JP5931200B2 - L−fabpに基づく、急性事象後または外科的介入後の腎障害の診断 - Google Patents

L−fabpに基づく、急性事象後または外科的介入後の腎障害の診断 Download PDF

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Description

本発明は、L−FABPおよび任意的にはさらなるマーカーの検出に基づき、個体からの血液サンプルにおいて、急性事象(acute event)後または外科的介入(surgical intervention)後の腎障害を早期診断するための手段および方法に関する。
腎障害は、多種多様な臨床条件において、しばしば重篤かつ致命的な合併症を伴って起こる複合疾患を意味する。腎臓疾患は、大きく、慢性腎臓病(CKD)および急性腎障害(acute forms of kidney injury)に分類される。CKDは、例えば糖尿病、腎症、高血圧症および心血管疾患などの疾患にしばしば起因する慢性疾患である。
同様に、急性腎障害(acute kidney injury、AKI)のような急性型の腎障害は、事故、火傷または外傷などの急性事象後の個体において起こり得る。腎障害はまた、外科的介入後の主要な合併症でもある。
老廃物をろ過する腎臓の能力は、急性腎障害を患っている患者において、急速に低下し、その後腎不全へと進行し得る状態である。冠動脈バイパス形成手術後のAKIの発生は、10〜20%に及ぶ(非特許文献1)。これら個体のうち1〜5%が術後透析を必要とする。術後AKIの発症機序は、多元的であり、そして、心臓手術後の罹患率の増加および長期死亡率の増加との関係は充分確立されている(非特許文献2:非特許文献3)。
リスクのある患者においてAKIは予防され得る。予防には、手術のあいだおよびその後の慎重な体液平衡、低い心肺バイパス(CPB)潅流温度の回避(非特許文献3)、手術に先立った腎毒性であり得る薬剤の回避または中止、または、手術後の例えばエリスロポエチンなどの薬剤の適用(非特許文献4)などが挙げられる。
急性腎障害は、今まで、血清クレアチニン濃度を評価することによってのみ診断されていた。ベースラインからの0.3mg/dL(26.4μmol/L)より大きい血清クレアチニン濃度の絶対的増大、または48時間という期間での血清クレアチニン濃度の50%より大きな増大が、急性腎障害の診断を示している。しかしながら、血清クレアチニンの測定は、急性腎障害の診断が急性腎障害の最終段階においてしか診断され得ない(急性事象のおよそ2日後)という問題がある。
L−FABPマーカー(肝臓型脂肪酸結合タンパク質)(しばしばFABP1とも称される)は、肝細胞中およびヒト腎臓の尿細管中で特に発現している遊離脂肪酸の細胞内キャリアータンパク質である。
Kamijoらは、L−FABPの尿排出が、尿細管間質性障害を引き起こす様々な種類のストレスを反映しているかもしれず、そして、慢性腎疾患の進行に対する有用な臨床的マーカーであるかもしれないことを報告した(非特許文献5)。
Portillaらは、心臓手術の後の小児科集団において、AKIを発症している患者においてはL−FABPの増加が見られるが、AKIを発症していない患者においては増加が見られないことを見出した(非特許文献6)。血清L−FABPレベルの顕著な増大は、心臓手術の後早くても12時間後にしか観察されなかった。これに対し、同じサブセットの患者において測定された尿中L−FABPレベルは、対照のレベルと比較した場合、手術後の最初の4時間以内に極めて増大した。
さらに、Portillaらは、ヒトL−FABPトランスジェニックマウスに、異なる度合のAKI重症度をいくつかの腎刺激によって誘導した。Portillaらは、尿中L−FABPレベルは、シスプラチン誘導AKIにおける損傷後、2時間でさえ増大していることを示した。しかしながら、これらのデータは、ヒトにおける臨床評価に欠けていた。
AKIにおける、血清L−FABPレベルおよび尿中L−FABPレベルのあいだの解離は、Devarajanらによって議論されており(非特許文献7)、AKI患者における心臓手術後4時間での尿中L−FABPレベルの上昇は、高い血清レベルの増大されたろ過を反映しているのではなく、むしろ、尿細管からのL−FABPの増大した排出を示唆している。
AKIは、例えば代謝性アシドーシス、高いカリウム濃度、尿毒症、体液平衡の変化などの多数の合併症を引き起こし得、そして、他の器官系に影響を及ぼす。AKIの管理は、例えば腎代替療法などの対症療法、および基礎疾患の処置を含む。さらに、AKIは、例えば代謝性アシドーシス、高いカリウム濃度、尿毒症、体液平衡の変化などの様々な合併症を引き起こし得る。体液平衡の変化は、結果的に心不全を引き起こす可能性がある(または、心不全を悪化させ得る)。さらに、他の器官系が影響を受けるかもしれない。深刻な腎障害の場合、腎代替療法(例えば、血液透析または腎移植など)が必要となるかもしれない。加えて、AKIは、死亡率の増大、費用の上昇、ならびに、長びく集中治療室(ICU)在室および入院と関連している。AKIの従来のバイオマーカー、クレアチニンおよび尿素は、AKIを早期には検出しない。例えば、麻酔のあいだ、およびICUの中でなどでの、新規の早期バイオマーカーの臨床上の使用が急速に広がっている。新規のバイオマーカーは、腎機能に対する新規技術および治療の効果を評価するために、毒性をモニターするための安全マーカーとして、および、治療効果の尺度として使用され得る。
早期診断が時宜を得た治療的手段の開始を可能とするため、結果として、外科的介入を受けているまたは急性事象を経験している個体において一刻も早く、腎障害を早期診断する高い必要性がある。
その結果、本発明の根底に存在する技術的課題は、急性事象後または外科的介入後、腎障害を患っているまたは将来腎障害を患う恐れがある個体の早期特定のための手段および方法の提供と考えられる。
Mehtaら、Circulation 2006, 114: 2208-2216 Brownら、Annals of Thoracic Surgery 2008, 86: 4-11 Kourliourosら、European Journal of Cardiothoracic Surgery 2009、印刷中 Songら、American Journal of Nephrology 2009, 30: 253-260 Urinary liver-type fatty acid binding protein as a useful biomarker in chronic kidney disease. Mol Cell Biochem. 2006 Mar; 284(1-2):175-82 Kidney International (2008) 73, 465-472 Informa Healthcare (2008) 2, 387-398
これらの目的の少なくとも一つは、以下の特許請求の範囲および本明細書中に規定される要件の提供によって達成される。
本発明の第一の態様は、
a)肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L−FABP)またはその変異体のレベルを個体から採取された第一の血液サンプルにおいて測定する工程であって、前記サンプルが急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取される工程、および
b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む、急性事象後または外科的介入後の個体において腎障害を診断するための方法であって、
参照レベルと比較して少なくとも等しいかまたは高いL−FABPまたはその変異体のレベルが腎障害を示している方法、に関する。
本発明の第二の態様は、
a)個体から採取された第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程であって、前記サンプルが急性事象後または外科的介入後10時間以内に採取される工程、および
b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む、急性事象後または外科的介入後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための方法であって、
参照レベルと比較して等しいかまたはそれより高いL−FABPのレベルが、個体が腎障害を患うリスクを示している方法、に関する。
本発明の第三の態様は、
a)急性事象後または外科的介入後10時間以内に採取された、個体の第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程、および
b)工程a)において測定されたL−FABPのレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む、急性事象後または外科的介入後に腎障害を患っている、または患うリスクのある個体のための腎臓治療を選択するための方法であって、
前記腎臓治療が工程b)での比較に基づいて選択される方法に関する。
さらなる様態において、本発明は、対応するキットおよび装置ならびにそれらの使用に関する。
心臓手術後、一方はAKIを発症したおよび他方はAKIを発症しなかった2つの個体群から採取された血液サンプルにおけるL−FABPのレベルを決定するためのROC分析を示す図である。サンプルは外科的介入の2時間後に採取された。AUC(曲線の下の領域の面積)は0.70(OP後2時間)である。 心臓手術後、一方はAKIを発症したおよび他方はAKIを発症しなかった2つの個体群から採取された血液サンプルにおけるL−FABPのレベルを決定するためのROC分析を示す図である。サンプルは外科的介入の4時間後に採取された。AUC(曲線の下の領域の面積)は0.70(OP後4時間)である。 心臓手術後、一方はAKIを発症したおよび他方はAKIを発症しなかった2つの個体群から採取された血液サンプルにおけるL−FABPのレベルを決定するためのROC分析を示す図である。サンプルは外科的介入の24時間後に採取された。AUC(曲線の下の領域の面積)は0.80(OP後24時間)である。 血漿または血清中のL−FABPのレベルの比較を示す図である。32人から、同時点で2つの別個のチューブに血液が採取され、それぞれ血清またはEDTA−血漿へと処理され、そして、L−FABPが試験された。ピアソン相関はr=0.999であった。グラフ中の実線は、角の二等分線を表している。 AKIを患っているまたはAKIを患っていない(非AKI)患者における、心臓手術後の血漿中のL−FABPの比較を示す図である。箱の端部はそれぞれ25または75パーセンタイルを示しており、そして、ひげは5または95パーセンタイルに配置されている。箱内の線は、中央値を示している。群のあいだの差異の重要性のレベルが、ウィルコクソン検定を用いて計算される。 AKIを患っていない患者(非AKI)およびAKIN1またはAKIN2もしくは3を患っている患者における、心臓手術後の血漿中のL−FABPの比較を示す図である。OP前の時点では、異なる群におけるL−FABPレベルの差異は見られない。OP後2時間のAKIN1およびAKIN2または3におけるL−FABPレベルは、非AKIと比較して顕著に増大した。OP後4時間および24時間のAKIN1およびAKIN2または3におけるL−FABPレベルは、非AKIと比較して顕著に増大した。さらに、AKIN1は、AKIN2または3と顕著に異なっており、これは、腎障害の重症度が血漿中のL−FABPのレベルに相関していることを示している。
以下の実施例は、本発明を例示することのみを目的とするものである。どのような形であっても、本発明の範囲を限定するものではない。
第一の態様において、本発明は、
a)肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L−FABP)またはその変異体のレベルを個体から採取された血液サンプルにおいて測定する工程であって、前記サンプルが急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取される工程、および
b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む急性事象後または外科的介入後の個体において腎障害を診断するための方法であって、
参照レベルと比較して少なくとも等しいかまたは高いL−FABPまたはその変異体のレベルが腎障害を示している方法、に関する。
本発明の発明者らは、驚くべきことに、血液サンプルに基づくL−FABPの検出が、急性事象後または外科的介入後の個体における腎障害の、これまでに知られていなかった早期および着実な診断(および予測)を可能にすることを見出した(実施例等を参照のこと)。このような早期の診断は、臨床医に非常に有益な情報を提供し、そして、本質的に信頼性に欠ける、または、より後期で反応性であるマーカーレベルに基づいている、これまでに公知の臨床診療と比較してより早期に、治療の層別化のためおよび治療に介入するための基準を提供する。結果として、腎障害の進行を防ぐこと、またはその悪化を改善することを目的とする治療的手段を早期に開始するまたは適合させることが今回可能となった。この点において、腎障害の発生後においては、腎障害を患うリスクが認識されるまたはその発生が予防的に処置され得る場合に比べて、治療法の選択肢(治療のための選択)が明らかにより限られていることが考慮されるべきである。このような決定としては、リスク便益評価の観点からの手術の適応の見直し、例えばAKIなどの腎障害を引き起こすことが知られている薬剤であって、例えばACE阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬およびNSIADsおよび場合によっては抗生物質およびAKIを引き起こすことが知られている他の薬剤などの薬剤の中断などが挙げられる。さらに、手術のあいだ、適切かつ強力に体液および血圧の均衡を図ることが必要とされる。これゆえ、本発明の方法は、腎障害の予防を標的とし、したがって、改善された臨床的意思決定を提供する。
本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ(ex vivo)法、またはインビトロ(in vitro)法である。さらに、方法は、上に明確に記載されているものに加えて他の工程を含んでいてもよい。例えば、さらなる工程はサンプルの前処理、または前記方法によって得られた結果の評価に関し得る。方法は、手動で行われてもよく、または、自動化によって補助されていてもよい。好ましくは、工程(a)および(b)は、例えば工程(a)または(b)における測定のための適切なロボット機器および感知機器などによって、または工程(b)における比較に基づくコンピュータによって実行される比較および/または診断によって、自動化により全体的にまたは部分的に補助され得る。
好ましくは、腎障害は、さらなる工程c)であって、工程b)における比較の結果に基づいて腎障害を診断する工程を行うことによって診断される。用語「腎障害(kidney injury)」とは、腎機能の損失、腎臓の細胞内損傷、細胞損傷または組織損傷、透析の必要性、および/または腎機能不全に関連した死を意味する。好ましくは、本発明における腎障害は急性腎障害(AKI)である。AKIは当該技術分野において公知である。AKIは好ましくは、手術後48時間以内または72時間以内の少なくとも0.3mg/dLの血清クレアチニン濃度の上昇として、またはベースラインからの少なくとも50%の上昇(好ましくは手術後48時間以内)によって定義される。AKIはまた、例えば上昇した血中尿素窒素および血清クレアチニンなどの特徴的な検査所見に基づいて、または腎臓の十分な量の尿を製造する能力不全に基づいて診断され得る。AKIは、腎後性、内因性または腎前性の腎障害であり得る。本明細書において使用されるAKIという用語によって包含されるAKIのさらなる好ましい規定は、RIFLE分類に基づいたAKIの定義を開示している急性腎障害ネットワーク(the Acute Kidney Injury Network(AKIN)(www.AKINet.org)によって開示されている。AKIを診断するためのさらなる方法および基準は、Mehtaら(2007) Critical Care (London, England) 11 (2): R31.doi:10.1186/cc5713. PMC 2206446. PMID 17331245に記載されている。
一方、慢性腎障害は、アルブミンの尿分泌によって診断可能である。
本明細書中で使用される用語「腎機能(kidney function)」とは、当該技術分野における当業者に広く公知である。これは「腎機能(renal function)」と代替可能に使用され得、そして、尿産生、体内の水分および体液の制御および排出、ならびに、電解質および老廃物の恒常性およびろ過、ならびに、エリスロポエチン合成のための腎臓の能力に関連する。
本発明の意味において本明細書中で使用される用語「急性事象(an acute event)」とは、任意の事故、火傷、外傷または癌を意味する。用語「事故(accident)」としては、例えば、転落または身体的暴力に起因するものなどの外力によって身体に与えられた損傷に由来する、任意のおよび不測の予定外の事象または状況などが挙げられる。好ましくは、損傷は、例えば創傷のように体の皮膚の完全性を遮断し、好ましくは創傷は、組織の断裂、切断、穿刺、または破壊と関連し得る。好ましくは創傷は、少なくとも3cm、少なくとも5cm、少なくとも10cm、少なくとも15cm、少なくとも20cmの直径を有する。本明細書中に包含される事故の例としては、車両による交通事故、スポーツ事故、および業務上の事故などが挙げられる。本明細書中で使用される用語「外傷(trauma)」とは、例えば創傷、好ましくは、組織の断裂、切断、穿刺、または破壊と関連し得る創傷のように体の皮膚の完全性を遮断する損傷を包含し得る。好ましくは創傷は、少なくとも3cm、少なくとも5cm、少なくとも10cm、少なくとも15cm、少なくとも20cmの直径を有する。
本発明の意味において使用される用語「外科的介入(surgical intervention)」とは、好ましくは、内視鏡手術的介入および麻酔および/または呼吸補助を伴う介入などの、身体への任意の種類の侵襲的介入を意味する。好ましくは、麻酔は局所麻酔であり、より好ましくは、麻酔は全身麻酔である。用語「外科的介入」はまた、内臓への(特には、肝臓、腎臓、腸、胃、肺への)介入を含む。用語「外科的介入」はまた、例えば四肢(足、腕)および頭部への介入も含む。好ましくは、本発明における「外科的介入」は、心臓手術または心肺手術より選択される。
用語「心臓手術(cardiac surgery)」とは、心臓への介入、とりわけ、弁または心筋の任意の部分への介入を含む。心臓手術は、好ましくは、冠動脈バイパス移植(CABG)術(しばしば「大動脈冠動脈バイパス」または「冠状動脈バイパス手術」とも称される)である。用語CABGは、公知である。CABGは、例えば経皮冠動脈インターベンション(PCI)などの他の方法によって成功裏に治療することのできない冠状動脈狭窄を患う個体において行われ得る。用語「心臓手術」はさらに、個体の不全弁を代替の健常弁と取り換える手法である、弁置換術を含む。弁はさまざまな疾患によって影響を受け得る。例えば、弁は漏れやすくなったり(大動脈弁閉鎖不全症/逆流)、部分的閉塞を起こしたり(大動脈弁狭窄症)し得る。
用語「呼吸補助(respiratory assistance)」は広く公知であり、そして、手術のあいだ心臓および肺の機能を一時的に引き継ぎ、血液循環および体の酸素量を維持する技術である人工心肺装置(CPB)を包含する。CPBポンプはそれ自体がしばしば、人工心肺機械と称される。人工心肺装置は通常、脈動している心臓を手術することの困難性ゆえに心臓手術において使用される。
本明細中で使用される用語「診断(diagnosing)」とは、例えばL−FABPなどの本発明のバイオマーカーのレベルの測定のための第一の(および/または第二の)サンプルの採取の際に、個体が、外科的介入または急性事象に関連付けられる腎障害の兆候および症状を示しているのか、それを患っているのかおよび/または発症しているのかどうかを評価、測定、決定、特定、判断、分類することを意味する。当業者によって理解されるであろうように、このような評価は、通常、診断される個体の100%に正しいことを意図されているわけではない。しかしながら、用語は、統計的に有意な割合の個体(例えばコホート研究におけるコホートなど)において評価が正確であることを必要とする。割合が統計的に有意かどうかということは、様々な公知の統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定(Student's t-test)、Mann−Whitney検定などを用いて当業者によって大きな手間なしに決定され得る。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983において見ることができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
本明細中で使用される用語「関連付けられる(associated with)」は、一方の腎障害と、他方の外科的介入または急性事象とのあいだの時間的関係、統計学的関係、因果関係を含む。
本明細中で使用される用語「個体(individual)」とは、動物、好ましくは哺乳類、および、より好ましくはヒト、例えば男性または女性に関係する。好ましくは、個体は、大人または子供である。好ましくは、外科的介入を受ける個体または急性事象を経験した人が、急性事象または外科的介入に先立って、その時点で、および/またはその前後に、増大したL−FABPレベルと関連付けられる疾患または症状、好ましくは、少なくとも約13ng/mL、またはより好ましくは少なくとも約15ng/mL、最も好ましくは約17ng/mLであるL−FABPのレベルと関連付けられている疾患または症状を患っていない。代わりに、それぞれのROC分析から好ましくは導かれる、健康な集団の少なくとも約80パーセンタイル、好ましくは少なくとも約85パーセンタイル、好ましくは少なくとも約90パーセンタイル、好ましくは少なくとも約95パーセンタイル、好ましくは少なくとも約99パーセンタイルのL−FABPのレベルと関連付けられている疾患または症状。好ましくは、増大したL−FABPのレベルと関連付けられる疾患または症状は、肝臓疾患、肝臓または腎臓障害、癌、または慢性腎障害である。加えて、個体は、好ましくは、急性事象または外科的介入の前2か月以内に、透析を必要としていたり、または透析を受けていたりしていないべきである。したがって、個体は好ましくは、肝臓障害癌または慢性腎障害を患っておらず、そして、個体は透析を必要とせず、また急性事象または外科的介入の前2か月以内に透析を受けていない。
公知の解決法とは異なり、個体の肝臓障害を診断するための方法および基準は、L−FABPまたは肝酵素(例えば、グルタミン酸脱水素酵素、ALT、GOT、γ−GTなど)のレベルを、急性事象または外科的介入に先立って採取されたサンプル中で測定することに基づき得る。参照レベルと比較した場合の、急性事象または外科的介入に先立って採取されたサンプル中のL−FABPのレベルまたは肝酵素の上昇が、肝臓障害または肝疾患を示している。
慢性腎疾患を診断するための方法および基準は、一般的に公知である。慢性腎疾患を診断するための一つの可能性は、尿中への30mg/24時間より多いアルブミン分泌の検出である。
急性事象後または外科的介入後の個体における腎障害を診断するための方法に関連して、本明細書中で使用される用語「参照レベル(reference level)」は、好ましくは、本明細書中で参照される個体が腎障害、好ましくは急性腎障害を患っているかどうかを評価することを可能にするレベルのことを意味する。
好ましくは、参照レベルは、外科的介入を受けた参照の個体または参照の個体群、および/または、(i)急性事象を患ったまたは外科的介入を受けた、(ii)急性事象後または外科的介入後に腎障害を患っているとされた、参照の個体または参照の個体群から採取されたバイオマーカー(例えばL−FABP)のレベルに基づいて決定される。
好ましくは、参照の個体または参照の個体群からのサンプルは、急性事象または外科的介入のあいだまたはその後に、好ましくは急性事象または外科的介入の約10時間後以内に採取されたサンプルから、採取された。好ましくは、参照の個体または参照の個体群からのサンプルは、本発明の方法が行われる個体のサンプルとして、急性事象に対して同時点でまたは外科的介入後に採取され、例えば、請求項1の方法において、サンプルが外科的介入の5時間後に個体から採取されるのであれば、参照レベルは参照の個体または参照の個体群から外科的介入の約5時間後に採取されたサンプル中で決定される。
好ましくは、参照の個体または参照の個体群からのサンプルは、急性事象または外科的介入に関して、試験個体からの試験サンプルと同時期内に、より好ましくは実質的に同時点で採取される。
本発明の好ましい実施態様において、参照レベルは第二のサンプルから決定される。
本発明の別の実施態様において、参照レベルは、外科的介入を受けた参照の個体または参照の個体群、および/または、(i)急性事象を患ったまたは外科的介入を受け、および(ii)急性事象後または外科的介入後に腎障害を患っていないと診断された、参照の個体または参照の個体群から得られるバイオマーカー(例えばL−FABP)のレベルに基づく。
さらに、参照レベルはまた、生理学的に健康であることがわかっている個体または個体群由来であることが判明しているサンプルに基づいて決定され得る。
個体に適用可能な参照レベルは、例えば年齢、性別、または亜集団などの様々な生理学的パラメータ、ならびに、試験形式、サンプルおよび本明細書中で参照されるポリペプチドまたはペプチドの測定に使用されるリガンドに依存して変化し得る。参照レベルを決定する際におけるこれらの要素およびそれらを考慮する方法は、当該技術分野において公知である。
参照レベルは、標準的な統計方法を適用することによって、所定のバイオマーカーに関する平均(average)または平均(mean)値を基準として上記で特定されるように個体コホート(cohort)について計算され得る。具体的には、り患しているかまたはしていないかを評価するための方法などの試験の正確性は、受信者動作特性(receiver-operating characteristics)(ROC)によって最もよく説明される(特に、Zweig 1993, Clin. Chem. 39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全ての範囲にわたる識別閾値を連続的に変化させることから得られる感度(sensitivity)/特異度(specificity)の全てのペアのプロットである。診断方法の臨床性能は、その正確性、すなわち個体を一定の予後または診断に正確に割り当てるその能力に依存している。ROCプロットは、明確な区別を行うために適切な閾値の全範囲に関する感度対1−特異度をプロットすることによって2つの分布のあいだの重なりを示している。y軸上が感度、または、真陽性の数に偽陰性の試験結果の数を加えた和に対する真陽性の試験結果の数の比として規定される、真陽性率である。これはまた、疾患または症状の存在における正値性と称されている。これは、り患しているサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または、真陰性の数に偽陽性の結果の数を加えた和に対する偽陽性の試験結果の数の比として規定される、1−特異度である。これは特異度の指数であり、そして、完全に、非り患サブグループから計算される。真および偽陽性率は完全に別個に計算されるので、2つの異なるサブグループからの試験結果を用いることによって、ROCプロットは、コホートにおける事象の有病率に左右されない。ROCプロット上のそれぞれの点は、ある特定の判断閾値に対応する感度/1−特異度のペアを示している。完全な鑑別を有する試験(2つの結果の分布において重なりが全くない)は、真陽性率が1.0、または100%(完全な感度)、および偽陽性率が0(完全な特異度)である左上部角を通過するROCプロットを有する。鑑別が全くない試験に対する理論的なプロット(2つの群に関する結果の分布が同一)は、左下角から右上角への45℃の対角線である。大部分のプロットはこれらの両極のあいだ内に入る。ROCプロットが45℃対角線の下に完全に入ってしまう場合、これは、「陽性」の基準を「より大きい」から「より小さい」へと、またはその逆に置き換えることによって容易に是正される。定性的には、プロットが左上角へと近づくにつれて、試験の全体的な正確性は向上する。所望の信頼区間に依存して、感度および特異度それぞれの適切なバランスを有する、所定の事象に関する診断または予測を可能にする閾値がROC曲線から導かれ得る。
したがって、本発明の上述した方法のために使用される参照レベル、すなわち、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を患っている個体と、急性事象または外科的介入と関連付けられる腎障害を患っていない個体とのあいだを区別することを可能にする閾値は、好ましくは上に記載されるような個体およびコホートのためのROC分析に基づいて確立される。診断方法のための所望の感度および特異度に依存して、ROCプロットは適切な閾値を導き出すことを可能にする。理想的な感度が、急性事象または外科的介入と関連付けられる腎障害を患っていない個体を排除する(すなわち除外、ルールアウト(rule out))ために望ましく、一方、理想的な特異度は、急性事象または外科的介入と関連付けられる腎障害を患っている(すなわち含められる、ルールイン(rule in))個体を想定しているということが理解されるであろう。
急性事象後または外科的介入後の個体において腎障害を診断するという意味において、L−FABPの好ましい参照レベルは、少なくとも約13ng/mL、より好ましくは少なくとも約15ng/mL、最も好ましくは約17ng/mLである。代わりに、参照レベルは、健康な集団の少なくとも約80パーセンタイル、好ましくは少なくとも約85パーセンタイル、好ましくは少なくとも約90パーセンタイル、好ましくは少なくとも約95パーセンタイル、好ましくは少なくとも約99パーセンタイルに対応し、ここでパーセンタイルは、例えばそれぞれのROC分析から導かれるような特異度であり得る。
本明細書中で使用される用語「比較(comparing)」とは、分析されるサンプルによって含まれるペプチドまたはポリペプチドのレベルを、本明細書中の別の箇所で特定される適切な参照レベルのレベルと比較することを包含する。本明細書中で使用される比較とは、対応するパラメータまたは値の比較を意味していると理解されるべきであって、例えば絶対量が絶対参照量と比較され、濃度が参照濃度と比較されるかまたは、試験サンプルから得られる強度シグナルが参照サンプルの同じ種類の強度シグナルと比較されるか、または、量の比が、参照の量の比と比較される。本発明の方法の(b)工程において言及される比較は、手動でまたはコンピュータを使用して行われてもよい。コンピュータを使用した比較のためには、測定された量の値が、コンピュータプログラムによってデータベースに保管されている適切な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価し得、すなわち、所望の評価を適切な出力形式で自動的に提供し得る。
好ましくは、参照レベルと少なくとも等しいかまたはそれより高いレベルである個体からのサンプル中のL−FABPは、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害の診断を、または、腎障害の可能性が非常に高いことを裏付けるか、助けるか、または証明する。同様に、参照レベルより低いレベルである個体からのサンプル中のL−FABPは、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害が除外され得るという、または、腎障害の可能性が非常に低いという診断を裏付けるか、助けるか、または証明する。
本発明の意味において、L−FABPの測定が、腎障害の早期評価を、即ち、上述の血清クレアチニンの増加の測定を介して腎障害が診断され得る前にでさえも、可能にすることが示されている。したがって、L−FABPはクレアチニンよりも早期の腎障害のためのマーカーである。
用語「肝臓型脂肪酸結合タンパク質(liver-type fatty acid binding protein)(L−FABP、しばしばFABP1とも称され、本明細書においてはまた、肝臓脂肪酸結合タンパク質とも称される)は、肝臓型脂肪酸結合タンパク質であるポリペプチドまたはその変異体に関する。肝臓型脂肪酸結合タンパク質は、ヒト腎臓の尿細管で発現している遊離脂肪酸の細胞内キャリアータンパク質である。ヒトL−FABPの配列に関しては、例えば、Chanら、Human liver fatty acid binding protein cDNA and amino acid sequence, Functional and evolutionary implications, J. Biol. Chem. 260 (5), 2629-2632 (1985)またはGenBank Acc. Number M10617.1を参照のこと。用語「L−FABP」はまた、L−FABPの変異体、好ましくは、ヒトL−FABPの変異体を含む。このような変異体は少なくとも、L−FABPと同じ必須の生物学的および免疫学的特性を有しており、すなわち、それらは遊離脂肪酸および/またはコレステロールおよび/またはレチノイドに結合し、および/または細胞内脂質輸送に関連する。具体的には、それらが本明細書で参照される同一の特異的アッセイ、例えば、L−FABPを特異的に認識するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を使用するELISAアッセイなどで検出可能である場合、それらは同一の必須の生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本願発明に従って言及される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失および/または付加に起因して異なるアミノ酸配列であって、その変異体のアミノ酸配列がなお、ヒトL−FABPのアミノ酸配列と、好ましくは成熟L−FABPタンパク質配列の全長にわたって、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%の相同性を有している配列をもつことが理解されるべきである。変異体はアレル変異体、または、他の種特異的ホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で言及される変異体は、フラグメントが上記で参照される必須の免疫学的および生物学的特性を有している限り、L−FABPまたは上記の種類の変異体のフラグメントを含む。このようなフラグメントは、例えば、L−FABPの分解生成物であってもよい。さらに変異体としては、例えばリン酸化、グリコシル化、またはミリスチル化などの翻訳後修飾により異なっている変異体が挙げられる。用語「L−FABP」は好ましくは、心臓型FABP、脳型FABPおよび小腸型FABPを含まない。
好ましくは、クレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンC、およびアディポネクチンのレベルは、個体のサンプルまたは個体の第二のサンプル中で追加で測定される。
本明細書で使用されるクレアチニンは、筋肉代謝によって一定の速度で産生され、糸球体によって吸収されることなくろ過され、そしてまた尿細管によって分泌される。クレアチニンは分泌されるため、クレアチニンクリアランス(CrCl)は、正常な腎機能をもつヒトにおいて約10〜20%、および進行した腎不全を患うヒトにおいて50%までGFRを過大評価する。通常、クレアチニンは、血清中および尿中で酵素的または比色分析的試験システムによって測定される。AKIの定義によれば、急性腎障害を診断するためには、クレアチニンのレベルは、介入または手術の数日後に測定されなければならない。
本明細書中で使用される用語「好中球ゼラチナーゼ関連タンパク(neutrophil gelatinase-associated Protein)」(NGAL)は、そのグリコシル化型で25kDaおよびその脱グリコシル化型でおよそ21kDaの分子量を有するタンパク質を指す。これは178個のアミノ酸を含み、そして、1993年にKjeldsenらによって開示されたアミノ酸配列を有する(Journal of Biological Chemistry, 268: 10425-10432)。これは時々、ヒト好中球ゼラチナーゼとのヘテロダイマー(マトリックスメタロプロテアーゼ9)として見いだされる。NGALの発現はまた、急性腎機能障害を患う患者において、とりわけ虚血性腎障害後に、上方調節されることが知られている(Wagener et al., 2006, Anesthesiology, 105: 485-491)。本明細書中で使用される用語「NGAL」はまた、NGAL、好ましくはヒトNGALの変異体を包含する。このような変異体は、少なくとも、NGALと同じ必須の生物学的および免疫学的特性を有しており、すなわち、それらはマトリックスメタロプロテアーゼ9の分解を防ぐ。具体的には、それらが本明細書で参照される同一の特異的アッセイ、例えば、NGALを特異的に認識するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を使用するELISAアッセイなどで検出可能である場合、それらは同一の必須の生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本願発明に従って言及される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失および/または付加に起因して異なるアミノ酸配列であって、その変異体のアミノ酸配列がなお、好ましくは、ヒトNGALのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%の相同性を有している配列をもつことが理解されるべきである。相同性の割合を決定する方法は当業者にとって公知である。変異体は、アレル変異体、または、他の種特異的ホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で参照される変異体は、フラグメントが上記で参照される必須の免疫学的および生物学的特性を有している限り、NGALまたは上記の種類の変異体のフラグメントを含む。このようなフラグメントは、例えば、NGALの分解生成物であってもよい。さらに変異体としては、例えばリン酸化、グリコシル化、またはミリスチル化などの翻訳後修飾により異なっている変異体が挙げられる。
本明細書中で使用される用語「腎障害分子−1(kidney injury molecule-1、KIM−1)」は、その細胞外部分に、1つの特異的な、6つのシステインを含むIgドメイン、および、1つのムチンドメインを含むI型膜タンパク質に関する。ラット3−2cDNAの配列であるKIM−1は、307個のアミノ酸からなるオープンリーディングフレームを含む。ヒトcDNAクローン85のタンパク質配列はまた、1つのIgドメイン、ムチンドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインそれぞれをラットKIM−1と同様に含む。両方のタンパク質のIgドメイン内にある全ての6つのシステインは保存されている。Igドメイン内において、ラットKIM−1およびヒトcDNAクローン85は、タンパク質レベルで68.3%の相同性を示す。クローン85においては、ラットKIM−1と比較して、ムチンドメインはより長く、そして、細胞質ドメインはより短く、相同性はそれぞれ、49.3%および34.8%である。クローン85は、ヒトKIM−1と称される(KIM−1タンパク質の構造については、Ichimura et al., J Biol Cem, 273 (7), 4135-4142 (1998)、とくに図1を参照のこと)。組み換えヒトKIM−1は、組み換えラット−またはマウスーKIM−1と公差反応性または干渉を示さない。KIM−1 mRNAおよびタンパク質は、虚血後腎臓における損傷領域を修復および再生することが知られている細胞である再生近位尿細管上皮細胞中で高レベルで発現している。KIM−1は、脱分化しており、そして、腎上皮損傷の後に複製されている、細胞内で上方調節される上皮細胞接着分子(CAM)である。タンパク質分解的処理が行われたKIM−1のドメインは、急性腎障害(AKI)の後すぐに尿中で容易に検出される(Expert Opin. Med. Diagn. (2008) 2 (4): 387-398)。本発明により参照されるKIM−1はさらに、アレル変異体、および、上述したヒトKIM−1の特異的配列を有する他の変異体を包含する。具体的には、想定される変異体のポリペプチドは、アミノ酸レベルで、好ましくは、少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%の相同性をヒトKIM−1に対して有している。2つのアミノ酸配列のあいだの相同性の程度は、当該技術分野において公知であるアルゴリズムによって決定され得る。好ましくは、相同性の程度は、2つの最適にアライメントされた配列を比較ウィンドウ上で比較することによって決定され、比較ウィンドウ内のアミノ酸配列のフラグメントは、最適なアライメントのための参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(例えば、ギャップまたはオーバーハング)を含み得る。割合は、一致する位置番号を生じるように、同一のアミノ酸残基が両方の配列に見られる位置の番号を決定し、一致した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で割り、そして、配列相同性の割合を得るために結果に100を乗じることによって計算される。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)による局地的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)による相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)による類似性の探索方法によって、これらのアルゴリズム(the Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、およびTFASTA(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI))のコンピュータによる実行によって、または視覚的な検査によって行われ得る。2つの配列が比較のために同定されていると考えると、GAPおよびBESTFITが好ましくは、それらの理想的なアライメント、および、したがって相同性の程度を決定するために行われる。好ましくは、ギャップ重み5.00およびギャップ重み長さ0.30の初期値が使用される。上記で参照された変異体は、アレル変異体、または、他の種特異的ホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。実質的に類似の、そしてまた想定されるものとしては、対応する全長ペプチドに対する、診断用リガンドによって依然として認識されるタンパク質分解生成物である。同様に含有されるものとしては、そのペプチドがKIM−1特性を有している限り、ヒトKIM−1のアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換、および/または付加を有している変異体ペプチドである。
本明細書中で使用される用語「シスタチンC(Cystatin C)」は、実質的に全ての有核細胞によって産生される小さな、13kDaのタンパク質である。その産生速度は、一定であり、そして、炎症過程、性別、年齢および筋肉量に影響を受けない。正常な腎臓において、シスタチンCは、糸球体膜で吸収されることなくろ過され、そしてその後ほぼ完全に近位尿細管細胞によって再吸収されおよび分解される。したがって、シスタチンCの血漿濃度は、ほぼ完全に糸球体濾過速度(GFR)によって決定され、これは、シスタチンCをGFRの指標としている。シスタチンCは、腎機能の通常の臨床測定に比べて利点がある。これは、血漿シスタチン、コッククロフト−ゴールト(Cockcroft-Gault)計算式によるクレアチニンクリアランスの評価と比較してより正確であり、そして、24時間クレアチニンクリアランスよりもより信頼性に優れている。シスタチンCは、AKIを発症している患者において血清クレアチニンよりも早期に、血清クレアチニンよりも1〜2日早く上昇することが示されている。
本明細書で使用されるシスタチンCはまた、シスタチンCの変異体、好ましくは、ヒトシスタチンCの変異体を包含する。このような変異体は、少なくとも、シスタチンCと同じ必須の生物学的および免疫学的特性を有する。具体的には、それらが本明細書で言及される同一の特異的アッセイ、例えば、シスタチンCを特異的に認識するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を使用するELISAアッセイなどで検出可能である場合、それらは同一の必須の生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本願発明に従って参照される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失および/または付加に起因して異なるアミノ酸配列であって、その変異体のアミノ酸配列がなお、好ましくは、ヒトシスタチンCのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%の相同性を有している配列をもつことが理解されるべきである。相同性の割合を決定する方法は当業者にとって公知である。変異体は、アレル変異体、または、他の種特異的ホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で言及される変異体は、フラグメントが上記で参照される必須の免疫学的および生物学的特性を有している限り、シスタチンCまたは上記の種類の変異体のフラグメントを含む。このようなフラグメントは、例えば、シスタチンCの分解生成物であってもよい。さらに変異体としては、例えばリン酸化、グリコシル化、またはミリスチル化などの翻訳後修飾により異なっている変異体が挙げられる。
本明細書で使用されるアディポネクチンは、脂肪細胞によって分泌されるポリペプチド(いくつかの公知のアディポサイトカインのうちの一つ)である。当該技術において、アディポネクチンはしばしば、Acrp30およびapM1とも称される。アディポネクチンは、近年、抗炎症性、抗動脈硬化、メタボリックシンドロームの予防、およびインシュリン感作活性などのさまざまな活性を有することが示されてきた。アディポネクチンは一つの遺伝子によってエンコードされ、そして244個のアミノ酸を有し、その分子量は約30kDaである。成熟ヒトアディポネクチンタンパク質は、アディポネクチンの全長のうちの19〜244のアミノ酸を包含する。球状ドメインは、アディポネクチンの全長のうちの107〜244のアミノ酸を包含すると考えられている。本明細書中で使用されるアディポネクチンポリペプチドの配列は、当該技術分野において公知であり、例えば国際公開第2008/084003号に開示されている。
本明細書中で使用されるアディポネクチンは、好ましくは、低分子量のアディポネクチン、中程度の分子量のアディポネクチン、および高分子量のアディポネクチンを含む全アディポネクチンに関する。当業者であれば、高分子量アディポネクチン、低および中程度分子量アディポネクチン、ならびに全アディポネクチンという用語は、理解される。好ましくは、アディポネクチンはヒトアディポネクチンである。アディポネクチンの測定方法は、例えば、米国特許第2007/0042424号明細書および国際公開第2008/084003号に開示されている。アディポネクチンの量は、尿サンプル中で測定されてもよい。
本発明によって参照されるアディポネクチンはさらに、上述のヒトアディポネクチンに特異的な配列のアレルおよび他の変異体を包含する。具体的には、想定される変異体は、アミノ酸レベルで、好ましくは、ヒトアディポネクチンに対し少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%の相同性である変異体ポリペプチドである。2つのアミノ酸配列のあいだの相同性の程度は、当該技術分野において公知のアルゴリズムによって決定され得る。好ましくは、相同性の程度は、比較ウィンドウにおいて、2つの最適にアライメントとされた配列を比較することによって決定され、ここで、比較ウィンドウ内のアミノ酸配列のフラグメントは、最適なアライメントのための参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(例えば、ギャップまたはオーバーハング)を含み得る。割合は、一致する位置番号を生じさせるように、同一のアミノ酸残基が両方の配列に見られる位置の番号を決定し、一致した位置の数を比較のウィンドウ中の位置の総数で割り、そして、配列相同性の割合を得るために結果に100を乗じることによって計算される。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)による局地的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)による相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)による類似性の探索方法によって、これらのアルゴリズム(the Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、およびTFASTA(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI))のコンピュータによる実行によって、または視覚的な検査によって行われ得る。2つの配列が比較のために同定されていると考えると、GAPおよびBESTFITが好ましくは、それらの理想的なアライメント、および、したがって相同性の程度を決定するために行われる。好ましくは、ギャップ重み5.00およびギャップ重み長さ0.30の初期値が使用される。上記で参照された変異体は、アレル変異体、または、他の種特異的ホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。実質的に類似の、そしてまた想定されるものとしては、対応する全長ペプチドに対する診断用リガンドによって依然として認識されるタンパク質分解生成物である。同様に含有されるものとしては、そのペプチドがアディポネクチン特性、特にはインシュリン感作特性を有している限り、ヒトアディポネクチンのアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換、および/または付加を有する変異体ペプチドである。
第二のサンプル中のL−FABPのレベルと比較して、好ましくは、上昇したレベル、およびより好ましくは、顕著に上昇したレベルの、第一のサンプル中のL−FABPが、急性事象を経験した、または外科的介入を受けた個体における腎障害(またはそのリスク)の診断を示す。
好ましくは、L−FABPに加えて、クレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンCおよびアディポネクチンより選択されるマーカーの第一のサンプルにおける顕著に上昇したレベルが、それぞれの参照レベルと比較され、そして上昇したマーカーレベルおよび上昇したL−FABPレベルが、個体における急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害(またはそのリスク)の診断を示す。
好ましくは、試験個体からのサンプルにおける(または、L−FABPが2つの異なるサンプル中で測定される場合、試験個体からのサンプルにおける)、それぞれの参照レベルと比較して、本質的に同一なレベルのL−FABP、およびまたは、上昇したレベルのL−FABPならびにクレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンCおよびアディポネクチンより選択される少なくとも一つのマーカーが、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害の診断(またはリスクの予測)を示す。
用語「サンプル(sample)」は、血液、すなわち全血、血漿、もしくは血清、もしくは尿より選択される体液のサンプル、または、分離細胞のサンプル、または組織もしくは器官からのサンプルを指す。体液のサンプルは、公知の技術によって採取され得る。組織または器官のサンプルは、例えば生検などによって、任意の組織または器官から単採取され得る。分離細胞は、遠心分離またはセルソーティングなどの分離技術によって、体液または組織または器官から分離され得る。好ましくは、細胞の、組織の、または器官のサンプルは、本明細書において参照されるペプチドを発現または産生する細胞、組織または器官から採取される。
本発明の意味において決定されるマーカー(すなわち、L−FABPまたはその変異体、ならびにクレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンCおよびアディポネクチンまたはそれらの変異体)のレベルは、それぞれの個体の全血サンプル、血漿および血清において、好ましくは測定されるであろう。場合によっては、L−FABP以外のマーカーはまた、それぞれの被験者の尿サンプル中で測定されてもよい。
本発明の好ましい実施態様において、外科的介入の場合、L−FABPのレベルは、追加で、第一のサンプルの前に採取された、好ましくは、外科的介入もしくは急性事象の前またはそのあいだに採取された、第二の血液サンプル中で測定され、そして、第二の血液サンプルに対する第一の血液サンプル中のL−FABPの上昇が、腎障害を示す。
本発明の「第一のサンプル」は、好ましくは、急性事象の後または外科的介入の後、すなわち個体が外科的処置を受けた後に採取される。少なくともあともう一つのサンプル(例えば第三のサンプル)が、本明細書において、L−FABPのレベルの変化をさらにモニターするために採取され得る。このようなさらなるサンプルは、好ましくは、第一のサンプルの後、1〜10時間、1〜8時間、およびより好ましくは2〜4時間に採取され得る。任意には、さらなるサンプルは、第一のサンプルの後、1または2または3または4日後に採取される。
「第二のサンプル」は、第一のサンプル中のそれぞれのマーカーのレベルと比較したL−FABPのレベルの変化をモニターするために採取される。好ましくは、第二のサンプルは、第一のサンプルの前またはそれと同時に採取される。第二のサンプルは、外科的介入または急性事象の前またはそのあいだに採取され得る。特には、第二のサンプルが外科的処置の前または急性事象が終了する前に採取されていることが期待される。
好ましくは、第二のサンプル中のL−FABPのレベルと比較した、第一のサンプル中のL−FABPの上昇したレベル、より好ましくは統計的に顕著に上昇したレベルが、腎障害の診断、または、急性事象の後または外科的介入の後、将来腎障害を患う個体のリスクを示している。本明細書で使用されるように、第一のサンプル中のL−FABPのレベルの第二のサンプルに対する比較は、それぞれのレベルを差し引きすることまたは除算する(比率の計算)ことによってなされ得る。好ましくは、増加は、第二のサンプル中のレベルと比較した第一のサンプル中のL−FABPのレベルの比率を計算することによって決定される。
好ましい実施態様において、統計的に顕著であると考えられる、第二のサンプル中のレベルと比較した第一のサンプル中のL−FABPのレベルの上昇は、少なくとも約2.5倍、より好ましくは少なくとも約3倍、最も好ましくは少なくとも約3.5倍の増大である。代わりに、増大は、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、または最も好ましくは少なくとも約95%である、第一および第二のサンプルの可能なL−FABPの比率のそれぞれのROC分析から決定される特異度に対応する。
腎障害を示している統計的増大は、第一のサンプルが採取される時点および第二のサンプルに対する第一のサンプルの採取のタイミングに依存し得る。当業者であれば、サンプリングの様々な時点および間隔における、このような統計的に顕著な増大を良好に決定することができるであろう。第一のサンプルおよび第二のサンプルの採取のあいだの好ましい時間間隔は、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約6時間、少なくとも約8時間である。
場合によっては、腎障害の指標となる統計的増大は、第一のサンプルが採取された時点および急性事象または外科的介入に対する第一のサンプルの採取のタイミングに依存するかもしれない。当業者であれば、サンプリングの様々な時点および間隔における、このような統計的に顕著な増大を良好に決定することができるであろう。第一のサンプルおよび急性事象または外科的介入のあいだの好ましい時間間隔は、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約6時間、少なくとも約8時間である。
上述したように、本発明の個体は、好ましくは、上述した方法の意味において言及されるサンプルが採取された時に、外科的介入を受けたか、または受けるか、または急性事象を経験した個体である。
用語「急性事象後または外科的介入後(after the acute event or after the surgical intervention)」とは、好ましくは、急性事象後または外科的介入後、約0.5時間以内、約1時間以内、約2時間以内、約4時間以内、約6時間以内、または約8時間以内にサンプルを採取することを意味する。
本発明の好ましい実施態様において、第一の血液サンプルは、急性事象後または外科的介入後、約10分以内、約20分以内、約30分以内、約40分以内、約50分以内、約1時間以内、約2時間以内、約4時間以内、約6時間以内または約8時間以内に採取される。特には、第一の血液サンプルは、急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取される。
本発明の意味および語句「外科的介入後約10時間以内にサンプルを採取する」において、時間「外科的介入後」は、(i)外科的介入が行われる部屋に個体が入室するとき、(ii)最初の医師が個体の既往症を検査するとき、(iii)外科的介入が開始されるとき、例えば、麻酔が投与されるとき、(iv)外科的介入が完了したとき、(v)好ましくは、呼吸補助が遮断されるとき、(vi)外科的介入が行われた部屋から個体が移送されるとき、(vii)個体の病室への到着時、または(viii)外科的介入が行われた施設、医院または病院からの個体の退院時、から計算され得る。
本発明の好ましい実施態様において、少なくとも1つのバイオマーカー(好ましくはバイオマーカーはL−FABP、および任意には上記の追加のマーカーである)のレベルが、第一のサンプルに先立って採取されていた第二のサンプル中で測定される。第一のサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルが、第二のサンプル中のレベルと同等またはそれより高い場合、これは、腎障害を示しており、および、好ましくはまた、反対に、第一のサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルが、第二のサンプル中のレベルと同等またはそれより低い場合、これは個体が腎障害を患っていないことを示している。
好ましくは、第一のサンプルおよび第二のサンプルを採取するあいだの期間、および、試験個体においてサンプルを採取する時点のあいだの期間は、第一のサンプルおよび第二のサンプルを採取するあいだの期間と参照レベルの計算のために使用される対照個体(または複数の個体)においてサンプル(または複数のサンプル)を採取する時点に対応する。
場合によっては、第一のサンプルの採取と急性事象または外科的介入のあいだの期間、および、個体においてサンプルを採取する時点は、第一のサンプルの採取および急性事象または外科的介入のあいだと参照レベルの計算のために使用される対照個体(または複数の個体)におけるサンプル(または複数のサンプル)を採取する時点に対応する。本明細書中で参照されるペプチドまたはポリペプチドのレベルの決定は、濃度またはレベルを、好ましくは半定量的にまたは定量的に、測定することに関する。測定は、直接的または間接的に行われ得る。直接的測定は、ペプチドまたはポリペプチドそれ自身から得られるシグナルに基づいたペプチドまたはポリペプチドのレベルまたは濃度の測定に関連し、そして、シグナルの強度はサンプル中に存在するペプチド分子の数に直接的に関連する。このようなシグナル、本明細書中においてしばしば強度シグナルと称される、は、例えば、ペプチドまたはポリペプチドの特異的な物理的または化学的特性の強度値を測定することなどによって得られ得る。間接的な測定は、例えば、測定可能な細胞応答、リガンド、標識または酵素的反応生成物などの、二次的な成分(すなわちペプチドまたはポリペプチド自身ではない成分)または生物学的読み出しシステムから得られるシグナルを測定することを含む。
本発明によれば、ペプチドまたはポリペプチドのレベルの決定は、サンプル中のペプチドまたはポリペプチドのレベルを決定するための全ての公知の手段によって達成され得る。手段は、免疫アッセイ、および、様々なサンドイッチ型、競争的または他のアッセイ形式でラベルされた分子を利用し得る方法を含む。このようなアッセイは、好ましくは、決定されるべきペプチドまたはポリペプチドを特異的に認識する例えば抗体などの検出試薬に基づく。検出試薬は、ペプチドまたはポリペプチドの存在または非存在を示すシグナルを直接的または間接的どちらかで生成することができる。さらに、シグナル強度は、好ましくは、直接的または間接的に(例えば反比例で)サンプル中に存在するポリペプチドのレベルと相関され得る。さらなる適切な方法としては、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどのペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性を測定することが挙げられる。方法は、好ましくは、バイオセンサー、免疫アッセイと連動された光学的装置、バイオチップ、例えば質量分析計、NMR分析計、またはクロマトグラフィー装置などの分析装置などを含む。さらに、方法としては、マイクロプレートELISAベースの方法、完全に自動化されたまたロボット化された免疫アッセイ(例えばElecsys(登録商標)分析機器において使用可能)、CBA(酵素的コバルトバインディングアッセイ、例えばRoche−Hitachi(登録商標)分析機器において使用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche−Hitachi(登録商標)分析機器において使用可能)などが挙げられる。
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドのレベルの決定は、(a)その強度がペプチドまたはポリペプチドのレベルを示している細胞応答を引き起こすことのできる細胞を、適切な期間ペプチドまたはポリペプチドに接触させる工程、(b)細胞応答を測定する工程、を含む。細胞応答を測定するためには、サンプルまたは処理されたサンプルが、好ましくは、細胞培養物に添加され、そして、内部または外部の細胞応答が測定される。細胞応答とは、レポーター遺伝子の測定可能な発現、または、例えばペプチド、ポリペプチド、または低分子などの物質の分泌を含む。発現または物質は、ペプチドまたはポリペプチドのレベルに対応する強度シグナルを生成する。
また好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドのレベルの決定は、サンプル中のペプチドまたはポリペプチドから得られ得る特異的な強度シグナルを測定する工程を含む。上述されるように、このようなシグナルは、質量スペクトルで観察されるペプチドまたはポリペプチドに特異的なm/z変数で、またはペプチドまたはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルで観察されるシグナル強度であってもよい。
ペプチドまたはポリペプチドのレベルの決定は、好ましくは、(a)ペプチドを特異的なリガンドに接触させる工程、(b)(任意には)非結合リガンドを除去する工程、(c)結合したリガンドのレベルを測定する工程、を含む。結合したリガンドは、強度シグナルを生成するであろう、本発明によるバインディングとは、共有結合および非共有結合の両方を含む。本発明のリガンドは、任意の化合物であり得、例えば、本明細書中で記載されるペプチドまたはポリペプチドにバインディングするペプチド、ポリペプチド、拡散または低分子などである。好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチドの受容体またはバインディングパートナーなどのペプチドまたはポリペプチド、および、ペプチドに対するバインディングドメインを含むそれらのフラグメント、および例えば核酸またはペプチドアプタマーなどのアプタマーなどが挙げられる。好ましいリガンドは、L−FABPに、またはクレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンC、およびアディポネクチンより選択されるマーカーにバインディングするリガンドである。
このようなリガンドを調製するための方法は、当該技術分野において公知である。例えば、適切な抗体またはアプタマーの同定および産生はまた、商用サプライヤーによって提供される。当業者であれば、高い親和性または特異性を有するこのようなリガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異が、核酸、ペプチド、またはポリペプチドに誘導され得る。これらの誘導体は、その後、当該技術分野において公知の、例えばファージディスプレイなどのスクリーニング手法によってバインディングが試験され得る。本明細書で参照される抗体は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の両方、ならびに、それらのフラグメント、例えば、抗原またはハプテンにバインディングすることができるFv、FabおよびF(ab)2フラグメントなどを含む。本発明はまた、単鎖抗体、および、所望の抗原特異性を提示している非ヒト型ドナー抗体がヒト型アクセプター抗体の配列と組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を含む。ドナー配列は、通常、少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むが、ドナー抗体の他の構造的および/または機能的に関連性のあるアミノ酸残基を含んでいてもまたよい。このようなハイブリッドは、当該技術において公知のいくつかの方法によって調製することができる。好ましくは、リガンドまたは作用剤は、ペプチドまたはポリペプチド、好ましくはL−FABPまたはクレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンC、およびアディポネクチンより選択されるマーカーに特異的に結合する。本発明による特異的結合とは、リガンドまたは作用剤が、別のペプチド、ポリペプチド、または例えばI−FABPまたはH−FABPなどの分析されるサンプル中に存在する物質に実質的に結合(「公差反応(cross-react)」)しないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したペプチドまたはポリペプチドは、他の任意の関連するペプチドまたはポリペプチドよりも、少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、およびさらにより好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合される。非特異的結合は、それが、例えばウェスタンブロットにおけるそのサイズによって、また、サンプル中における比較的大きな存在度によってなどで、区別されそして明白に測定されるのであれば、許容されるかもしれない。リガンドのバインディングは、当該技術分野において公知の任意の方法によって測定され得る。好ましくは、方法は半定量的にまたは定量的である。ポリペプチドまたはペプチドを測定するためのさらなる適切な技術が以下に記載される。
第一に、リガンドのバインディングは、直接的に、例えばNMRまたは表面プラズモン共鳴などによって測定されてもよい。第二に、リガンドが対象のペプチドまたはポリペプチドの酵素的活性の基質としても作用する場合、酵素的反応の生成物が測定されてもよい(例えば、プロテアーゼのレベルは開裂基質のレベルを、例えばウェスタンブロット上においてなどで測定することによって測定され得る)。代わりに、リガンドは、それ自身で酵素的特性を示しているかもしれず、そして、「リガンド/ペプチドまたはポリペプチド」複合体、または、ペプチドまたはポリペプチドによって結合されているリガンドが、それぞれ、適切な基質と接触され、強度シグナルの生成による検出を可能にするかもしれない。酵素的反応生成物の測定のために、好ましくは、基質のレベルは飽和している。基質はまた、反応に先立ち、検出可能な標識を用いてラベルされていてもよい。好ましくは、サンプルは、適切な期間、基質と接触される。適切な期間とは、産生される生成物の検出可能、好ましくは測定可能であるレベルに必要とされる時間のことを指す。生成物のレベルを測定する代わりに、所定の(例えば検出可能な)レベルの生成物の出現に必要な時間が測定され得る。第三に、リガンドは、標識と共有的にまたは非共有的に連結され、リガンドの検出および測定を可能にし得る。標識化は、直接的または間接的な方法な方法によってなされ得る。直接的ラベリングとしては、リガンドへの直接的(共有的または非共有的)な標識のカップリングが挙げられる。間接的なラベリングは、一次リガンドへの二次リガンドの(共有的または非共有的)バインディングが挙げられる。二次リガンドは、一次リガンドへ特異的に結合すべきである。二次リガンドは、適切な標識と結合され得、および/または、二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(受容体)であり得る。適切な二次、三次、またはさらに高次のリガンドがシグナルを増大されるためにしばしば使用される、適切な二次およびより高次のリガンドとしては、抗体、二次抗体、および公知のストレプトアビジン−バイオチンシステム(Vector Laboratories, Inc.)が挙げられる。リガンドまたは基質はまた、一またはそれ以上の公知のタグによって「タグ化(tagged)」されていてもよい。このようなタグは、その後、より高次のリガンドの標的となり得る。適切なタグとしては、バイオチン、ジゴキシゲニン、His−Tag、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−tag、インフルエンザAウイルス、ヘマグルチニン(HA)、マルトース結合性タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくは、N末端および/またはC末端にある。適切な標識は、適切な検出方法によって検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(例えば、常磁性または超常磁性標識などの「磁気ビーズ(magnetic beads)」、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための適切な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(Roche Diagnosticsより既成のストック溶液として入手可能な、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロライドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸)、CDP−Star(登録商標)(Amersham Biosciences)、ECF(登録商標)(Amersham Biosciences)などが挙げられる。適切な酵素−基質の組合せは、着色した反応生成物、蛍光または化学発光をもたらし得、これらは、当該技術分野において公知の方法(例えば光感応性フィルムまたは適切なカメラシステムを用いることなど)によって測定され得る。酵素反応の測定についても、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えばGFPおよびその誘導体など)、Cy3、Cy5、Texas Red、フルオレセイン、およびAlexa dyes(例えばAlexa 568など)などが挙げられる。さらなる蛍光標識は、例えばMolecular Probes (Oregon) などから入手可能である。蛍光標識としての量子ドットの使用もまた理解される。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33P、14C、3Hなどが挙げられる。放射性標識は、公知の任意の方法および適切な、例えば感光性フィルムまたはホスフォイメージャーなどによって、または、シンチレーション測定によって検出され得る。本発明による適切な測定方法としてはまた、沈殿(部分的免疫沈降)、電気化学ルミネセンス(電気により生成された化学ルミネセンス)、RIA(放射免疫測定)、ELISA(酵素結合免疫吸着測定)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫測定(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光免疫測定法(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、FCM(フローサイトメトリー)、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、比濁法、ネフェロ分析、ラテックス増強比濁法またはネフェロ分析、または固相免疫試験などが挙げられる。公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDS、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット、および質量分析など)が、単独で、またはラベリングもしくは上記の他の検出方法と組み合わせて使用され得る。
ペプチドまたはポリペプチドのレベルは、また、好ましくは、以下のように測定されてもよい:(a)上記で特定されるペプチドまたはポリペプチドのためのリガンドを含む固体支持体をペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させる、および(b)支持体に結合しているペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド抗体およびアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは、固定化された形状で固体支持体上に存在する。固体支持体を製造するための材料は、当該技術分野において公知であり、そして、例えば、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト、反応トレイのウェルおよび壁面、プラスチックチューブなどが挙げられる。リガンドまたは作用剤は、多くの種々のキャリアへと結合され得る。公知のキャリアの例としては、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱などが挙げられる。キャリアの特性としては、本発明の目的のためには、溶解性であっても非溶解性であってもよい。リガンドを固着/固定するための適切な方法は公知であり、例えば、イオン性、疎水性、共有結合性相互作用などが挙げられるがこれらに限定される訳ではない。本発明のアレイとして「サスペンジョンアレイ(suspension arrays)」(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)を使用することもまた理解される。このようなサスペンジョンアレイにおいては、例えばマイクロビーズまたはマイクロスフェアなどのキャリアは、懸濁液中に存在する。アレイは、場合によりラベルされ、種々のリガンドをもっている、種々のマイクロビーズまたはマイクロスフェアからなる。例えば固相化学および光感受性保護基に基づく、そのようなアレイを製造するための方法は公知である(US 5,744,305)。
本明細書中で使用される用語「レベル(level)」は、サンプル中のポリペプチドまたはペプチドの絶対量、サンプル中のポリペプチドまたはペプチドの濃度などの相対的レベル、および、それらに関連するまたはそれらに由来する任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接的な測定によってペプチドから得られる全ての特異的な物理的または化学的特性からの強度シグナル値、例えばマススペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値などを含む。さらに、本明細書中の任意の箇所で特定される間接的な測定によって得られる全ての値またはパラメータ、例えばペプチドに応答する生物学的リードアウトシステムから決定される応答レベルまたは特異的に結合されたリガンドから得られる強度シグナルなどが含まれる。上述のレベルまたはパラメータに関連する値はまた、すべての標準的な機械操作によって得られ得ることが理解されるべきである。
本発明の意味において本明細書中で使用される表現「第一のサンプル中のレベルを第二のサンプル中のレベルと比較する(comparing the level in the first sample to the level in the second sample)」とは、第一のサンプル中のL−FABPのレベルを第二のサンプル中のマーカーのレベルと比較することを含む。用語「第一のサンプル(first sample)」および「第二のサンプル(second sample)」は、本明細書中上記で特定されている。本明細書中で使用される用語「比較(comparing)」とは、対応するパラメータまたは値の比較、例えば絶対的レベルが絶対的参照レベルと比較され、一方、濃度が参照濃度と比較されるか、または、試験サンプルから得られる強度シグナルが参照サンプルの同種の強度シグナルと比較されることを指す。本発明の方法の工程(b)において参照される比較は、手動で、またはコンピュータを使用して行われ得る。コンピュータを使用した比較のため、測定されたレベルの値が、コンピュータプログラムによってデータベースに保管されている適切な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価、すなわち、所望の評価を適切な出力形式で自動的に提供してもよい。工程(a)で決定されるレベルと参照レベルとの比較をもとに、個体が急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を患うかどうかを評価することが可能である。したがって、参照レベルは、比較されるレベルにおける差異または類似性のどちらかが腎障害を診断することを可能にするように、したがって、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を患う(ルールイン)または患わない(ルールアウト)個体を特定するために選択されるべきである。同様に、工程(a)で決定されるレベルと参照レベルとの比較をもとに、腎障害を患う個体のリスクを予測する方法において、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を将来患うリスクを個体がもつかどうかを予測することが可能である。したがって、参照レベルは、比較されるレベルにおける差異または類似性のどちらかがリスクを予測することを可能にするように、したがって、腎障害を患う顕著なリスクがある(ルールイン)または顕著なリスクがない(ルールアウト)個体を特定するために選択されるべきである。
上述したように、好ましい実施態様において、腎障害の診断は、好ましくは、第一のサンプル中のL−FABPのレベルの、第一のサンプル以前に採取される第二のサンプル中のL−FABPのレベルとの比較に基づく。このような連続的なサンプル測定に基づく診断は、例えば、健康な個体に特徴的なレベルよりは上であるが、腎障害を示す上記で参照された参照レベルよりは下であるマーカー(例えばL−FABPなど)のレベルを示している個体において有用であり得る。
本発明の意味において、本明細書中で使用される用語「約(about)」とは、所定の測定または値の、+/−20%、好ましくは、+/−10%、好ましくは、+/−5%を指す。
本発明の第二の態様において、
a)個体から採取された第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程であって、前記サンプルが急性事象後または外科的介入後10時間以内に採取される工程、および
b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む、急性事象後または外科的介入後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための方法であって、
参照レベルと比較して等しいかまたはそれより高いL−FABPのレベルが、個体が腎障害を患うリスクを示している方法が提供される。
好ましくは、前記方法はさらに、工程b)の比較をもとに、個体のリスクを予測する工程を含む。
別に断りのない限り、上記で提供される説明および定義は、急性事象後または外科的介入後、将来腎障害を患う個体のリスクを予測する方法に変更すべきところは変更して適用される。
本明細書中で使用される「個体が急性事象後または外科的介入後に、将来腎障害を患うリスクを予測する(predicting the risk of an individual to suffer from a kidney injury after an acute event or after a surgical intervention in the future)」との表現は、将来に、すなわちサンプル(または複数のサンプル)が採取された後、サンプル(または複数のサンプル)が評価のための基礎を形成する予測ウィンドウ内で、個体が腎障害を患う可能性を評価することを意味する。本発明にしたがって、予測ウィンドウ、すなわち用語「将来(future)」の意味は、好ましくは、場合によっては、外科的介入後または急性事象後、約1時間、約2時間まで、約4時間まで、約6時間まで、約8時間まで、約10時間まで、約12時間まで、約1日まで、約2日まで、約3日まで、約4日まで、約5日まで、約6日まで、または約1週間までである。用語は、好ましくは、リスクの正確な確率を提供するというより、個体の集団における腎障害を発症する平均的なリスクと比べて、増大した腎障害のリスクが存在するか否かを予測することに関連する。
本発明の用語「外科的介入後(after the surgical intervention)」の意味において、「外科的介入後」の時間は、(i)外科的介入が行われる部屋に個体が入室するとき、(ii)最初の医師が個体の既往症を検査するとき、(iii)外科的介入が開始されるとき、例えば、麻酔が投与されるとき、(iv)外科的介入が完了したとき、(v)外科的介入が行われた部屋から個体が移送されるとき、(vi)外科的介入の完了後、個体が集中治療室へ到着するとき、(vii)個体の病室への到着時、または(viii)外科的介入が行われた施設、医院または病院からの個体の退院時、(ix)および最も好ましくは、呼吸補助が遮断されるとき、から計算され得る。
個体が腎障害を患うリスクを予測する方法において、本明細書において使用される用語「参照レベル(reference level)」は、急性事象後または外科的介入後、将来腎障害を患う個体のリスクを予測することを可能にするレベルを意味する。好ましくは、参照レベルは、少なくとも一人の参照の個体から、または、
− 急性事象を経験し、もしくは外科的介入を受け、そして、予測時間ウィンドウ内で腎障害を発症した個体、または
− 急性事象を経験し、もしくは外科的介入を受け、そして、予測時間ウィンドウ内で腎障害を発症しなかった個体、または
− 急性事象を経験せず、もしくは外科的介入を受けず、そして、予測時間ウィンドウ内で腎障害を発症しなかった個体
である参照群から、採取されたバイオマーカー(好ましくは、L−FABP)のレベル(または複数のレベル)に基づいて決定される。
好ましくは、参照個体、または参照個体群からのサンプルは、急性事象のあいだもしくは後、または、外科的介入のあいだもしくは後に、好ましくは、場合によっては、急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取されたサンプルから採取された。好ましくは、参照個体(または参照個体群)からの、それから参照レベルが導かれるサンプルは、同じ期間内に、または、より好ましくは、試験個体からの試験サンプルと急性事象または外科的介入に対して実質的に同じ時点で、採取される。さらに、参照レベルはまた、生理学的に健康であることが知られている個体または個体群からであることが既知であるサンプルに基づいて決定されてもよい。
本発明の別の実施態様において、加えて、L−FABPのレベルが、第一のサンプル以前に、好ましくは外科的介入の前またはそのあいだに、採取された第二の血液サンプル中で測定される。第二の血液サンプルと同等またはより高い、第一の血液サンプル中でのL−FABPのレベルは、(顕著にまたは高い)腎障害を患うリスクを示している。同様に、第二の血液サンプルより低い第一の血液サンプル中でのL−FABPのレベルは、個体が腎障害を患うリスクを持っていないこと(低いまたは無視できるリスク)を示している。
一般的に、本発明のそれぞれの実施態様にしたがって所望の予測を確立することを可能にするそれぞれのレベル(複数のレベル)またはレベル比(複数の比)を決定するために、(「閾値(threshold)」、「参照レベル(reference level)」、それぞれのペプチドまたは複数のペプチドのレベル(複数のレベル)またはレベル比(または複数の比)が、上記で定義された適切な参照個体(複数の個体)において決定される。得られる結果は、収集され、そして、当該技術分野における当業者にとって公知の統計的方法によって分析される。得られた閾値は、その後、将来疾患を患う所望の確率にしたがって確立され、そして、特定の閾値に関連付けられる。例えば、閾値(複数の閾値)、参照レベル(複数のレベル)を確立するために、健康なおよび/または健康でない個体集合の中央値、60、70、80、90、95、または99パーセンタイルを選択することが有用であるかもしれない。
選択された参照レベルが将来腎障害を患うリスクにある患者を、十分確実に予測するかどうかを試験するために、例えば、所定の参照値に関して本発明の方法の効率(E)が以下の式:
E=(TP/TO)×100
式中、TP=真陽性、および、TO=試験の総数=TP+FP+FN+TNであって、
FP=偽陽性、FN=偽陰性、およびTN=真陰性であり、
Eは、0<E<100の範囲の値を有する
を利用して決定され得る。好ましくは、試験された参照レベルは、E値が、少なくとも約50、より好ましくは、少なくとも約60、より好ましくは、少なくとも約70、より好ましくは、少なくとも約80、より好ましくは、少なくとも約90、より好ましくは、少なくとも約95、より好ましくは、少なくとも約98である場合に、充分に確実な診断を提供する。
予測する方法の発明の意味において、将来、腎障害、好ましくはAKIを患うリスクにある個体を示すL−FABPの好ましい参照レベルは、少なくとも約13ng/mL、またはより好ましくは少なくとも約15ng/mL、より好ましくは少なくとも約17ng/mLである。代わりに、参照レベルは、参照群の少なくとも約80パーセンタイル、好ましくは少なくとも約85パーセンタイル、好ましくは少なくとも約90パーセンタイル、好ましくは少なくとも約95パーセンタイル、好ましくは少なくとも約99パーセンタイルに対応し、パーセンタイルは、例えば対応するROC分析から導かれる特異度であり得る。
好ましくは、参照レベルよりも高いL−FABPレベルの測定されたレベルは、将来、腎障害を患う上昇したまたは高いリスクを示している。例えば、上昇したまたは高いリスクは、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%の、個体が将来に(すなわち、予測時間ウィンドウ内で)腎障害を発症するであろう確率であり得る。
別の実施態様において、追加で、クレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンCおよびアディポネクチンより選択されるマーカーのレベルが、個体から採取された第一のおよび/または第二のサンプル中で測定される。
好ましくは、第一のサンプル中のL−FABPのレベルと比較して、別のサンプル中の、クレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンCおよびアディポネクチンより選択されるマーカーの増大したレベル、および、より好ましくは、顕著に増大したレベルを付随する、第二のサンプル中のL−FABPのレベルと比較して第一のサンプル中のL−FABPの増大したレベル、および、より好ましくは、顕著に増大したレベルは、個体における急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害の診断(またはそのリスク)を示している。
本発明の別の実施態様において、方法はさらに、急性事象後または外科的介入後に腎障害を患っているまたは患うリスクのある個体のための腎臓治療を選択するまたは適合させる方法を含む。
(別に断りのない限り)上記および下記でなされる用語の定義および説明は、本明細書中に記載される全ての様態および添付のクレームに変更すべきところは変更して適用されることが理解されるべきである。
本発明の第三の態様において、
a)個体から採取された第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程であって、前記サンプルが急性事象後または外科的介入後10時間以内に採取される工程、および
b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
を含む、急性事象後または外科的介入後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための方法であって、
参照レベルと比較して等しいかまたはそれより高いL−FABPのレベルが、個体が腎障害を患うリスクを示している方法を提供する。
腎臓治療は、とりわけ、腎毒性の薬剤または処置の投与または回避を包含する。
さらに、腎障害の診断がいったん下されたならば血圧、および/または、水分の摂取をモニターすることがまた想定される。上昇した血圧の場合、降圧剤が投与されるべきであり、また、血圧が低下したならば、血圧を上昇させる方法または薬剤が適用されるべきである。さらに、注意深い体液バランスが腎障害の診断が確立された個体においては重要である。
本発明の好ましい実施態様において、腎障害を患っている、または将来腎障害を患うリスクがあると診断された患者において、腎臓治療は、腎毒性の薬剤または処置の投与を減少するまたは中止することによって、水分の摂取または排出を増加、減少または中止させることによって、血圧が低下または上昇するように処置を適合させることによって、適合させられる。
本発明の方法の好ましい実施態様において、方法はさらに治療を薦める工程を含む。
本明細書中で使用される用語「薦める(recommending)」は、個体に適用され得るであろう治療のための提案を確立することを意味する。しかしながら、いかなるものであれ実際の治療を適用することは、好ましくは、この用語には含まれないことが理解されるべきである。薦められるであろう治療は、本発明の方法によって提供される診断の結果に依存する。好ましくは、腎毒性の薬剤は、腎障害の診断または予測がいったんなされたならば、避けられるべきである。特には、腎障害の診断または予測がいったんなされたならば、血圧をモニターすることもまた含まれる。血圧上昇の場合、降下剤が投与されるべきであり、血圧低下の場合、血圧を上昇させる方法または薬剤が適用されるべきである。
さらに、本発明は、本発明の方法を行うように適合されたキットを含み、機器はバイオマーカーL−FABPのためのバインディングリガンドを備える。さらに、キットは、バイオマーカーL−FABPおよび/または方法を実行するための使用説明書をさらに備えていてもよい。キットはさらに、L−FABPの定量的測定のための装置を含んでいてもよい。
本明細書中で使用される用語「キット(kit)」は、好ましくは別個に提供されるまたは単一の容器内で提供される、上記の構成成分の収集物を意味する。容器はまた、本発明の方法を行うための使用説明書を備える。これらの使用説明書は、マニュアルの形式であってもよく、また、本発明の方法において言及される比較を行うことができ、そしてコンピュータまたはデータ処理装置上で実行される際それに応じて診断を確立させるためのコンピュータプログラムのコードによって提供されてもよい。コンピュータプログラムのコードは、例えば光学式記憶媒体(例えばコンパクトディスクなど)などのデータ保管媒体または装置上に、または直接コンピュータもしくはデータ処理装置上に、提供されてもよい。さらに、キットは、好ましくは、標準、参照サンプルおよび対照サンプルを備え得る。
本発明の別の実施態様は、急性事象後または外科的介入後の個体において腎障害を診断するための、または、急性事象後または外科的介入後、将来腎障害を患う個体のリスクを予測するための、個体のサンプルにおける抗体結合L−FABPまたはその変異体のインビトロ使用であって、急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取された血液サンプル中で、L−FABPのレベルが検出される。
本発明のさらなる実施態様は、急性事象後または外科的介入後に腎障害を患っている個体のための腎臓治療を選択、決定または適合させるための、急性事象後または外科的介入後に将来腎障害を患うリスクと関連付けられる抗体結合L−FABPまたはその変異体のインビトロ使用であって、急性事象後または外科的介入後約10時間以内に採取された血液サンプル中で、L−FABPのレベルが検出される。
さらに、本発明は、
a.L−FABPに特異的に結合するバインディングリガンドを含む分析ユニットであって、前記ユニットが個体からの第一および第二のサンプル中のL−FABPのレベルを決定するように適合されている分析ユニット、および
b.急性事象または外科的介入に関連付けられるAKIが診断され得る、第一のサンプル中の測定されたレベルを第二のサンプル中のレベルと比較するための評価ユニットであって、第二のサンプルと比較した第一のサンプル中のL−FABPのレベルの比率であって、好ましくは、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を発症したことが知られている個体または個体群から、または、より好ましくは、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を発症していないことが知られている個体または個体群から導き出される比率を有するデータベースと、比較工程を行うための、コンピュータにより実行されるアルゴリズムとを備える評価ユニット
を備える、急性事象または外科的介入に関連付けられる腎障害を診断するまたは予測するための本発明の方法を行うために適合されている装置に関する。
(別に断りのない限り)上記および下記でなされる用語の定義および説明は、本明細書中に記載される全ての様態および添付のクレームに変更すべきところは変更して適用されることが理解されるべきである。
上記の装置の意味において、参照レベルは、好ましくは、上で定義された(参照)個体のサンプルから算出される。
本明細書中で使用される用語「装置(device)」は、本発明の方法にしたがった診断または測定を可能にする、互いに動作可能に接続された上記のユニットを備えるシステムに関する。分析ユニットにおいて使用され得る好ましい検出試薬は、本明細書中の他の部分に開示されている。好ましくは、分析ユニットは、そのレベルが検出されることになるバイオマーカーを含むサンプルに接触される固体支持体上の、固定化された形状である検出試薬を備える。さらに、分析ユニットはまた、バイオマーカー(または複数のバイオマーカー)に特異的に結合するバインディングリガンドのレベルを測定する検出器を備える。測定されたレベルは、評価ユニットへと伝達され得る。評価ユニットは、測定されたレベルと適切な参照(例えば、参照レベル、または個体からの第一または第二のサンプル中のマーカーのレベルなど)とのあいだの比較を行うための実装されたアルゴリズムをもつ、例えばコンピュータなどのデータ処理エレメントを備える。適切な参照は、本明細書の上の別の場所で記載される参照レベルの作製のために使用される個体のサンプルに由来し得る。結果は、パラメトリックな診断の生データとして、好ましくは、絶対的または相対的レベルとして、与えられ得る。これらのデータは、臨床医によって解釈される必要があることが理解されるべきである。しかしながら、出力が、その解釈が専門的な臨床医を必要としない処理された診断の生データを含むエキスパートシステム装置もまた包含される。
本明細書において引用された全ての参考文献は、それらの全開示内容および本明細書中に具体的に記載された開示内容に関して、本明細書に参照として組み込まれる。
実施例1
患者、材料および方法
試験の記載
心臓手術(バイパスまたは弁置換)に付された107人の患者。全ての患者から血液サンプルが、手術の前日(pre−OP)ならびに手術後2時間、4時間、24時間、3日、およびいくつかの場合においては7日後に採取された。0時点は、呼吸補助(すなわち、人工心肺装置)の遮断として定義された。遠心分離後、EDTA−血漿または血清が、試験時まで−80℃で保管された。
組み入れ基準:人工心肺を使用した心臓手術、手術に臨む前の日からのサンプル、インフォームドコンセント、18歳より上の年齢
除外基準:インフォームドコンセントなし、手術に臨む前の日からのサンプルなし、18歳未満、妊娠
サンプル測定
R&D Systemsからのキット、カタログ番号Z−001が、血漿サンプル中でのL−FABPの定量的な測定のために使用された。アッセイは、Kamijo, A.ら、J Lab Clin Med 2004, 143, 23-30によって記載されている、サンドウィッチアッセイを形成する2つのL−FABP特異的マウスモノクローナル抗体を用いる。hL−FABPに特異的なモノクローナル抗体の作製は、Kamijo, A.ら、AJP October 2004, Vol. 165, No. 4, 1243-1255に記載されている。
分析
患者は、血清クレアチニンレベルが、個体の手術前のレベルと比較して、手術の後三日以内に少なくとも50%または0.3mg/dL上昇した場合(AKIN定義)に、AKIを患っていることを遡及的に診断された。
上記の5つの時点における、AKI群と非AKI群とのあいだのバイオマーカーレベルの差が、ノンパラメトリック法ウィルコクソン(Wilcoxon)検定を用いて分析された。感度および特異度がROC分析(受信者動作特性)を用いて計算された。
結果
心臓手術を受けた107人の患者のうち、73人の患者においてAKIは検出されず、一方、血清クレアチンに基づくAKIN基準を用いて、34人の患者が3日以内にAKIを発症していた。
血漿サンプルからのL−FABPが、クレアチンを用いて明らかとなる前にAKIを診断することへのその適合性について分析された。図5より、血漿−L−FABPに基づく検出は、手術後(post−OP)早ければ2時間で着実かつ非常に早期のAKIの診断を可能としている。とりわけ、今回の研究では、血漿L−FABPは、例えばクレアチニンの測定に基づく、確立されている腎機能試験のかなり前に急性腎障害の上昇したリスクにある患者のサブグループの早期特定を可能にしている。この早期特定は、本発明以前には不可能であった。
AKIであると診断された個体におけるL−FABPはすでに、非AKIの個体に対して、早ければ手術後2時間でそしてその時点以降、血漿中で顕著に上昇していた。

Claims (15)

  1. a)肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L−FABP)またはその変異体のレベルを個体から採取された第一の血液サンプルにおいて測定する工程であって、前記サンプル外科的介入の後、呼吸補助の遮断後8時間までに採取されたものである工程、および
    b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
    を含む、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体において腎障害のための腎臓治療決定するための指標を提供する方法であって、
    前記参照レベルと比較して少なくとも等しいかまたは高いL−FABPまたはその変異体のレベルが腎障害を示している方法。
  2. 前記外科的介入が、心臓手術、心肺手術、および呼吸補助の使用と関連する手術より選択される請求項1記載の方法。
  3. L−FABPの前記参照レベルが、少なくとも約13ng/mLであるか、または、健康な集団の少なくとも約80パーセンタイルに対応するL−FABPのレベルである請求項1または2記載の方法。
  4. 追加で、クレアチニン、NGAL、KIM−1、シスタチンC、およびアディポネクチンより選択されるマーカーのレベルが、個体から採取される第一および/または第二のサンプル中で測定される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記血液サンプルが、全血、血漿、および血清より選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 外科的介入の場合に、追加で、L−FABPのレベルが、第一のサンプル以前に採取される、好ましくは、外科的介入の前またはそのあいだに採取される第二の血液サンプル中で測定され、そして、第二の血液サンプルのL−FABPのレベルと比較した第一のサンプルのL−FABPのレベルの、少なくとも約2.5倍の上昇が、腎障害を示している請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記第一の血液サンプルが、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、約2時間、約4時間、約6時間、および約8時間より選択される間隔内で採取されたものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. a)個体から採取された第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程であって、前記サンプル外科的介入の後、呼吸補助の遮断後8時間までに採取されたものである工程、および
    b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
    を含む、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための方法であって、
    参照レベルと比較して等しいかまたはそれより高いL−FABPのレベルが、個体が腎障害を患うリスクを示している方法。
  9. L−FABPの前記参照レベルが、少なくとも約13ng/mLであるか、または、参照集団の少なくとも約80パーセンタイルに対応するL−FABPのレベルである請求項8記載の方法。
  10. 前記第一の血液サンプルが、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、約2時間、約4時間、約6時間、および約8時間より選択される間隔内で採取されたものである請求項8または9記載の方法。
  11. a)外科的介入の後、呼吸補助の遮断後8時間までに採取された、個体の第一の血液サンプルにおいてL−FABPまたはその変異体のレベルを測定する工程、および
    b)工程a)において測定されたレベルを、参照レベルと比較する工程
    を含む、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、腎障害を患っている、または患うリスクのある個体のための腎臓治療を決定するための指標を提供する方法であって、
    前記指標が工程b)での比較に基づいて提供され、前記腎臓治療が、腎毒性の薬剤または処置の投与を適合させること、水分の摂取または排出を適合させること、および、血圧を適合させることより選択される方法。
  12. 前記第一の血液サンプルが、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、約2時間、約4時間、約6時間、および約8時間より選択される間隔内で採取されたものである請求項11記載の方法。
  13. 外科的介入の後、呼吸補助の遮断後8時間までに採取された血液サンプルに用いて、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体において腎障害を診断するための、または、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための、または、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、腎障害を患っている、または患うリスクのある個体のための腎臓治療を選択するためのキットであって、L−FABPまたはその変異体のレベルを測定するための一またはそれ以上のリガンドを含み、好ましくはL−FABPまたはその変異体をさらに含むキット。
  14. 外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体において腎障害を予測または診断するための、または、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、個体が将来腎障害を患うリスクを予測するための、個体から採取されたサンプルにおける抗体結合L−FABPまたはその変異体のインビトロ使用であって、外科的介入の後、呼吸補助の遮断後8時間までに採取された血液サンプル中で、L−FABPの、またはその変異体のレベルが検出される使用。
  15. 前記血液サンプルが、外科的介入の場合に呼吸補助の遮断後、約2時間、約4時間、約6時間、および約8時間より選択される間隔内で採取されたものである請求項14記載の方法。
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