ところで、通常時のウェビングの引出しや巻取りにおいて上記のモードを切り替えるための切替手段が切替動作すると、この切替動作に伴い作動音が生じたり、切替動作時に大きな力を要したりする。このため、通常時のウェビングの引出し時や巻取り時におけるフィーリングが悪化する。
本発明は、上記事実を考慮して、通常時におけるフィーリングを悪化させることなく、エネルギー吸収部材に変形を生じさせるモードとエネルギー吸収部材に変形を生じさせないモードとを切り替えることができるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、巻取ったウェビングが引出されることにより引出方向に回転するスプールと、一端が前記スプールに対して相対回転が規制された状態で前記スプールに繋がり、他端に対して前記スプールに繋がった部分が相対回転することで変形するエネルギー吸収部材と、作動することによって前記エネルギー吸収部材の前記他端に対して相対回転が規制された状態で前記他端に繋がり、前記エネルギー吸収部材と共に回転可能な回転体と、係合位置で前記回転体に係合することにより前記スプールの前記引出方向への回転に伴う前記回転体の回転を規制して、前記係合位置から離間した離脱位置では前記回転体に対する係合が解消されると共に、前記スプールの前記引出方向への回転に伴う前記回転体の回転に連動して前記係合位置及び前記離脱位置の一方から他方への切替方向へ移動する切替手段と、前記スプールに連動して移動すると共に、当該移動の範囲の所定位置では前記切替手段の前記切替方向側で前記切替手段に対向し、前記切替方向への移動を規制する切替規制部材と、を備えている。
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールにはエネルギー吸収部材の一端がスプールに対する相対回転が規制された状態で繋がっている。一方、本ウェビング巻取装置は上記のエネルギー吸収部材の他端に対応して回転体が設けられている。回転体が作動すると、エネルギー吸収部材の他端に回転体がエネルギー吸収部材に対する相対回転が規制された状態で繋がる。したがって、エネルギー吸収部材の他端に回転体が繋がった状態でスプールが引出方向に回転しようとすると、スプールの引出方向への回転に対応した向きに回転体が回転しようとする。
本ウェビング巻取装置はこの回転体に対応して切替手段が設けられる。この切替手段は係合位置から離脱位置への向き又は離脱位置から係合位置への向きである切替方向へ移動可能とされている。切替手段は係合位置で回転体に係合可能とされ、切替手段が回転体に係合すると、スプールの引出方向への回転に連動した回転体の回転が規制される。したがって、このように回転体の回転が規制された状態でスプールが引出方向に回転すると、エネルギー吸収部材の他端に対し、エネルギー吸収部材の一端が引出方向に回転する。これにより、エネルギー吸収部材が変形する。
この状態では、エネルギー吸収部材の変形分だけスプールからウェビングが引出され、ウェビングを装着した乗員は、このスプールから引出されたウェビングの長さ分だけ車両前方へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウェビングを引っ張る力の一部がエネルギー吸収部材の変形に供されて吸収される。
これに対し、離脱位置に切替手段が位置していると、回転体に対する切替手段の係合が解消され、切替手段による回転体の回転規制が解消される。この状態でスプールが引出方向に回転すると、これに伴い回転体が回転する。このため、この状態では、エネルギー吸収部材の他端に対する一端の相対回転が生じないので、エネルギー吸収部材に上記のような変形が生じない。
一方、本発明に係るウェビング巻取装置では、切替規制部材がスプールに繋がっており、スプールに連動して切替規制部材が移動する。切替規制部材がその移動範囲内の所定位置にあると、切替手段の切替方向側で切替規制部材が切替手段と対向する。この状態では、切替規制部材によって切替手段の切替方向への移動が規制される。
したがって、この状態では、スプールの引出方向への回転に伴い回転体が回転しても、切替手段は係合位置又は離脱位置から移動できず、エネルギー吸収部材が変形するモード及びエネルギー吸収部材に変形が生じないモードの一方から他方への切り替えが行われない。このように、切替規制部材による切替手段の移動を規制するか、規制しないかにより上記のモードが切り替えられる。
ここで、切替規制部材はスプールに連動して移動し、その移動範囲内の所定位置に到達した状態で切替手段が切替移動しようとすることにより切替規制部材が切替手段の切替移動を規制する。このため、切替規制部材が回転しても、切替手段が特別動いたりすることがない。これにより、通常時におけるウェビングの引出しや巻取りにおいて切替手段の作動音等が生じたり、切替手段が切替移動するための力がかかったりすることがない。
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、前記回転体及び前記切替手段の各々に直接又は間接的に係合され、前記回転体の一定角度の回転に連動して移動することにより前記切替手段を前記切替方向へ誘導する誘導手段を備えている。
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、回転体には誘導手段が直接又は間接的に係合しており、この誘導手段には切替手段が直接又は間接的に係合している。スプールが引出方向に回転して、これに伴い回転体が一定角度回転すると、この回転体の回転に連動して誘導手段が移動する。このように誘導手段が移動すると、切替手段が誘導手段に誘導されて切替方向へ移動させられ、切替手段が係合位置から離脱位置又は離脱位置から係合位置へ移動する。このように本発明に係るウェビング巻取装置では、切替手段を回転体の回転に機械的に連動させて切替方向へ移動させることができる。
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項2に記載の本発明において、前記誘導手段又は前記回転体に設けられ、前記切替規制部材による前記切替手段の前記切替方向への移動が規制された状態で前記回転体の回転力によって変形し、変形することによって少なくとも前記回転体が前記一定角度回転することを許容する変形部を備えている。
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールが引出方向に回転して、これに伴い回転体が一定角度回転すると、この回転体の回転に連動して誘導手段が移動する。このように誘導手段が移動すると、切替手段が誘導手段に誘導されて切替方向へ移動させられ、切替手段が係合位置から離脱位置又は離脱位置から係合位置へ移動する。
一方、切替規制部材によって切替手段の切替方向への移動が規制された状態では、切替手段が係合位置から離脱位置又は離脱位置から係合位置へ移動できない。切替手段は移動する誘導手段に誘導されて移動するので、切替手段の切替方向への移動が規制されると誘導手段の移動も規制され、ひいては回転体の回転が規制される。
ここで、本発明に係るウェビング巻取装置では、上記のように切替手段の切替方向への移動が切替規制部材によって規制されることで間接的に回転体の回転が規制された状態でスプールが引出方向に回転しようとすると、これに伴い生じた回転体の回転力によって誘導手段又は回転体に設けられた変形部が変形する。このように変形部が変形すると、回転体は少なくとも上記の一定角度の回転が許容される。
このため、切替手段の切替方向が係合位置から離脱位置への向きとされた構成であれば、回転体が一定角度回転することにより、係合位置の切替手段が回転体に係合し、これによって回転体が回転する。
これに対して、切替手段の切替方向が離脱位置から係合位置への向きとされた構成であれば、スプールの引出方向への回転に伴い回転体が回転できる。
請求項4に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項3に記載の本発明において、前記誘導手段と前記回転体とを連結して前記回転体の回転に伴い前記誘導手段を移動させると共に、前記誘導手段の移動が規制された状態で前記スプールの前記引出方向への回転に伴う前記回転体の回転により破断して前記誘導手段と前記回転体との連結を解消する連結部を前記変形部としている。
請求項4に記載の本発明に係るウェビング巻取装置によれば、誘導手段は変形部としての連結部によって回転体に連結される。これによって、回転体の回転に連動して誘導手段が移動できる。
一方、切替手段の切替方向への移動が切替規制部材によって規制されることで間接的に誘導手段の移動が規制され、この状態でスプールの引出方向への回転に対応した向きに回転体が回転しようとすると、この回転体の回転力によって連結部が破断して誘導手段と回転体との連結が解消される。これにより、誘導手段の移動が規制されたまま回転体は少なくとも一定角度回転できる。
請求項5に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の本発明において、初期状態で前記係合位置に位置し、前記スプールの前記引出方向への回転に伴う前記回転体の回転で前記回転体に形成された係合部に当接して前記回転体の回転を規制すると共に、前記切替方向への移動により前記回転体から離間し、更に、前記切替方向へ移動した後には前記離脱位置で保持される回転規制部材を含めて前記切替手段を構成している。
請求項5に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、切替手段が回転規制部材を含めて構成される。回転規制部材は初期状態で係合位置に位置しており、この状態で切替規制部材が、その移動の範囲の所定位置に到達していると、切替規制部材によって回転規制部材の切替方向への移動が直接又は間接的に規制される。この状態でスプールの引出方向への回転に伴い回転体が回転すると、回転体の係合部が回転規制部材に当接する。これによって回転体の回転、ひいては、エネルギー吸収部材の他端の回転が規制される。
一方、切替規制部材が、その移動の範囲の所定位置に到達していない状態では、スプールの引出方向への回転に伴い回転体が回転すると、回転体の回転に連動して切替手段が作動し、回転規制部材が係合位置から離脱位置へ移動して、回転規制部材が離脱位置で保持される。
請求項6に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の本発明において、前記エネルギー吸収部材としての第1エネルギー吸収部材と、一端が前記スプールに対して相対回転が規制された状態で前記スプールに繋がり、他端に対して前記スプールに繋がった部分が相対回転することで変形する第2エネルギー吸収部材と、車両の急減速状態や前記スプールの前記引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合に作動して前記第2エネルギー吸収部材の他端が前記引出方向への回転することを規制するロック機構と、前記第2エネルギー吸収部材の一端が他端に対して所定角度以上前記引出方向に回転した状態で前記回転体を前記第1エネルギー吸収部材の他端に繋げて前記回転体を作動状態とするトリガ手段と、を備えている。
請求項6に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、上述したエネルギー吸収部材としての第1エネルギー吸収部材とは別に第2エネルギー吸収部材が設けられる。第2エネルギー吸収部材は一端がスプールに対して相対回転が規制された状態で繋がっており、このため、第2エネルギー吸収部材はスプールと共に回転する。
この第2エネルギー吸収部材の他端側にはロック機構が設けられる。車両の急減速状態やスプールの引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合にはロック機構が作動し、これにより、第2エネルギー吸収部材の他端の引出方向への回転が規制される。
上記のように、第2エネルギー吸収部材は、その一端がスプールに対して相対回転が規制された状態で繋がっているため、ロック機構が作動して第2エネルギー吸収部材の引出方向への回転が規制されると、スプールの引出方向への回転が規制され、スプールからのウェビングの引出しが規制される。
この状態で、第2エネルギー吸収部材の機械的強度を上回る回転力がスプールから第2エネルギー吸収部材の一端に伝わると、第2エネルギー吸収部材の一端が他端に対して引出方向に回転し、第2エネルギー吸収部材が変形する。この状態では、第2エネルギー吸収部材の変形分だけスプールからウェビングが引出され、ウェビングを装着した乗員は、このスプールから引出されたウェビングの長さ分だけ車両前方へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウェビングを引っ張る力の一部が第2エネルギー吸収部材の変形に供されて吸収される。
さらに、このようにして第2エネルギー吸収部材の一端が他端に対して引出方向に所定角度以上回転すると、トリガ手段が回転体を第1エネルギー吸収部材の他端に繋げて回転体を作動状態にする。
請求項7に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の本発明において、前記スプールと前記切替規制部材との間に介在して前記スプールの回転を減速して前記切り替え規制部材に伝えて前記切替規制部材を回転させる減速手段を備え、シートに乗員が着座していない状態で前記ウェビングに設けられたタングをバックルに装着した状態を空ラッチ状態として、前記ウェビングが前記スプールから全て引出された状態を全引出状態として、前記ウェビングの先端の近傍まで前記スプールに前記ウェビングが巻取られた状態を納入状態として、前記スプールから前記切替規制部材までの前記減速手段の減速比が、前記空ラッチ状態から前記全引出状態までの前記スプールの回転が1回転未満となり、前記納入状態から前記全引出状態までの前記スプールの回転が1回転以上となるように設定している。
請求項7に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、切替規制部材が減速手段を介してスプールに繋がっており、スプールの回転が減速されて切替規制部材に伝わり、これによって切替規制部材が回転する。上記の切替手段は、スプールの引出方向への回転に伴う回転体の回転により切替方向へ移動するが、切替規制部材の回転位置が所定の範囲以内であると、切替規制部材によって切替手段の切替方向への移動が規制される。
ここで、減速手段の減速比は、シートに乗員が着座していない状態でウェビングに設けられたタングがバックルに装着された空ラッチ状態から、ウェビングがスプールから全て引出された全引出状態までのスプールの回転を1回転未満の回転に減速して切替規制部材に伝えるように設定される。但し、ウェビングの先端の近傍までスプールにウェビングが巻取られた納入状態から、全引出状態までのスプールの回転を1回転以上の回転に減速して切替規制部材に伝えるように設定される。このため、空ラッチ状態から全引出状態までの切替規制部材の回転を1回転に充分に近づけることができ、上記のモードの切り替え位置の精度を高めることができる。
請求項8に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項7に記載の本発明において、前記切替規制部材は回転により前記切替手段の前記切替方向側の側方で通過するように設けられている。
請求項8に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、切替規制部材はスプールに連動した回転で切替手段の切替方向側の側方を通過するように設けられる。したがって、切替手段の切替移動方向側に切替規制部材が到達していれば切替手段の切替移動を規制できる。また、切替規制部材はスプールに連動した回転で切替手段の切替方向側の側方を通過するだけで、例えば、納入状態から全引出状態まで切替規制部材が何回転しようとも、切替規制部材は切替手段を切替方向に移動させることがない。
以上説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置は、通常時におけるフィーリングを悪化させることなく、エネルギー吸収部材に変形を生じさせるモードとエネルギー吸収部材に変形を生じさないモードとを切り替えることができる。
<本実施の形態の構成>
図1には本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置10におけるクラッチ機構56の構成が分解斜視図によって示されている。
この図に示されるように、ウェビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は背板28を備えている。背板28は平板状に形成されており、その幅方向一端からは脚板30が背板28の厚さ方向一方の側へ延出されている。これに対して、背板28の幅方向他端からは脚板32が背板28からの脚板30の延出方向と同じ向きに延出されている。フレーム12は、例えば、図12に示されるように、車両において本ウェビング巻取装置10に対応したシート142の側方で車体に固定されている。なお、本実施の形態では、フレーム12が車体に固定される構成であるが、フレーム12の固定箇所がこのような場所に限定されるものではなく、例えば、シート142を構成する骨格部材等にフレーム12が固定される構成であってもよい。
また、図1に示されるように、ウェビング巻取装置10はスプール14を備えている。スプール14は中心軸線方向が脚板30と脚板32との対向方向に沿っており、その大部分が脚板30と脚板32との間に位置している。このスプール14には長尺帯状に形成されたウェビング16の長手方向基端側が係止されており、スプール14が中心軸線周りの一方である巻取方向に回転すると、ウェビング16がその長手方向基端側からスプール14の外周部に層状に巻取られる。また、ウェビング16をその長手方向先端側へ引っ張ると、スプール14が巻取方向とは反対の引出方向に回転しつつ、スプール14に巻取られているウェビング16がスプール14から引出される。
図12に示されるように、ウェビング16はスプール14から車両上方へ引出され、センターピラーの上端部近傍に設けられたスリップジョイント144を通過して下方へ折り返されている。下方へ折り返されたウェビング16の先端にはアンカプレート146が取り付けられており、このアンカプレート146がシート142に対してフレーム12やスリップジョイント144が設けられた側で車体やシート142を構成する骨格部材に固定されている。
また、アンカプレート146とスリップジョイント144との間ではウェビング16にタング148が設けられている。このタング148に対応してシート142を介してアンカプレート146とは反対側にはバックル150が車体やシート142を構成する骨格部材に取り付けられている。図13に示されるように、乗員152が身体にウェビング16を装着する際には、身体の前方にウェビング16を掛け回した状態でタング148をバックル150に装着する。
一方、図1に示されるように、上記のスプール14にはその中心軸線方向に貫通した貫通孔15が形成されている。この貫通孔15の内側にはフォースリミッタ機構26を構成するメイントーションシャフト20及びエネルギー吸収部材としてのサブトーションシャフト24が設けられている。
メイントーションシャフト20はスプール14に対して同軸的に配置されている。サブトーションシャフト24の長手方向中間部にはスプライン状のロックギヤ側係合部40が形成されており、更に、サブトーションシャフト24の長手方向先端部はスプライン状のスプール側係合部42が形成されている。このスプール側係合部42に対応して、スプール14の中心軸線方向中間部では貫通孔15の内周部に被係合部(図示省略)が形成されている。この被係合部にスプール側係合部42が係合することによってスプール14に対するメイントーションシャフト20の相対回転が規制された状態でメイントーションシャフト20がスプール14に繋がる。
一方、メイントーションシャフト20のロックギヤ側係合部40に対応してスプール14の脚板32側にはロック機構を構成するロックギヤ18が設けられている。ロックギヤ18は、スプール14に対して同軸的に配置されており、その外周部にはラチェットギヤ部34が形成されている。また、ロックギヤ18の軸心部分にはロックギヤ18の中心軸線方向に貫通する貫通孔36が形成されており、この貫通孔36の内周部にはスプライン状の被係合部38が形成されている。
上述したメイントーションシャフト20のロックギヤ側係合部40は、このロックギヤ18に形成された被係合部38に係合しており、これにより、メイントーションシャフト20に対するロックギヤ18の相対回転、ひいては、スプール14に対するロックギヤ18の相対回転が規制されている。このため、ロックギヤ18に対してスプール14が引出方向に相対回転すると、メイントーションシャフト20におけるロックギヤ側係合部40とスプール側係合部42との間のメインエネルギー吸収部44が捩じれるように変形する。
このロックギヤ18はウェビング巻取装置10のロック機構を構成する。ロック機構は図示しないロックパウルがロックギヤ18の外周部(すなわち、ラチェットギヤ部34)に対して接離移動可能に設けられており、ロックパウルがロックギヤ18の外周部に接近してラチェットギヤ部34に噛み合うと、ロックギヤ18の引出方向への回転を規制する。上記のように、スプール14はメイントーションシャフト20を介してロックギヤ18に対する相対回転が規制されているので、ロックギヤ18の引出方向への回転が規制されることによってスプール14の引出方向への回転が規制され、スプール14からのウェビング16の引出しが規制される。
また、ロック機構は車両が急減速した場合や、ロックギヤ18の引出方向への回転加速度が所定の大きさの場合に作動するセンサ機構を備えており、このセンサ機構が作動すると、ロックパウルがロックギヤ18の外周部に接近移動する。
さらに、ロックギヤ18において貫通孔36の形成位置よりもロックギヤ18の回転半径外側ではロックギヤ18に係止孔46が形成されている。この係止孔46にはトリガ手段としてのトリガワイヤ22の基端部22Aが係止されている。このトリガワイヤ22の先端側はスプール14において貫通孔15に対して平行に形成された挿通孔48に挿入されている。さらに、トリガワイヤ22の先端部22Bは、挿通孔48の脚板30側の開口端からスプール14の外側へ突出している。
一方、上記のサブトーションシャフト24は、貫通孔15内におけるメイントーションシャフト20よりも脚板30側でスプール14に対して同軸的に配置されている。サブトーションシャフト24においてロックギヤ18の中心軸線方向中央側に位置するサブトーションシャフト24の基端部にはスプライン状のスプール側係合部50が形成されている。
このスプール側係合部50はスプール14の中心軸線方向中央側で貫通孔15の内周部に形成された図示しない被係合部と係合しており、これによって、スプール14に対するサブトーションシャフト24の相対回転が規制されている。また、サブトーションシャフト24の脚板30側の端部である先端部はスプライン状のスリーブ側係合部52が形成されており、サブトーションシャフト24においてスプール側係合部50とスリーブ側係合部52との間はサブエネルギー吸収部54とされている。
また、スプール14の脚板30側にはクラッチ機構56が設けられている。クラッチ機構56はスリーブ58を備えている。スリーブ58の軸心部には、軸方向に貫通する貫通孔72が形成されておりサブトーションシャフト24が入り込んでいる。また、このスリーブ58の内周部における先端側には、スプライン状の被係合部74が形成されており、この被係合部74にサブトーションシャフト24のスリーブ側係合部52が係合しており、サブトーションシャフト24に対するスリーブ58の相対回転が規制されている。
また、クラッチ機構56はクラッチガイド60を備えている。クラッチガイド60には円形の貫通孔80が形成されている。この貫通孔80にはスリーブ58に形成された支持部76が貫通している。支持部76は外径寸法が貫通孔80の内径寸法に略等しい(厳密には僅かに小さな)円形とされており、貫通孔80を貫通した支持部76がクラッチガイド60を回転自在に支持している。
このクラッチガイド60の軸方向側方にはクラッチカバー64がクラッチガイド60と対向するように設けられている。このクラッチカバー64には、軸方向に貫通する貫通孔98が形成されており、この貫通孔98の内周部からは複数の嵌合爪100が径方向内側に突出形成されている。これらの嵌合爪100は貫通孔98の周方向に所定角度毎に形成されており、スリーブ58に形成された外周形状が略六角形の嵌合部78に係合して、スリーブ58の周方向及び軸方向へのクラッチカバー64の変位が規制されている。
このクラッチカバー64には一対の切欠部102がクラッチカバー64の径方向外側に開口するように形成されている。各々の切欠部102の内側には十字爪104が形成されている。これらの十字爪104は、クラッチカバー64の径方向に見てクランク状に屈曲しており、先端側が基端側よりもクラッチガイド60側で且つ巻取方向側へ突出している。
これらの十字爪104にはコイルスプリング70の一端が係止されている。各コイルスプリング70に対応して上述したクラッチガイド60にはコイルスプリング収容部82が形成されている。コイルスプリング収容部82は引出方向側へ向けて開口した凹形状に形成されており、コイルスプリング70はコイルスプリング収容部82の内側に収容された状態で他端がその付勢力で凹形状に形成されたコイルスプリング収容部82の底部である圧接壁86に圧接している。
さらに、上述したスプール14の脚板30側の端面にて開口した挿通孔48の開口端から突出したトリガワイヤ22の先端部22Bに対応してクラッチガイド60には孔部120が形成されており、クラッチカバー64には孔部122が形成されている。孔部120、122にはトリガワイヤ22の先端部22Bが貫通している。この状態では、コイルスプリング70は十字爪104とコイルスプリング収容部82とによって圧縮されている。トリガワイヤ22の先端部22Bが孔部120、122から抜け出ると、コイルスプリング70の付勢力によってクラッチカバー64に対してクラッチガイド60が巻取方向に回転する。
クラッチガイド60とクラッチカバー64との間には一対のクラッチプレート66が設けられている。これらのクラッチプレート66に対応してクラッチガイド60にはクラッチプレート収容部88が形成されている。クラッチプレート収容部88はコイルスプリング収容部82を構成する圧接壁86の巻取方向側に形成されており、各クラッチプレート66はクラッチプレート収容部88の内側に収容されている。クラッチプレート66の基端部におけるクラッチカバー64側の面からは回動軸110が突出形成されている。
これらの回動軸110に対応してクラッチカバー64には孔部112が形成されている。孔部112にはクラッチプレート66の回動軸110が挿し込まれており。クラッチガイド60はクラッチカバー64に回動可能に支持されている。クラッチプレート66はクラッチプレート収容部88内に収容されているが、クラッチカバー64に対してクラッチガイド60が巻取方向に相対回転し、クラッチプレート66の回動軸110を支持するクラッチカバー64の孔部112にクラッチガイド60の圧接壁86が接近すると、クラッチガイド60の圧接壁86がクラッチプレート66の先端側におけるクラッチガイド60の中心軸線側を向く面を押圧する。これにより、クラッチプレート66はその先端側がクラッチガイド60の半径方向外側へ突出する。
また、クラッチガイド60とクラッチカバー64との間にはクラッチベース62が設けられている。クラッチベース62は、内周形状が六角形状の被嵌合部94を備えている。被嵌合部94の内周形状は上述した嵌合部78の外周形状に略等しく形成されており、嵌合部78に被嵌合部94が嵌め込まれている。これにより、スリーブ58に対するクラッチベース62の相対回転が規制されている。被嵌合部94の外周部には一対の係止部96が形成されている。これらの係止部96はクラッチガイド60の半径方向内側からクラッチプレート66と対向している。
また、本ウェビング巻取装置10は、図2に示される切替機構200はシート部材202を備えている。シート部材202の脚板30とは反対側にはボデー206が設けられている。ボデー206には円孔208が形成されており、この円孔208に対向するようにシート部材202には円孔210が形成されている。シート部材202とボデー206との間には回転体としてのロックリング214がもうけられている。ロックリング214は全体的にリング状に形成されている。ロックリング214の外径寸法はボデー206に形成された円孔208の内径寸法よりも僅かに小さく設定されている。ロックリング214は円孔208に嵌め込まれ、これにより、ロックリング214がボデー206に回転自在に支持されている。
ロックリング214の内周部にはローレット歯214Aが形成されている。このローレット歯214Aに対応して上述したクラッチプレート66の先端側にはローレット歯66Aが形成されており、クラッチプレート66の先端側がクラッチプレート収容部88の外側へ突出すると、クラッチプレート66のローレット歯66Aがロックリング214のローレット歯214Aに噛み合う。クラッチプレート66、ひいては、スリーブ58に対するロックリング214の相対回転が規制される。
ロックリング214においてその中心軸線方向中間部よりも脚板30側の外周部からはフランジ部216がロックリング214の半径方向外方へ延出されている。さらに、このフランジ部216の半径方向外側には回転規制部材として切替手段を構成するストッパパウル218が設けられている。ストッパパウル218はパウル本体220を備えている。
図3に示されるように、パウル本体220に対応してボデー206におけるシート部材202側には軸部226が形成されており、軸部226がパウル本体220に形成された孔部222を貫通している。これによって、スプール14の中心軸線方向と同じ向きを軸方向とする軸周りにストッパパウル218が軸部226(すなわちボデー206)に回動可能に支持されている。このストッパパウル218の先端に対応してフランジ部216の外周部には切欠部224が形成されている。ストッパパウル218は軸部226周りの係合位置でその先端が切欠部224の内側に入り込み、この状態では、ロックリング214の引出方向への回転が規制される。
一方、図2に示されるように、ボデー206のシート部材202とは反対側にはスプリングケース232が設けられている。スプリングケース232の内側には渦巻ばねが設けられている。この渦巻ばねは渦巻方向外側の端部がスプリングケース232の内壁やスプリングケース232の内側に設けられた係止リブ等に係止されている。また、スプリングケース232の内側にはアダプタ234が上述したスプール14に対して同軸的に設けられている。アダプタ234はスプリングケース232の内側に形成された軸部に回転可能に支持されていると共に、上述したスプリングケース232内の渦巻ばねの渦巻方向内側端が係止されている。渦巻ばねはアダプタ234が引出方向に回転すると巻き締められ、アダプタ234を巻取方向に付勢する。
このスプリングケース232のボデー206側にはスプリングシート236が取り付けられており、上述した渦巻ばねやアダプタ234を収容したスプリングケース232のボデー206側の開口端がスプリングシート236によって閉止されている。
このスプリングシート236にはスプール14に対して同軸の円孔238が形成されており、スプリングケース232内に設けられたアダプタ234は、その一部が円孔238を通過してボデー206側に突出している。円孔238を通過したアダプタ234に対応して図1に示されるスクリュー68にはスプライン軸部132が形成されている。スプライン軸部132はスプリングシート236のボデー206側の端部にて開口したスプライン孔に嵌合し、これにより、スクリュー68に対するアダプタ234の相対回転が規制される。
上記のように、スクリュー68は雄ねじ部がサブトーションシャフト24の雌ねじ孔118に螺合して繋がっており、更に、サブトーションシャフト24はスプール側係合部50にてスプール14に対する相対回転が規制されている。このため、アダプタ234はスプール14に対する相対回転が規制され、スプール14に対して略一体的にアダプタ234が回転する。
また、スプリングシート236とボデー206との間にはギヤケース242が設けられている。ギヤケース242のボデー206側には減速手段及び規制部材を構成するカムギヤ244が設けられている。カムギヤ244は円板状の本体246を備えている。本体246の中央には円孔248が形成されている。また、本体246のギヤケース242側の面にはギヤ部250が形成されている。ギヤ部250は外径寸法が本体246の外径寸法よりも小さく、内径寸法が円孔248の内径寸法に等しいリング状に形成され、その外周部には平歯の外歯が形成されている。このカムギヤ244はギヤケース242のボデー206側に形成された弾性保持片252によってスプール14に対して同軸的に回転自在に支持されている。
一方、ギヤケース242のスプリングシート236側には減速手段を構成する一対の減速ギヤ262が設けられている。これらの減速ギヤ262は、一方の減速ギヤ262が他方の減速ギヤ262に対してカムギヤ244の中心軸線(回転中心)とは反対側に設けられている。各減速ギヤ262は大径ギヤ部264を備えている。大径ギヤ部264は軸方向がスプール14の中心軸線方向と同じ向きに設定され、その外周部には平歯の外歯が形成されている。大径ギヤ部264はアダプタ234の側方に設けられており、アダプタ234においてスプリングシート236の外側に突出した部分である減速手段を構成するギヤ部266の外周部に形成された平歯の外歯に噛み合っている。
図4に示されるように、大径ギヤ部264のボデー206側には大径ギヤ部264よりも小径のボス部268が大径ギヤ部264に対して同軸的に形成されている。このボス部268に対応してギヤケース242には図2に示される軸受孔270が貫通形成されており、ボス部268が軸受孔270に回転自在に支持されている。さらに、ボス部268の大径ギヤ部264とは反対側には小径ギヤ部272がボス部268に対して同軸的に形成されている。この小径ギヤ部272には平歯の外歯が形成されており、上述したカムギヤ244のギヤ部250に噛み合っている。すなわち、アダプタ234のギヤ部266、減速ギヤ262、及びカムギヤ244のギヤ部250は平歯ギヤ列を構成しており、このため、カムギヤ244はスプール14に連動して回転する。
ところで、図14に示されるように、シート142に乗員152が着座していない状態でタング148をバックル150に装着した状態がタング148をバックル150に装着した状態でスプール14からのウェビング16の引出量が最も少ない状態となる。以下、この状態を「空ラッチ状態」と称する。また、図14に示されるように、フレーム12や、アンカプレート146、更には、スリップジョイント144が車体やシート142の骨格部材等の所定位置に取り付けられた状態では、スプール14が最もウェビング16を巻取った状態でもスプール14からスリップジョイント144を介してアンカプレート146までの長さ分だけウェビング16がスプール14から引出される。
これに対して、図15に示されるように、フレーム12や、アンカプレート146、更には、スリップジョイント144が車体やシート142の骨格部材等の所定位置に取り付けられていない状態では、アンカプレート146の近傍までスプール14にウェビング16を巻取ることができ、この状態では、図13に示される状態よりもスプール14からのウェビング16の引出量が少ない。以下、図15に示されるような状態を「納入状態」と称する。
ここで、本実施の形態においてアダプタ234のギヤ部266、減速ギヤ262、及びカムギヤ244のギヤ部250から成るギヤ列の減速比は、空ラッチ状態からウェビング16をスプール14から全て引出した「全引出状態」までに要するスプール14の回転をカムギヤ244の1回転未満の回転に減速し、納入状態から全引出状態までに要するスプール14の回転を、カムギヤ244の1回転未満の回転に減速する。
一方、図2及び図5に示されるように、ボデー206のギヤケース242側には一対のリンクガイド282が形成されている。これらのリンクガイド282は円孔208の側方に形成されていると共に、円孔208の径方向に円孔208の中心を通る仮想線を介して互いに対向するように平行に形成されている。これらのリンクガイド282の間ではボデー206がその厚さ方向(すなわち円孔208の貫通方向)に貫通している。また、これらのリンクガイド282の間には切替手段を構成するリンク284が設けられている。リンク284は長手方向が概ね円孔208の径方向に沿い、厚さ方向が円孔208の貫通方向に沿った板状に形成されており、上述した一対のリンクガイド282によって円孔208の径方向に移動可能に保持されている。
図7に示されるように、このリンク284におけるシート部材202側の面にはガイド枠286が形成されている。ガイド枠286の内周形状は長手方向が両リンクガイド282の対向方向に沿った長孔状とされている。このガイド枠286に対応してストッパパウル218の先端側におけるボデー206側の面からはピン290が突出形成されている。ピン290は両リンクガイド282の間におけるボデー206の開口を通過してガイド枠286の内側に入り込んでいる。
ピン290はガイド枠286の内周部における長手方向に一端と他端との間で移動でき、リンクガイド282に案内されてリンク284が円孔208の半径方向外側に移動すると、ピン290がガイド枠286に押圧される。ガイド枠296にピン290が押圧されるとストッパパウル218が軸部226を中心に本実施の形態における切替方向へ回動する。このようにしてストッパパウル218が切替方向へ回動して係合位置から離間した離脱位置に到達すると、ストッパパウル218の先端側はロックリング214のフランジ部216に形成された切欠部224から抜け出る。
なお、本実施の形態では、軸部226を中心にストッパパウル218の先端側がロックリング214の切欠部224から抜け出る方向への回動方向を回転規制部材の『切替方向』とした。しかしながら、回転規制部材の『切替方向』がこのような方向に限定されるものではない。例えば、ストッパパウル218の先端側がロックリング214の切欠部224から抜け出た状態を初期状態とし、離脱位置から係合位置への向きを切替方向としてもよい。また、ストッパパウル218に代わる回転規制部材をロックリング214の中心軸線方向に移動可能に設け、このロックリング214の中心軸線方向を切替方向とする構成にしてもよい。
また、リンク284におけるギヤケース242側の面にはスプリング係止部292が形成されている。さらに、ボデー206のギヤケース242側の面にはスプリング係止部294が形成されている。スプリング係止部294はリンクガイド282よりも円孔208の半径方向外側に形成されており、円孔208の半径方向にリンク284のスプリング係止部292と対向している。スプリング係止部292とスプリング係止部294との間には圧縮コイルばね296が設けられており、圧縮コイルばね296の付勢力によってリンク284が円孔208の半径方向内側へ付勢されている。
一方、図2及び図5に示されるように、ボデー206のギヤケース242側には誘導手段としてのスライドストッパ302が設けられている。スライドストッパ302に対応してボデー206にはストッパガイド310が形成されている。ストッパガイド310はボデー206のギヤケース242側の面における円孔208の外側で円孔208に沿うように形成されている。スライドストッパ302はストッパガイド310に保持された状態で円孔208の内周縁に沿って一定範囲移動可能とされている。
また、図2に示されるように、ストッパガイド310と円孔208との間にはボデー206を貫通する溝312が形成されている。溝312は円孔208の中心を曲率の中心として湾曲しており、図3に示されるように、溝312の内側にスライドストッパ310の嵌込部314が溝312に沿って円孔208の周方向へ移動可能に嵌まり込んでいる。さらに、嵌込部314には特許請求の範囲で言うところの変形部の一態様である連結部としてのシェアピン316がシート部材202側へ向けて突出形成されている。
このシェアピン316に対応してロックリング214のフランジ部216には挿込孔318が形成されている。シェアピン316は挿込孔318に挿し込まれており、これによって、スライドストッパ302がロックリング214に連結され、スライドストッパ302はロックリング214に伴われて移動(回転)する。但し、スライドストッパ302の移動(回転)が規制された状態でロックリング214が回転しようとし、これにより、シェアピン316に付与されるせん断荷重がシェアピン316の機械的強度を上回るとシェアピン316が破断され、スライドストッパ302とは別にロックリング214が回転する。
さらに、図2及び図5に示されるように、このスライドストッパ302にはガイド溝304が形成されている。ガイド溝304はスライドストッパ302において円孔208の半径方向外側の端部にて開口している。このガイド溝304に対応してリンク284にはピン306が形成されている。
ピン306は、リンク284における円孔208の半径方向内側の端部からギヤケース242側へ向けて突出形成されており、図5及び図9に示されるように、ガイド溝304に入り込んでいる。ガイド溝304はスライドストッパ302における円孔208の半径方向外側の端部にて開口しており、スライドストッパ302がロックリング214と共に引出方向に回転すると、ガイド溝304の内壁がピン306を押圧して円孔208の半径方向外側へ移動させる。これにより、図6及び図10に示されるように、ピン306がガイド溝304から抜け出る。このようにピン306がガイド溝304に案内されて移動するとリンク284がリンクガイド282に案内されて円孔208の半径方向外側へ移動する。
ここで、ストッパパウル218は初期状態で係合位置にあってその先端側が切欠部224の内側に入り込んでいる。但し、ストッパパウル218の先端と、このストッパパウル218の先端に対して巻取方向側で対向する切欠部224の内壁とは初期状態でロックリング214の周方向に離間しており、ガイド溝304内のピン306がガイド溝304内を移動してスライドストッパ302の外側に抜け出るまで、ロックリング214はスライドストッパ302を伴ってストッパパウル218に対して引出方向に回転できる。
さらに、上記のようにガイド溝304内のピン306がスライドストッパ302の外側に抜け出るまでに要する角度以上である一定角度スライドストッパ302がロックリング214に伴われて引出方向に移動(回転)すると、スライドストッパ302はストッパガイド310によって引出方向への回転が規制される。この状態で更に引出方向へ回転しようとするロックリング214が上述したシェアピン316の機械的強度を上回るせん断荷重を付与すると、シェアピン316が破断される。これにって、ロックリング214とスライドストッパ316との連結が解消されてロックリング214が更に引出方向に回転する。
さらに、ガイド溝304よりもギヤケース242側へ突出したピン306の先端側に対応して上述したカムギヤ244には規制部材において実質的な規制部を構成する規制壁322が形成されている。図8に示されるように、規制壁322はカムギヤ244の外周一部からボデー206側へ向けて延出されている。規制壁322はカムギヤ244の回転によってピン306よりも円孔208の半径方向外側を通過するように形成位置が設定されている。
また、上述した空ラッチ状態でのスプール14の回転位置から、空ラッチ状態と全引出状態までの間の所定位置におけるスプール14の回転位置との間で、規制壁322は円孔208の半径方向外側でピン306と対向するようにカムギヤ244の位置が設定されており、規制壁322とピン306とが対向した状態でリンク284が円孔208の半径方向外側へ移動しようとすると、規制壁322がピン306に当接してリンク284の移動を規制する。
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
本ウェビング巻取装置10では、乗員152の身体にウェビング16が装着される際には乗員152によってウェビング16が引っ張られてスプール14から引出される。このように引出されたウェビング16が乗員152の身体に掛け回され、この状態でタング148がバックル150に装着されると乗員152の身体に対するウェビング16の装着状態になる。
この状態で、走行中の車両が急減速状態になったり、車両が減速することによって乗員152の身体が車両前方へ慣性移動し、これによってスプール14の引出方向への回転加速度が所定の大きさを超えたりすると、ロック機構を構成するセンサが作動し、ロックパウルがロックギヤ18のラチェットギヤ部34に噛み合う。これによって、ロックギヤ18の引出方向への回転が規制される。ロックギヤ18はメイントーションシャフト20を介してスプール14に対する相対回転が規制されている。このため、ロックギヤ18の引出方向への回転が規制されることによってスプール14の引出方向への回転が規制される。これにより、スプール14からのウェビング16の引出しが規制され、乗員152の身体がウェビング16によって強固に拘束される。
次いで、この状態で乗員152の身体が車両前方へ慣性移動しようとし、これによりウェビング16を介してスプール14に付与される引出方向への回転力がメイントーションシャフト20におけるメインエネルギー吸収部44の機械的強度を超えると、メイントーションシャフト20のスプール側係合部42がロックギヤ側係合部40に対して引出方向に回転し、メインエネルギー吸収部44に捩じり変形が生じる。これにより、先ず、メインエネルギー吸収部44の捩じり変形に応じたスプール14の回転量だけスプール14からウェビング16が引出され、この分だけ乗員152の身体は車両前方へ慣性移動できると共に、乗員152の身体がウェビング16を引っ張る力の一部がメインエネルギー吸収部44の捩じり変形に供されて吸収される。
また、このように、メイントーションシャフト20のメインエネルギー吸収部44において捩じり変形が生じると、ロックギヤ18に対してスプール14が引出方向に回転する。すなわち、これはスプール14を基準にみると、スプール14に対するロックギヤ18の巻取方向への相対回転であり、このような相対回転が生じることでトリガワイヤ22がその基端側へ引っ張られる。トリガワイヤ22がその基端側へ引っ張られることによりトリガワイヤ22の先端部22Bがクラッチガイド60の孔部120やクラッチカバー64の孔部122から抜け出ると、それまで圧縮されていたコイルスプリング70の付勢力によってクラッチガイド60がクラッチカバー64に対して巻取方向に相対回転する。
このクラッチガイド60の相対回転によってクラッチプレート66は回動軸110周りに回動して、クラッチプレート66の先端がクラッチガイド60の回転半径方向外側へ突出する。このようにクラッチプレート66の先端側が突出すると、クラッチプレート66のローレット部66Aがロックリング214のローレット部214Aに噛み合い、ロックリング214に対するクラッチプレート66の相対回転が規制され、スプール14に対するロックリング214の相対回転が規制されることになる。
ここで、シート142に着座する乗員152の体格が小さい場合には、シート142が比較的車両前方側に位置しており、したがって、乗員152の身体も比較的車両前方側に位置している。このため、この状態では乗員152の身体に掛け回されているウェビング16のスプール14からの引出量が大きくなる。このように、スプール14からのウェビング16の引出量が大きいことによりスプール14の回転位置が、上述した空ラッチ状態と全引出状態までの間の所定位置に対応する回転位置に到達し、又は、この回転位置を超えていると、円孔208の半径方向外側で規制壁322がピン306と対向していない。
このため、スプール14と共にロックリング214が引出方向に回転し、これによってロックリング214と共にスライドストッパ302が引出方向に回転すると、ガイド溝304の内壁がリンク284のピン306を円孔208の半径方向外側へ押し上げる。この状態から、スライドストッパ302が更に引出方向に回転すると、図5及び図10に示されるように、ガイド溝304からピン306が抜け出る。これにより、リンク284がリンクガイド282に案内されて円孔208の半径方向外側へ移動すると、ガイド枠286の内周部にストッパパウル218のピン290が押し上げられる。
これにより、ストッパパウル218が軸部226周りに本実施の形態における切替方向へ回動すると、ストッパパウル218が係合位置から離脱位置へ移動し、その先端がロックリング214のフランジ部216に形成された切欠部224から抜け出る。この状態では、ロックリング214の回転が規制されないため、ロックリング214はスプール14と共に引出方向に回転する。このように、ガイド溝304からピン306が抜け出るまでロックリング214がスライドストッパ302を伴ってスプール14と共に引出方向に一定角度回転すると、スライドストッパ302はストッパガイド310によって引出方向への回転が規制される。
この状態で更にスプール14と共にロックリング214が引出方向へ回転しようとすると、ロックリング214がシェアピン316の機械的強度を上回るせん断荷重を付与する。これにより、シェアピン316が破断されると、ロックリング214とスライドストッパ316との連結が解消されてロックリング214がスプール14と共に引出方向に回転する。
このように、ロックリング214の引出方向への回転が規制されることなくスプール14と共にロックリング214が引出方向に回転する状態では、サブトーションシャフト24ではサブエネルギー吸収部54に捩じり変形が生じない。このため、この状態でスプール14が引出方向に回転できる回転力の大きさはメイントーションシャフト20のメインエネルギー吸収部44を捩じり変形させることができる大きさになる。
一方、シート142に着座する乗員152の体格が大きい場合には、シート142が比較的車両後方側に位置している。このため、この状態では乗員152の身体に掛け回されているウェビング16のスプール14からの引出量は少ない。このように、スプール14からのウェビング16の引出量が少ないことによりスプール14の回転位置が、上述した空ラッチ状態と全引出状態までの間の所定位置に対応する回転位置に到達していないと、規制壁322がピン306よりも円孔208の半径方向外側でピン306と対向している。
このため、スプール14に連動したロックリング214の引出方向への回転に伴い、ガイド溝304の内壁がリンク284のピン306を円孔208の半径方向外側へ押し上げようとすると、規制壁322が図11に示されるようにピン306に当接してピン306の移動を規制する。ピン306の移動が規制されるとスライドストッパ302の引出方向への移動(回転)も規制される。この状態で更にスプール14と共にロックリング214が引出方向へ回転しようとすると、ロックリング214がシェアピン316の機械的強度を上回るせん断荷重を付与する。これにより、シェアピン316が破断されると、ロックリング214とスライドストッパ316との連結が解消されてロックリング214がスプール14と共に引出方向に回転する。
但し、この状態では、ピン306がスライドストッパ302の外側へ移動していないので、リンク284のガイド枠286はストッパパウル218のピン290を押し上げていない。したがって、この状態では、ストッパパウル218は回動しておらず、ストッパパウル218の先端はロックリング214の切欠部224に入り込んだままの状態である。このため、この状態では、シェアピン316が破断されてスプール14と共にロックリング214が引出方向へ回転するとストッパパウル218の先端側が切欠部224の内周部に当接して、ロックリング214の引出方向への回転を規制する。
これにより、スリーブ58の引出方向への回転が規制される。この状態でスプール14が更に引出方向に回転すると、サブトーションシャフト24のスリーブ側係合部52に対してスプール側係合部50が引出方向に回転し、サブエネルギー吸収部54にて捩じり変形が生じる。このため、この状態ではスプール14が引出方向に回転できる回転力の大きさは、メイントーションシャフト20のメインエネルギー吸収部44及びサブトーションシャフト24のサブエネルギー吸収部54の双方を捩じり変形させることができる大きさになる。
以上のようにして、本ウェビング巻取装置10では、ロック機構の作動状態でスプール14を引出方向に回転させるために要する回転力(荷重)の大きさを乗員152の体格に応じて切り替えることができる。
また、本ウェビング巻取装置10では、スプール14からのウェビング16の引出量に応じて作動する切欠部224により上記の切り替えが行われる。このため、リミットスイッチ等の電気部品やガスジェネレータを用いて上記の切り替えを行なう構成に比べてコストを安価にできる。
さらに、本実施の形態では、規制壁322がピン306に対して円孔208の半径方向外側で対向した状態でピン306がガイド溝304の開口端側へ移動しようとすると、規制壁322にピン306が当接し、リンク284の移動、ひいては、ストッパパウル218が切欠部224から抜け出る方向への移動が規制される。この規制壁322はカムギヤ244の回転でピン306の側方(ピン306に対して円孔208の半径方向外側)を通過するだけである。
このように、規制壁322は積極的にリンク284等を動かす構成ではなく、単に、移動しようとするピン306に干渉することでリンク284の移動を規制する構成である。このため、通常時においてスプール14が巻取方向及び引出方向の何れの向きに回転しても、リンク284やストッパパウル218、更には、スライドストッパ302が動かされることがない。このため、通常時におけるウェビング16の引出しや巻取りでリンク284やストッパパウル218、スライドストッパ302の動作音が生じたりすることがなく、通常時におけるウェビング16の引出しや巻取りに際してのフィーリングがよい。
さらに、本実施の形態は、このように規制壁322は積極的にリンク284等を動かす構成ではなく、単に、移動しようとするピン306に干渉することでリンク284の移動を規制する構成である。このため、仮に、カムギヤ244が何回転しようとも、リンク284が移動しない限りはピン306が規制壁322に干渉されることがない。すなわち、上記の納入状態から全引出状態までの間のカムギヤ244の回転数が1回転を超えてもリンク284やストッパパウル218、スライドストッパ302が動作することはない。このため、空ラッチ状態と全引出状態との間でのカムギヤ244の回転数を1回転未満としながらも、その回転角度を大きくすることができる。これにより、規制壁322がピン306の移動を規制する範囲の精度を高めることができる。
なお、本実施の形態では、初期状態でストッパパウル218の先端が切欠部224に入り込み、リンク284が移動すると切欠部224からストッパパウル218の先端が抜け出る構成であった。しかしながら、例えば、初期状態でストッパパウル218の先端が切欠部224から抜け出ており、リンク284が移動すると切欠部224内にストッパパウル218の先端が入り込む構成として、規制部材がリンク284の移動を規制することにより、ストッパパウル218の先端が切欠部224から抜け出た状態で維持される構成としてもよい。
また、本実施の形態では、リンク284のピン306に規制壁322が当接することでリンク284の移動、ひいては、ストッパパウル218の移動を規制する構成であったが、規制部材がストッパパウル218に直接当接してストッパパウル218の移動を規制する構成としてもよい。