JP5987335B2 - 炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プレプリグ及び成形品 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素長繊維とポリアミド樹脂からなる複合材料に関する。詳しくは、炭素長繊維と、溶融状態からの結晶化速度が特定範囲にあるポリアミド樹脂組成物からなる複合材料に関する。更に詳しくは、繊維束への樹脂含浸性がよく、高い曲げ強度と高い流動性を持ち、成形性と機械的性質に優れた構造材用複合材料に関する。
従来、電線被覆法を応用したガラス長繊維強化ポリアミド樹脂複合材料は知られていた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、従来技術では、ガラス繊維とポリアミド樹脂からなる長繊維強化ポリアミド樹脂複合材料を射出成形して成形品を得ていた。複合化するコンパウンド化工程や射出成形工程でガラス繊維の折損が著しく、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低下し、構造材としての実用性能には不満足であった。ガラス繊維の折損を抑制するために、低粘性ポリアミドと平らなガラス繊維の組み合わせについて開示されているが、構造材としての高い要求には全く未達であった(特許文献1)。
高強度・高剛性成形品を得るために、ガラス繊維より強度や弾性率の高い炭素繊維とポリアミド樹脂の複合材料も研究開発された(非特許文献2 参照)。しかし、やはりコンパウンド化工程や射出成形工程で炭素繊維が折損し、その効果は要求に大幅に未達であった。
また、強化繊維の折損を避けるために、成形時のせん断応力が低い圧縮成形についても検討された。しかし、強化繊維が長くなると繊維のからみ合いが起こり、流動性が著しく低下して、大型成形品や細いリブやボス構造を有する成形品は、欠肉が起こり良好な成形品が得られなかった。
繊維の絡み合いが起こらないように、繊維のロービングを単繊維状に開繊した後、ポリアミド樹脂を含浸して、強化繊維とポリアミド樹脂からなる一軸のテープ状プリプレグを予備成形した後、加熱圧縮成形する方法も開示された(例えば、非特許文献3参照)。しかし、一般のポリアミド樹脂の場合、繊維束への含浸性がおとり、ボイド含有が多くなり、強度や剛性が期待値とはかけ離れた複合材となり構造材の要求には未達であった。
含浸性を改善するために、低粘度のポリアミド樹脂を使用することや、樹脂温度を高めることや、含浸工程で高いせん断力を付与することが検討されたが、その効果は小さく、ボイドは抑制されず、含浸性は殆ど向上しなかった。その上、低粘度のポリアミド樹脂の使用や高せん断力により、繊維の破断し、毛羽が発生しやすく、引き抜き成形によるプリプレグが安定して生産できないとう問題があった。特に、単繊維径が細く折れやすい炭素繊維の場合、毛羽が発生しやすく、含浸性のよいプリプレグの安定生産とは両立は困難であった。
また母相となる樹脂についても検討された。ポリアミド6と芳香族ポリアミドを母相とし、重量繊維長が1mm〜15mmであるガラス繊維強化ポリアミド樹脂が特許文献2について開示されている。芳香族ポリアミドのポリアミド6より高い強度の効果により、複合材の強度が改善されることを開示している。特許文献2には、繊維長を限定する理由として、強化繊維が15mmを超えると成形性が低下するので好ましくないとしている。成形性を保持するために、繊維長を限定しており、母相の樹脂組成による成形性改善効果については全く言及していない。より細く、より弾性率が高い炭素繊維強化の場合も、成形時の流動性のための繊維長の限界はより長くなることは当業界では想定できないことであった。また脂肪族ジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド樹脂の共重合の連鎖分布制御により、半結晶化時間が調整できることは開示されている(特許文献3)。しかし、特許文献3では、繊維束への含浸性に適切な結晶化挙動については全く意図せず、検討もされていない。また、高融解熱ポリアミドと低融解熱ポリアミドと液晶樹脂と炭素繊維からなる組成物が開示されている(特許文献4)。特許文献4は、射出成形用の組成物を目的としており、プリプレグ作製に重要な繊維束への含浸性や構造材用のスタンピング成形性の改善については全く意図されておらず、検討もされていない。射出成形品において、高結晶性のポリアミド66にポリアミド6を共重合することにより、成形品のソリが改善されることは知られている。これは、到達する結晶化度を抑制したもので、繊維束への含浸性や流動性については全く想定していない。脂環族ポリアミドにポリアミド以外の結晶性樹脂を組み合わせて射出成形性を改善することが開示されている(特許文献5)。しかし、特許文献5では、ポリアミド樹脂の組み合わせによる改善は全く言及していない。また、ポリアミド樹脂とポリアミド樹脂のアロイは、微分散できるが、目的とする物性改善項目は殆ど見出せていない。改善効果として、ポリアミド6やポリアミド66にポリアミド6Tのような高融点ポリアミドの微粉末を添加して結晶核剤としての応用が開示されている(特許文献6)。また、ポリアミド6やポリアミド66のストレスクラッキング性改善として、高級脂肪族ポリアミド(特許文献7)をブレンドすることが開示されている。しかし、結晶性を制御して含浸性や流動性のような加工性を改善することについては全く意図されていない。
特開2008−163340号公報 特許第4535772号公報 特開平9−221592号公報 特開2000−313803号公報 特開2011−57975号公報 特開昭57−80448号公報 特開昭58−53949号公報
Composites,July, 150 (1973) ポリアミド樹脂ハンドブック,p204,日刊工業新聞社(昭和63年) SPI(Society of Plastics Industry) 30th 11−C (1975)
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、繊維束への樹脂含浸性がよくすることで、高い曲げ強度と高い流動性を持ち、成形性と機械的性質に優れた構造材用複合材料を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討した結果、含浸性が劣る理由は、ポリアミド樹脂の固化による溶融粘度上昇速度が速すぎることによるものであることが主要因であることが分かり、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃である炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
2.前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有する1.に記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
3.前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有する1.又は2.のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
4.前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有する1.〜2.のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
5.前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されていることを特徴とする1.〜4.のいずれか記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
6.ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃である炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
7.前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有する6.に記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
8.前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有する6.又は7.のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
9.前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有する6.〜7.のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
10.前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されている6.〜9.のいずれか記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
本発明により、繊維束へのポリアミド樹脂の含浸性が高く、繊維束中のボイドが抑制され、その効果で曲げ強度や圧縮強度が飛躍的に高く、いろいろなモードの変形を受ける構造材の要求を満たすことができる複合材料を工業的に提供することができる。
また、本発明の効果により、母相の樹脂組成物の結晶化による固化速度は、繊維束への含浸前や圧縮成形時金型内で複合材が流動充填前は遅く、その後高度の結晶化が起こることから、高い流動長と高い物性を示す複合材料が提供される。本発明が可能となった理由は、未だ明確ではないが、母相の結晶化による剛性アップが抑制されるが、炭素長繊維の効果で複合系の剛性が高く保てる効果により、離型が可能となる。樹脂の固化速度抑制と繊維補強効果の組み合わせにより、相反する特性である含浸性と離型性の両立が可能になったものと考察される。
本発明により得られた炭素長繊維強化ポリアミド樹脂複合材料を成形して得られる成形品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。
以下、本発明を詳述する。
本発明には、炭素長繊維が40〜80質量%、好ましくは45〜70質量%含有する。40質量%未満では、構造材として本発明の目的とする強度や弾性率の要求に未達となることや、結晶性が抑制された母相では離型性が劣り、このましくない。また、80質量%を超えると。含浸性や成形時の流れ性が極度に低下するので好ましくない。また炭素長繊維40〜80質量%を含有する複合材料の場合は、本発明による繊維束への樹脂含浸性や複合材の流動性の低下の抑制効果は顕著であり、本発明の効果が発揮される。本発明に使用される炭素繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない。連続繊維においても本発明の含浸性改善効果が有効である。高い機械的性質、特に高い耐衝撃性が必要な場合は、長い方が好ましく。また高い流動性が必要な場合は、短い方が好ましい。本発明の効果が特に発揮する強度と成形性の両立が必要な場合には、15mm〜70mm、好ましくは25〜50mmの炭素長繊維が使用される。
炭素繊維としては、特に製造法に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200〜300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000〜3000℃以上で焼成され炭化製造された引張り強度20t/cm以上、引張り弾性率200GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用される単繊維径は、特に制限されないが、複合化の製造ライン工程から3〜25μmが好ましく、特に4〜15μmが好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、25μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の複合材料製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、100℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが好ましい。集束フィラメント数には特に制限ないが、1000〜30000フィラメント、好ましくは、3000〜25000フィラメントが好ましい。本発明に使用される炭素繊維の集束剤は特に限定されないが、炭素繊維と母相のポリアミド樹脂に高い接着力を有するウレタン系やエポキシ系集束剤が好ましい。
本発明には、母相として、融解ピーク温度Tmと結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃、好ましくは、20〜50℃であるポリアミド樹脂組成物が使用される。その差が、20℃未満では、含浸性や流動性が小さく好ましくない。またその差が60℃を超えると固化速度が遅く、成形時の生産性が低下するので好ましくない。本発明に使用されるポリアミド樹脂は、母相の組成物として、結晶の融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度を有すれば特に限定されない。即ち、1種以上の結晶性ポリアミド樹脂または結晶性ポリアミド共重合体を含有すればよく、1種の結晶性ポリアミド樹脂や複数の結晶性ポリアミド樹脂の組み合わせ、1種以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂の組み合わせでもよい。本発明においては、20〜60質量%、好ましくは30〜55質量%のポリアミド樹脂を含有する。20質量%未満では、炭素繊維間にボイドを含みやすく好ましくない。また60質量%を超えると強度や剛性が目標とする要求に到達しないから好ましくない。
本発明における融解ピーク温度とは、示差走査熱量計(DSC)を使用し、ISO11357−3に準拠して20℃/minにて測定したピーク温度である、また結晶化ピーク温度とは、DSCを使用して前記融解ピーク温度より30℃高い温度まで加熱した後、ISO11357−3に準拠して、10℃/minで降温したときのピーク発熱温度である。複数の結晶性ポリアミド樹脂からなる場合、融解熱や結晶化熱のそれぞれの中で高い方のピーク温度から求めたTmとTcの差が、20〜60℃であればよい。
本発明に使用される結晶性ポリアミド樹脂は、特に限定されない。ISO11357−3に準拠し測定した融点が180℃〜330℃が好ましく、特に200℃〜300℃が特に好ましい。融点が180℃未満の場合、耐熱性が低いことや剛性が低いことから好ましくなく、330℃を超えると製造上好ましくない。具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9T,ポリアミド10T、ポリアミド11Tのようなホモポリマーや、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド66/10,ポリアミド66/12、ポリアミド6T/6,ポリアミド6T/66,ポリアミド6T/6I、ポリアミド66/6Iのような共重合体等があげられる。これらのポリアミド樹脂に使用される共重合成分は特に限定されない。共重合されるジアミン成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどが例示される。これらの中では、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミンが好ましい。また、共重合されるジカルボン酸成分としては、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−メチルテレフタル酸等が挙げられる。これらの中では、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸が好ましい。また6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、p−アミノメチル安息香酸などのアミノ酸や、ω―ラウロラクタムなどのラクタムなどが挙げられる。
これらの中で、好ましい結晶性ホモポリマーとしてはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6が、好ましい結晶性共重合体としては、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6、ポリアミド66/6I,ポリアミド6T/6,ポリアミド6T/66などが上げられる。特に、加工性と物性を両立するという面からポリアミド6を含むことが好ましい。共重合することにより、融点と結晶化温度は共に低下するが、同じ共重合比では結晶化温度の方の低下が大きいから、融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差は、共重合比ほぼ1に近くなるほど大きい。
本発明でいう非晶ポリアミド樹脂とは、結晶化速度が非常に遅い結晶性ポリアミド樹脂を含む。DSCを使用して溶融状態から10℃/minで冷却した場合、ヒートフローにおいて結晶化ピーク温度が検知されないか、20℃/minで昇温した場合、ヒートフローにおいて融解ピーク温度が検知されないポリアミド樹脂も非晶ポリアミド樹脂に含めている。非晶ポリアミド樹脂としては、ポリアミド(PA)6T/6I,ポリアミドMXD6/PXD6,ポリアミドNDT/NDI,ポリアミド6/66,ポリアミド6/6Iなどが上げられる。
ポリアミド樹脂の溶融状態からの降温結晶化温度は、結晶核剤効果を有する無機塩やタルクやクレイのような鉱物により高められることは知られている。一方,塩化リチウムや塩化ナトリウムのように水素結合に配位結合性を有する化合物により低下することは知られている。
本発明に使用される融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃であるポリアミド樹脂組成物は、結晶性のポリアミド樹脂に予め結晶核剤および/または水素結合への配位性を有する化合物を配合することで結晶化ピーク温度は調節される。
また本発明において、結晶性ポリアミドの結晶化速度を調節するために、他の結晶化速度の遅い結晶性ポリアミド樹脂や結晶性共重合ポリアミド、非晶性ポリアミド共重合体が使用することもできる。この場合、結晶化速度を調節するには、複数のポリアミド樹脂が溶融状態において部分的に相溶することが必要であると考察される。使用される非晶性ポリアミド共重合体は、溶融状態において部分相溶性があれば特に限定されない。非晶性ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6T/6I,ポリアミド6/66,ポリアミド6/6I、ポリアミド6I、ポリアミド6/12などが上げられる。非晶性ポリアミド共重合体としては、結晶融点を有しないので、構造材として高い機械的な耐熱性を保持するため、ガラス転移点が100℃より高い樹脂が好ましいから、ポリアミド6T/6Iのように芳香族環を含有する方が好ましい。
融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差は、ポリアミドの共重合モノマーの選択と共重合比の選択によっても調節が可能である。共重合によりポリアミドの融解ピーク温度の降下と、降温結晶化ピーク温度の降下する度合いが異なるためである。共重合は、融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差を大きくする効果がある。
2種類以上のポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂組成物は溶融加工時、一部アミド交換反応により共重合化することで、わずか融点降下を示すが、本発明の効果は、組成物の結晶化ピーク温度が、融点降下した融解ピーク温度から20〜60℃低温の範囲にあれば発揮される。
好ましいポリアミド樹脂組成としては、PA6+PA6T/6I,PA6+PANDT/NDI,PA6+PA6/66,PA6+PAMXD6,PA6+PA12,PA6+PA610などが例示される。これらの配合比を、融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差を20〜60℃になるように選択される。
本発明に使用されるポリアミド樹脂の分子量は特に限定されないが、JISK6920−2に準拠し、25℃において測定した98質量%硫酸の0.05g/l濃度における相対粘度が1.8〜2.8、好ましくは1.9〜2.65の範囲にある。やや低分子量のものが、炭素繊維への含浸性から好ましい。相対粘度が1.8未満では樹脂が脆く、本発明の効果を発揮しにくい。また2.8を超えると、溶融粘度が高くなり、炭素繊維への含浸性が低下するので好ましくない。
本発明の炭素長繊維複合材料の成形方法は限定されないが、炭素長繊維分率が高く、流動性が低いことや、成形中の炭素繊維の折損を抑制するためにスタンピング成形されることが好ましい態様である。本発明の効果を発揮するには、示差走査熱量計おける20℃/minでの昇温過程において、発現する融解ピーク温度の中で、構成するポリアミド樹脂の最も高い融点に相当する温度より、5〜50℃、好ましくは、10〜40℃高い温度に加熱した後、金型に投入し、スタンピング成形することが好ましい。5℃未満では成形品の欠肉や、炭素長繊維が成形品表面に浮き出し好ましくない。また50℃を超えると、成形品にバリの発生が著しくなり二次加工が必要になるので好ましくない。
本発明の複合材料を成形して得られる肉厚2mm以上の繊維が一軸配向した成形品の繊維軸方向の曲げ強度(UD:0度曲げ強度)は1200MPa以上,好ましくは1400MPa以上あり、かつ繊維軸に対して横方向の曲げ強度(UD:90度曲げ強度)は、100MPa以上、好ましくは120MPa以上である。また擬似等方性に構成した成形品の曲げ強度(RS:曲げ強度)は、800MPa以上、好ましくは1100MPa以上である。
本発明の樹脂組成物には、上記の必須成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤などが配合できる。
本発明の複合材料の製造法は特に限定されない。例えば、構成するポリアミド樹脂の最も高い融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーにポリアミド樹脂および/またはポリアミド樹脂共重合体を所定割合に予備混合して供給する。溶融樹脂をギアポンプの回転数にて計量して、樹脂の融点以上に温度調節された含浸用押出機の上流に供給する。一方、ロービング状の炭素繊維を拡張開繊し、含浸用押出機の下流に供給する。下流先端に開口部を絞ったスリットダイを備えた含浸用押出機中で樹脂圧により、炭素繊維ロービングに樹脂を含浸・脱泡する。下流開口部から吐出されたテープ状の炭素繊維とポリアミド樹脂からなる複合材料を冷却してかせに巻き取る。さらに、このテープ状複合材料(プレプリグ)を20mm以上にカットすることや、テープ状複合材料をカットせずに織物状に織って成形用に提供される。また押出機下流の出口ダイにロービング状炭素繊維を供給して、繊維の送り速度と樹脂の吐出量を調節して、所定の繊維含有率からなるストランド状の炭素繊維の樹脂被覆材を得る。このストランドを冷却してかせに巻き取る。このストランドを20mm以上にカットするか、あるいは織物状に織って成形用に提供される。
本発明の複合材料を、赤外線加熱や高周波加熱やハロゲン電球加熱して、樹脂を加熱溶融して、圧縮成形機にセットした、好ましくは、ポリアミド樹脂の結晶化温度より高い150〜280℃の金型に供給して、賦形冷却後脱型して構造材の部品が成形される。
本発明の複合材料から得られた成形部品は、自動車のフレーム、バンパーフェースバーサポート材、シャシーシェル、座席フレーム、サスペンジョン支持部、サンルーフフレーム、バンパービーム、2輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例 1〜10)(実施例3は参考例である)
ポリアミド樹脂を表1に示した質量部に配合し、シリンダー温度が280℃に温度調節された2軸スクリュー式押し出し機(東芝機械社製TEM35)のホッパーに投入し、溶融混練し、ノズルから押し出されたストランドを水冷後、ペレタイズして、母相となるポリアミド樹脂ペレットを得た。
得られたペレットを100℃にて17時間真空乾燥後、シリンダー温度を280℃に温度制御した2軸押し出し機(日本製鋼所製TEX30)のホッパーに投入し、溶融し、時間当たり一定質量部を押出した。一方、表1に示した炭素繊維のロービングを100質量部になる速度で拡張開繊して押出機のダイヘッドに供給した。幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを引き抜いて固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを、繊維軸を1方向に揃えて、間隔200mm,幅150mmの枷に巻き取り12層重ねた。これをIRヒータにより、280℃に予熱した後、温度200℃に温度調節された200mm×150mm×2mmの金型にセットして、5分間30MPa圧縮保持した。金型を圧縮成形機から取り出した。30分放冷後、金型を開き、厚さ約2mmの平板を得た。さらに同様に繰り返して、繊維が一軸配向した平板(UD材)を得た。
また、回転刃をセットとしたテープカッターを使用して、枷に巻き取ったテープ状プリプレグを長さ40mmにカットして短冊を得た。得られた短冊を200mm×150mm×10mmのキャビティ中にランダムに散布し、その上に195mm×145mm×6mmのステンレス板2枚を載せ、上下版共280℃に温度調節したハンドプレスにセットした。3分後から上下版の間隔を狭めていき20秒後に3MPaの圧力を2分掛けた後、キャビティにステンレス板を載荷した状態で取り出した後、表面温度が80℃になるまで放冷し、繊維が擬似等方性に配向した平板(RS材)を取り出した。
得られたUD平板とRS平板それぞれの中央部から、繊維軸方向に10mm×100mmに5本切り出し0度方向曲げ試験用テストピースを得た。また別の平板から、繊維軸と直交する方向に10mm×100mmに5本切り出し、90度曲げ試験用テストピースを得た。
(1)融解ピーク温度
上述の曲げ試験片テストピースの表層から試料10mgをDSC用サンプル容器に採取し、SEIKO INSTRUMENTS製SSC5200型DSCを使用して、ISO11357−3に準拠し、窒素40ml/min流動下で350℃まで20℃/minで昇温し、ヒートフローが最大吸熱ピークを示す温度を融解ピーク温度とした。
(2)降温結晶化ピーク温度
上述の曲げ試験片テストピースの表層から試料10mgをDSC用サンプル容器に採取し、SEIKO INSTRUMENTS製SSC5200型DSCを使用して、ISO11357−3に準拠し、窒素40ml/min流動下で350℃まで20℃/minで昇温し、350℃にて0.5分保持後、20℃/minで降温し、ヒートフローが発熱ピークを示す温度を測定し、結晶化ピーク温度とした。
(3)含浸度
上記の引く抜き成形されたプリプレグテープについて、エポキシ樹脂(シェル化学社製エポン812)で包埋した。エポキシ樹脂が硬化したあと、この上面をリファインテック社製APU138型を使用して、繊維の長さ方向からみた断面を回転砥石で研磨後、キーエンス社製ディジタルマイクロスコープVH−Z100R型を使用して、300倍にて、断面を観察した。炭素繊維束の外周を結んで求めた繊維束断面積に対する、樹脂が炭素単繊維の周囲の1/2未満である炭素繊維の外周を結んで求めたボイド断面積の和をボイド率として求めた。
(4)流動性
上記の繊維が擬似等方性に配向したRS材から直径50mm、厚さ4mmの円盤を切り出した。これを予め遠赤外線ヒータで表面を260℃まで加熱した後、表面温度を180℃に調節したヒートプレスの面盤間の中央にセットし、油圧により10MPaまで加圧して、3分保持した後、成形品を取り出した。投影機を使用して成形品の投影図得た。その投影図の面積を算定し、50mmφの面積で規格化して流動面積比から流動性を評価した。
(5)離型性 (4)にて、流動性評価として円盤を3分加圧成形した後、面盤からの剥離性から離型性を次のように評価した。◎:力を加えなくても離型、○:バーで軽く押すだけで容易に離型、△:バーでせん断力をかければ離型、×:離型困難か材料破壊
(6)曲げ特性
スタンピング成形して得られた平板から、繊維軸方向と繊維軸に垂直方向にそれぞれ切削して得た曲げテストピースを、デシケータ中で23℃にて48時間保管後、ISO178に準拠した3点曲げ試験機(オリエンテック社製テンシロン4L型)を使用して、スパン長80mm、クロスヘッド速度1mm/minによる曲げ試験を行ない、次式により、〇度方向曲げ強度を算出した。
σ=3PL/ 2bd2
ここで、σ:曲げ強度(MPa)、L:スパン長(m)、b:幅(m)、d:厚さ(m)、P:最大荷重(N)
(比較例1〜8)
ポリアミド樹脂の種類と配合比および繊維含有率を表2のように変更した以外は、表2に示した実施例と全く同様にプリプレグを作製した後、RS板とテストピースを成形した。

実施例と全く同様に、プリプレグテープ断面のボイド率、RS板の流動面積比、0度方向曲げ強度と90度方向曲げ強度を測定した。得られた試験データを表2に合わせて示した。
実験に使用した原料と記号(下記割合はモル単位での割合をさす)
PA−A:PA6(東洋紡績製、相対粘度2.5)
PA−B:PA6T/6I=50/50(東洋紡績製試作品、相対粘度2.8)
PA−C:PAMXD6(東洋紡績製、相対粘度2.2)
PA−D:PANDT/NDI= 60/40 (東洋紡績製試作品、相対粘度2.6)
PA−E:PA6/66=95/5(東洋紡績製、相対粘度2.5)
PA−F:PA66/6=85/15,(東洋紡績製試作品、相対粘度2.6)
PA−G:PA66(東洋紡績製、相対粘度2.8)
CF(炭素繊維):帝人社製東邦テナックス IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
本発明の効果により、母相の樹脂組成物の結晶化による固化速度は、繊維束への含浸前や圧縮成形時金型内で複合材が流動充填前は遅く、その後高度の結晶化が起こるから、高い流動長と高い物性を有する複合材料が提供される。自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。

Claims (8)

  1. ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
  2. 前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
  3. ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃であり、前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする炭繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
  4. 前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
  5. ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
  6. 前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする請求項5に記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
  7. ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40〜80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20〜60℃であり、前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする炭繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
  8. 前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されていることを特徴とする請求項のいずれか記載の炭素繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
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