以下に、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図10を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、ハイブリッド車両用駆動装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の動作を示すフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両のスケルトン図、図3は、第1実施形態に係る車両の入出力関係図、図4は、第1実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の作動係合表を示す図である。
本実施形態に係る車両100は、図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。図2および図3に示すように、車両100は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を含んで構成されている。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1、第一回転機MG1、第二回転機MG2、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、各ECU50,60,70等の制御装置を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1では、第一遊星歯車機構10を含んで変速部が構成されている。また、第二遊星歯車機構20を含んで差動部が構成されている。また、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで変速部を変速させる係合装置が構成されている。
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸の回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸は、入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、差動装置30等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。
本実施形態の第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を変速して出力可能な差動機構である。第一遊星歯車機構10は、エンジン1と第二遊星歯車機構20との間に配置されている。第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギア11、第一ピニオンギア12、第一リングギア13および第一キャリア14を有する。
第一リングギア13は、第一サンギア11と同軸上であってかつ第一サンギア11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギア12は、第一サンギア11と第一リングギア13との間に配置されており、第一サンギア11および第一リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギア12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
クラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結可能なクラッチ装置である。クラッチCL1は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等のクラッチ装置がクラッチCL1として用いられてもよい。クラッチCL1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結し、第一サンギア11と第一キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、開放状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを切り離し、第一サンギア11と第一キャリア14との相対回転を許容する。つまり、開放状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、クラッチCL1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。
ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBK1は、第一サンギア11に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBK1は、クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等のクラッチ装置がブレーキBK1として用いられてもよい。ブレーキBK1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを連結し、第一サンギア11の回転を規制することができる。一方、開放状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを切り離し、第一サンギア11の回転を許容する。なお、ブレーキBK1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を許容する。
本実施形態の第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と駆動輪32とを接続している。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギア21、第二ピニオンギア22、第二リングギア23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。
第二リングギア23は、第二サンギア21と同軸上であってかつ第二サンギア21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギア22は、第二サンギア21と第二リングギア23との間に配置されており、第二サンギア21および第二リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、第一リングギア13と接続されており、第一リングギア13と一体回転する。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。第一リングギア13は、第一遊星歯車機構10の出力要素であり、エンジン1から第一遊星歯車機構10に入力された回転を第二キャリア24に出力することができる。第二キャリア24は、第一遊星歯車機構10の出力要素に接続されており、第一遊星歯車機構10を介してエンジン1に接続された第一回転要素に対応している。
第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギア21と一体回転する。第二サンギア21は、第一回転機MG1に接続された第二回転要素に対応している。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第二リングギア23と一体回転する出力ギアである。第二リングギア23は、第二回転機MG2および駆動輪32に接続された第三回転要素に対応している。第二リングギア23は、第一回転機MG1あるいは第一遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪32に出力することができる出力要素である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。カウンタドリブンギア26とドライブピニオンギア28とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2の回転軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア26に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア26に伝達する。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。第二リングギア23は、カウンタドライブギア25、カウンタドリブンギア26、ドライブピニオンギア28、差動装置30および駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。また、第二回転機MG2は、第二リングギア23と駆動輪32との動力伝達経路に対して接続されており、第二リングギア23および駆動輪32に対してそれぞれ動力を伝達可能である。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
本実施形態の車両100では、エンジン1と同軸上に、エンジン1から近い側から順に、ブレーキBK1、クラッチCL1、第一遊星歯車機構10、カウンタドライブギア25、第二遊星歯車機構20および第一回転機MG1が配置されている。また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、入力軸2と、第二回転機MG2の回転軸34とが異なる軸上に配置された複軸式とされている。
図3に示すように、車両100は、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジンECU70を有する。各ECU50,60,70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジンECU70は、HV_ECU50と電気的に接続されている。
MG_ECU60は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
エンジンECU70は、エンジン1を制御することができる。エンジンECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。エンジンECU70は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数、第二回転機MG2の回転数、動力伝達装置の出力軸の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジンECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチCL1およびブレーキBK1をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、クラッチCL1に対する供給油圧の指令値(PbCL1)およびブレーキBK1に対する供給油圧の指令値(PbBK1)をそれぞれ出力する。図示しない油圧制御装置は、各指令値PbCL1,PbBK1に応じてクラッチCL1およびブレーキBK1に対する供給油圧を制御する。
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。
EV走行は、第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行モードとして、第二回転機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモード(単独駆動EVモード)と、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる両モータEVモード(両駆動EVモード)を有する。
図4の係合表において、クラッチCL1の欄およびブレーキBK1の欄の丸印は、係合を示し、空欄は開放を示す。また、三角印は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかを係合し、他方を開放することを示す。単独モータEVモードは、例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を共に開放して実行される。図5は、単独モータEVモードに係る共線図である。共線図において、符号S1,C1,R1は、それぞれ第一サンギア11、第一キャリア14、第一リングギア13を示し、符号S2,C2,R2は、それぞれ第二サンギア21、第二キャリア24、第二リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放している。ブレーキBK1が開放していることで、第一サンギア11の回転が許容され、クラッチCL1が開放していることで、第一遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、車両100を前進走行させる場合、MG_ECU60を介して第二回転機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第二リングギア23は、駆動輪32の回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第二リングギア23の回転方向とする。HV_ECU50は、第一回転機MG1をジェネレータとして作動させて引き摺り損失を低減させる。具体的には、HV_ECU50は、第一回転機MG1にわずかなトルクをかけて発電させ、第一回転機MG1の回転数を0回転とする。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数を0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数を0としてもよい。
第一リングギア13は、第二キャリア24に連れ回り正回転する。第一遊星歯車機構10では、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1は連れ回されず、第一キャリア14は回転を停止する。よって回生量を大きく取ることが可能である。第一サンギア11は空転して負回転する。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリの充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することで、エンジン1を駆動輪32と接続し、エンジンブレーキを駆動輪32に作用させることができる。図4に三角印で示すように、単独モータEVモードでクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第一回転機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両モータEVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合する。図6は、両モータEVモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することで、第一遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBK1が係合することで、第一サンギア11の回転が規制される。従って、第一遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第一リングギア13の回転が規制されることで、これと接続された第二キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第二キャリア24は、回転が規制されていることで、第一回転機MG1のトルクに対して反力を取り、第一回転機MG1のトルクを第二リングギア23から出力させることができる。第一回転機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第二リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第一回転機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第二リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
HV走行では、差動部としての第二遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部の第一遊星歯車機構10は、ロー/ハイの切り替えがなされる。図7は、ロー状態のHV走行モード(以下、「HVローモード」とも記載する。)に係る共線図、図8は、ハイ状態のHV走行モード(以下、「HVハイモード」とも記載する。)に係る共線図である。
HVローモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBK1を開放する。クラッチCL1が係合することにより、第一遊星歯車機構10は差動が規制され、各回転要素11,13,14が一体回転する。従って、エンジン1の回転は増速も減速もされず、等速で第一リングギア13から第二キャリア24に伝達される。
一方、HVハイモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を開放し、ブレーキBK1を係合する。ブレーキBK1が係合することにより、第一サンギア11の回転が規制される。よって、第一遊星歯車機構10は、第一キャリア14に入力されたエンジン1の回転が増速されて第一リングギア13から出力されるオーバドライブ(OD)状態となる。このように、第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を増速して出力することができる。オーバドライブ時の第一遊星歯車機構10の変速比は、例えば、0.7とすることができる。
このように、クラッチCL1およびブレーキBK1からなる切替装置は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する状態と、第一遊星歯車機構10の差動を許容する状態とを切り替えて第一遊星歯車機構10を変速させる。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10を含む変速部によってHVハイモードとHVローモードとの切り替えが可能であり、車両100の伝達効率を向上させることができる。また、変速部の後段には、直列に差動部としての第二遊星歯車機構20が接続されている。第一遊星歯車機構10がオーバドライブであるため、第一回転機MG1を大きく高トルク化しなくてもよいという利点がある。
HV_ECU50は、例えば、高車速ではHVハイモードを選択し、中低車速ではHVローモードを選択する。図9は、本実施形態のモード選択に係るマップを示す図である。図9において、横軸は車速、縦軸は要求駆動力を示す。図9に示すように、低車速かつ要求駆動力が小さい低負荷の領域は、モータ走行域である。モータ走行域では、EV走行が選択される。モータ走行域では、例えば、低負荷時は単独モータEVモードが選択され、高負荷時は両駆動EVモードが選択される。
モータ走行域よりも高車速や高負荷の領域は、エンジン走行域である。エンジン走行域は、更に、直結(ロー)領域とOD(ハイ)領域に分割されている。直結領域は、HVローモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、HVハイモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、高車速の領域であり、直結領域は、中低車速の領域である。直結領域は、OD領域よりも高負荷側に設定されている。高車速かつ低負荷時に変速部をオーバドライブとすることで、燃費の向上を図ることができる。
本実施形態では、HVハイモードとHVローモードとの切り替えによりエンジン1の回転を変速して出力することで、メカニカルポイントが2つとなり、燃費を向上させることができる。なお、メカニカルポイントは、遊星歯車機構10,20に入力される動力が電気パスを介さずに機械的な伝達によって全てカウンタドライブギア25に伝達される高効率な動作点である。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10がエンジン1の回転を増速して第一リングギア13から出力することができる。従って、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10を備えずに第二キャリア24に対して直接エンジン1が接続されている場合のメカニカルポイントに対して、更にハイギア側にもう一つのメカニカルポイントを有する。つまり、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、ハイギア側に2つのメカニカルポイントを有する。よって、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、高速走行時の伝達効率向上による燃費の向上を図ることができるハイブリッドシステムを実現できる。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合することで、第二遊星歯車機構20の入力要素の回転を規制することができ、両モータEVモードによる走行を可能とできる。このため、両モータEVモードを実現するために別途クラッチ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。本実施形態のレイアウトでは、第二回転機MG2の減速比を大きく取ることができる。また、FFあるいはRRレイアウトによりコンパクトな配置を実現できる。
(後進走行)
後進走行をする場合、エンジン走行中は、第一回転機MG1がジェネレータとして発電を行い、第二回転機MG2がモータとして力行し、負回転して負トルクを出力して走行する。バッテリの充電状態が十分であるときは、単独駆動EVモードで第二回転機MG2が単独で逆回転してモータ走行するようにしてもよい。また、第二キャリア24を固定して両駆動EVモードで後進走行することも可能である。
(協調変速制御)
HV_ECU50は、HVハイモードとHVローモードとの切り替えを行う場合、第一遊星歯車機構10と第二遊星歯車機構20とを同時に変速させる協調変速制御を実行することができる。HV_ECU50は、協調変速制御において、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の一方の変速比を増加させ、他方の変速比を減少させる。
HV_ECU50は、HVハイモードからHVローモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をハイギア側に変化させる。これにより、車両100のエンジン1から駆動輪32までの全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。エンジン1から駆動輪32までの変速比の変化が抑制されることで、変速に伴うエンジン回転数の調節量を低減させ、あるいはエンジン回転数の調節を不要とすることができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をロー側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
一方、HV_ECU50は、HVローモードからHVハイモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をローギア側に変化させる。これにより、車両100全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をハイ側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
第二遊星歯車機構20の変速比の調節は、例えば、第一回転機MG1の回転数の制御によって行われる。HV_ECU50は、例えば、入力軸2とカウンタドライブギア25との間の変速比を無段階に変化させるように第一回転機MG1を制御する。これにより、遊星歯車機構10,20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む全体、すなわち差動部と変速部を含む変速装置が電気的無段変速機として作動する。差動部と変速部を含む変速装置の変速比幅がワイドであるため、差動部から駆動輪32までの変速比を比較的大きく取れる。また、HV走行モードの高車速走行時の動力循環が低減される。
(エンジン始動制御)
HV_ECU50は、単独モータEVモードからエンジン1を始動する場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合し、エンジン回転数を上昇させて点火を行う。クラッチCL1あるいはブレーキBK1が係合すると、第一リングギア13から第一キャリア14にトルクが伝達され、エンジン1には正トルクが入力される。この正トルクにより、エンジン1が回転を開始し、エンジン回転数が上昇する。HV_ECU50は、エンジン回転数が予め定められた点火回転数以上となると、エンジン1の点火を行ってエンジン1の始動を完了する。
ここで、エンジン始動時にクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合するときに、第二遊星歯車機構20のガタ打ちによる騒音や振動が発生する可能性がある。本実施形態では、単独モータEVモードにおいて、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放され、変速部が中立となっている。この状態では、変速部と差動部との間で動力が伝達されず、差動部の噛み合い部などのガタが詰まっていない状態となりやすい。このため、エンジン始動時にクラッチCL1あるいはブレーキBK1が係合するときにガタ打ちによる騒音や振動が発生してドライバビリティの低下を招く可能性がある。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第二回転機MG2を動力源とし、かつエンジン1を停止して走行する走行モードからエンジン1を始動する場合、第一回転機MG1の制御を開始した後にクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合してエンジン1を始動する。これにより、第一回転機MG1の制御によって、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合する前に差動部のガタを予め詰めておくことができ、騒音や振動を抑制することができる。
また、本実施形態では、単独モータEVモードにおいて、図5に示すように、第二サンギア21および第一回転機MG1の回転数が0回転とされる。第二サンギア21および第一回転機MG1の回転が停止した状態でクラッチCL1やブレーキBK1が係合されると、ガタ打ちによる騒音や振動が発生しやすい。
これに対して、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第二回転機MG2を動力源とし、かつエンジン1を停止して走行する走行モードからエンジン1を始動する場合、第一回転機MG1の制御によって第一回転機MG1を回転させる。第一回転機MG1および第二サンギア21が回転していることで、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合するときのガタ打ちによる騒音や振動が抑制される。
図1および図10を参照して、第1実施形態の制御について説明する。図10は、第1実施形態の制御に係るタイムチャートである。図10において、(a)はエンジン回転数、(b)はMG1トルク、(c)はMG1回転数、(d)はMG2トルク、(e)はMG1回転数、(f)はクラッチCL1に対する供給油圧、(g)はブレーキBK1に対する供給油圧、(h)はアクセル開度を示す。図1に示す制御フローは、例えば、単駆動EVモード中に所定の間隔で繰り返し実行される。
ステップS10では、HV_ECU50により、エンジン始動判断がなされたか否かが判定される。HV_ECU50は、例えば、アクセル開度、車速、バッテリの充電状態等に基づいてステップS10の判定を行う。図10では、時刻t1にアクセル開度が所定開度θ1以上となり、エンジン始動判断がなされる。ステップS10の判定の結果、エンジン始動判断がなされたと判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)にはステップS90に進む。
ステップS20では、HV_ECU50により、MG1トルクの出力指令がなされる。HV_ECU50は、第一回転機MG1に対して、所定トルクの出力を指令する。所定トルクの大きさは、差動部のガタを詰めることができるトルクの大きさ以上であることが好ましい。また、所定トルクの大きさは、ガタ詰めをする際の騒音や振動を抑制できるものであることが好ましい。所定トルクの大きさは、例えば、所定トルクでガタ詰めをすることによる騒音や振動が、クラッチCL1やブレーキBK1の係合によるガタ打ちで発生する騒音や振動よりも小さくなるように定められる。所定トルクの向きは、正負のいずれの向きとすることも可能である。本実施形態では、所定トルクは正トルクとされている。エンジン1の始動が完了してHV走行モードへ移行すると、MG1回転数は正回転とされる。従って、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、所定トルクを正トルクとすることにより、応答性を向上させることができる。
また、本実施形態では、所定トルクの大きさは、差動部のガタを詰めることができ、かつMG1回転数を所定回転数とすることができる大きさとされている。図10では、時刻t1に第一回転機MG1に対するMG1トルクの出力指令がなされる。第一回転機MG1は、HV_ECU50からの出力指令に応じてMG1トルクを出力する。なお、第一回転機MG1は、時刻t1前にわずかに負トルクを発生させている。これは、例えば、引き摺り損失低減のためのトルクである。ステップS20が実行されると、ステップS30に進む。
ステップS30では、HV_ECU50により、係合制御が実行される。HV_ECU50は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合させる係合制御を実行する。ここでは、クラッチCL1を係合する場合の係合制御について説明する。HV_ECU50は、クラッチCL1の係合制御を開始すると、クラッチCL1に対する供給油圧を増加させていく。クラッチCL1が係合すると、第一サンギア11および第一キャリア14には、それぞれ正方向のトルクが作用し、エンジン回転数が上昇する。一方、その反力として、第一リングギア13から第二キャリア24には、負のトルクが入力される。ステップS30が実行されると、ステップS40に進む。
ステップS40では、HV_ECU50により、第一回転機MG1による反力トルクフィードバック制御が実行される。HV_ECU50は、MG1回転数Ns1を0ではない所定回転数に維持するようにMG1トルクをフィードバック制御する。クラッチCL1が係合することにより、第二キャリア24には、エンジン1を連れ回すことによる負荷トルクとして負方向の反力トルクが作用する。この反力トルクは、MG1回転数Ns1を負方向に変化させるトルクである。HV_ECU50は、反力トルクに抗してMG1回転数Ns1を所定回転数に維持するようにMG1トルクをフィードバック制御する。本実施形態の所定回転数は、正の回転数である。MG1回転数Ns1を所定回転数に維持するようにMG1トルクがフィードバック制御されることで、第一回転機MG1は反力受けとして機能し、第二キャリア24の回転数の低下を抑制し、エンジン回転数を上昇させる。
図10では、時刻t2にクラッチCL1が係合して、エンジン回転数が上昇し始める。クラッチCL1の係合に応じて、反力トルク分だけMG1トルクが増加する。HV_ECU50は、MG1トルクの増加に対応して、MG2トルクを増加させて出力トルクの変動を抑制する。ステップS40が実行されると、ステップS50に進む。
ステップS50では、HV_ECU50により、クラッチCL1の係合が完了したか否かが判定される。HV_ECU50は、例えば、クラッチCL1に対する供給油圧によりステップS50の判定を行うことができる。HV_ECU50は、遊星歯車機構10,20の各回転要素の回転数に基づいてクラッチCL1の係合完了を判定するようにしてもよい。図10では、時刻t3にクラッチCL1の係合が完了したと判定される。ステップS50の判定の結果、クラッチCL1の係合が完了したと判定された場合(ステップS50−Y)にはステップS60に進み、そうでない場合(ステップS50−N)にはステップS30に移行する。
ステップS60では、HV_ECU50により、エンジン回転数が点火回転数未満であるか否かが判定される。ステップS60では、エンジン回転数が点火に必要な回転数に達したか否かが判定される。ステップS60の判定の結果、エンジン回転数が点火回転数未満であると判定された場合(ステップS60−Y)にはステップS70に進み、そうでない場合(ステップS60−N)にはステップS80に進む。
ステップS70では、HV_ECU50により、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御が実行される。HV_ECU50は、第一回転機MG1の回転数を上昇させることにより、エンジン回転数を上昇させる。HV_ECU50は、エンジン回転数が点火回転数以上の回転数となるまで、MG1トルクによりエンジン回転数を上昇させる。図10では、時刻t3から時刻t4まで、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御が実行される。ステップS70が実行されると、ステップS80に進む。
ステップS80では、HV_ECU50により、点火が実行される。HV_ECU50は、エンジンECU70に対して、エンジン1の点火指令を出力する。エンジンECU70は、エンジン1の点火を実行し、エンジン1の始動を完了する。ステップS80が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS90では、HV_ECU50により、モータ走行が継続される。HV_ECU50は、単駆動EVモードあるいは両駆動EVモードによるEV走行を継続する。ステップS90が実行されると、本制御フローは終了する。
エンジンの始動が完了すると、HV_ECU50は、第一回転機MG1をエンジントルクに対する反力受けとして機能させる。本実施形態では、第一回転機MG1がエンジントルクに対する反力受けとして機能し始めるときに、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御が終了する。すなわち、単独モータEVモードからHV走行モードへの移行が完了すると、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御が終了する。
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、第二回転機MG2を動力源とし、かつエンジン1を停止して走行する走行モードからエンジン1を始動する場合のクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合するときのガタ打ちによる騒音や振動が抑制される。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、エンジン1の回転方向と同方向のMG1トルクを出力させる。第一回転機MG1がエンジン1の回転方向と同方向の正トルクを出力することにより、エンジン始動の応答性やHV走行モードへの移行の応答性を向上させることができる。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、第一回転機MG1をエンジン1の回転方向と同方向に回転させる。第一回転機MG1を回転させることで、クラッチCL1やブレーキBK1が係合するときのガタ打ちによる騒音や振動が抑制される。また、第一回転機MG1がエンジン1の回転方向と同方向に回転していることでエンジン始動の応答性やHV走行モードへの移行の応答性が向上する。
なお、本実施形態では、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、第一回転機MG1が出力するトルクにより差動部のガタを詰めること、および第一回転機MG1を回転させることの両方が実行されたが、これには限定されない。エンジン始動時の第一回転機MG1の制御は、少なくとも第一回転機MG1が出力するトルクにより差動部のガタを詰めることであってもよい。すなわち、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御は、MG1トルクによって差動部のガタを詰め、第一回転機MG1を停止させておく制御や第一回転機MG1を実質的に停止させておく制御であってもよい。第一回転機MG1が実質的に停止していることは、第一回転機MG1が制御可能な最低回転数よりも低い回転数で回転していることを含む。
[第1実施形態の第1変形例]
第1実施形態の第1変形例について説明する。図11は、第1実施形態の第1変形例のMG1回転数Ns1に係るタイムチャートである。図11において、時刻tsは、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御を開始するタイミングを示す。上記第1実施形態(図1)では、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の係合完了(S50−Y)後に第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御(S70)が実行されたが、係合完了前に第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御が実行されてもよい。第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御は、例えば、クラッチCL1やブレーキBK1の係合制御(S30)と並行して実行されてもよい。一例として、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御を開始するタイミングtsは、クラッチCL1あるいはブレーキBK1が係合し始めるのと同時であってもよい。
また、車速等に基づいて、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御をどのタイミングで開始するかが決定されてもよい。例えば、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することによるエンジン回転数の上昇のみではエンジン回転数が点火回転数まで上昇しないと予測される場合には、クラッチCL1あるいはブレーキBK1の係合が完了する前に第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御が開始されてもよい。
[第2実施形態]
図12から図15を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図12は、第2実施形態に係る車両のスケルトン図、図13は、第2実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の作動係合表を示す図である。第2実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−2において、上記第1実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1と異なる点は、第二遊星歯車機構20が変速部として機能する点である。
図12に示すように、上記第1実施形態と同様にして、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14は、エンジン1と接続されており、かつ第一リングギア13は、第二遊星歯車機構20の第二キャリア24と接続されている。第一遊星歯車機構10の第一サンギア11には、第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。従って、第一遊星歯車機構10は、エンジン1の出力トルクを第一回転機MG1側と出力側とに分割する動力分割機構として機能することができる。また、第一遊星歯車機構10は、第一回転機MG1と共に、エンジン1(第一キャリア14)と第一リングギア13との回転数比を無段階に変化させることができる差動部として機能することができる。本実施形態では、第一キャリア14が第一回転要素に、第一サンギア11が第二回転要素に、第一リングギア13が第三回転要素にそれぞれ対応している。
上記第1実施形態と同様にして、第二遊星歯車機構20の第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。第二サンギア21には、ブレーキBK1が接続されている。ブレーキBK1は、第二サンギア21の回転を規制することができるブレーキ装置である。第2実施形態のブレーキBK1は、上記第1実施形態のブレーキBK1と同様の構成のものとすることができる。
第2実施形態に係るクラッチCL1は、第二サンギア21と第二キャリア24とを連結可能なクラッチ装置である。本実施形態のクラッチCL1は、上記第1実施形態のクラッチCL1と同様の構成のものとすることができる。クラッチCL1およびブレーキBK1を含む係合装置は、第二遊星歯車機構20の差動を規制する状態と、第二遊星歯車機構20の差動を許容する状態とを切り替えて第二遊星歯車機構20を変速させる。つまり、第2実施形態の第二遊星歯車機構20は、変速部として機能する。
図13に示すように、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−2は、上記第1実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1(図4参照)とは異なり、両モータEVモードを備えていない。その他の各モードのクラッチCL1およびブレーキBK1の係合/開放の状態は、上記第1実施形態におけるものと同様とすることができる。
第2実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−2では、ブレーキBK1およびクラッチCL1が開放して変速部がニュートラルであると、第一リングギア13と駆動輪32との動力の伝達経路が遮断される。この場合、エンジン1と第一回転機MG1との動力伝達も遮断される。図13に示すように、単独モータEVモードでは、ブレーキBK1およびクラッチCL1が開放される。図14は、第2実施形態の単独モータEVモードに係る共線図である。単独モータEVモードでは、第二回転機MG2および駆動輪32とエンジン1とを切り離して第二回転機MG2を動力源として走行することができる。単独モータEVモードでは、エンジン回転数およびMG1回転数は、例えば、0回転とされる。
一方、ブレーキBK1あるいはクラッチCL1が係合していると、第一リングギア13と駆動輪32との動力の伝達経路が接続される。図13に示すように、HVハイモードでは、ブレーキBK1が係合され、かつクラッチCL1が開放される。図15は、第2実施形態のHVハイモードに係る共線図である。ブレーキBK1が係合することにより、第二サンギア21の回転が規制される。これにより、第一リングギア13は、第二キャリア24、第二ピニオンギア22、第二リングギア23を介して駆動輪32と動力を伝達可能に接続される。従って、第一回転機MG1とエンジン1とが動力伝達を行うことができる。第一回転機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、エンジントルクを第一リングギア13から駆動輪32に出力させることができる。ブレーキBK1が係合していることで、第二キャリア24に入力されるエンジン回転は、増速されて第二リングギア23から出力される。
図13に示すように、HVローモードでは、ブレーキBK1が開放され、かつクラッチCL1が係合される。クラッチCL1が係合することにより、第二遊星歯車機構20の差動が規制される。第一回転機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、エンジントルクを第一リングギア13から駆動輪32に出力させることができる。第二遊星歯車機構20の差動が規制されることで、第二キャリア24に入力されるエンジン回転は、増速も減速もされずに第二リングギア23から出力される。
単独モータEVモードからエンジン1を始動する場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1が係合される。この状態で第一回転機MG1が反力トルクを出力すれば、第二キャリア24から第一リングギア13を介して第一キャリア14にトルクが伝達され、エンジン回転数が上昇する。HV_ECU50は、エンジン回転数が点火回転数以上となると、点火指令を行ってエンジン1を始動させる。HV_ECU50は、エンジン始動の際に、第一回転機MG1によるエンジン回転数上昇制御を実行することができる。
ここで、単独モータEVモードからブレーキBK1あるいはクラッチCL1を係合するときに、ガタ打ちによる騒音や振動が発生する可能性がある。これに対して、HV_ECU50は、第二回転機MG2を動力源とし、かつエンジン1を停止して走行する走行モードからエンジン1を始動する場合、第一回転機MG1の制御を開始した後にクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合してエンジン1を始動する。これにより、クラッチCL1やブレーキBK1を係合するときの騒音や振動を抑制することができる。
HV_ECU50は、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、MG1トルクによって第一遊星歯車機構10や第二遊星歯車機構20のガタを詰める。このときのMG1トルクは、例えば正トルクとすることができる。正トルクは、エンジン1の回転数を上昇させる回転方向のトルクである。従って、第一回転機MG1の制御においてMG1トルクを正トルクとすることにより、エンジン始動やHV走行モードへの移行の応答性を向上させることができる。
また、HV_ECU50は、エンジン始動時の第一回転機MG1の制御において、第一回転機MG1を回転させるようにしてもよい。例えば、HV_ECU50は、第一回転機MG1を正回転させる。これにより、エンジン始動やHV走行モードへの移行の応答性を向上させることができる。
[上記各実施形態の変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態では、差動部の第一回転要素がキャリア14,24、第二回転要素がサンギア11,21、第三回転要素がリングギア13,23であったが、これには限定されない。サンギア11,21、キャリア14,24、リングギア13,23が差動部の互いに異なる回転要素と接続されていればよい。また、差動部は、例示した構成に限定されるものではなく、少なくとも3つの回転要素を有する差動機構であればよい。また、単独モータEVモードの動力源は、第二回転機MG2に限定されるものではなく、第一回転機MG1であってもよい。例えば、第一回転機MG1と駆動輪32とが差動部の同じ回転要素と接続されている場合、第一回転機MG1を動力源として単独モータEVモードが実行されてもよい。
また、変速部を変速させる係合装置は、上記実施形態において例示したものには限定されない。例えば、ブレーキBK1は、サンギア11,21の回転を規制するものには限定されない。また、例えば、クラッチCL1は、サンギア11,21とキャリア14,24とを連結するものには限定されない。
上記の各実施形態および変形例によれば、以下の動力伝達装置が開示されている。
「機関と、第1変速部と、差動部からなり、第1回転機(電動機)および第2回転機(電動機)により電気的無段変速部を形成する動力伝達装置において、第1変速部の係合制御を実施して機関を始動するとき、第1回転機のトルクを出力した後、第1変速部の係合制御を実施する。」
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。