JP2008150650A - 鋼系複合表面処理製品とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来までの表面改質方法では成し得なかった高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下においても優れた耐久性と耐摩耗性を付与した機械部品、工具、金型等を提供し、またその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明では、機械部品、工具、金型等は、鋼系材料を母材とするもので、この鋼系材料表面にイオン窒化処理を施し、この上にPVD法により被覆したTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜を形成し、さらに前記硬質被膜上に被覆したAl−Cr系窒化物からなる耐酸化特性に優れた高硬度な被膜または前記硬質被膜との傾斜層を介したAl−Cr系窒化物からなる耐酸化特性に優れた高硬度な被膜を形成する。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明では、機械部品、工具、金型等は、鋼系材料を母材とするもので、この鋼系材料表面にイオン窒化処理を施し、この上にPVD法により被覆したTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜を形成し、さらに前記硬質被膜上に被覆したAl−Cr系窒化物からなる耐酸化特性に優れた高硬度な被膜または前記硬質被膜との傾斜層を介したAl−Cr系窒化物からなる耐酸化特性に優れた高硬度な被膜を形成する。
【選択図】 図2
Description
本発明は、鋼系複合表面処理製品とその製造方法に関し、特に、鋼系部材に硬質被膜を形成する前処理としてイオン窒化した後、PVD法により硬質被膜を形成し、さらに硬質皮膜上に窒化物を形成する技術に関わり、硬質被膜の破壊が少なく、特に耐酸化特性と耐摩耗性に優れた鋼系複合表面処理製品とその製造方法に関する。
鋼系部材上に直接硬質膜を形成するよりも、前処理としてイオン窒化処理を施して下地を強化することにより硬質膜の変形が起こり難くなり、硬質被膜の破壊も少なくなる。また、このイオン窒化処理は鋼系部材の表面粗さを大きくすることなく硬化層を形成することが可能なため、イオン窒化処理後に形成される硬質膜は高い密着力および耐久性を有する。更にPVD法は500°C以下の比較的低温で成膜を行うため、予め形成した窒化層を、熱による窒素の拡散により失うことがない。そして鋼系部材のうち、ドリルのような複雑形状を有するものや、表面が細密な溝構造を持つものでも均一にイオン窒化処理することが可能なため、鋼系部材全体に密着力および耐久性の優れた硬質膜を形成することができる。このような複合表面処理製品とその製造方法が知られている(特開平08−35075)。
イオンプレーティング法を始めとした物理的気相蒸着法(PVD法)および化学的気相蒸着法(CVD法)においては高付加価値な被膜を形成する技術開発が盛んに行われている。現在では一般的となった周期律表IVa族元素およびVa族元素の窒化物、炭化物および炭窒化物は500°C付近より酸化が始まるため、高温に晒される機械部品、工具、金型等への適用は不可能であった。そこで周期律表IVa族元素およびVa族元素の窒化物、炭化物および炭窒化物の中でも一般的なTiNにIIIb族元素であるAlを添加することで耐酸化特性を向上させることが可能となった。この改善技術で耐熱温度は約800°Cと向上し、更に高温における耐酸化特性の向上技術として既存の被膜であるVIa族の窒化物のCrNにAl(以下Al−Cr系窒化物と記す)を添加することで1000°C以上の雰囲気での使用が可能となった。この改善技術により高温雰囲気中での使用が可能となり、同時に非常に高硬度な被膜特性を示すことが知られている(特開平10−25566)。
上記、Al−Cr系窒化物により耐酸化特性と高硬度特性を得ることはできたが、鋼系部材へ直接成膜してもその効果を得ることは難しい。Al−Cr系窒化物は高硬度であるため、被膜自体が非常に大きな応力を保持している。このために被膜が自己破壊を生じたり、成膜した部材の受ける僅かな負荷によって剥がれを生じ、また鋼系部材との熱膨張率差によって変形に追従するだけの柔軟さ、靱性に欠けるため剥がれに至ることもある。このようなことから単層でのAl−Cr系窒化物被膜は、持ち得る優れた特性を発揮することは難しく、より効果的に特性を発揮できる表面処理方法の検討が試みられてきた。
特開平08−35075号公報
特開平10−25566号公報
特開平08−35075号に記載の発明では、機械部品、工具、金型等は摩耗が抑えられ、従来の表面処理を行わないものと比較して、その寿命は大幅に延長された。しかし高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下においての耐久性が得られないため、高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下においても耐久性を持つ表面改質方法が強く望まれている。
これまで硬質被膜の密着性と耐久性の向上のために、特開平08−35075号に挙げられるような技術の開発を行ってきた。しかし、この技術においては500°Cを超える高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下においては表面処理の効果を得ることは困難であった。
したがって、本発明の目的は、従来技術をより発展させて高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下においても耐久性を持つ鋼系複合表面処理製品とその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の鋼系複合表面処理製品の製造方法は、基部となる鋼系部材を300〜650°Cの温度に保持し、NH3ガスとH2ガスを用いて、鋼系部材の表面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行いイオン窒化することにより窒化層を形成し、PVD法により前記窒化層にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜を被覆し、前記硬質被膜上に耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物を被覆し、または前記硬質被膜上に傾斜層である耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物を被覆する、ことを特徴とする。
また、本発明の鋼系複合表面処理製品は、基部となる鋼系部材と、鋼系部材を300〜650°Cの温度に保持し、NH3ガスとH2ガスを用いて、鋼系部材の表面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行いイオン窒化することにより形成した窒化層と、PVD法により前記窒化層に被覆したTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜と、前記硬質被膜上に被覆した耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物、または前記硬質被膜上に被覆した傾斜層である耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、鋼系部材からなる機械部品、工具、金型等の表面に前処理としてイオン窒化処理を施すことにより、その上に施す硬質膜の変形が起こり難くなり、硬質被膜の破壊も少なくなる。更に最表層に耐酸化特性および高硬度特性を兼ね備えたAl−Cr系窒化物を形成することで、高温雰囲気中での耐久性および使用時に鋼系部材の受ける損傷は効果的に軽減され、部材寿命を大幅に延長することが可能となる。
本発明の機械部品、工具、金型等は、鋼系材料を母材とするもので、この鋼系材料表面にイオン窒化処理を施し、この上にPVD法により被覆したTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜と、前記硬質被膜上に被覆したAl−Cr系窒化物からなる耐酸化特性に優れた高硬度な被膜を有するものである。
本発明の機械部品、工具、金型等の表面処理構造について説明する。先ず、鋼系部材の表面にイオン窒化による窒素層を形成することは母材の持つ靱性を生かしつつ、表面層のみを硬化することになる。このことはこの上に形成される硬質被膜の受ける負荷を緩衝し、結果的に表面硬化層と硬質被膜の密着性を改善するため、硬質被膜の特性を十分に発揮させることが可能となる。
硬さの異なる被膜であるTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物と最表層のAl−Cr系窒化物を積層構造およびTi、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびCrの少なくとも1種の窒化物、炭化物または炭窒化物との傾斜層を介したAl−Cr系窒化物を積層構造にしたのは、最表層のAl−Cr系窒化物の受ける負荷を下層のTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物が緩衝し、結果的にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物とAl−Cr系窒化物の密着性を改善するため、Al−Cr系窒化物の高硬度特性を十分に発揮させることが可能となる。
Al−Cr系窒化物の耐酸化特性について説明する。Al−Cr系窒化物はCrのマトリックス中に置換固溶したAlがCrよりも先に外向拡散し、最表面に緻密なアルミナ層を形成し、酸化の進行である酸素の内向拡散を防ぐ保護層となる。このように形成されたアルミナ層および酸化の進行に伴い、形成されるCr酸化層の二重の保護層の効果によって、より高い耐酸化特性を示すことを確認している。以上のことから高温雰囲気中での鋼系部材からなる機械部品、工具、金型等の受ける損傷を軽減でき、部材寿命を延長させることができる。
ここで、上記効果を発揮するためにAl−Cr系窒化物は金属成分のみの原子%がAlで25%以上50%以下、Crで50%以上75%以下が好ましい。Alが50%を超えると被膜の延性が低下し始め、高負荷の加わる環境下における耐久性が得られ難くなる。
通常これらの被膜を設けるには化学蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)等、種々の方法で被膜形成が可能だが、鋼系母材への処理温度の関係からくる母材の硬度低下や密着性の問題を考慮すると、PVD法の一種であるイオンプレーティング法が好ましい。
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
本発明を適用した実施例と比較例を説明する。実施例は高速度鋼SKH51からなる冷間鍛造用プレスのポンチに対して施し、被加工材は一般構造用圧延鋼材であるSS400のショットプレスを行うことで、高負荷の加わる環境下における耐久性を確認することができる。
(実施例1)
本発明を適用した実施例と比較例を説明する。実施例は高速度鋼SKH51からなる冷間鍛造用プレスのポンチに対して施し、被加工材は一般構造用圧延鋼材であるSS400のショットプレスを行うことで、高負荷の加わる環境下における耐久性を確認することができる。
先ず、試験ポンチ(直径15mm、長さ60mm)表面に窒素を拡散させた表面硬化層である窒化層を形成した。処理はラジカル窒化装置を用いており、反応ガスであるNH3、H2を所定のガス比率で混合し、ヒーター加熱温度を500°C以下の条件の下で6時間の処理を行った。
次に、窒化層を形成した試験ポンチをアークイオンプレーティング装置に入れ、Arイオンによるボンバードメント処理を行い、金属成分の蒸発源であるCrターゲット、ならびに反応ガスであるN2を導入し、被覆基体温度400°C、チャンバー内圧力5Paの条件下にて窒化クロム(以下CrNと記す)を形成する。
更に、CrNに連続して金属成分の蒸発源であるAl−Crターゲット、ならびに反応ガスであるN2を導入し、被覆基体温度400°C、チャンバー内圧力5Paの条件下にてAl−Cr系窒化物を形成し、CrNと合わせて被膜の総厚が3μmになるように処理を行った。処理は試験ポンチの全面に施している。
冷間鍛造用プレスはナックルジョイント型160tプレス機を用い、被加工材であるSS400(ボンデ処理品)の加工前寸法、直径19.7mm、高さ14.0mmのものを上述の処理済の試験ポンチでショットプレスを行い、底厚5mmの厚さにまで圧延し、この試験を150ショット繰り返した。
ショットプレス後の試験ポンチに施した被膜の剥がれの有無を確認した。試験ポンチの下地処理としてイオン窒化の有無、硬質被膜第1層目の窒化物、炭化物、炭窒化物の何れか、そして最表層のAl−Cr系窒化物のAl濃度別(表中におけるAlの前の数字はAlの原子%を示しており、Cr−25AlNであればAl原子%が25であることを示す)の各組み合わせにおける各表面処理について、上記ショットプレス後の試験ポンチの表面状態を表1〜6にまとめた。
表1〜6から下地処理のイオン窒化が施されていないものは、被膜の組み合わせがどのように変化しても剥がれを生じることを確認した。また、下地処理のイオン窒化が施されていても最表層がCr−75AlN組み合わせは全てにおいて剥がれを生じていた。
高負荷の加わる冷間鍛造プレスにおいて、下地が強化されていないイオン窒化未処理のものは耐久性に欠けることがわかった。また、Cr−75AlNのようにAl濃度が高いものは被膜の延性の低下が顕著になり、高負荷の加わる環境下における耐久性が得られないことがわかった。
上記の結果における剥がれの生じなかったものについて、試験ポンチ先端面の損傷程度を超深度形状測定器(レーザー顕微鏡)にて傷の深さを測定した。測定結果を表7、8にまとめる。
表7、8から最表層がCr−50AlNのものより、Cr−25AlNのものの方が傷が深く入り易い傾向があることを確認した。これは耐久性の面でCr−50AlNがより勝っていることを表している。
同様のプレス試験150ショットを既存の表面処理技術を施した試験ポンチを用いて比較評価を行った。結果を表9にまとめる。
本発明の評価結果と比較すると、表9の結果は耐久性において下回っているものと判断できる。この評価結果から、前処理としてイオン窒化による下地強化後に硬質被膜を施し、Al−Cr系窒化物被膜を最表面に設けることで、Al−Cr系窒化物の特徴である高負荷の加わる環境下においても既存の表面処理技術よりも優れた耐久性を発揮できることを確認した。
(実施例2)
本発明を適用した実施例と比較例を説明する。実施例は高速度鋼からなるストレートドリルに対して施し、被削材SCM440(硬度28HRC)に対して回転数1500rpm、送り速度0.15mm/rev、切削深さ15mm止まり穴の条件で水溶性切削油を用いて切削試験を行った。このとき切り粉が巻き付いたときを限界値とし、そこまでの切削穴数を数えることで切削性能の評価を行うことができる。
(実施例2)
本発明を適用した実施例と比較例を説明する。実施例は高速度鋼からなるストレートドリルに対して施し、被削材SCM440(硬度28HRC)に対して回転数1500rpm、送り速度0.15mm/rev、切削深さ15mm止まり穴の条件で水溶性切削油を用いて切削試験を行った。このとき切り粉が巻き付いたときを限界値とし、そこまでの切削穴数を数えることで切削性能の評価を行うことができる。
ドリルへの処理方法は上述の試験ポンチへの処理と同様である。
ドリルへの表面処理の組み合わせは、ドリルの下地処理としてイオン窒化の有無、硬質被膜第1層目は現在切削工具用被膜として一般的なTiN、TiCN、TiAlN、およびCrNの何れか、そして最表層のAl−Cr系窒化物のAl濃度別(表中におけるAlの前の数字はAlの原子%を示しており、Cr−25AlNであればAl原子%が25であることを示す)の各組み合わせにおける各表面処理について、切削穴数の結果を表10、11にまとめた。また、Al−Cr系窒化物のAl濃度別単層膜の評価も同様に行った。
表10、11から前処理としてイオン窒化をした方が、より切削性能を向上させることができている。また、Al−Cr系窒化物を被覆した場合、いずれの場合もAl−Cr系窒化物が被覆されていない場合(表12)と比較すると切削性能が向上している。これは実施例1のプレス試験の結果とは異なっており、切削工具ではAl−Cr系窒化物が比較的広いAl、Cr濃度の範囲で使用できることを示している。ただ、表10、11をグラフ化した図1、2を見ると、切削穴数はAl濃度が50%時にピークとなり、そこを頂点に山型を描いている。従ってAl濃度は50%のものが望ましいことが判明した。
一方、Al−Cr系窒化物の単層では全く性能が出ないことが確認された。これはドリル基部とAl−Cr系窒化物の硬度があまりに掛け離れているために、切削初期に受ける衝撃で基材が変形し、それに追従できない高硬度なAl−Cr系窒化物が早期に剥がれ落ちたるためである。そこでドリルの前処理としてイオン窒化したことでドリル表面が強化され、切削時の衝撃を若干緩衝できたことが切削穴数の伸びに繋がった。
Al−Cr系窒化物の単層においてはAl濃度による切削性能の傾向が他と異なっているが、これはドリル基部との硬度差が大きいために、その差が縮まる低Al濃度の方が切削性能が伸びる結果となった。
同様のドリル切削試験を既存の表面処理技術を施した高速度鋼ストレートドリルを用いて、イオン窒化の有無による比較評価並びにAl−Cr系窒化物被膜を被覆しない場合の切削評価を行った。結果を表12にまとめる。
本発明の評価結果と比較すると、Al−Cr系窒化物被膜を最表面に設けることで、Al−Cr系窒化物の特徴である高硬度特性を生かし、耐摩耗性に優れ、切れ味を長期に渡って持ち続けることが可能となった。しかしながら、TiCNのような高硬度な被膜がAl−Cr系窒化物の下層に施されると、切削時の衝撃を緩衝できずに刃先での被膜が欠け落ちて、早期に寿命を来たすことがわかった。
上述のことからAl−Cr系窒化物を最表層に設けることで、高負荷の加わる環境下においては耐久性を、また切削性能においては対摩耗特性を発揮でき得る被膜構造を確認できた。これにより鋼系部材の寿命を大幅に延長することが可能となった。
(実施例3)
切削性能においては上述の通り、ドリルの前処理としてイオン窒化による下地強化後に施す硬質被膜の上にAl−Cr系窒化物を施すことによって切削性能の向上が図れることが明らかとなったが、切削工具用被膜として一般的なTiN、TiCN、TiAlN、およびCrNの何れかの硬質被膜と最表層Al−Cr系窒化物の間に傾斜層を設けることで更に耐衝撃性の向上が図れるか確認を行った。
(実施例3)
切削性能においては上述の通り、ドリルの前処理としてイオン窒化による下地強化後に施す硬質被膜の上にAl−Cr系窒化物を施すことによって切削性能の向上が図れることが明らかとなったが、切削工具用被膜として一般的なTiN、TiCN、TiAlN、およびCrNの何れかの硬質被膜と最表層Al−Cr系窒化物の間に傾斜層を設けることで更に耐衝撃性の向上が図れるか確認を行った。
切削条件、ドリルへの処理方法は実施例2と同様であるが、傾斜層形成方法は次の通りである。
窒化層を形成したドリルをアークイオンプレーティング装置に入れ、Arイオンによるボンバードメント処理を行い、金属成分の蒸発源であるTi、TiAl、Crの何れかターゲット、ならびに反応ガスであるN2、またはCH4(TiCN成膜時)を導入し、被覆基体温度400°C、チャンバー内圧力5Paの条件下にてTiN、TiCN、TiAlNおよびCrNの何れかを形成する。
上述の処理条件のままで、金属成分の蒸発源であるAl−Crターゲットを同時に点火することで傾斜層を形成する。
傾斜層を形成後、Ti、TiAl、Crターゲットを消してAl−Crターゲットのみ反応ガスであるN2を導入した雰囲気下で、被覆基体温度400°C、チャンバー内圧力5Paの条件でAl−Cr系窒化物を形成し、TiAlN、傾斜層と合わせて被膜の総厚が3μmになるように処理を行った。
ドリルへの表面処理の組み合わせは、ドリルの下地処理としてイオン窒化の有無、硬質被膜第1層目はTiN、TiCN、TiAlN、及びCrNの何れか、硬質被膜第1層との傾斜層の有無、そして最表層のAl−Cr系窒化物のAl濃度別の各組み合わせにおける各表面処理について、切削穴数の結果を表13にまとめる。
表13から硬質被膜第1層と最表層Al−Cr系窒化物の間に傾斜層を設けることは切削性能の向上に効果的であることがわかる。ドリルの下地処理であるイオン窒化層から徐々に硬度を上げていく構造は耐衝撃性に効果的に働き、最表層のAl−Cr系窒化物の高硬度特性を十分に発揮させるものであった。また、この結果からもAl濃度は50%をピークに25%、75%に向かうに従い山型にシフトすることを確認した。
表13において、TiCNと最表層Al−Cr系窒化物の傾斜層を設けた組み合わせのみ、傾斜層がないものに比べて性能が低下していることが確認できる。これは上述したようにTiCNは高硬度であるため、切削時の衝撃を緩衝できる層がなく被膜全体が非常に高硬度な状態となっている。実施例2と異なるのは傾斜層によって最表面付近の高硬度な層の占める割合が大きくなっており、このことは切削初期に被膜が欠け落ち易く、早期に寿命を来たすことを助長している。このことが実施例2と比較して切削性能が低下した原因である。
従って、傾斜層を設けない積層構造よりも、傾斜層を設けた積層構造の方がより耐久性、耐摩耗性に優れた表面処理方法となることを確認した。
一方で、最表層のAl−Cr系窒化物の高温雰囲気における耐酸化特性に関しては上述したように、Al−Cr系窒化物に形成されるCr酸化層の2重の保護層の効果によって、優れた耐酸化特性を示す。
(実施例4)
本発明は高温雰囲気下における耐酸化特性も優れていることから、熱間鍛造加工の評価を実施した。そこで実施例として、熱間加工用工具鋼SKD61からなる熱間鍛造用プレスのパンチに対して施し、被加工材はクロムモリブデン鋼であるSCM420のプレスを行うことで、高温雰囲気、且つ高負荷の加わる環境下における耐久性を確認することができる。
(実施例4)
本発明は高温雰囲気下における耐酸化特性も優れていることから、熱間鍛造加工の評価を実施した。そこで実施例として、熱間加工用工具鋼SKD61からなる熱間鍛造用プレスのパンチに対して施し、被加工材はクロムモリブデン鋼であるSCM420のプレスを行うことで、高温雰囲気、且つ高負荷の加わる環境下における耐久性を確認することができる。
試験パンチ(直径90mm、長さ105mm、先端湾曲形状)への処理は実施例1と同様で、パンチ全面に処理を施してある。
熱間鍛造用プレスはトランスファープレス機100tを用い、被加工材であるSCM420の加工前寸法、直径90mm、高さ50mmのものを1100°Cの鍛造温度の下で上述の処理済の試験パンチでプレスを行い、厚み20mmの椀型に圧延し、この試験を150ショット繰り返した。
プレス後の試験パンチに施した被膜の摩耗状態を確認した。試験ポンチの下地処理としてイオン窒化の有無、金型・パンチ用被膜として一般的なTiN、TiCN、TiAlNそしてCrNの何れか、そして最表層のAl−Cr系窒化物の有無、及びAl−Cr系窒化物のAl濃度別(表中におけるAlの前の数字はAlの原子%を示しており、Cr−25AlNであればAl原子%が25であることを示す)の各組み合わせにおける各表面処理について、上記プレス後の試験ポンチの表面状態を表14〜17にまとめた。
Al−Cr系窒化物を施さない表14、15においては全ての組み合わせで剥がれを生じた。これはTiN、TiCN、TiAlNおよびCrNの耐酸化特性が熱間鍛造温度に耐えられなかったのが主原因である。特にTiCNは耐酸化特性に劣るため早期にパンチ基材の割れに至り、150ショットを行うことができなかった。TiNは150ショット行えたものの、試験終了後にワーク材に接触する面を観察したところ被膜は殆ど存在していなかった。TiAlNは被膜は残留していたが、一部ワーク材の凝着も見られた。CrNに関しては他の被膜と比較すると損傷程度が少なく、特にイオン窒化と組み合わせたものは剥がれはあるものの損傷程度は軽微であった。
Al−Cr系窒化物を施した表16、17においては施さないものと比較すると様子が異なってくる。表16はパンチ基部にイオン窒化を施していないため、熱間鍛造時の衝撃を吸収できずに最表層Al−Cr系窒化物被膜と共に割れて剥がれ落ちている。これに対してイオン窒化を施した表17においてはパンチ基部の強化により耐衝撃性が向上し、更に最表層のAl−Cr系窒化物の優れた耐酸化特性により被膜の剥がれはTiCNとの組み合わせを除き、皆無であった。下層がTiCNのものはドリル切削時と同様、被膜全体が高硬度であるために衝撃を緩衝できず割れて剥がれ落ち、Al−Cr系窒化物のAl濃度の違いに関係なく剥がれを生じることになった。
最表層に耐熱酸化特性の優れたAl−Cr系窒化物を設けるで熱間鍛造のような1100°Cの高温においてもパンチの寿命延長に有効な表面処理技術であることを確認した。本発明は高温雰囲気中、または高負荷の加わる環境下において耐久性が得られることを確認した。
Claims (6)
- 基部となる鋼系部材を300〜650°Cの温度に保持し、NH3ガスとH2ガスを用いて、鋼系部材の表面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行いイオン窒化することにより窒化層を形成し、
PVD法により前記窒化層にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜を被覆し、
前記硬質被膜上に耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物を被覆し、または前記硬質被膜上に傾斜層である耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物を被覆する、
ことを特徴とする鋼系複合表面処理製品の製造方法。 - 請求項1記載の鋼系複合表面処理製品の製造方法において、前記Al−Cr系窒化物はAlが25%以上50%以下であり、Crが50%以上75%以下であることを特徴とする鋼系複合表面処理製品の製造方法。
- 請求項1記載の鋼系複合表面処理製品の製造方法において、鋼系複合表面処理製品が切削工具である場合には、前記Al−Cr系窒化物はAlが25%以上75%以下であり、Crが25%以上75%以下であることを特徴とする鋼系複合表面処理製品の製造方法。
- 基部となる鋼系部材と、
鋼系部材を300〜650°Cの温度に保持し、NH3ガスとH2ガスを用いて、鋼系部材の表面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行いイオン窒化することにより形成した窒化層と、
PVD法により前記窒化層に被覆したTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、AlおよびCrの少なくとも1種以上の窒化物、炭化物または炭窒化物からなる硬質被膜と、
前記硬質被膜上に被覆した耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物、または前記硬質被膜上に被覆した傾斜層である耐酸化特性に優れた高硬度なAl−Cr系窒化物と、
を有することを特徴とする鋼系複合表面処理製品。 - 請求項4記載の鋼系複合表面処理製品において、前記Al−Cr系窒化物はAlが25%以上50%以下であり、Crが50%以上75%以下であることを特徴とする鋼系複合表面処理製品。
- 請求項4記載の鋼系複合表面処理製品において、鋼系複合表面処理製品が切削工具である場合には、前記Al−Cr系窒化物はAlが25%以上75%以下であり、Crが25%以上75%以下であることを特徴とする鋼系複合表面処理製品。
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JP2006337899A Pending JP2008150650A (ja) | 2006-12-15 | 2006-12-15 | 鋼系複合表面処理製品とその製造方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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2006
- 2006-12-15 JP JP2006337899A patent/JP2008150650A/ja active Pending
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