JP5940871B2 - 大豆米糠発酵組成物及びその製造方法、並びに、抗高血圧組成物及び飲食品 - Google Patents

大豆米糠発酵組成物及びその製造方法、並びに、抗高血圧組成物及び飲食品 Download PDF

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Description

本発明は、アンギオテンシンIをアンギオテンシンIIに変換するアンギオテンシン変換酵素に対して阻害活性を有する大豆米糠発酵組成物及びその製造方法、並びに、抗高血圧組成物及び飲食品に関する。
近年、糖尿病、高血圧、高脂血症、循環器疾患、心臓疾患などの生活習慣病が増加の一途をたどっている。塩分摂取量が多い日本人においては、特に高血圧が大きな問題となっており、厚生労働省がまとめた平成18年国民健康・栄養調査報告によれば、40歳〜74歳の日本人のうち、男性は約6割、女性は約4割が高血圧と推定された。
高血圧は、動脈硬化をはじめとして、脳、心臓、腎臓などに悪影響を及ぼし、重症になると、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中、腎不全などの病気をひきおこすことから、血圧の適切な制御は、予防医学の面からも重要な課題となっている。
高血圧症の治療法としては、いくつかの方法が知られているが、カプトプリル(D−2−メチル−3−メルカプトプロパノイル−L−プロリン)等のアンギオテンシン変換酵素(以下「ACE」と称する)活性阻害剤を用いる方法が現在の主流である。
前記ACEは、血圧の調整においてレニン−アンギオテンシン系に作用する酵素である。レニン−アンギオテンシン系では、肝臓から分泌されるアンギオテンシノーゲンが、腎臓から分泌されるレニンによってアンギオテンシンIに変換される。前記アンギオテンシンIは、更にACEによってアンギオテンシンIIに変換されるが、このアンギオテンシンIIは、血管の収縮、血管透過性の増大などの作用があり、血圧を上昇させる(非特許文献1参照)。したがって、ACE活性を阻害することにより効果的に血圧を低下させることができる。
また、高血圧症の患者においては、酸化ストレスによる血管内皮機能異常が示されている(非特許文献2参照)。前記アンジオテンシンIIは、NADH/NADPHオキシダーゼの代表的な活性化因子であり、高血圧症においてNADH/NADPHオキシダーゼの活性が上昇し、活性酸素の産生が増加することが確認されている(非特許文献3参照)。このことから、産生された活性酸素が一酸化窒素(NO)を不活性化し、血管の弛緩を妨げて高血圧が持続されるものと推測される。
したがって、ACEを阻害することにより、前記アンジオテンシンIIの生成を抑制すると共に、抗酸化物質により産生された活性酸素を除去することにより、NOの不活性化が低減されて血管内皮機能を改善することが期待される。
前記ACE活性阻害剤としては、例えば、前述したカプトプリル等の合成物質が知られており、既に医薬品として実用化されている。また、ACE活性阻害剤の新しい合成研究も盛んに進められている。しかしながら、こうした合成物質では、毒性に関して不明な点が多いため、安全性に問題が生じないことが予想される天然物由来のACE活性阻害剤の開発も検討されている。
天然物由来のACE阻害物質の探索においては、大豆の酵素分解によりACE阻害物質を得ることが行われてきている。
例えば、大豆を蛋白質分解酵素で処理して得られた新規なヘキサペプチドが、毒性が極めて低く、かつACE阻害作用を有し、生体内での血圧降下作用を有することが報告されている(特許文献1参照)。
また、大豆中の微量蛋白質である大豆ホエー蛋白質を基質にして、蛋白質分解酵素を用いて分解して得られた特定のトリペプチドが、ACE阻害作用を有し、血圧降下剤としての医薬品や、高血圧の予防や改善に適した特定保健用食品に用いることが報告されている(特許文献2参照)。
また、大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、疎水性アミノ酸の豊富な未分解かつ不溶の高分子画分を除去した水溶液から調製されたペプチド組成物が、ACE阻害活性を有することが報告されている(特許文献3及び4参照)。
しかしながら、これらの提案は、大豆を酵素分解して得られた物質によるACE阻害活性を示しており、発酵処理を併用することによりACE阻害活性を向上できることについては記載も示唆もない。また、これらの提案における活性測定は、精製された微量成分での活性を示しており、ほとんどが試験管内においての測定結果である。
一方、発酵物による抗高血圧作用としては、米糠及び大豆の発酵物を高血圧ラットに投与したときの血圧低下作用について報告されている(特許文献5参照)。この報告では、ラットへの長期間の投与において評価している。
しかしながら、血圧抑制機序としては脂質酸化の抑制による血管の柔軟性の改善に起因していると考察されており、ACE活性の阻害については、記載も示唆もない。即ち、ACE阻害物質のような単回投与による投与直後からの血圧低下作用は期待できない。
また、米糠及び大豆の発酵物エキスからゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いて分画及び回収したペプチドがACE阻害活性を有することが報告されている(特許文献6参照)。しかしながら、この報告では、ペプチド精製のための手間とコストが掛かるという問題がある。また、プロテアーゼ処理を行うことにより、ACE阻害活性を向上させ、優れた血圧低下作用が得られることについては、記載も示唆もない。
したがって、生体内において従来の合成ACE活性阻害剤と同等のACE阻害活性を有し、血圧の上昇を抑制することで高血圧症の予防、改善又は治療ができると共に、低コストで、副作用がなく安全性の高い、飲食品等として用いることができる組成物、及びその製造方法の開発が強く求められている。
特開2005−139158号公報 特開2006−265139号公報 特開2010−248134号公報 特開2010−248096号公報 特開平8−081381号公報 特開2000−229996号公報
Itoh H, et al. J. Clin Invest.,1993, 91(5), 2268−2274. Dohi Y, et al. Int. J. Cardiol., 2007, 115(1), 63−66. Rajagopalan S,et al. J. Clin.Invest., 1996, 97(8), 1916−1923.
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、生体内において従来の合成ACE活性阻害剤と同等のACE阻害活性を有し、血圧の上昇を抑制することで高血圧症の予防、改善又は治療ができると共に、低コストで、副作用がなく安全性の高い大豆米糠発酵組成物及びその製造方法、並びに抗高血圧組成物及び飲食品を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、大豆蛋白質及び米糠を発酵させ、更にプロテアーゼで処理することにより得られる大豆米糠発酵組成物が、従来のペプチド精製物と同等のACE阻害活性を示し、高血圧ラットを用いた動物試験においても単回投与により、投与直後から従来の合成物質と同等の有意な血圧低下作用を示すことを知見し、本発明の完成に至った。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなることを特徴とする大豆米糠発酵組成物である。
<2> 発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された前記<1>に記載の大豆米糠発酵組成物である。
<3> プロテアーゼが中性プロテアーゼであり、pH4.5〜8.0で発酵物を処理してなる前記<1>から<2>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物である。
<4> 更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出されてなる前記<1>から<3>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物を含有することを特徴とするアンギオテンシン変換酵素阻害組成物である。
<6> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物を含有することを特徴とする抗高血圧組成物である。
<7> 前記<5>に記載のアンギオテンシン変換酵素阻害組成物、及び前記<6>に記載の抗高血圧組成物の少なくともいずれかを含有することを特徴とする飲食品である。
<8> 少なくとも大豆蛋白及び米糠を発酵させて発酵物を得る発酵工程と、
前記発酵物をプロテアーゼで処理するプロテアーゼ処理工程とを含むことを特徴とする大豆米糠発酵組成物の製造方法である。
<9> 発酵工程が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵物を得る工程である前記<8>に記載の大豆米糠発酵組成物の製造方法である。
<10> プロテアーゼ処理工程が、発酵物をpH4.5〜8.0において中性プロテアーゼで処理する工程である前記<8>から<9>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物の製造方法である。
<11> 更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出する抽出工程を含む前記<8>から<10>のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物の製造方法である。
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、生体内において従来の合成ACE活性阻害剤と同等のACE阻害活性を有し、血圧の上昇を抑制することで高血圧症の予防、改善又は治療ができると共に、低コストで、副作用がなく安全性の高い大豆米糠発酵組成物及びその製造方法、並びに抗高血圧組成物及び飲食品を提供することができる。
図1は、本発明の大豆米糠発酵組成物の製造工程を示したフローチャートである。 図2は、大豆蛋白質及び米糠に納豆菌を接種したときの前記納豆菌の増殖曲線を示した図である。 図3は、大豆蛋白質及び米糠の納豆菌発酵によって得られた発酵物のACE活性阻害率について発酵時間の経時的変化を示した図である。 図4は、実施例1の大豆米糠発酵組成物(発酵後プロテアーゼ処理したもの)、並びに大豆蛋白質及び米糠を発酵のみさせたもの、プロテアーゼ処理のみ施したもののACE阻害活性について50%阻害濃度(IC50値)を示した図である。 図5は、図1に示した各製造工程で得られた生成物のACE阻害活性について50%阻害濃度(IC50値)を示した図である。 図6は、実施例2の大豆米糠発酵組成物を高血圧ラットに経口投与したときの血圧の変化について示した図である。 図7は、実施例2の大豆米糠発酵組成物を高血圧ラットに経口投与したときの心拍数の変化について示した図である。 図8は、実施例1の大豆米糠発酵組成物、及び実施例2の大豆米糠発酵組成物(OE−1)のDPPHラジカル消去活性を示した図である。 図9は、実施例1の大豆米糠発酵組成物、及び実施例2の大豆米糠発酵組成物(OE−1)のORAC(活性酸素吸収能力)値を示した図である。
(大豆米糠発酵組成物)
本発明の大豆米糠発酵組成物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させてなる発酵物をプロテアーゼで処理してなる組成物を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
本発明の大豆米糠発酵組成物は、優れたアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有する。
<発酵物>
前記発酵物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物である。前記発酵物は、必要に応じて更にその他の成分を前記大豆蛋白質及び前記米糠と共に発酵させた発酵物でもよく、その他の成分を前記大豆蛋白質及び前記米糠とは別に発酵させた発酵物を更に含んでいてもよい。
<<大豆蛋白質>>
前記大豆蛋白質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分離大豆蛋白質、濃縮大豆蛋白質、脱脂豆乳、脱脂大豆などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記大豆蛋白質としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、ニューフジプロSE、ニューフジプロ1700、フジプロE(以上、粉末状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)、ニューフジニックP50、アペックス600(以上、粒状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)などが挙げられる。
前記大豆蛋白質としては、原料として大豆又はその類縁種を用いた大豆摩砕物の固形画分を用いてもよい。前記大豆摩砕物の固形画分は、例えば、豆腐を製造する過程で副生されるオカラであり、原料となる大豆の種類、製造条件などは特に制限されない。前記固形画分としては、その製造過程において濾過されたままのものでも、それを乾燥したものでもよい。
前記大豆固形画分の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾物における含有量が、粗蛋白質20質量%〜30質量%、粗脂肪10質量%〜15質量%、可溶無窒素物25質量%〜35質量%、粗繊維10質量%〜20質量%であることが好ましく、前記固形画分における水分含有量が、75質量%〜80質量%であることが好ましい。
<<米糠>>
前記米糠としては、米糠、脱脂米糠、米胚芽、及び脱脂米胚芽の少なくともいずれかを含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、玄米を白米に精米する過程で除去される米の果皮、種皮、糊粉層、胚芽等を含む通常の米糠をそのまま用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米糠としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、オリザジャーム−DLP、オリザジャーム−DLS、オリザドリム、脱脂コメヌカ(以上、脱脂米糠、オリザ油化株式会社製)、脱脂糠(築野食品工業株式会社製)などが挙げられる。
前記大豆蛋白質と前記米糠との質量比(大豆蛋白質/米糠)としては、特に制限はなく適宜選択することができるが、1/5〜10/1が好ましく、1/2〜5/1がより好ましい。
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニン、食物繊維、ビタミン類などが挙げられる。
前記茶カテキンの原料である茶の種類、抽出方法などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有効成分であるポリフェノールを多く含むことが好ましく、前記茶カテキンにおける具体的な総ポリフェノール含量としては、60質量%以上が好ましい。
前記大豆蛋白質及び前記米糠に対する前記その他の成分の質量比(その他の成分/大豆蛋白質及び米糠)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1/3,000以上が好ましく、1/1,500以上がより好ましい。前記質量比が、1/3,000未満であると、前記その他の成分の機能性が発揮されないことがある。
前記大豆蛋白質及び前記米糠を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品用途、菌自体の有する栄養素、発酵香などの観点から、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵させることが好ましい。これらの中でも、高い機能性を持った生成物が高収量で得られる点で、納豆菌が特に好ましく、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかと納豆菌との組み合わせも好適に用いることができる。
なお、前記納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌としては、安全性が保証されている限り、自然的に、又は人為的な変異手段により生成し、菌学的性質が変異した変異株も用いることができる。
前記納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)としては、特に制限はなく、市販されている一般的な納豆菌を用いることができ、例えば、株式会社成瀬醗酵化学研究所から入手することができる。
前記テンペ菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rhizopus oligosporusRhizopus oryzaeRhizopus stoloniferなどが挙げられる。これらの中でも、発酵の容易さの観点から、Rhizopus oligosporusが好ましい。なお、これらのテンペ菌は、インドネシアからの輸入品として、或いは日本の種麹業者から容易に入手することができる。
前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・ビフィズス(Lactobacillus bifidus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・サンフランシスコ(Lactobacillus sanfrancisco)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・ラクチス(Streptomyces lactis)などが挙げられる。これらの中でも、乳酸の生成量の点で、ラクトバシルス・アシドフィルスが好ましく、味の点で、ラクトバシルス・ビフィズスが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これらの乳酸菌の選択によって、最終的な発酵物の味、香り、栄養素等を変化させることができる。なお、これらの乳酸菌は、いずれも公知の菌で、容易に入手することができる。
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、カンジダ属、クルイベロミセス属などが挙げられる。これらの中でも、飲食品用途の観点から、サッカロミセス属の酵母が好ましく、清酒酵母、ビール酵母が特に好ましい。これらの酵母菌は、例えば、財団法人日本醸造協会から入手することができる。
前記菌の接種量としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択できるが、発酵の対象物が液体である場合には、通常1×10個/mL〜1×10個/mLであり、発酵の対象物が固体である場合には、通常1×10個/g〜1×10個/gである。前記接種量が、1×10個/mL又は1×10個/g未満であると、菌による発酵に時間がかかることがあり、1×10個/mL又は1×10個/gを超えると、菌の増殖が抑制されて発酵が進まないことがある。
前記発酵の条件、例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等も適宜決定されうるが、使用する菌の増殖等の特性に適した条件とすべきである。
前記発酵温度としては、前記菌による発酵が進む限り特に制限はなく、使用する菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常10℃〜55℃であり、20℃〜50℃が好ましく、25℃〜45℃がより好ましい。
前記発酵時間としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常1時間〜5日間であり、3時間〜3日間が好ましく、6時間〜2日間がより好ましい。
前記発酵の対象としては、固体でもよく、液体でもよく、また、適宜通気を行ってもよい。前記発酵の対象が液体である場合、振とう又は攪拌しながら発酵を行ってもよいし、静置で発酵を行ってもよいが、前記菌の増殖を促進し、発酵を促進させる点で、振とう又は攪拌を行うことが好ましい。
前記振とうの条件としては、特に制限はなく、よく攪拌されていればよい。
前記発酵時のpHとしては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常4.5〜8.5であり、5.5〜7.5が好ましい。なお、pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
<プロテアーゼによる処理>
本発明の大豆米糠発酵組成物は、前記発酵物をプロテアーゼで処理してなる組成物である。ここで、「プロテアーゼ」は、ペプチド結合加水分解酵素の総称であり、蛋白質分解酵素ともいう。また、本明細書においては、前記プロテアーゼによる処理を「プロテアーゼ消化」又は「蛋白質分解」とも呼ぶ。この処理は、前記発酵物に由来する蛋白質又はペプチドの分解を目的としたものである。
前記プロテアーゼとしては、前記発酵物に含まれる蛋白質又はペプチドを分解することができる限り、特に制限はなく、蛋白質分子のペプチド結合を加水分解するプロテイナーゼを用いてもよいし、ペプチド鎖のアミノ末端或いはカルボキシ末端のペプチド結合を加水分解するペプチダーゼを用いてもよい。また、前記プロテアーゼは、至適pHによって、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、及びアルカリ性プロテアーゼに分類されるが、これらの中でも、酵素処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、中性プロテアーゼが好ましい。
前記プロテアーゼの具体例としては、金属プロテアーゼ(サーモライシン等)、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、プラスミン、エラスターゼ、ズブチリシン等)、チオールプロテアーゼ(パパイン、フィシン、ブロメライン、カテプシンB等)、アスパラギン酸プロテアーゼ(ペプシン、キモシン、カテプシンD等)、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酵素処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、セリンプロテアーゼ及びアミノペプチダーゼを含むものが好ましい。
なお、これらのプロテアーゼは、精製されていても、或いは精製されていなくてもよく、また、それらの起源は、微生物由来、植物由来及び動物由来のいずれであってもよい。
前記プロテアーゼとしては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、デナチームAP(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、ナガセケムテックス株式会社製)、プロテアーゼN「アマノ」G、プロチンSD−NY10、プロチンSD−PC10F(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼS「アマノ」G(Bacillus stearothermophilus由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、パパインW−40(パパイヤラテックス由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロメラインF(Ananas comosus 由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、PTN(豚の膵臓由来中性プロテアーゼ、ノボザイムズジャパン株式会社製)、オリエンターゼ90N、ヌクレイシン、オリエンターゼ10NL(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼONS(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)などが挙げられる。
前記プロテアーゼ処理における処理条件、例えば、前記発酵物に対するプロテアーゼ量、処理温度、処理時間、pHなどは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記発酵物の固形分に対する前記プロテアーゼの質量比(プロテアーゼ/発酵物の固形分)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1/500〜1/10であり、1/200〜1/20が好ましい。前記質量比が、1/500未満であると、蛋白質分解反応(プロテアーゼ消化)が不十分であり、或いは反応に長時間を要することがあり、1/10を超えると、経済的に好ましくない。
前記処理温度としては、使用するプロテアーゼの至適温度を考慮して決定すべきであるが、通常15℃〜70℃であり、40℃〜65℃が好ましい。
前記処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜決定されるが、反応性及び雑菌混入防止の観点から、通常、10分間〜2日間であり、3時間〜24時間が好ましい。
前記プロテアーゼ処理のpHとしては、使用するプロテアーゼの至適pHを考慮して決定すべきであり、通常3〜10である。前記中性プロテアーゼを用いる場合のpHとしては、4.5〜8.0が好ましく、5〜7.5がより好ましい。
pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
前記プロテアーゼ処理においては、前記発酵物の他に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脱脂米糠、米胚芽、茶カテキンなどが挙げられる。
これらの種類、含有量、及び好ましい範囲などは、前述したものと同様である。
本発明の大豆米糠発酵組成物としては、前記プロテアーゼで処理されたものをそのまま使用してもよく、それを更に処理乃至加工して用いてもよい。例えば、前記大豆米糠発酵組成物を熱水、エタノールなどで抽出して用いてもよく、更に濃縮又は希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよい。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
また、本発明の大豆米糠発酵組成物は、安全性が高いため、例えば、飲食品、医薬品などに用いることができる。
(大豆米糠組成物の製造方法)
本発明の大豆米糠組成物の製造方法は、発酵工程とプロテアーゼ処理工程とを含み、必要に応じて抽出工程、濾過工程などその他の工程を含む。
<発酵工程>
前記発酵工程は、少なくとも大豆蛋白及び米糠を発酵させて発酵物を得る工程である。
前記発酵工程において用いられる大豆蛋白質、米糠、及びその他の成分は、上述したものを使用することができる。また、発酵条件(例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等)も上述したとおりである。
前記発酵工程は、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて前記発酵物を得る工程であることが好ましい。
<プロテアーゼ処理工程>
前記プロテアーゼ処理工程は、前記発酵物をプロテアーゼで処理する工程である。
本工程において用いられるプロテアーゼ及び処理条件は、上述したとおりである。
前記プロテアーゼ処理工程は、前記発酵物をpH4.5〜8.0において中性プロテアーゼで処理する工程であることが好ましい。
<その他の工程>
<<抽出工程>>
抽出工程は、前記大豆米糠発酵組成物を熱水及びエタノールのいずれかで抽出する工程である。効率的に活性物質を抽出できる点で、熱水による抽出が好ましい。
抽出の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、熱水及びエタノールのいずれかを前記大豆米糠発酵組成物に加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
<<濾過工程>>
前記濾過工程は、前記大豆米糠発酵組成物を濾過する工程である。
前記濾過の方法としては、特に制限はなく、公知の濾過装置を用いることができ、例えば、フィルタープレス、ラインフィルターなどを用いることができる。なお、これらは併用してもよい。
<<濃縮工程>>
前記濃縮工程は、前記大豆米糠発酵組成物を濃縮する工程である。前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、公知の濃縮方法を用いることができる。
濃縮後の前記大豆米糠発酵組成物のBrix値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜12が好ましい。
(アンギオテンシン変換酵素阻害組成物、及び抗高血圧組成物)
本発明のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害組成物は、本発明の前記大豆米糠発酵組成物を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
また、本発明の抗高血圧組成物は、本発明の前記大豆米糠発酵組成物を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ルチン、ヘスペリジン、タンニン、リコピン、テアニン、セサミン、ギャバなどが挙げられる。これらの成分は、抗高血圧作用を有することが知られており、本願発明の大豆米糠発酵組成物に対して、含有量を適宜調整して添加することができる。
(飲食品)
本発明の飲食品は、本発明の大豆米糠発酵組成物、ACE阻害組成物及び抗高血圧組成物の少なくともいずれかを含有してなり、必要に応じてその他の成分を含有してなる。本発明の飲食品としては、例えば、本発明の大豆米糠発酵組成物、ACE阻害組成物及び抗高血圧組成物の少なくともいずれかをそのまま、或いはペレット、粉末、顆粒などの形態として使用してもよく、食品添加物、調味料、ふりかけとして使用してもよい。また、本発明の大豆米糠発酵組成物、ACE阻害組成物及び抗高血圧組成物を食材中に含有せしめて使用してもよい。これにより、機能性食品或いは健康食品を得ることができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。また、特に断りのない限り、「%」は質量%を示し、各実験値は、2サンプルの平均値で示した。
(実施例1:大豆米糠発酵物の製造)
図1に示した製造工程のフローチャートに従い、以下のようにして大豆米糠発酵物を製造した。
<工程1:大豆固形画分発酵物(FSB−01)の調製>
大豆を水で洗浄し、水に17時間浸漬して十分に吸水させた。大豆が吸水して十分に柔らかくなったことを確認し、豆挽機を用いて水とともに大豆を摩砕した。摩砕された大豆をタンクに移し、均一になるように攪拌した。その後、摩砕大豆懸濁液をよく撹拌しながら20分間、100℃で加熱した。加熱後、絞り器を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.2L(菌数1.0×1010個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器若しくはポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器若しくは恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆固形画分発酵物(FSB−01)は、使用時まで冷凍保管した。
<工程2:大豆米糠発酵液の調製>
原料として、大豆蛋白質(ニューフジプロSE、不二製油株式会社製)、脱脂米糠及び米胚芽(以上、オリザ油化株式会社製)を用いた。ステンレス製のタンクに水3,000Lを入れ、続いて大豆蛋白質200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kgを投入した。その後、90℃になるまで加温し、昇温後1時間攪拌した。攪拌終了後、42℃まで冷却し、得られた大豆米糠液に、前記工程1で用いたものと同じ納豆菌を1L(菌数1.0×1011個)添加した。納豆菌接種後、42℃で28時間撹拌し、大豆米糠発酵液を得た。
<工程3:プロテアーゼ処理>
前記工程2で得られた大豆米糠発酵液に、前記工程1で得られたFSB−01 200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kg、及び茶カテキン260gを投入した。
これを3時間攪拌しながら混合した後、50℃になるまで加温した。昇温後、Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ(デナチームAP、ナガセケムテックス株式会社製)を10kg投入し、50℃で15時間撹拌してプロテアーゼ消化を行った。
その後、90℃で10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。
以上のようにして、大豆米糠発酵組成物を得た。
<評価>
<<菌の増殖>>
前記工程2において接種した納豆菌の増殖曲線を図2に示す。図2から、指数関数的な増殖曲線が得られ、順調な納豆菌の増殖が認められた。
<<発酵のACE阻害活性への影響>>
前記工程2で得られた大豆米糠発酵液のACE阻害活性をACE kit−WST(株式会社同仁化学研究所製)を用い、キットの説明書に準じて測定した。
具体的には、各ウェルに(1)納豆菌を接種する前の大豆米糠液(発酵前)、(2)発酵開始後19時間の大豆米糠発酵液(発酵中期)、又は(3)発酵開始後28時間の大豆米糠発酵液(発酵終了後)をそれぞれ純水で100倍希釈したサンプル溶液(sample)、若しくは純水(blank1、blank2)を20μLずつ入れた。次いで、各ウェルにSubstrate bufferを20μLずつ加えた。blank2のウェルには、純水を20μLずつ加え、サンプル溶液を入れたウェルとblank1のウェルには、Enzyme working solutionを20μLずつ加えた。各ウェルを37℃で60分間インキュベートした後、各ウェルにIndicator working solutionを200μLずつ加えた。更に室温で10分間インキュベートし、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。ACE活性阻害率(%)は、下記の計算式により求めた。
ACE活性阻害率(%)={(Ablank1−Asample)/(Ablank1−Ablank2)}×100
sample:サンプルの450nmの吸光度
blank1:blank1の450nmの吸光度
blank2:blank2の450nmの吸光度
図3から、発酵開始後28時間においてACE阻害活性の顕著な上昇が認められた。
<<大豆米糠発酵組成物のACE阻害活性の測定>>
前記工程3で得られた大豆米糠発酵組成物(発酵後プロテアーゼ処理)のACE活性阻害率(%)を上述したACE阻害活性の測定方法により測定した。ACE阻害活性について50%阻害濃度(IC50値)は、前記大豆米糠発酵組成物の希釈系列のサンプル溶液を作製して、それぞれのサンプル濃度に対して、測定されたACE阻害率(%)をプロットして求めた。
また、対照として、前記工程3でプロテアーゼ処理を行わなかったもの(発酵のみ)、及び前記工程2で発酵を行わなかったもの(プロテアーゼ処理のみ)についても同様に50%阻害濃度(IC50値)を求めた。結果を図4に示す。
図4から、発酵後にプロテアーゼ処理することにより、発酵のみ、又はプロテアーゼ処理のみの大豆米糠溶液に比べ強いACE阻害活性が認められた。したがって、本発明の大豆米糠発酵組成物においては、ACE阻害の活性物質として、ペプチド、アミノ酸、及びそれらよりも低分子の物質が含まれると考えられ、発酵による大豆蛋白質等の分解、及び発酵過程においても分解できなかった蛋白質、ペプチド等のプロテアーゼによる分解の2つの処理により、より強い活性物質が得られることが推測される。
(実施例2:大豆米糠発酵エキス(OE−1)の製造)
<工程4:抽出>
実施例1(工程3)で得られた大豆米糠発酵組成物を2時間攪拌し、熱水抽出を行った。抽出後、遠心分離機を用いて固液分離を行った。液相のみを回収し、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.8に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。
<工程5:濾過>
その後、フィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。澄明濾液を減圧濃縮し、Brix 10〜12に調整した。Brix調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、0.5μmラインフィルターを用いて精密濾過した。得られた澄明液を大豆米糠発酵組成物(大豆米糠発酵エキスOE−1)とした。
<評価>
<<ACE阻害活性の測定>>
前記工程5より得られた大豆米糠発酵エキスOE−1のACE阻害活性について50%阻害濃度(IC50値)を前述したのと同様の方法により測定した。また、対照として、前記工程2で得られた大豆米糠発酵液、前記実施例1で得られた大豆米糠発酵組成物、及び特定保険食品に指定されているサーデンペプチドのACE阻害活性を測定した。結果を図5に示す。
図5から、発酵によりACEに対する阻害作用が認められ、これをプロテアーゼで処理することにより更に活性が上昇することが確認された。また、本発明の大豆米糠発酵組成物及び最終的に得られた大豆米糠発酵エキスOE−1は、特定保険食品に指定されているサーデンペプチドと同等の強いACE阻害活性を示した。
<<高血圧自然発症ラットへの投与による降圧効果の評価>>
本評価には、10週齢の雄性SHR/Hosラットを株式会社星野試験動物飼育所より入手して使用した。前記ラットを、室温23±1℃、相対湿度55±10%、照明時間12時間/日(8:00〜20:00)の条件で、日本クレア社の固形飼料CE−2を与えて飼育し、飲料水としては水道水を自由に摂取させた。入荷後、1週間の予備飼育を行い、健康状態に異常を認めない動物を試験に用いた。
−血圧及び心拍数の測定−
ラットの収縮期血圧(systolic blood pressure、以下「SBP」と称する)及び心拍数(heart rate)の測定は、実験動物用ラット・マス非観血血圧測定装置(Softron BP−98A、株式会社ソフトロン製)を用い、ラットを39℃で保温して、非観血的にtail−cuff法にて行った。測定は、各測定点(本発明の大豆米糠発酵組成物の投与前、並びに投与後1時間、4時間、7時間、及び24時間)において少なくとも6回ずつ行い、その平均値をSBP及び心拍数とした。
試験に使用するラットは、予備飼育後、SBPが185mmHg以上を示す動物を用いた。各ラットを試験前日より一昼夜絶食させ、試験開始前の血圧及び体重を指標として、動物を1群あたり6匹〜7匹ずつに群分けした。大豆米糠発酵エキス(OE−1)は、1回100mg/kg及び300mg/kgの投与量でゾンデによる単回投与を行った。コントロール群には同量の精製水(10mL/kg)を投与した。対照薬群としては、ACE阻害剤の1つであるカプトプリルを用い、30mg/kgの投与量で経口投与した。
前記SBP値の変動について、投与開始前のSBP値と投与後各時間におけるSBP値を図6に示した。
なお、得られた値は、平均値±標準偏差(mean±S.D.)で表記した。コントロール群と試験物質投与群間におけるSBP及び心拍数測定値の統計学的な差の検定は、Dunnetの多重比較検定法を用いて行った。検定での有意水準は、5%未満とし、図中には、**:1%未満、*:5%未満として表示した。
図6から、大豆米糠発酵エキス(OE−1)は、100mg/kgより用量依存的な血圧降下作用を示すことが分かった。100mg/kg投与群の最大反応(−20.9mmHgの低下)は投与後1時間にみられ、投与後24時間には回復していた。300mg/kg投与群も投与後1時間より持続的な血圧降下作用を示し、その最大反応(−36.4mmHgの低下)は投与後7時間にみられたが、投与後24時間には回復していた。対照薬として用いたカプトプリルは、30mg/kg投与で投与後1時間に最大反応(−36.4mmHgの低下)を示し、投与後7時間まで有意な血圧降下作用が持続した。投与後24時間は、有意差は認められなかったが、血圧降下作用を示す傾向がみられた。
一方、図7から、心拍数の変動については、大豆米糠発酵エキス(OE−1)及びカプトプリル投与群ともコントロール群と同様な変化であり、心拍数に対してはともに影響はみられなかった。
以上のように、本試験では大豆米糠発酵エキス(OE−1)をSHRに単回投与すると、100mg/kg及び300mg/kgで用量依存的な血圧降下作用が認められ、この作用は持続的であり、投与後24時間には回復するが比較的強い血圧降下作用を示した。大豆蛋白質発酵組成物にはACE阻害活性が認められ、即ち、大豆蛋白質発酵組成物による血圧降下作用機序にはACE阻害活性が関与しているものと考えられる。
以上の結果より、大豆米糠発酵エキス(OE−1)は、高血圧ラットに対して血圧降下作用を示し、また、心拍数に対して影響を及ぼさなかったことより、本発明の大豆米糠発酵組成物が高血圧治療に安全で有用であることが示唆された。
(実施例3:発酵及びプロテアーゼ処理による抗酸化活性(DPPHラジカル消去活性)への影響)
実施例1の工程3で得られた大豆米糠発酵組成物、及び実施例2の工程5で得られた大豆米糠発酵組成物(大豆米糠発酵エキスOE−1)の各検体についてDPPHラジカル消去活性の測定を行った。
具体的には、DPPH(1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazy;ワコー社製)をエタノールで溶解し80μg/mLの濃度に調整した。純水で10倍希釈した各検体500μL、及びDPPH溶液500μLを混合し、室温で30分間静置した後、波長517nmの吸光度を測定した。
DPPHラジカル消去活性は、検体を添加しないコントロールの値に対する抑制率で示した。結果を図8に示す。
図8から、本発明の大豆米糠発酵組成物において強いDPPHラジカル消去活性が認められた。
(実施例4:発酵及びプロテアーゼ処理による抗酸化活性(ORAC;活性酸素吸収能力)への影響)
実施例1の工程3で得られた大豆米糠発酵組成物、及び実施例2の工程5で得られた大豆米糠発酵組成物(大豆米糠発酵エキスOE−1)の各検体についてORAC値の測定を行った。
具体的には、20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した、10nMフルオロセイン(シグマ社製)溶液を150μLずつ96穴マイクロプレートの各穴に入れ、そこに純水で10倍希釈した前記各検体、又は標準物質であるトロロックス(カルビオケム社製)を25μL入れ、37℃のインキュベーター内で15分間静置した。
初期値として37℃で90秒間おきに3回、励起波長:485nm、測定波長:520nmで蛍光強度を測定した。測定後、20mMリン酸緩衝液に溶解した、240mMの2,2’−Azobis(2−amidinopropane)Dihydrochloride(AAPH;フナコシ株式会社製)溶液を25μL添加し、37℃で90秒間おきに60回、同波長で測定した。
AAPH添加後の各測定値をそれぞれの初期値で割った値の合計をAUCとして算出し、各検体、又は標準物質であるトロロックスのAUCからブランクのAUCを減じた値をnet−AUCとして算出した。前記トロロックスの濃度に対するnet−AUCの回帰直線を用いて各検体のトロロックス相当量とした値をORAC値(活性酸素吸収能力)として算出し、「μmol TE/g」の単位で表示した。結果を図9に示す。
図9から、本発明の大豆米糠発酵組成物において高いORAC値が確認された。
本発明の大豆米糠発酵組成物は、生体内において従来の合成ACE活性阻害剤と同等のACE阻害活性を有し、血圧の上昇を抑制することで高血圧症の予防、改善又は治療ができると共に、低コストで、副作用がなく安全性が高い。したがって、高血圧症の予防、改善又は治療のための飲食品、医薬品などに好適に用いることができる。

Claims (7)

  1. 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理し、更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出されてなることを特徴とする大豆米糠発酵組成物。
  2. 発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された請求項1に記載の大豆米糠発酵組成物。
  3. プロテアーゼが中性プロテアーゼであり、pH4.5〜8.0で発酵物を処理してなる請求項1から2のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物。
  4. 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる大豆米糠発酵組成物を含有することを特徴とする抗高血圧組成物。
  5. 大豆米糠発酵組成物が、更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出されてなる請求項4に記載の抗高血圧組成物。
  6. 請求項1から3のいずれかに記載の大豆米糠発酵組成物、及び請求項4からのいずれかに記載の抗高血圧組成物の少なくともいずれかを含有することを特徴とする抗高血圧用飲食品。
  7. 少なくとも大豆蛋白及び米糠を発酵させて発酵物を得る発酵工程と、
    前記発酵物をプロテアーゼで処理するプロテアーゼ処理工程と
    前記プロテアーゼ処理工程で得られた組成物を熱水及びエタノールのいずれかで抽出する抽出工程とを含むことを特徴とする大豆米糠発酵組成物の製造方法。
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