以下に、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図10を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、ハイブリッド車両用駆動装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態に係る制御のフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両のスケルトン図、図3は、第1実施形態に係る車両の入出力関係図、図4は、第1実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の作動係合表を示す図、図5は、単独モータEVモードに係る共線図、図6は、両駆動EVモードに係る共線図、図7は、HVローモードに係る共線図、図8は、HVハイモードに係る共線図、図9は、第1実施形態に係る油圧回路図、図10は、第1実施形態に係る制御のタイムチャートである。
本実施形態に係る車両100は、図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。図2および図3に示すように、車両100は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を含んで構成されている。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、クラッチCL1、およびブレーキBK1を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、エンジン1、第一回転機MG1、第二回転機MG2等の動力源や、各ECU50,60,70等の制御装置を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1では、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで変速部が構成されている。また、第二遊星歯車機構20を含んで差動部が構成されている。クラッチCL1およびブレーキBK1は、第一遊星歯車機構10を変速させる複数の係合装置に含まれる。
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸の回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸は、入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、差動装置30等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。
本実施形態の第一遊星歯車機構10は、エンジン1と接続され、エンジン1の回転を伝達する第一差動機構として車両100に搭載されている。第一遊星歯車機構10は、第二遊星歯車機構20よりもエンジン1側に配置された入力側差動機構である。第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を変速して出力可能である。第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギア11、第一ピニオンギア12、第一リングギア13および第一キャリア14を有する。
第一リングギア13は、第一サンギア11と同軸上であってかつ第一サンギア11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギア12は、第一サンギア11と第一リングギア13との間に配置されており、第一サンギア11および第一リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギア12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
クラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結可能なクラッチ装置である。クラッチCL1は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等のクラッチ装置がクラッチCL1として用いられてもよい。クラッチCL1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは解放する。完全係合状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結し、第一サンギア11と第一キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、解放状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを切り離し、第一サンギア11と第一キャリア14との相対回転を許容する。つまり、解放状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、クラッチCL1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。
ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBK1は、第一サンギア11に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBK1は、クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等のクラッチ装置がブレーキBK1として用いられてもよい。ブレーキBK1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは解放する。完全係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを連結し、第一サンギア11の回転を規制することができる。一方、解放状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを切り離し、第一サンギア11の回転を許容する。なお、ブレーキBK1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を許容する。
本実施形態の第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と駆動輪32とを接続する第二差動機構として車両100に搭載されている。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10よりも駆動輪32側に配置された出力側差動機構である。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギア21、第二ピニオンギア22、第二リングギア23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。
第二リングギア23は、第二サンギア21と同軸上であってかつ第二サンギア21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギア22は、第二サンギア21と第二リングギア23との間に配置されており、第二サンギア21および第二リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、第一リングギア13と接続されており、第一リングギア13と一体回転する。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。第一リングギア13は、第一遊星歯車機構10の出力要素であり、エンジン1から第一遊星歯車機構10に入力された回転を第二キャリア24に出力することができる。第二キャリア24は、第一遊星歯車機構10の出力要素に接続された第一回転要素に対応している。
第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギア21と一体回転する。第二サンギア21は、第一回転機MG1に接続された第二回転要素に対応している。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第二リングギア23と一体回転する出力ギアである。第二リングギア23は、第二回転機MG2および駆動輪32に接続された第三回転要素に対応している。第二リングギア23は、第一回転機MG1あるいは第一遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪32に出力することができる出力要素である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。カウンタドリブンギア26とドライブピニオンギア28とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2の回転軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア26に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア26に伝達する。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。第二リングギア23は、カウンタドライブギア25、カウンタドリブンギア26、ドライブピニオンギア28、差動装置30および駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。また、第二回転機MG2は、第二リングギア23と駆動輪32との動力伝達経路に対して接続されており、第二リングギア23および駆動輪32に対してそれぞれ動力を伝達可能である。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
本実施形態の車両100では、エンジン1と同軸上に、エンジン1から近い側から順に、ブレーキBK1、クラッチCL1、第一遊星歯車機構10、カウンタドライブギア25、第二遊星歯車機構20および第一回転機MG1が配置されている。また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、入力軸2と、第二回転機MG2の回転軸34とが異なる軸上に配置された複軸式とされている。
図3に示すように、車両100は、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を有する。各ECU50,60,70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジン_ECU70は、HV_ECU50と電気的に接続されている。
MG_ECU60は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
エンジン_ECU70は、エンジン1を制御することができる。エンジン_ECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。エンジン_ECU70は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数、第二回転機MG2の回転数、動力伝達装置の出力軸の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジン_ECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチCL1およびブレーキBK1をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、クラッチCL1に対する供給油圧(係合油圧)PbCL1の指令値およびブレーキBK1に対する供給油圧(係合油圧)PbBK1の指令値をそれぞれ出力する。図9に示す油圧回路2−1は、各係合油圧PbCL1,PbBK1の指令値に応じてクラッチCL1およびブレーキBK1に対する供給油圧を制御する。
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。
EV走行は、第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行モードとして、第二回転機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモード(単独駆動EVモード)と、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる両駆動EVモード(両モータEVモード)を有する。
図4の係合表において、クラッチCL1の欄およびブレーキBK1の欄の丸印は、係合を示し、空欄は解放を示す。また、三角印は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかを係合し、他方を解放することを示す。単独モータEVモードは、例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を共に解放して実行される。図5は、単独モータEVモードに係る共線図である。共線図において、符号S1,C1,R1は、それぞれ第一サンギア11、第一キャリア14、第一リングギア13を示し、符号S2,C2,R2は、それぞれ第二サンギア21、第二キャリア24、第二リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が解放している。ブレーキBK1が解放していることで、第一サンギア11の回転が許容され、クラッチCL1が解放していることで、第一遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第二回転機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第二リングギア23は、駆動輪32の回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第二リングギア23の回転方向とする。HV_ECU50は、第一回転機MG1をジェネレータとして作動させて引き摺り損失を低減させる。具体的には、HV_ECU50は、第一回転機MG1にわずかなトルクをかけて発電させ、第一回転機MG1の回転数を0回転とする。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数を0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数を0としてもよい。
第一リングギア13は、第二キャリア24に連れ回り正回転する。第一遊星歯車機構10では、クラッチCL1およびブレーキBK1が解放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1は連れ回されず、第一キャリア14は回転を停止する。よって回生量を大きく取ることが可能である。第一サンギア11は空転して負回転する。なお、第一遊星歯車機構10のニュートラル(中立)状態は、第一リングギア13と第一キャリア14との間で動力が伝達されない状態、すなわちエンジン1と第二遊星歯車機構20とが切り離され、動力の伝達が遮断された状態である。第一遊星歯車機構10は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の少なくともいずれか一方が係合していると、エンジン1と第二遊星歯車機構20とを接続する接続状態となる。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリの充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することで、エンジン1を駆動輪32と接続し、エンジンブレーキを駆動輪32に作用させることができる。図4に三角印で示すように、単独モータEVモードでクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第一回転機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両駆動EVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合する。図6は、両駆動EVモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することで、第一遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBK1が係合することで、第一サンギア11の回転が規制される。従って、第一遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第一リングギア13の回転が規制されることで、これと接続された第二キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第二キャリア24は、回転が規制されていることで、第一回転機MG1のトルクに対して反力を取り、第一回転機MG1のトルクを第二リングギア23から出力させることができる。第一回転機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第二リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第一回転機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第二リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
HV走行では、差動部としての第二遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部の第一遊星歯車機構10は、ロー/ハイの切り替えがなされる。図7は、ロー状態のHV走行モード(以下、「HVローモード」とも記載する。)に係る共線図、図8は、ハイ状態のHV走行モード(以下、「HVハイモード」とも記載する。)に係る共線図である。
HVローモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBK1を解放する。クラッチCL1が係合することにより、第一遊星歯車機構10は差動が規制され、各回転要素11,13,14が一体回転する。従って、エンジン1の回転は増速も減速もされず、等速で第一リングギア13から第二キャリア24に伝達される。
一方、HVハイモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を解放し、ブレーキBK1を係合する。ブレーキBK1が係合することにより、第一サンギア11の回転が規制される。よって、第一遊星歯車機構10は、第一キャリア14に入力されたエンジン1の回転が増速されて第一リングギア13から出力されるオーバドライブ(OD)状態となる。このように、第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を増速して出力することができる。オーバドライブ時の第一遊星歯車機構10の変速比は、例えば、0.7とすることができる。
このように、クラッチCL1およびブレーキBK1からなる切替装置は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する状態と、第一遊星歯車機構10の差動を許容する状態とを切り替えて第一遊星歯車機構10を変速させる。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む変速部によってHVハイモードとHVローモードとの切り替えが可能であり、車両100の伝達効率を向上させることができる。また、変速部の後段には、直列に差動部としての第二遊星歯車機構20が接続されている。第一遊星歯車機構10がオーバドライブであるため、第一回転機MG1を大きく高トルク化しなくてもよいという利点がある。
HV_ECU50は、例えば、低車速かつ要求駆動力が小さい低負荷のモータ走行域では、EV走行を選択する。モータ走行域では、例えば、低負荷時は単独モータEVモードが選択され、高負荷時は両駆動EVモードが選択される。モータ走行域よりも高車速や高負荷の領域は、エンジン走行域である。HV_ECU50は、エンジン走行域の中低車速や高負荷の領域ではHVローモードを選択し、高車速かつ低負荷の領域ではHVハイモードを選択する。高車速かつ低負荷時に変速部をオーバドライブとすることで、燃費の向上を図ることができる。
本実施形態では、HVハイモードとHVローモードとの切り替えによりエンジン1の回転を変速して出力することで、メカニカルポイントが2つとなり、燃費を向上させることができる。なお、メカニカルポイントは、遊星歯車機構10,20に入力される動力が電気パスを介さずに機械的な伝達によって全てカウンタドライブギア25に伝達される高効率な動作点である。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10がエンジン1の回転を増速して第一リングギア13から出力することができる。従って、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10を備えずに第二キャリア24に対して直接エンジン1が接続されている場合のメカニカルポイントに対して、更にハイギア側にもう一つのメカニカルポイントを有する。つまり、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、ハイギア側に2つのメカニカルポイントを有する。よって、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、高速走行時の伝達効率向上による燃費の向上を図ることができるハイブリッドシステムを実現できる。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、変速部のクラッチCL1およびブレーキBK1を係合することで、第一遊星歯車機構10の出力要素および第二遊星歯車機構20の入力要素の回転を規制することができ、両駆動EVモードによる走行を可能とできる。このため、両駆動EVモードを実現するために別途クラッチ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。本実施形態のレイアウトでは、第二回転機MG2の減速比を大きく取ることができる。また、FFあるいはRRレイアウトによりコンパクトな配置を実現できる。
(後進走行)
後進走行をする場合、エンジン走行中は、第一回転機MG1がジェネレータとして発電を行い、第二回転機MG2がモータとして力行し、負回転して負トルクを出力して走行する。バッテリの充電状態が十分であるときは、単独駆動EVモードで第二回転機MG2が単独で逆回転してモータ走行するようにしてもよい。また、第二キャリア24を固定して両駆動EVモードで後進走行することも可能である。
(協調変速制御)
HV_ECU50は、HVハイモードとHVローモードとの切り替えを行う場合、第一遊星歯車機構10と第二遊星歯車機構20とを同時に変速させる協調変速制御を実行することができる。HV_ECU50は、協調変速制御において、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の一方の変速比を増加させ、他方の変速比を減少させる。
HV_ECU50は、HVハイモードからHVローモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をハイギア側に変化させる。これにより、車両100のエンジン1から駆動輪32までの全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。エンジン1から駆動輪32までの変速比の変化が抑制されることで、変速に伴うエンジン回転数の調節量を低減させ、あるいはエンジン回転数の調節を不要とすることができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をロー側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
一方、HV_ECU50は、HVローモードからHVハイモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をローギア側に変化させる。これにより、車両100全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をハイ側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
第二遊星歯車機構20の変速比の調節は、例えば、第一回転機MG1の回転数の制御によって行われる。HV_ECU50は、例えば、入力軸2とカウンタドライブギア25との間の変速比を無段階に変化させるように第一回転機MG1を制御する。これにより、遊星歯車機構10,20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む全体、すなわち差動部と変速部を含む変速装置が電気的無段変速機として作動する。差動部と変速部を含む変速装置の変速比幅がワイドであるため、差動部から駆動輪32までの変速比を比較的大きく取れる。また、HV走行モードの高車速走行時の動力循環が低減される。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、クラッチCL1とブレーキBK1とが同時に係合することを抑制することができる油圧回路2−1を有している。
図9に示すように、油圧回路2−1は、第一オイルポンプ41と、第二オイルポンプ51と、第一リニアソレノイドSL1と、第一同時係合防止バルブ46と、第二リニアソレノイドSL2と、第二同時係合防止バルブ48と、切替バルブ49とを含んで構成されている。
第一オイルポンプ41は、エンジン1の回転によって駆動される機械式ポンプであり、複数の係合装置CL1,BK1に対して油圧を供給する。第一オイルポンプ41は、ライン圧油路42にオイルを吐出する。第二オイルポンプ51は、電動式のモータ52の回転によって駆動される電動オイルポンプである。第二オイルポンプ51は、例えば、エンジン1が停止しているときに駆動されてライン圧油路42にオイルを吐出する。
第一オイルポンプ41の吐出油路および第二オイルポンプ51の吐出油路には、逆止弁43a,43bが配置されている。逆止弁43aは、第一オイルポンプ41からライン圧油路42に向かうオイルの流れを許容し、ライン圧油路42から第一オイルポンプ41に向かうオイルの流れを規制する。逆止弁43bは、第二オイルポンプ51からライン圧油路42に向かうオイルの流れを許容し、ライン圧油路42から第二オイルポンプ51に向かうオイルの流れを規制する。
ライン圧油路42には、プライマリレギュレータバルブ44が接続されている。ライン圧油路42の油圧は、プライマリレギュレータバルブ44によってライン圧PLに調圧される。ライン圧油路42は、第一供給油路45を介してクラッチCL1に接続されている。第一供給油路45には、第一リニアソレノイドSL1および第一同時係合防止バルブ46が配置されている。第一リニアソレノイドSL1は、ライン圧油路42から供給される油圧を調圧し、直接圧方式でクラッチCL1の係合油圧PbCL1を作る。第一リニアソレノイドSL1は、クラッチCL1の係合油圧PbCL1を0(閉弁状態)からライン圧PLまでの任意の油圧に調圧することができる。
ライン圧油路42は、第二供給油路47を介してブレーキBK1に接続されている。第二供給油路47には、第二リニアソレノイドSL2および第二同時係合防止バルブ48が配置されている。第二リニアソレノイドSL2は、ライン圧油路42から供給される油圧を調圧し、直接圧方式でブレーキBK1の係合油圧PbBK1を作る。第二リニアソレノイドSL2は、ブレーキBK1の係合油圧PbBK1を0(閉弁状態)からライン圧PLまでの任意の油圧に調圧することができる。
第一同時係合防止バルブ46は、第一リニアソレノイドSL1とクラッチCL1との間に配置されている。第一同時係合防止バルブ46は、複数の係合装置CL1,BK1が同時に係合することを規制するバルブであり、第一リニアソレノイドSL1とクラッチCL1とを連通する開弁状態と、第一リニアソレノイドSL1とクラッチCL1とを遮断する閉弁状態とに切り替え可能である。閉弁状態の第一同時係合防止バルブ46は、クラッチCL1に作用している係合油圧PbCL1を解放し、クラッチCL1を解放させる。第一同時係合防止バルブ46は、リターンスプリング46aによって開弁方向の付勢力を発生させている。
第一同時係合防止バルブ46は、分岐油路47aを介して第二供給油路47と接続されている。分岐油路47aは、第二リニアソレノイドSL2よりも第二同時係合防止バルブ48側の第二供給油路47と第一同時係合防止バルブ46とを接続する。第二リニアソレノイドSL2を介して供給される係合油圧PbBK1は、分岐油路47aを介して第一同時係合防止バルブ46に供給され、第一同時係合防止バルブ46に対して閉弁方向の力を発生させる。第一同時係合防止バルブ46は、係合油圧PbBK1が作用していない場合、リターンスプリング46aの付勢力によって開弁し、第一リニアソレノイドSL1とクラッチCL1とを連通する。
第二同時係合防止バルブ48は、第二リニアソレノイドSL2とブレーキBK1との間に配置されている。第二同時係合防止バルブ48は、複数の係合装置CL1,BK1が同時に係合することを規制するバルブであり、第二リニアソレノイドSL2とブレーキBK1とを連通する開弁状態と、第二リニアソレノイドSL2とブレーキBK1とを遮断する閉弁状態とに切り替え可能である。閉弁状態の第二同時係合防止バルブ48は、ブレーキBK1に作用している係合油圧PbBK1を解放し、ブレーキBK1を解放させる。第二同時係合防止バルブ48は、リターンスプリング48aによって開弁方向の付勢力を発生させている。
第二同時係合防止バルブ48は、分岐油路45aを介して第一供給油路45と接続されている。分岐油路45aは、第一リニアソレノイドSL1よりも第一同時係合防止バルブ46側の第一供給油路45と第二同時係合防止バルブ48とを連通する。第一リニアソレノイドSL1を介して供給される油圧は、分岐油路45aを介して第二同時係合防止バルブ48に供給され、第二同時係合防止バルブ48に対して閉弁方向の力を発生させる。第二同時係合防止バルブ48は、係合油圧PbCL1が作用していない場合、リターンスプリング48aの付勢力によって開弁し、第二リニアソレノイドSL2とブレーキBK1とを連通する。
切替バルブ49は、開閉することにより、分岐油路45a,47aを連通状態あるいは遮断状態に切り替えるバルブである。切替バルブ49の開弁状態では、分岐油路45aが第一供給油路45と第二同時係合防止バルブ48とを連通し、かつ分岐油路47aが第二供給油路47と第一同時係合防止バルブ46とを連通する。一方、切替バルブ49の閉弁状態では、分岐油路45aが遮断されて第二同時係合防止バルブ48に作用していた係合油圧PbCL1が解放され、かつ分岐油路47aが遮断されて第一同時係合防止バルブ46に作用していた係合油圧PbBK1が解放される。切替バルブ49は、リターンスプリング49aによって閉弁方向の付勢力を発生させるノーマルクローズタイプの電磁弁である。ソレノイド49bは、通電されると開弁方向の力を発生させ、リターンスプリング49aの付勢力に抗して切替バルブ49を開弁させる。
第二オイルポンプ51および切替バルブ49は、例えば、HV_ECU50によって制御される。本実施形態に係るHV_ECU50は、モータ走行中、すなわち第一オイルポンプ41が駆動できない状態では第二オイルポンプ51によって油圧を発生させる。また、モータ走行で意図的に第二オイルポンプ51を駆動しているとき以外は油圧が発生しないようにモータ52を制御する。
また、本実施形態に係るHV_ECU50は、HV走行モードおよび単独モータEVモードでは、切替バルブ49を開弁する。切替バルブ49が図9に示す開弁状態とされると、分岐油路45aを介して第一供給油路45と第二同時係合防止バルブ48とが連通される。第一リニアソレノイドSL1によって調圧された係合油圧PbCL1は、分岐油路45aを介して第二同時係合防止バルブ48に供給され、第二同時係合防止バルブ48に対して閉弁方向の力を発生させる。
係合油圧PbCL1が所定油圧以上の場合、係合油圧PbCL1による閉弁方向の力がリターンスプリング48aの付勢力に抗して第二同時係合防止バルブ48を閉弁させる。この所定油圧は、例えば、クラッチCL1が係合開始する油圧以下の油圧である。ブレーキBK1が係合している場合に、クラッチCL1の係合油圧PbCL1が立ち上がると、係合油圧PbCL1によって第二同時係合防止バルブ48が閉弁する。これにより、ブレーキBK1に作用している係合油圧PbBK1が解放され、ブレーキBK1が解放する。よって、クラッチCL1とブレーキBK1とが同時に係合することが規制される。
また、切替バルブ49が開弁状態とされると、分岐油路47aを介して第二供給油路47と第一同時係合防止バルブ46とが連通される。第二リニアソレノイドSL2によって調圧された係合油圧PbBK1は、分岐油路47aを介して第一同時係合防止バルブ46に供給され、第一同時係合防止バルブ46に対して閉弁方向の力を発生させる。
係合油圧PbBK1が所定油圧以上の場合、係合油圧PbBK1による閉弁方向の力がリターンスプリング46aの付勢力に抗して第一同時係合防止バルブ46を閉弁させる。この所定油圧は、例えば、ブレーキBK1が係合開始する油圧以下の油圧である。クラッチCL1が係合している場合に、ブレーキBK1の係合油圧PbBK1が立ち上がると、係合油圧PbBK1によって第一同時係合防止バルブ46が閉弁する。これにより、クラッチCL1に作用している係合油圧PbCL1が解放され、クラッチCL1が解放する。よって、クラッチCL1とブレーキBK1とが同時に係合することが規制される。
「クラッチCL1とブレーキBK1とが同時に係合する」とは、クラッチCL1およびブレーキBK1が同じタイミングで解放から係合に切り替わることに限らず、クラッチCL1とブレーキBK1が共に係合状態となることを示す。例えば、クラッチCL1が既に係合している状態からブレーキBK1が係合して両方が係合状態となることや、ブレーキBK1が既に係合している状態からクラッチCL1が係合して両方が係合状態となることも、同時に係合することに含まれる。
HV_ECU50は、両駆動EVモードでは切替バルブ49を閉弁する。切替バルブ49が閉弁状態とされると、分岐油路45a,47aは切替バルブ49によって遮断される。また、第二同時係合防止バルブ48に作用する係合油圧PbCL1および第一同時係合防止バルブ46に作用する係合油圧PbBK1はそれぞれ解放される。これにより、同時係合防止バルブ46,48は非作動となり、クラッチCL1とブレーキBK1が同時に係合することを許容する。
HV_ECU50は、両駆動EVモードを実行する場合、切替バルブ49を閉弁状態とし、第一リニアソレノイドSL1および第二リニアソレノイドSL2に係合油圧PbCL1,PbBK1をそれぞれ調圧させる。係合油圧PbCL1によってクラッチCL1が係合し、係合油圧PbBK1によってブレーキBK1が係合することで、両駆動EVモードによる走行が可能となる。
このように、本実施形態の油圧回路2−1は、HV走行モードや単独モータEVモードでは同時係合防止バルブ46,48を有効としてクラッチCL1とブレーキBK1の同時係合を規制することができ、両駆動EVモードでは同時係合防止バルブ46,48を無効化してクラッチCL1とブレーキBK1の同時係合を許容することができる。例えば、HV走行モードにおいてクラッチCL1とブレーキBK1の同時係合が許容されてしまうと、走行中に第一遊星歯車機構10の回転をロックすることとなる。その結果、大きなトルクが入力されてクラッチCL1やブレーキBK1に滑りが発生する可能性がある。これに対して、本実施形態の油圧回路2−1によれば、クラッチCL1とブレーキBK1の同時係合を適切に規制し、クラッチCL1およびブレーキBK1を保護することができる。
ここで、走行中に駆動輪32側からトルクが入力されることがある。クラッチCL1やブレーキBK1を係合して走行中に駆動輪32側から大きなトルクが入力されると、クラッチCL1やブレーキBK1に滑りが発生する可能性がある。また、駆動輪32側からの入力トルクが第一遊星歯車機構10を介してエンジン1に伝達され、エンジン1が逆回転してしまう可能性がある。
駆動輪32側から入力されるトルクとしては、例えば、波状路を走行するときに路面から駆動輪32に入力されるトルクが挙げられる。路面から大きなトルクが入力されることで、大きなトルクがクラッチCL1、ブレーキBK1やエンジン1に入力されてしまうことがある。また、路面からの入力トルクによって駆動系に共振が発生すると、大きなトルクがクラッチCL1、ブレーキBK1やエンジン1に入力されてしまう。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、走行中に駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の少なくともいずれか一方の係合力を低減し、第二回転機MG2を動力源として走行する。これにより、クラッチCL1やブレーキBK1における滑りの発生を抑制することができる。また、エンジン1の逆回転を抑制することができる。
図1および図10を参照して、本実施形態に係る制御について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、車両100の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。図10のタイムチャートにおいて、(a)はエンジン回転数、(b)はMG1トルク、(c)はMG1回転数、(d)はMG2トルク、(e)はMG2回転数、(f)はクラッチCL1の油圧、(g)はブレーキBK1の油圧、(h)はアクセル開度を示す。
ステップS10では、HV_ECU50により、両駆動走行中であるか否かが判定される。HV_ECU50は、第一回転機MG1と第二回転機MG2を動力源とした両駆動EVモードで走行しているか否かを判定する。ステップS10の判定の結果、両駆動走行中であると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローは終了する。図10では、時刻t1以前から両駆動EVモードで走行している。
ステップS20では、HV_ECU50により、出力軸からの入力トルクが所定トルクTAよりも大であるか否かが判定される。HV_ECU50は、例えば、駆動軸31からの入力トルクに基づいてステップS20の判定を行う。駆動軸31からの入力トルクは、例えば、駆動軸31等の駆動系の回転要素の回転数変化とイナーシャとに基づいて推定可能である。所定トルクTAは、例えば、クラッチCL1やブレーキBK1のトルク容量に基づいて定められる。一例として、所定トルクTAは、駆動軸31からの入力トルクが所定トルクTAである場合にクラッチCL1やブレーキBK1に伝達されるトルクがクラッチCL1やブレーキBK1の最大トルク容量(あるいは最大トルク容量から決められた許容最大トルク)となる値とされる。
ステップS20の判定の結果、出力軸からの入力トルクが所定トルクTAよりも大であると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)にはステップS50に進む。図10では、時刻t1にステップS20で肯定判定がなされる。なお、出力軸からの入力トルクが所定トルクTA以上である場合にステップS20で肯定判定がなされるようにしてもよい。
ステップS30では、HV_ECU50により、ブレーキBK1とクラッチCL1の係合力低減制御が実施される。HV_ECU50は、ブレーキBK1の係合油圧PbBK1およびクラッチCL1の係合油圧PbCL1をそれぞれ低減させる。本実施形態では、HV_ECU50は、ブレーキBK1およびクラッチCL1をそれぞれ解放する。これにより、変速部はニュートラルとなり、エンジン1はアウトプットから切り離される。従って、共振によってアウトプット上にトルク振動が発生しても、共振によるトルクの入力に備えて係合油圧PbCL1,PbBK1を上げる必要がない。また、エンジン1がアウトプットから完全に切り離されていることで、エンジン回転数が上下することがなくなる。ステップS30が実行されると、ステップS40に進む。図10では、時刻t2にクラッチCL1の係合油圧PbCL1およびブレーキBK1の係合油圧PbBK1の低減が開始される。
なお、本実施形態では、駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、係合油圧PbBK1,PbCL1の低減開始と同時または低減開始前に、MG1トルクが低減される。MG1トルクの大きさを低減することにより、共振の成長を抑制すると同時に、クラッチCL1およびブレーキBK1の解放を可能(容易)とすることができる。また、MG1トルクを低減し、第二遊星歯車機構20を介したトルクの伝達を抑制することで、エンジン1に対する負回転方向のトルクの入力を抑制することができる。本実施形態では、時刻t2において、MG1トルクが非連続的に低減される。なお、MG1トルクの低減分を補償するトルクを第二回転機MG2に出力させるようにしてもよい。このようにすれば、MG1トルクの低減による車両100の駆動力の変動を抑制することができる。
ステップS40では、HV_ECU50により、第二回転機MG2による単独走行が実行される。HV_ECU50は、ブレーキBK1およびクラッチCL1を解放した状態で実行可能なモードである単独モータEVモードで車両100を走行させる。ステップS40が実行されると、本制御フローは終了する。図10に示すように、本実施形態では、クラッチCL1およびブレーキBK1を解放した後の回転状態は、両駆動EVモードの回転数が維持される。例えば、MG1回転数は、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力低減制御が開始された時刻t2以降も時刻t2以前と同じ回転数とされる。これにより、駆動輪32側から大きなトルクが入力されなくなって両駆動EVモードに復帰するときのクラッチCL1やブレーキBK1の回転数同期制御を不要とすることができ、応答性が向上する。
ステップS50では、HV_ECU50により、ブレーキBK1とクラッチCL1を同時係合する制御の継続が許可される。HV_ECU50は、切替バルブ49を開弁状態とし、かつクラッチCL1およびブレーキBK1の係合状態を継続して両駆動EVモードを実行する。ステップS50が実行されると、本制御フローは終了する。
以上説明したように、本実施形態では、出力軸からの入力トルクが大きい場合、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力が低減される。これにより、クラッチCL1およびブレーキBK1が保護され、また第一遊星歯車機構10を介したエンジン1へのトルク伝達が抑制される。
また、本実施形態では、出力軸からの入力トルクが大きい場合、両駆動EVモードから単独モータEVモードに移行する。単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が解放しており、第一サンギア11がフリーとなる。イナーシャの小さい第一サンギア11がフリーとなることで、第一リングギア13に入力されたトルクがエンジン1に伝達されることが抑制される。第一サンギア11および第一リングギア13には、回転機等の重量物が付いていないため、エンジン1の出力軸にトルクが作用することが抑制され、エンジン1の逆回転が抑制される。
なお、本実施形態では、第一遊星歯車機構10を変速させる係合装置が、クラッチCL1およびブレーキBK1であったが、係合装置の個数および種類は、これには限定されない。また、クラッチCL1は第一サンギア11と第1キャリア14とを連結するものには限定されず、第一遊星歯車機構10の他の回転要素同士を連結するものであってもよい。ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制するものには限定されず、第一遊星歯車機構10の他の回転要素の回転を規制するものであってもよい。
本実施形態では、機関がエンジン1である場合を例に説明したが、車両100には、エンジン1に代えて他の機関が搭載されてもよい。
[第1実施形態の第1変形例]
第1実施形態の第1変形例について説明する。上記第1実施形態では、走行中に駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、HV_ECU50がクラッチCL1およびブレーキBK1を解放したが、これに代えて、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の少なくともいずれか一方を半係合としてもよい。例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力を低減してクラッチCL1を解放し、ブレーキBK1を半係合させてもよく、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力を低減してブレーキBK1を解放し、クラッチCL1を半係合させてもよい。また、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力を低減してクラッチCL1およびブレーキBK1を半係合させてもよい。係合装置を半係合状態に維持しておくことで、例えば両駆動EVモードへ復帰するときの応答性を向上させることができる。
また、走行中に駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかの係合力を低減し、他方の係合力を低減しないようにしてもよい。例えば、駆動輪32側からの入力トルクによって、クラッチCL1には規定の最大トルク容量以上のトルクが伝達されるが、ブレーキBK1に伝達されるトルクは規定の最大トルク容量未満となるような場合、クラッチCL1の係合力を低減し、ブレーキBK1の係合力は低減しないようにしてもよい。
[第1実施形態の第2変形例]
第1実施形態の第2変形例について説明する。走行中に駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、クラッチCL1およびブレーキBK1を解放する際に、いずれか一方を先に解放するようにしてもよい。例えば、クラッチCL1を先に解放し、ブレーキBK1をクラッチCL1の解放完了後に解放するようにしてもよい。この場合に、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力低減は並行して行ってもよい。
クラッチCL1が解放することで、第一遊星歯車機構10は、ハイギアの状態となり、第一リングギア13の回転量に対してエンジン1の回転量が小さくなる。従って、駆動輪32側からの振動トルクの入力等によりエンジン1に対して逆回転方向のトルクが作用したとしても、エンジン1の逆回転方向の回転量が低減される。
[第1実施形態の第3変形例]
第1実施形態の第3変形例について説明する。走行中に駆動輪32側から所定値以上のトルクの入力がある場合、第一回転機MG1によってエンジン1の逆回転を抑制する方向のトルクを出力させるようにしてもよい。例えば、第一回転機MG1の出力トルクを正回転方向のトルクとすることで、エンジン1の逆回転を抑制することが可能である。例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を解放して変速部をニュートラルとした後で第一回転機MG1に正トルクを出力させるようにしてもよい。係合装置の解放後にMG1トルクを正トルクにすることで、エンジン1の逆回転を抑制しつつ駆動輪32に対する出力トルクの変動を抑制することができる。
クラッチCL1およびブレーキBK1を解放する前に第一回転機MG1に正トルクを出力させるようにしてもよい。例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力を低減している途中に駆動輪32側から大きなトルクの入力があり、クラッチCL1やブレーキBK1の滑りが発生する可能性があるときに、そのトルクを打ち消す方向のトルクを第一回転機MG1によって発生させるようにしてもよい。
[第1実施形態の第4変形例]
第1実施形態の第4変形例について説明する。第一遊星歯車機構10の各回転要素に対するエンジン1、ブレーキBK1、クラッチCL1、第二遊星歯車機構20の接続は、例示したものには限定されない。例えば、エンジン1は、第1キャリア14以外の回転要素に接続されてもよい。エンジン1の回転が減速して第二遊星歯車機構20に対して出力されるように接続関係が定められてもよい。
第二遊星歯車機構20の各回転要素に対する第一回転機MG1、第二回転機MG2、駆動輪32の接続は、例示した者には限定されない。例えば、第一回転機MG1は、第二サンギア21以外の回転要素に接続されてもよい。
[第1実施形態の第5変形例]
第1実施形態の第5変形例について説明する。上記第1実施形態では、出力軸からの入力トルクが所定トルクTAよりも大である場合にクラッチCL1およびブレーキBK1の係合力が低減されたが、これに代えて、出力軸からの入力トルクが所定トルクTAよりも大となると予測される場合にクラッチCL1およびブレーキBK1の係合力が低減されてもよい。出力軸からの予測入力トルクは、出力軸からの入力トルクの推定値に基づいて算出可能である。
[第2実施形態]
図11を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図11は、第2実施形態に係る制御のフローチャートである。本実施形態について、上記第1実施形態と異なる点は、両駆動EVモードへの復帰条件が定められている点である。クラッチCL1およびブレーキBK1の係合力を低減して第二回転機MG2を動力源として走行する状態から両駆動EVモードへの復帰判定では、ドライバビリティを確保する観点から、アクセルオン時はクラッチCL1とブレーキBK1の同時係合は許可されず、アクセルオフ判定がなされた場合に同時係合が許可される。
図11を参照して、本実施形態の制御について説明する。図11に示す制御フローは、例えば、車両100の走行時に所定の間隔で繰り返し実行される。
ステップS100からステップS130までは、上記第1実施形態のステップS10からステップS40までと同様とすることができる。すなわち、両駆動走行中であり(ステップS100−Y)、出力軸からの入力トルクが所定トルクTAよりも大(ステップS110−Y)であると、ブレーキBK1とクラッチCL1の係合力低減制御がなされ(ステップS120)、第二回転機MG2による単独走行(ステップS130)が実行される。
ステップS100で否定判定がなされると、ステップS140に進む。ステップS140では、HV_ECU50により、アクセル開度が0%であるか否かが判定される。アクセル開度は、運転者の加速要求を示すものである。本実施形態では、アクセル開度が0%よりも大きいときは運転者の加速要求が検出されていると判定される。
ステップS140の判定の結果、アクセル開度が0%であると判定された場合(ステップS140−Y)にはステップS150に進み、そうでない場合(ステップS140−N)には本制御フローは終了する。なお、アクセル開度が予め定められた所定開度以下である場合にステップS140で肯定判定がなされるようにしてもよい。所定開度は、同時係合に伴うショックの大きさ等に基づいて定めることができる。また、定速走行やアクセルONの減速走行時にステップ140で肯定判定がなされるようにしてもよい。
ステップS150では、HV_ECU50により、ブレーキBK1とクラッチCL1の同時係合制御が許可される。HV_ECU50は、切替バルブ49を閉弁状態とし、ブレーキBK1およびクラッチCL1を共に係合させる同時係合を許可する。これにより、両駆動EVモードを実行可能となる。ステップS150が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS140で否定判定がなされた場合、ステップS150は実行されない。従って、係合装置(クラッチCL1、ブレーキBK1)の係合力を低減し、かつ第二回転機MG2を動力源として走行する制御からの復帰(例えば、両駆動EVモードへの復帰)は許可されない。
ステップS110で否定判定がなされると、本制御フローは終了し、同時係合制御の継続が許可される。
上記の各実施形態および変形例によって、以下の動力伝達装置が開示された。
「機関と、差動部からなり、機関の出力軸は係合装置により固定可能に構成され、差動部の第1要素は機関の出力軸に連結され、差動部の第2要素に第一回転機が連結され、差動部の第3要素に第二回転機が連結されるものにおいて、出力軸から所定値以上の入力があった場合、係合装置の係合力を低減し、第二回転機単独走行にする動力伝達装置。」
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。