JP5988846B2 - 転造工具およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転造工具およびその製造方法に関し、特に、転造歯形面の滑りを抑制することで工具寿命の向上を図ることができる転造工具およびその製造方法に関するものである。
複数の加工歯を有する転造歯形面を備えた転造工具には、転造歯形面の表面にマグネタイト(四酸化三鉄)を主成分とする酸化鉄皮膜が形成されているものがある。
酸化鉄皮膜が形成された転造歯形面の皮膜表面には微細な窪みが形成され、その窪みに転造加工時に供給される潤滑油が保持されることで、潤滑効果が向上し、凝着摩耗の発生が抑制される。
例えば、特許文献1には、転造成形面14(転造歯形面)の表面に水蒸気酸化処理を施すことで酸化被膜18(酸化鉄皮膜)を形成する技術が開示されている。
特開2010−5654号公報(段落0018)
しかしながら、特許文献1に開示される技術のように、水蒸気酸化処理により酸化鉄皮膜を形成した場合、酸化鉄皮膜の皮膜表面には窪みのない平滑な部分が多く形成される。窪みのない平滑な部分では潤滑油の潤滑効果に伴って滑りが発生しやすくなるため、転造歯形面の加工歯が欠損しやすくなり、工具寿命が短くなるという問題点があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、転造歯形面の滑りを抑制することで工具寿命の向上を図ることができる転造工具およびその製造方法を提供することを目的としている。
課題を解決するための手段および発明の効果
請求項記載の転造工具よれば、酸化鉄皮膜は、その酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上に設定されると共に、前記酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が45wt%以下に設定されているので、ウスタイト層を形成するウスタイトの量を十分に確保することができる。
即ち、転造工具による転造加工時において、皮膜表面に形成されたマグネタイト等の結晶が欠落すると、その欠落した部分が平滑になり、滑り発生の要因となり得る。これに対し、マグネタイト等の結晶が欠落したマグネタイト層からウスタイト層が露出することで、その露出したウスタイト層の表面がウスタイトからマグネタイトに変態する。これにより、酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイト等の結晶が新たに生成され、皮膜表面に新たな凹凸を形成することができる。よって、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果を持続させることができるので、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
請求項記載の転造工具よれば、請求項記載の転造工具奏する効果に加え、窒化層が形成された転造歯形面の表面に酸化鉄皮膜が形成されているので、窒化層による加工歯の表面硬さの向上と、酸化鉄皮膜による潤滑性能の向上とを両立させることができる。
即ち、転造歯形面に窒化層を形成することで、転造歯形面の表面硬さを向上させて耐摩耗性を良くすることができるものの、転造工具による転造加工時において加工歯に凝着摩耗が発生すると、加工歯が欠損しやすくなり工具寿命が低下する。
これに対し、窒化層が形成された転造歯形面の表面に酸化鉄皮膜を形成することで、潤滑油保持効果による潤滑性能の向上を図ることができるので、耐摩耗性をより一層向上させることができ、その結果、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
請求項記載の転造工具によれば、請求項1又は2に記載の転造工具の奏する効果に加え、酸化鉄皮膜の膜厚が0.5μm以上に設定されているので、ウスタイト層を形成するウスタイトの量を十分に確保することができる。
よって、転造工具による転造加工時において、皮膜表面に形成されたマグネタイト等の結晶が欠落したとしても、そのマグネタイト等の結晶が欠落したマグネタイト層からウスタイト層が露出することで、その露出したウスタイト層の表面がウスタイトからマグネタイトに変態する。これにより、酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイト等の結晶が新たに生成され、皮膜表面に新たな凹凸を形成することができる。よって、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果を持続させることができるので、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
また、酸化鉄皮膜の膜厚が10μm以下に設定されているので、酸化鉄皮膜に亀裂が発生することを抑制できる。これにより、酸化鉄皮膜の亀裂に起因して加工歯が欠損しやすくなることを回避できるという効果がある。
(a)本発明の一実施の形態における転造工具の上面図であり、(b)は、転造工具の側面図である。 (a)は、転造工具の耐久試験の試験結果を示す図であり、(b)は、転造工具の耐久試験の試験結果を示すグラフである。 転造工具の耐久試験の試験結果を示すグラフである。
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態における転造工具10ついて説明する。図1(a)は、転造工具10の上面図であり、図1(b)は、転造工具10の側面図である。
図1に示すように、転造工具10は、円柱状に形成された被転造素材(図示せず)の外周面を塑性変形させることで転造加工を行うためのねじ転造平ダイスである。
なお、図1では、一対の転造工具10のうち、転造盤(図示せず)に固定される一方の転造工具10のみを図示しており、かかる一方の転造工具10に対して平行移動させる他方の転造工具10の図示を省略している。
転造工具10は、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、その上面側(図1(a)紙面手前側、図1(b)上側)には、被転造素材の外周面に転造を行うための転造歯形面2が形成されている。
転造歯形面2には、転造工具10の転造方向始端側から終端側(図1右側から左側)へ向けて、食付き部21、仕上げ部22及び逃げ部23が順に連続して形成されている。
なお、これら食付き部21、仕上げ部22及び逃げ部23で構成された転造歯形面2には、複数の加工歯3が刻設されている。これら複数の加工歯3は、被転造素材の外周寸法に対応した一定のピッチで転造方向(図1(b)左右方向)へ列設されると共に、転造方向に対して略直交する方向(図1(b)上下方向)へ向けて連続して延設されている。
食付き部21は、転造歯形面2を被転造素材の外周面に食い付かせるための部位である。仕上げ部22は、食付き部21によって被転造素材に転造された部位を仕上げるための部位である。逃げ部23は、仕上げ部22により仕上げられた被転造素材を転造歯形面2から排出するための部位である。
転造歯形面2には、窒化処理により窒化層が形成されている。これにより、転造歯形面2の表面硬さを向上させることができるので、耐摩耗性を向上させることができる。
なお、窒化層は、実用窒化層深さが5μm以上、かつ、100μm以下に設定されることが望ましい。窒化層の実用窒化層深さを5μm以上に設定することで、加工歯3の耐摩耗性を向上させることができる。また、実用窒化層深さを100μm以下に設定することで、靭性を確保して加工歯3の欠損を抑制することができる。
また、窒化処理では、窒素と転造歯形面2とが反応することで転造歯形面2に化合物層(窒化物、炭化物、炭窒化物などを主体とする層)が形成される。この化合物層は硬くて脆いため、化合物層厚さが大きくなると加工歯3が欠損しやすくなる。これに対し、化合物層厚さを3μm以下に設定することで、加工歯3の欠損を抑制できる。
さらに、転造工具10には、窒化処理により窒化層が形成された転造歯形面2に対し、酸化鉄皮膜が形成されている。
酸化鉄皮膜は、転造加工時において供給される潤滑油の潤滑効果を向上させるものである。酸化鉄皮膜は、転造歯形面2の表面に形成されると共にウスタイトから構成されるウスタイト層と、そのウスタイト層の表面に形成されると共にマグネタイトから構成されるマグネタイト層とを備えている。
ここで、酸化鉄皮膜の形成方法について説明する。まず、ウスタイト生成工程として、窒化処理により窒化層が形成された転造歯形面2の表面にウスタイトを生成してウスタイト層を形成する。
次に、ウスタイト生成工程によりウスタイト層を形成した後、マグネタイト生成工程として、ウスタイト層の表面をウスタイトからマグネタイトに変態させてマグネタイト層を生成する。ウスタイトが十分に変態し、ウスタイト層の表面全体がマグネタイト層に被覆されると、ウスタイトの分解反応および酸化反応が停止し、マグネタイト生成工程は終了する。
マグネタイト生成工程では、ウスタイトがマグネタイトに変態する過程において、ウスタイト層の表面全体でウスタイトの分解反応や酸化反応が進行し、ウスタイト層の表面にマグネタイト等の微細な結晶が生成される。このように、ウスタイトをマグネタイトに変態させ、ウスタイト層の表面全体にマグネタイト等の微細な結晶が生成することによりマグネタイト層を生成することで、皮膜表面全体に凹凸が形成される。
よって、水蒸気酸化処理等の方法により転造歯形面2にマグネタイトを生成することで酸化鉄皮膜を形成する場合と比べて、酸化鉄皮膜の皮膜表面全体を粗くすることができるので、転造歯形面2の滑りを抑制できる。その結果、転造工具10による転造加工時において、加工歯3の欠損を低減させることができるので、転造工具10の工具寿命を向上させることができる。また、酸化鉄皮膜の皮膜表面全体を粗くすることで、酸化鉄皮膜による潤滑油保持効果を向上させることができる。
ここで、転造歯形面に窒化層を形成することで、転造歯形面の表面硬さを向上させて耐摩耗性を良くすることができるものの、転造工具による転造加工時において加工歯に凝着摩耗が発生すると、加工歯が欠損しやすくなり工具寿命が低下する。
これに対し、転造工具10では、窒化層が形成された転造歯形面2の表面に酸化鉄皮膜を形成することで、潤滑油保持効果による潤滑性能の向上を図ることができる。よって、窒化処理による加工歯の表面硬さの向上と、酸化鉄皮膜による潤滑性能の向上とを両立させることができるので、耐摩耗性をより一層向上させることができ、その結果、工具寿命の向上を図ることができる。
なお、マグネタイト生成工程では、ウスタイトが変態することでヘマタイトも生成されるが、ヘマタイトは酸化鉄皮膜に亀裂が発生する要因となり得るため、ヘマタイトの生成量を少なくすることが好ましい。
ここで、マグネタイト生成工程により酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイトが生成された後における酸化鉄皮膜の組成は、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上に設定されると共に、酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が45wt%以下に設定されることが好ましい。
また、マグネタイト生成工程により酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイトが生成された後における酸化鉄皮膜の膜厚が0.5μm以上、かつ、10μm以下に設定されることが好ましい。
マグネタイト生成工程により酸化鉄皮膜の皮膜表面全体にマグネタイトが形成された状態において、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上が設定されることにより、又は、酸化鉄皮膜の膜厚が0.5μm以上に設定されることにより、ウスタイト層を形成するウスタイトの量を十分に確保することができる。
即ち、転造工具による転造加工時において、皮膜表面に形成されたマグネタイト等の結晶が欠落すると、その欠落した部分が平滑になり、滑り発生の要因となり得る。これに対し、マグネタイト等の結晶が欠落したマグネタイト層からウスタイト層が露出することで、その露出したウスタイト層の表面がウスタイトからマグネタイトに変態する。これにより、酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイト等の結晶が新たに生成され、皮膜表面に新たな凹凸を形成することができる。よって、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果を持続させることができるので、工具寿命の向上を図ることができる。
また、酸化鉄皮膜の膜厚を10μm以下に設定することで、酸化鉄皮膜に亀裂が発生することを抑制できる。これにより、酸化鉄皮膜の亀裂に起因して加工歯が欠損しやすくなることを回避できるという効果がある。
なお、ウスタイト生成工程の前に、転造歯形面2の食付き部21に対してブラスト処理を施してもよい。
食付き部21は、被転造素材に対して加工歯3を食い込ませる部位であり、仕上げ部22及び逃げ部23と比べて滑り易い。そこで、食付き部21に対してブラスト処理を施すことで、食付き部21の表面に凹凸を形成することができる。その結果、食付き部21の滑りを確実に防止することができる。
また、マグネタイト生成工程の後に、仕上げ部22及び逃げ部23に対してラップ加工を施して仕上げ部22及び逃げ部23の酸化鉄皮膜を除去してもよい。
転造歯形面2の滑りは、食付き部21、仕上げ部22及び逃げ部23のいずれにおいても発生するため、原則として、転造歯形面2の表面全体に酸化鉄皮膜を形成することで転造歯形面2の滑りを確実に防止できる。しかしながら、被転造素材に鏡面加工を行う場合には、仕上げ部22又は逃げ部23の酸化鉄皮膜を除去することで、転造加工後における被転造素材の面粗さを小さくすることができる。
次に、図2及び図3を参照して、上述した転造工具を用いて行った耐久試験について説明する。まず、図2(a)及び図2(b)を参照して、耐久試験1について説明する。図2(a)は、耐久試験1の試験結果を示す表であり、図2(b)は、耐久試験1の試験結果を示すグラフである。
耐久試験1は、酸化鉄皮膜の膜厚が異なる複数の転造工具における酸化鉄皮膜の組成を分析すると共に、それら膜厚の異なる複数の転造工具を用いてねじ転造加工を行った場合に連続して加工可能なねじの総数(以下「耐久寿命数」と称す)を測定する試験である。なお、酸化鉄皮膜の組成分析は、XRD分析(X線解析、薄膜法)により行った。
この耐久試験1で使用された転造工具は、ダイス寸法:150mm×32mm×45mm、ダイス呼び:M8×1.25、ダイス鋼種:SKD11のねじ転造平ダイスである。また、転造工具に形成される酸化鉄皮膜の成膜条件は、処理装置:真空熱処理炉、使用ガス:亜酸化窒素、ガス圧:800〜900mbar、ガス導入流量:5L/分、処理温度:450℃、処理時間0〜120分である。
なお、耐久試験1の詳細諸元は、被転造素材:SCM440(28HRC)、被転造素材の寸法:φ7.20×40mm、転造速度:120本/分、潤滑油:極圧材添加鉱油である。
図2(a)及び図2(b)に示すように、耐久試験1の試験結果によれば、酸化鉄皮膜の膜厚が0μm、即ち、酸化鉄皮膜が形成されていない場合では、耐久寿命数が12850個であったの対し、酸化鉄皮膜の膜厚が0.3μmの場合では、耐久寿命数が13890個であった。このことから、転造歯形面に酸化鉄皮膜を形成することにより耐久寿命数が増加することが容易に理解できる。
酸化鉄皮膜の膜厚が0.3μmの場合では、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が47.3wt%であると共に、酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が49.9wt%であり、耐久寿命数が13890個であったのに対し、酸化鉄皮膜の膜厚が0.5μmの場合では、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55.2wt%であると共に、酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が42.8wt%であり、耐久寿命数が15100個であった。このことから、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率を確保することで、転造工具の工具寿命が向上することが容易に理解できる。
なお、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率は、酸化鉄皮膜の膜厚が厚くなるほど大きくなっている。これは、ウスタイトが変態して生成されたマグネタイトが酸化鉄皮膜の皮膜表面全体に形成されることで、ウスタイトの変態が停止することを示している。即ち、酸化鉄皮膜に皮膜表面に形成されるマグネタイトの膜厚は、酸化鉄皮膜の膜厚に関係なくほぼ一定であることを示している。
ここで、酸化鉄皮膜の膜厚が0〜3μmの範囲では、膜厚が厚くなるほど、耐久寿命数が増加している。このことから、酸化鉄皮膜の膜厚をある程度確保することで、転造工具の工具寿命が向上することが容易に理解できる。
これは、酸化鉄皮膜の膜厚を厚くすることにより、転造加工時において酸化鉄皮膜の皮膜表面からマグネタイトが欠落したとしても、その欠落した部分から露出したウスタイトが変態することで新たにマグネタイトが生成された結果、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果が持続し、工具寿命が向上したと考えられる。
一方、酸化鉄皮膜の膜厚が5μmの場合では、耐久寿命数が18500個となり、膜厚が3μmの場合と比べて若干少なくなった。同様に、酸化鉄皮膜の膜厚が5μm〜15μmの範囲では、膜厚が厚くなるほど耐久寿命数が低減し、膜厚が11μmの場合では酸化鉄皮膜が形成されていない場合(膜厚が0μmの場合)よりも耐久寿命数が短くなった。
これは、酸化鉄皮膜の膜厚を所定の範囲を越えた厚さに設定すると、酸化鉄皮膜に亀裂が発生することに起因して加工歯が欠損しやすくなる傾向があり、この傾向が膜厚を11μm以上に設定した場合に顕著となったと考えられる。
以上のように、酸化鉄皮膜の膜厚を10μm以下に設定することにより、酸化鉄皮膜が形成されていない場合と比べて、転造工具の工具寿命を向上させることができる。
さらに、酸化鉄皮膜の膜厚を5μm以上に設定し、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率を55%以上に設定することで、酸化鉄皮膜の皮膜表面を被覆するマグネタイトの内部に存在するウスタイトを十分に確保することができ、転造工具の工具寿命をより一層向上させることができる。
次に、図3を参照して、耐久試験2について説明する。図3は、耐久試験2の試験結果を示すグラフである。
耐久試験2は、異なる3つの被転造素材(No.1〜No.3)に対してねじ転造加工を行った場合の耐久寿命数を測定する試験である。なお、耐久試験2の詳細諸元は、耐久試験1と同じである。
耐久試験2では、本実施の形態における製造方法により製造された転造工具1「以下「本発明品」と称す」と、窒化処理により窒化層が形成された転造歯形面の表面に対して水蒸気酸化処理に施すことで、マグネタイトから構成される酸化鉄皮膜が形成された転造工具(以下「従来品」と称す)とを用いて行った。
この耐久試験2で使用された本発明品および従来品は、ダイス寸法:150mm×32mm×45mm、ダイス呼び:M8×1.25、ダイス鋼種:SKH51、窒化層の表面硬さ:1150HV、窒化層の全硬化層:50μmのねじ転造平ダイスである。
また、本発明品における酸化鉄皮膜の成膜条件は、処理装置:真空熱処理炉、使用ガス:亜酸化窒素、ガス圧:800〜900mbar、ガス導入流量:3L/分、処理温度:420℃、処理時間30分であり、酸化鉄皮膜の全膜厚が4μm、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が92wt%、酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイトの比率が8wt%に設定されている。
図3に示すように、耐久試験2の試験結果によれば、本発明品は、従来品と比べて、No.1〜No.3のいずれの被転造素材においても、耐久寿命数が多くなったことが容易に理解できる。さらに、従来品では、被転造素材による耐久寿命数に大きなバラツキが確認されたのに対し、本発明品では、従来品と比べて、被転造素材による耐久寿命数のバラツキが縮小されていることが容易に理解できる。
このように、本実施の形態による酸化鉄皮膜を形成することにより、水蒸気酸化処理により酸化鉄皮膜を形成する場合と比べて、転造工具の工具寿命を向上させることができると共に、被転造素材による工具寿命のバラツキを縮小させることができ、その結果、被転造素材に関わらず一定の品質を保持することができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態では、酸化鉄皮膜がねじ転造平ダイスに形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の転造工具、例えば、転造丸ダイスやプラネタリ式ダイス、歯車やスプライン等のねじ以外の転造加工に使用する転造工具に形成してもよい。
また、上記実施の形態では、窒化層形成工程により窒化層が形成された転造歯形面2に対して酸化鉄皮膜を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、窒化層形成工程を省略し、窒化層が形成されていない転造歯形面に対して酸化鉄皮膜を形成してもよい。これにより、転造工具の製造工程を簡素化できると共に、転造工具の製品コストを削減できる。
<その他>
<手段>
技術的思想1の転造工具は、複数の加工歯が設けられると共に表面に酸化鉄皮膜が形成された転造歯形面を備えたものであり、前記酸化鉄皮膜は、前記転造歯形面の表面に形成されると共にウスタイトから構成されるウスタイト層と、そのウスタイト層の表面に形成されると共にマグネタイトから構成されるマグネタイト層とを備え、前記マグネタイト層は、前記ウスタイト層の表面をウスタイトからマグネタイトに変態させることにより形成されている。
技術的思想2の転造工具は、技術的思想1記載の転造工具において、転造歯形面の表面に窒化処理を施すことにより形成される窒化層を備え、酸化鉄皮膜が、前記窒化層の表面に形成されている。
技術的思想3の転造工具は、技術的思想1又は2に記載の転造工具において、前記酸化鉄皮膜は、その酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上に設定されると共に、前記酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が45wt%以下に設定されている。
技術的思想4の転造工具は、技術的思想1から3のいずれかに記載の転造工具において、前記酸化鉄皮膜は、その膜厚が0.5μm以上、かつ、10μm以下に設定されている。
技術的思想5の転造工具の製造方法は、複数の加工歯が設けられると共に表面に酸化鉄皮膜が形成された転造歯形面を備えた転造工具の製造方法において、前記転造歯形面の表面にウスタイトから構成されるウスタイト層を生成するウスタイト生成工程と、そのウスタイト生成工程により生成された前記ウスタイト層の表面にマグネタイトから構成されるマグネタイト層を生成するマグネタイト生成工程とを備え、前記マグネタイト生成工程は、前記ウスタイト層の表面をウスタイトからマグネタイトに変態させることにより前記マグネタイト層を生成している。
技術的思想6の転造工具の製造方法は、技術的思想5記載の転造工具の製造方法において、前記ウスタイト生成工程により前記転造歯形面にウスタイトを生成する前に、前記転造歯形面の表面に窒化処理を施すことで窒化層を生成する窒化層生成工程を備えている。
<効果>
技術的思想1又は5に記載の転造工具またはその製造方法によれば、酸化鉄皮膜は、マグネタイト層が、転造歯形面の表面に生成されたウスタイト層の表面をウスタイトからマグネタイトに変態させることにより生成されている。これにより、マグネタイト層の表面全体にマグネタイト等の微細な結晶が形成されるので、従来のように水蒸気酸化処理等の方法で転造歯形面にマグネタイトを生成して酸化鉄皮膜を形成する場合と比べて、酸化鉄皮膜の皮膜表面全体に凹凸を多く形成することができる。
よって、酸化鉄皮膜の皮膜表面全体を粗くすることができるので、潤滑油の潤滑効果に伴う転造歯形面の滑りを抑制できる。その結果、転造工具による転造加工時において、転造歯形面の加工歯が欠損することを低減させることができるので、転造工具の工具寿命を向上させることができるという効果がある。
また、酸化鉄皮膜の皮膜表面全体を粗くすることで、酸化鉄皮膜による潤滑油保持効果を向上させることができるという効果がある。
技術的思想2又は6に記載の転造工具またはその製造方法によれば、技術的思想1又は5に記載の転造工具またはその製造方法の奏する効果に加え、窒化層が形成された転造歯形面の表面に酸化鉄皮膜が形成されているので、窒化層による加工歯の表面硬さの向上と、酸化鉄皮膜による潤滑性能の向上とを両立させることができる。
即ち、転造歯形面に窒化層を形成することで、転造歯形面の表面硬さを向上させて耐摩耗性を良くすることができるものの、転造工具による転造加工時において加工歯に凝着摩耗が発生すると、加工歯が欠損しやすくなり工具寿命が低下する。
これに対し、窒化層が形成された転造歯形面の表面に酸化鉄皮膜を形成することで、潤滑油保持効果による潤滑性能の向上を図ることができるので、耐摩耗性をより一層向上させることができ、その結果、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
技術的思想3記載の転造工具によれば、技術的思想1又は2に記載の転造工具の奏する効果に加え、酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上に設定されると共に、酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が45wt%以下に設定されているので、ウスタイト層を形成するウスタイトの量を十分に確保することができる。
即ち、転造工具による転造加工時において、皮膜表面に形成されたマグネタイト等の結晶が欠落すると、その欠落した部分が平滑になり、滑り発生の要因となり得る。これに対し、マグネタイト等の結晶が欠落したマグネタイト層からウスタイト層が露出することで、その露出したウスタイト層の表面がウスタイトからマグネタイトに変態する。これにより、酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイト等の結晶が新たに生成され、皮膜表面に新たな凹凸を形成することができる。よって、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果を持続させることができるので、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
技術的思想4記載の転造工具によれば、技術的思想1から3のいずれかに記載の転造工具の奏する効果に加え、酸化鉄皮膜の膜厚が0.5μm以上に設定されているので、ウスタイト層を形成するウスタイトの量を十分に確保することができる。
よって、転造工具による転造加工時において、皮膜表面に形成されたマグネタイト等の結晶が欠落したとしても、そのマグネタイト等の結晶が欠落したマグネタイト層からウスタイト層が露出することで、その露出したウスタイト層の表面がウスタイトからマグネタイトに変態する。これにより、酸化鉄皮膜の皮膜表面にマグネタイト等の結晶が新たに生成され、皮膜表面に新たな凹凸を形成することができる。よって、酸化鉄皮膜による滑り抑制効果および潤滑油保持効果を持続させることができるので、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
また、酸化鉄皮膜の膜厚が10μm以下に設定されているので、酸化鉄皮膜に亀裂が発生することを抑制できる。これにより、酸化鉄皮膜の亀裂に起因して加工歯が欠損しやすくなることを回避できるという効果がある。
10 転造工具
2 転造歯形面
3 加工歯

Claims (3)

  1. 複数の加工歯が設けられると共に表面に酸化鉄皮膜が形成された転造歯形面を備えた転造工具において、
    前記酸化鉄皮膜は、前記転造歯形面の表面に形成されると共にウスタイトから構成されるウスタイト層と、そのウスタイト層の表面に形成されると共にマグネタイトから構成されるマグネタイト層とを備え、
    前記酸化鉄皮膜は、その酸化鉄皮膜全体に対するウスタイトの比率が55wt%以上に設定されると共に、前記酸化鉄皮膜全体に対するマグネタイト及びヘマタイトの比率が45wt%以下に設定されていることを特徴とする転造工具。
  2. 前記転造歯形面の表面に窒化処理を施すことにより形成される窒化層を備え、
    前記酸化鉄皮膜が、前記窒化層の表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の転造工具。
  3. 前記酸化鉄皮膜は、その膜厚が0.5μm以上、かつ、10μm以下に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転造工具。
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