JP5940872B2 - 抗糖尿病組成物及び飲食品 - Google Patents

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Description

本発明は、糖尿病、特に肥満によって誘導されるII型糖尿病を効果的、かつ安全に予防、改善、又は治療することができる抗糖尿病組成物及び飲食品に関する。
生活習慣病の1つである糖尿病は、近年増加傾向にある。厚生労働省がまとめた平成19年国民健康・栄養調査報告によれば、糖尿病が強く疑われる人と、糖尿病の可能性が否定できない人とをあわせると約2,210万人になり、40歳以上の3人に1人が糖尿病乃至その予備軍であるとされている。
糖尿病により血糖値が高い状態が続くと、血管障害が生じ、神経障害、網膜症、白内障、腎障害、壊疽等の重篤な合併症が引き起こされる。
前記糖尿病は、I型(インスリン依存的)とII型(インスリン非依存的)に分けられるが、その9割以上がII型糖尿病と診断されている。
前記II型糖尿病を引き起こす原因は、過栄養、運動不足、ストレス過剰、高脂肪食過剰摂取等の生活習慣に基づく肥満と考えられている。この肥満により、血糖や血圧、血中のコレステロールの量を調節するインスリンに対する感受性が低下し、インスリン抵抗性II型糖尿病が発症する。
前記II型糖尿病において症状が表れるメカニズムとしては、(1)食事過多などによる過剰なグルコースの血中への吸収、(2)血糖値の上昇に伴う脂肪細胞の肥大化、並びに肥大脂肪細胞からの腫瘍壊死因子−α(TNF−α)の産生増加、及びアディポネクチンの産生低下、(3)インスリン感受性の低下、(4)慢性的な血糖値の上昇、(5)グルコース及び生体内蛋白質から生成される終末糖化産物群(AGE)による組織障害などが考えられる。
前記(1)グルコースの血中への吸収は、摂取された炭水化物が消化管においてα−アミラーゼ、α−グルコシダーゼ等の消化酵素によって消化され、最終的に単糖類であるグルコースに分解されて腸管膜上の繊毛から吸収されることによる。吸収されたグルコースは血中に移行し、一時的に過血糖症状が起こる。II型糖尿病患者においては、インスリンの作用が働かず、高血糖値が維持される結果、グルコースにより血管が障害を受け、神経障害、網膜症、白内障などの重篤な合併症が惹起される。
したがって、前記消化酵素を阻害することにより、グルコースの生成を抑制することで、摂取された糖類は吸収されることなく体外へ排出される。これにより、炭水化物摂取による急激な血糖値上昇は抑制され、特に糖尿病患者での高血糖値の維持状態は緩和されると考えられる。
前記(2)及び前記(3)については、インスリンのシグナル伝達が、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)により阻害されることが示されており、インスリン感受性の低下を引き起こす因子としてマクロファージから産生されるTNF−αが考えられている(非特許文献1参照)。
これに対し、脂肪細胞から産生されるアディポネクチンは、TNF−αに拮抗的な作用を示し、インスリンに対する感受性を増強させることが知られている(非特許文献2参照)。
成熟脂肪細胞は、脂肪を細胞内へ取り込む細胞であるが、その蓄積量が増えると脂肪細胞は次第に肥大化し肥大脂肪細胞となる。成熟脂肪細胞が肥大脂肪細胞になると、TNF−αの分泌は上昇し、一方、アディポネクチンの分泌は低下する。即ち、高脂肪食による肥満などの環境因子により肥大脂肪細胞の増加と共にインスリン抵抗性が惹起される。
したがって、前駆脂肪細胞からアディポネクチンを産生する成熟脂肪細胞への分化を誘導し、更にマクロファージや肥大肥満細胞からのTNF−α産生を抑制することにより、インスリンに対する感受性を高め、II型糖尿病の予防、改善、又は治療が可能となる。
前記(4)については、インスリン感受性の低下により慢性的に誘導された血糖値の上昇に対し、内因性のインスリン量を増加させることにより改善乃至治療効果を増強することが考えられる。内因性インスリン濃度の低下については、ジペプチジルペプチターゼ−IV(DPP−IV)が関与している。前記DPP−IVは、インスリン誘導ホルモンであるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の不活性化に関与する酵素として知られている。前記GLP−1は、グルコース濃度依存的にインスリンを産生誘導することから、DPP−IVを阻害することにより高インスリン濃度を維持し、その結果、インスリン耐性組織を刺激するのに十分なインスリン濃度が得られる(非特許文献3及び4参照)。
糖尿病治療薬として開発されたDPP−IV阻害剤は、臨床において優れた成績を上げており、新しい作用機序を持つ薬剤として、現在最も注目されている医薬品の1つである。
更に、DPP−IV阻害剤は、飽満に導く作用も有しており、食欲を調整する、肥満症の治療薬としても開発されている(非特許文献5参照)。即ち、DPP−IV阻害剤は、肥満によって誘導されるII型糖尿病治療において有用な薬剤であると思われる。
前記(5)の終末糖化産物群(AGE)の生成は、糖尿病のような高血糖状態で細胞内グルコース代謝物の濃度が上昇した場合に、グルコースと生体内タンパク質とが非酵素的に糖化反応することで起こる。生成したAGEは、マクロファージなど炎症細胞の細胞膜上のAGE受容体に結合し、細胞を活性化させて活性酸素、TNF−α等の炎症因子の産生を誘導する(非特許文献6参照)。これらの炎症因子は、血管を障害し、動脈硬化症、白内障、腎障害、神経障害等の糖尿病の合併症発症の引き金となることが知られている。
したがって、AGE阻害組成物は、II型糖尿病治療において有用であると思われる。
以上のように、抗糖尿病作用にも様々な作用機構が存在すると考えられ、これらの作用機序を併せ持つ組成物を得ることができれば、II型糖尿病の予防、改善乃至治療において非常に効果的である。しかしながら、これまでにそのような組成物は得られていないのが現状である。
したがって、抗糖尿病作用において異なった作用機序を併せ持ち、II型糖尿病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用を発揮する抗糖尿病組成物、及び飲食品の開発が強く求められている。
J. Biol. Chem. 2001; 276: 41245−41254. Nature Med. 2001; 7: 941−946. Diabetologia. 1999; 42: 1324−1331. Diabetes. 1998; 47: 1663−1670. Diabetes, 2002;51: 943−950. J. Nutr. Biochem., 2011; 22(6):585−594.
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、抗糖尿病作用において異なった作用機序を併せ持ち、II型糖尿病の予防、改善又は治療においてより効果的に作用を発揮する抗糖尿病組成物、及び飲食品を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、大豆米糠発酵組成物が、脂肪細胞の分化を誘導し、アディポネクチン産生を誘導すること、及びマクロファージ株化細胞からのTNF−α産生を抑制することを見出した。また、前記大豆米糠発酵組成物が、試験管内試験において、消化酵素を阻害すること、及びマウスを用いたデンプン負荷試験においてデンプン投与後の血糖値上昇を有意に抑制することを見出した。また、前記大豆米糠発酵組成物が、DPP−IVの酵素活性を阻害すること、及びAGEの生成を抑制することを見出した。以上より、本発明者らは、本発明の完成に至った。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる大豆米糠発酵組成物を含有することを特徴とする抗糖尿病組成物である。
<2> 発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された前記<1>に記載の抗糖尿病組成物である。
<3> プロテアーゼが中性プロテアーゼであり、pH4.5〜8.0で発酵物を処理してなる前記<1>から<2>のいずれかに記載の抗糖尿病組成物である。
<4> 大豆米糠発酵組成物が、更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出されてなる前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗糖尿病組成物である。
<5> 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる大豆米糠発酵組成物を含有し、脂肪細胞分化誘導作用、アディポネクチン産生誘導作用、腫瘍壊死因子−α産生抑制作用、消化酵素阻害作用、血糖値上昇阻害作用、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性阻害作用、及び終末糖化産物群生成抑制作用の少なくともいずれかを有することを特徴とする組成物である。
<6> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の抗糖尿病組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
<7> 前記<5>に記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、抗糖尿病作用において異なった作用機序を併せ持ち、II型糖尿病の予防、改善又は治療においてより効果的に作用を発揮する抗糖尿病組成物、及びこれを含有する飲食品を提供することができる。
図1は、3T3−L1脂肪細胞の培養液に大豆米糠発酵組成物を添加して培養したときの成熟脂肪細胞への分化誘導作用を示した図である。 図2は、3T3−L1脂肪細胞の培養液に大豆米糠発酵組成物を添加して培養したときの培養上清中へのアディポネクチン産生誘導作用を示した図である。 図3は、LPS刺激マクロファージ細胞株(Raw264)からのTNF−α産生に対する大豆米糠発酵組成物の抑制作用を示した図である。 図4は、3T3−L1とRaw264の共培養によるアディポネクチン産生低下に対する大豆米糠発酵組成物の低下抑制作用を示した図である。 図5は、大豆米糠発酵組成物のα−アミラーゼ阻害作用を示した図である。 図6は、大豆米糠発酵組成物のα−グルコシダーゼ阻害作用を示した図である。 図7は、デンプン負荷マウスの血中グルコース上昇に対する大豆米糠発酵組成物を経口投与したときの抑制作用を示した図である。 図8は、大豆米糠発酵組成物のDPP−IV阻害作用を示した図である。 図9は、大豆米糠発酵組成物のAGE生成抑制作用を示した図である。 図10は、大豆米糠発酵組成物(発酵後プロテアーゼ処理したもの)、大豆蛋白質及び米糠を発酵のみ行ったもの、並びにプロテアーゼ処理のみ行ったものにおける、α−アミラーゼ阻害率を示した図である。
(抗糖尿病組成物)
本発明の抗糖尿病組成物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる大豆米糠発酵組成物を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニン、食物繊維、ビタミン類などが挙げられる。
<大豆米糠発酵組成物>
前記大豆米糠発酵組成物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる組成物を含む。前記発酵物は、必要に応じて更にその他の成分を前記大豆蛋白質及び前記米糠と共に発酵させた発酵物でもよく、その他の成分を前記大豆蛋白質及び前記米糠とは別に発酵させた発酵物を更に含んでいてもよい。
<<大豆蛋白質>>
前記大豆蛋白質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分離大豆蛋白質、濃縮大豆蛋白質、脱脂豆乳、脱脂大豆などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記大豆蛋白質としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、ニューフジプロSE、ニューフジプロ1700、フジプロE(以上、粉末状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)、ニューフジニックP50、アペックス600(以上、粒状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)などが挙げられる。
前記大豆蛋白質としては、原料として大豆又はその類縁種を用いた大豆摩砕物の固形画分を用いてもよい。前記大豆摩砕物の固形画分は、例えば、豆腐を製造する過程で副生されるオカラであり、原料となる大豆の種類、製造条件などは特に制限されない。前記固形画分としては、その製造過程において濾過されたままのものでも、それを乾燥したものでもよい。
前記大豆固形画分の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾物における含有量が、粗蛋白質20質量%〜30質量%、粗脂肪10質量%〜15質量%、可溶無窒素物25質量%〜35質量%、粗繊維10質量%〜20質量%であることが好ましく、前記固形画分における水分含有量が、75質量%〜80質量%であることが好ましい。
<<米糠>>
前記米糠としては、米糠、脱脂米糠、米胚芽、及び脱脂米胚芽の少なくともいずれかを含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、玄米を白米に精米する過程で除去される米の果皮、種皮、糊粉層、胚芽等を含む通常の米糠をそのまま用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米糠としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、オリザジャーム−DLP、オリザジャーム−DLS、オリザドリム、脱脂コメヌカ(以上、脱脂米糠、オリザ油化株式会社製)、脱脂糠(築野食品工業株式会社製)などが挙げられる。
前記大豆蛋白質と前記米糠との質量比(大豆蛋白質/米糠)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1/5〜10/1が好ましく、1/2〜5/1がより好ましい。
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニンなどが挙げられる。前記茶カテキンの原料である茶の種類、抽出方法などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有効成分であるポリフェノールを多く含むことが好ましい。前記茶カテキンにおける具体的な総ポリフェノール含量としては、60質量%以上が好ましい。
前記大豆蛋白質及び前記米糠に対する前記その他の成分の質量比(その他の成分/大豆蛋白質及び米糠)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1/3,000以上が好ましく、1/1,500以上がより好ましい。前記質量比が、1/3,000未満であると、前記その他の成分の機能性が発揮されないことがある。
前記大豆蛋白質及び前記米糠を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品用途、菌自体の有する栄養素、発酵香などの観点から、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、酵母菌が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高い機能性を持った生成物が高収量で得られる点で、納豆菌が特に好ましく、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかと納豆菌との組み合わせも好適に用いることができる。
なお、前記菌としては、安全性が保証されている限り、自然的に、又は人為的な変異手段により生成し、菌学的性質が変異した変異株も用いることができる。
前記納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)としては、特に制限はなく、市販されている一般的な納豆菌を用いることができ、例えば、株式会社成瀬醗酵化学研究所から入手することができる。
前記テンペ菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rhizopus oligosporusRhizopus oryzaeRhizopus stoloniferなどが挙げられる。これらの中でも、発酵の容易さの観点からRhizopus oligosporusが好ましい。なお、これらのテンペ菌は、インドネシアからの輸入品として、或いは日本の種麹業者から容易に入手することができる。
前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・ビフィズス(Lactobacillus bifidus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・サンフランシスコ(Lactobacillus sanfrancisco)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・ラクチス(Streptomyces lactis)などが挙げられる。これらの中でも、乳酸の生成量の点で、ラクトバシルス・アシドフィルスが好ましく、味の点で、ラクトバシルス・ビフィズスが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これらの乳酸菌の選択によって、最終的な発酵物の味、香り、栄養素等を変化させることができる。なお、これらの乳酸菌は、いずれも公知の菌で、容易に入手することができる。
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、カンジダ属、クルイベロミセス属などが挙げられる。これらの中でも、飲食品用途の観点から、サッカロミセス属の酵母が好ましく、清酒酵母、ビール酵母が特に好ましい。これらの酵母菌は、例えば、財団法人日本醸造協会から入手することができる。
前記菌の接種量としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択できるが、発酵の対象物が液体である場合には、通常1×10個/mL〜1×10個/mLであり、発酵の対象物が固体である場合には、通常1×10個/g〜1×10個/gである。前記接種量が、1×10個/mL又は1×10個/g未満であると、菌による発酵に時間がかかることがあり、1×10個/mL又は1×10個/gを超えると、菌の増殖が抑制されて発酵が進まないことがある。
前記発酵条件、例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等も適宜決定されうるが、使用する菌の増殖等の特性に適した条件とすべきである。
前記発酵温度としては、前記菌による発酵が進む限り特に制限はなく、使用する菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常10℃〜55℃であり、20℃〜50℃が好ましく、25℃〜45℃がより好ましい。
前記発酵時間としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常1時間〜5日間であり、3時間〜3日間が好ましく、6時間〜2日間がより好ましい。
前記発酵の対象としては、固体でもよく、液体でもよく、また、適宜通気を行ってもよい。前記発酵の対象が液体である場合、振とう又は攪拌しながら発酵を行ってもよいし、静置で発酵を行ってもよいが、前記菌の増殖を促進し、発酵を促進させる点で、振とう又は攪拌を行うことが好ましい。
前記振とうの条件としては、特に制限はなく、よく攪拌されていればよい。
前記発酵時のpHとしては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常4.5〜8.5であり、5.5〜7.5が好ましい。なお、pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
<<プロテアーゼによる処理>>
本発明で用いられる大豆米糠発酵組成物は、前記発酵物をプロテアーゼで処理してなる。前記プロテアーゼは、ペプチド結合加水分解酵素の総称であり、蛋白質分解酵素ともいう。本明細書においては、前記プロテアーゼによる処理を「プロテアーゼ消化」又は「蛋白質分解」とも呼ぶ。この処理は、前記発酵物に由来する蛋白質又はペプチドの分解を目的としたものである。
前記プロテアーゼとしては、前記発酵物に含まれる蛋白質又はペプチドを分解することができる限り、特に制限はなく、蛋白質分子のペプチド結合を加水分解するプロテイナーゼを用いてもよいし、ペプチド鎖のアミノ末端或いはカルボキシ末端のペプチド結合を加水分解するペプチダーゼを用いてもよい。また、前記プロテアーゼは、至適pHによって、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、及びアルカリ性プロテアーゼに分類されるが、これらの中でも、プロテアーゼ処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、中性プロテアーゼが好ましい。
前記プロテアーゼの具体例としては、金属プロテアーゼ(サーモライシン等)、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、プラスミン、エラスターゼ、ズブチリシン等)、チオールプロテアーゼ(パパイン、フィシン、ブロメライン、カテプシンB等)、アスパラギン酸プロテアーゼ(ペプシン、キモシン、カテプシンD等)、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酵素処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、セリンプロテアーゼ及びアミノペプチダーゼを含むものが好ましい。
なお、これらのプロテアーゼは、精製されていても、或いは精製されていなくてもよく、また、それらの起源は、微生物由来、植物由来及び動物由来のいずれであってもよい。
前記プロテアーゼとしては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、デナチームAP(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、ナガセケムテックス株式会社製)、プロテアーゼN「アマノ」G、プロチンSD−NY10、プロチンSD−PC10F(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼS「アマノ」G(Bacillus stearothermophilus由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、パパインW−40(パパイヤラテックス由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロメラインF(Ananas comosus 由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、PTN(豚の膵臓由来中性プロテアーゼ、ノボザイムズジャパン株式会社製)、オリエンターゼ90N、ヌクレイシン、オリエンターゼ10NL(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼONS(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)などが挙げられる。
前記プロテアーゼ処理における処理条件、例えば、前記発酵物に対するプロテアーゼ量、処理温度、処理時間、pHなどは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記発酵物の固形分に対する前記プロテアーゼの質量比(プロテアーゼ/発酵物)としては、通常1/500〜1/10であり、1/200〜1/20が好ましい。前記質量比が、1/500未満であると、蛋白質分解反応(プロテアーゼ消化)が不十分であり、或いは反応に長時間を要することがあり、1/10を超えると、製造コストが高くなり、経済的でない。
前記処理温度としては、使用するプロテアーゼの至適温度を考慮して決定すべきであるが、通常15℃〜70℃であり、40℃〜65℃が好ましい。
前記処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜決定されるが、反応性及び雑菌混入防止の観点から、通常、10分間〜2日間であり、3時間〜24時間が好ましい。
前記プロテアーゼ処理のpHとしては、使用するプロテアーゼの至適pHを考慮して決定すべきであるが、通常3〜10である。前記中性プロテアーゼを用いる場合のpHとしては、4.5〜8.0が好ましく、5〜7.5がより好ましい。
pHの調整は、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
前記プロテアーゼ処理においては、前記発酵物の他に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、脱脂米糠、米胚芽、茶カテキンなどが挙げられる。
これらの種類、含有量、及び好ましい範囲などは、前述したのと同様である。
本発明で用いられる大豆米糠発酵組成物は、上記プロテアーゼで処理されたものをそのまま使用してもよく、それを更に処理乃至加工して用いてもよい。例えば、前記大豆米糠発酵組成物を水などで抽出して用いてもよく、更に濃縮又は希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよい。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
前記抽出の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、熱水及びエタノールのいずれかを前記大豆米糠発酵組成物に加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。効率的に活性物質を抽出できる点で、熱水による抽出が好ましい。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、公知の濃縮方法を用いることができる。
濃縮後の前記大豆米糠発酵組成物のBrix値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜12が好ましい。
(飲食品)
本発明の飲食品は、本発明の抗糖尿病組成物を含有してなり、必要に応じてその他の成分を含有してなる。本発明の飲食品としては、例えば、本発明の抗糖尿病組成物をそのまま、或いはペレット、粉末、顆粒などの形態として使用してもよく、食品添加物、調味料、ふりかけとして使用してもよい。また、本発明の抗糖尿病組成物を食材中に含有せしめて使用してもよい。これにより、機能性食品或いは健康食品を得ることができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。また、特に断りのない限り、「%」は質量%を示す。
<製造例1:大豆米糠発酵組成物の製造>
<<工程1:大豆固形画分発酵物(FSB−01)の調製>>
大豆を水で洗浄し、水に17時間浸漬して十分に吸水させた。大豆が吸水して十分に柔らかくなったことを確認し、豆挽機を用いて水とともに大豆を摩砕した。摩砕された大豆をタンクに移し、均一になるように攪拌した。その後、摩砕大豆懸濁液をよく撹拌しながら20分間、100℃で加熱した。加熱後、絞り器を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.6L(菌数1.0×1010個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器若しくはポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器若しくは恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆固形画分発酵物(FSB−01)は、使用時まで冷凍保管した。
<<工程2:大豆米糠発酵液の調製>>
原料として、大豆蛋白質(ニューフジプロSE、不二製油株式会社製)、脱脂米糠及び米胚芽(以上、オリザ油化株式会社製)を用いた。ステンレス製のタンクに水3,000Lを入れ、続いて大豆蛋白質200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kgを投入した。その後、90℃になるまで加温し、昇温後1時間攪拌した。攪拌終了後、42℃まで冷却し、得られた大豆米糠液、工程1で用いたものと同じ納豆菌を1L(菌数1.0×1011個)添加した。納豆菌接種後、42℃で28時間撹拌し、大豆米糠発酵液を得た。
<<工程3:プロテアーゼ処理>>
前記工程2で得られた大豆米糠発酵液に、前記工程1で得られたFSB−01 200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kg、及び茶カテキン260gを投入した。
これを3時間攪拌しながら混合した後、50℃になるまで加温した。昇温後、Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ(デナチームAP、ナガセケムテックス株式会社製)を10kg投入し、50℃で15時間撹拌してプロテアーゼ消化を行った。
その後、90℃で10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。
<<工程4:抽出>>
前記工程3で得られた大豆米糠発酵組成物を2時間攪拌し、熱水抽出を行った。抽出後、遠心分離機を用いて固液分離を行った。液相のみを回収し、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.8に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。
<<工程5:濾過>>
その後、フィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。得られた澄明液を製造例1の大豆米糠発酵組成物とした。
以上のようにして得られた大豆米糠発酵組成物を用いて、以下の実施例1〜9を行った。
(実施例1:脂肪細胞の分化誘導作用)
前駆脂肪細胞(3T3−L1:ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を96ウェルのマイクロプレートに3×10個/ウェルで播種し、37℃、5体積% COインキュベーターで24時間培養した。細胞がコンフルエントになったのを確認後、更に2日間インキュベーションした。培地を除去し、分化誘導培地I(DMEM培地:10μg/mLインスリン、10%牛胎児血清、4.5g/Lグルコース)90μLに置換し、大豆米糠発酵組成物を10μL添加した。2日毎に各被験物質を含む分化誘導培地Iに培地交換しながら8日間培養した。
細胞をPBS(リン酸緩衝液)で2回洗浄した後、10%ホルマリンを加え、室温で10分間処理した。細胞をPBSで2回洗浄した後、オイルレッドO染色液(SIGMA社製)を加え、室温で20分間染色した。60体積%イソプロパノールで1回洗浄し、その後、PBSで2回洗浄し、顕微鏡下、細胞内脂肪滴の蓄積を観察して細胞内脂肪滴が認められる細胞を分化成熟した脂肪細胞と見なし、写真を撮影した。結果を図1に示す。
対照として、分化誘導を行わなかった(基本培地のみで培養した)無処置のもの(無処置群)、大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(対照群)、大豆米糠発酵組成物の代わりにトリグリタゾン(TGZ)を添加した陽性対照(陽性対照(TGZ)群)も同様の試験を行った。なお、前記大豆米糠発酵エキスは、発酵抽出液を純水で128倍に希釈し、陽性対照として用いたTGZは、3μMの濃度に調整して細胞に添加した。
図1より、インスリンを含まない基本培地のみで前駆脂肪細胞を培養した無処理群では、脂肪細胞への分化は認められなかった(図1A)のに対し、インスリン含有培地で培養した対照群では細胞内に脂肪滴を蓄積した分化脂肪細胞が認められた(図1B)。一方、インスリン含有培地に大豆米糠発酵組成物を添加することにより、明らかに細胞内の脂肪滴蓄積量を増加し、大豆米糠発酵組成物による脂肪細胞への分化の促進が認められた(図1D)。この効果は、陽性対照として用いたTGZ 3μM(図1C)よりも強い作用であった。
(実施例2:脂肪細胞からのアディポネクチン誘導作用)
実施例1において、希釈倍率128倍、64倍、32倍、16倍、8倍又は4倍の大豆米糠発酵組成物を加えて培養した3T3−L1細胞の培養終了時に各ウェルの培養上清を回収し、含まれるアディポネクチン量をアディポネクチン測定キット(マウス・アディポネクチンELISAキット;CycLex社製)を用いて定量した。結果を図2に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照、並びに前記大豆米糠発酵組成物の代わりに3μM又は10μMのTGZを添加した陽性対照も同様の試験を行った。
図2より、大豆米糠発酵組成物を添加して培養した3T3−L1細胞の培養上清では、高いアディポネクチンの産生量が認められた。この効果は、大豆米糠発酵組成物の128倍希釈においても陽性コントロールであるTGZ 3μM及び10μMと同程度の効果であった。
(実施例3:LPS刺激マクロファージ細胞株(Raw264)からのTNF−α産生抑制作用)
Raw264細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手)を24ウェルのマイクロプレートに5×10個/ウェルで播種し、希釈倍率16倍、8倍、4倍、2倍又は1倍の大豆米糠発酵組成物を1/10量の容量で加えて、37℃、5体積% COインキュベーターで2時間培養した。LPS(Lipopolysaccharide;SIGMA社製)を0.01μg/mLの濃度で加え、更に18時間〜22時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を回収し、含まれるTNF−α量をTNF−α測定キット(レビスTNFα−マウス;株式会社シバヤギ製)を用いて定量した。培養終了時にトリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)染色により細胞のバイアビリティを確認し、細胞毒性が認められない濃度での評価を行った。結果を図3に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(LPS刺激+)、及びLPSを添加しなかった対照(LPS刺激−)も同様に評価した。
図3より、Raw264細胞をLPSで刺激することによりTNF−αの産生誘導が認められた。一方、大豆米糠発酵組成物を添加することにより、用量依存的なTNF−α産生抑制が認められた。
(実施例4:3T3−L1とRaw264の共培養によるアディポネクチン産生低下に対する低下抑制作用)
前記Raw264細胞を5×10個/mLに調整し、希釈倍率128倍、64倍、32倍、又は16倍の大豆米糠発酵組成物を加え、37℃、5体積% COインキュベーターで2時間処理した。実施例1と同様に96ウェルのマイクロプレート培養して分化させた3T3−L1細胞の各ウェルに大豆米糠発酵組成物で処理したRaw264細胞を5×10個/ウェルで重層し、48時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を回収し、含まれるアディポネクチン量をアディポネクチン測定キット(マウス・アディポネクチンELISAキット;株式会社サイクレックス製)を用いて定量した。測定値は、3T3−L1単独の培養上清の値を100%とし、それに対する%を縦軸に示した。結果を図4に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(Raw264+)、及びRaw264を重層しなかった対照(Raw264−)も同様に評価した
図4から、3T3−L1細胞とRaw264細胞との共培養により、培養上清中のアディポネクチン量の低下が認められた。一方、大豆米糠発酵組成物でRaw264細胞を処理することにより、アディポネクチン産生量の低下抑制作用が認められた。
(実施例5:α−アミラーゼ阻害作用)
7U/mLのα−アミラーゼ溶液(和光純薬工業株式会社製)50μLに希釈倍率320倍、160倍、80倍、40倍、20倍、又は10倍の大豆米糠発酵組成物20μLを加え5分間処理した後、4質量%デンプン溶液50μLを加えた。7.5分間反応させた後、0.01Nのヨウ素液50μL、及び蒸留水150μLを加え、波長450nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を図5に示す。
α−アミラーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
図5から、大豆米糠発酵組成物は、多糖類から二糖類に変換する酵素であるα−アミラーゼの活性を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、食事によって取り込まれた多糖類は、二糖類に変換されることなく、更にグルコースに変換されることなく体外へ排出され、食後の血糖値の上昇が緩和されることが考えられる。
(実施例6:α−グルコシダーゼ阻害作用)
0.07U/mLのα−グルコシダーゼ溶液(SIGMA社製)50μLに希釈倍率8倍、4倍、又は2倍の大豆米糠発酵組成物10μLを加え、5分間処理した後、p−nitrophenyl−α−D−glucopyranoside(ナカライテスク株式会社製)の5mM溶液50μLを加えた。5分間反応させた後、波長405nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を図6に示す。
α−グルコシダーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
図6から、大豆米糠発酵組成物は、二糖類から単糖のグルコースに変換する酵素であるα−グルコシダーゼの活性を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、食事によって取り込まれた二糖類はグルコースに変換されることなく体外へ排出され、食後の血糖値の上昇が緩和されることが考えられる。
(実施例7:デンプン負荷マウスの血中グルコース上昇抑制作用)
予備飼育した7週齢の雄性ICRマウス(日本エスエルシー株式会社から入手)を、20時間絶食させた後、蒸留水に懸濁した大豆米糠発酵組成物100mg/kg又は300mg/kgとデンプンとを胃ゾンデを用いて強制的に経口投与した。対照群には蒸留水を同様に投与した。デンプンは、2g/kgで経口投与し、投与30分間、60分間、120分間後に非麻酔下尾静脈より採血し、直接血糖測定器(エキストラ、アボットジャパン株式会社製)を用いて血中グルコース濃度を測定した。得られた値は、平均値±標準偏差で表記した。対照群と被験物質投与群間における統計学的な差の検定は、Dunnetの多重比較検定法を用いて行った。検定での有意水準は5%未満とし、図中には、**:1%未満、*:5%未満で表示した。結果を図7に示す。
図7から、多糖類であるデンプンを投与することにより、投与30分間後では急激な血中グルコースの上昇が認められた。これは、体内の酵素であるアミラーゼ、及びグルコシダーゼによりデンプンがグルコースに分解され腸管より吸収されたことによると考えられる。一方、デンプンと同時に大豆米糠発酵組成物を投与することにより、投与60分間後では有意な血中グルコース濃度の抑制が認められた。このことから、大豆米糠発酵組成物により、食後の急激な血糖値の上昇が緩和され、グルコースによる血管障害が抑制されると考えられる。
(実施例8:DPP−IV阻害作用)
製造例で得られた大豆米糠発酵組成物について、希釈倍率32倍、16倍、8倍、4倍、2倍、又は1倍のDPP−IV阻害活性をDPP−IV阻害活性測定キット(DPP−IV Inhibitor Screening Assay Kit:Cayman Chemical社製)を用いて付属のプロトコルに準じて測定した。対照には、同量の純水を用い、DPP−IV阻害率は、下記式により算出した。結果を図8に示す。
DPP−IV阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
図8から、大豆米糠発酵組成物は、用量依存的にDPP−IVの酵素活性を抑制することが分かった。これにより、大豆米糠発酵組成物は、インスリン誘導ホルモンの分解を抑制し、インスリン量を増加させることにより血中のグルコース濃度を低下させると考えられる。
(実施例9:AGE生成抑制作用)
製造例で得られた大豆米糠発酵組成物について、希釈倍率4倍、2倍、又は1倍のAGE生成阻害率を以下の方法により測定した。
10%グリシン(和光純薬工業株式会社製)450μL、10%グルコース(和光純薬工業株式会社製)450μL及び被験物質100μLを混合して60℃で反応させた。24時間反応させた後、波長450nmで吸光度を測定した。対照には同量の純水を用い、AGE生成阻害率は次の式により算出した。結果を図9に示す。
AGE生成阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
図9から、大豆米糠発酵組成物は、グリシンとグルコースとの非酵素的糖化反応によって合成されるAGE生成を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、大豆米糠発酵組成物は、糖尿病の高血糖状態において多量に生成されるAGEを抑制することにより、血管障害に起因する糖尿病合併症の発症及び進展を抑制すると考えられる。
(実施例10:発酵及びプロテアーゼ処理によるα−アミラーゼ阻害活性への影響)
(1)製造例1の工程3で得られた大豆米糠発酵組成物、及び(2)製造例1の工程5で得られた大豆米糠発酵組成物をそれぞれ検体として、α−アミラーゼ阻害活性の測定を行った。これと同時に、比較対照として、製造例1の工程2における、(3)納豆菌を接種する前の大豆米糠液(無処理)、(4)製造例1の工程2で得られた大豆米糠発酵液(発酵のみ)、及び(5)製造例1の工程2で発酵処理を行わず、工程3のプロテアーゼ処理のみを行って得られた組成物(プロテアーゼ処理のみ)をそれぞれ検体として、α−アミラーゼ阻害活性の測定を行った。
7U/mLのα−アミラーゼ溶液(和光純薬工業株式会社製)50μLに各検体20μLを加えて5分間処理した後、4%デンプン溶液50μLを加えた。7.5分間反応させた後、0.01Nのヨウ素液50μL、及び蒸留水150μLを加え、波長450nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を図10に示す。
α−アミラーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
図10から、プロテアーゼ処理のみの検体ではα−アミラーゼ阻害活性は全く認められなかった。一方、大豆及び米糠を発酵することによってα−アミラーゼ阻害活性の上昇が認められ、更にプロテアーゼで処理することによってα−アミラーゼ阻害活性が顕著に上昇することが確認された。発酵のみの検体におけるα−アミラーゼ阻害効果と、プロテアーゼ処理のみの検体におけるα−アミラーゼ阻害効果とを単純に足し合わせても、大豆米糠発酵組成物のα−アミラーゼ阻害率には達しないことから、大豆米糠発酵組成物において相加効果以上の効果が認められた。
実施例1〜10の結果から、本発明に用いられる大豆米糠発酵組成物が血糖値上昇抑制に対する多面的な作用を示すことが分かった。これにより、前記大豆米糠発酵組成物を含む本発明の抗糖尿病組成物が糖尿病の治療、改善、又は予防に効果的に働くことが示された。
本発明は、糖尿病、特に肥満によって誘導されるII型糖尿病を効果的、かつ安全に治療、改善、又は予防することができる抗糖尿病組成物及び飲食品を提供するものである。

Claims (5)

  1. 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物をプロテアーゼで処理してなる大豆米糠発酵組成物を含有することを特徴とする抗糖尿病組成物。
  2. 発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された請求項1に記載の抗糖尿病組成物。
  3. プロテアーゼが中性プロテアーゼであり、pH4.5〜8.0で発酵物を処理してなる請求項1から2のいずれかに記載の抗糖尿病組成物。
  4. 大豆米糠発酵組成物が、更に熱水及びエタノールのいずれかで抽出されてなる請求項1から3のいずれかに記載の抗糖尿病組成物。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の抗糖尿病組成物を含有することを特徴とする抗糖尿病用飲食品。
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