圧縮行程中に終了するように、前記燃料の噴射を行い、前記制御器はまた、前記燃料における前記アルコールの濃度が高いほど、前記燃料の噴射終了時期が進角するように、前記燃料の噴射期間を短くし、それによって、前記燃料の噴射終了から前記点火プラグによる点火までの間の気化時間を長くする。
ここで、「特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率が低いアルコール」とは、具体的にはエタノール又はメタノール等であり、単一成分燃料であることで、当該アルコールの沸点以下の状態下では、ガソリンよりも気化率が低くなり得る。ここでいうアルコールには、サトウキビやトウモロコシを原料としたバイオエタノール等の、生物由来アルコールを含む。
また、「アルコールを含む燃料」は、アルコールとガソリンとを混合した燃料、及び、アルコールのみの燃料の双方を含む。ガソリンとアルコールとの混合比に、特に制限はなく、任意の混合比を採用することができる。エンジン本体に供給される燃料は、ガソリンとアルコールとの混合比が一定であってもよいし、随時、変化してもよい。アルコールをエタノールとしたときに、「アルコールを含む燃料」には、具体的には、ガソリンにエタノールを25%混合したE25から、エタノール100%のE100までの範囲で、任意のエタノール濃度の燃料が含まれる。また、前記の構成は、エンジン本体に対して、アルコールを含まない燃料が供給されることを排除するものではない。例えばアルコールをエタノールとしたときに、エンジン本体に供給する燃料には、ガソリン(つまり、エタノールを含まないE0)から、ガソリンにエタノールを85%混合したE85までの範囲で、任意のエタノール濃度の燃料が含まれる。さらに、「アルコールを含む燃料」には、水が含まれていてもよい。従って、5%程度の水分を含有するE100もまた、ここでいう「アルコールを含む燃料」に含まれる。尚、燃料におけるアルコール濃度は、様々な手法により、検知又は推定することが可能である。
「気化率」は、気筒内に供給した燃料量に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比として定義することができる。こうした気化率は、エンジンの排気通路に取り付けたO2センサの検出値に基づいて算出することが可能である。エンジン本体の温度が所定温度以下の条件下では、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど、また、エンジン本体の温度状態が低いほど、気化率は低くなり得る。
「燃料噴射弁」は、気筒内に、燃料を直接、噴射する燃料噴射弁としてもよい。こうすることで、気筒が吸気行程にあるとき、及び、圧縮行程にあるときのそれぞれで、気筒内に燃料を供給することが可能である。また、そうした直噴の燃料噴射弁に加えて、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁を別途備えてもよい。
「エンジン本体の温度状態が所定温度以下のとき」とは、エンジン本体が暖機状態にまでは至っていない半暖機状態であって、アルコールを含む燃料の気化率が相対的に低くなるようなときである。
「エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にある」とは、エンジンの運転状態が、全開負荷を含む高負荷領域にあるときでかつ、エンジン本体の回転数領域を、仮に低回転領域と高回転領域とに2分割したときの高回転領域にあるときと定義してもよい。より具体的には、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチに設定することにより、燃料の気化潜熱を利用して燃焼温度を低下させ、それにより、エンジン本体の信頼性を確保したり、エンジン本体の排気側に設けた触媒装置の過熱を防止したりするような運転領域である。この空燃比は、エンジンのトルクが最も高くなるような、いわゆるパワー空燃比(出力空燃比ともいう)よりもリッチな空燃比とすればよく、こうすることで、燃料の気化潜熱を利用した燃焼温度の低下等が実現する。具体的に、オーバーリッチは、パワー空燃比の当量比を例えばφ=1.2程度としたときに、それよりもリッチである当量比φ=1.4程度(1.2<φ≦1.4)としてもよい。
前記の構成によると、エンジン本体の温度状態が所定温度以下であって、燃料の気化率が相対的に低下するようなときでかつ、エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときには、燃料噴射量が増大することに伴い、燃料の噴射期間が長くなる。その結果、吸気行程から開始した燃料噴射が圧縮行程にまで継続することにもなる。また、アルコールの理論空燃比とガソリンの理論空燃比とが相違することから、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど、燃料噴射量は相対的に増えることになり、低温時には、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど低くなる気化率を補うために、燃料噴射量が増えることになる。その結果、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど、燃料の噴射期間が長くなって、噴射終了時期は遅れる(つまり、点火時期に近づく)。
このように燃料の噴射期間が長くなるときに、前記の構成では、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど、燃料の噴射終了時期が進角するように、燃料の噴射期間を短くする。燃料の噴射期間を短くすることは、例えば燃料の圧力を高めて同一噴射量であっても、噴射期間が短くなるようにしてもよいし、燃料の圧力をそれ以上に高めることができないと きには、噴射量を減らすことによって噴射期間を短くしてもよい。前述したように、エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときには、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチに設定されることから、燃料噴射量を減らしたとしても、混合気の空燃比は理論空燃比に近づくだけである。つまり、噴射量を減らすときには、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンにならない範囲で減らすことが好ましい。こうすることで、排気エミッション性能の低下が回避される。
そうして、燃料の噴射期間を短くして、燃料の噴射終了時期を進角させることにより、噴射終了から点火までの期間を長くすることが可能になる。前記の構成では、燃料におけるアルコールの濃度が高いほど噴射終了時期を進角する結果、燃料の気化率が相対的に低くなるときほど、燃料の噴射終了から点火までの期間が長くなるから、燃料の気化に有利になる。その結果、燃料の性状に関わらず、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性が向上する。
また特に、燃料噴射量を減らすことによって噴射期間を短くしたときには、気筒内で気化しない燃料量を減らすことになるから、液滴燃料が気筒内に残留することを抑制し、燃料の気化の悪化を回避することが可能になる。また、燃料噴射量の低減は、エンジン本体の排気側に接続された触媒装置に未燃燃料が供給されることを抑制して、触媒装置の過熱の回避にも有効である。
前記火花点火式エンジンの制御装置は、前記エンジン本体の排気側に接続されかつ、前記エンジン本体から排出された排気ガスを浄化するよう構成された触媒装置をさらに備え、前記制御器は、前記触媒装置の温度が所定温度以上であるときには、前記燃料における前記アルコールの濃度が高いほど、前記燃料の噴射終了時期が進角するように、前記燃料の噴射量を減少させると共に、当該燃料噴射量の減少に対応するように、前記エンジン本体の充填効率を低下させる、としてもよい。
ここで、「充填効率」は、次の定義に従うとする。すなわち、標準大気(25℃、1atm)で総排気量の1気筒分の空気重量を1としたときの、1気筒内に吸入した空気重量の割合である。
前述したように、エンジン本体が高負荷・高回転の領域にあるときに、燃料の噴射終了時期を進角すべく燃料噴射量を減少させたときには、混合気の空燃比が、オーバーリッチの状態からパワー空燃比に近づく。これにより、燃焼温度及び排気ガス温度は、上昇する。燃料温度及び排気ガス温度の上昇は、触媒装置の温度が比較的低いときには大きな問題とはならないが、触媒装置の温度が比較的高い所定温度以上のときには、燃焼温度等の上昇が、触媒装置の過熱を招き得る。そこで、触媒装置の温度が所定温度以上であって、触媒装置の温度がそれ以上に上昇することを回避したいときには、燃料噴射量の減少に対応するように、エンジン本体の充填効率を低下させる。つまり、燃料噴射量及び空気量の双方を減少させることにより、混合気の空燃比は、パワー空燃比よりもリッチな状態を維持することが可能になり、燃焼温度及び排気ガス温度の上昇が抑制される。その結果、触媒装置の過熱が抑制乃至回避される。
火花点火式エンジンの制御装置は、前記エンジン本体に設けられかつ、吸気弁の開閉時期を変更可能に構成された可変動弁機構をさらに備え、前記制御器は、前記可変動弁機構を通じて、前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点以降の所定時期に設定することにより、前記充填効率を低下させる、としてもよい。
すなわち、可変動弁機構によって、吸気弁の閉弁時期をいわゆる遅閉じに設定することで、ポンプ損失を増大させることなく、充填効率の低下が図られる。尚、エンジン本体の充填効率は、例えばスロットル弁の開度を小さくすることによって低下させてもよい。
前記燃料供給機構は、前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の圧力を昇圧させる燃料ポンプをさらに有し、前記制御器は、少なくとも前記エンジン本体の運転状態及び前記燃料の気化率に基づいて前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の噴射量を設定し、前記制御器は、前記設定した噴射量が、前記燃料ポンプの性能限界によって決定される最大噴射量よりも少ないときでも、前記燃料における前記アルコールの濃度に応じて前記噴射量を減少させる、としてもよい。
ここで、燃料ポンプは、エンジン本体によって駆動される構成であっても、エンジン本体とは別の駆動源によって駆動される構成(例えば電動ポンプ)であってもよい。例えば燃料ポンプがエンジン本体によって駆動されるプランジャ式の構成においては、エンジン本体のクランク軸が1回転する毎に所定回数のプランジャの押し込みが行われて燃料の圧力が高まる一方で、その間に、基本的にはプランジャの押し込みと同じ回数の燃料噴射が行われる。ここで、1回当たりの燃料噴射量が多くて燃料ポンプの容量を超えてしまうようなときには、ポンプによる昇圧が間に合わずに燃料圧力が次第に低下することになる。「燃料ポンプの性能限界によって決定される最大噴射量」とは、そうしたポンプの昇圧が間に合わずに燃料圧力が次第に低下するようなことが生じない範囲で最大の燃料噴射量と定義することが可能である。
前述の通り、エンジン本体の温度状態が所定温度以下のときでかつ、エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときには、燃料噴射量が相対的に増える。また、燃料におけるアルコールの濃度が高いときには、ガソリンと比較して燃料噴射量が増える上に、低温時の低い気化率を補うために、燃料噴射量はさらに増えることになる。その結果、エンジンの運転状態や燃料の気化率に基づいて設定される燃料の噴射量が、燃料ポンプの性能限界によって決定される最大噴射量よりも長くなることもある。この場合は、ポンプの性能限界を超えて作動させることはそもそも不可能であるため、燃料噴射量は、その最大噴射量に制限されることになる。
これに対し、前記の構成では、エンジン本体の運転状態や燃料の気化率に基づいて設定される燃料の噴射量が、燃料ポンプの性能限界によって決定される最大噴射量よりも少ないときでも、燃料の噴射終了時期から点火までの期間を長く確保する目的から、燃料におけるアルコール濃度が高いときには、その噴射量を少なくする。このことにより、前記の構成では、エンジン本体の温度状態が所定温度以下の低温時でかつ、エンジン本体の運転状態が、混合気の空燃比をオーバーリッチに設定するような所定の高負荷・高回転の領域あるときに、燃料の性状如何に関わらず、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性を確保することが可能になる。
以上説明したように、前記の火花点火式エンジンの制御装置によると、エンジン本体の温度状態が所定温度以下のときであって、エンジン本体の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるときには、燃料におけるアルコール濃度が高いほど、吸気行程中から開始して圧縮行程中に終了する燃料の噴射期間を短くして、燃料の噴射終了時期を進角させることで、点火前の気化時間を、アルコール濃度が高いほど長くすることが可能になり、燃料の性状に関わらず、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性が向上する。
以下、火花点火式エンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1に示されるように、エンジンシステムは、エンジン(エンジン本体)1、エンジン1に付随する様々なアクチュエーター、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエーターを制御するエンジン制御器100を有する。このエンジンシステムは、幾何学的圧縮比が12以上20以下(例えば12)の高圧縮比エンジン1を備える。
エンジン1は、火花点火式4ストローク内燃機関であって、図1には1つのみ図示するが、直列に配置された第1〜第4の4つの気筒11を有する。但し、ここに開示する技術が適用可能なエンジンは、直列4気筒エンジンには限定されない。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。
このエンジン1には、エタノール(バイオエタノールを含む)を含有する燃料が供給される。特にこの車両は、エタノールの濃度が25%(つまり、ガソリンの濃度が75%のE25)〜100%(つまり、ガソリンを含まないE100)までの任意の濃度の燃料が使用可能なFFVである。尚、ここでいうE100には、エタノールの精製過程で十分に水分が除去されずに5%程度の水分を含有するエタノールを含む。但し、ここに開示する技術は、E25〜E100の使用を前提としたFFVに限らず、例えばE0(つまり、ガソリンのみでエタノールを含まない)〜E85(つまり、ガソリン濃度15%、エタノール濃度85%)の範囲でエタノール濃度が変化する燃料が使用するFFVにも適用可能である。
図示は省略するが、この車両は、前記の燃料を貯留する燃料タンク(つまり、メインタンク)のみを有しており、従来のFFVのように、ガソリン濃度の高い燃料を、メインタンクとは別に貯留するためのサブタンクを有していない点が特徴である。このFFVは、ガソリンのみが供給されるガソリン仕様車をベースにしたものであり、その構成の大部分は、二つの仕様の間で共通化されている。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、ブロック12の内部に気筒11が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14が、コネクティングロッド16を介してピストン15に連結されている。
各気筒11の天井部には、略中央部からシリンダヘッド13の下端面付近まで延びる2つの傾斜面が形成されており、それらの傾斜面が互いに差し掛けられた屋根のような形状をなす、いわゆるペントルーフ型となっている。
前記ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されており、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。ピストン15の頂面は、前述した気筒11の天井面のペントルーフ型の形状に対応するように、その周縁部から中央部に向かって隆起する台形状に形成されており、これによって、ピストン15が圧縮上死点に到達したときの燃焼室容積を小さくして、12以上の高い幾何学的圧縮比を達成している。ピストン15の頂面にはまた、その概略中心位置に、概ね球面状に凹陥したキャビティ151が形成されている。このキャビティ151は、気筒11の中心部に配設された点火プラグ51に相対するように、配置されており、これによって、燃焼期間を短縮するようにしている。つまり、前述したように、この高圧縮比エンジン1は、ピストン15の頂面が隆起していて、ピストン15が圧縮上死点に到達したときに、ピストン15の頂面と気筒11の天井面との間隔が極めて狭くなるように構成されている。このため、キャビティ151を形成していないときには、初期火炎がピストン15の頂面と干渉して冷却損失が増大し、火炎伝播が阻害されて燃焼速度が遅延してしまう。これに対し、前記のキャビティ151は、初期火炎の干渉を回避して、その成長を妨げないため、火炎伝播が速くなって、燃焼期間が短縮し得る。このことは、ガソリン濃度の高い燃料においては、ノッキングの抑制に有利になり、点火時期の進角によるトルクの向上に寄与する。
気筒11毎に、吸気ポート18及び排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれが燃焼室17に連通している。吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動され、それによって所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40は、それぞれ吸気カムシャフト31及び排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31,41は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト14に連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31,41を一回転させる。
吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の開閉時期を変更可能な吸気バルブタイミング可変機構32を含んで構成され、排気弁駆動機構40は、排気弁22の開閉時期を変更可能な排気バルブタイミング可変機構42を含んで構成される。吸気バルブタイミング可変機構32は、この実施形態では、吸気カムシャフト31の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式、機械式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)により構成され、排気バルブタイミング可変機構42は、排気カムシャフト41の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式、機械式又は電動式の位相可変機構により構成されている。吸気バルブタイミング可変機構32は、吸気弁21の閉弁時期を変更することにより、有効圧縮比を調整し得るものである。尚、有効圧縮比とは、吸気弁閉弁時の燃焼室容積と、ピストン15が上死点にあるときの燃焼室容積との比である。
点火プラグ51は、例えば、ねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ51の電極は、気筒11の概略中心において燃焼室17の天井部に臨んでいる。点火システム52は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造で、この実施形態ではシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。このエンジン1は、燃料を気筒11内に直接噴射する、いわゆる直噴エンジンである。燃料噴射弁53の先端は、上下方向については吸気ポート18の下方に、また、水平方向については気筒11の中央に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。但し、燃料噴射弁53の配置はこれに限定されるものではない。燃料噴射弁53は、この例においては、多噴口(例えば6噴口)型の燃料噴射弁(Multi Hole Injector:MHI)である。各噴口の向きは、図示は省略するが、気筒11内の全体に燃料が噴射できるように、噴口軸の芯先が広がっている。MHIの利点は、多噴口であるため一噴口の径が小さく、比較的高い圧力で燃料を噴射し得る点、及び、気筒11内の全体に燃料を噴射可能に広がっているため、燃料のミキシング性が高まると共に、燃料の気化・霧化が促進される点にある。従って、吸気行程中に燃料を噴射した場合は、気筒11内の吸気流動を利用した、燃料のミキシング性、及び、気化・霧化の促進の点で有利になる一方、圧縮行程において燃料を噴射した場合は、燃料の気化・霧化の促進により、気筒11内のガス冷却の点で有利になる。尚、燃料噴射弁53は、MHIに限定されるものではない。
燃料供給システム54は、その構成の図示は省略するが、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプと、この高圧ポンプに対して燃料タンクからの燃料を送る配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路と、を備えている。高圧ポンプは、この例ではエンジン1によって駆動される。具体的に高圧ポンプは、カムシャフトに取り付けられている。尚、高圧ポンプを電動ポンプとしてもよい。高圧ポンプは、例えばプランジャ式のポンプであり、高圧ポンプのプランジャは、カムシャフトに設けられたポンプ用カムにより、カムシャフト1回転につき4回の燃料の押し出しを行う。この高圧ポンプは、ここではガソリン仕様車と同じ比較的小容量のポンプである。燃料噴射弁53が多噴口型である場合は、微小な噴口から燃料を噴射するために、燃料噴射圧力は比較的高く設定される。最大の燃料圧力は、例えば20MPaである。電気回路は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて燃料噴射弁53を作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を、燃焼室17内に噴射させる。ここで、燃料供給システム54は、エンジン回転数が上昇するに伴い燃圧を高く設定する。これは、エンジン回転数が上昇するに伴い、気筒11内に噴射される燃料量も増大するが、燃圧が高くなることで、燃料の気化・霧化に有利になると共に、燃料噴射弁53の燃料噴射に係るパルス幅を可及的に短くするという利点がある。前述したように、燃料タンクには、E25〜E100までの任意のエタノール濃度のアルコール含有燃料が貯留されている。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流は、スロットルボデー56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56にはスロットル弁57が配置されており、このスロットル弁57は、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットル・アクチュエーター58が、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁57の開度を調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管内の通路に連通している。この排気マニホールド60は、図示を省略するが、各気筒11の排気ポート19に接続された分岐排気通路が、排気順序が隣り合わない気筒同士で第1集合部により集合され、各第1集合部の下流の中間排気通路が第2集合部で集合された構造となっている。すなわち、このエンジン1の排気マニホールド60には、いわゆる4−2−1レイアウトが採用されている。また、排気通路の途中には、排気ガスの浄化を行う、少なくとも一つの触媒装置43が介設されている。触媒装置43は、例えば三元触媒を含んで構成されている。
エンジン1にはまた、その始動時にクランキングを行うためのスタータモータ20が設けられている。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
エンジン制御器100は、エアフローセンサ71からの吸気流量及び吸気温度、吸気圧センサ72からの吸気マニホールド圧、クランク角センサ73からのクランク角パルス信号、水温センサ78からのエンジン水温、及び、排気通路に取り付けられたリニアO2センサ79からの、排気ガス中の酸素濃度、というように、種々の入力を受ける。エンジン制御器100は、例えばクランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転数を計算する。また、エンジン制御器100は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号を受ける。さらに、エンジン制御器100には、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号が入力される。加えて、シリンダブロック12には、当該シリンダブロック12の振動を電圧信号に変換して出力する加速度センサからなるノックセンサ77が取り付けられており、その出力信号もエンジン制御器100に入力される。
エンジン制御器100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル・アクチュエーター58、燃料供給システム54、点火システム52、並びに、吸気及び排気バルブタイミング可変機構32、42等に出力する。エンジン制御器100はまた、エンジン1の始動時には、スタータモータ20に駆動信号を出力する。
ここで、FFV用のエンジンシステムに特有の構成として、エンジン制御器100は、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度を推定する。エタノールの理論空燃比(9.0)は、ガソリンの理論空燃比(14.7)よりも小さく、燃料のエタノール濃度が高いほど理論空燃比はリッチ側(つまり、理論空燃比の値が小さくなる)になることから、理論空燃比でエンジンを運転している条件下において、排気ガス中に燃え残りの酸素が存在しているときには、燃料のエタノール濃度が予想よりも高かったと判断することができる。具体的に、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度、言い換えると燃料タンク内に貯留している燃料のエタノール濃度は、給油を行うことによって変化する可能性があるため、エンジン制御器100はまず、燃料タンクのレベルゲージセンサの検出値に基づいて給油判定を行い、給油が行われたことを判定すれば、燃料のエタノール濃度の推定を行う。エンジン制御器100は、リニアO2センサ79が出力した信号から、空燃比がリーンのときには、燃料中にガソリンが多いと判定する一方、空燃比がリッチのときには燃料中にエタノールが多いと判定することにより、燃料におけるエタノール濃度を推定する。尚、燃料のエタノール濃度を推定する代わりに、燃料のエタノール濃度を検出するセンサを設けてもよい。推定したエタノール濃度は、燃料噴射制御に利用される。
エンジン制御器100はさらに、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、気筒11内に供給した燃料の気化率を算出する。気化率は、気筒11内に供給する燃料量(言い換えると、燃料噴射弁53が噴射した燃料量)に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比によって定義される。エンジン制御器100は、混合気の空燃比と、リニアO2センサの検出値とに基づいて燃焼に寄与した燃料量の重量を算出すると共に、算出した燃料重量と、燃料噴射弁53の燃料噴射量とに基づいて気化率を算出する。
(燃料噴射量の設定)
このエンジンシステムは、前述の通りFFVに搭載されたシステムであり、エンジン1には、E25〜E100までの任意の混合比のアルコール含有燃料が供給される。ここで、図2は、ガソリンの気化特性とエタノールの気化特性とを比較する図である。尚、図2は、1気圧下における温度変化に対する、ガソリン及びエタノールそれぞれの蒸留量(%)の変化を示している。ガソリンは多成分燃料であることから、各成分の沸点に応じて蒸発する。ガソリンの蒸留量は、温度変化に対しおおよそ線形的に変化することなる。つまり、ガソリンは、エンジン1の温度状態が比較的低いときにも一部の成分が気化して、可燃混合気を形成することが可能である。
これに対しエタノールは単一成分燃料であることから、特定温度(つまり、エタノールの沸点である78℃)以下では、蒸留量が0%になる一方で、特定温度を超えると、蒸留量が100%になる。このように、ガソリンとエタノールとを比較すると、特定温度以下では、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも低くなる状態がある一方で、特定温度を超えると、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも高くなる状態がある。そのため、エンジン1の温度状態が所定温度以下(例えば水温が30℃未満程度)の低温状態では、エタノールを含有する燃料は、ガソリンと比較して気化率が低くなる。そうして、エンジン1が低温状態にあるときには、エンジン1の温度状態が低いほど、また燃料のエタノール濃度が高いほど、燃料の気化率は低下することになる。
このように、エンジン1の温度状態や、燃料のエタノール濃度によって燃料の気化率が変化することから、エンジン制御器100は、目標となる気化燃料量が得られるように、エンジン負荷及びアルコール濃度等に応じて設定されるベースの燃料量に対し、燃料の気化率に応じた燃料量の増量補正を行う。すなわち、燃料噴射弁53が噴射する燃料量は、燃料の気化率が低いほど、増量される。
(高負荷・高回転域におけるエンジン制御)
図3に示す運転領域においてハッチングを付して示すような、エンジン1の運転状態が高負荷・高回転の領域あるときには、エンジン1の信頼性及び/又は触媒装置43の過熱防止の観点から、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチにし、燃料の気化潜熱を利用して燃焼温度を低下させることが行われる。ここでいう高負荷域とは、全開負荷を含む高負荷域であり、高回転域とは、エンジン1の運転領域を、回転数方向に、低回転域と高回転域とに、仮想的に2分割したときの高回転域である。また、ここでの空燃比は、エンジン1のトルクが最も高くなるパワー空燃比(例えば当量比φ=1.2)よりも、さらにリッチである(例えば当量比φ=1.4。以下、このような空燃比をオーバーリッチともいう)。
従って、エンジン1の運転状態が高負荷・高回転の領域にあるときには、空燃比をオーバーリッチにすることにより、必要な燃料量が多くなる上に、ガソリンの理論空燃比に対し、エタノールの理論空燃比は値が小さいため、燃料のエタノール濃度が高くなればなるほど、噴射する燃料量は増え、さらに、エンジン1の温度状態が所定温度以下(例えば30℃以下)の低温状態のときには、高エタノール濃度の燃料は、燃料の気化率が低くて増量補正値が大きくなる結果、燃料噴射弁53が噴射する燃料量は極めて多くなり得る。
図4は、低温状態(例えば、エンジン水温が10〜30℃程度)でかつ、高負荷・高回転時の燃料の噴射期間を例示する図である。図4は、燃料におけるエタノール濃度が異なる三種類の燃料(つまり、E95、E85及びE75)のそれぞれについて、燃料噴射期間を示している。燃料圧力は、全て最大燃料圧力(例えば20MPa)に設定されている。
先ず、E75では、前述の通り、燃料噴射量が多くなるため、吸気行程の初期に燃料噴射が開始された後、圧縮行程の中期の終了時期まで燃料噴射が継続する。燃料の噴射終了後、圧縮上死点付近において点火が行われる。
E75よりもエタノール濃度が高いE85では、相対的にエタノール濃度が高いため、燃料噴射量が増えると共に、気化率が低下する分、増量補正量も増えるから、E75よりも燃料噴射量が多くなる。その結果、E75と同様に、吸気行程初期に燃料噴射が開始されたとして、同図に一点鎖線で示すように、E85では、噴射終了時期は、E75よりも遅れることになる。このことは、燃料の噴射終了時点から点火までの期間を短くし、点火前の燃料の気化時間を確保する上では、不利である。
また、E85よりもさらにエタノール濃度の高いE95では、燃料噴射量がさらに多くなるため、同図に一点鎖線で示すように、噴射終了時期もさらに遅れることになる。その結果、燃料の噴射終了時点から点火までの期間はさらに短くなる。
一方で、燃料におけるエタノール濃度が高いほど気化率は低くなり易いため、気化時間を長く確保することが望ましいが、前述の通り、エタノール濃度が高いほど、点火前の燃料の気化時間が短くなることから、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性の低下を招くことになる。また、気化時間の短縮は、気化せずに気筒11内に残留する液滴燃料を増やし、そのことが燃料の気化を、さらに悪化させる。また、未燃燃料が触媒装置43に供給されて、触媒装置43において後燃えすることで、触媒装置43の過熱を招く虞もある。
そこで、このエンジンシステムでは、エンジン1の低温時でかつ、エンジン1が高負荷・高回転の運転領域にあるときには、図4に実線で示すように、燃料におけるエタノール濃度に応じて、エタノール濃度が高いほど、燃料の噴射期間が短くなるようにする(同図における「EOI」参照)。具体的には、燃料の噴射量を低減することにより、噴射期間を短くする。こうすることで、図4に白抜きの矢印で示すように、燃料の噴射終了から点火までの期間は、エタノール濃度が高いほど長くなる。こうして、燃料におけるエタノール濃度が高いときも、低いときも、必要な気化時間を確保することが可能になり、燃料におけるエタノール濃度の高低に関わらず、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性が確保される。また、燃料噴射量を低減することで、気化せずに液滴のまま気筒11内に残留する燃料量を減らすことが可能になり、燃料の気化の悪化が抑制乃至回避される。このこともまた、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性を向上させる。さらに、未燃燃料の排出量が抑制され、触媒装置43における後燃えが抑制される結果、触媒装置43の過熱も抑制される。
ここで、図4に示す一点鎖線は、前述の通り、エンジン1の運転状態や燃料の気化率に基づき、混合気がオーバーリッチとなるように設定される燃料噴射量(燃料噴射期間)であり、こうして設定される燃料噴射量を低減することにより、混合気の空燃比は、リーン側に変更されることになる。具体的に混合気の空燃比は、パワー空燃比に近づくことになる。このように、高負荷・高回転の運転領域では、エンジン1の信頼性や触媒装置43の過熱防止の観点から、混合気の空燃比をそもそもオーバーリッチに設定しているため、前述のように燃料噴射量を低減したとしても、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンにはならない。つまり、排気エミッション性能の低下を招かない。
尚、図4に二点鎖線で示す線は、高圧ポンプの性能限界から決定される最大の燃料噴射量(つまり、最大燃圧での最長の燃料噴射期間)である。前述の通り、高圧ポンプは、ガソリン仕様車と同じ比較的小容量のポンプである一方で、FFVにおいては、エタノールの理論空燃比とガソリンの理論空燃比が相違すること、また、低温時におけるエタノールの低い気化率に起因して、エンジン1の状態や燃料の性状によっては燃料噴射量が増大する。従って、エンジン1の運転状態に応じて設定される燃料噴射量が、最大の燃料噴射量を超えることも起き得る(図4の例では、E95のときに、最大の燃料噴射量を超えている)。
一方で、前述したエタノール濃度に応じて燃料噴射量を低減する制御は、図4の例ではE85について示すように、エンジン1の運転状態に応じて設定される燃料噴射量が、最大の燃料噴射量を超えないときであっても、燃料の噴射終了時点と点火との間に、十分に長い気化時間を確保する観点から行われるものである。
ここで、前述したように、燃料噴射量を低減する結果、混合気の空燃比がオーバーリッチからパワー空燃比に近づいたときには、燃焼温度及び排気ガス温度が高くなり、そのことが、エンジン1の信頼性の低下や触媒装置43の過熱を招く虞がある。そこで、触媒装置43の温度が所定温度以上であって、それ以上の温度上昇を回避したいときには、前述した燃料噴射量の低減と同時に、エンジン1の充填効率を低下させることにより、混合気の空燃比がパワー空燃比よりもリッチな状態を維持する。その結果、触媒装置43の過熱を回避することが可能になると共に、エンジン1の信頼性も確保される。但し、充填効率を低下させる分だけ、エンジン1のトルクは低下することになる。
図5は、前述した、低温時でかつ、高負荷・高回転域における、燃料噴射量、及び、充填効率の調整制御に係り、エンジン制御器100が実行するフローチャートの一例を示している。先ずスタート後のステップS51では、各種の信号を読み込み、エンジン1の運転状態、及び、燃料の気化率等に基づいて、燃料噴射量、燃圧、及び、充填効率を少なくとも設定する。
続くステップS52では、エンジン1の温度状態が所定の低温状態でかつ、エンジン1の運転状態が所定の高負荷・高回転の領域にあるか否かを判定する。ステップS52の判定がYESのときには,ステップS53に移行する一方、NOのときにはフローはリターンする。
ステップS53では、燃料のエタノール濃度に応じて、ステップS51で設定した燃料噴射量を制限(低減)する。尚、燃料のエタノール濃度が低いときには、燃料噴射量の低減が行われない場合もある。ステップS53により、燃料におけるエタノール濃度が高いほど、燃料の噴射終了時期が進角することになる。
続くステップS54では、触媒装置43の温度状態を判断し、触媒装置43の温度上昇を抑制する必要があるか否かを判定する。ステップS54の判定がYESのときにはステップS55に移行する。
一方で、ステップS54の判定がNOのときにはステップS55に移行することなく、フローはリターンする。この場合、燃料噴射量の低減のみが行われて、充填効率の低減は行われない。その結果、混合気の空燃比は、オーバーリッチからパワー空燃比に近づくことになるものの、触媒装置43の温度状態が比較的低いため触媒装置43の多少の温度上昇は許容される。この場合、エンジン1のトルクも低減しない。
ステップS55では、ステップS53で低減した燃料噴射量に対応するように、充填効率を低下させる。このことにより、混合気の空燃比を、パワー空燃比よりもリッチな状態に維持する。エンジン1の充填効率は、吸気バルブタイミング可変機構32によって、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点移行の所定時期に遅らせることで低減される。こうした、吸気の遅閉じ制御は、ポンプ損失を増大させることなく、エンジン1の充填効率を低下させるという利点がある。尚、吸気の遅閉じ制御以外にも、例えばスロットル弁57の開度を低下させることによって、充填効率を低減してもよい。
尚、前記の構成では、気筒11内に燃料を噴射する、いわゆる直噴の燃料噴射弁53のみを備えているが、この燃料噴射弁53に加えて、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁をさらに備えるようにしてもよい。