JP5975590B2 - アントラセン誘導体の合成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アントラセン誘導体の合成方法に関する。
近年、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を利用した発光素子の研究開発が盛んに行われている。これらの発光素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の物質を含む層を挟んだものである。この素子に電圧を印加することにより、発光性の物質からの発光を得ることができる。
このような発光素子は自発光型であるため、液晶ディスプレイに比べ画素の視認性が高く、バックライトが不要である等の利点があり、フラットパネルディスプレイ素子として好適であるとされている。また、このような発光素子は、薄型軽量に作製できることも大きな利点である。さらに応答速度が非常に速いことも特徴の一つである。
そして、これらの発光素子は膜状に形成することが可能であるため、面状に発光を得ることができる。よって、大面積の素子を容易に形成することができる。このことは、白熱電球やLEDに代表される点光源、あるいは蛍光灯に代表される線光源では得難い特色であるため、ELを利用した発光素子は、照明等に応用できる面光源としての利用価値も高い。
そのエレクトロルミネッセンスを利用した発光素子は、発光性の物質が有機化合物であるか無機化合物であるかによって大別することができる。発光性の物質に有機化合物を用い一対の電極間に当該発光性の有機化合物を含む層を設けた有機EL素子の場合、発光素子に電圧を印加することにより、陰極から電子が、陽極からホール(正孔)がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、注入された電子及びホールが発光性の有機化合物を励起状態に至らしめ、励起された発光性の有機化合物から発光を得るものである。
このようなメカニズムから、上述の発光素子は電流励起型の発光素子と呼ばれる。なお、有機化合物が形成する励起状態の種類としては、一重項励起状態と三重項励起状態があり、一重項励起状態からの発光が蛍光、三重項励起状態からの発光がリン光と呼ばれている。
また、電流励起されたキャリアの再結合による発光の他に、電流励起された有機化合物の励起エネルギーが他の有機化合物に移動することで、その有機化合物を励起し、発光する方法もある。この方法は、発光させたい有機分子が、高濃度だとスタッキング相互作用を起こし発光効率が悪くなってしまう場合(濃度消光)に有効であり、有機ELにおいては、一般的に、発光層中に発光材料を分散(ドープ)させて用いる素子構造として適用されている。発光させたい有機分子をホスト材料にドープして、スタッキング相互作用を抑制することで、発光素子を高効率化させることができる。当該発光素子においては、電流励起によって励起したホスト材料からドーパント材料へ励起エネルギーが移動することでドーパント材料が発光する。なお、物質Aを他の物質Bからなるマトリクス中に分散する場合、マトリクスを構成する物質Bをホスト材料と呼び、マトリクス中に分散される物質Aをドーパント材料と呼ぶものとする。
発光素子の劣化メカニズムに関して様々な解析がなされているが、まだ解明され切れていないのが実情である。その劣化メカニズムには様々な要因があると考えられており、その1つとして挙げられるのは、発光素子に用いられている有機材料の純度である。発光素子に関しては、その発光サイトに無機金属化合物が隣接しているとそれが消光サイトとなり、素子の効率低下や劣化の要因の一つとなることが知られている。そのため、有機EL用の低分子系の有機材料は、一般的な有機物の精製法に加えて、昇華精製法などで精製し高純度化された材料が一般的に用いられる。しかしながら、その他の不純物に起因する劣化要因に関しては、どの様な不純物が劣化に関与しているかはいまだ明らかになっておらず、そのためそれら劣化要因を少しでも切り分けるためにも、より不純物の少ない材料を得ることが望まれている。
そして一般的にも、有機化合物の合成に関して、目的物をより高純度で簡便に得ることが望ましく、様々な工夫がなされている。その手段として挙げられるのは、より安定性があり精製のし易い原料を用いた合成ルートの採用や、副生成物が合成されにくい合成ルートの採用などがあげられる。この様に、合成ロット間での材料バラツキをより少なくできるような工夫がなされている。合成ロット間での材料バラツキが少ない材料を発光素子等のデバイスに採用することで、バラツキの少ない特性を得ることができる。
また有機化合物の合成は多種多様に可能である反面、複数の合成ステップに及ぶことが少なくない。そのため、それらに費やす原料や時間はその合成方法が複雑になればなるほど多くなる。そのため、より簡便な合成方法を提案することが望まれている。
発光素子に用いられる有機材料の一つに、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)がある(特許文献1)。この材料は酸化状態と還元状態の繰り返し(酸化状態から還元状態、還元状態から酸化状態の繰り返し)に対して安定な材料であり、特にホール注入層、ホール輸送層、発光層(ホストあるいはドーパント、発光材料)として用いることができ、好適である。しかしながら、特許文献1に記載されているPCzPA等のアントラセン誘導体の合成方法は、その過程で生成しやすい副生成物の除去が困難である。そのため、この材料をより簡便に、高純度で、バラツキが少なく生産することができれば、発光素子などでより望ましい特性が安定的に得られる。
特開2009−167175号公報
上記問題を鑑み、本発明の一態様は、アントラセン誘導体を、より簡便に、高純度で得られる合成方法を提供することを課題の一とする。
本発明の一態様は、10位に活性部位を有する9−アリールアントラセン誘導体と、アリール基に活性部位を有するカルバゾール−3−イル−アリール誘導体とを、金属又は金属化合物を用いてカップリングさせる、一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法である。
一般式(G1)中、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。
また、上記合成方法において、活性部位は、一方がハロゲンであり、他方がボロン酸又は有機ホウ素であることが好ましい。
また、上記合成方法において、10位に活性部位を有する9−アリールアントラセン誘導体の活性部位がハロゲンであり、アリール基に活性部位を有するカルバゾール−3−イル−アリール誘導体の活性部位がボロン酸又は有機ホウ素であると、なお好ましい。それは、アントラセンの10位がハロゲンであると、ホウ素化合物との反応性が良好であるためである。
また、本発明の一態様は、9−アリール−10−ハロゲン化アントラセンと、(9−アリール−9H−カルバゾール−3−イル)アリールボロン酸とを、金属化合物を用いてカップリングさせる、一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法である。
一般式(G1)中、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。
また、本発明の一態様は、一般式(a1)で表されるアントラセン誘導体と、一般式(c3)で表されるカルバゾール誘導体とを、金属又は金属化合物を用いてカップリングさせる、一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法である。
但し、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、Xは、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれかを表す。また、R61とR62は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを表し、R61とR62は、互いに結合して環を形成していても良い。
また、本発明の一態様は、構造式(S1)で表されるアントラセン誘導体と、構造式(S2)で表されるカルバゾール誘導体とを、金属又は金属化合物を用いてカップリングさせる、構造式(P1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法である。
また、上記合成方法において、金属化合物としては、例えば、パラジウム化合物が挙げられる。
本発明の一態様は、アントラセン誘導体を、より簡便に、高純度で得られる合成方法を提供することができる。
3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールのH NMRチャートを示す図。 3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールのGC−MSチャートを示す図。 9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾールのH NMRチャートを示す図。
以下、本発明の実施の態様について詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様のアントラセン誘導体の合成方法について説明する。
本発明の一態様は、10位に活性部位を有する9−アリールアントラセン誘導体と、アリール基に活性部位を有するカルバゾール−3−イル−アリール誘導体とを、金属又は金属化合物を用いてカップリングさせる、一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法である。
一般式(G1)中、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、Dは炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。
一般式(G1)において、Aが置換基を有する場合、その置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
一般式(G1)中におけるAの具体的な構造としては、構造式(10−1)〜構造式(10−8)で表される置換基が挙げられる。
また、一般式(G1)において、αが置換基を有する場合、その置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
一般式(G1)中におけるαの具体的な構造としては、構造式(11−1)〜構造式(11−5)で表される置換基が挙げられる。
また、一般式(G1)において、Dが置換基を有する場合、その置換基としては炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
一般式(G1)中におけるDの具体的な構造としては、構造式(12−1)〜構造式(12−12)で表される置換基が挙げられる。
また、一般式(G1)において、R〜Rが置換基を有する場合、その置換基としては炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
なお、一般式(G1)中に置換基としてアルキル基を用いた場合、有機溶剤への溶解性が向上するため、精製が容易となり好ましい。また溶解性が向上することで、湿式で有機EL素子を作製する場合も、成膜した膜の均一性が向上し好ましい。また、分子がより立体的な構造を形成するため、膜質が向上し、濃度消光やエキシマーの形成を抑制しやすくなり、好ましい。また置換基DやR〜R中の炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
また、本発明の一態様のアントラセン誘導体の合成方法に用いることのできる、10位に活性部位を有する9−アリールアントラセン誘導体としては、一般式(a1)で表されるアントラセン誘導体が挙げられる。但し、本発明はこれらに限定されない。
一般式(a1)中、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、Xは塩素、臭素、又はヨウ素のいずれかを表す。
一般式(a1)中のXは、後述の一般式(c3)との反応性の高さを考慮するとヨウ素、臭素、塩素の順で好ましい。また、ヨウ素体の場合、一旦臭素体とした後にハロゲン置換反応でヨウ素体にする必要があり合成ステップ数が増えるため、生産性を考慮するとXは臭素又は塩素が好ましい。また、コストを考慮するとXはより安価にできる塩素が好ましい。
また、一般式(a1)に示される、10位に活性部位を有する9−アリールアントラセン誘導体の具体例としては、構造式(100)〜(124)で表されるアントラセン誘導体を挙げることができる。但し、本発明はこれらに限定されない。
また、本発明の一態様のアントラセン誘導体の合成方法に用いることのできる、カルバゾール−3−イル−アリール誘導体としては、一般式(c3)で表されるカルバゾール誘導体が挙げられる。但し、本発明はこれらに限定されない。
一般式(c3)中、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、R61とR62は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを表し、R61とR62は、互いに結合して環を形成していても良い。
また、一般式(c3)に示される、10位に活性部位を有するカルバゾール−3−イル−アリール誘導体の具体例としては、構造式(200)〜(218)で表されるカルバゾール誘導体を挙げることができる。但し、本発明はこれらに限定されない。
<一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法>
下記一般式(G1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法について説明する。
一般式(G1)中、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、Dは炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。
本実施の形態では、ステップ1にて、カルバゾール−3−ホウ素化合物(c1)と、ジハロゲン化アレーン(b1)とを、金属触媒を用いてカップリング反応させることで、3−(ハロゲン化アリール)−カルバゾール化合物(c2)を合成する。次いで、ステップ2にて、3−(ハロゲン化アリール)−カルバゾール化合物(c2)を金属化合物と反応させることで活性化させた化合物と、ホウ素化合物とを反応させることで、カルバゾール−3−アリール−ホウ素化合物(c3)を合成する。さらに、ステップ3にて、カルバゾール−3−アリール−ホウ素化合物(c3)と、9−アリール−10−ハロゲン化アントラセン誘導体(a1)を、金属触媒を用いてカップリング反応させることで、目的物のアントラセン誘導体(G1)を得る。
(ステップ1)
合成スキーム(A−1)に示すように、カルバゾール−3−ホウ素化合物(c1)と、ジハロゲン化アレーン(b1)を、金属触媒を用いてカップリング反応させることで、3−(ハロゲン化アリール)−カルバゾール化合物(c2)が得られる。
合成スキーム(A−1)において、X及びXは、それぞれ独立に、ハロゲン(塩素、臭素、又はヨウ素)を表す。また、R51及びR52は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを表し、R51とR52は、互いに結合して環を形成していても良い。また、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。
合成スキーム(A−1)において、鈴木・宮浦反応を行う場合、用いることができるパラジウム触媒としては、酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド等が挙げられる。また用いることができるパラジウム触媒の配位子としては、トリ(オルト−トリル)ホスフィンや、トリフェニルホスフィンや、トリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。また用いることができる塩基としては、ナトリウム tert−ブトキシド等の有機塩基や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。用いることができる溶媒としては、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、キシレンと水の混合溶媒、キシレンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、ベンゼンと水の混合溶媒、ベンゼンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒などが挙げられる。また、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノールと水の混合溶媒、又はエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒がより好ましい。
合成スキーム(A−1)に示す反応において、カルバゾール−3−ホウ素化合物(c1)以外にも、有機アルミニウムや、有機ジルコニウム、有機亜鉛、有機スズ化合物等を用いるクロスカップリング反応を用いてもよい。また、このカップリングにおいて、ハロゲン以外にもトリフラート基等を用いても良い。
この時、ジハロゲン化アレーン(b1)のX及びXは、それぞれ独立に、ハロゲン(塩素、臭素、又はヨウ素)であり、反応性の高さを考慮すると好ましくは臭素、より好ましくはヨウ素である。またカルバゾール−3−ホウ素化合物(c1)とジハロゲン化アレーン(b1)のXをより選択的に反応させるためには、XはXよりも反応性の高いハロゲンであることが好ましい(例えば、Xが塩素の場合、Xは臭素又はヨウ素が好ましく、Xが臭素の場合、Xはヨウ素が好ましい)。
また、1つのジハロゲン化アレーン(b1)に対してカルバゾール−3−ホウ素化合物(c1)が2つ反応して生成した副生成物(c2−2)は、目的の3−(ハロゲン化アリール)−カルバゾール化合物(c2)よりも分子量が十分に大きく、カラム精製で容易に分けられる。また、この副生成物(c2−2)は活性部位を持たないため、以降の反応において、他の化合物と反応することがなく、さらなる副生成物を生成することがない。よって、この副生成物(c2−2)が混ざった状態の化合物(c1)を以降の反応後で取り除くことも可能である。例えば、以降で述べる反応スキーム(A−2)では、ボロン酸化合物(c3)は、副生成物(c2−2)よりもヘキサン等非極性溶媒に溶けづらく、再結晶で容易に分けられる。また、反応スキーム(A−3)で、最終目的物のアントラセン誘導体(G1)の合成後、他の不純物を取り除く際に、一緒に精製しても良い。
(ステップ2)
合成スキーム(A−2)に示すように、3−(ハロゲン化アリール)−カルバゾール化合物(c2)を金属または金属化合物と反応させることで活性化させた化合物と、ホウ素化合物とを反応させることで、カルバゾール−3−アリール−ホウ素化合物(c3)が得られる。
合成スキーム(A−2)において、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、Rは水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、R61及びR62は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを表し、R61とR62は、互いに結合して環を形成していても良い。また、Xは、ハロゲン(塩素、臭素、又はヨウ素)を表す。
その活性化の一例としては、金属化合物として、アルキルリチウム試薬でリチオ化する反応を用いることができる。アルキルリチウム試薬としては、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、メチルリチウム等が挙げられる。ホウ素化合物としては、ホウ酸トリメチルやホウ酸トリエチル、イソプロポキシルピナコールボラン等が挙げられる。溶媒としては、ジエチルエーテルなどのエーテル類やテトラヒドロフラン(THF)等、脱水溶媒を用いることができる。
また活性化させる金属として、活性化マグネシウムでグリニア試薬にする反応を用いることもできる。マグネシウムの活性化には、ヨウ素や1,2−ジブロモエタンを用いることができる。
(ステップ3)
合成スキーム(A−3)に示すように、カルバゾール−3−アリール−ホウ素化合物(c3)と、9−アリール−10−ハロゲン化アントラセン誘導体(a1)を、金属触媒を用いてカップリング反応させることで、目的物のアントラセン誘導体(G1)が得られる。
合成スキーム(A−3)において、Xは、ハロゲン(塩素、臭素、又はヨウ素)を表す。反応性の高さを考慮すると好ましくは臭素、より好ましくはヨウ素である。また、Dは、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、αは、置換もしくは無置換のフェニレン基、又は置換もしくは無置換のビフェニル−4,4’−ジイル基のいずれかを表す。また、Aは、置換もしくは無置換のフェニル基を表す。また、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は置換もしくは無置換のフェニル基のいずれかを表す。また、R61及びR62は、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを表し、R61とR62は、互いに結合して環を形成していても良い。
合成スキーム(A−3)においては、合成スキーム(A−1)と同じように、鈴木・宮浦反応を用いてもよい。
以上のように合成した本実施の形態の、アントラセン誘導体(G1)の合成方法は、副生成物が合成されにくく、また副生成物が生成しても取り除きやすい合成方法である。また、従来の合成方法に比べ合成ステップが少なく、簡便な合成方法である。そのため、より高純度な目的物を合成することができる。
本実施例では、下記構造式(P1)で表される9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)の合成方法について説明する。
[ステップ1:3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールの合成法]
3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールの合成スキームを(F−1)に示す。
300mL三口フラスコにて、4−ブロモヨードベンゼン14g(50mmol)、9−フェニル−9H−カルバゾール−3−ボロン酸14g(50mmol)、酢酸パラジウム(II)110mg(0.5mmol)、トリ(o−トリル)ホスフィン300mg(1.0mmol)、トルエン50mL、エタノール10mL、2mol/L炭酸カリウム水溶液25mLの混合物を、減圧下で攪拌しながら脱気した後、窒素雰囲気下、80℃で6時間加熱撹拌し、反応させた。
反応後、この反応混合液にトルエン200mLを加え、この懸濁液をフロリジール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:540−00135)、セライト(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:531−16855)を通してろ過した。得られたろ液を水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて水分を吸着させた。この懸濁液をろ過してろ液を得た。得られたろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。このとき、クロマトグラフィーの展開溶媒として、トルエンとヘキサンの混合溶媒(トルエン:ヘキサン=1:4)を用いた。得られたフラクションを濃縮し、ヘキサンを加えて超音波をかけたのち、再結晶化したところ、目的物の白色粉末を収量15g、収率75%で得た。
シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)でのRf値(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:10)は、目的物は0.32、4−ブロモヨードベンゼンは0.74だった。
また、副生成物の、1,4−ビス(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)ベンゼンのRf値(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:10)は0.23だったが、反応懸濁液中のTLC上ではかすかにスポットがみられただけだった。これにより、原料として用いた、ジハロゲン化物である4−ブロモヨードベンゼンの、ヨウ素の部分がブロモの部分よりも反応性が高いため、選択的(優先的)にホウ素化合物である、9−フェニル−9H−カルバゾール−3−ボロン酸と反応したことが分かった(つまり、ジハロゲン化物とホウ素化合物をほぼ1:1で反応させることができた)。また、目的物のRf値と副生成物のRf値とは十分に離れているため、上述のカラム精製において、目的物と副生成物とを容易に分離することができた。
上記ステップ1で得られた化合物を核磁気共鳴法(NMR)により測定した。以下に測定データを示す。
H NMR(CDCl,300MHz):δ(ppm)=7.24−7.32(m,1H)、7.40−7.64(m,13H)、8.17(d,J=7.2,1H)、8.29(s,1H)。
また、H NMRチャートを図1(A)、(B)に示す。なお、図1(B)は、図1(A)における7.0ppmから8.5ppmの範囲を拡大して表したチャートである。測定結果から、目的物である3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールが得られたことを確認した。
上記化合物の分子量を、GC−MS検出器(Thermo Fisher製、ITQ1100イオントラップ型GCMSシステム)により測定した。チャートを図2に示す。分子量397.13(モードはEI+)をメインとするピークを検出し、測定結果から、目的物である3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールが得られたことを確認した。
また、このGC−MS検出では、副生成物の、1,4−ビス(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)ベンゼン(分子量560.2)由来のピークは検出されなかった。よってステップ1の反応を行うことで、非常に収率よく、簡便に、純度の高い目的物が得られたことがわかる。
[ステップ2:4−(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)フェニルボロン酸の合成法]
4−(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)フェニルボロン酸の合成スキームを(F−2)に示す。
300mL三口フラスコに、上記ステップ1で得られた3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールを8.0g(20mmol)入れ、フラスコ内の雰囲気を窒素置換したのち、脱水テトラヒドロフラン(略称:THF)100mLを加えて−78℃にした。この混合液に1.65mol/Lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液15mL(24mmol)を滴下し、2時間撹拌した。この混合物にホウ酸トリメチル3.4mL(30mmol)を加え、−78℃で2時間、室温で18時間撹拌した。反応後、この反応溶液に1M希塩酸を酸性になるまで加えて7時間撹拌した。これを酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した。洗浄後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を吸着させた。この懸濁液をろ過し、得られたろ液を濃縮し、ヘキサンを加え超音波をかけたのち、再結晶したところ、目的の白色粉末を収量6.4g、収率88%で得た。
シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)でのRf値(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:10)は、目的物は0(原点)であり、3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールは0.53だった。また、展開溶媒に酢酸エチルを用いたシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)でのRf値は、目的物は0.72で、3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールは0.93だった。どちらの展開溶媒の場合でも、原料である3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾール由来のスポットは見られなかった。よってステップ2の反応を行うことで、非常に収率よく、簡便に、純度の高い目的物が得られたことがわかる。
ステップ2では原料のハロゲン化物である3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾールに対して、リチオ化剤であるn−ブチルリチウムを多め(1.2当量)に反応させることにより、原料のハロゲン化物が残らないようにした。また、この原料のハロゲン化物は、目的物であるホウ素化合物(4−(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)−フェニルボロン酸)よりもヘキサンなどの非極性溶剤に溶けやすく、再結晶でも容易に分けられた。これにより、次のステップのハロゲン化アントラセン化合物との反応の際に、ステップ2で合成したホウ素化合物(4−(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)−フェニルボロン酸)と、その中の不純物であるハロゲン化物(3−(4−ブロモフェニル)−9−フェニル−9H−カルバゾール)とがカップリング反応した不純物の生成を防ぐことができる。
[ステップ3:9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)の合成法]
9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)の合成スキームを(F−3)に示す。
9−ブロモ−10−フェニルアントラセンと、4−(9−フェニル−9−H−カルバゾール−3−イル)フェニルボロン酸とを、鈴木カップリング法で(パラジウム触媒、パラジウム触媒の配位子、及び塩基を用いて、有機溶媒中にて加熱撹拌して)、反応させた。
反応後、この反応混合液を精製し、目的物の淡黄色粉末を得た。
上記ステップ3で得られた化合物を核磁気共鳴法(NMR)により測定した。以下に測定データを示す。
H NMR(CDCl,300MHz):δ(ppm)=7.26−7.74(m,22H),7.83−7.89(m,3H),7.97(d,J=7.8Hz,2H),8.25(d,J=5.2Hz,1H),8.55(d,J=1.5Hz,1H)。
また,H NMRチャートを図3(A)、(B)に示す。なお,図3(B)は,図3(A)における7.0ppmから9.0ppmの範囲を拡大して表したチャートである。測定結果から,目的物であるPCzPAが得られたことを確認した。
ステップ3で得られた化合物のガラス転移温度について、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて調べた。測定結果から、ガラス転移温度は215℃であった。また、融点は267℃であった。このように、本発明の一態様のアントラセン誘導体の合成方法を用いて得たPCzPAは、高いガラス転移温度を示し、良好な耐熱性を有することがわかった。また、結晶化を表すピークは存在せず、結晶化し難い物質であることが分かった。
以上の結果から、本発明の一態様のアントラセン誘導体の合成方法は、非常に簡便に純度良くアントラセン誘導体を合成できることが分かった。

Claims (2)

  1. 構造式(S1)で表されるアントラセン誘導体と、構造式(S2)で表されるカルバゾール誘導体とを、パラジウム触媒を用いてカップリングさせる、構造式(P1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法。
  2. 構造式(S1)で表されるアントラセン誘導体と、構造式(S2)で表されるカルバゾール誘導体とを、パラジウム化合物を用いてカップリングさせる、構造式(P1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法。


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