第1の実施の形態.
<電力変換装置の構成>
本電力変換装置は、図1に示すように、電源線LH,LLとチョッパ回路2と電圧形電力変換回路の一例たる電圧形インバータ3とを備えている。
電源線LH,LLの間には直流電圧が印加される。ここでは電源線LLに印加される電位は電源線LHに印加される電位よりも小さい。図1の例示では、電源線LH,LLの間には、互いに直列に接続される平滑コンデンサC1,C2が設けられている。ただし、必ずしも2つの平滑コンデンサが設けられる必要はなく、例えば一つの平滑コンデンサが電源線LH,LLの間に設けられていても良い。2つの平滑コンデンサC1,C2が例示されている理由については後に述べる。
また図1の例示では、平滑コンデンサC1,C2の一組の両端電圧はダイオード整流回路1によって印加されている。ダイオード整流回路1は入力された交流電圧を直流電圧に整流し、この直流電圧を平滑コンデンサC1,C2の一組に印可する。平滑コンデンサC1,C2は直流電圧を平滑する。なお、必ずしもダイオード整流回路1によって直流電圧が印加される必要はない。ダイオード整流回路1以外の任意の構成が採用され得る。
チョッパ回路2は平滑コンデンサC1,C2の一組に印加される直流電圧を降圧して、これを電圧形インバータ3へと出力する。より詳細には、チョッパ回路2は、スイッチング素子S1,S2とリアクトルL1,L2とダイオードD1,D3,D4とを備えている。ダイオードD1はそのアノードを電源線LLに向けて電源線LH,LLの間に設けられる。
スイッチング素子S1は電源線LH上に設けられ、ダイオードD1に対して電圧形インバータ3とは反対側に配置される。スイッチング素子S2は電源線LL上に設けられ、ダイオードD1に対して電圧形インバータ3とは反対側に配置される。スイッチング素子S1,S2は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、MOS電界効果トランジスタなどである。
リアクトルL1は電源線LH上に設けられ、ダイオードD1に対して電圧形インバータ3側に配置される。リアクトルL2は電源線LL上に設けられ、ダイオードD1に対して電圧形インバータ3側に配置される。
ダイオードD3はスイッチング素子S1とリアクトルL1との一組と並列に接続され、そのアノードを電圧形インバータ3側に向けて設けられる。ダイオードD4はスイッチング素子S2とリアクトルL2との一組に対して並列に接続され、そのカソードを電圧形インバータ3側に向けて設けられる。
また図1の例示では、リアクトルL1,L2に対して電圧形インバータ3側において、互いに直列に接続される一対のコンデンサC3,C4が電源線LH,LLの間に設けられている。これらのコンデンサC3,C4は必須要件ではないものの、スナバコンデンサの役割を果たすことに加えて、電圧形インバータ3が出力する電流の高調波成分を低減することができる。なお高調波成分の低減という観点では、一対のコンデンサC3,C4を設ける必要はなく、例えば一つのコンデンサを設けても良い。ただし、本第1の実施の形態ではコモンモード電圧Vcom1を図示すべく、一対のコンデンサC3,C4が図示されている。コンデンサC3,C4を設けない態様であれば、コンデンサC3,C4は仮想的なコンデンサと把握することができる。コモンモード電圧Vcom1については後に詳述する。
電圧形インバータ3はチョッパ回路2からの直流電流を交流電流に変換し、これを誘導性負荷4へと出力する。誘導性負荷4は例えばモータであって、当該交流電流に応じて回転する。なお電圧形インバータ3は公知な回路であるので詳細な説明は省略するものの、簡単にその構成の一例について説明する。電圧形インバータ3は、電源線LH,LLの間で互いに直列に接続される一対のスイッチング部を有している。一対のスイッチング部の間の接続点が電圧形インバータ3の出力端として機能する。図1の例示では、電圧形インバータ3から3つの出力線が引き出されているので、電圧形インバータ3は一対のスイッチング部を3つ有する。またスイッチング部の各々は、スイッチング素子と、当該スイッチング素子と並列に接続されるダイオードとを備えている。ダイオードはそのアノードを電源線LL側に向けて設けられる。当該ダイオードは誘導性負荷4から回生される電流をチョッパ回路2側に流すことができる。
上述のように、電圧形インバータ3は、チョッパ回路2から定電流を入力して電流形インバータとして機能するので、そのスイッチング動作は電流形インバータと同様の制御を受ける。かかる制御については公知の技術であるのでここでは詳細を割愛するが、特許文献1で例示されるように一相の上アーム側スイッチング素子と、他の一相の下アーム側スイッチング素子のみが導通する。
<チョッパ回路2の動作>
スイッチング素子S1,S2はスイッチング制御部50によって制御される(図2も参照)。スイッチング制御部50は、スイッチング素子S1,S2の導通期間の少なくとも一部が互いに重なり且つ非導通期間の少なくとも一部が互いに重なるように、その導通/非導通を繰り返し切り換える。理想的には、図3に例示するように、スイッチング素子S1,S2の導通期間が互いに一致し、それらの非導通期間が互いに一致するように、スイッチング素子S1,S2が制御される。第1の実施の形態では、簡単のために、これらの期間は互いに一致すると仮定する。
図2の例示では、スイッチング制御部50はスイッチング素子S1,S2についてのスイッチング信号Scを生成し、これを駆動回路61,62へと出力する。駆動回路61,62は、受け取ったスイッチング信号Scに基づいてスイッチング素子S1,S2へと制御電圧を印可する。ここでいう制御電圧とは、スイッチング素子S1,S2が有する制御電極(例えばゲート電極又はドレイン電極など)に印加される電圧である。スイッチング素子S1,S2は印加された制御電圧に基づいて導通/非導通する。
なお図2の例示では、スイッチング制御部50は駆動回路61,62に共通のスイッチング信号Scを生成しているが、駆動回路61,62の各々に応じたスイッチング信号Sc1,Sc2を生成しても良い。この態様の一例については第3及び4の実施の形態で述べる。図2のスイッチング制御部50の詳細な構成の一例についても後述する。
またここでは、スイッチング制御部50はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、スイッチング制御部50はこれに限らず、スイッチング制御部50によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
以下では上述したスイッチング素子S1,S2の制御によってチョッパ回路2に流れる電流と、コモンモード電圧について説明する。
<力行運転時>
まず電圧形インバータ3から誘導性負荷4へと電力が供給される場合について説明する。なお誘導性負荷4がモータであれば、このときモータはいわゆる力行運転を行う。
スイッチング素子S1,S2の両方が導通しているときには、図4に示すように、電流経路A1を電流が流れる。即ち、電流はスイッチング素子S1とリアクトルL1とを経由して電圧形インバータ3へと流れ、また電圧形インバータ3からリアクトルL2とスイッチング素子S2とを経由して流れる。このときリアクトルL1,L2には電磁エネルギーが蓄積される。また図3に例示するように、このときリアクトルL1,L2を流れる電流は時間の経過と共に増大する。
この状態では、リアクトルL1にはスイッチング素子S1側を高電位とする誘起電圧VL1が生じ、リアクトルL2には電圧形インバータ3側を高電位とする誘起電圧VL2が生じる。よって、チョッパ回路2から出力される直流電圧は、チョッパ回路2に入力される直流電圧よりも小さい。
一方、スイッチング素子S1,S2が非導通しているときには、図5に例示するように、電流経路A2に電流が流れる。この電流はリアクトルL1,L2に生じる誘起電圧VL1,VL2に起因して流れるものであり、ダイオードD1及びリアクトルL1を経由して電圧形インバータ3へと流れ、電圧形インバータ3からリアクトルL2を経由してダイオードD1へと流れる。このときリアクトルL1,L2を流れる電流は時間の経過と共に減少する(図3も参照)。
かかる制御によれば、図3に例示するように、リアクトルL1,L2を流れる電流が所定の範囲内に収められる。よって、電圧形インバータ3に入力される電流も所定の範囲内に収められる。これによって、電圧形インバータ3の出力電圧及び出力電流は、電流形インバータのものとほぼ等価となる。したがって、電圧形インバータ3を擬似的に電流形インバータとして機能させることができる。
<コモンモード電圧>
ここで力行運転時におけるコモンモード電圧Vcom1について説明する。コモンモード電圧Vcom1は電圧形インバータ3に入力される直流電圧についてのコモンモード電圧であり、当該直流電圧の半値(電圧VC3)を、基準電圧に基づいて換算した値である。コモンモード電圧Vcom1の基準となる電位としては、一例として、平滑コンデンサC1,C2の直列接続の両端電圧の中間値を採用する。図1の例示では、静電容量が互いに等しい平滑コンデンサC1,C2の間の電位を接地することによって、コモンモード電圧Vcom1の基準電位が接地電位であることを模式的に示している。なお、基準電位として、例えばダイオード整流回路1に入力される交流電源の中性点の電位を採用してもよい。
スイッチング素子S1,S2が導通している状態では上述したように、電流経路A1に電流が流れる(図4参照)。この電流経路A1においては、電源線LH側に存在する各要素と、電源線LL側に存在する各要素とは、互いに同じ要素である。したがって、以下で詳述するようにコモンモード電圧Vcom1を低減できる。
即ち、図6を参照して、電圧形インバータ3に入力される直流電圧の高電位Vh2は、平滑コンデンサC1の電源線LH側の高電位Vh1からスイッチング素子S1の電圧VSon1とリアクトルL1の電圧VL1とを減算した値である。一方、当該直流電圧の低電位Vl2は平滑コンデンサC2の電源線LL側の低電位Vl1にスイッチング素子S2の電圧VSon2とリアクトルL2の電圧VL2とを加算した値である。よって、電位Vh2は電位Vh1よりも低く、電位Vl2は電位Vl1よりも高い。この電位Vh2の低減と電位Vl2の増大とによって、直流電圧が降圧される。
一方、従来では図31から理解できるように平滑コンデンサC12の低電位Vl11と、電圧形インバータに入力される直流電圧の低電位Vl12とは等しい。一方、電圧形インバータに入力される高電位Vh12が平滑コンデンサC11の高電位Vh11よりも低い。この電位Vh12の低減によって、直流電圧が降圧される。
以上のように本電力変換装置においては電位Vh2が低減し電位Vl2が増大するのに対して、従来においては電位Vh12が低減するのみである。したがって、電位Vh2,Vl2の平均値たるコモンモード電圧Vcom1の絶対値を、電位Vh12,Vl12の平均値たるコモンモード電圧Vcom11の絶対値に比べて低減することができる。
また図6から理解できるように、電圧VSon1,VSon2が互いに等しく、電圧VL1,VL2が互いに等しければ、理想的にはコモンモード電圧Vcom1は零である。よってスイッチング素子S1,S2は互いに同じ特性を有し、リアクトルL1,L2は互いに同じ特性を有することが望ましい。
また電圧形インバータ3が出力する交流電圧のコモンモード電圧Vcomは、入力される直流電圧のコモンモード電圧Vcom1が重畳される。よって、コモンモード電圧Vcom1の絶対値の低減に伴って、コモンモード電圧Vcomの絶対値も低減することができる。例えば誘導性負荷4がモータである場合には、コモンモード電圧Vcomの低減によってモータの軸受に生じる電食を低減することができる。
次に、スイッチング素子S1,S2が非導通する状態でのコモンモード電圧Vcom1について説明する。このとき図5に例示するように電流経路A2に電流が流れる。よってコンデンサC3,C4は平滑コンデンサC1,C2とは電気的に絶縁されることとなる(いわゆる浮いた状態となる)。この状態では、外部から電位を動かす要因がなくなるので、コモンモード電圧Vcom11は維持される。
なお、仮に外部から電位が動かす要因があった場合、コモンモード電圧Vcom1の絶対値は増大し得る。しかしながら、本電力変換装置によれば、少なくともスイッチング素子S1,S2が導通している状態でコモンモード電圧Vcom1を低減することができる。
<回生運転時>
次に、誘導性負荷4から電力が回生される場合について説明する。なお誘導性負荷4がモータであれば、このときモータはいわゆる回生運転を行う。
回生運転時のスイッチング素子S1,S2の制御も上述したとおりである。ただし、スイッチング素子S1,S2の導通/非導通によらず、電圧形インバータ3からの回生電流は図7に示すように電流経路A3を流れる。これは、コンデンサC3,C4の静電容量が平滑コンデンサC1,C2の静電容量に比べて小さいからである。即ち、回生電流は、ダイオードD3を経由して平滑コンデンサC1へと流れ、その後、平滑コンデンサC1,C2とダイオードD4を経由して電圧形インバータ3へと流れる。よって、この場合、電圧形インバータ3は、ダイオードD3,D4を経由して平滑コンデンサC1,C2と電気的に接続される。したがって、電圧形インバータ3に入力される電圧が平滑コンデンサC1,C2の一組の両端電圧とほぼ等しくなる。よって、電圧形インバータ3の出力電圧および出力電流は、電圧形インバータのそれと等しくなる。
なお、回生電流が流れているときにはリアクトルL1,L2から電圧形インバータ3へと電流は流れない。よって、リアクトルL1,L2を流れる電流は例えば電流経路A4を流れる。
以上の通り、ダイオードD3,D4によって電圧形インバータ3からの回生電流を平滑コンデンサC1,C2に流すことができ、さらにリアクトルL1,L2からの電流も平滑コンデンサC1,C2に流すことができる。
<コモンモード電圧>
電流経路A3においても、電源線LH側に存在する要素(ダイオードD3)と、電源線LL側に存在する要素(ダイオードD4)とは、互いに同じ要素である。したがって図8に示すように、回生電流が流れているときにも、コモンモード電圧Vcom1の絶対値は小さい。なお、図8においてダイオードD3,D4の順方向電圧が電圧Vf3,Vf4として示されている。電圧Vf3,Vf4が互いに等しければ、コモンモード電圧Vcom1は理想的には零である。よってダイオードD3,D4の順方向電圧特性は互いに等しいことが望ましい。
<スイッチング制御部50の詳細な構成の一例>
次に、上述の制御を実現するスイッチング制御部50の具体的な構成の一例について、図2を参照して説明する。スイッチング制御部50は電流制御器52とPWM部53とを備えている。電流制御器52にはリアクトルL1を流れる電流i1またはリアクトルL2を流れる電流i2が入力される。リアクトルL1,L2を流れる電流i1,i2はそれぞれ電流検出部21,22によって検出される(図1も参照)。なお、電流検出部21,22の両方が設けられる必要はなく、何れか一方が設けられていればよい。また、電流検出値として,i1とi2の平均値を用いてもよい。以下では、電流制御器52には電流検出部21によって検出された電流i1が入力されると仮定して説明する。
また電流制御器52には電流指令値i*も入力される。電流指令値i*は電流i1についての指令値である。電流指令値i*は予め定められた一定値であってもよく、後述のように可変であっても良い。電流制御器52は例えば電流指令値i*と電流i1との偏差に基づくP制御、PI制御またはPID制御を用いて、電圧指令値v*を算出し、これをPWM部53に出力する。
図2の例示ではPWM部53には、チョッパ回路2に入力される直流電圧(平滑コンデンサC1,C2の電圧VC1,VC2の和)も入力される。電圧VC1,VC2は電圧検出部23,24によって検出され、その和がPWM部53に入力される(図1も参照)。PWM部53は電圧VC1,VC2の和と電圧指令値v*とに基づいてスイッチング信号Scを生成する。例えばPWM部53はPWM(Pulse Width Modulation)方式を用いてスイッチング信号Scを生成する。PWM部53は電圧指令値v*を電圧VC1,VC2の和で除算した値が大きいほど、スイッチング素子S1,S2の導通期間が長くなるスイッチング信号Scを出力する。
なお、PWM部53には必ずしも電圧VC1,VC2の和が入力される必要はなく、例えば電圧指令値V*に基づいてスイッチング信号Scを生成しても良い。PWM部53は例えば電圧指令値v*が大きいほどスイッチング素子S1,S2の導通期間を長くするスイッチング信号Scを出力する。
また図2の例示では、電流指令値i*は速度制御器51によって生成されている。速度制御器51は、外部から入力される速度指令値ω*と、検出したモータ4の回転速度ωとに基づいて生成される。なおモータ4の回転速度ωは回転速度検出部26によって検出される(図1も参照)。回転速度検出部26は、例えばモータ4の近傍に配置されて回転速度を検出してもよく、或いは例えばモータ4に流れる電流を検出し、この電流に基づいて回転速度を推定してもよい。速度制御器51は例えば回転速度ωと速度指令値ω*との偏差に基づくP制御、PI制御又はPID制御を用いて電流指令値i*を算出する。
第2の実施の形態.
図9に示す電力変換装置は、図1の電力変換装置と比較して、ダイオードD2を更に備えている。ダイオードD2は電源線LH,LLの間でダイオードD1と直列に接続されている。ダイオードD2はそのアノードを電源線LL側に向けて設けられる。また平滑コンデンサC1,C2を接続する接続点と、ダイオードD1,D2を接続する接続点とが互いに接続されている。
本電力変換装置において、スイッチング素子S1,S2が導通するときに流れる電流については図4と同様である。よって図6に示すように、このときコモンモード電圧Vcom1の絶対値を低減することができる。
またスイッチング素子S1,S2が非導通しているときには、図10に示すように、電流経路A5に電流が流れる。電流経路A5は電流経路A2と同様であるので詳細な説明は省略する。
さて、本電力変換装置においては、平滑コンデンサC1,C2の間の点とダイオードD1,D2の間の点とが互いに接続されるので、ダイオードD1,D2の間の点の電位は零(基準電位)である。そして、電流経路A5のうち、ダイオードD1,D2の間の点とコンデンサC3,C4の間の点とを結ぶ、電源線LH側の経路上に存在する各要素と、電源線LL側の経路上に存在する各要素とは、互いに同じである。したがって、図11に示すように、コモンモード電圧Vcom1の絶対値を低減することができる。
以上のように、本電力変換装置によれば、スイッチング素子S1,S2の両方が導通する場合にも、スイッチング素子S1,S2の両方が非導通する場合にも、コモンモード電圧Vcom1の絶対値をより確実に低減することができる。
<スイッチング素子S1,S2の耐電圧>
しかも図9の電力変換装置によれば、図1の電力変換装置に比してスイッチング素子S1,S2の耐電圧を低減することができる。以下に詳細に説明する。
上述の例ではスイッチング素子S1,S2が同じタイミングで導通し、同じタイミングで非導通すると仮定したが、実際にはスイッチング素子S1,S2の導通/非導通のタイミングは相違し得る。これにより、例えばスイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通し得る。このときスイッチング素子S1には平滑コンデンサC1,C2の直列接続の両端電圧とほぼ等しい電圧が印加される。これは、次の理由による。即ち、スイッチング素子S1が非導通に切り替われば電流経路A2に電流が流れ始める(図5も参照)ので、ダイオードD1の電圧Vf1も小さい。一方、スイッチング素子S2が導通するので、スイッチング素子S2の電圧も小さい。よって、スイッチング素子S1には、平滑コンデンサC1,C2の直列接続の両端電圧とほぼ等しい電圧が印加される。
一方、図9の電力変換装置においては、スイッチング素子S1が非導通し、スイッチング素子S2が導通した場合には、平滑コンデンサC2、ダイオードD1、リアクトルL1,L2を経由して電圧形インバータ3に電流が流れる。ダイオードD1が導通するので、スイッチング素子S1には平滑コンデンサC1の両端電圧が印加される。したがって、図1の電力変換装置に比べてスイッチング素子S1に印加される電圧を低減することができ、低い耐電圧特性を有するスイッチング素子をスイッチング素子S1に採用することができる。スイッチング素子S2についても同様である。
第3の実施の形態.
図12には、スイッチング素子S1,S2のターンオンのタイミング(以下、導通タイミングと呼ぶ)が互いに相違し、ターンオフのタイミング(以下、非導通タイミングと呼ぶ)が互いに相違した場合のタイミングチャートの一例を示している。図12の例示ではスイッチング信号Scが非活性から活性へと遷移すると、期間t1遅れてスイッチング素子S1が導通し、期間t2遅れてスイッチング素子S2が導通する。期間t1,t2はスイッチング素子S1,S2についてのターンオン遅れ期間であり、図12の例示では期間t1は期間t2よりも短い。また、スイッチング信号Scが活性から非活性へと遷移すると、期間t3遅れてスイッチング素子S1が非導通し、期間t4遅れてスイッチング素子S2が非導通している。期間t3,t4はスイッチング素子S1,S2についてのターンオフ遅れ期間であり、図12の例示では期間t3は期間t4よりも長い。
よって、図12の例示では、スイッチング素子S1が導通し、スイッチング素子S2が非導通する期間が存在する。これらの期間においては図13に例示するように電流経路A6を電流が流れる。電流経路A6のうち、基準電位とコンデンサC3,C4の間とを結ぶ、電源線LH側の経路に存在する各要素と、電源線LL側の経路に存在する各要素とが異なっている。したがって、これらの期間においては、図12に例示するように、コモンモード電圧Vcom1が比較的高い値を採る。
なお、第2の実施の形態において、ダイオードD1,D2の間の点と、コンデンサC3,C4の間の点とが接続されていてもよい(図13の破線参照)。この場合であってもコモンモード電圧Vcom1は変動する。この点について以下に説明する。スイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通すれば、平滑コンデンサC1、スイッチング素子S1、リアクトルL1及びコンデンサC3からなる閉回路に電流が流れる(図13の電流経路A7参照)。この場合、コンデンサC3の電圧がコンデンサC4の電圧よりも高くなる。よって、電圧形インバータ3に入力される直流電圧の高電位と低電位との平均値たるコモンモード電圧Vcom1は、コンデンサC3の電圧の増大に応じて高くなる。より詳細にはコモンモード電圧Vcom1はコンデンサC3の電圧の上昇分の半値である。なおこの場合、コモンモード電圧Vcom1はコンデンサC3,C4の間の電位とは異なり、図示とは相違する。
そこで、第3の実施の形態では、これらのコモンモード電圧Vcom1も低減することを目的とする。ここでは、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングが一致し、スイッチング素子S1,S2の非導通タイミングが一致すれば、コモンモード電圧Vcom1を低減できることに着目する。
第3の実施の形態にかかる電力変換装置の構成は、第1及び第2の実施の形態にかかる電力変換装置と同様であるので、詳細な説明は省略する。ただし、スイッチング制御部50の機能が第1及び第2の実施の形態と相違する。図14のスイッチング制御部50は、図2のスイッチング制御部50と比較して、タイミング調整部54,55を更に備えている。タイミング調整部54,55の各々はスイッチング素子S1,S2についてのターンオン遅れ情報とターンオフ遅れ情報とを受け取る。例えば予め当該ターンオン遅れ情報と当該ターンオフ遅れ情報とが所定の記録媒体(不図示)に格納され、タイミング調整部54,55が当該記録媒体からターンオン遅れ情報とターンオフ遅れ情報とを取得する。
またタイミング調整部54,55にはPWM部53からのスイッチング信号Scが入力される。タイミング調整部54,55は、スイッチング素子S1,S2のターンオン遅れ情報に基づいてスイッチング信号Scの活性/非活性の切替のタイミングを調整する。そしてタイミング調整部54,55は得られたスイッチング信号Sc1,Sc2を駆動回路61,62に出力してスイッチング素子S1,S2の導通タイミングの差を低減する。
より具体的には、タイミング調整部54,55はスイッチング信号Scに基づくスイッチング素子S1,S2の導通タイミングのどちらか遅いかを判断し、より早く導通するスイッチング素子の導通タイミングを遅らせる。
例えばタイミング調整部54,55はスイッチング素子S1,S2のターンオン遅れ期間t1,t2の差ts1を算出する。例えばターン遅れ期間t1からターンオン遅れ期間t2を減算して差ts1を算出する。そして、当該差ts1が負の値を有しているときに、タイミング調整部54はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを差ts1の絶対値だけ遅らせてスイッチング信号Sc1として出力する(図15も参照)。これによって、スイッチング素子S1の導通タイミングが差ts1の絶対値の分、遅れる。なお比較のために、図15には図12におけるスイッチング素子S1,S2の導通/非導通が二点差線で示されている。
またこのとき、タイミング調整部55はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを変更せずにスイッチング信号Sc2として出力する。これによって、スイッチング素子S2の導通タイミングは変わらない。
このような制御によって、図15に示すように、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングを一致させることができる。したがって、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングが異なることに起因するコモンモード電圧Vcom1の絶対値の増大を低減できる。
また差ts1が正の値を有しているときには、タイミング調整部54はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを変更せずにスイッチング信号Sc1として出力し、タイミング調整部55はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを差ts1の絶対値だけ遅らせてスイッチング信号Sc2として出力する。これによって、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングを一致させることができる。
なおスイッチング素子S1,S2の導通タイミングの両方を遅らせても良い。この場合、より短いターンオン遅れ期間を有する一方のスイッチング素子の導通タイミングをより遅らせて、他方のスイッチング素子の導通タイミングに近づければよい。
またタイミング調整部54,55は、スイッチング素子S1,S2のターンオフ遅れ情報に基づいてスイッチング信号Scの活性/非活性の切替のタイミングを調整する。そしてタイミング調整部54,55は得られたスイッチング信号Sc1,Sc2を駆動回路61,62に出力してスイッチング素子S1,S2の非導通タイミングの差を低減する。
より具体的は、タイミング調整部54,55はスイッチング信号Scに基づくスイッチング素子S1,S2の非導通タイミングのどちらか遅いかを判断し、より早く非導通するスイッチング素子の非導通タイミングを遅らせる。
例えばタイミング調整部54,55はスイッチング素子S1,S2のターンオフ遅れ期間t3,t4の差ts2を算出する。例えばスイッチング素子S1のターンオフ遅れ期間t3からスイッチング素子S2のターンオフ遅れ期間t4を減算する。そして、当該差ts2が正の値を有しているときに、タイミング調整部54はスイッチング信号Scの非活性への遷移タイミングを変更せずにスイッチング信号Sc1として出力する。またこのとき、タイミング調整部55はスイッチング信号Scの非活性への遷移タイミングを差ts2の絶対値だけ遅らせてスイッチング信号Sc2として出力する。これによって、スイッチング素子S1の非導通タイミングが差ts2の絶対値の分、遅れる。したがって、図15に示すように、スイッチング素子S1,S2の非導通タイミングを一致させることができる。よって、スイッチング素子S1,S2の非導通タイミングが異なることに起因するコモンモード電圧Vcom1を低減できる。
また差ts1が負の値を有しているときには、タイミング調整部54はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを差ts1の絶対値だけ遅らせてスイッチング信号Sc1として出力し、タイミング調整部55はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミングを変更せずにスイッチング信号Sc2として出力する。これによって、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングを一致させることができる。
なおスイッチング素子S1,S2の非導通タイミングの両方を遅らせても良い。この場合、より短いターンオフ遅れを有するスイッチング素子の非導通タイミングをより遅らせればよい。
またスイッチング素子S1,S2の導通タイミングと、非導通タイミングとの両方を調整する必要はなく、少なくとも何れか一方を調整すればよい。言い換えれば、タイミング調整部54,55はスイッチング信号Scの活性への遷移タイミング及び非活性への遷移タイミングの両方を調整する必要はなく、少なくとも何れか一方を調整すればよい。
なお、第3の実施の形態においては、スイッチング信号Scはそのままスイッチング素子S1,S2についてのスイッチング信号として機能するわけではないので、スイッチング信号Sc1,Sc2を生成する基礎となる仮スイッチング信号と把握することができる。同様にPWM部53は仮スイッチング信号生成部と把握できる。
第4の実施の形態.
第4の実施の形態における電力変換装置の概念的な構成は第2の実施の形態と同様である。なお、ダイオードD1,D2の間の点と、コンデンサC3,C4の間の点とが接続されていても良い。第2の実施の形態では、平滑コンデンサC1,C2の電圧は互いに等しいとして説明したが、実際にはこれらは互いに相違し得る。これは、例えば平滑コンデンサC1,C2の静電容量の相違等に起因する。
そこで、第4の実施の形態においては平滑コンデンサC1,C2の各々の電圧VC1,VC2を均一化することを目的とする。
ここでは、次の点について着目する。即ち、スイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間においては、図13に示すように、平滑コンデンサC1が放電する。よってこのとき平滑コンデンサC1の電圧VC1は低減する。逆に、スイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通する期間においては、平滑コンデンサC2が放電する。よってこのとき平滑コンデンサC2の電圧VC2は低減する。よって、スイッチング素子S1,S2の導通タイミングを互いに異ならせる若しくは非導通タイミングを互いに異ならせれば、平滑コンデンサC1,C2の電圧VC1,VC2を調整することができる。以下、詳細に説明する。
図9を参照して、本電力変換装置は電圧検出部23,24を備える。電圧検出部23,24は平滑コンデンサC1,C2の電圧VC1,VC2を検出する。スイッチング制御部50は検出された電圧VC1,VC2を受け取り、電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときにはスイッチング素子S1の導通期間を拡大し、若しくはスイッチング素子S2の非導通期間を縮小する。
図16の例示では、スイッチング素子S1の導通期間が拡大される。なお図16では比較のために、拡大前のスイッチング素子S1の導通/非導通が破線で示されている。この点は後に参照する図面においても同様である。図16の例示では、スイッチング素子S1の導通期間の拡大によって、スイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間が新たに生じる。即ち、スイッチング素子S1の導通期間の拡大によって電圧VC1が低減する期間が新たに生じる。したがって、電圧VC1,VC2の差を低減できる。
図17の例示では、スイッチング素子S1の導通期間の拡大によって、スイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間が拡大している。よって電圧VC1が低減する期間が拡大するので、電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
図18の例示では、スイッチング素子S1の導通期間の拡大によって、スイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通する期間が縮小している。よって電圧VC2が低減する期間が縮小するので、電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
なおスイッチング素子S2の導通期間を縮小することによっても、スイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間が新たに生じ若しくは拡大し、又はスイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通する期間が縮小するので、電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
またスイッチング素子S1の導通期間の拡大期間およびスイッチング素子S2の導通期間の縮小期間は、電圧VC1,VC2の差の絶対値が大きいほど、長いことが望ましい。これによって、早期に電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、上述の制御と逆の制御を行えばよい。即ち、スイッチング制御部50は、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときに、スイッチング素子S1の導通期間を縮小し、又はスイッチング素子S2の導通期間を拡大する。このような導通期間の調整によって、スイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通する期間が新たに生じ若しくは拡大し、又はスイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間が縮小する。スイッチング素子S1が非導通しスイッチング素子S2が導通する期間が新たに生じ若しくは拡大すれば、電圧VC2が低減する期間が新たに生じ若しくは拡大する。またスイッチング素子S1が導通しスイッチング素子S2が非導通する期間が縮小すれば、電圧VC1が低減する期間が縮小する。したがって、電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
スイッチング素子S1の導通期間の縮小期間およびスイッチング素子S2の導通期間の拡大期間は、電圧VC1,VC2の差の絶対値が大きいほど、長いことが望ましい。これによって、早期に電圧VC1,VC2の差を低減することができる。
なお、図16から図18の例示では、スイッチング素子S1の導通期間を調整するに際して、スイッチング素子S1の導通タイミング及び非導通タイミングの両方を調整している。ただし、これに限らず、スイッチング素子S1,S2の導通期間を調整するに際して、スイッチング素子S1,S2の導通タイミング及び非導通タイミングの何れか一方のみを調整してもよい。
また図19に例示するように、スイッチング制御部50は、スイッチング素子S1,S2のスイッチング周期Tの複数(図19の例では3)のうち1つの周期のみにおいて、調整を行っても良い。これによって、調整回数を低減することができる。
ここでスイッチング素子S1,S2の導通期間及び非導通期間が一致する場合について考慮する。このとき、たとえ電圧VC1,VC2に差が生じていたとしても、第3の実施の形態で説明したようにコモンモード電圧Vcom1は小さい。そして、この電圧VC1,VC2の差を低減すべくスイッチング周期ごとにスイッチング素子S1,S2の導通期間を調整すれば、第3の実施の形態で説明したように、スイッチング周期毎にコモンモード電圧Vcom1が高く若しくは低くなる調整期間が存在する。本スイッチング制御部50の動作によれば調整回数を低減できるので、コモンモード電圧Vcom1の発生回数を低減することができる。言い換えれば、コモンモード電圧Vcom1の高調波成分を低減することができ、ひいてはコモンモード電圧Vcomの高調波成分を低減できる。なお、誘導性負荷4がモータである場合には、コモンモード電圧Vcomの高調波の低減によってモータに生じる電食を低減することができる。
以下では、スイッチング制御部50の具体的な構成の例について説明する。図20の例示では、スイッチング制御部50は、図2のスイッチング制御部50と比較して、パルス調整部56a,56bとコンデンサ電圧制御パルス生成部58とを更に備えている。
コンデンサ電圧制御パルス生成部58には電圧VC1,VC2が入力される。コンデンサ電圧制御パルス生成部58は電圧VC1,VC2の差に基づいてパルスを生成し、これをパルス調整部56a,56bに出力する。パルスの高さは、予め定められた一定値であっても良く、電圧VC1,VC2の差の絶対値が大きいほど高くてもよい。さらにコンデンサ電圧制御パルス生成部58は電圧VC1,VC2の大小関係をパルス調整部56a,56bに出力する。
パルス調整部56a,56bにはPWM部53からのスイッチング信号Scも入力される。パルス調整部56a,56bは電圧VC1,VC2の大小関係とパルスとに基づいて、上述のようにスイッチング信号Scの活性/非活性のタイミングを調整し、調整後のスイッチング信号Scをそれぞれスイッチング信号Sc1,Sc2として駆動回路61,62に出力する。これによって、上述の制御を実現できる。
なお、パルス調整部56a,56bはスイッチング周期の複数のうち1周期においてのみスイッチング信号Scの活性/非活性のタイミングを調整してスイッチング信号Sc1,Sc2を出力しても良い。そして、その他の周期においては、スイッチング信号Scをそのままスイッチング信号Sc1,Sc2として出力する。これは例えば次のように実現される。即ち、パルス調整部56a,56bはスイッチング信号Scの立ち上がり若しくは立ち下がりのエッジを検出することでスイッチング周期を検出する。そしてエッジの検出回数をカウントし、検出回数が所定数に達したときのみパルス調整部56a,56bがスイッチング信号Scの活性/非活性のタイミングを調整し、検出回数を0に初期化する。これによって、調整回数を低減することができる。
図21の例示では、スイッチング制御部50は図2のスイッチング制御部50と比較して、次の点で相違する。即ちスイッチング制御部50は加算器57aと減算器57bとコンデンサ電圧制御パルス生成部58とを更に備え、PWM部53を2つ設けている。図21の例示ではこれらの2つのPWM部53はPWM部53a,53bとして図示されている。
コンデンサ電圧制御パルス生成部58には電圧VC1,VC2が入力される。コンデンサ電圧制御パルス生成部58は電圧VC1,VC2に基づいて、電圧指令値v*についての補正値を生成する。この補正値は電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときに正の値を有し、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときに負の値を有する。補正値の絶対値は予め定められた値であってもよく、電圧VC1,VC2の差の絶対値が大きいほど大きくても良い。
加算器57aは、電流制御器52からの電圧指令値v*と、コンデンサ電圧制御パルス生成部58からの補正値とを加算して、電圧指令値v*を補正する。例えば電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには補正値は正の値を有するので、加算器57aによって電圧指令値v*はより大きい値に補正される。逆に電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、電圧指令値v*がより小さい値に補正される。加算器57aは補正後の電圧指令値v*をPWM部53aに出力する。
PWM部53aは補正後の電圧指令値v*(或いは更に電圧VC1,VC2の和)に基づいてスイッチング信号Sc1を生成し、これを駆動回路61へと出力する。PWM部53aは電圧指令値v*が大きいほど、スイッチング素子S1の導通期間が長いスイッチング信号Sc1を出力する。よって、電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには、スイッチング素子S1の導通期間を拡大でき、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、スイッチング素子S1の導通期間を縮小できる。
減算器57bは、電流制御器52からの電圧指令値v*と、コンデンサ電圧制御パルス生成部58からの補正値とを減算して、電圧指令値v*を補正する。例えば電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには補正値は正の値を有するので、減算器57bによって電圧指令値v*はより小さい値に補正される。逆に電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、電圧指令値v*がより大きい値に補正される。減算器57bは補正後の電圧指令値v*をPWM部53bに出力する。
PWM部53bは補正後の電圧指令値v*(或いは更に電圧VC1,VC2の和)に基づいてスイッチング信号Sc2を生成し、これを駆動回路62へと出力する。PWM部53は電圧指令値v*が大きいほど、スイッチング素子S2の導通期間が長いスイッチング信号Sc2を出力する。よって、電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには、スイッチング素子S2の導通期間を縮小でき、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、スイッチング素子S2の導通期間を拡大できる。
なお、加算器57aと減算器57bとの両方が設けられている必要はなく、何れか一方のみが設けられても良い。上述のようにスイッチング素子S1,S2の導通期間の何れか一方のみを調整すれば、効果を奏するからである。また加算器57aと減算器57bとが逆に設けられても良い。この場合、コンデンサ電圧制御パルス生成部58が上述した補正値とは異なる正負を有する補正値を出力すればよい。これらの内容は後述する態様にも適用される。
さらに、コンデンサ電圧制御パルス生成部58はスイッチング周期の複数のうち1周期のみにおいて補正値を出力してもよい。スイッチング周期の検出は例えば図20で説明した方法を採用すればよい。
図22の例示では、スイッチング制御部50は図2のスイッチング制御部50と比較して、次の点で相違する。即ちスイッチング制御部50は加算器57aと減算器57bとコンデンサ電圧制御パルス生成部58とを更に備え、電流制御器52とPWM部53とを2つずつ設けている。図22の例示では2つの電流制御器52は電流制御器52a,52bとして図示され、2つのPWM部53はPWM部53a,53bとして図示されている。
コンデンサ電圧制御パルス生成部58には電圧VC1,VC2が入力される。コンデンサ電圧制御パルス生成部58は電圧VC1,VC2に基づいて、電流指令値i*についての補正値を生成する。かかる補正値は電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときに正の値を有し、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときに負の値を有する。補正値の絶対値は予め定められた値であってもよく、電圧VC1,VC2の差の絶対値が大きいほど大きくても良い。
加算器57aは、電流指令値i*と、コンデンサ電圧制御パルス生成部58からの補正値とを加算して、電流指令値i*を補正する。例えば電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには補正値は正の値を有するので、加算器57aによって電流指令値i*はより大きい値に補正される。逆に電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、電流指令値i*がより小さい値に補正される。加算器57aは補正後の電流指令値i*を電流制御器52aに出力する。
電流制御器52aは電流指令値i*と電流i1とに基づいて電圧指令値v*を生成してPWM部53aに出力する。なお電流制御器52aは電流指令値i*が大きいほど大きい電圧指令値v*を生成する。
したがって、電流指令値i*を補正することで、電流制御器52aが出力する電圧指令値v*を増大或いは低減することができる。よって、図21と同様に、電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには、スイッチング素子S1の導通期間を拡大でき、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、スイッチング素子S1の導通期間を縮小できる。
減算器57bは、電流指令値i*と、コンデンサ電圧制御パルス生成部58からの補正値とを減算して、電流指令値i*を補正する。例えば電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには補正値は正の値を有するので、減算器57bによって電流指令値i*はより小さい値に補正される。逆に電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、電流指令値i*がより大きい値に補正される。減算器57bは補正後の電流指令値i*を電流制御器52bに出力する。
電流制御器52bは電流指令値i*と電流i2とに基づいて電圧指令値v*を生成してPWM部53bに出力する。なお電流制御器52bは電流指令値i*が大きいほど大きい電圧指令値v*を生成する。
したがって、電流指令値i*を補正することで、電流制御器52bが出力する電圧指令値v*を増大或いは低減することができる。よって、図21と同様に、電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには、スイッチング素子S2の導通期間を縮小でき、電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、スイッチング素子S2の導通期間を拡大できる。
またコンデンサ電圧制御パルス生成部58は図21と同様にスイッチング周期の複数のうち1周期のみにおいて補正値を出力してもよい。
図23の例示では、スイッチング制御部50は図22のスイッチング制御部50と比較してスイッチ59を更に備えている。スイッチ59は駆動回路62の入力を、PWM部53a,53bの出力のいずれかと選択的に接続させる。スイッチ59はスイッチング周期の複数のうち1周期のみ、駆動回路62の入力とPWM部53bの出力とを接続し、他の周期においては、駆動回路62の入力とPWM部53aの出力とを接続する。
これによっても、スイッチング周期の複数のうち1周期のみにおいて、スイッチング素子S2の導通期間を、スイッチング素子S1の導通期間と異なるように調整することができる。
なお、スイッチ59は駆動回路61の入力をPWM部53a,53bの出力のいずれかと選択的に接続してもよい。
また第4の実施の形態において、第3の実施の形態を適用してもよい。例えば図20のパルス調整部56a,56bの後段、図21から図23のPWM部53a,53bの後段に、タイミング調整部54,55が設けられていても良い。
第5の実施の形態.
第5の実施の形態にかかる電力変換装置の構成は第2の実施の形態(図9)にかかる電力変換装置と同様である。ただし第5の実施の形態ではスイッチング素子S1,S2のスイッチング信号に例えば180度の位相差を設ける。
例えば図24に示すように、スイッチング素子S1のターンオンの時点から所定期間(例えば半周期)経過後にスイッチング素子S2をターンオンし、スイッチング素子S1のターンオフの時点から所定期間(例えば半周期)経過後にスイッチング素子S2をターンオフする。かかる制御はスイッチング制御部50によって実行される。図24の例示では、スイッチング素子S1,S2の導通期間は半周期よりも短い。よって、スイッチング素子S1のみが導通する期間、スイッチング素子S1,S2の両方が非導通する期間、スイッチング素子S2のみが導通する期間およびスイッチング素子S1,S2の両方が非導通する期間がこの順で現れる。
スイッチング素子S1のみが導通する期間では図13に示す電流経路A6を電流が流れる。よってこのときコモンモード電圧Vcom1は図12と同様に比較的高い値を採る。スイッチング素子S1,S2が非導通となる期間では図10のように電流経路A5を電流が流れる。よってこのときコモンモード電圧Vcom1は比較的小さい値を採り、理想的には零である。スイッチング素子S2のみが非導通となる期間では図25のように電流経路A8に電流が流れる。よってこのときコモンモード電圧Vcom1は負の値を採り、その絶対値は比較的高い値を採る。
さて電圧VC1,VC2は図30の平滑コンデンサC11,C12の一組の両端電圧よりも小さい。よって、コモンモード電圧Vcom1の絶対値の最大値はコモンモード電圧Vcomよりも小さい。言い換えれば、従来に比べてコモンモード電圧Vcom1を低減することができる。なお電圧VC1,VC2が互いに等しければ、コモンモード電圧Vcom1の絶対値の最大値はコモンモード電圧Vcomの約半分である。
以上のようにコモンモード電圧Vcom1を低減することができる。例えばモータM1をヒートポンプ用圧縮機に搭載した場合、モータM1と圧縮機ケースとの間の寄生容量を介して電流が流れ得る。このような電流はコモンモード電圧Vcom1の時間に対する変化の割合に応じた値(=C・dv/dt)を有する。よって、コモンモード電圧Vcom1の変動幅を低減できる第5の実施の形態では、このような電流を低減することができる。なお、モータM1は必ずしもヒートポンプ用圧縮機に搭載される必要はなく、モータM1から外部へと寄生容量を介して電流が流れる構造であれば、このような電流を低減することができる。
しかも第5の実施の形態によれば、インバータ3が出力する交流電圧の変動(リプル)の大きさを低減することができる。これは、簡単にいえば入力側の電圧変動が低減されるからである。以下に、ダイオードD1のカソードとダイオードD2のアノードとの間の電圧(以下、入力電圧と呼ぶ)に着目して説明する。
例えば図24の例示では、スイッチング素子S1のみが導通する期間において電流経路A6を電流が流れる(図13)。よって、入力電圧Vinは電圧VC1とほぼ等しい。スイッチング素子S1,S2の両方が非導通する期間においては電流経路A5を電流が流れる(図10)。電流経路A5ではダイオードD1,D2を電流が流れるので、入力電圧Vinはほぼ零である。スイッチング素子S2のみが導通する期間では電流経路A8を電流が流れる(図25)。したがって、入力電圧Vinは電圧VC2とほぼ等しい。
以上のように、第5の実施の形態では入力電圧Vinは電圧VC1,VC2と零とを繰り返し採る。一方で、第1の実施の形態では、ダイオードD1の両端電圧(入力電圧)は平滑コンデンサC1,C2の一組の両端電圧(電圧VC1,VC2の和)と零とを繰り返し採る。したがって従来に比べて入力電圧Vinの変動幅を低減することができる。入力電圧Vinの変動はインバータ3の交流電圧の変動として残るので、従来に比べて交流電圧の変動も低減することができる。
なお上述の例ではスイッチング素子S1,S2の導通期間が半周期よりも短い場合について説明したが、スイッチング素子S1,S2の導通期間が半周期よりも長い場合でも、同様の効果を招来する。以下に説明する。
この場合、スイッチング素子S1,S2の両方が非導通する期間に替えてスイッチング素子S1,S2の両方が導通する期間が存在する。スイッチング素子S1,S2の両方が期間においてコモンモード電圧Vcom1は理想的には零である(図4も参照)。よってこの場合であってもコモンモード電圧Vcom1の変動幅は抑制される。一方、スイッチング素子S1,S2の両方が導通する期間では入力電圧Vinは電圧VC1,VC2の和と等しい。しかるにスイッチング素子S1,S2のいずれかが導通する期間における入力電圧Vinと、スイッチング素子S1,S2の両方が導通する期間における入力電圧Vinとの差は、電圧VC1,VC2の和よりも小さい。よって、この場合であっても入力電圧Vinの変動幅を低減できる。したがって、交流電圧の変動幅を低減できる。
図26は第5の実施の形態にかかるスイッチング制御部50の内部構成の概念的な一例である。図26のスイッチング制御部50は図2のスイッチング制御部50と比較して、2つのPWM部53c,53dが設けられる。PWM部53c,53dには電圧指令値v*と電圧VC1,VC2の和とが入力される。PWM部53d,53cは例えば電圧指令値v*と電圧VC1,VC2の和との偏差に基づいてスイッチング信号Sc1,Sc2をそれぞれ生成する。ただしPWM部53dはスイッチング信号Sc1に対して所定期間(例えば半周期)ずらせたスイッチング信号Sc2を生成する。これは、例えばPWM部53cで採用されるキャリアをPWM部53dで採用されるキャリアに対して所定期間(例えば半周期)をずらすことで容易に実現可能である。
第6の実施の形態.
第6の実施の形態では、第5の実施の形態で説明した制御と同様な制御を実行しつつも、電圧VC1,VC2の差を小さくするようにスイッチング素子S1,S2の導通期間を調整する。以下より詳細に説明する。
電圧VC1が電圧VC2よりも大きいときには、スイッチング素子S1の導通期間を拡大し、又はスイッチング素子S2の導通期間を縮小する。スイッチング素子S1の導通期間が拡大すれば経路6(図13)を流れる期間、即ち平滑コンデンサC1の放電期間が拡大するので、電圧VC1は低減する。よって電圧VC1,VC2の差を低減できる。またスイッチング素子S2の導通期間を縮小すれば電流経路A8(図25)を流れる期間、即ち平滑コンデンサC2の放電期間が縮小する。したがって電圧VC2の低減が抑制される。よって電圧VC1,VC2の差を低減できる。
電圧VC1が電圧VC2よりも小さいときには、スイッチング素子S1の導通期間を縮小し、又はスイッチング素子S2の導通期間を拡大する。スイッチング素子S1の導通期間の縮小により、電圧VC1の低減を抑制できる。またスイッチング素子S2の導通期間を拡大により電圧VC2を低減できる。よって電圧VC1,VC2の差を低減できる。
しかも電圧VC1,VC2の差が小さいほど、コモンモード電圧Vcom1の絶対値の最大値を低減できるとともに、交流電圧の変動幅を低減できる。
なおスイッチング素子S1,S2の一方の導通期間の拡大幅と他方の導通期間の縮小幅は互いに等しいことが望ましい。これによって、入力電圧Vinの平均値を変えることなく、電圧VC1,VC2の差を低減できる。
この制御を実現するスイッチング制御部50は例えば図22のスイッチング制御部50を採用できる。ただし例えばPWM部53aで採用するキャリアを、PWM部53bで採用するキャリアに対して所定周期(例えば半周期)ずらす。
また第4の実施の形態と同様に、スイッチング制御部50は、スイッチング素子S1,S2のスイッチング周期Tの複数のうち1つの周期のみにおいて、スイッチング素子S1,S2の導通期間の調整を行っても良い。これによって、調整回数を低減することができる。
変形例.
図27に例示するように、リアクトルL1,L2は磁気結合していてもよい。より詳細には、リアクトルL1,L2が共通の鉄心を有していても良い。
また図28に例示するように、チョッパ回路2はいわゆるインターリーブ可能な構成を有していても良い。図28の例示では、スイッチング素子S1とリアクトルL1とダイオードD1とを有する回路の2組が設けられ、スイッチング素子S2とリアクトルL2とダイオードD2を有する回路の2組が設けられる。一方の組みに属するスイッチング素子S1及びリアクトルL1の直列接続体は他方の組みに属するスイッチング素子S1及びリアクトルL1の直列接続体と並列に接続される。同様に、一方の組みに属するスイッチング素子S2及びリアクトルL2の直列接続体は他方の組みに属するスイッチング素子S2及びリアクトルL2の直列接続体と並列に接続される。
かかる電力変換装置において、一方の組みに属するスイッチング素子S1,S2の導通タイミングよりも所定期間(例えばスイッチング周期の半周期)遅れて、他方の組みに属するスイッチング素子S1,S2を導通させることができる。このような制御がいわゆるインターリーブと呼ばれる。
図29に例示するように、電圧形インバータ3は、いわゆるNPC(Neutral-Point-Clamped)インバータであってもよい。本チョッパ回路2は電圧形インバータ3に入力される直流電圧についての中性点を取り出しやすいので、NPCインバータを採用しやすい。NPCインバータでは電源線LH,LLの間で互いに直列に接続される4つのスイッチング部が設けられるので、スイッチング部の耐電圧を低減できる。しかも、スイッチング素子にユニポーラトランジスタ(MOSFET,JFET,HEMTなど)を用いる場合,素子のオン抵抗は耐電圧の約2.5乗に比例することから、本構成によりオン損失を低減して効率を向上することができる。